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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-18
(45)【発行日】2023-10-26
(54)【発明の名称】減速逆転機
(51)【国際特許分類】
   F16D 48/02 20060101AFI20231019BHJP
   B63H 23/26 20060101ALI20231019BHJP
   B63H 23/30 20060101ALI20231019BHJP
【FI】
F16D48/02 640U
B63H23/26
B63H23/30
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019189519
(22)【出願日】2019-10-16
(65)【公開番号】P2021063572
(43)【公開日】2021-04-22
【審査請求日】2022-04-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000125853
【氏名又は名称】株式会社 神崎高級工機製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100134751
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 隆一
(72)【発明者】
【氏名】安田 修
(72)【発明者】
【氏名】河村 瞭
(72)【発明者】
【氏名】山西 健太
(72)【発明者】
【氏名】海老原 智幸
【審査官】結城 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-197042(JP,A)
【文献】特許第3960719(JP,B2)
【文献】特開昭64-40746(JP,A)
【文献】特公平7-67919(JP,B2)
【文献】特許第2533337(JP,B2)
【文献】特開平6-80098(JP,A)
【文献】武敬,減速逆転機の構造・制御回路・点検整備(2),海洋水産エンジニアリング,日本,社団法人海洋水産システム協会,2003年06月10日,第三巻第二十二号,pp.36-41,ISSN 1346-9800
【文献】田守芳勝,原田和好,中島正,電子式スリッピングクラッチの開発,日本舶用機関学会誌,日本,日本舶用機関学会,1997年04月01日,第32巻第4号,pp.297-303,DOI:10.5988/jime1966.32.297,ISSN 1884-4758(online),0388-3051(print)
【文献】塩田雄二,山口隆信,電子ガバナによる新主機制御システムの開発,日本マリンエンジニアリング学会誌,日本,日本マリンエンジニアリング学会,2002年12月01日,第37巻第12号,pp.900-905,DOI:10.5988/jime.37.900,ISSN 1884-3778(online),1346-1427(print)
【文献】武敬,減速逆転機の構造・制御回路・点検整備(1),海洋水産エンジニアリング,日本,社団法人海洋水産システム協会,2003年05月10日,第三巻第二十一号,pp.23-30,ISSN 1346-9800
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63H 23/08,23/26,23/30,
F16D 48/02,
F16H 59/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
船体に搭載した主機関の回転動力を、正転、中立又は逆転の出力に切り換えてプロペラに伝達する正逆転機構と、前記正逆転機構の切換作動を制御する正逆転切換弁と、前記正逆転機構に向かう作動油圧を調節するトローリング装置とを備える減速逆転機において、
前記正逆転切換弁を切換操作する正逆転操作具を備え、
前記トローリング装置は、作動油圧を減圧して前記正逆転機構に供給可能な減圧弁と、前記減圧弁の出力油圧を制御する比例弁と、前記比例弁への作動油供給をオンオフする直結弁とを備え、
通常航行時に前記正逆転切換弁を正転又は逆転位置に切り換える場合、前記正逆転切換弁を正転位置にするときと逆転位置にするときとで、前記トローリング装置が前記正逆転機構に向かう作動油圧を減圧させるパターンを異ならせるにあたって、
前記正逆転操作具を逆転方向に操作したときの逆転時の前記比例弁の圧力を正転時よりも大きく設定することによって、前記比例弁の作動パターンを異ならせている、
減速逆転機。
【請求項2】
微速航行に移行するにおいて、前記トローリング装置は前記正逆転機構に向かう作動油圧を直線的に増圧させてから、前記プロペラの回転速度に基づくフィードバック制御を実行する、
請求項1に記載の減速逆転機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、船体に搭載した主機関の回転動力を正逆転機構経由でプロペラに伝達する減速逆転機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、漁船といった船舶用の減速逆転機においては、船体に搭載したエンジンの回転動力を、正転、中立又は逆転の出力に切り換えてプロペラに伝達する正逆転機構(正転及び逆転クラッチ)と、正逆転機構の切換作動を制御する正逆転切換弁と、正逆転機構に向かう作動油圧を調節するトローリング装置とを備えている。正逆転機構をスリップ係合(半クラッチ係合)させることによって、エンジンを定回転に保持しながらプロペラを低回転させて、トローリング等の微速航行が実行される(例えば特許文献1等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】実開平6-78637号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、この種の減速逆転機では、例えば正逆転機構(正転及び逆転クラッチ)の各クラッチのサイズに拘らず、正逆転切換時において共通のクラッチ接続制御を行っており、各クラッチに対するクラッチ接続制御の最適化までは図れていなかった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願発明は、上記のような現状を検討して改善を施した減速逆転機を提供することを技術的課題としている。
【0006】
請求項1の発明は、船体に搭載した主機関の回転動力を、正転、中立又は逆転の出力に切り換えてプロペラに伝達する正逆転機構と、前記正逆転機構の切換作動を制御する正逆転切換弁と、前記正逆転機構に向かう作動油圧を調節するトローリング装置とを備える減速逆転機において、前記正逆転切換弁を切換操作する正逆転操作具を備え、前記トローリング装置は、作動油圧を減圧して前記正逆転機構に供給可能な減圧弁と、前記減圧弁の出力油圧を制御する比例弁と、前記比例弁への作動油供給をオンオフする直結弁とを備え、通常航行時に前記正逆転切換弁を正転又は逆転位置に切り換える場合、前記正逆転切換弁を正転位置にするときと逆転位置にするときとで、前記トローリング装置が前記正逆転機構に向かう作動油圧を減圧させるパターンを異ならせるにあたって、前記正逆転操作具を逆転方向に操作したときの逆転時の前記比例弁の圧力を正転時よりも大きく設定することによって、前記比例弁の作動パターンを異ならせているというものである。
【0008】
請求項の発明は、請求項1に記載の減速逆転機において、微速航行に移行するにおいて、前記トローリング装置は前記正逆転機構に向かう作動油圧を直線的に増圧させてから、前記プロペラの回転速度に基づくフィードバック制御を実行するというものである。
【発明の効果】
【0009】
本願発明によると、通常航行時に前記正逆転切換弁を正転又は逆転位置に切り換える場合、前記正逆転切換弁を正転位置にするときと逆転位置にするときとで、前記トローリング装置が前記正逆転機構に向かう作動油圧を減圧させるパターンを異ならせているから、例えば正逆転機構(正転及び逆転クラッチ)のサイズがそれぞれ異なる場合等であっても、正逆転機構(正転及び逆転クラッチ)に応じた作動油圧や作動油供給速度等を設定することが簡単に行える。このため、正逆転機構(正転及び逆転クラッチ)の接続速度の最適化を図れるだけでなく、正逆転切換時の正逆転機構(正転及び逆転クラッチ)接続によるショックをも緩和できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】減速逆転機を備えた漁船の概略側面図である。
図2】減速逆転機の動力伝達系統を模式的に示すスケルトン図である。
図3】減速逆転機のギヤ配置を模式的に示した背面図である。
図4】減速逆転機の油圧回路図である。
図5】減速逆転機におけるコントローラの機能ブロック図である。
図6】航行状況の違いにおける各部の作動状態を説明する作動表である。
図7】通常航行時に正逆転レバーを正転操作した場合における比例電磁弁等の作動パターンを示すタイムチャートである。
図8】通常航行時に正逆転レバーを逆転操作した場合における比例電磁弁等の作動パターンを示すタイムチャートである。
図9】微速航行移行時における比例電磁弁等の作動パターンを示すタイムチャートである。
図10】微速航行移行時における比例電磁弁等の作動パターンを示すタイムチャートの第1別例である。
図11】微速航行移行時における比例電磁弁等の作動パターンを示すタイムチャートの第2別例である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本願発明を具体化した実施形態を図面(図1図7)に基づいて説明する。図1に示すように、船舶である漁船1は、船体2と、船体の上面中央側に配置したキャビン3と、船体2の船底後尾側に設けた舵4と、船体2の船底後尾側のうち舵4の前方に配置したプロペラ5とを備えている。キャビン3内は操縦部になっている。操縦部であるキャビン3内には、船体2の進行方向を前進と後進とに切換操作する正逆転操作具としての正逆転レバー25、エンジン7の回転速度を設定保持するスロットルレバー42、トローリング航行(微速航行)のオンオフを設定するトローリングスイッチ44、及びトローリング速度(微速航行速度)を設定するトローリングダイヤル45等が設けられている(図5参照)。なお、図示は省略するが、キャビン3内には、操舵によって船体2の進行方向を左右に変更させる操舵ハンドルも設けられている。
【0012】
船体2の船底後尾側には、プロペラ5を回転させる推進軸6が軸支されている。推進軸6の突出端側にプロペラ5が取り付けられている。船体2内には、プロペラ5の駆動源である主機関としてのエンジン7と、エンジン7の回転動力を推進軸6経由でプロペラ5に伝達する減速逆転機9とが設けられている。エンジン7から減速逆転機9を介して推進軸6に伝わった回転動力によって、プロペラ5が回転する。
【0013】
図2に示すように、減速逆転機9の外筐体であるハウジング10には、エンジン7のフライホイル8にダンパー継手11を介して連結される入力軸13と、カップリング12を介して推進軸6に連結される出力軸14とが設けられている。入力軸13はハウジング10の上部に回転可能に軸支されている。入力軸13はハウジング10の前面上部から前向きに突出している。出力軸14はハウジング10の下部に回転可能に軸支されている。出力軸14はハウジング10の背面下部から後ろ向きに突出している。入力軸13と出力軸14とはハウジング10内で平行状に延びている。ハウジング10内には、入力軸13から出力軸14への正転(前進)方向の動力伝達を継断する正転クラッチ15と、入力軸13から出力軸14への逆転(後進)方向の動力伝達を継断する逆転クラッチ16とが収容されている。正転クラッチ15と逆転クラッチ16とで正逆転機構17が構成されている。
【0014】
正転クラッチ15及び逆転クラッチ16は、湿式多板型の油圧摩擦クラッチである。正転クラッチ15は入力軸13上に配置されている。正転クラッチ15におけるエンジン7からの動力伝達上流側に正転ギヤ15aが設けられている。正転クラッチ15におけるエンジン7からの動力伝達下流側には正転減速ギヤ15bが設けられている。正転ギヤ15aは入力軸13に固定されている。正転減速ギヤ15bは入力軸13に回転可能に被嵌されている。
【0015】
逆転クラッチ16は、入力軸13と平行状に延びる逆転軸18上に配置されている。逆転クラッチ16におけるエンジン7からの動力伝達上流側には逆転ギヤ16aが設けられている。逆転クラッチ16におけるエンジン7からの動力伝達下流側に逆転減速ギヤ16bが設けられている。逆転ギヤ16aは逆転軸18に固定されている。逆転減速ギヤ16bは逆転軸18に回転可能に被嵌されている。
【0016】
正転ギヤ15aは逆転ギヤ16aと常時噛み合っている。正転減速ギヤ15b及び逆転減速ギヤ16bは、出力軸14に固定した減速出力ギヤ19に常時噛み合っている。正転減速ギヤ15b、逆転減速ギヤ16b及び減速出力ギヤ19によって、固定減速比の減速ギヤ機構が構成されている。出力軸14の回転動力は、各減速ギヤ15b,16bと減速出力ギヤ19との間で固定減速比に減速される。
【0017】
なお、逆転軸18において逆転クラッチ16を挟んでフライホイル8と反対側の端部には、正逆転機構17に作動油を供給する油圧ポンプ21が取り付けられている。油圧ポンプ21は、エンジン7の回転動力に基づく逆転軸18の回転で駆動するように構成されている。従って、エンジン7の駆動中は常時、油圧ポンプ21も駆動する。実施形態において、油圧ポンプ21はハウジング10の背面上部に取り付けられている。
【0018】
キャビン3内にある正逆転レバー25を正逆転又は中立操作すると、作動油の供給先が正転クラッチ15、逆転クラッチ16又は中立のいずれかに切り換えられる。作動油圧で各クラッチ15,16の摩擦板を圧接させることによって、入力軸13と出力軸14とが動力伝達可能に連結される。すなわち、正転クラッチ15を接続し逆転クラッチ16を遮断すれば、入力軸13の回転動力を正転(前進)方向の動力として出力軸14に伝達する前進状態になる。
【0019】
逆に、正転クラッチ15を遮断し逆転クラッチ16を接続すれば、入力軸13の回転動力を逆転(後進)方向の動力として出力軸14に伝達する後進状態になる。正転クラッチ15及び逆転クラッチ16双方を遮断すれば、入力軸13の回転動力を出力軸14に伝達しない中立状態になる。作動油圧で各クラッチ15,16の摩擦板の圧接程度を加減させてスリップ係合(半クラッチ係合)させれば、入力軸13の回転動力の一部が出力軸14に伝達され、出力軸14ひいてはプロペラ5が低回転する微速航行の状態になる。通常航行時における漁船1の航行速度の調節は、キャビン3内のスロットルレバー42によって行われる。
【0020】
次に、従前の図に加えて図4を参照しながら、減速逆転機9の油圧回路20構造を説明する。減速逆転機9の油圧回路20は、エンジン7の回転動力にて駆動する油圧ポンプ21を備えている。油圧ポンプ21は、正転及び逆転クラッチ15,16等に作動油を供給するものである。油圧ポンプ21の吸入側は、ストレーナ22を介して作動油タンクに接続されている。実施形態では、減速逆転機9のハウジング10内に作動油を貯留していて、ハウジング10が作動油タンクとして機能している。
【0021】
油圧ポンプ21の吐出側から延びる作動油路23は、トローリング装置36の減圧弁37及び正逆転切換弁24を介して、正転クラッチ15に向かう正転油路26と、逆転クラッチ16に向かう逆転油路27とに接続されている。正逆転切換弁24は、正転位置F、中立位置N及び逆転位置Rの3位置切換式のものであって、正逆転機構17の切換作動を制御するように構成されている。すなわち、正逆転切換弁24は、正逆転操作具としての正逆転レバー25の切換操作によって、正転クラッチ15に作動油を供給する正転位置Fと、逆転クラッチ16に作動油を供給する逆転位置Rと、両クラッチ15,16双方への作動油供給を停止する中立位置Nとの3位置に切換可能に構成されている。
【0022】
作動油路23のうち油圧ポンプ21と正逆転切換弁24との間からは、各クラッチ15,16に作動油を潤滑油として注油する潤滑油路28を延出させている。潤滑油路28には、油圧保持用のリリーフ弁である作動油圧調整弁29と潤滑油圧調整弁30とが設けられている。作動油圧調整弁29を通過後の作動油は、潤滑油圧調整弁30で低圧にした状態で、正転及び逆転クラッチ15,16に潤滑油として供給される。所定圧以上の不要な作動油(潤滑油)は、潤滑油圧調整弁30からハウジング10内に戻される。
【0023】
作動油圧調整弁29には、これを用いて正逆転切換時のクラッチ接続によるショックを緩和させる緩嵌入弁33が設けられている。緩嵌入弁33は、正逆転切換弁24から導入される背圧で正転及び逆転クラッチ15,16への作動油圧を徐々に上昇させ、正逆転切換時のクラッチ接続によるショックを緩和させるものである。
【0024】
正逆転切換弁24が中立位置Nのときは、緩嵌入弁33の背室がドレンされている。作動油圧調整弁29は、リリーフばね34で圧縮されることなく低圧設定状態で開弁している。正逆転切換弁24を正転位置F又は逆転位置Rに切換駆動させると、正逆転切換弁24経由で作動油が緩嵌入弁33に緩慢に流入し、緩嵌入弁33が徐々にリリーフばね34を圧縮する。そして、作動油圧調整弁29は、漸増的に高圧設定状態に移行して、所定の作動油圧に到達する。このため、正転又は逆転クラッチ15,16の作動油圧が徐々に増大して、正転又は逆転クラッチ15,16を徐々に接続状態(係合状態)とし、最終的には完全嵌入状態にする。その結果、各クラッチ15,16接続時のショックが緩和される。
【0025】
作動油路23のうち油圧ポンプ21と正逆転切換弁24との間からは、潤滑油路28だけでなくパイロット油路35を分岐させている。パイロット油路35中には、作動油圧を減圧して正逆転機構17に供給可能な減圧弁37の出力油圧を制御する比例電磁弁39と、比例電磁弁39への作動油供給をオンオフする直結電磁弁38とが設けられている。直結電磁弁38は、トローリングスイッチ44の入り切り状態に応じた電磁ソレノイドの励磁及び消磁によって、減圧弁37にパイロット圧を供給する減圧位置と、減圧弁37にパイロット圧を供給しない直結位置との2位置に切換可能に構成されている。比例電磁弁39はトローリングダイヤル45の操作量に応じてデューティ制御される。
【0026】
トローリングスイッチ44のオン操作に応じた直結電磁弁38の電磁ソレノイドの励磁によって直結電磁弁38が減圧位置に切換作動すると、比例電磁弁39がトローリングダイヤル45の操作量に応じて開度調節されたパイロット圧を減圧弁37に付与して、減圧弁37の内部スプールをスライド移動させる。減圧弁37の内部スプールのスライド移動量に応じて作動油路23からの作動油圧が減圧され、減圧された作動油が正逆転切換弁24を介して正転又は逆転クラッチ15,16に供給される。
【0027】
トローリングスイッチ44の切り操作に応じた直結電磁弁38の電磁ソレノイドの消磁によって直結電磁弁38が直結位置に切換作動すると、比例電磁弁39から減圧弁37へのパイロット圧付加がされなくなって、内部スプールがばね力によってスライド移動して減圧弁37が全開になる。その結果、作動油路23からの作動油圧が減圧されることなく正逆転切換弁24を介して正転又は逆転クラッチ15,16に供給される。減圧弁37と直結電磁弁38と比例電磁弁39との組合せによって、正逆転機構17に向かう作動油圧を調節するトローリング装置36が構成されている。
【0028】
図5には、実施形態の漁船1に搭載したコントローラ40の機能ブロック図を示している。コントローラ40は、主としてエンジン7や減速逆転機9の作動全般の制御を司るものであり、詳細な図示は省略するが、各種演算処理や制御を実行するCPUのほか、制御プログラムやデータを記憶させるためのROM、制御プログラムやデータを一時的に記憶させるためのRAM、及び入出力インターフェイス等を備えている。
【0029】
コントローラ40には、正逆転レバー25の操作位置を検出する作動検出部材としての中立スイッチ41、スロットルレバー42の操作位置を検出するスロットルポテンショ43、トローリングスイッチ44、トローリングダイヤル45の操作位置を検出するトローリングポテンショ46、出力軸14ひいてはプロペラ5の回転速度を検出する2つの出力軸回転センサ47a,47b、エンジン7の回転速度を検出するエンジン回転センサ48、直結電磁弁38(の電磁ソレノイド)、及び比例電磁弁39(の電磁ソレノイド)等が電気的に接続されている。
【0030】
このように出力軸回転センサ47a,47bを2個備えておくと、出力軸14ひいてはプロペラ5の回転速度だけでなく回転方向まで検出できるから、プロペラの回転方向に適した制御が可能になる。例えば、後述するクラッチ接続制御に際して、正逆転レバー25の操作位置とは逆向きに漁船1の行き足がある場合に、クラッチ接続遅延等を抑制することが可能になるのである。
【0031】
コントローラ40は、トローリングスイッチ44のオンオフ状態とトローリングダイヤル45の操作量とに応じて、直結電磁弁38及び比例電磁弁39を制御する。実施形態の中立スイッチ41は、正逆転レバー25の操作位置から正逆転切換弁24が中立位置にあるか否かを検出するものであるが、作動検出部材としてはこれに限らず、正逆転切換弁24が正転位置F又は逆転位置Rにあるか否かを検出するものでもよいし、正逆転ポテンショであっても差し支えない。
【0032】
コントローラ40は、通常航行時に正逆転切換弁24が中立位置Nにあると中立スイッチ41が検出した場合(中立スイッチ41がオン状態の場合)、トローリング装置36が正逆転機構17に向かう作動油圧を減圧しないように構成されている。換言すると、コントローラ40は、通常航行時において中立スイッチ41の検出情報に拘らず、トローリング装置36が正逆転機構17に向かう作動油圧を減圧しないように構成されている。実施形態では、トローリングスイッチ44がオフ状態である通常航行の際に、中立スイッチ41のオンオフに拘らず、直結電磁弁38が比例電磁弁39への作動油供給をオフにして、減圧弁37によって作動油圧を減圧せずに正逆転機構17に供給するのである(図6参照)。
【0033】
このようにすると、仮に正逆転切換弁24が中立以外の位置F,Rであるにも拘らず、中立スイッチ41が中立位置Nにあると誤検出した場合であっても、正逆転機構17には、減圧しない(高圧の)作動油圧を供給でき、正逆転機構17が動力遮断状態に切り換わることはなくなる。このため、高速回転域にある通常航行の際に、正逆転機構17がスリップ係合(半クラッチ係合)するおそれがなくなり、正逆転機構17の損傷や焼き付きといった不具合を防止できるのである。
【0034】
また、図6に示すように、トローリングスイッチ44がオン状態である微速航行(トローリング航行)の際には、中立スイッチ41のオンオフに拘らず、直結電磁弁38が比例電磁弁39への作動油供給をオンにして、減圧弁37によって減圧された作動油圧を、正逆転切換弁24経由で正逆転機構17に供給するから、作動油圧が急激に高圧になって正逆転機構17を完全嵌入状態にするショックを防止でき、網巻上げの曳航時等に急激に航行速度が速まる不具合をなくせるのである。
【0035】
さて、実施形態の減速逆転機9では、通常航行時において、緩嵌入弁33だけでなくトローリング装置36をも利用して、正逆転切換時のクラッチ接続制御の最適化を図っている。この場合、正逆転レバー25を正転又は逆転方向に切換操作すると、当該切換操作に応じた直結電磁弁38の電磁ソレノイドの励磁によって直結電磁弁38が減圧位置に切換作動し、遷移時間TF1(TR1)経過後、比例電磁弁39が中継時間TF2(TR2)の間、パイロット圧を減圧弁37に付与して、減圧された作動油を正逆転切換弁24経由で正転又は逆転クラッチ15,16に供給する。その後、移行時間TF3(TR3)の間、パイロット圧の負荷を徐々に小さくして、正転又は逆転クラッチ15,16への作動油圧を徐々に上昇させ、最終的には完全嵌入状態とし、直結電磁弁38の電磁ソレノイドを消磁させて直結電磁弁38を直結位置に切換作動させるのである(図7及び図8参照)。
【0036】
特に実施形態では、図7及び図8に示すように、比例電磁弁39の作動パターン(比例電磁弁39の電磁ソレノイドに伝送される電流値パターンといってもよい)を、正逆転レバー25を正転方向に切換操作した場合と逆転方向に切換操作した場合とで異ならせている。つまり、通常航行時に正逆転切換弁24を正転又は逆転位置F,Rに切り換える場合、正逆転切換弁24を正転位置Fにするときと逆転位置Rにするときとで、トローリング装置36が正逆転機構17に向かう作動油圧を減圧させるパターンを異ならせている。図7及び図8の例では、正逆転レバー25を逆転方向に操作した場合の遷移時間TR1を、正転方向に操作した場合の遷移時間TF1よりも短く設定すると共に、逆転時の作動電流値IR1,IR2を正転時の作動電流値IF1,IF2よりも大きく設定している。なお、比例電磁弁39の作動パターンは、図7及び図8の例に限らず、様々なものを採用することが可能である。
【0037】
このようにすると、例えば正転及び逆転クラッチ15,16のサイズがそれぞれ異なる場合等において、各クラッチ15,16に応じた作動油圧や作動油供給速度等を設定することが簡単に行える。このため、各クラッチ15,16の接続速度の最適化を図れるだけでなく、正逆転切換時のクラッチ15,16接続によるショックをも緩和できる。特に実施形態では、逆転時の遷移時間TR1を正転時の遷移時間TF1よりも短く設定すると共に、逆転時の作動電流値IR1,IR2を正転時の作動電流値IF1,IF2よりも大きく設定しているから、進むのに抵抗の大きい後進時に、素早く逆転クラッチ16を接続して、漁船1をスムーズに後進させることが可能である。
【0038】
また、実施形態の減速逆転機9では、微速航行に移行するにおいて、トローリング装置36が正逆転機構17に向かう作動油圧を直線的に増圧させてから、プロペラ5の回転速度(実施形態では出力軸14の回転速度)に基づくフィードバック制御を実行するように構成されている。
【0039】
この場合、トローリングスイッチ44のオン操作に応じた直結電磁弁38の電磁ソレノイドの励磁によって直結電磁弁38が減圧位置に切換作動し、遷移時間TF1経過後、比例電磁弁39が中継時間TF2の間、比例電磁弁39の電磁ソレノイドに作動電流値IF2を伝送して所定パイロット圧を減圧弁37に付与し、減圧された作動油を正逆転切換弁24経由で正転又は逆転クラッチ15,16に供給する。その後、比例電磁弁39における電磁ソレノイドの作動電流値IF、ひいてはパイロット圧の負荷を直線的に徐々に小さくして、正転又は逆転クラッチ15,16への作動油圧を直線的に徐々に上昇させ、出力軸14の回転速度が目標値に到達すると、出力軸14の回転速度に基づくフィードバック制御に切り換えて、微速航行を継続するのである(図9参照)。
【0040】
このようにすると、微速航行に移行するにおいて、オーバーシュートすることなくプロペラ5の回転速度を目標値に到達させることができ、例えば微速走行時に急激に航行速度が速まって網を浮かせてしまうといった不具合をなくせるのである。
【0041】
なお、図10に示すように、比例電磁弁39における電磁ソレノイドの作動電流値IF、ひいてはパイロット圧の負荷を直線的に小さくするにあたり、出力軸14の回転速度が目標値に到達していなくても、設定時間に達したら出力軸14の回転速度に基づくフィードバック制御に切り換えるように構成してもよいし、図11に示すように、比例電磁弁39における電磁ソレノイドの作動電流値IFの傾きを、時間経過に伴い段階的に変化させる構成にしてもよい。
【0042】
なお、本願発明における各部の構成は図示の実施形態に限定されるものではなく、本願発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更が可能である。
【符号の説明】
【0043】
1 漁船(船舶)
2 船体
5 プロペラ
7 エンジン(主機関)
9 減速逆転機
10 ハウジング
15 正転クラッチ
16 逆転クラッチ
17 正逆転機構
20 油圧回路
24 正逆転切換弁
25 正逆転レバー
36 トローリング装置
37 減圧弁
38 直結電磁弁
39 比例電磁弁
40 コントローラ
47a,47b 出力軸回転センサ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11