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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-17
(45)【発行日】2023-10-25
(54)【発明の名称】工作機械
(51)【国際特許分類】
   G05B 19/19 20060101AFI20231018BHJP
   B23Q 15/12 20060101ALI20231018BHJP
【FI】
G05B19/19 X
B23Q15/12 A
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2022134272
(22)【出願日】2022-08-25
【審査請求日】2022-10-28
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000146847
【氏名又は名称】DMG森精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002273
【氏名又は名称】弁理士法人インターブレイン
(72)【発明者】
【氏名】榎本 潤次郎
(72)【発明者】
【氏名】長野 利隆
(72)【発明者】
【氏名】大矢 めぐみ
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 実有季
【審査官】小川 真
(56)【参考文献】
【文献】特許第7022242(JP,B1)
【文献】特開平11-296213(JP,A)
【文献】国際公開第2020/122187(WO,A1)
【文献】特開2016-103166(JP,A)
【文献】特開2022-68919(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 19/19、19/416
B23Q 15/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加工プログラムにしたがって工具の回転や移動を制御する数値制御部と、
前記工具の振動を検出する振動検出部と、
前記振動の状態に応じて前記工具の回転速度を変更するために、前記振動検出部で検出される振動状態を管理する状態管理部と、
前記状態管理部から出力される指令に基づき、前記数値制御部へ制御指令を出力する制御指令部と、
を備え、
前記状態管理部は、前記工具の回転速度の変更の指示が受け付けられた際に、前記制御指令部に前記工具の回転速度を変更する変更指令をし、
前記制御指令部は、
前記数値制御部により前記変更指令に基づいた変更がなされた状態で、加工中に前記状態管理部を有する装置と前記制御指令部を有する装置との間の通信が確立していない場合に、工具の移動を停止させるための停止指令を前記数値制御部へ出力し、
前記数値制御部により前記変更指令に基づいた変更がなされていない状態においては、加工中に前記状態管理部を有する装置と前記制御指令部を有する装置との間の通信が確立していない場合であっても、前記停止指令を前記数値制御部へ出力しない、工作機械。
【請求項2】
オペレータの操作入力を受け付ける入力部をさらに備え、
前記数値制御部は、オペレータの操作入力に基づく前記工具の移動中においては、その工具の移動を停止させない、請求項1に記載の工作機械。
【請求項3】
前記状態管理部が第1のオペレーティングシステムで動作し、
前記制御指令部が前記第1のオペレーティングシステムとは異なる第2のオペレーティングシステムで動作する、請求項1又は2に記載の工作機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械における加工中の安全性を確保するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械において、びびり振動の発生はワーク加工面の品質低下につながるため、その発生を抑制することは重要である。びびり振動の発生原因は多岐にわたる。振動源が工具の場合もあれば、ワークの場合もある。この原因を把握し排除するために、オペレータは自身の経験に基づいて対処することが多い。例えば、振動の音を聞き、ワークの加工面を観察してびびり振動の発生原因を予想し、主軸の回転速度や送り速度、工具の切込み深さや切込み幅などを調整する。それでもびびり振動が収まらない場合は、ワークの固定方法の変更や工具の変更を試みる。このような対処方法は、オペレータ自身の経験や知見に基づいて選択される。
【0003】
びびり振動の要因は複数ある。主なものとして、振動により生じた加工面の起伏が工具の切込み厚さを変動させることに起因する再生びびりと、固有振動数に基づく共振による強制びびりがある。このようなびびり振動が発生したときに、これを収束させるようオペレータの操作を支援する技術が提案されている(特許文献1参照)。
【0004】
この技術では、主軸頭に加速度センサが設けられ、振動処理部がその加速度センサからの出力信号に基づいてびびり振動の発生有無を判定する。びびり振動が発生したとき、振動処理部はこれを収束させるための主軸回転速度の変更推奨値を計算する。その変更推奨値が操作画面に表示される。オペレータがその推奨値を承認する操作入力を行うと、主軸回転速度の変更指令が工作機械の数値制御部に出力される。数値制御部は、主軸回転速度の制御指令値をその変更推奨値に変更する。それによりびびり振動が抑えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第7022242号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような工作機械では、振動処理部からの変更指令に基づき、数値制御部は加工プログラムに設定された主軸回転速度を変更推奨値に変更したまましばらく加工を継続する。このため、仮にその主軸回転速度の変更後にシステム異常などびびり振動とは別の異常が発生した場合、その後の変更推奨値の変化に対応困難となる可能性がある。その場合でも安全性を確保する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある態様の工作機械は、加工プログラムにしたがって工具の回転や移動を制御する数値制御部と、工具の振動を検出する振動検出部と、振動の状態に応じて工具の回転速度を変更するために、振動検出部で検出される振動状態を管理する状態管理部と、を備える。状態管理部は、工具の回転速度の変更の指示が受け付けられた際に、数値制御部に工具の回転速度を変更する指令をする。数値制御部は、指令に基づいた変更がなされた状態で、加工中に異常が検出された場合に、工具の移動を停止する。
【0008】
本発明の別の態様の工作機械は、加工プログラムにしたがって工具の回転や移動を制御する数値制御部と、所定の機能を発揮する機能部と、機能部で検出された検出値を管理する管理部と、を備える。管理部は、検出値に基づいて、数値制御部に変更の指示をする。数値制御部は、指示に基づいた変更がなされた状態で、加工中に異常が検出された場合に、工具の移動を停止する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、工作機械における一時的な機能調整時の安全性を確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態に係る工作機械の概略構成を表す斜視図である。
図2】びびり振動の検出に関わる機能部の電気的構成を模式的に示す図である。
図3】操作制御装置の機能ブロック図である。
図4】振動処理装置の機能ブロック図である。
図5】表示処理部が生成する管理画面を表す図である。
図6】操作制御装置に制御状態を管理するための管理画面を表す図である。
図7】振動処理装置の管理画面の表示方法を模式的に表す図である。
図8】異常時処理の具体例を模式的に表す図である。
図9】振動制御処理を表すフローチャートである。
図10図9のS22の主軸回転速度調整処理を表すフローチャートである。
図11】振動処理装置にて実行される異常時処理を表すフローチャートである。
図12】操作制御装置にて実行される異常時処理を表すフローチャートである。
図13】変形例に係る機能部の電気的構成を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しつつ、本発明の一実施形態について説明する。
図1は、実施形態に係る工作機械の概略構成を表す斜視図である。なおここでは、工作機械1を正面からみて左右方向,上下方向,前後方向を、それぞれX軸方向,Y軸方向,Z軸方向とする。
【0012】
工作機械1は、横型のマシニングセンタであり、加工装置2および制御ユニット4を備える。加工装置2を覆うように図示しない筐体が設けられ、その筐体の外側に操作盤が設けられている。操作盤は、オペレータが操作可能なタッチパネル(後述)を有する。
【0013】
加工装置2は、ベッド10と、ベッド10に立設されたコラム12と、コラム12の前面側に移動自在に設けられた主軸頭14と、ベッド10上に移動自在に設けられたテーブル16を備える。主軸頭14は、Z軸方向の軸線を有し、主軸18をその軸線周りに回転可能に支持する。主軸頭14には、主軸18を回転駆動するためのスピンドルモータが設けられている。主軸18は、工具ホルダ20に保持された工具Tを同軸状に取り付け可能な「取付部」として機能する。テーブル16には、図示略の治具を介してワークWが固定される。
【0014】
コラム12の前面にガイドレール22が設けられ、サドル24がX軸方向に移動可能に支持される。サドル24の前面にはガイドレール26が設けられ、主軸頭14がY軸方向に移動可能に支持される。サドル24および主軸頭14の移動は、図示略の送り機構とそれを駆動するサーボモータにより実現される。この送り機構は、例えばボールねじを用いたねじ送り機構である。主軸18は、サドル24および主軸頭14が駆動されることによりX,Y軸方向に移動自在である。主軸頭14には、加速度センサ30が内蔵されている。加速度センサ30は、工具Tのびびり振動を検出するために用いられるが、その詳細については後述する。
【0015】
一方、ベッド10の上面にガイドレール32が設けられ、サドル34がZ軸方向に移動可能に支持される。サドル34上にテーブル16が固定されている。サドル34の移動は、図示略の送り機構とそれを駆動するサーボモータにより実現される。この送り機構は、例えばボールねじを用いたねじ送り機構である。ワークWは、サドル34が駆動されることによりZ軸方向に移動自在である。すなわち、以上の構成により、ワークWと工具Tとの相対位置を三次元的に調整することができる。
【0016】
図2は、びびり振動の検出に関わる機能部の電気的構成を模式的に示す図である。
上述のように、主軸頭14には加速度センサ30が内蔵されている。加速度センサ30は、ワークWの加工中に工具Tに生じる振動を検出し、その振動に応じた信号を出力する。加速度センサ30にて検出された加速度(より詳細には、加速度を表す電気信号)は、信号処理装置40に入力される。
【0017】
信号処理装置40は、専用の基板にA/D変換器42および周波数解析装置44を搭載して構成される。加速度センサ30から出力された信号は、A/D変換器42によりAD変換され、周波数解析装置44によりFFT(高速フーリエ変換)が行われる。それらの情報が制御ユニット4に出力される。
【0018】
制御ユニット4は、操作制御装置50、加工制御装置51および振動処理装置52を含む。信号処理装置40と振動処理装置52は信号線L1を介して接続される。振動処理装置52と操作制御装置50は通信線L2を介して接続される。操作制御装置50と加工制御装置51は通信線L3を介して接続される。
【0019】
操作制御装置50は、オペレータの操作入力に基づいて加工制御装置51に制御指令を出力する。加工制御装置51は数値制御部55を含み、加工装置2による加工を制御する。数値制御部55は、手動又は自動で生成された加工プログラム(NCプログラム)にしたがってモータ等のアクチュエータを制御する。ワークWにマシニング加工を施す際、数値制御部55は、駆動回路56を介してサーボモータを駆動し、主軸頭14を送り駆動する。また、駆動回路56を介してスピンドルモータを駆動し、主軸18を回転させる。
【0020】
操作制御装置50には表示装置54が接続されている。表示装置54はタッチパネルを有し、工作機械1の制御状態を表す画面やオペレータが操作する操作画面を表示する。また、表示装置54は、振動処理装置52で生成されて操作制御装置50に送信された画面を表示する。すなわち、本実施形態では振動処理装置52に個別の表示装置は設けられておらず、振動処理装置52で生成された画面は、操作制御装置50がもつWebブラウザを介して表示装置54に表示される。以下では、このような画面表示に関しても「振動処理装置52が表示装置54に画面を表示させる」と表現することがある。
(詳細後述)。
【0021】
振動処理装置52は、加工制御装置51の制御状態を示す情報を操作制御装置50から受け取る一方、信号処理装置40や操作制御装置50から受信した情報に基づき、びびり振動に関する所定の処理を実行する。振動処理装置52は状態管理部252を含み、信号処理装置40からの出力信号に基づいて工具の振動状態を管理する。振動処理装置52は、信号処理装置40からの信号に基づき、主軸18の振動状態(工具Tの振動状態)を示す画面(ステータス画面)を生成するとともに、びびり振動の発生有無を判定する。
【0022】
振動処理装置52は、びびり振動が発生したと判定すると、そのびびり振動を収束させるための操作画面(チューニング画面)を生成し、表示装置54に表示させる。また、振動処理装置52は、びびり振動を収束させるための主軸回転速度の変更指令(調整指令)を操作制御装置50へ出力する。
【0023】
操作制御装置50は通信監視部154を含み、振動処理装置52との通信状態を監視する。この通信異常を含む特定の異常が発生したとき、操作制御装置50から加工制御装置51へ異常通知信号が出力される。それにより、後述する異常時処理が実行される。異常時処理が完了すると、加工制御装置51から操作制御装置50に向けてその旨を示す完了信号が出力される。これらの詳細については後述する。
【0024】
図3は、操作制御装置50の機能ブロック図である。
操作制御装置50の各構成要素は、CPU(Central Processing Unit)および各種コンピュータプロセッサなどの演算器、メモリやストレージといった記憶装置、それらを連結する有線または無線の通信線を含むハードウェアと、記憶装置に格納され、演算器に処理命令を供給するソフトウェアによって実現される。コンピュータプログラムは、デバイスドライバ、オペレーティングシステム、それらの上位層に位置する各種アプリケーションプログラム、また、これらのプログラムに共通機能を提供するライブラリによって構成されてもよい。以下に説明する各ブロックは、ハードウェア単位の構成ではなく、機能単位のブロックを示している。
【0025】
操作制御装置50は、ユーザインタフェース処理部110、データ処理部112、データ格納部114および通信部116を含む。ユーザインタフェース処理部110は、オペレータからの操作入力を受け付けるほか、画像表示や音声出力など、ユーザインタフェースに関する処理を担当する。通信部116は、振動処理装置52との通信を担当する。データ処理部112は、ユーザインタフェース処理部110により取得されたデータ、データ格納部114に格納されているデータ、および通信部116により受信されたデータに基づいて各種処理を実行する。データ処理部112は、ユーザインタフェース処理部110、データ格納部114および通信部116のインタフェースとしても機能する。データ格納部114は、各種プログラムと設定データを格納する。
【0026】
ユーザインタフェース処理部110は、入力部120および出力部122を含む。入力部120は、タッチパネルあるいはハンドル等のハードデバイスを介してオペレータからの入力を受け付ける。出力部122は、画像表示あるいは音声出力によりオペレータに各種情報を提供する。出力部122は表示部126を含む。表示部126は、表示装置54おける操作画面として、パネル(キーボードおよび機械操作パネル)を画面表示させてもよい。表示画面の具体例については後述する。
【0027】
通信部116は、受信部130および送信部132を含む。受信部130は、振動処理装置52からの指令を受信し、また、振動処理装置52から送信された画面データを受信する。送信部132は、振動処理装置52へ各種情報を送信する。
【0028】
データ格納部114は、工作機械1にて使用される工具Tの情報(工具情報)を工具IDに対応づけて格納する。また、表示部126に表示させる画面データ等の種々の画像データを格納する。
【0029】
データ処理部112は、制御指令部150、表示制御部152および通信監視部154を含む。制御指令部150は、入力部120で受け付けたオペレータの操作入力に基づき、加工制御装置51に制御指令を出力する。制御指令部150は、また、加工制御装置51による現在の制御状態を示す情報(制御情報)を振動処理装置52へ逐次送信する。例えば主軸回転速度の制御指令値(以下「制御指令主軸回転速度」ともいう)を送信する。
【0030】
表示制御部152は、表示部126による表示を制御する。表示制御部152は、振動処理装置52から送信された画面を表示装置54に表示させる。通信監視部154は、操作制御装置50と振動処理装置52との通信状態を監視し、通信線L2を介した通信の断絶など、通信状態の異常(指令出力の異常など)が発生したときにこれを検出する。
【0031】
なお、加工制御装置51や振動処理装置52の各構成要素も、プロセッサなどの演算器、メモリやストレージといった記憶装置、それらを連結する有線または無線の通信線を含むハードウェアと、記憶装置に格納され演算器に処理命令を供給するソフトウェアにより実現されてもよい。本実施形態では、振動処理装置52と操作制御装置50とが別個の装置として構成され、それぞれ異なるオペレーティングシステムで動作するが、変形例においては、これらが同種のオペレーティングシステムで動作するようにしてもよい。
【0032】
図4は、振動処理装置52の機能ブロック図である。
振動処理装置52は、データ処理部212、データ格納部214、検出部216および通信部218を含む。データ処理部212は、通信部218により受信した情報、検出部216により検出された情報、およびデータ格納部214に格納されているデータに基づいて各種処理を実行する。データ処理部212は、データ格納部214、検出部216および通信部218のインタフェースとしても機能する。データ格納部214は、各種プログラムと設定データを格納する。
【0033】
検出部216は、振動検出部230および回転速度検出部232を含む。振動検出部230は、加速度センサ30からのセンサ出力に基づき主軸18の振動(工具Tの振動)を検出する。回転速度検出部232は、主軸18に付設したロータリエンコーダ(図示せず)のセンサ出力に基づき、主軸18の回転速度(工具Tの回転速度)を検出する。
【0034】
データ格納部214は、工具データ格納部240および表示データ格納部242を含む。工具データ格納部240は、工作機械1にて使用される工具Tの情報(工具情報)を工具IDに対応づけて格納する。工具情報には、例えば工具の種類、工具径、刃数などの情報が含まれる。また、振動処理装置52による主軸回転速度の調整可能な範囲(以下「調整範囲」という)についても工具情報と対応づけられている。表示データ格納部242は、表示処理部256が画面生成の際に用いるデータを格納する。
【0035】
通信部218は、受信部260および送信部262を含む。受信部260は、操作制御装置50から制御状態を示す情報を受信する。送信部262は、操作制御装置50へ調整指令を送信する。
【0036】
データ処理部212は、工具情報管理部250、状態管理部252、推奨回転速度計算部254および表示処理部256を含む。工具情報管理部250は、工具データ格納部240に格納される工具Tの情報(工具情報)を工具IDに対応づけて管理する。
【0037】
状態管理部252は、びびり検出部258を含む。上述した周波数解析装置44が、加速度センサ30から連続的に出力される信号を受信し、その信号を所定のサンプリング間隔でフーリエ解析(周波数解析)することで、工具Tに生じている振動の周波数(「振動周波数」という)とその大きさ(「振動レベル」ともいう)を算出する。びびり検出部258は、これら振動レベルおよび振動周波数の情報を取得し、その振動レベルが所定の閾値を超えたときにびびり振動が発生したと判定する。
【0038】
本実施形態では、周波数解析装置44を信号処理装置40に設け(図2参照)、振動処理装置52と分離する構成を例示したが、変形例においては、周波数解析装置44の機能を「周波数解析部」として状態管理部252に含めてもよい。また、信号処理装置40を振動処理装置52の一部として組み込んでもよい。
【0039】
推奨回転速度計算部254は、びびり振動が発生したときに、これを収束させるために好適な主軸回転速度の変更先(「推奨回転速度」ともいう)を計算する。なお、推奨回転速度は「第1回転速度」に対応し、例えば特開2018-176296号公報に記載の方法で算出できる。
【0040】
具体的には、検出されたびびり振動が再生びびりである場合、そのときの振動周波数ω0(びびり周波数)および工具Tの刃数nに基づいて、下記式(1)により推奨回転速度SS(推奨値)を算出できる。
SS=(60×ω0)/(n×k)・・・(1)
但し、kは1以上の任意の整数である。
【0041】
この推奨回転速度SSは、安定限界線図におけるk次の安定ポケットに対応した回転速度である。主軸回転速度を推奨回転速度SSに調整することで、びびり振動を解消できる可能性がある。びびり振動が発生したときの主軸回転速度S0に対し、例えばkを2としたときに上記式(1)によって得られる推奨回転速度SSが安定領域内となるような場合には、主軸回転速度をS0からSSに変更することによってびびり振動を解消できる。
【0042】
なお、工具Tの刃数nは、現在使用中の工具Tの工具IDに基づいて取得できる。工具情報管理部250は、その工具IDに基づいて工具データ格納部240を参照し、刃数nを取得する。推奨回転速度計算部254は、オペレータに提示する推奨回転速度として、現在の制御指令主軸回転速度よりも高い第1推奨値と、現在の制御指令主軸回転速度よりも低い第2推奨値を算出する。
【0043】
表示処理部256は、加工制御装置51による制御状態を示す画面(ステータス画面等)や、びびり振動の発生を監視するための画面(チューニング画面等)を生成し、操作制御装置50を介して表示装置54に表示させる。詳細には、表示処理部256で生成された画面が送信部262により操作制御装置50へ送信される。操作制御装置50の表示制御部152は、この画像を表示部126に表示させる。
【0044】
次に、びびり振動の発生検知および抑制に関する処理について具体的に説明する。
図5は、表示処理部256が生成する管理画面を表す図である。
管理画面160では、画面左領域にステータス画面162が表示され、画面右領域にチューニング画面164が表示される。これらの表示には、表示データ格納部242に格納されたデータが用いられる。
【0045】
ステータス画面162の中央には、横軸を経過時間、縦軸を振動レベルおよび主軸回転速度とするサンプリング画面170が表示される。サンプリング画面170は、振動レベルおよび主軸回転速度の変化をリアルタイムで表示するリアルタイムチャートである。実線が振動レベル(dB)の変化を示し、点線が主軸回転速度の制御指令値(min-1)の変化を示している。
【0046】
このステータス画面162は操作画面でもあり、サンプリング画面170における横軸のスケールとして、最大10minとするパターンと、最大1min(60s)とするパターンのいずれかを選択できる。図示の例では、後者が選択されている。画面右端の「0min」が現在の時点であり、その左側にそれ以前のサンプリング履歴が連続的に表示されている。サンプリング画面170は、画面左上のデータ収集ボタン172をオンにすることでリアルタイム表示される。
【0047】
一方、チューニング画面164の中央領域には、主軸回転速度を表すためのオーバーライドバー180が表示される。オーバーライドバー180は、画面の左右に延びるスケールオブジェクト(スケール機能を有するオブジェクト)であり、その中央がプログラム指令主軸回転速度の100%の位置を示す。ここで、「プログラム指令主軸回転速度」は、加工プログラムにより指定される主軸回転速度である。プログラム指令主軸回転速度は、プログラム上で新たな値が指令されない限り変化しない。オーバーライドバー180の上側に現在の制御指令主軸回転速度が表記される(図示の例では2500min-1)。制御指令主軸回転速度は、PLCにより指令される主軸回転速度である。
【0048】
チューニング画面164の起動時は、プログラム指令主軸回転速度と制御指令主軸回転速度は等しくなるため、オーバーライドバー180の中央上側に制御指令主軸回転速度が表示される。なお、振動処理装置52により主軸回転速度が変更された場合には、変更された割合に応じて制御指令主軸回転速度の表示位置が変更される。なお、正常な制御が行われている限り、上述したロータリエンコーダにより検出される実際の主軸回転速度(「実主軸回転速度」ともいう)は、制御指令主軸回転速度とほぼ一致することとなる。
【0049】
オーバーライドバー180において、右端はプログラム指令主軸回転速度の150%(つまり+50%)の位置を示し、左端はプログラム指令主軸回転速度の50%(つまり-50%)の位置を示す。すなわち、オーバーライドバー180は、現在のプログラム指令主軸回転速度に対する制御指令主軸回転速度の変更の割合を示す「割合表示部」に対応する。
【0050】
チューニング画面164の上領域には、現時点で検出されている振動レベルとピーク周波数が表記される。「ピーク周波数」は、現時点で振動レベルが最大となっている振動周波数を意味する。図示の例では、振動レベル:68(dB)、ピーク周波数:1152(Hz)が示されている。さらに、この振動レベルによりびびり振動の発生が判定されたため、その旨を報知する「びびり発生中」との文字列が表示されている。
【0051】
びびり振動が検出されると、上述のように、推奨回転速度計算部254が、これを収束させるための2つの推奨回転速度(第1推奨値および第2推奨値)を算出する。表示処理部256は、算出された2つの推奨値をチューニング画面164に表示させる。図示の例では、スケールに沿った下側に第1推奨値として「2878min-1」が表示され、第2推奨値として「2466min-1」が表示されている。
【0052】
オーバーライドバー180においてプログラム指令主軸回転速度に対する割合に対応する箇所に、制御指令主軸回転速度の位置を示す▼とその数値(2700min-1)が表示される。そして、第1推奨値の位置を示す▲とその数値(2878min-1)が、オーバーライドバー180においてプログラム指令主軸回転速度に対する割合に対応する箇所に表示される。同様に、第2推奨値の位置を示す▲とその数値(2466min-1)が、オーバーライドバー180においてプログラム指令主軸回転速度に対する割合に対応する箇所に表示される。
【0053】
なお、主軸回転速度の下の数値(m/min)は、工具の周速(m/min)を示し、下記式(2)により算出される。
周速[m/min]=主軸回転速度[min-1]×π×(工具直径[mm]/1000)・・・(2)
この「周速」は、工具負荷の指標となる。
【0054】
ただし、後述のように、オペレータの事前設定により第1推奨値および第2推奨値の一方が選択可能とされるため、選択対象でない推奨値はグレーアウトされる。この推奨値の事前設定は、選択ボタン182a,182bを切り替えることで行うことができる。
【0055】
チューニング画面164も操作画面であり、オペレータにより選択可能な複数種のボタンが表示される。オーバーライドバー180の左右端のやや下方には、推奨値の設定方法を選択するための選択ボタン182a,182bが表示される。チューニング画面164の下領域には、リセットボタン184と調整ボタン186が表示される。
【0056】
ただし、リセットボタン184および調整ボタン186については、状態管理部252による処理過程で選択可否が判定され、選択可能であるときは通常の表示(「アクティブ表示」ともいう)がなされ、選択不可のときはグレーアウトされる。調整ボタン186は、選択されている推奨値が事前設定した調整範囲内であればアクティブ表示される。
【0057】
図示の例では、事前設定として第1推奨値が選択されており、選択ボタン182aがアクティブ表示されている。その状態でびびり振動が発生したため、第2推奨値はグレーアウトされている。そして、選択されている第1推奨値が調整範囲内であったため、調整ボタン186がアクティブ表示されている。オペレータは、この状態で調整ボタン186をタップ(選択)することにより、制御指令主軸回転速度(2700min-1)を推奨回転速度(第1推奨値:2878min-1)に変更するよう指示できる。
【0058】
なお、本実施形態では、主軸回転速度の調整範囲が、プログラム指令主軸回転速度に対して50~150%(つまり±50%)の範囲に設定されている。それにより、オペレータの想定外に主軸18の回転数(制御状態)が急変しないようにされている。
【0059】
状態管理部252は、オペレータの入力に応じて加工制御装置51に向けて主軸回転速度の変更指示を出力する。この変更指示はいったん操作制御装置50へ送られ、制御指令部150が制御指令として数値制御部55に出力する。数値制御部55は、この変更指示を受けて主軸回転速度の制御指令値(つまり制御指令主軸回転速度)を変更する。
【0060】
図6は、操作制御装置50にて制御状態を管理するための管理画面270を表す図である。図7は、振動処理装置52で生成された管理画面160の表示方法を模式的に表す図である。図6に示すように、表示装置54には管理画面270が表示される。管理画面270の上段には、振動処理装置52で生成された管理画面160が表示される。
【0061】
また、表示制御部152は、管理画面270の中段左領域に指令値表示画面171、中段右領域にオペレーション画面173、下段左領域にプログラム表示画面174、下段右領域に工具オフセット画面176および座標画面178を表示させる。指令値表示画面171は、各制御パラメータについて現在の値を表示する。プログラム表示画面174は、実行中のNCプログラムを表示する。座標画面178は、機械座標や絶対座標等を表示する。
【0062】
管理画面270の右端部には、画面構成を大きく切り替えるための複数のボタン(アイコン)が配置される機能切替領域179が設けられるが、その説明については省略する。表示制御部152がこれらの画面の表示を制御する。
【0063】
図7に示すように、振動処理装置52の表示処理部256により生成された管理画面160は、例えばHTML形式の画面データとして操作制御装置50へ送信される。管理画面270の上段がWebブラウザによる表示領域とされており、表示制御部152は、この画面データに基づいて管理画面160をその表示領域に表示させる。入力部120は、オペレータによる管理画面160への操作入力を受け付ける。送信部132は、そのオペレータの操作情報を振動処理装置52へ送信する。
【0064】
次に、びびり振動抑制中における異常時処理について説明する。
上述のように、工作機械1による加工中にびびり振動が検出されると、振動処理装置52においてこれを収束させるための主軸回転速度の変更推奨値(推奨回転速度)が算出される。オペレータがその推奨値を承認すると、状態管理部252が制御指令部150に向けて主軸回転速度の変更指令を出力する。制御指令部150は、加工プログラムに設定された主軸回転速度を変更推奨値に変更する。それによりびびり振動が抑えられる。
【0065】
制御指令部150は、その後は基本的に、加工プログラムにおける次の主軸回転速度の変更タイミングまでその変更推奨値を維持したまま加工を継続する。しかし、万が一その変更推奨値への変更後にシステム異常など新たな変更推奨値の算出が困難になる異常が発生した場合、その後の新たなびびり振動に対して変更推奨値を提示できなくなる可能性がある。新たに発生したびびり振動に対して、変更推奨値に基づく主軸回転速度が、加工プログラムに沿った主軸回転速度とした場合によりも振動状態を悪化させることもあり得る。
【0066】
このような異常として、例えば以下の異常A~Cが挙げられる。
・びびり振動抑制システムの異常(異常A)
・振動処理装置52の異常(異常B)
・振動処理装置52と操作制御装置50との間の通信異常(異常C)
異常Aとして、例えば加速度センサ30の故障によるセンサ出力値の異常、信号線L1の破断等による信号処理装置40と振動処理装置52との間の通信断絶などが挙げられる。異常Bとして、例えば振動処理装置52が実行するプログラムのエラーなどによるびびり振動判定不可状態、推奨回転速度の演算不可状態などが挙げられる。異常Cとして、通信線L2の破断などによる振動処理装置52と操作制御装置50との間の通信断絶などが挙げられる。
【0067】
そこで本実施形態では、このような異常として「特定の異常」を予め設定し、その特定の異常の発生が検知された場合に、工作機械1による加工を停止させる。ただし、びびり振動抑制処理(後述の振動制御処理)に基づく主軸回転速度の変更中でないとき、つまり加工プログラムにしたがった加工まで停止させると加工効率を無用に低下させることになりかねない。このため、特定の異常を契機に加工を停止させるのは、びびり振動抑制処理の反映中であることをその条件とする。
【0068】
図8は、異常時処理の具体例を模式的に表す図である。図中には加工プログラムと異常時処理との関係が例示されている。加工プログラムのあるブロックの実行中に特定の異常が発生した場合、本実施形態では即時に主軸18の移動(軸移動)を停止させる(図中のタイミング1に対応)。なお、主軸18の回転については継続する。それにより、少なくとも変更推奨値への変更に起因した不具合の発生を防止できる。オペレータは、その後にその特定の異常に対処するなどしかるべき措置をとることができる。
【0069】
なお、変形例においては、特定の異常が検知されたときに実行中のブロックの終了時に軸移動を停止させてもよい(タイミング2に対応)。あるいは、特定の異常が検知されたときに実行中の加工の区切り(加工プログラムにおける制御の区切り)において軸移動を停止させてもよい(タイミング3に対応)。また、主軸18の移動だけでなく回転も停止させてもよい。
【0070】
次に、びびり振動を抑制するための具体的処理について説明する。
図9は、振動制御処理を表すフローチャートである。図10は、図9のS22における主軸回転速度調整処理を表すフローチャートである。以下、図9および図10に基づき、図5等を適宜参照しつつ説明する。
【0071】
図9に示すように、振動制御処理において、状態管理部252は、検出部216を介して主軸18の振動データを取得する(S10)。表示処理部256は、その振動データに基づいてステータス画面162およびチューニング画面164を更新する(S12)。このとき更新された管理画面160は、表示装置54の管理画面270に表示される(図7参照)。
【0072】
びびり振動が発生しない間もステータス画面162およびチューニング画面164は表示される。振動レベルが閾値を超え、びびり検出部258がびびり振動を検出すると(S14のY)、推奨回転速度計算部254が推奨回転速度を計算する(S16)。そして、推奨値提示処理が実行される(S18)。
【0073】
この推奨値提示処理においては、表示処理部256は、算出された第1推奨値および第2推奨値の双方が調整範囲内(本実施形態ではプログラム指令主軸回転速度の±50%以内)にあれば、両推奨値を表示させる。この場合、オペレータが調整ボタン186をタップすることにより、制御指令主軸回転速度が第1推奨値へ変更されることとなる。
【0074】
一方、選択した側の推奨値(選択推奨値)のみが調整範囲にあれば、表示処理部256は、その選択推奨値のみを表示させ、調整ボタン186を有効にする。この場合も、オペレータが調整ボタン186をタップすることにより、制御指令主軸回転速度が第1推奨値へ変更されることとなる。
【0075】
選択していない側の推奨値(非選択推奨値)のみが調整範囲にあれば、表示処理部256は、その非選択推奨値のみ表示させるが、調整ボタン186は無効にする。すなわち、この状態ではオペレータは主軸回転速度を変更できない。選択ボタン182a,182bを切り替えて選択推奨値を変更すれば、主軸回転速度を変更できるようになる。
【0076】
第1推奨値および第2推奨値のいずれも調整範囲内にない場合、表示処理部256は、両推奨値を非表示とし、調整ボタン186を無効とする。この状態ではオペレータは主軸回転速度を変更できない。
【0077】
オペレータの操作入力により調整ボタン186がタップされると(S20のY)、主軸回転速度調整処理が実行される(S22)。
【0078】
図10に示すように、主軸回転速度調整処理では、状態管理部252が制御指令部150に向けて、選択された推奨回転速度への変更指令を出力する(S62)。制御指令部150は、制御指令主軸回転速度をその推奨回転速度に変更して主軸18を制御する。表示処理部256は、ステータス画面162およびチューニング画面164を更新する(S63)。このとき、ステータス画面162において制御指令主軸回転速度の切り替えタイミングを示す▼が追加され、チューニング画面164において制御指令主軸回転速度の表示位置が更新される。また、リセットボタン184が有効とされており、オペレータは、いつでも制御をリセットすることができる。リセットボタン184は、プログラム指令主軸回転速度と制御指令主軸回転速度とが異なるときに有効化される。
【0079】
状態管理部252は、検出部116を介して主軸18の振動データを取得する(S64)。このとき、所定の終了条件が成立していなければ(S66のN)、推奨回転速度計算部254が推奨回転速度を再計算する(S68)本実施形態では、この「終了条件」として、びびり振動が収束したこと、びびり振動が調整前よりも大きくなったこと、びびり振動の種類が変化したこと、びびり振動の周波数が変化したことなどが設定されている。なお、変形例においては、これらのいずれかを終了条件として設定してもよい。
【0080】
算出された推奨値が調整範囲内であれば(S70のY)、S62へ戻る。こうして終了条件が成立すれば(S66のY)、S68およびS70の処理をスキップする。表示処理部256は、推奨値を非表示とし(S72)、調整ボタン186をグレーアウトさせて無効にする(S74)。一方、算出された推奨値が調整範囲内でない場合も(S70のN)、表示処理部256は、推奨値を非表示とし(S72)、調整ボタン186をグレーアウトさせて無効にする(S74)。
【0081】
図9に戻り、調整ボタン186がタップされなければ(S20のN)、S22の処理をスキップする。びびり振動が検出されなければ(S14のN)、S16~S22の処理をスキップする。そして、工作機械1の稼働が停止されるなど、システム終了となれば(S24のY)、一連の処理を終了する。システム終了でなければ(S24のN)、S10へ戻る。
【0082】
図11は、振動処理装置52にて実行される異常時処理を表すフローチャートである。
上述した異常A,Bなどの特定の異常が発生した場合、割込み処理として異常時処理が実行される。状態管理部252は、操作制御装置50から現在の制御状態を示す情報を取得する(S80)。
【0083】
このとき、オペレータの手動操作による加工中でなく(S82のN)、制御指令部150においてびびり振動抑制処理による主軸回転数の調整が反映中であれば(S84のY)、状態管理部252は、操作制御装置50を介して加工制御装置51の制御指令部150に対し異常通知信号(加工停止指令)を出力する(S86)。一方、オペレータの手動操作による加工中であれば(S82のY)、S84およびS86の処理をスキップする。振動処理装置52が振動状態の監視のみ行っている場合など、主軸回転数の調整が反映中でなければ(S84のN)、S86の処理をスキップする。
【0084】
すなわち、異常時処理における加工停止は、びびり振動抑制処理に基づく主軸回転速度の変更がなされているときに実行される。ただし、オペレータが操作盤でオーバーライド操作を行った場合には、異常発生の有無にかかわらず、そのオーバーライド操作を優先する。制御指令部150は、オペレータの操作入力に基づく工具の移動中においてはその工具の移動を停止させない。
【0085】
制御指令部150は、状態管理部252から出力された異常通知信号を受けとると、軸移動を停止させる。
【0086】
図12は、操作制御装置50にて実行される異常時処理を表すフローチャートである。
上述した異常Cなどの特定の異常が発生した場合、割込み処理として異常時処理が実行される。制御指令部150は、オペレータの手動操作による加工中でなく(S90のN)、現在の制御状態がびびり振動抑制処理による主軸回転数の調整を反映中であれば(S92のY)、加工(軸移動)を停止させる(S94)。一方、オペレータの手動操作による加工中であれば(S90のY)、S92およびS94の処理をスキップする。主軸回転数の調整が反映中でなければ(S92のN)、S94の処理をスキップする。
【0087】
すなわち、異常時処理における加工停止は、びびり振動抑制処理に基づいて主軸回転速度が変更中であるときに実行される。ただし、オペレータが操作盤でオーバーライド操作を行った場合には、異常発生の有無にかかわらず、そのオーバーライド操作を優先する。制御指令部150は、オペレータの操作入力に基づく工具の移動中においてはその工具の移動を停止させない。
【0088】
以上、実施形態に基づいて工作機械1について説明した。
本実施形態では工作機械1においてびびり振動が発生した場合、振動処理装置52により主軸回転数の変更推奨値が自動的に提示される。オペレータがこれを承認する簡単な操作入力を行うことで主軸回転数が調整され、びびり振動を抑制できる。この主軸回転数の調整中に万が一システム異常などの特定の異常が発生しても、その場合には加工停止がなされるため、状況が悪化することを回避できる。特定の異常が発生しても、主軸回転数の調整中でなければ加工停止の必要がないため、加工時間を無駄にすることを防止できる。すなわち、本実施形態によれば、工作機械1における一時的な機能調整時の安全性を確保できる。
【0089】
[変形例]
図13は、変形例に係る機能部の電気的構成を模式的に示す図である。
本変形例では、上記実施形態における操作制御装置50と加工制御装置51の機能を併せもつ単一の制御装置350が設けられる。制御装置350は、数値制御部55および通信監視部154を含む。本変形例によれば、状態管理部252は、数値制御部55に対して直接的に異常通知信号(加工停止指令)を送信できる。
【0090】
[他の変形例]
上記実施形態では述べなかったが、特定の異常として、通信線L3の破断などによる操作制御装置50と加工制御装置51との間の通信断絶などを含めてもよい(異常D)。この異常Dを検出するために、加工制御装置51に第2の通信監視部を設けてもよい。
【0091】
上記実施形態では、振動処理装置52と操作制御装置50とが別個の装置として構成され、それぞれ異なるオペレーティングシステムで動作する例を示した。変形例においては、これらが単一の装置で構成され、共通のオペレーティングシステムで動作するようにしてもよい。
【0092】
上記実施形態では、操作制御装置50および振動処理装置52に共用の単一の表示装置54を設け、振動処理装置52で生成された画面を、操作制御装置50を介して表示装置54に表示させる例を示した(図2参照)。変形例においては、操作制御装置50および振動処理装置のそれぞれが個別に表示装置を有する構成としてもよい。
【0093】
上記実施形態では、加速度センサによる検出値に基づき工具の振動状態を管理し、その振動状態に応じて工具の回転速度(つまり主軸回転速度)を一時的に調整することでびびり振動を抑制する構成を例示した。そして、その回転速度の調整中に異常が検出された場合に加工を停止することとした。変形例においては、例えば温度センサ(熱センサ)の検出値に基づいて工具の温度を管理し、その温度に応じてクーラントの噴射時を早めることで工具の過熱状態を抑制してもよい。そして、そのクーラントの噴射時が変更された状態で、加工中に異常が検出された場合に、工具の移動を停止してもよい。
【0094】
あるいは、カメラ(センサ)の検出値に基づいて工具の状態(挙動など)を管理し、その状態に応じて工具の回転速度を一時的に調整してもよい。その回転速度の調整中に異常が検出された場合に加工を停止してもよい。
【0095】
すなわち、加速度センサ、温度センサ、カメラ、負荷センサ(荷重センサ、トルクセンサ)などを「機能部」としてもよい。管理部は、機能部の検出値に基づいて、数値制御部に変更の指示をしてもよい。数値制御部は、その指示に基づいた変更がなされた状態で、加工中に異常が検出された場合に、工具の移動を停止してもよい。
【0096】
上記実施形態では、びびり振動の大きさにかかわらず、回転速度の調整中に異常が検出された場合に加工を停止することとした。変形例においては、びびり振動が小さい場合、つまりびびり振動の大きさが予め定める基準値以下である場合には、加工を継続するようにしてもよい。あるいは、主軸の負荷を検出し、その負荷が予め定める基準値以下である場合には、加工を継続するようにしてもよい。
【0097】
上記実施形態では、工作機械1として横型のマシニングセンタを例示した。変形例においては、縦型のマシニングセンタであってもよい。あるいは、ターニングセンサであってもよいし、マシニングセンタとターニングセンタの双方の機能を備えた複合加工機であってもよい。それらの工作機械に対し、上述したびびり振動を抑制するための表示制御を適用してもよい。
【0098】
なお、本発明は上記実施形態や変形例に限定されるものではなく、要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化することができる。上記実施形態や変形例に開示されている複数の構成要素を適宜組み合わせることにより種々の発明を形成してもよい。また、上記実施形態や変形例に示される全構成要素からいくつかの構成要素を削除してもよい。
【符号の説明】
【0099】
1 工作機械、2 加工装置、4 制御ユニット、14 主軸頭、16 テーブル、18 主軸、30 加速度センサ、40 信号処理装置、44 周波数解析装置、50 操作制御装置、51 加工制御装置、52 振動処理装置、54 表示装置、55 数値制御部、56 駆動回路、110 ユーザインタフェース処理部、112 データ処理部、114 データ格納部、116 通信部、116 検出部、120 入力部、122 出力部、126 表示部、130 受信部、132 送信部、150 制御指令部、152 表示制御部、154 通信監視部、160 管理画面、162 ステータス画面、164 チューニング画面、180 オーバーライドバー、186 調整ボタン、212 データ処理部、214 データ格納部、216 検出部、218 通信部、230 振動検出部、232 回転速度検出部、250 工具情報管理部、252 状態管理部、254 推奨回転速度計算部、256 表示処理部、258 びびり検出部、260 受信部、262 送信部、270 管理画面、350 制御装置、L1 信号線、L2 通信線、L3 通信線、T 工具、W ワーク。
【要約】
【課題】工作機械における一時的な機能調整時の安全性を確保する。
【解決手段】ある態様の工作機械は、加工プログラムにしたがって工具の回転や移動を制御する数値制御部と、工具の振動を検出する振動検出部と、振動の状態に応じて工具の回転速度を変更するために、振動検出部で検出される振動状態を管理する状態管理部と、を備える。状態管理部は、工具の回転速度の変更の指示が受け付けられた際に、数値制御部に工具の回転速度を変更する指令をする。数値制御部は、指令に基づいた変更がなされた状態で、加工中に異常が検出された場合に、工具の移動を停止する。
【選択図】図2
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13