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特許7369399振動素子の製造方法、振動発電素子の製造方法、振動素子、および振動発電素子
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-18
(45)【発行日】2023-10-26
(54)【発明の名称】振動素子の製造方法、振動発電素子の製造方法、振動素子、および振動発電素子
(51)【国際特許分類】
   H02N 1/00 20060101AFI20231019BHJP
   H01G 7/02 20060101ALI20231019BHJP
   B81B 3/00 20060101ALI20231019BHJP
   B81C 1/00 20060101ALI20231019BHJP
【FI】
H02N1/00
H01G7/02 E
H01G7/02 D
B81B3/00
B81C1/00
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2020026396
(22)【出願日】2020-02-19
(65)【公開番号】P2021132462
(43)【公開日】2021-09-09
【審査請求日】2021-12-02
(73)【特許権者】
【識別番号】304023318
【氏名又は名称】国立大学法人静岡大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000143949
【氏名又は名称】株式会社鷺宮製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】弁理士法人谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】橋口 原
(72)【発明者】
【氏名】三屋 裕幸
【審査官】津久井 道夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-213296(JP,A)
【文献】特開2001-150396(JP,A)
【文献】国際公開第2019/031565(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/019919(WO,A1)
【文献】特開2011-152632(JP,A)
【文献】特開2008-052220(JP,A)
【文献】特開2008-235723(JP,A)
【文献】特開2003-018868(JP,A)
【文献】特開2006-295063(JP,A)
【文献】特開2014-049557(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第109399552(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02N 1/00
H01G 7/02
B81B 3/00
B81C 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性の基板を用意すること、
前記基板の第1領域に空隙を形成すること、
前記第1領域に形成された前記空隙に絶縁部材を充填して絶縁部を形成すること、
前記基板から、前記第1領域に接する第2領域を除去して、前記絶縁部と機械的に接続されている第1支持部と、前記絶縁部と機械的に接続され、かつ前記第1支持部と絶縁されている第2支持部と、前記第1支持部に支持されている第1電極と、前記第2支持部に支持されている第2電極とを形成すること、
を備える、振動素子の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の振動素子の製造方法において、
前記基板上に互いに離れた2つの前記第1領域が存在し、
前記第2領域は、2つの前記第1領域の両方に接する領域である、振動素子の製造方法。
【請求項3】
導電性の基板を用意すること、
前記基板の第1領域に空隙を形成すること、
前記第1領域に形成された前記空隙に絶縁部材を充填して絶縁部を形成すること、
前記基板から、前記第1領域に接する主領域と、前記第1領域に接しない付帯領域とを含む第2領域を除去して、前記絶縁部と機械的に接続されている第1支持部と、前記絶縁部と機械的に接続され、かつ前記第1支持部と絶縁されている第2支持部と、前記第1支持部に支持されている第1電極と、前記第2支持部に支持されている第2電極とを形成すること、
を備える、振動素子の製造方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の振動素子の製造方法において、
前記基板はシリコン基板であり、
前記絶縁部の主成分はシリコン酸化物である、振動素子の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の振動素子の製造方法において、
前記絶縁部の形成は、前記第1領域に形成された前記空隙に粉末シリコンを充填し、充填した前記粉末シリコンを酸化させてシリコン酸化物とすることにより行う、振動素子の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の振動素子の製造方法において、
前記空隙に、前記粉末シリコンに加えて粉末ガラスを充填する、振動素子の製造方法。
【請求項7】
請求項1から請求項6までのいずれか一項に記載の振動素子の製造方法において、
前記第1領域は、前記第1支持部と、前記第2支持部とを、前記第1領域を挟んで相互に歯合させて分離する領域である、振動素子の製造方法。
【請求項8】
請求項1から請求項7までのいずれか一項に記載の振動素子の製造方法において、
前記第1電極と前記第2電極とを、前記基板の面内方向に対向させて形成する、振動素子の製造方法。
【請求項9】
請求項8に記載の振動素子の製造方法において、
前記第1電極と前記第2電極とを、櫛歯状に対向させて形成する、振動素子の製造方法。
【請求項10】
請求項8または請求項9に記載の振動素子の製造方法において、
前記第1電極と前記第2電極とを、10μm以下の距離で対向させて形成する、振動素子の製造方法。
【請求項11】
請求項8から請求項10までのいずれか一項に記載の振動素子の製造方法と、
前記第1電極および前記第2電極のうちの一方の電極の、他方の電極と対向する部分にエレクトレットを形成すること、を備える、振動発電素子の製造方法。
【請求項12】
絶縁部と、
前記絶縁部と機械的に接続されている導電性の第1支持部と、
前記絶縁部と機械的に接続され、かつ前記第1支持部と絶縁されている導電性の第2支持部と、
前記第1支持部に支持されている第1電極と、
前記第2支持部に支持されている第2電極と、
を備え、
前記絶縁部は、前記第1支持部の壁部と前記第2支持部の壁部とが対向する対向面間に密着して設けられ、
発電に供する振動方向と直交する方向において、前記第1電極と前記第2電極とは、10μm以下の距離で対向して配置されている、振動素子。
【請求項13】
請求項12に記載の振動素子において、
前記第1支持部と前記第2支持部とは、前記絶縁部を介して相互に歯合している、振動素子。
【請求項14】
請求項12または請求項13に記載の振動素子において、
前記第1支持部の上面および前記第2支持部の上面は第1平面内にあり、前記絶縁部の上端部は前記第1平面よりも下方にあり、
前記第1支持部の下面および前記第2支持部の下面は第2平面内にあり、前記絶縁部の下端部は前記第2平面よりも上方にある、振動素子。
【請求項15】
請求項12から請求項14までのいずれか一項に記載の振動素子を備え、
前記第1電極および前記第2電極のうちの一方の電極の、他方の電極と対向する部分にエレクトレットが形成されている、振動発電素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動素子の製造方法、振動発電素子の製造方法、振動素子、および振動発電素子に関する。
【背景技術】
【0002】
環境振動からエネルギーを収穫するエナジーハーベスティング技術の一つとして、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)振動素子である振動発電素子を用いて環境振動から発電を行う手法が知られている。
振動発電素子では、例えば可動電極をカンチレバーのような弾性支持部で支持し、可動電極が固定電極に対して振動することで発電を行っている。
振動発電素子の発電効率を向上させるためには、可動電極と固定電極とを近接して対向させることが望ましい。このため、可動電極と固定電極とを、同一の基板からエッチングにより一体的に形成する製造方法が用いられている。
また、可動電極と固定電極のそれぞれは、適度な導電性を有する必要があるとともに、可動電極と固定電極との間は電気的に絶縁されている必要がある(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2019/031565号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1においては、可動電極と固定電極との間の電気的な絶縁性を確保するために、基板として、SOI(Silicon On Insulator)基板、または導電率の小さな真性のシリコン基板の表面から所定厚さの領域にのみドーピングによりP型またはN型の導電層を形成した基板を使用する。
【0005】
しかし、SOI基板は高価であり、SOI基板を使用すると、振動発電素子等の製造コストが高価になるという課題がある。また、真性のシリコン基板の表面にドーピングにより導電層を形成しても、その導電層の厚さは薄く、従って十分に低い電気抵抗を得ることは難しい。そして、ドーピングにより十分な厚さの導電層を形成するには、注入するイオンの加速電圧の増加や処理時間の増加が必要であり、やはり製造コストが上昇するという課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の態様によると、振動素子の製造方法は、導電性の基板を用意すること、前記基板の第1領域に空隙を形成すること、前記第1領域に形成された前記空隙に絶縁部材を充填して絶縁部を形成すること、前記基板から、前記第1領域に接する第2領域を除去して、前記絶縁部と機械的に接続されている第1支持部と、前記絶縁部と機械的に接続され、かつ前記第1支持部と絶縁されている第2支持部と、前記第1支持部に支持されている第1電極と、前記第2支持部に支持されている第2電極とを形成すること、を備える。
第2の態様によると、振動発電素子の製造方法は、第1の態様の振動素子の製造方法と、前記第1電極および前記第2電極のうちの一方の電極の、他方の電極と対向する部分にエレクトレットを形成すること、を備える。
第3の態様によると、振動素子は、絶縁部と、前記絶縁部と機械的に接続されている導電性の第1支持部と、前記絶縁部と機械的に接続され、かつ前記第1支持部と絶縁されている導電性の第2支持部と、前記第1支持部に支持されている第1電極と、前記第2支持部に支持されている第2電極と、を備え、前記第1電極と前記第2電極とは、10μm以下の距離で対向して配置されている。
第4の態様によると、振動発電素子は、第3の態様による振動素子を備え、前記第1電極および前記第2電極のうちの一方の電極の、他方の電極と対向する部分にエレクトレットが形成されている。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、振動素子および振動発電素子を安価に製造することができる。
また、導電性の基板の面内を、安価な方法で絶縁することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】振動素子および振動発電素子の製造方法の第1実施形態を説明する図。
図2図1に続く振動素子および振動発電素子の製造方法の第1実施形態を説明する図。
図3図2に続く振動素子および振動発電素子の製造方法の第1実施形態を説明する図。
図4図4(a)は、図2に続く振動素子および振動発電素子の製造方法の第1実施形態を説明する図。図4(b)および図4(c)は、第1実施形態の製造方法で製造された振動素子および振動発電素子を示す図。
図5図5(a)は、振動素子および振動発電素子の製造方法の第2実施形態を説明する図。図5(b)は、第2実施形態の製造方法で製造された振動素子および振動発電素子を示す図。
図6図6(a)は、振動素子および振動発電素子の製造方法の第3実施形態を説明する図。図6(b)は、第3実施形態の製造方法で製造された振動素子および振動発電素子を示す図。
図7図7(a)は、振動素子および振動発電素子の製造方法の変形例2を説明する図。図7(b)は、振動素子および振動発電素子の製造方法の変形例3を説明する図。
図8】振動素子および振動発電素子の製造方法の変形例4を説明する図。
図9】振動素子および振動発電素子の製造方法の変形例6を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(振動発電素子の製造方法の第1実施形態)
以下、図1から図4を参照して、振動発電素子50の製造方法の第1実施形態について説明する。図1(a)から図4(c)まで、および図5以降の各図に矢印で示したX方向、Y方向、およびZ方向はそれぞれ同一の方向を示し、その矢印の指し示す方向を+方向とする。X方向、Y方向、およびZ方向は、相互に直交する方向であり、X方向およびY方向は後述する基板10の表面と平行な方向である。
【0010】
(工程1)
図1(a)に示したように、略円形のシリコン基板であるシリコンウエハ等の、導電性の基板10を用意する。基板10がシリコン基板である場合には、その内部に不純物を含むことによりN型またはP型の導電性を有するシリコン基板を用意する。基板10のZ方向の厚さは、一例として10μmから800μm程度である。
導電性の基板10の体積抵抗率は、一例として100〔Ω・cm〕以下である。
【0011】
(工程2)
図1(a)に示したように、基板10の2つの第1領域11に、貫通孔である空隙14をそれぞれ形成する。
図1(b)は、空隙14を形成する工程を説明する図であり、図1(a)に示した1つの第1領域11を通るAA線における基板10のXZ断面を、-Y方向から見た図である。
第1領域11のX方向の幅は、一例として、10μm程度から10mm程度である。第1領域11のY方向の幅は、一例として、0.5mmから10mm程度である。
また、第1領域11のZ方向の幅は、基板10の厚さに等しい。
【0012】
空隙14の形成においては、始めに基板10の+Z側の面(以下「おもて面」と呼ぶ)上の全面にレジスト12aを形成する。そして、第1領域11の上に形成されているレジスト12aを除去し、開口部13を形成する。レジスト12aの除去は、例えば、露光および現像等を含むフォトリソグラフィ工程により行う。
そして、レジスト12aをエッチングマスクとして、基板10をエッチングすることにより、図1(c)に示したように、第1領域11に基板10を貫通する空隙14を形成する。その後、レジスト12aを除去する。
【0013】
(工程3)
第1領域11に形成されている空隙14に絶縁部材を充填して、第1領域11に絶縁部15を形成する。
図2(a)および図2(b)は、絶縁部15の形成方法を説明する図であり、基板10の第1領域11の近傍を、図1(c)よりも拡大して示したXZ断面図である。
【0014】
図2(a)に示したように、始めに第1領域11に形成されている空隙14に、粒形が0.5μmから2μm程度の粉末シリコン16を充填する。そして、800℃から1200℃程度、一例として950℃程度の温度の水蒸気雰囲気中で数時間、粉末シリコン16の少なくとも表面付近を熱酸化させるとともに相互に融着させ、絶縁性の二酸化シリコン(石英ガラス)を含む一体的な絶縁部15に変化させる。
絶縁部15の体積抵抗率は、一例として1〔MΩ・cm〕以上である。
【0015】
酸化により粉末シリコン16の体積が膨張するため、空隙14内を絶縁部15により充填することができるとともに、体積膨張した絶縁部15が基板10の側壁101、102を押し、その結果、絶縁部15が側壁101、102と密着する。
基板10がシリコン基板等の熱酸化により酸化膜が形成される基板であれば、上述の熱酸化において、空隙14に面する基板10の側壁101、102も酸化する。そして、上述の粉末シリコン16の酸化物と融着するので、絶縁部15と基板10の側壁101、102との密着性をさらに高めることができる。
【0016】
図2(c)は、2つの第1領域11の内部に、絶縁部15が形成された基板10を+Z方向から見た図を示している。そして、上述の図2(b)は、図2(c)に示したBB線における基板10のXZ断面を、-Y方向から見た図となる。
【0017】
(工程4)
図3(a)に示したように、基板10のおもて面の全面にレジスト12bを形成する。そして、例えば露光および現像等を含むフォトリソグラフィ工程により、XY平面内において2つの第1領域11に共に接する内部領域17aに形成されているレジスト12bを除去する。
なお、第1領域11に形成されている絶縁部15は、レジスト12bに覆われているため図3(a)には示していない。ただし、内部領域17aと第1領域11との位置関係を示すために、第1領域11については図3(a)に破線で示している。
【0018】
内部領域17aの形状は、後述するように、製造する振動発電素子50を構成する部材の形状に応じて決定する。ただし、上述したように、内部領域17aは、2つの第1領域11のそれぞれに接している。
【0019】
(工程5)
基板10のおもて面の内部領域17aを除く部分に形成したレジスト12bをエッチングマスクとして基板10をエッチングすることにより、基板10の内部領域17aを除去する。その後、レジスト12bを除去する。図3(b)は、内部領域17aおよびレジスト12bが除去された状態の基板10を示している。
【0020】
図4(a)は、基本的には上述の図3(b)に示したものと同様の状態の基板10を示す図である。ただし、説明を容易にするために、図4(b)に示した完成後の振動発電素子50を構成する各部分に相当する基板10上の各部分に、それぞれハッチングを付し、かつ符号を付している。
【0021】
上述の内部領域17aの除去により、完成後の振動発電素子50における第1電極19、第2電極23等が、基板10に残存する形で形成される。
第1電極19および第2電極23は、いずれもXY平面内における形状が櫛歯状であり、いずれも複数本の櫛歯を有している。そして、それぞれの櫛歯部分は相互に歯合している。すなわち、第2電極23の各櫛歯部分の±Y方向の各端面は、第1電極19の各櫛歯部分の±Y方向の端面に対向して配置されている。
なお、上述のエッチングにおいて、絶縁部15の一部についても、内部領域17aとして基板10から除去しても良い。この場合には、第1領域は、絶縁部15のうち、内部領域17aのエッチングの後に基板10に残存する領域である。
【0022】
(工程6)
基板10上の、第2電極23の+Y方向および-Y方向の端面に、公知の帯電処理(例えば、特開2014-049557号公報に記載の帯電処理)を施すことによって、エレクトレット24を形成する。すなわち、エレクトレット24は、第2電極23の各櫛歯のうちの、第1電極19の各櫛歯と対向する部分に形成される。
【0023】
なお、エレクトレット24を、第2電極23の各櫛歯のうちの第1電極19の各櫛歯と対向する部分ではなく、第1電極19の各櫛歯のうちの第2電極23の各櫛歯と対向する部分に形成しても良い。
また、基板10がシリコン基板でない場合には、第1電極19または第2電極23の表面のうちのエレクトレット24を形成すべき部分にシリコンまたはポリシリコンの膜を形成した後に、上述の公知の帯電処理によりエレクトレット24を形成する。
【0024】
(工程7)
基板10から、図4(a)に示した切断線SL1の-X側、切断線SL2の+X側、切断線SL3の+Y側、および切断線SL4の-Y側の領域である外部領域17bを除去する。外部領域17bは全体として、2つの第1領域11のそれぞれに接している。
なお、切断線SL3は、絶縁部15の+Y側の端部よりも-Y側であって、絶縁部15の内部を通る線であっても良い。また、切断線SL4は、絶縁部15の-Y側の端部よりも+Y側であって、絶縁部15の内部を通る線であっても良い。これらの場合には、絶縁部15の一部も外部領域17bとともに基板10から除去される。なお、これらの場合には、第1領域は、絶縁部15のうち、上記の除去の後に基板10に残存する領域である。
外部領域17bの除去により、振動発電素子50が完成する。
【0025】
外部領域17bの除去は、切断線SL1~SL4に沿って、ダイシングソーで基板10を切断することにより行っても良く、上述の内部領域17aと同様にエッチングを含むリソグラフィによりエッチングにより除去しても良い。外部領域17bを、エッチングを含むリソグラフィにより基板10から除去する場合には、上述の内部領域17aの除去と同時に行っても良い。
【0026】
本明細書では、基板10の中の第1領域11に接する領域であって、製造工程において基板10から除去される領域を「第2領域」17と呼ぶ。
内部領域17aと外部領域17bは、共に2つの第1領域11のそれぞれに接する領域であり、基板10から除去される領域である。従って、内部領域17aと外部領域17bとは、いずれも第2領域である。また、内部領域17aと外部領域17bとを合わせて、または個々に、第2領域17とも呼ぶ。
【0027】
(振動発電素子の第1実施形態)
図4(b)は、以上の工程により完成した振動発電素子50を、+Z方向から見た図である。振動発電素子50は、2つの絶縁部15と、絶縁部15と機械的に接続されている導電性の第1支持部18と、絶縁部15と機械的に接続され、かつ絶縁部15により第1支持部18とは絶縁されている導電性の第2支持部22とを備えている。ここで、第2支持部22は、絶縁部15と機械的に接続されている支持枠20と、支持枠20に接続されている電極支持部21とを含んでいる。
【0028】
振動発電素子50は、さらに、第1支持部18に支持されている第1電極19と、第2支持部22の電極支持部21に支持されている第2電極23とを備えている。そして、第1電極19と第2電極23とのどちらか一方は、他方と対向する部分にエレクトレット24を備えている。
【0029】
なお、第1電極19および第2電極23のそれぞれの櫛歯の本数は、図4(b)等に示したものに限定されない。
また、第1電極19および第2電極23は、XY平面内における形状が上述の櫛歯状に限られるわけではない。例えば、2つの電極はそれぞれ、YZ平面に平行な端面を有し、2つの端面が基板10の面内方向であるX方向に対向して配置されるものであっても良い。
【0030】
第1支持部18、第2支持部22(支持枠20と電極支持部21)、第1電極19および第2電極23は、上述の基板10から上述の第2領域17(内部領域17aおよび外部領域17b)を除去することにより形成されている。従って、第2領域17の形状を所望の形状に設定することにより、第1支持部18、第2支持部22(支持枠20と電極支持部21)、第1電極19および第2電極23のそれぞれのXY平面内の形状を、所望の形状とすることができる。
【0031】
また、第1電極19と第2電極23とは、それぞれ第1支持部18および第2支持部22により保持され、第1支持部18と第2支持部22とは絶縁部15により電気的に絶縁されているので、第1電極19と第2電極23とは電気的に絶縁されている。
【0032】
振動発電素子50がZ方向に振動成分を有する振動で振動すると、これに誘起されてX方向に長い電極支持部21が支持枠20を支点としてZ方向に振動する。このため、電極支持部21に一体的に保持されている第2電極23は、第1支持部18に対して固定的に保持されている第1電極19に対して相対的にZ方向に振動する。
【0033】
この結果、第1電極19と第2電極23の対向部分OA1のZ方向の長さが変動し、従って、対向部分OA1の面積が変動する。対向部分OA1の面積の変化により、エレクトレットが形成されている第2電極23(または第1電極19)と対向する第1電極19(または第2電極23)に誘起される誘導電荷が変化し、第1電極19と第2電極23との間の電圧が変化して起電力が発生する。
【0034】
第1電極19と第2電極23とのそれぞれの櫛歯部分のY方向に対向する端面の間隔Dは、一例として10μm以下の距離である。また、第1電極19と第2電極23とがY方向に対向する対向部分OA1のX方向の長さは、一例として0.5mmから10mm程度である。そして、第1電極19および第2電極23を含む振動発電素子50は、使用した基板10と同じく、一例として10μmから800μm程度のZ方向の厚さを有している。
【0035】
上述の製造方法の第1実施形態においては、1つの基板10からエッチングを含むリソグラフィ等により第2領域17を除去することにより、第1電極19と第2電極23とを一括して形成している。これにより、振動発電素子50の第1電極19と第2電極23との櫛歯部分を、X方向に数mm程度の長さに渡って、Y方向に10μm以下の距離を保って、高精度に対向して形成することができる。
【0036】
これにより、エレクトレットが形成されている第1電極19(または第2電極23)と対向する第2電極23(または第1電極19)に、より多くの誘導電荷を発生させることができ、振動発電素子50の発電効率を高めることができる。
なお、第2電極23と同様に、第1電極19も不図示の電極支持部を介して第1支持部18により支持されていても良い。
【0037】
なお、上述した特許文献1に開示されるように、電極支持部21の少なくとも一部に対して局所的なエッチングを行い、その厚さを薄くしても良い。これにより、電極支持部21の剛性を低下させ、振動発電素子50がZ方向に振動成分を有する振動で振動する際の第1電極19と第2電極23のZ方向への相対移動量を増大させることができ、振動発電素子50の発電効率をさらに高めることができる。
第1電極19が不図示の電極支持部を介して第1支持部18に支持されている場合には、第1電極19を指示する不図示の電極支持部についても、上記と同様の局所的なエッチングを行い、その厚さを薄くしても良い。
【0038】
電極支持部21に対する局所的なエッチングは、基板10のおもて面から行っても良く、裏面(-Z側の面)から行っても良い。
電極支持部21に対する局所的なエッチングは、一例として、上述の製造方法の第1実施形態における工程2から工程6までの間のいずれかにおいて行えば良い。
【0039】
図4(c)は、図4(b)に示した振動発電素子50を-Y方向から見た側面図である。上述の製造方法の第1実施形態においては、絶縁部15を基板10の第1領域11に設けた空隙14(図2(b)等参照)内に形成する。従って、第1支持部18の上面(+Z側面)および第2支持部22の上面は第1平面PU内にあり、絶縁部15の上端部(+Z側の端部)は、第1平面PUよりも下方(-Z側)にある。そして、第1支持部18の下面(-Z側面)および第2支持部22の下面は第2平面PD内にあり、絶縁部15の下端部(-Z側の端部)は、第2平面PDよりも上方(+Z側)にある。
【0040】
従って、絶縁部15が、第1支持部18および第2支持部22よりも、上方(+Z側)および下方(-Z側)に、はみ出すことが無く、Z方向に小型化され、かつ不要な突起部の無い、ハンドリングしやすい振動発電素子50を実現することができる。
なお、絶縁部15が第1支持部18および第2支持部22よりも+Z方向または-Z方向にはみ出していても良いのであれば、絶縁部15は、上述の第1領域11を+Z側または-Z側に、はみ出した領域にも形成されていても良い。
【0041】
(振動素子の製造方法の第1実施形態、および振動素子の第1実施形態)
以下、振動素子の製造方法の第1実施形態、および振動素子の第1実施形態について説明する。ただし、振動素子の製造方法の第1実施形態は、上述の振動発電素子の製造方法の第1実施形態と大部分が共通している。また、振動素子の第1実施形態は、上述の振動発電素子の第1実施形態と大部分が共通している。従って、以下では、相違点についてのみ説明する。
【0042】
振動素子の製造方法の第1実施形態では、上述の振動発電素子の製造方法の第1実施形態と異なり、上述の工程6におけるエレクトレットの形成を行わない。ただし、それ以外の工程は、上述の振動発電素子の製造方法の第1実施形態と同様である。従って、第1実施形態の振動素子は、図4(b)および図4(c)に示した第1実施形態の振動発電素子50からエレクトレット24が除外されているものとなる。
【0043】
なお、逆に言えば、第1実施形態の振動発電素子50は、第1実施形態の振動素子の第1電極19または第2電極23の表面にエレクトレット24を形成したものであるともいえる。
以下では、第1実施形態の振動素子についても、第1実施形態の振動発電素子50と同様に、符号50を付して説明する。
【0044】
振動素子50においても、上述の振動発電素子50と同様に、振動素子50がZ方向に振動成分を有する振動で振動すると、第2電極23と第1電極19とのZ方向の位置が相対的に変化し、第1電極19と第2電極23の対向部分OA1の面積が変動する。従って、振動素子50は、例えば、Z方向成分を含む振動に応じて第1電極19と第2電極23との間の静電容量が変化する、静電容量型の振動検出素子として使用することができる。そして、第1電極19と第2電極23とのY方向の距離が10μm以下と小さいため、第1電極19と第2電極23との間に大きな静電容量を形成することができ、高感度な振動検出素子を実現できる。
【0045】
(振動発電素子の製造方法の第2実施形態)
以下、図5を参照して、振動発電素子の製造方法の第2実施形態について説明する。ただし、振動発電素子の製造方法の第2実施形態は、多くの構成が上述の振動発電素子の製造方法の第1実施形態と共通している。従って、以下では主に相違点について説明し、共通する構成については同一の符号を付して適宜説明を省略する。
【0046】
振動発電素子の製造方法の第2実施形態においても、上述の工程1から工程3までは、上述の第1実施形態と同一である。
第2実施形態においては、上述の工程4においてレジスト12bを除去する領域、および工程5において基板10を除去する領域の形状が、上述の第1実施形態とは異なっている。
【0047】
図5(a)は、第2実施形態において、上述の工程5の終了後に基板10に形成されている内部領域17aの形状を示す図である。また、図5(b)は、完成後の振動発電素子50aを示す図である。なお、図5(a)には、上述の第1実施形態において示した図4(a)と同様に、完成後の振動発電素子50aを構成する各部分に相当する基板10上の各部分に、それぞれハッチングを付し、かつ符号を付している。
【0048】
第2実施形態においては、上述の工程4および工程5において、図5(a)に示したように、内部領域17aに加えて付帯領域17cも基板10から除去する。その結果、第2実施形態における電極支持部21bは、Y方向の両端で、X方向に幅の狭い弾性支持部21sを介して支持枠20に保持されている構成となる。第2電極23は電極支持部21bにより支持されている。付帯領域17cは、一例として、電極支持部21bおよび弾性支持部21sから見て、内部領域17aとはX方向の反対側の領域である。
【0049】
第2実施形態においては、第2支持部22aは、絶縁部15と機械的に接続されている支持枠20と、支持枠20に接続されている弾性支持部21sと、電極支持部21bとを含んでいる。
続いて、第1実施形態と同様に、上述の工程6において第1電極19または第2電極23にエレクトレット24を形成し、上述の工程7において基板10から外部領域17bを除去する。外部領域17bの除去により、図5(b)に示した振動発電素子50aが完成する。
【0050】
以下では、第1領域11と接する内部領域17aと、同じく第1領域11と接する外部領域17bとを合わせて、または個々に「主領域」17mと呼ぶ。第2実施形態においては、第2領域17は、主領域17mに加えて、主領域17mとは離れた付帯領域17cとを含むものである。
第2実施形態においては、主領域17mに加えて、付帯領域17cも基板10から除去するため、より複雑な形状の第2支持部22aを形成することができる。
【0051】
(振動発電素子の第2実施形態)
第2実施形態の振動発電素子50aにおいては、第2電極23を支持する電極支持部21bは、Y方向の両端で、X方向に幅の狭い弾性支持部21sを介して支持枠20に保持されている。従って、振動発電素子50aがX方向に振動成分を有する振動で振動すると、弾性支持部21sはX方向に変形し、電極支持部21bは支持枠20に対して相対的にX方向に振動する。このため、電極支持部21bに一体的に保持されている第2電極23は、第1支持部18に対して固定的にかつ一体的に保持されている第1電極19に対して相対的にX方向に振動する。
【0052】
この結果、第1電極19と第2電極23の対向部分OA2のX方向の長さが変動し、従って、対向部分OA2の面積が変動する。対向部分OA2の面積の変化により、エレクトレットが形成されている第1電極19(または第2電極23)と対向する第2電極23(または第1電極19)に誘起される誘導電荷が変化し、第1電極19と第2電極23との間の電圧が変化して起電力が発生する。
【0053】
上述の第2実施形態の振動発電素子50と同様に、第1電極19と第2電極23とのそれぞれの櫛歯部分のY方向に対向する端面の間隔Dは、一例として10μm以下の距離である。また、第1電極19と第2電極23とがY方向に対向する対向部分OA2のX方向の長さは、一例として3mmから10mm程度である。そして、第1電極19および第2電極23を含む振動発電素子50aは、使用した基板10と同じく、一例として10μmから800μm程度のZ方向の厚さを有している。
【0054】
上述の製造方法の第2実施形態においても、1つの基板10からエッチングを含むリソグラフィ等により第2領域17を除去することにより、第1電極19と第2電極23とを一括して形成している。これにより、振動発電素子50aの第1電極19と第2電極23との櫛歯部分を、X方向に数mm程度の長さに渡って、Y方向に10μm以下の距離を保って、高精度に対向して形成することができる。
【0055】
これにより、エレクトレットが形成されている第1電極19(または第2電極23)と対向する第2電極23(または第1電極19)に、より多くの誘導電荷を発生させることができ、振動発電素子50aの発電効率を高めることができる。
【0056】
なお、第2実施形態においても、弾性支持部21sの少なくとも一部に対して+Z方向または-Z方向から局所的なエッチングを行い、その厚さを薄くしても良い。これにより、弾性支持部21sの剛性をさらに低下させ、振動発電素子50がX方向に振動成分を有する振動で振動する際の第1電極19と第2電極23のX方向への相対移動量を増大させることができ、振動発電素子50aの発電効率をさらに高めることができる。
電極支持部21に対する局所的なエッチングは、一例として、上述の製造方法の第2実施形態における工程2から工程6までの間のいずれかにおいて行えば良い。
なお、主領域17mの形状を変化させることにより弾性支持部21sのX方向の長さ(厚さ)を変更して、弾性支持部21sの剛性を変化させても良い。
【0057】
(振動素子の製造方法の第2実施形態、および振動素子の第2実施形態)
振動素子の製造方法の第2実施形態は、上述の振動素子の製造方法の第1実施形態と同様に、振動発電素子の製造方法の第2実施形態において、工程6におけるエレクトレット24の形成を省略したものである。
また、振動素子の第2実施形態は、図5(b)に示した第2実施形態の振動発電素子50aに対して、エレクトレット24が除外されているものである。
【0058】
(振動発電素子の製造方法の第3実施形態)
以下、図6を参照して、振動発電素子の製造方法の第3実施形態について説明する。ただし、振動発電素子の製造方法の第2実施形態は、多くの構成が上述の振動発電素子の製造方法の第1実施形態または第2実施形態と共通している。従って、以下では主に相違点について説明し、共通する構成については同一の符号を付して適宜説明を省略する。
【0059】
図6(a)は、第3実施形態において上述の工程5の終了後に基板10に形成されている第1領域11(11a~11d)、内部領域17a(17L、17R)等の形状を示す図である。また、図6(b)は、第3実施形態における完成後の振動発電素子50bを示す図である。なお、図6(a)には、上述の第1実施形態において示した図4(a)と同様に、完成後の振動発電素子50bを構成する各部分に相当する基板10上の各部分に、それぞれハッチングを付し、かつ符号を付している。
【0060】
振動発電素子の製造方法の第3実施形態においては、上述の工程2において、基板10の図6(a)に示した4つの第1領域11(11a~11d)に、貫通孔である空隙14(図6(a)では不図示)をそれぞれ形成する。そして、上述の工程3において空隙14を形成した4つの第1領域11a~11dに絶縁部材を充填して、絶縁部15a~15dを形成する。
【0061】
その後、基板10上の図6(a)に示した2つの離れた内部領域17a(17L、17R)に相当する部分について、工程4においてレジスト12bを除去し、工程5においてエッチング等により基板10から除去する。これにより、2つの第1支持部18(18a、18b)、2つの第1電極19(19a、19b)、1つの第2支持部22a、および2つの第2電極23(23a、23b)が、基板10に残存されて形成される。第2支持部22aは、上述の第2実施形態と同様に、絶縁部15a~15dのいずれか2つと機械的に接続されている支持枠20と、支持枠20に接続されている弾性支持部21sと、電極支持部21bとを含んでいる。
【0062】
2つの内部領域17aのうち、-X側に配置されている内部領域17Lは、4つの第1領域11a~11dのうち、電極支持部21bよりも-X側に配置されている2つの第1領域11a、11bと接している。電極支持部21bよりも+X側に配置されている内部領域17Rは、4つの第1領域11a~11dのうち、電極支持部21bよりも+X側に配置されている2つの第1領域11c、11dと接している。
【0063】
内部領域17Lを除去することにより、電極支持部21bよりも-X側に配置される第1電極19aと第2電極23aとが、共に櫛歯形状であって、かつ両電極の±Y方向の端面が相互に近接して配置されるように形成される。他方の内部領域17Rを除去することにより、電極支持部21bよりも+X側に配置される第1電極19bと第2電極23bとが、共に櫛歯形状であって、かつ両電極の±Y方向の端面が相互に近接して配置されるように形成される。
【0064】
続いて、第2実施形態と同様に、上述の工程6において第1電極19a、19b、または第2電極23a、23bにエレクトレット24を形成し、上述の工程7において基板10から外部領域17bを除去する。外部領域17bの除去により、図6(b)に示した振動発電素子50bが完成する。
【0065】
第3実施形態においても、外部領域17bは、4つの第1領域11a~11dに接する領域である。
また、第3実施形態においても、第1電極19aと第2電極23a、および第1電極19bと第2電極23bとのY方向の間隔、および対向部のX方向の長さ、さらに基板10の厚さは、上述の第2実施形態での各値と同様である。
【0066】
第3実施形態は、上述の第2実施形態の振動発電素子50aの2つを、そのうち1つをX方向に反転させ、かつ第2支持部22aを共有させた形で、X方向に2個並べて形成するものであるということもできる。
【0067】
(振動発電素子の第3実施形態)
第3実施形態の振動発電素子50bにおいても、上述の第2実施形態の振動発電素子50aと同様に、振動発電素子50bがX方向に振動成分を有する振動で振動すると、電極支持部21bは支持枠20に対して相対的にX方向に振動する。このため、電極支持部21bに一体的に保持されている第2電極23a、23bは、第1支持部18a、18bのそれぞれに対して固定的にかつ一体的に保持されている第1電極19a、19bに対して、それぞれ相対的にX方向に振動する。
【0068】
従って、上述の第2実施形態の振動発電素子50aと同様に、第1電極19aと第2電極23aとの間の電圧、および第1電極19bと第2電極23bとの間の電圧が変化して起電力が発生する。
なお、一例として、電極支持部21bが+X方向に振れた状態では、第1電極19bと第2電極23bとの対向部の面積は増大し、第1電極19aと第2電極23aとの対向部の面積は減少する。従って、第2電極23a、23bの電位を基準(例えば0V)とすると、2つの第1電極19a、19bには、それぞれ逆符号の電圧が発生する。
【0069】
第3実施形態の振動発電素子50bは、上述の第2実施形態の振動発電素子50aの2つを、そのうち1つをX方向に反転させ、かつ第2支持部22aを共有させた形で、X方向に2個並べたものであるということもできる。
【0070】
(振動素子の製造方法の第3実施形態、および振動素子の第3実施形態)
振動素子の製造方法の第3実施形態は、上述の振動素子の製造方法の第1実施形態と同様に、振動発電素子の製造方法の第3実施形態において、工程6におけるエレクトレット24の形成を省略したものである。
また、振動素子の第3実施形態は、図6(b)に示した第3実施形態の振動発電素子50bに対して、エレクトレット24が除外されているものである。
【0071】
(製造方法の変形例1)
以下、上述の振動発電素子または振動素子の製造方法の各実施形態の変形例1について説明する。
変形例1においては、上述の製造方法の各実施形態の工程3における粉末シリコン16の熱酸化を、K(カリウム)またはNa(ナトリウム)等のアルカリ金属を含む水溶液の蒸気、すなわちアルカリ金属含む水蒸気雰囲気中で行う。具体的には、例えば熱酸化を行う炉の内部に、KOH等のアルカリ金属の水酸化物を含む水溶液を蒸発またはバブリングさせて得られる、アルカリ金属を含む水蒸気を供給する。
【0072】
変形例1においては、粉末シリコン16の少なくとも表面付近に形成される石英ガラスにアルカリ金属が混入し、石英ガラスの融点および軟化点が降下する。そのため、絶縁部15を構成する粉末シリコン16の各粒子間の融着性、および側壁101、102との密着性をさらに高めることができる。
製造方法の変形例1においても、工程3における熱酸化以外の各工程は、上述の製造方法の各実施形態のいずれかと同様であるので、それらの説明は省略する。
【0073】
(製造方法の変形例2)
以下、図7(a)を参照して、上述の振動発電素子または振動素子の製造方法の各実施形態の変形例2について説明する。製造方法の変形例2においては、上述の製造方法の各実施形態の工程3において、第1領域11に形成されている空隙14に、上述の粉末シリコン16に加えてさらに粉末ガラス26を充填する。粉末ガラス26は、粒径が0.5μmから2μm程度の粉末状のガラスであり、シリコン酸化物に加えて、上述のアルカリ金属、Ca(カルシウム)もしくはBa(バリウム)等のアルカリ土類金属、B(ホウ素)等の13族元素、またはP(リン)等の15族元素のうちの少なくとも1つを含む。
【0074】
空隙14に粉末シリコン16および粉末ガラス26を充填した後、上述の工程3と同様に、粉末シリコン16を熱酸化し、絶縁部15を形成する。粉末ガラス26の融点または軟化点は、石英ガラスのそれよりも低い。そのため、変形例2においては、粉末シリコン16のみを充填する場合に比べて、絶縁部15を構成する各粒子間の融着性、および側壁101、102との密着性をさらに高めることができる。
なお、第1領域11に形成されている空隙14に、粉末シリコン16を用いず、粉末ガラス26のみを充填しても良い。
【0075】
製造方法の変形例1においても、工程3以外の各工程は上述の製造方法の各実施形態のいずれかと同様であるので、それらの説明は省略する。
なお、上述の製造方法の変形例1および変形例2のいずれにおいても、絶縁部15の主成分がシリコン酸化物であることについては、上述の各実施形態のいずれかと変わりがない。
【0076】
(製造方法の変形例3)
以下、図7(b)を参照して、上述の振動発電素子または振動素子の製造方法の各実施形態の変形例3について説明する。製造方法の変形例3は、上述の製造方法の各実施形態、および各変形例の工程2における空隙14の形成方法が、上述の製造方法の各実施形態および各変形例とは異なっている。
【0077】
図7(b)は、空隙14および付加空隙14aが形成された第1領域11の近傍の基板10を、+Z方向から見た図である。変形例3においては、工程2において基板10に空隙14を形成する際に、空隙14の周囲、特にX方向の両端部に、上述の側壁101、102の表面積を増加させる凹凸構造である付加空隙14aを合わせて形成する。
【0078】
具体的には、まず工程2において、図7(b)に示した空隙14と付加空隙14aとを合わせた第1領域11の上に形成されているレジスト12aを除去する。そして、残存するレジスト12aをエッチングマスクとして基板10をエッチングすることにより、図7(b)に示した形状の空隙14および付加空隙14aを形成する。形成された空隙14および付加空隙14aの3次元的な形状は、図7(b)に示したXY平面内の断面形状が、Z方向に延在する形状となる。
【0079】
工程3においては、空隙14内に充填される粉末シリコン16等は、付加空隙14aにも充填される。そして、工程4において、粉末シリコン16が熱酸化して石英ガラスとなって体積膨張し、付加空隙14a内に上述の石英ガラスを含む絶縁部15が充填される。
このため、変形例3の製造方法においては、いわゆるアンカー効果により、絶縁部15と側壁101、102、すなわち基板10との密着性をさらに高めることができる。
【0080】
側壁101、102のそれぞれに形成する複数の付加空隙14aは、一例として、その直径として10μmから200μm程度であり、それらのY方向の間隔は、上述の直径の2倍から5倍程度とする。
【0081】
製造方法の変形例3においても、上述の工程2、および工程3において付加空隙14a内に絶縁部15が充填されることを除いては、他の各工程は上述の製造方法の各実施形態、および各変形例のいずれかと同様であるので、それらの説明は省略する。
【0082】
(製造方法の変形例4)
以下、図8を参照して、上述の振動発電素子または振動素子の製造方法の各実施形態の変形例4について説明する。製造方法の変形例4は、上述の製造方法の各実施形態および各変形例の工程2における空隙14の形成方法が、上述の製造方法の各実施形態および各変形例とは異なっている。
【0083】
図8(a)から図8(d)は、上述の図2(a)および図2(b)と同様に、基板10の第1領域11の近傍を示したXZ断面図である。
変形例4においては、図8(a)に示したように、上述の工程2において、第1領域11に空隙14を、貫通孔ではなく、破線で示したXY平面である終端面RSまでの非貫通穴として形成する。変形例4においては、第1領域11のZ方向の幅は、基板10のおもて面から終端面RSまでの幅である。
【0084】
その後、上述の工程3において、図8(b)に示したように、非貫通穴である空隙14に粉末シリコン16等を充填する。そして、空隙14内の粉末シリコン16等を熱酸化および融着させて、図8(c)に示したように、空隙14に絶縁部15を形成する。
絶縁部15を形成した後、基板10の裏面(-Z側の面)に対して、研削、研磨、またはエッチングを行い、基板10の裏面側を終端面RSの位置まで除去する。
【0085】
図8(d)は、図8(c)等に示した終端面RSまでの裏面の除去が完了した状態の基板10の第1領域11の近傍を示したXZ断面図である。変形例4においても、図2(b)に示した状態と同様に、基板10の第1領域に絶縁部15を形成することができる。
なお、上述の基板10の裏面側の研削等は、上述の工程4から工程7までのいずれかの工程において行えば良く、必ずしも、絶縁部15の形成の直後に行う必要はない。
【0086】
上述の研削等により基板10の裏面側から除去される除去部分RPは、絶縁部15が形成された第1領域11に接しており、かつ、製造工程において基板10から除去される領域である。従って、除去部分RPは、上述の内部領域17a、外部領域17bとともに、上述の第2領域17に含まれる。
【0087】
なお、上述の製造方法の各実施形態および変形例1から変形例3においても、工程2から工程6までの間のいずれかにおいて、基板10のおもて面または裏面を、研削、研磨またはエッチングして、基板10の厚さを減少させても良い。
なお、上述の製造方法の各実施形態および変形例1から変形例4において、空隙14内に充填する部材は、加熱処理または酸化処理により一体的な絶縁部15を形成する部材であれば、粉末シリコン16に限らず、どのような部材を使用しても良い。例えば、アルミニウム粉末を用いても良い。
【0088】
(製造方法の変形例5)
上述の製造方法の各実施形態および各変形例においては、基板10に形成した空隙14内に粉末シリコン16等を充填し、粉末シリコン16等を加熱することにより、絶縁部15を形成するものとした。製造方法の変形例5においては、これに代えて、空隙14内に、テトラエトキシシラン等の液体状またはゲル状の有機シラン化合物を充填し、これを加熱することにより絶縁部15を形成する。
【0089】
(製造方法の変形例6)
上述の製造方法の各実施形態および各変形例においては、上述の工程2および工程3において空隙14および絶縁部15を形成する1つの第1領域11のXY平面内の形状は、概ね長方形であるとした。これに対し、変形例6においては、第1領域11のXY平面内の形状は、長方形以外の形状である。
【0090】
図9は、変形例6における第1領域11および空隙14のXY平面内の形状を示す図である。変形例6における第1領域11は、基板10上の第1領域11より+X側の領域10Rと、第1領域11より-X側の領域10Lとを、基板10から除去された第1領域11を挟んで相互に歯合するように分離する領域である。
【0091】
領域10Rは、一例として、図9に示した点線と第1領域11とで囲まれる領域であり、その+X方向の境界は第1領域11より+X側の任意の位置で良い。領域10Lは、一例として、図9に示した一点鎖線と第1領域11とで囲まれる領域であり、その-X方向の境界は第1領域11より-X側の任意の位置で良い。領域10Rおよび領域10LのY方向の範囲は、第1領域11のY方向の範囲に等しい。
【0092】
変形例6における第1領域11の各部分の幅Wx、Wyは、上述の各実施形態および各変形例と同様に、一例として10μm程度から10mm程度で良い。
また、変形例6においても、上述の変形例3と同様に、空隙14は、その周囲に、空隙14に接する基板10の側面(側壁)の表面積を増加させる、図7(b)に示した凹凸構造14aを含んでいても良い。
【0093】
変形例6においても、工程3において第1領域11に絶縁部材を充填して絶縁部15を形成する。工程4以降の工程は、上述の各実施形態および各変形例と同様である。
変形例6においては、第1領域11が、基板10内の領域10Rと領域10Lとを相互に歯合するように分離する形状であるため、単純な長方形形状である場合に比べて、絶縁部15とその周囲の基板10との接触面積が増大する。また、第1領域11の各部に充填された絶縁部材の上述の酸化等による体積膨張により、絶縁部15とその周囲の基板10との密着力がさらに増大する。
【0094】
なお、上述の各実施形態の振動発電素子および振動素子50、50a、50bに含まれる絶縁部15も、上述の変形例1から変形例6までのいずれか1つ以上の製造方法により形成されていても良い。
【0095】
以上で説明した製造方法の各実施形態および各変形例では、基板10から1つの振動発電素子50、50a、50bまたは1つの振動素子50、50a、50bを形成するが、1つの基板10上に振動発電素子50、50a、50bまたは振動素子50、50a、50bをX方向、およびX方向に複数並べて形成しても良い。複数の振動発電素子50、50a、50bまたは振動素子50、50a、50bは、工程7において基板10を切断線SL1~SL4で切断する際に、個々の複数の振動発電素子50、50a、50bまたは振動素子50、50a、50bに分離される。
【0096】
以上で説明した製造方法の各実施形態および各変形例では、いずれも基板10上に2つ以上の第1領域11を形成するものとした。しかし、基板10上に形成する第1領域11の数は1つであっても良い。
【0097】
例えば、上述の製造方法の第1実施形態において、図1(a)、図2(a)、図4(a)等に示した、Z方向に離れて配置されている2つの第1領域11のうち、-Z側には第1領域11を配置せず、従って絶縁部15を形成しなくても良い。この場合、-Z側の第1領域11であった領域を内部領域17aに含め、上述の工程5において基板10から除去する。これにより、1つの第1領域11および1つの絶縁部15によって、相互に電気的に絶縁された第1支持部18、および第2支持部22を形成することができる。
【0098】
なお、上述の各実施形態および各変形例のように、基板10上に2つの第1領域11を形成する場合、第1支持部18および第2支持部22、22aは、2つの第1領域11にそれぞれ形成された絶縁部15と機械的に接続され支持される。従って、第1支持部18および第2支持部22、22aが、より強固に保持された振動素子50を形成することができる。
【0099】
(振動素子の製造方法の各実施形態および各変形例の効果)
(1)振動素子の製造方法の各実施形態および各変形例は、導電性の基板10を用意すること、基板10の第1領域11に空隙14を形成すること、第1領域11に形成された空隙14に絶縁部材を充填して絶縁部15を形成すること、基板10から、第1領域11に接する第2領域17を除去して、絶縁部15と機械的に接続されている第1支持部18と、絶縁部15と機械的に接続され、かつ第1支持部18と絶縁されている第2支持部22、22aと、第1支持部18に支持されている第1電極19と、第2支持部22、22aに支持されている第2電極23とを形成すること、を備えている。
この構成により、SOI基板、または真性のシリコン基板にドーピング導電層を形成した基板を用いることなく、絶縁部15を含む振動素子50を形成することができ、従って、振動素子50を低コストで製造することができる。
【0100】
(2)基板10上に互いに離れた2つの第1領域11が存在し、第2領域17は2つの第1領域11の両方に接する領域としても良い。この場合、第1支持部18および第2支持部22、22aは、2つの第1領域11にそれぞれ形成された絶縁部15と機械的に接続されるので、第1支持部18および第2支持部22、22aが、より強固に保持された振動素子50を形成することができる。
【0101】
(3)基板10をシリコン基板であり、絶縁部15の主成分をシリコン酸化物とすることにより、半導体産業で一般的な、いわゆるシリコンプロセスを使用することができる。これにより、安価な製造設備や材料を使用することができ、振動素子50の製造コストを一層削減することができる。
(4)絶縁部15の形成は、第1領域11に形成された空隙14に粉末シリコン16を充填し、充填した粉末シリコン16を酸化させてシリコン酸化物とすることにより行っても良い。これにより、より安価に絶縁部15の形成を行うことができる。
【0102】
(振動発電素子の製造方法の各実施形態および各変形例の効果)
(5)振動発電素子の製造方法の各実施形態および各変形例は、上述の(1)から(4)のいずれかの振動素子の製造方法と、第1電極19および第2電極23のうちの一方の電極の、他方の電極と対向する部分にエレクトレット24を形成すること、を備えている。
これにより、上述の(1)から(4)のいずれかで述べた効果と相俟って、振動発電素子50、50aを低コストで製造することができる。
【0103】
(振動素子の各実施形態および各変形例の効果)
(6)振動素子の各実施形態および各変形例は、絶縁部15と、絶縁部15と機械的に接続されている導電性の第1支持部18と、絶縁部15と機械的に接続され、かつ第1支持部18と絶縁されている導電性の第2支持部22、22aと、第1支持部18に支持されている第1電極19と、第2支持部22、22aに支持されている第2電極23と、を備え、第1電極19と第2電極23とは、10μm以下の距離で対向して配置されている。
この構成により、第1電極19と第2電極23との間に大きな静電容量を形成することができる。これにより、例えば高感度または高精度の振動センサーとして使用可能な振動素子が実現できる。
【0104】
(7)第1支持部18の上面および第2支持部22、22aの上面は第1平面PU内にあり、絶縁部15の上端部は第1平面PUよりも下方にあり、第1支持部18の下面および第2支持部22、22aの下面は第2平面PD内にあり、絶縁部15の下端部は第2平面PDよりも上方にある構成としても良い。この構成により、絶縁部15が、第1支持部18および第2支持部22よりも、上方および下方に、はみ出すことが無く、Z方向に小型化され、かつ不要な突起部の無い、ハンドリングしやすい振動発電素子50、50aを実現することができる。
【0105】
(振動発電素子の製造方法の各実施形態および各変形例の効果)
(8)振動発電素子の各実施形態および各変形例は、上述の(5)から(7)のいずれかの振動素子を備え、第1電極19および第2電極23のうちの一方の電極の、他方の電極と対向する部分にエレクトレット24が形成されている。
これにより、上述の(5)から(7)のいずれかで述べた効果と相俟って、発電効率の高い振動発電素子50、50aが実現できる。
【0106】
上記では、種々の実施の形態および変形例を説明したが、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。また、各実施形態および変形例は、それぞれ単独で適用しても良いし、組み合わせて用いても良い。本発明の技術的思想の範囲内で考えられるその他の態様も本発明の範囲内に含まれる。
【符号の説明】
【0107】
50…振動発電素子(振動素子)、10…基板…第1領域、14…空隙、15…絶縁部、16…粉末シリコン、17…第2領域、17a…内部領域、17b…外部領域、17c…付帯領域、17m…主領域、18…第1支持部、19…第1電極、20…支持枠、21…電極支持部、22、22a…第2支持部、23…第2電極、24…エレクトレット
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9