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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-18
(45)【発行日】2023-10-26
(54)【発明の名称】医療用貼付材
(51)【国際特許分類】
   A61L 15/34 20060101AFI20231019BHJP
   A61L 15/42 20060101ALI20231019BHJP
   A61L 15/58 20060101ALI20231019BHJP
   A61L 15/24 20060101ALI20231019BHJP
   A61F 13/02 20060101ALI20231019BHJP
【FI】
A61L15/34 100
A61L15/42 310
A61L15/58 100
A61L15/24 100
A61F13/02 A
A61F13/02 310A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019122202
(22)【出願日】2019-06-28
(65)【公開番号】P2020006166
(43)【公開日】2020-01-16
【審査請求日】2022-03-15
(31)【優先権主張番号】P 2018124441
(32)【優先日】2018-06-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004020
【氏名又は名称】ニチバン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(72)【発明者】
【氏名】辻 泰輝
(72)【発明者】
【氏名】宮下 つばさ
(72)【発明者】
【氏名】藤澤 博充
【審査官】参鍋 祐子
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-155306(JP,A)
【文献】特開2002-065841(JP,A)
【文献】国際公開第2007/126067(WO,A1)
【文献】特開2007-296120(JP,A)
【文献】特開2018-023784(JP,A)
【文献】特開2005-089438(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 13/00
A61L 15/00
C09J 11/00
C09J 7/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体と粘着剤層の積層体を備える医療用貼付材であって、
前記粘着剤層が、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主成分とした共重合体と、室温で液状の前記共重合体と相溶する脂肪酸エステルとを含有する粘着剤組成物からなり、
前記粘着剤組成物に含有されている前記脂肪酸エステルの質量平均分子量が350~550であり、
前記粘着剤組成物は、前記共重合体100質量部に対して、前記脂肪酸エステルを5~25質量部含有しており、
前記支持体は、紙類、発泡体、布帛類又はこれらの組み合わせからなり、前記布帛類は、不織布(ただしポリエステル不織布を除く)、織布又は編布であり、
前記支持体の透湿度が500g/m・24h以上であり、
前記医療用貼付材はチューブ固定用である、医療用貼付材。
【請求項2】
前記脂肪酸エステルが、分子量350~550である単一種の脂肪酸エステルを含有する、請求項1に記載の医療用貼付材。
【請求項3】
前記共重合体が、炭素数が8~12のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステルが65~90質量%と、アクリル酸が2~15質量%と、酢酸ビニルが5~25質量%と、その他のビニル単量体が0~10質量%とが溶液重合法により重合した共重合体を、架橋剤にて架橋させたものである、請求項1又は2記載の医療用貼付材。
【請求項4】
前記脂肪酸エステルが、少なくとも1個のオレイン酸残基を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の医療用貼付材。
【請求項5】
前記脂肪酸エステル中の脂肪酸残基が、全てオレイン酸残基である、請求項4に記載の医療用貼付材。
【請求項6】
さらに、前記粘着剤層の前記支持体と接している面とは逆の面にセパレーター層を備える、請求項1~5のいずれか一項に記載の医療用貼付材。
【請求項7】
皮膚の同じ部位に繰り返し貼付される、請求項1~6のいずれか一項に記載の医療用貼付材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘着包帯や絆創膏等の皮膚表面に貼付される医療用貼付材、及びその粘着剤層の形成に好適な粘着剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
粘着包帯や絆創膏等の医療用貼付材は、カテーテル等のチューブ等を皮膚表面に固定する際にも用いられる。カテーテル等の固定においては、誤って剥がれることのないように安定して固定することが必要であり、このため、用いられる医療用貼付材には、高い粘着力が優先される傾向にある。一方で、カテーテル等は、長時間の固定が必要とされる場合や、皮膚の同じ部位に繰り返し固定される場合がある。このため、カテーテル等の固定に使用される医療用貼付材には、連続貼付や繰り返し貼付された場合に、皮膚への影響が少ないことが求められている。また、肩や腰といった特定の部位に貼付される鎮痛消炎剤や、磁気治療器絆創膏等も、皮膚の同じ部位に繰り返し固定される場合があり、これ等に使用される医療用貼付材も、連続貼付や繰り返し貼付された場合の皮膚への影響が少ないことが望ましい。
【0003】
皮膚への刺激が抑えられた医療用貼付材としては、例えば特許文献1には、粘着剤として、重量平均分子量250万以上のアクリル酸エステル系ポリマーに、これに相溶する脂肪酸エステルを液状可塑剤として含有させた粘着剤組成物を用いた医療用貼付材が記載されている。接着性が良好なアクリル酸エステル系ポリマーを粘着剤層とし、これに相溶する脂肪酸エステルを液状可塑剤として含有させることにより、粘着剤層が可塑化されて柔らかくなり、皮膚刺激性が低減される。
【0004】
また、粘着剤層に液状可塑剤を配合した粘着剤層を備える医療用貼付材としては、例えば特許文献2には、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを乳化重合して得られた共重合体からなるアクリル系粘着剤に、脂肪酸エステルなどの液状可塑剤を添加した粘着剤層を支持体に形成した貼付材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平11-76392号公報
【文献】特開2009-155306号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、充分な粘着力を有しつつ、皮膚の同じ部位に繰り返し貼付された場合に皮膚への影響が小さい医療用貼付材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、医療用貼付材の粘着剤層を構成するアクリル系粘着剤を、アクリル系共重合体100質量部に対して、分子量が350~550であり、室温で液状の脂肪酸エステルを5~25質量部含有させ、さらに、透湿度が500g/m・24h以上である支持体とすることにより、ヒト皮膚への高い粘着力を維持しつつ、角質剥離面積率が低減された医療用貼付材が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の医療用貼付材を提供するものである。
[1] 支持体と粘着剤層の積層体を備える医療用貼付材であって、
前記粘着剤層が、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主成分とした共重合体と、室温で液状の前記共重合体と相溶する脂肪酸エステルとを含有する粘着剤組成物からなり、
前記粘着剤組成物に含有されている前記脂肪酸エステルの質量平均分子量が350~550であり、
前記粘着剤組成物は、前記共重合体100質量部に対して、前記脂肪酸エステルを5~25質量部含有しており、
前記支持体の透湿度が500g/m・24h以上である、
医療用貼付材。
[2] 前記脂肪酸エステルが、分子量350~550である単一種の脂肪酸エステルを含有する、前記[1]の医療用貼付材。
[3] 前記共重合体が、炭素数が8~12のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステルが65~90質量%と、アクリル酸が2~15質量%と、酢酸ビニルが5~25質量%と、その他のビニル単量体が0~10質量%とが溶液重合法により重合した共重合体を、架橋剤にて架橋させたものである、前記[1]又は[2]の医療用貼付材。
[4] 前記脂肪酸エステルが、少なくとも1個のオレイン酸残基を有する、前記[1]~[3]のいずれかの医療用貼付材。
[5] 前記脂肪酸エステル中の脂肪酸残基が、全てオレイン酸残基である、前記[4]の医療用貼付材。
[6] さらに、前記粘着剤層の前記支持体と接している面とは逆の面にセパレーター層を備える、前記[1]~[5]のいずれかの医療用貼付材。
[7] 皮膚の同じ部位に繰り返し貼付される、前記[1]~[6]のいずれかの医療用貼付材。
[8] チューブ固定用である、前記[1]~[7]のいずれかの医療用貼付材。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高い粘着力を維持しつつ、皮膚の同じ部位に連続貼付又は繰り返し貼付した際にも皮膚刺激が低い粘着剤組成物により粘着剤層が形成された医療用貼付材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<粘着剤組成物>
本発明に係る医療用貼付材の粘着剤層を構成する粘着剤組成物は、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主成分とした共重合体と、室温(1~30℃)で液状の脂肪酸エステルとを含有する。当該脂肪酸エステルは、粘着剤である(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主成分とした共重合体に対して相溶であり、可塑性を付与する液状可塑剤である。
【0011】
((メタ)アクリル酸アルキルエステルを主成分とした共重合体)
(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主成分とした共重合体(以下、「アクリル系共重合体」ということがある。)とは、共重合体を構成する全構成単位に対する50%以上が(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する構成単位である共重合体を意味する。なお、本発明及び本願明細書において、(メタ)アクリル酸アルキルエステルとは、「アクリル酸アルキルエステル及び/又はメタクリル酸アルキルエステル」を表す。
【0012】
当該共重合体の構成単位が由来する(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、アルキル基部分の炭素数が1~18である(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましい。具体的には、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸n-ヘキシル、(メタ)アクリル酸n-オクチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸イソノニル、(メタ)アクリル酸n-デシル、(メタ)アクリル酸イソデシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル等が挙げられる。これらの(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、それぞれ単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0013】
本発明において用いられるアクリル系共重合体の構成単位が由来する(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、炭素数が4~18のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましく、炭素数が4~12のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルがより好ましく、炭素数が6~12のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルがさらに好ましく、炭素数が8~12のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルがよりさらに好ましく、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n-オクチル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、又は(メタ)アクリル酸イソノニルが特に好ましい。
【0014】
本発明において用いられるアクリル系共重合体としては、(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する構成単位として、アルキル基部分の炭素数が4~18である(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する構成単位を少なくとも1種類含むものが好ましい。例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する構成単位として、アルキル基部分の炭素数が4~18である(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する構成単位のみを有している共重合体であってもよく、アルキル基部分の炭素数が4~18である(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する構成単位と、これ以外の(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する構成単位との両方を含む共重合体であってもよい。
【0015】
本発明において用いられるアクリル系共重合体としては、(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する構成単位のみからなる共重合体であってもよく、その他の重合性化合物に由来する構成単位を含む共重合体であってもよい。その他の重合性化合物としては、ビニル基を有する化合物(ビニル単量体)が挙げられる。
【0016】
当該ビニル単量体としては、例えば、水酸基、カルボキシル基、酸無水物基、アミド基、アミノ基、エポキシ基、アルコキシ基、アシル基、シアノ基、アリール基、複素環基等の官能基を有するビニル単量体が挙げられる。水酸基を有するビニル単量体としては、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチル等の水酸基を有する(メタ)アクリル酸エステル等が挙げられる。カルボキシル基又は酸無水物基を有するビニル単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、マレイン酸モノブチル等が挙げられる。アミド基を有するビニル単量体としては、アクリルアミド、ジメチルアクリルアミド、ジエチルアクリルアミド、メタクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド等が挙げられる。アミノ基を有するビニル単量体としては、ジメチルアミノエチルアクリレート等が挙げられる。エポキシ基を有するビニル単量体としては、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル等が挙げられる。アルコキシ基を有するビニル単量体としては、アクリル酸2-メトキシエチル、アクリル酸エトキシエチル等のアクリル酸アルコキシアルキルエステル等が挙げられる。アシル基を有するビニル単量体としては、酢酸ビニル等のビニルエステル等が挙げられる。シアノ基を有するビニル単量体としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等の不飽和ニトリル等が挙げられる。アリール基を有するビニル単量体としては、スチレン等のビニル芳香族化合物等が挙げられる。複素環基を有するビニル単量体としては、N-ビニルピロリドン等のピロリドン環を有するビニル単量体等が挙げられる。これらのビニル単量体は、それぞれ単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0017】
本発明において用いられるアクリル系共重合体としては、(メタ)アクリル酸アルキルエステルと、その他のビニル単量体との共重合体であることが好ましく、当該その他のビニル単量体に、水酸基、カルボキシル基、酸無水物基、アミド基、アミノ基、エポキシ基、及びアルコキシ基からなる群より選ばれる少なくとも1種の官能基を有するビニル単量体(以下、「ビニル単量体(A)」ということがある。)が少なくとも1種含まれている共重合体であることがより好ましく、さらに、官能基を有さないビニル単量体(以下、「ビニル単量体(B)」ということがある。)が少なくとも1種含まれている共重合体であることが好ましい。
【0018】
本発明において用いられるアクリル系共重合体としては、炭素数が4~18、好ましくは8~12のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステルが55~95質量%、好ましくは60~95質量%、より好ましくは65~90質量%;ビニル単量体(A)が1~25質量%、好ましくは1~20質量%、より好ましくは2~15質量%;ビニル単量体(A)以外のビニル単量体が0~40質量%、好ましくは0~30質量%、より好ましくは0~25質量%;及び、その他のビニル単量体が0~10質量%;の共重合体であることが好ましく、炭素数が4~18、好ましくは8~12のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステルが55~95質量%、好ましくは60~95質量%、より好ましくは65~90質量%;ビニル単量体(A)が1~25質量%、好ましくは1~20質量%、より好ましくは2~15質量%;ビニル単量体(B)が0~40質量%、好ましくは3~30質量%、より好ましくは5~25質量%;及び、その他のビニル単量体が0~10質量%;の共重合体であることがより好ましい。なかでも、ビニル単量体(A)がアクリル酸であり、ビニル単量体(B)が酢酸ビニルであることが特に好ましく、炭素数が4~18、好ましくは8~12のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステルが55~95質量%、好ましくは60~95質量%、より好ましくは65~90質量%;アクリル酸が1~25質量%、好ましくは1~20質量%、より好ましくは2~15質量%;酢酸ビニルが0~40質量%、好ましくは3~30質量%、より好ましくは5~25質量%;及び、その他のビニル単量体が0~10質量%;の共重合体であることがより好ましい。このような共重合組成を有するアクリル系共重合体を粘着剤として用いることにより、粘着剤層が薄くても適度の粘着性を示し、その他の特性にも優れた粘着剤層を形成することが容易となる。
【0019】
本発明において用いられるアクリル系共重合体の重量平均分子量は、好ましくは300,000~1,000,000、より好ましくは450,000~650,000である。アクリル系共重合体の重量平均分子量を上記範囲内とすることによって、凝集性、粘着力、他成分との混合作業性、他成分との親和性などをバランスさせることができる。分子量が300,000を下回ると凝集性が低下するため、剥離時に皮膚への糊残りを生ずる恐れがある。分子量が1,000,000を上回ると、製造時の取り扱い性に劣る。アクリル系共重合体の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)法により、標準ポリスチレン換算値として求めた値である。
【0020】
本発明において用いられるアクリル系共重合体は、一般に、ラジカル重合させることにより合成することができる。当該アクリル系共重合体は、溶液重合法、懸濁重合法、又は乳化重合法により製造することができるが、良好な粘着特性が得られ易い点で、溶液重合法が好ましい。重合開始剤としては、ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイドなどの有機過酸化物;アゾビスイソブチロニトリルなどのアゾ系開始剤;などが挙げられる。全単量体に対して、0.1~3質量%程度の割合でラジカル重合開始剤を加え、窒素気流下、40~90℃程度の温度で、数時間から数十時間撹拌して共重合させる。溶液重合法では、溶媒として、酢酸エチル、アセトン、トルエン、これらの混合物などが汎用されている。
【0021】
(架橋及び架橋剤)
本発明において用いられる粘着剤組成物は、架橋剤を含有していてもよい。当該粘着剤組成物が架橋剤を含有する場合には、当該粘着剤組成物中のアクリル系共重合体を架橋処理して粘着剤層を形成することによって、粘着剤層の凝集力を向上させることができる。
【0022】
架橋剤としては、多官能イソシアネート化合物〔トリレンジイソシアネート(TDI)、4,4´-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、メタキシリレンジイソシアネート、1,5-ナフタレンジイソシアネート、水素化ジフェニルメタンジイソシアネート、水素化トリレンジイソシアネート、水素化キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等〕や多官能エポキシ化合物、アセチルアセトン金属塩などが挙げられる。また、例えば、日本ポリウレタン工業株式会社製のコロネート(登録商標)HL、コロネートL、コロネートEH、三菱ガス化学株式会社製のTETRAD-X、(登録商標)、TETRAD-C(登録商標)、ナーセム(登録商標)アルミニウムなどの市販品を架橋剤とすることができる。架橋剤は、単独で、又は2種類以上を用いてもよい。
【0023】
本発明において用いられる粘着剤組成物が架橋剤を含有する場合、架橋剤の含有量は、アクリル共重合体100質量部に対して、好ましくは0.01~1質量部、より好ましくは0.03~0.5質量部、特に好ましくは0.04~0.1質量部である。
【0024】
本発明において用いられる粘着剤組成物に架橋剤を含有させる場合、架橋剤は、当該粘着組成物に予め含有させていてもよく、当該粘着剤組成物を支持体に塗工する直前又は塗工中の粘着組成物に添加してもよい。
【0025】
(液状可塑剤)
本発明に係る医療用貼付材の粘着剤層に含有される液状可塑剤は、粘着剤層を可塑化してソフト感を付与するものであり、これにより皮膚刺激性が低減される。本発明において用いられる粘着剤組成物が含有する液状可塑剤は、室温で液状であり、当該粘着剤組成物が含有するアクリル系共重合体と相溶である、分子量が350~550の脂肪酸エステルである。当該粘着剤組成物に含有されている室温で液状の脂肪酸エステルが、当該粘着剤組成物が含有するアクリル系共重合体と相溶であり、かつ分子量350~550である単一種の脂肪酸エステルのみであってもよく、2種類以上の脂肪酸エステルを含有していてもよい。室温で液状であり、当該粘着剤組成物が含有するアクリル系共重合体と相溶である脂肪酸エステルが2種類以上含有されている場合、これらの脂肪酸エステルの質量平均分子量が350~550の範囲内にあればよい。室温で液状であり、大きさが特定の範囲であって、アクリル系共重合体と相溶である脂肪酸エステルを用いることにより、アクリル系共重合体と脂肪酸エステルが均一に混じりあっており、ヒト皮膚への高い粘着力を維持しつつ、皮膚から剥離した際に皮膚への残留が充分に抑えられた粘着剤層が形成される。
【0026】
分子量が350~550の範囲内である脂肪酸エステルであって、アクリル系共重合体との相溶性が高いものは、充分な可塑性を付与でき、さらに、粘着剤組成物塗工後の乾燥工程等の加熱工程での揮散が無い。このため、分子量が350~550の範囲内の脂肪酸エステルを液状可塑剤として用いることにより、粘着剤層を形成した場合に適度な皮膚接着性を付与可能であり、かつ剥離時に剥離される角質の面積を抑えることが可能な粘着剤組成物が得られる。
【0027】
本発明において用いられる粘着剤組成物は、分子量が350~550の範囲内の脂肪酸エステルの中でも、少なくとも1個の脂肪酸残基(脂肪酸に由来する残基。具体的には、脂肪酸から水酸基を除いた基)がオレイン酸残基(オレイン酸から水酸基を除いた基)であるオレイン酸エステルを含有することが好ましい。液状可塑剤としてオレイン酸エステル(少なくとも1個のオレイン酸残基を有する脂肪酸エステル)を用いると、本発明において用いられる粘着剤組成物から形成された粘着剤層は、連続貼付時(長期間貼付時)や繰り返し貼付時に皮膚への影響がより低減される。
【0028】
オレイン酸エステルとしては、1価アルコールとオレイン酸のエステルであってもよく、多価アルコールとオレイン酸のエステルであってもよい。1価アルコールとしては、カプリルアルコール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、イソステアリルアルコール、オレイルアルコール等のアルキルアルコールが挙げられる。多価アルコールとしては、グルセリン、ソルビトール、グリコール等が挙げられる。
【0029】
多価アルコールとオレイン酸のエステルの場合、多価アルコール中の1個の水酸基のみが脂肪酸とエステル結合していてもよく、2個以上の水酸基が脂肪酸とエステル結合していてもよい。2個以上の水酸基が脂肪酸とエステル結合したオレイン酸エステルの場合、エステル中の脂肪酸残基の一部のみがオレイン酸残基であってもよく、エステル中の全ての脂肪酸残基がオレイン酸残基であってもよい。
【0030】
本発明において用いられる粘着剤組成物が含有する分子量が350~550の範囲内のオレイン酸エステルとしては、具体的には、オレイン酸オクチル、オレイン酸ラウリル、オレイン酸ミリスチル、オレイン酸セチル、オレイン酸ステアリル、オレイン酸イソステアリル、オレイン酸オレイル、モノオレイン酸グリセリル、モノオレイン酸ソルビタン、ヒマシ油脂肪酸エステル等が挙げられる。これらのオレイン酸エステルは、単独で又は2種以上組み合わせて使用してもよい。本発明において用いられる粘着剤組成物が含有するオレイン酸エステルとしては、モノオレイン酸グリセリル(分子量:356.5)、モノオレイン酸ソルビタン(分子量:428.6)、オレイン酸オレイル(分子量:531)が好ましく、特に、オレイン酸オレイルが特に好ましい。
【0031】
本発明において用いられる粘着剤組成物における分子量が350~550の範囲内のオレイン酸エステルの含有量は、アクリル系共重合体100質量部に対して、好ましくは1~35質量部、より好ましくは5~25質量部である。この含有量が1質量部未満の場合、粘着剤層の可塑化が不充分となって皮膚刺激性を低減することができない場合があり、逆に35質量部を超える場合、粘着剤が有する凝集力が低下し、剥離時に皮膚への糊残りを生ずる恐れがある。
【0032】
本発明において用いられる粘着剤組成物におけるオレイン酸エステル以外の脂肪酸エステルであって、分子量が350~550の範囲内のものとしては、イソステアリン酸イソステアリル(分子量:約537)等が挙げられる。
【0033】
本発明において用いられる粘着剤組成物は、本発明の効果を損なわない限度において、分子量が350~550の範囲内の脂肪酸エステル以外のその他の液状可塑剤を含有していてもよい。その他の液状可塑剤としては、室温で液状であり、かつアクリル系共重合体と相溶性のある可塑剤であれば特に限定されるものではない。例えば、分子量が350未満のオレイン酸エステル、分子量が550超のオレイン酸エステル、オレイン酸エステル以外の脂肪酸エステル、脂肪酸エステル以外の液状可塑剤等が挙げられる。脂肪酸エステル以外の液状可塑剤としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール等のグリコール;オリーブ油、ヒマシ油、スクアレン、ラノリン等の油脂;流動パラフィン等の炭化水素類;等が挙げられる。その他、室温で液状の有機溶剤や界面活性剤を用いることもできる。また、粘着剤組成物に含有されている脂肪酸エステル全体として当該粘着剤組成物を構成するアクリル系共重合体と相溶であればよく、当該アクリル系共重合体と不相溶の脂肪酸エステルを含有していてもよい。
【0034】
本発明において用いられる粘着剤組成物が含有する液状可塑剤が、分子量が350~550の範囲内であり、かつアクリル系共重合体と相溶である脂肪酸エステルのみである場合、本発明において用いられる粘着剤組成物における分子量が350~550の範囲内の脂肪酸エステルの含有量は、アクリル系共重合体100質量部に対して、好ましくは1~35質量部、より好ましくは5~25質量部である。この含有量が1質量部未満の場合、粘着剤層の可塑化が不充分となって皮膚刺激性を低減することができない場合があり、逆に35質量部を超える場合、粘着剤が有する凝集力が低下し、剥離時に皮膚への糊残りを生ずる恐れがある。なお、アクリル系共重合体が含有する分子量が350~550の範囲内であり、かつアクリル系共重合体と相溶である脂肪酸エステルが2種類以上である場合、「粘着剤組成物における分子量が350~550の範囲内の脂肪酸エステルの含有量」は、分子量が350~550の範囲内であり、かつアクリル系共重合体と相溶である脂肪酸エステルに該当する脂肪酸エステルの総量を意味する。
【0035】
本発明において用いられる粘着剤組成物に、分子量が350~550の範囲内であり、かつアクリル系共重合体と相溶である脂肪酸エステルと、その他の液状可塑剤とを含有する場合、本発明において用いられる粘着剤組成物に含まれている液状可塑剤全量に対する、分子量が350~550の範囲内の脂肪酸エステルの含有量は、50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることがさらに好ましく、90質量%以上であることが特に好ましい。また、粘着剤組成物に含まれている液状可塑剤全体の質量平均分子量、特に、室温で液状の脂肪酸エステル全体の質量平均分子量が、350~550の範囲であることが好ましい。
【0036】
(添加剤)
本発明において用いられる粘着剤組成物は、前記架橋剤の他に、必要に応じて、各種添加剤を含有することができる。当該添加剤としては、薬物、充填剤、酸化防止剤(抗酸化剤、防腐剤)、着色剤、香料、粘着付与剤など、貼付材が備える粘着剤層を形成する粘着剤において慣用されている添加剤を含有することができる。例えば、粘着剤の粘着特性を調整するために、粘着付与剤を配合することができる。粘着付与剤としては、例えば、テルペン系、テルペンフェノール系、クマロンインデン系、スチレン系、ロジン系、キシレン系、フェノール系、石油系などの粘着付与樹脂を挙げることができる。
【0037】
<医療用貼付材>
本発明に係る医療用貼付材は、支持体と粘着剤層の積層体を備える。本発明に係る医療用貼付材は、支持体の少なくとも片面に、本発明において用いられる粘着剤組成物からなる粘着剤層を備えることが好ましい。粘着剤層が前記粘着剤組成物により形成されるため、ヒト皮膚への充分な粘着力を維持しつつ、剥離時の角質の剥離面積を抑えることができ、皮膚表面の同じ部位に連続貼付又は繰り返し貼付した際にも皮膚刺激への影響が少ない医療用貼付材が得られる。このため、本発明に係る医療用貼付材は、カテーテル等のチューブ固定用のように皮膚の同じ部位に繰り返し貼付される貼付材や、磁気治療器絆創膏等のような皮膚の特定の部位に連続貼付や繰り返し貼付される貼付材に好適である。
【0038】
(支持体)
本発明に係る医療用貼付材を構成する支持体は、透湿度が500g/m・24h以上のものである。充分な透湿度である支持体を用いることにより、透湿度が充分に高く、皮膚に貼付した際の蒸れが少なく、皮膚刺激や貼付中のかゆみが生じにくい医療用貼付材となる。支持体の透湿度としては、500g/m・24h以上が好ましく、700g/m・24h以上であることがより好ましく、1,000g/m・24h以上であることがさらに好ましく、1,500g/m・24h以上であることがよりさらに好ましく、5,000g/m・24h以上であることが特に好ましい。
【0039】
支持体としては、例えば、含浸紙、コート紙、上質紙、クラフト紙、和紙、グラシン紙等の紙類;ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレート等のポリエステルフィルム、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィンフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリウレタンフィルム、セロハンフィルムなどのプラスチックフィルム;発泡体;不織布、織布、編布等の布帛類;これら2種以上の積層体;などが挙げられる。前記布帛類の材質としては、天然素材、合成樹脂素材、再生樹脂材料及びこれら適宜を組み合わせた各種の材料を用いることができ、中でもポリエステル、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、アクリル樹脂等を原料とする不織布、織布、編布等を用いることができる。
【0040】
本発明に係る医療用貼付材の支持体の透湿度は、500g/m・24h以上である。そのため、当該支持体としては、不織布、織布、編布等の布帛類が好ましい。中でも、皮膚に密着することができ、かつ、皮膚の動きに追随することができる程度の柔軟な材質、そして長時間貼付後において皮膚のかぶれ等の発生を抑制できる材質が好ましく、貼付下の皮膚面の動きに対する追随性に優れる点において、さらには、強度を維持しやすく、自背面接着力がより強くなる点において、織布が好ましい。
【0041】
支持体の厚みは、伸び、引張り強さ、作業性などの物理的性質や、貼付時の感触や患部の密閉性等を考慮して適宜選択可能であるが、通常5μmから1mm程度である。なお、支持体の厚みが5μm~30μm程度とごく薄い場合は、粘着剤層が設けられた支持体の一方側の面とは反対の面(以下、他方側の面という)上に、キャリア層を設けてもよい。
【0042】
支持体が布帛類である場合、その厚みは、好ましくは50μm~1mm、より好ましくは100μm~800μm、更に好ましくは200μm~700μmである。また、目付けは、皮膚への追従性の点から、好ましくは400g/m以下、より好ましくは300g/m以下、さらに好ましくは250g/m以下である。
【0043】
また、支持体がプラスチックフィルムである場合、その厚みは、好ましくは10μm~300μm、より好ましくは12μm~200μm、さらに好ましくは15μm~150μmである。なお、支持体がフィルムである場合は、粘着剤層と支持体の投錨性を向上することを目的に、支持体の一方側の面又は他方側の面、あるいはそれら両面にサンドブラスト処理、コロナ処理等の処理を行なってもよい。
【0044】
前記支持体の厚みが5μmよりも小さいと、粘着テープの強度や取り扱い性が低下して、皮膚への貼付が困難になり、他の部材等との接触によって破れたり、入浴等の水との接触によって短時間で皮膚から剥離したりすることがある。また、支持体の厚みが大きすぎる(1mmより超える)と、粘着テープが皮膚の動きに追随しにくくなり、粘着テープの辺縁部に剥がれるきっかけを形成しやすくなるため、短時間で皮膚から剥離したり、貼付中の違和感が増えたりするおそれがある。
【0045】
(粘着剤層)
粘着剤層は、本発明において用いられる粘着剤組成物を、支持体の表面に所望の厚みとなるように塗工し、乾燥させることにより形成される。粘着剤組成物が架橋剤を含む場合、塗工後に紫外線照射処理等の架橋剤の種類に応じた架橋処理を行う。
【0046】
本発明に係る医療用貼付材における粘着剤層の厚みは、特に限定されるものではなく、好ましくは1~200μm、より好ましくは10~100μm、さらに好ましくは20~80μmである。粘着力は、粘着剤層の厚みに依存し、粘着剤層の厚みが厚すぎると、粘着力が高くなりすぎ、粘着剤層の厚みが薄すぎると、粘着力が弱くなる。粘着剤層の厚みを前記範囲内とすることで、皮膚に十分な粘着力で粘着できることに加えて、貼付材を皮膚などの微細な凹凸のある被着体表面に沿って密着させることができ、さらに、使用後に剥離した際に皮膚刺激を低く抑えることができる。
【0047】
(キャリア層)
本発明に係る医療用貼付材は、支持体に仮着させてキャリア層を形成させてもよい。例えば、「キャリア層/支持体/粘着剤層/セパレーター層」の積層構成を有する貼付材とすることができる。キャリア層により、支持体の厚さが薄い場合に、支持体の製膜性、貼付材の取扱性、被着体への貼付性を向上させることができる。キャリア層は、貼付材の取扱性を向上させるために設けられるものであるから、貼付材の全面を覆っていても、貼付材の縁部のみを覆っていても、あるいは、格子状などのパターン状に覆っていてもよい。
【0048】
キャリア層は、例えば、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリプロピレン、アイオノマー、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、エチレン酢酸ビニル共重合体、熱可塑性ポリエステル、ポリテトラフルオロエチレンなどの各種熱可塑性樹脂からなるフィルムを用いて形成することが好ましい。
【0049】
各種フィルムは、紙にラミネートされた状態のものでもよい。これらのキャリア層は、支持体(例えばポリウレタンエラストマーフィルム)に比べて、厚みが厚いか、腰の強いものとすることが好ましい。キャリア層の厚みは、適宜設定できるが、通常、10μm以上、好ましくは20μm以上であり、その上限値は500μm程度である。
【0050】
(セパレーター層)
本発明に係る医療用貼付材は、支持体層、粘着剤層の他に、通常、粘着剤層を皮膚に貼り付けるときまで、粘着剤層を保護するために、粘着剤層に隣接してセパレーター層が備えられる。
【0051】
本発明におけるセパレーター層としては、特に限定されず、貼付材の技術分野において、一般に、離型紙、離型フィルム、剥離紙、剥離フィルム、剥離ライナーなどと称して使用されるものを用いることができる。具体的には、例えば、表面をシリコーン処理したポリエチレンテレフタレートフィルム、表面をシリコーン処理したポリエチレンと紙との積層体などが挙げられる。また、セパレーター層は、取扱い性(すなわち、粘着剤層からの剥離性)を向上するために、切れ目を設けてもよく、貼付材より大きな面積に形成し、周縁部に掴み部を設けてもよい。また、セパレーター層は、取扱い性の向上や印刷適性の向上等の目的で、セパレーター層の粘着剤層に対向する面又は粘着剤層の反対側の面に、サンドブラスト処理等による凹凸を設けてもよい。
【0052】
セパレーター層の厚みは、適宜設定することができ、特に限定されないが、通常20μm以上、好ましくは40μm以上であり、その上限値は500μm程度である。
【0053】
(透湿度)
本発明に係る医療用貼付材は、透湿度が500g/m・24h以上であることが好ましい。当該貼付材は、透湿度が500g/m・24h以上であることで、皮膚に貼付した際の蒸れが少ないため、皮膚刺激や貼付中のかゆみが生じにくい。当該貼付材の透湿度は、700g/m・24h以上であることがより好ましく、1,000g/m・24h以上であることがさらに好ましく、1,500g/m・24h以上であることがよりさらに好ましく、5,000g/m・24h以上であることが特に好ましい。透湿度は高いほど好ましく、好ましい透湿度の上限は特にないが、通常30,000g/m・24h以下である。なお、本発明において透湿度の測定は、JIS Z0208のB条件に従って、温度40℃、相対湿度90%で測定する。すなわち、貼付材の片面側を温度40℃、相対湿度90%に調節し、他面側には塩化カルシウム等の吸湿剤を置いて貼付材を通過した水分を吸収させ、吸湿剤の重量変化量を24時間、1m当たりに換算して算出する。
【0054】
(粘着力)
本発明に係る医療用貼付材の粘着力は、対ベークライト粘着力(剥離力)として、好ましくは0.5~12.0N/25mm、より好ましくは2.0~8.0N/25mmの範囲内であることが好ましい。医療用貼付材の粘着力がこの範囲内であることにより、本発明に係る医療用貼付材を皮膚表面に貼付した場合、十分な貼付性能を備え、貼付中に位置ずれが生じないとともに、当該貼付材を剥離するときには、皮膚表面を剥離したり、かぶれを発生したりする恐れがない。
【0055】
医療用貼付材の粘着力の測定方法は以下の通りである。すなわち、貼付材を、幅25mm×長さ15mm以上、好ましくは100mmの所定の長さに裁断して試験片とする。試験片をベークライト製試験パネルに押しつけて貼着させた後、2kgのローラーで圧着速さ300mm/分、圧着回数1往復で貼着させて試験片を調製する。貼着してから20分間経過した後、JIS Z0237の引きはがし粘着力試験方法に準拠し、剥離角度180°、剥離速度300mm/分の条件で、粘着力を測定する。
【0056】
(医療用貼付材の製造方法)
本発明に係る医療用貼付材の製造方法は特に限定されない。例えば、いわゆる剥離ライナーとして一般に使用されるセパレーター層の上に、粘着剤溶液を塗布し、乾燥させて粘着剤層を形成する方法を採用することが好ましい。粘着剤層の連続的な形成方法としては、セパレーター層を一方向に走行させながら、その上に粘着剤溶液を塗布し、乾燥させる方法が好ましい。粘着剤を溶融してセパレーター層上に塗工する方法を採用してもよい。また、特定の形状の繰り返しパターンコーティングとすることもできる。
【0057】
セパレーター層の片面に粘着剤層を形成した積層体と支持体とを、粘着剤層と支持体の表面が密着するように貼り合わせることにより、「支持体/粘着剤層/セパレーター層」の積層構成を有する貼付材を作製することができる。また、支持体の片面に任意層であるキャリア層を形成した積層体の場合、粘着剤層と当該積層体の支持体の表面が密着するように貼り合わせることにより、「キャリア層(任意層)/支持体/粘着剤層/セパレーター層」の積層構成を有する貼付材を作製することができる。
【実施例
【0058】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0059】
[実施例1~4、比較例1~7]
各種液状可塑剤を含有する粘着剤組成物を調製し、これで粘着剤層を形成した貼付材について、粘着力とヒト皮膚への影響を調べた。液状可塑剤としては、オレイン酸メチル(分子量:296.5)、ミリスチン酸イソプロピル(分子量:268.0)、モノオレイン酸グリセリル(分子量:356.0)、モノオレイン酸ソルビタン(分子量:428.6)、オレイン酸オレイル(分子量:531.0)、イソステアリン酸イソステアリル(分子量:537.0)、大豆油(分子量:約880、SRソイビーン-LQ-(JP)、クローダジャパン社製)、トリオレイン酸ソルビタン(分子量:935.0)、ヒマシ油脂肪酸エステル(分子量:約500、リックサイザーC-101、伊藤製油社製)、オレイン酸デシル(分子量:422.4)、特殊ヒマシ油系縮合脂肪酸(分子量:800、ミネラゾール、伊藤製油社製)、を用いた。また、支持体としては、織布(縦糸:コアスパン、横糸:綿、透湿度:21,060g/m・24h、目付155g/m)、ウレタン不織布(繊維径:15μm、透湿度:21,590g/m・24h、目付65g/m)、ポリエチレンフィルム(厚さ:50μm、透湿度:60g/m・24h)を用いた。
【0060】
<サンプル作製>
まず、粘着剤組成物として、アクリル酸2-エチルヘキシルエステル/酢酸ビニル/アクリル酸=85/11/4(質量比)からなる単量体混合物を共重合反応して得られたアクリル系共重合体の溶液に、アクリル系共重合体100質量部に対して、表1~3に記載の液状可塑剤を表1に示す質量部となるように混合し、さらに架橋剤としてTetrad-X(三菱ガス化学社製)0.06質量部を混合し、均一な粘着剤組成物の溶液を調製した。
この粘着剤組成物の溶液を、セパレーター(シリコーン処理ポリラミ剥離紙)の剥離処理面に、乾燥後の厚みが38μmになるよう塗布、乾燥して粘着剤層を形成した。この粘着剤層を、表1~3に記載の支持体に貼り合わせて貼付材を作製した。
【0061】
<ヒト皮膚への粘着力の測定>
サイズ15mm×70mmの被験サンプルを、ヒト被験者の前腕部に貼付した。貼付から24時間後に、インストロン型引張試験機を用いて、剥離速度100mm/分、剥離角度90°の条件で粘着力(N/15mm)を測定した(n=8)。剥離は、小指側から親指側に行った。測定結果を表1~3に示す。
【0062】
<角質剥離面積率の測定>
前記の粘着力測定において剥離された後の各被験サンプルを、カチオン染色(ゲンチアナバイオレット:1.0%、ブリリアントグリーン:0.5%、蒸留水:98.5%)で染色した後、流水下で洗浄した。染色後の被験サンプルを顕微鏡(VHX-1000:VH-Z100UR、キーエンス社製)下で撮像し、得られた画像を画像処理装置(Win ROOF、三谷商事社製)で画像解析することによって、各被験サンプルに付着している角質細胞の面積を測定した。各被験サンプルについて、3視野の角質細胞付着面積率([角質細胞付着面積]/[被験サンプルの表面積]×100(%))を算出し、この平均値を各被験サンプルの角質剥離面積率とした(n=8)。測定結果を表1~3に示す。
【0063】
<粘着剤の残留>
前記の粘着力測定において、各被験サンプルを剥離した後の皮膚表面に、粘着剤が残ったかどうかを目視で確認した(n=8)。結果を表1~3に示す。表中、「×」は剥離時に粘着剤が皮膚に残ったことを、「〇」は剥離時に粘着剤が皮膚に残らなかったことを示す。
【0064】
<繰り返し前腕部貼付試験>
被験サンプルを、ヒト皮膚表面に貼付し、24時間ごとに剥離し、1時間後の皮膚反応を確認した後に、新たな同種の被験サンプルを同部位に貼付する繰り返し前腕部貼付試験(最大7日間、1試験区当たり7枚の被験サンプルを使用)を行った(n=9)。皮膚反応は、剥離1時間後及び24時間後(試験終了日)に、5:反応なし、4:軽い紅斑あり、3:紅斑あり、2:紅斑+浮腫あり、1:紅斑+浮腫+丘疹あり、又は小水疱あり、0:大水疱あり、として評価した。結果を表1~3に示す。
【0065】
【表1】
【0066】
【表2】
【0067】
【表3】
【0068】
支持体が同一である実施例1~6及び比較例1~8で比較すると、各被験サンプルのヒト皮膚への粘着力は、脂肪酸エステルをアクリル系共重合体100質量部に対して、10質量部又は20質量部配合した被験サンプル(比較例2~3、実施例1~6、比較例5~8)では、脂肪酸エステルを配合していない被験サンプル(比較例1)と比べて高い数値であり、脂肪酸エステルを配合することにより、粘着力を高めることができた。脂肪酸エステルをアクリル系共重合体100質量部に対して30質量部配合した被験サンプル(比較例4)では、剥離時に粘着剤残留が発生した。これは、液状可塑剤の含有量が多く、粘着剤層が柔らかくなりすぎたためと推察された。一方で、アクリル系共重合体との相溶性が劣るオレイン酸デシルを選択した被験サンプル(比較例7)は、粘着剤の残留試験において、粘着剤残留が発生し、医療用貼付材として問題があるものであった。
【0069】
各被験サンプルの角質剥離面積率は、分子量が350~550の範囲でアクリル酸系共重合体との相溶性が良好な脂肪酸エステルを配合した被験サンプル(実施例1~6)では、比較例1と比べて角質剥離面積率が40%前後と十分に低くなった。これに対して、分子量が当該範囲から外れている脂肪酸エステルを配合した被験サンプル(比較例3、比較例5、6、8)では、角質剥離面積率が50%以上であり、低減効果が小さいことが確認できた。また、液状可塑剤として分子量が当該範囲から外れているミリスチン酸イソプロピル(分子量:268.0)を15質量部と、分子量が当該範囲内であるオレイン酸オレイル(分子量:531.0)5質量部とを含有しており、液状可塑剤の質量平均分子量が333.8[(268.0×15+531.0×5)/(15+5)]である比較例3の被験サンプルは、分子量が当該範囲から外れている脂肪酸エステルのみを配合した被験サンプルと同様に、角質剥離面積率が50%以上であり、低減効果が小さかった。
【0070】
皮膚反応は、分子量が350~550の範囲内であってアクリル系共重合体との相溶性が良好な脂肪酸エステルを配合した被験サンプル(実施例1~6)は、経時推移でほとんど皮膚状態が低下することなく維持できていることが確認できた。また、試験終了日の剥離24時間後においても、赤みが残った被験者が少ないことが確認できた。一方、支持体のみ異なる被験サンプル(実施例3、7、比較例9)を比較すると、透湿度が500g/m・24h以上であるウレタン不織布を支持体とした実施例7は、透湿度が500g/m・24h以上である織布を支持体とした実施例3と遜色の無い評価結果であったが、透湿度が60g/m・24hであるポリエチレンフィルムを支持体とした比較例9では、角質薄利面積率は低いものの、ヒト皮膚粘着力が大きく低下し、皮膚反応も強いものであった。これらの結果より、透湿度が500g/m・24h以上である織布又は不織布を支持体とし、アクリル系共重合体からなる粘着剤層に対して、アクリル系共重合体との相溶性が良好な分子量350~550の脂肪酸エステルを適切な量配合することにより、高い粘着力を維持しつつ、皮膚の同じ部位に連続貼付又は繰り返し貼付した際にも皮膚刺激が低い粘着剤層を形成できることが明らかである。