(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-18
(45)【発行日】2023-10-26
(54)【発明の名称】表面材
(51)【国際特許分類】
D06M 15/263 20060101AFI20231019BHJP
B60R 13/02 20060101ALI20231019BHJP
B32B 5/24 20060101ALI20231019BHJP
【FI】
D06M15/263
B60R13/02 B
B60R13/02 C
B32B5/24
(21)【出願番号】P 2019141269
(22)【出願日】2019-07-31
【審査請求日】2022-06-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000229542
【氏名又は名称】日本バイリーン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】松島 貫
(72)【発明者】
【氏名】小林 正樹
【審査官】中西 聡
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-051122(JP,A)
【文献】特開2019-059390(JP,A)
【文献】特開2018-040089(JP,A)
【文献】特開2016-156120(JP,A)
【文献】特開2019-043101(JP,A)
【文献】特開2015-182339(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M
B60R
B32B
C08J
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維集合体と、前記繊維集合体の空隙中に存在する少なくとも二種類のバインダ樹脂とを備える、表面材であって、
前記二種類のバインダ樹脂の各ガラス転移温度は共に0℃よりも低
く、
前記二種類のバインダ樹脂は共に混ざり合った樹脂の状態で、前記繊維集合体の空隙中に存在しており、
更に一方の主面上に有機樹脂を含有する層を備える、表面材
(但し、前記共に混ざり合った樹脂が黒色顔料を含むものを除く)。
【請求項2】
前記繊維集合体における一方の主面ともう一方の主面間の長さに占める、前記繊維集合体における一方の主面からもう一方の主面に向かい前記二種類のバインダ樹脂が存在する部分の長さの百分率が40%よりも多い、請求項1に記載の表面材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内装材や外装材を調製可能な表面材に関する。特に、車両のピラーガーニッシュ、ドア、インストルメントパネル、ステアリングホイール、シフトレバー、コンソールボックス、トノカバー、ラゲッジフロア、ラゲッジサイドなど内装部品の内装材を調製できる、表面材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から自動車など車両用の内装材や外装材を調製できる表面材として、例えば、不織布あるいは織物や編物などの繊維集合体にバインダを付与した表面材が用いられている。そして、例えば金型などの加熱板や加熱ローラなどの加熱手段によって熱、あるいは、熱及び圧力を表面材へ作用させる熱成型工程へ表面材を供することで、表面材を所望の形状に成型して各種内装材や各種外装材が調製されている。
このような表面材として、例えば、特開2015-182339号公報(特許文献1)には、0℃未満のガラス転移温度を有するバインダ樹脂と、0℃以上のガラス転移温度を有するバインダ樹脂を配合したバインダ液を、繊維集合体へ付与してなる熱成型用表皮基材が開示されている。また、特許文献1には、前記二種類のバインダ樹脂を備える熱成型用表皮基材は、成型時の追従性に優れることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本願出願人は上述のような従来技術を参考として、「繊維集合体と、前記繊維集合体の空隙中に存在する少なくとも二種類のバインダ樹脂とを備える、表面材」について検討した。
しかし、このような構成を有する表面材を、熱や圧力を作用させると共に溶融した樹脂の流し込みを行うインジェクション成型のような、一般的な熱成型手段よりも過酷な熱成型手段へ供したところ、表面材の破れや表面への樹脂の染み出しなどが発生して内装材や外装材の成型性が劣るという問題が発生した。
また、当該問題の解決手段を求め、一種類のバインダ樹脂を用いることを検討したところ、成型性は改善されることがあったものの、調製した内装材や外装材の表面に小皺が発生して、表面平滑性に優れる内装材や外装材を提供するのが困難になるという新たな問題が発生した。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は「(請求項1)繊維集合体と、前記繊維集合体の空隙中に存在する少なくとも二種類のバインダ樹脂とを備える、表面材であって、
前記二種類のバインダ樹脂の各ガラス転移温度は共に0℃よりも低く、
前記二種類のバインダ樹脂は共に混ざり合った樹脂の状態で、前記繊維集合体の空隙中に存在しており、
更に一方の主面上に有機樹脂を含有する層を備える、表面材(但し、前記共に混ざり合った樹脂が黒色顔料を含むものを除く)。
(請求項2)前記繊維集合体における一方の主面ともう一方の主面間の長さに占める、前記繊維集合体における一方の主面からもう一方の主面に向かい前記二種類のバインダ樹脂が存在する部分の長さの百分率が40%よりも多い、請求項1に記載の表面材。」である。
【発明の効果】
【0006】
本願出願人が検討を続けた結果「繊維集合体と、前記繊維集合体の空隙中に存在する少なくとも二種類のバインダ樹脂とを備える、表面材」において、当該二種類のバインダ樹脂の各ガラス転移温度に着目することで、上述の問題が解決できることを見出した。
具体的には、当該二種類のバインダ樹脂の各ガラス転移温度が共に0℃よりも低い時に、成型性良く表面平滑性に優れた内装材や外装材を調製可能な、表面材を提供できることを見出した。
【0007】
また、「繊維集合体における一方の主面ともう一方の主面間の長さに占める、前記繊維集合体における一方の主面からもう一方の主面に向かい前記二種類のバインダ樹脂が存在する部分の長さの百分率が40%よりも多い」時に、より表面平滑性に優れた内装材や外装材を調製可能な、表面材を提供できることを見出した。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明では、例えば以下の構成など、各種構成を適宜選択できる。
なお、本発明で説明する各種測定は特に記載のない限り、常圧のもと25℃温度条件下で測定を行った。また、本発明で説明する各種測定結果は特に記載のない限り、求める値よりも一桁小さな値まで測定で求め、当該値を四捨五入することで求める値を算出した。具体例として、少数第一位までが求める値である場合、測定によって少数第二位まで値を求め、得られた少数第二位の値を四捨五入することで少数第一位までの値を算出し、この値を求める値とした。
【0009】
本発明の表面材は、繊維集合体と、前記繊維集合体の空隙中に存在する少なくとも二種類のバインダ樹脂とを備えている。
ここで繊維集合体は主として表面材の骨格を形成する役割を担う部材である。そして、バインダ樹脂は繊維集合体の構成繊維同士を接着一体化させて、繊維集合体の形状が意図せず変形するのを防止する役割や繊維集合体の剛性など、諸物性を向上させる役割を担う。また、後述するような添加剤を繊維集合体(繊維集合体を構成する繊維の表面や、繊維集合体の空隙中)に担持する役割を担うことができる。
【0010】
本発明でいう繊維集合体とは、例えば、繊維ウェブや不織布、あるいは、織物や編み物などの、シート状の布帛である。本発明の表面材は、繊維集合体(特に、全ての構成繊維がランダムに絡合してなる不織布)を含んでいるため柔軟であり、成型性良く表面平滑性に優れた内装材や外装材を調製可能な、表面材を提供できる。なお、全ての構成繊維がランダムに絡合してなる繊維集合体(特に、不織布)を備えた表面材は、より柔軟であり、より成型性良く表面平滑性に優れた内装材や外装材を調製可能な、表面材を提供でき好ましい。
【0011】
繊維集合体の構成繊維は、例えば、ポリオレフィン系樹脂(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、炭化水素の一部をシアノ基またはフッ素或いは塩素といったハロゲンで置換した構造のポリオレフィン系樹脂など)、スチレン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリエーテル系樹脂(例えば、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアセタール、変性ポリフェニレンエーテル、芳香族ポリエーテルケトンなど)、ポリエステル系樹脂(例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリアリレート、全芳香族ポリエステル樹脂など)、ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミド系樹脂(例えば、芳香族ポリアミド樹脂、芳香族ポリエーテルアミド樹脂、ナイロン樹脂など)、二トリル基を有する樹脂(例えば、ポリアクリロニトリルなど)、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリスルホン系樹脂(例えば、ポリスルホン、ポリエーテルスルホンなど)、フッ素系樹脂(例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデンなど)、セルロース系樹脂、ポリベンゾイミダゾール樹脂、アクリル系樹脂(例えば、アクリル酸エステルあるいはメタクリル酸エステルなどを共重合したポリアクリロニトリル系樹脂、アクリロニトリルと塩化ビニルまたは塩化ビニリデンを共重合したモダアクリル系樹脂など)など、公知の樹脂を用いて構成できる。
【0012】
なお、これらの樹脂は、直鎖状ポリマーまたは分岐状ポリマーのいずれからなるものでも構わず、また樹脂がブロック共重合体やランダム共重合体でも構わず、また樹脂の立体構造や結晶性の有無がいかなるものでも、特に限定されるものではない。更には、多成分の樹脂を混ぜ合わせたものでも良い。また、顔料を練り込み調製された繊維や、染色された繊維などの原着繊維であってもよい。
【0013】
なお、表面材に難燃性が求められる場合には、繊維集合体の構成繊維が難燃性の樹脂を含んでいるのが好ましい。このような難燃性の樹脂として、例えば、モダアクリル樹脂、ビニリデン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリフッ化ビニリデン樹脂、ノボロイド樹脂、ポリクラール樹脂、リン化合物を共重合したポリエステル樹脂、ハロゲン含有モノマーを共重合したアクリル樹脂、アラミド樹脂、ハロゲン系やリン系又は金属化合物系の難燃剤を練り込んだ樹脂などを挙げることができる。また、バインダ等を用いることで難燃剤を担持した表面材であってもよい。
【0014】
構成繊維は、例えば、溶融紡糸法、乾式紡糸法、湿式紡糸法、直接紡糸法(メルトブロー法、スパンボンド法、静電紡糸法など)、複合繊維から一種類以上の樹脂成分を除去することで繊維径が細い繊維を抽出する方法、繊維を叩解して分割された繊維を得る方法など公知の方法により得ることができる。
【0015】
構成繊維は、一種類の樹脂から構成されてなるものでも、複数種類の樹脂から構成されてなるものでも構わない。複数種類の樹脂から構成されてなる繊維として、一般的に複合繊維と称される、例えば、芯鞘型、海島型、サイドバイサイド型、オレンジ型、バイメタル型などの態様であることができる。
【0016】
また、構成繊維は、略円形の繊維や楕円形の繊維以外にも異形断面繊維を含んでいてもよい。なお、異形断面繊維として、中空形状、三角形形状などの多角形形状、Y字形状などのアルファベット文字型形状、不定形形状、多葉形状、アスタリスク形状などの記号型形状、あるいはこれらの形状が複数結合した形状などの繊維断面を有する繊維であってもよい。
【0017】
繊維集合体が構成繊維として熱融着性繊維を含んでいる場合には、繊維同士を熱融着することによって、繊維集合体に強度と形態安定性を付与し、毛羽立ちや繊維の飛散を抑制でき好ましい。このような熱融着性繊維は、全融着型の熱融着性繊維であっても良いし、上述した複合繊維のような態様の一部融着型の熱融着性繊維であっても良い。熱融着性繊維において熱融着性を発揮する成分として、例えば、低融点ポリオレフィン系樹脂や低融点ポリエステル系樹脂を含む熱融着性繊維などを適宜選択して使用できる。
【0018】
繊維集合体が捲縮性繊維を含んでいる場合には、伸縮性が増して金型への追従性に優れ好ましい。このような捲縮性繊維として、例えば、潜在捲縮性繊維の捲縮を発現した捲縮性繊維やクリンプを有する繊維などを使用することができる。また、繊維集合体が加熱することで捲縮を発現する潜在捲縮性繊維を含んでいてもよい。
【0019】
繊維集合体が繊維ウェブや不織布である場合、例えば、上述の繊維をカード装置やエアレイ装置などに供することで繊維を絡み合わせる乾式法、繊維を溶媒に分散させシート状に抄き繊維を絡み合わせる湿式法、直接紡糸法(メルトブロー法、スパンボンド法、静電紡糸法、紡糸原液と気体流を平行に吐出して紡糸する方法(例えば、特開2009-287138号公報に開示の方法)など)を用いて繊維の紡糸を行うと共にこれを捕集する方法、などによって調製できる。
【0020】
調製した繊維ウェブの構成繊維を絡合および/または一体化させて不織布を調製できる。構成繊維同士を絡合および/または一体化させる方法として、例えば、ニードルや水流によって絡合する方法、繊維ウェブを加熱処理へ供するなどしてバインダ樹脂あるいは接着繊維によって構成繊維同士を接着一体化あるいは溶融一体化させる方法などを挙げることができる。
【0021】
加熱処理の方法は適宜選択できるが、例えば、ロールにより加熱または加熱加圧する方法、オーブンドライヤー、遠赤外線ヒーター、乾熱乾燥機、熱風乾燥機などの加熱機へ供し加熱する方法、無圧下で赤外線を照射して含まれている樹脂を加熱する方法などを用いることができる。
【0022】
繊維集合体が織物や編物である場合、上述のようにして調製した繊維を織るあるいは編むことで、織物や編物を調製できる。
【0023】
なお、繊維ウェブ以外にも不織布あるいは織物や編物など繊維集合体を、上述した構成繊維同士を絡合および/または一体化させる方法へ供しても良い。
【0024】
繊維集合体の構成繊維の繊度は特に限定するものではないが、剛性に優れる表面材を提供できるように、1dtex以上であることができ、1.5dtex以上であることができ、2dtex以上であることができる。他方、成型性良く表面平滑性に優れた内装材や外装材を調製可能なように、100dtex以下であることができ、50dtex以下であることができ、30dtex以下であることができ、10dtex以下であることができる。
【0025】
また、繊維集合体の構成繊維の繊維長も特に限定するものではないが、剛性の観点から、20mm以上であることができ、25mm以上であることができ、30mm以上であることができる。他方、繊維長が110mmを超えると、繊維集合体の調製時に繊維塊が形成される傾向があり、成型性良く表面平滑性に優れた内装材や外装材を調製するのが困難となるおそれがあることから、110mm以下であるのが好ましく、60mm以下であることができる。なお、「繊維長」は、JIS L1015(2010)、8.4.1c)直接法(C法)に則って測定した値をいう。
【0026】
繊維集合体の、例えば、厚さ、目付などの諸構成は、特に限定されるべきものではなく適宜調整する。
繊維集合体の厚さは、0.5~5mmであることができ、1~3mmであることができ、1.1~1.9mmであることができる。なお、本発明において厚さとは主面と垂直方向へ20g/cm2の圧縮荷重をかけた時の該垂直方向の長さをいう。
また、繊維集合体の目付は、例えば、50~500g/m2であることができ、80~300g/m2であることができ、100~250g/m2であることができる。なお、本発明において目付とは測定対象物の最も広い面積を有する面(主面)における1m2あたりの質量をいう。
【0027】
本発明で使用可能なバインダ樹脂は適宜選択するが、例えば、ポリオレフィン系樹脂(変性ポリオレフィンなど)、エチレンビニルアルコール共重合体、エチレン-エチルアクリレート共重合体などのエチレン-アクリレート共重合体、各種ゴムおよびその誘導体(スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム、ウレタンゴム、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)など)、セルロース誘導体(カルボキシメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなど)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルブチラール(PVB)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリウレタン、エポキシ樹脂、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(PVdF-HFP)、アクリル系樹脂などを使用できる。
バインダ樹脂としてアクリル系樹脂を採用すると、熱成型時に適度に軟化するため金型への追従性に優れる表面材を提供でき好ましい。
【0028】
本発明でいう二種類のバインダ樹脂とは、互いに樹脂種が異なるバインダ樹脂の組み合わせであっても、互いに樹脂種が同じであるが分子量や側鎖などの化学構造が異なるバインダ樹脂(例えば、化学構造が異なることでガラス転移温度の異なるアクリル系樹脂同士)の組み合わせであってもよい。
【0029】
本発明にかかる表面材において繊維集合体の空隙中に存在する、少なくとも二種類のバインダ樹脂の態様は本発明の効果が発揮されるよう適宜選択するが、より成型性良く表面平滑性に優れた内装材や外装材を調製可能な表面材を提供できるよう、バインダ樹脂は共に混ざり合った状態で存在しているのが好ましい。このようなバインダ樹脂の存在態様は、後述するように、少なくとも二種類のバインダ樹脂を含んだバインダ液を繊維集合体に付与し、繊維集合体の空隙中に染み込ませることで調製できる。
【0030】
更に、本発明では、二種類のバインダ樹脂(以降、一例としてバインダ樹脂Aおよびバインダ樹脂Bと称することがある)の各ガラス転移温度が共に0℃よりも低い。本願出願人は、上述の構成を満足することによって、成型性良く表面平滑性に優れた内装材や外装材を調製可能な、表面材を提供できることを見出した。この理由は完全に明らかとなっていないが、ガラス転移温度が0℃よりも低いバインダ樹脂は柔らかい性質を有するため、熱成型工程において加熱を受けた際に流動し易い。つまり、熱成型工程において繊維集合体の繊維交点が柔軟に動くことができる。そのため、前記繊維集合体を備える本発明の表面材は、熱成型工程において追従性に富むものとなり、破れやそれに起因する表面への樹脂の染み出しの発生、また、調製した内装材や外装材の表面に小皺が発生するのが防止されていると考えられる。
【0031】
各バインダ樹脂のガラス転移温度は、上述の構成を満足するのであれば適宜調整できるものであり、ガラス転移温度は-60℃~0℃未満の範囲をとることができ、-50℃~-5℃の範囲をとることができ、-40℃~-15℃の範囲をとることができ、-30℃~-20℃の範囲をとることができる。加えて、各バインダ樹脂のガラス転移温度が異なっていると、成型性良く表面平滑性に優れた内装材や外装材を調製可能な表面材を提供でき好ましい。当該ガラス転移温度の差は適宜調整でき、その温度差は0~55℃の範囲をとることができ、5℃~50℃の範囲をとることができ、10℃~40℃の範囲をとることができ、20℃~30℃の範囲をとることができる。
なお、本発明でいうガラス転移温度(以降、Tgと称することがある)とは、測定対象となる樹脂を示差熱分析計(DTA)へ供し測定されたDTA曲線におけるベースラインの接線と、ガラス転移による吸熱領域の急峻な下降位置の接線との交点にあたる温度をいう。
【0032】
また、繊維集合体の空隙中には三種類以上のバインダ樹脂が存在していてもよい。このとき、当該三種類以上のバインダ樹脂の内、二種類のバインダ樹脂の組み合わせが本発明の構成を満足しているのであれば、本発明の構成を満足するものである。
【0033】
バインダ樹脂は、例えば、難燃剤、香料、顔料、抗菌剤、抗黴材、光触媒粒子、シリカなど無機粒子、加熱され発泡する粒子あるいは既発泡粒子など中空粒子、乳化剤、分散剤、界面活性剤などの添加剤を含有していてもよい。
【0034】
繊維集合体の空隙中に存在する各バインダ樹脂の配合は、本発明の目的が達成できるよう適宜調整できるが、例えば、バインダ樹脂Aおよびバインダ樹脂Bが存在する場合、バインダ樹脂Aの質量:バインダ樹脂Bの質量は、10:90~90:10の範囲であることができ、30:70~70:30の範囲であることができ、40:60~60:40の範囲であることができる。
【0035】
表面材に含まれているバインダ樹脂の目付は適宜選択する。具体的にバインダ樹脂の目付は2g/m2以上であることができる。また、バインダ樹脂の目付は50g/m2以下であることができ、30g/m2以下であることができ、20g/m2以下であることができる。
【0036】
繊維集合体において、本発明にかかる少なくとも二種類のバインダ樹脂が存在する態様は適宜調整でき、繊維集合体全体に均一的に存在している態様、繊維集合体の一部分に偏在している態様などであることができる。
【0037】
特に、本願出願人は、繊維集合体における一方の主面ともう一方の主面間の長さに占める、前記繊維集合体における一方の主面からもう一方の主面に向かい前記二種類のバインダ樹脂が存在する部分の長さの百分率(以降、含浸率と称することがある)が40%よりも多い時に、より表面平滑性に優れた内装材や外装材を調製可能な、表面材を提供できることを見出した。
この理由は完全に明らかとなっていないが、インジェクション成型のような過酷な熱成型手段へ供した時に、含浸率が少ない表面材ではバインダ樹脂が存在していない部分に意図せず大きな変形が発生し易い。そして、含浸率が少ない(バインダ樹脂が繊維集合体における一方の主面側の空隙中に偏在している)繊維集合体では、前記バインダ樹脂が存在していない部分の大きな変形に引きずられ、バインダ樹脂が偏在している側の主面に小皺が発生して、表面平滑性に優れる内装材や外装材を提供するのが困難になると考えられる。
【0038】
一方、含浸率が40%よりも多いときに、バインダ樹脂が偏在している側の主面に小皺が発生するのを防止して、表面平滑性に優れる内装材や外装材を提供できることを見出した。また、含浸率が50%以上であるときに本効果がより効果的に発揮されることを見出した。特に、含浸率が100%であるときに、表面材を構成する繊維集合体全体において熱成型時の変形のし易さを、当該繊維集合体の全体において均一化できるため、本効果が最も効果的に発揮されることを見出した。
【0039】
なお、含浸率は、表面材を構成する繊維集合体を以下の測定へ供することで算出できる。
(含浸率の算出方法)
(1)表面材を構成する、バインダ樹脂を空隙中に備えた繊維集合体を用意した、あるいは、当該繊維集合体を備えた表面材を用意した。
(2)当該繊維集合体または表面材を、カヤステインQ(日本化薬(株)製)などの色素で着色した。
(3)当該繊維集合体または表面材の厚さ方向(主面と垂直をなす方向)の断面における、バインダ樹脂の分布状態を目視や光学顕微鏡で確認した。
(4)当該繊維集合体の厚さA(換言すれば、繊維集合体における一方の主面ともう一方の主面間の長さ)を算出した。なお、厚さAは、表皮材の厚さ方向の断面を光学顕微鏡で観察し無作為に選んだ10点における、両主面間の最短距離の算術的平均値である。
(5)当該繊維集合体における一方の主面からもう一方の主面に向かいバインダ樹脂が存在する部分の長さBを算出した。なお、厚さBは、表皮材の厚さ方向の断面を光学顕微鏡で観察し無作為に選んだ10点における、一方の主面(バインダ樹脂を付与した側の主面)から、当該主面を始点として表面材の厚さ方向へ向かう直線上に現れた、バインダ樹脂が存在していない部分までの最短距離の、算術的平均値である。
(6)当該繊維集合体の厚さAに占める、バインダ樹脂が存在する部分の長さBの百分率(100×B/A)を算出し、含浸率(単位:%)とした。
【0040】
また、上述の通り含浸率の値は40%よりも多い方がより好ましいものの、含浸率の値は5%以上であることができ、10%以上であることができ、20%以上であることができ、30%以上であることができる。なお、含浸率の値が5%以上である繊維集合体を備えた表面材であることによって、熱成型手段へ供した際に、表面材の破れや表面への樹脂の染み出しなどが発生するのを防止して、成型性に優れる内装材や外装材を提供でき好ましい。
【0041】
繊維集合体において、バインダ樹脂は均一的に存在しているのが好ましい。具体例として、繊維集合体における一方の主面側に存在するバインダ樹脂の密度や分散状態と、繊維集合体におけるもう一方の主面側に存在するバインダ樹脂の密度や分散状態、ならびに、繊維集合体における両主面間に存在するバインダ樹脂の密度や分散状態が同等(より好ましくは同一)であるのが好ましい。なお、繊維集合体に存在するバインダ樹脂の密度や分散状態は、上述した測定の工程(3)において確認できる。
【0042】
このようなバインダ樹脂の存在態様は、後述するように、繊維集合体の一方の主面へ少なくとも二種類のバインダ樹脂を含んだバインダ液を付与する、または、少なくとも二種類のバインダ樹脂を含んだバインダ液へ繊維集合体を含浸することで調製できる。
【0043】
表面材の目付、厚さなどの諸物性は、本発明の目的が達成できるよう適宜調整でき、目付が軽すぎると成型時に破れや染み出しが発生する恐れがあること、重すぎると熱成型工程に大きな外力が必要となることから、例えば、目付は140~260g/m2であることができ、150~250g/m2であることができ、160~250g/m2であることができる。また、厚さは1~2mmであることができ、1.5~1.8mmであることができ、1.5~1.6mmであることができる。
【0044】
本発明の表面材は以上の構成を有しているが、表面材は少なくとも一方の主面上に更にプリント層やトップコート層を有してもよい。
【0045】
ここでいうプリント層とは、主として表面材へ柄や色を付与する役目を担う顔料と樹脂を含有する層を指し、上述したバインダ樹脂と同様の樹脂を採用できる。特に、金型を用いたヒートプレス等の熱成型時に適度に軟化するため、金型への追従性に優れる表面材を提供できることから、プリント層を構成する樹脂がアクリル系樹脂を含んでいるのが好ましく、プリント層を構成する樹脂がアクリル系樹脂のみであるのがより好ましい。なお、プリント層は顔料とその樹脂以外に上述した添加剤を含有していてもよい。
【0046】
また、プリント層の態様は適宜選択でき、表面材の主面全面を覆うように存在している態様、格子状などのパターンを有する柄や線状やドット状あるいは不定形状などの柄を形成するように当該主面の一部を覆い存在している態様であることができる。また、プリント層は顔料と樹脂を含有する一種類の層を備えていても、一種類あるいは複数種類の顔料と樹脂を含有する層を複数備えていても良く、具体的には、色や柄、樹脂や含有物が同一あるいは異なるプリント層を複数層備えていても良い。なお、プリント層は表面材の両主面上に存在していても良い。
【0047】
プリント層の目付は適宜選択するが、例えば、2~50g/m2であることができ、10~30g/m2であることができる。
【0048】
ここでいうトップコート層とは、主として表面材を保護する役目を担う有機樹脂を含有する層を指し、上述したバインダ樹脂と同様の有機樹脂を採用できる。特に、熱成型時に適度に軟化するため、金型への追従性に優れる表面材を提供できることから、トップコート層を構成する有機樹脂がアクリル系樹脂を含んでいるのが好ましく、トップコート層を構成する有機樹脂がアクリル系樹脂のみであるのがより好ましい。なお、トップコート層はその有機樹脂以外に上述した添加剤を含有していてもよい。また、トップコート層を構成する有機樹脂のガラス転移温度も適宜調整するが、熱成型時に適度に軟化して、金型への追従性に優れる表面材を提供し易くなることから、ガラス転移温度は0℃よりも低いのが好ましい。
【0049】
トップコート層を有する表面材であると、耐摩耗性に優れる内装材や外装材を調製可能な表面材を提供でき好ましい。また、トップコート層の態様は適宜選択できるが、より耐摩耗性に優れる内装材や外装材を調製できるように、表面材の主面全面を覆うように存在しているのが好ましい。
【0050】
トップコート層の目付は適宜選択するが、例えば、2~50g/m2であることができ、10~30g/m2であることができる。
【0051】
表面材はそのまま熱成型工程へ供することができるが、用途や使用態様に合わせて形状を打ち抜くなどして加工する工程や、リライアントプレス処理などの厚さや表面の平滑性といった諸物性を調整する工程などの、各種二次工程へ供してから熱成型工程へ供してもよい。また、他の部材(別の繊維集合体、フィルムなど)と積層一体化してから熱成型工程へ供してもよい。
【0052】
次に、本発明の表面材の製造方法について説明する。なお、上述した項目と構成を同じくする点については説明を省略する。
本発明にかかる表面材の製造方法は適宜選択できるが、一例として、
(1)繊維集合体を用意する工程、
(2)少なくとも二種類のバインダ樹脂(または、少なくとも二種類のバインダ樹脂が混合してなる混合バインダ)を溶媒に溶解してなる溶液、あるいは、分散媒に分散してなる分散液(以降、合わせてバインダ液と称することがある)を用意する工程、
(3)繊維集合体へ当該バインダ液を付与する工程、
(4)当該バインダ液を付与した繊維集合体を加熱することで、バインダ液中の溶媒あるいは分散媒を除去して、繊維集合体の空隙中に少なくとも二種類のバインダ樹脂を存在させる工程、
を備える、表面材の製造方法を挙げることができる。
【0053】
工程(1)について説明する。
繊維集合体として、例えば、繊維ウェブや不織布、あるいは、織物や編み物などの、シート状の布帛を用意する。なお、繊維集合体における構成繊維の繊度や繊維長、繊維集合体の厚さや目付は上述した数値のものを採用できる。
【0054】
工程(2)について説明する。
溶媒あるいは分散媒の種類は適宜選択できるが、繊維集合体へバインダ液を好適に付与できるよう、バインダ樹脂が溶解できると共に繊維集合体が溶解しない溶媒を採用する、あるいは、バインダ樹脂が分散できると共に繊維集合体が溶解しない溶媒を採用するのが好ましい。また、バインダ液に占めるバインダ樹脂の濃度は、繊維集合体へバインダ液を好適に付与できるよう、適宜調整する。
また、プリント液中に添加剤を溶解あるいは分散させ含有していてもよい。
【0055】
工程(3)について説明する。
繊維集合体へプリント液を付与する方法は適宜選択できるが、繊維集合体の一方の主面にそのまま、あるいは泡立てた状態で、スプレーや含浸ロールなどを用いて散布あるいは塗布する方法、繊維集合体の一方の主面を浸漬する方法、プリント液へ繊維集合体を含浸する方法などを採用できる。
【0056】
工程(4)について説明する。
溶媒あるいは分散媒を除去する方法は適宜選択できるが、例えば、オーブンドライヤー、遠赤外線ヒーター、乾熱乾燥機、熱風乾燥機などの加熱機へ供し加熱する、室温雰囲気下や減圧雰囲気下に静置するなどして、溶媒あるいは分散媒を蒸発させ除去できる。溶媒あるいは分散媒を除去する際の加熱温度は、溶媒あるいは分散媒が揮発可能な温度であると共に、バインダ樹脂により繊維集合体の構成繊維同士を接着一体化できるよう、加熱温度の下限を調整する。また、繊維集合体や添加剤の形状や機能などが意図せず低下することがないよう、加熱温度の上限を調整する。
また、加熱を受け発泡する粒子を備えている場合には、本工程によって当該粒子を発泡させてもよい。
【0057】
このようにして、繊維集合体の空隙中に少なくとも二種類のバインダ樹脂を混在した状態で備えた、表面材を調製できる。
上述の工程を経ることで表面材を調製できるが、上述の工程の後、
(5)表面材へプリント層を形成可能な溶液や分散液(以降、合わせてプリント液と称することがある)を付与することで、一方の主面上に模様状のプリント層あるいは一方の主面上の全面にプリント層を形成する工程、
へ供しても良い。
また、更に、工程(4)の後あるいは工程(5)の後、
(6)表面材へトップコート層を形成可能な溶液や分散液(以降、合わせてトップコート層形成液と称することがある)を付与することで、一方の主面上の全面にトップコート層を形成する工程、
へ供しても良い。
【0058】
上述のようにして調製された表面材を熱成型手段へ供することで、内装材や外装材を調製できる。特に、インジェクション成型を行う場合には、熱や圧力を作用させると共に溶融した樹脂を流し込むが、成型性良く表面平滑性に優れた内装材や外装材を調製できるよう、表面材におけるプリント層やトップコート層が存在していない主面側に樹脂を流し込み、インジェクション成型を行うのが好ましい。
なお、熱成型手段へ供する前後において、表面材あるいは内装材や外装材を打ち抜いたり切り抜く、あるいは立体的な形状を付与するなど、二次加工へ供しても良い。
【実施例】
【0059】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0060】
(繊維集合体の調製)
原着ポリエステル繊維(繊度:2.2dtex、繊維長:38mm)を100%用いて、カード機により開繊して繊維ウェブを形成した後、片面から針密度400本/m2でニードルパンチ処理を行い、その後、熱ロール間(ギャップ間隔:0.6mm、ロール加熱温度:165℃)へ供することで、繊維集合体としてニードルパンチ不織布(目付:160g/m2、厚さ:1.5mm)を調製した。
【0061】
(バインダ樹脂液の調製)
表1の組成を有する各種バインダ液を調製した。
【0062】
【0063】
(トップコート層形成液の調製)
以下の組成を有するトップコート層形成液を調製した。
有機樹脂分散液(固形分濃度:45質量%):11.25質量部
増粘剤B:0.39質量部
増粘剤C:1.00質量部
消泡剤:0.50質量部
アンモニア水:1.00質量部
水:85.86質量部
【0064】
(実施例1)
ニードルパンチ不織布のニードリングを施した面とは反対の面から、バインダ液1を泡立てた状態で塗布し、ロール間(ギャップ間隔:0.25mm)へ供した後、温度160℃のキャンドライヤーで乾燥することで、アクリル系樹脂により原着ポリエステル繊維同士を接着一体化させ、表面材(目付:185g/m2、厚さ:1.5mm)を調製した。
このようにして調製した表面材は、ニードルパンチ不織布の空隙中に二種類のバインダ樹脂(アクリル系樹脂Aおよびアクリル系樹脂D)が混在しているものであった。なお、使用したバインダ液由来の、二種類のバインダ樹脂が混ざり合ってなる混合バインダのガラス転移温度は、-25℃~-15℃の範囲を有するものであると考えられた。
更に、表面材のバインダ液を塗布した側の主面全面に、トップコート層形成液を均一となるように付与し、温度160℃のドライヤーで乾燥することで、表面材の一方の主面上全面にトップコート層を形成した。トップコート層を備えた表面材の目付は200g/m2、厚さは1.5mmであった。
なお、トップコート層を形成する有機樹脂は表面材の主面上にのみ存在しているものであり、トップコートを構成する有機樹脂をバインダ樹脂とみなして(含浸率の算出方法)へ供し算出された含浸率は1%であった。
【0065】
(比較例1)
バインダ液1の替わりにバインダ液2を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、トップコート層を備えた表面材(目付:200g/m2、厚さ:1.5mm)を調製した。
なお、トップコート層を形成する有機樹脂は表面材の主面上にのみ存在しているものであり、トップコートを構成する有機樹脂をバインダ樹脂とみなして(含浸率の算出方法)へ供し算出された含浸率は1%であった。
【0066】
(比較例2)
バインダ液1の替わりにバインダ液3を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、トップコート層を備えた表面材(目付:200g/m2、厚さ:1.5mm)を調製した。
なお、トップコート層を形成する有機樹脂は表面材の主面上にのみ存在しているものであり、トップコートを構成する有機樹脂をバインダ樹脂とみなして(含浸率の算出方法)へ供し算出された含浸率は1%であった。
【0067】
(比較例3)
バインダ液1の替わりにバインダ液4を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、トップコート層を備えた表面材(目付:200g/m2、厚さ:1.5mm)を調製した。
なお、トップコート層を形成する有機樹脂は表面材の主面上にのみ存在しているものであり、トップコートを構成する有機樹脂をバインダ樹脂とみなして(含浸率の算出方法)へ供し算出された含浸率は1%であった。
【0068】
(比較例4)
バインダ液1の替わりにバインダ液5を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、トップコート層を備えた表面材(目付:200g/m2、厚さ:1.5mm)を調製した。
なお、トップコート層を形成する有機樹脂は表面材の主面上にのみ存在しているものであり、トップコートを構成する有機樹脂をバインダ樹脂とみなして(含浸率の算出方法)へ供し算出された含浸率は1%であった。
【0069】
上述のようにして調製したトップコート層を備えた表面材について、各種物性を評価し表2にまとめた。
【0070】
(成型性の評価方法)
トップコート層を備えた表面材を全自動射出成型機へ供し、トップコート層が存在していない側に溶融したポリプロピレン樹脂を射出して、インジェクション成型を行った。その後、冷却して内装材(外装材)を調製した。
そして、調製した内装材(外装材)における、溶融したポリプロピレン樹脂を射出した側と反対側の主面を目視で観察した。
観察の結果、当該主面に破れの発生が認められた場合には、成型性に劣る表面材であったとして、表中に「×」を記載した。
一方、観察の結果、当該主面に破れの発生が認められなかった場合には、成型性に優れる表面材であったとして、表中に「〇」を記載した。
【0071】
(表面平滑性の評価方法)
上述した(成型性の評価方法)において調製した内装材(外装材)における、溶融したポリプロピレン樹脂を射出した側と反対側の主面を目視で観察した。
観察の結果、当該主面に小皺の発生が認められた場合には、表面平滑性に優れる内装材(外装材)を調製できない表面材であったとして、表中に「×」を記載した。
一方、観察の結果、当該主面に小皺の発生が認められなかった場合には、表面平滑性に優れる内装材(外装材)を調製できる表面材であったとして、表中に「〇」を記載した。
【0072】
(耐摩耗性の評価方法)
JIS L0849:2004(摩擦に対する染色堅ろう度試験方法)に従い、上述した(成型性の評価方法)において調製した内装材(外装材)における、溶融したポリプロピレン樹脂を射出した側と反対側の主面の耐磨耗性試験を行った。
なお、摩擦試験機、摩擦布、摩耗子にかける荷重、摩擦回数は次の通りとした。
(1)摩擦試験機:摩擦試験機II形(学振型)に準拠した装置。
(2)摩擦布:面ファスナーのフックを有する側の面(A面またはオス面)を、測定対象と接触させ試験を行った。
(3)摩耗子にかける荷重:1kg。
(4)摩擦回数:10往復(速度:60往復/分)。
試験後の溶融したポリプロピレン樹脂を射出した側と反対側の表面を目視で観察し、以下の基準で評価した。
5級:試験前後で変化は認められなかった。
4級:試験前に比べ、試験後では当該表面の部分的に毛羽立ち(毛羽立ちの高さ:5mm以下)の発生が確認された。
3級:試験前に比べ、試験後では当該表面の全体に毛羽立ち(毛羽立ちの高さ:5mm以下)の発生が確認された。
【0073】
【0074】
実施例と比較例を比較した結果から、少なくとも二種類のバインダ樹脂が繊維集合体の空隙中に存在していると共に、前記二種類のバインダ樹脂の各ガラス転移温度が共に0℃よりも低いときに、成型性と表面平滑性に優れる表面材を提供できることが判明した。
また、実施例の表面材は、耐摩耗性にも優れるものであった。
【0075】
(バインダ樹脂液の調製)
表3の組成を有する各種バインダ液を調製した。
【0076】
【0077】
(実施例2)
バインダ液1の替わりにバインダ液6を用いたこと、また、塗布するバインダ液の泡立ち具合を変更したこと以外は、実施例1と同様にして、トップコート層を備えた表面材(目付:200g/m2、厚さ:1.5mm)を調製した。
このようにして調製した表面材は、ニードルパンチ不織布の空隙中に二種類のバインダ樹脂(アクリル系樹脂Aおよびアクリル系樹脂D)が混在しているものであった。なお、使用したバインダ液由来の、二種類のバインダ樹脂が混ざり合ってなる混合バインダのガラス転移温度は、-25℃~-15℃の範囲を有するものであると考えられた。
なお、トップコート層を形成する有機樹脂は表面材の主面上にのみ存在しているものであり、トップコートを構成する有機樹脂をバインダ樹脂とみなして(含浸率の算出方法)へ供し算出された含浸率は1%であった。
【0078】
(比較例5)
バインダ液1の替わりにバインダ液7を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、トップコート層を備えた表面材(目付:200g/m2、厚さ:1.5mm)を調製した。
なお、トップコート層を形成する有機樹脂は表面材の主面上にのみ存在しているものであり、トップコートを構成する有機樹脂をバインダ樹脂とみなして(含浸率の算出方法)へ供し算出された含浸率は1%であった。
【0079】
(比較例6)
バインダ液1の替わりにバインダ液8を用いたこと、また、塗布するバインダ液の泡立ち具合を変更したこと以外は、実施例1と同様にして、トップコート層を備えた表面材(目付:200g/m2、厚さ:1.5mm)を調製した。
なお、トップコート層を形成する有機樹脂は表面材の主面上にのみ存在しているものであり、トップコートを構成する有機樹脂をバインダ樹脂とみなして(含浸率の算出方法)へ供し算出された含浸率は1%であった。
【0080】
(比較例7)
ニードルパンチ不織布のニードリングを施した面とは反対の面から、バインダ液7を泡立てた状態で塗布し、ロール間(ギャップ間隔:0.25mm)へ供した後、温度160℃のキャンドライヤーで乾燥することで、アクリル系樹脂により原着ポリエステル繊維同士を接着一体化させ、表面材(目付:175g/m2、厚さ:1.5mm)を調製した。
このようにして調製した表面材は、ニードルパンチ不織布の空隙中に一種類のバインダ樹脂が存在しているものであった。
更に、表面材のバインダ液を塗布した側の主面全面に、トップコート層形成液を均一となるように付与し、温度160℃のドライヤーで乾燥することで、表面材の一方の主面上全面にトップコート層を形成した。トップコート層を備えた表面材の目付は190g/m2、厚さは1.5mmであった。
なお、トップコート層を形成する有機樹脂は表面材の主面上にのみ存在しているものであり、トップコートを構成する有機樹脂をバインダ樹脂とみなして(含浸率の算出方法)へ供し算出された含浸率は1%であった。
【0081】
(比較例8)
バインダ液7の替わりにバインダ液8を用いたこと、また、塗布するバインダ液の泡立ち具合を変更したこと以外は、比較例7と同様にして、トップコート層を備えた表面材(目付:190g/m2、厚さ:1.5mm)を調製した。
なお、トップコート層を形成する有機樹脂は表面材の主面上にのみ存在しているものであり、トップコートを構成する有機樹脂をバインダ樹脂とみなして(含浸率の算出方法)へ供し算出された含浸率は1%であった。
【0082】
上述のようにして調製したトップコート層を備えた表面材について、各種物性を評価し表4にまとめた。なお、理解をし易くするため、実施例1の評価結果も併せて表中に記載した。
【0083】
【0084】
含浸率が40%であった比較例8のトップコート層を備えた表面材は、含浸率が100%であった比較例7よりも表面平滑性に劣るものであった。一方、含浸率が40%よりも高い実施例および比較例5~7は、いずれも表面平滑性に優れるものであった。
このことから、含浸率が40%よりも多い(より好ましくは50%以上である)ことによって、より表面平滑性に優れた内装材や外装材を調製可能な、表面材を提供できることが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明の表面材は、内装材や外装材を調製可能な表面材である。特に、車両のピラーガーニッシュ、ドア、インストルメントパネル、ステアリングホイール、シフトレバー、コンソールボックス、トノカバー、ラゲッジフロア、ラゲッジサイドなど内装部品の内装材を調製できる、表面材である。