(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-18
(45)【発行日】2023-10-26
(54)【発明の名称】アルコール代謝促進用組成物
(51)【国際特許分類】
A23L 33/19 20160101AFI20231019BHJP
A61K 38/00 20060101ALI20231019BHJP
A61K 38/40 20060101ALI20231019BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20231019BHJP
A61P 3/00 20060101ALI20231019BHJP
A61P 3/06 20060101ALI20231019BHJP
A61P 13/00 20060101ALI20231019BHJP
A61P 15/08 20060101ALI20231019BHJP
【FI】
A23L33/19
A61K38/00
A61K38/40
A61P1/16
A61P3/00
A61P3/06
A61P13/00
A61P15/08
(21)【出願番号】P 2019155895
(22)【出願日】2019-08-28
【審査請求日】2022-07-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000006127
【氏名又は名称】森永乳業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】織田 浩嗣
【審査官】手島 理
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-247474(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第101623032(CN,A)
【文献】国際公開第2003/057245(WO,A1)
【文献】Food and Chemical Toxicology,2012年,Vol.50,p.1377-1383
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
A61K
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウシラクトフェリン及び/又は
ウシラクトフェリン加水分解物を有効成分として含有する、アルコール代謝促進用組成物
(ただし、牛乳、レシチン、水溶性食物繊維、及び大豆ポリペプチドを含有する組成物を除く)。
【請求項2】
肝機能を評価する酵素値の改善のための、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記酵素がAST又はALTである、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
アルコール代謝の低下又は異常に起因する疾患又は症状の予防に用いられる、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記疾患又は症状が、アルコール性肝障害、アルコール性鉄欠乏、アルコール性精巣障害、高尿酸血症、二日酔い、高コレステロール血症から選択される何れかである、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
飲食品である、請求項1~5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
医薬品である、請求項1~5のいずれか一項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラクトフェリン及び/又はラクトフェリン加水分解物を含有する、アルコール代謝促進のために用いられる組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
アルコール飲料は、古くから人々に親しまれているが、その過剰な摂取は望ましくない症状を引き起こすことがある。摂取したエタノール(アルコール)は、肝臓の酵素であるアルコールデヒドロゲナーゼ(ADH)によりアセトアルデヒドに代謝された後、アセトアルデヒドデヒドロゲナーゼ(ALDH)により酢酸に代謝され、無毒化される。過剰な飲酒では、エタノールやアセトアルデヒドの代謝が追い付かず、悪酔いや二日酔いを引き起こし、翌日以降にも頭痛やめまい、吐き気、脱水症状等が続くことがある。また、長期にわたって過剰な飲酒が続くと、肝臓にダメージが蓄積し、肝機能障害や高尿酸血症・痛風等の発症に至ることもある。アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)やアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)等の肝機能を評価する酵素値は、健康診断における生化学検査でもなじみがある指標であるため、肝機能評価値の改善には一般に関心が高い。これらの症状や肝機能評価値の悪化はいずれも、摂取したエタノールとその中間代謝物であるアセトアルデヒドの毒性に起因することがあるため、アルコールの代謝を促し、速やかに無毒化すことが有効な解消手段となる。
これまでに、アルコール代謝を促進するための種々の有効成分が提案されている(特許文献1~4等)。
【0003】
ところで、近年、乳タンパク質の一つであるラクトフェリン(以下、「LF」とも記す)及びその加水分解物には種々の機能が見出されており、機能性飲食品や医薬品へ適用されている(特許文献5等)。
LF及びその加水分解物に見出された機能としては、アルコールに起因しない肝機能障害の改善効果、具体的にはインターロイキン(IL)-11産生誘導による薬剤誘導性の肝障害改善効果や、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)改善効果も報告されている(特許文献6~7、非特許文献1)。
しかしながら、LF及びその加水分解物が、アルコール代謝を促進し得ることは知られていなかったし、アルコール代謝の低下又は異常に起因する疾患又は症状に対する有効性も知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平11-276116号公報
【文献】特開2002-161045号公報
【文献】特開2001-226277号公報
【文献】国際公開第2012/029898号
【文献】特許第5875603号
【文献】国際公開第2000/06192号
【文献】特開2008―214265号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】桑田英文(株式会社NRLファーマ)ifia JAPAN 2016 日本ラクトフェリン学会セミナーテキストp.7-8
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、アルコール代謝を促進する技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、ラクトフェリン及び/又はラクトフェリン加水分解物を摂取又は投与することにより、摂取したアルコールの代謝が促進することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、ラクトフェリン及び/又はラクトフェリン加水分解物を有効成分として含有する、アルコール代謝促進用組成物である。
好ましい態様では、本発明の組成物は肝機能を評価する酵素値の改善のために用いられる。かかる態様において、前記酵素はAST又はALTであることが好ましい。
別の好ましい態様では、本発明の組成物は、アルコール代謝の低下又は異常に起因する疾患又は症状の予防に用いられる。かかる態様において、前記疾患又は症状は、アルコール性肝障害、アルコール性鉄欠乏、アルコール性精巣障害、高尿酸血症、二日酔い、高コレステロール血症から選択される何れかであることが好ましい。
本発明の組成物は、飲食品であることが好ましい。
本発明の組成物は、医薬品であることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、アルコールの代謝を促進させることができる組成物が提供される。かかる組成物は、添加物等の態様で、飲食品や医薬品に含有させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】ラットのアルコール性肝障害モデルの14及び28日目の血清AST値を示すグラフ。(n=8、p<0.01:エタノール群と比較して有意差があることを示す)
【
図2】ラットのアルコール性肝障害モデルの14及び28日目の血清ALT値を示すグラフ。(n=8、p<0.01、p<0.05:エタノール群と比較して有意差があることを示す)
【
図3】ラットのアルコール性肝障害モデルの14及び28日目の血清中性脂肪(TG)値を示すグラフ。(n=8、p<0.05:エタノール群と比較して有意差があることを示す)
【
図4】ラットのアルコール性肝障害モデルの14及び28日目の血清総コレステロール(T-CHO)値を示すグラフ。(n=8、p<0.01、p<0.05:エタノール群と比較して有意差があることを示す)
【
図5】ラットのアルコール性肝障害モデルの解剖時の血清尿酸値を示すグラフ。(n=8、p<0.05:エタノール群と比較して有意差があることを示す)
【
図6】ラットのアルコール性肝障害モデルの左右精巣重量(体重100gあたりの相対量)を示すグラフ。(n=8、p<0.01:エタノール群と比較して有意差があることを示す)
【
図7】ラットのアルコール性肝障害モデルの肝臓の鉄含量(肝臓1gあたりの相対量)を示すグラフ。(n=8)
【
図8】ラットのアルコール性肝障害モデルの肝臓におけるアルコール代謝酵素であるアルコールデヒドロゲナーゼ遺伝子(adh1)の発現量(内在性コントロールgapdhに対する相対量)を示すグラフ。(n=8、p<0.01、p<0.05:エタノール群と比較して有意差があることを示す)
【
図9】ラットのアルコール性肝障害モデルの肝臓におけるアルコール代謝酵素であるアセトアルデヒドデヒドロゲナーゼ遺伝子(aldh2)の発現量(内在性コントロールgapdhに対する相対量)を示すグラフ。(n=8、p<0.01:エタノール群と比較して有意差があることを示す)
【
図10】ヒトにおけるエタノールを摂取して60分後、90分後、及び120分後の呼気に含まれるエタノール濃度を示すグラフ(n=1)。
【
図11】ヒトにおけるエタノールを摂取して60分後、90分後、及び120分後の呼気に含まれるアセトアルデヒド濃度を示すグラフ(n=1)。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に、本発明を詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されず、本発明の範囲内で自由に変更することができるものである。
【0012】
本発明の組成物は、ラクトフェリン及び/又はラクトフェリン加水分解物を有効成分として含有する。
【0013】
ラクトフェリンは、哺乳動物、例えば、ヒツジ、ヤギ、ブタ、マウス、水牛、ラクダ、ヤク、ウマ、ロバ、ラマ、ウシ又はヒトの乳、涙、唾液、血液等に含まれる鉄結合性の糖タンパク質である。
本発明におけるラクトフェリンは、いずれの哺乳動物に由来するものであってもよく、特に限定されないが、含有量や入手容易性の点から、例えば、ウシ、ヒト等の乳由来のラクトフェリンが好ましい。前記乳としては、初乳、移行乳、常乳、末期乳のいずれでもよい。
また、本発明におけるラクトフェリンは、前記乳の処理物である脱脂乳、ホエイ等から常法(例えば、イオンクロマトグラフィー等)によって分離されたラクトフェリン、遺伝子操作によって微生物、動物細胞、トランスジェニック動物等から産生された組換えラクトフェリン、合成ラクトフェリン、又はそれらの混合物でもよい。また、ラクトフェリンは、非グリコシル化又はグリコシル化されたものでもよい。このようなラクトフェリンとして、工業的規模で製造されている市販のラクトフェリン(例えば、森永乳業社製等)を使用することができる。
【0014】
本発明におけるラクトフェリン中の金属含有量は特に限定されず、ラクトフェリンを塩酸やクエン酸等により脱鉄したアポ型ラクトフェリン;該アポ型ラクトフェリンを、鉄、銅、亜鉛、マンガン等の金属でキレートさせて得られる飽和度100%以上の状態の金属飽和型ラクトフェリン;及び100%未満の各種飽和度で金属が結合している状態の金属部分飽和型ラクトフェリンからなる群から選ばれる、いずれか1種又は2種以上の混合物を用いることができる。
【0015】
ここで、本技術に用いられるラクトフェリンの調製(乳等の原料からのラクトフェリンの分離、精製)方法の一例を以下に示すが、これに限定されるものではない。
ウシ由来の乳原料を陽イオン交換カラムに通液し、この通過液を回収し、適宜この通過液を繰り返しカラムに通液する。このカラムに脱イオン水を通液し、食塩水を通液し、この陽イオン交換カラムに吸着した塩基性タンパク質の溶出液を得る。この溶出液からタンパク質を回収し、適宜洗浄し、脱イオン水にて溶解し、この溶解液を限外ろ過膜にてろ過する。さらに、脱塩処理、凍結乾燥することで、粉末状のラクトフェリンが得られる。
【0016】
より詳細には、まず、イオン交換体をカラムに充填し、塩酸を通液し、水洗してイオン交換体を平衡化する。続いて、4℃に冷却したpH6.9の脱脂乳をカラムに通液し、透過液を回収し、再度同様にカラムに通液する。次いで、脱イオン水をカラムに通液し、食塩水を通液し、イオン交換体に吸着した塩基性タンパク質の溶出液を得る。この溶出液から回収したタンパク質を洗浄し、脱イオン水を添加して溶解し、得られた溶液を限外ろ過膜モジュールを用いて脱塩し、凍結乾燥して、粉末状ウシラクトフェリンを得る。このようにして、純度が95質量%以上のウシラクトフェリンが得られる。
【0017】
ラクトフェリンにおいては、種、属、個体等の違いによって、1又は複数の位置での1
又は複数の塩基の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位等の遺伝子変異が当然存在し、このような変異を有する遺伝子がコードするタンパク質のアミノ酸においても変異が生じている場合がある。本発明における本技術に用いることができるラクトフェリンには、本発明の効果を損なわない限りにおいて、このような変異を含むものも含有される。
また、本発明におけるラクトフェリンには、本発明の効果を損なわない限りにおいて、熱処理、酸処理、又はアルカリ処理を行ったラクトフェリン処理物も含まれてもよい。
【0018】
本発明におけるラクトフェリン加水分解物は、前述のラクトフェリンを加水分解処理したものをいう。
加水分解処理としては、例えば特開2012-235768号公報に記載された方法が挙げられる。
具体的には、ラクトフェリン溶液を酵素反応処理を行う前に、塩酸、クエン酸、酢酸等の酸によりpHを2~4、好ましくは2.5~3.5、特に好ましくはpH3に調整する。
pHを調整したラクトフェリン溶液に、タンパク質分解酵素を所望の量で添加した後、酵素反応の温度を35~55℃、好ましくは40~50℃、より好ましくは42~48℃に保持して、6時間~24時間、好ましくは12~18時間、攪拌しながらラクトフェリンを加水分解させる。
次いで、例えば反応溶液を80℃に昇温して10分間維持し、酵素を加熱失活させる。さらに、好ましくは、水酸化ナトリウム溶液等のアルカリ溶液を添加して、pHを5~7、例えば6に調整する。
なお、pH調整後の反応溶液(ラクトフェリン加水分解物)は、溶液のままでもよいが、凍結乾燥等を行って粉末化することが好ましい。また、ラクトフェリン分解物は、クロマトグラフィー、又は限外濾過等により、分画したものを用いることもできる。
【0019】
本態様の組成物において、ラクトフェリン及び/又はラクトフェリン加水分解物の組成物全体に対する含有量は、好ましくは0.001質量%以上100質量%未満、より好ましくは0.005~75質量%、さらに好ましくは0.01~50質量%である。
【0020】
本発明の組成物は、アルコールの代謝を促進させることができる。
ここで、「代謝促進」とは、体内に摂取されたエタノール及びその中間代謝産物であるアセトアルデヒドの量を代謝によって低減させる程度が無処置の場合に比して大きいこと、及び血中エタノール、アセトアルデヒド濃度が上昇するのを無処置の場合に比して抑制・防止することを含む。
なお、本明細書においてアルコールはエタノールと同義とする。
【0021】
アルコールの代謝が促進されると、血中エタノール、アセトアルデヒド濃度が低下するため、血中エタノール、アセトアルデヒド濃度の上昇に起因する疾患又は症状、すなわちアルコール代謝の低下又は異常に起因する疾患又は症状を予防することができる。かかる疾患又は症状としては、例えば、アルコール性肝障害、アルコール性鉄欠乏、アルコール性精巣障害、高尿酸血症、二日酔い、高コレステロール血症などが挙げられる。
アルコール性肝障害としては、さらに具体的には例えば、アルコール性脂肪肝、アルコール性肝線維症、及びアルコール性肝硬変のような慢性肝炎、及び、アルコール性肝炎のような急性肝炎が挙げられる。
ここで、疾患又は症状の「予防」とは、適用対象における疾患又は症状の発生を防止すること、該発生を遅延させること、該発生の危険性を低下させることを含む。また、すでに適用対象が罹患(発症)している場合であっても、疾患又は症状のさらなる進行を抑制することも、「予防」に包含されてもよい。
【0022】
アルコールの代謝が促進したことや、アルコール代謝の低下又は異常に起因する疾患又
は症状の予防効果は、例えば、アルコール代謝酵素の活性又は発現量の測定、血中又は呼気中のエタノール、アセトアルデヒド濃度の測定、一般状態の観察、血中の肝機能を評価する酵素(例えば、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)、アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT))値の測定、ヘマトクリット(HCT)値の測定、等の結果に基づいて確認することができる。
特に、ASTやALT等の肝機能を評価する酵素の測定値については、わかりやすい指標となり得る。
【0023】
これまでに、ラクトフェリン及び/又はラクトフェリン加水分解物が、アルコールに起因しない肝障害に対して改善効果を示すことは知られていた(特許文献6、非特許文献1)。
しかしながら、アルコールに起因する肝障害等の疾患や症状では、その発症の機序が異なると推察される。また、アルコールに起因しない肝障害に対しては、ラクトフェリンの方がその加水分解物よりも高い効果が得られることが示されているのに対し、後述の実施例に示されるようにアルコールに起因する疾患や症状に対しては、ラクトフェリン以上にその加水分解物の方が高い効果が得られることから、両効果は別の機序により得られる、区別されるものであると理解される。
実際に、後述の実施例に示されるとおり、ラクトフェリン及びラクトフェリン加水分解物はそれぞれ、アルコール代謝酵素の発現を増強させるため、本明細書で示される組成物の作用効果と用途は、従来ラクトフェリン及び/又はラクトフェリン加水分解物に認められていた作用効果と用途と明確に区別されるものである。
【0024】
本発明の組成物は、それ自体を飲食品や医薬品等の形態としてもよいし、添加物として飲食品や医薬品等に含有させる形態としてもよい。
本発明の組成物の摂取(投与)経路は、経口又は非経口のいずれでもよいが、通常は経口である。また、非経口摂取(投与)としては、直腸投与等が挙げられる。
【0025】
本発明の組成物を経口摂取(投与)するときの含有量としては、前述した組成物全体における含有量としてもよいし、適宜希釈等してもよい。例えば、経口摂取(投与)時のラクトフェリン及び/又はラクトフェリン加水分解物の組成物全体に対する含有量は、好ましくは0.001~100質量%、より好ましくは0.005~75質量%、さらに好ましくは0.01~50質量%である。
これらは、通常、経口組成物として流通するときの含有量の範囲であってよい。
【0026】
本発明の別の態様は、アルコール代謝促進用組成物の製造における、ラクトフェリン及び/又はラクトフェリン加水分解物の使用である。
本発明の別の態様は、アルコール代謝促進における、ラクトフェリン及び/又はラクトフェリン加水分解物の使用である。
本発明の別の態様は、アルコール代謝を促進させるために用いられる、ラクトフェリン及び/又はラクトフェリン加水分解物である。
本発明の別の態様は、ラクトフェリン及び/又はラクトフェリン加水分解物を動物に投与することを含む、アルコール代謝を促進させる方法である。ここで、動物は、特に限定されないが、通常はヒトである。
【0027】
本発明の組成物の摂取(投与)時期は、特に限定されず、投与対象の状態に応じて適宜選択することが可能である。
【0028】
本発明の組成物の摂取(投与)量は、摂取(投与)対象の年齢、性別、状態、その他の条件等により適宜選択される。
本発明の組成物の摂取(投与)量は、ラクトフェリン及び/又はラクトフェリン加水分
解物の摂取量として、例えば、成人において、好ましくは10~10000mg/日、より好ましくは50~3000mg/日、さらに好ましくは100~600mg/日の範囲となる量を目安とするのがよい。
なお、摂取(投与)の量や期間にかかわらず、薬剤は1日1回又は複数回に分けて投与することができる。
【0029】
本発明の組成物は、飲食品の態様とすることが好ましい。
飲食品としては、本発明の効果を損なわないものであれば形態や性状は特に制限されず、通常飲食品に用いられる原料を用いて通常の方法によって製造することができる。
なお、飲食品に添加する添加物の態様も本発明の組成物に含まれる。
飲食品は、通常は経口摂取されるものであるが、これに限られず、例えば経鼻摂取されるもの、胃瘻や腸瘻により摂取されるものでもよい。
【0030】
飲食品としては、液状、ペースト状、ゲル状固体、粉末等の形態を問わず、例えば、錠菓;流動食(経管摂取用栄養食);パン、マカロニ、スパゲッティ、めん類、ケーキミックス、から揚げ粉、パン粉等の小麦粉製品;即席めん、カップめん、レトルト・調理食品、調理缶詰め、電子レンジ食品、即席スープ・シチュー、即席みそ汁・吸い物、スープ缶詰め、フリーズ・ドライ食品、その他の即席食品等の即席食品類;農産缶詰め、果実缶詰め、ジャム・マーマレード類、漬物、煮豆類、農産乾物類、シリアル(穀物加工品)等の農産加工品;水産缶詰め、魚肉ハム・ソーセージ、水産練り製品、水産珍味類、つくだ煮類等の水産加工品;畜産缶詰め・ペースト類、畜肉ハム・ソーセージ等の畜産加工品;加工乳、乳飲料、ヨーグルト類、乳酸菌飲料類、チーズ、アイスクリーム類、クリーム、その他の乳製品等の乳・乳製品;バター、マーガリン類、植物油等の油脂類;しょうゆ、みそ、ソース類、トマト加工調味料、みりん類、食酢類等の基礎調味料;調理ミックス、カレーの素類、たれ類、ドレッシング類、めんつゆ類、スパイス類、その他の複合調味料等の複合調味料・食品類;素材冷凍食品、半調理冷凍食品、調理済冷凍食品等の冷凍食品;キャラメル、キャンディー、チューインガム、チョコレート、クッキー、ビスケット、ケーキ、パイ、スナック、クラッカー、和菓子、米菓子、豆菓子、デザート菓子、ゼリー、その他の菓子などの菓子類;炭酸飲料、天然果汁、果汁飲料、果汁入り清涼飲料、果肉飲料、果粒入り果実飲料、野菜系飲料、豆乳、豆乳飲料、コーヒー飲料、お茶飲料、粉末飲料、濃縮飲料、スポーツ飲料、栄養飲料、アルコール飲料、その他の嗜好飲料等の嗜好飲料類、ベビーフード、ふりかけ、お茶漬けのり等のその他の市販食品等;サプリメント、調製乳(粉乳、液状乳等を含む)等の栄養組成物;経腸栄養食;機能性食品(特定保健用食品、栄養機能食品)等が挙げられる。
【0031】
また、飲食品の一態様として飼料とすることもできる。飼料としては、ペットフード、家畜飼料、養魚飼料等が挙げられる。
飼料の形態としては特に制限されず、例えば、トウモロコシ、小麦、大麦、ライ麦、マイロ等の穀類;大豆油粕、ナタネ油粕、ヤシ油粕、アマニ油粕等の植物性油粕類;フスマ、麦糠、米糠、脱脂米糠等の糠類;コーングルテンミール、コーンジャムミール等の製造粕類;魚粉、脱脂粉乳、ホエイ、イエローグリース、タロー等の動物性飼料類;トルラ酵母、ビール酵母等の酵母類;第三リン酸カルシウム、炭酸カルシウム等の鉱物質飼料;油脂類;単体アミノ酸;糖類等を含有するものであってよい。
【0032】
本発明の組成物が飲食品(飼料を含む)の態様である場合、アルコール代謝促進という用途やそれに関連する用途が表示された飲食品として提供・販売されることが可能である。
【0033】
かかる「表示」行為には、需要者に対して前記用途を知らしめるための全ての行為が含まれ、前記用途を想起・類推させうるような表現であれば、表示の目的、表示の内容、表
示する対象物・媒体等の如何に拘わらず、全て本発明の「表示」行為に該当する。
また、「表示」は、需要者が上記用途を直接的に認識できるような表現により行われることが好ましい。具体的には、飲食品に係る商品又は商品の包装に前記用途を記載したものを譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引き渡しのために展示し、輸入する行為、商品に関する広告、価格表若しくは取引書類に上記用途を記載して展示し、若しくは頒布し、又はこれらを内容とする情報に上記用途を記載して電磁気的(インターネット等)方法により提供する行為等が挙げられる。
【0034】
一方、表示内容としては、行政等によって認可された表示(例えば、行政が定める各種制度に基づいて認可を受け、そのような認可に基づいた態様で行う表示等)であることが好ましい。また、そのような表示内容を、包装、容器、カタログ、パンフレット、POP等の販売現場における宣伝材、その他の書類等へ付することが好ましい。
【0035】
また、「表示」には、健康食品、機能性食品、経腸栄養食品、特別用途食品、保健機能食品、特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品、医薬用部外品等としての表示も挙げられる。この中でも特に、消費者庁によって認可される表示、例えば、特定保健用食品、栄養機能食品、若しくは機能性表示食品に係る制度、又はこれらに類似する制度にて認可される表示等が挙げられる。具体的には、特定保健用食品としての表示、条件付き特定保健用食品としての表示、身体の構造や機能に影響を与える旨の表示、疾病リスク減少表示、科学的根拠に基づいた機能性の表示等を挙げることができ、より具体的には、健康増進法に規定する特別用途表示の許可等に関する内閣府令(平成二十一年八月三十一年内閣府令第五十七号)に定められた特定保健用食品としての表示(特に保健の用途の表示)及びこれに類する表示が典型的な例である。
かかる表示としては、肝機能を評価する指標である酵素値(AST、ALT等)について、アルコール摂取に伴う酵素値の低下の改善に役立つ旨を示すことができ、例えば、「アルコール摂取に伴う肝機能の数値低下を改善したい方へ」、「アルコールの摂取から肝臓を守るために」、「二日酔い予防用」、「お酒の飲みすぎによる諸症状を防ぎたいときに」等と表示することが挙げられる。
【0036】
本発明の組成物が、医薬品の形態である場合、その投与経路は、経口又は非経口のいずれでもよいが経口が好ましい。また、非経口摂取(投与)としては、直腸投与等が挙げられる。
医薬品の形態としては、投与方法に応じて、適宜所望の剤形に製剤化することができる。例えば、経口投与の場合、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤等の固形製剤;溶液剤、シロップ剤、懸濁剤、乳剤等の液剤等に製剤化することができる。また、非経口投与の場合、座剤、軟膏剤、注射剤等に製剤化することができる。
製剤化に際しては、通常製剤化に用いられている賦形剤、pH調整剤、着色剤、矯味剤等の成分を用いることができる。また、他の薬効成分や、公知の又は将来的に見出されるアルコール代謝促進成分などを併用することも可能である。
加えて、製剤化は剤形に応じて適宜公知の方法により実施できる。製剤化に際しては、適宜、製剤担体を配合して製剤化してもよい。
【0037】
賦形剤としては、例えば、乳糖、白糖、ブドウ糖、マンニット、ソルビット等の糖誘導体;トウモロコシデンプン、馬鈴薯デンプン、α-デンプン、デキストリン、カルボキシメチルデンプン等のデンプン誘導体;結晶セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム等のセルロース誘導体;アラビアゴム;デキストラン;プルラン;軽質無水珪酸、合成珪酸アルミニウム、メタ珪酸アルミン酸マグネシウム等の珪酸塩誘導体;リン酸カルシウム等のリン酸塩誘導体;炭酸カルシウム等の炭酸塩誘導体;硫酸カルシウム等の硫酸塩誘導体等が挙げられる。
【0038】
結合剤としては、例えば、上記賦形剤の他、ゼラチン;ポリビニルピロリドン;マクロゴール等が挙げられる。
【0039】
崩壊剤としては、例えば、上記賦形剤の他、クロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルスターチナトリウム、架橋ポリビニルピロリドン等の化学修飾されたデンプン又はセルロース誘導体等が挙げられる。
【0040】
滑沢剤としては、例えば、タルク;ステアリン酸;ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム等のステアリン酸金属塩;コロイドシリカ;ピーガム、ゲイロウ等のワックス類;硼酸;グリコール;フマル酸、アジピン酸等のカルボン酸類;安息香酸ナトリウム等のカルボン酸ナトリウム塩;硫酸ナトリウム等の硫酸塩類;ロイシン;ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸マグネシウム等のラウリル硫酸塩;無水珪酸、珪酸水和物等の珪酸類;デンプン誘導体等が挙げられる。
【0041】
安定剤としては、例えば、メチルパラベン、プロピルパラベン等のパラオキシ安息香酸エステル類;クロロブタノール、ベンジルアルコール、フェニルエチルアルコール等のアルコール類;塩化ベンザルコニウム;無水酢酸;ソルビン酸等が挙げられる。
【0042】
矯味矯臭剤としては、例えば、甘味料、酸味料、香料等が挙げられる。
なお、経口投与用の液剤の場合に使用する担体としては、水等の溶剤等が挙げられる。
【0043】
本発明の医薬品を摂取するタイミングは、例えば食前、食後、食間、就寝前など特に限定されない。
【実施例】
【0044】
以下に実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0045】
<実施例1>ラットのアルコール性肝障害モデルに対するラクトフェリン及びその加水分解物の影響の検討
(1)試料
ラクトフェリン試料(LF)は、森永乳業株式会社製MLF-EXを用いた。ラクトフェリン加水分解物試料(LF分解物)は、森永乳業株式会社製F1000を用いた。
比較試料として、カルボキシメチルセルロース(CMC)(関東化学株式会社製,ロット番号:603H1629)を用いた。
【0046】
(2)被検動物
ラット(Slc:Wistar (SPF),4週齢,雄、日本エスエルシー株式会社)を、入荷から7日間通常の条件で飼育した後、8匹ずつ4群(コントロール群、エタノール群、LF群、LF分解物群)に分けた。
【0047】
(3)飼料
コントロール群には、通常飼料を自由摂取させ、またCMC0.5w/v%液を10mL/kg・日、経口投与した。
エタノール群には、エタノール含有飼料を自由摂取させ、またCMC0.5w/v%液を10mL/kg・日、経口投与した。
LF群には、エタノール含有飼料を自由摂取させ、またCMC0.5w/v%液にLFを終濃度3w/v%添加したものを、10mL/kg・日、経口投与した。
LF分解物群には、エタノール含有飼料を自由摂取させ、またCMC0.5w/v%液
にLF加水分解物を終濃度3w/v%添加したものを、10mL/kg・日、経口投与した。
エタノール含有飼料は、通常飼料に、試験開始1~2日目は3w/v%、3~4日目は4w/v%、5日目以降は5w/v%の終濃度でエタノールを添加したものである。
なお、水道水は自由摂取とした。
【0048】
(4)飼育及び検査等
各群に前述の飼料を摂取させ(摂取開始日を1日目とする)、42日間通常条件で飼育した。
毎日一般状態を観察し、週に一回体重を測定した。
14、28、及び42日目に、イソフルラン麻酔下で皮膚を切開し、頸静脈から0.2mLの採血を行い、定法に従い遠心分離して血清を分取した。得られた血清を用いて、血清中AST、ALT、TGおよびT-CHOを自動分析装置(日立自動分析装置3100)を用いて測定した.
43日目に体重を測定した後に解剖を行った。イソフルラン麻酔下で腹部大静脈より採血を行い、定法に従い遠心分離して血清を分取した。また、肝臓、精巣を摘出した。肝臓の鉄含有量を常法により測定した。また、肝臓におけるアルコール代謝酵素(adh1及びaldh2)の発現を、常法により測定した。
【0049】
(5)統計処理
得られた数値は各群で平均値及び標準誤差を算出した。有意差検定はエタノール群を基準として群間比較した。統計手法はBartllet検定により等分散性の検定を行い、等分散の場合にはDunnettの多重比較検定を、不等分散の場合はSteelの多重比較検定を行った。有意水準は,Bartllet検定は危険率5%とした。Dunnettの多重比較検定及びSteelの多重比較検定では危険率5%及び1%とした。
【0050】
(6)結果
(i)生化学
14及び28日目の、血清AST値を
図1及び表1に、血清ALT値を
図2及び表1に、血清TG値を
図3及び表1に、血清T-CHO値を
図4及び表1に、解剖時の血清尿酸値を
図5にそれぞれ示す。
LF群及びLF分解物群において、血清AST値、血清ALT値、血清TG値、血清T-CHO値がエタノール群と比較して低く、特にLF分解物群では血清ALT値、血清T-CHOが有意に低下した。
また、LF群及びLF分解物群において、血清尿酸値がエタノール群と比較して低く、特にLF分解物群では有意に低下した。
【0051】
【0052】
(ii)精巣重量
結果を
図6に示す。
エタノール群においては、精巣重量が有意に減少するところ、LF群及びLF分解物群においては減少幅が小さかった。
【0053】
(iv)肝臓鉄含量
結果を
図7に示す。
エタノール群においては、肝臓の鉄含量が低値を示すところ、LF群及びLF分解物群においては減少幅が小さかった。
【0054】
(v)病理組織学的検査
エタノール群においては、小葉中心性脂肪化及び小葉周辺性脂肪化が認められるところ、LF群及びLF分解物群においてはいずれの脂肪化を抑制する傾向が認められた。
【0055】
(vi)アルコール代謝酵素の肝臓での発現
結果を
図8及び9に示す。
LF群及びLF分解物群において、adh1及びaldh2がエタノール群と比較して有意に高く発現したことが認められた。
【0056】
<実施例2>ヒトのエタノール摂取後の呼気に含まれるエタノール、アセトアルデヒド濃度に対するラクトフェリンの影響の検討
(1)方法
健常成人に、蒸留水またはラクトフェリン600mgを蒸留水に溶解させた水溶液を50mL摂取させた。その30分後、10%エタノール水溶液を0.1g/Kg体重となるよう1分以内に摂取させ、更に40mLの蒸留水を口の中をすすぐように摂取させた。エタノール摂取60分後、90分後、及び120分後の呼気をセンサーガスクロマトグラフィーSEGA-P3-A(NISSHAエフアイエス株式会社)で分析し、呼気に含まれるエタノール濃度、及びアセトアルデヒド濃度をそれぞれ測定した。
【0057】
(2)結果
結果を
図10及び11に示す。
LF水摂取群において、水摂取群と比較して、呼気に含まれるエタノール濃度、及びアセトアルデヒド濃度がともに低い値を示した。