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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-17
(45)【発行日】2023-10-25
(54)【発明の名称】現像装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/027 20060101AFI20231018BHJP
   G03F 7/30 20060101ALI20231018BHJP
【FI】
H01L21/30 569D
G03F7/30 501
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2022045095
(22)【出願日】2022-03-22
(65)【公開番号】P2023139524
(43)【公開日】2023-10-04
【審査請求日】2022-09-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100105935
【弁理士】
【氏名又は名称】振角 正一
(74)【代理人】
【識別番号】100136836
【弁理士】
【氏名又は名称】大西 一正
(72)【発明者】
【氏名】秋岡 知輝
(72)【発明者】
【氏名】山下 永二
(72)【発明者】
【氏名】伊吹 征也
【審査官】田中 秀直
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-190499(JP,A)
【文献】特開2016-167475(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/027
G03F 7/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板を搬送して現像液による液盛りを行う現像装置であって、
軸方向の長さが前記軸方向における基板の長さ以上である円筒形状を有し、水平な回転軸回りに回転して、前記基板を下方から支持しながら搬送する搬送ローラーと、
前記搬送ローラーが前記基板を搬送する搬送経路の上方かつ前記搬送ローラーよりも下流側位置に設けられ、前記基板の上面に向けて前記現像液を吐出するノズルと、
前記搬送経路の下方かつ前記ノズルの直下位置に設けられ、前記ノズルから吐出される前記現像液を受ける液受け部材と
を備え、
前記液受け部材の表面のうち前記ノズルに臨む上面は、前記ノズルの直下位置を挟んで前記基板の搬送方向における前記直下位置の上流側から下流側まで延設されるとともに、前記上流側の端部である上端から前記下流側の端部である下端に向かって下る下り勾配を有する傾斜面となっており、
前記上流側の端部で、前記液受け部材は、前記軸方向に沿って延びる薄板状に仕上げられ、前記搬送経路よりも下方で前記搬送ローラーの周面に対し所定のギャップを隔てて配置されて、前記搬送ローラーの表面に付着する泡を除去するブレードとなっている、現像装置。
【請求項2】
前記液受け部材の前記上面は、前記ノズルの直下位置において前記搬送ローラーよりも下方に位置する、請求項1に記載の現像装置。
【請求項3】
前記液受け部材の前記上面が、前記上端から前記下端まで滑らかな曲面である、請求項1または2に記載の現像装置。
【請求項4】
前記曲面が柱面である、請求項3に記載の現像装置。
【請求項5】
前記上端から前記下端に向かって前記上面の勾配が単調減少する、請求項3または4に記載の現像装置。
【請求項6】
前記上端における前記上面の水平面に対する傾斜角が45度以上90度以下である、請求項1ないし5のいずれかに記載の現像装置。
【請求項7】
前記上端は、前記周面に対し、前記搬送ローラーの頂部から回転方向に見た前記回転軸回りの角度が90度以上135度以下の位置において最近接する、請求項1ないし6のいずれかに記載の現像装置。
【請求項8】
前記軸方向に沿った前記上端の長さが前記搬送ローラーの長さ以上である、請求項1ないし7のいずれかに記載の現像装置。
【請求項9】
前記ノズルの直下位置では、前記液受け部材は、前記ノズルに設けられ前記現像液を吐出する吐出口に対し前記軸方向における外側まで延びている、請求項1ないし8のいずれかに記載の現像装置。
【請求項10】
前記ギャップは前記基板の厚さより小さい、請求項1ないし9のいずれかに記載の現像装置。
【請求項11】
前記液受け部材は前記上流側の端部から前記下流側の端部まで一体の板状体である、請求項1ないし10のいずれかに記載の現像装置。
【請求項12】
前記液受け部材を前記搬送ローラーに対し移動させて前記ギャップを変化させるギャップ調整機構を備える、請求項1ないし11のいずれかに記載の現像装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、基板を搬送ローラーで搬送し、基板表面に現像液を供給して液盛りする現像装置に関するものである。なお、基板には、液晶表示装置や有機EL表示装置等のFPD用ガラス基板、半導体ウエハ、フォトマスク用ガラス基板、カラーフィルター用基板、記録ディスク用基板、太陽電池用基板、電子ペーパー用基板等の精密電子装置用基板、半導体パッケージ用基板(以下、単に「基板」と称する)などが含まれる。
【背景技術】
【0002】
表面に現像液が盛られた基板を搬送ローラーにより搬送している間に基板に対して現像処理を実行する現像装置は基板処理システムの一構成要素として当該システムに組み込まれることがある。例えば特許文献1では、現像装置が、洗浄装置、脱水ベーク装置、レジスト塗布装置、減圧乾燥装置、プリベーク装置、露光装置、およびポストベーク装置とともに、処理装置として基板処理システムに設けられている。また、基板処理システムは、これらの処理装置と、上記した装置群への基板の出入を行うインデクサー部と、を有している。
【0003】
インデクサー部には、複数の基板を収納するカセットが載置される。インデクサー部に配されるインデクサーロボットによりカセットから取り出された基板は、まず、洗浄装置において洗浄される。洗浄装置での処理を終えた基板は、脱水ベーク装置に搬送され、脱水ベーク処理が行われる。脱水ベーク処理が行われた基板は、次にレジスト塗布装置に搬送され、レジスト塗布処理が施される。レジスト塗布処理が施された基板は、次に減圧乾燥装置に搬送され、基板の表面に塗布されたレジスト液の溶媒を減圧により蒸発させて、基板を乾燥させる。減圧乾燥が施された基板は、次にプリベーク装置に搬送され、基板表面のレジスト成分を固化させるため加熱処理が施される。加熱処理が施された基板は、次に露光装置に搬送され、露光処理が施される。
【0004】
これらの処理を終えた基板は、現像装置に搬送され、現像処理が行われる。現像処理を終えた基板は、ポストベーク装置に運ばれ、加熱処理を施される。その後、該基板は、インデクサーロボットによってインデクサー部に載置される元のカセットに収容される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-167475号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の基板処理システムでは、現像装置からポストベーク装置に向かう搬送経路に沿って基板を搬送するために、複数の搬送ローラーが用いられている。つまり、現像液が盛られた基板の表面を上方に向けた水平姿勢で基板が複数の搬送ローラーにより下方から支持されつつ搬送される。近年、基板搬送中に、現像処理に伴いレジスト成分が溶け込んだ現像液が泡立ち、その一部が搬送ローラーに付着するという現象が確認されている。搬送ローラーに付着した泡が互いに凝集し搬送ローラーの周面に盛り上がった状態で付着すると、搬送ローラーの回転に伴って当該泡が盛り上がった状態のまま基板の搬送経路に移動してくる。そのため、搬送ローラー上の泡が基板の裏面のみならず表面にも付着する。その結果、現像処理が不均一なものとなり、現像品質の低下を招くという問題が発生することがあった。
【0007】
また、基板に向けて現像液を吐出するノズルの直下位置においては、基板が通過しない期間に吐出された現像液が装置の底面に落下した際に飛沫や泡を生じさせ、これらが搬送ローラーに付着することで同様の問題が発生するおそれがある。
【0008】
この発明は上記課題に鑑みなされたものであり、現像処理時に発生する泡が搬送ローラーを介して基板の表面に付着するのを効果的に防止することができる現像装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一の態様は、基板を搬送して現像液による液盛りを行う現像装置であって、軸方向の長さが前記軸方向における基板の長さ以上である円筒形状を有し、水平な回転軸回りに回転して、前記基板を下方から支持しながら搬送する搬送ローラーと、前記搬送ローラーが前記基板を搬送する搬送経路の上方かつ前記搬送ローラーよりも下流側位置に設けられ、前記基板の上面に向けて前記現像液を吐出するノズルと、前記搬送経路の下方かつ前記ノズルの直下位置に設けられ、前記ノズルから吐出される前記現像液を受ける液受け部材とを備え、前記液受け部材の表面のうち前記ノズルに臨む上面は、前記ノズルの直下位置を挟んで前記基板の搬送方向における前記直下位置の上流側から下流側まで延設されるとともに、前記上流側の端部である上端から前記下流側の端部である下端に向かって下る下り勾配を有する傾斜面となっており、前記上流側の端部で、前記液受け部材は、前記軸方向に沿って延びる薄板状に仕上げられ、前記搬送経路よりも下方で前記搬送ローラーの周面に対し所定のギャップを隔てて配置されて、前記搬送ローラーの表面に付着する泡を除去するブレードとなっている
【0010】
このように構成された発明では、液受け部材が、搬送ローラー周面に付着した泡を除去する機能と、ノズルから流下する現像液から生じる飛沫や泡が搬送ローラーに付着するのを抑制する機能とを兼備する。
【0011】
すなわち、液受け部材の上端は搬送ローラーの周面に対し所定のギャップを隔てて配置されたブレードとなっており、搬送ローラー周面に付着した泡をブレードに移行させて除去することが可能である。ここで、付着した泡の全てを除去することは必要ではなく、泡が搬送ローラー周面上で盛り上がって基板表面に回り込むのを防止することができれば足りる。したがってブレードを搬送ローラーに当接させる必要はない。
【0012】
一方、液受け部材の表面は、ノズルの直下位置において表面が傾斜面となっている。このため、基板がノズル直下位置にないときにノズルから流下した現像液は、液受け部材の傾斜面によって受け止められ、該傾斜面に沿ってさらに下方へ案内される。これにより、現像液が直接底面に落下する場合よりも飛沫や泡の発生が抑えられ、それらが搬送ローラーや基板に付着するのを抑制することができる。
【発明の効果】
【0013】
以上のように、本発明によれば、液受け部材が、搬送ローラー周面に付着した泡を除去する機能と、ノズルから基板に供給されず直接流下する現像液が生じさせる飛沫や泡を抑制する機能とを有している。このため、搬送される基板の表面に泡が付着し現像品質が低下するという問題を解決することができる。しかも、上記液受け部材は搬送ローラーから非接触で配置されているため、液受け部材により搬送ローラーが傷つけられることなく、基板を安定して搬送することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明に係る現像装置の一実施形態の構成を示す側面図である。
図2】現像装置の一部を拡大して示す斜視図である。
図3】泡が発生することによる問題を説明する図である。
図4】搬送ローラーと泡切り部材との寸法関係を締め図である。
図5】搬送ローラーと泡切り部材との配置を示す図である。
図6】現像装置の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は、本発明に係る現像装置の一実施形態の構成を示す側面図である。また、図2は現像装置の一部を拡大して示す斜視図である。以下の各図において方向を統一的に示すために、図1に示すようにXYZ直交座標を設定する。ここで、XY平面が水平面であり、Z軸は鉛直方向を表す。より具体的には、(-Z)方向が鉛直下向き方向を表す。
【0016】
現像装置1は、表面Sfに露光処理されたレジスト膜(図示省略)が形成された半導体ウエハなどの基板Sに現像液を供給して現像液を盛った後で、表面Sfを上方に向けた水平姿勢で基板Sを次の処理装置(ポストベーク装置)に搬送する装置である。この基板搬送中に現像液による現像処理が実行される。現像装置1において、基板Sは図1の左から右方向に向けて水平搬送される。すなわち、基板Sは処理対象面を上向きにした状態で、(+Y)方向に搬送される。
【0017】
現像装置1は現像処理を行う処理室2を有している。処理室2は、内部に処理空間を有し、処理室2の上流側端部(図1の左端部)には、現像装置1の上流側に配置される露光装置により露光処理された基板Sを搬入するための搬入口(図示省略)が設けられている。また、処理室2の下流側端部(図1の右端部)には、現像処理が完了した基板Sを次のポストベーク装置に搬出するための搬出口が設けられている。また、処理室2の底面21には、処理室内で使用された現像液を排出するための排出機構22が設けられている。さらに、処理室2の底面の上方には、基板Sを搬送方向Yに沿って水平搬送する基板搬送装置3が設けられている。
【0018】
基板搬送装置3は、複数の搬送ローラー31と、搬送ローラー31を回転駆動させる駆動部(図示省略)とを備えている。複数の搬送ローラー31は、基板Sの搬送方向Yに沿って配列されており、処理室2内で基板Sを搬送方向Yの上流側(図1の左側)から下流側(図1の右側)に向けて搬送する。本明細書においてこれらの搬送ローラー31を区別する必要があるとき、符号31に添え字としてアルファベット小文字を適宜付すものとする。
【0019】
各搬送ローラー31は、ステンレス製のシャフト311に対してUPE(超高分子量ポリエチレン:Ultra High Molecular Weight Poly Ethylene)ローラー312を嵌め込んだものであり、搬送方向(Y方向)と直交するX方向に延びる回転軸AX回りに回転する。搬送ローラー31がその頂部で基板Sを下方から支持しつつ、回転方向Rに回転することにより、基板SがY方向へ搬送される。
【0020】
複数の搬送ローラー31により形成される基板Sの搬送経路の上方に、現像液ノズル4が配置される。この例では、搬送方向(Y方向)に位置を異ならせて2つの現像ノズル4が設けられている。本明細書においてこれらの現像ノズル4を区別する必要があるとき、基板Sの搬送方向において上流側、つまり(-Y)側にある一方に符号4aを、他方に符号4bを付すものとする。なお、現像ノズルの配設数はこれに限定されず任意である。
【0021】
現像液ノズル4は、処理室2の処理空間内で、搬送ローラー31とはY方向に位置を異ならせて配置される。具体的には、現像液ノズル4aは、搬送経路に沿って隣り合って配置された2つの搬送ローラー31a,31bの間の間隙空間の上方に配置される。例えば、2つの搬送ローラー31a,31bの中間位置の上方に、現像液ノズル4aは配置される。言い換えれば、現像液ノズル4aの直下位置には搬送ローラー31は存在しない。現像液ノズル4bも同様に、搬送経路に沿って隣り合って配置された2つの搬送ローラー31c,31dの間の間隙空間の上方に配置される。
【0022】
現像液ノズル4は、上記基板搬送装置3によって下流側に向けて搬送される基板Sの表面Sfに現像液を吐出する。現像液ノズル4は、搬送方向と直交するX方向(図1の紙面に対して垂直な方向)に延びており、その下面(基板Wと対向する面)には、X方向に細長く延びる細隙の吐出口41が形成されている。つまり、本実施形態では、現像液ノズル4として、スリットノズルが用いられている。この現像液ノズル4では、吐出口41のX方向の寸法は、基板SのX方向の寸法(幅寸法)と略同じ、またはこれより少し大きい。
【0023】
現像液ノズル4には、現像液供給部5が配管6により接続されている。現像液供給部5は、ポンプやタンク加圧などの圧送機構(図示省略)を有している。この圧送機構が作動することで、現像液Lが配管6を介して現像液ノズル4に圧送される。これにより、現像液ノズル4の吐出口41から現像液Lがカーテン状に吐出され、基板Wの上面に現像液Lが供給される。
【0024】
本実施形態では、基板Sの表面Sfと現像液ノズル4の吐出口41は所定の間隔を設けて配置されており、基板Sが吐出口41の直下を通過することによって、基板Sの上面全体が、表面張力を利用して現像液Lが盛られた状態(すなわち、現像液Lのパドルが形成された状態)となる。その後、搬送ローラー31によりポストベーク装置に搬出される間に基板Sの表面Sf、つまりレジスト膜に対して現像処理が施される。このような、現像液Lとして、本実施形態ではTMAH(テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド)と水とを主要成分とするものを用いている。もちろん、これ以外の現像液、例えば水酸化ナトリウムや水酸化カリウムと水とを主成分とするものなどを用いることができる。
【0025】
近年、レジスト膜および現像液の組み合わせによっては、現像液に含まれる界面活性剤や現像処理中に現像液に溶け込んだレジスト材料等に起因して現像液が泡立ちやすくなることがわかってきた。特に基板Sから溢れた現像液が搬送ローラー31と基板Sとの間に回り込むと、両者の相対移動によって現像液が撹拌されることで多量の泡が発生する。泡は基板Sの下面に付着するだけでなく、次に説明するように、搬送ローラー31を介して基板Sの上面、つまり処理対象面である表面Sfに付着することがあり得る。
【0026】
図3は泡が発生することによる問題を説明する図である。図3(a)に示すように、基板Sの下面Sbと搬送ローラー31との間に入り込んだ現像液Lは泡Bとなって基板Sの下面Sbや搬送ローラー31の周面313に付着する。搬送ローラー31の回転に伴って泡Bも搬送され、基板Sと当接する頂部にまで移動してくる。
【0027】
泡B同士が凝集して大きな塊となることで、搬送ローラー31の周面313上で大きく盛り上がった状態となることがあり、このような泡の塊に向けて基板Sが搬送されてくると、泡の一部が基板Sの上面(表面Sf)にまで回り込んで付着してしまうことがある。このように基板表面Sfに付着した泡は、現像ムラを発生させるなど現像品質の低下の原因となる。
【0028】
そこで、この実施形態では、図3(b)に示すように、基板Sの搬送経路よりも下方において、各搬送ローラー31の周面313に対して泡切り部材7を近接配置し、搬送ローラー31に付着した泡を摺り切るようにして除去する。泡切り部材7は上端71が搬送ローラー31の周面313に対し所定のギャップを隔てて近接対向しており、搬送ローラー31の周面313上でギャップよりも大きく盛り上がった泡やその塊を摺り切るブレードとして機能する。ギャップの大きさについては、ギャップ調整機構8により調整可能である。
【0029】
摺り切られて泡切り部材7の表面に移行した泡は、該表面に沿って流下する。泡切り部材7は搬送ローラー31に対して非接触であるため、搬送ローラー31の周面313には幾らかの泡が残留し得る。ただし、小さな泡や小規模な泡の塊については基板Sの上面Sfまで回り込んでくることはなく下面Sbに付着するのみであり、大きな問題にはならない。
【0030】
図2および図3(b)を参照しつつ、泡切り部材7の構造をより詳しく説明する。本実施形態において、泡切り部材7は、1枚の薄い平板状の素材をX軸回りに湾曲させた柱面形状を有し、ギャップ調整機構8に連結された支持部材(図示省略)により支持されている。泡切り部材7の上端71は、回転軸AXと平行な方向(X方向)に沿って直線状に延びており、搬送ローラー31の周面313に対し後述する所定のギャップを隔てて近接対向配置されている。泡切り部材7の上端71は下方から上向きに延びる一方、該上端71が対向する搬送ローラー31の周面313は、搬送ローラー31の方向Rへの回転により、上から下に向かって移動している。つまり、泡切り部材7は、搬送ローラー31の回転に逆らう方向、いわゆるカウンター方向の配置となっている。
【0031】
泡切り部材7の主面のうち、搬送ローラー31に向かう面とは反対側の主面(以下の説明では、この面を「表面」と称する)72は下り勾配を有する滑らかな曲面(傾斜面)となっており、上端71から下端73に向かうにつれて勾配は小さくなる。そのため、搬送ローラー31から泡切り部材7の上端71に移行した泡は、当初は比較的勾配が大きい表面72に沿って高速で流下し、下端73に向かうにつれて勾配が緩やかになることで速度は低下する。最終的には、泡切り部材7の下端73から処理室2の底面21に向けて流下する。したがって、搬送ローラー31から摺り切られた泡は、泡切り部材7の滑らかな表面72に沿って処理室2の底面21に向け滞留することなく流下する。これにより、大きな泡や泡の塊が搬送ローラー31により搬送され基板Sの表面Sfに付着することが防止される。
【0032】
また、図3(b)に示すように、現像液ノズル4の直下位置、より具体的には、破線で示されるように、吐出口41の直下位置であって吐出口41から吐出される現像液の流下経路に対して、基板搬送方向(Y方向)に見たとき、泡切り部材7の上端71は当該直下位置よりも上流側に位置する一方で、下端73は当該直下位置よりも下流側まで延びている。そのため、図3(b)における現像液ノズル4bのように、直下位置に基板Sが存在しないときに現像ノズル4から吐出される現像液Lは、搬送経路を通過してさらに落下して、泡切り部材7の表面72である傾斜面に着液する。跳ね返った現像液が搬送ローラー31に付着するのを防止するために、現像液が泡切り部材7の表面72に着液する位置は、搬送ローラー31の下端部よりも下方であることが望ましい。
【0033】
現像液Lは泡切り部材7の表面72に沿ってさらに流下し、泡切り部材7の下端73から処理室2の底面21に落下する。現像液ノズル4から吐出される現像液が直接処理室2の底面21まで落下すると、現像液の飛沫が発生して搬送ローラー31や基板Sに付着するおそれがある。また、処理室2の底面21に溜まっている現像液の廃液を撹拌することで新たな泡を発生させるおそれがある。現像液を泡切り部材7の傾斜面で受けて流速を低下させてから、低い位置で底面21に向けて落下させることで、このような飛沫や泡の発生を抑制することができる。
【0034】
この意味においては、泡切り部材7の下端73はできるだけ処理室2の底面21に近い位置まで延びていることが好ましい。また、図1および図3(b)に示すように、泡切り部材7の下端73と処理室2の底面21との間に、泡切り部材7の下端73付近における表面72の勾配よりもさらに緩やかな勾配を有する傾斜板23を配置することで、飛沫や泡の発生をより効果的に抑制することが可能になる。
【0035】
搬送ローラー31から摺り切られた泡は比較的低速で泡切り部材7の表面72を流下すする一方、現像液ノズル4から吐出される現像液はより高速で量も多い。したがって、傾斜板23については、現像ノズル4の直下位置に設けられている泡切り部材7の下方にあればよく、全ての泡切り部材7についてそのような条件が満たされる必要はない。
【0036】
このように、本実施形態の泡切り部材7は、搬送ローラー31の周面313に付着した泡を除去する機能(泡切り機能)の他に、現像液ノズル4から吐出される現像液を受け止めて静穏に処理室2の底面21に案内する「液受け部材」としての機能(液受け機能)を備えている。これらの機能はいずれも、搬送ローラー31に付着した泡が基板Sの表面Sfに回り込むことを防止するという効果を奏する。これにより、処理対象面である基板表面Sfに泡が付着し現像ムラが生じるなどの現像品質の低下を未然に回避することが可能になる。
【0037】
なお、搬送経路に沿って並べられた複数の搬送ローラー31のうち、現像液による泡が発生し得るのは、搬送方向において最上流側の現像液ノズル4aよりも下流側に設けられたものである。現像液ノズル4aよりも上流側の搬送ローラー31については、泡切り部材7を設ける必要はない。
【0038】
ただし、現像液ノズル4aよりも上流側であるが現像液の流下経路に臨んで設けられている搬送ローラー31aについては、基板表面Sfに供給された現像液が回り込む可能性があること、また現像液ノズル4aから流下する現像液を受ける必要があることから、より下流側の搬送ローラー31b等と同様に、泡切り部材7が設けられることが好ましい。この場合でも、泡切り部材7は搬送ローラー31aに対して非接触であるから、搬送ローラー31aの回転に影響を及ぼしたり、搬送ローラー31aを磨滅させたりするおそれはない。
【0039】
以下、この効果をより確実なものとするための各部の寸法関係および配置について、本願発明者が得た知見に基づき図4および図5を参照して説明する。図4は搬送ローラーと泡切り部材との寸法関係を締め図である。また、図5は搬送ローラーと泡切り部材との配置を示す図である。
【0040】
図4(a)に示すように、泡切り部材7の上端71は、搬送ローラー31の周面313に対してギャップGを隔てて非接触に配置されている。搬送ローラー31に残留付着する泡が基板Sの表面Sfに回り込むことがないという条件を満たすためには、ギャップGの大きさは基板Sの厚さより小さいことが望ましい。具体的には、例えばギャップGを1mm以下とすることができる。
【0041】
ギャップGの調整については、図2に点線矢印で示すように、ギャップ調整機構8が泡切り部材7をY方向に移動させることにより実現可能である。ギャップ調整機構8は、オペレーターが手動で操作するものであってもよく、またモーター等のアクチュエーターを用いることにより、指定されたギャップを自動的に調整するものであってもよい。
【0042】
なお、泡切り部材7の上端71は薄いブレード状に仕上げられていることが好ましいが、搬送ローラー31との間に介在する現像液の表面張力によって搬送ローラー31側に引き付けられることが防止できる程度の剛性は必要である。したがって、上端71の厚さについても、例えば1mm程度とすることができる。材質については、本願発明者の知見では、ステンレスのような金属板とポリエステルのような樹脂板との間で効果に有意な差は見られなかった。
【0043】
次に、各部の幅、つまりX方向の長さについては、図4(b)に示す通りである。すなわち、基板Sの表面Sfに満遍なく現像液を供給するために、現像液ノズル4の吐出口41の長さW1は、基板Sの幅W3以上であることが好ましい。また、液盛りされた基板Sを撓みなく安定的に搬送するために、搬送ローラー31の長さ(より厳密には、基板Sと接するUPEローラー312の長さ)W2は基板Sの幅W3よりも大きいことが好ましい。さらに、搬送ローラー31からの泡の除去を確実に行うために、泡切り部材7の幅W4は搬送ローラー31の長さW2より大きく、泡切り部材7が搬送ローラー31の両端よりも外側まで延びていることが好ましい。
【0044】
泡切り部材7の幅が一定である必要は必ずしもないが、少なくとも吐出口41の直下位置における幅は、吐出される現像液を確実に受け止めるために吐出口41の長さW1よりも大きく、泡切り部材7が吐出口41の両端よりも外側まで延びていることが望ましい。また、現像液を下端73まで確実に案内するために、当該位置から下端73までの間で幅が減少する部分が存在しないことが望ましい。
【0045】
搬送ローラー31に対する泡切り部材7の配置の態様は以下の通りである。図5(a)に示すように、搬送ローラー31の周面313のうち泡切り部材7の上端71が最接近する位置(ギャップ位置)は、基板Sと接する搬送ローラー31の頂部から回転方向Rに見た回転軸AX回りの角度αが90度以上180度未満、より好ましくは135度以下の範囲内にあることが好ましい。この範囲内に泡切り部材7の上端71があるとき、搬送ローラー31から泡切り部材7への泡の移行が最もスムーズに行われる。
【0046】
また、泡切り部材7の上端71における表面72の勾配については、次の通りである。図5(b)に示すように、搬送ローラー31により搬送される泡Bがギャップ位置において有する速度ベクトルVを泡切り部材7の表面72に沿った方向のベクトル成分V1とこれに直交するベクトル成分V2とに分解したとき、成分V1の大きさが成分V2の大きさよりも大きくなるように、表面72の勾配が定められることが好ましい。また、表面72の勾配が小さすぎると、搬送ローラー31から摺り切られた泡が流れ落ちず、泡切り部材7の上端71付近に滞留してしまうおそれがある。
【0047】
これらのことから、図5(c)に示すように、泡切り部材7の上端71における表面72の水平面(二点鎖線)に対する傾斜角βについては、45度以上90度以下の範囲でできるだけ大きいことが好ましい。一方、泡切り部材7の下端73においては、図5(d)に示すように、水平面に対する傾斜角γについては、0度より大きく傾斜角βより小さい値とすることができる。
【0048】
以上のように、本実施形態では、搬送ローラー31に付着する泡のうちギャップGよりも高く盛り上がっている部位を泡切り部材7により除去する。このため、搬出ローラー31に付着した泡が基板Sの表面Sfに移行するのを効果的に防止することができる。しかも、泡切り部材7は搬送ローラー31から非接触で配置されているため、泡切り部材7により搬送ローラー31が傷つけられることなく、基板Sを安定してポストベーク装置に向けて搬送することができる。
【0049】
また、泡切り部材7の下端73は、基板搬送方向(Y方向)において現像液ノズル4(厳密には吐出口41)の直下位置を超えて下流側まで延びている。そして、現像液ノズル4の直下位置において泡切り部材7の表面72は、下端73に向けて単調な下り勾配を有する傾斜面となっている。このため、現像液ノズル4の直下位置に基板Sが存在しないときに現像液ノズル4から吐出される現像液は泡切り部材7によって受け止められ、その表面72に沿って流下して処理室2の底面21へ案内される。これにより、処理室2の底面21での飛沫や泡の発生を抑制することができる。
【0050】
これらの構成により、本実施形態では、現像液の泡立ちにより発生した泡が搬送ローラー31の周面を介して基板Sの表面Sfに回り込むことが防止される。このため、泡の付着に起因する現像ムラなどの現像品質の低下を未然に回避することが可能である。
【0051】
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したもの以外に種々の変更を行うことが可能である。例えば、上記実施形態では、1枚の板状体を湾曲させて泡切り部材7を形成しているため、泡切り部材7の厚さは一定であり、表面72と、これとは反対側で搬送ローラー31に臨む側の主面とが基本的に同一形状となっている。
【0052】
しかしながら、本発明においては、泡切り部材の上端が薄板状のブレードとなっていることが求められるものの、搬送ローラー31から大きく離れた位置ではそのような制限はない。したがって、泡切り部材7の断面形状については上記に限定されず、例えば部分的に厚さの異なる部位があってもよい。
【0053】
また、上記実施形態では泡切り部材7の表面72が上端71から下端73まで連続する滑らかな曲面をなしているが、例えば表面が平面であっても、上記した泡切り機能および液受け機能を得ることは可能である。本実施形態では、上端71において勾配が大きく、下端73に向かうにつれて勾配が小さくなるような曲面により泡切り部材7の表面72を構成することで、泡を搬送ローラー31からスムーズに泡切り部材7に移行させ、また下端73から落下する現像液を受け止めてその流れを弱めるという効果を高めている。なお、泡切り部材の表面が、その上端から下端までの間の一部において平面をなしていても、上記実施形態と同等の効果を得ることが可能である。
【0054】
また例えば、上記実施形態において、複数の搬送ローラー31のそれぞれに設けられる泡切り部材7の形状はいずれも同一である。これにより部品を共通化することができるが、原理的には、上方に現像液ノズル4が配置されていない泡切り部材については液受け機能は必須ではない。このことから、以下のような変形例とすることも可能である。
【0055】
図6は現像装置の変形例を示す図である。この変形例では、泡切り部材以外の構成については図1に示した実施形態と同一とすることができる。そこで、上記実施形態と同一の構成については同一符号を付すことで、詳しい説明を省略することとする。
【0056】
図6に示す変形例の現像装置1Aでは、現像液ノズル4の直下位置には上記実施形態の泡切り部材7と同一の泡切り部材7Aが配置される一方、上方に現像液ノズル4がない位置にはより小型の泡切り部材7Bが配置される。上方に現像液ノズル4がない場合には、泡切り部材7Bは搬送ローラー31に付着する泡を摺り切る機能があれば足り、現像液ノズル4から流下する現像液を受け止めるための機能は不要である。そのため、泡切り機能に特化された形状の泡切り部材7Bを使用することが可能である。例えば泡切り部材7Aよりも小型にすることで、材料の使用量を低減することが可能となる。
【0057】
また、上記実施形態では、シャフト311にUPEローラー312を嵌め込んだ搬送ローラー31により基板Wを搬送しているが、搬送ローラー31の構成はこれに限定されるものではなく、従来から多用されている搬送ローラー全般を用いることができる。
【0058】
以上、具体的な実施形態を例示して説明してきたように、本発明に係る現像装置において、液受け部材の表面は、ノズルの直下位置において搬送ローラーよりも下方に位置するように構成されてもよい。このような構成によれば、ノズルから流下する現像液は、搬送ローラーよりも下方で液受け部材に着液する。そのため、跳ね返った現像液が搬送ローラーや基板に付着するのを抑制することができる。
【0059】
また、液受け部材の表面が上端から下端まで滑らかな曲面であってもよく、例えば柱面とすることができる。このような構成によれば、液受け部材の表面に付着した泡や現像液がスムーズに下端まで案内されることとなり、これらが液受け部材の表面で滞留することが防止される。
【0060】
また、上端から下端に向かって表面の勾配が単調減少するように構成されてもよい。ここでいう「単調減少」はいわゆる広義単調減少であり、上端から下端までの間の一部の区間で勾配が一定であってもよい。このような構成によれば、表面の勾配の減少により流下する現像液の速度が低下するため、液受け部材の下端から落下するときの現像液の跳ね返りを低減させることができる。
【0061】
また、上端における表面の水平面に対する傾斜角が45度以上90度以下であってもよい。本願発明者の知見によれば、このような構成とすることで、搬送ローラーから摺り切った泡を上端部分に滞留させることなく、速やかに流下させることができる。
【0062】
また、液受け部材の上端は、搬送ローラーの周面に対し、搬送ローラーの頂部から回転方向に見た回転軸回りの角度が90度以上135度以下の位置において最近接するように構成されてもよい。本願発明者の知見によれば、このような構成としたときに、搬送ローラーから液受け部材への泡の移行が最もスムーズとなり、液受け部材による搬送ローラーの泡切り効果を高めることができる。
【0063】
また、軸方向に沿った上端の長さについては、搬送ローラーの長さ以上であることが好ましく、搬送ローラーの長さを超えることがより好ましい。このような構成によれば、搬送ローラーの周面の全域において泡切り効果を得ることが可能である。
【0064】
また、ノズルの直下位置では、液受け部材は、ノズルに設けられ現像液を吐出する吐出口に対し軸方向における外側まで延びていることが好ましい。このような構成によれば、ノズルから流下する液体を確実に液受け部材に着液させることができる。
【0065】
また、搬送ローラーと液受け部材とのギャップは基板の厚さより小さいことが望ましい。搬送ローラーに対し液受け部材が非接触に設けられることで、ギャップより小さい泡または泡の塊は除去されずに搬送ローラーの周面に残ることとなる。しかしながら、このような泡の高さより基板の厚さの方が大きければ、泡が基板表面にまで回り込むことは回避される。
【0066】
また、液受け部材は上端から下端まで一体の板状体であってもよい。このような構成によれば、液受け部材の表面を滑らかなものにして、泡や現像液の流下をスムーズに行うことができる。また、表面形状の調整も容易である。
【0067】
また、液受け部材を搬送ローラーに対し移動させてギャップを変化させるギャップ調整機構がさらに設けられてもよい。このような構成によれば、用途や目的に応じてギャップを調整することができ、例えば基板の厚さが変わる場合にも柔軟に対応することが可能になる。
【産業上の利用可能性】
【0068】
この発明は、基板を搬送ローラーで搬送しつつ表面に現像液を液盛りすることで現像処理を進行させる現像装置に適用することができ、各種の基板に露光によりパターン形成するプロセスの一部として好適である。
【符号の説明】
【0069】
1 現像装置
3 基板搬送装置
4 現像液ノズル(ノズル)
7 泡切り部材(液受け部材)
31 搬送ローラー
71 (泡切り部材の)上端
72 (泡切り部材の)表面
73 (泡切り部材の)下端
L 現像液
S 基板
Sf (基板の)表面
Y 搬送方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6