(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-18
(45)【発行日】2023-10-26
(54)【発明の名称】推進装置
(51)【国際特許分類】
F02K 9/80 20060101AFI20231019BHJP
B64G 1/26 20060101ALI20231019BHJP
B64G 1/00 20060101ALI20231019BHJP
F42B 10/28 20060101ALI20231019BHJP
【FI】
F02K9/80
B64G1/26 A
B64G1/00 C
F42B10/28
(21)【出願番号】P 2019218837
(22)【出願日】2019-12-03
【審査請求日】2022-10-24
(73)【特許権者】
【識別番号】500302552
【氏名又は名称】株式会社IHIエアロスペース
(74)【代理人】
【識別番号】100097515
【氏名又は名称】堀田 実
(74)【代理人】
【識別番号】100136700
【氏名又は名称】野村 俊博
(72)【発明者】
【氏名】大萩 佑介
【審査官】高吉 統久
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第02611317(US,A)
【文献】特開昭53-130900(JP,A)
【文献】特開平02-050097(JP,A)
【文献】米国特許第4796534(US,A)
【文献】特開昭48-088800(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0206030(US,A1)
【文献】特開2010-078221(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B64G 1/00
B64G 1/26
F02K 9/80
F42B 10/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
飛翔体の機体に設けられた推進装置であって、
燃焼ガスを発生させる本体と、
前記本体に同軸に固定され前記燃焼ガスを排出するノズルと、
前記ノズルの内壁に設けられ前記燃焼ガスの風圧を受けて該ノズルに前記本体の機軸回りの回転力を発生させる翼と、を備え
、
前記ノズルは、機軸方向における前後に分割されており、本体側に位置する前方ノズルと、該ノズルの先端側に位置する後方ノズルと、前記回転力を伝達可能に前記前方ノズルと前記後方ノズルとを連結する固定部材と、を有し、
前記翼は、前記後方ノズルの前記内壁に固定され、
前記固定部材は、前記本体の回転速度が一定以上に至ったときに前記連結を解除する、推進装置。
【請求項2】
前記ノズルは、前記前方ノズルと前記後方ノズルとを自由回転可能に結合するベアリングを有する、
請求項1に記載の推進装置。
【請求項3】
前記固定部材は、前記機軸に対する内側から外側へ向けて延びる部材であり、
前記固定部材の一端部は、前記前方ノズルと前記後方ノズルとの接合面のうちの前記外側に位置する接合面に回転可能に固定され、かつ他端部が前記内側へ付勢されており、
前記固定部材の他端部は、前記前方ノズルと前記後方ノズルとの接合面のうちの前記内側に位置する接合面に係止して前記回転力を伝達する爪部を有し、
前記爪部にかかる遠心力が前記固定部材にかかる付勢力を上回ったときに、該固定部材が回動し、前記連結を解除する、
請求項1又は2に記載の推進装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃焼ガスを噴出することにより推力を得る推進装置であり、さらに機軸直行方向への回転力を付加する推進装置に関する。
【背景技術】
【0002】
燃焼ガスを噴出することにより推力を得る推進装置には、例えば固体ロケットや、液体推進薬の燃焼により噴射ガスを発生する液体ロケット、ラムジェットエンジン、ハイブリッドロケット、電気エネルギーロケット等がある。
【0003】
非特許文献1には、ロケットを用いて衛星を打ち上げる過程の一部に、機体に機軸直行方向への回転力を付加する段階(スピン段階)があることが開示されている。このロケットでは、ロケットモータの機軸直行方向へ向けて設けられたスピンモータを使うことにより、飛翔体の機体に回転力を付加している。
このようなスピンモータは、例えば特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Japan Aerospace Exploration Agency、“Epsilon Launch Vehicle ユーザーズマニュアル Single launch Rideshare”、[online]、2018年7月A改訂版、[平成31年4月17日検索]、インターネット〈URL:http://www.jaxa.jp/projects/rockets/epsilon/pdf/EpsilonUsersManual.pdf〉
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非特許文献1のロケットは、ロケットモータにスピンモータやその点火装置を、スピン段階のためだけに取り付けていた。そのため構成物品が増え、その分、ロケットの質量が増加してしまっていた。
【0007】
本発明は上述した問題点を解決するために創案されたものである。すなわち本発明の目的は、スピンモータを用いずに機体に機軸回りの回転力を付加することができる推進装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、飛翔体の機体に設けられた推進装置であって、
燃焼ガスを発生させる本体と、
前記本体に同軸に固定され前記燃焼ガスを排出するノズルと、
前記ノズルの内壁に設けられ前記燃焼ガスの風圧を受けて該ノズルに前記本体の機軸回りの回転力を発生させる翼と、を備える、推進装置が提供される。
【発明の効果】
【0009】
上述した本発明によれば、燃焼ガスの風圧を受けて推進装置の本体の機軸回りの回転力を発生させる翼を、ノズルの内壁に備えるので、飛翔体が推進するためにノズルから排出する燃焼ガスを利用して、飛翔体の機体に回転力を付与することができる。それによりスピンモータを搭載する必要が無く、スピンモータを搭載しない分、飛翔体の軽量化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0012】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態の推進装置10の説明図である。
図1(A)は、推進装置10の部分断面図であり、
図1(B)は、
図1(A)のG-G断面図である。
図1(C)は、
図1(B)のH-H断面図の一部を拡大した部分拡大図である。
本実施形態の推進装置10は、ロケット等の飛翔体8の機体に設けられ、本体1、ノズル2、及び翼5を備える。
推進装置10は、例えば固体ロケットや、液体推進薬の燃焼により噴射する燃焼ガスを発生する液体ロケット、ラムジェットエンジン、ハイブリッドロケット、電気エネルギーロケット等であってもよい。以下において、推進装置10が固体ロケットである場合を例として、本実施形態について説明する。
【0013】
推進装置10の本体1は、高温高圧の燃焼ガスを発生させるものであり、例えば固体ロケットモータである。
【0014】
ノズル2は、本体1と同軸になるように、本体1の固体ロケットモータに固定され、固体ロケットモータから発生する燃焼ガスを後方へ排出する。なお、ノズル2の形状は、円錐型又はベル型であってもよい。
【0015】
ノズル2の内壁4aには、翼5が設けられている。翼5は、ノズル2の内壁4aから、機軸Xへ向けて延びる。
図1(C)に示すように、翼5は、その翼面5aが機軸Xに対して斜角θとなるようにノズル2の内壁4aに設置されている。斜角θとは、直角と平角ではない角度である。翼5の数は、1つでもよく、複数でもよい。翼5の数は、偶数でも、奇数でもよい。
これにより翼5は、燃焼ガスの風圧を受けて、ノズル2に本体1の機軸回りの回転力Zを発生させる。
【0016】
この構成により、本実施形態の推進装置10は、スピンモータを搭載していなくても、後方へ排出する燃焼ガスを利用して飛翔体8の機体を機軸回りに回転させることができる。
【0017】
(第2実施形態)
図2は、第2実施形態の推進装置10の説明図である。
図2(A)は、推進装置10の部分断面図である。
図2(B)は、
図2(A)のJ-J断面図であり、
図2(C)は、
図2(A)のK-K断面図である。
本実施形態のノズル2は、
図2(A)に示すように機軸方向における前後に分割されている点で、第1実施形態とは異なる。
【0018】
ノズル2は、前方ノズル3及び後方ノズル4と、それらを着脱可能に連結する固定部材6を有する。固定部材6は、後方ノズル4の回転力Zを前方ノズル3へ伝達可能に設けられている。
【0019】
前方ノズル3は、機軸方向における前側(本体側)に位置し、本体1(この図では固体ロケットモータ)に直接連結されている。
後方ノズル4は、機軸方向における後側(ノズル2の先端側)に位置する。
なお、前方ノズル3と後方ノズル4を合わせたノズル2の形状は、円錐型又はベル型であってもよい。
【0020】
この前方ノズル3と後方ノズル4は、ベアリング7によって自由回転可能に結合されている。ベアリング7は、
図2(A)に示すように前方ノズル3と後方ノズル4の接合面3a,4bに固定される。
【0021】
翼5は、後方ノズル4の内壁4aに複数固定されている。例えば複数の翼5は、
図2(B)のように、機軸Xに対して点対称となる内壁上の位置から、機軸Xからずれた位置へ向けて延びていてもよい。これにより、翼5が燃焼ガスの風圧を受けて、機軸Xを中心として回転しようとする力Zが翼5に発生し、後方ノズル4を機軸回りに回転させる。
【0022】
固定部材6は、
図2(C)に示すように、後方ノズル4の回転力Zを前方ノズル3に伝達できるように、前方ノズル3と後方ノズル4を連結している。固定部材6は、前方ノズル3と後方ノズル4の接合面3a,4bに固定されていることが好ましいが、ノズル2の外周面上に設置されていてもよい。固定部材6は、所謂遠心クラッチであり、機軸Xを中心とする遠心力Wにより連結を解除する構成となっている。
【0023】
例えば
図2(C)に示した固定部材6は、ノズル2の接合面3a,4bに設けられている。この固定部材6は、一端部6aが、後方ノズル4の接合面4bに自由回転可能に固定されており、その一端部6aから前方ノズル3の接合面3aへ向けて延びている。固定部材6の他端部6bには、前方ノズル3の接合面3aに係止する爪部6cを有する。爪部6cは、前方ノズル3の接合面3aと後方ノズル4の接合面4bの間で、一端部6aを中心として揺動する。
【0024】
固定部材6は、爪部6cが前方ノズル3の接合面3aへ向けて付勢するように設けられている。例えば、コイルスプリング等のねじりバネ6dの一端部が固定部材6の一端部6aに固定され、ねじりバネ6dの他端部が後方ノズル4の接合面4bに固定されていてもよい。
【0025】
図2(C)に示すように、前方ノズル3の接合面3aには、固定部材6の爪部6cが係止する係止用切欠き部3bが設けられている。
この構成により、固定部材6は、前方ノズル3と後方ノズル4の接合面3a,4bの間で一端部6aを中心として揺動可能でありながらも、前方ノズル3の接合面3aへ向けて付勢される。それにより固定部材6の爪部6cが前方ノズル3の係止用切欠き部3bと噛み合い、後方ノズル4の回転力Zを前方ノズル3へ伝達できるようになっている。
【0026】
ねじりバネ6dには、本体1が所定の回転速度になったときに固定部材6に生じる遠心力Wより、付勢の強さがわずかに小さいコイルスプリングが用いられる。言い換えると、推進装置10は、本体1の回転が所定の回転速度にまで高まったときに、遠心力Wを利用して自動的に固定部材6が解除されるように構成されている。解除は、本体1の回転速度又は遠心力Wが一定以上に至ったときに行われる。これにより、固定部材6は、機軸Xを中心とする遠心力Wによって、前方ノズル3と後方ノズル4との連結を解除する。
【0027】
図3は、固定部材6の説明図である。
図3(A)~(C)は、
図2(A)のK-K断面図であり、
図3(D)~(F)は、
図2(A)のL部分の拡大図である。
図3(A)と(D)、
図3(B)と(E)、
図3(C)と(F)が同じ時刻を表しており、この順で時間が経過している。
図3(A)、
図3(D)は、所定の回転速度にまで本体1の回転が至っていない時点を表している。この時点の固定部材6にかかる遠心力Wは、ねじりバネ6dの付勢力Yより弱い。そのため、固定部材6の爪部6cが前方ノズル3の係止用切欠き部3bにしっかりと係止し、後方ノズル4の回転力Zを前方ノズル3に伝達する。これにより、本体1は機軸回りに回転し、その回転が加速する。
【0028】
本体1の回転が所定の回転速度に至ると、その回転によって固定部材6の爪部6cに生じる遠心力Wが、ねじりバネ6dの付勢力Yを上回る。それにより固定部材6は、
図3(B)、
図3(E)に示すように、その一端部6aを中心として外側へ向けて回動し、固定部材6の爪部6cが前方ノズル3の係止用切欠き部3bから外れる。以下に、このときの爪部6cの位置を退避位置と呼ぶ。これにより、後方ノズル4の回転力Zが前方ノズル3と本体1に伝達しなくなる。
【0029】
前方ノズル3と後方ノズル4は、ベアリング7によって自由回転可能に結合されている。この時点の推進装置10が真空の無重力空間もしくは微小重力空間に在る場合、前方ノズル3と後方ノズル4の連結が解除されても、解除時の回転速度で前方ノズル3が回転し続ける。後方ノズル4は、
図3(C)、
図3(F)に示すように、ノズル2から燃焼ガスが噴射されている間はますます回転を加速する。これにより固定部材6の爪部6cにかかる遠心力Wはますます増加し、爪部6cが退避位置に位置し続け、前方ノズル3と後方ノズル4の固定部材6による連結が解除され続ける。
【0030】
この構成により、推進装置10にスピンモータを搭載しなくても、本体1の回転速度を所定の必要速度に維持することができる。つまり、固定部材6が解除される回転速度の時点の遠心力Wに合わせてねじりバネ6dの付勢力Yを調整することで、制御装置による解除機構を使用しなくても、任意の回転速度を、飛翔体8に与えることができる。
【0031】
また、固定部材6の連結が解除されても、ベアリング7を介して前方ノズル3と後方ノズル4を結合し続けるので、ノズル全体の長さは変わらない。それにより、固定部材6の解除によって、推進装置10の性能を変化させずに、回転速度の加速のみを変化させることができる。
その上、例えば空気や重力がある場所で本実施形態の推進装置10を使用する場合には、燃焼ガスの放出を止め、後方ノズル4の回転を減速させることにより、再度、ねじりバネ6dの付勢力Yによって前方ノズル3と後方ノズル4とを連結させることもできる。
【0032】
なお、本実施形態の固定部材6は、上述の構成に限らない。例えば、上述した例では、後方ノズル4の接合面4bが前方ノズル3の接合面3aの外側に位置しているから、固定部材6の一端部6aを後方ノズル4の接合面4bに固定している。後方ノズル4の接合面4bが前方ノズル3の接合面3aの内側に位置している場合には、外側に位置する前方ノズル3の接合面3aに固定部材6の一端部6aを固定し、爪部6cが係止する係止用切欠き部は、後方ノズル4の接合面4bに設けられる。
【0033】
また、接合面3a,4bの形状は、
図2(A)と
図3に例示した機軸Xに平行な円筒面に限らない。接合面3a,4bの形状は、固定部材6が機軸Xに対して内側から外側へ向けて揺動できるのであれば、その他の形状であってもよい。例えば、接合面3a,4bの形状は、ノズル2の内面に垂直な円筒面であってもよい。
その他の本実施形態の推進装置10の構成と効果は、第1実施形態と同様である。
【0034】
(第3実施形態)
図4は、第3実施形態の推進装置10の説明図である。
図4(A)は、回転を加速している時の推進装置10の部分断面図である。
図4(B)は、固定部材6が前方ノズル3と後方ノズル4の連結を解除した後の推進装置10の部分断面図である。
本実施形態のノズル2も、機軸方向における前後に分割されている。本実施形態のノズル2には、第2実施形態のようなベアリング7が無く、固定部材6によってのみ前方ノズル3と後方ノズル4を連結している。
【0035】
本実施形態の固定部材6も、第2実施形態と同様に、前方ノズル3と後方ノズル4の間で回転力を伝達する連結を、機軸Xを中心とする遠心力Wによって解除する遠心クラッチであることが好ましい。しかし本実施形態の固定部材6は、それに限らず、本体1が所定の回転速度を得たときに火工品等によって前方ノズル3と後方ノズル4の連結を解除するものであってもよい。
【0036】
本実施形態の推進装置10は、この構成により、本体1が所定の回転速度に至った時点で後方ノズル4を自動的に切り離すので、真空無重力の環境下において、切り離した後の本体1の回転速度を一定に保つことができる。
その他の本実施形態の推進装置10の構成と効果は、第2実施形態と同様である。
【0037】
上述した本発明によれば、燃焼ガスの風圧を受けて推進装置10の本体1の機軸回りの回転力Zを発生させる翼5を、ノズル2の内壁4aに備えるので、飛翔体8が推進するためにノズル2から排出する燃焼ガスを利用して、飛翔体8の機体に回転力Zを付与することができる。それにより、スピンモータを搭載する必要が無く、スピンモータを搭載しない分、飛翔体8の軽量化を図ることができる。
【0038】
なお本発明は上述した実施の形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変更を加え得ることは勿論である。上述した第1実施形態~第3実施形態では推進装置10が固体ロケットである場合を例として説明したが、推進装置10が液体ロケット、ラムジェットエンジン、ハイブリッドロケット、電気エネルギーロケット等である場合も同様である。
【符号の説明】
【0039】
1 本体、2 ノズル、3 前方ノズル、3a 接合面、3b 係止用切欠き部、
4 後方ノズル、4a 内壁、4b 接合面、5 翼、5a 翼面、
6 固定部材、6a 一端部、6b 他端部、6c 爪部、6d ねじりバネ、
7 ベアリング、8 飛翔体、10 推進装置、
W 遠心力、X 機軸、Y 付勢力、Z 回転力、θ 斜角