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特許7369606垂直補剛材を備える鋼橋の疲労き裂防止構造
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-18
(45)【発行日】2023-10-26
(54)【発明の名称】垂直補剛材を備える鋼橋の疲労き裂防止構造
(51)【国際特許分類】
   E01D 19/12 20060101AFI20231019BHJP
   E01D 1/00 20060101ALI20231019BHJP
   E01D 22/00 20060101ALI20231019BHJP
【FI】
E01D19/12
E01D1/00 E
E01D22/00 B
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019223562
(22)【出願日】2019-12-11
(65)【公開番号】P2021092082
(43)【公開日】2021-06-17
【審査請求日】2022-11-17
(73)【特許権者】
【識別番号】516212957
【氏名又は名称】坂野 昌弘
(73)【特許権者】
【識別番号】000152424
【氏名又は名称】株式会社日建設計
(74)【代理人】
【識別番号】100075557
【弁理士】
【氏名又は名称】西教 圭一郎
(72)【発明者】
【氏名】坂野 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】田▲辺▼ 篤史
【審査官】高橋 雅明
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-223393(JP,A)
【文献】特開2018-009385(JP,A)
【文献】特開2016-069808(JP,A)
【文献】特開2008-050774(JP,A)
【文献】特開2012-202194(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01D 19/12
E01D 1/00
E01D 22/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主桁のウエブに取付けられる垂直補剛材の上端部と、
鋼床版のデッキプレートとが、またはコンクリート床版もしくは鉄道線路の枕木を支持する主桁の上フランジとが、溶接される接合部付近において、
前記垂直補剛材の前記上端部に、前記ウエブから橋軸直角方向に遠ざかる方向に延びる突出部が形成され、
前記突出部の先端から下方に連なる端面が、
下方になるにつれて前記ウエブに近付く方向に弯曲してくぼんでおり、1/4の円周である凹部と、
前記凹部の前記ウエブ寄りに最も近い下端から接線方向に、前記垂直補剛材の下端部まで前記ウエブに平行に延びる延在面とを含み、
前記垂直補剛材は、
前記突出部を有さない予め定める設計基準に従う寸法および剛性を有し、前記延在面を形成する矩形平板部を有し、
前記突出部は、前記矩形平板部の上部に連なり、突出部長さL47だけ突出して延びて凹部を形成し、
前記突出部の先端の前記デッキプレートまたは前記上フランジの下面から下方の高さD51は、溶接サイズD42を超え、そのサイズD42に近似した値を有し、
前記凹部は、前記垂直補剛材の厚さt24の2~7倍の半径R52を有する円弧に形成され、
前記垂直補剛材の前記上端部は、前記デッキプレートまたは前記上フランジに、
前記突出部の前記突出部長さL47を有する第1溶接領域と、その第1溶接領域に続く前記ウエブ寄りの予め定める長さL63を有する第2溶接領域とでは、完全溶込み溶接され、
前記第2溶接領域よりも前記ウエブ寄りに、前記第2溶接領域に続く遷移領域と残余の第3溶接領域とが形成され、前記第3溶接領域では、両側の溶接金属間の溶接されないルート幅W1が存在する両面隅肉溶接され、前記遷移領域では、前記ウエブに近付くにつれて完全溶込み溶接から両側の溶接金属間の溶接されないルート幅が、前記第2溶接領域における零から前記ウエブに近付くにつれて大きな値に変化するように設定され、
前記垂直補剛材の前記上端部の前記ウエブ寄りにスカラップが形成され、
前記先端および前記スカラップでまわし溶接され、
前記垂直補剛材の前記下端部は、前記主桁の下フランジの上面にメタルタッチによって当接し、
前記垂直補剛材の幅方向の基端部は、前記ウエブに溶接されることを特徴とする垂直補剛材を備える鋼橋の疲労き裂防止構造。
【請求項2】
主桁、横桁、および横リブのうちから選ばれる1つが有するウエブに取付けられる垂直補剛材の上端部と、
鋼床版のデッキプレートとが溶接される接合部付近において、
前記垂直補剛材の前記上端部に、前記ウエブから橋軸直角方向に遠ざかる方向に延びる突出部が形成され、
前記突出部の先端から下方に連なる端面が、
下方になるにつれて前記ウエブに近付く方向に弯曲してくぼんでおり、1/4の円周である凹部と、
前記凹部の前記ウエブ寄りに最も近い下端から接線方向に、前記垂直補剛材の下端部まで前記ウエブに平行に延びる延在面とを含み、
前記垂直補剛材は、
前記突出部を有さない予め定める設計基準に従う寸法および剛性を有し、前記延在面を形成する矩形平板部を有し、
前記突出部は、前記矩形平板部の上部に連なり、突出部長さL47だけ突出して延びて凹部を形成し、
前記突出部の先端の前記デッキプレートの下面から下方の高さD51は、溶接サイズD42を超え、そのサイズD42に近似した値を有し、
前記凹部は、前記垂直補剛材の厚さt24の2~7倍の半径R52を有する円弧に形成され、
前記垂直補剛材の前記上端部は、前記デッキプレートに、
前記突出部の前記突出部長さL47を有する第1溶接領域と、その第1溶接領域に続く前記ウエブ寄りの予め定める長さL63を有する第2溶接領域とでは、完全溶込み溶接され、
前記第2溶接領域よりも前記ウエブ寄りに、前記第2溶接領域に続く遷移領域と残余の第3溶接領域とが形成され、前記第3溶接領域では、両側の溶接金属間の溶接されないルート幅W1が存在する両面隅肉溶接され、前記遷移領域では、前記ウエブに近付くにつれて完全溶込み溶接から両側の溶接金属間の溶接されないルート幅が、前記第2溶接領域における零から前記ウエブに近付くにつれて大きな値に変化するように設定され、
前記垂直補剛材の前記上端部の前記ウエブ寄りにスカラップが形成され、
前記先端および前記スカラップでまわし溶接され、
前記垂直補剛材の前記下端部は、主桁、横桁、および横リブのうちの前記1つの下フランジの上面にメタルタッチによって当接し、
前記垂直補剛材の幅方向の基端部は、前記ウエブに溶接されることを特徴とする垂直補剛材を備える鋼橋の疲労き裂防止構造。
【請求項3】
前記第2溶接領域の長さL63は、前記垂直補剛材の厚さt24の2.0~2.5倍であり、前記遷移領域の長さL66は、前記垂直補剛材の厚さt24の3~6倍であることを特徴とする請求項1または2に記載の垂直補剛材を備える鋼橋の疲労き裂防止構造。
【請求項4】
(a)デッキプレートの下面に橋軸方向に延び、デッキプレートを補剛する閉断面縦リブが設けられ、
(a1)橋軸方向に沿ってデッキプレートに垂直な対称面に関して左右対称に構成され、
(a2)デッキプレートの下面とともに橋軸方向に延びる閉空間を形成する縦リブ本体であって、
(a2-1)平板状下フランジ、および
(a2-2)下フランジの両側部にそれぞれ連なって立上がる平板状ウエブを有する縦リブ本体、および
(a3)デッキプレート12の下面に配置され、縦リブ本体の各ウエブの上端部にそれぞれ連なり、橋軸直角方向に外向きに形成される平板状取付けフランジを有する閉断面縦リブ、ならびに
(b)橋軸方向に間隔をあけて配置されるタッピングボルトであって、
取付けフランジおよびデッキプレートに厚さ方向に貫通して予めそれぞれ形成される複数の直円筒形の各支圧接合用下穴に、取付けフランジからデッキプレートへ締め込まれてめねじを自ら形成しながら進み、
デッキプレートおよび取付けフランジを気密に支圧接合し、
タッピングボルトの端部は、デッキプレート12の上面に突出しないタッピングボルトを含むことを特徴とする請求項1または2に記載の垂直補剛材を備える鋼橋の疲労き裂防止構造。
【請求項5】
閉断面縦リブは、縦リブ本体の各ウエブの上端部と取付けフランジの下面とが直角または直角に近似した角度で連ねて溶接されて構成されることを特徴とする請求項4に記載の垂直補剛材を備える鋼橋の疲労き裂防止構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼床版橋、コンクリート床版橋、および無道床の鉄道橋などの垂直補剛材を備える鋼橋の疲労き裂防止構造に関する。
【背景技術】
【0002】
本件明細書中の用語について、用語「タッピングボルト」は、接合される複数の部材の少なくとも一方におけるめねじ加工が施されていない下穴に、直接にねじ込むことによって、自らねじ切りをしつつ進み、めねじを塑性変形によって形成して、ねじ接合するボルトまたはねじであり、また、自らねじ切りをしつつ進み、めねじを弾性変形によって、または切削加工して形成して、ねじ接合するボルトまたはねじを含む。「タッピングボルト」は、スレッドローリングスクリュ(略称TRS(登録商標))、スレッドフォーミングスクリュ、タッピンねじ、タップボルトなどを含む概念として、解釈されなければならない。
【0003】
上下方向は、鋼床版が施工された橋梁における地上から見た方向であり、図面中のみの上下方向は、その図面を指摘する。
【0004】
従来、Uリブ形式の鋼床版において、デッキブレートと、箱桁などの主桁ウエブに取付けられる矩形平板である垂直補剛材の上端部とが、隅肉溶接によって接合され、この接合部付近に疲労き裂が、数多く発見されている。垂直補剛材は、主桁ウエブの座屈変形を防ぎ、デッキプレートの撓み変形および縦リブを含む面外曲げ変形の軽減、さらに疲労破壊を抑えて疲労耐久性の向上などを達成するために設けられる。このタイプのき裂は,デッキブレートを貫通することによってデッキブレートの変形を増大させ、車両の走行に影響を及ぼし、舗装の損傷を誘発する。このき裂は,輪荷重の直上載荷に伴うデッキプレートの撓み変形を垂直補剛材が拘束することによって、垂直補剛材縁のまわし溶接接合部に剛性の急変による局所的な応力集中が発生し、その繰返しによって発生する。
【0005】
この対策として、典型的な先行技術は、既設橋を対象に、デッキプレートと矩形平板である垂直補剛材の上端部付近に、半円切欠きを切断施工して設ける(非特許文献1)。これによって、垂直補剛材の上下方向の剛性を和らげ、デッキプレートと垂直補剛材との溶接止端部の応力集中の緩和を図る。
新設橋を対象に、横リブまたは横桁の垂直補剛材の上部を斜めに切断してウエブギャップ間隔を設け、デッキプレートと溶接しない構造もある(非特許文献2)。これによって、非特許文献1と同じように垂直補剛材の上下方向の剛性を低下させる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】高田佳彦他:半円切欠きを用いた既設鋼床版橋主桁垂直補剛材上端溶接部の疲労対策、鋼構造論文集第16巻第62号(2009年6月)35~46頁
【文献】「鋼道路橋の疲労設計指針」 編集発行所社団法人日本道路協会(発行平成14年5月24日)54頁「5.3.8章 図5.3.5横リブまたは横げたの垂直補剛材の取付け構造の標準」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
この先行技術(非特許文献1)の新たな問題は、垂直補剛材において、半円切欠きの切断縁における上下方向の中央近傍、すなわち、半円切欠きにおける主桁ウエブ寄りの底付近で、応力集中が生じ、損傷リスクがある。他の問題は、既設橋の場合、垂直補剛材に半円切欠きを設けることによって、垂直補剛材の断面を減少させて剛性、すなわち、補剛材としての性能を低下させるので、切欠きの半径を、応力集中の緩和を図るために適切な希望する大きな値に設定することができない。垂直補剛材に半円切欠きを設ける構成は、新設する鋼橋に関連して実施されていない。
もう1つの先行技術(非特許文献2)では、垂直補剛材の上部を切断すると、当然ながら、切断個所の剛性が不足し、切断部に疲労損傷が出やすくなる、という問題がある。
【0008】
本発明の目的は、垂直補剛材の剛性を低下させることなく、鋼床版のデッキプレートまたはコンクリート床版などを支持する主桁の上フランジと垂直補剛材の上端部との接合部付近における応力集中を緩和させるようにした垂直補剛材を備える鋼橋の疲労き裂防止構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本件明細書中、理解の便宜のために、異なる実施の形態などにおける対応する構成要素には、同じ、または、関連する参照符を付す。また、対応する内容が記載されている段落を( )内に示す。接合部を、溶接部または溶接と呼ぶことがある。
本発明は、
主桁21(図2)、84(図15)のウエブ23、86に取付けられる垂直補剛材24、87の上端部41と、
鋼床版11のデッキプレート12とが、またはコンクリート床版82もしくは鉄道線路の枕木を支持する主桁84の上フランジ85とが、溶接される接合部42付近において、
前記垂直補剛材24、87の前記上端部41に、前記ウエブ23、86から橋軸直角方向に遠ざかる方向に延びる突出部47、89が形成され、
前記突出部47、89の先端51から下方に連なる端面50が、
下方になるにつれて前記ウエブ23、86に近付く方向に弯曲してくぼんでおり、1/4の円周である凹部52と、
前記凹部52の前記ウエブ23、86寄りに最も近い下端54から接線方向に、前記垂直補剛材24、87の下端部43まで前記ウエブ23、86に平行に延びる延在面53とを含み、
前記垂直補剛材24、87は、
前記突出部47、89を有さない予め定める設計基準に従う寸法および剛性を有し、前記延在面53を形成する矩形平板部46、88を有し、
前記突出部47、89は、前記矩形平板部46、88の上部に連なり、突出部長さL47だけ突出して延びて凹部52を形成し、
前記突出部47、89の先端51の前記デッキプレート12または前記上フランジ85の下面から下方の高さD51は、溶接サイズD42を超え、そのサイズD42に近似した値を有し、
前記凹部52は、前記垂直補剛材24、87の厚さt24の2~7倍の半径R52を有する円弧に形成され(段落[0039])、
前記垂直補剛材24、87の前記上端部41は、デッキプレート12または前記上フランジ85に、
前記突出部47、89の前記突出部長さL47を有する第1溶接領域と、その第1溶接領域に続く前記ウエブ23、86寄りの予め定める長さL63を有する第2溶接領域63とでは、完全溶込み溶接(図9図11)され、
前記第2溶接領域63よりも前記ウエブ23、86寄りに、前記第2溶接領域63に続く遷移領域66と残余の第3溶接領域67とが形成され、前記第3溶接領域67では、両側の溶接金属64、65間の溶接されないルート幅W1(図10)が存在する両面隅肉溶接され、前記遷移領域66では、前記ウエブ23、86に近付くにつれて完全溶込み溶接から両側の溶接金属間の溶接されないルート幅が、前記第2溶接領域63における零から前記ウエブ23、86に近付くにつれて大きな値に変化するように設定され、
前記垂直補剛材24、87の前記上端部41の前記ウエブ23、86寄りにスカラップ68が形成され、
前記先端51および前記スカラップ68でまわし溶接され、
前記垂直補剛材24、87の下端部43は、前記主桁21(図2)、84(図15)の下フランジ22の上面にメタルタッチによって当接し(段落[0043])、
前記垂直補剛材24、87の幅方向(図8の左右方向)の基端部48は、前記ウエブ23、86に溶接49されることを特徴とする垂直補剛材を備える鋼橋の疲労き裂防止構造である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、箱桁橋またはI桁橋などにおいて、鋼床版のデッキプレートまたはコンクリート床版もしくは鉄道線路の枕木を支持する主桁の上フランジと、主桁のウエブに溶接されて取付けられる垂直補剛材の上端部とが溶接されて接合部が形成される。コンクリート床版は、鉄筋コンクリート床版またはプレストレストコンクリート床版などのコンクリート系床版を含み、そのハンチは鋼桁の上フランジによって支持される。垂直補剛材は、上下に延び、その基端部が主桁ウエブに溶接され、その上端部がデッキプレートまたは上フランジと溶接される。
垂直補剛材の上端部には、その直上に鋼床版のデッキプレートまたはコンクリート床版もしくは鉄道線路の枕木が載っていて、輪荷重が作用して溶接接合部が疲労損傷する部位であり、本発明は、同様な類似の構造の全てに適用可能である。垂直補剛材の上端部の溶接接合部付近において、その上端部には、突出部が主桁ウエブから橋軸直角方向に遠ざかる方向に延びて形成される。突出部を有する垂直補剛材は、主桁のウエブに垂直であってもよい。
コンクリート床版は、鉄道橋における一対の軌条であるレールが取付けられる軌道スラブを備える構成を含む。軌道スラブは、たとえば、コンクリート路盤の上に設置されて道床を実現する。
本発明はまた、鉄道の線路を構成する一対の軌条が取付けられる枕木を、主桁の上フランジによって、または縦桁の上フランジによって、支持する無道床の鉄道橋などにも実施できる。
【0011】
突出部の先端から下方に連なる端面は、下方になるにつれて主桁ウエブに近付く方向に弯曲してくぼんだ凹部と、その凹部の主桁ウエブ寄りに最も近い下端から、垂直補剛材の下端部まで主桁ウエブに平行に延びる延在面とを含む。凹部は、円または楕円などの一部でもよいが、その他の丸みをおびた弯曲した形状を有してもよく、フィレット構造と呼ぶこともできる。延在面は、凹部の主桁ウエブ寄りに最も近い下端から、垂直補剛材の下端部まで主桁ウエブに平行に延びる。この延在面は、突出部とともに働いて、鋼床版のデッキプレートと垂直補剛材の上端部との接合部付近における応力集中が、またはコンクリート床版を支持する主桁の上フランジと垂直補剛材の上端部との接合部付近における応力集中が、緩和、抑制されて全体的にバランスさせるように、延びて形成され、主桁ウエブにほぼ平行に、もしくは、わずかに傾斜して延びてもよく、または、上下方向に沿って橋軸直角方向の凹凸などが形成されてもよく、このような改変も本発明の精神に含まれる。
【0012】
したがって、垂直補剛材の上端部は、凹部が形成される突出部を有するので、突出部における剛性が、垂直補剛材の残余の部分に比べて、低下される。そのため、特に、突出部の先端とデッキプレートまたは前記上フランジとに作用する応力を低減することができ、垂直補剛材の上端部付近における溶接接合部に局所的な応力集中が緩和され、デッキプレートまたは上フランジに進展する疲労き裂の発生が防がれる。凹部は、応力集中および疲労き裂などの発生を防ぐために最適な寸法、形状を選ぶことができ、この場合、凹部が大きくても、その凹部による垂直補剛材の剛性の不足が生じないように構成することができる。本発明は、新設する鋼橋に関連して好適に実施することができるが、既設橋の補修のためにも実施することができる。
凹部の端面は弯曲して滑らかであり、その凹部の主桁ウエブ寄りに最も近い下端から、延在面が垂直補剛材の下端部まで主桁ウエブに平行に延びるので、垂直補剛材に応力集中が発生することが防がれる。そのため、垂直補剛材の疲労損傷を防ぐことができる。
本発明によれば、垂直補剛材の矩形平板部は、本来必要な寸法および剛性、たとえば、上下方向の剛性を有するように予め定める設計基準に従って、従来どおりの実務で容易に設計して構成することができる。矩形平板部の上部と、それに連なって主桁ウエブから橋軸直角方向に遠ざかる方向に延びる突出部とは、垂直補剛材の上端部41を構成する。矩形平板部と突出部とを有する垂直補剛材は、たとえば、単一枚の厚さが一様な鋼板から容易に製造できる。
突出部の先端の高さD51は、溶接サイズD42を超え、そのサイズD42に近似した値を有する。したがって、突出部の先端は、接合部の溶接止端よりも下方まで延び、凹部が、垂直補剛材の上端部のデッキプレートまたは前記上フランジの下面との溶接強度を低下することはない。しかも、その凹部の上端をデッキプレートまたは前記上フランジの下面に近付けて突出部の先端の上下方向の剛性を弱めることができるので、デッキプレートまたは前記上フランジに作用する応力を可及的に緩和できる。
L039_16L039_16 凹部は、垂直補剛材の厚さt24の2~7倍、好ましくは、3~5倍の半径を有する円弧を含んで形成される。これによって、本件発明者は、前述の応力緩和を上首尾に達成でき、応力集中の発生を防止でき、疲労損傷を防ぐことができることを確認した。
本発明によれば、主桁ウエブと平行な延在面は、凹部の下端から接線方向に延びるので、垂直補剛材における応力集中の発生を防止できる。
凹部は、たとえば、円の1/4の円周を成す円弧であってもよい。凹部52である円の半径R52(図8)を大きくすると、接合部42の応力は減るが、母材部である垂直補剛材24の応力は増え、また、半径R52を小さくすると、その逆になるので、接合部42と垂直補剛材24の各応力の両者がバランスよく応力緩和できる最適な半径R52が選択される。
本発明によれば、垂直補剛材の上端部におけるデッキプレートまたは前記上フランジとの溶接による接合部において、突出部では、デッキプレートまたは前記上フランジに完全溶込み溶接され、さらに突出部から主桁ウエブ寄りの予め定める遷移領域でも、同じく完全溶込み溶接されてもよい。これによって、少なくとも突出部は、デッキプレートまたは前記上フランジに大きな溶接強度で固定されて一体になるので、デッキプレートまたは前記上フランジからの下向きの力が突出部に円滑に作用して応力緩和され、特に、突出部の先端付近に応力集中が発生することはない。完全溶込み溶接は、たとえば、レ形または
K形などの開先溶接によって実現してもよい。突出部、さらに遷移領域よりも主桁ウエブ寄りの領域では、両面隅肉溶接され、実施の他の形態では、片面隅肉溶接または部分溶込み溶接されてもよい。本発明の他の考え方によれば、垂直補剛材の上端部とデッキプレートまたは前記上フランジとの接合部は、完全溶込み溶接されてもよい。
本発明によれば、デッキプレート側だけではなく、上部がコンクリート床版の場合と同様に、垂直補剛材側の溶接止端部や、溶接ルート部からの疲労き裂の発生も防止できる。
本発明は、
主桁21(図2)、横桁8(図5)、および横リブ9(図6)のうちから選ばれる1つが有するウエブ23に取付けられる垂直補剛材24、101、102の上端部41と、
前記鋼床版11のデッキプレート12とが溶接される接合部42付近において、
前記垂直補剛材24、101、102の前記上端部41に、前記ウエブ23から橋軸直角方向に遠ざかる方向に延びる突出部47が形成され、
前記突出部47の先端51から下方に連なる端面50が、
下方になるにつれて前記ウエブ23に近付く方向に弯曲してくぼんでおり、1/4の円周である凹部52と、
前記凹部52の前記ウエブ23寄りに最も近い下端54から接線方向に、前記垂直補剛材24、101、102の下端部43まで前記ウエブ23に平行に延びる延在面53とを含み、
前記垂直補剛材24、101、102は、
前記突出部47を有さない予め定める設計基準に従う寸法および剛性を有し、前記延在面53を形成する矩形平板部46を有し、
前記突出部47は、前記矩形平板部46の上部に連なり、突出部長さL47だけ突出して延びて凹部52を形成し、
前記突出部47の先端51の前記デッキプレート12の下面から下方の高さD51は、溶接サイズD42を超え、そのサイズD42に近似した値を有し、
前記凹部52は、前記垂直補剛材24、101、102の厚さt24の2~7倍の半径R52を有する円弧に形成され(段落[0039])、
前記垂直補剛材24、101、102の前記上端部41は、デッキプレート12に、
前記突出部47の前記突出部長さL47を有する第1溶接領域と、その第1溶接領域に続く前記ウエブ23寄りの予め定める長さL63を有する第2溶接領域63とでは、完全溶込み溶接(図9図11)され、
前記第2溶接領域63よりも前記ウエブ23寄りに、前記第2溶接領域63に続く遷移領域66と残余の第3溶接領域67とが形成され、前記第3溶接領域67では、両側の溶接金属64、65間の溶接されないルート幅W1(図10)が存在する両面隅肉溶接され、前記遷移領域66では、前記ウエブ23に近付くにつれて完全溶込み溶接から両側の溶接金属間の溶接されないルート幅が、前記第2溶接領域63における零から前記ウエブ23に近付くにつれて大きな値に変化するように設定され、
前記垂直補剛材24、101、102の前記上端部41の前記ウエブ23寄りにスカラップ68が形成され、
前記先端51および前記スカラップ68でまわし溶接され、
前記垂直補剛材24、87の前記下端部43は、主桁21(図2)、横桁8(図5)、および横リブ9(図6)のうちの前記1つの下フランジ22の上面にメタルタッチによって当接し(段落[0043])、
前記垂直補剛材24、101、102の幅方向(図8の左右方向)の基端部48は、ウエブ23に溶接49されることを特徴とする垂直補剛材を備える鋼橋の疲労き裂防止構造である。
本発明によれば、前述と同じように、鋼床版のデッキプレートと垂直補剛材の上端部との接合部付近における応力集中が、緩和、抑制される。主桁、横桁、および横リブは、後述の実施の形態の鋼橋における構成だけでなく、その他の構成も含み、たとえば、ウエブの上下にフランジをそれぞれ有する構成であってもよい。
本発明はまた、鉄道の線路を一対の軌条とともに構成する枕木を、主桁、横桁、横リブ、または縦桁の上フランジによって支持する無道床の鉄道橋などにも実施できる。本発明は、下路I桁や下路トラスの縦桁の上フランジに枕木が載る構成も含む。
後述の実施の形態では、鋼橋1は、鋼床版11のデッキプレート12が、主桁21(図2)、横桁8(図5)、および横リブ9(図6)の上フランジを兼ねて構成される。
本発明は、
前記第2溶接領域63の長さL63は、前記垂直補剛材24の厚さt24の2.0~2.5倍であり、前記遷移領域66の長さL66は、前記垂直補剛材24の厚さt24の3~6倍であることを特徴とする(段落[0039])。
【0021】
本発明は、
(a)デッキプレート12の下面に橋軸方向に延び、デッキプレート12を補剛する閉断面縦リブ13が設けられ、
(a1)橋軸方向に沿ってデッキプレート12に垂直な対称面14に関して左右対称に構成され、
(a2)デッキプレートの下面とともに橋軸方向に延びる閉空間を形成する縦リブ本体15であって、
(a2-1)平板状下フランジ17、および
(a2-2)下フランジ17の両側部にそれぞれ連なって立上がる平板状ウエブ18を有する縦リブ本体15、および
(a3)デッキプレート12の下面に配置され、縦リブ本体15の各ウエブ18の上端部にそれぞれ連なり、橋軸直角方向に外向きに形成される平板状取付けフランジ16を有する閉断面縦リブ13、ならびに
(b)橋軸方向に間隔をあけて配置されるタッピングボルト31であって、
取付けフランジ16およびデッキプレート12に厚さ方向に貫通して予めそれぞれ形成される複数の直円筒形の各支圧接合用下穴35、36に、取付けフランジ16からデッキプレート12へ締め込まれてめねじを自ら形成しながら進み、
デッキプレート12および取付けフランジ16を気密に支圧接合し、
タッピングボルト31の端部は、デッキプレート12の上面に突出しないタッピングボルト31を含むことを特徴とする。
【0022】
本発明によれば、デッキプレートの下面に閉断面縦リブの取付けフランジが支圧接合ボルトであるタッピングボルトによって支圧接合され、デッキプレートが補剛されて鋼橋などの橋梁の鋼床版が構成される。タッピングボルトによる支圧接合は、高力ボルトとナットとによる摩擦接合とは異なり、水密性、気密性を確保し、デッキプレートからの漏水を防ぐ。また、デッキプレートと縦リブとを接合する溶接継手が存在しないので、そのビード貫通亀裂およびデッキ貫通亀裂が発生せず、疲労亀裂に起因する問題が根源から一掃される。
【0023】
鋼床版は、デッキプレートが縦リブと横リブとで補剛され、舗装が施されて構成される。鋼床版は、縦桁、横桁などの床組または主桁、主構などで支持される。横リブは、床組の横桁として兼用させることもできる。桁橋の構造要素の主構造は、典型的には、箱桁形式の主桁に横桁からの荷重を受けさせるものと、I桁形式の縦桁を主桁とし、横リブからの荷重を縦桁に受けさせるものとがあり、これらの主桁は、荷重を、支承を介して下部構造に伝達する。鋼床版のデッキプレートは、これらの主桁の上フランジを構成してもよい。
【0024】
デッキプレートの下面に閉断面縦リブの取付けフランジが支圧接合ボルトであるタッピングボルトによって支圧接合され、ここには、溶接継手が存在しない。したがって、溶接継手の疲労損傷に大きな悪影響を与える応力集中や溶接欠陥、残留応力がなく、デッキプレートへの疲労亀裂の進展などがなくなり、疲労耐久性の向上などの高品質の確保が容易である。そのため、輪荷重位置のデッキプレートの最小板厚を薄くできる。
【0025】
支圧接合用下穴は、軸線方向に一様な円形断面を有する直円筒形である。鋼床版の製造にあたっては、取付けフランジに橋軸方向に等間隔をあけて列を成して、ボール盤などのドリル工具の刃物によって、複数の各支圧接合用下穴を予め形成しておく。取付けフランジの各支圧接合用下穴によって、ドリル工具の刃物を案内して、デッキプレートに、取付けフランジと対を成して対応する支圧接合用下穴を削孔する。これによって、取付けフランジとデッキプレートとにおける複数の対を成す各下穴は、同一内径で、共通な一直線上に軸線を有する。したがって、タッピングボルトを、取付けフランジからデッキプレートへ締め込んで進めてゆき、タッピングボルトは、自らねじ切りをしつつ進めて、めねじを塑性変形によって形成する。こうして正確な位置に施工して、鋼床版を高精度で製造でき、その製造の作業性がよい。
【0026】
タッピングボルトの端部は、デッキプレートまたは前記上フランジの上面に突出しないので、そのボルトの端部がデッキプレート上の舗装を損傷せず、前記上フランジ上のコンクリート床版を損傷しない。
【0027】
本発明は、
閉断面縦リブ13は、縦リブ本体15の各ウエブ18の上端部と取付けフランジ16の下面とが直角または直角に近似した角度で連ねて溶接されて構成されることを特徴とする。
【0028】
本発明によれば、縦リブ本体の各ウエブの上端部と取付けフランジの下面とを溶接して、直角または直角に近似した角度で連ねる。したがって、縦リブ本体の各ウエブの上端部を、複雑な面外変形を受けるデッキプレートに溶接せずに、デッキプレートとの間に設けた幅の狭い、したがって、面外変形の影響をほとんど受けない取付けフランジに溶接する接合構造とし、また、前述のとおり、デッキプレートおよび取付けフランジをタッピングボルトで支圧接合することによって、その接合構造の溶接金属の疲労損傷を抑えることができる。本発明の実施の他の形態では、閉断面縦リブは、縦リブ本体と平板状取付けフランジとが単一枚の鋼板の曲げ加工によって製造されてもよい。
【0029】
デッキプレート、前記上フランジ、縦リブ、垂直補剛材などは、構造用鋼から成る。タッピングボルトは、高力ボルトなどの高張力鋼製であってもよいが、他の材料から成ってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】本発明の実施の一形態の一部の断面図である。
図2】箱桁21の一部を切欠いて斜めから見た断面図である。
図3】箱桁橋1の側面図であり、図4図3の箱桁橋1の簡略化した左側面図である。
図4図3の箱桁橋1の簡略化した左側面図である。
図5図3の切断面線V-Vから見た簡略化した断面図である。
図6図3の切断面線VI-VIから見た簡略化した断面図である。
図7】箱桁21の一部の平面図である。
図8】垂直補剛材24の上端部41と鋼床版11のデッキプレート12とが溶接される接合部42の付近を示す拡大断面図である。
図9図8の切断面線IX-IXから見た断面図である。
図10図8の切断面線X-Xから見た断面図である。
図11】本発明の実施の他の形態における図8の切断面線IX-IXに対応する位置からから見た断面図である。
図12】垂直補剛材24の製造工程を示す平面図である。
図13】タッピングボルト31によってデッキプレート12とUリブ13の取付けフランジ16とが支圧接合される構成を示す拡大断面図である。
図14】タッピングボルト31が締め込まれる取付けフランジ16の支圧接合用下穴35とデッキプレート12の支圧接合用下穴36とを示す断面図である。
図15】本発明の実施の他の形態のコンクリート床版橋81における一部の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
図1は、本発明の実施の一形態の一部の断面図である。箱桁橋1は、鋼床版11を持つ、主桁である箱桁21を有し、後述の図3に示されるとおり、3径間連続鋼床版橋である。鋼床版11は、鋼板から成るデッキプレート12の下面に、閉断面縦トラフリブ13(以下、Uリブ13という)が取付けられて補剛されて構成される。Uリブ13は、デッキプレート12に垂直な対称面14に関して左右対称に構成され、橋軸方向(図1の紙面に垂直方向)に沿って延びる縦リブ本体15と、デッキプレート12の下面に配置される平板状取付けフランジ16とを有する。縦リブ本体15は、デッキプレート12の下面とともに橋軸方向に延びる閉空間を形成し、平板状下フランジ17と、その両側部にそれぞれ連なって立上がる平板状ウエブ18とを有する。縦リブ本体15の各ウエブ18の上端部と、取付けフランジ16の下面とは、後述の図13に接合部20が示されるとおり、溶接されてそれぞれ連なり、橋軸直角方向(図1の左右方向)に外向きに延びる。Uリブ13において、下フランジ17とウエブ18との成す角度、および縦リブ本体15の各ウエブ18の上端部と取付けフランジ16の下面との成す角度は、直角または直角に近似した角度で連ねて溶接されて構成され、縦リブ本体15の断面形状は、たとえば、矩形、またはほぼ矩形である逆台形である。
【0032】
図2は、箱桁21の一部を切欠いて斜めから見た断面図である。箱桁21は、上フランジとして働くデッキプレート12と、下フランジ22と、橋軸直角方向に間隔をあけて両側に配置される対を成す主桁ウエブ23と、主桁ウエブ23の内面に橋軸方向に間隔をあけて固定される本発明に従う垂直補剛材24と、マンホール25を介して橋軸方向に等間隔をあけて上下にそれぞれ配置される上横リブ26、下横リブ27と、下フランジ22に固定される開断面縦リブ28と、さらに補剛材29、30、39などを有し、デッキプレート12の下面に複数のUリブ13が橋軸直角方向に間隔をあけて固定されて構成される。図2では、対を成す主桁ウエブ23のうち、一方の主桁ウエブ23とそれに取付けられる垂直補剛材24とが図示され、対称に配置される他方の構成は省略される。Uリブ13および縦リブ28は、上横リブ26および下横リブ27をそれぞれ貫通して延びる。
図2を参照して、Uリブ13と上横リブ26との交差位置において、連結部材91は、第1取付け片92と第2取付け片93とが屈曲して連なってL字状断面を有する。交差位置用タッピングボルト94は、第1取付け片92からUリブ13のウエブ18へ締め込まれて進み、Uリブ13のウエブ18と第1取付け片92とを支圧接合する。ボルト95は、上横リブ26と第2取付け片93とを接合する。デッキプレート12の下面には、橋軸直角方向(図2の左右方向)に隣接するUリブ13の間で、上横リブ26の上横リブ上端部が溶接接合される。
上横リブ26と連結部材91の第2取付け片93とを接合するボルト95は、タッピングボルトによって支圧接合されてもよく、または高力ボルトとナットとの組合せによって摩擦接合されてもよい。そのため、Uリブ15と上横リブ26とは、高い強度で接合され、Uリブ15と上横リブ26との交差位置における溶接接合は存在しないので、上横リブ26に形成される、Uリブ15の直下方のスリット98付近において、従来技術の溶接止端部を起点としてUリブ15または上横リブ26に発生する疲労亀裂の問題が解消される。こうして、疲労耐久性に優れた鋼床版11が実現される。
上横リブ26には、橋軸直角方向の横リブ上端部に関して両側で、縦リブ間隔スカラップ97が形成される。縦リブ間隔スカラップ97は、デッキプレート12の下面における取付けフランジ16の橋軸直角方向外方位置(図2の取付けフランジ16に関して左右外方)から、橋軸直角方向に、ウエブ18の縦リブ本体上端部付近にまで連なり、かつ、タッピングボルト31のボルト頭32(図13を参照)よりも下方に、延びる。この連結部材91を含む交差部の構成は、図4図7では、図面の煩雑を避けるために、省略してある。
【0033】
図3は箱桁橋1の側面図であり、図4図3の箱桁橋1の簡略化した左側面図であり、図5図3の切断面線V-Vから見た簡略化した断面図であり、図6図3の切断面線VI-VIから見た簡略化した断面図である。これらの図面を参照して、下部構造である橋脚2は、柱3、4と、上下の梁5、6によって構成され、各梁5、6によって、支承7を介して、上部構造である鋼床版11を持つ上下の各箱桁21が支持される。上下の各箱桁21の構成は類似し、図4では、対応する部分には参照符の同じ数字に添え字a、bを付して個別的に示し、総括的に添え字a、bを省略して説明する。上下の箱桁21は、いわゆる並列2箱桁橋を構成する。各並列2箱桁橋における対を成す箱桁21は、図5に示される横桁8に繋がれ、各箱桁21の主桁ウエブ23は、図6に示される横リブ9に固定される。図4のマンホール95は橋脚2上でここから人が出入りする箱桁21の出入り口であり、図5のマンホール96は橋脚2の間の箱桁21の中で、人が通るためのものである。
【0034】
図7は、箱桁21の一部の平面図である。タッピングボルト41は、橋軸方向(図7の左右方向)に間隔をあけて配置される。各タッピングボルト31は、取付けフランジ16からデッキプレート12に厚さ方向に貫通して締め込まれて、めねじを自ら形成しながら進み、タッピングボルト41の外周面がデッキプレート12および取付けフランジ16を気密に支圧接合する。
【0035】
図8は、垂直補剛材24の上端部41と鋼床版11のデッキプレート12とが溶接される接合部42の付近を示す拡大断面図である。接合部42は、図8において斜線を施して示される。垂直補剛材24は、上下に延び、主桁ウエブ23に垂直であり、矩形平板部46と、突出部47とを含む。垂直補剛材24の幅方向(図8の左右方向)の基端部48は、主桁ウエブ23の図8における左方に臨む内面に溶接され、その接合部は参照符49で示される。矩形平板部46は、突出部47を有さない予め定める設計基準に従う寸法および上下方向の剛性を有し、主桁ウエブ23から橋軸直角方向(図8の左右方向)に遠ざかる方向(図8の左方)に長さL46だけ延びて形成される。予め定める設計基準は、たとえば、道路橋示方書(公益社団法人日本道路協会編集)または設計施工会社などにおいて規定する基準などであってもよい。これによって、後述のスカラップ68(図8を参照)による強度の低下および疲労損傷を防ぐために溶接金属によって埋める作業は不要であり、施工が容易である。
【0036】
突出部47は、矩形平板部46の上部に連なり、主桁ウエブ23から橋軸直角方向に遠ざかる方向(図8の左方)に長さL47だけ突出して延びて形成される。垂直補剛材24の主桁ウエブ23から橋軸直角方向に遠ざかる方向(図8の左方)に臨む端面50は、突出部47において、その先端51と、その先端51から下方に連なる凹部52とを有する。端面50は、突出部47の下方に連なる矩形平板部46の延在面53を有する。延在面53は、凹部52の主桁ウエブ23寄りに最も近い下端54から、垂直補剛材24の下端部43(図1を参照)まで主桁ウエブ23にほぼ平行に延びる。凹部52の上端55は、先端51に連なる。凹部52は、下方になるにつれて主桁ウエブ23に近付く方向(図8の右方)に弯曲してくぼんで形成される。突出部47の先端51は、デッキプレート12の下面から下方に凹部52の上端55までの高さD51を有する。凹部52は、その上端55から下端54までの高さD52を有する。中心56は、突出部47の先端51を含みデッキプレート12の下面に垂直であって、かつ、主桁ウエブ23に平行である縦の仮想平面57内にある。凹部52の円弧部分は、中心56を有する円の1/4の円周であってもよく、この構成では、延在面53は、凹部52の下端54から接線方向に主桁ウエブ23と平行に延び、凹部52の下端54と円の中心56とは、デッキプレート12の下面に平行な横の仮想平面58内にある。
【0037】
垂直補剛材24の上端部41における溶接の接合部42では、突出部47の長さL47の溶接領域と、それに続く主桁ウエブ23寄りの長さL63の溶接領域63とにおいて完全溶け込み溶接される。溶接領域63よりも主桁ウエブ23寄りの遷移領域66では、長さL66にわたって主桁ウエブ23に近付くにつれて完全溶け込み溶接から隅肉溶接に徐々に遷移するように溶接が形成される。さらに主桁ウエブ23寄りの残余の溶接領域67では、隅肉溶接される。溶接接合部42は、先端51でまわし溶接される。
【0038】
寸法の一例を述べる。デッキプレート12の厚さ12mm、主桁ウエブ23の厚さ9mmであり、垂直補剛材24の厚さt24は9mmである。矩形平板部46の長さL46は120mm、突出部47の長さL47は30mm、完全溶込みの溶接領域63の長さL63は20mm、遷移領域66の長さL66は40mmである。垂直補剛材24は、その上端部41、下端部43間の高さ879~2000mmを有する。接合部42の溶接サイズD42は6~8mm、突出部47の先端51の高さD51は10mm、突出部47の凹部52の高さD52および円弧の半径R52は30mm、後述のスカラップ68の円弧の半径R68は35mmである。
【0039】
これらの寸法は、本発明の精神の範囲内で多くの改変が可能である。凹部52を円弧で実現する実施の形態では、その高さD52は、円弧の半径R52であり、垂直補剛材24の厚さt24の2~7倍(たとえば、約20~60mm)、好ましくは、3~5倍(たとえば、約30~45mm)であってもよく、この値の範囲内で凹部52の半径R52はまた、スカラップ68の半径R68とほぼ等しい値に選ばれてもよいが、その半径R68の2倍未満であってもよい。突出部47の長さL47は、凹部52の高さD52および半径R52とほぼ等しい値に選ばれてもよい。溶接領域63の長さL63は、垂直補剛材24の厚さt24の2倍以上であり、2.0~2.5倍であってもよく、好ましくは、2.0~2.2倍であり、たとえば、18~23mmである。遷移領域66の長さL66は、垂直補剛材24の厚さt24の3~6倍であり、好ましくは、4~5倍である。
【0040】
図9は、図8の切断面線IX-IXから見た断面図である。前述の図8における接合部42は、デッキプレート12の下面と垂直補剛材24の突出部47とにおいて、図9の溶接金属61、62で示されるとおり、レ形の開先溶接による完全溶込み溶接、または実質的に完全溶込み溶接によって実現され、溶接金属61、62がわずかに離間してもよく、本件明細書では、このような実質的に完全溶込み溶接される構成も完全溶込み溶接と呼ぶ。
【0041】
突出部47の先端51のデッキプレート12の下面から下方へ凹部52の上端55までの高さD51は、溶接部42の溶接サイズD42を超え、その溶接サイズD42に近似した値を有し、たとえば、溶接サイズD42よりも1~5mmだけ大きい値であり、さらに好ましくは、2~4mmだけ大きい値である。凹部52の上端55がデッキプレート12の下面に近付くほど、突出部47による下方への応力緩和の効果が大きい。こうして、凹部52は亀裂発生位置の溶接接合部42を直接改良するので、応力集中の緩和に、前述の先行技術(非特許文献1)に比べて、より有効になる。先行技術(非特許文献1)では、垂直補剛材の上端部付近に設けられる半円切欠きは、溶接部から下方に比較的離れた位置で形状を変えて形成されるので、どうしても溶接部の疲労亀裂発生を抑制する効果が間接的になり、不充分である。
【0042】
接合部42は、矩形平板部46の突出部47に連なる長さL63にわたる溶接領域63においても、図9と同じく完全溶込み溶接によって実現される。
図10は、図8の切断面線X-Xから見た断面図である。前述の図8における接合部42は、デッキプレート12の下面と垂直補剛材24の矩形平板部46における主桁ウエブ23寄りの残余の溶接領域67では、図10の溶接金属64、65で示されるとおり、両面隅肉溶接され、実施の他の形態では、片面隅肉溶接または部分溶込み溶接されてもよい。溶接金属64、65間には、溶接されない幅(以下、ルート幅という)W1が存在する。
【0043】
遷移領域66では、図10に示される両側の溶接金属64、65間の溶接されないルート幅W1が、完全溶込み溶接される溶接領域63における零から、主桁ウエブ23に(したがって、溶接領域67に)近付くにつれて両側隅肉溶接によって両側の溶接金属が離間して大きな値に変化するように設定される。接合部42、49は、垂直補剛材24の上端部41と下端部43とにウエブ23寄りに(図1図8形成されるスカラップ68、69でまわし溶接される。スカラップ68は、半径R68を有する円弧である。主桁ウエブ23は、デッキプレート12の下面に隅肉溶接71される。垂直補剛材24の下端部43は、下フランジ22の上面にメタルタッチによって当接し、溶接されない。接合部42の溶接前に、デッキプレート12の下面と垂直補剛材24の上端部41との間にルート間隔が設けられてもよい。
【0044】
図11は、本発明の実施の他の形態における図8の切断面線IX-IXに対応する位置から見た断面図である。注目すべきは、デッキプレート12の下面と垂直補剛材24の突出部47とにおいて、図11の溶接金属73、74で示されるとおり、K形の開先溶接による完全溶込み溶接によって実現される。
【0045】
図12は、垂直補剛材24の製造工程を示す平面図である。単一枚の厚さが一様な鋼板76を準備し、鋼板76を切断して複数の垂直補剛材24を製造する。対を成す各垂直補剛材24を、長さ方向(図12の上下方向)を交互に逆に、かつ、突出部47同士を対向させ、対を成す各組の垂直補剛材24の基端部48同士を対向させた姿勢として、鋼板76から切り出す。突出部47同士が対向することによって、鋼板76から除去される部分77の無駄をできるだけ少なくできる。
【0046】
図13は、タッピングボルト31によってデッキプレート12とUリブ13の取付けフランジ16とが支圧接合される構成を示す拡大断面図である。縦リブ本体15の各ウエブ18の上端部と、外向きの取付けフランジ16の下面とは、溶接によって接合部20で固定される。タッピングボルト31は、六角のボルト頭32と、座金部33と、軸部34とが一体的に形成され、その外表面はデッキプレート12および取付けフランジ16の鋼材よりも高硬度に表面処理加工される。軸部34には、その首下長さL34の全長にわたって、おねじ山が刻設される。タッピングボルト31の首下長さL34は、デッキプレート12の厚さt12と取付けフランジ16の厚さt16との和以下に選ばれる(L34≦(t12+t16))。これによって、タッピングボルト31の図13における上方の遊端部は、デッキプレート12上の舗装19を損傷しない。
【0047】
図14は、タッピングボルト31が締め込まれる取付けフランジ16の支圧接合用下穴35とデッキプレート12の支圧接合用下穴36とを示す断面図である。取付けフランジ16には、たとえば、工場などで支圧接合用下穴35が予め削孔される。デッキプレート12には、たとえば、ボール盤のドリルを支圧接合用下穴35によって案内して、支圧接合用下穴36を削孔する。支圧接合用下穴35、36の内径D35,D36は、タッピングボルト31の外径D31未満である(D35=D36<D31)。寸法の一例を述べると、取付けフランジ16の厚さt16は、縦リブ本体15と同じく9mmである。支圧接合用下穴35、36の内径D35、D36はφ15.5mmであり、タッピングボルト31の外径D31はφ16mmである。
【0048】
Uリブ13の取付けフランジ16をデッキプレート12に取付けるにあたり、ボルト頭32に取付けフランジ16およびデッキプレート12に向けて押し付け力を作用しながら、インパクトドライバーなどで回転駆動することによって、タッピングボルト31は、めねじ加工が施されていない支圧接合用下穴35,36に、めねじを自ら形成しながら進んで、めねじを塑性変形によって形成して、支圧接合を達成する。取付けフランジ16およびデッキプレート12との隙間は、ほぼ零である。タッピングボルト31によれば、めねじの塑性変形は切削屑を生じないので、そのような切削屑がデッキプレート12の上方へ送り出されて舗装19を損傷することはない。
【0049】
垂直補剛材24の突出部47は、Uリブ13の外向き(図13の右方)に延びる取付けフランジ16との橋軸直角方向の間隔L16(図1を参照)を可及的に小さする。これによって、デッキプレート12および舗装19の移動荷重などによる上下の変位を小さく抑えて、特に、舗装19の損傷を防ぐことができる。外向きの両側の取付けフランジ16はまた、橋軸直角方向に隣接する垂直補剛材24の間隔を、同じく、可及的に小さくするのに役立つ。
【0050】
図15は、本発明の実施の他の形態のコンクリート床版橋81における一部の断面図である。コンクリート床版82は、鉄筋コンクリート床版またはプレストレストコンクリート床版など、および鋼とコンクリートとの合成構造を採用した床版などのコンクリート系床版を含む。コンクリート床版82のハンチ83は、鋼桁である主桁84の上フランジ85によって支持される。主桁84のウエブ86のための垂直補剛材87は、矩形平板部88と突出部89とを含む。図15における前述の実施の形態に対応する溶接の接合部には、同じ参照符を付して示す。主桁84に関連する他の構成は、前述の箱桁21に関連する構成に類似する。
【0051】
本発明の実施のさらに他の形態では、鋼橋における横桁8(図5)または横リブ9(図6)が有するウエブに、垂直補剛材101、102が取付けられる構成において、本発明が前述と同様にして実施されてもよい。また、本発明の考え方に従う垂直補剛材は、図2の上下の横リブ26または27に設けられてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、前述の種類の橋だけでなく、吊橋、箱桁橋、トラス橋、鋼桁橋およびそのほかの種類の鋼床版およびコンクリート床版を備える橋に関連して広範囲に実施することができる。本発明は、橋以外の鋼構造物などに関連しても実施することができる。
【符号の説明】
【0053】
1 箱桁橋
11 鋼床版
12 デッキプレート
13 閉断面縦リブ
14 対称面
15 縦リブ本体
16 取付けフランジ
17 下フランジ
18 ウエブ
21 箱桁
23、86 主桁ウエブ
24、87、101、102 垂直補剛材
31 タッピングボルト
35、36 支圧接合用下穴
41 垂直補剛材24の上端部
42 接合部
43 垂直補剛材24の下端部
46、88 矩形平板部
47、89 突出部
50 端面
51 突出部47の先端
52 凹部
53 延在面
54 凹部52の下端
63 溶接領域
66 遷移領域
67 残余の領域
81 コンクリート床版橋
82 コンクリート床版
84 主桁
85 上フランジ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図15