(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-18
(45)【発行日】2023-10-26
(54)【発明の名称】腐食防止のための水性コーティング組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 63/00 20060101AFI20231019BHJP
C08L 61/12 20060101ALI20231019BHJP
C08K 5/20 20060101ALI20231019BHJP
C08K 5/103 20060101ALI20231019BHJP
C09D 163/00 20060101ALI20231019BHJP
C09D 161/12 20060101ALI20231019BHJP
C09D 5/08 20060101ALI20231019BHJP
【FI】
C08L63/00 B
C08L61/12
C08K5/20
C08K5/103
C09D163/00
C09D161/12
C09D5/08
(21)【出願番号】P 2019538240
(86)(22)【出願日】2018-01-16
(86)【国際出願番号】 EP2018050917
(87)【国際公開番号】W WO2018130700
(87)【国際公開日】2018-07-19
【審査請求日】2020-08-06
(32)【優先日】2017-01-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】513277278
【氏名又は名称】オールネックス オーストリア ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ルンツァー、フロリアン
(72)【発明者】
【氏名】テメル、アルミン
(72)【発明者】
【氏名】ホビッシュ、ゲラルト
(72)【発明者】
【氏名】エッツ、オリバー
【審査官】佐藤 のぞみ
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-253552(JP,A)
【文献】特開平02-003457(JP,A)
【文献】特開昭51-084825(JP,A)
【文献】特開平08-319339(JP,A)
【文献】特開平09-169854(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 59/00-59/72
C08L 63/00-63/10
C08K 3/00-13/08
C09D
B05D 1/00-7/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
親水性変性エポキシ系樹脂PおよびレゾールRの混合物、ならびに共架橋剤Eを含む水性樹脂分散液Dの調製プロセスであって、
この水性樹脂分散液Dの調製プロセスが、
前記親水性変性エポキシ系樹脂Pを、アドバンスメント反応が行われる少なくとも1つの工程を含む一連の反応において製造することを含み、
前記親水性変性エポキシ系樹脂Pが、非イオン性変性エポキシ系樹脂Pnであり、
前記共架橋剤Eが、
- 酸化合物と反応する少なくとも2つのヒドロキシル基を有する化合物E1、および
- 一般式(R
1-C(=O)-CR
2R
3-C(=O)-O-)
xR
4(式中、R
1は1~8個の炭素原子を有するアルキル基であり、R
2およびR
3は互いに独立して水素、または1~8個の炭素原子を有するアルキル基であり、R
4は2~4個のヒドロキシル基、および2~40個の炭素原子を有する脂肪族アルコールの残基であ
り、xは式中のR
4
におけるヒドロキシル基の個数と対応する数値である)を有するエステルE2
からなる群から選択され、
前記一連の反応が、
・ポリオキシエチレンホモポリマーまたはコポリマーセグメントまたは糖アルコールセグメントを含む非イオン性部分と、少なくとも二官能性であるエポキシド化合物から誘導されるビルディングブロックを含む非親水性および相溶化部分とを有する乳化剤Fの合成であって、前記少なくとも二官能性エポキシド化合物の、ヒドロキシ官能性ポリオキシエチレンホモポリマーもしくはヒドロキシ官能性ポリオキシエチレンコポリマーと、または強ブレンステッド酸もしくはルイス酸で触媒された糖アルコールと、またはエポキシド官能性ポリオキシエチレンホモポリマーもしくはエポキシド官能性ポリオキシエチレンコポリマーと、またはエポキシド官能性糖アルコールとのカップリングによる合成、
・ホスフィンまたはアミン触媒の存在下での、ジエポキシドA1、二価芳香族化合物A2、および前工程の乳化剤Fとのアドバンスメント反応によるエポキシ樹脂への前記乳化剤Fの組み込みであって、この化学量論は、前記アドバンスメント反応生成物がエポキシド末端基を有するように選択される組み込みを含む、
水性樹脂分散液Dの調製プロセス。
【請求項2】
前記共架橋剤E1が、少なくとも2つのβ-ヒドロキシアルキルアミド基を有する脂肪族ジカルボン酸のβ-ヒドロキシアルキルアミドである、請求項1に記載の水性樹脂分散液Dの調製プロセス。
【請求項3】
前記親水性変性エポキシ系樹脂Pが、添加乳化剤を含む外部乳化エポキシ系樹脂である、請求項1または2に記載の水性樹脂分散液Dの調製プロセス。
【請求項4】
前記レゾールRが二価フェノールに基づく、請求項1に記載の水性樹脂分散液Dの調製プロセス。
【請求項5】
親水性変性エポキシ系樹脂PおよびレゾールRの混合物、ならびに共架橋剤Eを含む水性樹脂分散液Dの調製プロセスであって、このプロセスが、
-アルカリ性触媒作用下および加熱下での、少なくとも1つのフェノール性ヒドロキシル基を有するフェノール化合物および化学量論的過剰でのホルムアルデヒドの反応によるレゾールRの調製工程、
-前記レゾールRおよび非イオン性変性エポキシ系樹脂Pnである親水性変性エポキシ系樹脂Pの混合工程、を含み、
-前記非イオン性変性エポキシ系樹脂Pnは、
・ポリオキシエチレンホモポリマーまたはコポリマーセグメントまたは糖アルコールセグメントを含む非イオン性部分と、少なくとも二官能性であるエポキシド化合物から誘導されるビルディングブロックを含む非親水性および相溶化部分とを有する乳化剤Fの合成であって、前記少なくとも二官能性エポキシド化合物の、ヒドロキシ官能性ポリオキシエチレンホモポリマーもしくはヒドロキシ官能性ポリオキシエチレンコポリマーと、または強ブレンステッド酸もしくはルイス酸で触媒された糖アルコールと、またはエポキシド官能性ポリオキシエチレンホモポリマーもしくはエポキシド官能性ポリオキシエチレンコポリマーと、またはエポキシド官能性糖アルコールとのカップリングによる合成、
・ホスフィンまたはアミン触媒の存在下での、ジエポキシドA1、二価芳香族化合物A2、および前工程の乳化剤Fとのアドバンスメント反応によるエポキシ樹脂への前記乳化剤Fの組み込みであって、この化学量論は、前記アドバンスメント反応生成物がエポキシド末端基を有するように選択される組み込みによって製造され、
そして、このプロセスが、
-このようにして得られた前記レゾールRと前記親水性変性エポキシ系樹脂Pとの前記混合物を水中に分散させる工程、ならびに
-このようにして得られた前記混合物に前記共架橋剤Eを添加する工程であって、前記共架橋剤Eは、
- 酸化合物と反応する少なくとも2つのヒドロキシル基を有する化合物E1、または
- 一般式(R
1-C(=O)-CR
2R
3-C(=O)-O-)
xR
4(式中、R
1は1~8個の炭素原子を有するアルキル基であり、R
2およびR
3は互いに独立して水素、または1~8個の炭素原子を有するアルキル基であり、R
4は2~4個のヒドロキシル基、および2~40個の炭素原子を有する脂肪族アルコールの残基であ
り、xは式中のR
4
におけるヒドロキシル基の個数と対応する数値である)を有するエステルE2である工程を含む、
上記プロセス。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか一項に記載のプロセスによって調製された、または請求項5に記載のプロセスによって調製された水性樹脂分散液Dと、消泡剤、レベリング剤、融合助剤、流動調整剤、殺生物剤、顔料、湿潤剤、およびレオロジー添加剤からなる群から選択される添加剤と、酸化合物とを組み合わせる工程を含むコーティング組成物の調製プロセス。
【請求項7】
前記添加剤がアミノプラスト架橋剤およびそのための酸触媒をさらに含む、請求項6に記載のコーティング組成物の調製プロセス。
【請求項8】
前記添加剤がレオロジー添加剤を含む、請求項6または請求項7に記載のコーティング組成物の調製プロセス。
【請求項9】
前記レオロジー添加剤が、
シリカおよび層状シリカートからなる群から選択される無機増粘剤であって、その両方は有機的に変性されていてもよい無機増粘剤;
ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンオキシド、ポリウレタン増粘剤、スチレン無水マレイン酸コポリマー、アクリル酸、メタクリル酸またはこれらの同族体、これらの酸の塩、およびこれらの酸のアミドから誘導される酸基の少なくとも1つを含むアクリルコポリマーからなる群から選択される有機合成増粘剤;
タンパク質、多糖類、デンプン、アラビノキシラン、キチン、およびポリウロニドならびに親水性であるこれらの変性体からなる群から選択される天然有機増粘剤;あるいは
ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシ-プロピルメチルセルロースおよびエチルヒドロキシエチルセルロースからなる群から選択されるセルロース誘導体、またはセルロースである増粘剤である、請求項8に記載のコーティング組成物の調製プロセス。
【請求項10】
卑金属である基材上にコーティング層を形成するための請求項6~9のいずれか一項に記載のプロセスによって調製されたコーティング組成物の使用方法であって、刷毛塗り、噴霧、ブレードコーティングまたは浸漬により前記基材上に前記コーティング組成物を適用する工程、および、少なくとも100℃の温度に加熱することにより前記コーティング基材を硬化する工程を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は腐食防止用の水性コーティング組成物、その調製プロセスおよび金属コーティングにおけるその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
貴金属または凝集性酸化物層を形成する金属、例えばアルミニウムを除いて、ほとんどの金属は、周囲条件にさらされる場合に、腐食を防止するかまたは少なくとも遅延させるためにコーティングフィルムを備えている。金属表面へのコーティングフィルムの適用により、コーティングフィルムの金属基材への十分な接着がある場合およびコーティングフィルムの酸素および水に対する透過性が低い場合は、金属基材と損傷環境との間にバリアを提供する。コーティングフィルムの中では、液体形態または粉末形態の塗料が重要な役割を果たす。コーティング材料を選択する場合に考慮しなければならない態様は、金属表面と反応し得、ひいては金属基材を損傷する可能性があるコーティング組成物中の構成要素、例えば将来の腐食攻撃の種となり得る塩化物イオンを避けることである。
【0003】
多くの有機ポリマーは金属表面上にコーティングフィルムを形成するのに適している。これらのフィルムは、上で指摘したように十分な硬度、十分な接着性、およびコーティングフィルムがコーティングされた金属製品の可能性としての変形に追従できるのに十分な弾性も有することが望ましい。エポキシ樹脂は、腐食防止塗料の配合において最も使用されている材料の1つである(High-Performance Coatings,2008,ed.A.S.Khanna,「エポキシという語は、今日の工業環境において抗腐食性と同義になっている。」)。エポキシ樹脂およびアミンから製造された反応生成物は、車体の陰極電着塗装における標準的な材料となっている。
【0004】
WO2015/093299A1には、水性媒体(C)中にビニルエステル樹脂(A)と芳香族環を有するウレタン樹脂(B)とを分散させ、カルボジイミド架橋剤(E)を添加することによって得られる水性樹脂組成物(D)が開示されている。ビニルエステル樹脂(A)は、重合性エチレン性不飽和酸化合物(a2)と、ノボラック型エポキシ樹脂およびビスフェノール型エポキシ樹脂からなる群から選択される少なくとも1つのエポキシ樹脂(a1)とを反応させることによって製造される。ウレタン樹脂(B)は、芳香族環を有するポリオール(b1-1)およびアニオン性基であることが好ましい親水性基を有するポリオール(b1-2)と、ポリイソシアナート(b2)とを反応させて得られる。カルボジイミド架橋剤(E)は、1分子中に2つ以上のカルボジイミド基を有することが好ましい。
【0005】
US2010/0129659A1には、3コート1ベーク法によって製造されたコーティング製品が開示されている;この方法は、カチオン電着コーティング組成物(A)からコーティングされるべき金属対象物に硬化コーティングフィルム(A1)を形成する工程;第1着色水性コーティング組成物(B)を適用することによって第1着色コーティングフィルム(B1)を形成する工程;未硬化の第1着色コーティングフィルム(B1)上に第2着色水性コーティング組成物(C)をコーティングすることによって第2着色水性コーティングフィルム(C1)を形成する工程;未硬化の第2着色コーティングフィルム(C1)上にクリア(透明)なコーティング組成物(D)を適用することによってクリアなコーティングフィルム(D1)を形成する工程;および未硬化の第1着色コーティングされたフィルム(B1)、未硬化の第2着色コーティングフィルム(C1)、および未硬化のクリアなコーティングフィルム(D1)を同時に硬化させる工程を含む。カチオン電着コーティング組成物(A)が、カチオン性アミノ基含有変性エポキシ樹脂(a1)を含有し、この変性は、酸性触媒の存在下、キシレンおよびフェノールとホルムアルデヒドとを縮合させることによって製造されるキシレンホルムアルデヒド樹脂の付加により行われ、この変性により、エポキシ樹脂に可塑性および疎水性を与える。水性コーティング組成物(B)は、好ましくは、架橋性官能基、例えばヒドロキシル、カルボキシル、カルボニル、アミノを有するベース樹脂、例えばアクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂から、架橋剤、例えばメラミン樹脂、尿素樹脂、(ブロック化)ポリイソシアナート化合物、カルボジイミド化合物との混合物において製造される。水性コーティング組成物(C)は、好ましくは、架橋性官能基、例えばカルボキシル、ヒドロキシル、カルボニル、アミノを有するベース樹脂、例えばポリエステル樹脂、アクリル樹脂、アルキド樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、および架橋剤、例えばポリイソシアナート化合物(これらはブロック化されてもよい)、メラミン樹脂、尿素樹脂、カルボジイミド化合物、ヒドラジド、セミカルバジド、エポキシ樹脂で構成される。クリアなコーティング組成物(D)は、溶媒系または水性であってもよく、架橋性官能基、例えばヒドロキシル、カルボキシル、エポキシ基を有するアクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ウレタン樹脂またはエポキシ樹脂であることが好ましいベース樹脂、および架橋剤としてメラミン樹脂、尿素樹脂、ポリイソシアナート化合物(ブロック化されていてもよい)、カルボキシル基含有化合物または樹脂、エポキシ基含有化合物または樹脂を混合することによって製造される。
【0006】
WO2013/191826A1には、水および任意に1種以上の中和剤の存在下での1つ以上のベースポリマーおよび1つ以上の安定剤の溶融ブレンド生成物を含む水性ポリオレフィン分散液であって、このポリオレフィン分散液が、400nm~1500nmの範囲の平均体積粒径、および8~11のpH範囲を有するポリオレフィン分散液;およびフェノール-ホルムアルデヒド樹脂、ヒドロキシアルキルアミド樹脂、アミノ-ホルムアルデヒド樹脂、エポキシ基含有樹脂、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される1種以上の架橋剤であって、前記架橋剤が、分散液の固形分の質量に基づいて0.1%~50%の質量分率で分散液中に存在する架橋剤を含む水性混合物が開示されており、前記水性ブレンド組成物は、水性ブレンド組成物の質量に基づいて15%~70%の範囲の固形分の質量分率を有し、前記ブレンド組成物の固形分中の1種以上のベースポリマーの質量分率は、水性ブレンド組成物の固形分の質量に基づいて99.9%までであり、8~11の範囲のpHを有する。エポキシド基を有する水性架橋剤はアルコールのグリシジルエーテルであり、例示されているのはソルビトールポリグリシジルエーテル、グリセロールトリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、トリ-メチロールプロパントリグリシジルエーテル、ポリ(エチレングリコール)ジグリシジルエーテル、ポリ(プロピレングリコール)ジグリシジルエーテル、エトキシル化フェノールのグリシジルエーテル、およびエトキシル化ラウリルアルコールのグリシジルエーテルである。また、例示されているエポキシド官能性化合物は、ポリオキシエチレンポリオール化合物および酸無水物化合物を反応させて得られるカルボキシ化合物と、その分子内に2つ以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂とを反応させて得られる水溶性エポキシ樹脂;および水溶性エポキシ樹脂と分子内に2つ以上のエポキシド基を有するエポキシ樹脂とを混合することによって得られる自己乳化性エポキシ樹脂組成物である。そのような樹脂は、例えば、The Dow Chemical CompanyからXZ 92533.00、XZ 92598.00およびXZ 92446.00の商品名で得ることができる。
【0007】
缶コーティング用途では、タイプ7のビスフェノールAエポキシ樹脂と、メチロール化され、その後モノクロロ酢酸ナトリウムと反応させられ、次いで水中に分散されたフェノール系ノボラックとの縮合生成物に基づく水希釈性(water-reducible)塗料が使用された。US5,177,161Aを参照のこと。エポキシ樹脂とノボラック部分とはエーテル結合を介して接続されている。
【0008】
カルボキシル化ノボラックAとエポキシ樹脂Bとの付加生成物に基づく他の減水性缶コーティング樹脂はDE19756749B4から知られている。これらの付加生成物は、ノボラックAのカルボキシル基とエポキシ樹脂Bのエポキシド基との反応によって形成される1分子当たり少なくとも1つのエステル基を有する。これらの生成物は、US5,177,161Aによるものより明るい色を有する。
【0009】
これらの配合物中の酸性基の存在は水分散性を確実にするために必要とされる。しかしながら、この最新技術によるコーティングフィルムを有する鋼板の耐食性(耐腐食性)は未だ満足されるものではないことがわかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、本発明の目的は、最新技術と比較して改善された耐食特性を有するコーティング組成物を提供することであった。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この目的は、親水性変性エポキシ樹脂およびレゾールの混合物、ならびに硬化反応中にこの分散液中に存在する酸性基をエステル化することができる共架橋剤を含む水性樹脂分散液によって実現された。そのような酸性基は、自己乳化を提供するためにアニオン性基を有する場合、好ましくはエポキシ系である親水性変性樹脂から、または分散液中に存在する酸官能基を有する添加剤もしくは触媒から生じ得る。
【0012】
したがって、本発明は、親水性変性エポキシ系樹脂PおよびレゾールRの混合物、ならびに共架橋剤Eを含む水性樹脂分散液Dに関する。親水性変性エポキシ系樹脂Pは、アニオン性親水性変性により樹脂が自己乳化するアニオン性変性エポキシ系樹脂Pa、非イオン性親水性変性により樹脂が自己乳化する非イオン性変性エポキシ系樹脂Pn、ならびにアニオン性および非イオン性親水性基の両方を有する親水性変性エポキシ系樹脂Panからなる群から選択される。共架橋剤Eは、好ましくは、以下からなる群から選択される:
-エステル形成および水の遊離下で80℃を超える温度でコーティング組成物中に存在する酸化合物と反応する少なくとも2つのヒドロキシル基を有する化合物E1、ならびに
-少なくとも二価のアルコールE22と、80℃を超える温度では不安定である酸E21とによって形成された少なくとも2つのエステル基を有するエステルE2。
【発明を実施するための形態】
【0013】
親水性変性エポキシ系樹脂Pは、好ましくはアニオン性変性エポキシ系樹脂Pa(この樹脂は、アニオン性親水性変性により自己乳化する)または非イオン性変性エポキシ系樹脂Pn(この樹脂は、非イオン性親水性変性により自己乳化する)である。アニオン性および非イオン性親水性基の両方を有する親水性変性エポキシ系樹脂Panを使用することも可能である。
【0014】
それほど好ましくない実施形態では、乳化剤の添加によって親水性にされる外部乳化エポキシ系樹脂Pを使用することも可能である。好ましくは、これらの乳化剤は、適切な変性によって、好ましくはエポキシド反応性基を有する乳化剤をビスフェノールAジグリシジルエーテルまたは低モル質量の液体エポキシ樹脂と反応させることによって、エポキシ樹脂と相溶性にされる。
【0015】
本発明のエポキシ樹脂Pの特徴の1つは、すべての変形形態Pa、PnおよびPanが常に少なくとも1つのアドバンスメント反応(融合反応とも称され、すなわちフェノール性ヒドロキシル基を有するフェノール性化合物が下記式の少なくとも2つの反応性エポキシド基を有する化合物と反応する反応)を含む反応または一連の反応によって製造されることである。
【化1】
【0016】
アニオン性変性エポキシ系樹脂Paは、ノボラックNと、グリシジルエーテル官能基を有する少なくとも二官能性エポキシド化合物Eとから誘導されることが好ましい。
【0017】
エポキシ樹脂分散液を調製するための界面活性剤の使用は、文献に記載されており、例えばエポキシ樹脂の酸誘導体であるアニオン性界面活性剤(例えば、US4,179,440A参照)、ポリオキシアルキレンジオールに基づく非イオン性界面活性剤(例えば、US4,026,857A参照)、およびカチオン性四級アミン界面活性剤(例えば、US3,879,324A参照)である。
【0018】
非イオン性親水性基は、好ましくはオリゴマーまたはポリマーオキシエチレン部分から誘導される基である。オキシエチレンおよびオキシプロピレン部分を有するコポリマーまたはコオリゴマーも使用することができる。これらの親水性基は、ヒドロキシ官能性オキシアルキレンオリゴマーまたはポリマーを、ジエポキシド、例えばビスフェノールAのジグリシジルエーテルと、ルイス酸触媒を用いて直接反応させること(例えばUS4,886,845Aを参照のこと)、またはオキシアルキレンオリゴマーまたはポリマーの他の反応性誘導体を調製すること、ならびにこれらをジフェノールおよびジエポキシドと共に反応させること(例えば、US2009/0253860A1参照)によってエポキシ樹脂に組み込むことができる。
【0019】
好ましい自己乳化エポキシ系樹脂は、US4,415,682Aに開示されているような、ポリエチレングリコールとジエポキシドとの反応生成物に基づくものである。この特許は、(a)35%~65%の質量分率のエポキシ樹脂であって、200mmol/kg~4000mmol/kgのエポキシド基の平均の特定物質量(250g/mol~5000g/molの「エポキシ当量」)を有するエポキシ樹脂、(b)(b1)200g/mol~20kg/molの数平均モル質量を有するポリオキシアルキレングリコールと、(b2)500mmol/kg~10000mmol/kgのエポキシド基の特定物質量(100g/mol~2000g/molの「エポキシ当量」)を有する多価フェノールのグリシジルエーテルとの付加生成物である、2%~20%の質量分率の非イオン性分散剤であって、多価フェノールのグリシジルエーテル中のエポキシド基の物質量n(EP)に対するポリオキシアルキレングリコール中のヒドロキシル基の物質量n(OH)の比n(OH)/n(EP)が、1mol/0.85mol~1mol/1.5molである分散剤、(c)160℃未満の沸点を有する、0.2%~20%の質量分率の有機溶媒、ならびに(d)35%~60%の質量分率の水を含む低溶媒の安定な水性分散液を開示している。
【0020】
少なくとも部分的に中和されたアニオン性変性エポキシ系樹脂Paの分散液は、第1の多段階プロセスまたは第2の多段階プロセスの生成物の酸基を適量の塩基の添加によって少なくとも部分的に中和することによって製造され、
第1の多段階プロセスは、以下の工程a、b、c、d、e、およびfを含み:
・工程aにおいて、酸触媒作用下でフェノールN1とホルムアルデヒドFとからノボラックNを調製し、工程aの反応生成物から未反応フェノールN1を分離する、
・工程bにおいて、1分子当たり平均少なくとも2つの官能性エポキシド基を有するエポキシ樹脂Eを添加することにより、触媒作用下でノボラックNをアドバンスメント反応に供する、
・工程cにおいて、工程bの反応生成物を有機溶媒に溶解して溶液を形成し、この溶媒は好ましくは、直鎖状または分岐状脂肪族アルコール、直鎖状または分岐状脂肪族エーテル、直鎖状または分岐状脂肪族ケトンおよび芳香族炭化水素とこれらの混合物からなる群から選択される、
・次いで、工程cの反応生成物の溶液をアルカリの存在下で工程dにおいてホルムアルデヒドと反応させて、メチロール化合物を形成する、
・工程eにおいて、さらにアルカリを添加した後、ハロゲンアルカン酸を添加し、ハロゲンアルカン酸の完全な反応の後に、この工程eの反応生成物を水性酸による酸性化により精製し、反応生成物を含有する有機層を分離し、分離した溶液を蒸留水で洗浄する、
・工程fにおいて、工程eの精製された反応生成物から減圧下での蒸留により溶媒を除去し、次いで水および中和剤として三級アミンを添加して少量の溶媒のみが残る水溶液を得る、ならびに第2の多段階プロセスは、以下の工程A、B、およびCを含む:
・工程Aにおいて、リン系酸Q1と1分子当たり少なくとも1つのエポキシド基を有するエポキシド官能性化合物Q2とのエステルQが調製され、工程Aで使用されるリン系酸は1分子当たり少なくとも2つの酸性水素原子を有し、無機酸性リン化合物、および有機酸性リン化合物からなる群から選択され、工程Aに使用されるエポキシド官能性化合物は、1分子当たり少なくとも2つのエポキシド基を有するエポキシド化合物であり、工程Aの反応は、工程Aの反応によって製造されたエステルQが0.1mol/kg以下である特定量のエポキシド基および平均して1分子当たり少なくとも1つの酸性水素原子を有するように行われる、
・工程Bにおいて、触媒の存在下で、少なくとも二官能性エポキシドS1および芳香族ジヒドロキシ化合物S2を用いて、アドバンスメント反応を行い、エポキシド基を有するポリエーテル化合物Sを得る、
・工程Cにおいて、工程Bのポリエーテル化合物Sを溶媒に溶解し、工程Aで製造されたエステルQを、均質な混合物が得られるまで、撹拌下で添加し、次いでこの混合物から減圧蒸留により溶媒を除去する。
【0021】
好ましい実施形態では、工程aにおいて、ノボラックNは、フェノールN1とホルムアルデヒドFとから、酸触媒作用下で、好ましくはホルムアルデヒドFに対して化学量論的に過剰のフェノールN1を用いて調製される:n(N1)≧n(F)*1.5、式中、n(N1)はフェノールN1の物質量であり、n(F)はホルムアルデヒドFの物質量であり、フェノールN1は好ましくはフェノール(ヒドロキシベンゼン)、2-アルキルフェノール、および4-アルキルフェノールおよびこれらの混合物からなる群から選択され、アルキル基は、好ましくは1~20個の炭素原子を有する直鎖状または分岐状アルキル基から独立して選択される。少量の2,4-ジアルキルフェノールおよび2,6-ジアルキルフェノールが連鎖停止剤として存在できる。このようにして得られたノボラックNは、1分子のノボラックN中のフェノール部分の平均数として表される3~20の数平均重合度を有するのが好ましい。
【0022】
工程aの反応生成物から未反応フェノールN1を分離した後、工程bにおいて、1分子当たり平均少なくとも2つの官能性エポキシド基を有するエポキシ樹脂E、好ましくはエポキシド基の特定量n(EP)/m、好ましくは500mmol/kg~650mmol/kgを有するビスフェノールAに基づくエポキシ樹脂を添加することによって、好ましくは触媒としてアミンまたはホスフィンを用いる触媒作用下でのアドバンスメント反応にノボラックNを供する。これに関連して、n(EP)は検討中のエポキシ樹脂中に存在するエポキシド基の物質量であり、mは前記エポキシ樹脂の質量である。反応は、すべてのエポキシド基Eが消費されるまで行われるのが好ましい。工程bの反応は、好ましくは溶融物中で行われる。
【0023】
工程cにおいて、工程bの反応生成物は、脂肪族アルコール、脂肪族エーテル、脂肪族ケトン、およびこれらと芳香族炭化水素との混合物からなる群から選択される有機溶媒に溶解される。脂肪族アルコールは直鎖状または分岐状であり、好ましくは4~12個の炭素原子を有する。脂肪族エーテルは、直鎖状または分枝状であり、好ましくは6~20個の炭素原子を有するものであり、そして好ましくは、1~8個の炭素原子を有するアルカノール、好ましくは2~12個の炭素原子を有するアルカノールまたはアルカンジオールのモノエーテルまたはジエーテルである。脂肪族ケトンは直鎖状または分岐状であり、好ましくは3~10個の炭素原子を有する。芳香族炭化水素は、アルキル芳香族化合物が好ましく、トルエン、キシレン、エチルベンゼンが好ましい。次いで工程bの反応生成物の溶液をアルカリの存在下で工程dでホルムアルデヒドと反応させてメチロール化合物を形成する。ホルムアルデヒドは、好ましくは化学量論比未満で使用され、すなわちホルムアルデヒドの物質量は工程bの反応生成物中の芳香族部分(ベンゼン環)の物質量より少ない。さらにアルカリを添加した後、ハロゲンアルカン酸、好ましくは2-クロロ酢酸を工程eで、好ましくは化学量論比未満で添加し、すなわち、ハロゲンアルカン酸の物質量は工程bの反応生成物中の芳香族部分(ベンゼン環)の物質量未満であり、工程dの反応生成物中のメチロール基の物質量未満である。ハロゲンアルカン酸の完全な反応の後、この工程eの反応生成物は、水性酸による酸性化、反応生成物を含有する有機層の分離、および蒸留水による分離溶液の洗浄によって精製される。
【0024】
工程fにおいて、工程eの精製された反応生成物から減圧下での蒸留によって溶媒を除去し、次いで水および中和剤としての三級アミンを添加して少量の溶媒のみが残る水溶液を得る。
【0025】
アニオン性変性エポキシ系樹脂Paの分散液を調製するためのさらに好ましい方法は、2つの反応工程を含み、工程Aでは、リン系酸と、1分子当たり少なくとも1つのエポキシド基を有するエポキシド官能性化合物とのエステルを調製する。
工程Aで使用されるリン系酸は、1分子中に少なくとも2つの酸性水素原子を有し、無機酸性リン化合物および有機酸性リン化合物からなる群から選択される。前者の群は、オルトリン酸H3PO4、ジリン酸H4P2O7、トリリン酸H5P3O10およびそれらの高級同族体(オリゴマー)、亜リン酸H3PO3、二リン酸H4P2O5およびそれらの高級同族体、ならびに次亜リン酸H3PO2およびそれらの高級同族体を含む。特に好ましいのは、オルトリン酸、オルトリン酸の二量体以上のオリゴマーの混合物、亜リン酸、およびそれらの高級オリゴマーである。後者の群は、アルカンホスホン酸、R1-PO3H3、芳香族ホスホン酸R2-PO3H3、ならびに対応する亜ホスホン酸R1-PO2H2およびR2-PO2H2からなる群から選択されるホスホン酸を含み、R1は1~20個の炭素原子を有する直鎖状、分岐状または環状アルキルであり、R2は任意選択で、6~20個の炭素原子を有する置換芳香族基である。メタンホスホン酸およびベンゼンホスホン酸が特に好ましい。
【0026】
工程Aで使用されるエポキシド官能性化合物は、好ましくはフェノール化合物のグリシジルエーテル、好ましくはビスフェノールAジグリシジルエーテルもしくはビスフェノールFジグリシジルエーテル、またはこれらのビスフェノールに基づくオリゴマーもしくはポリマーエポキシ樹脂である。
【0027】
工程Aにおける反応は、工程Aの生成物が0.1mol/kg以下の特定量のエポキシド基、および1分子当たり平均少なくとも1つの酸性水素原子を有するように、行われる。工程Aにおける、リン系酸中の酸性水素原子の物質量とエポキシド官能性化合物のエポキシド基の物質量との比は、好ましくは0.3mol/mol~0.9mol/molである。工程Aで調製される付加物の酸価は、好ましくは5mg/g~200mg/g、特に好ましくは8mg/g~180mg/g、特に好ましくは10mg/g~160mg/gである。
【0028】
工程Bにおいて、アミンまたはホスフィン触媒の存在下で、少なくとも二官能性エポキシド、芳香族ジヒドロキシ化合物、および好ましくはさらにダイマー脂肪酸も用いて、アドバンスメント反応が行われる。化学量論は、好ましくはエポキシド基の物質量のフェノール性ヒドロキシル基の物質量に対する比が2mol/mol~1.1mol/molであるように選択される。エポキシド基の物質量のダイマー脂肪酸中の酸性水素原子の物質量に対する比は、25mol/mol~10mol/molであるのが好ましい。
【0029】
任意のダイマー脂肪酸以外の他の成分もアドバンスメント反応に存在し得る。このような追加成分は、連鎖停止剤として作用する単官能性フェノール、脂肪酸アミド、脂肪酸アミド-アミン、1分子当たり少なくとも2つのアミノ基および3~20個の炭素原子を有するアミン(アミノ基は少なくとも2つの一級アミノ基、少なくとも1つの一級および少なくとも1つの二級アミノ基または少なくとも2つの二級アミノ基である)、1分子当たり3~20個の炭素原子および少なくとも1つの二級アミノ基および任意選択で好ましくはヒドロキシル基である少なくとも1つのさらなる反応性基を有するアミン、ならびに1分子当たり4~20個の炭素原子および少なくとも1つの三級および少なくとも1つの一級アミノ基を有するアミン、6~30個の炭素原子および1つのカルボン酸基を有する脂肪酸、あるいはこうした脂肪酸の2つ以上の混合物からなる群から選択される。
【0030】
工程Bの生成物は、0.5mol/kg~2.5mol/kgのエポキシド基の特定の物質量を有するのが好ましい。
【0031】
工程Cにおいて、工程Bの生成物を、好ましくはアルコール溶媒またはエーテルアルコール溶媒である溶媒に溶解し、均質な混合物が得られるまで、撹拌しながら工程Aの生成物を添加する。次いでこの混合物から減圧蒸留により溶媒を除去する。
【0032】
非イオン性変性エポキシ系樹脂Pnは、
・ポリオキシエチレンホモポリマーまたはコポリマーセグメントまたは糖アルコールセグメントを含む非イオン性部分と、少なくとも二官能性であるエポキシド化合物から誘導されるビルディングブロックを含む非親水性および相溶化部分とを有する乳化剤Fの合成であって、ヒドロキシ官能性ポリオキシエチレンホモポリマーもしくはヒドロキシ官能性ポリオキシエチレンコポリマーと、または強ブレンステッド酸もしくはルイス酸で触媒された糖アルコールと、またはエポキシド官能性ポリオキシエチレンホモポリマーもしくはエポキシド官能性ポリオキシエチレンコポリマーと、またはエポキシド官能性糖アルコールとの少なくとも二官能性エポキシド化合物のカップリングによる合成、
・ホスフィンまたはアミン触媒の存在下での、ジエポキシドA1、二価芳香族化合物A2、および前工程の乳化剤Fとのアドバンスメント反応によるエポキシ樹脂への乳化剤Fの組み込みであって、この化学量論は、アドバンスメント反応生成物がエポキシド末端基を有するように選択される組み込み
によって製造される。
【0033】
好ましい実施形態では、ポリオキシエチレンセグメントは、オキシプロピレン部分と共に、少なくとも50%、より好ましくは少なくとも60%、最も好ましくは少なくとも80%のオキシエチレン部分の物質画分の量を有する。オキシエチレンホモポリマーが特に好ましい。
【0034】
オキシエチレンセグメントまたは糖アルコールセグメントは、少なくとも二官能性であるエポキシド化合物、好ましくはビスフェノールAジグリシジルエーテル、またはそのオリゴマーから誘導されるビルディングブロックを含む非親水性および相溶化部分に化学的に結合している。
【0035】
エポキシド化合物とヒドロキシ官能性アルコールとのカップリングは、強ブレンステッド酸もしくはルイス酸、好ましくはテトラフルオロホウ酸HBF4、三フッ化ホウ素BF3、またはジアルキルエーテルもしくはアミンとのその複合体で触媒することができる。
【0036】
糖アルコール、好ましくはスクロースとのカップリングは、その後エポキシ化されるアリルエーテルまたはメタアリルエーテルまたはクロトニルエステルを介して行うことができ、アドバンスメント反応においてビスフェノールAジグリシジルエーテルにカップリングすることができる。ジエポキシド化合物は好ましくは化学量論的過剰量で使用される。
【0037】
次いで、この乳化剤を、ホスフィン触媒またはアミン触媒、好ましくはトリフェニルホスフィンの存在下で、ジエポキシド、二価芳香族化合物、および先行パラグラフに詳述した乳化剤とのアドバンスメント反応を介してエポキシ樹脂に組み込む。化学量論は、好ましくは、アドバンスメント反応生成物Pnのエポキシド基の特定量が0.5mol/kg~2.5mol/kgになるように選択される。
【0038】
糖アルコールは、式HO-CH2-[-CH(OH)]n-CH2-OH(式中、nは1~24の整数である)の化合物またはそれから誘導されるエーテルであり;一般的に知られている化合物には、グリセロール、エリトリトール、トレイトール、アラビトール、キシリトール、リビトール、マンニトール、ソルビトール、ガラクチトール、フシトール、イジトール、イノシトール、ボレミトール、イソマルト、マルチトール、ラクチトール、マルトトリイトール、およびマルトテトライトールが含まれる。
【0039】
アニオン性と非イオン性との両方の親水性基を有する親水性変性エポキシ系樹脂Panは、アニオン性変性エポキシ系樹脂Paと非イオン性変性エポキシ系樹脂Pnとを混合することによって調製するのが好ましい。好ましくは、樹脂PaとPnとの質量比m(Pa)/m(Pn)が0.2/0.8~0.8/0.2となるように混合比を選択する。樹脂Paの質量はm(Pa)、樹脂Pnの質量はm(Pn)である。
【0040】
レゾールRは、アルカリ触媒作用下および加熱下で、少なくとも1つのフェノール性ヒドロキシル基を有するフェノール化合物と化学量論的に過剰のホルムアルデヒドとから既知の方法で製造される。化学量論的過剰量は通常、ホルムアルデヒドの物質量n(FA)とフェノール化合物の物質量n(PC)との比n(FA)/n(PC)=4mol/molまでであり得る。レゾールRの特徴は、フェノール性ヒドロキシル基に対してオルト位および/またはパラ位でフェノール化合物の芳香族環に化学的に結合したメチロール基-CH2OHの存在である。反応終了後、減圧下で水および未反応フェノールを蒸留によって除去し、残ったアルカリを酸添加により中和する。アルコールを添加し、混合物を加熱し、それによってメチロール基の少なくとも一部をエーテル化する。次いで塩、残留溶媒、および水を濾過および蒸留によって除去する。好ましくは、レゾールRは二価フェノール、特に好ましくはビスフェノールAまたはビスフェノールFに基づく。一価フェノール、特にフェノール、o-クレゾール、p-クレゾール、およびそれらの同族体(例えばエチルフェノール、t-ブチルフェノール、またはノニルフェノール)、ならびに二価フェノールの混合物を使用することも可能である。
【0041】
レゾールRは、エポキシ系樹脂Pの架橋剤である。それは、エポキシ系樹脂の二級脂肪族ヒドロキシル基とのエーテル交換およびエーテル化によって、アルコキシメチル基とレゾールのメチロール基との間のエーテル基の形成によって反応する。
【0042】
親水性変性エポキシ系樹脂PとレゾールRとの混合物の調製は、樹脂PおよびRを装入し、アニオン性変性樹脂Paを使用する場合は任意に塩基性中和剤を添加し、水および任意にエーテルアルコール、好ましくはエチレングリコールモノエーテルを添加し、巨視的に均質な分散液が得られるまで撹拌し、次いで周囲温度(25℃)に冷却し、またはわずかに高温(50℃)にする。
【0043】
共架橋剤Eは好ましくは少なくとも二官能性であり、エステル形成および水の遊離下で高温(80℃を超える)でコーティング組成物中に存在する酸化合物と反応する少なくとも2つのヒドロキシル基を有する化合物E1であるか、または少なくとも二価のアルコールE22と、高温(80℃を超える)で不安定である酸E21とによって形成された少なくとも2つのエステル基を有するエステルE2のいずれかである。この場合の架橋反応は、エステルE2とコーティング組成物中に存在する酸化合物との間でのメタセシス反応であり、少なくとも二価のアルコールE22と前記酸化合物とのエステルの形成、およびβ-ケト酸E21の場合にはケトンおよび二酸化炭素に分解する酸E21の遊離の下での反応である。有用な化合物E2は一般式(R1-C(=O)-CR2R3-C(=O)-O-)xR4を有し、式中R1は1~8個の炭素原子を有するアルキル基であり、R2およびR3は互いに独立して水素、または1~8個の炭素原子を有するアルキル基であり、R4は2~4個のヒドロキシル基、および2~40個の炭素原子を有する脂肪族アルコールの残基であり、好ましくはこれらはエチレングリコールビスアセトアセタート、ジエチレングリコールビスアセトアセタート、プロピレングリコールビスアセトアセタート、1,4-ブタンジオールビスアセトアセタート、2,2,4-トリメチルペンタンジオールビスアセトアセタート、および二量体脂肪族アルコールの混合物のビスアセトアセタート、グリセロールトリスアセトアセタート、トリメチロールプロパントリス-アセトアセタート、および3-オキソ吉草酸、3-オキソカプロン酸、3-オキソエナント酸、2-メチルアセト酢酸、2,2-ジメチルアセト酢酸、2-エチルアセト酢酸、および2-メチル-2エチルアセト酢酸の対応するジエステルである。これらの化合物のいくつかは、基材へのコーティングフィルムの接着促進剤としてEP0971989B1に開示されている。
【0044】
第1の部類の化合物E1の好ましい例は、少なくとも2つのβ-ヒドロキシアルキルアミド基を有する有機カルボン酸のβ-ヒドロキシアルキルアミドである。このクラスの化合物は、粉体塗料用の架橋剤として使用されてきた(A.Kaplan,European Coatings Journal 1998,p.448 to 452 「Polyester/β-hydroxyalkylamide powder coatings」を参照)。それらはまた、コモノマーとして無水マレイン酸またはメタクリル酸またはアクリル酸を用いて製造されるアクリルコポリマーのための唯一の架橋剤としても使用されてきた(US4,076,917およびUS5,266,628を参照)。US5,266,628では、β-ヒドロキシアルキル-アミド中のヒドロキシアルキル基の数N(OH)とアクリルコポリマー中のカルボキシル基の数N(COOH)との比の影響が調査されている。結果は、比N(OH)/N(COOH)が0.2以下および0.69以上であった場合、コーティングフィルムの外観および金属基材(飲料缶のスズめっき鋼)へのそれらの接着性に関して好ましくない結果が得られることを示し、外観欠陥がなく、接着不良もなかったのは0.44の比の小さいウィンドウだけである。アクリルコポリマー以外のポリマーを含む水性コーティング組成物における共架橋剤としてのこのクラスの化合物の使用は開示されていない。本発明の基礎となる実験において、液体コーティング組成物中に存在する酸基は、これらの共架橋剤による硬化中に効果的にエステルに転化され得ることが見出された。必要な最低温度は、約30分間で100℃、好ましくは120℃、より好ましくは150℃であることを見出した。この転化は加水分解に対する耐性を増加させるだけでなく、驚くべきことに、酸基がバインダ成分または添加剤、特にレオロジー添加剤、または触媒および殺生物剤のような補助剤中に存在するような液体コーティング組成物で調製されたコーティングの耐食性も改善する。脂肪族ジカルボン酸のβ-ヒドロキシ-アルキルアミドが特に好ましく、以下の物質、N,N,N’,N’-テトラキス-(2-ヒドロキシエチル)-アジパミドおよびN,N,N’,N’-テトラキス-(2-ヒドロキシプロピル)-アジパミド(Ems-Chemie AG,Switzerlandから、商品名(登録商標)Primid XL552および(登録商標)Primid QM-1260として市販されている)が特に好ましい。
【0045】
水性樹脂分散液DのpHは7.5以下が好ましい。コーティング組成物は、親水性変性エポキシ系樹脂PおよびレゾールRの混合物、ならびに共架橋剤Eを含む水性樹脂分散液Dから、好ましくは、1つ以上の脂肪族アルコール、またはそのようなアルコールの混合物、ならびに好ましくはレオロジー添加剤、レベリング剤、消泡剤、およびメラミン系アミノプラスト架橋剤からなる群から選択される添加剤を酸触媒と共に添加することによって、調製される。顔料着色コーティング組成物を調製する場合、湿潤剤および沈降防止剤も使用することができる。
【0046】
有用なレオロジー添加剤および増粘剤は、アクリルコポリマー増粘剤のように、酸基を有する化合物を含むことが多い。再生可能資源、例えばカルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースを含むセルロース誘導体、多糖類、例えばデンプン、植物ガム、およびポリウロニド、またはタンパク質、例えばカゼインに基づく増粘剤を使用することも可能である。
【0047】
好ましくは、レオロジー添加剤は、シリカおよび層状シリカートからなる群から選択される無機増粘剤(その両方は有機的に変性されていてもよい)、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンオキシド、ポリウレタン増粘剤、スチレン無水マレイン酸コポリマー、ならびにアクリル酸、メタクリル酸またはこれらの同族体、これらの酸の塩、およびこれらの酸のアミドから誘導される酸基の少なくとも1つを含むアクリルコポリマーからなる群から選択される有機合成増粘剤、タンパク質および多糖類、デンプン、アラビノキシラン、キチン、およびポリウロニドおよび好ましくは親水性であるこれらの変性体からなる群から選択される天然有機増粘剤、あるいはセルロースまたはヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシ-プロピルメチルセルロース、およびエチルヒドロキシエチルセルロースからなる群から選択されるセルロース誘導体である有機増粘剤である。
【0048】
架橋剤、特にアミノプラスト架橋剤と共に使用される触媒は、一般に酸性基を有する。
【0049】
このようにして得られたコーティング組成物は、卑金属上の保護コーティングに特に有用であり、好ましくは刷毛塗り、噴霧、ドクターナイフでの適用(ブレードコーティング)または浸漬によってリン酸塩処理またはリン酸亜鉛処理鋼基材上に適用される。硬化は少なくとも100℃、好ましくは少なくとも120℃、さらに好ましくは少なくとも150℃の温度で行われる。
【0050】
本発明を、以下の例によってさらに説明する。
【0051】
続く例では、以下の試験方法を使用した:
物理化学量 標準
動粘度 DIN EN ISO53177(Ubbelohde)
DIN EN ISO3219(コーン/プレート)
固形分の質量分率(固形分含有量) DIN EN ISO3251
DIN EN ISO55671(ホイル方式)
エポキシド基の特定量* ASTM D 1652-04(滴定)
pH ISO976-2006(pHの決定)
粒径 DIN EN ISO13321
ヘプタン相溶性試験 DIN 55955
塩水噴霧試験 DIN EN ISO9227)
ふくれ(ブリスター)発生評価 DIN EN ISO4628-2
*:樹脂中のエポキシド基の物質量をその質量で割ったもの;「エポキシ当量」の逆数
【0052】
例1:レゾールの合成
温度計、撹拌機、還流凝縮器、下降凝縮器(descending condenser)および減圧装置を備えた反応容器中に、453.6gのn-ブタノールを50℃まで加熱した。次いで、397.3gのビスフェノールA、48.5gの水酸化ナトリウム溶液(45%の固形分の質量分率を有する)、357.6gのホルムアルデヒド水溶液(37%の溶解されたホルムアルデヒドの質量分率を有する)、および95.4gのパラホルムアルデヒドを添加し、50℃で10時間反応させた。その後、さらに447gのn-ブタノールを添加し、72.2gのリン酸水溶液(75%の溶解リン酸の質量分率を有する)を添加することによってpHを3.5に調整した。水相をストリッピング除去するために、共沸蒸留を大気圧および94℃~105℃の温度で8時間行った。次いで残留n-ブタノールを120℃でストリッピング除去した。さらに212gのn-ブタノールを添加し、続いて5時間大気圧で2回目の共沸蒸留を行った。反応塊とn-ヘプタンとの相溶性が1:2の樹脂対n-ヘプタンの比で到達されるまで、共沸蒸留によってさらに水をストリッピング除去しながら、残りのn-ブタノールもストリッピング除去して115℃の蒸留温度に到達させた。得られた樹脂を187gの脱イオン水で洗浄することにより塩を除去した。残留水を大気圧および105℃の温度での共沸蒸留により除去し、続いて85℃および10kPa(100mbar)の減圧ですべての揮発性成分を除去した。得られたポリマー樹脂をn-ブタノールに溶解して、72%の固形分質量分率(試料の質量:1g、乾燥条件:60分、125℃)および23℃で880mPa・sの動粘度を有する溶液を得た。
【0053】
例2:アニオン性樹脂分散液の調製(=US5,177,161の例1)
2a:ノボラックの合成
700g(7.44mol)のフェノール、4gの無水マレイン酸および322gの、ホルムアルデヒドの質量分率が30%[n(CH2O)=3.22mol]のホルムアルデヒド水溶液を混合し、還流下、温度計、撹拌機、還流凝縮器、下降凝縮器および減圧用ポンプを備えた反応容器中で3時間沸騰させた。次いで揮発性成分を220℃の蒸留器温度に達するまで減圧下で留去した。499gのポリメチレンポリフェノールが反応容器中に残留し、エチレングリコールモノエチルエーテル中の溶液において29℃で測定された290mPa・sの粘度を有し、固形分の質量分率は50%であった。フェノールノボラック標準で較正されたゲル浸透クロマトグラフィにより決定されたモル質量Mnの数平均は461g/molであった。
【0054】
2b:アドバンスメント反応
400gの、例2aで得られたポリメチレンポリフェノール(フェノール性ヒドロキシル基の量n(OH)=3.92mol)を溶融し、0.2gのN,N-ジメチル-アミノ-1,3-プロパンジアミンを撹拌下で添加し、600gの、ビスフェノールAおよびエピクロロヒドリンに基づくタイプ7エポキシ樹脂(513mmol/kgのエポキシド基の特定量(1950g/molの「エポキシド当量」;n(EP)=0.308molに相当)を有する)を溶融物に組み込んだ。次いで溶融物を撹拌しながら窒素ベール下で140℃に加熱し、この温度を8時間維持した。反応生成物の軟化温度(毛細管法)は98℃に上昇した。すべてのエポキシド基が消費された反応時間の終わりに、600gのn-ブタノールおよび400gのキシレンを使用して反応生成物を溶解させた。溶液は、20℃および100s-1の剪断速度で測定された8250mPa・sの粘度を有していた。
【0055】
2c:メチロール化およびカルボキシル化
1240gの例2bで得られた樹脂溶液を60℃の温度に加熱し、固形分の質量分率33%を有する72.2gの水酸化ナトリウム水溶液、およびホルムアルデヒドの質量分率37%を有する64.4gのホルムアルデヒド水溶液を添加し、得られた混合物を、3時間後、反応混合物中の遊離ホルムアルデヒドの質量分率が0.1%に減少するまで、60℃で撹拌した。次いで、さらに202gの上記の水酸化ナトリウム水溶液および97.7gのモノクロロ酢酸を添加し、4~5時間後に残りの水酸化ナトリウムの質量分率が0.35%~0.4%に減少するまで反応混合物を60℃で撹拌した。次いで、25%のH2SO4の質量分率を有する245.9gの水性硫酸を添加することによって、反応混合物を2.0~2.2のpHに酸性化した。下層の液体および析出した結晶を分離した後、残った有機層を75℃から80℃に加熱し、200gの蒸留水で洗浄した。水層を分離した後、減圧下80℃で蒸留することにより有機溶液を残存する水から遊離させ、こうして形成された樹脂溶液を濾過により析出した固体材料から分離した。このようにして得られた樹脂溶液は、溶剤型コーティング組成物中のバインダとして使用することができる。
【0056】
2d:親水性変性エポキシ系樹脂分散液
2cの前記樹脂溶液を水希釈性樹脂分散液に転化するために、揮発性溶媒ブタノールおよびキシレンを2kPa(20mbar)の圧力および80℃の蒸留器温度で3時間かけて除去した。600gの脱イオン水および83.3gの2-(N,N-ジメチルアミノ)-2-メチルプロパノール(80%の溶質の質量分率を有する)の水溶液を添加し、均質化することによって、1800gの水性樹脂分散液を得た(固形分の質量分率40.5%(60分、135℃で測定)、20℃における粘度は240mPa・s、pH7.4)。分散液は、6.2%のn-ブタノールの質量分率、および0.1%のキシレンの質量分率を含んでいた。遊離ホルムアルデヒドおよびフェノールは検出レベル未満であった(試験試料中のフェノールについては0.02%およびホルムアルデヒドについては0.01%の質量分率)。得られた樹脂分散液のモル質量は、フェノール樹脂較正標準に対して、溶媒の非存在下でゲル浸透クロマトグラフィによって決定した。数平均モル質量Mnは1374g/mol、質量平均モル質量Mwは12765g/mol、多分散度Mw/Mnは9.290であった。
【0057】
例3:レゾール変性アニオン性分散液の調製
4250gの例2からの樹脂分散液を、温度計、撹拌機、還流凝縮器、下降凝縮器、および減圧用ポンプを備えた反応容器に装入し、10kPa(100mbar)で溶媒をストリッピング除去しながら115℃まで加熱した。次いで温度を100℃に下げ、大気圧を回復させた。次いで、347gのN,N-ジメチルエタノールアミンと320gの脱イオン水との混合物を添加し、続いて395gのブチルグリコールを添加した。95℃で、640gの例1からのフェノール樹脂を撹拌しながら添加した。次いで、2.1kgの水を9時間かけて撹拌を続けながら添加し、それにより温度を50℃に下げて、46%の質量分率の固形分(2gの試料を用いて測定、135℃で1時間乾燥)、pH9、および23℃で990mPa・sの動粘度を有するフェノキシ/レゾール分散液を形成した。樹脂分散液の質量に基づいて決定された酸価は36mg/gであった。
【0058】
例4:レゾール変性非イオン性分散液の調製
4a:親水性エポキシ樹脂の調製
1kgのポリエチレングリコールPEG4000(平均モル質量約4000g/mol)を120℃に加熱し、溶解した水を減圧下および窒素流下で蒸留により除去した。110gのビスフェノールAジグリシジルエーテル、その後、50%の溶液中の質量分率w(HBF4)を有する1.7gのテトラフルオロホウ酸水溶液を添加した。エポキシド基の特定の含有量が一定値(約0.1mol/kg~0.2mol/kg)に達した場合、1100gの水を添加して約50%の固形分の質量分率に希釈した。
【0059】
4b:アドバンスメント反応
温度計、撹拌機、還流凝縮器、下降凝縮器および減圧用ポンプを備えた反応容器に、2400gのビスフェノールAジグリシジルエーテル、980gのビスフェノールA、および825gの例4aの親水性エポキシ樹脂を装入し、撹拌下で125℃に加熱して、10kPa(100mbar)の減圧下ですべての揮発性成分を除去した。次いで1.3gのトリフェニルホスフィンを添加し、温度をさらに160℃に上げ、混合物を1.22mol/kgのエポキシド基の特定量(820g/molの「エポキシド当量」)に達するまで撹拌下に保った。
【0060】
4c:レゾールの添加および水中への分散
次いで反応塊を120℃に冷却し、1511gの例1からのフェノール樹脂を添加した。105℃および10kPa(100mbar)での蒸留により、溶媒を反応塊から除去した。次いで、550gのメトキシプロパノールを添加することによって粘度を下げ、溶液を80℃に冷却した。次いで、1300gの脱イオン水を反応容器に添加し、混合物を70℃で3時間分散させて水希釈性樹脂分散液を得た。さらに4200gの脱イオン水を2時間かけて容器に添加し、最後にさらに脱イオン水を42%まで添加することによって固形分の質量分率を調整し(試料1g、125℃で10分間乾燥)、粘度を350mPa・s(23℃にて、100s-1の剪断速度で測定)まで下げた。得られたフェノキシ/レゾール分散液のZ平均粒径は990nmであり、pHは6.5であった。
【0061】
例5:耐食性クリアコートの配合および適用
表1からの諸成分を実験室用ブレンダ中で所与の順序で混合した。ブレンド後24時間で、得られたコーティング組成物を、80μm(0.080mm)の湿潤フィルム厚みでドローダウンすることによって、リン酸亜鉛処理鋼板(Gardobond(登録商標)26S 6800 OC)上に適用した。23℃で10分間フラッシュオフした後、コーティングされた板を180℃で10分間硬化させた。コーティングの乾燥フィルム厚みを表1に示す。
【0062】
【0063】
例6:耐食性能
23℃および50%相対湿度で7日間コンディショニングした後、例5からの各配合物の3つの個々のコーティングされたパネルをパネルの中央で引掻き、塩水噴霧室試験(DIN EN ISO 9227)にさらした。人工的に経年させたパネルのふくれ(ブリスター)発生は、DIN EN ISO 4628-2(ふくれの量:m/ふくれの大きさ:s)に従って記録され、引掻きからの剥離(d=(d1-w)/2として測定される剥離の程度d、式中、d1は剥離領域の全幅、wは元のスクライブまたは引掻きの幅である)は、DIN EN ISO4628-8に従って記録された。表2は以下の結果を示す:塩水噴霧試験室内での時間で測定された一定の暴露時間後に測定されたふくれ発生(B)、および時間で測定された一定の暴露時間後の引掻きにおけるコーティングフィルムの剥離の程度dとして表される剥離。
【0064】
【0065】
ヒドロキシアルキルアミド基の物質量がバインダ樹脂中およびレオロジー調整剤中に存在するカルボン酸基の物質量と等しい場合、β-ヒドロキシアルキルアミドを耐食性クリアコートに添加すると、クリアコートの耐食効果が著しく改善されることが明らかに実証された。さらに大量のβ-ヒドロキシアルキルアミド(カルボン酸基の物質量の2倍)はさらに耐食効果を改善する。
【0066】
例7:リン酸に基づくエポキシエステルの合成
温度計、撹拌機および還流凝縮器を備えた反応容器に、76gのメチルエチルケトン、26gのイソプロパノールおよび190gのビスフェノールAジグリシジルエーテルを添加し、混合物を35℃で均質化した。温度計、撹拌機および還流凝縮器を備えた別の容器中で、26gのリン酸(75%のリン酸の質量分率を有する水溶液)、7gのイソプロパノールおよび23gのメチルエチルケトンを混合し、50℃に加熱した。第1の容器からの混合物を第2の容器の混合物に5時間かけて50℃~55℃の温度で添加した。0.1mol/kg未満の特定のエポキシド基含有量に達するまで温度を維持した。次いで、樹脂をさらにイソプロパノールで固形分の質量分率66%まで希釈し、固形樹脂の質量に基づいて88mg/gの最終酸価に達するまで80℃の温度に保持した。
【0067】
例8:アニオン性エポキシ/レゾール分散液の合成
温度計、撹拌機、還流凝縮器、下降凝縮器および減圧装置を備えた反応容器に、31.5gのビスフェノールAジグリシジルエーテル、12.5gのビスフェノールAおよび2.8gのダイマー脂肪酸(酸値190mg/g)を添加し、120℃に加熱した。次いで、0.05gのトリフェニルホスフィンを添加し、1mol/kgの樹脂質の反応生成物中のエポキシド基の特定量(1000g/molの「エポキシ当量」)が達成されるまで温度を150℃にさらに上昇させた。6.45gのTexanol(登録商標)(主に2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールモノイソブチラートを含む混合物、Eastman Chemical Company)および11.7gのメトキシプロパノールを添加し、混合物を100℃に冷却した。例7からのエポキシエステル41.3gを次いで添加し、溶媒を減圧下での蒸留により除去した。酸価は19mg/gであることがわかった。例1からのフェノール樹脂32.7gを添加し、得られた混合物を80℃に冷却した。次いで、2.7gのジメチルエタノールアミンと7gの脱イオン水との混合物を添加し、15分間撹拌した。1時間かけて100gの脱イオン水をさらに加熱することなく樹脂に添加して、固形分含有量44.2%、動粘度850mPa・s(剪断速度100s-1)、pH8.8およびZ平均粒径150nmを有する水系エポキシ樹脂/レゾール分散液を得た。
【0068】
例9:非イオン性フェノキシ/レゾール分散液に基づく白色モノコート
白色顔料着色コーティング組成物を、以下の表の処方に従って調製したが、ここで、構成成分の質量を以下に示す:
【0069】
【0070】
【0071】
表3に記載の諸成分を実験室用ブレンダを用いて所定の順序で混合した。ブレンドから24時間後に、コーティングをドローダウンによってリン酸亜鉛処理鋼板(Gardobond 26S 6800 OC)上に適用した。23℃で10分間フラッシュオフした後、コーティングされた板を180℃で10分間硬化させた。コーティングの乾燥フィルム厚みは、それぞれ25μm(0.025mm)であった。
【0072】
例10:耐食性能
23℃および50%相対湿度で7日間コンディショニングした後、例9からの各配合物のコーティングされたパネルをパネルの中央で引掻き、塩水噴霧室試験(「SST」;DIN EN ISO 9227)にさらした。人工的に経年させたパネルのふくれ発生は、DIN EN 4628-2に従って記録され、引掻きからの剥離は、DIN EN ISO 4628-8に従って記録された。
【0073】
【0074】
耐食性モノコートへのβ-ヒドロキシアルキルアミドの添加が耐食効果を著しく改善することが明らかに実証された。
本発明に包含され得る諸態様は、以下のように要約される。
[態様1]
親水性変性エポキシ系樹脂PおよびレゾールRの混合物、ならびに共架橋剤Eを含む水性樹脂分散液Dであって、前記親水性変性エポキシ系樹脂Pが、アドバンスメント反応が行われる少なくとも1つの工程を含む反応または一連の反応において製造される、水性樹脂分散液D。
[態様2]
前記共架橋剤Eが、
-エステル形成および水の遊離下で80℃を超える高温で前記コーティング組成物中に存在する酸化合物と反応する少なくとも2つのヒドロキシル基を有する化合物E1、および
-少なくとも二価のアルコールE22と、80℃を超える高温では不安定である酸E21とによって形成された少なくとも2つのエステル基を有するエステルE2
からなる群から選択される、上記態様1に記載の水性樹脂分散液D。
[態様3]
前記共架橋剤E1が、少なくとも2つのβ-ヒドロキシアルキルアミド基を有する脂肪族ジカルボン酸のβ-ヒドロキシアルキルアミドである、上記態様2に記載の水性樹脂分散液D。
[態様4]
前記親水性変性エポキシ系樹脂Pがアニオン性変性エポキシ系樹脂Paである、上記態様1~3のいずれか一項に記載の水性樹脂分散液D。
[態様5]
前記親水性変性エポキシ系樹脂Pが、非イオン性変性エポキシ系樹脂Pnである、上記態様1~3のいずれか一項に記載の水性樹脂分散液D。
[態様6]
前記親水性変性エポキシ系樹脂Pが、アニオン性および非イオン性の両方の親水性基を有する親水性変性エポキシ系樹脂Panである、上記態様1~3のいずれか一項に記載の水性樹脂分散液D。
[態様7]
前記親水性変性エポキシ系樹脂Pが、添加乳化剤を含む外部乳化エポキシ系樹脂である、上記態様1~3のいずれか一項に記載の水性樹脂分散液D。
[態様8]
前記レゾールRが二価フェノールに基づく、上記態様1に記載の水性樹脂分散液D。
[態様9]
親水性変性エポキシ系樹脂PおよびレゾールRの混合物、ならびに共架橋剤Eを含む水性樹脂分散液Dの調製プロセスであって、このプロセスが、
-アルカリ性触媒作用下および加熱下での、少なくとも1つのフェノール性ヒドロキシル基を有するフェノール化合物および化学量論的過剰でのホルムアルデヒドの反応によるレゾールRの調製工程、
-前記レゾールRおよび少なくとも部分的に中和されたアニオン性変性エポキシ系樹脂Paまたは非イオン性変性エポキシ系樹脂Pnまたはアニオン性および非イオン性親水性基の両方を有する親水性変性エポキシ系樹脂Panである親水性変性エポキシ系樹脂Pの混合工程、を含み、
-前記少なくとも部分的に中和されたアニオン性変性エポキシ系樹脂Paは、第1の多段階プロセスまたは第2の多段階プロセスの生成物の酸基を少なくとも部分的に中和することによって製造され、
-第1の多段階プロセスは、以下の工程a、b、c、d、e、およびfを含み:
・工程aにおいて、酸触媒作用下でフェノールN1とホルムアルデヒドFとからノボラックNを調製し、工程aの前記反応生成物から未反応フェノールN1を分離する、
・工程bにおいて、1分子当たり平均少なくとも2つの官能性エポキシド基を有するエポキシ樹脂Eを添加することにより、触媒作用下で前記ノボラックNをアドバンスメント反応に供する、
・工程cにおいて、工程bの前記反応生成物を有機溶媒に溶解して溶液を形成し、前記溶媒は、直鎖状または分岐状脂肪族アルコール、直鎖状または分岐状脂肪族エーテル、直鎖状または分岐状脂肪族ケトンおよび芳香族炭化水素とこれらの混合物からなる群から選択される、
・次いで、工程cの前記反応生成物の溶液をアルカリの存在下で工程dにおいてホルムアルデヒドと反応させて、メチロール化合物を形成する、
・工程eにおいて、さらにアルカリを添加した後、ハロゲンアルカン酸を添加し、前記ハロゲンアルカン酸の完全な反応の後に、この工程eの反応生成物を水性酸による酸性化により精製し、前記反応生成物を含有する有機層を分離し、前記分離した溶液を蒸留水で洗浄する、
・工程fにおいて、工程eの前記精製反応生成物から減圧下での蒸留により溶媒を除去し、次いで水および中和剤として三級アミンを添加して少量の溶媒のみが残る水溶液を得る、
-第2の多段階プロセスは、以下の工程A、B、およびCを含み:
・工程Aにおいて、リン系酸Q1と1分子当たり少なくとも1つのエポキシド基を有するエポキシド官能性化合物Q2とのエステルQが調製され、工程Aで使用される前記リン系酸は1分子当たり少なくとも2つの酸性水素原子を有し、無機酸性リン化合物、および有機酸性リン化合物からなる群から選択され、工程Aに使用される前記エポキシド官能性化合物は、1分子当たり少なくとも2つのエポキシド基を有するエポキシド化合物であり、工程Aの前記反応は、工程Aの前記反応によって製造された前記エステルQが0.1mol/kg以下である特定量のエポキシド基および平均して1分子当たり少なくとも1つの酸性水素原子を有するように行われる、
・工程Bにおいて、触媒の存在下で、少なくとも二官能性エポキシドS1および芳香族ジヒドロキシ化合物S2を用いて、アドバンスメント反応を行い、エポキシド基を有するポリエーテル化合物Sを得る、
・工程Cにおいて、工程Bの前記ポリエーテル化合物Sを溶媒に溶解し、工程Aで製造された前記エステルQを、均質な混合物が得られるまで、撹拌下で添加し、次いでこの混合物から減圧蒸留により溶媒を除去する、
-前記非イオン性変性エポキシ系樹脂Pnは、
・ポリオキシエチレンホモポリマーまたはコポリマーセグメントまたは糖アルコールセグメントを含む非イオン性部分と、少なくとも二官能性であるエポキシド化合物から誘導されるビルディングブロックを含む非親水性および相溶化部分とを有する乳化剤Fの合成であって、前記少なくとも二官能性エポキシド化合物の、ヒドロキシ官能性ポリオキシエチレンホモポリマーもしくはヒドロキシ官能性ポリオキシエチレンコポリマーと、または強ブレンステッド酸もしくはルイス酸で触媒された糖アルコールと、またはエポキシド官能性ポリオキシエチレンホモポリマーもしくはエポキシド官能性ポリオキシエチレンコポリマーと、またはエポキシド官能性糖アルコールとのカップリングによる合成、
・ホスフィンまたはアミン触媒の存在下での、ジエポキシドA1、二価芳香族化合物A2、および前工程の乳化剤Fとのアドバンスメント反応によるエポキシ樹脂への前記乳化剤Fの組み込みであって、この化学量論は、前記アドバンスメント反応生成物がエポキシド末端基を有するように選択される組み込みによって製造され、
-アニオン性および非イオン性親水性基の両方を有する前記親水性変性エポキシ系樹脂Panは、PaおよびPnを混合することによって製造され、
そして、このプロセスが、
-このようにして得られた前記レゾールRと前記親水性変性エポキシ系樹脂Pとの前記混合物を水中に分散させる工程、ならびに
-このようにして得られた前記混合物に前記共架橋剤Eを添加する工程であって、前記共架橋剤Eは、
-エステル形成および水の遊離下で80℃を超える高温で前記コーティング組成物中に存在する酸化合物と反応する少なくとも2つのヒドロキシル基を有する化合物E1、または
-80℃を超える高温では不安定である酸E21と少なくとも二価のアルコールE22とによって形成された少なくとも2つのエステル基を有するエステルE2である工程を含む、
上記プロセス。
[態様10]
上記態様1~8のいずれか一項に記載の、または上記態様9に記載のプロセスによって調製された水性分散液Dと、消泡剤、レベリング剤、合体剤、流動調整剤、殺生物剤、顔料、湿潤剤、およびレオロジー添加剤からなる群から選択される添加剤とを含むコーティング組成物。
[態様11]
アミノプラスト架橋剤およびそのための酸触媒をさらに含む、上記態様10に記載のコーティング組成物。
[態様12]
レオロジー添加剤を含む、上記態様10または上記態様11に記載のコーティング組成物。
[態様13]
前記レオロジー添加剤が、シリカおよび層状シリカートからなる群から選択される無機増粘剤であって、その両方は有機的に変性されていてもよい無機増粘剤、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンオキシド、ポリウレタン増粘剤、スチレン無水マレイン酸コポリマー、アクリル酸、メタクリル酸またはこれらの同族体、これらの酸の塩、およびこれらの酸のアミドから誘導される酸基の少なくとも1つを含むアクリルコポリマーからなる群から選択される有機合成増粘剤、タンパク質および多糖類、デンプン、アラビノキシラン、キチン、およびポリウロニドおよび好ましくは親水性であるこれらの変性体からなる群から選択される天然有機増粘剤、あるいはセルロースまたはヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシ-プロピルメチルセルロースおよびエチルヒドロキシエチルセルロースからなる群から選択されるセルロース誘導体である増粘剤である、上記態様12に記載のコーティング組成物。
[態様14]
卑金属である基材上にコーティング層を形成するための上記態様10~13のいずれか一項に記載のコーティング組成物の使用方法であって、刷毛塗り、噴霧、ブレードコーティングまたは浸漬により前記基材上に前記コーティング組成物を適用する工程、および、少なくとも100℃の温度に加熱することにより前記コーティング基材を硬化する工程を含む、方法。