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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-18
(45)【発行日】2023-10-26
(54)【発明の名称】樹脂コーティング方法
(51)【国際特許分類】
   H01G 9/10 20060101AFI20231019BHJP
   H01G 9/00 20060101ALI20231019BHJP
   H01G 9/008 20060101ALI20231019BHJP
   B05D 1/40 20060101ALI20231019BHJP
   B05D 7/20 20060101ALI20231019BHJP
【FI】
H01G9/10 C
H01G9/00 290Z
H01G9/008 301
B05D1/40 A
B05D7/20
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020092578
(22)【出願日】2020-05-27
(65)【公開番号】P2021190513
(43)【公開日】2021-12-13
【審査請求日】2022-04-25
(73)【特許権者】
【識別番号】392017004
【氏名又は名称】湖北工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000213
【氏名又は名称】弁理士法人プロスペック特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】清水 亮伸
(72)【発明者】
【氏名】西宮 秀栄
(72)【発明者】
【氏名】中村 壮志
【審査官】木下 直哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-65171(JP,A)
【文献】国際公開第2011/045971(WO,A1)
【文献】特開2015-22828(JP,A)
【文献】特開2001-210551(JP,A)
【文献】国際公開第2012/032720(WO,A1)
【文献】特開昭59-196781(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 9/10
H01G 9/00
H01G 9/008
B05D 1/40
B05D 7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺部材の軸方向における所定領域の外周面を樹脂でコーティングするための樹脂コーティング方法であって、
前記長尺部材が軸回りに回転可能に支持された状態で前記所定領域の一部に全周に亘って液状の樹脂を塗布し、
前記樹脂を塗布した後に、前記長尺部材を軸回りに回転させながら、前記所定領域の前記一部に向けて気流を吹きつけて前記塗布された樹脂を前記長尺部材の軸方向に前記所定領域の両端の位置まで展延させ、
前記展延された樹脂を硬化させる、
樹脂コーティング方法。
【請求項2】
請求項1に記載の樹脂コーティング方法であって、
前記長尺部材は、電解コンデンサのリード線端子であり、
前記所定領域は、前記リード線端子のうち前記電解コンデンサが備える封口体に設けられる貫通孔に挿通されることになる領域を含む、
樹脂コーティング方法。
【請求項3】
請求項2に記載の樹脂コーティング方法であって、
前記リード線端子は、その一端側にリード線が接続されている棒状部と、前記棒状部の他端側に位置している圧延部と、前記棒状部と前記リード線との間に位置している溶接部と、を備え、
前記所定領域は、前記棒状部を含む一方で、前記溶接部を多くてもその一部しか含まない
樹脂コーティング方法。
【請求項4】
請求項3に記載の樹脂コーティング方法であって、
前記所定領域は、前記圧延部のうち前記棒状部との境界部位を含む、
樹脂コーティング方法。
【請求項5】
請求項4に記載の樹脂コーティング方法であって、
前記境界部位にはリブが設けられている、
樹脂コーティング方法。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5の何れか一項に記載の樹脂コーティング方法であって、
前記所定領域の前記一部に吹きつけられる気流の吹きつけ方向は、前記長尺部材の軸方向に沿った方向成分及び前記長尺部材の軸方向に直交する方向成分を含む方向である、
樹脂コーティング方法。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6の何れか一項に記載の樹脂コーティング方法であって、
前記樹脂は紫外線硬化型樹脂であり、
前記展延された樹脂に紫外線を照射して硬化させる、
樹脂コーティング方法。
【請求項8】
請求項6に記載の樹脂コーティング方法であって、
前記長尺部材の軸方向において気流が吹きつけられる位置は、気流が吹きつけられている期間中、不変である、
樹脂コーティング方法。
【請求項9】
請求項1乃至請求項8の何れか一項に記載の樹脂コーティング方法であって、
前記長尺部材の軸方向において前記樹脂が塗布される位置は、前記所定領域の前記一部に前記樹脂が塗布されている期間中、不変である、
樹脂コーティング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長尺部材の軸方向における所定領域の外周面を樹脂でコーティングするための樹脂コーティング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、長尺部材を樹脂でコーティングするための様々な樹脂コーティング方法が知られている。樹脂コーティングは、一般にはディスペンサ又はスプレー等を用いて行われる。ここで、長尺部材とは、長手方向に軸線を有すると見做すことができる部材全般を意味しており、軸線と直交する平面で切断した断面が軸方向において一定である部材に限られない。別言すれば、長尺部材は、その外周面に凹凸が設けられている部材を含む。
【0003】
長尺部材の用途によっては、長尺部材の軸方向における所定領域の外周面を樹脂で満遍なくコーティングすること、及び/又は、当該外周面に所望の厚みを有する樹脂層が形成されるように樹脂でコーティングすることが求められる。しかしながら、従来の樹脂コーティング方法では、樹脂の塗布むらが生じたり、樹脂層の厚みが不均一となったりして、長尺部材の上記外周面を樹脂で適切にコーティングすることが困難な場合があった。
【0004】
長尺部材の一例として、電解コンデンサのリード線端子が挙げられる。電解コンデンサは、有底筒状のケースと、コンデンサ素子と、一対のリード線端子と、ケースの開口部を封閉する封口体と、を備える。コンデンサ素子は、一対のリード線端子のそれぞれの一端部が、対応する電極箔に接続された状態で、電極箔及びセパレータが巻回されてなる円筒状の部分であり、その内部に電解質を保持している。コンデンサ素子は、ケースの内部に収容されている。コンデンサ素子の一端面から突出している一対のリード線端子は、封口体に設けられた一対の貫通孔に挿通されてその一部がケースの外部に位置している。
【0005】
コンデンサ素子が保持する電解質が液体電解質、又は、液体電解質と固体電解質との混合物であるハイブリッドタイプの場合、電解質が電解コンデンサの外部に漏れ出す可能性がある。例えば、リード線端子のうち封口体の貫通孔に挿通されることになる領域(以下、「挿通領域」とも称する。)には製造過程において傷が形成される場合があり、この場合、当該傷と貫通孔の内周面との間に微小な隙間が生じ、電解質がその隙間を伝って電解コンデンサの外部に漏れ出す可能性がある。電解質が電解コンデンサの外部に漏れ出すと、ドライアップ(静電容量の低下によりインピーダンスが極端に大きくなる現象)が生じ、コンデンサ特性に影響を与える可能性がある。
【0006】
そこで、従来から、リード線端子の挿通領域を樹脂でコーティングすることが行われている。例えば、特許文献1には、挿通領域としての丸棒部に樹脂層が形成されたリード線端子が開示されている。特許文献1には、このようなリード線端子を備える電解コンデンサによれば、封口体のシールド性を確保できるのでドライアップを抑制できる旨が記載されている。なお、挿通領域は、貫通孔の軸方向における少なくとも一部に対応する領域を意味するものであり、軸方向全長に対応する領域である必要はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平8-97104号公報
【発明の概要】
【0008】
ディスペンサ又はスプレーを用いてリード線端子の丸棒部に樹脂をコーティングした場合、樹脂層の厚みを丸棒部の軸方向に均一にすることが難しい。また、ディスペンサ又はスプレーを用いた従来の方法では、樹脂層の厚みを制御することが困難である。このため、樹脂層が比較的に薄い場合には、樹脂層の外周面と貫通孔の内周面との間に隙間が生じ、依然としてドライアップが発生する可能性がある。一方、樹脂層が比較的に厚い場合には、丸棒部を貫通孔に挿通し難くなり、電解コンデンサの生産性が低下してしまう可能性がある。つまり、従来の方法では、丸棒部の所定領域に適切に樹脂をコーティングすることが困難である。
【0009】
本発明は、上述した問題に対処するためになされたものである。即ち、本発明の目的の一つは、長尺部材の軸方向における所定領域の外周面を樹脂で適切にコーティングすることが可能な樹脂コーティング方法を提供することにある。
【0010】
本発明による樹脂コーティング方法は、長尺部材(1)の軸方向における所定領域(B、18)の外周面を樹脂(R)でコーティングするための方法である。
この樹脂コーティング方法では、
前記長尺部材(1)が軸回りに回転可能に支持された状態で前記所定領域(B、18)の一部に全周に亘って液状の樹脂(R)を塗布し、
前記樹脂を塗布した後に、前記長尺部材(1)を軸回りに回転させながら、前記所定領域(B、18)の前記一部に向けて気流を吹きつけて前記塗布された樹脂(R)を前記長尺部材(1)の軸方向に前記所定領域の両端の位置まで展延させ、
前記展延された樹脂(R)を硬化させる。
【0011】
本発明によれば、長尺部材の軸方向における所定領域の外周面を樹脂で適切にコーティングすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1A】本発明の実施形態に係る樹脂コーティング方法(以下、「本実施方法」とも称する。)が適用されるリード線端子の平面図である。
図1B】リード線端子の側面図である。
図2】本実施方法を説明するための図である(その1)。
図3】本実施方法を説明するための図である(その2)。
図4】本実施方法を説明するための図である(その3)。
図5A】樹脂塗布工程によって樹脂が塗布されたリード線端子を示す側面図である。
図5B】第1樹脂展延工程によって樹脂が展延したリード線端子を示す側面図である。
図5C】第2樹脂展延工程において樹脂が展延している途中の状態を示すリード線端子の側面図である。
図5D】第2樹脂展延工程によって樹脂が展延したリード線端子を示す側面図である。
図5E】樹脂硬化工程によって樹脂が硬化したリード線端子を示す側面図である。
図6】樹脂硬化工程終了後のリード線端子の平面図である。
図7A】本実施方法により樹脂コーティングされたリード線端子を用いた電解コンデンサの断面図である。
図7B図7Aの領域Aの部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の一実施形態に係る樹脂コーティング方法(本実施方法)は、電解コンデンサ(後述)を製造する際に用いられるリード線端子に適用される。図1A及び図1Bに示すように、リード線端子1は、前後方向に延びる長尺部材であり、タブ端子10と、リード線20と、溶接部30と、を備える。タブ端子10は、圧延部12と、棒状部18と、を備える。
【0014】
タブ端子10は、軸方向に亘って同一の径を有する金属線から形成される。この金属線の外周面には、アルミニウム線をホウ酸及びアジピン酸等を含む化成液によって予め化成処理することにより酸化被膜(図示せず)が被覆されている。圧延部12は、金属線の軸方向の一部を径方向にプレス加工するとともに、その外周を厚み方向に沿って切断する切断加工を行うことにより形成される。棒状部18は、金属線のうちプレス加工及び切断加工が行われずに残存している部分であり、金属線と同一の径を有する円柱である。
【0015】
棒状部18の一端側(図1A及び図1Bにおいて後端側)には、溶接によりリード線20が接続されている。より詳細には、この一端側には、リード線20が溶接されることにより溶接部30が形成されている。即ち、棒状部18の一端側には、溶接部30を介してリード線20が接続されている。リード線20は、棒状部18よりも小径であり、その軸線は棒状部18の軸線と同軸である。リード線20は、例えば、鉄線の外周面に銅層を設けたCP線等によって形成され得る。なお、圧延部12は、棒状部18の他端側(図1A及び図1Bにおいて前端側)に位置している。
【0016】
以下では、棒状部18の一端の位置及び他端の位置を、それぞれ「位置P1」及び「位置P2」と規定する。位置P2は、圧延部12と棒状部18との境界位置でもある。加えて、圧延部12のうち位置P2から位置P3(位置P2から所定の長さだけ前方の位置)までの部位を部位Bと規定する。部位Bは、圧延部12のうち棒状部18との境界部位である。
【0017】
圧延部12は、リブ14と、扁平部16と、を備える。リブ14は、部位Bに設けられている。扁平部16は、圧延部12のうちリブ14を除いた部分である。図1Bに示すように、扁平部16は、リード線端子1の側面視において上側の面である面16a及び下側の面である面16bを有する。なお、後述するようにリード線端子1は樹脂コーティング時に軸回りに回転されるので、面16aが下方に位置し、面16bが上方に位置する場合もある。扁平部16の厚さは、軸方向に亘って一定である。本実施形態では、扁平部16の厚み方向の中心は、棒状部18の軸線上に位置している。また、図1Aに示すように、扁平部16の幅(左右方向の長さ)は、位置P2では棒状部18の径と同一であり、前方に向かうにつれて所定の幅となるまで増大し、所定の幅となった位置から前方の部分においては軸方向に亘って一定である。リード線端子1の平面視において、扁平部16の面16aは左右対称であり、その対称軸は棒状部18の軸線と幅方向(左右方向)において一致する。面16bについても同様である。
【0018】
リブ14は、部位Bにおける扁平部16を補強するための部材である。リブ14は、圧延部12を形成するためのプレス加工により形成される。図1Bに示すように、リブ14は、リード線端子1の側面視において上側に設けられたリブ14a及び下側に設けられたリブ14bを有する。なお、上述したように、リブ14aが下方に位置し、リブ14bが上方に位置する場合もある。図1Aに示すように、リード線端子1の平面視において、リブ14aは左右対称な略台形形状を有しており、その対称軸は棒状部18の軸線と幅方向において一致する。リブ14aの前方端(いわゆる上底)は位置P3に位置しており、リブ14aの後方端(いわゆる下底)は位置P2に位置している。リブ14bについても同様である。なお、リブ14の前方端は位置P3よりも後方に位置していてもよい。即ち、リブ14は部位Bの内部に位置していればよい。なお、リード線端子1の平面視におけるリブ14の形状は、略台形状に限られず、例えば、三角形又は半円状であってもよい。
【0019】
また、図1Bに示すように、リブ14aは、位置P2において棒状部18の外周面と滑らかに接続されており、位置P3において扁平部16の面16aと滑らかに接続されている。リブ14bは、位置P2において棒状部18の外周面と滑らかに接続されており、位置P3において扁平部16の面16bと滑らかに接続されている。そして、リブ14a及びリブ14bは、それぞれの厚みが位置P2から位置P3に向かって小さくなるように直線状に傾斜している。リード線端子1の側面視において、リブ14aとリブ14bとは互いに上下対称であり、その対称軸は棒状部18の軸線と一致する。また、圧延部12の幅方向及び厚み方向における中心軸は、棒状部18の軸線(及びリード線20の軸線)と同軸である。なお、リード線端子1の側面視におけるリブ14の傾斜面は直線状に限られず、曲線状であってもよい。
【0020】
リード線端子1を製造する際は、まず、金属線がプレス加工及び切断加工されてタブ端子10が形成され、次に、棒状部18の一端にリード線20が溶接される。なお、金属線とリード線20とを溶接した後に金属線をプレス加工してタブ端子10を形成してもよい。ここで、金属線をプレス加工すると、その外表面に形成された酸化被膜に亀裂が生じる。このため、圧延部12の外表面の酸化被膜には複数の亀裂(図示せず)が生じている。そこで、これらの亀裂を修復するために、リード線20の溶接後、圧延部12に再度化成処理が施される。以下、この化成処理を「二次化成処理」と称する。二次化成処理には複数の種類があるが、本実施形態ではその種類は問わない。これらの二次化成処理は何れも周知であるため、それらの詳細な説明は省略する(詳細については、例えば、特開2000-340475号公報及び特開昭58-223310号公報を参照)。
【0021】
ここで、一般に、二次化成処理は、リード線端子1を圧延部12側が下方を向くように保持して所定の化成液に浸漬させることにより行われるが、リード線20及び溶接部30に化成液が付着すると、半田濡れ性が低下したり、コンデンサ特性が変化したりする等の不具合が生じる。このため、二次化成処理では、圧延部12の前方部分(典型的には、圧延部12の前方端から位置P3近傍までの部分)しか化成液に浸漬されない。従って、圧延部12のうち浸漬された部分の外表面は新たな酸化被膜(図示せず)で被覆されるので亀裂が修復されるが、圧延部12のうち浸漬されなかった部分(典型的には、部位B)の外表面には依然として亀裂が残っている。これらの亀裂は、電解コンデンサの電流漏れの原因となる。
【0022】
また、後で詳述するが、棒状部18は、電解コンデンサが備える封口体(コンデンサ素子を収容するケースの開口部を封閉する樹脂製部材)の貫通孔に挿通されることになる部分である。棒状部18の外周面には、製造過程において傷が形成される場合があり、この場合、当該傷と貫通孔の内周面との間の隙間を伝って電解質が漏れ出してドライアップの原因となっていた。従って、従来から棒状部18の外周面を樹脂でコーティングすることが行われていたが、樹脂層の厚みが棒状部18の軸方向及び/又は周方向において不均一であり、且つ、樹脂層の厚みを制御することができなかったため、ドライアップが依然として発生したり、電解コンデンサの生産性が低下したりする問題が生じていた。
【0023】
そこで、本実施形態では、以下に述べる方法で部位B及び棒状部18の外周面を樹脂でコーティングすることにより、電解コンデンサの電流漏れ及びドライアップの発生並びに生産性の低下を抑制し得るリード線端子1を製造する。以下、具体的に説明する。
【0024】
本実施方法は、端子準備工程と、樹脂塗布工程と、第1樹脂展延工程と、第2樹脂展延工程と、樹脂硬化工程と、を備える。これらの工程は、図2乃至図4に示す装置A、装置B及び装置C並びに図示しないコントローラによって上述した順序で実現される。図2乃至図4に示すように、y軸は水平方向に延びており、z軸は鉛直方向に延びている。y軸とz軸に直交するx軸(図示せず)は水平方向に延びている。コントローラは、装置A乃至装置Cの動作を制御可能に構成されている。
【0025】
装置Aは、保持部40と、支柱42と、基台44と、を備える。保持部40は、挟持部40aと、支持部40bと、接続部40cと、を備える。挟持部40a、支持部40b及び接続部40cの軸線は互いに同軸である。このため、以下では、当該軸線を単に「保持部40の中心軸」とも称する。保持部40の中心軸は、y軸と平行である。挟持部40aは、リード線端子1のリード線20の後端部を挟持可能に構成されている。挟持部40aは、リード線端子1を、その軸線がy軸と平行になる(即ち、水平となる)ように挟持する。支持部40bは、挟持部40aを支持する。接続部40cは、挟持部40a及び支持部40bを支柱42に接続している。リード線端子1が挟持された状態では、保持部40の中心軸は、リード線端子1の軸線と同軸となっている。支柱42は、保持部40をその中心軸回りに回転可能に支持している。基台44は、支柱42を支持している。基台44は、支柱42をy軸方向にスライド可能なレール(図示せず)を有する。
【0026】
装置Bは、円板状のドラム50と、支持部52と、支柱54と、基台56と、槽58と、を備える。ドラム50は、その幅広面がxz平面と平行となるように配置されている。支持部52は、y軸方向に延びている接続部52aと、本体52bと、を備える。接続部52aは、その一端にてドラム50の中心に接続されており、その他端にて本体52bに接続されている。本体52bは、ドラム50及び接続部52bを回転可能に支持している。支柱54は、支持部52を支持している。支柱54は、z軸方向に伸縮可能である。基台56は、支柱54を支持している。槽58は、ドラム50の下部を収容可能な位置に配置されており、内部に樹脂Rを貯えている。このため、ドラム50の下部は、常に樹脂Rに浸漬されている。樹脂Rは、所定の粘度を有する液状の紫外線硬化型樹脂である。ドラム50は、端子準備工程の開始時から樹脂硬化工程の終了時まで、所定の回転方向に所定の回転速度で常に回転されている。このため、ドラム50の側周面にはその全周に亘って樹脂Rが付着している。なお、樹脂Rの粘度は、リード線端子1の種類に応じて適宜変更され得る。
【0027】
装置Cは、ノズル60と、照射装置62と、支柱64と、基台66と、を備える。ノズル60は有底筒状であり、その一端に設けられた開口部60aからガス(本実施形態では窒素ガス)を噴射可能に構成されている。ノズル60の位置及び角度は調節可能である(図4参照)。照射装置62は、その一端に設けられた照射面62aから紫外線を照射可能に構成されている。支柱64は、ノズル60及び照射装置62を支持している。基台66は、支柱64を支持している。基台66は、支柱64をx軸方向にスライド可能な図示しないレールを有する。図2及び図3では、装置Cの支柱64が基台66上を-x方向にスライドすることにより、支柱64及びこれに支持されているノズル60及び照射装置62が、装置A及び装置Bに対して-x方向側(紙面奥側)に位置している。
【0028】
次に、上述した各工程について図2乃至図6を参照して具体的に説明する。端子準備工程では、まず、二次化成処理が施されたリード線端子1を準備し、装置Aの保持部40の挟持部40aに挟持させる。これにより、軸方向が略水平となるようにリード線端子1が支持される。続いて、装置Aの支柱42を基台44上の所定の位置(図2参照)まで+y方向にスライドさせ、リード線端子1を、部位Bの後端部が、ドラム50の側周面の真上に位置するように位置決めする。
【0029】
樹脂塗布工程では、軸方向が略水平となるようにリード線端子1が支持された状態で、リード線端子1の所定領域(具体的には部位B及び棒状部18)の一部(具体的には部位Bの後端部)に液状の樹脂を塗布する。この場合、まず、保持部40を回転させることによりリード線端子1を軸回りに所定の回転速度で回転させる。リード線端子1の回転は、樹脂硬化工程が終了するまで継続される。次に、装置Bの支柱54を所定の位置(図3参照)まで+z方向に伸長させ、部位Bの後端部の外周面にドラム50の側周面上の樹脂Rを接触させる。なお、支柱54が伸長されている間は、ドラム50の下部は槽58内の樹脂Rには浸漬されない。リード線端子1の回転方向は、ドラム50の回転方向と反対である。また、リード線端子1の回転速度は、ドラム50の回転速度よりも大きい。支柱54は、所定時間t1の経過後、元の位置(図2参照)まで短縮される。即ち、部位Bの後端部の外周面は、ドラム50の樹脂Rと、時間t1だけ接触する。時間t1は、リード線端子1が1回転するのに要する時間よりも十分に長い。これにより、時間t1が経過すると、図5Aに示すように、部位Bの後端部には、所定の量の樹脂Rがその全周に亘って塗布される。部位Bの後端部に塗布される樹脂Rの量は、樹脂Rの粘度、時間t1、リード線端子1及びドラム50の回転速度等を調整することにより制御され得る。
【0030】
第1樹脂展延工程では、リード線端子1を軸回りに回転させた状態で、装置Aの支柱42を基台44上の所定の位置(図4参照)まで-y方向にスライドさせる。これにより、図5Bに示すように、樹脂塗布工程において部位Bの後端部に塗布された樹脂Rは、重力及び濡れ性により前方及び後方に全周に亘って展延する。具体的には、樹脂Rは、部位Bの中間部分にまで展延するとともに棒状部18の前端部にまで展延する。特に、本実施形態では、部位Bにリブ14が設けられており、リブ14は、その厚みが前方に向かって小さくなるように傾斜している。このため、部位Bの後端部(即ち、リブ14の厚みが最大である部分)に塗布された樹脂Rは、重力によってこれらの傾斜面上をより効率的に展延していく。
【0031】
加えて、第1樹脂展延工程では、装置Cの支柱64を基台66上の所定の位置まで+x方向にスライドさせ、装置Cのノズル60を、その開口部60aがリード線端子1に向くように位置させるとともに、照射装置62を、その照射面62aがリード線端子1の部位B及び棒状部18を含む所定の範囲(後述)を向くように位置させる。なお、ノズル60の位置及び角度は、リード線端子1の種類が変更されるたびに適宜調整され得る。
【0032】
第2樹脂展延工程では、リード線端子1を軸回りに回転させながら、ノズル60の開口部60aから部位Bの後端部(即ち、リード線端子1の所定領域の一部)に向けて窒素ガスを吹きつける。窒素ガスは、斜め上後方に向かう気流であり、その吹きつけ方向は、-y方向成分及び+z方向成分を含む。-y方向はリード線端子1の軸方向に平行であり、+z方向はリード線端子1の軸方向に直交する方向である。したがって、窒素ガス(気流)の吹き付け方向は、リード線端子1の軸方向に沿った方向成分及びリード線端子1の軸方向に直交する方向成分を含む方向である。
【0033】
これにより、図5Cに示すように、第1樹脂展延工程において展延した樹脂Rの一部は、重力及び濡れ性に加え、-y方向成分及び+z方向成分の気流により、棒状部18の外周面を-y方向に展延していく。このとき、断面円形の棒状部18の外周面を展延する樹脂は、回転しながら気流によって均される。このため、棒状部18の外周面を展延する樹脂の厚みは、周方向及び軸方向に亘り略均一となる。また、第1樹脂展延工程において展延した樹脂Rの残部は、重力及び濡れ性に加え、+z方向成分の気流により押し流されて、部位Bを+y方向に展延していく。これにより部位Bに樹脂が馴染むように満遍なく展延する。
【0034】
ノズル60の位置及び角度は、窒素ガスを所定時間t2だけ吹きつけたときに、樹脂Rが同じタイミングで位置P1まで展延するとともに位置P4まで展延するように予め調整されている。なお、位置P4は、位置P3よりも僅かに前方の位置であり、扁平部16上の位置である。これにより、図5Dに示すように、樹脂Rは棒状部18及び部位Bの外周面全体に展延する。また、樹脂Rは、多少であれば、位置P1よりも後方(例えば、溶接部30の一部まで)に展延してもよい。
【0035】
樹脂硬化工程では、リード線端子1を回転させた状態で、照射装置62によりリード線端子1の位置P1から位置P4を含む範囲(即ち、第2樹脂展延工程において樹脂が展延した範囲)に所定時間t3だけ紫外線が照射される。また、紫外線が照射されている期間中、ノズル60によりリード線端子1に窒素ガスが吹き付けられる。これにより、図5Eに示すように、樹脂Rが硬化して樹脂層70が形成される。樹脂硬化工程を終了すると、リード線端子1が完成する。図6に示すように、樹脂硬化工程終了後のリード線端子1は、位置P1から位置P4までの範囲において、その全周に亘って樹脂層70が形成されている。
【0036】
以上説明したように、本実施方法によれば、軸方向が略水平となるように支持されたリード線端子1の部位Bの一部(後端部)に樹脂を塗布し、リード線端子1を回転させながら部位Bの当該一部に気流を吹きつけることにより、気流の風圧で樹脂Rをリード線端子1の軸方向に展延させることができる。このため、気流の吹きつけ方向、風圧及び吹きつけ時間t2、並びに、樹脂Rの量及び粘度等を適宜調整することにより、樹脂層の厚みを制御して、リード線端子1の軸方向における所定領域(本実施形態では部位B及び棒状部18)の外周面を樹脂で適切にコーティングすることができる。
【0037】
特に、本実施形態では、本実施方法が電解コンデンサのリード線端子1に適用される。この場合における効果を図7A及び図7Bを参照して説明する。図7Aは、リード線端子1を用いて製造された電解コンデンサ100の断面図を示す。但し、コンデンサ素子104の内部に位置するリード線端子1の圧延部12の図示は省略している。図7Bは、領域Aの部分拡大図を示す。図7Aに示すように、電解コンデンサ100は、有底筒状のケース102と、コンデンサ素子104と、一対のリード線端子1(即ち、陽極用及び陰極用のリード線端子1)と、ケース102の開口部を封閉する封口体106と、を備える。コンデンサ素子104は、陽極用のリード線端子1の圧延部12の一部が陽極箔に接続されるとともに陰極用のリード線端子1の圧延部12の一部が陰極箔に接続された状態で、陽極箔及び陰極箔がセパレータを介して巻回されることにより形成される円筒状の物品であり、その内部に液体電解質を保持している。コンデンサ素子104は、ケース102の内部に収容されている。なお、図7Bに示すように、位置P4は、圧延部12のうち電極箔に巻回されることになる部分には含まれないような位置に予め設定されている。
【0038】
図7A及び図7Bに示すように、コンデンサ素子104の一端面から突出している一対のリード線端子1は、封口体106に設けられた一対の貫通孔106a(図7B参照)に挿通されており、リード線20がケース102の外部に位置している。ここで、リード線端子1のうち樹脂層70が形成されている領域は、挿通領域(リード線端子1のうち貫通孔106aに挿通されることになる領域)を含む。挿通領域は、具体的には、リード線端子1のうち、部位Bの大部分と、棒状部18と、溶接部30と、の少なくとも一部である。
【0039】
図5E及び図6に示すように、本実施方法によれば、部位Bの外周面は、樹脂層70により満遍なくコーティングされる。このため、二次化成処理では修復しきれなかった部位Bにおける亀裂を覆うことができ、これらの亀裂に起因して生じていた電解コンデンサの電流漏れを抑制することができる。特に、本実施形態では部位Bにプレス加工によりリブ14が設けられるため、部位Bには、平坦な扁平部16と比較してより多くの亀裂が生じる傾向がある。従って、本実施方法を用いて部位Bを樹脂コーティングすることは極めて有用である。
【0040】
加えて、棒状部18は、軸方向においてその径が一定である。また、樹脂Rは棒状部18の外周面を周方向及び軸方向において略均一の厚みで展延する。従って、樹脂硬化後においては、棒状部18の外周面は略均一の厚みを有する樹脂層70によりコーティングされる。また、樹脂層70の厚みは、樹脂Rの量及び粘度等を調整することにより制御可能である。このため、樹脂層70の厚みを適切な厚みに制御することにより、ドライアップを抑制することと、電解コンデンサの生産性の低下を抑制することと、を両立することができる。
【0041】
以上、本実施形態に係る樹脂コーティング方法について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限り、種々の変更が可能である。
【0042】
例えば、この樹脂コーティング方法は、電解コンデンサのリード線端子1以外の長尺部材に適用されてもよい。
【0043】
また、樹脂塗布工程においてドラム50により樹脂Rが塗布される位置は、部位Bの後端部に限られず、リード線端子1の所定領域(部位B及び棒状部18)内であればその位置は問わない。この場合、ノズル60は、樹脂Rが同じタイミングで位置P1及び位置P4まで展延するようにその位置及び角度が調整されることが望ましい。
【0044】
また、第1樹脂展延工程では、樹脂Rが部位Bの全域(厳密には、位置P4まで)に展延するまでリード線端子1が回転されてもよい。この場合、ノズル60は、棒状部18上の樹脂Rにのみガスが吹き付けられるように(別言すれば、部位B上の樹脂Rがそれ以上展延しないように)その位置及び角度が調整されることが望ましい。
【0045】
更に、コーティングされる樹脂は、紫外線硬化型樹脂に限られず、例えば、所定の温度以上で加熱することにより硬化する熱硬化型樹脂であってもよい。なお、コーティングされる樹脂が紫外線硬化型樹脂の場合には、短時間で樹脂を硬化させることができるため、生産性が良好となるという利点を有する。
【0046】
更に、リード線端子は、リブ14a及びリブ14bの一方のみが設けられた構成であってもよい。この場合、扁平部16は、棒状部18に対して偏心した位置に形成されてもよい。
【0047】
更に、本実施形態では、リード線端子の軸が水平になるようにリード線端子が支持される場合について説明したが、リード線端子の軸が水平方向に対して傾斜した状態でリード線端子が支持されるようにしてもよい。即ち、コーティングされる樹脂の粘度やその他の条件を調整することにより、コーティングされる樹脂の厚みを所望の厚みにすることができるのであれば、リード線端子の軸が水平方向に対して傾斜していてもよい。
【符号の説明】
【0048】
1:リード線端子、10:タブ端子、12:圧延部、14:リブ、16:扁平部、18:棒状部、20:リード線、30:溶接部、40:保持部、50:ドラム、58:槽、60:ノズル、62:照射装置、70:樹脂層、100:電解コンデンサ、102:ケース、104:コンデンサ素子、106:封口体、106a:貫通孔

図1A
図1B
図2
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図5D
図5E
図6
図7A
図7B