(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-18
(45)【発行日】2023-10-26
(54)【発明の名称】シートベルトリトラクタ及びシートベルト装置
(51)【国際特許分類】
B60R 22/28 20060101AFI20231019BHJP
B60R 22/40 20060101ALI20231019BHJP
【FI】
B60R22/28 107
B60R22/40
(21)【出願番号】P 2019203072
(22)【出願日】2019-11-08
【審査請求日】2022-10-27
(73)【特許権者】
【識別番号】318002149
【氏名又は名称】Joyson Safety Systems Japan合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118267
【氏名又は名称】越前 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】新宮 和大
(72)【発明者】
【氏名】山本 哲也
(72)【発明者】
【氏名】根本 大地
【審査官】森本 康正
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/076377(WO,A1)
【文献】特開2011-189896(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0124796(US,A1)
【文献】特開2006-062632(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 22/00-22/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗員を拘束するウェビングの巻き取りを行うスプールと、緊急時に前記スプールのウェビング引き出し方向の回転を規制するロック機構と、該ロック機構の作動時に前記ウェビングに負荷される荷重を制限することによって前記乗員の運動エネルギーを吸収するエネルギー吸収機構と、を含むシートベルトリトラクタであって、
前記エネルギー吸収機構は、
前記スプールの中心軸上に配置され、第一端部が前記ロック機構に固定され、第二端部が前記スプールに係合又は離脱可能に構成された第一トーションバーと、
前記第一トーションバーと平行に配置され、第一端部が前記スプールに固定され、第二端部が前記第一トーションバーの軸回りに回転可能に構成された複数の第二トーションバーと、を備え、
前記複数の第二トーションバーは、捻り変形を開始するタイミング又は捻り変形を終了するタイミングが互いに異なるように構成されている、
ことを特徴とするシートベルトリトラクタ。
【請求項2】
前記第一トーションバーは、前記第二端部側に固定されたセンターギアを備え、前記複数の第二トーションバーは、それぞれ前記センターギアと噛合可能なラウンドギアを備え、前記センターギアと前記ラウンドギアとの噛合状態を変化させることによって前記タイミングが異なるように構成されている、請求項1に記載のシートベルトリトラクタ。
【請求項3】
前記ラウンドギアのうち少なくとも一つは、歯が欠損した欠損領域を備えている、請求項2に記載のシートベルトリトラクタ。
【請求項4】
前記複数の第二トーションバーのうち少なくとも一つは、前記第一トーションバーの軸回りに回転する際に自身の軸方向に移動可能に構成されており、その軸方向移動により前記ラウンドギアが前記センターギアと噛合するように構成されている、請求項2に記載のシートベルトリトラクタ。
【請求項5】
前記複数の第二トーションバーのうち少なくとも一つは、前記第一トーションバーの軸回りに回転する際に自身の軸方向に移動可能に構成されており、その軸方向移動により前記ラウンドギアが前記センターギアから離脱するように構成されている、請求項2に記載のシートベルトリトラクタ。
【請求項6】
前記複数の第二トーションバーのうち少なくとも一つは、前記第一端部が所定量だけ回転可能に構成されている、請求項2に記載のシートベルトリトラクタ。
【請求項7】
請求項1~請求項6の何れか一項に記載されたシートベルトリトラクタを有する、ことを特徴とするシートベルト装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シートベルトリトラクタ及びシートベルト装置に関し、特に、複数のトーションバーを含むエネルギー吸収機構を備えたシートベルトリトラクタ及びシートベルト装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両には、一般に、乗員が着座する腰掛部と乗員の背面に位置する背もたれ部とを備えたシートに乗員を拘束するシートベルト装置が設けられている。かかるシートベルト装置は、乗員を拘束するウェビングと、ウェビングの巻き取りを行うシートベルトリトラクタと、シートの側面に配置されたバックルと、ウェビングに配置されたトングとを含み、トングをバックルに嵌着させることによってウェビングにより乗員をシートに拘束している。
【0003】
ここで、シートベルトリトラクタは、車両衝突時等の緊急時にウェビングの弛みを除去するプリテンショナを有していることが一般的になってきている。また、シートベルトリトラクタは、プリテンショナ作動後における乗員の前方移動に伴う負荷を軽減するためのエネルギー吸収機構を備えていることが多い。かかるエネルギー吸収機構は、例えば、エアバッグ装置等の他の安全装置と協働させることによって乗員の負荷を効果的に軽減することができる。
【0004】
例えば、特許文献1には、スプールの軸方向に沿って直列に配置された2本のトーションシャフト(第1荷重吸収手段及び第3荷重吸収手段)と、スプールとロックベースとを繋ぐように配置されたワイヤ(第2荷重吸収手段)とを用いて、エネルギー吸収量を段階的に変化させるようにした構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
エネルギー吸収部材としてトーションバーを用いた場合、そのエネルギー吸収量はトーションバーの捻れ変形量に依拠することから、トーションバーの長さや太さが重要な設計要素となる。したがって、特許文献1に記載された発明のように、トーションバーを直列に配置した場合には、トーションバーを長くするとシートベルトリトラクタの横幅が大きくなってしまうことから、エネルギー吸収量の調整代が少ないという問題がある。
【0007】
また、特許文献1に記載された発明では、エネルギー吸収部材として異なる性質の部材(トーションバー及びワイヤ)を用いていることから、所望のエネルギー吸収機構の荷重制御パターンを実現することが難しいという問題がある。
【0008】
本発明はかかる問題点に鑑み創案されたものであり、エネルギー吸収機構の荷重制御パターンを容易かつ任意に設定することができる、シートベルトリトラクタ及びシートベルト装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、乗員を拘束するウェビングの巻き取りを行うスプールと、緊急時に前記スプールのウェビング引き出し方向の回転を規制するロック機構と、該ロック機構の作動時に前記ウェビングに負荷される荷重を制限することによって前記乗員の運動エネルギーを吸収するエネルギー吸収機構と、を含むシートベルトリトラクタであって、前記エネルギー吸収機構は、前記スプールの中心軸上に配置され、第一端部が前記ロック機構に固定され、第二端部が前記スプールに係合又は離脱可能に構成された第一トーションバーと、前記第一トーションバーと平行に配置され、第一端部が前記スプールに固定され、第二端部が前記第一トーションバーの軸回りに回転可能に構成された複数の第二トーションバーと、を備え、前記複数の第二トーションバーは、捻り変形を開始するタイミング又は捻り変形を終了するタイミングが互いに異なるように構成されている、ことを特徴とするシートベルトリトラクタが提供される。
【0010】
前記第一トーションバーは、前記第二端部側に固定されたセンターギアを備え、前記複数の第二トーションバーは、それぞれ前記センターギアと噛合可能なラウンドギアを備え、前記センターギアと前記ラウンドギアとの噛合状態を変化させることによって前記タイミングが異なるように構成されていてもよい。
【0011】
また、前記ラウンドギアのうち少なくとも一つは、歯が欠損した欠損領域を備えていてもよい。
【0012】
また、前記複数の第二トーションバーのうち少なくとも一つは、前記第一トーションバーの軸回りに回転する際に自身の軸方向に移動可能に構成されており、その軸方向移動により前記ラウンドギアが前記センターギアと噛合するように構成されていてもよい。
【0013】
また、前記複数の第二トーションバーのうち少なくとも一つは、前記第一トーションバーの軸回りに回転する際に自身の軸方向に移動可能に構成されており、その軸方向移動により前記ラウンドギアが前記センターギアから離脱するように構成されていてもよい。
【0014】
また、前記複数の第二トーションバーのうち少なくとも一つは、前記第一端部が所定量だけ回転可能に構成されていてもよい。
【0015】
また、本発明によれば、上述した構成を備えたシートベルトリトラクタを有することを特徴とするシートベルト装置が提供される。
【発明の効果】
【0016】
上述した本発明に係るシートベルトリトラクタ及びシートベルト装置によれば、複数の第二トーションバーの捻り変形を開始するタイミング又は捻り変形を終了するタイミングを互いに異なるように構成したことにより、例えば、エネルギー吸収機構の荷重制御パターンを「高荷重→中荷重→低荷重」や「高荷重→低荷重→中荷重」のように任意に設定することができる。また、複数の第二トーションバーが捻り変形の開始又は終了のタイミングを異ならせるだけでよいことから、エネルギー吸収機構の荷重制御パターンを容易に設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の第一実施形態に係るシートベルトリトラクタを示す部品展開図である。
【
図2】エネルギー吸収機構の設定荷重が高荷重である状態を示す部分拡大図であり、(A)は斜視図、(B)は
図2(A)におけるB-B線断面図、である。
【
図3】エネルギー吸収機構の設定荷重が低荷重である状態を示す部分拡大図であり、(A)は斜視図、(B)は
図3(A)におけるB-B線断面図、である。
【
図4】エネルギー吸収機構の荷重制御パターンの一例を示す図であり、(A)は第一例、(B)は第二例、を示している。
【
図5】
図1に示したエネルギー吸収機構の部分拡大図である。
【
図6】
図5に示したエネルギー吸収機構の作用を示す図であり、(A)は初期段階、(B)は中荷重段階、(C)は低荷重段階、を示している。
【
図7】エネルギー吸収機構の第一変形例を示す図であり、(A)は初期段階、(B)は中荷重段階、(C)は低荷重段階、(D)は無荷重段階、を示している。
【
図8】エネルギー吸収機構の第二変形例を示す図であり、(A)は初期段階、(B)は荷重制御パターン、を示している。
【
図9】本発明の第二実施形態に係るシートベルトリトラクタのエネルギー吸収機構を示す部分拡大図である。
【
図10】
図9に示したエネルギー吸収機構の作用を示す図であり、(A)は初期段階、(B)は中荷重段階、(C)は低荷重段階、を示している。
【
図11】本発明の第三実施形態に係るシートベルトリトラクタのエネルギー吸収機構を示す部分断面図であり、(A)は低荷重段階、(B)は中荷重段階、を示している。
【
図12】本発明の第四実施形態に係るシートベルトリトラクタのエネルギー吸収機構を示す部分断面図であり、(A)は初期段階、(B)は低荷重段階、(C)は中荷重段階、を示している。
【
図13】本発明の一実施形態に係るシートベルト装置を示す全体構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について
図1~
図13を用いて説明する。ここで、
図1は、本発明の一実施形態に係るシートベルトリトラクタを示す部品展開図である。
図2は、エネルギー吸収機構の設定荷重が高荷重である状態を示す部分拡大図であり、(A)は斜視図、(B)は
図2(A)におけるB-B線断面図、である。
図3は、エネルギー吸収機構の設定荷重が低荷重である状態を示す部分拡大図であり、(A)は斜視図、(B)は
図3(A)におけるB-B線断面図、である。
【0019】
本発明の第一実施形態に係るシートベルトリトラクタ1は、
図1に示したように、乗員を拘束するウェビングの巻き取りを行うスプール2と、緊急時にウェビングを巻き取って弛みを除去するプリテンショナ3と、緊急時にスプール2のウェビング引き出し方向の回転を規制するロック機構4と、ロック機構4の作動時にウェビングに負荷される荷重を制限することによって乗員の運動エネルギーを吸収するエネルギー吸収機構5と、を備えている。なお、
図1において、ウェビングの図は省略してある。
【0020】
スプール2は、ウェビングを巻き取る巻胴であり、シートベルトリトラクタ1の骨格を形成するベースフレーム11内に回転可能に収容されている。また、例えば、スプール2の第一端部21側にプリテンショナ3及びロック機構4が配置され、第二端部22側にエネルギー吸収機構5及びスプリングユニット6が配置される。
【0021】
プリテンショナ3は、スプール2に接続されたパドルギア31と、緊急時にパドルギア31に動力を伝達する動力伝達装置32と、を備えている。なお、プリテンショナ3の構成は、図示した構成に限定されるものではない。パドルギア31は、ロッキングベース41の軸部41aの中間部に固定され、ロッキングベース41の軸部41aがスプール2に固定される。また、パドルギア31とスプール2との間にベアリングプレート23が配置されていてもよい。
【0022】
動力伝達装置32は、例えば、パドルギア31に動力を伝達する動力伝達部材(図示せず)と、動力伝達部材をパドルギア31に案内する筒形状の案内部材33と、案内部材33の内部に作動ガスを供給するガス発生器34と、パドルギア31の外周に動力伝達部材の通路を形成するカバー部材35と、を備えている。
【0023】
本実施形態では、パドルギア31がベースフレーム11の内側に配置される構成を有していることから、ベースフレーム11の内面にカバー部材35が配置され、ベースフレーム11の外面にロック機構4の一部を収容するリテーナカバー43が配置されている。
【0024】
なお、パドルギア31がベースフレーム11の外側に配置される構成を有している場合には、ベースフレーム11の外面にカバー部材35が配置され、カバー部材35の外側にロック機構4の一部を収容するリテーナカバー43が配置される。
【0025】
車両衝突時等の緊急時には、ガス発生器34から案内部材33内に作動ガスが供給され、動力伝達部材が案内部材33に沿って移動する。案内部材33から放出された動力伝達部材は、パドルギア31の係合歯に衝突し、パドルギア31を回転させる。このパドルギア31の回転によりスプール2を回転させてウェビングを巻き取り、ウェビングの弛みを除去して乗員をシートに拘束する。
【0026】
ロック機構4は、例えば、スプール2に固定されるロッキングベース41と、ロッキングベース41に隣接する位置に配置されたロックギア42と、ロックギア42を収容するリテーナカバー43と、を備えている。リテーナカバー43には、車体の急減速や傾きを検出するビークルセンサ(図示せず)が配置されていてもよい。なお、ロック機構4の構成は、図示した構成に限定されるものではない。
【0027】
ロッキングベース41は、スプール2に固定される軸部41aと、ベースフレーム11の開口部に形成された内歯に係合可能なパウル(図示せず)を有するフランジ部41bと、を備えている。軸部41aの中心部には、第一トーションバーを固定する挿入穴41cが形成されている。また、軸部41aの外周は多角形状に形成されており、この部分にパドルギア31、ベアリングプレート23及びスプール2の第一端部21が挿通されて固定される。
【0028】
フランジ部41bには、径方向外方に出没可能にパウルが配置されている。パウルは、ロック機構4の非作動時には、フランジ部41bの外径内に収まるように収容されている。また、パウルは、ロック機構4の作動時には、フランジ部41bの外径よりも径方向外方に突出され、ベースフレーム11の開口部に形成された内歯に係合する。このように、パウルをベースフレーム11に係合させることにより、ロッキングベース41のウェビング引き出し方向の回転を規制することができる。
【0029】
ロックギア42は、揺動可能に配置されたフライホイール(図示せず)を備えており、ウェビングが通常の引き出し速度よりも早い場合には、フライホイールが揺動してリテーナカバー43に形成された内歯に係合する。また、ビークルセンサが作動した場合には、ビークルセンサのレバーがロックギア42の側面に形成された外歯に係合する。
【0030】
このように、ロックギア42は、フライホイール又はビークルセンサの作動により回転が規制される。そして、ロックギア42の回転が規制されると、ロッキングベース41とロックギア42との間に相対回転が生じ、この相対回転に伴ってパウルがロッキングベース41のフランジ部41bから径方向外方に突出される。
【0031】
エネルギー吸収機構5は、例えば、スプール2の中心軸上に配置され、第一端部51aがロック機構4に固定され、第二端部51bがスプール2に係合又は離脱可能に構成された第一トーションバー51と、第一トーションバー51と平行に配置され、第一端部52aがスプール2に固定され、第二端部52bが第一トーションバー51の軸回りに回転可能に構成された複数の第二トーションバー52と、スプール2からエネルギー吸収機構5への動力伝達経路を切り替える切替機構53と、を備えている。
【0032】
第一トーションバー51は、例えば、棒状の金属部材であり、第一端部51aと第二端部51bとの回転差により捻られることによって塑性変形し、運動エネルギーを吸収するエネルギー吸収部材である。スプール2の中心部には、第一トーションバー51を挿入するための空洞が形成されている。第一トーションバー51は、エネルギー吸収機構5の設定荷重が高荷重の場合に作用する。
【0033】
第一トーションバー51の第一端部51aは、ロッキングベース41の挿入穴41cに挿入され、ロッキングベース41と同期回転可能に固定される。また、第一トーションバー51の第二端部51bは、スプリングユニット6のスプリングコア(図示せず)に軸支されており、スプリングユニット6に内蔵されたゼンマイばね(図示せず)によりウェビング巻き取り方向に付勢されている。
【0034】
また、第一トーションバー51の第二端部51b側には、センターギア51cが固定されており、センターギア51cとスプリングコアとの間には、ブッシュ51d、ベアリング51e及びプッシュナット51fが挿通されていてもよい。センターギア51cは、第一トーションバー51と第二トーションバー52との間で動力を伝達する部品である。
【0035】
第二トーションバー52は、例えば、棒状の金属部材であり、第一端部52aと第二端部52bとの回転差により捻られることによって塑性変形し、運動エネルギーを吸収するエネルギー吸収部材である。スプール2の外周部には、第二トーションバー52を挿入するための空洞と、第二トーションバー52を固定する固定穴24が形成されている。第二トーションバー52は、エネルギー吸収機構5の設定荷重が中荷重又は低荷重の場合に作用する。したがって、通常、第二トーションバー52は、第一トーションバー51よりも細くて短い形状を有している。
【0036】
また、第二トーションバー52は、第一トーションバー51の外周に沿って均等な間隔で複数本配置されている。本実施形態では2本の第二トーションバー52が配置されていることから、2本の第二トーションバー52は、第一トーションバー51を挟んで両側の位置(位相180°の位置)に配置される。なお、第二トーションバー52の本数は任意であり、3本以上であってもよい。
【0037】
第二トーションバー52の第一端部52aは、スプール2の固定穴24に挿入され、スプール2と同期回転可能に固定される。また、第二トーションバー52の第二端部52bは、リンクプレート54に回転可能に支持されている。リンクプレート54は、スプール2に固定され、第一トーションバー51の第二端部51b側の軸部を挿通可能かつ第二トーションバー52の第二端部52bを回転可能に支持する部品である。
【0038】
具体的には、リンクプレート54は、例えば、略十字形状の外形を有する板部材であり、中心部に第一トーションバー51の第二端部51b側の軸部を挿通する第一開口部54aが形成され、第一開口部54aを挟んで両側に第二トーションバー52の第二端部52bを挿通する第二開口部54bが形成されている。
【0039】
また、スプール2の第二端部22には、リンクプレート54の外形に適合した凹部が形成されている。この凹部にリンクプレート54を挿入することによって、リンクプレート54はスプール2に固定される。このとき、第一開口部54aに第一トーションバー51の第二端部51b側の軸部が挿通され、第二開口部54bに第二トーションバー52の第二端部52bが挿通される。
【0040】
また、第二トーションバー52の第二端部52b側には、センターギア51cと噛み合って回転するラウンドギア52cが固定されている。センターギア51cとラウンドギア52cとにより、いわゆる遊星歯車機構が構成されている。
【0041】
切替機構53は、例えば、第一トーションバー51に接続されるエンゲージプレート53aと、エンゲージプレート53aに係止可能に構成されたリリースリング53bと、リリースリング53bをスライド可能に保持するリングホルダー53cと、リリースリング53bをスプール2の軸方向にスライドさせる動力発生装置53dと、を備えている。
【0042】
エンゲージプレート53aは、センターギア51cの軸部に固定されており、センターギア51cを介して第一トーションバー51に固定される。また、エンゲージプレート53aの外縁部には、外方に向かって開放された凹部53eが周方向に均等な間隔で四か所に形成されている。
【0043】
リリースリング53bは、中心部に大きな開口を有する環状部53fと、環状部53fの内縁部からスプール2から遠ざかる方向に延設された複数の爪53gと、を備えている。環状部53fの内側には、スプール2の第二端部22に配置された遊星歯車機構及びリンクプレート54が配置される。爪53gは、例えば、環状部53fの周方向に均等な間隔で四か所に配置されており、エンゲージプレート53aに形成された凹部53eに挿通可能に構成されている。
【0044】
リングホルダー53cは、リリースリング53bと遊星歯車機構等との干渉を抑制しつつスプール2の軸方向への移動を案内する部品である。リングホルダー53cは、略キャップ形状を有しており、例えば、遊星歯車機構の外周を囲う筒部53hと、リンクプレート54の表面外周部を覆う環状の円板部53iと、備えている。
【0045】
筒部53hの円板部53iと反対側の端部はスプール2の第二端部22に固定される。筒部53hの外周面には、リリースリング53bがスライド可能に挿通される。また、筒部53hの外周面には、爪53gを案内する溝が形成されていてもよい。また、円板部53iの表面には、エンゲージプレート53aを位置決めする複数の突起が形成されていてもよい。
【0046】
動力発生装置53dは、例えば、瞬時に作動ガスを発生させるガス発生器53jと、作動ガスによって駆動されるピストン53kと、ピストン53kによって駆動されるレバー53mと、ピストン53k及びレバー53mの移動を案内可能に保持するハウジング53nと、レバー53mの初期位置を保持するためのレバーストッパ53pと、を備えている。ハウジング53nは、略円筒形状のシリンダ部53qと、レバー53mの外周を囲うように形成された胴部53rと、を備えている。
【0047】
シリンダ部53qの内部にはピストン53kが挿入され、シリンダ部53qの後端部にはガス発生器53jが配置される。胴部53rの内周面には、レバー53mを回転させながらスプール2に近付く方向に移動させる案内溝53sが形成されている。
【0048】
レバー53mは、リリースリング53bの環状部53fに当接可能なリング部53tと、ピストン53kに当接可能な突起部53uと、を備えている。リング部53tの外周面には、案内溝53sに挿入される凸部が形成されている。
【0049】
ここで、切替機構53の動作について、
図2(A)~
図3(B)を参照しつつ説明する。初期状態では、レバー53mはレバーストッパ53pによりスプール2から離れた位置に保持されている。このとき、
図2(A)及び
図2(B)に示したように、リリースリング53bもスプール2から離れた位置に保持されており、爪53gがエンゲージプレート53aの凹部53eに係止されている。
【0050】
この初期状態では、スプール2と第一トーションバー51とが連結された状態であることから、動力伝達経路は、
図2(B)に点線で示したように、スプール2→リングホルダー53c→リリースリング53b→エンゲージプレート53a→ベアリング51e→センターギア51c→第一トーションバー51→ロッキングベース41(固定)→ベースフレーム11(固定)により構成されている。したがって、ウェビングの制限荷重は第一トーションバー51により規制されることから、エネルギー吸収機構5の設定荷重は高荷重に設定される。
【0051】
そして、ガス発生器53jが作動するとピストン53kはシリンダ部53qに沿って移動し、ピストン53kの先端がシリンダ部53qの先端部から突出する。ピストン53kはレバー53mの突起部53uを押し退け、レバー53mは案内溝53sに沿って回転しながらスプール2に近付く方向に移動する。
【0052】
このレバー53mの軸方向の移動により、リング部53tがリリースリング53bの環状部53fに当接し、リリースリング53bがスプール2に近付く方向に移動する。このリリースリング53bの移動により、
図3(A)及び
図3(B)に示したように、爪53gがエンゲージプレート53aの凹部53eから離脱し、リリースリング53bの係止状態が解除される。
【0053】
この最終状態では、スプール2と第一トーションバー51との連結が解除された状態であることから、動力伝達経路は、
図3(B)に点線で示したように、スプール2→第二トーションバー52→ラウンドギア52c→センターギア51c(固定)→第一トーションバー51(固定)→ロッキングベース41(固定)→ベースフレーム11(固定)により構成されている。したがって、ウェビングの制限荷重は第二トーションバー52により規制されることから、エネルギー吸収機構5の設定荷重は中荷重又は低荷重に設定される。
【0054】
ところで、上述したようなエネルギー吸収機構5を用いたシートベルトリトラクタ1では、第一トーションバー51の捻り変形によって規定される高荷重と、第二トーションバー52の捻り変形によって規定される低荷重の二段階に荷重制御されていることが一般的である。
【0055】
それに対して、本実施形態に係るシートベルトリトラクタ1は、例えば、
図4(A)及び
図4(B)に示したように、エネルギー吸収機構5を多段階に荷重制御しようとするものである。ここで、
図4は、エネルギー吸収機構の荷重制御パターンの一例を示す図であり、(A)は第一例、(B)は第二例、を示している。
図4(A)及び
図4(B)の各図において、横軸は時間(s)、縦軸は乗員に負荷される荷重(N)を示している。
【0056】
図4(A)に示した荷重制御パターンは、乗員に負荷される荷重を「高荷重α→中荷重β→低荷重γ」と変化させるようにしたものである。第一トーションバー51のみを作用させた場合に高荷重αに制御され、2本の第二トーションバー52を作用させた場合に中荷重βに制御され、1本の第二トーションバー52のみを作用させた場合に低荷重に制御される。
【0057】
図4(B)に示した荷重制御パターンは、乗員に負荷される荷重を「高荷重α→低荷重γ→中荷重β」と変化させるようにしたものである。この場合も、第一例と同様に、第一トーションバー51のみを作用させた場合に高荷重αに制御され、2本の第二トーションバー52を作用させた場合に中荷重βに制御され、1本の第二トーションバー52のみを作用させた場合に低荷重に制御される。
【0058】
以下、第一例及び第二例の荷重制御パターンを実現するエネルギー吸収機構5の構成について説明する。ここで、
図5は、
図1に示したエネルギー吸収機構の部分拡大図である。
図6は、
図5に示したエネルギー吸収機構の作用を示す図であり、(A)は初期段階、(B)は中荷重段階、(C)は低荷重段階、を示している。
【0059】
図5に示したエネルギー吸収機構5は、第二トーションバー52に配置されたラウンドギア52cのうち少なくとも一つに歯が欠損した欠損領域52dを形成したものである。例えば、
図6(A)に示したように、センターギア51cの上側に位置するラウンドギア52cは歯が欠損しておらず、センターギア51cの下側に位置するラウンドギア52cに欠損領域52dが形成されているものとする。
【0060】
なお、説明の便宜上、センターギア51cの上側に位置するラウンドギア52cを第一ラウンドギア52c′と称し、センターギア51cの下側に位置するラウンドギア52cを第二ラウンドギア52c″と称することとする。
【0061】
第二ラウンドギア52c″において、
図6(A)に示した初期状態でセンターギア51cと噛合している図の右側の歯を一番目として反時計回りに番号を付せば、10番目~12番目の歯を欠損することによって欠損領域52dが形成される。なお、何番目の歯を欠損させるかは任意であり、中荷重から低荷重に切り替えるタイミングに応じて設計することができる。
【0062】
図6(A)に示した初期状態では、第二ラウンドギア52c″はセンターギア51cに噛合した状態に保持されている。いま、エネルギー吸収機構5の切替機構53が作動して、第二トーションバー52が第一トーションバー51の軸回りに回転可能な状態になったとする。
【0063】
このとき、センターギア51cは固定された状態(回転しない状態)であることから、
図6(B)に示したように、第一ラウンドギア52c′及び第二ラウンドギア52c″は図の時計回りに自転しながら公転する。このとき、第一ラウンドギア52c′及び第二ラウンドギア52c″はセンターギア51cと噛合していることから、2本の第二トーションバー52が作用し、エネルギー吸収機構5は中荷重βに荷重制御される。
【0064】
さらに、第一ラウンドギア52c′及び第二ラウンドギア52c″が図の時計回りに自転しながら公転すると、
図6(C)に示したように、第二ラウンドギア52c″の欠損領域52dがセンターギア51cに到達し、第二ラウンドギア52c″とセンターギア51cとの噛合が解除される。このとき、第一ラウンドギア52c′のみがセンターギア51cに噛合していることから、1本の第二トーションバー52が作用し、エネルギー吸収機構5は低荷重γに荷重制御される。
【0065】
このように、第二ラウンドギア52c″に欠損領域52dを形成することにより、2本の第二トーションバー52の捻り変形を終了するタイミングを異ならせることができ、エネルギー吸収機構を中荷重β及び低荷重γに荷重制御することができる。すなわち、上述した第一実施形態では、センターギア51cとラウンドギア52c(第一ラウンドギア52c′及び第二ラウンドギア52c″)との噛合状態を変化させることによって、第二トーションバー52の捻り変形を終了するタイミングを異ならせている。
【0066】
次に、欠損領域52dを備えた第二ラウンドギア52c″を有するエネルギー吸収機構5の変形例について説明する。ここで、
図7は、エネルギー吸収機構の第一変形例を示す図であり、(A)は初期段階、(B)は中荷重段階、(C)は低荷重段階、(D)は無荷重段階、を示している。
図8は、エネルギー吸収機構の第二変形例を示す図であり、(A)は初期段階、(B)は荷重制御パターン、を示している。
【0067】
図7(A)~
図7(D)に示した第一変形例は、第一ラウンドギア52c′にも欠損領域52eを形成したものである。
図7(A)に示した第一ラウンドギア52c′の欠損領域52eは、第二ラウンドギア52c″の欠損領域52dよりも広く形成されている。例えば、第一ラウンドギア52c′において、
図7(A)に示した初期状態でセンターギア51cと噛合している図の左側の歯を一番目として反時計回りに番号を付せば、6番目~12番目の歯を欠損することによって欠損領域52dが形成される。
【0068】
図7(A)に示した初期状態では、第一ラウンドギア52c′及び第二ラウンドギア52c″はセンターギア51cに噛合した状態に保持されている。いま、エネルギー吸収機構5の切替機構53が作動して、第二トーションバー52が第一トーションバー51の軸回りに回転可能な状態になったとする。
【0069】
このとき、センターギア51cは固定された状態(回転しない状態)であることから、
図7(B)に示したように、第一ラウンドギア52c′及び第二ラウンドギア52c″は図の時計回りに自転しながら公転する。このとき、第一ラウンドギア52c′及び第二ラウンドギア52c″はセンターギア51cと噛合していることから、2本の第二トーションバー52が作用し、エネルギー吸収機構5は中荷重βに荷重制御される。
【0070】
さらに、第一ラウンドギア52c′及び第二ラウンドギア52c″が図の時計回りに自転しながら公転すると、
図7(C)に示したように、第一ラウンドギア52c′の欠損領域52eがセンターギア51cに到達し、第一ラウンドギア52c′とセンターギア51cとの噛合が解除される。このとき、第二ラウンドギア52c″のみがセンターギア51cに噛合していることから、1本の第二トーションバー52が作用し、エネルギー吸収機構5は低荷重γに荷重制御される。
【0071】
さらに、第二ラウンドギア52c″が図の時計回りに自転しながら公転すると、
図7(D)に示したように、第二ラウンドギア52c″の欠損領域52dがセンターギア51cに到達し、第二ラウンドギア52c″とセンターギア51cとの噛合が解除される。このとき、第一ラウンドギア52c′及び第二ラウンドギア52c″の両方がセンターギア51cに噛合していないことから、作用する第二トーションバー52が存在せず、エネルギー吸収機構5は無荷重(荷重0の状態)に荷重制御される。
【0072】
このように、第一ラウンドギア52c′及び第二ラウンドギア52c″にそれぞれ欠損領域52d,52eを形成することにより、2本の第二トーションバー52の捻り変形が終了するタイミングを互いに異ならせることができ、エネルギー吸収機構5を中荷重β、低荷重γ及び無荷重に荷重制御することができる。
【0073】
図8(A)~
図8(B)に示した第二変形例は、
図7(A)に示した第一ラウンドギア52c′の欠損領域52eを拡張して全ての歯を欠損させたものである。この場合、
図8(B)に示したように、エネルギー吸収機構5の荷重制御パターンを「高荷重α→低荷重γ→無荷重」に設定することができる。
【0074】
また、図示しないが、第一ラウンドギア52c′及び第二ラウンドギア52c″の歯を全て欠損させることにより、エネルギー吸収機構5の荷重制御パターンを「高荷重→無荷重」に設定することができる。このように、第一ラウンドギア52c′及び第二ラウンドギア52c″に形成する欠損領域52d,52eを必要に応じて設計することにより、任意のタイミングで任意に荷重制御することができる。
【0075】
次に、本発明の第二実施形態に係るシートベルトリトラクタ1について、
図9~
図10(C)を参照しつつ説明する。ここで、
図9は、本発明の第二実施形態に係るシートベルトリトラクタのエネルギー吸収機構を示す部分拡大図である。
図10は、
図9に示したエネルギー吸収機構の作用を示す図であり、(A)は初期段階、(B)は中荷重段階、(C)は低荷重段階、を示している。なお、上述した第一実施形態に係るシートベルトリトラクタ1と同じ構成部品については、同一の符号を付して重複した説明を省略する。
【0076】
第二実施形態に係るシートベルトリトラクタ1は、
図4(A)に示したように、エネルギー吸収機構5の荷重制御パターンを「高荷重α→中荷重β→低荷重γ」に設定したものである。
【0077】
本実施形態におけるエネルギー吸収機構5は、2本の第二トーションバー52のうち一つが、第一トーションバー51の軸回りに回転する際に自身の軸方向に移動可能に構成されており、その軸方向移動によりラウンドギア52cがセンターギア51cから離脱するように構成されている。
【0078】
具体的には、一つの第二トーションバー52の第二端部52bの外周に雄ネジ部52fが形成され、対応するリンクプレート54の第二開口部54bの内周に雌ネジ部54cが形成されている。
図10(A)に示したように、初期状態では、第二トーションバー52の第二端部52bの先端がリンクプレート54の第二開口部54bに挿通されている。このとき、センターギア51cとラウンドギア52cとは噛合した状態である。
【0079】
そして、第二トーションバー52が第一トーションバー51の軸回りに回転するにしたがって、雄ネジ部52fが雌ネジ部54cに沿って回転し、
図10(B)に示したように、第二トーションバー52は図の左方向に移動する。このとき、2本の第二トーションバー52が作用している状態であることから、エネルギー吸収機構5は中荷重βに荷重制御される。
【0080】
さらに、第二トーションバー52が第一トーションバー51の軸回りに回転すると、第二トーションバー52が図の左方向に移動し、最終的に、
図10(C)に示したように、ラウンドギア52cはセンターギア51cから完全に離脱することとなる。このとき、1本の第二トーションバー52のみが作用している状態であることから、エネルギー吸収機構5は低荷重γに荷重制御される。
【0081】
また、図示しないが、二つの第二トーションバー52に雄ネジ部52fを形成し、対応するリンクプレート54に雌ネジ部54cを形成し、ラウンドギア52cがセンターギア51cから離脱するタイミングを異ならせるようにしてもよい。かかる構成により、エネルギー吸収機構5の荷重制御パターンを「高荷重α→中荷重β→低荷重γ→無荷重」に設定することができる。
【0082】
次に、本発明の第三実施形態に係るシートベルトリトラクタ1について、
図11(A)及び
図11(B)を参照しつつ説明する。ここで、
図11は、本発明の第三実施形態に係るシートベルトリトラクタのエネルギー吸収機構を示す部分断面図であり、(A)は低荷重段階、(B)は中荷重段階、を示している。なお、上述した第一実施形態に係るシートベルトリトラクタ1と同じ構成部品については、同一の符号を付して重複した説明を省略する。
【0083】
第三実施形態に係るシートベルトリトラクタ1は、
図4(B)に示したように、エネルギー吸収機構5の荷重制御パターンを「高荷重α→低荷重γ→中荷重β」と変化させるように設定したものである。
【0084】
本実施形態におけるエネルギー吸収機構5は、2本の第二トーションバー52のうち一つが、第一トーションバー51の軸回りに回転する際に自身の軸方向に移動可能に構成されており、その軸方向移動によりラウンドギア52cがセンターギア51cに噛合するように構成されている。
【0085】
具体的には、一つの第二トーションバー52の第一端部52aの外周に雄ネジ部52gが形成され、対応する固定穴24の内周に雌ネジ部24aが形成されている。初期状態では、第二トーションバー52の第一端部52aの先端部分が固定穴24に挿通され、ラウンドギア52cがセンターギア51cに係合した状態である。
【0086】
そして、第二トーションバー52が第一トーションバー51の軸回りに回転するにしたがって、雄ネジ部52gが雌ネジ部24aに沿って回転し、
図11(A)に示したように、第二トーションバー52は図の右方向に移動する。このとき、ラウンドギア52cはセンターギア51cとの噛合を開始するが、第二トーションバー52の第一端部52aが固定穴24で回転可能な状態、すなわち、固定されていない状態であることから、第二トーションバー52は捻り変形を生じない状態にある。したがって、エネルギー吸収機構5は低荷重γに荷重制御される。
【0087】
さらに、第二トーションバー52が第一トーションバー51の軸回りに回転すると、第二トーションバー52が図の右方向に移動し、最終的に、
図11(B)に示したように、第二トーションバー52の第一端部52aが固定穴24の底部に到達し、右方向への移動が規制される。このとき、第二トーションバー52の第一端部52aが固定穴24に固定された状態となり、第二トーションバー52が捻り変形を開始する。したがって、エネルギー吸収機構5は中荷重βに荷重制御される。
【0088】
また、図示しないが、二つの第二トーションバー52に雄ネジ部52gを形成し、対応する固定穴24に雌ネジ部24aを形成し、ラウンドギア52cがセンターギア51cに噛合して捻り変形を開始するタイミングを異ならせるようにしてもよい。かかる構成により、エネルギー吸収機構5の荷重制御パターンを「高荷重α→無荷重→低荷重γ→中荷重β」に設定することができる。
【0089】
次に、本発明の第四実施形態に係るシートベルトリトラクタ1について、
図12(A)~
図12(C)を参照しつつ説明する。ここで、
図12は、本発明の第四実施形態に係るシートベルトリトラクタのエネルギー吸収機構を示す部分断面図であり、(A)は初期段階、(B)は低荷重段階、(C)は中荷重段階、を示している。なお、上述した第一実施形態に係るシートベルトリトラクタ1と同じ構成部品については、同一の符号を付して重複した説明を省略する。また、各図に示した断面図は、スプール2の固定穴24を含む部分を軸方向に垂直な平面で切断した状態を図示したものである。
【0090】
第四実施形態に係るシートベルトリトラクタ1は、
図4(B)に示したように、エネルギー吸収機構5の荷重制御パターンを「高荷重α→低荷重γ→中荷重β」と変化させるように設定したものである。
【0091】
本実施形態におけるエネルギー吸収機構5は、2本の第二トーションバー52のうち一つの第一端部52aが所定量だけ回転可能に構成されている。具体的には、一つの第二トーションバー52の第一端部52aの外周に突起部52hが形成され、対応する固定穴24の内周にストッパ24bが形成されている。なお、第一端部52aの先端には固定穴24の底部に回転可能に支持された軸部(図示せず)が形成されていてもよい。
【0092】
図12(A)に示したように、初期状態では、第二トーションバー52の突起部52hが固定穴24内に回転可能な状態で配置されている。すなわち、突起部52hの回転方向において突起部52hとストッパ24bとが離隔した状態に配置されている。
【0093】
そして、第二トーションバー52が第一トーションバー51の軸回りに回転するにしたがって、
図12(B)に示したように、突起部52hはストッパ24bに接近するように回転する。このとき、第二トーションバー52の第一端部52aが固定穴24で回転可能な状態、すなわち、固定されていない状態であることから、第二トーションバー52は捻り変形を生じない状態にある。したがって、エネルギー吸収機構5は低荷重γに荷重制御される。
【0094】
なお、
図12(B)において、実際はスプール2も回転しているが、説明の便宜上、ストッパ24bを有する固定穴24が上の位置となるように図示してある。
図12(C)においても同様に、説明の便宜上、ストッパ24bを有する固定穴24が上の位置となるように図示してある。
【0095】
さらに、第二トーションバー52が第一トーションバー51の軸回りに回転すると、
図12(C)に示したように、突起部52hはストッパ24bに到達し、第二トーションバー52の回転が規制される。このとき、第二トーションバー52の第一端部52aが固定穴24に固定された状態となり、第二トーションバー52が捻り変形を開始する。したがって、エネルギー吸収機構5は中荷重βに荷重制御される。
【0096】
また、図示しないが、2本の第二トーションバー52に突起部52hを形成し、対応する固定穴24にストッパ24bを形成し、第二トーションバー52の捻り変形を開始するタイミングを互いに異ならせるようにしてもよい。かかる構成により、エネルギー吸収機構5の荷重制御パターンを「高荷重α→無荷重→低荷重γ→中荷重β」に設定することができる。
【0097】
次に、本発明の一実施形態に係るシートベルト装置について、
図13を参照しつつ説明する。ここで、
図13は、本発明の一実施形態に係るシートベルト装置を示す全体構成図である。なお、
図13において、説明の便宜上、シートベルト装置以外の構成部品については、一点鎖線で図示している。
【0098】
図13に示した本実施形態に係るシートベルト装置100は、乗員を拘束するウェビングWと、ウェビングWの巻き取りを行うシートベルトリトラクタ1と、車体側に設けられウェビングWを案内するガイドアンカー101と、ウェビングWを車体側に固定するベルトアンカー102と、シートSの側面に配置されたバックル103と、ウェビングWに配置されたトング104と、を備え、シートベルトリトラクタ1は、例えば、
図1に示した構成を有している。
【0099】
以下、シートベルトリトラクタ1以外の構成部品について簡単に説明する。シートSは、例えば、乗員が着座する腰掛部S1と、乗員の背面に位置する背もたれ部S2と、乗員の頭部を支持するヘッドレスト部S3とを備えている。シートベルトリトラクタ1は、例えば、車体のBピラーRに内蔵されることが多い。また、一般に、バックル103は腰掛部S1の側面に配置されることが多く、ベルトアンカー102は腰掛部S1の下面に配置されることが多い。また、ガイドアンカー101は、BピラーRに配置されることが多い。そして、ウェビングWは、一端がベルトアンカー102に接続され、他端がガイドアンカー101を介してシートベルトリトラクタ1に接続されている。
【0100】
したがって、トング104をバックル103に嵌着させる場合、ウェビングWはガイドアンカー101の挿通孔を摺動しながらシートベルトリトラクタ1から引き出されることとなる。また、乗員がシートベルトを装着した場合や降車時にシートベルトを解除した場合には、シートベルトリトラクタ1のスプリングユニット6の作用により、ウェビングWは一定の負荷がかかるまで巻き取られる。
【0101】
上述したシートベルト装置100は、前部座席における通常のシートベルト装置に、上述した第一実施形態~第四実施形態に係るシートベルトリトラクタ1を適用したものである。したがって、本実施形態に係るシートベルト装置100によれば、第二トーションバー52の捻り変形を開始するタイミング又は捻り変形を終了するタイミングを互いに異なるように構成したことにより、例えば、エネルギー吸収機構5の荷重制御パターンを「高荷重→中荷重→低荷重」や「高荷重→低荷重→中荷重」のように容易かつ任意に設定することができる。
【0102】
なお、本実施形態に係るシートベルト装置100は、前部座席への適用に限定されるものではなく、例えば、ガイドアンカー101を省略して後部座席にも容易に適用することができる。また、本実施形態に係るシートベルト装置100は、車両以外の乗物にも使用することができる。
【0103】
本発明は上述した実施形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更が可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0104】
1 シートベルトリトラクタ
2 スプール
3 プリテンショナ
4 ロック機構
5 エネルギー吸収機構
6 スプリングユニット
11 ベースフレーム
21 第一端部
22 第二端部
23 ベアリングプレート
24 固定穴
24a 雌ネジ部
24b ストッパ
31 パドルギア
32 動力伝達装置
33 案内部材
34 ガス発生器
35 カバー部材
41 ロッキングベース
41a 軸部
41b フランジ部
41c 挿入穴
42 ロックギア
43 リテーナカバー
51 第一トーションバー
51a 第一端部
51b 第二端部
51c センターギア
51d ブッシュ
51e ベアリング
51f プッシュナット
52 第二トーションバー
52a 第一端部
52b 第二端部
52c ラウンドギア
52c′ 第一ラウンドギア
52c″ 第二ラウンドギア
52d,52e 欠損領域
52f,52g 雄ネジ部
52h 突起部
53 切替機構
53a エンゲージプレート
53b リリースリング
53c リングホルダー
53d 動力発生装置
53e 凹部
53f 環状部
53g 爪
53h 筒部
53i 円板部
53j ガス発生器
53k ピストン
53m レバー
53n ハウジング
53p レバーストッパ
53q シリンダ部
53r 胴部
53s 案内溝
53t リング部
53u 突起部
54 リンクプレート
54a 第一開口部
54b 第二開口部
54c 雌ネジ部
100 シートベルト装置
101 ガイドアンカー
102 ベルトアンカー
103 バックル
104 トング