(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-17
(45)【発行日】2023-10-25
(54)【発明の名称】重症急性呼吸器症候群ウイルスSARS-COV-2に対する発現ベクター
(51)【国際特許分類】
C12N 15/861 20060101AFI20231018BHJP
A61K 35/761 20150101ALI20231018BHJP
A61K 39/215 20060101ALI20231018BHJP
A61P 31/14 20060101ALI20231018BHJP
C12N 15/50 20060101ALN20231018BHJP
【FI】
C12N15/861 Z ZNA
A61K35/761
A61K39/215
A61P31/14
C12N15/50
(21)【出願番号】P 2022513579
(86)(22)【出願日】2020-11-06
(86)【国際出願番号】 RU2020000589
(87)【国際公開番号】W WO2021076009
(87)【国際公開日】2021-04-22
【審査請求日】2022-08-04
(32)【優先日】2020-08-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】RU
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】522075140
【氏名又は名称】フェデラル ステート バジェタリー インスティテューション“ナショナル リサーチ センター フォー エピデミオロジー アンド マイクロバイオロジー ネームド アフター ザ オナラリー アカデミシャン エヌ.エフ.ガマレヤ”オブ ザ ミニストリー オブ ヘルス オブ ザ ロシアン フェデレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】ズブコワ,オルガ ヴァディモヴナ
(72)【発明者】
【氏名】オザロフスカイア,タチアナ アンドレーヴナ
(72)【発明者】
【氏名】ドルジコワ,インナ ヴァディモヴナ
(72)【発明者】
【氏名】ポポーワ,オルガ
(72)【発明者】
【氏名】シチェブリアコフ,ドミトリー ウィークトロヴィチ
(72)【発明者】
【氏名】グロウソワ,ダリア ミハイロヴナ
(72)【発明者】
【氏名】ザルラエワ,アリーナ シャミロヴナ
(72)【発明者】
【氏名】ツカバツリン,アミール イルダロビヴィチ
(72)【発明者】
【氏名】ツカバツリーナ,ナタリア ミハイロヴナ
(72)【発明者】
【氏名】シシェルビニン,ドミトリー ニコラエヴィチ
(72)【発明者】
【氏名】エスマガムベトフ,イリアス ブラトビッチ
(72)【発明者】
【氏名】トカルスカヤ,エリザヴェータ アレクサンドロヴナ
(72)【発明者】
【氏名】ボティコフ,アンドレイ ジェンナデビッチ
(72)【発明者】
【氏名】エロコワ,アリーナ セルゲーヴナ
(72)【発明者】
【氏名】ニキテンコ,ナタリア アナトレヴナ
(72)【発明者】
【氏名】セミキン,アレクサンドル セルゲーヴィチ
(72)【発明者】
【氏名】ボリセヴィチ,セルゲイ ウラジーミロヴィチ
(72)【発明者】
【氏名】ナロディツキー,ボリス サベリエビッチ
(72)【発明者】
【氏名】ログノフ,デニス ユーリエヴィチ
(72)【発明者】
【氏名】ギンツブルク,アレクサンドル レオニドヴィチ
【審査官】藤山 純
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第111218459(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0143302(US,A1)
【文献】特表2014-516536(JP,A)
【文献】Abbink P, et al.,Comparative seroprevalence and immunogenicity of six rare serotype recombinant adenovirus vaccine vectors from subgroups B and D,J Virol,81(9),2007年05月,p.4654-63
【文献】LOGUNOV, D. Y. et al.,Safety and immunogenicity of an rAd26 and rAd5 vector-based heterologous prime-boost COVID-19 vaccine in two formulations: two open, non-randomised phase 1/2 studies from Russia,Lancet,396(10255),2020年09月26日,pp.887-897
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/861
C12N 15/50
A61K 35/761
A61K 39/215
A61P 31/14
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
E1及びE3領域が欠失され、且つORF6-Ad26領域がORF6-Ad5により置換された組換えヒトアデノウイルス血清型26のゲノムを含有し、配列番号1、配列番号2、配列番号3から選択される発現カセットが組み込まれた発現ベクター。
【請求項2】
ヒトアデノウイルス血清型26の親配列として配列番号5が使用されたことを特徴とする、請求項1に記載の発現ベクター。
【請求項3】
E1及びE3領域が欠失された組換えサルアデノウイルス血清型25のゲノムを含有し、配列番号4、配列番号2、配列番号3から選択される発現カセットが組み込まれた発現ベクター。
【請求項4】
サルアデノウイルス血清型25の親配列として配列番号6が使用されたことを特徴とする、請求項3に記載の発現ベクター。
【請求項5】
E1及びE3領域が欠失された組換えヒトアデノウイルス血清型5のゲノムを含有し、配列番号1、配列番号2、配列番号3から選択される発現カセットが組み込まれた発現ベクター。
【請求項6】
ヒトアデノウイルス血清型5の親配列として配列番号7が使用されたことを特徴とする、請求項5に記載の発現ベクター。
【請求項7】
重症急性呼吸器症候群ウイルスSARS-CoV-2に対する特異的免疫の誘導のための免疫生物学的薬剤を作製するための、請求項1~6のいずれか一項に記載の発現ベクターの利用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、バイオテクノロジー、免疫学及びウイルス学に関する。本発明は、重症急性呼吸器症候群ウイルスSARS-CoV-2に対する特異的免疫を誘導するための免疫生物学的薬剤を開発するために製薬産業において使用することができる組換えベクターを包含する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
2019年12月に、湖北省(Hubei)の省都である武漢(Wuhan)において、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)によって引き起こされる疾患が見出された。この疾患によって、迅速な診断法及び患者の臨床管理を含む、公衆衛生の専門家及び医師が対処すべき複雑な作業がもたらされた。SARS-CoV-2ウイルスは急速に世界中に広がり、史上最大規模のパンデミックに発展した。2020年8月19日までに、症例数は22百万を超え、死者数は-791千人であった。
【0003】
これまでのところ、この疾患の疫学、臨床徴候、予防及び処置について、限られたデータしか入手できない。知られているように、肺炎は、新型コロナウイルスが引き起こす感染症の最も一般的な臨床症状であり、相当数の患者において急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の発症が報告されている。ウイルスは、同じ科の他のウイルス(SARS-CoV及びMERS-CoV)と同様に、危険病原体のII類に割り当てられる。現在、新型コロナウイルス疾患の特異的予防又は原因療法処置のための薬剤は入手できない。
【0004】
高い死亡率、SARS-CoV-2の急速な地理的拡散、及びこの病気の原因が完全には定義されていないという事実により、このウイルスが引き起こす疾患の予防及び処置に有効な製品を開発する緊急の必要性が生じた。
【0005】
ワクチン学における有望な分野の1つは、疾患の予防のためのウイルスベクターに基づく薬剤の開発に焦点を合わせている。これに関連して、ヒトアデノウイルス血清型5に基づいた系は、製薬産業において最も広く使用されている手段である。
【0006】
このタイプのベクターは、例えば、高い安全性、異なる細胞型に侵入する能力、高いパッケージング能力、高い力価を有する産物を生じる可能性などの利点を有する。
【0007】
SARS-CoVウイルスSタンパク質配列を含有する組換えヒトアデノウイルス血清型5に基づいた、重症急性呼吸器症候群に対するワクチンを使用することを提言する解決策がある(CN1276777C号)。
【0008】
SARS-CoVウイルスの全長S防御抗原の配列、又はSARS-CoVウイルスのS抗原のS1ドメイン、若しくはSARS-CoVウイルスのS抗原のS2ドメイン、若しくは両方のドメインを含む配列を含有する組換えヒトアデノウイルス血清型5に基づいた重症急性呼吸器症候群に対するワクチンについて記載する、米国特許出願公開第20080267992A1号の発明の特許請求の範囲に従う解決策がある。加えて、発現カセット内のこの組換えウイルスは、ヒトサイトメガロウイルスプロモーター(CMV-プロモーター)及びウシ成長ホルモンポリアデニル化(bgh-PolyA)シグナルを含有する。
【0009】
E1及びE3領域が欠失されたヒトアデノウイルス血清型5に基づき、Sタンパク質遺伝子を含有する発現ベクターの開発について記載する、CN111218459号に従う解決策がある。このベクターは、COVID-19に対するワクチンを設計するために使用される。
【0010】
同時に、一部の人々は既存の免疫応答を有するので、ヒトアデノウイルス血清型5に基づいたベクターの広範な用途は限られている。したがって、遺伝的変異、例えば他の血清型のアデノウイルスに基づくものを有する複数のベクターの開発に焦点が向けられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
発明の実行
特許請求される発明群の技術的目的は、SARS-CoV-2糖タンパク質に対する持続的な免疫応答を誘導すること、及びSARS-CoV-2糖タンパク質に対する生物学的に有効な防御抗体力価の存在を保証することである。重症急性呼吸器症候群ウイルスSARS-CoV-2に対する特異的免疫を誘導するための免疫生物学的薬剤を作製することが可能になる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
技術的結果は、E1及びE3領域が欠失され、且つORF6-Ad26領域がORF6-Ad5により置換された組換えヒトアデノウイルス血清型26のゲノムを含有し、配列番号1、配列番号2、配列番号3から選択される発現カセットが配置された発現ベクター(変異型1)の作製である。それに関して、配列番号5の配列をヒトアデノウイルス血清型26の親配列として使用した。
【0013】
さらに、技術的結果は、E1及びE3領域が欠失された組換えサルアデノウイルス血清型25のゲノムを含有し、配列番号4、配列番号2、配列番号3から選択される発現カセットが配置された発現ベクター(変異型2)の作製である。それに関して、配列番号6の配列をサルアデノウイルス血清型25の親配列として使用した。
【0014】
そしてさらに、技術的結果は、E1及びE3領域が欠失された組換えヒトアデノウイルス血清型5のゲノムを含有し、配列番号1、配列番号2、配列番号3から選択される発現カセットが配置された発現ベクター(変異型3)の作製である。それに関して、配列番号7の配列をヒトアデノウイルス血清型5の親配列として使用した。
【0015】
この技術的結果は、重症急性呼吸器症候群ウイルスSARS-CoV-2に対する特異的免疫を誘導するための免疫生物学的薬剤の作製のための、開発された発現ベクターの利用方法が開発されることによっても達成される。
【発明を実施するための形態】
【0016】
発明の実施形態
組換えヒトアデノウイルス血清型26のゲノムを含有する発現ベクターを得る方法では、第1段階でヒトアデノウイルス血清型26のゲノムの2つの相同領域を含むプラスミドが構築され、これは次に、制限エンドヌクレアーゼを用いて直線化され、ヒトアデノウイルス血清型26のウイルス粒子から単離されたDNAと混合され、大腸菌(E. coli)細胞において相同組換えが行われる。結果として、E1領域が欠失された組換えヒトアデノウイルス血清型26のゲノムを保有するプラスミドが得られる。次に、遺伝子操作法を用いて、オープンリーディングフレーム6(ORF6)が、ヒトアデノウイルス血清型5のORF6によって置換される。そして、パッケージング能力を拡張するためにE3領域が欠失される。最終的に、発現カセットがベクターに挿入される。
【0017】
組換えサルアデノウイルス血清型25のゲノムを含有する発現ベクターを得る方法は、次の通りである:第1段階で、サルアデノウイルス血清型25のゲノムの2つの相同領域を含むプラスミドが構築され、これは次に、制限エンドヌクレアーゼを用いて直線化され、サルアデノウイルス血清型25のウイルス粒子から単離されたDNAと混合され、大腸菌(E. coli)細胞において相同組換えが行われる。結果として、E1領域が欠失されたサルアデノウイルス血清型25のゲノムを保有するプラスミドが得られる。次に、パッケージング能力を拡張するためにE3領域が欠失される。最終的に、発現カセットがベクターに挿入される。
【0018】
組換えヒトアデノウイルス血清型5のゲノムを含有する発現ベクターを得る方法は、次の通りである:第1段階で、ヒトアデノウイルス血清型5のゲノムの2つの相同領域を含むプラスミドが構築され、これは次に、制限エンドヌクレアーゼを用いて直線化され、ヒトアデノウイルス血清型5のウイルス粒子から単離されたDNAと混合され、大腸菌(E. coli)細胞において相同組換えが行われる。結果として、E1領域が欠失されたヒトアデノウイルス血清型5のゲノムを保有するプラスミドが得られる。次に、遺伝子操作法を用いて、パッケージング能力を拡張するためにE3領域が欠失される。最終的に、発現カセットがベクターに挿入される。
【0019】
免疫反応の誘導の有効性を最大にするために、著者らは、発現カセットの複数の変異型を特許請求した。
【0020】
全てのカセットにおいて、哺乳類細胞における発現のために最適化されたSARS-CoV-2ウイルスのスパイク(S)タンパク質を抗原として使用した。Sタンパク質は、コロナウイルス構造タンパク質の1つである。Sタンパク質はウイルス粒子表面に露出され、ACE2(アンジオテンシン変換酵素2)受容体に結合させることに関与している。完了した研究の結果により、Sタンパク質に対するウイルス中和抗体の産生が実証され、従って、医薬品の開発のために有望な抗原であると考えられる。
【0021】
発現カセット配列番号1は、CMVプロモーター、SARS-CoV-2ウイルスSタンパク質遺伝子、及びポリアデニル化シグナルを含有する。
【0022】
発現カセット配列番号2は、CAGプロモーター、SARS-CoV-2ウイルスSタンパク質遺伝子、及びポリアデニル化シグナルを含有する。
【0023】
発現カセット配列番号3は、EF1プロモーター、SARS-CoV-2ウイルスSタンパク質遺伝子、及びポリアデニル化シグナルを含有する。
【0024】
発現カセット配列番号4は、CMVプロモーター、SARS-CoV-2ウイルスSタンパク質遺伝子、及びポリアデニル化シグナルを含有する。
【0025】
本発明の有効性を確認するために、開発発現ベクターが重症急性呼吸器症候群ウイルスSARS-CoV-2に対する動物の免疫応答を誘導する能力を評価した。
【0026】
発明の実行は、以下の実施例によって証明される。
【実施例】
【0027】
実施例1
組換えヒトアデノウイルス血清型26のゲノムを含有する発現ベクターの製造
第1段階で、ヒトアデノウイルス血清型26のゲノムと相同の2つの領域(2つの相同性アーム)、及びアンピシリン耐性遺伝子を保有するプラスミド構築物pAd26-Endsを設計した。相同性アームの一方は、ヒトアデノウイルス血清型26のゲノムの開始部分(左側逆位末端反復配列からE1領域まで)、及びpIXタンパク質を含むウイルスゲノムの配列である。他方の相同性アームは、ゲノムの末端を介してORF3 E4領域の後に位置するヌクレオチド配列を含有する。pAd26-Ends構築物の合成は、Moscow企業「Eurogen」ZAOにより実施した。
【0028】
ウイルス粒子から単離されたヒトアデノウイルス血清型26のDNAをpAd26-Endsと混合した。pAd26-EndsとウイルスDNAとの間の相同組換えプロセスによって、E1領域が欠失されたヒトアデノウイルス血清型26のゲノムを保有するプラスミドpAd26-dlE1が得られた。
【0029】
次に、得られたプラスミドpAd26-dlE1において、標準的なクローニング技術を用いて、ヒトアデノウイルス血清型26がHEK293細胞培養物において効果的に複製できることを保証するために、オープンリーディングフレーム6(ORF6-Ad26)を含有する配列を、ヒトアデノウイルス血清型5のゲノムからの同様の配列で置換した。結果として、プラスミドpAd26-dlE1-ORF6-Ad5が得られた。
【0030】
さらに、ベクターのパッケージング能力を拡張するために、標準的な遺伝子操作技術を用いて、アデノウイルスゲノムのE3領域(遺伝子pVIIIとU-エクソンの間の約3321塩基対)を構築プラスミドpAd26-dlE1-ORF6-Ad5から欠失させた。最終的に、ヒトアデノウイルス血清型5のオープンリーディングフレームORF6を有し、且つE1及びE3領域が欠失されたヒトアデノウイルス血清型26のゲノムに基づいた組換えベクターpAd26-only-nullが得られた。配列番号5の配列をヒトアデノウイルス血清型26の親配列として使用した。
【0031】
また、著者らは、複数の発現カセット設計を開発した:
- 発現カセット配列番号1は、CMVプロモーター、SARS-CoV-2ウイルスSタンパク質遺伝子、及びポリアデニル化シグナルを含有し、
- 発現カセット配列番号2は、CAGプロモーター、SARS-CoV-2ウイルスSタンパク質遺伝子、及びポリアデニル化シグナルを含有し、
- 発現カセット配列番号3は、EF1プロモーター、SARS-CoV-2ウイルスSタンパク質遺伝子、及びポリアデニル化シグナルを含有する。
【0032】
プラスミド構築物pAd26-Endsに基づき、遺伝子操作技術を用いて、発現カセット配列番号1、配列番号2、又は配列番号3をそれぞれ含有すると共に、アデノウイルス血清型26のゲノムの相同性アームを保有する構築物pArms-26-CMV-S-CoV2、pArms-26-CAG-S-CoV2、pArms-26-EF1-S-CoV2が得られた。次に、相同性アーム間の唯一の加水分解部位により、構築物pArms-26-CMV-S-CoV2、pArms-26-CAG-S-CoV2、pArms-26-EF1-S-CoV2を直線化した。プラスミドのそれぞれを組換えベクターpAd26-only-nullと混合した。相同組換えにより、ヒトアデノウイルス血清型5のオープンリーディングフレームORF6と、E1及びE3領域の欠失とを有する組換えヒトアデノウイルス血清型26のゲノムを保有し、発現カセット配列番号1、配列番号2又は配列番号3をそれぞれ有する、プラスミドpAd26-only-CMV-S-CoV2、pAd26-only-CAG-S-CoV2、pAd26-only-EF1-S-CoV2を得ることができた。
【0033】
第4段階の間に、プラスミドpAd26-only-CMV-S-CoV2、pAd26-only-CAG-S-CoV2、pAd26-only-EF1-S-CoV2を特定の制限エンドヌクレアーゼにより加水分解して、ベクター部分を除去した。得られたDNA産物をHEK293細胞培養物のトランスフェクションのために使用した。
【0034】
したがって、E1及びE3領域が欠失され、且つRF6-Ad26領域がORF6-Ad5により置換された組換えヒトアデノウイルス血清型26のゲノムを含有し、配列番号1、配列番号2、配列番号3から選択される発現カセットが組み込まれた発現ベクターが得られた。
【0035】
実施例2
組換えサルアデノウイルス血清型25のゲノムを含有する発現ベクターの製造
第1段階で、サルアデノウイルス血清型25のゲノムと相同の2つの領域(2つの相同性アーム)を保有するプラスミド構築物pSim25-Endsを設計した。相同性アームの一方は、サルアデノウイルス血清型25のゲノムの開始部分(左側逆位末端反復配列からE1領域まで)、及びE1領域の末端からpIVa2タンパク質までの配列である。他方の相同性アームは、右側逆位末端反復配列を含むアデノウイルスゲノムの末端部分の配列を含有する。pSim25-Ends構築物の合成は、Moscow企業「Eurogen」ZAOにより実施した。
【0036】
ウイルス粒子から単離されたサルアデノウイルス血清型25のDNAをpSim25-Endsと混合した。pSim25-EndsとウイルスDNAとの間の相同組換えプロセスによって、E1領域が欠失されたサルアデノウイルス血清型25のゲノムを保有するプラスミドpSim25-dlE1が得られた。
【0037】
さらに、ベクターのパッケージング能力を拡張するために、標準的な遺伝子操作技術を用いて、アデノウイルスゲノムのE3領域(遺伝子12,5Kの開始部分から遺伝子14.7Kまでの約3921塩基対)を構築プラスミドpSim25-dlE1から欠失させた。最終的に、E1及びE3領域が欠失されたサルアデノウイルス血清型25の全長ゲノムをコードするプラスミド構築物pSim25-nullが得られた。配列番号6の配列をサルアデノウイルス血清型25の親配列として使用した。
【0038】
また、著者らは、複数の発現カセット設計を開発した:
- 発現カセット配列番号4は、CMVプロモーター、SARS-CoV-2ウイルスSタンパク質遺伝子、及びポリアデニル化シグナルを含有し、
- 発現カセット配列番号2は、CAGプロモーター、SARS-CoV-2ウイルスSタンパク質遺伝子、及びポリアデニル化シグナルを含有し、
- 発現カセット配列番号3は、EF1プロモーター、SARS-CoV-2ウイルスSタンパク質遺伝子、及びポリアデニル化シグナルを含有する。
【0039】
次に、プラスミド構築物pSim25-Endsに基づき、遺伝子操作技術を用いて、発現カセット配列番号4、配列番号2、又は配列番号3をそれぞれ含有すると共に、サルアデノウイルス血清型25のゲノムからの相同性アームを保有する構築物pArms-Sim25-CMV-S-CoV2、pArms-Sim25-CAG-S-CoV2、pArms-Sim25-EF1-S-CoV2が得られた。次に、相同性アーム間の唯一の加水分解部位により、構築物pArms-Sim25-CMV-S-CoV2、pArms-Sim25-CAG-S-CoV2、pArms-Sim25-EF1-S-CoV2を直線化した。プラスミドのそれぞれを組換えベクターpSim25-nullと混合した。相同組換えの結果として、E1及びE3領域が欠失されたサルアデノウイルス血清型25の全長ゲノムを含有し、そして発現カセット配列番号4、配列番号2、又は配列番号3をそれぞれ含有する組換えプラスミドベクターpSim25-CMV-S-CoV2、pSim25-CAG-S-CoV2、pSim25-EF1-S-CoV2が得られた。
【0040】
第3段階の間に、プラスミドpSim25-CMV-S-CoV2、pSim25-CAG-S-CoV2、pSim25-EF1-S-CoV2を特定の制限エンドヌクレアーゼにより加水分解して、ベクター部分を除去した。得られたDNA産物をHEK293細胞培養物のトランスフェクションのために使用した。製造した物質を使用して、調製量(preparative amount)の組換えアデノウイルスを生成した。
【0041】
結果として、SARS-CoV-2ウイルスSタンパク質遺伝子を含有する組換えヒトアデノウイルス血清型25が得られた:simAd25-CMV-S-CoV2(発現カセット配列番号4を含有する);simAd25-CAG-S-CoV2(発現カセット配列番号2を含有する);simAd25-EF1-S-CoV2(発現カセット配列番号3を含有する)。
【0042】
したがって、E1及びE3領域が欠失された組換えサルアデノウイルス25のゲノムを含有し、配列番号4、配列番号2、配列番号3から選択される発現カセットが組み込まれた発現ベクターが得られた。
【0043】
実施例3
組換えヒトアデノウイルス血清型5のゲノムを含有する発現ベクターの製造
第1段階で、ヒトアデノウイルス血清型5のゲノムと相同の2つの領域(2つの相同性アーム)を保有するプラスミド構築物pAd5-Endsを設計した。相同性アームの一方は、ヒトアデノウイルス血清型5のゲノムの開始部分(左側逆位末端反復配列からE1領域まで)、及びpIXタンパク質を含むウイルスゲノムの配列である。他方の相同性アームは、ゲノムの末端を介してE4領域ORF3の後にヌクレオチド配列を含有する。pAd5-Ends構築物の合成は、Moscow企業「Eurogen」ZAOにより実施した。
【0044】
ウイルス粒子から単離されたヒトアデノウイルス血清型5のDNAをpAd5-Endsと混合した。pAd5-EndsとウイルスDNAとの間の相同組換えによって、E1領域が欠失されたヒトアデノウイルス血清型5のゲノムを保有するプラスミドpAd5-dlE1が得られた。
【0045】
さらに、ベクターのパッケージング能力を拡張するために、標準的な遺伝子操作技術を用いて、アデノウイルスゲノムのE3領域(遺伝子12.5Kの末端からU-エクソンの配列の開始までの2685塩基対)を構築プラスミドpAd5-dlE1から欠失させた。最終的に、ゲノムのE1及びE3領域が欠失されたヒトアデノウイルス血清型5のゲノムに基づく組換えプラスミドベクターpAd5-too-nullが得られた。配列番号7の配列をヒトアデノウイルス血清型5の親配列として使用した。
【0046】
また、著者らは、複数の発現カセット設計を開発した:
- 発現カセット配列番号1は、CMVプロモーター、SARS-CoV-2ウイルスSタンパク質遺伝子、及びポリアデニル化シグナルを含有し、
- 発現カセット配列番号2は、CAGプロモーター、SARS-CoV-2ウイルスSタンパク質遺伝子、及びポリアデニル化シグナルを含有し、
- 発現カセット配列番号3は、EF1プロモーター、SARS-CoV-2ウイルスSタンパク質遺伝子、及びポリアデニル化シグナルを含有する。
【0047】
次に、プラスミド構築物pAd5-Endsに基づき、遺伝子操作技術を用いて、発現カセット配列番号1、配列番号2、又は配列番号3をそれぞれ含有すると共に、ヒトアデノウイルス血清型5のゲノムからの相同性アームを保有する構築物pArms-Ad5-CMV-S-CoV2、pArms-Ad5-CAG-S-CoV2、pArms-Ad5-EF1-S-CoV2が得られた。
【0048】
次に、相同性アーム間の唯一の加水分解部位により、構築物pArms-Ad5-CMV-S-CoV2、pArms-Ad5-CAG-S-CoV2、pArms-Ad5-EF1-S-CoV2を直線化した。プラスミドのそれぞれを組換えベクターpAd5-too-nullと混合した。相同組換えの結果として、E1及びE3領域が欠失された組換えヒトアデノウイルス血清型5のゲノムと、それぞれ発現カセット配列番号1、配列番号2又は配列番号3とを保有するプラスミドpAd5-too-CMV-S-CoV2、pAd5-too-GAC-S-CoV2、pAd5-too-EF1-S-CoV2が得られた。
【0049】
第4段階の間に、プラスミドpAd5-too-CMV-S-CoV2、pAd5-too-GAC-S-CoV2、pAd5-too-EF1-S-CoV2を特定の制限エンドヌクレアーゼにより加水分解して、ベクター部分を除去した。得られたDNA産物をHEK293細胞培養物のトランスフェクションのために使用した。製造した物質を使用して、調製量の組換えアデノウイルスを生成した。
【0050】
結果として、SARS-CoV-2ウイルスSタンパク質遺伝子を含有する組換えヒトアデノウイルス血清型5が得られた:Ad5-CMV-S-CoV2(発現カセット配列番号1を含有する);Ad5-CAG-S-CoV2(発現カセット配列番号2を含有する);Ad5-EF1-S-CoV2(発現カセット配列番号3を含有する)。
【0051】
したがって、E1及びE3領域が欠失された組換えヒトアデノウイルス血清型5のゲノムを含有し、配列番号1、配列番号2、配列番号3から選択される発現カセットが組み込まれた発現ベクターが得られた。
【0052】
実施例4
HEK293細胞における開発発現ベクターによるSARS-CoV-2ウイルスSタンパク質遺伝子の発現の検証
この実験の目的は、構築された組換えアデノウイルスが哺乳類細胞において重症急性呼吸器症候群SARS-CoV-2ウイルスSタンパク質遺伝子を発現する能力を検証することであった。
【0053】
37℃及び5%CО2のインキュベータにおいて、10%ウシ胎仔血清を補充したDMEM培地中でHEK293細胞を培養した。細胞を35mm2培養ペトリ皿に入れ、70%コンフルエンスに達するまで24時間インキュベートした。次に、研究される発現ベクターの調製物を1つずつ添加した。したがって、以下の群を形成した:
1)Ad26-CMV-S-CoV2;
2)Ad26-CAG-S-CoV2;
3)Ad26-EF1-S-CoV2;
4)Ad26-null;
5)simAd25-CMV-S-CoV2;
6)simAd25-CAG-S-CoV2;
7)simAd25-EF1-S-CoV2;
8)simAd25-null;
9)Ad5-CMV-S-CoV2;
10)Ad5-CAG-S-CoV2;
11)Ad5-EF1-S-CoV2;
12)Ad5-null;
13)リン酸緩衝食塩水。
【0054】
形質導入の2日後に細胞を集め、0.5mlの通常強度の緩衝液CCLR(Promega)中で溶解させた。溶解物を炭酸-重炭酸緩衝液で希釈し、ELISAプレートウェルに入れた。プレートを+4℃で一晩インキュベートした。
【0055】
次に、ウェル当たり200μlの量の通常強度の洗浄緩衝液でプレートウェルを3回洗浄し、それから100μlのブロッキング緩衝液を各ウェルに添加し、プレートを蓋で覆い、400rpmの振とう機において37℃で1時間インキュベートした。次に、ウェル当たり200μlの量の通常強度の緩衝液でプレートウェルを3回洗浄し、100μlの回復期血清を全てのウェルに添加した。プレートを蓋で覆い、400rpmの振とう機において室温で2時間インキュベートした。次に、ウェル当たり200μlの量の通常強度の洗浄緩衝液でプレートウェルを3回洗浄し、ビオチンと結合した100μlの二次抗体を添加した。プレートを蓋で覆い、400rpmの振とう機において室温で2時間インキュベートした。次に、西洋わさびペルオキシダーゼと結合したストレプトアビジンの溶液を調製した。このために、5.94mlのアッセイ緩衝液中に60μlの量の結合体を希釈した。ウェル当たり200μlの量の通常強度の洗浄緩衝液でプレートウェルを2回洗浄し、100μlの西洋わさびペルオキシダーゼと結合したストレプトアビジン溶液をプレートウェルのそれぞれに添加した。400rpmの振とう機においてプレートを室温で1時間インキュベートした。次に、ウェル当たり200μlの量の通常強度の洗浄緩衝液でプレートウェルを2回洗浄し、100μlのTMB基質をプレートウェルのそれぞれに添加し、暗所において室温で10分間インキュベートした。次に、100μlの停止溶液をプレートウェルのそれぞれに添加した。450nmの波長でプレート分光光度計(Multiskan FC, Thermo)を用いて光学濃度の値を測定した。実験結果は表1に提示される。
【0056】
【0057】
得られたデータにより示されるように、開発発現ベクターにより形質導入された全ての細胞においてSARS-CoV-2の標的Sタンパク質の発現が観察された。
【0058】
実施例5
開発発現ベクターによる動物免疫化の有効性の評価
免疫化の有効性の主な特徴の1つは抗体力価である。実施例は、免疫化後21日目のSARS-CoV-2糖タンパク質に対する抗体力価の変化に関するデータを提示する。
【0059】
体重18gのメスの哺乳類種-BALB/cマウスを実験で使用した。全ての動物を1群当たり5匹で13群に分け、開発発現ベクターを108ウイルス粒子/100μlの用量で筋肉内注射した。したがって、以下の動物群を形成した:
1)Ad26-CMV-S-CoV2;
2)Ad26-CAG-S-CoV2;
3)Ad26-EF1-S-CoV2;
4)Ad26-null;
5)simAd25-CMV-S-CoV2;
6)simAd25-CAG-S-CoV2;
7)simAd25-EF1-S-CoV2;
8)simAd25-null;
9)Ad5-CMV-S-CoV2;
10)Ad5-CAG-S-CoV2;
11)Ad5-EF1-S-CoV2;
12)Ad5-null;
13)リン酸緩衝食塩水。
【0060】
3週間後に、動物の尾静脈から血液サンプルを採取し、血清を分離した。酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)を使用し、以下のプロトコルに従って抗体力価を測定した:
1)96ウェルELISAプレートのウェルにタンパク質(S)を+4℃で16時間吸着させた。
2)次に、非特異的な結合を防止するために、1ウェル当たり100μlの量のTPBS中に溶解させた5%の乳によりプレートを「ブロック」した。それを37℃の振とう機において1時間インキュベートした。
3)2倍希釈法を用いて、免疫化マウスからの血清サンプルを希釈した。全体として、各サンプルの12の希釈物を調製した。
4)希釈した血清サンプルのそれぞれの50μlをプレートウェルに添加した。
5)次に、37℃で1時間のインキュベーションを実施した。
6)インキュベーションの後、ウェルをリン酸緩衝液で3回洗浄した。
7)さらに、西洋わさびペルオキシダーゼと結合されたマウス免疫グロブリンに対する二次抗体を添加した。
8)次に、37℃で1時間のインキュベーションを実施した。
9)インキュベーションの後、ウェルをリン酸緩衝液で3回洗浄した。
10)次に、西洋わさびペルオキシダーゼの基質としての役割を果たし、反応によって着色化合物に変換されるテトラメチルベンジジン(TMB)溶液を添加した。硫酸の添加により15分後に反応を停止させた。次に、分光光度計を用いて、各ウェルにおいて450nmの波長で溶液の光学濃度(OD)を測定した。
【0061】
抗体力価は、溶液の光学濃度が負の対照群よりも有意に高い最後の希釈度として決定した。得られた結果(幾何平均)は、表1に提示される。
【0062】
【0063】
提示されるデータに示されるように、開発発現ベクターは全て、SARS-CoV-2糖タンパク質への持続的な免疫応答と、SARS-CoV-2糖タンパク質への生物学的に有効な防御抗体力価の存在とを誘導する。したがって、これらは、重症急性呼吸器症候群ウイルスSARS-CoV-2に対する特異的免疫の誘導のための免疫生物学的薬剤を作製するために使用することができる。
【0064】
それにより、指定された技術的目的、特に、SARS-CoV-2糖タンパク質への持続的な免疫応答とSARS-CoV-2糖タンパク質への生物学的に有効な防御抗体力価の存在との誘導は、提供される実施例により証明されるように達成される。
【0065】
産業上の利用可能性
提供される実施例は全て、発現ベクターの有効性、重症急性呼吸器症候群ウイルスSARS-CoV-2に対する特異的免疫の誘導のための免疫生物学的薬剤を作製するためのその利用可能性、及び産業上の利用可能性を確認する。
【配列表】