(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-18
(45)【発行日】2023-10-26
(54)【発明の名称】心筋細胞の保護用の医薬組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/4418 20060101AFI20231019BHJP
A61P 9/04 20060101ALI20231019BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20231019BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20231019BHJP
【FI】
A61K31/4418
A61P9/04
A61P9/10
A61P9/00
(21)【出願番号】P 2020514365
(86)(22)【出願日】2019-04-15
(86)【国際出願番号】 JP2019016083
(87)【国際公開番号】W WO2019203176
(87)【国際公開日】2019-10-24
【審査請求日】2021-12-07
(31)【優先権主張番号】P 2018078272
(32)【優先日】2018-04-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100138911
【氏名又は名称】櫻井 陽子
(72)【発明者】
【氏名】垣塚 彰
(72)【発明者】
【氏名】尾野 亘
(72)【発明者】
【氏名】堀江 貴裕
(72)【発明者】
【氏名】井手 裕也
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 成達
(72)【発明者】
【氏名】木村 剛
【審査官】松浦 安紀子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/043891(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/129495(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/033981(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/014994(WO,A1)
【文献】LIZANO, Paulo et al.,The valosin-containing protein is a novel mediator of mitochondrial respiration and cell survival in the heart in vivo,SCIENTIFIC REPORTS,2017年04月20日,Vol. 7, No. 46324,1-11
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/4418
A61P 9/04
A61P 9/10
A61P 9/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
【化1】
〔式中、
Raはハロ、ヒドロキシ、アルキル、ハロ置換アルキル、アリール、ハロまたはアルキル置換アリール、アルコキシ、ヒドロキシまたはカルボキシ置換アルコキシ、アリールオキシ、ハロまたはアルキル置換アリールオキシ、CHO、C(O)-アルキル、C(O)-アリール、C(O)-アルキル-カルボキシル、C(O)-アルキレン-カルボキシエステルおよびシアノから成る群から選択され、
mは0~4から選択される整数である〕
の化合物またはそ
の薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物を含む、心筋細胞死を抑制するための医薬組成物。
【請求項2】
心筋細胞死が心疾患に伴うものである、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
心疾患が、心筋梗塞、慢性心不全、高血圧性心不全または拡張型心筋症である、請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
式(I):
【化2】
〔式中、
Raはハロ、ヒドロキシ、アルキル、ハロ置換アルキル、アリール、ハロまたはアルキル置換アリール、アルコキシ、ヒドロキシまたはカルボキシ置換アルコキシ、アリールオキシ、ハロまたはアルキル置換アリールオキシ、CHO、C(O)-アルキル、C(O)-アリール、C(O)-アルキル-カルボキシル、C(O)-アルキレン-カルボキシエステルおよびシアノから成る群から選択され、
mは0~4から選択される整数である〕
の化合物またはそ
の薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物を含む、心筋梗塞に伴う再灌流障害の処置用の医薬組成物。
【請求項5】
さらに慢性心不全を処置または予防するための、請求項4に記載の医薬組成物。
【請求項6】
式(I):
【化3】
〔式中、
Raはハロ、ヒドロキシ、アルキル、ハロ置換アルキル、アリール、ハロまたはアルキル置換アリール、アルコキシ、ヒドロキシまたはカルボキシ置換アルコキシ、アリールオキシ、ハロまたはアルキル置換アリールオキシ、CHO、C(O)-アルキル、C(O)-アリール、C(O)-アルキル-カルボキシル、C(O)-アルキレン-カルボキシエステルおよびシアノから成る群から選択され、
mは0~4から選択される整数である〕
の化合物またはそ
の薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物を含む、再灌流障害による心機能の低下を抑制するための医薬組成物。
【請求項7】
心機能の低下を抑制することが、心機能を維持することである、請求項6に記載の医薬組成物。
【請求項8】
Raが、それぞれ独立して、ハロ、ヒドロキシ、アルキル、ハロ置換アルキルおよびアルコキシから成る群から選択される、請求項1~7のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項9】
式(I)の化合物が、
4-アミノ-3-(6-フェニルピリジン-3-イルアゾ)ナフタレン-1-スルホン酸;
4-アミノ-3-(6-p-トリルピリジン-3-イルアゾ)ナフタレン-1-スルホン酸;
4-アミノ-3-(6-m-トリルピリジン-3-イルアゾ)ナフタレン-1-スルホン酸;
4-アミノ-3-(6-o-トリルピリジン-3-イルアゾ)ナフタレン-1-スルホン酸;
4-アミノ-3-(6-ビフェニル-2-イルピリジン-3-イルアゾ)ナフタレン-1-スルホン酸;
3-[6-(2-アセチルフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]-4-アミノナフタレン-1-スルホン酸;
3-[6-(3-アセチルフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]-4-アミノナフタレン-1-スルホン酸;
3-[6-(4-アセチルフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]-4-アミノナフタレンスルホン酸;
4-アミノ-3-[6-(2,4-ジクロロフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸;
4-アミノ-3-[6-(2-トリフルオロメチルフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸;
4-アミノ-3-[6-(4-トリフルオロメチルフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸;
4-アミノ-3-[6-(2-クロロフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸;
4-アミノ-3-[6-(3-クロロフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸;
4-アミノ-3-[6-(4-クロロフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸;
4-アミノ-3-[6-(2-メトキシフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸;
4-アミノ-3-[6-(4-メトキシフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸;
4-アミノ-3-[6-(2-イソプロポキシフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸;
4-アミノ-3-[6-(4-イソプロポキシフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸;
4-アミノ-3-[6-(2-フェノキシフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸;
4-アミノ-3-[6-(3-メトキシフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸;
4-アミノ-3-[6-(2,3-ジメチルフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸;
4-アミノ-3-[6-(2,5-ジメチルフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸;
4-アミノ-3-[6-(3,5-ジメチルフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸;
4-アミノ-3-[6-(3-トリフルオロメチルフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸;
4-{4-[5-(1-アミノ-4-スルホナフタレン-2-イルアゾ)ピリジン-2-イル]フェニル}-4-オキソブチル酸;
4-アミノ-3-(6-ビフェニル-3-イルピリジン-3-イルアゾ)ナフタレン-1-スルホン酸;
4-アミノ-3-[6-(3-シアノフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸;
4-アミノ-3-[6-(4-シアノフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸;
4-アミノ-3-[6-(3,5-ビストリフルオロメチルフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレンスルホン酸;
4-アミノ-3-[6-(4-ベンゾイルフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸;
4-アミノ-3-[6-(2-プロポキシフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸;
4-アミノ-3-[6-(4-フルオロ-2-メチルフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸;
4-アミノ-3-[6-(5-フルオロ-2-プロポキシフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸;
4-アミノ-3-[6-(2-フルオロ-6-プロポキシフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸;
4-アミノ-3-[6-(4-フルオロ-2-プロポキシフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸;
4-アミノ-3-[6-(5-フルオロ-2-メチルフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸;
4-アミノ-3-[6-(2-フルオロ-5-メチルフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸;
4-アミノ-3-[6-(2-ブトキシフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸;
4-アミノ-3-[6-(2-ヘキシルオキシフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸;
4-アミノ-3-[6-(4-ブチルフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸;
4-アミノ-3-[6-(2-ヒドロキシフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸;
4-アミノ-3-{6-[2-(6-ヒドロキシヘキシルオキシ)フェニル]ピリジン-3-イルアゾ}ナフタレン-1-スルホン酸;
4-{2-[5-(1-アミノ-4-スルホナフタレン-2-イルアゾ)ピリジン-2-イル]フェノキシ}ブチル酸;
4-アミノ-3-{6-[2-(3-ヒドロキシプロポキシ)フェニル]ピリジン-3-イルアゾ}ナフタレン-1-スルホン酸;
4-アミノ-3-[6-(2-イソブトキシフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸;
4-アミノ-3-[6-(5-クロロ-2-ヒドロキシフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸;
4-アミノ-3-[6-(4-メチルビフェニル-2-イル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸;
4-アミノ-3-[6-(4’-クロロ-4-メチルビフェニル-2-イル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸;
4-アミノ-3-[6-(4,3’,5’-トリメチルビフェニル-2-イル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸;
4-アミノ-3-[6-(3’-クロロ-4-メチルビフェニル-2-イル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸;
4-アミノ-3-[6-(2,6-ジメチルフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸;
4-アミノ-3-[6-(3-ホルミル-2-イソプロポキシ-5-メチルフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸;および、
4-アミノ-3-[6-(3-ホルミル-2-ブトキシ-5-メチルフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸;
からなる群から選択される、請求項1~7のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項10】
式(I)の化合物が、4-アミノ-3-[6-(4-フルオロ-2-メチルフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸である、請求項1~9のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項11】
冠動脈内に投与される、請求項1~10のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項12】
心筋梗塞後の再灌流時に投与される、請求項1~11のいずれかに記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本特許出願は、日本国特許出願第2018-078272号について優先権を主張するものであり、ここに参照することによって、その全体が本明細書中へ組み込まれるものとする。
本願は、心筋細胞の保護用の医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
心筋梗塞や拡張型心筋症などの心疾患では、ポンプ機能を担う心筋細胞が障害を受け、最終的には変性または壊死することが知られている。心筋細胞は一般的に自己再生能力を欠くので、障害を受けた心筋細胞を保護して変性や壊死を防止することがこれらの疾患の治療に有効であると考えられるが、その方法は確立されていない。
【0003】
心筋梗塞は、冠動脈血管の閉塞または狭窄により血液の流量が低下し、心筋が虚血状態になり壊死する疾患であり、慢性心不全の主原因の一つである。急性期の心筋梗塞の治療に、バルーンカテーテル、ステント等を用いる外科的療法または血栓溶解療法により冠動脈の血流を再開する再灌流法が用いられるようになり、心筋梗塞による死亡率および予後は改善された。しかしながら、再灌流法には、再灌流時のカルシウムイオンの細胞内流入や活性酸素の産生により、心筋細胞が障害を受ける(再灌流障害)という新たな問題があり、再灌流法の発達に伴って、再灌流障害の抑制が求められてきた。活性酸素種を抑制する薬剤がいくつか報告されているが(非特許文献1および2)、臨床に応用されているものは皆無である。その他のメカニズムによる再灌流障害の抑制も確立されていない。
【0004】
ある種の4-アミノ-ナフタレン-1-スルホン酸誘導体は、VCP(valosin-containing protein)ATPase阻害活性を有し、様々な疾患に対する治療効果が期待されている(特許文献1)。特に、眼疾患およびレプチン抵抗性の処置または予防に有効であることが知られている(特許文献2~5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2012/014994号パンフレット
【文献】国際公開第2012/043891号パンフレット
【文献】国際公開第2014/129495号パンフレット
【文献】国際公開第2015/129809号パンフレット
【文献】国際公開第2015/033981号パンフレット
【非特許文献】
【0006】
【文献】Duan J, et al. Protective effect of butin against ischemia/reperfusion-induced myocardial injury in diabetic mice: involvement of the AMPK/GSK-3β/Nrf2 signaling pathway. Sci Rep. 2017;7:41491.
【文献】Bae S, Park M, Kang C, Dilmen S, Kang TH, Kang DG, Ke Q, Lee SU, Lee D, Kang PM. Hydrogen Peroxide-Responsive Nanoparticle Reduces Myocardial Ischemia/Reperfusion Injury. J Am Heart Assoc. 2016 Nov 14;5(11).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本願の目的は、心筋細胞保護用の医薬組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、VCP阻害剤が心筋細胞の保護効果を有し、心筋梗塞等の心疾患の処置に有効であることを見出した。
【0009】
従って、ある態様では、本願は、式(I):
【化1】
〔式中、
Raはハロ、ヒドロキシ、アルキル、ハロ置換アルキル、アリール、ハロまたはアルキル置換アリール、アルコキシ、ヒドロキシまたはカルボキシ置換アルコキシ、アリールオキシ、ハロまたはアルキル置換アリールオキシ、CHO、C(O)-アルキル、C(O)-アリール、C(O)-アルキル-カルボキシル、C(O)-アルキレン-カルボキシエステルおよびシアノから成る群から選択され、
mは0~4から選択される整数である〕
の化合物またはそのエステル、オキシド、プロドラッグ、薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物を含む、心筋細胞保護用の医薬組成物を提供する。
【0010】
別の態様では、本願は、式(I)の化合物またはそのエステル、オキシド、プロドラッグ、薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物を含む、心筋梗塞の処置用の医薬組成物を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本願により、心筋細胞保護用の医薬組成物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】ヒトの各臓器におけるVCPの発現量を示す。
【
図2】マウスの各臓器におけるVCPの発現量を示す。
【
図3】マウス心臓から単離した心筋細胞および線維芽細胞におけるVCPの発現量を示す。
【
図4】ツニカマイシン添加によるERストレス下で培養したラット心筋芽細胞の細胞数およびATPレベルを示す。KUS121(+)群には、25、50、100または200μMのKUS121を添加した。*:P<0.05 vs.Tm(+)KUS(-)
【
図5】ツニカマイシン添加によるERストレス下で培養したラット心筋芽細胞における、CHOPおよびBipのウェスタンブロットの結果を示す。KUS121(+)群には、200μMのKUS121を添加した。
【
図6】グルコース除去によるERストレス下で培養したラット心筋芽細胞の細胞数およびATPレベルを示す。KUS121(+)群には、25、50、100または200μMのKUS121を添加した。*:P<0.05 vs.グルコース(-)KUS(-)
【
図7】グルコース除去によるERストレス下で培養したラット心筋芽細胞における、CHOPおよびBipのウェスタンブロットの結果を示す。KUS121(+)群には、200μMのKUS121を添加した。
【
図8】マウス心臓虚血再灌流障害モデルにおける虚血前および再灌流後の腹腔内KUS121投与のスケジュールを示す模式図である(虚血前および再灌流後24時間毎に腹腔内160mg/kg体重)。
【
図9】マウス心臓虚血再灌流障害モデルにおいて、虚血前および再灌流後にKUS121を腹腔内投与した場合の左心室に対する梗塞部の大きさと、CHOPの発現量を示す。
【
図10】マウス心臓虚血再灌流障害モデルにおいて、虚血前および再灌流後にKUS121を腹腔内投与した場合の心機能の評価結果を示す。左:左室内径短縮率、右:左室駆出率。
【
図11】A teamマウスの心臓虚血再灌流障害モデルにおいて、虚血前にKUS121を腹腔内投与した場合の心臓のATPレベルを示す。
【
図12】マウス心臓虚血再灌流障害モデルにおける再灌流後のKUS121投与のスケジュール(再灌流直後に静脈内80mg/kg体重+
腹腔内80mg/kg体重、その後24時間毎に腹腔内160mg/kg体重)、および、術後7日目の左心室に対する梗塞部の大きさを示す。
【
図13】マウス心臓虚血再灌流障害モデルにおける再灌流後のKUS121投与のスケジュール(再灌流直後に静脈内25mg/kg体重+
腹腔内25mg/kg体重)、および、術後7日目の左心室に対する梗塞部の大きさを示す。
【
図14】マウス心臓虚血再灌流障害モデルにおける再灌流後KUS121投与のスケジュール(再灌流直後に静脈内8mg/kg体重+
腹腔内8mg/kg体重)、および、術後7日目の左心室に対する梗塞部の大きさを示す。
【
図15】ブタ心臓虚血再灌流障害モデルにおけるKUS121投与のスケジュールを示す模式図である(虚血45分後から3時間の持続点滴4mg/kg体重、再灌流直後に冠動脈内0.16mg/kg体重)。
【
図16】ブタ心臓虚血再灌流障害モデルにおける左心室に対する梗塞部の大きさを示す。
【
図17】ブタ心臓虚血再灌流障害モデルにおける心機能の評価結果を示す。a:左室駆出率、b:拡張末期容積、c:収縮末期容積、d:心拍出量、e:左室重量。
【
図18】ブタ心臓虚血再灌流障害モデルにおける組織学的評価の結果を示す。左:左心室に対する虚血域の大きさ、右:虚血域に対する梗塞部の大きさ。
【
図19】ブタ心臓虚血再灌流障害モデルにおける再灌流後の冠動脈内KUS121投与のスケジュール(再灌流後に冠動脈内0.64、2.5または5.0mg/kg体重)、左心室に対する梗塞部の大きさ(左)、左心室に対する虚血域の大きさ(中央)、虚血域に対する梗塞部の大きさ(右)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書では、数値が「約」の用語を伴う場合、その値の±10%の範囲を含むことを意図する。例えば、「約20」は、「18~22」を含むものとする。数値の範囲は、両端点の間の全ての数値および両端点の数値を含む。範囲に関する「約」は、その範囲の両端点に適用される。従って、例えば、「約20~30」は、「18~33」を含むものとする。
【0014】
特に具体的な定めのない限り、本明細書で使用される用語は、有機化学、医学、薬学、分子生物学、微生物学等の分野における当業者に一般に理解されるとおりの意味を有する。以下にいくつかの本明細書で使用される用語についての定義を記載するが、これらの定義は、本明細書において、一般的な理解に優先する。
【0015】
「アルキル」は、1~10個の炭素原子、好ましくは1~6個の炭素原子を有する、1価飽和脂肪族ヒドロカルビル基を意味する。アルキルは、例えば直鎖および分枝鎖ヒドロカルビル基、例えばメチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチル、t-ブチル、n-ペンチルおよびネオペンチルを意味するが、これらに限定されない。
【0016】
基の接頭語「置換」は、当該基の1個以上の水素原子が、同一または異なる指定する置換基によって置換されていることを意味する。
【0017】
「アルキレン」は、1~10個の炭素原子、好ましくは1~6個の炭素原子を有する、2価飽和脂肪族ヒドロカルビル基を意味する。アルキレン基は、分枝鎖および直鎖ヒドロカルビル基を含む。
【0018】
「アルコキシ」は、-O-アルキル(ここで、アルキルは本明細書に定義されている)の基を意味する。アルコキシは、例えばメトキシ、エトキシ、n-プロポキシ、イソプロポキシ、n-ブトキシ、t-ブトキシ、sec-ブトキシおよびn-ペントキシを意味するが、これらに限定されない。
【0019】
「アリール」は1個の環(例えばフェニル)または複数の縮合環(例えばナフチルまたはアントリル)を有する6~14個の炭素原子の1価芳香族性炭素環式基を意味する。アリール基は典型的には、フェニルおよびナフチルを含む。
「アリールオキシ」は、-O-アリール(ここで、アリールは本明細書に定義されている)の基を意味し、例えばフェノキシおよびナフトキシを含む。
【0020】
「シアノ」は、-CNの基を意味する。
「カルボキシル」または「カルボキシ」は-COOHまたはその塩を意味する。
「カルボキシエステル」は、-C(O)O-アルキル(ここで、アルキルは本明細書に定義されている)の基を意味する。
「ハロ」は、ハロゲン、特に、フルオロ、クロロ、ブロモおよびヨードを意味する。
「ヒドロキシ」は-OHの基を意味する。
【0021】
特に定めのない限り、本明細書において明示的に定義されていない置換基の命名法は、官能基の末端部分を命名し、次いで結合点に向かって隣接する官能基を命名して行う。例えば、置換基「アリールアルキルオキシカルボニル」は、(アリール)-(アルキル)-O-C(O)-を意味する。
【0022】
式(I)の化合物には、置換パターンによっては、エナンチオマーまたはジアステレオマーが存在し得る。式(I)の化合物は、ラセミ体であってもよく、既知方法で立体異性的に純粋な成分に分離したものであってもよい。ある種の化合物は、互変異性体であり得る。
【0023】
「エステル」は、インビボで加水分解され得るエステルを意味し、人体で容易に分解されて親化合物またはその塩を放出するものを含む。好適なエステル基は、例えば、薬学的に許容し得る脂肪族カルボン酸、特にアルカン酸、アルケン酸、シクロアルカン酸およびアルカン二酸に由来するもの(ここで、各アルキルまたはアルケニル基は、例えば6個以下の炭素原子を有する)を含む。具体的なエステルの例には、ギ酸エステル、酢酸エステル、プロピオン酸エステル、ブチル酸エステル、アクリル酸エステルおよびエチルコハク酸エステルが含まれる。
「オキシド」は、ヘテロアリール基の窒素環原子が酸化され、N-オキシドを形成しているものを意味する。
【0024】
「プロドラッグ」は、合理的な医学的判断の範囲内で、過度の毒性、刺激性、アレルギー性応答等なくヒトまたは動物の組織と接触させて使用するのに適した、合理的な利益/危険比で釣り合った、そして意図した使用に有効な化合物のプロドラッグを意味する。プロドラッグは、インビボで速やかに、例えば血中で加水分解によって変換されて、上記式の親化合物をもたらす化合物である。一般的な説明は、T. Higuchi and V. Stella, Pro drugs as Novel Delivery Systems, Vol. 14 of the A.C.S. Symposium SeriesおよびEdward B. Roche, ed., Bioreversible Carriers in Drug Design, American Pharmaceutical Association and Pergamon Press, 1987 に記載されている(いずれも参照により本明細書に引用する)。
【0025】
「薬学的に許容し得る塩」は、式(I)の化合物の無機または有機酸との塩であり得る。好ましい塩は、無機酸、例えば、塩酸、臭化水素酸、リン酸または硫酸との塩、または、有機カルボン酸またはスルホン酸、例えば、酢酸、トリフルオロ酢酸、プロピオン酸、マレイン酸、フマル酸、リンゴ酸、クエン酸、酒石酸、乳酸、安息香酸またはメタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸またはナフタレンジスルホン酸との塩である。
【0026】
また、薬学的に許容し得る塩は、常套の塩基との塩、例えばアルカリ金属塩(例えばナトリウムまたはカリウム塩)、アルカリ土類金属塩(例えばカルシウムまたはマグネシウム塩)、または、アンモニアまたは有機アミン(例えば、ジエチルアミン、トリエチルアミン、エチルジイソプロピルアミン、プロカイン、ジベンジルアミン、N-メチルモルホリン、ジヒドロアビエチルアミン、メチルピペリジン、L-アルギニン、クレアチン、コリン、L-リジン、エチレンジアミン、ベンザチン、エタノールアミン、メグルミンまたはトロメタミン)から誘導されるアンモニウム塩、特にナトリウム塩であり得る。
【0027】
「溶媒和物」は、固体または液体状態で溶媒分子との配位により錯体を形成している式(I)の化合物を意味する。好適な溶媒和物は水和物である。
【0028】
本明細書において「式(I)の化合物」に言及する場合、文脈中で不適切でない限り、そのエステル、オキシド、プロドラッグ、薬学的に許容される塩および溶媒和物も包含することを意図する。
【0029】
ある実施態様では、式(I)中、Raは、それぞれ独立して、ハロ、ヒドロキシ、アルキル、ハロ置換アルキルおよびアルコキシから成る群から選択される。
ある実施態様では、式(I)中、Raは、それぞれ独立して、ハロおよびアルキルから成る群から選択される。
ある実施態様では、式(I)中、Raは2個存在し、一方がハロであり、他方がアルキルである。
【0030】
ある実施態様において、式(I)の化合物は、下記の表1の化合物から選択される:
【表1-1】
【0031】
【0032】
【0033】
ある実施態様では、医薬組成物の有効成分は、下記式
【化2】
で表される4-アミノ-3-[6-(4-フルオロ-2-メチルフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸、または、そのエステル、オキシド、プロドラッグ、薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物、特にナトリウム塩が好ましい。
【0034】
式(I)の化合物、特に、上記の化合物の特性および合成方法は、国際公開第2012/014994号パンフレット(特許文献1)に詳細に記載されている。
【0035】
後述する実施例により立証される通り、式(I)の化合物は、心筋細胞を保護し得る。従って、ある態様では、式(I)の化合物を含む、心筋細胞保護用の医薬組成物が提供される。本明細書で使用されるとき、「心筋細胞を保護する」または「心筋細胞保護」は、心筋細胞の細胞死を抑制すること、および/または、心筋細胞の虚血障害および/または虚血再灌流障害またはその進行を抑制することを意味する。ある実施態様では、心筋細胞を保護することにより、心機能を維持すること、および/または、心機能の低下を抑制することができ、例えば、心筋梗塞、慢性心不全、高血圧性心不全または拡張型心筋症などの心筋細胞死を伴う心疾患を処置または予防し得る。
【0036】
後述する実施例は、さらに、心筋梗塞の処置における式(I)の化合物の有用性を詳細に試験し、それが再灌流時の冠動脈内単回投与でさえ有効であり、心機能の低下を抑制し得ることを立証している。従って、ある態様では、式(I)の化合物を含む、心筋梗塞の処置用の医薬組成物が提供される。また、式(I)の化合物の投与により、心筋梗塞患者の壊死心筋の量が減少し、心不全に至るリスクが軽減されるので、式(I)の化合物は、心筋梗塞を原因とする心不全または心筋梗塞後の心不全、特に慢性心不全の処置または予防にも使用され得る。
【0037】
本明細書で使用されるとき、「処置する」または「処置」は、疾患に罹患している対象において、疾患の原因を軽減または除去すること、その進行を遅延または停止させること、および/または、その症状を軽減、緩和、改善または除去することを意味する。
【0038】
本明細書で使用されるとき、「予防する」または「予防」は、対象において、特に、疾患に罹る可能性が高いが、未だ罹患していない対象において、疾患への罹患を防止すること、または、疾患に罹る可能性を低減することを意味する。
【0039】
心疾患に罹る可能性があるが、未だ罹患していない対象には、例えば、加齢、冠動脈疾患の家族歴、喫煙、高血圧、肥満、耐糖能異常、高コレステロール血症、高トリグリセリド血症、低HDLコレステロール血症、メタボリックシンドローム、ストレス、睡眠不足等のリスク因子を有する対象が含まれる。心筋梗塞に罹る可能性があるが、未だ罹患していない対象には、例えば、喫煙、高コレステロール血症、糖尿病、高血圧、狭心症・心筋梗塞の家族歴、加齢、ストレス、肥満、痛風、高尿酸血症、血液透析、高ホモシステイン血症、歯周病等のリスク因子を有する対象が含まれる。慢性心不全に罹る可能性があるが、未だ罹患していない対象には、例えば、冠動脈疾患、心筋症、弁膜症、高血圧などに罹患している対象、特に心筋梗塞に罹患している対象が含まれる。高血圧性心不全に罹る可能性があるが、未だ罹患していない対象には、例えば、高血圧に罹患している対象が含まれる。拡張型心筋症に罹る可能性があるが、未だ罹患していない対象には、例えば、拡張型心筋症の遺伝的素因を有する対象が含まれる。
【0040】
疾患の処置または予防の対象としては、動物、典型的には哺乳動物(例えば、ヒト、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、ネコ、イヌ、ウシ、ヒツジ、サル等)、特にヒトが挙げられる。
【0041】
医薬組成物の投与方法は特に限定されないが、経口投与、非経腸投与、注射、輸液等の一般的な投与経路を経ることができ、組成物は、各投与経路に適する剤形であり得る。ある実施態様では、医薬組成物は冠動脈内に投与される。
【0042】
経口投与の剤形としては、顆粒剤、細粒剤、粉剤、被覆錠剤、錠剤、坐剤、散剤、カプセル剤、マイクロカプセル剤、チュアブル剤、液剤、懸濁剤、乳濁液などが挙げられる。また注射による投与の剤形としては、冠動脈内投与用、静脈注射用、点滴投与用、活性物質の放出を延長する製剤等などの医薬製剤一般の剤形を採用することができる。冠動脈内投与用、静脈注射用または点滴投与用の剤形としては、水性および非水性の注射溶液(抗酸化剤、緩衝液、静菌剤、等張化剤等を含んでもよい);ならびに水性および非水性の注射懸濁液(懸濁剤、増粘剤等を含んでもよい)が挙げられる。注射用の投与形は、密閉したアンプルやバイアル中に提供されてもよく、使用直前に滅菌液体(例えば、注射用水)を加えるだけでよい凍結乾燥物として提供されてもよい。注射溶液または懸濁液を、粉末、顆粒または錠剤から調製してもよい。
【0043】
これらの剤形は、常法により製剤化することによって製造される。さらに製剤上の必要に応じて、医薬的に許容し得る各種の製剤用物質を配合することができる。製剤用物質は製剤の剤形により適宜選択することができるが、例えば、緩衝化剤、界面活性剤、安定化剤、防腐剤、賦形剤、希釈剤、添加剤、崩壊剤、結合剤、被覆剤、潤滑剤、滑沢剤、風味剤、甘味剤、可溶化剤等が挙げられる。
【0044】
医薬組成物の投与量および投与回数は、有効量の式(I)の化合物が対象に投与されるように、投与対象の動物種、投与対象の健康状態、年齢、体重、投与経路、投与形態等に応じて当業者が適宜設定できる。ある状況での有効量は、日常的な実験によって容易に決定することができ、通常の臨床医の技術および判断の範囲内である。例えば、約0.001~約1000mg/kg体重/日、約0.01~約300mg/kg体重/日、約0.1~約100mg/kg体重/日、約1~約100mg/kg体重/日、約2~約50mg/kg体重/日、約2.5~約20mg/kg体重/日、約2.5~約10mg/kg体重/日、あるいは約5~約10mg/kg体重/日の式(I)の化合物を投与し得る。ある実施態様では、医薬組成物は、心筋梗塞後の再灌流時に1回またはそれ以上の回数で、特に1回、投与される。
【0045】
ある実施態様では、医薬組成物は、心筋梗塞後の再灌流時に冠動脈内に単回投与される。その場合、例えば、約0.01~約100mg/kg体重、約0.05~約50mg/kg体重、約0.1~約50mg/kg体重、約0.1~約20mg/kg体重、約0.1~約10mg/kg体重、約1~約10mg/kg体重、約2~約10mg/kg体重、約2.5~約10mg/kg体重、約2.5~約5mg/kg体重あるいは約5~約10mg/kg体重の式(I)の化合物を投与し得る。
【0046】
式(I)の化合物は、単独で、または、1種またはそれ以上のさらなる有効成分、特に、心筋梗塞等の心疾患の処置または予防のための有効成分と併用できる。例えば、医薬組成物は、式(I)の化合物に加えて、1種またはそれ以上のさらなる有効成分を含み得る。
【0047】
成分を「併用する」ことは、全成分を含有する投与剤形の使用および各成分を別個に含有する投与剤形の組合せの使用のみならず、それらが心筋細胞の保護または心疾患の予防および/または処置のために使用される限り、各成分を同時に、または、いずれかの成分を遅延して投与することも意味する。2種またはそれ以上のさらなる有効成分を併用することも可能である。併用に適する有効成分には、例えば、抗炎症剤、血管拡張剤、血栓溶解剤、抗血小板薬、抗凝固薬、スタチン系薬剤等が含まれる。
【0048】
式(I)の化合物の投与に加えて、薬物療法以外の治療法を実施することもできる。適する治療法には、例えば、バルーンカテーテル、ステントまたは薬剤溶出性ステント(DES)等を用いた冠動脈インターベンション(PCI)および血栓吸引法等の外科手術、遺伝子治療、再生医療等が含まれる。
【0049】
ある態様では、心筋細胞の保護を必要としている対象に式(I)の化合物を投与することを含む、心筋細胞の保護方法が提供される。
ある態様では、心筋細胞保護用の式(I)の化合物が提供される。
ある態様では、心筋細胞を保護するための式(I)の化合物の使用が提供される。
ある態様では、心筋細胞保護用の医薬組成物の製造における、式(I)の化合物の使用が提供される。
【0050】
ある態様では、心筋梗塞の処置を必要としている対象に式(I)の化合物を投与することを含む、心筋梗塞の処置方法が提供される。
ある態様では、心筋梗塞の処置用の式(I)の化合物が提供される。
ある態様では、心筋梗塞を処置するための式(I)の化合物の使用が提供される。
ある態様では、心筋梗塞の処置用の医薬組成物の製造における、式(I)の化合物の使用が提供される。
【0051】
例えば、下記の実施態様が提供される。
[1]式(I):
【化3】
〔式中、
Raはハロ、ヒドロキシ、アルキル、ハロ置換アルキル、アリール、ハロまたはアルキル置換アリール、アルコキシ、ヒドロキシまたはカルボキシ置換アルコキシ、アリールオキシ、ハロまたはアルキル置換アリールオキシ、CHO、C(O)-アルキル、C(O)-アリール、C(O)-アルキル-カルボキシル、C(O)-アルキレン-カルボキシエステルおよびシアノから成る群から選択され、
mは0~4から選択される整数である〕
の化合物またはそのエステル、オキシド、薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物を含む、心筋細胞保護用の医薬組成物。
[2]心筋細胞保護が心筋細胞死の抑制を含む、第1項に記載の医薬組成物。
[3]心筋梗塞、慢性心不全、高血圧性心不全または拡張型心筋症の処置用の、第1項または第2項に記載の医薬組成物。
[4]心筋梗塞の処置用の、第1項~第3項のいずれかに記載の医薬組成物。
[5]式(I):
【化4】
〔式中、
Raはハロ、ヒドロキシ、アルキル、ハロ置換アルキル、アリール、ハロまたはアルキル置換アリール、アルコキシ、ヒドロキシまたはカルボキシ置換アルコキシ、アリールオキシ、ハロまたはアルキル置換アリールオキシ、CHO、C(O)-アルキル、C(O)-アリール、C(O)-アルキル-カルボキシル、C(O)-アルキレン-カルボキシエステルおよびシアノから成る群から選択され、
mは0~4から選択される整数である〕
の化合物またはそのエステル、オキシド、薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物を含む、心筋梗塞の処置用の医薬組成物。
[6]さらに心不全を処置または予防するための、第5項に記載の医薬組成物。
[7]さらに慢性心不全を処置または予防するための、第5項または第6項に記載の医薬組成物。
[8]Raが、それぞれ独立して、ハロ、ヒドロキシ、アルキル、ハロ置換アルキルおよびアルコキシから成る群から選択される、第1項~第7項のいずれかに記載の医薬組成物。
[9]Raが、それぞれ独立して、ハロおよびアルキルから成る群から選択される、第1項~第8項のいずれかに記載の医薬組成物。
[10]Raが2個存在し、一方がハロであり、他方がアルキルである、第1項~第9項のいずれかに記載の医薬組成物。
[11]式(I)の化合物が表1に記載の化合物から選択される、第1項~第10項のいずれかに記載の医薬組成物。
[12]式(I)の化合物が、4-アミノ-3-[6-(4-フルオロ-2-メチルフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸である、第1項~第11項のいずれかに記載の医薬組成物。
[13]冠動脈内に投与される、第1項~第12項のいずれかに記載の医薬組成物。
[14]心筋梗塞後の再灌流時に投与される、第1項~第13項のいずれかに記載の医薬組成物。
[15]心筋梗塞後の再灌流時に単回投与される、第1項~第14項のいずれかに記載の医薬組成物。
[16]約0.01~約100mg/kg体重の式(I)の化合物を投与するための、第13項~第15項のいずれかに記載の医薬組成物。
[17]約1~約10mg/kg体重の式(I)の化合物を投与するための、第13項~第16項のいずれかに記載の医薬組成物。
[18]約2~約10mg/kg体重の式(I)の化合物を投与するための、第13項~第17項のいずれかに記載の医薬組成物。
【0052】
本明細書で引用するすべての文献は、出典明示により本明細書の一部とする。
以下、実施例にて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこの実施例に限定されない。また、上記の説明は、すべて非限定的なものであり、本発明は添付の特許請求の範囲において定義され、その技術的思想を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【実施例】
【0053】
実施例において、以下の化合物を使用した。
KUS121:4-アミノ-3-[6-(4-フルオロ-2-メチルフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸ナトリウム塩
KUS121は、国際公開第2012/014994号(特許文献1)に記載の方法により製造した。
【0054】
試験1:ヒト臓器におけるVCPの発現
human Total RNA Master Panel II (Clonthech社)、total RNA: human adipose (Biochain社) を用いて、ヒト臓器でのVCPの発現をqPCRで定量評価した。まずRNA1μgをVerso cDNA Synthesis Kit (Thermo Fisher Scientific社) を用いてcDNAに逆転写した。そのcDNAから Step One Plus (Thermo Fisher Scientific社)、THUNDERBIRD qPCR Mix (TOYOBO社) を用いてqPCRを行い、VCPの発現量を測定した。結果を
図1に示す。ヒトの心臓におけるVCPの発現は比較的高く、中枢神経系と同程度であった。
【0055】
試験2:マウス臓器におけるVCPの発現
8週齢C57BL/6Jマウス(日本SLC社)から各臓器を摘出し、TriPure Isolation Reagent(Roche社)を用いて、製造業者のプロトコールに沿ってRNAを抽出した。RNA1μgを Verso cDNA Synthesis Kit を用いてcDNAに逆転写した。そのcDNAから Step One Plus、THUNDERBIRD qPCR Mix を用いてqPCRを行い、VCPの発現量を測定した。結果を
図2に示す。マウスの心臓におけるVCPの発現は比較的高かった。
【0056】
試験3:マウス心臓におけるVCPの発現
生後1日目の新生児C57BL/6Jマウスより心臓を摘出し、コラゲナーゼ処理を行い、細胞を単離した。Mito Tracker GreenFM (M7514、Thermo Fisher Scientific)、Thy1.2-APC (eBioscience社) を用いて、FACSで心筋細胞と線維芽細胞に分離した。試験2と同様の手順でqPCRを行い、VCPの発現量を定量評価した。結果を
図3に示す。マウスの心臓において、VCPは心筋細胞で多く発現していた。
【0057】
試験4:ラット心筋芽細胞におけるKUS121の効果
H9C2(ラット心筋芽細胞)を、5%ウシ胎児血清添加 Dulbecco’s modified Eagle’s medium (DMEM) 中、小胞体ストレスを誘導する0.1μg/mLツニカマイシン (Sigma Aldrich社) および、25、50、100または200μMのKUS121の存在下で24時間培養した。細胞数を Countess II (Thermo Fisher Scientific社) で測定した。「細胞の」ATP測定試薬(東洋ビーネット社)を用いて細胞内のATPレベルを測定した。ATPレベルを示すルシフェラーゼ活性を、ARVO X3 (PerkinElmer社) で測定した。結果を
図4に示す。細胞数はKUS121の用量に伴って増加した。ツニカマイシンの添加によりATPレベルが低下したが、KUS121の用量に伴って改善された。
【0058】
上記の培養細胞をウェスタンブロットに付した。100 mM Tris-HCl(pH 7.4)、75 mM NaCl、1% Triton X-100 (Nacalai Tesque社) からなる溶液に、使用する直前に Complete Mini protease inhibitor cocktail (Roche社)、0.5 mM NaF、10 mM Na
3VO
4を加えて細胞溶解液とした。それを用いて培養細胞からタンパク質を抽出し、BCA protein assay kit (Bio-Rad, 5000006JA) でタンパク質濃度を測定した。タンパク質15μgを NuPAGE 4-12% Bis-Tris Mini gels (Thermo Fisher Scientific) 中で分離し、Protran nitrocellulose transfer membrane (Whatman) に転写した。5%スキムミルクPBSで30分間ブロッキングし、一次抗体を4℃で一晩反応させた。PBS-0.05% Tween-20 (PBS-T) で洗浄し、二次抗体を室温で1時間反応させた。PBS-Tで洗浄後、Pierce Western Blotting Substrate (Thermo Fisher Scientific)、または Pierce Western Blotting Substrate plus (Thermo Fisher Scientific) を用いて発色し、LAS-4000 Mini system (Fuji Film) を用いて測定した。一次抗体として、CHOP (sc575, Snata Cruz社)、Bip (#3183, Cell Signaling社)、GAPDH (#2118, Cell Signaling社) およびβ-アクチン (Sigma Aldrich社) を使用した。結果を
図5に示す。KUS121の存在下では、小胞体ストレスマーカーであるCHOPおよびBipの発現が抑制された。
【0059】
グルコースを含まない培地で細胞を培養して、同様の実験を行った。結果を
図6および7に示す。細胞数はKUS121の用量に伴って増加した。無グルコース下ではATPレベルが低下したが、KUS121の用量に伴って改善された。KUS121の存在下では、小胞体ストレスマーカーであるCHOPおよびBipの発現が抑制された。
【0060】
これらの結果から、KUS121が小胞体ストレス下の心筋細胞および心筋芽細胞においてATP消費を抑制し、小胞体ストレスを抑制して細胞死を抑制することが示唆される。
【0061】
試験5:マウス心臓虚血再灌流障害モデル(虚血前KUS投与)
ペントバルビタール64.8mg/kgの腹腔内投与で麻酔を行った。麻酔導入後に気管内チューブを挿入し、陽圧換気を行った。
8週齢C57BL/6Jマウスを右半側臥位に固定し、左第三肋間で開胸し、心臓を露出させた。心膜を少し剥離し、左房下縁から1、2mm心尖部寄りの部位でPE10チューブとともに7-0プロリンで左冠動脈前下行枝を結紮した。心筋の色調が変化するのを観察して、冠動脈血流が遮断できているのを確認した。45分間の虚血の後にPE10チューブを抜去し、再灌流を得た。再灌流は心筋の色調が回復することをもって確認した。その後、胸郭を7-0プロリン、皮膚を4-0シルクで縫合した。マウスが覚醒したのを確認して、気管内チューブを抜去した。
【0062】
虚血前KUS投与
生理食塩水に溶解したKUS121を虚血前投与した。
図8に投与スケジュールの模式図を示す。初回投与は、再灌流の2時間前(虚血開始の約1時間前)にKUS121の160mg/kg腹腔内投与を行った。その後は術後1~6日目まで24時間毎にKUS121の160mg/kg腹腔内投与を行った。
【0063】
組織学的評価
術後7日目に、ペントバルビタールで麻酔後に4%パラホルムアルデヒド(PFA)で灌流固定を行い、心臓を摘出した。摘出した心臓は、さらに4%PFAで一晩浸漬固定を行った。その後にパラフィン包埋を行い、切片を作成した。マッソントリクローム染色で梗塞領域の評価を行った。画像は顕微鏡 (BZ-9000, Keyence) で撮影し、Image J (NIH) で梗塞領域の面積を求めた。結果を
図9に示す。KUS121投与群では、対照群と比較して、梗塞領域が小さかった。ウェスタンブロットによると、投与群においては、境界領域、非虚血領域において小胞体ストレスマーカーのCHOPの発現が抑制された。
【0064】
心臓超音波検査
マウス心臓虚血再灌流障害モデルにおいて、心機能評価のため心臓超音波検査 (Vevo
(登録商標)2100, VISUALSONICS) を行った。2%イソフルラン吸入麻酔下に行い、傍胸骨短軸像において左室内径短縮率および左室駆出率を測定し、左室収縮能を評価した。結果を
図10に示す。KUS121投与群では、対照群と比較して左室収縮能が良好に保たれ、偽手術群と同程度であった。
【0065】
試験6:マウス心臓虚血再灌流障害モデル(ATP可視化マウス)
京都大学医学研究科腎臓内科山本正道氏が開発したATP可視化マウス(A teamマウス)を用いた。A teamマウスでは、細胞内ATP量に応じてGFPからOFPへの蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)が起こり、OFP/GFP比がATP量に比例する。
A teamマウスを4%イソフルランで麻酔導入し、術中は2%で維持した。麻酔導入後に気管内チューブを挿入し、陽圧換気を行った。両側側胸部と両側肋骨下縁を切開し、胸腔を開け、心臓を露出した。左房下縁から1、2mm心尖部寄りの部位でPE10チューブとともに7-0プロリンで左冠動脈前下行枝を結紮した。45分間の虚血の後にPE10チューブを抜去し、再灌流を得た。KUS121は再灌流2時間前に160mg/kg腹腔内投与した。ATP測定では、470/40で励起し、515/30でGFPを、575/40でOFPを検出し、画像を撮影した。MetaMorph (Molecular Devices社) を用いて、OFP/GFP比を解析した。結果を
図11に示す。対照群では虚血時にATPレベルが低下したが、KUS121投与群では維持された。
【0066】
試験7:マウス心臓虚血再灌流障害モデル(再灌流後KUS投与)
試験5と同様にマウス心筋梗塞モデルを作成した。
(1)160mg/kg
初回投与は、再灌流直後にKUS121の80mg/kg静脈内投与、80mg/kg腹腔内投与を行った。その後は術後1~4日目まで24時間毎にKUS121の160mg/kg腹腔内投与を行った。術後7日目に、試験5と同様に組織学的評価を行い、梗塞領域の面積を求めた。投与スケジュールの模式図と結果を
図12に示す。KUS121投与群では、対照群と比較して、梗塞領域が小さかった。
【0067】
(2)50mg/kg
再灌流直後にKUS121の25mg/kg静脈内投与、25mg/kg腹腔内投与を行った。その後はKUS121を投与しなかった。術後7日目に、試験5と同様に組織学的評価を行い、梗塞領域の面積を求めた。投与スケジュールの模式図と結果を
図13に示す。KUS121投与群では、対照群と比較して、梗塞領域が小さかった。
【0068】
(3)16mg/kg
再灌流直後にKUS121の8mg/kg静脈内投与、8mg/kg腹腔内投与を行った。その後はKUS121を投与しなかった。術後7日目に、試験5と同様に組織学的評価を行い、梗塞領域の面積を求めた。投与スケジュールの模式図と結果を
図14に示す。KUS121投与群と対照群の梗塞領域の面積に有意差は見られなかった。
【0069】
試験8:ブタ心臓虚血再灌流障害モデル(静脈内および冠動脈内KUS投与)
ヨークシャーブタに全身麻酔下でカテーテルを挿入し、バルーンにて左冠動脈を閉塞し、心筋梗塞モデルを作成した。4mg/kgのKUS121を250mLのブドウ糖液に溶解した点滴液を、冠動脈閉塞45分後より3時間にわたり持続点滴により静脈投与した。閉塞60分後にバルーンを解除し、冠動脈内に上記点滴液10mLを注入した。投与スケジュールの模式図を
図15に示す。
【0070】
(1)MRIによる梗塞サイズと心機能の評価
閉塞の1週間後に、ガドリニウム遅延造影MRIにより、心筋梗塞巣の大きさを評価した。
図16は、左室あたりの梗塞領域の面積を示す。また、MRIにより左室駆出率、拡張末期容積、収縮末期容積、心拍出量、左室重量を測定し、心機能を評価した。結果を
図17に示す。KUS121の投与により、左室収縮能の改善傾向を認めた。
【0071】
(2)組織学的評価
MRI撮影後に、左冠動脈の閉塞部をバルーンカテーテルで再度閉塞し、左右両冠動脈に1%エバンスブルーを注入した(左冠動脈は60mL、右冠動脈は30mL。非梗塞部が青く染まる)。さらに30mLの1%TTC液を閉塞バルーンのガイドワイヤールーメンを用いて注入した。その後、塩化カリウムの静脈注射にてブタを安楽死させた。心臓を取り出し、房室溝と平行に10mm厚で断片を作成した。さらに37℃で10分間、1%TTC液に浸した(心筋梗塞に陥っていない場所が赤く染まる)。すべてのスライスの重さを測定し、写真を撮影した。10%ホルムアルデヒドで固定し、その後の組織観察に使用した。結果を
図18に示す。左のグラフは、左心室に対する虚血域の大きさを示し、右のグラフは、虚血域に対する梗塞部の大きさを示す。虚血域の大きさは偽手術群とKUS投与群では差がなかったが、KUS投与により、虚血域あたりの梗塞部の大きさは減少した。
【0072】
試験9:ブタ心臓虚血再灌流障害モデル(再灌流後KUS投与)
試験8と同様にブタ心筋梗塞モデルを作成した。閉塞60分後にバルーンを解除し、その直後に冠動脈内に0.64、2.5または5.0mg/kg体重のKUS121を3分間で注入した。術後7日目に、試験8と同様にMRIにより梗塞サイズを評価し、組織学的評価により梗塞領域の面積を求めた。投与スケジュールおよび結果を
図19に示す。MRIにより評価した梗塞領域/左心室(LV)領域比は、KUS121処置群で用量依存的に低下した。KUS121処置群の虚血域/左心室領域比は対照群と同等であり、KUS121処置群の梗塞領域/虚血域(AAR)比は用量依存的に低下した。さらに、マッソントリクローム染色による梗塞領域の外見が、TTC染色により評価した場合と同等であることを確認した。これらのデータは、ブタ心筋梗塞モデルにおいて、心臓の損傷後のKUS121の冠動脈内投与が有効であることを示す。
【0073】
試験1~9の結果から、式(I)の化合物は、虚血再灌流時に心筋細胞を保護し、細胞死を抑制することでき、従って、心筋梗塞の処置に有用であることが示唆される。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本願は、心筋細胞の保護方法を提供するものであり、医療の分野で利用され得る。例えば、心筋細胞死を伴う疾患の処置および予防、特に心筋梗塞の処置に利用されることが期待される。