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特許7369525液体貯蔵体および蒸発器として使用するための多孔性焼結体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-18
(45)【発行日】2023-10-26
(54)【発明の名称】液体貯蔵体および蒸発器として使用するための多孔性焼結体
(51)【国際特許分類】
   A24F 40/42 20200101AFI20231019BHJP
   A61M 11/04 20060101ALI20231019BHJP
   A61M 15/06 20060101ALI20231019BHJP
【FI】
A24F40/42
A61M11/04 300A
A61M15/06 A
【請求項の数】 38
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2019003645
(22)【出願日】2019-01-11
(65)【公開番号】P2019122372
(43)【公開日】2019-07-25
【審査請求日】2021-10-25
(31)【優先権主張番号】10 2018 100 749.3
(32)【優先日】2018-01-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】504299782
【氏名又は名称】ショット アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】SCHOTT AG
【住所又は居所原語表記】Hattenbergstr. 10, 55122 Mainz, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ダン クォン ファン
(72)【発明者】
【氏名】マティアス リント
【審査官】土屋 正志
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0135505(US,A1)
【文献】国際公開第2017/149287(WO,A1)
【文献】特表2015-527884(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A24F 47/00
A61M 11/04
A61M 15/06
A24F 40/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラスまたはガラスセラミックスから成る焼結体(7)を含む液体貯蔵体であって、
前記焼結体(7)は、10~90%の範囲内の開放気孔率を有し、
前記焼結体(7)は、第1の通路(8)と第2の通路(9)とを有する少なくとも2つの通路(8,9)を備えた成形体を成しており、
前記第2の通路(9)が、孔またはスリットとして形成されており、
前記第2の通路(9)は、該第2の通路(9)の長手軸に沿って前記焼結体(7)の材料によって完全にまたは部分的に取り囲まれ、
前記第1の通路(8)が、孔として形成されており、
前記第1の通路(8)は、該第1の通路(8)の長手軸に沿って前記焼結体(7)の材料により完全に取り囲まれている、
液体貯蔵体。
【請求項2】
少なくとも1つの前記通路(8,9)が円形または楕円形または多角形の孔として形成されている、
請求項1記載の液体貯蔵体。
【請求項3】
前記成形体は長さlを有し、少なくとも1つの前記通路(8,9)は前記成形体の長さl全体にわたり延在している、
請求項1記載の液体貯蔵体。
【請求項4】
前記焼結体(7)は、長さlの円筒体として形成されており、少なくとも1つの前記通路(8,9)は、前記円筒体の長さlに対し実質的に平行に延在している、
請求項1から3までのいずれか1項記載の液体貯蔵体。
【請求項5】
前記第1の通路(8)は、前記円筒体の中央に位置している、
請求項4記載の液体貯蔵体。
【請求項6】
前記焼結体(7)は直方体として形成されており、少なくとも1つの前記通路(8,9)は1つの辺に対し平行に延在している、
請求項1または2記載の液体貯蔵体。
【請求項7】
前記焼結体(7)は、少なくとも2つの前記第2の通路(9)を有し、該第2の通路(9)は、前記第1の通路(8)の位置に対し対称に配置されている、
請求項1から6までのいずれか1項記載の液体貯蔵体。
【請求項8】
前記第2の通路(9)は、孔として形成されており、
前記第2の通路(9)は、前記第2の通路(9)の長手軸に沿って前記焼結体(7)の材料によって完全に取り囲まれている、
請求項5または6記載の液体貯蔵体。
【請求項9】
前記第2の通路(9)は、孔として形成されており、
前記第2の通路(9)は、該第2の通路(9)が開放された長手方向側面を有するように、前記第2の通路(9)の長手軸に沿って前記焼結体(7)の材料によって一部分だけ取り囲まれている、
請求項5または6記載の液体貯蔵体。
【請求項10】
前記第2の通路(9)はV字型の断面を有し、前記第2の通路(9)の2つの側面は前記焼結体(7)の材料によって形成され、かつ/または当該液体貯蔵体は星形の形状を有する、
請求項9記載の液体貯蔵体。
【請求項11】
前記第2の通路(9)はV字型の断面を有し、前記第2の通路(9)の2つの側面は前記焼結体(7)の材料によって形成され、
前記焼結体(7)の材料により形成された材料の中央線間の角度xは、180°以下の範囲にあり、かつ/または15°~90°の範囲内にある、
請求項9または10記載の液体貯蔵体。
【請求項12】
前記焼結体(7)は、50~80%の範囲内の開放気孔率である、
請求項1から11までのいずれか1項記載の液体貯蔵体。
【請求項13】
前記焼結体(7)の気孔は、1~5000μmの範囲内のサイズを有する、
請求項1から12までのいずれか1項記載の液体貯蔵体。
【請求項14】
電子たばこ、および/または医薬品の投与器具、および/または熱により加熱される香料用エバポレータにおいて使用するための、熱間用途の蒸発器(1)であって、
液体貯蔵体としてのガラスまたはガラスセラミックスから成る焼結体(7)と、
加熱素子(26)と、
を含み、
前記焼結体(7)は、10~90%の範囲内の開放気孔率を有し、
前記焼結体(7)は、第1の通路(8)と第2の通路(9)とを有する少なくとも2つの通路(8,9)を備えた成形体を成しており、
前記第2の通路(9)は、孔またはスリットとして形成されており、
前記第2の通路(9)は、前記第2の通路(9)の長手軸に沿って前記焼結体(7)の材料によって完全にまたは部分的に取り囲まれており、
前記第1の通路(8)孔として形成されており、
前記第1の通路(8)は、該第1の通路(8)の長手軸に沿って前記焼結体(7)の材料により完全に取り囲まれている、
熱間用途の蒸発器(1)。
【請求項15】
前記加熱素子(26)は、前記焼結体(7)の表面に直接、あるいは該焼結体(7)の一部分または表面に配置されている、
請求項14記載の蒸発器(1)。
【請求項16】
前記加熱素子(26)は、金属シート、金属ワイヤまたは導電性コーティングの形態で前記焼結体(7)に配置されている、
請求項15記載の蒸発器(1)。
【請求項17】
前記加熱素子(26)は導電性コーティングの形態で設けられており、
該導電性コーティングは、開放気孔により形成される前記焼結体(7)の表面と結合されており、
前記導電性コーティングは、当該蒸発器(1)の加熱装置の構成部分であり、
前記導電性コーティングは、前記焼結体(7)の表面に堆積されて、該焼結体(7)の表面と結合されており、
前記導電性コーティングは、前記焼結体(7)の内部に位置する気孔をライニングしていて、前記焼結体(7)の電気的接触および電流の印加によって、該電流が少なくとも部分的に前記焼結体(7)の内部を流れ、該焼結体(7)の内部を加熱する、
請求項14記載の蒸発器(1)。
【請求項18】
前記焼結体(7)は、長さlの円筒体として形成されており、前記少なくとも2つの通路(8,9)は、該円筒体の長さlに対し平行に延在している、
請求項16記載の蒸発器(1)。
【請求項19】
前記第1の通路(8)は前記円筒体の中心点を成しており、かつ/または前記第2の通路(9)は、前記第1の通路(8)に対し対称に配置されている、
請求項18記載の蒸発器(1)。
【請求項20】
前記第2の通路(9)は、孔として形成されており、
前記第2の通路(9)は、前記第2の通路(9)の長手軸に沿って前記焼結体(7)の材料によって完全に取り囲まれている、
請求項18または19記載の蒸発器(1)。
【請求項21】
前記導電性コーティングは、開放気孔により形成される前記焼結体(7)の表面と結合されており、
前記導電性コーティングは、当該蒸発器(1)の加熱装置の構成部分であり、
前記導電性コーティングは、前記焼結体(7)の表面に堆積されて、該焼結体(7)の表面と結合されており、
前記導電性コーティングは、前記焼結体(7)の内部に位置する気孔をライニングしていて、前記焼結体(7)の電気的接触および電流の印加によって、該電流が少なくとも部分的に前記焼結体(7)の内部を流れ、該焼結体(7)の内部を加熱し、
前記電気的接触は、前記第1の通路(8)により形成される表面が前記加熱素子(26)の一方の電極を成すように、かつ前記円筒体の外周面が前記加熱素子(26)の他方の電極を成すように、行われる、
請求項19または20記載の蒸発器(1)。
【請求項22】
前記焼結体(7)は、少なくとも2つの前記第2の通路(9)を備えており、かつ/または前記第2の通路(9)は、円形または楕円形の断面を有する、
請求項21記載の蒸発器(1)。
【請求項23】
前記焼結体(7)は、前記第1の通路(8)および前記第2の通路(9)に加えて、少なくとも1つの第3の通路(13)を備えており、
該第3の通路(13)は、前記第3の通路(13)の長手軸に沿って前記焼結体(7)の材料により完全に取り囲まれ、前記円筒体の中を横切って延在しており、前記第2の通路(9)および前記第3の通路(13)は、前記液体貯蔵体に至る液体用流入開口部として用いられる、
請求項21または22記載の蒸発器(1)。
【請求項24】
前記第3の通路(13)は、孔として形成されており、
前記第3の通路(13)は、前記第1の通路(8)よりも小さい直径を有する、
請求項23記載の蒸発器(1)。
【請求項25】
前記第2の通路(9)は、該第2の通路(9)が開放された側面を有するように、前記第2の通路(9)の長手軸に沿って前記焼結体(7)の材料によって一部分だけ取り囲まれている、
請求項21から24までのいずれか1項記載の蒸発器(1)。
【請求項26】
前記第2の通路(9)は、三角形の断面を有し、前記第2の通路(9)の2つの側面は前記焼結体(7)の材料によって形成され、前記焼結体(7)の材料により形成された材料の中央線間の角度xは、180°以下の範囲にあり、かつ/または15°~90°の範囲内にあり、かつ/または当該蒸発器(1)は星形の形状を有する、
請求項25記載の蒸発器(1)。
【請求項27】
前記焼結体(7)は星形であり、
それぞれ2つの前記第2の通路(9)により1つの星形翼部が形成され、
前記第2の通路(9)により形成される星形翼部の切断面が前記第1の通路(8)から隔たるにつれて減少するように、前記第2の通路(9)の形状が形成されている、
請求項25記載の蒸発器(1)。
【請求項28】
前記蒸発器(1)は電気的接触部を有する、
請求項21から27までのいずれか1項記載の蒸発器(1)。
【請求項29】
前記焼結体(7)は円筒体の形状で設けられており、前記電気的接触部は該円筒体の端面に取り付けられている、
請求項28記載の蒸発器(1)。
【請求項30】
前記焼結体(7)は直方体状に形成されており、
前記少なくとも2つの通路(8,9)は、該直方体の辺のうちの1つに対し平行に延在しており、
前記少なくとも2つの通路(8,9)は、孔として形成されており、
前記少なくとも2つの通路(8,9)は、前記少なくとも2つの通路(8,9)の長手軸に沿って前記焼結体(7)の材料により完全に取り囲まれる、
請求項14記載の蒸発器(1)。
【請求項31】
前記少なくとも2つの通路(8,9)に対し平行に延在する前記直方体の2つの対向する側面は、電極として用いられる、
請求項30記載の蒸発器(1)。
【請求項32】
前記直方体の2つの対向する側面は、一方の電極として用いられ、他方の電極は、前記焼結体(7)の内部に位置している、
請求項31記載の蒸発器(1)。
【請求項33】
前記焼結体(7)は、直方体または円筒体として形成されており、
前記少なくとも2つの通路(8,9)は、孔として形成されており、
前記少なくとも2つの通路(8,9)は、前記少なくとも2つの通路(8,9)の長手軸に沿って前記焼結体(7)の材料により完全に取り囲まれ、
電圧が印加されたときに前記焼結体(7)内の電流の流れは、前記少なくとも2つの通路(8,9)を有する前記焼結体(7)の領域に局所的に制限されるように、極コンタクトが位置決めされる、
請求項14記載の蒸発器(1)。
【請求項34】
前記焼結体(7)は、前記少なくとも2つの通路(8,9)を含む少なくとも4つの通路を備えており、該少なくとも4つの通路は、前記焼結体(7)において少なくとも2列に配置されており、
前記少なくとも4つの通路の周囲の前記焼結体(7)の領域には電流が貫流し、前記少なくとも4つの通路の列間の領域には電流が流れないように、前記極コンタクトが位置決めされ、
前記焼結体(7)において電流が貫流する領域だけで蒸発が行われる、
請求項33記載の蒸発器(1)。
【請求項35】
当該蒸発器(1)は、少なくとも2つの加熱ゾーンを有し、個々の前記加熱ゾーンは、それぞれ2つの電極により接触接続される、
請求項22から34までのいずれか1項記載の蒸発器(1)。
【請求項36】
電子たばこ(30)、吸入器、あるいは蒸気発生器、スモークマシンまたはフォグマシンにおける請求項14から35までのいずれか1項記載の蒸発器(1)の使用。
【請求項37】
請求項1から13までのいずれか1項記載の液体貯蔵体、または請求項14から35までのいずれか1項記載の蒸発器(1)と、
前記蒸発器(1)を収容するためのケーシング(11)と、
前記焼結体(7)を接続するための電気コンタクトと
を備えた蒸発器ヘッド(22)。
【請求項38】
電子たばこ(30)、吸入器またはフォグマシンにおける請求項1から13までのいずれか1項記載の液体貯蔵体の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全般的には、液体の貯蔵および/または蒸発のための多孔性焼結体に関する。特に本発明は、液体貯蔵体および蒸発器ユニットに関し、もしくは蒸発可能な物質を貯蔵し調整しながら放出するために液体貯蔵体と加熱ユニットとを含む蒸発器に関する。この場合、蒸発器ユニットを特に、電子たばこ、医薬品投与器具、室内加湿器、および/またはたとえば香料または防虫剤といった物質を室内空気中に放出するために加熱可能なエバポレータにおいて使用することができる。同様にこれを、フォグマシンまたはスモークマシンにおいて使用することもできる。
【0002】
以下ではEたばことも称する電子たばこは、たばこの代替としてますます使用されるようになってきている。一般に電子たばこは、マウスピースおよび蒸発器ユニットならびに蒸発器ユニットと接続されて作用する電気エネルギー源を含む。蒸発器ユニットは、加熱素子と接続された液体貯蔵体を備えている。
【0003】
特定の医薬品、特に気道および/または口腔粘膜および/または鼻粘膜の治療、疼痛治療および精神療法、および/または癲癇ならびに免疫不全症候群の治療のための医薬品は、有利には蒸発させられた形態でたとえばエアロゾルとして投与される。本発明による蒸発器を、かかる医薬品の貯蔵および放出のために使用することができ、特にかかる医薬品のための投与器具において使用することができる。
【0004】
香料および/またはいわゆるフォグまたはスモークを周囲環境に与えるために、熱により加熱可能な蒸発器が用いられることが多くなってきている。そのような周囲環境は特に、バー、ホテルのロビー、イベント会場の空間および舞台、たとえば防火のためのトレーニング施設であるかもしれないし、かつ/または車両室内たとえば自動車特に自家用車の室内であるかもしれない。その際に使用される蒸発器ユニットの場合も、液体貯蔵体が加熱素子と接続されている。液体貯蔵体には以下のような液体が含まれており、すなわちこの液体は大抵、たとえばプロピレングリコールおよび/またはグリセリンなどのような担持液であって、この担持液に、香料および芳香物質および/またはニコチンおよび/または医薬品などのような添加物質が、水および/またはアルコールといったそれ相応の溶剤を用いて溶かされており、かつ/または全体的に含まれている。担持液は、吸着プロセスを通して液体貯蔵体の内側表面に結合される。場合によっては、液体貯蔵体に液体を供給する目的で、別個の液体リザーバが設けられている。
【0005】
一般的には、液体貯蔵体内に貯蔵された液体が、加熱素子の加熱によって蒸発させられて、液体貯蔵体の湿らされた表面から脱着させられ、この液体をユーザが吸入することができ、かつ/または室内に供給することができる。この場合、200℃を超える温度に達する可能性がある。
【0006】
したがって液体貯蔵体は、高い吸収能力および高い吸着作用をもたなければならず、ただしこれと同時に液体は高温において迅速に放出されなければならない。
【0007】
従来技術から液体貯蔵体および蒸発器ユニットが公知であり、その液体貯蔵体は多孔性のガラスまたはセラミックスから成る。この液体貯蔵体の温度耐性は比較的高いことから、蒸発器ひいては電子たばこについても、全体的にコンパクトな構造を実現することができる。
【0008】
実際の使用にあたっては、高い温度を伴って低い圧力により局所的な蒸発を達成することができる。電子たばこの場合には、たとえば電子たばこを吸うときの吸引圧力によって摂取中に低い圧力が実現され、したがってこの圧力の調整は消費者によって行われる。液体貯蔵体において蒸発のために必要とされる温度は、加熱ユニットによって生成される。その際に通常、迅速な蒸発を保証する目的で200℃を超える温度に達する。
【0009】
この場合、独国特許出願公開第102015113124.2号明細書(DE 10 2015 113 124.2)には、電子たばこ用の液体貯蔵体としての開放気孔性焼結ガラスについて述べられている。この焼結ガラスに導電層を設けて、それを蒸発器ヘッド内の加熱素子として用いることもできる。蒸発スペースは焼結体の気孔により形成され、したがって制限されている。蒸発ボリュームが制限されていることから、最大蒸気量も制限されている。
【0010】
欧州特許出願公開第2764783号明細書(EP 2 764 783 A1)にも、多孔性焼結体を含む電子たばこ用の液体貯蔵体について述べられている。これは加熱コイルと共に、蒸発器として用いられる。
【0011】
大抵の場合、加熱出力の供給は、バッテリまたは蓄電池を用いて駆動される電気的な加熱スパイラルによって行われる。この場合、必要とされる加熱出力は、蒸発させるべき体積量と加熱効率とに依存する。過度に高い温度によって液体が分解するのを回避するため、加熱コイルから液体への熱伝導は非接触の放射によって行うのが望ましい。この目的で、加熱コイルは蒸発表面のできるかぎり近くに、ただし好ましくはそこに接触することなく、取り付けられる。これに対しコイルが表面に接触すると、液体が過熱して分解されることが多い。
【0012】
このことが該当するのは、動作中に多くの蒸気量が必要とされ、蒸発器表面への液体搬送が十分に迅速に行われない場合である。したがって加熱素子からのエネルギー供給を蒸発のために使うことができず、表面が乾燥してしまい、局所的に蒸発温度よりも遙かに高い温度まで加熱されてしまうおそれがあり、かつ/または液体貯蔵体の温度耐性を超えてしまう。したがって正確な温度調節および/または温度制御が必須である。ただしこれによる欠点は、電子たばこの構造がその結果として複雑になり、特にこのことは高い製造コストとして現れる、ということである。しかも温度調整によって場合によっては、蒸気の発生ひいては最大可能な蒸気強度が低下してしまう。
【0013】
発明の課題
したがって本発明の課題は、液体貯蔵体として使用するために、個々の用途に最適に整合された形状であり多様なデザインの可能性をもたらす多孔性焼結体を提供することである。さらに別の課題は、液体貯蔵体と加熱装置とを含み、従来技術よりも改善された効率を有する、高温用途の蒸発器ユニットを提供することである。特に本発明は、発生させるべき多量の蒸気量を低い加熱出力で得ることを目指している。
【0014】
発明の概要
本発明の課題は、独立請求項に記載された事項によってすでに解決される。従属請求項に記載された事項は、本発明の有利な実施形態および発展形態である。
【0015】
本発明による液体貯蔵体は、ガラスまたはガラスセラミックスから成る焼結体を含み、この焼結体は、10~90%の範囲内の開放気孔率である。液体貯蔵体または蒸発器ユニットは、多孔性セラミックスの形態の焼結体を含むこともできる。
【0016】
多孔性蒸発器に吸着相互作用によって担持液が貯蔵され、この担持液は、たとえば、香料および芳香物質、および/または適切な液体中に溶かされた作用物質を含む医薬品、および/またはニコチンを含むことができる。液体貯蔵体が蒸発装置において用いられる場合には、または液体貯蔵体が蒸発装置の一部分である場合には、貯蔵された液体が蒸発させられ、蒸発器の湿った表面から脱着させられ、ユーザが蒸気を吸入することができる。
【0017】
好ましくは、気孔容積全体の少なくとも90%が、特に少なくとも95%が、開放気孔として設けられている。この場合、開放気孔率を、DIN EN ISO 1183およびDIN 66133に準拠した測定方法によって特定することができる。
【0018】
本発明の1つの実施形態によれば、焼結体は少なくとも20%の範囲の開放気孔率であり、好ましくは20%~90%の範囲内、特に好ましくは50~80%の範囲内、特に60~80%の範囲内の開放気孔率である。本発明による多孔性によって、焼結体の高い吸着能力が保証される。したがって1つの実施形態による焼結体は、20℃の温度で3時間の吸着時間のときに、その焼結体の開放気孔容積の少なくとも50%がプロピレングリコールを吸収することができる。これと同時にこの焼結体は、良好な機械的安定性を有する。特に、比較的低い多孔性の焼結体は高い機械的安定性を示し、このことはいくつかの用途にとって特に有利なものとなり得る。別の実施形態によれば、開放気孔率は20~50%である。
【0019】
本発明の1つの実施形態によれば、気孔は1μm~5000μmの範囲内の平均気孔サイズを有する。好ましくは、焼結体の開放気孔の気孔サイズは、50~5000μmの範囲内にあり、好ましくは50~1000μmの範囲内、特に好ましくは100~800μmの範囲内、極めて特に好ましくは200~600μmの範囲内にある。1つの実施形態によれば、気孔は少なくとも50μmの平均気孔サイズを有する。この場合、相応しいサイズを有する気孔が有利であり、その理由は、それらの気孔は、十分に大きな毛管力を発生させて、それにより特に蒸発器において液体貯蔵体として用いられる場合には、蒸発させるべき液体の補充を確保するために、十分に小さいからであり、それと同時にそれらの気孔は、蒸気の遅滞ない放出を可能にするために、十分に大きいからである。
【0020】
焼結体は、少なくとも2つの通路を備えた成形体を成している。1つの実施形態によれば、それらの通路は成形体の全長lにわたって延在している。したがって通路は、成形体と同じ長さであり、もしくは通路に対し平行にまたは少なくともほぼ平行に延在する方向への成形体の拡がりと同じ長さである。このためそれらの通路は、成形体の少なくとも2つの側面のところで外に出ており、すなわち通路端部は開放されている。開放型通路は、それらの中から蒸気を放出させたい場合に、つまり蒸気通路である場合に、特に有利である。
【0021】
別の選択肢として、それらの通路のうちの少なくとも1つが、成形体の長さlよりも短い通路長lkを有することができる。1つまたは複数の相応の通路の配置に従い、通路は閉鎖型通路端部を有することができる。開放型と閉鎖型の通路端部を備えた通路も可能である。相応の通路は特に、蒸発させるべき液体を供給するための流入通路として機能する。このようにすれば、開放型通路端部を介して液体を焼結体に流入させることができる。これと同時に、閉鎖型通路端部を介して液体の流出が回避され、かつ/または液体が蒸気通路に溢れ出るのが回避され、もしくは少なくとも最小限に抑えられる。
【0022】
これらの通路によって焼結体の表面が拡大され、その結果、液体貯蔵体は液体を吸収するために広い接触面を有するようになる。これにより液体の迅速な吸収が可能になる。これと同時に、液体貯蔵体を蒸発器において使用する場合には、蒸気のための放出面がこれらの通路によって拡大される。
【0023】
これらの通路は、これらを取り囲む焼結体材料によって形成される。この場合、通路をその長手軸に沿って、焼結体材料により完全に取り囲むことができる。1つの実施形態によれば、通路は焼結体内部の空孔またはスリットである。
【0024】
別の選択肢として、またはこれに加えて、焼結体は、焼結体材料によって一部分だけ取り囲まれる通路も有することができる。この実施形態によれば、通路を特に、焼結体の1つまたは複数の周面もしくは外周面における溝として形成することができる。
【0025】
本発明の1つの実施形態によれば、少なくとも1つの通路が空孔として、好ましくは円形または楕円形の空孔として、またはスリットとして、形成されている。蒸発器の構成の用途もしくはデザイン設定次第では、場合によっては製造が複雑にはなるけれども、たとえば多角形の断面を有するといったような空孔、溝およびスリットのジオメトリについての他の形態も考えられる。
【0026】
焼結体は、用途に応じて様々な形状を有することができる。この場合、個々の形状を焼結前のグリーン体の形状によってすでに決定することができ、焼結体の機械的安定性に基づき、たとえば研磨過程、切断過程または穿孔過程などによる焼結プロセス後の機械的な処理も可能である。
【0027】
焼結体を一体的に形成することができる。別の実施形態によれば、焼結体は少なくとも2つの個別部分から構築されており、それらを互いに結合することができる。別の選択肢として、焼結体の個別部分を互いに別々に、すなわち力の作用、形状同士または材料同士の作用による相互の結合を行わずに、たとえば蒸発器内に組み込むこともできる。
【0028】
本発明の1つの発展形態によれば、焼結体は長さlの円筒体として形成されている。この実施形態によれば、複数の通路が平行にまたは少なくともほぼ平行に延在している。その際にそれらの通路のうちの1つは、円筒体の内周面により形成される。以下では、この通路を第1の通路とも称する。この場合、液体貯蔵体は、少なくとも1つのさらなる通路である第2の通路を備えている。
【0029】
1つの実施形態によれば、液体貯蔵体は少なくとも2つの第2の通路を備えており、好ましくは少なくとも3つの第2の通路を、特に好ましくは少なくとも4つの第2の通路を備えている。好ましくはこれら第2の通路は、第1の通路の周囲に対称に配置されている。
【0030】
1つの実施形態によれば、第2の通路は焼結体材料により形成される閉鎖型周面を有する。
【0031】
1つの発展形態によれば、第2の通路は、焼結体材料により形成される閉鎖型周面を有していない。したがってこれらの第2の通路は、中空円筒体の外周面に位置しており、それらの長手軸に沿って開口部を備えている。
【0032】
好ましくはこの発展形態の焼結体は、星形または星に類似した形状を有する。この場合、星形翼部の個数および形状は、第2の通路の個数および断面形状によって決定される。1つの実施形態によれば、焼結体は2~20個好ましくは4~10個の星形翼部を備えている。
【0033】
その際に第2の通路は、円形または楕円形の断面を有することができる。別の選択肢として第2の通路は、三角形またはほぼ三角形の断面を有することができる。さらに別の選択肢として、第2の通路は別の多角形の形状を有することもできる。螺旋状の通路でもよいし、または中空円筒体の周囲領域にリング状に刻み込まれた形態の通路でもよい。構造、材料および/または製造の条件に起因して、星形翼部のコーナーもしくはエッジを丸く面取りしてもよいし、角が尖っていないように形成してもよい。
【0034】
この場合、通路の周面は、星形翼部により形成される焼結体の2つの側面を共に含む。これによれば、個々の星形翼部の中央線間の角度xは、10°~180°であり、好ましくは15°~90°、特に好ましくは30°~60°である。本発明の1つの実施形態によれば、第2の通路により形成される星形翼部の切断面は、内側から外側に向かって減少している。
【0035】
1つの好ましい実施形態によれば、星形の焼結体は少なくとも5つの第2の通路を備えており、特に好ましくは少なくとも6つの、極めて好ましくは少なくとも8つの第2の通路を備えている。角度xは、この場合には好ましくは40°~75°である。
【0036】
角度xは、焼結体のすべての第2の通路について等しい。よって、それらの第2の通路は対称に配置されている。ただし、第2の通路がそれぞれ異なる角度xを有する実施形態も可能であり、かつ/または等しいまたはそれぞれ異なる角度間隔の翼部が周囲領域全体には配置されていない実施形態も可能である。
【0037】
別の発展形態によれば、焼結体は直方体状である。これによれば、最長辺長の直方体の辺に対し平行または垂直に、通路を配向することができる。
【0038】
したがって1つの実施形態によれば、以下のような直方体状の焼結体が設けられており、すなわちこの焼結体の通路は、最長辺長の直方体の辺に対し平行またはほぼ平行に位置決めされている。このような配置によって、特に長い通路を備えた液体貯蔵体を実現することができる。
【0039】
これに対し、最長辺長の直方体の辺に対し垂直またはほぼ垂直に通路を配向すれば、比較的短い通路長を有する多数の通路を備えることができるようになる。
【0040】
この場合に通路を、閉鎖型周面を有する通路として形成することができ、つまり通路は直方体状の焼結体の内部に位置している。この実施形態による液体貯蔵体を備えた蒸発器は、通路が長く、つまりは蒸発表面が広いことから、高い蒸気出力を有することができる。
【0041】
別の選択肢として、またはこれに加えて、焼結体は開放型通路を有することができる。これによればたとえば、第1の通路を第2の通路に対し所定の角度で配置することができる。特に第1の通路と第2の通路とを、互いに直交させて配置することができる。1つもしくは複数の第2の通路によって、焼結体を換気することができる。このようにすれば焼結体の個々の領域に、空気通路を設けることができる。
【0042】
本発明のさらに別の対象は、本発明による焼結体を液体貯蔵体として備えた熱間用途の蒸発器ユニットである。この蒸発器は特に、電子たばこ、医薬品の投与器具、または熱により加熱される香料用エバポレータにおいて使用するために適している。かなり大量の蒸気が生成されるいわゆるフォグマシンのために使用することもできる。蒸発器ユニットには加熱素子が含まれている。その際に好ましくは、加熱素子は焼結体表面にじかに配置されている。
【0043】
焼結体の上に加熱素子をじかに配置するのが有利であり、その理由は、加熱素子を液体貯蔵体にじかに取り付ければ、蒸発のために僅かなエネルギーしか必要とされないからである。これによってたとえば、電子たばこのバッテリが節約される。しかも、いっそう良好な温度制御を達成することができる。これに加え、じかに接触させるということは、たとえば電子たばこなどにおいてデザインの可能性という点でも有利である。
【0044】
しかも、蒸発器を電子たばこのジオメトリに関する要求に整合させることができるように、焼結体を成形することができる。また、蒸発器のジオメトリによってももはや制限されない電子たばこの多種多様なデザインの可能性も実現できる。したがってたとえば、多角形またはディスクの形態の平坦な蒸発器を実現できる。
【0045】
これに加え、電子たばこはいっそうコンパクトな構造を有することができ、またはそのようにして電子たばこ内部に付加的に得られたスペースを、他の機能によって使用することができる。しかも、加熱素子のジオメトリおよび寸法を介して、加熱出力に作用を及ぼすことができる。
【0046】
1つの実施形態によれば、加熱素子は金属シート、金属ワイヤまたは好ましくは導電性コーティングの形態で、組み込まれている、かつ/または取り付けられている。したがって焼結体の高い温度耐性に基づき、焼結体を加熱素子の著しく近くに位置決めすることができる。
【0047】
電圧が印加されると、蒸発器における導電性コーティングにより高温が発生して、担持液が蒸発させられ、蒸発器の湿った表面から脱着させられて、蒸気をユーザが吸入することができ、または部屋に放出させることができる。
【0048】
本発明の1つの発展形態によれば、加熱素子は導電性コーティングの形態で設けられており、このコーティングは焼結体表面と結合されており、好ましくは材料同士の作用によって結合されている。この場合、多孔性焼結体周面における気孔だけでなく焼結体内部の気孔にも、導電性コーティングを設けることができる。このため開放気孔には、焼結体の体積全体にわたって導電性コーティングが設けられている。その結果、本発明に従ってコーティングされた焼結体に電圧が印加されると、焼結体の体積全体を通って電流が流れ、かくしてこの焼結体がその体積全体において加熱される。つまり導電性コーティングは、焼結体表面に堆積させられて焼結体表面と結合されており、その際に導電性コーティングが焼結体内部に位置する気孔をライニングし、したがって焼結体が少なくとも部分的にまたは一部のセクションで電気的に接触させられて電流が印加されると、この電流は少なくとも部分的に焼結体内部を通って流れて、焼結体内部を加熱する。
【0049】
かくして本発明のこの発展形態において、電流が貫流する焼結体のボディ体積全体にわたって加熱され、これに応じて焼結体の体積全体において蒸発させるべき液体が蒸発させられる。このため蒸気は、焼結体の周面を成す焼結体表面に局所的に発生するだけでなく、焼結体内部にも発生する。導電性コーティングは、焼結体表面において少なくとも部分的にかつ/または一部のセクションに取り付けられており、焼結体の気孔表面の少なくとも一部を成している。
【0050】
局所的な加熱装置を有する蒸発器、たとえば焼結体周面のみに加熱コイルまたは導電性コーティングを有する蒸発器の場合とは異なり、焼結体表面への毛管作用による搬送は不要である。これによって、毛管作用が小さすぎるときの蒸発器の乾燥運転が回避され、ひいては局所的な過熱も回避される。これによって、蒸発器ユニットの寿命に有利な影響が及ぼされる。しかも蒸発器が局所的に過熱した場合には、蒸発させるべき液体の分解プロセスが引き起こされるおそれがある。このことは一方では、たとえば蒸発させるべき医薬品の有効成分がそれによって低下することから、問題となる可能性がある。他方、分解生成物をユーザが吸い込み、このことは健康上のリスクを孕んでいる可能性がある。これに対し本発明による蒸発器の場合には、そのようなリスクは発生しない。
【0051】
導電性コーティングを特に、金属たとえば銀、金、プラチナまたはクロムとすることができ、あるいは金属酸化物によって形成することができる。本発明の1つの実施形態によれば、金属酸化物は、酸化インジウムスズ(ITO)、アルミニウムドープ酸化亜鉛(AZO)、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)またはアンチモンドープ酸化スズ(ATO)から成るグループの中からの金属酸化物である。その際に金属酸化物は特に、ガラスに対する良好な付着性ゆえに、ならびに金属酸化物上での蒸発させるべき液体の良好な湿潤特性ゆえに、特に有利であると判明した。しかも上述の金属酸化物特にITOは、高度な化学的および機械的な安定性を有し、水およびアルコールにおいて不溶性であるので、蒸発させるべき液体の溶剤に対し不活性である。これに加え、上述の金属酸化物は2000℃までの温度に対し耐性がある。好ましくはコーティングはITOを含み、かつ/またはITOコーティングである。
【0052】
1つの実施形態によれば、焼結体は、長さlおよび少なくとも2つの通路を有する中空円筒体として形成されている。これらの通路は、中空円筒体もしくはコーティングされた焼結体の長さlに対し平行に延在している。
【0053】
1つの実施形態によれば、コーティングされた焼結体は、電流が一方の端面から円筒体を通って他方の端面へ流れるように、電流源および/または電圧源に接続される。したがって中空円筒体の端面で接触が行われ、たとえば2つの金属コンタクトプレートとの接触接続により機械的に(力の作用により)、あるいはコンタクトの蝋付けまたははんだ付けにより(材料同士の作用により)、接触を行うことができる。場合によっては導電性ペーストを使用することによって、接触を支援または準備処理することができる。電気的コンタクトとの接続を向上させるため、第2の導電層たとえば導体層および/またははんだ層もしくはペーストを、焼結体における接触させるべき個所に被着させることもできる。
【0054】
両方の端面は互いに平行であるので、電流は均等に円筒体を通って流れ、その結果、蒸発器内部において均等に加熱出力が生成される。
【0055】
通路は蒸発スペースとして用いられ、そこにおいて液体が通路の周面から放出されて蒸発させられる。この場合、発生可能な蒸気量は周面のサイズに依存しており、表面が広くなるにつれて増大する。
【0056】
通路の直径および通路長を介して、吸引圧力および貫流量を調整することができる。この場合、小さい直径および/または長い通路によって、高い吸引圧力を達成することができる。これに応じて、直径が拡がりかつ通路長が短くなると、体積流量が上昇する。
【0057】
中央に1つの通路だけが配置された中空円筒体の場合には、中空円筒体の壁厚によって、放出面に至るまでの蒸発させるべき液体の搬送経路が決まり、つまりは蒸発器の効率も決まる。この場合、蒸発器の壁厚が厚くなるにつれて、放出表面に至るまでの搬送経路も長くなって、蒸発器の効率が低下する。このことは、蒸発器が大きいときには特に、その場合には壁厚もそれに応じて厚くなることから、問題となる可能性がある。
【0058】
多量の蒸気量および/または多量の体積流量が必要とされるならば、1つの通路を備えた中空円筒体の場合には一方では通常、蒸発器のボリュームと蒸気放出面とを拡大することができる。ただし通路の周面すなわち中空円筒体の内側表面を拡大すると、吸引圧力が悪化してしまう。その結果として、僅かな蒸気が中空円筒体内部において多くの空気と不都合に混合してしまう可能性があり、このことは特に、蒸発させるべき液体の均等な放出に悪影響を及ぼすおそれがある。
【0059】
蒸発器を長くすることによっても蒸気量が増大するけれども、長くなることによって電気抵抗も高くなり、したがって電気出力が低減される。
【0060】
このため本発明による蒸発器は、少なくとも2つの通路を備えている。1つの実施形態によれば、コーティングされた中空円筒体は、少なくとも1つの第1の通路と少なくとも1つの第2の通路とを備えており、これらの通路は閉鎖型周面を有する。つまりこれらの通路は焼結体内部に位置しており、中空円筒体の端面に開口部を備えている。好ましくは、中空円筒体の内周面は第1の通路によって形成される。したがって第1の通路は好ましくは、中空円筒体の中心点を成している。
【0061】
第2の通路は好ましくは、第1の通路に対し対称に、または少なくともほぼ対称に配置されている。第2の通路によって、中空円筒体の直径全体を拡げる必要なく、1つの通路しか備えていないそれ相応の円筒体と比較して、蒸発表面が拡大される。これに応じて液体の搬送経路は短いまま維持されるので、付加的な通路は蒸発器の効率に悪影響を及ぼさない。むしろ付加的な通路によって、外周面から通路周表面に至るまでの液体の搬送経路が短くなる。これによって蒸気放出量が増大し、ひいては蒸発器の効率が高まり、かつエネルギー消費が抑えられる。
【0062】
しかも円筒体の長さを長くする必要がないので、蒸発器の固有の電気出力も変えられないまま維持される。通路の個数および通路の直径によって、吸引圧力を調整することができる。
【0063】
別の実施形態によれば、蒸発器のさらに別の電気的接触が行われる。これによれば、一方の電極もしくは電気コンタクトたとえばプラス極が第1の通路内に位置決めされる一方、この場合には円筒体の外周面によって他方の電極たとえば加熱素子のマイナス極が形成される。第1の通路内におけるプラス極との接触により、円筒体の中央から外へ向かって電流が流れる。さらに第2の通路は、蒸気のための放出個所として機能する。1つの発展形態によれば、焼結体は付加的に少なくとも表面の一部分において、接触を向上させるための第2の導電層を備えることができる。
【0064】
ケーシングは通常、電流源もしくは電圧源のマイナス極と接続されていることから、マイナス極を外周面に位置決めした場合に、コーティングされた焼結体が蒸発器のケーシングに接触していると有利である。したがって端面を介した電気的接触の場合とは異なり、電気的絶縁は不要である。
【0065】
電気的絶縁として特に電子たばこの場合には、電気的絶縁材料たとえば不織布製または繊維製の材料たとえばコットン、ガラスウール、セルロースまたはウールなどから成る中間層が、ケーシングと加熱素子すなわちコーティングされた蒸発器との間に用いられる。ただしこれは形状に安定性がなく、したがって加熱素子とケーシングとが意図せずに接触してしまう可能性がある。このことは特に、著しく大きい加熱素子が使用される場合に該当する。円筒体が端面で接触させられるケースであれば、加熱素子とケーシングとが接触すると短絡が発生する。
【0066】
このため特に、大きい加熱素子を備えた蒸発器の場合にも、円筒体内部から外周面へ向かう電流の流れを伴う上述の電気的接触が提案される。
【0067】
この接触のさらに別の利点は、加熱素子における電流の流れが円筒体の長さに左右されない、ということである。このため円筒体を長くすることによって、それによっても固有の電気的抵抗を高めることなく、蒸発体積量を増大させることができる。かくして体積内の固有の加熱出力は、中空体が長くなっても一定に維持される。これによって、小さい直径で高い蒸気出力を有する著しく長い蒸発器を提供できるようになる。
【0068】
上述の電気的接触の場合、固有の加熱出力は蒸発器の直径に反比例する。たとえば電子たばこにおいて用いられるように直径が小さい蒸発器は、このような接触において著しく高い加熱出力を有する。他方、加熱出力を導電性コーティングの厚さによっても決めることができ、加熱出力は層厚に比例する。このため、電子たばこについて一般的な8~80Wの範囲内の加熱出力を有するのが望ましい小さい蒸発器は、比較的薄い導電性コーティングだけしか必要としない。このことは、たとえばITOなどのような高価なコーティング材料が使用される場合に特に、経済的な利点となる。
【0069】
電極の一方もしくは電気接続端子または電気コンタクトの一方の位置決めによる、特に第1の通路内におけるプラス極の位置決めによる電気的接触のさらに別の利点は、コーティングされた焼結体内部で電流の流れの向きを変えられることである。このようにすれば、円筒体の端面から端面への接触の場合とは異なり、電流の流れの不均一な分布も実現できる。
【0070】
この場合、特に第2の通路の位置ならびにその断面形状によって、電流の流れの向きを変えることができる。第2の電極たとえばマイナス極の位置決めによっても、電流の流れの向きを空間的に変えることができる。
【0071】
第1の通路だけで別の通路を備えておらず、かつマイナス極が円筒体の外周面全体により形成される円筒体であると、電流は内側から外側に向かってすべて同じ方向に等しく推移する。通常、電流強度ひいては加熱出力も、蒸発器において内側から外側に向かって減少する。しかしながら、逆向きの電力分布すなわち内側から外側に向かって加熱出力が増大することは、蒸発のためにいっそう有利である。その理由は、外側にいっそう多くの液体が流入し、それによっていっそう外側の領域ではいっそう多くの蒸発熱が必要とされるからである。
【0072】
このことはたとえば、第2の通路までの間隔が短い円筒体の外周面の領域のみにマイナス極を位置決めすることによって達成される。その結果、電流ひいては加熱出力も、第2の通路周囲の焼結体の領域において最大強度を有することになる。
【0073】
この場合、多くの蒸発によっていっそう大きい加熱出力が必要とされることから、第2の通路の領域周囲に加熱出力を集中させるのが有利である。この場合、コーティングされた焼結体のその他の領域は、いっそう低い温度を有する。
【0074】
マイナス極の位置決めのほか、第2の通路の断面形状によっても、コーティングされた焼結体における電流強度の分布に作用が及ぼされる。つまりマイナス極の方向に向かって細長いまたは楕円形の断面を有する通路によっても、第2の通路と接する焼結体の領域に電流の流れが集中するようになる。
【0075】
1つの発展形態によれば、第2の通路は焼結体材料によって一部分だけ取り囲まれている。このため第2の通路は、閉鎖型周面を有するのではなく、少なくとも一方の側で開放されている。その際に好ましくは第2の通路は、円筒体中央に向かって先細りする断面形状を有する。したがってこの実施形態によれば、第2の通路は焼結体の外面の方向で拡開している。
【0076】
V字型またはほぼV字型の断面を有する第2の通路が、焼結体内における電流の流れの推移の点で特に有利であることが判明した。ここでV字型の断面とは、三角形またはほぼ三角形の断面のことであると理解できる。開放型通路の2つの側面は、焼結体材料によって形成される。個々の2つの星形翼部の中央線によって形成される角度xは、好ましくは45°よりも小さい。
【0077】
本発明の1つの発展形態によれば、角度xは30°~60°の範囲内にある。
【0078】
したがって個数、それらの位置決めならびにそれらの断面に応じて、焼結体は星形または部分的に星形の断面形状を有することができる。この場合、それぞれ2つの第2の通路によって、1つの星形翼部が形成される。その際に特に有利であると判明したのは、少なくとも4つの第2の通路を備えた焼結体であり、好ましくは少なくとも6つの、特に好ましくは少なくとも8つの第2の通路を備えた焼結体である。
【0079】
本発明の1つの実施形態によれば、第2の通路の断面は、星形翼部の切断面が第1の通路から隔たるにつれて減少するように選定されている。
【0080】
星形の加熱素子の場合に、加熱素子内部の加熱出力の空間的分布の点で特に有利であると判明したのは、一方の電極たとえばプラス極を中央の第1の通路に位置決めすることである。この実施形態によれば、他方の電極は、個々の第2の通路が他方の電極により空間的に閉鎖されるように、第2の通路のところに1つおきに交互に位置決めされる。よって、この通路は閉鎖型周面を有する。好ましくはプラス極は、第1の通路内に位置決めされる。この実施例によれば、対応する通路の周面の一部がコーティングされた焼結体の材料によって形成され、一部がマイナス極の材料によって形成される。かくして、このようにして形成された閉鎖型の第2の通路は、液体容器内の液体から空間的に分離され、蒸発チャンバとしての役割を果たす。開放型の第2の通路によって、焼結体と液体との広い接触面が得られるようになる。したがってこの実施形態によれば、コーティングされた焼結体による液体の迅速な吸収が実現され、かつ広い蒸気放出面による迅速な放出も実現され、その結果、対応する蒸発器は高い効率を有するものとなる。しかも電極の位置決めにより、星形翼部に加熱出力が集中する。このため加熱出力が蒸発チャンバの近くで最大であることから、このことは有利である。
【0081】
本発明の1つの発展形態によれば、蒸発器は少なくとも1つの第3の通路を備えている。第3の通路は、少なくとも第1の通路と交差して、好ましくは垂直に、焼結体中を延在し、好ましくは第1の通路および第2の通路よりも小さい直径もしくは狭い断面を有する。特に第3の通路は、液体貯蔵体への液体の流入開口部として用いられる。第3の通路を特に、スリット状または円形に形成することができる。第3の通路によって、蒸発器への液体の吸収および搬送が改善される。これによれば第3の通路は好ましくは、第1および第2の通路と連通しておらず、蒸発スペースに向かう方向で閉鎖されている。
【0082】
本発明の1つの発展形態によれば、蒸発器は、それぞれ異なる電極によって形成される複数の加熱ゾーンを有することができる。それらの電極を電気的に別個に接続することができ、それによって加熱ゾーンを個別に制御することができる。このようにすれば、個々の加熱ゾーンをそれぞれ異なる加熱出力で駆動することができる。このようにしてたとえば、円筒体の形態の蒸発器の外周面における様々な位置に加熱ゾーンを配置すれば、蒸発器において温度勾配を達成することができる。また、加熱出力つまりは蒸気量もしくは作用物質の調量を制御すなわち増加および低減するために、個々の加熱ゾーンを所期のようにスイッチオンまたはスイッチオフすることもできる。
【0083】
本発明の別の発展形態によれば、コーティングされた焼結体は、直方体状または少なくともほぼ直方体状に、または多角形の断面を有するように形成されている。この直方体は辺a,bおよびcを有し、辺aに対し平行に通路が延在している。これらの通路は、コーティングされた焼結体の材料によって形成される閉鎖型周面を有する。したがってこれらは閉鎖型通路である。これらの通路を、最長辺長の直方体の辺に対し平行または垂直に配向することができる。
【0084】
したがって1つの実施形態によれば、以下のような直方体状のコーティングされた焼結体が設けられており、すなわちこの焼結体の通路は、最長辺長の直方体の辺に対し平行またはほぼ平行に位置決めされている。このような配置によって、特に長い通路を備えた液体貯蔵体を実現することができる。
【0085】
これに対し、最長辺長の直方体の辺に対し垂直またはほぼ垂直に通路を配向すれば、比較的短い通路長を有する多数の通路を得ることができる。
【0086】
この場合に通路を、閉鎖型周面を有する通路として形成することができ、つまり通路は直方体状の蒸発器の内部に位置している。この実施形態による液体貯蔵体を備えた蒸発器は、通路が長くつまりは蒸発表面が広いことから、高い蒸気出力を有することができる。
【0087】
別の選択肢として、またはこれに加えて、コーティングされた焼結体は開放型通路を有することができる。これによればたとえば、第1の通路を第2の通路に対し所定の角度で配置することができる。特に第1の通路と第2の通路とを、互いに直交させて配置することができる。このようにすれば焼結体の個々の領域に、空気通路を設けることができる。
【0088】
通路に対し平行に延在する直方体の対向する2つの側面を介して、電気的接触を行うことができる。このため、側面がプラス極もしくはマイナス極として用いられる。
【0089】
別の選択肢として、直方体の互いに対向する2つの側面がマイナス極として用いられる。この実施形態によれば、プラス極は焼結体内部に位置している。通路が蒸発チャンバとしての役割を果たし、好ましくは第1の通路に対し等間隔に配置されている。
【0090】
別の実施形態によれば、以下のようなコーティングされた焼結体が設けられており、すなわちこの焼結体の通路は閉鎖型周面を有し、それらの周面はコーティングされた焼結体の材料により形成される。電圧が印加されると、焼結体内の電流の流れが通路を備えた焼結体領域に局所的に制限されるように、電極コンタクトが位置決めされている。このようにすれば、蒸発が行われる領域に加熱出力が集中する一方、焼結体の残りの領域はそれよりも低い温度を有することから、このことは有利である。したがって焼結体におけるもしくは焼結体内におけるコンタクトの位置によって、高い加熱出力ひいてはいっそう高い温度を有するゾーンを焼結体内に形成することができ、その結果として好ましくはそこにおいて蒸発が行われるようになる。これは好ましくは焼結体の通路であり、これによって蒸気のために広い放出面が提供される。焼結体の他の領域は加熱されず、ないしは弱くもしくはいっそう弱く加熱されるだけである。それらは貯蔵体領域として機能する。このようにすれば、材料の作用により結合された1つの焼結体において、液体貯蔵体と蒸発器とを実現することができる。コンパクトな構造のほか、相応の蒸発器のコンビネーションによって、流出に対しいっそう安全なものとすることもできる。
【0091】
蒸発器領域の周囲を巡るように、通路を配置することができる。1つの好ましい実施形態によれば、焼結体は少なくとも4つの通路を備えている。これらの通路は、焼結体において少なくとも2列に配置されており、この場合、通路周囲の焼結体領域には電流が貫流し、通路の列間の領域には電流が流れないように、またはごく僅かにしか電流が流れないように、極コンタクトが位置決めされ、その際に焼結体において電流が貫流する領域においてのみ蒸発が行われる。別の選択肢として、蒸発器領域周囲に通路をリング状に配置することができる。本発明の1つの発展形態によれば、通路周囲の領域のみに導電性コーティングが設けられた焼結体が提供される。したがってコーティングされた領域だけが導電性であり加熱可能であるのに対し、焼結体の残りの領域は貯蔵体領域として用いられる。
【0092】
発明の詳細な説明
次に、図面および実施例に基づき本発明について詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0093】
図1】電子たばこの蒸発器ユニットを概略的に示す図である。
図2】液体貯蔵体として使用するための焼結体の1つの実施例を概略的に示す図である。
図3】円筒形の焼結体を備えた蒸発器の1つの実施例を概略的に示す図である。
図4】星形の焼結体を備えたさらに別の実施例を示す図である。
図5】星形の焼結体を備えたさらに別の実施例を示す図である。
図6】電子たばこにおける直方体状の蒸発器を概略的に示す図である。
図7】焼結体のさらに別の実施例を示す図である。
図8図7に示した焼結体を電子たばこにおける蒸発装置の構成部分として使用することを示す図である。
図9】直方体状の蒸発器を様々な電子的接触と共に示す図である。
図10】直方体状の蒸発器を様々な電子的接触と共に示す図である。
図11】直方体状の蒸発器を様々な電子的接触と共に示す図である。
図12】直方体状の蒸発器を様々な電子的接触と共に示す図である。
図13】複数の加熱ゾーンを備えた本発明の発展形態を示す図である。
図14】複数の加熱ゾーンを備えた本発明の発展形態を示す図である。
図15】星形の液体貯蔵体の2つの翼部間の開放角を示す図である。
図16図14に描かれた実施形態の変形を示す図である。
【0094】
図1には、蒸発器1を備えた電子たばこの蒸発器ヘッド22の概略的な構造が示されている。この場合、蒸発器1は通路を備えた円筒体として形成されており、蒸発させるべき液体2と接触している。通路は空孔として、つまり取り囲まれた通路として形成されている。電気的な電流源との電気的接触は、金属から成る2つのコンタクトプレートとの接触接続によって、またはワイヤ導体とのはんだ付けによって行われる。はんだ付けの場合には、ワイヤと蒸発器との間のいっそう安定した接触のために、はんだ蝋のほか端面上に設けられたたとえば銀ペーストから成る薄い銀層が役立つ。これらの面は互いに平行であるので、電流は均等に円筒体を通って流れ、蒸発器全体に均等な加熱出力を生じさせる。蒸発器1を蒸発チャンバ5に組み込む際に、蒸発器が絶縁ウール4に良好に接触するように、その直径が標準スパイラル/芯の長さ(5~7mm)と等しいのが望ましい。この場合、液体は、ウールと蒸発器(円筒体の外周面)との間の接触面を介して、吸入時の吸引圧力と毛管力とによって蒸発器に吸い込まれ、さらに案内される。ウール層4によって、ケーシング11に対する蒸発器1の電気的な絶縁が行われる。蒸発器の通路は蒸発ゾーンとして機能する。生成された蒸気を、マウスピース6を介してユーザが吸入できる。スイッチオンされるたびに蒸発器が加熱され、その体積内に貯蔵された所定量の液体が蒸発させられ、液体が補充される。蒸気の調量を、蒸発器のサイズと多孔性とによって調整することができる。したがって蒸発器1は、液体を貯蔵することで本発明による液体貯蔵体100を成すものである。
【0095】
図2には、本発明による焼結体7の1つの実施形態が概略的に示されている。この焼結体は、複数の付加的な通路を備えた中空円筒体として形成されている。この場合、第1の通路8は、中空円筒体の内周面を成している。第2の通路9は第1の通路8の周囲に、好ましくは対称にまたは等配分に配置されている。これらの通路は閉鎖型通路であって、すなわちこれらは焼結体材料によって形成される閉鎖型周面を有する。導電性コーティング(図示せず)を設けることで、焼結体を蒸発器内の加熱素子として用いることができる。ここではこれらの通路によって放出面のサイズが拡大され、それと同時に外周面から通路9までの液体の搬送経路が短縮される。さらにここでは空孔の個数および直径によって、吸引圧力を任意に調整することができる。また、搬送経路が著しく短縮されたことで、蒸気放出量ひいては効率が高められる。さらにエネルギー消費が低減される。
【0096】
図3には、導電性にコーティングされた焼結体70を備えた蒸発器1が描かれ、これによれば電気的接触が内側から外側に向かって行われる。この目的で、第1の通路8がプラス極として機能する。第2の通路9は、第1の通路8の周囲に対称に配置されており、楕円形の断面を有する。マイナス極は、空間的に第2の通路9の周囲の領域に制限されている。矢印10によって、電流の流れがシンボリックに表されている。第2の通路9によりマイナス極の位置に基づいて、電流はもはや均等には推移しない。電流の流れ10は、図示されたマイナス極の位置決めであれば、第2の通路9の周面の周囲で最大強度を有し、つまりはそこにおいて最大加熱出力を有する。電極のかかるジオメトリおよび位置決めによって、出力分布ひいては蒸発に対し所期のように作用を及ぼすことができる。加熱出力は通常、第2の通路9の周囲のほうが蒸発器の他の領域よりもいくらか高いのが望ましい。それというのも、強い蒸発によってそこにおいてより多くのエネルギーが必要とされるからである。このデザインにおける他の領域は、この場合にはいっそう低温である。これに加え、コーティングされた焼結体70は第3の通路13を備えている。この通路はスリット状であり、焼結体の内部領域への液体供給部として機能する。このようにすれば、蒸発器1により形成された液体貯蔵体100内において蒸発させるべき液体12の吸収を高めることができる。
【0097】
図4および図5には、星形の蒸発器1を備えた実施例が示されている。これによれば焼結体は、中空円筒体の内周面を成しプラス極を収容する第1の通路8を備えている。第2の通路9a,9bはV字型断面を有し、焼結体に関していえば、開放型通路であり、つまりそれらの通路は、焼結体材料により形成される連続した周面を有するのではなく、開放された長手方向側面を有し、もしくは側方が開放されている。第2の通路の断面形状によって、コーティングされた焼結体70は星形翼部70aを備えた星形を有するようになる。星形翼部70aの切断面は、外側に向かって減少している。マイナス極14が個々の第2の通路の周面の一部分を成すように、第2の通路が1つおきに交互にマイナス極14と接続されており、その結果としてこの通路は、一部は焼結体70の材料によって形成され一部はマイナス極14によって形成される閉鎖型周面を有することになる。このようにしてマイナス極14は、対応する通路9bを蒸発させるべき液体から空間的に遮蔽している。
【0098】
よって、通路9bは蒸発ゾーンを成している。第2の通路9aの断面形状と併せて電気コンタクトの位置決めによって、加熱出力を蒸発器の翼部70aに集中させることができる。
【0099】
通路9aは開放されたV字型断面を有し、このようにして液体12との広い接触面が実現される。かくして図4および図5に示された蒸発器は、液体との広い接触面を備えていると共に、蒸気のために広い放出面も備えている。これによって迅速な吸収および迅速な放出が可能となり、ひいては蒸発器の著しく高い効率が実現される。
【0100】
図5に示されている蒸発器の場合には、蒸発チャンバ内に最小液体圧力が生じ、そのようにして液体が流出する危険が最小限に抑えられるように、液体容器に至る開口部のサイズがマイナスコンタクトのサイズおよび位置によって低減される。
【0101】
図6には、直方体70の形状の蒸発器1を備えた電子たばこ30の蒸発器ヘッド22が示されている。電子たばこにおける直方体状もしくはブロック状の蒸発器の一般的な寸法は、B×H×L=5×5×(3~5)mmという寸法である。図6に描かれている蒸発器の場合、長さLは幅Bに比べて大きい。
【0102】
この場合、本発明による直方体状の蒸発器1を、標準芯の位置に正確に嵌め込むことができるように、つまりはこれまで使用していた加熱コイルを備えた芯を、部品の簡単な交換によって置き換えることができるように、形状およびサイズに関してデザインに整合させることができる。蒸発器1は、この蒸発器の側面が(液体を含む)ウール層13に接触して、そこにある液体12をウールから吸収するように、Eたばこおよび蒸発チャンバに組み込まれる。液体12は中央に向かって搬送されて、Eたばこのスイッチオン時にそこにおいて加熱され蒸発させられる。
【0103】
図6aには、コンタクトもしくは極すなわちプラス極およびマイナス極との接触について描かれている。コンタクト14として、金属プレートまたははんだ付けされた金属ワイヤを適用することができる。その際に接触を向上させるために、はんだ蝋、銀ペーストから成る薄層または他の金属コーティングを、たとえば第2の導電性コーティングの形態で適用することができる。この場合には蒸気のための放出面は、通路8の周面である。
【0104】
図7には、第1および第2の通路8,9を備えた直方体70の形態のコーティングされた焼結体7が示されている。通路8,9は開放型通路であり、U字型断面形状を有する。この場合、第1の通路8は第2の通路9と直交している。これによりコーティングされた焼結体7は、空気通路を備えた脚部72を有するようになる。電流が印加されるとこの電流は脚部に集中し、そこにおいて最大加熱出力を生じさせる。通路8,9によって、この領域において蒸気のための広い放出面が得られる。しかも空気通路が断熱としての役割を果たし、蒸発器内の熱が抑えられる。
【0105】
蒸発器内で使用したときに液体容器の近くに位置する焼結体7の領域は、通路を備えていない。これによって焼結体のこの部分は、いっそう中実になっている。このことは有利であり、その理由は、このようにすれば焼結体は密閉機能を果たすことができ、液体の流出を回避できるからである。しかもこの領域は、中実な構造ゆえに断熱が良好である。また、いっそう広いその断面ゆえに、電流および加熱出力はこの領域において相応に低減される。
【0106】
図8には、図7に描かれた蒸発器を電子たばこ30において使用することが示されている。この場合、蒸発器70は液体容器12のすぐ下に位置している。蒸発器は、液体容器12のカバーとしての役割を果たす。液体の流入は、蒸発器に至る容器23の底部の小さい開口部を介して行われる。蒸発器の密閉機能によって、蒸発器への流入は促進されるのに対し液体の流出は阻止される。
【0107】
図9図12には、蒸発器が様々な電子的接触と共に示されており、これらの図面によれば、極コンタクトの位置決めによる蒸発器内部の電流の流れの制御について表されている。
【0108】
図9および図10に示されている蒸発器は、すべての領域において同じ導電性コーティングを備えている。それにもかかわらず電流は、好ましくは蒸発領域24だけにしか流れない。貯蔵体領域25は低温のまま維持され、したがって液体はこの領域では蒸発せず、貯蔵可能である。
【0109】
以降の最適化において、極コンタクトの位置決めによって電流が制御される。すべての領域が同じコーティングを備えているのにもかかわらず、電流は蒸発領域だけに流れる。貯蔵体領域は低温のまま維持される。液体はそこにおいては蒸発させられず、そこに一時的に貯蔵可能である。このようにして孔性体において、液体貯蔵および蒸発を行うことができる。その際に両方の領域を、蒸気放出用の通路8によって部分的に互いに分離することができる。
【0110】
図11および図12には、焼結体の一部だけに電気的コーティングが設けられている(領域70)実施形態が示されている。したがって、領域70だけが導電性であり加熱可能である。外側領域7は低温のまま維持され、液体貯蔵体および断熱の役割を果たす。
【0111】
図13には、マイナス極140,141および142によって形成される複数の加熱ゾーンを備えた本発明の発展形態が示されている。この場合、焼結体7は導電性コーティングされており、中空円筒体の形態で形成されている。第1の通路8は、中空円筒体の内周面によって形成される。その中にプラス極150が位置する一方、第2の通路9は蒸発チャンバとして用いられる。
【0112】
マイナス極140,141および142に対し、互いに別個に電流を印加することができる。つまりたとえば動作中、最初に1つのマイナス極だけに電流を印加することができる。ついでこれに応じて、焼結体の個々の隣接する領域が加熱される。たとえば動作進行中にいっそう大きい加熱出力が必要とされるならば、付加的なマイナス極にも同様に電流を印加することができる。
【0113】
別の選択肢として、すべてのマイナス極140,141および142に電流を印加することもでき、その際にそれぞれ異なる電圧が加えられる。このようにすれば、個々のマイナス極140,141,142において、それぞれ異なる加熱出力を発生させることができる。このことをたとえば、蒸発器内部で加熱出力の勾配を発生させるために用いることができる。
【0114】
図14には、図13で説明した本発明の発展形態に関するさらに別の実施形態が示されている。この場合には蒸発器7は、通路8を備えた直方体の形態で設けられている。直方体の互いに向き合った側に、プラス極151および152もしくはマイナス極143および144が位置している。この場合にも、個々の極に別個に電流を印加することができる。
【0115】
図15には、第1の通路8および第2の通路9を備えた星形の蒸発器が概略的に示されている。第2の通路9は開放型通路であり、隣り合う星形翼部の側面によって形成される。ここで角度x27は、個々の星形翼部の中央線間の角度を表しており、この角度は星形翼部の個数と相関している。この場合には通路9は、図15に描かれているように鋭角を有することができ、つまりはV字状の断面を有することができる。ただしその際に、第2の通路の断面を丸く面取りしてもよい。
【0116】
図16には、図14に描かれた実施形態の変形が示されている。図16の実施形態によれば、第1の通路8が一方の側において開放されて構成されており、もしくはもっと一般的には、1つまたは複数の第1の通路8が、通路の貫通を閉鎖する終端部80を備えている。終端部80を、焼結体の端面のうちの1つに配置することができ、または右側に描かれた通路のように、通路8の開口部間で端面に配置することもできる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図8
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図10
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図16