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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-18
(45)【発行日】2023-10-26
(54)【発明の名称】エンジン
(51)【国際特許分類】
   F02D 19/10 20060101AFI20231019BHJP
   F02B 7/02 20060101ALI20231019BHJP
   F02B 7/06 20060101ALI20231019BHJP
   F02B 23/06 20060101ALI20231019BHJP
   F02M 61/14 20060101ALI20231019BHJP
   F02D 41/22 20060101ALI20231019BHJP
   F02D 45/00 20060101ALI20231019BHJP
【FI】
F02D19/10
F02B7/02
F02B7/06
F02B23/06 M
F02M61/14 310U
F02D41/22
F02D45/00 345
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019043856
(22)【出願日】2019-03-11
(65)【公開番号】P2020148096
(43)【公開日】2020-09-17
【審査請求日】2022-02-16
(73)【特許権者】
【識別番号】523216148
【氏名又は名称】株式会社三井E&S DU
(74)【代理人】
【識別番号】110000936
【氏名又は名称】弁理士法人青海国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】足利 泰宜
(72)【発明者】
【氏名】相場 宏樹
【審査官】戸田 耕太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-036462(JP,A)
【文献】特表2003-532828(JP,A)
【文献】特開平06-159182(JP,A)
【文献】特開2014-137007(JP,A)
【文献】特開2014-114742(JP,A)
【文献】特開2011-032993(JP,A)
【文献】特開2000-170589(JP,A)
【文献】特開平09-126041(JP,A)
【文献】特開2001-280172(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 19/10
F02B 7/02
F02B 7/06
F02B 23/06
F02M 61/14
F02D 41/22
F02D 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼室に主燃料を噴射する主燃料噴射部と、
前記燃焼室に液体燃料を噴射する液体燃料噴射部と、
前記主燃料を噴射せず前記液体燃料を噴射する一種噴射モードと、前記主燃料と前記液体燃料を噴射する二種噴射モードとを選択して遂行可能な燃料制御部と、
前記燃焼室の内圧を検出する圧力センサと、
を備え、
前記燃料制御部は、前記二種噴射モードにおいて、遷移制御と通常制御とを遂行し、
前記遷移制御は、前記通常制御よりも、前記液体燃料の噴射量に対する前記主燃料の噴射量の比率である噴射比率が抑えられる制御であり、前記一種噴射モードから前記二種噴射モードに遷移したときに遂行され、
前記通常制御は、前記遷移制御の遂行後に遂行され、
前記燃料制御部は、前記遷移制御において、前記内圧の振動に基づいてノッキングが検出されること、および、前記内圧に基づいて導出される平均有効圧が閾値未満であること、の少なくとも一方を噴射異常として検出し、前記噴射異常が検出されると、現時点の噴射量を基準として前記主燃料の噴射量を減らし前記液体燃料の噴射量を増やすことによって、前記噴射比率を下げるエンジン。
【請求項2】
前記燃料制御部は、前記平均有効圧が閾値以上であると、前記平均有効圧が前記閾値に近づくように、現時点の噴射量を基準として前記主燃料の噴射量を増やし前記液体燃料の噴射量を減らすことによって、前記噴射比率を上げる請求項1に記載のエンジン。
【請求項3】
前記燃料制御部は、前記一種噴射モードで、エンジン回転数の変動が所定の安定条件を満たすと、前記二種噴射モードに遷移する請求項1または2に記載のエンジン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、エンジンに関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンには、高圧のLPGを主燃料として燃焼室に直接噴射するものがある。例えば、特許文献1に記載のエンジンでは、ディーゼル燃料をパイロット燃料として燃焼室に噴射して着火させる。これにより、燃焼室に噴射された高圧のLPGに火炎が伝播する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表2003-522877号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のLPGやアンモニアなど、高圧で液化する主燃料を用いる場合、主燃料のインジェクタ周辺は、主燃料が供給されることで冷却される。しかし、エンジンの停止などによって主燃料の供給が停止すると、インジェクタ周辺の温度が高くなる場合がある。このとき、主燃料を噴射させると、主燃料が噴射前に気化してしまうおそれがある。そうすると、燃料噴射が不安定化してしまう可能性があった。
【0005】
本開示は、このような課題に鑑み、燃料噴射の不安定化を抑制することが可能なエンジンを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本開示の一態様に係るエンジンは、燃焼室に主燃料を噴射する主燃料噴射部と、燃焼室に液体燃料を噴射する液体燃料噴射部と、主燃料を噴射せず液体燃料を噴射する一種噴射モードと、主燃料と液体燃料を噴射する二種噴射モードとを選択して遂行可能な燃料制御部と、燃焼室の内圧を検出する圧力センサと、を備え、燃料制御部は、二種噴射モードにおいて、遷移制御と通常制御とを遂行し、遷移制御は、通常制御よりも、液体燃料の噴射量に対する主燃料の噴射量の比率である噴射比率が抑えられる制御であり、一種噴射モードから二種噴射モードに遷移したときに遂行され、通常制御は、遷移制御の遂行後に遂行され、燃料制御部は、遷移制御において、内圧の振動に基づいてノッキングが検出されること、および、内圧に基づいて導出される平均有効圧が閾値未満であること、の少なくとも一方を噴射異常として検出し、噴射異常が検出されると、現時点の噴射量を基準として主燃料の噴射量を減らし液体燃料の噴射量を増やすことによって、噴射比率を下げる。
【0010】
燃料制御部は、平均有効圧が閾値以上であると、平均有効圧が閾値に近づくように、現時点の噴射量を基準として主燃料の噴射量を増やし液体燃料の噴射量を減らすことによって、噴射比率を上げてもよい。
【0011】
燃料制御部は、一種噴射モードで、エンジン回転数の変動が所定の安定条件を満たすと、二種噴射モードに遷移してもよい。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、燃料噴射の不安定化を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】エンジンの概略的な構成を示す図である。
図2】エンジンの制御系を説明するための機能ブロック図である。
図3】燃料制御部の制御の流れを示すフローチャートである。
図4】二種噴射モードの処理の流れを示すフローチャートである。
図5】平均有効圧と燃料噴射量の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に添付図面を参照しながら、本開示の実施形態について詳細に説明する。実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、理解を容易とするための例示にすぎず、特に断る場合を除き、本開示を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。また本開示に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0015】
図1は、エンジン100の概略的な構成を示す図である。図1に示すように、エンジン100は、シリンダブロック102、シリンダヘッド104、ピストン106を備える。シリンダブロック102にシリンダ102aが形成される。シリンダ102aの内周面は、シリンダブロック102の内部に圧入または鋳込まれたシリンダライナ(スリーブ)によって形成されてもよい。シリンダ102aには、ピストン106が収容される。
【0016】
燃焼室108は、シリンダ102a内部に形成される。燃焼室108は、シリンダブロック102(シリンダ102a)、シリンダヘッド104、および、ピストン106の冠面106aによって囲繞される。
【0017】
シリンダヘッド104には、吸気ポート104aおよび排気ポート104bが形成される。吸気ポート104aおよび排気ポート104bは、燃焼室108に開口する。吸気ポート104aから燃焼室108に空気が供給される。排気ガスは、燃焼室108から排気ポート104bに排出される。吸気ポート104aは、吸気弁110aにより開閉される。排気ポート104bは、排気弁110bにより開閉される。
【0018】
シリンダヘッド104には、インジェクタ(主燃料噴射部112、液体燃料噴射部114)が設けられる。主燃料噴射部112、液体燃料噴射部114それぞれの先端部は、燃焼室108内に突出する。
【0019】
主燃料噴射部112の先端部から燃焼室108に、主燃料が噴出する。主燃料は、例えば、LPG(Liquefied Petroleum Gas)である。主燃料は、例えば、不図示の高圧タンクにおいて高圧下で液化された状態で蓄えられる。また、高圧タンクは冷却されてもよい。また、主燃料としては、高圧で液化して用いられる低沸点燃料であればよく、例えば、アンモニアであってもよい。液体燃料噴射部114の先端部から燃焼室108に、液体燃料が噴出する。液体燃料は、着火補助用のA重油などのパイロット燃料である。
【0020】
圧力センサSaは、燃焼室108の圧力を検出する。圧力センサSaは、シリンダ102aの圧力を示す信号を後述する制御装置120に出力する。圧力センサSaは、例えば、シリンダブロック102に設けられる。ただし、圧力センサSaは、燃焼室108の圧力を検出できれば、シリンダヘッド104などの他の部位に設けられてもよい。
【0021】
エンジン100は、例えば、4サイクルエンジンである。吸気行程において、ピストン106が下死点に向かい、空気が吸気ポート104aから燃焼室108に流入する。圧縮行程において、ピストン106が上死点に向かう。ピストン106によって圧縮された空気に主燃料、液体燃料が噴射される。燃焼行程において、液体燃料が着火すると、主燃料まで火炎が伝播して燃焼する。燃焼室108における燃焼圧によって、ピストン106が下死点側に押圧される。排気行程において、ピストン106が上死点に向かう。排気ガスは、排気ポート104bを通って燃焼室108から排出される。
【0022】
図2は、エンジン100の制御系を説明するための機能ブロック図である。図2に示すように、エンジン100は、上記の圧力センサSa、クランク角センサSb、制御装置120を含む。なお、ここでは、主燃料噴射部112、液体燃料噴射部114の制御に関する構成を主に挙げ、それ以外の構成は省略する。
【0023】
クランク角センサSbは、例えば、クランクシャフトに設けられる。クランク角センサSbは、クランク角を特定するための信号を制御装置120に出力する。
【0024】
制御装置120(例えば、ECU(Engine Control Unit))は、中央処理装置(CPU)、プログラム等が格納されたROM、ワークエリアとしてのRAM等を含む半導体集積回路で構成され、エンジン100全体を制御する。また、制御装置120は、燃料制御部122としても機能する。
【0025】
燃料制御部122は、主燃料噴射部112、液体燃料噴射部114を制御する。燃料制御部122は、クランク角センサSbからの信号に応じ、予め設定された第1クランク角において、主燃料噴射部112から主燃料を噴射させる。また、燃料制御部122は、クランク角センサSbからの信号に応じ、予め設定された第2クランク角において、液体燃料噴射部114から液体燃料を噴射させる。第1クランク角は、例えば、第2クランク角と異なる。
【0026】
また、燃料制御部122は、主燃料噴射部112、液体燃料噴射部114それぞれについて、燃料噴射期間を変えることで、主燃料の噴射量と液体燃料の噴射量を変更する。すなわち、燃料制御部122は、主燃料と液体燃料との噴射比率を変更する。
【0027】
燃料噴射量(噴射される燃料のエネルギー量、発熱量)は、エンジン負荷に応じて設定される。ただし、同じエンジン負荷であっても、主燃料と液体燃料との噴射比率は可変となる。通常時(後述する通常制御時)、液体燃料は、主燃料を着火させるためのパイロット燃料として用いられる。
【0028】
このとき、主燃料噴射部112、および、主燃料噴射部112に主燃料を供給する配管(不図示)などは、主燃料によって冷却される。しかし、エンジン100の停止などによって主燃料の供給が停止すると、冷却されなくなった主燃料噴射部112周辺の温度が高くなる場合がある。この状態でエンジン100が始動し、主燃料噴射部112に主燃料を噴射させると、主燃料が噴射前に気化し、燃料の噴射が不安定となるおそれがある。
【0029】
そこで、燃料制御部122は、主燃料噴射部112、液体燃料噴射部114を制御して、噴射異常(異常燃焼)を抑制する。以下、フローチャートを参照しながら、燃料制御部122の制御について詳述する。
【0030】
図3は、燃料制御部122の制御の流れを示すフローチャートである。図3に示す処理は、所定の周期で繰り返し実行される。
【0031】
(S200)
燃料制御部122は、一種噴射モードであるか否かを判定する。一種噴射モードは、主燃料を噴射せず液体燃料を噴射するモードである。すなわち、一種噴射モード中、主燃料噴射部112は駆動しない。
【0032】
例えば、上記のエンジン100の始動時、一種噴射モードが選択される。一種噴射モードでは、主燃料が用いられないため、噴射異常が抑制される。また、熱帯などで外気温が高過ぎるために噴射異常を回避する措置など、他の目的のために、一種噴射モードが選択されてもよい。
【0033】
一種噴射モードであれば、S202に処理を移す。一種噴射モードでなければ、S206に処理を移す。
【0034】
(S202)
燃料制御部122は、エンジン回転数の変動が所定の安定条件を満たすか否かを判定する。安定条件は、例えば、予め設定された回転数(例えば、アイドル回転数)に対する実際のエンジン回転数の偏差が、予め設定された偏差閾値より小さいことである。エンジン回転数は、例えば、複数サイクルに亘って測定される。ただし、エンジン回転数が安定しているか否かを判定できれば、他の条件が安定条件として設定されてもよい。
【0035】
エンジン回転数の変動が所定の安定条件を満たせば、S206に処理を移す。エンジン回転数の変動が所定の安定条件を満たさなければ、S204に処理を移す。
【0036】
(S204)
燃料制御部122は、一種噴射モードを遂行する。すなわち、主燃料噴射部112は主燃料を噴射せず、液体燃料噴射部114は液体燃料を噴射する。
【0037】
(S206)
燃料制御部122は、二種噴射モードを遂行する。二種噴射モードは、主燃料と液体燃料の双方を噴射するモードである。すなわち、主燃料噴射部112は主燃料を噴射し、液体燃料噴射部114は液体燃料を噴射する。二種噴射モードについて、図4を参照しながら詳述する。
【0038】
図4は、二種噴射モードの処理の流れを示すフローチャートである。図4に示す処理は、二種噴射モードが選択されている間、予め設定された複数サイクル(以下、対象期間という)ごとに行われる。また、図4に示す処理は、例えば、エンジン負荷の変化を契機として行われてもよい。
【0039】
(S300)
燃料制御部122は、対象期間中にノッキングを検出しているか否かを判定する。具体的に、燃料制御部122は、圧力センサSaからの信号から、燃焼室108の内圧の波形をハイパスフィルタに通す。こうして、燃料制御部122は、ノッキングの際に生じる燃焼室108の内圧の瞬間的な変化(振動)を検出することで、ノッキングを検出する。
【0040】
ノッキングを検出している場合、S306に処理を移す。ノッキングを検出していない場合、S302に処理を移す。
【0041】
(S302)
燃料制御部122は、平均有効圧が、予め設定された閾値A未満であるか否かを判定する。具体的に、燃料制御部122は、燃焼室108の内圧およびクランク角から、1サイクル当たりの仕事量を導出し、行程容積で除算して平均有効圧を導出する。
【0042】
図5は、平均有効圧と燃料噴射量の関係を示す図である。図5において、縦軸は、平均有効圧を示す。横軸は、燃料噴射量を示す。図5に示すように、平均有効圧には、閾値A、閾値Bが設定される。閾値A、閾値Bは、燃料噴射量(すなわち、エンジン負荷)に比例する。閾値Bは、閾値Aよりも大きい。
【0043】
エンジン100において噴射異常が生じると、効率が低下して仕事量が小さくなる。その結果、平均有効圧が小さくなる。このことから、燃料制御部122は、平均有効圧が閾値A未満であれば(不安定領域)、噴射異常が生じていると判定する。閾値Aは、燃料噴射量に対して、噴射異常がなければ発生すると推定される平均有効圧の下限値である。
【0044】
また、燃料噴射量に対して、どんなに効率的に燃焼が行われても生じ得ない仕事量の上限値もある。閾値Bは、この仕事量の上限値を行程容積で除算した平均有効圧の上限値である。燃料制御部122は、平均有効圧が閾値B以上であると(センサ異常領域)、圧力センサSaに異常があると判定する。この場合、燃料制御部122は、例えば、不図示の警報装置などで異常を報知する。
【0045】
また、燃料制御部122は、平均有効圧が閾値A以上閾値B未満であれば、噴射異常が生じ難い適正領域にあると判定する。
【0046】
ここで、平均有効圧で検出される噴射異常としては、例えば、過早着火が挙げられる。ノッキングによって効率が大幅に落ちる場合、平均有効圧でノッキングも検出される。
【0047】
対象期間において、平均有効圧が閾値A未満である割合が、予め設定された所定割合以上であるとする。この場合、燃料制御部122は、対象期間全体として、平均有効圧が、予め設定された閾値A未満であると判定する。
【0048】
また、対象期間において、平均有効圧が閾値A未満である割合が、予め設定された所定割合未満であるとする。この場合、燃料制御部122は、対象期間全体として、平均有効圧が、予め設定された閾値A以上であると判定する。
【0049】
このように、複数サイクルに亘って検出された燃焼室108の内圧値が用いられる。そのため、閾値を跨いで頻繁に制御が切り換わる所謂ハンチングが抑制される。
【0050】
平均有効圧が、予め設定された閾値A未満である場合、S306に処理を移す。平均有効圧が、予め設定された閾値A未満でない場合、S304に処理を移す。
【0051】
(S304)
噴射異常が生じていないため、燃料制御部122は、平均有効圧が閾値Aに近づくように、主燃料の噴射比率を上げる。主燃料の噴射比率は、例えば、予め設定された増加率(増加量)分、上げられる。そのため、主燃料の噴射量が増え、主燃料噴射部112が主燃料により迅速に冷却される。
【0052】
(S306)
噴射異常が検出されているため、燃料制御部122は、主燃料の噴射比率を下げる。主燃料の噴射比率は、例えば、予め設定された減少率(減少量)分、下げられる。こうして、噴射異常が抑制される。また、主燃料により僅かずつでも主燃料噴射部112が冷却される。そのため、後のサイクルにおいて、上記のS304に遷移し、噴射異常が生じない範囲で徐々に、主燃料の噴射比率が高められる。
【0053】
燃料制御部122は、主燃料の噴射比率を上げる場合、噴射された燃料の発熱量が同じとなるように、液体燃料の噴射比率を下げる。また、燃料制御部122は、主燃料の噴射比率を下げる場合、噴射された燃料の発熱量が同じとなるように、液体燃料の噴射比率を上げる。
【0054】
上記の二種噴射モードは、遷移制御および通常制御に分けられる。遷移制御は、一種噴射モードから二種噴射モードに遷移したときに遂行される。遷移制御は、通常制御よりも、主燃料の噴射比率が抑えられ、液体燃料の噴射比率が高い制御である。
【0055】
遷移制御においてS304が繰り返されて、主燃料の噴射比率が上がり上限値となると、通常制御となる。通常制御では、液体燃料は、主燃料を着火させるためのパイロット燃料としてのみ用いられる。液体燃料の噴射量は最小限に抑えられる。
【0056】
上述したように、燃料制御部122は、平均有効圧(すなわち、燃焼室108の内圧)に応じ、主燃料と液体燃料との噴射比率を変更する。そのため、噴射異常が生じない範囲で主燃料が供給され、主燃料噴射部112が冷却される。その結果、噴射前の燃料の気化が抑制される。また、燃料制御部122は、燃焼室108の内圧に応じた制御を行うため、他の指標値に応じた制御に比べて、噴射異常を高精度に抑制できる。
【0057】
以上、添付図面を参照しながら実施形態について説明したが、本開示はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に技術的範囲に属するものと了解される。
【0058】
例えば、上述した実施形態では、燃料制御部122は、燃焼室108の内圧の振動に基づいてノッキングが検出されると、主燃料の噴射比率を下げる場合について説明した。この場合、ノッキングの抑制が可能となる。ただし、燃焼室108の内圧の振動に基づいたノッキングの検出処理は、必須の構成ではない。
【0059】
また、上述した実施形態では、燃料制御部122は、燃焼室108の内圧に基づいて導出される平均有効圧が閾値未満であると、主燃料の噴射比率を下げる場合について説明した。この場合、過早着火の抑制が可能となる。ただし、平均有効圧に基づいた上記の処理は、必須の構成ではない。
【0060】
また、上述した実施形態では、燃料制御部122は、平均有効圧が閾値Aに近づくように、主燃料の噴射比率を上げる場合について説明した。この場合、上記のように、主燃料噴射部112が主燃料により迅速に冷却される。ただし、平均有効圧が閾値Aに近づくように、主燃料の噴射比率を上げる処理は、必須の構成ではない。
【0061】
また、上述した実施形態では、燃料制御部122は、一種噴射モードで、エンジン回転数の変動が所定の安定条件を満たすと、二種噴射モードに遷移する場合について説明した。この場合、エンジン回転数が安定化するまで、一種噴射モードが適用されて、噴射異常が抑制される。ただし、一種噴射モードから二種噴射モードへの遷移は、エンジン回転数の安定化以外の指標が契機となってもよい。
【0062】
また、上述した実施形態では、エンジン100は、直噴エンジンである場合について説明した。この場合、ポート噴射に比べてエンジン100の燃焼効率が向上する。また、直噴エンジンでは、ポート噴射に比べて主燃料噴射部112の温度が上昇し易いことから、上記の制御による冷却効果が大きい。ただし、エンジン100は、ポート噴射を行ってもよい。すなわち、主燃料噴射部112は、吸気ポート104aに主燃料を噴射してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本開示は、エンジンに利用することができる。
【符号の説明】
【0064】
100 エンジン
108 燃焼室
112 主燃料噴射部
114 液体燃料噴射部
122 燃料制御部
A 閾値
図1
図2
図3
図4
図5