(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-18
(45)【発行日】2023-10-26
(54)【発明の名称】セラミックス回路基板
(51)【国際特許分類】
H05K 1/09 20060101AFI20231019BHJP
H01L 23/12 20060101ALI20231019BHJP
H01L 23/36 20060101ALI20231019BHJP
H05K 1/03 20060101ALI20231019BHJP
H01B 5/14 20060101ALI20231019BHJP
H01B 3/12 20060101ALI20231019BHJP
【FI】
H05K1/09 A
H01L23/12 J
H01L23/36 D
H05K1/09 C
H05K1/03 610E
H01B5/14 B
H01B3/12 336
H01B3/12 337
(21)【出願番号】P 2017151892
(22)【出願日】2017-08-04
【審査請求日】2020-07-20
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100185591
【氏名又は名称】中塚 岳
(74)【代理人】
【識別番号】100189452
【氏名又は名称】吉住 和之
(72)【発明者】
【氏名】酒井 篤士
(72)【発明者】
【氏名】広津留 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】市川 恒希
(72)【発明者】
【氏名】谷口 佳孝
【審査官】黒田 久美子
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-018190(JP,A)
【文献】特開2016-174165(JP,A)
【文献】特開2014-101248(JP,A)
【文献】特開2007-096032(JP,A)
【文献】特開2011-029323(JP,A)
【文献】国際公開第2017/082368(WO,A1)
【文献】特開2006-319146(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 1/09
H01L 23/12
H01L 23/36
H05K 1/03
H01B 5/14
H01B 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックス基材と、前記セラミックス基材の両面のそれぞれに設けられ、Al及び/又はCuを含む少なくとも一層の金属層と、を備え、
前記金属層のうちの少なくとも一方が金属回路を形成しており、
前記金属層が第一金属層及び第二金属層を有し、前記セラミックス基材、前記第一金属層及び前記第二金属層がこの順で積層されており、
前記第一金属層が溶射法により形成されており、
前記セラミックス基材の両面のそれぞれに設けられた前記金属層の両方において、前記金属層の最外層である前記第二金属層の超微小負荷硬さが
90以上であり、前記最外層である前記第二金属層には40MPa以下の引張応力が残留している、セラミックス回路基板。
【請求項2】
前記セラミックス基材が、AlN、Si
3N
4又はAl
2O
3で形成されている、請求項1に記載のセラミックス回路基板。
【請求項3】
前記セラミックス基材の厚みが0.2~1.5mmである、請求項1又は2に記載のセラミックス回路基板。
【請求項4】
前記第一金属層が、Cu、Al、Cu及びMoを含む合金、並びにCu及びWを含む合金からなる群より選ばれる少なくとも1種で形成されている、請求項1~3のいずれか一項に記載のセラミックス回路基板。
【請求項5】
前記金属層の厚みが0.1~2.0mmである、請求項1~4のいずれか一項に記載のセラミックス回路基板。
【請求項6】
前記第二金属層がCuを含む、請求項1~5のいずれか一項に記載のセラミックス回路基板。
【請求項7】
前記第一金属層の端面と前記第二金属層の端面とが面一である、又は、前記第一金属層の端面が前記第二金属層の端面よりも外側にはみ出ている、請求項1~6のいずれか一項に記載のセラミックス回路基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックス回路基板に関し、特にパワーモジュール等の大電力電子部品の実装に好適なセラミックス回路基板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ロボット、モーター等の産業機器の高性能化に伴い、インバータの大電流化及び高効率化が求められている。このような状況の下、インバータに使用されるパワーモジュールにおいて、半導体素子から発生する熱も増加の一途をたどっている。半導体素子から発生する熱を効率的に拡散させるため、良好な熱伝導性を有するセラミックス回路基板が用いられている。
【0003】
パワーモジュールは、一般に、セラミックス回路基板と、セラミックス回路基板の一方の面上に設けられた半導体素子と、セラミックス回路基板の他方の面上に半田付け等により設けられ、熱伝導性に優れるCu、Cu-Mo、Cu-C、Al、Al-SiC、Sl-C等からなるベース板と、ベース板のセラミックス回路基板とは反対側の面上にねじ止め等により設けられた放熱フィンと、を備える。
【0004】
しかし、ベース板及びセラミックス回路基板の半田付けは加熱により行われることから、ベース板とセラミックス回路基板との熱膨張係数の差により、ベース板に反りが生じやすいといった問題点があった。
【0005】
パワーモジュールの動作時に半導体素子等から発生した熱は、セラミックス回路基板、半田、及びベース板を介して放熱フィンに伝達される。そのため、ベース板に反りが生じると、放熱フィンをベース板に取り付けたときに反りによる空隙(エアギャップ)が生じてしまい、放熱性が極端に低下してしまう。
【0006】
こうした反りの問題を改善するため、例えば、セラミックス基材の両面に接合された金属層を有するセラミックス基板において、硬度、種類、厚さ等の異なる金属層をそれぞれ金属回路板及び放熱板として用いて、セラミックス基材の一方及び他方の面上に接合することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
また、パワーモジュールを製造する際に、溶融した状態のベース板と、セラミックス回路基板とを接触させることにより、ベース板とセラミックス回路基板とを接合することが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2004-207587号公報
【文献】特開2002-76551号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
セラミックス回路基板は、信頼性の観点から、パワーモジュール製造においてベース板に接合する際にベース板の反りを抑制できるのみならず、実使用において繰り返し行われる発熱及び冷却によってもセラミックス基材及び金属層の高い密着性を維持できることが望ましい。しかし、従来のセラミックス回路基板及びパワーモジュールは、上述した信頼性の観点から、未だ改善の余地がある。
【0010】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであって、ベース板に接合する際にベース板の反りを抑制できるのみならず、繰り返し行われる発熱及び冷却によってもセラミックス基材及び金属層の高い密着性を維持できるセラミックス回路基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、セラミックス基材と、セラミックス基材の両面のそれぞれに設けられ、Al及び/又はCuを含む少なくとも一層の金属層と、を備え、金属層のうちの少なくとも一方が金属回路を形成しており、金属層の最外層の超微小負荷硬さが70以上である、セラミックス回路基板を提供する。
【0012】
最外層は、圧縮応力又は40MPa以下の引張応力が残留していてもよい。
【0013】
セラミックス基材は、AlN、Si3N4又はAl2O3で形成されていてもよく、厚みが0.2~1.5mmであってもよい。
【0014】
金属層は、Cu、Al、Cu及びMoを含む合金、並びにCu及びWを含む合金からなる群より選ばれる少なくとも1種で形成されていてもよく、厚みが0.1~2.0mmであってもよい。
【0015】
金属層は、第一金属層及び第二金属層を有し、セラミックス基材、第一金属層及び第二金属層がこの順で積層されていてもよい。この場合、第二金属層はCuを含んでいてもよい。また、第一金属層の端面と第二金属層の端面とは面一であってもよく、第一金属層の端面が第二金属層の端面よりも外側にはみ出ていてもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ベース板に接合する際にベース板の反りを抑制できるのみならず、繰り返し行われる発熱及び冷却によってもセラミックス基材及び金属層の高い密着性を維持できるセラミックス回路基板を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】セラミックス回路基板の一実施形態を示す断面図である。
【
図2】セラミックス回路基板の一実施形態を示す断面図である。
【
図3】セラミックス回路基板の一実施形態を示す断面図である。
【
図4】パワーモジュールの一実施形態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明のいくつかの実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0019】
図1は、セラミックス回路基板の一実施形態を示す断面図である。
図1に示すように、セラミックス回路基板100は、セラミックス基材1と、セラミックス基材1の両面に設けられた金属層2a,2bとを有する。金属層2a,2bのうちの少なくとも一方は、電気回路(金属回路)を形成している。
図1に示すように、金属層2a,2bは、それぞれ、単一の金属層21a,21bからなっていてもよい。
【0020】
金属層2a,2bは、Al及び/又はCuを含むが、Al及び/又はCuを主成分として含むことが好ましい。ここで、「主成分」とは、金属層2a,2bの全体質量を基準として、70質量%以上含まれる成分を意味する。金属層がAl及びCuの両方を含む場合、それらの合計量が70質量%以上であればよい。主成分の割合は、90質量%以上であってもよく、95質量%以上であってもよい。また金属層は、微量の不可避的不純物を含んでいてもよい。
【0021】
本実施形態に係るセラミックス回路基板100において、金属層2a,2bの最外層の超微小負荷硬さは70以上である。なお、金属層2a,2bの最外層とは、金属層2a,2bがそれぞれ単一の金属層21a,21bで構成されている場合には当該単一の金属層を指し、金属層2a,2bがそれぞれ二層以上で構成されている場合には、二層以上のうち最も外側(セラミックス基材1から最も遠い)層を指す。
【0022】
このような特徴を有するセラミックス回路基板が、ベース板に接合する際にベース板の反りを抑制できるのみならず、繰り返し行われる発熱及び冷却(ヒートサイクル)によってもセラミックス基材及び金属層の高い密着性を維持できる理由を、本発明者等は以下のように考えている。
【0023】
まず、本発明者等の検討によれば、パワーモジュール製造時におけるベース板の反りの発生、並びにヒートサイクルによるセラミックス基材及び金属層の剥離やセラミックス基材におけるクラックの発生は、セラミックス回路基板を構成するセラミックス基材及び金属層の線熱膨張係数の差が原因であることが判明している。一般に、セラミックス基材の線熱膨張係数に比べ金属層の線熱膨張係数の方が大きい。そのため、セラミックス基材と金属層とを接合する温度から室温に戻す場合やヒートサイクルにより、金属層に引張応力が残留する。この引張応力の残留(残留応力)によって、上述したような不具合が発生すると考えられる。
【0024】
本発明者等は、上記残留応力を低減するため、セラミックス回路基板の金属層の最外層の超微小負荷硬さに着目した。金属の硬さを測定する方法としては、押込み硬さ試験法が用いられる。この方法は、一定荷重を加えてできる圧痕(くぼみ)の面積又は深さから硬さを評価する方法である。この評価方法においては、金属に引張応力が残留していた場合、圧痕は引張応力により広げられるため、測定値は小さくなる。一方、金属に圧縮応力が残留していた場合、圧痕は圧縮応力により妨げられ、測定値は大きくなる。本発明に係るセラミックス回路基板は、得られるセラミックス回路基板における金属層の最外層の硬さの測定値を大きくしたことで、セラミックス回路基板における引張応力の残留(残留応力)を低減できた、と本発明者等は考えている。
【0025】
本明細書において、セラミックス回路基板の金属層の最外層の超微小負荷硬さとは、稜間角度が115°の三角錐圧子を用いた超微小硬度計による測定により、下記の式から「HT115」として算出される値を意味する。
HT115=160.07・P/d2
上記式中、Pは付加した最大荷重(mN)を示し、dは三角錐圧子による圧痕の垂線の長さ(μm)を示す。
【0026】
上述したような観点から、金属層2a,2bの最外層の超微小負荷硬さは、80以上であることが好ましい。超微小負荷硬さの上限値は、特に制限されないが、例えば200以下である。
【0027】
金属層2a,2bの最外層の超微小負荷硬さを上述した数値範囲内とする手法としては、例えば、溶射法(コールドスプレー法)等が考えられる。コールドスプレー法は固相状態の金属粒子を超音速で基材に向けて噴射し、基材上に金属層を形成する技術である。金属粒子が衝突時に塑性変形して堆積していくため、変形による加工硬化により金属層の超微小負荷硬さの値を大きくすることが可能となる。
【0028】
本実施形態に係るセラミックス回路基板100において、金属層2a,2bの最外層の残留応力は、好ましくは、40MPa以下、より好ましくは30MPa以下、更に好ましくは20MPa以下、特に好ましくは10MPa以下である。金属層2a,2bの最外層の残留応力は、実施例に記載のX線回折による測定方法により評価される。
【0029】
金属層2a,2bの最外層の残留応力を低減する手法としては、例えば、セラミックス基材と金属層とを接合する際の温度を小さくし、金属層の残留応力を低減する方法等が有効と考えられる。セラミックス基材と金属層とを接合する方法としては、特に制限されるものではないが、例えば、接着剤を用いて両者を接着させる接着法、活性金属法、溶射法等単独又は複数を組み合わせて用いる方法が挙げられる。接合する際の温度を小さくする観点からは、接着法、溶射法等を用いることが好ましく、熱伝導率の低い接着剤を用いずにパワーモジュールとしての放熱性を十分に確保する観点からは、活性金属法、溶射法等を用いることが好ましい。このような観点から、セラミックス基材の表面に活性金属法等により薄い金属層を形成した後に、所定の厚みの金属を低温で接合する方法や溶射法により金属層を形成する手法が有効である。セラミックス基材と金属層とを接合する方法の詳細については、後述する。
【0030】
このようなセラミックス回路基板100を得るためには、例えば、セラミックス基材1は、AlN、Si3N4又はAl2O3で形成されていることが好ましい。セラミックス基材1の厚みは、0.2~1.5mmであることが好ましく、0.25~1.0mmであることがより好ましい。セラミックス基材1の厚みが0.2mm未満であると耐熱衝撃性が低下し、1.5mmを超えると放熱性が低下する傾向がある。
【0031】
また、金属層2a,2bは、Cu、Al、Cu及びMoを含む合金、並びにCu及びWを含む合金からなる群より選ばれる少なくとも1種で形成されていることが好ましい。金属層2a,2bは、それぞれ同種の材料で形成されていても、異種の材料で形成されていてもよいが、セラミックス回路基板の製造を容易にする観点から、同種の材料で形成されていることが好ましい。
【0032】
金属層2a,2bの厚みは、0.1~2.0mmであることが好ましく、0.2~1.0mmであることがより好ましい。金属層2a,2bの厚みが0.1mm未満であると流せる電流が制限され、2.0mmを超えると耐熱衝撃性が低下する傾向がある。金属層2a,2bの厚みは、それぞれ実質的に同じでも異なっていてもよいが、セラミックス回路基板の製造を容易にする観点から、実質的に同じであることが好ましい。
【0033】
セラミックス回路基板100は、上述したように、セラミックス基材1と金属層2a,2bとを接合することにより得ることができる。セラミックス基材と金属層とを接合する方法としては、接着剤を用いて両者を接着させる接着法、活性金属法、溶射法等を単独で又は複数を組み合わせて用いる方法が挙げられる。
【0034】
接着法は、接着剤を用いて両者を接着させる方法であり、セラミックス基材の両面に、例えばアクリル系接着剤で金属板を接着した後、所望によりエッチング法で回路を形成する方法である。
【0035】
活性金属法は、例えばCuを含む金属層を接合する場合、Ag(90%)-Cu(10%)-TiH2(3.2%)のろう材を用いて、温度800℃でセラミックス基材の両面にCu板を接合した後、所望によりエッチング法で回路を形成する方法が挙げられる。また、Alを含む金属層を接合する場合、Al-Cu-Mgクラッド箔をろう材として用い、温度630℃でセラミックス基材の両面にAl板を接合した後、所望によりエッチング法で回路を形成する方法が挙げられる。
【0036】
溶射法(コールドスプレー法)は、例えば、複数の金属粒子から構成される金属紛体を、10~270℃に加熱するとともに250~1050m/sの速度まで加速してから吹き付けることにより、セラミックス基材上に金属層を形成させる工程と、セラミックス基材及びセラミックス基材上に形成された金属層を不活性ガス雰囲気下で加熱処理する工程とを備える。金属紛体を構成する金属粒子として、Al及び/又はCu粒子を用いることにより、これらを含む金属層が形成される。
【0037】
上述した実施形態では、金属層2a,2bは、それぞれ、単一の金属層21a,21bからなる場合について説明したが、本発明は、上記実施形態に限らず、金属層2a,2bがそれぞれ二層以上の金属層を有していてもよい。
【0038】
図2及び
図3は、セラミックス回路基板の他の一実施形態を示す断面図である。
図2のセラミックス回路基板101及び
図3のセラミックス回路基板102において、金属層2a,2bは、それぞれ、セラミックス基材1上に接する第一金属層22a,22b、及び第一金属層22a,22b上に形成された第二金属層23a,23bから構成される。なお、
図2に示すセラミックス回路基板101においては、第一金属層22a,22bの端面22Eと第二金属層23a,23bの端面23Eとが面一になっているが、セラミックス回路基板がより優れた耐熱衝撃性を有する観点から、
図3に示すセラミックス回路基板102のように、第一金属層22a,22bの端面22Eが、第二金属層23a,23bの端面23Eよりも外側、すなわちセラミックス基材1の端部側にはみ出していてもよい。端面22Eが、端面23Eよりもはみ出している部分の幅は、例えば1~1000μmであってもよい。
【0039】
以上説明したセラミックス回路基板は、パワーモジュールにおいて好適に用いられ、ベース板と接合する際に生じるベース板の反りを抑制できるのみならず、繰り返し行われる発熱及び冷却によってもセラミックス基材及び金属層の高い密着性を維持することができる。
【0040】
ベース板に接合する際に生じるベース板の反りとは、ベース板にセラミックス回路基板を接合した際の、ベース板自体の初期形状(初期反り量)からの変形量(反り変化量)として測定される。また、ベース板の反り量とは、ベース板の任意の位置において、放熱面方向の長さ10cmあたりの反りの大きさを意味する。ベース板の反り変化量は、セラミックス回路基板に接合するものとしては、好ましくは20μm以下、より好ましくは15μm以下、更に好ましくは10μm以下である。当該反り変化量は、セラミックス回路基板に接合する前のベース板の反り量と、セラミックス回路基板に接合した後のベース板の反り量との差の絶対値として定義される。
【0041】
図4は、パワーモジュールの一実施形態を示す断面図である。
図4に示すように、パワーモジュール200は、ベース板3と、ベース板3上に第1の半田4を介して接合されたセラミックス回路基板103と、セラミックス回路基板103上に第2の半田5を介して接合された半導体素子6とを備えている。
【0042】
セラミックス回路基板103は、セラミックス基材1と、セラミックス基材1の両面に設けられた金属層2a,2bとを備えている。ベース板3は、第1の半田4を介して金属層2bに接合されている。半導体素子6は、第2の半田5を介して金属層2aの所定の部分に接合されているとともに、アルミワイヤ(アルミ線)等の金属ワイヤ7で金属層2aの所定の部分に接合されている。なお、
図4に示すパワーモジュールにおいて、金属層2aは、電気回路(金属回路)を形成している。金属層2bは、金属回路を形成していてもしていなくともよい。
【0043】
ベース板3上に設けられた上記の各構成要素は、例えば一面が開口した中空箱状の樹脂製の筐体8で蓋され、筐体8内に収容されている。ベース板3と筐体8との間の中空部分には、シリコーンゲル等の充填材9が充填されている。金属層2aの所定部分には、筐体8の外部と電気的な接続が可能なように、筐体8を貫通する電極10が第3の半田11を介して接合されている。
【0044】
ベース板2の縁部には、パワーモジュール200に例えば放熱部品を取り付ける際のネジ止め用の取付け穴3aが形成されている。取付け穴3aの数は、例えば4個以上である。ベース板3の縁部には、取付け穴3aに代えて、ベース板3の側壁が断面U字状となるような取付け溝が形成されていてもよい。
【0045】
パワーモジュール200は、上述した本実施形態に係るセラミックス回路基板を備えるため、高耐圧、高出力等が要望される電車又は自動車の駆動インバータとして好適に用いられる。
【実施例】
【0046】
以下、実施例を挙げて本発明について更に具体的に説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0047】
[実施例1]
セラミックス基材として、窒化アルミニウム(AlN)基材(サイズ:50mm×60mm×0.635mmt)を用いた。Al-Cu-Mgクラッド箔をろう材として用い、セラミックス基材の両面に温度630℃にてAl板(厚み0.2mm)を接合し、エッチングによりAl回路を形成した。続いて、溶射法(コールドスプレー法)で厚み0.4mmのCu回路を積層し、温度300℃でアニール処理を行った後、無電解Niめっきを施し、セラミックス回路基板を作製した。
【0048】
[実施例2]
実施例1と同様のセラミックス基材の両面に溶射法(コールドスプレー法)で厚み0.2mmのAl回路を積層し、温度500℃でアニール処理を行った。続いて、溶射法(コールドスプレー法)で厚み0.4mmのCu回路を積層し、温度300℃でアニール処理を行った後、無電解Niめっきを施し、セラミックス回路基板を作製した。
【0049】
[実施例3]
セラミックス基材として、窒化珪素(Si3N4)基材(サイズ:50mm×60mm×0.32mmt)を用いた。Ag-Cu-TiH2ろう材を用い、セラミックス基材の両面に温度800℃にてCu板(厚み0.1mm)を接合し、エッチングによりCu回路を形成した。続いて、溶射法(コールドスプレー法)で厚み0.9mmのCu回路を積層し、温度300℃でアニール処理を行った後、無電解Niめっきを施し、セラミックス回路基板を作製した。
【0050】
[比較例1]
Ag-Cu-TiH2ろう材を用い、実施例1と同様のセラミックス基材の両面に温度800℃にてCu板(厚み0.3mm)を接合し、エッチングによりCu回路を形成した後、無電解Niめっきを施し、セラミックス回路基板を作製した。
【0051】
[比較例2]
セラミックス基材として、窒化アルミニウム(AlN)基材(サイズ:50mm×60mm×1.0mmt)を用いた以外は、比較例1と同様の操作を行い、セラミックス回路基板を作製した。
【0052】
[比較例3]
セラミックス基材として、窒化珪素(Si3N4)基材(サイズ:50mm×60mm×0.635mmt)を用いた以外は、比較例1と同様の操作を行い、セラミックス回路基板を作製した。
【0053】
[比較例4]
セラミックス基材として、窒化珪素(Si3N4)基材(サイズ:50mm×60mm×0.32mmt)を用いた以外は、比較例1と同様の操作を行い、セラミックス回路基板を作製した。
【0054】
[比較例5]
Cu板(厚み1.0mm)を用いた以外は、比較例4と同様の操作を行い、セラミックス回路基板を作製した。
【0055】
[比較例6]
Al-Cu-Mgクラッド箔をろう材として用い、実施例1と同様のセラミックス基材の両面に温度630℃にてAl板(厚み0.4mm)を接合し、エッチングによりAl回路を形成した後、無電解Niめっきを施してセラミックス回路基板を作製した。
【0056】
各実施例及び比較例のセラミックス回路基板の詳細を表1に示す。
【0057】
【0058】
<金属層の最外層の超微小負荷硬さ(HT115)の測定>
得られたセラミックス回路基板を、4×20mmのサイズに切り出し、エポキシ樹脂で包埋後、試料の切断面を自動研磨装置にて研磨したものを測定試料とした。
超微小硬度計(株式会社島津製作所製、商品名「DUH-211」)を用いて、負荷速度を70.067mN/秒、試験力を500mN、負荷保持時間を10秒として、負荷-除荷試験を行い、超微小負荷硬さを測定した。結果を表2に示す。
【0059】
<残留応力の測定>
各セラミックス回路基板の金属層の最外層における残留応力は、X線回折法を用いて金属層の中央部のX線回折パターンを測定し、その結果に基づき評価した。応力評価にはsin2ψ法(並傾法、ψ一定法)を用い、銅の331回折線を解析した。具体的には、多目的試料アタッチメントを取り付けたX線回折装置(リガク社製;Ultima IV型)の試料板にセラミックス絶縁基板を貼り付け、以下の測定条件で測定した。
・X線源:CuKα線(多層膜ミラーを使用した平行ビーム光学系)
・X線管の電圧および電流:40kVおよび40mA
・X線入射側スリット:発散スリットは1mm、縦制限スリットは10mm
・X線受光側スリット:散乱スリットおよび受光スリットは開放。平行スリットアナライザーは開口角度0.5°
・垂直発散制限ソーラースリット:X線入射側、受光側ともに開口角度5°
・検出器:シンチレーションカウンター
・測定範囲(2θ):134°~139.5°
・測定ステップ幅:0.02°
・計数時間:測定ステップあたり5秒
・試料面法線と回折面法線のなす角ψ:sin2ψが0、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5となるように設定。なお、測定精度を上げる目的で±5°以内で搖動をかけることもある。
【0060】
残留応力σの算出には、下記式を用いた。下記式において、Eはヤング率であり、νはポアソン比であり、θ
0は試料が無ひずみ状態のときの回折線角度である。金属層の最外層が銅である場合、残留応力σの算出にあたって、E=127200MPa、ν=0.364、2θ
0=136.882°とした。金属層の最外層がアルミニウムである場合、残留応力σの算出にあたって、E=68900MPa、ν=0.345、2θ
0=137.451°とした。Δ(2θ)/Δ(sin
2ψ)は2θ-sin
2ψプロットを直線近似して算出した。結果を表2に示す。なお、残留応力の符号がマイナスである場合は圧縮応力を、プラスである場合は引張応力をそれぞれ意味する。
【数1】
【0061】
<半田接合後のベース板の反り変化量の測定>
Al-SiC(65%)材をサイズが140×190×5mmとなるように加工した後、無電解Niめっきを施したベース板を用い、上記実施例及び比較例で得られたセラミックス回路基板とベース板を、共晶半田にて接合して測定用サンプルとした。
測定用サンプルにおけるベース板の放熱面の形状を3次元輪郭測定装置(株式会社東京精密製、商品名「コンターレコード1600D-22」)を用いて測定することで、長さ10cmに対するベース板の反り変化量を測定した。結果を表2に示す。
【0062】
各セラミックス回路基板の評価結果を、表2にまとめて示す。
【0063】
【0064】
実施例1~3のサンプルに対し、125℃の環境に30分放置した後に-40℃の環境に30分放置する操作を1サイクルとして、1000サイクルのヒートサイクル試験を実施した。ヒートサイクル試験後においても、実施例1~3のセラミックス回路基板に金属回路の剥離等の異常は確認されず、高い密着性を維持していることが示された。
【符号の説明】
【0065】
1…セラミックス基材、2a,2b…金属層、21a,21b…単一の金属層、22a,22b…第一金属層、22E…第一金属層の端面、23a,23b…第二金属層、23E…第二金属層の端面、100,101,102,103…セラミックス回路基板。