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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-17
(45)【発行日】2023-10-25
(54)【発明の名称】ワイドギャップ半導体装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 29/47 20060101AFI20231018BHJP
   H01L 29/872 20060101ALI20231018BHJP
   H01L 21/329 20060101ALI20231018BHJP
【FI】
H01L29/48 M
H01L29/48 D
H01L29/86 301D
H01L29/86 301M
H01L29/86 301P
H01L29/48 P
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022545650
(86)(22)【出願日】2021-08-25
(86)【国際出願番号】 JP2021031066
(87)【国際公開番号】W WO2022045160
(87)【国際公開日】2022-03-03
【審査請求日】2022-08-24
(31)【優先権主張番号】P 2020143284
(32)【優先日】2020-08-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002037
【氏名又は名称】新電元工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】230104019
【弁護士】
【氏名又は名称】大野 聖二
(74)【代理人】
【識別番号】230117802
【弁護士】
【氏名又は名称】大野 浩之
(72)【発明者】
【氏名】前山 雄介
(72)【発明者】
【氏名】中村 俊一
(72)【発明者】
【氏名】大貫 仁
【審査官】佐藤 靖史
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-225877(JP,A)
【文献】特開2011-176015(JP,A)
【文献】特開2014-053393(JP,A)
【文献】特開2000-101100(JP,A)
【文献】特開2008-072146(JP,A)
【文献】特開2015-185617(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 29/47
H01L 29/872
H01L 21/329
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイドギャップ半導体層と、
前記ワイドギャップ半導体層に設けられた金属電極と、
を備え、
前記金属電極は前記ワイドギャップ半導体層との金属電極側の界面領域に六方最密充填構造(HCP)からなる単結晶層を有し、
前記単結晶層はO、S、P又はSeを含有する指定元素含有量域を有する、
ワイドギャップ半導体装置。
【請求項2】
前記金属電極はTi、Cd、Hf、Mg、Zr又はScからなり、
前記金属電極がTiからなる場合に、前記指定元素含有量域はO、S、P又はSeを含有し、
前記金属電極がCd、Hf、Mg、Zr又はScからなる場合には、前記指定元素含有量域はOを含有する、請求項1に記載のワイドギャップ半導体装置。
【請求項3】
前記指定元素含有量域におけるO、S、P及びSeの原子濃度は総量で7%~33%である請求項1又は2に記載のワイドギャップ半導体装置。
【請求項4】
前記指定元素含有量域は、前記金属電極の前記ワイドギャップ半導体層との界面と当該界面から厚さ方向において11nm~37nmまでの距離との間に存在している請求項1乃至3のいずれか1項に記載のワイドギャップ半導体装置。
【請求項5】
前記指定元素含有量域は面内方向において島状に散在している請求項1乃至4のいずれか1項に記載のワイドギャップ半導体装置。
【請求項6】
前記指定元素含有量域は高濃度指定元素含有量域からなり、
前記金属電極は、前記高濃度指定元素含有量域の前記ワイドギャップ半導体層側とは反対側に設けられ、前記界面領域に含有される酸素濃度よりも低い酸素濃度からなる低濃度指定元素含有量域を有する請求項1乃至5のいずれか1項に記載のワイドギャップ半導体装置。
【請求項7】
前記金属電極は、ワイドギャップ半導体層側とは反対側に多結晶層を有する請求項1乃至6のいずれか1項に記載のワイドギャップ半導体装置。
【請求項8】
前記金属電極は、ワイドギャップ半導体層側とは反対側に水素を含有する水素含有量域を有する請求項1乃至7のいずれか1項に記載のワイドギャップ半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイドギャップ半導体層と、ワイドギャップ半導体層に設けられた金属電極と、を有するワイドギャップ半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、SiC等を用いたワイドギャップ半導体装置が知られている(例えば特開2015―56543号公報参照)。ワイドギャップ半導体装置においてはSBDのオン電圧を下げたいというニーズがある。SBDのオン電圧の大半はショットキー接合由来のビルトイン電圧によるものであることから、φB(ショットキー障壁高さ)を下げることで効果的にオン電圧を下げることができる。
【0003】
ワイドギャップ半導体装置の一種であるSiCを例に挙げると、N型SiC―SBD(ショットキーバリアダイオード)のφBをショットキー電極で制御することが行われることが一般的であり、N型SiC―SBDのショットキー電極としてはTi、Ni、Pt等が用いられている。これらの中では、Tiが最もφBが小さくなることが知られており、市販されているN型SiC―SBDの大半はTiをショットキー電極としているものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本願の発明者らは、非特許文献(Extended Abstracts of the 2013 International Conference on Solid State Devices and Materials, Fukuoka, 2013,pp468-469)を参考に、φBを下げる手法として界面にTiO層を有する構成を採用してみたが、順方向電圧の低電圧域で理論的に予想される値より電流値が大きくなるという異常リークが発生してしまうため実用的ではないという問題があることを確認した。
【0005】
このような点に鑑み、本発明は、異常リークを生じさせることなく、φBを下げることができるワイドギャップ半導体装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によるワイドギャップ半導体装置は、
ワイドギャップ半導体層と、
前記ワイドギャップ半導体層に設けられた金属電極と、
を備え、
前記金属電極は前記ワイドギャップ半導体層との金属電極側の界面領域に六方最密充填構造(HCP)からなる単結晶層を有し、
前記単結晶層はO、S、P又はSeを含有する指定元素含有量域を有してもよい。
【0007】
本発明によるワイドギャップ半導体装置において、
前記金属電極はTi、Cd、Hf、Mg、Zr又はScからなり、
前記金属電極がTiからなる場合に、前記指定元素含有量域はO、S、P又はSeを含有し、
前記金属電極がCd、Hf、Mg、Zr又はScからなる場合には、前記指定元素含有量域はOを含有してもよい。
【0008】
本発明によるワイドギャップ半導体装置において、
前記指定元素含有量域におけるO、S、P及びSeの原子濃度は総量で7%~33%であってもよい。
【0009】
本発明によるワイドギャップ半導体装置において、
前記指定元素含有量域は、前記金属電極の前記ワイドギャップ半導体層との界面と当該界面から厚さ方向において11nm~37nmまでの距離との間に存在してもよい。
【0010】
本発明によるワイドギャップ半導体装置において、
前記指定元素含有量域は面内方向において島状に散在してもよい。
【0011】
本発明によるワイドギャップ半導体装置において、
前記指定元素含有量域は高濃度指定元素含有量域からなり、
前記金属電極は、前記高濃度指定元素含有量域の前記ワイドギャップ半導体層側とは反対側に設けられ、前記界面領域に含有される酸素濃度よりも低い酸素濃度からなる低濃度指定元素含有量域を有してもよい。
【0012】
本発明によるワイドギャップ半導体装置において、
前記金属電極は、ワイドギャップ半導体層側とは反対側に多結晶層を有してもよい。
【0013】
本発明によるワイドギャップ半導体装置において、
前記金属電極は、ワイドギャップ半導体層側とは反対側に水素を含有する水素含有量域を有してもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明において、金属電極がワイドギャップ半導体層との金属電極側の界面領域に六方最密充填構造(HCP)からなる単結晶層を有し、単結晶層がO、S、P又はSeを含有する指定元素含有量域を有する態様を採用した場合には、異常リークを生じさせることなく、φBを下げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の第1の実施の形態によるワイドギャップ半導体装置を示した縦断面図。
図2】実施例1、比較例1及び比較例2におけるVF(V)とIF(A)との関係を示したグラフ。
図3】C軸格子定数(nm)とフェルミエネルギー(eV/atm)との関係を示したグラフ。
図4A】本発明の実施例における金属電極をSTEM(走査等価型電子顕微鏡)によって撮影した画像。
図4B】本発明の実施例における金属電極に含まれるTi、O及びHの含有量を示したグラフ。
図5A】比較例1における金属電極をSTEM(走査等価型電子顕微鏡)によって撮影した画像。
図5B】比較例1における金属電極に含まれるTi、O及びHの含有量を示したグラフ。
図6】実施例1及び比較例1におけるTiのEELS信号波形を示したグラフとSTEM(走査等価型電子顕微鏡)による画像。
図7A】本発明の第1の実施の形態によるワイドギャップ半導体装置の製造方法の一例を示す図。
図7B図7Aに続く図であり、本発明の第1の実施の形態によるワイドギャップ半導体装置の製造方法の一例を示す図。
図8】本発明の第2の実施の形態によるワイドギャップ半導体装置を示した縦断面図。
図9】本発明の第2の実施の形態における島状に配置された指定元素含有量域を示すための平面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
第1の実施の形態
《構成》
図1に示すように、本実施の形態のワイドギャップ半導体装置は、ワイドギャップ半導体層10と、ワイドギャップ半導体層10に設けられた金属電極20と、を有する。金属電極20はワイドギャップ半導体層10との金属電極20側(裏面側)の界面領域に六方最密充填構造(HCP)からなる単結晶層21を有してもよい。単結晶層21は、ワイドギャップ半導体層10との金属電極20側の界面領域にO(酸素)、S(硫黄)、P(リン)又はSe(セレン)を含有する指定元素含有量域22を有してもよい。このように指定元素含有量域22にはO、S、P及びSeいずれか1種類以上の元素を含むことができるが、典型的な元素はOである。なお、ワイドギャップ半導体としては、SiC、GaN等を挙げることができる。図1の上方がワイドギャップ半導体装置のおもて面側になり、下方がワイドギャップ半導体装置の裏面側になる。なお、本実施の形態の金属電極20はショットキー電極を構成している。
【0017】
単結晶層21は、Ti(チタン)、Cd(カドミウム)、Hf(ハフニウム)、Mg(マグネシウム)、Zr(ジルコニウム)又はSc(スカンジウム)からなってもよいし、これらの2つ以上の金属を含有する態様からなってもよい。このうち典型的な金属はTiであり、以下では、主にTiを用いた態様を用いて説明を行う。なお、Cd、Hf、Mg、Zr及びScは、結晶構造が六方最密充填構造(HCP)であり、かつ格子定数がSiCに近い値となっていることから、Tiを用いた場合と同様の結論を導き出せることになる。
【0018】
単結晶層21がTiからなる場合には、当該単結晶層21の指定元素含有量域22はO、S、P又はSeを含有してもよい。単結晶層21がCd、Hf、Mg、Zr及びScからなる場合には、当該単結晶層21の指定元素含有量域22はOを含有してもよい。
【0019】
指定元素含有量域22におけるO、S、P及びSeの原子濃度は総量で7%~33%となってもよい。「総量」であることから、O、S、P及びSeのいずれか2つ以上が含まれる場合には、それらの合計が7%~33%となる。他方、O、S、P及びSeのいずれか1つしか含まれない場合には、含まれている1つの元素の原子濃度が7%~33%となる。O、S、P及びSeのうち典型的にはOであり、以下では、主にOを用いて説明を行う。なお、HCP構造を維持したままO、S、P、Se等の原子を挿入できる原子濃度の理論的な上限値が33%となることから、33%という上限値が設定される。HCP構造を維持したままであれば、異常リークは発生しない。逆に、上記非特許文献の、TiOのように不純物濃度が33%以上では、単結晶層21の結晶構造が元の六方最密充填構造(HCP)を維持できないため異常リークが発生してしまう。
【0020】
Oと同様、S、P及びSeのいずれにおいても、Ti等と化学的に結合し得ることが第一原理計算の結果から分かっているところ、同じ構造からなる場合、価電子の数が相対的に多くなると、フェルミエネルギーが上昇すると考えられる。このため、S、P及びSeのいずれにおいても、Oを用いた場合と同様の結論を導き出せる。例えば、TiOとTiSとを比較すると、これらが同じ構造からなるとして、TiSの方が相対的に価電子の数が多くなるので、フェルミエネルギーが上昇すると考えられる。なお、仮に同じ構造からならないとしても、それに近い構造が安定的に存在し得るのであれば、同様の効果が得られる。
【0021】
指定元素含有量域22は、金属電極20のワイドギャップ半導体層10との界面と、当該界面から厚さ方向において11nm~37nmまでの距離との間に存在してもよい。図1に示す態様で言えば、金属電極20のワイドギャップ半導体層10との界面からの指定元素含有量域22の厚みが11nm~37nmとなってもよい。なお、指定元素含有量域22とは、O、S、P及びSeのいずれかが原子の状態で有意な量で存在している領域であり、典型的には原子濃度が5%以上で存在している領域である。
【0022】
後述する第2の実施の形態とは異なり、指定元素含有量域22が面内方向において一面にわたって設けられてもよい。
【0023】
金属電極20は、ワイドギャップ半導体層10側とは反対側(おもて面側)に多結晶層29を有してもよい。指定元素含有量域22と多結晶層29との間に、指定元素を含有しない又は指定元素含有量域22と比較して少量で含有する単結晶本体層25が設けられてもよい。この単結晶本体層25と指定元素含有量域22によって単結晶層21が構成されてもよい。
【0024】
指定元素含有量域22は高濃度指定元素含有量域からなってもよい。金属電極20は、高濃度指定元素含有量域のワイドギャップ半導体層10側とは反対側(図1では上方側)に設けられ、界面領域に含有される酸素濃度よりも低い酸素濃度からなる低濃度指定元素含有量域を有してもよい。本実施の形態では、単結晶本体層25が低濃度指定元素含有量域を有する態様となっている。
【0025】
金属電極20は、ワイドギャップ半導体層10側とは反対側に水素を含有する水素含有量域を有してもよい。前述した多結晶層29が水素含有量域を有してもよく、この場合には、多結晶層29内に水素含有量域が設けられることとなる。この際、多結晶層29の全体が水素含有量域となってもよいし、多結晶層29の一部が水素含有量域となってもよい。なお金属電極20がTiからなる場合には、Tiは酸化しやすいことから、金属電極20の表面にはTiOからなる層が設けられることになる(図7B参照)。
【0026】
図2は、ワイドギャップ半導体層10がSiCからなり、金属電極20がTiからなり、指定元素含有量域22にO原子を含有する態様を用いたものであって、SiC-SBD(ショットキーバリアダイオード)のI-V波形を示している。比較例1の態様は指定元素含有量域22にO原子を有意な量で含有しない態様であり、比較例2は指定元素含有量域22にTiOを含有したものであり、実施例1は指定元素含有量域22にO原子を有意な量で含有したものである。比較例1の態様では立ち上がり電圧が高くなっていることを確認できる。また比較例2では0~0.2Vにおいて異常リークが発生することを確認できる。他方、実施例1の態様では、比較例2のような異常リークは発生せず、かつ立ち上がり電圧を小さくすることができる。
【0027】
図3は、ワイドギャップ半導体層10がSiCからなり、金属電極20がTiからなり、指定元素含有量域22にO原子を含有する態様を用いたものであって、指定元素含有量域22に含まれるO原子の含有量を増加させた場合の格子定数C軸の長さとフェルミエネルギーとの関係を示した第一原理計算による結果である。TiとSiCとの界面領域に存在するO原子の濃度が増加するにつれて、フェルミエネルギーが上昇し、φB(ショットキー障壁高さ)が低下することを確認できる。
【0028】
図4A及び図4Bは、ワイドギャップ半導体層10がSiCからなり、金属電極20がTiからなり、指定元素含有量域22にO原子を含有する態様を用いたものであって、Ti及びOについてはSTEM(走査等価型電子顕微鏡)内のエネルギー分散型X線分光法(EDX)によって組成分析した結果であり、Hについてはグロー放電発光分析装置(GD-OES)によって分析した結果である。エネルギー分散型X線分光法(EDX)のカットラインは図4Aの直線IV-IVで示している。図4Bの深さ0μmは金属電極20のおもて面側の界面であり、深さ0.15μmがTiとSiCとの界面になっている。
【0029】
下記表1は図4Bにおける部位、結晶構造、組成及び結晶の配向を示した結果である。図4Bに示す態様では、指定元素含有量域22が、金属電極20のワイドギャップ半導体層10との界面と当該界面から厚さ方向において30nmまでの距離との間に存在している態様となり、水素含有量域が金属電極20のワイドギャップ半導体層10との界面から厚さ方向において80nm以上離間した領域にある態様となっている。
【表1】
【0030】
以上のとおり、SiC層に隣接するTi-O層では、結晶の配向が「3°」のものだけが検出されており、単結晶六方最密充填Tiの状態でOが含有されていることを確認できる。また、SiC層側とは反対側では、結晶の配向が複数検出されており、多結晶からなるTiが形成され、当該多結晶TiにはHが含有されることを確認できる。なお、Tiは比較的酸化されやすいことから、分析のための断面加工時に瞬時に酸化される。このため、金属電極20であるTi層中のO検出下限値は約10%であり、SiC層中のO検出下限である約0%に対して大きくなる。図4B中の酸素の濃度がTi内部でも高くなっているのは、このようにTiが酸化されやすいことに起因していることには留意が必要である。
【0031】
図5A及び図5Bは、ワイドギャップ半導体層10がSiCからなり、金属電極20がTiからなるが、指定元素含有量域22が存在しない態様である(比較例1)。図5A図4Aに対応し、図5B図4Bに対応している。なお、エネルギー分散型X線分光法(EDX)のカットラインは図5Aの直線V-Vで示している。図4Bと異なり、SiC層とTi層の界面にはTi-O層に相当する酸素濃度の「コブ」(図4Bの深さ0.13~0.15μmの領域参照)は検出されなかった。SiC層とTi層の界面近傍の酸素濃度は6.6%であり、検出下限値である約10%を下回った。
【0032】
図6に示すとおり、実施例1の態様では、指定元素含有量域22であるTi-O層におけるTiのEELS信号波形は、SiC上にエピ成長した比較例1における単結晶TiのEELS信号波形と同様になっている。このことからも、指定元素含有量域22であるTi-O層において、O原子は、Tiの格子間に存在した状態であり、TiとOと共有結合していないことを確認できる。なお、実施例1において、おもて面側では酸素濃度が40%と大きくなり、TiとOとが共有結合することから、EELS信号波形がシフトしている。このことからも、指定元素含有量域22であるTi-O層において、O原子は、Tiの格子間に存在した状態であり、TiとOと共有結合していないことを確認できる。
【0033】
《製造方法》
次に、本実施の形態の態様における製造方法の一例に説明する。この製造方法では、ワイドギャップ半導体層10がSiCからなり、金属電極20がTiからなる態様を用いて説明する。
【0034】
まず、SiCからなるワイドギャップ半導体層10にTiからなる金属電極20を設ける(図7A参照)。この際、Tiは酸化しやすいことから、Tiからなる金属電極20の表面(ひょうめん)は酸素に触れることでTiOからなる層(TiO層)30が形成されている。
【0035】
次に、チャンバー内を真空状態にした後、Hガス又はArで希釈したHガス(1~20流量比%のHガス)を供給し、300~600度で焼鈍する。提供されるHガスによって、おもて面側にTi-H層の形成されることになるが、このようなTi-H層の形成に伴って、元々、Tiからなる金属電極20内に含まれていた酸素がTi/SiC界面側へ押し込まれることで、指定元素含有量域22であるTi-O層を形成すると考えられる。なお、提供されるHガスのH原子はTiO層中の欠陥等を介して、Ti内へ侵入すると考えられる。
【0036】
またこの際、チャンバー内の残留酸素及び水分によってTiの表面が酸化されることになる。チャンバー内の酸素及び水分由来のO原子の一部もおもて面側で多結晶となっているTiの粒界を介して内部へ侵入し、指定元素含有量域22であるTi-O層を増加させると考えられる。より具体的には、チャンバーに残留した酸素はO原子に分離し、Tiからなる金属電極20内へ侵入し、金属電極20の表面を酸化又はTi/SiC界面へ移動しTi-O層を増加させる(図7Bにおいて符号79で示す層)と考えられる。また、チャンバー内に残留した水分(HO)は、HとOHに分離し、OHがTiからなる金属電極20内へ侵入し、表面を酸化又はTi/SiC界面へ移動しTi-O層22を増加させると考えられる。
【0037】
以上のようにして、Ti-O層からなる指定元素含有量域22をTi/SiC界面に有し、おもて面側に水素含有量域を有するワイドギャップ半導体装置が生成されることになる。なお、上述した実施例1はHガスの存在下で350℃以上で焼鈍した結果である。
【0038】
《効果》
次に、上述した構成からなる本実施の形態による効果であって、未だ説明していないものについて説明する。
【0039】
本願発明者らが確認したところによると、金属電極20がワイドギャップ半導体層10との金属電極20側の界面領域に六方最密充填構造(HCP)からなる単結晶層21を有し、単結晶層21がO、S、P又はSeを含有する指定元素含有量域22を有する態様を採用した場合には、異常リークを生じさせることなく、φBを下げることができる(図2参照)。
【0040】
特に金属電極20がTiからなり、指定元素含有量域22がO、S、P又はSeを含有する場合、又は金属電極20がCd、Hf、Mg、Zr又はScからなり、指定元素含有量域22がOを含有する場合には、より確実に、異常リークを生じさせることなく、φBを下げることができる。
【0041】
異常リークを生じさせることなくφBを下げるという効果をより確実に得るためには、指定元素含有量域22におけるO、S、P及びSeの原子濃度が総量で7%~33%となっていることが有益である。なぜならば、33%より多量のO、S、Pが導入されると、金属電極20は六方最密充填構造(HCP)を維持できずに異常リークが発生してしまうからである。
【0042】
第2の実施の形態
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。
【0043】
第1の実施の形態では、指定元素含有量域22は面内方向において一面にわたって設けられていたが、これに限られることはない。本実施の形態では、図8及び図9に示すように、指定元素含有量域22が面内方向において島状に散在している態様となっている。図9は、島状に配置された指定元素含有量域22を示すために、金属電極20の内部について指定元素含有量域22だけを示した平面図であることには留意が必要である。このような島状の指定元素含有量域22はArで希釈したHガスを用いて焼鈍した際に生成することができる。Arで希釈した場合にはHによる酸素等の押し込みがそれほど強くならないことから、島状の指定元素含有量域22が形成される場合がある。
【0044】
その他の構成は、第1の実施の形態と同様である。第2の実施の形態において、第1の実施の形態と同じ又は同様の部材等については同じ符号を付し、その説明を省略する。
【0045】
本実施の形態によっても、第1の実施の形態によって実現される効果と同様の効果を得ることができる。つまり、本実施の形態のようにO、S、P又はSeを含有する指定元素含有量域22が面内方向において島状に設けられている態様であっても、原子濃度が総量で7%~33%となっていれば、異常リークを生じさせることなく、φBを下げることができる。
【0046】
上述した各実施の形態の記載及び図面の開示は、請求の範囲に記載された発明を説明するための一例に過ぎず、上述した実施の形態の記載、変形例の記載又は図面の開示によって請求の範囲に記載された発明が限定されることはない。また、出願当初の請求項の記載はあくまでも一例であり、明細書、図面等の記載に基づき、請求項の記載を適宜変更することもできる。
【符号の説明】
【0047】
10 ワイドギャップ半導体層
20 金属電極
21 単結晶層
22 指定元素含有量域
25 単結晶本体層
29 多結晶層
30 TiOからなる層(TiO層)
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5A
図5B
図6
図7A
図7B
図8
図9