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  • 特許-油剤組成物及びそれを含む化粧料 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-18
(45)【発行日】2023-10-26
(54)【発明の名称】油剤組成物及びそれを含む化粧料
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/44 20060101AFI20231019BHJP
   A61K 8/02 20060101ALI20231019BHJP
   A61Q 1/04 20060101ALI20231019BHJP
   A61Q 1/06 20060101ALI20231019BHJP
【FI】
A61K8/44
A61K8/02
A61Q1/04
A61Q1/06
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2019065391
(22)【出願日】2019-03-29
(65)【公開番号】P2020164446
(43)【公開日】2020-10-08
【審査請求日】2021-11-05
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000066
【氏名又は名称】味の素株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 七重
(72)【発明者】
【氏名】ビスワス シュヴェンドゥ
(72)【発明者】
【氏名】大野 詩織
【審査官】片山 真紀
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-275697(JP,A)
【文献】特開2015-193607(JP,A)
【文献】特開2013-194035(JP,A)
【文献】特開2008-115110(JP,A)
【文献】特開2014-024760(JP,A)
【文献】特開2017-014148(JP,A)
【文献】特開2017-039669(JP,A)
【文献】特開2011-195554(JP,A)
【文献】特開2010-030959(JP,A)
【文献】特開2009-234991(JP,A)
【文献】特開2009-073797(JP,A)
【文献】特開2017-071601(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K8/00-8/99
A61Q1/00-90/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
融点が33℃より高いラウロイルグルタミン酸ジエステル混合物、融点が20~32℃のラウロイルグルタミン酸ジエステル混合物、及び融点が-20℃以下のラウロイルグルタミン酸ジエステル混合物からなる群より選ばれる2種以上の混合物から実質的になる油剤組成物であって、
33℃における複素粘性率が1~25000Pa・sであり、
粘性(G”)と弾性(G’)値の比(tanδ=G”/G’)が100以下であり、
口唇化粧料用の、油剤組成物。
【請求項2】
前記2種以上のラウロイルグルタミン酸ジエステル混合物の1種が少なくとも10質量%より高い量で含まれ、別の1種が少なくとも10質量%より高い量で含まれる、請求項1に記載の油剤組成物。
【請求項3】
融点が33℃より高いラウロイルグルタミン酸ジエステル混合物を10質量%よりも高く90質量%未満含み、融点が20~32℃のラウロイルグルタミン酸ジエステル混合物を10質量%よりも高く90質量%未満含む、請求項2に記載の油剤組成物。
【請求項4】
融点が33℃より高いラウロイルグルタミン酸ジエステル混合物を10質量%よりも高く90質量%未満含み、融点が-20℃以下のラウロイルグルタミン酸ジエステル混合物を10質量%よりも高く90質量%未満含む、請求項2に記載の油剤組成物。
【請求項5】
融点が20~32℃のラウロイルグルタミン酸ジエステル混合物を10質量%よりも高く90質量%未満含み、融点が-20℃以下のラウロイルグルタミン酸ジエステル混合物を10質量%よりも高く90質量%未満含む、請求項2に記載の油剤組成物。
【請求項6】
融点が33℃以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載の油剤組成物。
【請求項7】
融点が33℃より高いラウロイルグルタミン酸ジエステル混合物が、N-ラウロイル-L-グルタミン酸と2種以上のアルコールを含む混合アルコールとを反応させて得られたものである、請求項1~6のいずれか1項に記載の油剤組成物。
【請求項8】
前記混合アルコールが、2-オクチルドデシルアルコール又はイソステアリルアルコールと、フィトステリルアルコールと、ベヘニルアルコールとの混合アルコールである、請求項に記載の油剤組成物。
【請求項9】
融点が20~30℃のラウロイルグルタミン酸ジエステル混合物が、N-ラウロイル-L-グルタミン酸と2種以上のアルコールを含む混合アルコールとを反応させて得られたものである、請求項1~のいずれか1項に記載の油剤組成物。
【請求項10】
前記混合アルコールが、2-オクチルドデシルアルコール又はイソステアリルアルコールと、フィトステリルアルコールと、ベヘニルアルコールとの混合アルコールである、請求項に記載の油剤組成物。
【請求項11】
融点が-20℃以下のラウロイルグルタミン酸ジエステル混合物が、N-ラウロイル-L-グルタミン酸と2種以上のアルコールを含む混合アルコールとを反応させて得られたものである、請求項1~10のいずれか1項に記載の油剤組成物。
【請求項12】
前記混合アルコールが、2-オクチルドデシルアルコール又はイソステアリルアルコールと、フィトステリルアルコールとの混合アルコールである、請求項11に記載の油剤組成物。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか1項に記載の油剤組成物を含み、更に顔料及び色素の少なくとも1種を含む、口唇化粧料。
【請求項14】
請求項1~12のいずれか1項に記載の油剤組成物を含み、更に融点が40℃以上の油ゲル化剤を含むスティック状口唇化粧料。
【請求項15】
更に顔料及び色素の少なくとも1種を含む請求項14に記載のスティック状口唇化粧料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油剤組成物、詳細には口紅の使用感と安定性を向上できる油剤組成物及びそれを含む化粧料に関する。
【背景技術】
【0002】
口紅を口唇表面に塗布した際、口紅中の高粘度油剤が口唇表面温度(約33℃)以下で溶融すると、口紅中の成分が口唇表面に均一に広がり、均一な付着により口唇表面をきれいの見せることができる。更に、ある程度の粘度のある油剤が口唇表面温度以下で溶融すると、口紅を口唇に塗布する際、とろけるような滑らかな感触(密着感と滑り感の同時作用によって得られる感触)を得ることができる。しかし、油剤の融点が低すぎる場合、このようなとろける感触を得ることが難しくなる。更に、融点が低すぎる油剤を口紅に配合すると十分に折れ強度の高い口紅を得ることが難しく、使用中に口紅が折れてしまうという課題があった。
口紅の折れ強度を上げるために、口紅に高融点のワックス(50℃以上の融点を持つワックス)を配合することが一般的に知られている。しかし、高融点のワックスを高濃度で配合すると感触が重くなるという課題があった。更に、口唇表面温度以上の融点を有するため口唇表面温度以下では透明性が悪く、口唇に塗布した際、口紅のツヤが悪くなるなどの課題があった。
【0003】
一方、口紅の温度に対する硬度安定性の向上には、比誘電率が2.5未満の高粘度油剤(例えば、水添ポリイソブテン)と柔らかい分岐ワックスの組み合わせが効果的であることが知られている(特開2012-17297号公報)。しかし、ポリブデンのような高粘度油剤を使用すると、口紅の化粧もちが低下することが知られている(特開2009-73797号公報)。更に、マイクロクリスタリンワックスのような透明性が悪い柔らかいワックスは口紅のツヤの低減につながるという課題がある。
口紅の化粧もちを向上させるために、高粘度油剤と高融点のワックス(融点が70℃以上)を同時に配合することが知られている(特開2009-73797号公報)。しかし、口紅の折れ強度やその経時安定性を向上させながらとろけるような滑らかな感触を得ることはできなかった。
つまり、口紅の化粧もちと安定性を向上させながら、べたつきの無いとろけるような滑らかな感触と透明感のあるツヤの実現は難しかった。
【0004】
乳化性、抱水性、保湿力、透湿性、角層のバリア機能を改善する効果に優れ、皮膚に塗布した時にべたつき感が少ない油剤としてN-ラウロイル-L-グルタミン酸とフィトステリルアルコール(環状アルコール、P)、2-オクチルドデシルアルコール(分岐アルコール、OD)及びベヘニルアルコール(直鎖アルコール、B)の混合アルコールのエステル化合物が開発されている(特開平3-275697号公報、特開2013-49633号公報、及び特開平5-286844号公報)。例えば、N-ラウロイル-L-グルタミン酸とフィトステリルアルコール、2-オクチルドデシルアルコール及びベヘニルアルコールの混合アルコールのエステル化合物はラウロイルグルタミン酸ジ(オクチルドデシル/フィトステリル/ベヘニル)のINCI(化粧品原料名)で開発・販売されている。これらの油剤はフィトステリルアルコール(環状アルコール、P)、2-オクチルドデシルアルコール(分岐アルコール、OD)及びベヘニルアルコール(直鎖アルコール、B)のエステルを一定のモル割合((B+OD)/P=2.33)で構造内に含む。しかし、これらの油剤は融点が35℃以上であり、口唇表面温度(約33℃)以下で溶融しないため、口紅に使用した場合、口唇表面に均一に広がりにくく、均一に付着しないなどの課題があった。また、33℃での透明性も悪く、口紅に配合した際、口紅のツヤが悪くなるなどの課題があった。更に、口紅の折れ強度の経時安定性の向上を十分にできない課題もあった。
ラウロイルグルタミン酸ジ(オクチルドデシル/フィトステリル/ベヘニル)の融点を下げるために、例えば仕込み時のアルコールの割合(B/P)を減らすことが知られている(特開2013-49633号公報)。このようにして得られた、融点20℃~32℃のラウロイルグルタミン酸ジ(オクチルドデシル/フィトステリル/ベヘニル)が開発・販売されている。しかし、製造時の仕込み率を変えて融点を33℃以下に下げた油剤においては、口紅に使用した際、口紅の折れ強度の経時安定性を十分に高めることができなかった。更に、このようにして得られた油剤を配合した口紅スティックの滑り性と折れ強度のバランス(=スティックの折れ強度/スティックの動摩擦係数)は十分に高いものではなかった。このように、製造時の仕込み率を変えて融点を33℃以下に下げても、安定性と感触の両立は難しかった。
また、N-ラウロイル-L-グルタミン酸とフィトステリルアルコール(環状アルコール、P)及び2-オクチルドデシルアルコール(分岐アルコール、OD)の混合アルコールのエステル化合物はラウロイルグルタミン酸ジ(フィトステリル/オクチルドデシル)のINCI(化粧品原料名)で開発・販売されている(特開平3-275697号公報、特開2013-49633号公報、及び特開平5-286844号公報)。しかし、これらの油剤は融点が-20℃以下であり、口紅の折れ強度を十分に向上させることができなかった。また、十分な弾性をもっておらず、口紅に使用した場合、口唇表面で口紅成分の膜が口唇の動きで簡単にずれてしまい、十分な化粧もちを得ることができなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2012-17297号公報
【文献】特開2009-73797号公報
【文献】特開平3-275697号公報
【文献】特開2013-49633号公報
【文献】特開平5-286844号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、口紅の使用感(とろけるような滑らかな感触、口唇表面への均一な広がり、透明感のあるツヤ)、安定性(折れ強度の向上、折れ強度の経時安定性の向上など)及び化粧もちの向上に必要な弾性を同時に実現できる油剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題について鋭意研究した結果、融点33℃より高いラウロイルグルタミン酸ジエステル混合物、融点が20~32℃のラウロイルグルタミン酸ジジエステル混合物、及び融点が-20℃以下のラウロイルグルタミン酸ジエステル混合物の中から少なくとも2種類の混合物を混合することで得られる油剤混合物を口紅に使用することで、上記の課題が解決されることを初めて見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、以下に示す油剤組成物及び化粧料を提供するものである。
[1]融点が33℃より高いラウロイルグルタミン酸ジエステル混合物、融点が20~32℃のラウロイルグルタミン酸ジエステル混合物、及び融点が-20℃以下のラウロイルグルタミン酸ジエステル混合物からなる群より選ばれる2種以上の混合物を含む油剤組成物。
[2]前記2種以上のラウロイルグルタミン酸ジエステル混合物の1種が少なくとも10質量%より高い量で含まれ、別の1種が少なくとも10質量%より高い量で含まれる、[1]に記載の油剤組成物。
[3]融点が33℃より高いラウロイルグルタミン酸ジエステル混合物が、N-ラウロイル-L-グルタミン酸と2種以上のアルコールを含む混合アルコールとを反応させて得られたものである、[1]又は[2]に記載の油剤組成物。
[4]前記混合アルコールが、2-オクチルドデシルアルコール又はイソステアリルアルコールと、フィトステリルアルコールと、ベヘニルアルコールとの混合アルコールである、[3]に記載の油剤組成物。
[5]融点が20~30℃のラウロイルグルタミン酸ジエステル混合物が、N-ラウロイル-L-グルタミン酸と2種以上のアルコールを含む混合アルコールとを反応させて得られたものである、[1]~[4]のいずれか1項に記載の油剤組成物。
[6]前記混合アルコールが、2-オクチルドデシルアルコール又はイソステアリルアルコールと、フィトステリルアルコールと、ベヘニルアルコールとの混合アルコールである、[5]に記載の油剤組成物。
[7]融点が-20℃以下のラウロイルグルタミン酸ジエステル混合物が、N-ラウロイル-L-グルタミン酸と2種以上のアルコールを含む混合アルコールとを反応させて得られたものである、[1]~[6]のいずれか1項に記載の油剤組成物。
[8]前記混合アルコールが、2-オクチルドデシルアルコール又はイソステアリルアルコールと、フィトステリルアルコールとの混合アルコールである、[7]に記載の油剤組成物。
[9]33℃における複素粘性率が1~25000Pa・sである、[1]~[8]のいずれか1項に記載の油剤組成物。
[10][1]~[9]のいずれか1項に記載の油剤組成物を含み、更に顔料及び色素の少なくとも1種を含む化粧料。
[11]口唇表面で使用可能な[10]に記載の化粧料。
[12][1]~[9]のいずれか1項に記載の油剤組成物を含み、更に融点が40℃以上の油ゲル化剤を含むスティック状化粧料。
[13]更に顔料及び色素の少なくとも1種を含む[12]に記載のスティック状化粧料。
[14]口唇表面で使用可能な[12]又は[13]に記載のスティック状化粧料。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】油剤混合物の粘弾性のプロファイルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の油剤組成物は、融点が33℃より高いラウロイルグルタミン酸ジエステル混合物、融点が20~32℃のラウロイルグルタミン酸ジエステル混合物、及び融点が-20℃以下のラウロイルグルタミン酸ジエステル混合物からなる群より選ばれる2種以上の混合物を含む。本発明の油剤組成物は、好ましくは融点が33℃以下であり、より好ましくは融点が-15~33℃であり、更に好ましくは、融点が-5~31℃である。また、本発明の油剤組成物は、好ましくは前記2種以上のラウロイルグルタミン酸ジエステル混合物の1種が10質量%より高い量で含まれ、別の1種が10質量%より高い量で含まれる。より好ましくは、本発明の油剤組成物は、前記2種以上のラウロイルグルタミン酸ジエステル混合物の1種が少なくとも20質量%の量で含まれ、別の1種が少なくとも20質量%の量で含まれる。例えば、本発明の油剤組成物は、融点が33℃より高いラウロイルグルタミン酸ジエステル混合物を10質量%よりも高く90質量%未満含み、融点が20~32℃のラウロイルグルタミン酸ジエステル混合物を10質量%よりも高く90質量%未満含む。好ましくは、油剤組成物は、融点が33℃より高いラウロイルグルタミン酸ジエステル混合物を20~80質量%含み、融点が20~32℃のラウロイルグルタミン酸ジエステル混合物を20~80質量%含む。より好ましくは、油剤組成物は、融点が33℃より高いラウロイルグルタミン酸ジエステル混合物を20~40質量%含み、融点が20~32℃のラウロイルグルタミン酸ジエステル混合物を60~80質量%含む。また、例えば、本発明の油剤組成物は、融点が33℃より高いラウロイルグルタミン酸ジエステル混合物を10質量%よりも高く90質量%未満含み、融点が-20℃以下のラウロイルグルタミン酸ジエステル混合物を10質量%よりも高く90質量%未満含む。好ましくは、油剤組成物は、融点が33℃より高いラウロイルグルタミン酸ジエステル混合物を20~80質量%含み、融点が-20℃以下のラウロイルグルタミン酸ジエステル混合物を20~80質量%含む。より好ましくは、油剤組成物は、融点が33℃より高いラウロイルグルタミン酸ジエステル混合物を20~40質量%含み、融点が-20℃以下のラウロイルグルタミン酸ジエステル混合物を60~80質量%含む。また、例えば、本発明の油剤組成物は、融点が20~32℃のラウロイルグルタミン酸ジエステル混合物を10質量%よりも高く90質量%未満含み、融点が-20℃以下のラウロイルグルタミン酸ジエステル混合物を10質量%よりも高く90質量%未満含む。好ましくは、油剤組成物は、融点が20~32℃のラウロイルグルタミン酸ジエステル混合物を20~80質量%含み、融点が-20℃以下のラウロイルグルタミン酸ジエステル混合物を20~80質量%含む。
【0010】
融点が33℃より高いラウロイルグルタミン酸ジエステル混合物は、例えばN-ラウロイル-L-グルタミン酸と2種以上のアルコールを含む混合アルコールとを反応させて得ることができる。例えば、特開平3-275697号公報、特開2013-49633号公報、特開平5-286844号公報などには、N-長鎖アシル酸性アミノ酸ジエステル混合物の調製方法が記載されており、これらを参照して容易にラウロイルグルタミン酸ジエステル混合物を調製することができる。また、得られたラウロイルグルタミン酸エステル混合物を水酸化カリウム・エタノール試液中で1時間攪拌加熱するなどしてエステル混合物を完全に加水分し、各種アルコールの含有量を調べることで、各種アルコールの割合を決定することができる。更に、得られたラウロイルグルタミン酸エステル混合物の融点を測定し、各種アルコールの含有量との関係を調べることで、各種アルコールの含有量を調整することによってラウロイルグルタミン酸エステル混合物の融点を容易に調整することができる。また、特開2013-49633号公報には、各種アルコールの含有量と融点が示されており、これを参照することによっても、ラウロイルグルタミン酸エステル混合物の融点を容易に調整することができる。N-ラウロイル-L-グルタミン酸と反応させる混合アルコールに含まれるアルコールとしては、ステロール、常温で液状の炭素数8~30の脂肪族アルコール、固形状の炭素数12~38の高級アルコールなどが挙げられる。前記ステロールとしては、フィトステリルアルコール、コレステロール、ラノステロール、スティグマステロール及びこれらの水添物などが挙げられる。前記脂肪族アルコールとしては、2-オクチルドデシルアルコール、イソステアリルアルコール、ヘキシルデシルアルコールなどの分岐アルコール、オレイルアルコールなどの不飽和アルコールなどが挙げられる。前記高級アルコールとしては、セチルアルコール、ベヘニルアルコールなどが挙げられる。N-ラウロイル-L-グルタミン酸と反応させる混合アルコールは、好ましくは2-オクチルドデシルアルコール又はイソステアリルアルコールと、フィトステリルアルコールと、ベヘニルアルコールとの混合アルコールである。
融点が33℃より高いラウロイルグルタミン酸ジエステル混合物の具体例としては、ラウロイルグルタミン酸ジ(コレステリル/ベヘニル/オクチルドデシル)、ラウロイルグルタミン酸ジ(オクチルドデシル/フィトステリル/ベヘニル)、ラウロイルグルタミン酸ジ(イソステアリル/フィトステリル/ベヘニル)などが挙げられ、好ましくはラウロイルグルタミン酸ジ(オクチルドデシル/フィトステリル/ベヘニル)、ラウロイルグルタミン酸ジ(イソステアリル/フィトステリル/ベヘニル)などである。
【0011】
融点が20~32℃のラウロイルグルタミン酸ジエステル混合物は、例えばN-ラウロイル-L-グルタミン酸と2種以上のアルコールを含む混合アルコールとを反応させて得ることができる。従来技術を参照してラウロイルグルタミン酸ジエステル混合物を容易に調製することができることや、ラウロイルグルタミン酸エステル混合物の融点を容易に調整することができることは、上述の通りである。N-ラウロイル-L-グルタミン酸と反応させる混合アルコールに含まれるアルコールは、融点が33℃より高いラウロイルグルタミン酸ジエステル混合物を調製する際に用いられるものと同様である。N-ラウロイル-L-グルタミン酸と反応させる混合アルコールは、好ましくは2-オクチルドデシルアルコール又はイソステアリルアルコールと、フィトステリルアルコールと、ベヘニルアルコールとの混合アルコールである。
融点が20~32℃のラウロイルグルタミン酸ジエステル混合物の具体例としては、ラウロイルグルタミン酸ジ(コレステリル/ベヘニル/オクチルドデシル)、ラウロイルグルタミン酸ジ(オクチルドデシル/フィトステリル/ベヘニル)、ラウロイルグルタミン酸ジ(イソステアリル/フィトステリル/ベヘニル)などが挙げられ、好ましくはラウロイルグルタミン酸ジ(オクチルドデシル/フィトステリル/ベヘニル)、ラウロイルグルタミン酸ジ(イソステアリル/フィトステリル/ベヘニル)などである。
【0012】
融点が-20℃以下のラウロイルグルタミン酸ジエステル混合物は、例えばN-ラウロイル-L-グルタミン酸と2種以上のアルコールを含む混合アルコールとを反応させて得ることができる。従来技術を参照してラウロイルグルタミン酸ジエステル混合物を容易に調製することができることや、ラウロイルグルタミン酸エステル混合物の融点を容易に調整することができることは、上述の通りである。N-ラウロイル-L-グルタミン酸と反応させる混合アルコールに含まれるアルコールは、融点が33℃より高いラウロイルグルタミン酸ジエステル混合物を調製する際に用いられるものと同様である。N-ラウロイル-L-グルタミン酸と反応させる混合アルコールは、好ましくは2-オクチルドデシルアルコール又はイソステアリルアルコールと、フィトステリルアルコールとの混合アルコールである。
融点が-20℃以下のラウロイルグルタミン酸ジエステル混合物の具体例としては、ラウロイルグルタミン酸ジ(コレステリル/オクチルドデシル)、ラウロイルグルタミン酸ジヘキシルデシル、ラウロイルグルタミン酸ジイソステアリル、ラウロイルグルタミン酸ジオクチルドデシル、ラウロイルグルタミン酸ジ(オクチルドデシル/フィトステリル)、ラウロイルグルタミン酸ジ(イソステアリル/フィトステリル)などが挙げられ、好ましくはラウロイルグルタミン酸ジ(オクチルドデシル/フィトステリル)である。
【0013】
本発明の油剤組成物は、適度の粘弾性を有し、口紅の化粧もちに有効である。本発明の油剤組成物の33°Cにおける複素粘性率は、好ましく1~25000Pa・sであり、より好ましくは3~1500Pa.sであり、更に好ましくは5~800Pa.sである。
【0014】
本発明の化粧料は、上述の油剤組成物を含み、顔料及び色素の少なくとも1種を含む。本発明の化粧料は、肌の色を整えたり、肌の欠陥を隠したり、肌の状態を改善したりする目的で、又は紫外線を遮蔽する目的で、あるいは顔や唇に着色し、美しく粧う目的で用いることができ、液状、乳液状、軟膏状、クリーム状、粉末状、固形状など、種々の形態とすることができる。本発明の化粧料は、好ましくは口唇表面で使用可能な化粧料である。本発明の化粧料において、上述の油剤組成物は、好ましくは0.1~80質量%含有され、より好ましくは0.5~40質量%含有され、更に好ましくは1~20質量%含有される。顔料及び色素としては、白色顔料、有色顔料、体質顔料、パール顔料などが挙げられる。白色顔料としては、酸化チタン、酸化亜鉛などが挙げられる。有色顔料としては、酸化鉄、水酸化鉄、チタン酸鉄などの無機赤色顔料、γ-酸化鉄などの無機褐色系顔料、黄酸化鉄、黄土などの無機黄色系顔料、黒酸化鉄、カーボンブラックなどの無機黒色顔料、マンガンバイオレット、コバルトバイオレットなどの無機紫色顔料、水酸化クロム、酸化クロム、酸化コバルト、チタン酸コバルトなどの無機緑色顔料、紺青、群青などの無機青色系顔料、タール系色素(顔料)(赤色202号、赤色204号、赤色205号、赤色220号、赤色228号、黄色401号、青色404号、橙色203号、橙色204号等)、赤色タール系色素(染料)(赤色3号、赤色104号、赤色106号、赤色201号、赤色226号、赤色227号、赤色230号、赤色401号、赤色505号、黄色4号、黄色5号、黄色202号、黄色203号、黄色204号、青色1号、青色2号、青色201号、緑色3号、緑色201号、緑色204号、緑色205号、橙色201号、橙色206号、橙色207号など)をレーキ化したもの、天然色素(カルミン酸、ラッカイン酸、カルサミン、ブラジリン、クロシンなど)をレーキ化したもの、及びこれらの粉体を複合化した合成樹脂粉体等が挙げられる。体質顔料としては、シリカ、含水ケイ酸などのケイ酸;ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウムなどのケイ酸塩;タルク、カオリン、ベントナイト、マイカ、セリサイトなどの粘土鉱物;ヒドロキシアパタイトなどのリン酸塩鉱物;酸化アルミニウム、酸化マグネシウムなどの金属酸化物;軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸マグネシウム、重質炭酸マグネシウムなどのアルカリ土類金属の炭酸塩;硫酸マグネシウム、硫酸バリウム(板状硫酸バリウム、バタフライ状硫酸バリウムなど)などのアルカリ土類金属の硫酸塩;窒化ホウ素;ラウロイルリジン、金属石鹸などの有機粉体;合成マイカなどの板状合成粉体;ナイロンビーズ、ナイロンパウダー、シリコーンビーズなどの樹脂粉体などが挙げられ、更にこれらの粉体に、シリコーン処理、フッ素化合物処理、シランカップリング剤処理、シラン処理、有機チタネート処理、アシル化リジン処理、脂肪酸処理、金属石鹸処理、油剤処理、アミノ酸処理などの表面処理が施してあっても構わない。パール顔料としては、酸化チタン被覆雲母、酸化チタン被覆マイカ、オキシ塩化ビスマス、酸化チタン被覆オキシ塩化ビスマス、酸化チタン被覆タルク、魚鱗箔、酸化チタン被覆着色雲母などが挙げられる。本発明の化粧料において、顔料及び色素は、好ましくは0.1~50%質量%含有され、より好ましくは1~20質量%含有され、更に好ましくは2~10質量%含有される。
【0015】
本発明のスティック状化粧料は、上述の油剤組成物を含み、融点が40℃以上の油ゲル化剤を含む。前記油ゲル化剤としては、油を不透明に固化できるワックス類、油を透明に固化させることができる素材、及び油を増粘させる素材が含まれる。ワックス類としては、動物性ワックス、植物性ワックス、鉱物性ワックス、合成ワックスなどが挙げられる。
植物性ワックスとしては、コメヌカロウ、カルナウバワックス、キャンデリラワックスなどが挙げられ、動物性ワックスとしては、ミツロウ、ゲイロウなどが挙げられ、鉱物性ワックス及び合成ワックスとしては、セレシン、固形パラフィン、マイクロクリスタリンワックス、ポリエチレンワックス、ポリオレフィンワックスなどが挙げられる。鉱物性ワックス及び合成ワックスの中でも融点が100℃以上のポリエチレンワックス、分子量300~1000の直鎖型合成炭化水素ワックスなど、融点が100℃より低く90℃以上のポリエチレンワックス、セレシンワックス、分子量300~1000の直鎖型合成炭化水素ワックスなど、融点が90℃より低く80℃以上のポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、セレシンワックス、分子量300~1000の直鎖型合成炭化水素ワックス、パラフィンワックスなど、融点が80℃より低く70℃以上のポリエチレンワックス、セレシンワックス、分子量300~1000の直鎖型合成炭化水素ワックス、パラフィンワックスなど、融点が70℃より低く60℃以上のセレシンワックス、分子量300~1000の直鎖型合成炭化水素ワックス、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックスなど、融点が60℃より低いセレシンワックス、分子量300~1000の直鎖型合成炭化水素ワックス、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックスなどが挙げられる。中でも、融点が70℃以上77℃より低いセレシンワックス、融点が65℃以下の精製パラフィンワックス、融点が60℃のマイクロクリスタリンワックス、融点が85℃以上のポリエチレンワックス、融点が77℃以上85℃より低い分子量300~1000の直鎖型合成炭化水素ワックスが好ましい。
油を透明に固化させることができる素材としては、例えばデキストリン誘導体からなるゲル化剤、アミド結合を複数有する低分子ゲル化剤、高分子重合体又はその誘導体からなるゲル化剤などが挙げられる。デキストリン誘導体からなるゲル化剤としては、(パルミチン酸/ヘキシルデカン酸)デキストリン、パルミチン酸デキストリン、パルミチン酸/エチルヘキシル酸)デキストリン、ミリスチン酸デキストリン、ステアリン酸イヌリンなどが挙げられる。アミド結合を複数有する低分子ゲル化剤としては、ジブチルラウロイルグルタミド、N-2-エチルヘキサノイル-L-グルタミン酸ジブチルアミドなどが挙げられ、高分子重合体又はその誘導体からなるゲル化剤としては、ポリアミド-3、ポリアミド-8、ポリアミド-5などが挙げられる。
【0016】
本発明のスティック状化粧料は、更に顔料及び色素の少なくとも1種を含むでもよい。本発明のスティック状化粧料で用いられる顔料及び色素は、上記化粧料で用いられるものと同様である。本発明のスティック状化粧料は、好ましくは口唇表面で使用可能なスティック状化粧料である。
【0017】
本発明のスティック状化粧料において、融点が40℃以上の油ゲル化剤は、好ましくは0.2~50質量%含有され、より好ましくは2~20質量%含有され、更に好ましくは5~15質量%含有される。本発明のスティック状化粧料において、上述の油剤組成物は、好ましくは0.1~50質量%含有され、より好ましくは0.5~40質量%含有され、更に好ましくは2~20質量%含有される。本発明のスティック状化粧料において、顔料及び色素は、好ましくは0.1~30質量%含有され、より好ましくは0.5~20質量%含有され、更に好ましくは2~10質量%含有される。
【0018】
また本発明の化粧料又はスティック状化粧料には、通常化粧品や医薬品などに用いられる他の液状油剤、半固体状油剤などを本発明の効果を阻害しない範囲で特に制約なく使用することができる。
液状油剤としては、オクチルドデカノール、ヘキシルデカノール、イソステアリルアルコール、ステアリルアルコールなどの高級アルコール;イソステアリン酸などの高級脂肪酸; 流動パラフィン、水添(水素添加)ポリイソブテン、スクワラン、スクワレンなどの直鎖又は分枝の炭化水素油;シア脂、アーモンド油、ホホバ油、オリーブ油、ホホバ種子油、トウモロコシ胚芽油、小麦胚芽油、メドウフォーム油、ヒマワリ油、マカデミアナッツ油などの植物油;液状ラノリンなどの動物性油脂;ビスジグリセリルポリアシルアジペート-2、リンゴ酸ジイソステアリル、ミリスチン酸イソプロピル、エチルヘキサン酸セチル、パルミチン酸セチル、パルミチン酸イソプロピル、トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリル、トリイソステアリン、トリエチルヘキサノインなどの脂肪酸エステル及び多価アルコール脂肪酸エステルなどのエステル油;ラウロイルサルコシンイソプロピル(エルデュウ(登録商標)SL-205)、ミリストイルメチルアミノプロピオン酸ヘキシルデシル、ラウロイルグルタミン酸ビス(ヘキシルデシル/オクチルドデシル)、ステアロイルグルタミン酸ジオクチルドデシルなどのアシルアミノ酸エステル類;シクロペンタシロキサン、ジメチルポリシロキサン、ジメチルシクロポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、メチルハイドロジェンポリシロキサン、高級アルコール変性オルガノポリシロキサン、ビスフェニルプロピルジメチコンなどのシリコーン油;フルオロポリエーテル、パーフルオロアルキルエーテルシリコーンなどのフッ素油などの液状油剤が挙げられる。
半固体状油剤としては、イソステアリン酸コレステリル、ヒドロキシステアリン酸コレステリル、マカダミアナッツ油脂肪酸コレステリルなどのコレステロールエステル類;ダイマージリノール酸(フィトステリル/イソステアリル/セチル/ステアリル/ベヘニル)、ヒマワリ種子油脂肪酸フィトステリル または オレイン酸フィトステリル、ダイマージリノール酸ダイマージリノレイルビス(ベヘニル/イソステアリル/フィトステリル)、マカデミアナッツ脂肪酸フィトステリル、ミリストイルメチル-β-アラニン(フィトステリル/デシルテトラデシル)、イソステアリン酸フィトステリル、オレイン酸フィトステリル、ステアリン酸フィトステリルなどのフィトステロールエステル類;ヘキサオキシステアリン酸ジペンタエリトリット、ロジン酸ジペンタエリトリットなどのジペンタエリトリット脂肪酸エステル類;トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリル、トリ(カプリル/カプリン/ミリスチン/ステアリン酸)グリセリドなどのトリグリセリド類;硬化油などの部分的に水素添加されたトリグリセリド類;精製ラノリン、ラノステロール、水添ラノリンなどの動物性油脂類;ステアリン酸、ベヘン酸、パルミチン酸、ミリスチン酸などの高級脂肪酸;ワセリンなどが挙げられる。
【0019】
また本発明の化粧料又はスティック状化粧料には、ノニオン系乳化剤、各種添加剤などの通常化粧料に使用し得る成分を本発明の効果を阻害しない範囲で配合することもできる。
ノニオン系乳化剤の中でも、油との相溶性の観点から通常HLB2~16のノニオン系乳化剤が好ましい。中でもテトラ(ヒドロキシステアリン酸/イソステアリン酸)ジペンタエリスリチル(HLB2)、ヘキサ(ヒドロキシステアリン酸/ステアリン 酸/ロジン酸ジペンタエリスリチル(HLB2)、テトライソステアリン酸ポリグリセリル-2(HLB2)、テトライソステアリン酸ペンタエリスリチル(HLB2)、テトライソステアリン酸ジペンタエリスリチル(HLB3)、トリイソステアリン酸ポリグリセリル-2(HLB3)、ポリグリセリル-3ミツロウ(HLB3)、ジイソステアリン酸ポリグリセリル-3(HLB5)、オレイン酸ポリグリセリル-2(HLB6)、ジステアリン酸ポリグリセリル-6(HLB9)、ポリグリセリル-3ミツロウ(HLB10)ジオレイン酸ポリグリセリル-10(HLB12)が特に好ましい。
各種添加剤としては、例えば、グリシン、アラニン、セリン、スレオニン、アルギニン、グルタミン酸、アスパラギン酸、イソロイシン、ロイシン、バリンなどのアミノ酸類;ピロリドンカルボン酸及びそのナトリウム又は亜鉛塩、ポリグルタミン酸、ポリアスパラギン酸を含むポリアミノ酸及びその塩、アラビアゴム類、アルギン酸塩、キサンタンガム、ヒアルロン酸、ヒアルロン酸塩、キチン、キトサン、水溶性キチン、カルボキシビニルポリマー、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライド、ポリ塩化ジメチルメチレンピペリジウム、ポリビニルピロリドン誘導体、四級アンモニウムカチオン化プロテイン、コラーゲン分解物及びその誘導体、アシル化タンパクなどの水溶性高分子;マンニトールなどの糖アルコール及びそのアルキレンオキシド付加物;動植物抽出物、核酸、ビタミン、酵素、抗炎症剤、殺菌剤、防腐剤、抗酸化剤、紫外線吸収剤、制汗剤、顔料、色素、酸化染料、pH調整剤、パール剤、湿潤剤、1,3-ブチレングリコールなどの多価アルコールなどを挙げることができる。
【0020】
スティック状化粧料は、例えば、次のようにして製造することができる。
本発明の油剤組成物、油ゲル化剤、抗酸化剤及び防腐剤等の基剤成分を加熱融解し、均一に混合する。これに、着色剤を加え、ロールミールなどの混練機にて混練し、均一に分散させる。次いで、再融解して香料を加え、脱泡してから型に流し込み、急冷して固化させる。固化物を型から取り出し、容器に充填して、必要に応じてフレーミング処理する。
【実施例
【0021】
(製造例1:融点35℃のラウロイルグルタミン酸ジエステル混合物)
攪拌機、温度計、及びガス導入管を備えた反応容器に、N-ラウロイル-L-グルタミン酸1モル及び混合アルコール(フィトステリルアルコール、2-オクチルドデシルアルコール及びベヘニルアルコール)2モルを仕込み、これにトルエンを600ml加えた。ついで加熱攪拌し、硫酸を1ml加え、窒素気流下125℃で約8時間程度加熱攪拌を続け反応させた。この間、副生する水分を充分に除去した。反応終了後、苛性カリ水溶液で中和し、トルエンを留去し、目的のエステル混合物を得た。得られたエステル混合物の一部を水酸化カリウム・エタノール試液中で1時間攪拌加熱し、エステル混合物を完全に加水分した。各種アルコールの含有量を調べ、その割合を決定した。フィトステリルアルコール(環状アルコール、P)、2-オクチルドデシルアルコール(分岐アルコール、OD)及びベヘニルアルコール(直鎖アルコール、B)の質量率の割合はB:OD:P=39:31:30であり、得られたラウロイルグルタミン酸ジエステル混合物の融点は35℃であった。
【0022】
(製造例2:融点26.3℃のラウロイルグルタミン酸ジエステル混合物)
攪拌機、温度計、及びガス導入管を備えた反応容器に、N-ラウロイル-L-グルタミン酸1モル及び混合アルコール(フィトステリルアルコール、2-オクチルドデシルアルコール及びベヘニルアルコール)2モルを仕込み、これにトルエンを600ml加えた。ついで加熱攪拌し、パラトルエンスルホン酸・一水和物5g加え、窒素気流下125℃で約8時間程度加熱攪拌を続け反応させた。この間、副生する水分を充分に除去した。反応終了後、苛性カリ水溶液で中和し、トルエンを留去し、目的のエステル混合物を得た。得られたエステル混合物の一部を水酸化カリウム・エタノール試液中で1時間攪拌加熱し、エステル混合物を完全に加水分した。各種アルコールの含有量を調べ、その割合を決定した。フィトステリルアルコール(環状アルコール、P)、2-オクチルドデシルアルコール(分岐アルコール、OD)及びベヘニルアルコール(直鎖アルコール、B)の質量率の割合はB:OD:P=19.4:51.6:29であり、得られたラウロイルグルタミン酸ジエステル混合物の融点は26.3℃であった。
【0023】
(製造例3:融点が-24℃より低いラウロイルグルタミン酸ジエステル混合物)
攪拌機、温度計、及びガス導入管を備えた反応容器に、N-ラウロイル-L-グルタミン酸1モル及び混合アルコール(フィトステリルアルコール及び2-オクチルドデシルアルコール)2モルを仕込み、これにトルエンを600ml加えた。ついで加熱攪拌し、パラトルエンスルホン酸・一水和物5g加え、窒素気流下125℃で約8時間程度加熱攪拌を続け反応させた。この間、副生する水分を充分に除去した。反応終了後、苛性カリ水溶液で中和し、トルエンを留去し、目的のエステル混合物を得た。得られたエステル混合物の一部を水酸化カリウム・エタノール試液中で1時間攪拌加熱し、エステル混合物を完全に加水分した。各種アルコールの含有量を調べ、その割合を決定した。フィトステリルアルコール(環状アルコール、P)及び2-オクチルドデシルアルコール(分岐アルコール、OD)の質量率の割合はOD:P=75.5:24.5であり、得られたラウロイルグルタミン酸ジエステル混合物の融点は-24℃より低かった。
【0024】
(試験例1:油剤物性の比較)
表1a及び表1bに記載のラウロイルグルタミン酸ジエステル混合物を記載通りの質量率で測り取り、60℃で加温しながらスターラーを用いて10分間攪拌し、均一に混合した。得られた油剤混合物をグラス製の透明な容器に充填し、25℃において24時間冷却した。各油剤混合物の、融点、粘度、透明性、弾性、及びツヤについて、以下の通り評価した。結果を表1a及び表1bに示す。
【0025】
[融点の評価]
各油剤混合物の融点を高感度示差走査熱量計(日立ハイテクサイエンス社製DSC-6200)で測定した。表1aの各油剤混合物10mgを所定のセルに測り取り、60℃から-20℃まで2℃/分の速度で放温しながら熱量の測定行った。各油剤混合物の放熱量が極大値になる温度をその油剤混合物の融点として求めた。下記の基準に基づき、融点が適切であるかどうか評価した。なお、実施例1-1-4の油剤組成物については、-20℃から60℃まで2℃/分の速度で加温しながら熱量の測定行い、吸熱量が極大値になる温度を融点とした。
融点が20℃より高く33℃以下:とても好ましい(A)
融点が-20℃より高く20度℃以下:好ましい(B)
融点が33℃より高い又は-20℃以下:好ましくない(C)
【0026】
[33℃での複素粘性率の測定]
各油剤混合物の複素粘性率をAR-G2装置(TAインスツルメント社製)を用いて評価した。装置の台の温度を33℃に設定し、台の上に0.5gの油剤混合物を載せ周波数1Hzで0.01~100%歪みを与えた際の、油剤混合物の粘性(G”)と弾性(G’)値を連続的に測定した。G”及びG’値が急激変化しない最大の%歪みを求め、この%歪みで各種油剤混合物に角周波数0.1~100rad/sの振動応力を与え、測定を行った。測定後、従来の手順による解析をおこない、各油剤混合物の複素粘性率を求めた。
【0027】
[33℃での透明性の評価]
表1の各油剤混合物を50℃の恒温槽に12時間保管した後、33℃の恒温槽に24時間静置した。各油剤混合物を恒温槽から取り出した直後にサンプルの透明性を目視で確認し、9段階で評価をし、透明性の最も高い油剤混合物を5点、透明性の最も低い油剤混合物を1点として点数を付けた。この点数を元に下記の基準に基づき透明性の評価を行った。
透明性の点数が2.0以上:とても好ましい(A)
透明性の点数が1.5以上~2.0より少ない:好ましい(B)
透明性の点数が1.5より少ない:好ましくない(C)
【0028】
[弾性の評価]
各油剤混合物の粘弾性をAR-G2装置(TAインスツルメント社製)を用いて評価した。装置の台に、0.5gの油剤混合物を載せ、35℃で油剤混合物に対して0.001~100の歪みを与えた際の、油剤混合物の粘性(G”)と弾性(G’)値を連続的に測定し、その比(tanδ=G”/G’)を求めた。歪みが1の際のtanδ値を元に油剤混合物が化粧もちに必要な十分な弾性を有するか評価した。なお、比較例1-1-1、実施例1-1-4及び実施例1-1-13の油剤混合物の粘弾性のプロファイルを図1に示した。
tanδが10以下:とても好ましい(A)
tanδが10より大きく100以下:好ましい(B)
tanδが100より大きい:好ましくない(C)
【0029】
[油のツヤの評価]
各油剤混合物のツヤの評価はグロースインデックス測定機(HORIBA製Gloss Checkers IG-331)で油のグロースインデックスを測定することで行った。30mgの各油剤混合物を黒色のバイオスキンプレート(Beaulax社製)に直径3cmの円形上に塗布した後、バイオスキンの表面温度が33℃になるように、バイオスキンをホットプレート上で10分間温めた。10分後、グロースインデックス測定機を用いて油のグロースインデックスを測定した。得られたグロースインデックス値を元に、下記の基準に従って油のツヤの評価を行った。
グロースインデックスが75以上:ツヤがとても高く、とても好ましい(A)
グロースインデックスが65以上で75よりも少ない:ツヤが高く、好ましい(B)
グロースインデックスが50以上で65よりも少ない:ツヤがあまり高くなく、あまり好ましくない(C)
グロースインデックスが50よりも少ない:ツヤが低く、全く好ましくない(D)
【表1a】
【表1b】
【0030】
(試験例2:口紅の使用感と安定性のバランスの評価)
[口紅スティックの作成]
セレシンワックス(日興リカ社製)を15質量率、低粘度油剤のイソノナン酸イソトリデシル(日清オイリオグループ社製)を40質量率及び表2記載の油剤混合物を45質量率測り取り、90℃で加温しながらスターラーを用いて20分間攪拌し、均一に混合した。得られた混合物を径10mmのプラスチック製のリップ容器に充填し、25℃において24時間冷却し、それぞれの口紅スティックを得た。得られた口紅スティックについて、使用感と安定性のバランスを以下の通り評価した。結果を表2に示す。
【0031】
[口紅スティックの折れ強度の測定]
口紅スティックの折れ強度をFUDOHレオメーター(レオテック社製)を用いて評価した。口紅スティックを15mm繰り出した後固定し、25℃にて、歯形押棒の冶具にて測定を行った。6cm/minの速さで冶具が深さ10mmまで到達したときの最大荷重値を折れ強度とした。
【0032】
[スティックの動的摩擦係数の測定]
口紅スティックの滑り性をトライボマスター(トリニティーラボ社製)を用いて評価した。口紅スティックを3mm繰り出した後、サンプルを装置上部に固定し、人工皮革の上を2mm/sの速さで滑らせ測定を行った。50cmの距離を2往復したときの動摩擦係数の平均値を測定した。
【0033】
[口紅スティックの使用感と安定性のバランスの評価]
口紅スティックの折れ強度が大きい程、口紅が折れにくく安定性はよいとされる。一方、口紅スティックの動的摩擦係数が低い程、滑り性がよく滑らかな感触の口紅であると判断できる。つまり、それぞれの口紅スティックの折れ強度値を口紅スティックの動摩擦係数で割った値が大きい程、口紅の安定性がよく、使用感がよいと判断できる。口紅スティックの折れ強度値/口紅スティックの動摩擦係数の値に基づき、口紅スティックの使用感と安定性のバランスを次のように評価した。
口紅スティックの折れ強度値/口紅スティックの動摩擦係数の値が
1550以上の場合:バランスがとても良い(A)
1550より少なく1500以上の場合:バランスがあまりよくない(B)
1500よりも少ない場合:バランスが悪い(C)
【表2】
【0034】
(試験例3:口紅の折れ強度の経時安定性の評価)
[口紅スティックの作成]
セレシンワックス(日興リカ社製)を15質量率、低粘度油剤のイソノナン酸イソトリデシル(日清オイリオグループ社製)を40質量率及び表3記載の油剤混合物を45質量率測り取り、90℃で加温しながらスターラーを用いて20分間攪拌し、均一に混合した。得られた混合物を径10mmのプラスチック製のリップ容器に充填し、25℃において24時間冷却し、それぞれの口紅スティックを得た。得られた口紅スティックについて、経時安定性を下記の通り評価した。結果を表3に示す。
【0035】
[経時安定性の評価]
得られた口紅スティックについて、試験例2と同様に折れ強度を測定した(初期の折れ強度値)。次いで、口紅スティックを50℃の恒温槽に1週間保管し、恒温槽から取り出した後25℃で24時間静置した。静置後の口紅スティックの折れ強度を測定した(高温保管後の折れ強度値)。下記の式から経時的な口紅の折れ強度の低下率を求めた。

折れ強度の低下率=100×(初期の折れ強度値-高温保管後の折れ強度値)/初期の折れ強度値

下記の評価基準に従って、折れ強度の低下率から口紅の経時安定性を評価した。
折れ強度の低下率10%以下:経時安定性がとても良い(A)
折れ強度の低下率10%より大きく、14%より小さい:経時安定性があまり良くない(B)
折れ強度の低下率14%以上:経時安定性が悪い(C)
【表3】
【0036】
(試験例4:油剤混合物の官能評価(感触の評価))
専門パネラー4名により、各油剤混合物の伸びの良さ及びべたつきのなさを下記基準により評価した。

<肌への密着感>
1)密着感がとても良い・・・・・4点
2)密着感が良い・・・・・・・・3点
3)密着感があまり良くない・・・2点
4)密着感が全く良くない・・・・1点

<滑り感>
1)滑り感がとても良い・・・・・4点
2)滑り感が良い・・・・・・・・3点
3)滑り感があまり良くない・・・2点
4)滑り感が全く良くない・・・・1点

<べたつきのなさ>
1)全くべたつかない・・・・・4点
2)べたつかない・・・・・・・3点
3)少しべたつく・・・・・・・2点
4)とてもべたつく・・・・・・1点

専門パネラー4名の評価の平均点を基に以下のように判断した。結果を表4に示す。
評価平均点3.5以上:とても好ましい(A)
評価平均点2.5以上3.5未満:やや好ましい(B)
評価平均点1.5以上2.5未満:あまり好ましくない(C)
評価平均点1.5未満:全く好ましくない(D)
【表4】
【0037】
(試験例5:口紅処方での感触の評価)
[口紅スティックの作成]
表5a及び表5bに記載の成分を90℃で加温しながらスターラーを用いて20分間攪拌し、均一に混合した。得られた混合物をロールミールを用いて均一に混合・分散した。分散物を更に90℃で加熱し、液状にした後径10mmのプラスチック製のリップ容器に充填し、25℃において24時間冷却し、それぞれの口紅スティックを得た。
【0038】
[口紅処方の官能評価]
専門パネラー4名により、実施例4の伸びの良さ及びべたつきのなさを下記基準により評価してもらった。

<とろけるような滑らかな感触>
1)滑らかな感触がとても良い・・・・・4点
2)滑らかな感触が良い・・・・・・・・3点
3)滑らかな感触があまり良くない・・・2点
4)滑らかな感触が全く良くない・・・・1点

<口唇表面への均一な広がり>
1)均一な広がりがとても良い・・・・・4点
2)均一な広がりが良い・・・・・・・・3点
3)均一な広がりがあまり良くない・・・2点
4)均一な広がりが全く良くない・・・・1点

<透明感のあるツヤ>
1)透明感のあるツヤがとても良い・・・・・4点
2)透明感のあるツヤがりが良い・・・・・・・・3点
3)透明感のあるツヤがりがあまり良くない・・・2点
4)透明感のあるツヤが全く良くない・・・・1点

<化粧もち・持続性>
1)化粧もち・持続性がとても良い・・・・・4点
2)化粧もち・持続性がりが良い・・・・・・・・3点
3)化粧もち・持続性がりがあまり良くない・・・2点
4)化粧もち・持続性が全く良くない・・・・1点

専門パネラー4名の評価の平均点を基に以下のように判断した。結果は表5a及び表5bに示した。
評価平均点3.5以上:とても好ましい(A)
評価平均点2.5以上3.5未満:やや好ましい(B)
評価平均点1.5以上2.5未満:あまり好ましくない(C)
評価平均点1.5未満:全く好ましくない(D)
【表5a】
【表5b】
【0039】
(処方例1:リップケアスティック)
表6に記載の成分を90℃で加温しながらスターラーを用いて20分間攪拌し、均一に混合した。得られた混合物をロールミールを用いて均一に混合・分散した。分散物を更に90℃で加熱し、液状にした後径10mmのプラスチック製のリップ容器に充填し、25℃において24時間冷却し、リップケアスティックを得た。得られたリップケアスティックは、ツヤがあり、安定性が向上された、滑らかな感触を有していた。
【表6】
【0040】
(処方例2:赤色口紅スティック)
表7に記載の成分を90℃で加温しながらスターラーを用いて20分間攪拌し、均一に混合した。得られた混合物をロールミールを用いて均一に混合・分散した。分散物を更に90℃で加熱し、液状にした後径10mmのプラスチック製のリップ容器に充填し、25℃において24時間冷却し、赤色口紅スティックを得た。得られた赤色口紅スティックは、ツヤがあり、発色が高く、とろけるような感触を有していた。
【表7】
【0041】
(処方例3:赤色液状口紅)
表8に記載の成分を90℃で加温しながらスターラーを用いて20分間攪拌し、均一に混合した。得られた混合物をロールミールを用いて均一に混合・分散して赤色液状口紅を得た。得られた赤色液状口紅は、ツヤがあり、付きがよく、化粧もちと安定性に優れていた。
【表8】
図1