(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-18
(45)【発行日】2023-10-26
(54)【発明の名称】履物
(51)【国際特許分類】
A43B 13/18 20060101AFI20231019BHJP
【FI】
A43B13/18
(21)【出願番号】P 2019064263
(22)【出願日】2019-03-28
【審査請求日】2022-03-16
(73)【特許権者】
【識別番号】306026980
【氏名又は名称】株式会社タイカ
(72)【発明者】
【氏名】菊井 浩輝
【審査官】新井 浩士
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2012/0102783(US,A1)
【文献】特開2009-291448(JP,A)
【文献】特開2011-36508(JP,A)
【文献】特開2002-345504(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A43B 13/18-13/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ソールの内部に緩衝部材を組込んでなる履物であって、
前記緩衝部材はケーシングと前記ケーシング内部に封入された流動体とからなり、
前記ソールは、
開口部を伴って形成された有底凹状の収納部と該収納部の開口部を塞ぐ収納蓋部とを備え、前記緩衝部材は前記収納部に内設され、
前記緩衝部材の膨出変形が可能な少なくとも一方向に前記ソールの外部に開口する複数の貫通孔を有して前記膨出変形を前記貫通孔の配置に応じて規制する規制部材を備えてなり、
前記収納蓋部は、前記規制部材が配置された方向に向かって厚みが小さくなる段差または傾斜を前記緩衝部材に接する面側に備え、
前記収納蓋部を介して前記緩衝部材に圧縮荷重が加わった際には、前記緩衝部材の一部が前記貫通孔から膨出し、該圧縮荷重が解除された後には前記緩衝部材が初期付与形状に復元する緩衝構造を有することを特徴とする履物。
【請求項2】
前記規制部材は前記ソールと一体的に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の履物。
【請求項3】
前記規制部材は、前記ソールと独立してなり、前記ソールに固着されていることを特徴とする請求項1に記載の履物。
【請求項4】
前記規制部材は、前記ソールと独立してなり、前記緩衝部材の少なくとも一部の表面を被覆していることを特徴とする請求項1に記載の履物。
【請求項5】
前記規制部材は、前記ソールと異素材であることを特徴とする請求項3又は4
のいずれか1項に記載の履物。
【請求項6】
前記ケーシングが500%以上の伸び率を有することを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の履物。
【請求項7】
前記規制部材は、前記ケーシングよりも高い剛性をもつことを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載の履物。
【請求項8】
前記貫通孔は、少なくとも一部が網目状に配置されていることを特徴とする請求項1~7のいずれか1項に記載の履物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ソール(靴底)に緩衝部材を装着して成るスポーツシューズやサンダル等の履物に関するものであって、特に緩衝部材によって優れた緩衝性(衝撃吸収性)を発揮し、その緩衝性を外部から視認できるとともに動的な意匠性を発現する新規な履物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、スポーツシューズには高い緩衝性が求められ、このため軟質な樹脂やゲル等を素材とする緩衝部材を靴底に埋め込み、所望の性能が発揮できるような構成が採られている。加えて、その高性能であることを視覚的に示すとともに、装飾効果を発揮させて商品性を高める工夫がされている。具体的には、靴底から、あるいは靴底側面または後面等から緩衝部材の一部を外部により露見できる状態に組み込み、着色により装飾部材とする構成が採られており、緩衝性と意匠性が独立して機能していた。
【0003】
そこで、緩衝性と意匠性を兼ね備えた履物として、外力による変形に伴って歪むインジケーション模様を設けて作用状況を可視化できる緩衝部材が提案されている(特許文献1)。
【0004】
しかしながら、履物自体が通常の視線から外れた下方にあることで見にくいことに加え、緩衝部材の模様が小さくその変形を視認し難いなど改善の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明はこのような背景を認識してなされたものであって、緩衝部材が優れた緩衝性を有するとともに、緩衝機能を発揮している様子をよりダイナミックに視認できるようにすることにより、緩衝部材に動的な意匠性を付与した新規な履物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、ソール内部に緩衝部材を組込んでなる履物であって、緩衝部材はケーシングとケーシング内部に封入された流動体からなり、ソールは緩衝部材の膨出変形が可能な少なくとも一方向に、ソール外部に開口する複数の貫通孔を有して膨出変形を貫通孔の配置に応じて規制する規制部材を備えてなり、緩衝部材に圧縮荷重が加わった際に緩衝部材の一部が貫通孔から膨出し、この圧縮荷重が解除された後には緩衝部材が初期付与形状(無負荷の状態)に復元する。
【0008】
このような構成とすることにより、緩衝部材に圧縮荷重が加わった際に緩衝部材の一部が貫通孔から膨出し、除荷後に初期付加形状に復元することで、優れた緩衝性を発揮するとともに、圧縮荷重の大きさの変化に応じて膨出の程度が変化するため、その膨出変形及び膨出量の変化により衝撃緩衝している様を視認しつつ、動的変化を伴う意匠を発現できる。なお、初期付与形状(無負荷の状態)に復元とは、圧縮荷重の大きさの変化に応じて貫通孔からの緩衝部材の膨出の程度が変化する作用によって本発明の効果が得られれば、必ずしも完全に初期形状に復元しない場合も包含する。
【0009】
また、本発明の履物は、規制部材がソールと一体的に形成されていることが好ましい。これによって、部品点数を増やすことなく上記の発明効果を実現することができる。
【0010】
また、本発明の履物は、規制部材がソールと独立してなり、ソールに固着されていることも好ましい。規制部材がソールと独立していることによって、ソールと異なる機械特性や色彩、形状、貫通孔パターンの設計自由度が増すため、緩衝性の調整と、それに同期した特徴的な動変化を伴う意匠を多様的に実現できる。
【0011】
また、本発明の履物は、規制部材がソールと独立してなり、緩衝部材の少なくとも一部の表面が該規制部材に被覆されていることも好ましい。このように、規制部材と緩衝部材とが組み合わされた構造体とすることで、ソールへの組込作業性をより向上させることができる。
【0012】
また、本発明の履物は、規制部材がソールと異素材であることも好ましい。これにより、規制部材の剛性と形状を任意に設計でき、緩衝部材の膨出の調整による緩衝効果の調整機能が得られる。
【0013】
また、本発明の履物は、ケーシングが500%以上の伸び率を有することが好ましい。これによりケーシングが大きく変形することが可能となり、緩衝部材の膨出が際立ち、緩衝性がより向上するとともに緩衝状態の視認性と動的変化の程度を高めることができる。
【0014】
また、本発明の履物は、規制部材がケーシングよりも高い剛性をもつことも好ましい。これにより、規制部材がより変形しにくくなり相対的に緩衝部材が変形しやすくなることで緩衝部材の膨出をより際立たせ、緩衝状態の視認性と動的変化の程度をより高めることができる。
【0015】
また、本発明の履物は、貫通孔は、少なくとも一部が網目状に配置されていることも好ましい。これにより、緩衝部材がより独特な膨出状態を発現し、緩衝状態の視認性と動的変化に富んだ動的な意匠性を得ることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、緩衝部材に圧縮荷重が加わった際に貫通孔から緩衝部材の一部が膨出し、除荷後に初期状態に復元することで、優れた緩衝性と有するとともに、緩衝部材が緩衝機能を発揮する状態をダイナミックに視認できるようになるので、多様で優れた緩衝性とそれに同期した動的な意匠性を有した新規な履物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の第1の実施形態の履物を示す斜視図(a)、並びに履物を分解して示す斜視図(b)である。
【
図2】本発明の第1の実施形態の履物を構成するソール部を示す斜視図(a)、並びに図(a)のA-A’断面図(b)及びB-B’断面図(c)である。
【
図3】本発明の第1の実施形態の履物を構成する緩衝部材を示す斜視図(a)、並びに図(a)のC-C’断面図(b)及びD-D’断面図(c)である。
【
図4】本発明の第1の実施形態の履物を構成するソール部に力が加わっていない状態を示す断面図(a)及び緩衝部材を収納する部分に力が加わった状態を示す断面図(b)である。
【
図5】本発明の第1の実施形態の履物を構成するソールの収納部に複数の緩衝部材を配置した実施例を示す平面図(a)、及び別の実施例を示す平面図(b)ある。
【
図6】本発明の第1の実施形態の履物を構成する規制部材に形成される貫通孔パターンの実施例を種々示す模式図である。
【
図7】本発明の第1の実施形態の履物に組込まれる収納蓋部の形状改変形態1と荷重変形状態を示す断面図(a)並びに収納蓋部の形状改変形態2と荷重変形状態を示す断面図(b)である。
【
図8】本発明の第2の実施形態の履物を示す斜視図(a)、並びに履物を分解して示す斜視図(b)である。
【
図9】本発明の第2の実施形態の履物を構成するソール部を示す斜視図(a)、並びに図(a)のE-E’断面図(b)及びF-F’断面図(c)である。
【
図10】本発明の第3の実施形態の履物を示す斜視図(a)、並びに履物を分解して示す斜視図(b)である。
【
図11】本発明の第3の実施形態の履物を構成するソール部を示す斜視図(a)、並びに図(a)のG-G’断面図(b)及びH-H’断面図(c)である。
【
図12】本発明の第3の実施形態の履物を構成する緩衝部材を示す斜視図(a)、並びに図(a)のJ-J’断面図(b)及びK-K’断面図(c)である。
【
図13】本発明の第3の実施形態の履物を構成する緩衝部材の別の形態1を示す斜視図(a)、並びに図(a)のL-L’断面図(b)及びM-M’断面図(c)である。
【
図14】本発明の第3の実施形態の履物を構成する緩衝部材の別の形態2を示す斜視図(a)、並びに図(a)のN-N’断面図(b)及びP-P’断面図(c)である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明を実施するための最良の形態は、以下の実施例に述べるものをその一つとするとともに、更にその技術思想内において改良し得る種々の手法を含むものである。
(実施形態1)
【0019】
図1(a)は、本発明の実施形態1の履物S1を示しており、
図1(b)に示すとおり、ヒール部分に開口部を伴って形成された有底凹状の収納部2を有するソール1と、緩衝部材3、収納部2の開口部を塞ぐ収納蓋部8、アッパーU1とから構成されており、
図2(b)及び
図2(c)の断面図に示す状態で、緩衝部材3は、収納部2に内設され、さらに収納蓋部8が積層されて、
図2(a)に示すソール1が構成される。ソール1のヒール後側端部には、ソール1と一体的に形成された複数の貫通孔7を有する規制部材6を有する。
【0020】
ソール1に形成される収納部2の形状は特に限定されないが、緩衝部材3の効率的な膨出変形を誘導できる形状とすることが好ましい。また、収納部2の形成位置はヒール部分に限定されず、緩衝部材3を収納可能であればソール1の任意の部分に形成することができる。ソール1の素材としては、EVA、ポリウレタンなどの公知のものを適用でき、軽量化の観点から独立発泡材が好ましい。
【0021】
緩衝部材3は、ケーシング4とケーシング内部に封入された流動体5からなる。緩衝部材3は収納部2の内面に接着してもしなくてもよい。
【0022】
ケーシング4は、流動体5の動きに追従しやすく高い伸び率を有するものであって、例えば500%以上の伸び率であることが望ましく、これによりケーシング4が大きく変形することが可能となり緩衝部材3の膨出を際立たせ、緩衝状態の視認性と動的変化の程度を高めることができる。また、ケーシング4は規制部材6よりも小さい剛性を持つことが望ましく、例えばスチレン系エラストマーや軟質PVC、ウレタン系エラストマー、シリコーンゴム(ゲル含む)などが適用でき、封止した流動体5が透過しないバリア性を有するものがより好ましい。さらに、ケーシング4は、所望の意匠に応じて、光透過性と非光透過性のどちらとしてもよい。
【0023】
流動体5は流動性を有するものであって、水、ミネラルオイル、シリコーンオイル、PVAゲルなどの液体や各種気体が適用される。ケーシング4が光透過性を有する場合、流動体の中にビーズや金属光沢小片等を分散させることで、視覚的な色彩変化を付加してもよい。
【0024】
ケーシング4内への流動体5の封入割合は、ケーシング4の容積の90%以上が好ましく、100%以上が望ましい。また、緩衝部材3の体積は、収納部2の容積未満とすることが好ましい。
【0025】
規制部材6は、ソール1の外部に開口する複数の貫通孔7を有し、緩衝部材3に加えられた圧縮荷重が加わって膨出変形するいずれかの方向に配置され、圧縮荷重が加わる前の
図4(a)の状態から、緩衝部材3に圧縮荷重が加わった際には、
図4(b)のように緩衝部材3が変形して規制部材6の貫通孔7以外の面に当接することによって緩衝部材3の変形が規制されることによって、貫通孔7から緩衝部材3の一部が膨出させる作用に寄与する。この作用によって圧縮荷重を吸収・緩和をするとともに、この作用に同期した緩衝部材3の膨出挙動が、緩衝機能の視覚化と動的な意匠として機能する。次いで、圧縮荷重が解除された後には、緩衝部材3はケーシング4の弾性力によって
図4(a)の初期状態に復元する。緩衝材3の初期状態への復元は、緩衝部材3の表面の一部を収納部2の内面に接着等で固定する構造として、ソール1の復元力を利用して行ってもよい。本実施形態において規制部材6は、ヒール後端側面部に配置されているが、緩衝部材3が膨出可能な方向であれば、ヒール側面部やヒール底部に単数または複数配置してもよい。
【0026】
貫通孔7は、規制部材6の厚み方向に直線的な孔でもよいし、一部が屈曲した孔でもよい。また、貫通孔7の径方向の断面孔形状が、規制部材6の厚み方向に対して変化した形状としてもよい。
【0027】
本実施形態において、規制部材6はソール1と同一素材で一体的に形成されており、貫通孔7からの緩衝部材3の膨出を際立たせるために、緩衝部材3の膨出変形を部分的に抑制可能な剛性を有することが好ましく、ケーシング4よりも高い剛性をもつことがより好ましい。また、規制部材6の貫通孔7の形状や配置パターンを変えることで、緩衝部材の膨出挙動を調整できるので、緩衝効果の調整や、貫通孔7の構成パターンが反映された多様な意匠変化を与えることができる。貫通孔7の形状及びパターンとして、例えば
図6(a)から
図6(l)に示すものが挙げられる。特に緩衝機能の視認性を向上させる観点から、開口面積が大きくなる網目構造をもつ
図6(j)から
図6(k)の形態が好ましい。
【0028】
図6に例示した貫通孔7の構成パターンについてより具体的に説明する。
図6(a)及び(e)は、同じ開口面積の円または楕円型の貫通孔7a、7eが等間隔に配置されたパターンであり、緩衝部材3の膨出し易さが均等な緩衝性と意匠性を付与できる。また、
図6(b)、(c)、(f)は、大径の円又は楕円型の貫通孔の両側に小径の円又は楕円型の貫通孔を各1つ又は複数配置したパターンからなる貫通孔7b、7c、7fであり、規制部材6の中央部と両サイドの膨出度合いの違いが反映された緩衝性と独特な意匠を付与できる。また、
図6(d)は、開口径が異なる複数の円型の貫通孔を径の大きさ順に配置したパターンからなる貫通孔7dであり、規制部材6の両端側で膨出の違いに応じた緩衝性を変えられるので、例えばソールのヒール部のインサイド側とアウトサイド側で緩衝性を変えてプロネーション誘導する場合に適用できる。また、インサイド側からアウトサイド側に向かって変化した動的意匠とすることができる。また、
図6(g)は、同じ開口面積の複数の楕円型の貫通孔を斜めに均等に配置したパターンからなる貫通孔7gであり、緩衝材3の膨出にせん断方向の変化を加えることで、より高い緩衝効果を付与できるとともに、それに同調した動的な意匠とすることができる。また、
図6(h)(i)のように、複数の円型の貫通孔の大きさと位置をランダム又は均等に配置したパターンからなる貫通孔7h、7iとすれば、より複雑且つ多様な緩衝性と独特の意匠性を付与でき、緩衝状態の視認性と動的変化に富んだ動的な意匠性を得ることができる。また、
図6(j)並びに
図6(k)は、複数の六角形や四角形の網目パターンに配置した貫通孔7j、7kの例であり、規制部材6(6j並びに6k)に占める貫通孔7(7j並びに7k)の総面積割合が大きくなるに伴い緩衝部材3がブドウ状に膨出する独特な動的意匠を付与でき、緩衝状態の視認性と動的変化に富んだ動的な意匠性を得ることができる。また
図6(l)は、文字状の貫通孔7lとした例で有り、文字デザインと複合した動的意匠を付与することができる。
【0029】
緩衝部材3は、収納部2に単独で内設される構成以外にも、例えば
図5(a)のように、異なる又は同じ構造の複数の緩衝部材3a、3bを組み合わせて収納部2に内設してもよい。また、
図5(b)のように、規制部材6側に緩衝部材3cを配置し、規制部材6の貫通孔7から膨出しない位置にケーシングを有さない従来の緩衝部材3dを配置する構成としてもよい。従来の緩衝部材3dとしては、EVA、ポリウレタン等の公知の材料から成る緩衝部材を適用できる。
図5(a)及び(b)に例示したように、複数の緩衝部材3(3a、3b)を収納部2に配置して内設することで、荷重が掛かる部位毎に緩衝性とそれに同調した膨出による動的な意匠を自由に設計できる。
【0030】
収納部2の開口部を塞ぐ収納蓋部8は、荷重を緩衝部材3全体に分散させて伝える作用を有する。収納蓋部8の緩衝部材3に接する面側には、
図7(a)のように段差を形成してもよく、また
図7(b)のように傾斜を形成してもよい。段差や傾斜を設けることによって、収納蓋部8の荷重変形とともに、緩衝部材3の変形が貫通孔8の方へ変形誘導されて、より効率的に貫通孔8から緩衝部材3を膨出させることができる。また、収納蓋部8はソール1と一体化させた構成としてもよいし、収納蓋部8を設置しない構成としてもよい。収納蓋部8の素材としては、特に限定されず、緩衝部材3の緩衝性や膨出変形のさせ方に応じて適宜選択すればよい。
【0031】
また、本実施形態のソール構造としては、
図1及び
図2では単層のアウトソール構造としているが、ミッドソールを有した複層のソール構造としてもよい。複層構造のソールとした場合、収納部2はいずれかの層のみに形成してもよいし、複層に渡って形成されてもよいが、規制部材6は特定の層に形成される。
(実施形態2)
【0032】
本発明の第2の実施形態について説明する。
図8(a)は、本発明の実施形態2の履物S2を示しており、
図8(b)に示すとおり、ヒール部分の上面側に開口部を伴って形成された有底凹状の収納部22と、ヒール後端側面に収納部22と連なった開口部22sを有するソール12と、緩衝部材32、収納部22の開口部を塞ぐ収納蓋部82、アッパーU2とから構成されており、
図9(b)及び
図9(c)の断面図に示す状態で、緩衝部材32は、収納部22に内設され、さらに収納蓋部82が積層されて、
図9(a)に示すソール12が構成される。ソール12のヒール後側端部の開口部22sを覆うように複数の貫通孔72を有する規制部材62が取り付けられている。規制部材62がソール12と個別に形成されているので、ソール12と異なる機械特性や色彩、形状、貫通孔パターンの設計自由度が増すため、緩衝性の調整と、それに同期した特徴的な動変化を伴う意匠を多様的に実現できる。
【0033】
規制部材62は、貫通孔72からの緩衝部材32の膨出を際立たせるために、緩衝部材32の膨出変形を部分的に抑制可能な剛性を有することが好ましく、ケーシング42よりも高い剛性をもつことがより好ましい。また、規制部材62は、緩衝部材32の膨出変形を部分的に規制可能な剛性を有していれば素材は特に限定されず、ソール12と同一または異種素材を適用できる。規制部材62をソール12と異素材で形成した場合には、規制部材62の剛性と形状を任意に変更でき、緩衝部材32の膨出変形による緩衝効果の調整や動的意匠変化の機能が容易にできる。ソール12と異なる素材としては、例えばABS樹脂、アクリル樹脂などの各種合成樹脂を単独または複数組み合わせて適用できる。また、規制部材62は、
図6(j)や
図6(k)のように網目状の貫通孔72を形成する場合には、型成形による方法や板状体(シート状含む)に貫通孔を形成する方法、繊維や紐を網状に編んで形成する方法などを適用できる。繊維や紐を網状に編んで構成された編み目を有する規制部材62である場合には、網目を構成する繊維や紐は、緩衝部材32の膨出変形を部分的に抑制可能となる引張特性(引張強度や引張伸び)を有することが好ましい。
【0034】
また、規制部材62は、ソール12の開口部22sの全体又は一部を覆うように固定される。規制部材62の固定は、ソール12に対して接着、溶着、縫合、嵌め込み等の公知の方法ですればよい。
【0035】
また、本実施形態のソール構造としては、
図8及び
図9では単層のアウトソール構造としているが、ミッドソールを有した複層のソール構造としてもよい。複層構造のソールとした場合、収納部22はいずれかの層のみに形成してもよいし、複層に渡って形成されてもよく、規制部材62も収納部22の位置に応じていずれかの層又は複層に渡って配置することができる。
【0036】
本実施形態におけるその他のソール12、緩衝部材32、規制部材62の貫通孔72のパターン、収納蓋部82の構成及び作用効果並びに変更態様は、上述した実施形態1の場合と同様であるため、詳細な説明は省略する。
(実施形態3)
【0037】
本発明第3の実施形態について説明する。
図10(a)は、本発明の実施形態3の履物S3を示しており、
図10(b)に示すとおり、ヒール部分の上面側に開口部を伴って形成された有底凹状の収納部23とヒール後端側面に収納部23と連なった開口部23sを有するソール13と、緩衝構造体300、収納部23の開口部を塞ぐ収納蓋部83、アッパーU3とから構成されている。緩衝構造体300は、
図11に示すように、ケーシング43とケーシング内部に封入された流動体53からなる緩衝部材33の全体を複数の貫通孔73を有する規制部材63で被覆した構造からなるものである。緩衝構造体300は、
図12(b)及び
図12(c)の断面図に示す状態で、開放部23sから貫通孔73が露出するように収納部23に内設され、さらに収納蓋部83が積層されて、
図12(a)に示すソール13が構成される。規制部材63と緩衝部材33とが積層して組み合わされて一つの緩衝構造体300とすることで、ソール13への組込作業性を向上させることができる。
【0038】
緩衝構造体300の別の実施形態として、
図13(a)~(c)に示すように、ケーシング43aとケーシング内部に封入された流動体53aからなる緩衝部材33aの一部を複数の貫通孔73aを有する規制部材63aで被覆した緩衝構造体310としてもよい。また、
図14(a)~(c)に示すように、ケーシング43bとケーシング内部に封入された流動体53bからなる緩衝部材33bの周面部を複数の貫通孔73aを有する略環状の規制部材63aで被覆した緩衝構造体320としてもよい。緩衝構造体310並びに緩衝構造体320では、緩衝部材(33a、33b)の表面と規制部材(63a、63b)との接触部の少なくとも一部を固定することが好ましい。固定は、接着剤による接着や溶着などの公知の方法で行えばよい。なお、
図12の緩衝構造体300ように、規制部材63が緩衝部材33の表面全体を被覆する場合には、規制部材63と緩衝部材33とは固定しない構成としてもよいし、緩衝部材33の表面と規制部材63との接触部の少なくとも一部を固定してもよい。また、
図12に示す緩衝構造体300の場合には、緩衝部材33の膨出変形が際立つように機能させるために、規制部材63は、貫通孔73が形成された領域が、それ以外の領域よりも剛性が大きいことが好ましい。
【0039】
緩衝構造体300(310、320)はソール13から脱落しないように組込まれている。脱落しない組込方法としては、例えば、少なくとも規制部材63(63a、63b)の一部を収納部23内でソール13と接着剤による接着や溶着などの公知の密着手段で固定する方法や、緩衝構造体300(310、320)が脱落しないような形状や構造の収納部23とする方法などが適用できる。
【0040】
本実施形態におけるその他のソール13、緩衝部材33、規制部材63の貫通孔73のパターン、収納蓋部83の構成及び作用効果並びに変更態様は、上述した実施形態1及び2の場合と同様であるため、詳細な説明は省略する。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明の履物は、多様で優れた緩衝性とそれに同期した動的な意匠性を有しているので、新規な履物として有用である。
【符号の説明】
【0042】
1、12、13 ソール
2、22、23 収納部
3、3a、3b、3c、3d、32、33 緩衝部材
300、310、320 緩衝構造体
4、42、43 ケーシング
5、52、53 流動体
6、62、63 規制部材
7、72、73 貫通孔
8、8a、8b、82、83 収納蓋部
S1、S2、S3 履物
U1、U2、U3 アッパー
Fc 圧縮荷重(力)