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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-18
(45)【発行日】2023-10-26
(54)【発明の名称】接合構造体
(51)【国際特許分類】
   E04C 5/12 20060101AFI20231019BHJP
   E04C 5/07 20060101ALI20231019BHJP
   F16B 11/00 20060101ALI20231019BHJP
   F16B 7/20 20060101ALI20231019BHJP
【FI】
E04C5/12
E04C5/07
F16B11/00 C
F16B7/20 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019227242
(22)【出願日】2019-12-17
(65)【公開番号】P2021095730
(43)【公開日】2021-06-24
【審査請求日】2022-09-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000184687
【氏名又は名称】小松マテーレ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100154852
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 太一
(74)【代理人】
【識別番号】100194087
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 伸一
(72)【発明者】
【氏名】林 豊
(72)【発明者】
【氏名】中山 武俊
(72)【発明者】
【氏名】細川 穂奈美
【審査官】荒井 隆一
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-244054(JP,A)
【文献】特開2017-227059(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04C 5/00- 5/20
E04B 1/18
E04G 23/00-23/08
F16B 7/00- 7/22
F16B 9/00-11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維材料を複数本束ねた繊維束として形成された素線を複数有する棒状繊維強化複合材と、
端部に棒状部を有する定着治具と、を備え、
前記棒状繊維強化複合材の少なくとも一方の端部に前記定着治具の前記棒状部が挿入されて重なり部が形成され、
前記棒状繊維強化複合材の前記定着治具が挿入された前記端部において、前記複数の素線すべての端部が実質的に揃っており、
前記重なり部において、接着剤により前記棒状繊維強化複合材と前記定着治具とが接合され、
前記棒状部が先端に向かうにつれて縮径するテーパー部を有することを特徴とする接合構造体。
【請求項2】
空洞部を有する管状部材を有し、
前記重なり部が前記管状部材に挿通され、
前記管状部材の前記空洞部に前記接着剤が充填され、
前記接着剤により、前記棒状繊維強化複合材と前記定着治具と前記管状部材とが接合されることを特徴とする請求項1に記載の接合構造体。
【請求項3】
前記棒状繊維強化複合材が、炭素繊維を含むことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の接合構造体。
【請求項4】
前記複数の素線が撚り合わされ、
前記重なり部において前記定着治具が前記複数の素線に囲まれていることを特徴とする請求項1から請求項のうちいずれか一つに記載の接合構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接合構造体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維やアラミド繊維などの強化繊維と樹脂を複合して得られた棒状繊維強化複合材は、軽量であることから作業性に優れ、金属製のケーブルや鉄筋の代替材料と種々のものに検討されている。
【0003】
このような棒状繊維強化複合材は、鉄骨や木材やコンクリートと接合するために、端部が、管状の継手などを介し、定着治具となる金属製や樹脂製の棒状のボルトなどの端部と接合される。棒状繊維強化複合材は、前記ボルトと鉄骨等に設けられている前記ボルトに対応したナット部などを有する接合部とを接合したり、鉄骨に溶接にて接合したり、接着剤、紐状物又は帯状物などを用い、鉄骨や木材などに接合される。
【0004】
また、棒状繊維強化複合材の端部を、管状部を有する金属製や樹脂製などの定着治具の管状部に挿入し樹脂等を用い接合し、定着治具を接合した棒状繊維強化複合材を用い、当該定着治具を介し鉄骨に溶接したり、接着剤やボルトや紐状物又は帯状物などを用い鉄骨や木材に接合される(例えば、特許文献1、2参照)。
【0005】
しかしながら、棒状繊維強化複合材とねじなどの定着治具とを接着剤等を用い接合した場合、大きな引張力が加わると、接合した部分が剥離してしまい、棒状強化繊維複合材の強度や定着治具の強度が十分発揮できず、接合した部分の強度の向上が必要であった。
【0006】
そこで接合した部分の強度を向上させる方法として、本願発明者らは、複数の素線から構成された棒状繊維強化複合材とボルトなどの定着治具との接合において、これらの重なり部を設け、その部分を合成樹脂により被覆し接合することにより、棒状繊維強化複合材及び定着治具の強度以下の強度で接合部から破壊されることを防ぐこともできる、優れた強度を有する接合構造体を見出した(特許文献3参照)。
【0007】
この構成のものでは、特に管状部材を用いる必要が無いため接合構造体が軽量でありながら、優れた強度を有する接合構造体であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2002-097746号公報
【文献】特開2013-011163号公報
【文献】特開2017-227059号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、さらに大きな引張に対する強度を有する箇所に前記接合構造体を用いようとすると、棒状繊維強化複合材とボルトなどの定着治具の重なり部を長くする必要があり、ボルトなどの定着治具の長さが長くなるなどする。これにより、棒状繊維強化複合材及びボルトなどの定着治具の使用量が増し、接合構造体が軽量であるとのメリットが低下することが分かった。
【0010】
本発明は、上記のような問題に鑑みてなされたものであり、軽量でより優れた引張強度を有する接合構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するため、本発明は以下の態様を備える。
<1>
繊維材料を複数本束ねた繊維束として形成された素線を複数有する棒状繊維強化複合材と、
端部に棒状部を有する定着治具と、を備え、
前記棒状繊維強化複合材の少なくとも一方の端部に前記定着治具の前記棒状部が挿入されて重なり部が形成され、
前記棒状繊維強化複合材の前記定着治具が挿入された前記端部において、前記複数の素線すべての端部が実質的に揃っており、
前記重なり部において、接着剤により前記棒状繊維強化複合材と前記定着治具とが接合され、
前記棒状部が先端に向かうにつれて縮径するテーパー部を有することを特徴とする接合構造体。
<2>
空洞部を有する管状部材を有し、
前記重なり部が前記管状部材に挿通され、
前記管状部材の前記空洞部に前記接着剤が充填され、
前記接着剤により、前記棒状繊維強化複合材と前記定着治具と前記管状部材とが接合されることを特徴とする<1>に記載の接合構造体
<3>
前記棒状繊維強化複合材が、炭素繊維を含むことを特徴とする<1>または2>に記載の接合構造体。

前記複数の素線が撚り合わされ、
前記重なり部において前記定着治具が前記複数の素線に囲まれていることを特徴とする<1>~<>のうちいずれか一つに記載の接合構造体。
【発明の効果】
【0012】
本発明の接合構造体によれば、繊維強化複合材を用いていることにより軽量でありながら、優れた破断荷重などの引張強度を有しており、また、本発明の接合構造体を用いた構造物の外観の悪化も抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施形態における接合構造体を示す一部断面図である。
図2】同接合構造体の接合構造部を示す断面図である。
図3】本発明の実施形態における棒状繊維強化複合材の端部に挿入される棒状部の端部の例を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る接合構造体の実施形態について、図面を参照して説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施できる。また、本明細書において「~」という表現を用いる場合、その前後の数値を含む表現として用いる。
【0015】
(接合構造体)
図1は本発明の実施形態における接合構造体10の管状部材3周辺の一部断面図である。
図1に示すように、本発明の実施形態における接合構造体10は、棒状繊維強化複合材1と、寸切りボルト(定着治具)2と、管状部材3と、接着剤4と、を備える。
【0016】
図1に示すように、棒状繊維強化複合材1は、撚り合わされた複数の素線1sを有する。本実施形態では、複数の素線1sは7本の素線1yを有する。複数の素線1sは撚り合わされるのではなく、引き揃えられてもよい。複数の素線1sを構成する素線1yは、繊維材料が束ねられた繊維束を、樹脂等を材料とする固化材で一体化して形成される。
【0017】
棒状繊維強化複合材1を構成する複数の素線1sは、構成する素線1yの端部1tが揃うように形成される。例えば、棒状繊維強化複合材1において、複数の素線1sが、7本の素線1yを用いたものであって、1本の芯線の周りを6本の側線で撚った形状の場合、撚られた分だけ芯線に比べ側線が長くなる。このような場合は、実質的に、複数の素線1sを構成する素線1yの端部が揃っているものに含まれる。
【0018】
寸切りボルト2は、例えばねじの呼びがM16であり、端部に棒状部2tを有する。棒状部2tは、先端tに向かうにつれて一定の変化率で縮径し、先端tが尖るテーパー部2sを有する。棒状部2tは、先端t側が、棒状繊維強化複合材1の端部1tに挿入され、複数の素線1sと寸切りボルト2とが重なる重なり部Olが形成される。
【0019】
図2に示すように、重なり部Olにおいては、複数の素線1sが延びる方向Lから見て、寸切りボルト2が複数の素線1sに囲まれている。重なり部Olにおいては、棒状繊維強化複合材1の複数の素線1sが、寸切りボルト2の先端t側を覆い包んでいる。
【0020】
管状部材3は、軸O周りに形成され、繊維強化プラスチック(FRP)製である。図1に示すように、軸Oは複数の素線1sが延びる方向Lに略一致する。管状部材3は、空洞部3hに重なり部Olが配置され、重なり部Olを覆う。接着剤4は、管状部材3の空洞部3hに充填される。接着剤4により、棒状繊維強化複合材1と、寸切りボルト2と、管状部材3とが接合される。
【0021】
以降、接着剤4により棒状繊維強化複合材1と、寸切りボルト2とが接合される構造を接合構造部と呼ぶ。
【0022】
寸切りボルト2の棒状部2tがテーパー部2sを有することにより、棒状繊維強化複合材1を構成する一部の素線1y(特に芯線)を切断し、棒状部2tを挿入するための空間を作らなくとも容易に、棒状繊維強化複合材1の端部1tに棒状部2tを挿入し重なり部Olを形成することができる。
【0023】
また、寸切りボルト2の棒状部2tがテーパー部2sを有するため、管状部材3の軸O方向の第一端部(棒状繊維強化複合材1を挿入した方の端部)31近辺まで棒状部2tを挿入しても、図2に示す管状部材3の軸O方向の第一端部31近辺における素線1yの広がりが小さいため、外観品位がよく、意匠性に優れる接合構造体10が得られる。
【0024】
棒状部2tのテーパー部2sは、先端に向かって細くなっていればその形状は特に限定されるものではない。例えば、テーパー部は、図3(a)に示すように、先端が曲面形状を有していてもよい。また、棒状部2tのテーパー部は、図3(b)に示すように、半球状であってもよい。テーパー部の先端が尖っている形状が、得られる接合構造体の引張強度、外観品位の観点より好ましい。
【0025】
寸切りボルト2の棒状部2tがテーパー部2sを有することで、接合構造体10の引張強度が向上する。
【0026】
これに比べ、寸切りボルトの棒状部2tがテーパー部2sを有さず、一定の径であると、管状部材3の第一端部31近辺にまで寸切りボルトの棒状部を挿入すると、管状部材3の第一端部31近辺における素線1yの広がりがみられ外観品位に劣る。また、外観品位が悪化しないようにするため、棒状繊維強化複合材1と寸切りボルト2との重なり部Olを少なくすると十分な強度を発揮できないおそれがある。
【0027】
本実施形態の棒状繊維強化複合材1と寸切りボルト2の重なり部Olの長さは、必要とする強度に合わせ任意に設定すればよい。図1に示すように、管状部材3の空洞部3h内における重なり部Olの軸O方向の長さL1が、長さL1と管状部材3の長さL3との差L2よりも長いとよい。つまり、L3=L1+L2において、L1≧L2であるとよい。より好ましくはL1>L2である。
【0028】
L1<L2であると、得られる接合構造体が十分な引張強度を得られなかったり、引張強度を出すために管状部材3の長さを長くしたり、また、管状部材3の長さを長くすることにより重なり部Olを長くする必要が生じ、意匠性が低下したり、接合構造体の質量が大きくなるおそれがある。
【0029】
L1とL2との長さの割合は、L1:L2=100:0~50:50である。L1とL2との長さの割合は、引張強度及び意匠性の観点より、好ましくはL1:L2=99:1~60:40、より好ましくは、L1:L2=99:1~70:30、さらにより好ましくはL1:L2=99:1~80:20が好ましい。L2を設けることで、管状部材3の第一端部31近辺で素線1yが開かず、良好な外観品位を保つことができる。
【0030】
また、棒状繊維強化複合材1、寸切りボルト2及び管状部材3の長さが短く、各部材の使用量が削減でき、軽量でかつ、優れた強度を有する構造とする観点から、図1に示すように棒状繊維強化複合材1を構成する素線1yの端部1tが、棒状繊維強化複合材1を挿入した管状部材3の第二端部(寸切りボルト2を挿入した方)32にまで挿入されているとよい。
【0031】
また、管状部材3の長さL3は、求められる強度に応じ任意に設定すればよいが、上記で説明した理由によりL3≧L1となる。また、具体的なL3の長さも求められる強度や意匠性に応じ任意に設定すればよいが、10cm~200cm程度であり、この場合の長さL1は5cm~200cm、長さL2は0~100cm程度である。
【0032】
なお、本実施形態の接合構造体10の破断荷重は特に限定されるものではなく、必要とされる強度に応じ、重なり部Olの長さ、棒状繊維強化複合材1の強度、寸切りボルト2の強度、管状部材3の使用の有無や管状部材3の長さや強度を適宜設定すればよい。本実施形態の接合構造体10であれば、従来の接合構造体に比べ、重なり部Olの長さを短くしたり、管状部材3を使用する必要をなくしたり、長さの短い管状部材を用いても従来の接合構造体と同等以上の強度を有するものを得ることができる。
【0033】
従って、本実施形態の接合構造体10の破断荷重の下限は特に限定されるものではないが、対象物の強度を補強するとの観点からは10kNであることが望ましい。接合構造体10の破断荷重は用いる場所や施工方法や用途にもよるが、25kN以上であることが好ましく、80k以上であることがより好ましい。
【0034】
破断荷重が25kN以上であれば、定着治具として鋼製のM10のボルトを寸切りボルトとして用いた場合においても、接合構造体の接合構造部で破断することを防ぐことができる。破断荷重が80kN以上であれば、定着治具としてSNR400B製のM16のボルトを寸切りボルトとして用いた場合においても、接合構造体10の接合構造部で破断することを防ぐことができる。
【0035】
また、接合構造体10の破断荷重の上限についても特に限定されるものではないが、棒状繊維強化複合材1、寸切りボルト2、接着剤4、管状部材3の強度により設定すればよく、300kN程度である。
【0036】
次に、本実施形態の接合構造体10の構成要素の詳細について、構成要素ごとに説明する。
【0037】
(素線について)
複数の素線1sを構成する素線1yは、繊維材料を束ねてなる繊維束を固化剤により一体化したものである。素線1yに用いられる繊維材料としては、例えば、炭素繊維、バサルト繊維、パラ系アラミド繊維、メタ系アラミド繊維、超高分子量ポリエチレン繊維、ポリアリレート繊維、ポリパラフェニレンベンズオキサゾール(PBO)繊維、ポリフェニレンサルファイド(PPS)繊維、ポリイミド繊維、フッ素繊維、ポリビニルアルコール(PVA繊維)などが使用できる。素線1yに用いられる繊維材料は、特に、難燃性、強度、耐光性の観点より、炭素繊維またはガラス繊維が好ましい。素線1yに用いられる繊維材料は、難燃性の観点からはガラス繊維がより好ましい。
【0038】
(炭素繊維を用いる素線について)
以下、素線1yに用いる繊維材料として炭素繊維を用いる例について、詳細に説明を行う。特に素線1yの芯材として炭素繊維を用いる例について、詳細に説明を行う。なお、以下の説明は、炭素繊維以外の繊維材料を用いた素線1yを除くものではない。炭素繊維を用いる素線1Aは、炭素繊維を複数本(通常、数千本から数十万本、あるいは数百万本)束ねた炭素繊維束として形成される。炭素繊維束は、炭素繊維束の長さ方向に垂直に切断した場合のその断面は円形状、扁平状等任意であってもよい。本実施形態の棒状繊維強化複合材1に用いられる素線1Aでは、炭素繊維束は所定の回数の撚りがかけられた状態で、固化剤により一体化されていると好ましい。
【0039】
本実施形態の炭素繊維は、ポリアクリロニトリル(PAN)系、ピッチ系のいずれの炭素繊維も使用できる。この中でも、得られる棒状繊維強化複合材1の強度と弾性率とのバランスの観点から、PAN系炭素繊維糸が好ましい。
【0040】
炭素繊維を束ねた炭素繊維束は、炭素繊維メーカーから供給される炭素繊維を3000本(3K)、6000本(6K)、12000本(12K)、24000本(24K)、40000本(40K)、60000本(60K)などに束ねた炭素繊維束を、必要とされる強度に応じて1本、またはさらに複数本(2本以上)束ねたものを用いることができる。炭素繊維を束ねた炭素繊維束をさらに複数本束ねる場合の炭素繊維束の本数に特に制限はなく、目的用途に応じで適宜決定されるが、通常、100本以下である。
【0041】
素線1Aの長さ方向に垂直に切断した際の断面は、円形状、扁平状等任意であってもよいが、円形状が好ましい。断面が円形状の場合、得られる素線1Aの強度が安定するとともに、複数の素線1Aから棒状繊維強化複合材1を特にストランド構造体やマルチストランド構造体として形成する場合にも、安定した構造体を得ることができる。
【0042】
素線1Aは、直径が0.5~20mmであることが好ましく、直径が1~5mmであることがより好ましい。素線1Aの直径が0.5~20mm(より好適には1~5mm)であると、後に説明するように素線1Aおよび棒状繊維強化複合材1がドラムに巻きやすくなり、また、任意の形状に追従するなどのフレキシブル性を高めることができる。
【0043】
なお、本実施形態の棒状繊維強化複合材1に用いられる素線1Aの直径は、固化剤で一体化した棒状繊維強化複合材1の長さ方向に垂直に切断した断面の直径であり、目的とする直径になるように炭素繊維束の直径、固化剤の付与量が選択される。素線1Aの長さ方向に垂直に切断した際の断面が円でない場合は、その断面の長径を直径という。
【0044】
炭素繊維束の撚り数の決定においては、得られる棒状繊維強化複合材1の曲げ応力に対する耐性、炭素繊維束のバラケ防止性、炭素繊維束の撚りに対する強度(撚りにより炭素繊維糸が切れない)が考慮される。また、炭素繊維束の撚り数の決定においては、後に説明する素線1Aを得る工程において、固化剤が付与され炭素繊維束と拘束材とが一体化される前の状態のときに拘束材の間から炭素繊維束が飛び出す(目むき)ことが無いように考慮される。炭素繊維束の撚り数は、0~100回/m、好ましくは2~50回/mであり、より好ましくは5~40回/mであり、さらに好ましくは10~30回/mである。
【0045】
素線1Aに用いられる固化剤としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂のいずれも使用できる。また、本実施形態に用いられる固化剤としては、炭素繊維と親和性の高い固化剤が好ましい。本実施形態に用いられる固化剤としては、特に加熱することにより可変性を持たせることができるため、また、接着剤4と棒状繊維強化複合材1との接着性に優れるとの観点からは、熱可塑性樹脂が好ましく用いられる。
【0046】
素線1Aに用いられる固化剤の好適な具体例としては、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリアミド(ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12、ナイロン42等)、ABS樹脂、アクリル樹脂、塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、ポリフェニレンオキサイド、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリエーテルイミド、ポリアリレート、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、ポリカーボネート樹脂、レゾルシノール樹脂などが挙げられるが、これに制限されない。
【0047】
素線1Aに用いられる固化剤は、この中でも酸やアルカリに対する耐久性の観点から、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、アクリル樹脂、塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、ポリエチレン樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ポリカーボネート樹脂、レゾルシノール樹脂が好適である。本実施形態に用いられる固化剤は、特に耐衝撃性に優れるエポキシ樹脂が好適である。熱可塑性エポキシ樹脂は、ケトン溶剤に溶解が可能で素材分別しリサイクルができる。また、本実施形態に用いられる固化剤は、耐熱性の観点では、ポリイミド樹脂、シリコーン樹脂が好ましい。
【0048】
棒状繊維強化複合材1と接着剤4との接着性に優れるとの観点では、固化剤として熱可塑性エポキシ樹脂が好ましく用いられる。熱可塑性エポキシ樹脂は、前記炭素繊維束に付与した後、重合する重合型の熱可塑性エポキシ樹脂が好ましく、特に直鎖状に重合する重合型の熱可塑性エポキシ樹脂が好ましい。
【0049】
棒状繊維強化複合材1の芯材に用いられる炭素繊維束に撚りがかけられたものや、後に説明を行う拘束材を用いる素線1Bのように炭素繊維束の周りが拘束材で覆われているものでは、炭素繊維束の内部にまで固化剤としての樹脂を含侵させることが困難である。
【0050】
一方、重合型の熱可塑性エポキシ樹脂は、重合させる前の熱可塑性エポキシ樹脂を有機溶剤で希釈することができるので粘度調整が容易である。そのため、重合型の熱可塑性エポキシ樹脂は、有機溶媒で希釈した低粘度の樹脂溶液を用いることにより、撚りがかけられている炭素繊維束の内部まで(さらには拘束材で覆われている素線1Bであっても外周の拘束材から内部の炭素繊維束まで)重合前の熱可塑性エポキシ樹脂を含浸させることができる。重合前の熱可塑性エポキシ樹脂を炭素繊維束の内部に含侵させた後、当該重合型の熱可塑性エポキシ樹脂を重合させることにより炭素繊維束を構成する各炭素繊維同士(拘束材を用いる場合には、炭素繊維束を構成する各炭素繊維同士及びその炭素繊維束と拘束材)が熱可塑性エポキシ樹脂で一体化された、強度の優れた素線1Aが得られる。
【0051】
また、加熱溶融することにより流動性を付与し用いられる一般的な熱可塑性樹脂は、粘度調整が困難であると共に、一般に結晶性樹脂であるためか加熱溶融を行うことにより結晶配列が変化し、当初の樹脂が有している強度などの性質が変質するおそれがある。しかし、重合型の熱可塑性エポキシ樹脂は、重合前および重合後も非晶質であるため、加熱溶融や加熱変形させても変質のリスクが小さい。
【0052】
炭素繊維束へ上述の樹脂(固化剤)を付与する方法は、スプレーコート法、転写法や刷毛で炭素繊維束に樹脂をコートする方法などでもよい。炭素繊維束へ上述の樹脂(固化剤)を付与する方法は、生産性の観点から、ディップ-ニップ法や樹脂(固化剤)溶液にディップした後、ダイスを通して余分な樹脂を除去し、また、炭素繊維束の長さ方向に垂直な断面の断面形状を整える方法が好適である。
【0053】
また、炭素繊維を用いる素線1Aは、固化剤により一体化した炭素繊維束のさらにその外周の全面を覆うように別途樹脂層が設けられていてもよい。不燃性向上の観点からは、外周の全面を覆う樹脂層は、ポリイミド樹脂やシリコーン樹脂や塩化ビニル樹脂を用いた樹脂層を設けるとよい。また、意匠性の観点からは、外周の全面を覆う樹脂層は、着色のための顔料などの着色剤を含むとよい。これらの樹脂層は、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂いずれであっても用いることはできるが、固化剤として熱可塑性樹脂を用いた場合には、別途層に用いられる樹脂も熱可塑性樹脂が好ましい。
【0054】
(拘束材を用いる素線について)
以下、素線1yにおいて繊維材料を束ねてなる繊維束がその周囲に拘束材を巻き回して結束され、当該繊維束と当該拘束材とが共に固化剤によって一体化される例について、詳細に説明を行う。
【0055】
上述した素線1Aと同様に、繊維材料として炭素繊維、特に炭素繊維を芯材として用いたものを例として、説明を行う。なお、以下の説明は、炭素繊維以外の繊維材料を用いた素線1y又は拘束材を用いない素線1yを除くものではない。拘束材を用いる素線1Bは、拘束材以外の基本的構成は上述した素線1Aと同様であるため、適宜説明を省略する。
【0056】
拘束材は、炭素繊維がばらばらにならないように炭素繊維束を周囲面から結束するとともに素線1Bの形状を安定させることができるものである。拘束材を用いる素線1Bは、繊維束がその周囲に拘束材を巻き回されて結束される構造であることにより、素線1Bと接着剤4との接触面積や構造的な抵抗が増加し、棒状繊維強化複合材1と接着剤4との接着力が向上する。そのため、素線1Bを用いることは、得られる接合構造体10の引張強さ、破断荷重の大きさの観点より好ましい。
【0057】
なお、拘束材を用いる素線1Bにおいては、炭素繊維束をより強固に結束するために、特に拘束材により結束した炭素繊維束に固化剤を含浸させ、拘束材と共に炭素繊維束を硬化させることが好ましい。そうすることで、炭素繊維束および拘束材を強固に一体化させることができ、得られる棒状繊維強化複合材、これを用いて得られる接合構造体の形状の安定性が向上したり、強度、特に引張強度が向上する。上述した素線1Aと同様に炭素繊維束は撚りがかかっていると好ましい。
【0058】
拘束材を用いる素線1Bでは、拘束材となる繊維を炭素繊維束の外周に巻きまわして筒状の組紐(丸打)を組むことで、組紐状の拘束材を形成している(筒状の組紐の筒内に炭素繊維束を有することで、炭素繊維束の外周を拘束材で形成された組紐構造で覆ったもの)。組紐状に形成される拘束材は、炭素繊維束を結束すると共に、得られる素線1Bの形状をより安定させることができ、また、拘束材が内部の炭素繊維束を構成する炭素繊維の保護を行う保護層として機能する。また、組紐状に形成される拘束材は、日本伝統の組紐技術が用いられているため、意匠性にも優れる。
【0059】
そのため、組紐状に形成される拘束材を用いる素線1Bを用いた接合構造体は、安定した強度を発揮し、外観品位も良く、砂利などの鋭利物と接触しても断線することを防ぐことができる。
【0060】
また、拘束材で拘束された炭素繊維束を樹脂(固化剤)溶液にディップした後、ダイスを用いて余分な樹脂を絞るときに炭素繊維束の長さ方向に張力がかかる。しかし、炭素繊維束の外周を拘束材による組紐構造で覆ったものであれば、編物のように目が開いてしまうのではなく、目が閉じた状態で組紐の径が細くなる。そのため、炭素繊維束の外周を拘束材による組紐構造で覆ったものは、内部の炭素繊維束の露出を抑えつつ、拘束材と炭素繊維束の密着性を高めることができるので、得られる接合構造体の強度の観点より好ましい。
【0061】
炭素繊維束の保護、素線1Bの形状の安定による強度の安定、外観品位の低下の抑制との観点からは、拘束材を筒状の組紐にして、当該筒状の組紐の内部に炭素繊維束を配置し、炭素繊維束の表面全体を被覆したものが好ましい。
【0062】
なお、拘束材は炭素繊維束を構成する炭素繊維がばらばらにならないように結束できればよく、拘束材の配置は組紐状に限定されない。また、炭素繊維束の表面は、拘束材で完全に被覆されなくてもよく、炭素繊維束の表面の一部が被覆されていなくてもよい。
【0063】
他の拘束材の配置の例として、1本の拘束材を螺旋状に巻きつけて炭素繊維束を結束したり、炭素繊維束の周囲面に拘束材となる繊維を巻き回して目の粗い筒状の丸編を編んだ編紐状の拘束材によって炭素繊維束を結束したり、繊維等を所定間隔に配置した拘束材によって炭素繊維束を結束したりする形態であってもよい。
【0064】
拘束材としては、柔軟なものが好ましく、ポリアミド(ナイロン等)、ビニロン、ポリアクリル、ポリプロピレン、塩化ビニル、アラミド、セルロース、ポリアミド、ポリエステル、ポリアセタール等の合成繊維や、レーヨン等の再生繊維、アセテート等の半合成繊維、絹、羊毛、麻、綿などの天然繊維等が使用できる。また、拘束材としては、熱安定性に優れる繊維が好ましく、ガラス繊維、バサルト繊維が好ましく、特にはガラス繊維が好ましい。拘束材としてガラス繊維のように熱安定性に優れる繊維を用いることにより、素線1Bが不燃性に優れるとともに、炭素繊維束と拘束材とのずれの発生が抑制され、素線1Bが安定した引張に対する強度と不燃性とを発現することができる。
【0065】
拘束材を用いる素線1Bの太さは、直径が1~25mm、より好適には直径が1~10mm、さらにより好ましくは直径が1~5mmである。このような太さである素線1Bを用いる棒状繊維強化複合材1(ストランド構造体やマルチストランド構造体)は後に説明するようにドラムに巻きやすくなり、また、任意の形状に追従するなどのフレキシブル性を高めることができる。なお、本実施形態の棒状繊維強化複合材1の直径は、炭素繊維束と当該拘束材と共に固化剤によって一体化した素線1Bの長さ方向に垂直に切断した断面の直径であり、目的とする直径になるように炭素繊維束の直径、拘束材の厚み、固化剤の付与量が選択される。素線1Bの長さ方向に垂直に切断し際の断面が円でない場合は、その断面の長径を直径という。
【0066】
また、素線1Bは、拘束材および固化剤が付与された炭素繊維束の外周の全面を覆うように別途層(繊維材料からなる筒状体や樹脂層等)が設けられていてもよい。拘束材および固化剤が付与された炭素繊維束の外周の全面を覆う層は、不燃性向上の観点から、ポリイミド樹脂やシリコーン樹脂や塩化ビニル樹脂を用いた樹脂層を設けるとよい。また、意匠性の観点からは、拘束材および固化剤が付与された炭素繊維束の外周の全面を覆う層は、着色のための顔料などの着色剤を含むとよい。これらの樹脂層は、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂いずれでもよいが、固化剤として熱可塑性樹脂を用いた場合には、拘束材および固化剤が付与された炭素繊維束の外周の全面を覆う層に用いられる樹脂も熱可塑性樹脂が好ましい。
【0067】
(棒状繊維強化複合材について)
本実施形態の棒状繊維強化複合材1について説明する。
棒状繊維強化複合材1は、上記の炭素繊維を用いる素線1Aと拘束材を用いる素線1Bとのいずれか一方又は両方を用い、これらを複数本、引き揃えたり、撚り合せたりして形成したストランド構造体である。
【0068】
例えば、棒状繊維強化複合材1は、上記の拘束材を用いる素線1Bを7本備えてなり、中心に配置された芯線となる1本の素線1Bを他の6本の素線1Bが取り囲むように撚り合わせた構造を有するストランド構造である。このような構造を有する棒状繊維強化複合材1は、棒状繊維強化複合材1の素線1Bと素線1Bとの間に寸切りボルト2のテーパー部2sを有する棒状部2tが挿入しやすい。また、このような構造を有する棒状繊維強化複合材1は、素線1Bによって寸切りボルト2が覆われ、接着剤4による接合において、棒状繊維強化複合材1と寸切りボルト2と管状部材3とが強固に接合し、得られる接合構造体10の引張強度の向上および安定性の観点より好ましい。
【0069】
本実施形態に係る棒状繊維強化複合材1では、芯(芯線)となる素線1yと、芯となる素線1yを取り囲む他の6本の素線1yとが撚り合されるストランド構造を有することで、樹脂を用いて7本の素線1yを一体化しなくとも、バラケを防ぎ一体化できる。棒状繊維強化複合材1は、さらにドラムに巻かれて曲げ応力がかけられた後伸ばして用いられる場合や、曲げ応力が加えられながら用いられる場合においても、優れた引張強度を維持することができる。
【0070】
また、撚りを形成する方向として、
炭素繊維束×ストランド構造体=S方向×Z方向、S方向×S方向、Z方向×Z方向、Z方向×S方向、のいずれでも可能である。
【0071】
ストランド構造体の撚り数は、目的に応じて1.1~50回/mの範囲で選択される。撚り数が少なすぎると、芯材単位でバラケやすくなる。一方、撚り数が多くなりすぎると引張強度が低下するおそれがある。素線1yの本数が7~37本の場合には、撚り数は1.5~20回/mが好ましい。撚り数は、より好ましくは2~10回/mがよい。
【0072】
棒状繊維強化複合材1を構成する素線1yとしては、上記の例示した実施形態のものに限定されず、本発明の素線1yの構成のものであればいずれものでもよい。また、本実施形態における棒状繊維強化複合材1において、本発明の素線1yの要件を満たす素線であれば、異なる素線を複合して用いてもよい。
【0073】
例えば、本実施形態でのストランド構造体を構成する素線1yの本数は7本であるが、これに限定されず、目的とする性能(特に破断荷重)、用途を考慮して適宜決定され、特に限定されるものではないが、通常、2~50本である。ストランド構造体を構成する素線1yの本数は、好ましくは7~37本がよい。
【0074】
例えば、炭素繊維を24000本束ねたもの(24k)1本を炭素繊維束として用いた棒状繊維強化複合材1の場合には、ストランド構造体を構成する素線1yの本数は2本~50本程度であるとブレース材等の用途として好適である。
【0075】
なお、本実施形態の棒状繊維強化複合材1は、芯線として用いた一本の素線1yを取り囲むように構成された他の素線1yとが一体に撚り合わせられているが、ストランド構造体の構造として、芯となる芯線を設けず、必要本数(例えば、2~50本)の素線1yを束ね、束ねられた素線1y全体に撚りを掛けてもよい。
【0076】
棒状繊維強化複合材1の直径は、2~100mm、より好適には4~50mm、さらにより好適には6~20mmである。このような直径であると、棒状繊維強化複合材1がドラムに巻きやすくなり、また、任意の形状に追従するなどのフレキシブル性を高めることができる。
【0077】
なお、棒状繊維強化複合材1は、前記ストランド構造体をさらにより合せた、マルチストランド構造体であってもよい。
【0078】
また、棒状繊維強化複合材1は、ストランド構造体やマルチストランド構造体の外周の全面を覆うように別途層(繊維材料からなる筒状体や樹脂層等)が設けられていてもよい。ただし、棒状繊維強化複合材1の端部に、少なくとも一方の端部に他の棒状物を有する部材が挿入できる状態とする必要がある。
【0079】
ストランド構造体やマルチストランド構造体の撚られた素線1yと素線1yとの間には埃等が付着しやすいが、ストランド構造体やマルチストランド構造体の外周の全面を覆うように別途層(繊維材料からなる筒状体や樹脂層等)が設けられていると、これらの埃の付着を抑制することができる。
【0080】
また、不燃性向上の観点からは、前記の全面を覆うように設けられた別途層は、ポリイミド樹脂やシリコーン樹脂や塩化ビニル樹脂を用いた樹脂層を設けるとよい。また、意匠性の観点からは、全面を覆うように別途層として着色のための顔料などの着色剤を含む樹脂層を別途設けてもよい。
【0081】
これらの樹脂層は、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂いずれであっても用いることはできるが、固化剤として、熱可塑性樹脂を用いた場合には、別途層に用いられる樹脂も熱可塑性樹脂が好ましい。
【0082】
また、棒状繊維強化複合材1は、引張強さが100~5000MPaであることが望ましい。引張強さの下限値は、好ましくは500MPa以上が良く、より好ましくは1000MPa以上であるとよい。引張強さが100MPa以上であれば、優れた強度を有する接合構造体10が得られる。一方、引張強さの上限値は、好ましくは4000MPa以下が良く、より好ましくは3000MPa以下がよい。引張強さが5000MPaを超えると接合構造体が重くなってしまったり、柔軟性を失ってしまったりして、接合構造体を巻き取った状態で運搬することや保管することができなくなるおそれがある。
【0083】
(寸切りボルト(定着治具)について)
寸切りボルト(定着治具)2は、螺子を切った鋼鉄製のボルト(M8、M10、M12、M16などの鋼材(SNR490B、SNR400Bやステンレス製やチタン製のボルトなど))やこれに限らず少なくとも一方の端部が棒状となっているものを用いる。
【0084】
本実施形態では、M16の鋼鉄製(SNR400B:圧延棒鋼)のボルトを用いた。棒状繊維強化複合材1の端部に挿入される寸切りボルト2の棒状部2tは表面の少なくとも一部に螺子を切るなどして凹凸を有すると接着剤4と棒状繊維強化複合材1と寸切りボルト2と管状部材3との接着力が向上し、得られる接合構造体10は、優れた引張強度が得られるとの観点から好ましい。
【0085】
また、寸切りボルト2のテーパー部2sを有する端部の反対側の端部は、棒状であってもよいし、棒状でネジが切ってあってもよく、また、板状であってもよいし、U字状、輪っか状であってもよく、補強される柱、梁、床、壁、天井、地面や地面等に設置したアンカー等にナットやボルト、釘、螺子、紐や布状物、杭、溶接等で定着できればよい。また、他の定着治具を介して、柱、梁、床、壁、地面等に定着してもよい。
【0086】
(接着剤について)
管状部材3の管内に充填される接着剤4、つまり、棒状繊維強化複合材1と寸切りボルト2と管状部材3との接合に用いられる接着剤4としては、合成樹脂、セメント等を用いることができる。
【0087】
合成樹脂としては、エポキシ系、メラミン系、シリコーン系、フェノール系、天然ゴム、合成ゴムなどのゴム系、α―オレフィン系、アクリル系、酢酸ビニル系、ウレタン系、不飽和ポリエステル系、ビニルエステル系などの合成樹脂が挙げられる。接着性の観点からはウレタン系樹脂が好ましく用いられる。
【0088】
ウレタン系樹脂としては、具体的には、多価アルコールのアルキレンオキサイド付加物であるポリオール及びポリイソシアネートを含むウレタン系樹脂が好ましい。ウレタン系樹脂は、ポリオールの重量平均分子量は600以下のものがよい。また、多価アルコールとしては、グリセリン、トリメチロールプロパン或いは、ペンタエリトリトールが好ましい。また、耐熱性の観点から、当該ウレタン樹脂のガラス転移温度(Tg)が70℃以上より好ましくは80℃以上、さらに好ましくは90℃以上がよい。好ましいガラス転移温度(Tg)の上限は特にないが、当該ウレタン樹脂のガラス転移温度(Tg)の上限は130℃程度である。
【0089】
セメントとしては、石膏、生石灰、また、生石灰や珪酸塩を用いた高膨張圧が発揮できる材料などが挙げられる。
【0090】
(管状部材について)
本実施形態の管状部材3は、第一端部31から第二端部32まで空洞部3hを有するものであり、管状部材3の第一端部31の開口からは棒状繊維強化複合材1、第二端部32の開口からは寸切りボルト2が露出する。空洞部3hには棒状繊維強化複合材1と寸切りボルト2が配置されるとともに接着剤4が充填され、棒状繊維強化複合材1、寸切りボルト2、及び管状部材3が接着剤4で接合されている。
【0091】
管状部材3は、鉄、アルミニウム、ステンレス、チタンなどの鋼材を用いたものや合成樹脂製であってもよい。管状部材3は、軽量で強度があるとの観点より、繊維強化複合材(FRP)製であるとよい。
【0092】
また、管状部材3の長さ方向の断面形状は、円形、楕円形、三角形、四角形、五角形、六角形等の多角形などでよく特に限定されないが、強度の観点からは円形が好ましい。
管状部材3は、具体的にはAGCマテックス株式会社から提供されているプラアロイ(登録商標)などを挙げることができる。
【0093】
また、管状部材3は、その内面に凹凸を有していても良い。管状部材3は、その内面に凹凸を有していると、接着剤4と管状部材3との接合力が物理面でも向上するため、得られる接合構造体の引張強度が向上するとの観点より好ましい。
【0094】
管状部材3を備える接合構造体10は、引張強度に優れる。また、管状部材3を備える場合、接合構造体10は、屋外などで接合構造体10が使用される場合に、管状部材3により紫外線や雨などから接合構造部が保護され、接合構造体10の経時的な劣化を抑制し耐久性が向上する。また、管状部3材を備える接合構造体10は、棒状繊維強化複合材1とボルトなどの定着治具2との重なり部Olを接着剤4により被覆し接合する際に、型を用いる必要がなく、接着剤4の硬化後、その型を除去する工程が不要であるため、生産性に優れる。
【0095】
また、本発明においては、管状部材3を備えなくともよい。管状部材3を用いない場合には、より軽量な接合構造体が得ることができ、補強される対象物に対し、管状部材3の質量による負荷を軽減することができ、また、施工時の作業者に対する負荷もより軽減することができる。
【0096】
以上の構成を有する本実施形態の接合構造体10は、優れた強度を有し、意匠性、外観品位にも優れる。従って、本実施形態の接合構造体10は、鉄鋼、鉄筋、木造などを用いて造られた建築物、建造物やテーブル、椅子、手すりなどの家具類、植物用の誘引紐、ワイヤー代替物、柵など種々の構造物の補強材や構造材として用いることができる。
【0097】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、本発明の技術的思想の範囲内で上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【実施例
【0098】
以下、実施例及び比較例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、その要旨を変更しない限り以下の実施例に限定されるものではない。
また、本実施例における各種データは以下の方法で測定を行った。
【0099】
<直径>
素線、棒状繊維強化複合材体の直径はノギスで測定した。
<引張強さおよび破断荷重>
引張強さおよび破断荷重は、インストロンジャパンカンパニリミテッドから供給されている5980フロア型高容量万能試験機 型式5985を使用し、2mm/minの条件で測定した(測定環境は室温(約25℃))。試料が破断したときの荷重(kN)を破断荷重とした。また、破断荷重を棒状繊維強化複合材の長さ方向に垂直に切断した断面積(有効断面積)で割ったものを引張強さ(MPa)とした。各実施例及び比較例の主な仕様及び測定値を表1に示す。
【0100】
【表1】
【0101】
(実施例1)
素線1Aを得るために、24Kの炭素繊維束(PAN系炭素繊維。東レ株式会社製。T700SC)を3本束ね、S方向に10回/m撚りをかけたもの1本を炭素繊維束として用い、拘束材としてガラス繊維を用い、製紐機(24打機)を用いて、16打ちの石目打にて、炭素繊維束の外周の全面を組紐状にガラス繊維で拘束した。
【0102】
次に、炭素繊維束を拘束したものを、重合型の熱可塑性エポキシ樹脂(DENATITE XNR6850V、固形分85質量%、ナガセケムテックス株式会社製)100質量部、硬化剤(DENATITE XNH6850V、固形分30質量%、ナガセケムテックス株式会社製)6.5質量部、メチルエチルケトン(MEK)10質量部からなる溶液(粘度150mPa・s)にデッピングし、ダイスを通し、余分な溶液を除去するとともに、炭素繊維束の長さ方向に対し垂直に切断した際の断面形状が円形になるように形状を整え、拘束された炭素繊維束に対し、固化剤を付与した。その後、固化材を付与したものに対し熱処理(150℃、20分間)を行うことで、前記重合型の熱可塑性エポキシ樹脂を硬化反応させて、炭素繊維束と拘束材と熱可塑性エポキシ樹脂(固化剤)を一体化させて素線1Aを得た。
【0103】
得られた素線1Aの断面は円形状で、直径は3mm、質量は12.8g/mであった。得られた素線1Aは、破断荷重は13kN、引張強さは1800MPa(有効断面積50mm)であった。得られた素線1Aは、室温で直径が100cmのドラムに3000m巻きとったところ、折れることなく、スムーズに巻き取ることができた。
【0104】
次に、得られた素線1Aを7本用い、中心に芯線として1本の素線1A、その周りを6本の素線1Aで覆うように、120℃に加熱しながら撚り合わせて、ストランド構造とし、棒状繊維強化複合材1を得た。得られた実施例1の棒状繊維強化複合材1は、直径は9mm、質量は80g/mであった。得られた棒状繊維強化複合材1は、破断荷重は90kN、引張強さは1800MPa(有効断面積50mm)であった。
【0105】
次に、棒状繊維強化複合材1を51cmの長さにカットした。なお、棒状繊維強化複合材1を構成する素線1Aについては、芯材をはじめ素線1Aの一部を切り取ることは行わず、素線1Aの長さが、すべて実質的に揃ったものを棒状繊維強化複合材1として用いた。
【0106】
次に、寸切りボルト2として、一方の端部の棒状部2tをテーパー状に削った長さ30cmのM16寸切ボルト(SNR400B:直径が16mm。テーパー部分の長さが5cm。テーパー部は、図1に示すような端部が尖った形状)を準備した。
【0107】
また、管状部材3として、長さ250mmのFRP製の管状部材3(商品名 プラアロイRP28:AGCマテックス株式会社製:内径28mm、外径34mm)を用いた。
【0108】
そして、管状部材3の第一端部31より、空洞部3hに棒状繊維強化複合材1を挿入し、管状部材3の第二端部32にまで挿入した。また、管状部材3の第二端部32より、空洞部3hにM16の寸切りボルト2の棒状部2tを挿入した。棒状部2tは、管状部材3の軸Oに重なるように、棒状繊維強化複合材1の端部1tに挿入されるようにして、管状部材3内に21cm挿入した。棒状繊維強化複合材1とM16の寸切りボルト2とが重なり合う重なり部Olの長さL1を21cm、長さL2を4cm、管状部材3の長さL3を25cmとした。
【0109】
次に、管状部材3の空洞部3hに、接着剤4を充填した。接着剤4として、多価アルコールのアルキレンオキサイド付加物であるポリエーテルポリオールとポリイソシアネートとの混合物を充填し、室温(25℃)で1時間で放置し、前記ポリオールとポリイソシアネートとを反応させて硬化させウレタン樹脂(Tg93℃)を生成した。接着剤4を充填した後、室内にて1週間養生し、接合構造体10を得た。
【0110】
得られた接合構造体10の破断荷重は81.32kNであった。実施例1の破断の状態は、接合構造部の破壊ではなく、M16の寸切りボルト2が破断しており、接合構造部は十分な強度を有していた。
【0111】
(比較例1)
比較例1として、寸切りボルトの棒状部をテーパー状に削らず、長さ30cmに切断しただけのM16寸切りボルト(SNR400B:直径が16mm)を用いた以外は、実施例1と同様の構成にして接合構造体を得た。得られた接合構造体の破断荷重は77.34kNあった。比較例1の破断の状態は、接合構造部が破壊(管状部材3と接着剤4との界面から抜け(ズレ)が発生し、接着剤4にクラックも発生)されていた。
【0112】
(実施例2)
実施例2として、管状部材3の長さL3が21cmのものを用い、M16の寸切りボルト2を21cm管状部材内に挿入した以外は実施例1と同様にして接合構造体を得た。得られた接合構造体10はL1=21cm、L2は数mm程度、L3=21cmであった。得られた接合構造体10の外観品位は、管状部材3の第一端部31近辺での素線1Aの開きは確認されず、良好な外観品位を保っていた。また、実施例2の破断荷重は72.95kNあり、優れた強度を有していた。実施例2の破断の状態は、接合構造部が破壊(管状部材3と接着剤4との界面から抜け(ズレ)が発生し、接着剤4にクラックも発生)されていた。
【0113】
(実施例3)
実施例3として、管状部材3の材質をFRP製から鋼材製(SS400)に変更した以外は実施例2と同様にして接合構造体10を得た。得られた接合構造体10はL1=21cm、L2は数mm程度、L3=21cmであった。得られた接合構造体10の外観品位は、管状部材3の第一端部31近辺での素線1Aの開きは確認されず、良好な外観品位を保っていた。また、実施例3の破断荷重は78.98kNあった。実施例3の破断の状態は、M16の寸切りボルト2が破断しており、より優れた強度を有する接合構造体10が得られた。
【0114】
(参考例)
参考例として、実施例1の接合構造体10に対し、M16の寸切りボルト2を棒状繊維強化複合材に挿入しやすいように、管状部材3にM16の寸切りボルト2を挿入した長さ(21cm)とほぼ同等の長さだけ、棒状繊維強化複合材を構成する芯材を切り取り、それ以外は実施例1と同様にして接合構造体を得た。得られた接合構造体の破断荷重を測定したところ、68.90kNあった。破断の状態は、接合構造部が破壊(管状部材と接着剤との界面から抜け(ズレ)が発生し、接着剤にクラックも発生)されていた。
【産業上の利用可能性】
【0115】
本発明の接合構造体は、軽量で優れた強度を有し、意匠性、外観品位の低下を抑制することにより、木構造又は木質構造、鉄骨構造又は鋼構造、鉄筋コンクリート構造、鉄骨鉄筋コンクリート構造等による家、柵、橋をはじめ様々な建築物、建造物の補強材や構造部材、また、ロープの代替品としても用いることができる。
【符号の説明】
【0116】
1 棒状繊維強化複合材
1A 炭素繊維を用いる素線
1B 拘束材を用いる素線
1s 複数の素線
1t 端部
1y 素線
10 接合構造体
2 寸切りボルト(定着治具)
2s テーパー部
2t 棒状部
3 管状部材
3h 空洞部
31 第一端部
32 第二端部
4 接着剤
L 複数の素線が延びる方向
Ol 重なり部
t 先端
図1
図2
図3