IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ フリッツ ビンター アイゼンギーセライ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング ウント コンパニー コマンディトゲゼルシャフトの特許一覧

特許7369307車両用ブレーキの構成要素およびその製造方法
<>
  • 特許-車両用ブレーキの構成要素およびその製造方法 図1
  • 特許-車両用ブレーキの構成要素およびその製造方法 図2
  • 特許-車両用ブレーキの構成要素およびその製造方法 図3
  • 特許-車両用ブレーキの構成要素およびその製造方法 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-17
(45)【発行日】2023-10-25
(54)【発明の名称】車両用ブレーキの構成要素およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   F16D 65/12 20060101AFI20231018BHJP
   C23C 26/00 20060101ALI20231018BHJP
【FI】
F16D65/12 E
C23C26/00 E
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2022567258
(86)(22)【出願日】2021-05-05
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-27
(86)【国際出願番号】 EP2021061809
(87)【国際公開番号】W WO2021224308
(87)【国際公開日】2021-11-11
【審査請求日】2022-12-21
(31)【優先権主張番号】102020112100.8
(32)【優先日】2020-05-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】506016772
【氏名又は名称】フリッツ ビンター アイゼンギーセライ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング ウント コンパニー コマンディトゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】100095614
【弁理士】
【氏名又は名称】越川 隆夫
(72)【発明者】
【氏名】スヴェン リール
(72)【発明者】
【氏名】トビアス ミュラー
(72)【発明者】
【氏名】アクセル ヴァイザー
【審査官】山田 康孝
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/043712(WO,A1)
【文献】独国特許出願公開第102006035948(DE,A1)
【文献】特開平04-258533(JP,A)
【文献】特開平02-011936(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0180125(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 49/00-71/04
C23C 26/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一表面(5a、5b)に、その耐摩耗性を高めるために、被膜(B)が設けられた金属製基体を有する、車両用ブレーキの構成要素であって、前記被膜(B)は、前記基体(2)の上にある中間層(Z)と前記中間層(Z)の上にある被覆層(D)とを備え、前記被覆層(D)は硬質材料粒子(HP)が埋め込まれたステンレス鋼マトリックス(E)から形成されている、構成要素において、前記被覆層(D)の前記ステンレス鋼マトリックス(E)に埋め込まれた前記硬質材料粒子(HP)の平均粒径は10μm~125μmであり、前記被覆層(D)の前記ステンレス鋼マトリックス(E)内の前記硬質材料粒子(HP)の各々、非溶融コア領域(K)を有し、前記コア領域(K)は、前記ステンレス鋼マトリックス(E)の材料と前記硬質材料粒子(HP)の各々の材料とから形成された混合ゾーン(M)によって、少なくとも部分的に取り囲まれ、前記混合ゾーン(M)を介して、前記硬質材料粒子(HP)の各々は前記ステンレス鋼マトリックス(E)に物質結合されていることを特徴とする構成要素。
【請求項2】
前記被覆層(D)の前記ステンレス鋼マトリックス(E)は、鋼種番号1.4404のステンレス鋼で、または米国規格AISI/ASTMの番号316~431Lで標準化されているステンレス鋼のうちの1つで、構成されていることを特徴とする、請求項1に記載の構成要素。
【請求項3】
前記被覆層(D)の表面硬度が850~1050HV10であることを特徴とする、請求項1または2に記載の構成要素。
【請求項4】
前記被覆層(D)の自由表面で求められた前記表面硬度の最小値Hminと前記被覆層(D)の前記自由表面で求められた前記表面硬度の最大値Hmaxとの差が最大100HV10であることを特徴とする、請求項3に記載の構成要素。
【請求項5】
車両用ブレーキの構成要素の製造方法であって、第1ステップにおいて、中間層(Z)が前記構成要素(1)の基体(2)の表面に生成され、第2ステップにおいて、前記中間層(Z)の自由表面に付着させたステンレス鋼粉末の上にレーザービームを移動させるレーザー肉盛溶接法によって、硬質材料粒子(HP)が埋め込まれたステンレス鋼マトリックス(E)から形成された被覆層(D)が前記中間層(Z)の上に生成される方法において、前記被覆層(D)の生成中、前記レーザービームは、前記中間層(Z)に付着させた前記ステンレス鋼粉末に0.1~2.5KW/mmのレーザー強度で向けられ、前記付着させたステンレス鋼粉末に前記レーザービームが照射されて前記ステンレス鋼粉末が溶融して溶融浴を形成するスポットの直径が2.5~15mmであり、そのようにして形成された前記溶融浴に平均粒径15μm~135μmの硬質材料粒子(HP)が追加されることを特徴とする方法。
【請求項6】
前記被覆層(D)の前記ステンレス鋼マトリックス(E)に埋め込まれる前記硬質材料粒子(HP)の平均粒径が最大105μmであることを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記被覆層(D)の前記ステンレス鋼マトリックス(E)に埋め込まれる前記硬質材料粒子(HP)の平均粒径が最大60μmであることを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記被覆層(D)の前記ステンレス鋼マトリックス(E)に埋め込まれる前記硬質材料粒子(HP)の平均粒径が少なくとも20μmであることを特徴とする、請求項5~7の何れか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記被覆層(D)の前記ステンレス鋼マトリックス(E)に埋め込まれる前記硬質材料粒子(HP)の平均粒径が少なくとも45μmであることを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記被覆層(D)の生成のために使用される前記レーザービームの前記レーザー強度が最大1.2KW/mmであることを特徴とする、請求項5~9の何れか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記被覆層(D)の生成のために使用される前記レーザービームのレーザーパワーが6~25KWであることを特徴とする、請求項5~10の何れか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記構成要素は、前記レーザービームの照射前に、100~700℃の予熱温度に予熱されることを特徴とする、請求項5~11の何れか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記構成要素全体は、前記ステンレス鋼粉末の付着前に、前記予熱温度に予熱されることを特徴とする、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記構成要素は、前記ステンレス鋼粉末がその後に前記レーザービームによって溶融される部分に局所的に限定して、前記予熱温度に予熱されることを特徴とする、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記構成要素は、前記レーザービームに先立ち、予熱されることを特徴とする、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記予熱は誘導加熱によって行われることを特徴とする、請求項12~15の何れか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一表面に、その耐摩耗性を高めるために、被膜が設けられた金属製基体を有する、車両用ブレーキの構成要素であって、被膜は基体の上にある中間層と中間層の上にある被覆層とを備え、被覆層は硬質材料粒子が埋め込まれたステンレス鋼マトリックスから形成されている、車両用ブレーキの構成要素に関する。
【0002】
同様に、本発明は、車両用ブレーキの構成要素の製造方法であって、構成要素の基体の表面に中間層を生成し、その後、中間層の自由表面に付着させたステンレス鋼粉末の上でレーザービームを移動させる更なるレーザー肉盛溶接法によって、硬質材料粒子が埋め込まれたステンレス鋼マトリックスから形成された被覆層を中間層上に生成する、製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
内部換気式ブレーキディスクとして設計されたこの種の構成要素が特許文献1から公知である。このブレーキディスクにおいて、ブレーキディスクの摩擦リングに形成された、制動プロセス中にブレーキライニングが押し付けられる、摩擦面は、2層から成る被膜で覆われている。ブレーキディスクの基体の摩擦面に、中間層が直接設けられている。中間層は、その上にある被膜の外側被覆層に結合し、制動プロセス中にこの外側被覆層に導入される熱エネルギーの熱を放散させる役割を果たす。中間層は、亜鉛および/またはニッケル系合金から成り、被覆層は、炭化物層または金属マトリックス複合層である。この被膜の厚さは、ブレーキディスクの冷却流路の上方の被膜の厚さが各冷却流路を互いから区切るナブまたはウェブの上方の被膜より厚いことで、内部換気式ディスクの幾何学的関係に適合化されている。
【0004】
特許文献2にも、同じく2層から成る被膜が摩擦面に設けられたブレーキディスクが記載されている。これらの層は、被膜粉末から生成されている。被膜粉末は、必要な硬度を調整するために、WCまたはTiOなどの硬質材料粒子が組み込まれたニッケルまたはニッケル-コバルト系マトリックスを形成するように、構成されている。それぞれの被膜粉末は、ブレーキディスクの被膜対象表面に高速フレーム溶射によって付着される。最初に薄い中間層が溶射され、その後により厚い被覆層が溶射される。その後、熱処理が行われる。この熱処理において、先に溶射された両層が溶融されて、ねずみ鋳鉄材料から成るブレーキディスクの基体への両層の材料結合が実現される。したがって、中間層によって被覆層の結合が保証されるように、これらの層の靱性および硬度が互いに適合化されている。
【0005】
更に、特許文献3からは、ブレーキディスクの基体の上にある中間層を介して、その上にある被覆層の結合が実現されるように、ブレーキディスクの摩擦面に少なくとも2層から成る被膜を形成することが公知である。中間層の厚さは被覆層の厚さよりかなり薄い。
【0006】
冒頭に示した種類の構成要素および方法は、特許文献4から公知である。したがって、この文献から公知の構成要素は、一表面に、その耐摩耗性を高めるために、被膜が設けられた金属製基体を備えている。この被膜は、基体の上にある中間層と中間層の上にある被覆層とを備え、中間層の靱性は被覆層より高く、被覆層の硬度は中間層より高い。そのような構成要素の製造を簡素化し、その耐摩耗性を高めるために、中間層はNiまたはCr合金から成る。この合金のNiまたはCr含有量は、何れも50重量%より多く、場合によっては、耐摩耗性を高めるための硬質材料粒子が中間層に組み込まれる。これに対して、被覆層は、硬質材料粒子が埋め込まれたステンレス鋼マトリックスで形成されている。基体の熱伝導率は、中間層の熱伝導率の1.5~3倍であり、被覆層の熱伝導率は、基体の熱伝導率の2~4.5倍である。中間層の厚さDzと被覆層の厚さDdとの厚さの比Vd=Dd/Dzに、Vd≧1.5が適用される。
【0007】
被覆層を付着させるために、特許文献4は、特許文献5に記載されているような高速レーザー肉盛溶接法を規定している。この方法では、溶融浴へのレーザービームの照射によって、溶加材の粉末がレーザービームによって溶融されることで、少なくとも1つの溶融溶加材を有する溶融浴が被膜対象の表面上に生成される。溶加材は、溶融浴から一定距離にあるレーザービームによって溶融され、完全に溶融した形態で溶融浴に供給される。そのために、溶融浴とレーザービームの焦点とは、被膜対象の表面に対して、少なくとも20m/分の速度で、互いに平行に移動される。溶融浴におけるレーザービームのレーザーパワーが粉末と接触する前のレーザービームのレーザーパワーの60%未満であるように、粉末密度が調整される。このような方法の使用によって、中間層を基体および被覆層に特に強力に結合できるので、中間層からの被覆層の、または基体からの被膜全体の、剥離の危険性が特に最小化される。したがって、特許文献5から公知の方法の決定的利点は、溶融浴が構成要素の表面上に有する集合状態で、溶加材が溶融浴に供給されることにある。これにより、溶融浴内の粉末粒子の溶融に要する時間が省かれる。これは、層の形成に要する時間を短縮するはずである。これにより、処理速度のかなりの高速化が可能になるはずである。
【0008】
従来技術の上記背景に対して、冒頭で言及し、上で詳細に説明した種類の、従来技術に比べ使用特性がはるかに最適化された、ブレーキの構成要素を製作するという課題が生じた。
【0009】
加えて、そのような構成要素の運用的に確実な製造を可能にする方法を規定すべきである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】独国特許出願公告第10 2008 053 637(B4)号
【文献】独国特許出願公開第10 2005 008 569(A1)号
【文献】米国特許第5,407,035(A)号
【文献】国際公開第2020/043712(A1)号
【文献】独国特許出願公告第10 2011 100 456(B4)号
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、請求項1に示されている諸特徴を少なくとも有する構成要素によって、この課題を解決している。
【0012】
そのような構成要素を製造するための本発明による方法は、請求項5に記載されている。
【0013】
本発明の複数の有利な実施形態が従属請求項に示されており、以下においては、本発明の全般的思想であるように、詳細に説明する。
【0014】
したがって、本発明による車両用ブレーキの構成要素は、一表面に、その耐摩耗性を高めるために、被膜が設けられた金属製基体を備え、被膜は、基体の上にある中間層と中間層の上にある被覆層とを備え、被覆層は硬質材料粒子が埋め込まれたステンレス鋼マトリックスから形成されている。
【0015】
本発明によると、被覆層のステンレス鋼マトリックスに埋め込まれる硬質材料粒子の平均粒径は10μm~125μmである。これら硬質材料粒子は、硬質材料粒子の影響されない材料から成る非溶融コア領域を有する。このコア領域は、ステンレス鋼マトリックスの材料と各硬質材料粒子の材料とから形成された混合ゾーンによって、少なくとも部分的に取り囲まれている。この混合ゾーンを介して、各硬質材料粒子はステンレス鋼マトリックスに物質結合されている。
【0016】
車両用ブレーキの構成要素を製造するための本発明による方法においては、同様に、第1ステップで構成要素の基体の表面に中間層を生成し、第2ステップで、中間層の自由表面に付着させたステンレス鋼粉末の上でレーザービームを移動させるレーザー肉盛溶接法によって、硬質材料粒子が埋め込まれたステンレス鋼マトリックスから形成された被覆層を中間層上に生成する。そのために、被覆層の生成中、レーザービームは、中間層に付着させたステンレス鋼粉末に0.1~2.5KW/mmのレーザー強度で向けられる。同時に、付着させたステンレス鋼粉末にレーザービームを照射してステンレス鋼粉末を溶融させ、そこに溶融浴が形成されるスポットの直径が2.5~15mmになるように、レーザービームを調整する。最後に、本発明によると、こうして形成された溶融浴に、平均粒径が15μm~125μmの硬質材料粒子を追加する。
【0017】
本発明は、被覆層のステンレス鋼マトリックス内の硬質材料粒子がコア領域を有し、これを取り囲む混合ゾーンを介して、コア領域がステンレス鋼マトリックスに結合されることにより、ステンレス鋼マトリックス内の硬質材料粒子の最適保持が保証されるという知見に基づく。同時に、本発明によるステンレス鋼マトリックス内に存在する硬質材料粒子は、被覆層への導入前に付与されたその本来の硬度がそのコア領域において維持されるので、被覆層の硬度を最適に維持する。したがって、硬質材料粒子が本発明による物質結合式に固定された被覆層は、本発明による被膜方式で被膜されたブレーキ構成要素の耐摩耗性および有効性に最適に寄与する。
【0018】
したがって、本発明による被覆層には、硬質材料粒子とこれを取り囲むステンレス鋼マトリックスの材料との間に中間層が存在する。この中間層の組成は、硬質材料粒子ともステンレス鋼マトリックスとも異なる。この混合層は、ステンレス鋼マトリックスと硬質材料粒子との混合材料から成り、一般に、硬質材料粒子のコアを完全に取り囲んでいる。この混合層は、被覆層を生成するために行われるレーザービーム処理中に硬質材料粒子が部分的に溶融するときに、形成されるので、混合層の形成下で、ステンレス鋼マトリックスの溶融材料と各硬質材料粒子の溶融材料とは互いに流入し合うことになる。本発明による方法においては、本発明の要件に応じて、十分に大きな粒子のみを被覆層のステンレス鋼マトリックスに埋め込むことによって、更にはステンレス鋼マトリックスへの硬質材料粒子の埋め込みに必要なレーザーエネルギー密度を制限することによって、混合層の形成が支持され、同時に硬質材料粒子の完全溶融が確実に回避される。
【0019】
その結果、本発明によると、被覆層に埋め込まれた硬質材料粒子は完全には溶融せず、そのコア領域内に維持されるという事実により、本発明により形成された被膜の安定性の最大化と、それに伴う有効性の最大化とがもたらされる。
【0020】
したがって、本発明によると、被覆層の生成のために使用されるレーザー肉盛溶接法の諸パラメータは、被覆層を形成するために中間層に付着させたステンレス鋼粉末へのレーザービームによる局所的入熱が、レーザースポットの領域、すなわちレーザービームの照射領域、において粉末を溶融させるために十分であるように、しかし、同時に、レーザースポットに形成された溶融浴に導入された硬質材料粒子の溶融が硬質材料粒子の周辺領域に限定されるように、選択される。これにより、手順的には、溶融した硬質材料粒子の周辺領域と溶融した隣接ステンレス鋼マトリックスとから形成された混合ゾーンを介して、硬質材料粒子の強力な材料結合が生じる一方で、硬質材料粒子のコア領域は、硬質材料粒子が溶融浴に導入されたときの状態を維持し続ける。
【0021】
同時に、レーザーがステンレス鋼粉末に照射されるときのレーザー強度およびスポットの直径は、そこに形成される溶融が、硬質材料粒子の供給にも拘らず、できる限り長く溶融状態を維持するように、互いに適合化される。その結果、溶融浴に導入された硬質材料粒子は、溶融の固化前に、溶融浴内に均等に分散するための時間が十分にある。
【0022】
したがって、その結果、本発明により被膜された構成要素は、硬質材料粒子が被覆層内に等密度で均等に分散されて存在するという特徴を有する。したがって、これは、本発明による構成要素においては、被覆層によって覆われた表面全体に高耐摩耗性が行き渡るという均等性に寄与する。
【0023】
本発明による方法においては、被覆層の生成に使用されるレーザービームのレーザー強度が最大で1.2KW/mmであると、最適化された製造結果の実現が可能である。
【0024】
したがって、本発明により規定された被覆層のマトリックスを形成するステンレス鋼粉末にレーザーが当たるスポットのサイズを考慮して、被覆層の生成に使用されるレーザービームのレーザーパワーが6~25KWであることで、本発明により規定されるレーザー強度の実現が可能である。
【0025】
レーザー強度に、ひいてはステンレス鋼マトリックスを形成する粉末にレーザービームが当たるスポットの領域への局所的入熱に、影響を及ぼし得る別の補正変数は、スポットの直径である。本発明によると、これは2.5~15mmである。少なくとも8mmの直径が特に適していると実地テスト中に証明されており、最適化された処理結果は最大12.5mmのスポット直径で達成できるであろう。
【0026】
本発明により付着される被覆層の厚さは、研磨後、一般に50~200μm、特に50~150μm、である。被覆層の厚さが80~140μmであると特に好都合であることが実地テストで証明されている。他方、未研磨状態において、被覆層の厚さは一般に50~300μmである。
【0027】
本発明により被膜対象の構成要素の各表面に設けられる中間層の付着は、原則として、肉盛溶接、スプレー溶接、またはプラズマ溶接など、任意の熱付着法によって行うことができる。このために必要な諸手法は、従来技術から基本的に公知である。例えば、特許文献5に規定されている、上記の高速レーザー肉盛溶接法は、この目的のために適している。
【0028】
中間層は、この目的のために従来技術において既に使用されている、十分な靱性を有する鋼、特にそれ自体は公知のステンレス鋼材料、で構成可能である。そのようなステンレス鋼材料の一例は、米国規格AISI/ASTMにより標準化されている鋼316Lである。
【0029】
本発明による被膜に設けられる中間層は、いくつかの機能を果たす。一方では、この被膜で覆われた各構成要素の表面に存在する高低差と、孔または破裂孔などの、凹部とを打ち消すために役立つ。他方、中間層は、温度関連の諸応力を吸収し、それらを打ち消す。
【0030】
これらの要件を満たすために、中間層は、厚さ50~200μm、特に50~150μm、を有し得る。中間層の厚さが80~140μmであると特に好都合であることが実地テストにおいて証明されている。
【0031】
本発明によると、被覆層のマトリックスは、ステンレス鋼によって形成される。このようなステンレス鋼として、特に、ステンレス、オーステナイト鋼が挙げられる。このために適しているのは、例えば、鋼種番号1.4404下で、または米国規格AISI/ASTMの番号316~431Lにより、標準化されているステンレス鋼である。したがって、非有効Ni含有量が少ない、または皆無の、鋼が特に好適である。
【0032】
被覆層のマトリックスに埋め込まれた硬質材料粒子は、必要な硬度と、それに伴う被覆層の耐摩耗性とを保証する。このために適している硬質材料粒子は、特に金属様、共有結合性、またはイオン性、炭化物である。本発明による被覆層に、場合によっては中間層に、存在する硬質材料として、特に、炭化タングステン、炭化クロム、炭化チタン、炭化バナジウム、または炭化ケイ素が挙げられる。被覆層の鋼マトリックスに埋め込まれた硬質材料粒子の体積分率が被覆層の総体積の20~70体積%であるとき、被覆層の使用特性に関して最適な、マトリックス材料と硬質材料粒子との比が得られる。これより高い硬質材料含有量は、被覆層の強度および熱伝達値を悪化させることになる。より低い硬質材料含有量では、必要な硬度が達成されないことになる。
【0033】
本発明による被覆層のステンレス鋼マトリックスに埋め込まれた硬質材料粒子がその効果を発揮するのは、平均粒径15~135μmで被覆層に導入されているときである。硬質材料粒子の変化しない非溶融コア領域は、被覆層に埋め込まれた状態で、依然として直径15~125μmを有する。したがって、被覆層のステンレス鋼マトリックスに導入される硬質材料粒子の平均粒径が最大105μmであると、特に有益であることが実地テストで証明された。したがって、本発明によると、粒径範囲が広い硬質材料粒子を処理できる。これは、本発明による被覆層の特に費用効率の高い生成を可能にする。より厳しい要件の場合、硬質材料粒子の粒径をより強く選択できる。例えば、平均粒径が少なくとも20μm、特に少なくとも35μm、または少なくとも45μm、の硬質材料粒子を被覆層に組み込むことが好都合であり得る。したがって、本発明による被覆層に導入される硬質材料粒子の平均粒径は、20~105μm、特に35~105μm、または45~105μm、または20~60μm、が好ましい。硬質材料粒子の平均粒径が35~60μm、特に45~60μm、であると、特に良好な結果が期待される。したがって、ここで、レーザースポットの直径がより小さく最大8mmである用途には、硬質材料粒子画分として20~60μm、特に35~60μm、または45~60μm、が特に適している一方で、スポット直径が≧8mmである処理には、粒径35~105μm、特に45~105μm、が適している。
【0034】
DIN EN ISO6507-1に従って求められた、本発明による被膜の被覆層の硬度は、本発明による硬質材料粒子の埋め込みの故に、700HV10~1250HV10である。一般に、本発明による被膜の被覆層の硬度は、850~1050HV10である。
【0035】
したがって、本発明による構成要素は、本発明によって実現された被覆層に埋め込まれた硬質材料粒子の均一分布の故に、被覆層の自由表面で求められた表面硬度の最小値Hminと被覆層の自由表面で求められた表面硬度の最大値Hmaxとの間の差が最大で250HV10、特に100HV10(すなわち[Hmax-Hmin]≦100HV10)であることを特徴とする。
【0036】
本発明が特に良好な効果を示すのは、本発明により被膜される構成要素がブレーキディスクの摩擦リングであり、被膜で覆われる表面が、制動プロセス中に作動デバイスがブレーキライニングによって作用する、摩擦リング上の摩擦面である場合である。したがって、摩擦リングをブレーキディスクとは別個に製造される構成要素とすることができる。この摩擦リングは、所謂「組み立て式ブレーキディスク」の場合、あるいは支持部が別個の作業ステップで摩擦リング上に鋳造された、または摩擦リングが別個の作業ステップで支持部上に鋳造された、ブレーキディスクの場合、にそうであるように、専用の組み立てステップでブレーキディスクの支持部に接続される。同様に、摩擦リングを、特に鋳造によって、一体に製造されたブレーキディスクの一部とすることも勿論可能である。この場合、支持部と摩擦リングとは互いに一体に接続されている。
【0037】
本発明により付着させた被膜の被覆層の自由表面における起伏または高低差が大きすぎる場合は、研磨によって十分な平面度および起伏を当該表面にもたらすことができる。したがって、本発明により被膜される表面がブレーキディスクの摩擦面である場合、目標値は、DIN EN ISO4288により求められた平均起伏Raが1~3.2μm、特に1.4~1.7μm、平面度の寸法許容差が最大20μmである。
【0038】
本発明による構成要素の基体の材料は、一般に、鋳造による基体の製造を可能にする、金属鋳造材料である。この金属鋳造材料として特に挙げられるのは、熱伝導率が本発明の諸要件に特に良好に対応する、且つ摩擦リングの製造に特に適した、鉄またはアルミニウム鋳造材料である。
【0039】
ステンレス鋼マトリックスのステンレス鋼粉末からレーザースポットに形成された溶融浴をできる限り長く維持するには、レーザービームの照射前に構成要素を100~700℃の予熱温度に予熱することが有効であり得る。これにより、溶融浴から構成要素の基体への熱放散を遅延できるので、被覆層のマトリックス材料の固化の進行もより低速になる。
【0040】
この予熱のために、適した炉内で構成要素全体を加熱できる。より大きな構成要素の場合、または特定の表面部分のみを被膜する構成要素の場合、予熱を被膜対象の表面部分のみに限定することもできる。この場合、被膜に先立ち、互いに隣接する表面部分を相次いで連続的に加熱できる。この目的のために、誘導加熱が特に適している。ここで特に実用的であるのは、レーザースポットに先立ち、局所的に限定された誘導加熱が行われる場合、すなわち、レーザービームに先立ち、ステンレス鋼粉末がその後にレーザービームによって溶融される各部分に局所的に限定して、構成要素が連続的に加熱される場合、である。
【0041】
本発明の目的のためには、250~350℃の予熱温度が特に適していることが証明された。この予熱は、被覆層と中間層との間の、ならびに中間層と基体との間の、応力の低減にも寄与する。
【0042】
以下においては、1つ以上の実施形態を参照して、本発明をより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0043】
図1】自動車用のブレーキディスクをその回転軸線X-Xに沿った断面図で示す。
図2】ブレーキディスク上に生成された被膜の、ブレーキディスクの円周方向に対して横断方向に位置合わせされた検鏡用薄切片を示す。
図3】ブレーキディスク上に生成された被膜の、ブレーキディスクの円周方向に対して横断方向に位置合わせされた検鏡用薄切片を示す。
図4】ブレーキディスク上に生成された被膜の、ブレーキディスクの円周方向に対して横断方向に位置合わせされた検鏡用薄切片を示す。
【発明を実施するための形態】
【0044】
本発明の意味において、構成要素を構成するブレーキディスク1は、従来どおり設計された基体2を有する。基体2は、この目的のために公知の、DIN-EN呼称EN-JL1040の鋳鉄材料から鋳造されている。
【0045】
ブレーキディスク1は、鍋状の支持部3と、その表面に鋳造された摩擦リング4とを有する。摩擦リング4は、ここでは中実材料で構成されたものとして示されているが、従来どおり内部換気式摩擦リング4として設計することも可能である。
【0046】
摩擦リング4は、回転軸線X-Xに対して垂直に位置合わせされたその前面の各々に、同様に通常どおり、環状摩擦面5a、5bを有する。
【0047】
被膜のために用意された基体2の場合、基体2の鋳造後、摩擦面5a、5bがチップ除去処理によってそれ自体は公知の方法で準備されているので、摩擦面5a、5bのそれぞれの上面の平均起伏深さRzは20μmである。
【0048】
このように処理された基体2の摩擦面5a、5bに、中間層Zと被覆層Dとから成る被膜Bを付着させる。
【0049】
中間層Zは、粉末形態で提供されている市販のステンレス鋼材料、例えば名称316Lの下で標準化されている上記のステンレス鋼材料、から生成されている。中間層Zの厚さDzは、120~140μmであった。
【0050】
中間層Zを付着させるために、この図には不図示の締め付け装置に、ブレーキディスクを水平姿勢で位置付けた。この締め付け装置は、この図には同じく不図示の回転駆動部によって、ブレーキディスク1の回転軸線X-Xを中心に回転駆動可能であった。その後、レーザー肉盛溶接によって中間層Zを生成した。この目的のために、この図には不図示のレーザービーム装置(レーザーヘッド直径=5mm)を摩擦リング4の内径の開始位置に位置付け、ブレーキディスク1を分当たり60回転で回転させた。その後、レーザーを開始位置から摩擦リングの外周に向けて半径方向に10m/分の速度で移動させた。起動時にレーザーに点火し、外径に達したらレーザーをオフにした。レーザー照射の開始によって、特許文献5に記載の手順に従ってレーザービームによって掃引された各領域に、中間層Zの粉末状鋼材料を追加した。
【0051】
摩擦面5a、5bに存在していた高低差が中間層Zによって平らになり、孔6が塞がれたので、中間層Zの付着後、被覆層Dの付着に最適な平らな表面が基体2とは反対の側に存在した。
【0052】
3つのテストにおいて、上記のように中間層Zでそれぞれ覆われた3つのブレーキディスク1に被覆層Dを以下のように付着させた。
【0053】
硬質材料粒子HPを用意した。この粒子は炭化タングステン粒子であった。
【0054】
硬質材料粒子HPの平均粒径は、~25~60μmであった。
【0055】
中間層Zの付着の場合と同様に、回転駆動可能に締め付けられているブレーキディスク1に、鋼-鉄リストに従って鋼種番号1.4404で標準化されているステンレス鋼から成る粉末層を付着させた。
【0056】
レーザービームをこの粉末に向けた。このレーザービームは、その下にある粉末層の各部分を、テスト1および2では直径2.9mmのスポット状に、テスト3では直径1.2mmのスポット状に、照射した。
【0057】
したがって、テスト1では、レーザー強度は0.2KW/mmであり、テスト2では、レーザーは2.20KW/mmの強度を有し、テスト3は、本発明によらず、3.50KW/mmのレーザー強度であった。
【0058】
回転軸線X-Xを中心にブレーキディスク1を回転させることによって、レーザービーム下で粉末層を移動させ、それに伴い、対応する回転数の後、ステンレス鋼粉末が完全に溶融し、再び固化して被覆層Dのステンレス鋼マトリックスEを形成するまでレーザースポットを粉末層の上で連続的に移動させた。
【0059】
レーザービームのスポットにステンレス鋼粉末から形成された各溶融浴に、用意した硬質材料粒子HPを一定量導入した。その量は、硬質材料粒子HPが40%と残りの部分としての溶融ステンレス鋼とで構成された溶鋼が溶融浴内に存在するように、計算した。
【0060】
このようにして形成された被覆層Dは、厚さDdが250μm、表面硬度が950~1500HV10であった。
【0061】
このようにして被膜されたブレーキディスク1において、円周方向に対して横断方向に位置合わせされた検鏡用薄切片を複数生成した。これらは、図2(テスト1)、図3(テスト2)、および図4(テスト3)に示されている。
【0062】
図2図4は、ブレーキディスク1の鋳鉄材料Gと、鋳鉄材料Gの上にある中間層Zと、中間層Zの上にある、硬質材料粒子HPが埋め込まれた、被覆層Dとを示している。
【0063】
硬質材料粒子HPの各々は、はっきりと目視可能な内部コア領域Kを有する。内部コア領域Kは溶融されておらず、したがって、被覆層Dの生成中にレーザービームによってステンレス鋼粉末から生成された溶融浴に硬質材料粒子HPが導入されたときの状態である。
【0064】
各硬質材料粒子HPのコア領域Kは混合ゾーンMによって取り囲まれている。混合ゾーンMにおいて、硬質材料粒子HPの材料は、被覆層Dのステンレス鋼マトリックスEのステンレス鋼材料と混合されている。コア領域Kを有する各硬質材料粒子HPは、混合ゾーンMを介して、ステンレス鋼マトリックスEに物質結合されている。
【0065】
本発明により、すなわち0.1≦レーザー強度≦2.5のレーザー強度で、実施されたこれらのテストにおいて、ステンレス鋼マトリックスE内の硬質材料粒子HPのコア領域Kは明確に画定された形状で存在することが分かる。
【0066】
これに対して、レーザー強度が過度に高い、本発明によらない、テスト3においては、硬質材料粒子HPが溶融し、強く変形しているので、硬質材料粒子HPは、その形状または特性のどちらかに関して、硬質材料粒子HPが供給されたときの元の状態に一致していなかった。図4で暗色の点として見える領域は、完全に溶融した硬質相の材料がステンレス鋼マトリックスEのステンレス鋼材料と混合した混合ゾーンのみで全体が構成されている。
【符号の説明】
【0067】
1 ブレーキディスク
2 ブレーキディスク1の基体
3 ブレーキディスク1の支持部
4 ブレーキディスク1の摩擦リング
5a、5b 摩擦リング4の摩擦面
6 孔
B 被膜
D 被膜Bの被覆層
Dd 被覆層Dの厚さ
Dz 中間層Zの厚さ
E 被覆層Dのステンレス鋼マトリックス
G ブレーキディスク1の鋳鉄材料
HP 硬質材料粒子
K 硬質材料粒子のコア領域
X ブレーキディスク1の回転軸線
Z 被膜Bの中間層
M 硬質材料粒子HPを取り囲む混合層
図1
図2
図3
図4