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特許7369277コバルトフリー正極材料、その製造方法及びリチウムイオン電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-17
(45)【発行日】2023-10-25
(54)【発明の名称】コバルトフリー正極材料、その製造方法及びリチウムイオン電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20231018BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20231018BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20231018BHJP
   C01G 53/00 20060101ALI20231018BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/36 C
H01M4/505
C01G53/00 A
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2022514560
(86)(22)【出願日】2020-10-28
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-01
(86)【国際出願番号】 CN2020124466
(87)【国際公開番号】W WO2021238051
(87)【国際公開日】2021-12-02
【審査請求日】2022-03-03
(31)【優先権主張番号】202010451704.6
(32)【優先日】2020-05-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】522057847
【氏名又は名称】蜂巣能源科技股▲ふん▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100142365
【弁理士】
【氏名又は名称】白井 宏紀
(72)【発明者】
【氏名】江衛軍
(72)【発明者】
【氏名】楊紅新
(72)【発明者】
【氏名】喬斉斉
(72)【発明者】
【氏名】孫明珠
(72)【発明者】
【氏名】許▲しん▼培
(72)【発明者】
【氏名】施澤涛
(72)【発明者】
【氏名】陳思賢
(72)【発明者】
【氏名】馬加力
(72)【発明者】
【氏名】王鵬飛
【審査官】梅野 太朗
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-201342(JP,A)
【文献】特開2013-082581(JP,A)
【文献】特開2000-223122(JP,A)
【文献】特開2011-171113(JP,A)
【文献】国際公開第2018/047946(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0135305(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第109755513(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M4/00-4/62
C01G53/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コバルトフリー正極材料の製造方法であって、
リチウム源材料とコバルトフリー前駆体とを第1焼結処理し、焼結体を得る工程と、
前記焼結体を1~2μmに破砕させ、コバルトフリー単結晶材料を得る工程と、
前記コバルトフリー単結晶材料、ホウ素被覆剤及び炭素被覆剤を第2焼結処理し、粒径≦0.2μmの粒子及び粒径≧6μmの粒子を除去するように、前記第2焼結処理工程で得られた生成物を篩い分けし、前記コバルトフリー正極材料を得る工程と、を含み、前記第1焼結処理工程は、温度が700~1200℃であり、第2焼結処理工程は、温度が300~900℃であ
ことを特徴とするコバルトフリー正極材料の製造方法。
【請求項2】
前記第1焼結処理工程は、
前記リチウム源材料と前記コバルトフリー前駆体とを第1混合処理し、第1混合物を得ることと、
空気又は酸素雰囲気下で、前記第1混合物を焼結させ、前記焼結体を得ることと、を含む、
ことを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記第1混合処理工程は、2000~3000rpmの撹拌速度で行われ、混合時間が5~20minである、
ことを特徴とする請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記第1焼結処理工程は、焼結時間が5~15hである、
ことを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に製造方法。
【請求項5】
前記第1焼結処理工程は温度が900~1000℃である、
ことを特徴とする請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記コバルトフリー前駆体中のNi元素とMn元素とのモル数の合計に対する、前記リチウム源材料中のLi元素のモル数の比は、(0.95~1.10):1である、
ことを特徴とする請求項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記リチウム源材料は、水酸化リチウム、炭酸リチウム、酢酸リチウム、酸化リチウム、硝酸リチウム及びシュウ酸リチウムからなる群から選ばれる1種又は2種以上であり、前記コバルトフリー前駆体は、Ni1-xMn(OH)で表される化合物であり、且つ0.45≦x≦0.55であり、前記ホウ素被覆剤は、ホウ酸、酸化ホウ素、硝酸ホウ素及びメタホウ酸からなる群から選ばれる1種又は2種以上であり、前記炭素被覆剤は、スクロース、グルコース、ポリエチレングリコール及び炭化チタンからなる群から選ばれる1種又は2種以上である、
ことを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項8】
前記第2焼結処理工程は、
前記コバルトフリー単結晶材料と前記ホウ素被覆剤及び前記炭素被覆剤とを第2混合処理し、第2混合物を得ることと、
前記第2混合物を焼結し、コバルトフリー正極材料を得ることと、を含む、
ことを特徴とする請求項1~3及び7のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項9】
前記第2混合処理工程は、2000~3000rpmの撹拌速度で行われ、混合時間が10~20minである、
ことを特徴とする請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
前記第2焼結処理工程は、処理時間が10~20minであ
ことを特徴とする請求項に記載の製造方法。
【請求項11】
前記コバルトフリー前駆体のD50は0.5~2μmである、
ことを特徴とする請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
前記コバルトフリー正極材料において、C元素の被覆量は0.1~3%であり、B元素の被覆量は0.01~1%である、
ことを特徴とする請求項に記載の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池分野に関し、具体的には、コバルトフリー正極材料、その製造方法及びリチウムイオン電池に関する。
【背景技術】
【0002】
コバルトを含まない正極材料はリチウムイオン電池分野で比較的注目されている対象であり、中でも、ニッケルマンガン層状材料はエネルギー密度が高く、コストが低く、サイクル性能に優れるなどの利点があるため、近年の研究の焦点となっている。しかし、研究により、ニッケル含有量が高い(モルパーセントが80%よりも大きい)ニッケルマンガン層状構造は構造が不安定で、安全性が劣り、サイクル性能が劣り、塩基性が高く及び電解液との副反応によりガスが発生することが多いなどの問題があり、ニッケルマンガン層状材料の実用化が制限されていることが分かった。
【0003】
ニッケルマンガン正極材料にはコバルト元素が含まれておらず、且つニッケル元素の含有量が低く、マンガン元素の含有量が高いため、この材料は導電性に劣り、容量が比較的低くなる。先行文献によれば、TiドープLiNi0.5Mn0.5-xTiを用いることにより、正極材料の導電性がある程度改善され、電気容量が150mAh/gから180mAh/gに増加し、しかしこの電気容量は現在の高ニッケル正極材料の200~210mAh/gなどよりもはるかに低いことが分かった。また、別の先行文献は、ケイ素元素をドープすることによって正極材料の容量を192mAh/gまで増加させることができるが、サイクル性能が不十分であり、100週のサイクル保持率が最高で78%にとどまるLiNi0.5Mn0.5材料の改良方法を提供している。
【0004】
このような問題点に鑑み、電気容量が高く及びサイクル性能に優れるコバルトフリー正極材料の開発が望まれている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の主な目的は、従来のリチウムイオン電池正極材料に存在する電気容量が高いが、サイクル性能が劣るという問題を解決するために、コバルトフリー正極材料、その製造方法及びリチウムイオン電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の一態様は、コバルトフリー正極材料の製造方法を提供し、当該製造方法は、リチウム源材料とコバルトフリー前駆体とを第1焼結処理し、焼結体を得る工程と、焼結体を1~2μmに破砕させ、コバルトフリー単結晶材料を得る工程と、コバルトフリー単結晶材料、ホウ素被覆剤及び炭素被覆剤を第2焼結処理し、コバルトフリー正極材料を得る工程と、を含む。
【0007】
さらに、第1焼結処理工程は、リチウム源材料とコバルトフリー前駆体とを第1混合処理し、第1混合物を得る工程と、空気又は酸素雰囲気下で、第1混合物を焼結させ、焼結体を得る工程と、を含み、好ましくは、第1混合処理工程は、2000~3000rpmの撹拌速度で行われ、混合時間が5~20minである。
【0008】
さらに、第1焼結処理工程は、温度が700~1200℃であり、焼結時間が5~15hであり、好ましくは、第1焼結処理工程は温度が900~1000℃である。
【0009】
さらに、コバルトフリー前駆体中のNi元素とMn元素とのモル数の合計に対する、リチウム源材料中のLi元素のモル数の比は、(0.95~1.10):1である。
【0010】
さらに、リチウム源材料は、水酸化リチウム、炭酸リチウム、酢酸リチウム、酸化リチウム、硝酸リチウム及びシュウ酸リチウムからなる群から選ばれる1種又は2種以上であり、コバルトフリー前駆体は、Ni1-xMn(OH)で表される化合物であり、且つ0.45≦x≦0.55であり、ホウ素被覆剤は、ホウ酸、酸化ホウ素、硝酸ホウ素及びメタホウ酸からなる群から選ばれる1種又は2種以上であり、炭素被覆剤は、スクロース、グルコース、PEG及びTiCからなる群から選ばれる1種又は2種以上である。
【0011】
さらに、第2焼結処理工程は、コバルトフリー単結晶材料とホウ素被覆剤及び炭素被覆剤とを第2混合処理し、第2混合物を得る工程と、第2混合物を焼結し、コバルトフリー正極材料を得る工程と、を含み、好ましくは、製造方法は、粒径≦0.2μmの粒子及び粒径≧6μmの粒子を除去するように、第2焼結処理工程で得られた生成物を篩い分けし、コバルトフリー正極材料を得る工程をさらに含み、好ましくは、第2混合処理工程は、2000~3000rpmの撹拌速度で行われ、混合時間が10~20minである。
【0012】
さらに、第2焼結処理工程は、温度が300~900℃であり、処理時間が10~20minであり、好ましくは、コバルトフリー前駆体のD50は0.5~2μmである。
【0013】
本願の別の態様は、上記方法により製造されたコバルトフリー正極材料をさらに提供する。
【0014】
さらに、コバルトフリー正極材料において、C元素の被覆量は0.1~3%であり、B元素の被覆量は0.01~1%である。
【0015】
本願のさらに別の態様は、正極材料を含むリチウムイオン電池をさらに提供し、正極材料は上記コバルトフリー正極材料を含む。
【発明の効果】
【0016】
本発明の技術案を適用し、リチウム源材料とコバルトフリー前駆体とを焼結して層状のコバルトフリー正極材料LiNi1-xMn(0.45≦x≦0.55)を製造し、そしてそれを1~2μmに破砕することにより、層状のコバルトフリー単結晶材料を得ることができる。初期充放電中、層状のコバルトフリー単結晶材料の表面は電解液と十分に接触反応し、且つ初期サイクル中に安定的な正極固体電解質界面膜(SEI)を形成することができる。また後期サイクルでの充放電の収縮膨張は、多形粒子のように新たな粒界界面を生じることはなく、副反応も生じない。したがって、上記コバルトフリー単結晶材料は、使用中にガス発生を大幅に減少させ、且つ材料のサイクル性能を向上させることができる。同時に、コバルトフリー正極材料自体の導電性が劣り、低容量であるため、その粒径を、通常の二次粒子(約10μm)や一般的な単結晶材料(約3~4μm)よりも低い1~2μmの間に限定することにより、コバルト含有正極材料に比べて、リチウム材料の電流倍率性能を大幅に向上させる上で有利である。また、コバルトフリー単結晶材料とホウ素被覆剤及び炭素被覆剤を焼結することにより、コバルトフリー単結晶材料の表面に炭化ホウ素被覆層を形成することができる。炭化ホウ素は良好な導電性を有するだけでなく、高い強度と化学的安定性も有する。上記3つの理由に加えて、上記方法により製造されたコバルトフリー正極材料は、構造が安定し、電気容量が高く、電流倍率性能に優れ及びサイクル性能に優れるなどの利点を有する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
本願の一部をなす明細書図面は、本発明のさらなる理解を提供するためのものであり、本発明の例示的な実施例及びその説明は、本発明を解釈するためのものであり、本発明を不当に限定するものではない。図面では、
【0018】
図1】本発明の実施例1において破砕処理して得られた生成物の2000倍走査型電子顕微鏡写真を示す。
図2】本発明の実施例1により製造されたコバルトフリー正極材料のXRDチャートを示す。
図3】本発明の実施例1により製造されたコバルトフリー正極材料の30000倍の高倍率での走査型電子顕微鏡写真を示す。
図4】本発明の実施例1により製造された2μm無被覆コバルトフリー単結晶材料、2μm被覆コバルトフリー単結晶材料及び5μm無被覆コバルトフリー単結晶材料の抵抗率を示す。
図5】本発明の実施例1により製造されたコバルトフリー正極材料の充放電曲線を示す。
図6】本発明の実施例1により製造されたコバルトフリー正極材料の45℃におけるサイクル曲線を示す。
図7】被覆層を有さないコバルトフリー正極材料の20000倍の高倍率での走査型電子顕微鏡写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
なお、本願における実施例及び実施例における特徴は、衝突することなく相互に組み合わせることができる。以下、実施例により本発明を詳細に説明する。
【0020】
背景技術で述べたように、従来のリチウムイオン電池正極材料は、電気容量が高いが、サイクル性能が劣るという問題があった。上記技術的問題を解決するために、本願は、リチウム源材料とコバルトフリー前駆体とを第1焼結処理し、焼結体を得る工程と、焼結体を1~2μmに破砕させ、コバルトフリー単結晶材料を得る工程と、コバルトフリー単結晶材料とホウ素被覆剤及び炭素被覆剤とを第2焼結処理し、コバルトフリー正極材料を得る工程と、を含む、コバルトフリー正極材料の製造方法を提供する。
【0021】
リチウム源材料とコバルトフリー前駆体とを焼結して層状のコバルトフリー正極材料LiNi1-xMn(0.45≦x≦0.55)を製造し、そしてそれを1~2μmに破砕することにより、層状のコバルトフリー単結晶材料を得ることができる。初期充放電中、層状のコバルトフリー単結晶材料の表面は電解液と十分に接触反応し、且つ初期サイクル中に安定的な正極固体電解質界面膜(SEI)を形成することができる。また後期サイクルでの充放電の収縮膨張は、多形粒子のように新たな粒界界面を生じることはなく、副反応も生じない。したがって、上記コバルトフリー単結晶材料は、使用中にガス発生を大幅に減少させ、且つ材料のサイクル性能を向上させることができる。同時に、コバルト含有正極材料に比べて、コバルトフリー正極材料自体の導電性が劣り、低容量であるため、その粒径を、通常の二次粒子(約10μm)や一般的な単結晶材料(約3~4μm)よりも低い、1~2μmの間に限定することにより、これは、コバルトフリー正極材料の電流倍率性能を大幅に向上させる上で有利である。また、コバルトフリー単結晶材料とホウ素被覆剤及び炭素被覆剤を焼結することにより、コバルトフリー単結晶材料の表面に炭化ホウ素被覆層を形成することができる。炭化ホウ素は良好な導電性を有するだけでなく、高い強度と化学的安定性も有する。上記3つの理由に加えて、上記方法により製造されたコバルトフリー正極材料は、構造が安定し、電気容量が高く、電流倍率性能に優れ及びサイクル性能に優れるなどの利点を有する。
【0022】
上記焼結工程は有酸素焼結工程であり、当該技術分野で一般的に使用されている装置及びプロセスを用いて実現することができる。好ましい実施例では、上記焼結工程は、リチウム源材料とコバルトフリー前駆体とを第1混合処理し、第1混合物を得る工程と、空気又は酸素雰囲気下で、第1混合物を焼結させ、焼結体を得る工程と、を含む。焼結工程を行う前に、まずリチウム源材料とコバルトフリー前駆体とを混合することは、両原料の混合均一性及び焼結程度を向上させる上で有利であり、これにより層状のコバルトフリー正極材料の安定性を向上させる上で有利である。層状のコバルトフリー正極材料の安定性をさらに向上させるために、好ましくは、第1混合処理工程は2000~3000rpmの撹拌速度で行われ、混合時間が5~20minである。
【0023】
好ましい実施例では、第1焼結処理工程は、温度が700~1200℃であり、焼結時間が5~15hである。第1焼結処理の温度及び焼結時間は、上記範囲を含むが、これに限定されるものではなく、それを上記範囲内に限定することが、層状のコバルトフリー正極材料の安定性をさらに向上させる上で有利である。より好ましくは、第1焼結処理工程は温度が900~1000℃である。
【0024】
上記製造方法により製造されたニッケルマンガンリチウム電池は、構造が安定し、電気容量が高く、電流倍率性能に優れ及びサイクル性能に優れるなどの利点を有する。好ましい実施例では、コバルトフリー前駆体中のNi元素とMn元素とのモル数の合計に対する、リチウム源材料中のLi元素のモル数の比は、(0.95~1.10):1である。コバルトフリー前駆体中のNi元素とMn元素とのモル数の合計に対する、リチウム源材料中のLi元素のモル数の比を上記範囲内に限定することは、正極材料のエネルギー密度及び電気容量ならびに構造安定性をさらに向上させる上で有利である。
【0025】
上記製造方法では、リチウム源材料及びコバルトフリー前駆体は、当該技術分野で一般的に使用されている種類を選択することができる。好ましい実施例では、リチウム源材料は、水酸化リチウム、炭酸リチウム、酢酸リチウム、酸化リチウム、硝酸リチウム及びシュウ酸リチウムからなる群から選ばれる1種又は2種以上であり、コバルトフリー前駆体は、Ni1-xMn(OH)で表される化合物であり、且つ0.45≦x≦0.55である。
【0026】
好ましい実施例では、第2焼結処理工程は、コバルトフリー単結晶材料とホウ素被覆剤及び炭素被覆剤とを第2混合処理し、第2混合物を得る工程と、第2混合物を焼結し、コバルトフリー正極材料を得る工程と、を含む。コバルトフリー単結晶材料とホウ素被覆剤及び炭素被覆剤とを混合することにより、3者をより均一に混合させ、第2混合物を得ることができる。第2混合物を焼結することにより、コバルトフリー単結晶材料の表面に炭化ホウ素被覆層を形成することができる。炭化ホウ素は良好な導電性を有するだけでなく、高い強度と化学的安定性を有するため、上記方法を採用してコバルトフリー正極材料を製造することは、その耐摩耗性、耐食性及び導電性を向上させることができるだけでなく、その電気容量及びサイクル性能をさらに向上させることができる。炭化ホウ素被覆層の均一性をさらに向上させ、コバルトフリー正極材料の安定性を向上させるために、より好ましくは、第2混合処理工程は2000~3000rpmの撹拌速度で行われ、混合時間が10~20minである。
【0027】
好ましい実施例では、製造方法は、粒径≦0.2μmの粒子及び粒径≧6μmの粒子を除去するように、乾式被覆工程で得られた生成物を篩い分けし、コバルトフリー正極材料を得る工程をさらに含む。乾式被覆工程で得られた生成物をスクリーニングすることは、コバルトフリー正極材料の電気性能の安定性を向上させる上で有利である。
【0028】
第2焼結工程により、炭化ホウ素被覆コバルトフリー正極材料を得ることができる。好ましい実施例では、第2焼結処理工程は、温度が300~900℃であり、処理時間が10~20minである。第2焼結処理工程の温度及び処理時間は、上記範囲を含むが、これに限定されるものではなく、それを上記範囲内に限定することが、焼結程度をさらに向上させ、コバルトフリー正極材料の総合性能を向上させる上で有利である。より好ましくは、コバルトフリー前駆体のD50は0.5~2μmである。
【0029】
上記製造方法では、ホウ素被覆剤及び炭素被覆剤を添加することによりコバルトフリー正極材料の導電性、サイクル性能及び電気容量を向上させることができる。好ましい実施例では、ホウ素被覆剤は、ホウ酸、酸化ホウ素、硝酸ホウ素及びメタホウ酸からなる群から選ばれる1種又は2種以上を含むがこれらに限定されず、炭素被覆剤は、スクロース、グルコース、ポリエチレングリコール(PEG)及び炭化チタン(TiC)からなる群から選ばれる1種又は2種以上を含むがこれらに限定されない。他のホウ素被覆剤及び炭素被覆剤に比べて、上記いくつかの種類はコストが低く、供給源が広いなどの利点を有するため、上記いくつかのホウ素被覆剤及び炭素被覆剤を選択することが、製造コストの低減に有利である。コバルトフリー正極材料の導電性をさらに向上させるために、より好ましくは、炭素被覆剤はTiCである。
【0030】
本願の別の態様は、コバルトフリー正極材料をさらに提供し、コバルトフリー正極材料は、LiNi1-xMnで表されてもよく、0.45≦x≦0.55であり、且つコバルトフリー正極材料は上記製造方法により製造される。
【0031】
リチウム源材料とリチウムマンガン前駆体とを焼結して層状のコバルトフリー正極材料LiNi1-xMn(0.45≦x≦0.55)を製造し、そしてそれを1~2μmに破砕することにより、層状のコバルトフリー単結晶材料を得ることができる。初期充放電中、層状のコバルトフリー単結晶材料の表面は電解液と十分に接触反応し、且つ初期サイクル中に安定的な正極固体電解質界面膜(SEI)を形成することができる。また後期サイクルでの充放電の収縮膨張は、多形粒子のように新たな粒界界面を生じることはなく、副反応も生じない。したがって、上記コバルトフリー単結晶材料は、使用中にガス発生を大幅に減少させ、且つ材料のサイクル性能を向上させることができる。同時に、コバルトフリー正極材料自体の導電性が劣り、低容量であるため、その粒径が1~2μmの間に限定され、通常の二次粒子(約10μm)や一般的な単結晶材料(約3~4μm)よりも低く、これは、コバルトフリー正極材料の電流倍率性能を大幅に向上させる上で有利である。また、コバルトフリー単結晶材料とホウ素被覆剤及び炭素被覆剤を焼結し、コバルトフリー単結晶材料の表面に炭化ホウ素被覆層を形成することができる。炭化ホウ素は良好な導電性を有するだけでなく、高い強度と化学的安定性も有する。上記3つの理由に加えて、上記方法により製造されたコバルトフリー正極材料は、構造が安定し、電気容量が高く、電流倍率性能に優れ及びサイクル性能に優れるなどの利点を有する。
【0032】
好ましくは、C元素の被覆量は0.1~3%であり、B元素の被覆量は0.01~1%である。C元素及びB元素の被覆量を上記範囲内に限定することで、リチウム元素、ニッケル元素及びマンガン元素との相乗効果をより発揮させることができ、これによりコバルトフリー正極材料により優れた電気性能及び耐腐食性ならびに耐摩耗性を付与することができる。
【0033】
本願のさらに別の態様は、正極材料を含むリチウムイオン電池をさらに提供し、正極材料は上記コバルトフリー正極材料を含む。
【0034】
本願が提供するコバルトフリー正極材料は、構造が安定し、電気容量が高く、電流倍率性能に優れ及びサイクル性能に優れるなどの利点を有する。したがって、それをリチウムイオン電池として採用することによりその電気容量、電流倍率性能及びサイクル性能を大幅に向上させることができる。
【0035】
以下、本願を具体的な実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、これらの実施例は、本願の特許請求の範囲を限定するものと理解されるべきではない。
【0036】
(実施例1)
まず水酸化リチウムとD50粒径が1.5ミクロンの前駆体Ni1-xMn(OH)(0.45≦x≦0.55)を、Li/(Ni+Mn)のモル比が1.05となるように秤量し、そして高速混合装置を用いて混合し、混合時間が10分間であった。実験室5L装置の回転速度が2500rpmであり、装置内の物質充填効率が50%であった。
【0037】
1000℃で10時間(酸素)高温反応させ、反応で焼結した塊状物をジェットミルで破砕し、大部分の粒径が1~2ミクロンの単結晶粒子製品を得た。
【0038】
乾式被覆法を用いて、上記単結晶粒子にホウ素と炭素の共被覆を行い、具体的には、被覆剤を単結晶粒子製品と共に5L混合装置に加えて混合し、混合時間:15分間、回転速度:2500rpmであり、ここで、ホウ素被覆剤がホウ酸を含み、炭素被覆剤がスクロースを含み、400度の不活性雰囲気(窒素)で6時間高温処理し、高温処理後に被覆した炭素含有量が1%(wt)であり、ホウ素の被覆含有量が0.1%(wt)であった。0.2ミクロン以下及び6ミクロンよりも大きい粉体を除去するように、最後に高温処理後の材料に気流分級と350メッシュの篩い分けを行い、最終製品のコバルトフリー正極材料を得た。
【0039】
Zeiss走査型電子顕微鏡を用いて破砕工程で得られた生成物を検出し、そのスペクトルを図1に示し、図1から分かるように、コバルトフリー単結晶材料は2μmの単結晶粒子であった。図7は、被覆層を有さないコバルトフリー正極材料の20000倍の高倍率での走査型電子顕微鏡写真を示した。
【0040】
XRD回折計を用いてコバルトフリー正極材料の組成を検出し、スペクトルを図2に示し、図2から分かるように、コバルトフリー正極材料は六方晶系、R3-m空間群に属し、層状構造であった。
【0041】
コバルトフリー正極材料の30000倍の高倍率での走査型電子顕微鏡(SEM)写真を図3に示し、図3から明らかなように、単結晶粒子の表面には明らかな被覆物質がなかった。
【0042】
4プローブテスタを用いて2μm無被覆コバルトフリー単結晶材料、2μm被覆コバルトフリー単結晶材料及び5μm無被覆コバルトフリー単結晶材料の抵抗率を検出し、結果を図4に示した。図4から分かるように、5μm無被覆コバルトフリー単結晶材料に比べて、2μm無被覆コバルトフリー単結晶材料及び2μm被覆コバルトフリー単結晶材料の抵抗率が低いため、コバルトフリー単結晶材料の粒径を2μmに限定し、且つそれを炭素ホウ素で被覆することによりコバルトフリー正極材料の導電性を向上させることができる。
【0043】
国家GB/T 23365-2009 GB/T23366-2009の方法を用いてコバルトフリー正極材料の充放電性能を試験し、充放電曲線を図5に示した。図5から分かるように、本願が提供する方法により製造されたコバルトフリー正極材料は、電気容量が高く、203mAh/gに達することができる。
【0044】
GB/T23366-2009の方法を用いてコバルトフリー正極材料のサイクル性能を試験し、試験結果を図6に示した。図6から分かるように、本願が提供する方法により製造されたコバルトフリー正極材料は、サイクル性能に優れ、600週45℃におけるサイクル容量保持率が95%であった。
【0045】
(実施例2)
実施例1との違いは、第1焼結工程の温度が700℃であり、第2焼結工程の温度が900℃であることである。
【0046】
コバルトフリー正極材料の600週45℃におけるサイクル容量保持率が93%であり、放電容量が210mAh/gであった。
【0047】
(実施例3)
実施例1との違いは、第1焼結工程の温度が1200℃であり、第2焼結工程の温度が300℃であることである。
【0048】
コバルトフリー正極材料の600週45℃におけるサイクル容量保持率が97%であり、放電容量が198mAh/gであった。
【0049】
(実施例4)
実施例1との違いは、第1焼結工程の温度が600℃であることである。
【0050】
コバルトフリー正極材料の600週45℃におけるサイクル容量保持率が80%であり、放電容量が180mAh/gであった。
【0051】
(実施例5)
実施例1との違いは、第2焼結工程の温度が200℃であることである。
【0052】
コバルトフリー正極材料の600週45℃におけるサイクル容量保持率が82%であり、放電容量が179mAh/gであった。
【0053】
(実施例6)
実施例1との違いは、コバルトフリー前駆体中のNi元素とMn元素とのモル数の合計に対する、リチウム源材料中のLi元素のモル数の比が0.95:1であることである。
【0054】
コバルトフリー正極材料の600週45℃におけるサイクル容量保持率が93%であり、放電容量が201mAh/gであった。
【0055】
(実施例7)
実施例1との違いは、コバルトフリー前駆体中のNi元素とMn元素とのモル数の合計に対する、リチウム源材料中のLi元素のモル数の比が1.10:1であることである。
【0056】
コバルトフリー正極材料の600週45℃におけるサイクル容量保持率が96%であり、放電容量が200mAh/gであった。
【0057】
(実施例8)
実施例1との違いは、コバルトフリー前駆体中のNi元素とMn元素とのモル数の合計に対する、リチウム源材料中のLi元素のモル数の比が1.5:1であることである。
【0058】
コバルトフリー正極材料の600週45℃におけるサイクル容量保持率が91%であり、放電容量が188mAh/gであった。
【0059】
(実施例9)
実施例1との違いは、第2焼結処理後、篩い分け工程は行なわれなかったことである。
【0060】
コバルトフリー正極材料の600週45℃におけるサイクル容量保持率が89%であり、放電容量が200mAh/gであった。
【0061】
(実施例10)
実施例1との違いは、C元素の被覆量が4%であり、B元素の被覆量が2%であることである。
【0062】
コバルトフリー正極材料の600週45℃におけるサイクル容量保持率が92%であり、放電容量が180mAh/gであった。
【0063】
(実施例11)
実施例1との違いは、炭素被覆剤がTiCであることである。
【0064】
コバルトフリー正極材料の600週45℃におけるサイクル容量保持率が96%であり、放電容量が205mAh/gであった。
【0065】
(比較例1)
実施例1との違いは、破砕後、コバルトフリー単結晶材料の粒径が5μmであることである。
【0066】
コバルトフリー正極材料の600週45℃におけるサイクル容量保持率が93%であり、放電容量が180mAh/gであった。
【0067】
(比較例2)
実施例1との違いは、炭素被覆層のみを有することである。
【0068】
コバルトフリー正極材料の600週45℃におけるサイクル容量保持率が90%であり、放電容量が200mAh/gであった。
【0069】
(比較例3)
実施例1との違いは、ホウ素被覆層のみを有することである。
【0070】
コバルトフリー正極材料の600週45℃におけるサイクル容量保持率が85%であり、放電容量が180mAh/gであった。
【0071】
以上の説明から、本発明の上記実施例は、以下の技術的効果を実現することができることが分かる。
【0072】
実施例1~11及び比較例1~3を比較すると、本願が提供する方法により製造されたコバルトフリー正極材料は、サイクル性能及び電気容量により優れることが分かる。
【0073】
実施例1~5を比較すると、第1焼結処理及び第2焼結処理工程の温度を本願の好ましい範囲内に限定することが、コバルトフリー正極材料のサイクル性能及び電気容量をさらに向上させる上で有利であることが分かる。
【0074】
実施例1、6~8を比較すると、コバルトフリー前駆体中のNi元素とMn元素とのモル数の合計に対する、リチウム源材料中のLi元素のモル数の比を本願の好ましい範囲内に限定することが、コバルトフリー正極材料のサイクル性能及び電気容量をさらに向上させる上で有利であることが分かる。
【0075】
実施例1、10~11を比較すると、本願の好ましい被覆剤を用いることが、コバルトフリー正極材料のサイクル性能及び電気容量を向上させる上で有利であることが分かる。
【0076】
なお、本願の明細書及び特許請求の範囲における「第1」、「第2」などの用語は、同様のものを区別するために使用されており、特定の順序や前後順序を説明するために使用される必要がない。このように使用される用語は、本明細書に記載された実施形態が、例えば、本明細書に記載されたもの以外の順序で実施され得るように、適切な場合には互換性があることを理解されたい。
【0077】
前述の内容は本発明の好ましい実施例に過ぎず、本発明を限定することを意図したものではなく、当業者にとっては様々な変更や変形が可能である。本発明の精神及び原理の範囲内で行われたいかなる修正、等価置換、改良などは、本発明の保護範囲に含まれるものとする。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7