(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-18
(45)【発行日】2023-10-26
(54)【発明の名称】豚感染ウイルスの製造方法
(51)【国際特許分類】
C12N 7/00 20060101AFI20231019BHJP
C12N 7/02 20060101ALI20231019BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20231019BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20231019BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20231019BHJP
A61P 31/14 20060101ALI20231019BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20231019BHJP
【FI】
C12N7/00
C12N7/02
C12N5/10
C12Q1/02
A61K35/76
A61P31/14
A61P37/04
(21)【出願番号】P 2019187751
(22)【出願日】2019-10-11
【審査請求日】2022-04-28
(73)【特許権者】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(73)【特許権者】
【識別番号】000229519
【氏名又は名称】日本ハム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】弁理士法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹之内 敬人
(72)【発明者】
【氏名】上西 博英
(72)【発明者】
【氏名】木谷 裕
(72)【発明者】
【氏名】両角 岳哉
(72)【発明者】
【氏名】西山 泰孝
【審査官】小田 浩代
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/112169(WO,A2)
【文献】特開2005-075752(JP,A)
【文献】特表2017-500029(JP,A)
【文献】TAKENOUCHI, T. et al.,Front. Vet. Sci.,2017年,Vol. 4:132,pp. 1-9
【文献】DELRUE, I. et al.,BMC Biotechnol.,2010年,Vol. 10:48,pp. 1-12
【文献】TAKENOUCHI, T. et al.,Results Immunol,2014年,Vol. 4,pp. 62-67
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00- 7/08
C12Q 1/00- 3/00
A61K 39/12
A61P 11/00
A61P 15/06
A61P 31/14
A61P 37/04
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
不死化豚腎臓マクロファージと、豚に感染するウイルス(但し、アフリカ豚コレラウイルスを除く)とを接触させ、当該ウイルスを前記不死化豚腎臓マクロファージにおいて増殖する工程を含
み、
前記不死化豚腎臓マクロファージが、豚腎臓由来の初代培養マクロファージに、SV40ラージT抗原及び豚由来のテロメラーゼ逆転写酵素をコードするレンチウイルスを導入して成る、不死化マクロファージ(IPKM)であり、かつ
前記豚に感染するウイルス(但し、アフリカ豚コレラウイルスを除く)が、PRRSウイルスである、豚に感染するウイルスの製造方法。
【請求項2】
不死化豚腎臓マクロファージと、豚に感染するウイルス(但し、アフリカ豚コレラウイルスを除く)とを接触させ、当該ウイルスを前記不死化豚腎臓マクロファージにおいて増殖する工程、
増殖した豚に感染するウイルスを単離する工程、及び
単離した豚に感染するウイルスを薬理学上許容される担体又は媒体と混合する工程
を含
み、
前記不死化豚腎臓マクロファージが、豚腎臓由来の初代培養マクロファージに、SV40ラージT抗原及び豚由来のテロメラーゼ逆転写酵素をコードするレンチウイルスを導入して成る、不死化マクロファージ(IPKM)であり、かつ
前記豚に感染するウイルス(但し、アフリカ豚コレラウイルスを除く)が、PRRSウイルスである、豚に感染するウイルスを含むワクチンの製造方法。
【請求項3】
豚に感染するウイルス(但し、アフリカ豚コレラウイルスを除く)に感染している不死化豚腎臓マクロファージ
であって、
前記不死化豚腎臓マクロファージが、豚腎臓由来の初代培養マクロファージに、SV40ラージT抗原及び豚由来のテロメラーゼ逆転写酵素をコードするレンチウイルスを導入して成る、不死化マクロファージ(IPKM)であり、かつ
前記豚に感染するウイルス(但し、アフリカ豚コレラウイルスを除く)が、PRRSウイルスである、不死化豚腎臓マクロファージ。
【請求項4】
豚に感染するウイルスに対する中和抗体を検出する方法
であって、
被検豚から単離された生体試料の存在下、不死化豚腎臓マクロファージと豚に感染するウイルス(但し、アフリカ豚コレラウイルスを除く)とを接触させ、当該ウイルスを前記不死化豚腎臓マクロファージにて増殖させる工程、
増殖した前記ウイルス数を検出する工程、及び
前記工程にて検出されたウイルス数が、前記生体試料非存在下、不死化豚腎臓マクロファージにて増殖したウイルス数と比して、少ない場合、前記生体試料は前記ウイルスに対する中和抗体を含有していると判定する工程
を含み、
前記不死化豚腎臓マクロファージが、豚腎臓由来の初代培養マクロファージに、SV40ラージT抗原及び豚由来のテロメラーゼ逆転写酵素をコードするレンチウイルスを導入して成る、不死化マクロファージ(IPKM)であり、かつ
前記豚に感染するウイルス(但し、アフリカ豚コレラウイルスを除く)が、PRRSウイルスである、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、豚に感染するウイルスの製造方法に関し、より詳しくは、不死化豚腎臓マクロファージを用いた、豚感染ウイルス(但し、アフリカ豚コレラウイルスを除く)の製造方法に関する。また、本発明は、不死化豚腎臓マクロファージを用いた、豚感染ウイルス(但し、アフリカ豚コレラウイルスを除く)を含むワクチンの製造方法に関する。さらに、本発明は、不死化豚腎臓マクロファージを用いた、豚感染ウイルス(但し、アフリカ豚コレラウイルスを除く)に対する中和抗体の検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
豚繁殖・呼吸障害症候群(porcine reproductive and respiratory syndrome,PRRS)は、PRRSウイルス(PRRSV)を病原体とする疾病で、育成・肥育段階の豚の呼吸器症状、妊娠中の母豚の死流産等の繁殖障害を引き起こす。日本国内においても、多くの農場に浸潤しており、年間280億円という甚大な被害を養豚産業に及ぼすと推計されている。
【0003】
PRRSVに対するワクチンとして生弱毒化ワクチンが日本国内では上市されているが、症状の軽減を期待して用いられることが多く、完全な予防はできていない。このような背景から感染予防が期待できるワクチン開発が望まれている。
【0004】
生弱毒化ワクチンや不活化ワクチンの製造においては、当該病原体が増殖する環境が必要であり、ウイルスのように宿主依存的に増殖する病原体ではウイルスの感染増殖が成立しやすい、ウイルス感受性が高い細胞が必要となる。PRRSVは肺胞マクロファージを用いて分離され(非特許文献1)、生体から回収したばかりの腹腔マクロファージや末梢血単核球には感染せず、肺胞マクロファージのみが高い感受性を示す(非特許文献2)。このため研究目的のウイルスの分離増殖では、と殺された豚の肺から回収した肺胞マクロファージが用いられている。
【0005】
しかしながら、肺胞由来マクロファージは、と殺した豚の肺から回収するための手間、技術、設備が必要となり、また回収した肺胞マクロファージの状態に個体差が大きく影響することも多かった。
【0006】
一方、PRRSVが適応すれば別種の細胞でも増殖し、日本国内で使用可能なPRRSVの生弱毒化ワクチンの製造には、霊長類細胞(MA104,Marc145)又はPRRSVの宿主側受容体(CD163)を強制発現させたげっ歯類細胞が用いられている。
【0007】
しかしながら、Marc145はPRRSV野外株の分離や増殖が困難であるという欠点があった。また、2種類の豚肺胞マクロファージ由来の細胞株に関し、ZMAC1株については細胞の培養が困難であり、また3D4/31株についてはウイルス感染を否定する報告がある(非特許文献3)。
【0008】
このように、PRRSVに対し、高い感染感受性を有し、増殖が可能となる豚マクロファージ由来の不死化細胞が求められているが、未だ十分なものは見出されていない。さらに、PRRSV以外にも、野外株の分離増殖が困難であるとされる豚疾病関連ウイルスも多く、複数のウイルス種の野外株に関し、効率の良い分離増殖が期待できる細胞株が希求されているが、そのような細胞もこれまでなかった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【文献】Collins JE.ら、J.Vet.Diagn.Invest.、1992年4月、4;2:117-126
【文献】Duan X.ら、Arch.Virol.、1997年、142;12:2483-2497.
【文献】Weingartl HM.ら、J.Virol.Methods.、2002年7月、104;2:203
【文献】Takenouchi T.ら、Front Vet Sci.、2017年8月、21;4:132.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、前記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、PRRSV等の豚に感染するウイルスに対して感染感受性が高い、豚由来の不死化マクロファージ細胞を見出し、当該細胞を用いた前記ウイルスの増殖方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、前記目的を達成すべく鋭意研究を重ね、様々な細胞に対する、様々な豚感染ウイルス株を用いた感染試験を行なった。
【0012】
その結果、先ず、本発明者が従前開発した不死化豚腎臓マクロファージ(Immortalized porcine kidney-derived macrophage,IPKM、非特許文献4 参照)は、様々なPRRSV株に対して感受性を有し、これらウイルス株の増殖が可能であることが明らかになった。
【0013】
マクロファージは体内の様々な箇所に存在しており、それぞれは性質が少しずつ異なっている。また、上述のとおり、これまで、PRRSVは宿主と細胞指向性が高く豚の肺胞マクロファージにのみ感染するとされていた。そのため、腎臓マクロファージにPRRSVが感染できるということは到底予期できない驚くべきことであった。
【0014】
さらに、野外株の分離増殖が困難とされ、またマクロファージへの感染は不明であった、豚流行性下痢ウイルス、豚伝染性胃腸炎ウイルス、豚パルボウイルス、日本脳炎ウイルス、オーエスキーウイルス、豚サーコウイルス2型のいずれについても、不死化豚腎臓マクロファージに感染し、増殖できることが明らかになった。
【0015】
このように、様々なタイプの豚感染ウイルスに対し、豚腎臓マクロファージ由来の不死化細胞は、高い感染感受性を有し、また当該ウイルスの増殖が可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0016】
すなわち、本発明は、不死化豚腎臓マクロファージを用いた、豚感染ウイルス又はワクチンの製造方法に関する。さらに、本発明は、不死化豚腎臓マクロファージを用いた、豚感染ウイルスに対する中和抗体の検出方法に関し、具体的には以下のとおりである。
<1> 不死化豚腎臓マクロファージと、豚に感染するウイルス(但し、アフリカ豚コレラウイルスを除く)とを接触させ、当該ウイルスを前記不死化豚腎臓マクロファージにおいて増殖する工程を含む、豚に感染するウイルスの製造方法。
<2> 不死化豚腎臓マクロファージと、豚に感染するウイルス(但し、アフリカ豚コレラウイルスを除く)とを接触させ、当該ウイルスを前記不死化豚腎臓マクロファージにおいて増殖する工程、
増殖した豚に感染するウイルスを単離する工程、及び
単離した豚に感染するウイルスを薬理学上許容される担体又は媒体と混合する工程
を含む、豚に感染するウイルスを含むワクチンの製造方法。
<3> 前記不死化豚腎臓マクロファージは、豚由来の腎臓マクロファージに、SV40ラージT抗原及び豚由来のテロメラーゼ逆転写酵素をコードするレンチウイルスを導入して成る、不死化マクロファージである、<1>又は<2>に記載の製造方法。
<4> 豚に感染するウイルス(但し、アフリカ豚コレラウイルスを除く)に感染している不死化豚腎臓マクロファージ。
<5> 豚由来の腎臓マクロファージに、SV40ラージT抗原及び豚由来のテロメラーゼ逆転写酵素をコードするレンチウイルスを導入して成り、豚に感染するウイルス(但し、アフリカ豚コレラウイルスを除く)に感染している不死化豚腎臓マクロファージ。
<6> 豚に感染するウイルスに対する中和抗体を検出する方法であって、下記工程を含む方法
被検豚から単離された生体試料の存在下、不死化豚腎臓マクロファージと豚に感染するウイルス(但し、アフリカ豚コレラウイルスを除く)とを接触させ、当該ウイルスを前記不死化豚腎臓マクロファージにて増殖させる工程、
増殖した前記ウイルス数を検出する工程、及び
前記工程にて検出されたウイルス数が、前記生体試料非存在下、不死化豚腎臓マクロファージにて増殖したウイルス数と比して、少ない場合、前記生体試料は前記ウイルスに対する中和抗体を含有していると判定する工程。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、豚に感染するウイルスに対して高い感染感受性を有する不死化豚腎臓マクロファージを用いることにより、様々な豚感染ウイルス株を増殖させることが可能となり、当該ウイルスに対するワクチンの開発、製造が可能となる。また、不死化豚腎臓マクロファージを用いることにより、豚感染ウイルスに対する中和抗体の存在の有無を判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】豚腎臓細胞(PK15)、ミドリザル腎臓細胞(Marc145)、不死化豚腎臓マクロファージ(IPKM)、豚肺胞マクロファージ(3D4/31)、マウスマクロファージ(RAW264.7)、マウス腎臓マクロファージ(KM1)に、豚繁殖・呼吸障害症候群ウイルス(PRRSV)の野外株1~5、並びにワクチン株 インゲルバック及びフォステラを各々感染させ、24時間後のウイルスを、免疫蛍光染色にて検出した結果を示す、蛍光顕微鏡写真である。図中において、ウイルスが増殖した細胞は、白く検出されている。
【
図2】PRRSV 野外株2及びインゲルバックを各々、IPKM、Marc145に感染させ、溶解した細胞中のタンパク質をSDS-PAGEにて分離した後、PRRSウイルスNタンパク質抗体を用いたウェスタンブロット解析にて解析した結果を示す、写真である。ウイルスと細胞の組み合わせは3連で行った。図中、「+」は感染区を示し、「―」は非感染区を示す。
【
図3】インゲルバックを、Marc145(黒塗り四角)、IPKM(中抜き丸)に接種し、経時的に培養上清を集め、上清中のウイルス量をリアルタイムPCRで測定した結果を示す、グラフである。横軸は感染後の経過時間、縦軸はゲノム相当数(対数)を示す。
【
図4】PRRSV 野外株3を、Marc145(黒塗り四角)、IPKM(中抜き丸)に接種し、経時的に培養上清を集め、上清中のウイルス量をリアルタイムPCRで測定した結果を示す、グラフである。横軸は感染後の経過時間、縦軸はゲノム相当数(対数)を示す。
【
図5】オーエスキーウイルスの生ワクチンウイルス液をIPKMに接種し、8時間後と48時間後に上清を集め(図中「8時間」、「48時間」)、48時間後は細胞を溶解して(図中「ライセート」)、上清と細胞に含まれるウイルス量をリアルタイムPCRで測定した結果を示す、グラフである。縦軸はサイクル数を示し、数字が小さくなるほどPCRの鋳型量が多いことを表す。
【
図6】日本脳炎ウイルスの生ワクチンウイルス液をIPKMに接種し、8時間後と48時間後に上清を集め(図中「8時間」、「48時間」)、48時間後は細胞を溶解して(図中「ライセート」)、上清と細胞に含まれるウイルス量をリアルタイムPCRで測定した結果を示す、グラフである。縦軸はサイクル数を示し、数字が小さくなるほどPCRの鋳型量が多いことを表す。
【
図7】豚サーコウイルス2型のウイルス液をIPKMに接種し、8時間後と48時間後に上清を集め(図中「8時間」、「48時間」)、48時間後は細胞を溶解して(図中「ライセート」)、上清と細胞に含まれるウイルス量をリアルタイムPCRで測定した結果を示す、グラフである。縦軸はサイクル数を示し、数字が小さくなるほどPCRの鋳型量が多いことを表す。
【
図8】豚流行性下痢ウイルスの生ワクチンウイルス液をIPKMに接種し、8時間後と48時間後に上清を集め(図中「8時間」、「48時間」)、48時間後は細胞を溶解して(図中「ライセート」)、上清と細胞に含まれるウイルス量をリアルタイムPCRで測定した結果を示す、グラフである。縦軸はサイクル数を示し、数字が小さくなるほどPCRの鋳型量が多いことを表す。
【
図9】豚パルボウイルスの生ワクチンウイルス液をIPKMに接種し、8時間後と48時間後に上清を集め(図中「8時間」、「48時間」)、48時間後は細胞を溶解して(図中「ライセート」)、上清と細胞に含まれるウイルス量をリアルタイムPCRで測定した結果を示す、グラフである。縦軸はサイクル数を示し、数字が小さくなるほどPCRの鋳型量が多いことを表す。
【
図10】豚伝染性胃腸炎ウイルスの生ワクチンウイルス液をIPKMに接種し、8時間後と48時間後に上清を集め(図中「8時間」、「48時間」)、48時間後は細胞を溶解して(図中「ライセート」)、上清と細胞に含まれるウイルス量をリアルタイムPCRで測定した結果を示す、グラフである。縦軸はサイクル数を示し、数字が小さくなるほどPCRの鋳型量が多いことを表す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
後述の実施例に示すとおり、不死化豚腎臓マクロファージは、様々な豚に感染するウイルス(豚感染ウイルス)株に対して高い感染感受性を示し、当該ウイルスを増殖させることが可能となる。
【0020】
したがって、本発明は、不死化豚腎臓マクロファージと、豚に感染するウイルス(但し、アフリカ豚コレラウイルスを除く)とを接触させ、当該ウイルスを前記不死化豚腎臓マクロファージにおいて増殖する工程を含む、豚に感染するウイルスの製造方法を提供する。また、本発明は、豚に感染するウイルス(但し、アフリカ豚コレラウイルスを除く)に感染している不死化豚腎臓マクロファージを提供する。
【0021】
(不死化豚腎臓マクロファージ)
本発明において、豚感染ウイルスが感染し、増殖の場となる「不死化豚腎臓マクロファージ」は、豚(哺乳綱鯨偶蹄目イノシシ科の動物)の腎臓に存在するマクロファージが不死化した細胞を意味する。
【0022】
不死化される「豚腎臓マクロファージ」は、当業者であれば公知の手法に沿って調製することができる。例えば、Takenouchi T.ら、Results Immunol.、2014年8月、1巻、4号、62~67ページに記載のとおり、豚新生仔から採取した腎臓から、腎繊維被膜を除去し、腎皮質を単離する。そして、単離した腎皮質をミンチして培養する過程において生じる、単層の細胞シートに緩く接着し、増殖活性を示すマクロファージ様細胞を単離することによって調製することができる。
【0023】
豚腎臓マクロファージを不死化する方法については特に制限はないが、不死化遺伝子を少なくとも1種導入することにより行うことができる。不死化遺伝子としては、例えば、SV40ラージT抗原(SV40T抗原)、テロメラーゼ逆転写酵素(TERT)、Myc、Rasが挙げられるが、SV40T抗原及びTERTを導入することが好ましく、豚マクロファージの不死化効率を高めるという観点から、SV40T抗原及び豚由来のTERTを導入することがより好ましい。
【0024】
不死化遺伝子の導入は、当該遺伝子をコードするベクターを用いることによって行うことができる。ベクターとしては直鎖状でも環状でもよく、例えば、ウイルスベクター、プラスミドベクター、エピソーマルベクター、人工染色体ベクター、トランスポゾンベクターが挙げられる。
【0025】
ウイルスベクターとしては、例えば、レンチウイルス等のレトロウイルスベクター、センダイウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクター、ワクシニアウイルスベクター、ポックスウイルスベクター、ポリオウイルスベクター、シルビスウイルスベクター、ラブドウイルスベクター、パラミクソウイルスベクター、オルソミクソウイルスベクターが挙げられる。プラスミドベクターとしては、例えば、pcDNA3.1、pA1-11、pXT1、pRc/CMV、pRc/RSV、pcDNAI/Neo等の、動物細胞発現用プラスミドベクターが挙げられる。これらベクターにおいて、豚マクロファージへの遺伝子導入効率を高めるという観点から、レトロウイルスベクターが好ましく、レンチウイルスがより好ましい。
【0026】
本発明に係るベクターには、不死化遺伝子の他に、プロモーター、エンハンサー、ポリA付加シグナル、ターミネーター等の発現制御配列、複製開始点や複製開始点に結合して複製を制御するタンパク質をコードするヌクレオチド配列、5’キャップ構造、シャイン・ダルガノ配列、コザック配列等を含む5’非翻訳領域、ポリアデニレーションシグナル、AUリッチエレメント、GUリッチエレメント等を含む3’非翻訳領域、他のタンパク質をコードするヌクレオチド等を含んでいてもよい。
【0027】
不死化遺伝子は、プロモーターの下流に作動可能に配置することで、各ポリヌクレオチドを効率よく転写することが可能となる。かかる「プロモーター」としては、例えば、EF1αプロモーター、CMVプロモーター、SRαプロモーター、SV40初期プロモーター、LTRプロモーター、RSVプロモーター、HSV-TKプロモーター、MSCVプロモーター、hTERTプロモーター、βアクチンプロモーター、CAGプロモーターメタロチオネインプロモーター、ヒートショックプロモーター等が挙げられる。
【0028】
「他のタンパク質をコードするヌクレオチド」としては、例えば、レポーター遺伝子、薬剤耐性遺伝子等のマーカー遺伝子を挙げることができる。
【0029】
また、複数種の不死化遺伝子を導入する場合には、これら遺伝子を、単一のベクターに組み込んでもよく、各々別々のベクターに組み込んでもよいが、発現効率を高めるという観点から、別々のベクターに組み込むことが望ましい。また、単一のベクターに組み込む際には、例えば、IRES、2Aペプチド配列等を該ベクターに挿入することにより、ポリシストロニックに複数種の不死化遺伝子を発現させることが可能となる。
【0030】
前記ベクターを細胞に導入する方法としては、リポフェクション法、マイクロインジェクション法、リン酸カルシウム法、DEAE-デキストラン法、エレクトロポーレーション法、パーティクルガン法等を挙げることができる。また、本発明のベクターがレトロウイルスベクターである場合、ベクターが有しているLTR配列及びパッケージングシグナル配列に基づいて適切なパッケージング細胞を選択し、これを使用してレトロウイルス粒子を調製してもよい。パッケージング細胞としては、例えば、PG13、PA317、GP+E-86、GP+envAm-12、Psi-Cripが挙げられる。さらに、トランスフェクション効率の高い293細胞や293T細胞をパッケージング細胞として用いることもできる。また、このようにして調製されたウイルス粒子は、Polybrene法、Protamine法、RetroNectin法等によって細胞に導入することができる。
【0031】
このように不死化遺伝子を導入して樹立される不死化豚腎臓マクロファージは、少なくとも1カ月以上の増殖性を示し、好ましくは3カ月以上の増殖性を示し、より好ましくは5カ月以上の増殖性を示す。不死化豚腎臓マクロファージの倍加時間は、少なくとも6日間であり、好ましくは4日間であり、より好ましくは2日間である。また、不死化豚腎臓マクロファージはマクロファージの特性を維持していることが好ましく、例えば、マクロファージ特異的遺伝子 CD172a、CD16、Iba-1、MSR-A、MHC-II及びCD163のうちの少なくとも1の遺伝子が発現しており、好ましくは2の遺伝子が発現しており、より好ましくは4の遺伝子が発現しており、特に好ましくは全ての遺伝子が発現している。また、本発明に係る不死化豚腎臓マクロファージは、マクロファージの特性として、貪食作用、LPS刺激による炎症性サイトカインの産生及びインフラマソーム活性に伴うIL-1β成熟化のうちの少なくとも1の機能を保持しており、好ましくは2の機能を保持しており、さらに好ましくは全ての機能を保持している。本発明においては、上記全ての性質を備え得る、Takenouchi T.ら、Front Vet Sci.、2017年8月、21;4:132.(非特許文献4)に記載の方法によって作製される、豚由来の腎臓マクロファージに、SV40ラージT抗原及び豚由来のテロメラーゼ逆転写酵素をコードするレンチウイルスを導入して成る、不死化マクロファージが、特に好適に用いられる。なお、非特許文献4に記載の方法によって得られる不死化豚腎臓マクロファージは、初代培養の豚マクロファージとは異なり、密に展開して(シート状になって)増殖する。したがって、当該マクロファージは、形態の変化を検出し易いため、後述の感染細胞の変性を指標とする感染試験(CPE試験)においても、有用である。
【0032】
(豚に感染するウイルス)
後述の実施例において示したとおり、豚腎臓マクロファージ由来の不死化細胞は、様々な豚に感染するウイルスに対して高い感染感受性を示し、当該ウイルスを増殖させることができる。したがって、本発明において、「豚に感染するウイルス(豚感染ウイルス)」は、少なくとも豚に感染し得るウイルスであればよく、DNAウイルス(二本鎖(ds)DNAウイルス、一本鎖(ss)DNAウイルス、ss及びdsDNA領域の両方を含有するDNAウイルス)であってもよく、RNAウイルス(一本鎖(ss)RNAウイルス(プラス鎖RNAウイルス又はマイナス鎖RNAウイルス)、二本鎖(ds)RNAウイルス)であってもよい。
【0033】
dsDNAウイルスとしては、例えば、ヘルペスウイルス科、ポックスウイルス科に属するウイルスが挙げられる。ヘルペスウイルス科に属するウイルスとしては、オーエスキー病ウイルス(ヘルペスウイルス科、アルファヘルペスウイルス亜科、ヴァリセロウイルス属に属する)等が挙げられる。ポックスウイルス科に属するウイルスとしては、豚痘ウイルス(ポックスウイルス科、スイポックスウイルス属に属する)、ワクシニアウイルス(ポックスウイルス科に属し、オルソポックスウイルス属に属する)等が挙げられる。
【0034】
ssDNAウイルスとしては、例えば、サーコウイルス科、パルボウイルス科に属するウイルスが挙げられる。サーコウイルス科に属するウイルスとしては、豚サーコウイルス1型、2型(サーコウイルス科、サーコウイルス属に属する)等が挙げられる。パルボウイルス科に属するウイルスとしては、パルボウイルス(パルボウイルス科、パルボウイルス属に属する)等が挙げられる。
【0035】
ssRNA(+)ウイルスとしては、コロナウイルス科、アルテリウイルス科、フラビウイルス科、ピコルナウイルス科、カリシウイルス科、ヘペウイルス科に属するウイルスが挙げられる。コロナウイルス科に属するウイルスとしては、豚流行性下痢ウイルス(TGE)(コロナウイルス科、アルファコロナウイルス属に属する)、豚伝染性胃腸炎ウイルス(PED)(コロナウイルス科、アルファコロナウイルス属に属する)等が挙げられる。アルテリウイルス科に属するウイルスとしては、豚繁殖・呼吸障害症候群ウイルス(アルテリウイルス科、ポラルテウイルス(Porartevirus)属(旧名称:アルテリウイルス属)に属する)等が挙げられる。フラビウイルス科に属するウイルスとしては、日本脳炎ウイルス(フラビウイルス科、フラビウイルス属に属する)、豚コレラウイルス(フラビウイルス科、ペスチウイルス属に属する)等が挙げられる。ピコルナウイルス科に属するウイルスとしては、脳心筋炎ウイルス(ピコルナウイルス科、カルディオウイルス属に属する)、口蹄疫ウイルス(ピコルナウイルス科、アフトウイルス属に属する)、豚水胞病ウイルス(ピコルナウイルス科、エンテロウイルス属に属する)、豚テシオウイルス(ピコルナウイルス科、テシオウイルス属に属する)、豚サペロウイルス(ピコルナウイルス科、サペロウイルス属に属する)、豚エンテロウイルスB(ピコルナウイルス科、エンテロウイルス属に属する)等が挙げられる。カリシウイルス科に属するウイルスとしては、豚水泡疹ウイルス(カリシウイルス科、ベシウイルス属に属する)等が挙げられる。ヘペウイルス科に属するウイルスとしては、E型肝炎ウイルス(ヘペウイルス科、ヘペウイルス属に属する)等が挙げられる。
【0036】
ssRNA(-)ウイルスとしては、パラミクソウイルス科、オルトミクソウイルス科、ラブドウイルス科に属するウイルスが挙げられる。パラミクソウイルス科に属するウイルスとしては、ニパウイルス(パラミクソウイルス科、へニパウイルス属に属する)、リンデルウイルス(パラミクソウイルス科、モルビリウイルス属に属する)等が挙げられる。オルトミクソウイルス科に属するウイルスとしては、豚インフルエンザウイルス、鳥インフルエンザウイルスが挙げられる。ラブドウイルス科に属するウイルスとしては、水疱性口炎ウイルス(ラブドウイルス科、ベシクロウイルス属に属する)、狂犬病ウイルス(ラブドウイルス科、リッサウイルス属に属する)等が挙げられる。
【0037】
上記例のとおり、豚に感染し得るウイルスであれば、その感染症状(例えば、消化器官症状、呼吸器症状)に限定されることなく、また感染経路(例えば、粘膜)も限定されるものではない。
【0038】
また、「アフリカ豚コレラウイルス」は、アスファウイルス科アスフィウイルス属に属する二本鎖DNAをゲノムに有するウイルス(Asfarviridae Asfivirus)を意味する。
【0039】
(豚感染ウイルスの製造方法)
本発明の豚感染ウイルスの製造方法(増殖方法、増幅方法)は、不死化豚腎臓マクロファージと、豚感染ウイルス(但し、アフリカ豚コレラウイルスを除く)とを接触させ、当該ウイルスを前記不死化豚腎臓マクロファージにおいて増殖する工程を含む、方法である。
【0040】
不死化豚腎臓マクロファージに接触させる豚感染ウイルスについては、上述のとおりであるが、単離された当該ウイルス自体のみならず、前記ウイルスを含み得る試料であってもよい。かかる「試料」としては、豚由来の組織、細胞、それらの培養物、洗浄液、若しくは抽出物、又は豚の飼育環境(飼育施設等)の採取物、洗浄液若しくはそれらの培養物が挙げられる。
【0041】
「接触」は、不死化豚腎臓マクロファージを培養する培地に、豚感染ウイルスを添加することによって、通常行われる。かかる「培地」としては、不死化豚腎臓マクロファージを維持できる培地であれば特に制限はなく、公知の基礎培地を基に周知慣用の培地添加物を適宜添加することによって調製することができる。「基礎培地」としては、DMEM培地、DMEM培地(高グルコース)、DMEM培地(低グルコース)、RPMI 160培地、RPMI 1640培地、ハムF12培地、KSOM培地、イーグルMEM培地、グラスゴーMEM培地、αMEM培地、ハム培地、フィッシャーズ培地、BME培地、BGJb培地、CMRL 1066培地、MEM Zincオプション改善培地、IMDM培地、メヂィウム199培地、及びこれら任意の混合培地が挙げられる。「培地添加物」としては、例えば、抗生物質(ペニシリン、ストレプトマイシン、ゲンタマイシン等)、抗真菌薬、機能性タンパク質(インスリン、トランスフェリン、ラクトフェリン等)、還元剤(2-メルカプトエタノール、モノチオグリセロール、カタラーゼ、スーパーオキシドジスムターゼ、N-アセチルシステイン等)、脂肪酸以外の脂質(コレステロール等)、アミノ酸(アラニン、L-グルタミン、非必須アミノ酸等)、ペプチド(グルタチオン、還元型グルタチオン等)、ヌクレオチド等(ヌクレオシド、シチジン、アデノシン5’-一リン酸、ヒポキサンチン、チミジン等)、金属塩(硝酸鉄(III)、硫酸鉄(II)、硫酸銅、硫酸亜鉛等)、無機塩類(ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、リン、塩素等)、炭素源(グルコース、ガラクトース、フルクトース、スクロース等)、ビタミン、無機化合物(亜セレン酸)、有機化合物(パラアミノ安息香酸、エタノールアミン、コルチコステロン、プロゲステロン、リポ酸、プトレシン、ピルビン酸、乳酸、トリヨードチロニン等)、緩衝化合物(HEPES、重炭酸ナトリウム等)、pH指示薬(フェノールレッド等)が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0042】
豚感染ウイルスの「増殖」は、当該ウイルスが接触し、感染した不死化豚腎臓マクロファージを培養することによって行うことができる。培養温度としては、特に限定されるものではないが、通常30~40℃、好ましくは37℃である。培地に接触する気体中の二酸化炭素の濃度としては、特に限定されるものではないが、通常1~10体積%であり、好ましくは2~5体積%である。豚感染ウイルスと接触させてからの培養期間としては、特に限定されるものではないが、通常1~10日間、好ましくは2~7日間、より好ましくは3~5日間である。
【0043】
豚感染ウイルスが増殖したかどうかは、当業者であれば公知の方法により判断することができる。かかる方法としては、例えば、後述の実施例に示すような、細胞変性効果(CPE)を指標とするCPE試験、さらには、CPEに伴う細胞内ATP枯渇の程度を検出する方法(例えば、プロメガ社が提供するViral ToxGloアッセイ)が挙げられる。また、豚感染ウイルスに由来する遺伝子又はその発現を検出する方法も利用することができる。ここで、遺伝子の発現は、転写レベル(RNAレベル)であっても翻訳レベル(タンパク質レベル)であってもよい。遺伝子(ゲノムDNA、ゲノムRNA)又はRNAを検出する方法としては、例えば、PCR(RT-PCR、リアルタイムPCR、定量PCR)、シーケンシング、DNAマイクロアレイ解析法、ノーザンブロッティング又はサザンブロッティング、in situ ハイブリダイゼーション、ドットブロット、RNaseプロテクションアッセイ法、質量分析法が挙げられる。また、所謂次世代シークエンシング法においてリード数をカウントすることにより、遺伝子又はRNAレベルを定量的に検出することができる。また、タンパク質を検出する方法としては、例えば、ELISA法、抗体アレイ、イムノブロッティング、イメージングサイトメトリー、フローサイトメトリー、ラジオイムノアッセイ、免疫沈降法、免疫組織化学的染色法等の抗体を用いて検出する方法(免疫学的手法)や、質量分析法が挙げられる。
【0044】
(ワクチンの製造方法)
本発明の豚感染ウイルスを含むワクチンの製造方法は、不死化豚腎臓マクロファージと、豚感染ウイルスを接触させ、当該ウイルスを前記不死化豚腎臓マクロファージにおいて増殖する工程、
増殖した豚感染ウイルスを単離する工程、及び
単離した豚感染ウイルスを薬理学上許容される担体又は媒体と混合する工程
を含む、方法である。
【0045】
当該ウイルスを前記不死化豚腎臓マクロファージにおいて増殖する工程については上述のとおりである。増殖した豚感染ウイルスの「単離」とは、前記不死化豚腎臓マクロファージ及び/又は当該細胞の培養培地からの分離、精製及び/又は濃縮を意味する。前記ウイルスの単離方法としては、例えば、培養培地のろ過、細胞の破砕(超音波処理、低張液処理、凍結融解等)、遠心分離(超遠心法、密度勾配遠心法等)、濃縮(硫酸アンモニウム、樹脂カラム、ポリエチレングリコール塩析等)が挙げられる。
【0046】
このようにして単離された豚感染ウイルスは、そのままワクチン(所謂、生ワクチン)として用いてもよく、弱毒化生形態(所謂、生弱毒化ウイルス)で用いてよく、不活化形態でワクチンとして用いてもよい。さらに、免疫原性を有する限り、これら単離された豚感染ウイルスの一部(タンパク質、ポリペプチド、糖、糖タンパク質、脂質、核酸等)をワクチンとして用いてもよい。
【0047】
生弱毒化ウイルスは、野外から分離されたウイルスと比較して低減した毒性レベルを有するウイルスである。弱毒化ウイルスは、公知の方法、例えば、突然変異誘発物質の存在下での増殖、インビトロでの連続〈長期間)継代による培養細胞への馴化、自然生育環境から逸脱した条件下(例えば、高温条件下)での増殖に豚感染ウイルスを供することによって得ることができる。また、ゲノム編集、遺伝子改変技術等を用いて、ウイルスの特定遺伝子を欠損又は組み換えることによっても、生弱毒化ウイルスを得ることができる。
【0048】
ウイルスの不活化も、当業者であれば、公知の方法を用いて行うことができる。かかる不活化の方法としては、ホルムアルデヒド処理、UV照射、X線照射、電子線照射、ガンマ線照射、アルキル化処理、エチレン-イミン処理、チメロサール処理、β-プロピオラクトン処理、グルタルアルデヒド処理が挙げられる。
【0049】
単離した豚感染ウイルスに混合する「薬理学上許容される担体」としては、例えば、安定剤、賦形剤、防腐剤、界面活性剤、キレート剤、結合剤が挙げられる。「薬理学上許容される媒体」としては、例えば、水、生理食塩水、リン酸緩衝液、Tris-HCl緩衝液が挙げられる。これら担体及び媒体は、当業者であれば、ワクチンの剤型、使用方法に応じて、当該分野に用いられる公知の物を適宜又は組み合わせて選択して用いることができる。また、ワクチンの形態としては、特に制限はなく、例えば、懸濁液の形態であってもよく、凍結乾燥された形態であってもよい。
【0050】
ワクチン効果を増強するという観点から、更にアジュバントを混合してもよい。アジュバントとしては、例えば、アルミニウムゲルアジュバント等の無機物質、微生物若しくは微生物由来物質(BCG、ムラミルジペプチド、百日せき菌、百日せきトキシン、コレラトキシン等)、界面活性作用物質(サポニン、デオキシコール酸等)、油性物質(鉱油、植物油、動物油等)のエマルジョン、ミョウバン等が挙げられる。
【0051】
(中和抗体の検出方法)
本発明の豚に感染するウイルスに対する中和抗体を検出する方法は、
被検豚から単離された生体試料の存在下、不死化豚腎臓マクロファージと豚に感染するウイルス(但し、アフリカ豚コレラウイルスを除く)とを接触させ、当該ウイルスを前記不死化豚腎臓マクロファージにて増殖させる工程、
増殖した前記ウイルス数を検出する工程、及び
前記工程にて検出されたウイルス数が、前記生体試料非存在下、不死化豚腎臓マクロファージにて増殖したウイルス数と比して、少ない場合、前記生体試料は前記ウイルスに対する中和抗体を含有していると判定する工程を、含む方法である。
【0052】
本発明にかかる「中和抗体」とは、豚感染ウイルスの感染又は増殖を抑制する抗体を意味する。また、かかる抗体は、免疫グロブリンの全てのクラス及びサブクラスを含む。また、「被検豚」については、豚感染ウイルスの感染経験を問わず、豚であれば特に制限はない。被検豚から単離された「生体試料」としては、豚由来の試料(例えば、血液(血清、血漿等)、粘液(唾液、鼻汁、乳汁、消化管分泌液等)、及びそれらから精製された抗体)が挙げられる。
【0053】
「接触」については上述のとおりである。増殖の条件に関し、培養温度としては、特に限定されるものではないが、通常30~40℃、好ましくは37℃である。培地に接触する気体中の二酸化炭素の濃度としては、特に限定されるものではないが、通常1~10体積%であり、好ましくは2~5体積%である。生体試料存在下又は非存在下における培養期間としては、特に限定されるものではないが、通常1~10日間、好ましくは2~7日間、より好ましくは3~5日間である。また、増殖したウイルスは、上述のとおり、CPE試験等や、豚感染ウイルスに由来する遺伝子又はその発現を検出することにより、検出することができる。このように、本発明の検出方法においては、ウイルス数自体のみならず、ウイルス数を反映する前記遺伝子(ゲノムDNA量等)又はその発現レベルを指標として、中和抗体の存在の有無を判定してもよい。
【実施例】
【0054】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0055】
(実施例1)
不死化豚腎臓マクロファージ(IPKM)及びマウス腎臓マクロファージ(KM1)を、MG培地(組成:DMEM(シグマ社製)、10%牛胎児血清(FBS)、0.1%ウシ・インシュリン(シグマ社製)、0.5%メルカプトエタノール(和光株式会社製)、1%ペニシリン/ストレプトマイシン(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)、200mg/L ゲンタマイシン(和光株式会社製))にて維持した。豚腎臓細胞(PK15)を、10%FBSを含むMEM(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)にて、ミドリザル腎臓細胞(Marc145)を、5%FBSを含むMEM(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)にて、各々維持した。豚肺胞マクロファージ(3D4/31)を、シグマ社製のRPMI1640(10%FBS、2mM グルタミン、4.5g/L グルコース、1.5g/L NaHCO3、10mM HEPES、1mM ピルビン酸ナトリウム、0.1mM 非必須アミノ酸 含有)にて維持した。マウスマクロファージ(RAW264.7)を10%FBSを含むDMEM(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)にて維持した。
【0056】
そして、IPKM、KM1及びRAW264.7は、各々2x105細胞/ウェルになるよう、Marc145、PK15及び3D4/31は、各々2x104細胞/ウェルになるよう、8ウェルチャンバースライドに播種して37℃、5%CO2、飽和水蒸気下で培養した。
【0057】
播種翌日に、農場由来でクラスターの異なる、PRRSV野外株1(クラスターII)、PRRSV野外株2(クラスターIII)、PRRSV野外株3(クラスターIV)、PRRSV野外株4(クラスターIV)及びPRRSV野外株5(クラスターIV)のウイルス液10μLを各々前記細胞に接種した。また、ワクチン株としてベーリンガーインゲルハイム社のインゲルバック(クラスターII)及びゾエティス社のフォステラ(クラスターI)の生弱毒化ワクチンウイルス液10μLを各々前記細胞に接種した。そして、37℃、5%CO2、飽和水蒸気下で培養した。
【0058】
ウイルス接種から20~24時間後に、前記ウイルスを感染させた細胞を、80%アセトン(20% リン酸緩衝生理食塩水(PBS))で固定した。次いで、PBST(0.1% Triton-X100含有PBS)とPBSで洗浄し、イムノブロック(DSファーマ社製)でブロッキングした後、一次抗体として、抗PRRSウイルスMタンパク質抗体(GeneTex社製)を用い、二次抗体として、alexa Fluor488標識ヤギ由来抗ウサギIgG(Thermo fisher scientific社製)を用い、前記細胞を免疫染色した。そして、蛍光顕微鏡(Nikon社製)で細胞を撮影し、免疫蛍光染色により、ウイルス感染増殖が起きた細胞を緑色蛍光陽性細胞として検出した。得られた結果を
図1に示す。
【0059】
図1に示した結果から明らかなように、各種細胞と複数のPRRSV株の組み合わせによる感染試験のうち、全ての株について感染を示す陽性細胞が検出されたのはIPKMのみであった。
【0060】
一方、豚肺胞マクロファージとして米国の細胞バンクに登録されている3D4/31では全ての株に対して陽性細胞が検出されなかった。H.M.Weingartlら、Journal of Virological Methods,104:203-216(2002)においても同様の報告がされており、自然環境において、PRRSVは豚肺胞マクロファージへの細胞指向性を示すものの、3D4/31にはPRRSVは感染しないことが確認された。
【0061】
また、豚腎臓細胞(PK15)や2つのマウスマクロファージ〈KM1、RAW264.7)においても陽性細胞は検出されなかった。
【0062】
さらに図には示していないが、全てのPRRSV株が、不死化された豚血液マクロファージに感染したが、同じ細胞数に同じウイルス量を感染させたにも関わらず陽性細胞数はIPKMよりも少なかった。
【0063】
Marc145においては、ワクチン株インゲルバックと一部の野外株においては陽性細胞が検出されたが、前述のとおり、使用した野外株全てにおいて最も良好な感染増殖を示したのはIPKMであった。また、PRRSVのクラスターを問わず、IPKMで増殖することが明らかとなり、IPKMにおいて、PRRSVの分類に依らず、感染増殖が可能となることが示唆された。
【0064】
(実施例2)
IPKM又はMarc145を、24ウェルプレートに、3x105細胞/ウェル/2mLになるよう各々播種し、翌日にインゲルバック(生ワクチンウイルス液 200μL)、野外株2(ウイルス液 100μL)を接種し、37℃、5%CO2、飽和水蒸気下で1時間静置した。
【0065】
ウイルス接種から1時間後に細胞表面を無血清培地で1回洗い、2mLのMEM(1%FBS)を加えて37℃、5%CO2、飽和水蒸気下で培養した。インゲルバックは24時間後に、野外株2は24時間後に、各細胞を200μLの哺乳類タンパク質抽出バッファー(GEヘルスケア社製)で溶解し、遠心して不溶物を除去した。
【0066】
遠心後の上清に1/4量のLaemmliサンプルバッファーを添加してボイルし、Marc145については5μL、IPKMについては25μLを各々、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動に供した。泳動後、分離したタンパク質をPVDF膜(製品名:Immobilon-P、GEヘルスケア社製)に転写した。転写した膜をブロッキング(製品名:ブロッキングワン、ナカライテスク社製)し、一次抗体として、抗PRRSウイルスNタンパク質抗体(GeneTex社製)を用い、二次抗体として、HRP標識抗ウサギIgG抗体(Millipore社製)を用い、反応させた。抗体を反応させた膜を化学発光試薬(製品名:ECL select、GEヘルスケア社製)で処理し、化学発光スキャナー(製品名:C-DiGit blot scanner、LI-CORバイオサイエンス社製)を用い、ウェル中の全細胞を溶かした溶液中のウイルスタンパク質を検出した。得られた結果を
図2に示す。なお、
図2に示すとおり、いずれの細胞とウイルスの組み合わせも3連で実施し、検出されたバンドの濃度はほぼ均一であることから結果の信頼性は高い。
【0067】
図2に示した結果から明らかなように、Marc145の細胞溶解液からは野外株2のNタンパク質を検出できなかった。一方、インゲルバック感染後24時間のMarc145において、検出可能なレベルのNタンパク質産生が認められた。インゲルバックは、Marc145の親株であるMA104で増殖させたウイルスであるため、インゲルバックがMarc145で良好な増殖を示すのは当然の結果といえる。
【0068】
一方、上記免疫染色では、検出感度が高いため、感染が認められていたものの(
図1参照)、IPKMの細胞溶解液からはインゲルバック由来のNタンパク質を検出できなかった。しかしながら、播種した細胞数や感染させたウイルス量が同じであるにも関わらず、驚くべきことに、インゲルバック感染例とは逆に、野外株2はウイルス接種から48時間後にIPKMで検出可能なレベルのNタンパク質産生が認められた。
【0069】
これらのことから、IPKMはPRRSV野外株の増殖効率が良いことが明らかになった。
【0070】
(実施例3)
IPKM又はMarc145を、6ウェルプレートに、3x105細胞/ウェル/2mLになるように播種し、翌日に、インゲルバック(生ワクチンウイルス液 100μL)、野外株3(ウイルス液 100μL)を接種して37℃、5%CO2、飽和水蒸気下で1時間静置した。ウイルス接種から1時間後に細胞表面をPBSで3回洗い、2.2mLの1%MEMを加え、直ちに0.2mLの培地を回収した。感染後14、16、20、24、38.5時間に0.2mLの培地を加えて良く混合した後、0.2mLの培養上清を回収した。
【0071】
回収した培地から、核酸精製キット(製品名:Maxwell(登録商標)16 ウイルストータル核酸精製キット、Promega社製)を用いて核酸を抽出し、M-MLV逆転写酵素(Promega社製)とランダムプライマー及びdTプライマーとを用い、逆転写反応を行った。得られた逆転写産物を鋳型とし、SiposらViral immunology 16;335-346(2003)及びEschbaumerらCanadian jounal of veterinary research79;170-179(2015)に記載のプライマーを用い、SYBR(登録商標)プレミックスExTaqII(Takara社製)の反応液をマニュアルに従って調製し、CFX96 Touch Deep WellリアルタイムPCR解析システム(BIO-RAD社製)を用い、PRRSV遺伝子の検出を行った。すなわち、リアルタイムPCRで培養上清中のPRRSウイルス遺伝子を検出することにより、培地中に放出された子孫ウイルス量をモニターした。得られた結果を
図3及び4に示す。
【0072】
図3及び4に示すとおり、IPKM及びMarc145共に、感染直後に回収した培地に比べ、時間の経過と共に培養上清中のウイルス遺伝子量の増加が認められた。
【0073】
インゲルバックを感染させたMarc145の培養上清中には、子孫ウイルス由来の遺伝子が経時的に増加していた。上述のとおり、インゲルバックはMarc145の親株で増殖させたウイルスであるため、インゲルバックがMarc145で良好な増殖を示すのは当然であるが、驚くべきことに、IPKMにおいて、そのMarc145同様のインゲルバック増殖が可能であることが明らかとなった。
【0074】
一方、野外株3はMarc145においてほぼ増殖しなかった。しかしながら、IPKMにおいては、野外株3の経時的な増殖が認められた。
【0075】
これらのことから、IPKMでは野外株の子孫ウイルスが効率良く増殖できることが明らかとなった。
【0076】
(実施例4)
IPKM又はMarc145を、96ウェルプレートに、8x104細胞/ウェル/0.1mLになるよう播種し、翌日に常法の分離操作を行った32株のウイルス培養上清を10μL接種して37℃、5%CO2、飽和水蒸気下で48時間静置した。なお、32株の内訳は、肺乳剤から分離した株が6株、血清から分離した株が24株、ワクチン株インゲルバックが1株、日本標準株が1株となる。ウイルス接種から48時間後に目視で細胞の形態の変化(細胞変性効果)の有無を判定した。得られた結果を表1に示す。なお、表1において、細胞変性効果が観察された株を+(プラス)とし、変化が見られなかった株を―(マイナス)としてカウントした。
【0077】
【0078】
表1に示すとおり、ワクチン株インゲルバックを含む32株の感染に対し、IPKMは11株で細胞変性効果が見られた。一方、Marc145への感染で細胞変性効果を示したのは6株であった。より具体的には、IPKMとMarc145とにおいて、共通して細胞変性効果が示された株は5株(血清から分離した4株、肺乳剤から分離した1株)あり、IPKMのみにおいて、細胞変性効果が示された株は6株(血清から分離した5株、肺乳剤から分離した1株)あり、Marc145のみにおいて、細胞変性効果が示された株はワクチン株の1株のみであった。したがって、IPKMは、Marc145よりも約2倍の株数で細胞変性効果を示したことになり、IPKMの野外株分離増殖効率の高さが示された。
【0079】
(実施例5)
IPKM又はMarc145を、6ウェルプレートに、3x105細胞/ウェル/2mLになるよう播種した。その翌日に、農場由来でクラスターの異なる、野外株1(クラスターII)、野外株2(クラスターIII)、野外株3(クラスターIV)及び野外株4(クラスターIV)のウイルス液100μLを各々前記細胞に接種した。また、ワクチン株としてベーリンガーインゲルハイム社のインゲルバック(クラスターII)及びゾエティス社のフォステラ(クラスターI)の生ワクチンウイルス液100μLを各々前記細胞に接種した。そして、37℃、5%CO2、飽和水蒸気下で1時間静置した。
【0080】
ウイルス接種から1時間後に、細胞表面を無血清培地で1回洗い、2mLのMEM(1%FBS含有)を加えて37℃、5%CO2、飽和水蒸気下で培養した。感染から3~4日後にそれぞれのウェルの培地を回収し、そのうちの100μLを、回収元と接種先の細胞とウイルスの組み合わせが対応するように、前日に6ウェルプレートに播種したIPKM又はMarc145に接種した。
【0081】
回収した培地を接種してから1時間静置後に、細胞表面を無血清培地で1回洗い、MEM(1%FBS含有)に培地を置換し、3~4日間、37℃、5%CO2、飽和水蒸気下で培養した。そして、当該培養を10回まで繰り返した。
【0082】
そして、各継代の際に回収した培地から、核酸精製キット(製品名:Maxwell(登録商標)16 ウイルストータル核酸精製キット、Promega社製)を用いて核酸を抽出し、M-MLV逆転写酵素(Promega社製)とランダムプライマー及びdTプライマーとを用い、逆転写反応を行った。得られた逆転写産物を鋳型とし、ExTaqII(Takara社製)の反応液をマニュアルに従って調製し、T100サーマルサイクラー(BIO-RAD社製)を用い、PRRSV遺伝子の増幅を行った。
【0083】
得られたPCR産物を、1xTris-borate-EDTA(TBE)バッファー(89mM Tris、89mM ホウ酸及び2mM EDTA含有緩衝液)中の1%アガロースゲルにおける電気泳動に供し、ゲルレッド(Biotium社製)にて染色した。次いで、トランスイルミネーター下でPCR産物由来のバンドを可視化し、目的サイズのPCR産物の有無を判定した。
【0084】
なお、6株のPRRSVそれぞれについて2つのプライマーセットでPCRによる増幅の有無を検出した。そして、12種類のPCR産物中、増幅が確認された産物数の割合(百分率)を算出した。得られた結果を表2に示す。
【0085】
【0086】
表2に示した結果から明らかなように、IPKMに接種したウイルス株全てにおいて、全ての継代段階で2種類のPCR産物が検出された。一方、IPKMと同様に接種したMarc145では、全ての継代段階でPCR産物が検出されたのはインゲルバックのみであった。また、Marc145において5継代目で検出された2つの野外株由来のPCR産物について塩基配列を解読したところ、図表には示さないが、ストップコドンが出現する変異が検出された。
【0087】
(実施例6)
IPKMを、6ウェルプレートに、3x105細胞/ウェル/2mLになるよう、播種した。翌日に豚流行性下痢ウイルス(日生研PED生ワクチン、日生研)、豚伝染性胃腸炎ウイルス(豚伝染性胃腸炎生ウイルス乾燥予防液、化血研)、豚パルボウイルス(“京都微研”豚パルボ生ワクチン、京都微研)、日本脳炎ウイルス(“京都微研”日本脳炎ワクチン、京都微研)、オーエスキーウイルス(ポーシリス Begonia DF・50、インターベット)の生ワクチンウイルス液又は豚サーコウイルス2型のウイルス液を各々100μL接種し、37℃、5%CO2、飽和水蒸気下で2時間静置した。
【0088】
各ウイルス接種から2時間後に、細胞表面を無血清培地で1回洗い、2mLのMEM(1%FBS含有)を加えた。そして、感染後8時間、48時間において、0.2mLずつ培地を回収した。
【0089】
感染後48時間においては、細胞を哺乳類タンパク質抽出バッファー(GEヘルスケア社製)で溶解した。次いで、得られた細胞溶解液と、回収した培地から、核酸精製キット(製品名:Maxwell(登録商標)16 ウイルストータル核酸精製キット、Promega社製)を用いて核酸を抽出し、M-MLV逆転写酵素(Promega社製)とランダムプライマー及びdTプライマーとを用い、逆転写反応を行った。得られた逆転写産物を鋳型とし、各ウイルスに対応したプライマーセットを用い、SYBR(登録商標)プレミックスExTaqII(Takara社製)の反応液をマニュアルに従って調製し、CFX96 Touch Deep WellリアルタイムPCR解析システム(BIO-RAD社製)を用い、各ウイルスの遺伝子検出を行った。得られた結果を
図5~10に示す。
【0090】
なお、豚流行性下痢ウイルス及び豚伝染性胃腸炎ウイルスの遺伝子は、Kim et al.(2007)J.virol.Meth.146(1-2)172-177に記載のプライマーセットを用いて増幅した。豚パルボウイルスの遺伝子は、Kim et al.(2003) J Vet Med Sci 65(6):741-744に記載のプライマーセットを用いて増幅した。日本脳炎ウイルスの遺伝子は、病原体検出マニュアル(国立感染症研究所)636ページに記載のプライマーセットを用いて増幅した。オーエスキーウイルスの遺伝子は、Belak et al.(1989) Arch Virol:108,279-286に記載のプライマーセットを用いて増幅した。また、豚サーコウイルス2型の遺伝子は、Takahagi Y.,et al.(2008) J.Vet.Med.Sci:70,603-606に記載のプライマーセットを用いて増幅した。
【0091】
図5~10に示した結果から明らかなように、いずれの生ワクチンウイルスにおいても、接種後8時間で回収した培養上清中のウイルス遺伝子よりも、接種後48時間のそれのCt値は小さくなっており、ウイルスの増加が認められた。また、ウイルス液接種後2時間で細胞表面を洗っているにも関わらず、培養上清よりも多量のウイルスが細胞溶解液に検出されたことからも、全てのウイルスがIPKMに感染して増殖できることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0092】
以上説明したように、本発明によれば、豚感染ウイルスに対して高い感染感受性を有する不死化豚腎臓マクロファージを用いることにより、様々な豚感染ウイルス株を増殖させることが可能となり、当該ウイルスに対するワクチンの製造、開発が可能となる。また、不死化豚腎臓マクロファージを用いることにより、豚感染ウイルスに対する中和抗体の存在の有無を判定することができる。