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特許7369377トンネルの施工管理システム及びトンネルの施工管理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-18
(45)【発行日】2023-10-26
(54)【発明の名称】トンネルの施工管理システム及びトンネルの施工管理方法
(51)【国際特許分類】
   G01C 15/00 20060101AFI20231019BHJP
   E21D 9/00 20060101ALI20231019BHJP
【FI】
G01C15/00 104A
G01C15/00 103A
E21D9/00 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2022149814
(22)【出願日】2022-09-21
【審査請求日】2023-08-30
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】505466295
【氏名又は名称】株式会社イクシス
(74)【代理人】
【識別番号】100137589
【弁理士】
【氏名又は名称】右田 俊介
(72)【発明者】
【氏名】山崎 文敬
(72)【発明者】
【氏名】狩野 高志
(72)【発明者】
【氏名】前田 幸祐
【審査官】飯村 悠斗
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-119123(JP,A)
【文献】特開2011-203090(JP,A)
【文献】特開2019-184365(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01C 15/00
G01C 7/06
E21D 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トンネルの坑口の近傍に定められた標定点と、
前記トンネルの内周面であって且つ前記標定点を基準とする前記トンネルの長手方向の距離が互いに相違する少なくとも三箇所以上に設置されるターゲットマーカと、
前記標定点が定められている坑口側から長手方向に移動され、異なる位置から前記内周面を計測する計測手段と、
第一位置から行われた計測によって得られた第一の三次元点群セットと、前記第一位置とは異なる第二位置から行われた計測によって得られた第二の三次元点群セットと、を結合することに基づいて前記内周面を表す円筒モデルを生成するデータ処理手段と、
を備え、
前記第一の三次元点群セットは、前記標定点を基準として前記第一位置より手前側に設置された第一のターゲットマーカを表す点群と、前記標定点を基準として前記第一位置より奧方側に設置され前記第二位置より手前側に設置された第二のターゲットマーカを表す点群と、を含み、
前記第二の三次元点群セットは、前記第二のターゲットマーカを表す点群と、前記標定点を基準として前記第二位置より奧方側に設置された第三のターゲットマーカを表す点群と、を含み、
前記データ処理手段は、前記第二のターゲットマーカを表す点群を基準とする位置合わせをして、前記第一の三次元点群セットと前記第二の三次元点群セットを結合し、
前記標定点及び前記ターゲットマーカを用いた前記計測手段による計測に基づいて前記データ処理手段が生成した第一の円筒モデル又は前記第一の円筒モデルに基づく解析結果と、前記第一の円筒モデルの生成に用いられた同一の前記標定点及び前記ターゲットマーカを用い、且つ、前記第一の円筒モデルの生成に用いられた三次元点群セットより後の時期に得られた三次元点群セットを結合して生成した第二の円筒モデル又は前記第二の円筒モデルに基づく解析結果と、を比較して、前記トンネルの内空断面の変形を解析する解析手段を、更に備え、
前記解析手段は、同一の前記標定点を基準として、前記第一の円筒モデルに含まれる前記第一のターゲットマーカを表す点群の位置と、前記第二の円筒モデルに含まれる前記第一のターゲットマーカを表す点群の位置と、が一致する場合、前記標定点と前記第一のターゲットマーカの点群の位置とを基準とする座標系に変換して、前記第一の円筒モデルを表す点群及び前記第二の円筒モデルを表す点群を表現する、
ことを特徴とするトンネルの施工管理システム。
【請求項2】
前記解析手段は、
前記円筒モデルを解析して前記内周面の中心軸を推定し、推定した前記中心軸から前記円筒モデルが表す前記内周面までの距離を点群ごとに計算し、計算した点群ごとの距離に基づいて前記円筒モデルを平面展開し、
前記第一の円筒モデルを平面展開した点群と、前記第二の円筒モデルを平面展開した点群と、を比較して、それぞれの円筒モデルが表す前記内周面の差分を求めて、求めた前記差分に基づいて前記トンネルの内空断面の変形を解析する、
請求項1に記載のトンネルの施工管理システム。
【請求項3】
前記解析手段は、前記第一の円筒モデルと前記第二の円筒モデルを、同一の前記中心軸を用いて平面展開する、
請求項2に記載のトンネルの施工管理システム。
【請求項4】
トンネルの坑口の近傍に標定点を定め、前記トンネルの内周面であって且つ前記標定点を基準とする前記トンネルの長手方向の距離が互いに相違する少なくとも三箇所以上にターゲットマーカを設置する第一工程と、
前記内周面を計測する計測手段を前記標定点が定められている坑口側から長手方向に移動させ、前記計測手段による計測を異なる位置から行う第二工程と、
第一位置から行われた計測によって得られた第一の三次元点群セットと、前記第一位置とは異なる第二位置から行われた計測によって得られた第二の三次元点群セットと、を結合することに基づいて前記内周面を表す円筒モデルを生成する第三工程と、
を含み、
前記第一の三次元点群セットは、前記標定点を基準として前記第一位置より手前側に設置された第一のターゲットマーカを表す点群と、前記標定点を基準として前記第一位置より奧方側に設置され前記第二位置より手前側に設置された第二のターゲットマーカを表す点群と、を含み、
前記第二の三次元点群セットは、前記第二のターゲットマーカを表す点群と、前記標定点を基準として前記第二位置より奧方側に設置された第三のターゲットマーカを表す点群と、を含み、
前記第三工程において、前記第二のターゲットマーカを表す点群を基準とする位置合わせをして、前記第一の三次元点群セットと前記第二の三次元点群セットを結合し、
前記第一工程、前記第二工程、及び前記第三工程を含む一連の処理に基づいて生成された第一の円筒モデル又は前記第一の円筒モデルに基づく解析結果と、前記第一の円筒モデルの生成に用いられた前記標定点及び前記ターゲットマーカを用い、前記第一の円筒モデルの生成に用いられた三次元点群セットより後の時期に得られた三次元点群セットを結合して得られた第二の円筒モデル又は前記第二の円筒モデルに基づく解析結果と、を比較して、前記トンネルの内空断面の変形を解析する解析工程を、更に含み、
前記解析工程は、同一の前記標定点を基準として、前記第一の円筒モデルに含まれる前記第一のターゲットマーカを表す点群の位置と、前記第二の円筒モデルに含まれる前記第一のターゲットマーカを表す点群の位置と、が一致する場合、前記標定点と前記第一のターゲットマーカの点群の位置とを基準とする座標系に変換して、前記第一の円筒モデルを表す点群及び前記第二の円筒モデルを表す点群を表現する処理を含む、
ことを特徴とするトンネルの施工管理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネルの施工管理システム及びトンネルの施工管理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
山岳トンネルは、山岳部を横向きに掘削して土砂を排出し、掘削したトンネルの内周面にコンクリートを打設し、その後、ロックボルトを地山に突き刺して、地山の奥の方まで一体化させ地山が崩れてこないように保持する、といった工法によって施工されるのが一般的である。
このような工法が用いられる場合、掘削してからコンクリートが打設されるまでの間、トンネルの内周面の変位を計測して管理することが重要である。例えば、トンネルの内周面の変位を計測して、変位量が十分に小さくなったことを以て掘削後の地山が安定したと判断する。
【0003】
上記のように、トンネルの内周面の変位を計測する先行技術として、特許文献1を例示する。
特許文献1には、トンネル内を移動する移動車に搭載したレーザースキャナと、移動車の後方に設置したトータルステーションと、を用いてトンネル内壁面を計測することが開示されている。同文献に係る発明は、トンネル内のローカル座標系によって表現されるレーザースキャナの測量データ(点群データ)を、トータルステーションによる測量(レーザースキャナの位置と、移動車に設けた2点のマーカの位置)に基づいて、絶対座標系によって表現される点群データに変換することを特徴とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-163063号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示されている発明は、レーザースキャナによる測量とトータルステーションによる測量を組み合わせることによって、レーザースキャナが取得した点群データの位置情報を絶対座標系に変換する必要がある。
このような構成では、レーザースキャナによって取得される点群データの位置情報の精度は、レーザースキャナからの距離に応じて変化するので、トータルステーションによってレーザースキャナの位置に関する測量の精度が十分なものであったとしても、レーザースキャナが取得する点群データの全てについて十分な精度で位置情報が取得できる訳ではない。従って、レーザースキャナが、或る地点から取得した点群データと、別の地点に移動してから取得した点群データと、は必ずしも整合がとれる訳ではなく、トンネルの掘削が進行するほどにトンネル全体を表す三次元モデルを十分な精度で生成できない。
【0006】
本発明は、上述の課題を解決するものであり、トンネルの内周面およびトンネルの各位置を表す三次元モデルを高い精度で生成する施工管理システム、及び当該システムに用いられる施工管理方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、トンネルの坑口の近傍に定められた標定点と、前記トンネルの内周面であって且つ前記標定点を基準とする前記トンネルの長手方向の距離が互いに相違する少なくとも三箇所以上に設置されるターゲットマーカと、前記標定点が定められている坑口側から長手方向に移動され、異なる位置から前記内周面を計測する計測手段と、第一位置から行われた計測によって得られた第一の三次元点群セットと、前記第一位置とは異なる第二位置から行われた計測によって得られた第二の三次元点群セットと、を結合することに基づいて前記内周面を表す円筒モデルを生成するデータ処理手段と、を備え、前記第一の三次元点群セットは、前記標定点を基準として前記第一位置より手前側に設置された第一のターゲットマーカを表す点群と、前記標定点を基準として前記第一位置より奧方側に設置され前記第二位置より手前側に設置された第二のターゲットマーカを表す点群と、を含み、前記第二の三次元点群セットは、前記第二のターゲットマーカを表す点群と、前記標定点を基準として前記第二位置より奧方側に設置された第三のターゲットマーカを表す点群と、を含み、前記データ処理手段は、前記第二のターゲットマーカを表す点群を基準とする位置合わせをして、前記第一の三次元点群セットと前記第二の三次元点群セットを結合する、ことを特徴とするトンネルの施工管理システムが提供される。
【0008】
また、本発明によれば、トンネルの坑口の近傍に標定点を定め、前記トンネルの内周面であって且つ前記標定点を基準とする前記トンネルの長手方向の距離が互いに相違する少なくとも三箇所以上にターゲットマーカを設置する第一工程と、前記内周面を計測する計測手段を前記標定点が定められている坑口側から長手方向に移動させ、前記計測手段による計測を異なる位置から行う第二工程と、第一位置から行われた計測によって得られた第一の三次元点群セットと、前記第一位置とは異なる第二位置から行われた計測によって得られた第二の三次元点群セットと、を結合することに基づいて前記内周面を表す円筒モデルを生成する第三工程と、を含み、前記第一の三次元点群セットは、前記標定点を基準として前記第一位置より手前側に設置された第一のターゲットマーカを表す点群と、前記標定点を基準として前記第一位置より奧方側に設置され前記第二位置より手前側に設置された第二のターゲットマーカを表す点群と、を含み、前記第二の三次元点群セットは、前記第二のターゲットマーカを表す点群と、前記標定点を基準として前記第二位置より奧方側に設置された第三のターゲットマーカを表す点群と、を含み、前記第三工程において、前記第二のターゲットマーカを表す点群を基準とする位置合わせをして、前記第一の三次元点群セットと前記第二の三次元点群セットを結合する、ことを特徴とするトンネルの施工管理方法が提供される。
【0009】
上記の発明は、標定点を基準として手前側に設置したターゲットマーカ(第一のターゲットマーカ)と、中間に設置したターゲットマーカ(第二のターゲットマーカ)と、が計測範囲に含まれるように計測して第一の三次元点群セットを取得する。そして、中間に設置したターゲットマーカ(第二のターゲットマーカ)と、標定点を基準として奧側に設置したターゲットマーカ(第三のターゲットマーカ)と、が計測範囲に含まれるように計測して第二の三次元点群セットを取得する。更に、第一の三次元点群セットと第二の三次元点群セットとを結合してトンネルの内周面を表す三次元モデル(円筒モデル)を生成する。この結合の位置合わせの基準として、計測対象となるトンネルの内周面に実際に設置されている第二のターゲットマーカを表す点群を用いるので、計測手段の位置を基準とする座標や標定点を基準とする座標に基づいて位置合わせをするより高い精度で、円筒モデルを生成することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によって、トンネルの内周面およびトンネルの各位置を表す三次元モデルを高い精度で生成する施工管理システム、及び当該システムに用いられる施工管理方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本実施形態に係る施工管理システムの構成を示す図である。
図2】本実施形態に係る施工管理方法の手順を示すフローチャートである。
図3】ターゲットマーカを設置する工程の概念を示す図である。
図4】レーザースキャナによって計測する工程の概念を示す図である。
図5】制御装置による解析の処理手順を示すフローチャートである。
図6】円筒モデルの比較処理の概念を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について、図面を用いて説明する。なお、すべての図面において、同様の構成要素には同一の符号を付し、適宜に説明を省略する。
【0013】
<本実施形態に係る施工管理システム100の構成>
図1は、本実施形態に係る施工管理システム100の構成を示す図である。
施工管理システム100は、レーザースキャナ10と、制御装置20と、データベース30と、を備える。
レーザースキャナ10及び制御装置20は、コンピュータネットワークNWを介して相互に通信可能に構成されている。本発明の実施におけるコンピュータネットワークNWの態様は特に制限されず、有線ネットワーク、無線ネットワーク、又は、それらの組合せであってもよく、その構成中にインターネットによる接続が含まれてもよい。
【0014】
レーザースキャナ10は、周囲にレーザーを放射状に照射することによって、トンネルの内周面の形状を三次元に表す点群データを取得する計測機器であり、本発明に係る「計測手段」に相当する。
レーザースキャナ10は、トンネルの坑口側から長手方向に移動可能に構成され、トンネル内の各所(それぞれ異なる位置)から、トンネルの内周面を計測することができる。
なお、レーザースキャナ10の移動は、人力による運搬によって実現されてもよいし、不図示の車両等に搭載することによって実現されてもよいし、レーザースキャナ10自体が自走することによって実現されてもよい。
また、上述したように、本実施形態では「計測手段」に相当する構成としてレーザースキャナ10を用いる態様で説明するが、その計測の一部をトータルステーションに代えても良い。
【0015】
制御装置20は、レーザースキャナ10に対して種々のデータを送信することができ、レーザースキャナ10を遠隔操作することができる。また、制御装置20は、レーザースキャナ10から受信した種々のデータを処理することができ、本発明に係る「データ処理手段」に相当する。そして、制御装置20は、処理したデータをデータベース30に保存することができる。
なお、図1において制御装置20は単独の装置として図示するが、本実施形態において制御装置20(データ処理手段)の処理として説明するものは、必ずしも単独の装置で実現される必要はなく、複数の装置で処理を分散してもよい。また、制御装置20(データ処理手段)の処理を複数の装置で実現する場合、それぞれの装置がコンピュータネットワークNWで分離する態様、例えば、トンネル工事の現場に設置される装置とクラウド上に設置される装置とによって実現する態様によって本発明が実施されてもよい。
【0016】
<本実施形態に係る施工管理方法の手順>
図2は、本実施形態に係る施工管理方法の手順を示すフローチャートである。
以下、図2を用いて、本実施形態に係る施工管理方法の手順について説明する。
【0017】
先ず、トンネルの坑口の近傍に標定点を定め、トンネルの内周面であって且つ標定点を基準とするトンネルの長手方向の距離が互いに相違する位置にターゲットマーカを設置する(ステップS11)。
ステップS11におけるターゲットマーカの設置に関する概念図を、図3に示す。同図において、下方側がトンネルの坑口側(手前側)であり、上方側がトンネルの切羽側(奧方側)である。
【0018】
図3に示すように、坑口側には三つの標定点T1、標定点T2、標定点T3が定められている。これらの標定点は、標定点測量によりトンネル内に正確な座標系(水平位置と標高)を設定する為の位置である。本実施形態では、3つの標定点を定めることを前提として説明するが、より少ない標定点(1つ又は2つの標定点)を定めて、本発明を実施してもよい。
そして、上記の各標定点を基準としてトンネルの長手方向の手前側に位置する仮想的な円弧CAに沿って、トンネルの内周面にターゲットマーカMA1、ターゲットマーカMA2、ターゲットマーカMA3が設置されている。また、上記の各標定点を基準として、上記の円弧CAよりトンネルの長手方向の奧方側に位置する仮想的な円弧CBに沿って、トンネルの内周面にターゲットマーカMB1、ターゲットマーカMB2、ターゲットマーカMB3が設置されている。本実施形態では、それぞれの位置(円弧CAの位置及び円弧CBの位置)に3つのターゲットマーカを設置することを前提として説明するが、より少ないターゲットマーカ(1つ又は2つのターゲットマーカ)を設置して、本発明を実施してもよい。また、本実施形態では、説明の便宜上、円弧CA、円弧CB(及び後述する円弧CC)に沿って各ターゲットマーカを設置する態様で説明したが、本発明の実施において1箇所の計測位置から計測可能な範囲に、トンネルの坑口からの距離が異なる複数のターゲットマーカ(少なくとも2つのターゲットマーカ)が含まれれば足り、必ずしもターゲットマーカを繋いだ形跡が円弧になる必要はない。
【0019】
ターゲットマーカを設置する位置の間隔(円弧CAと円弧CBの間隔)は本実施形態では一定の間隔(20メートル間隔)とするが、必ずしも一定である必要はない。図3に示す時点において、坑口から切羽までの距離が短く、ターゲットマーカを設置する位置が2箇所に留まる。この程度の範囲であれば、円弧CAと円弧CBの略中間にレーザースキャナ10を設置することによって、一回のレーザースキャナ10の計測範囲AR1(図3において破線で示す範囲)に各ターゲットマーカが収まる。なお、以下の説明において、一回のレーザースキャナ10の計測によって取得される三次元の点群データを「三次元点群セット」と称する場合がある。
図3に示す時点において、一回の計測範囲に各ターゲットマーカが収まる位置にレーザースキャナ10を設置して、各ターゲットマーカの中心位置(レーザースキャナ10の設置位置から各ターゲットマーカの中心までの距離)を測定する。そして、制御装置20は、その測定結果に基づいて各ターゲットマーカの中心座標を求める(上記の標定点測量によって定められる座標系に基づいて各ターゲットマーカの中心座標を定める)。制御装置20が求めた各ターゲットマーカの中心座標は、データベース30に保存される。
【0020】
続いて、標定点が定められているトンネルの坑口側からレーザースキャナ10を長手方向に移動させ、レーザースキャナ10による計測を異なる位置から行う(ステップS12)。上述したように、レーザースキャナ10は、本発明に係る「計測手段」に相当する。
ステップS12におけるレーザースキャナ10の計測に関する概念図を、図4に示す。なお、図4においてレーザースキャナ10を2箇所に描いているが、レーザースキャナ10が移動して計測することを表しており、2台のレーザースキャナ10を同時に使用して計測することを表すものではない。
図4に示す時点において、図3に示す時点よりトンネルの掘削が進行しており、坑口から切羽までの距離が長くなり、ターゲットマーカを設置する位置が3箇所(円弧CAの位置、円弧CBの位置、円弧CCの位置)になっている。なお、円弧CA及び円弧CBよりトンネルの長手方向の奧方側に位置する仮想的な円弧CCに沿って、トンネルの内周面にターゲットマーカMC1、ターゲットマーカMC2、ターゲットマーカMC3が設置される。
このとき、坑口側に設置したレーザースキャナ10から計測して取得される三次元点群セット(図4において破線で示される計測範囲AR1に収まる点群データ)は、円弧CA上のターゲットマーカ(ターゲットマーカMA1~MA3)を表す点群と、円弧CB上のターゲットマーカ(ターゲットマーカMB1~MB3)を表す点群と、が含まれる。
また、切羽側に設置したレーザースキャナ10から計測して取得される三次元点群セット(図4において破線で示される計測範囲AR2に収まる点群データ)は、円弧CB上のターゲットマーカ(ターゲットマーカMB1~MB3)を表す点群と、円弧CC上のターゲットマーカ(ターゲットマーカMC1~MC3)を表す点群と、が含まれる。
【0021】
続いて、制御装置20は、レーザースキャナ10が行った計測によって得られた三次元点群セットのそれぞれをデータベース30に保存して蓄積し、蓄積した三次元点群セットを解析する(ステップS13)。
ステップS13における制御装置20による解析に関する処理手順の詳細について、以下説明する。図5は、制御装置20による解析の処理手順を示すフローチャートである。
【0022】
制御装置20は、レーザースキャナ10が行った計測によって得られた三次元点群セットのそれぞれを、コンピュータネットワークNWを介して受信してデータベース30に蓄積し、一連の計測が終わった後に、その計測によって得られた全ての三次元点群セットをデータベース30から読み込む(ステップS131)。
【0023】
制御装置20は、読み込んだ三次元点群セットを解析し、それぞれの三次元点群セットに含まれるターゲットマーカを表す点群を検出する(ステップS132)。
なお、ステップS132において、制御装置20が、位置合わせ用のターゲットマーカ(本実施形態では、円弧CB上のターゲットマーカMB1~MB3)が検出できない三次元点群セットが見つかった場合、レーザースキャナ10をその計測を行った位置まで移動させて再び計測を行うことが好ましい。位置合わせ用のターゲットマーカが三次元点群セットに含まれることによって、後述するステップS133の処理が可能になるからである。
【0024】
制御装置20は、坑口側に設置したレーザースキャナ10が行った計測によって得られた三次元点群セットと、切羽側に設置したレーザースキャナ10が行った計測によって得られた三次元点群セットと、を結合することに基づいて、トンネルの内周面を表す円筒モデルを生成する(ステップS133)。
ステップS133において、制御装置20は、上記の位置合わせ用のターゲットマーカを表す点群を基準とする位置合わせをして、坑口側に設置したレーザースキャナ10の計測によって取得した三次元点群セットと、切羽側に設置したレーザースキャナ10の計測によって取得した三次元点群セットと、を結合することに基づいて円筒モデルを生成する。
ここで円筒モデルとは、トンネルの内周面の形状を表す三次元モデルである。その形状が概ね円筒形であることから、円筒モデルと呼称している。
【0025】
制御装置20は、ステップS133において生成した円筒モデルを構成する各点群の位置座標を、上記の標定点測量によって定めた座標系に変換する(ステップS134)。具体的には、制御装置20は、ステップS11においてデータベース30に保存された各ターゲットマーカの中心座標と、円筒モデルに含まれる各ターゲットマーカに相当する点群の位置情報と、に基づいてステップS134の変換処理を実行する。
【0026】
制御装置20は、ステップS133において生成した円筒モデルの中心軸を推定する(ステップS135)。ステップS135において推定される中心軸は、後述する円筒モデルの比較処理に用いられる。
【0027】
制御装置20は、ステップS133~ステップS135の処理によって生成された円筒モデル及び当該円筒モデルに基づく解析結果(座標変換した各点群の位置情報と、推定された中心軸)を紐付けて、データベース30に保存する(ステップS136)。
【0028】
制御装置20が以上のように説明した一連の処理(ステップS11~ステップS13)を実行する毎に、データベース30には円筒モデル及び当該円筒モデルに基づく解析結果が蓄積されていく。
上記の一連の処理は、トンネルの施工期間中に定期的(例えば、1日ごと)に行われることが好ましく、制御装置20は、異なる時期に得られた複数の円筒モデル及びそれらの円筒モデルに基づく解析結果を比較して差異を検出することによって、トンネルの内空断面の変形を解析することができる。
換言すれば、制御装置20は、第一の円筒モデルの生成に用いられた標定点及びターゲットマーカを用い、第一の円筒モデルの生成に用いられた三次元点群セットより後の時期に得られた三次元点群セットを結合して得られた第二の円筒モデル又は第二の円筒モデルに基づく解析結果を、第一の円筒モデル又は第一の円筒モデルに基づく解析結果と比較して解析することによって、本発明に係る「解析手段」に相当する構成にもなり得る。
【0029】
図6は、上述した円筒モデルの比較処理の概念を示している。なお、図6は、説明の便宜上、第一の円筒モデルの断面IS1と、第二の円筒モデルの断面IS2と、を示している。なお、図6に図示されている中心軸CAは、断面IS1と断面IS2とで共通化が図られている。
図6に示す通り、トンネルの内周面の形状は、時間経過と共に鉛直方向に縮小し、水平方向に拡張する。そして、トンネルの内空断面の形状変化がほとんど無くなったとき(例えば、その差分が、所定の閾値以下であるとき)に、掘削している地山が安定したものとの判断される。
【0030】
図6を用いて説明した第一の円筒モデルと第二の円筒モデルの比較処理は、第一の円筒モデルと第二の円筒モデルの双方を共通の座標系(本実施形態では、標定点T1~T3に基づく標定点測量によって定められた座標系)で表現する必要がある。
具体的には、制御装置20は、ステップS134における座標変換を行う際に、同一の標定点T1~T3を基準として、第一の円筒モデルに含まれる円弧CA上のターゲットマーカ(ターゲットマーカMA1~MA3)を表す点群の位置と、第二の円筒モデルに含まれる同一のターゲットマーカを表す点群の位置と、が一致するか否かを判定する。
この判定において前者と後者が一致する場合、制御装置20は、標定点T1~T3とターゲットマーカMA1~MA3の点群の位置とを基準とする座標系に変換して、第一の円筒モデルを表す点群及び第二の円筒モデルを表す点群を表現する。
上記の判定にターゲットマーカMA1~MA3を表す点群の位置を用いるのは、これらが最も坑口側に近いターゲットマーカであり、標定点からの誤差が最も少なくなるからである。
【0031】
ここで、上述した円筒モデルの比較処理の具体例について説明する。ただし、ここで説明する円筒モデル等の比較処理は一具体例に過ぎず、本発明の目的を達成する範囲において、別の手法を用いてもよい。
制御装置20は、ステップS135において推定した円筒モデルの中心軸から、当該円筒モデルが表す内周面までの距離を点群ごとに計算し、計算した点群ごとの距離に基づいて当該円筒モデルを平面展開する。
そして、制御装置20は、先の計測に基づいて生成された円筒モデル(第一の円筒モデル)を平面展開した点群と、後の計測に基づいて生成された円筒モデル(第二の円筒モデル)を平面展開した点群と、を比較して、差分を求める。また、制御装置20は、求めた差分に基づいてトンネルの内空断面の変形を解析する(例えば、求めた差分が、所定の閾値以下であることをもってトンネルの内空断面の変形が収束したものと判定する)ことができる。
【0032】
なお、第一の円筒モデルの平面展開に用いる円筒モデルの中心軸は、第二の円筒モデルの平面展開に転用してもよい。言い換えれば、制御装置20は、第一の円筒モデルと第二の円筒モデルを、同一の中心軸を用いて平面展開してもよい。これにより、後の計測に基づく一連の処理(ステップS11~ステップS13)のうち、ステップS135の推定処理を省くことができるので、処理負荷の低減を図ることができる。
【0033】
以上のように説明した処理を行うことによって、トンネルの内周面の形状を高い精度で表す円筒モデルを生成することができる。そして、レーザースキャナ10の計測結果を定期的に取得するごとに円筒モデルを更新し、現状を表す円筒モデルと過去の円筒モデルと比較することによってトンネルの内空断面の変形の収束を監視することができ、トンネル工事における作業員の安全性を担保すると共に、トンネルの掘削を進めるタイミングを適切に図ることができる。
【0034】
<その他の変形例>
本発明の実施は、上述した実施形態に限定されるものではなく、種々の変形、改良等が可能である。以上の説明で記載されていない変形例について、以下に列挙する。
【0035】
図1に図示した施工管理システム100の構成は一具体例であって、本発明の実施はこれに限られない。本発明の目的を達成する範囲において、不図示の構成を追加してもよいし、図示した構成の一部を省いてもよい。
【0036】
図2及び図5に図示したフローチャートは、施工管理方法の手順の一具体例であって、本発明の実施はこれに限られない。本発明の目的を達成する範囲において、上述した実施形態中で説明していない処理を実行する工程が追加されてもよいし、図示した工程の一部を省いてもよいし、図示した工程の順序(時系列の前後関係)を変更してもよい。
【0037】
図3では、ターゲットマーカを設置する位置を2箇所(円弧CA上の内周面と円弧CB上の内周面)とし、図4では、ターゲットマーカを設置する位置を3箇所(円弧CA上の内周面と円弧CB上の内周面と円弧CC上の内周面)を例示したが、本発明の実施はこれに限られない。
ターゲットマーカを設置する位置は、トンネルの掘削が進行し、トンネルの内部空間が広がる(長くなる)ほどに増える。
【0038】
<付記>
本実施形態は、次のような技術思想を包含する。
(1)トンネルの坑口の近傍に定められた標定点と、前記トンネルの内周面であって且つ前記標定点を基準とする前記トンネルの長手方向の距離が互いに相違する少なくとも三箇所以上に設置されるターゲットマーカと、前記標定点が定められている坑口側から長手方向に移動され、異なる位置から前記内周面を計測する計測手段と、第一位置から行われた計測によって得られた第一の三次元点群セットと、前記第一位置とは異なる第二位置から行われた計測によって得られた第二の三次元点群セットと、を結合することに基づいて前記内周面を表す円筒モデルを生成するデータ処理手段と、を備え、前記第一の三次元点群セットは、前記標定点を基準として前記第一位置より手前側に設置された第一のターゲットマーカを表す点群と、前記標定点を基準として前記第一位置より奧方側に設置され前記第二位置より手前側に設置された第二のターゲットマーカを表す点群と、を含み、前記第二の三次元点群セットは、前記第二のターゲットマーカを表す点群と、前記標定点を基準として前記第二位置より奧方側に設置された第三のターゲットマーカを表す点群と、を含み、前記データ処理手段は、前記第二のターゲットマーカを表す点群を基準とする位置合わせをして、前記第一の三次元点群セットと前記第二の三次元点群セットを結合する、ことを特徴とするトンネルの施工管理システム。
(2)前記標定点及び前記ターゲットマーカを用いた前記計測手段による計測に基づいて前記データ処理手段が生成した第一の円筒モデル又は前記第一の円筒モデルに基づく解析結果と、前記第一の円筒モデルの生成に用いられた同一の前記標定点及び前記ターゲットマーカを用い、且つ、前記第一の円筒モデルの生成に用いられた三次元点群セットより後の時期に得られた三次元点群セットを結合して生成した第二の円筒モデル又は前記第二の円筒モデルに基づく解析結果と、を比較して、前記トンネルの内空断面の変形を解析する解析手段を、更に備える、(1)に記載のトンネルの施工管理システム。
(3)前記解析手段は、前記円筒モデルを解析して前記内周面の中心軸を推定し、推定した前記中心軸から前記円筒モデルが表す前記内周面までの距離を点群ごとに計算し、計算した点群ごとの距離に基づいて前記円筒モデルを平面展開し、前記第一の円筒モデルを平面展開した点群と、前記第二の円筒モデルを平面展開した点群と、を比較して、それぞれの円筒モデルが表す前記内周面の差分を求めて、求めた前記差分に基づいて前記トンネルの内空断面の変形を解析する、(2)に記載のトンネルの施工管理システム。
(4)前記解析手段は、前記第一の円筒モデルと前記第二の円筒モデルは、同一の前記中心軸を用いて平面展開する、(3)に記載のトンネルの施工管理システム。
(5)前記解析手段は、同一の前記標定点を基準として、前記第一の円筒モデルに含まれる前記第一のターゲットマーカを表す点群の位置と、前記第二の円筒モデルに含まれる前記第一のターゲットマーカを表す点群の位置と、が一致する場合、前記標定点と前記第一のターゲットマーカの点群の位置とを基準とする座標系に変換して、前記第一の円筒モデルを表す点群及び前記第二の円筒モデルを表す点群を表現する、(2)から(4)のいずれか一つに記載のトンネルの施工管理システム。
(6)トンネルの坑口の近傍に標定点を定め、前記トンネルの内周面であって且つ前記標定点を基準とする前記トンネルの長手方向の距離が互いに相違する少なくとも三箇所以上にターゲットマーカを設置する第一工程と、前記内周面を計測する計測手段を前記標定点が定められている坑口側から長手方向に移動させ、前記計測手段による計測を異なる位置から行う第二工程と、第一位置から行われた計測によって得られた第一の三次元点群セットと、前記第一位置とは異なる第二位置から行われた計測によって得られた第二の三次元点群セットと、を結合することに基づいて前記内周面を表す円筒モデルを生成する第三工程と、を含み、前記第一の三次元点群セットは、前記標定点を基準として前記第一位置より手前側に設置された第一のターゲットマーカを表す点群と、前記標定点を基準として前記第一位置より奧方側に設置され前記第二位置より手前側に設置された第二のターゲットマーカを表す点群と、を含み、前記第二の三次元点群セットは、前記第二のターゲットマーカを表す点群と、前記標定点を基準として前記第二位置より奧方側に設置された第三のターゲットマーカを表す点群と、を含み、前記第三工程において、前記第二のターゲットマーカを表す点群を基準とする位置合わせをして、前記第一の三次元点群セットと前記第二の三次元点群セットを結合する、ことを特徴とするトンネルの施工管理方法。
(7)前記第一工程、前記第二工程、及び前記第三工程を含む一連の処理に基づいて生成された第一の円筒モデル又は前記第一の円筒モデルに基づく解析結果と、前記第一の円筒モデルの生成に用いられた前記標定点及び前記ターゲットマーカを用い、前記第一の円筒モデルの生成に用いられた三次元点群セットより後の時期に得られた三次元点群セットを結合して得られた第二の円筒モデル又は前記第二の円筒モデルに基づく解析結果と、を比較して、前記トンネルの内空断面の変形を解析する、(6)に記載のトンネルの施工管理方法。
【符号の説明】
【0039】
100 施工管理システム
10 レーザースキャナ
20 制御装置
30 データベース
NW コンピュータネットワーク
【要約】
【課題】トンネルの内周面およびトンネルの各位置を表す三次元モデルを高い精度で生成する施工管理システム、及び当該システムに用いられる施工管理方法を提供する。
【解決手段】トンネルの坑口の近傍に標定点を定め、トンネルの内周面にターゲットマーカを設置する第一工程(ステップS11)と、計測手段による計測を異なる位置から行う第二工程(ステップS12)と、異なる位置から行われた計測によって得られたそれぞれの三次元点群セットを結合することに基づいて内周面を表す円筒モデルを生成する第三工程(ステップS13)と、を含み、第三工程において、第一の三次元点群セットと第二の三次元点群セットの双方に含まれるターゲットマーカを表す点群を基準とする位置合わせをして、第一の三次元点群セットと第二の三次元点群セットを結合する、ことを特徴とする。
【選択図】図2
図1
図2
図3
図4
図5
図6