(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-18
(45)【発行日】2023-10-26
(54)【発明の名称】超音波診断装置、方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 8/06 20060101AFI20231019BHJP
【FI】
A61B8/06
(21)【出願番号】P 2020024973
(22)【出願日】2020-02-18
【審査請求日】2022-11-14
(73)【特許権者】
【識別番号】320011683
【氏名又は名称】富士フイルムヘルスケア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊勢 一昌
(72)【発明者】
【氏名】大山 誠司
【審査官】永田 浩司
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-087640(JP,A)
【文献】特開2015-049136(JP,A)
【文献】冨田紀子,心エコー法による左室拡張の評価,心臓,2013年,Vol.45 No.7,pp.753-760
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 8/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波の送受信によって得られた信号に基づいてドプラ波形を生成し、
前記ドプラ波形に対して二階微分処理を施し、
前記二階微分処理によって得られた二階微分値の極性が、検出対象ピークの曲線に応じた
一定の極性となるピーク検出区間を特定し、
複数の前記ピーク検出区間のそれぞれについて、前記ピーク検出区間の時間長と、前記ピーク検出区間における前記ドプラ波形の波高値とに基づくピーク規模を求め、
複数の前記ピーク検出区間に対応する
複数の前記ピーク規模に
ついての順位付けに基づいて、
複数の前記ピーク検出区間からいずれかを特定し、
特定された前記ピーク検出区間から前記ドプラ波形におけるピークを検出する演算デバイス、を備
え、
前記ピーク規模は、前記ピーク検出区間における前記ドプラ波形の時間積分値に基づく値であることを特徴とする超音波診断装置。
【請求項2】
請求項1に記載の超音波診断装置において、
前記ピーク規模は、前記ピーク検出区間の時間長が大きい程大きく、前記ピーク検出区間における前記ドプラ波形の波高値が大きい程大きい値であることを特徴とする超音波診断装置。
【請求項3】
請求項1
または請求項
2に記載の超音波診断装置において、
前記演算デバイスは、
1心拍分の前記ドプラ波形について、前記ピーク規模が上位の2つとなる2つの前記ピーク検出区間のうち、時相が早い方の前記ピーク検出区間における前記ドプラ波形のピークをE波のピークとして検出し、時相が遅い方のピーク検出区間における前記ドプラ波形のピークをA波のピークとして検出することを特徴とする超音波診断装置。
【請求項4】
超音波の送受信によって得られた信号に基づいてドプラ波形を生成し、
前記ドプラ波形に対して二階微分処理を施し、
前記二階微分処理によって得られた二階微分値の極性が、検出対象ピークの曲線に応じた
一定の極性となるピーク検出区間を特定し、
複数の前記ピーク検出区間のそれぞれについて、前記ピーク検出区間の時間長と、前記ピーク検出区間における前記ドプラ波形の波高値とに基づくピーク規模を求め、
複数の前記ピーク検出区間に対応する
複数の前記ピーク規模に
ついての順位付けに基づいて、
複数の前記ピーク検出区間からいずれかを特定し、
特定された前記ピーク検出区間から、前記ドプラ波形におけるピークを検出する工程を含
み、
前記ピーク規模は、前記ピーク検出区間における前記ドプラ波形の時間積分値に基づく値であることを特徴とする超音波診断方法。
【請求項5】
超音波診断装置が備える演算デバイスに実行させる超音波診断プログラムにおいて、
超音波の送受信によって得られた信号に基づいてドプラ波形を生成し、
前記ドプラ波形に対して二階微分処理を施し、
前記二階微分処理によって得られた二階微分値の極性が、検出対象ピークの曲線に応じた
一定の極性となるピーク検出区間を特定し、
複数の前記ピーク検出区間のそれぞれについて、前記ピーク検出区間の時間長と、前記ピーク検出区間における前記ドプラ波形の波高値とに基づくピーク規模を求め、
複数の前記ピーク検出区間に対応する
複数の前記ピーク規模に
ついての順位付けに基づいて、
複数の前記ピーク検出区間からいずれかを特定し、
特定された前記ピーク検出区間から、前記ドプラ波形におけるピークを検出する処理を前記演算デバイスに実行さ
せ、
前記ピーク規模は、前記ピーク検出区間における前記ドプラ波形の時間積分値に基づく値であることを特徴とする超音波診断プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波診断装置、方法およびプログラムに関し、特に、ドプラ波形におけるピークを検出する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波診断装置が広く用いられている。超音波診断装置には、被検体の血液の速度を測定するドプラモードで動作するものがある。ドプラモードでは、被検体に送信され、被検体で反射した超音波のドプラシフト周波数を測定することで、超音波の送受信方向についての血液の速度がドプラ波形によって示される
【0003】
一般にドプラ波形は、横軸を時間軸とし縦軸をドプラシフト周波数軸(速度軸)とした場合における時間波形として定義される。複数の画素が縦横に配列された画像によってドプラ波形を表す場合、ある時間に対して縦方向に配列された複数の画素(画素ライン)の各画素値が、ドプラシフト周波数軸上の周波数スペクトラムを表す。すなわち、ドプラ波形は、ドプラシフト周波数軸方向にそれぞれが伸びる複数の画素ラインが、時間軸方向に並べて配置されたものによって表される。
【0004】
以下の特許文献1および2には、超音波診断装置によってドプラ波形を生成することが記載されている。特許文献1には、ドプラ波形画像における特定の領域の画素値によってノイズレベルに対する閾値を求め、求められた閾値に基づいて、画像上のドプラ波形をトレースする技術が記載されている。特許文献2には、ドプラ波形のピークを検出する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平7-241291号公報
【文献】特開平7-241290号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ドプラ波形については、ピークの高さを示す波高値によって被検体の診断が行われることがある。例えば、心臓における血液の速度については、E波の波高値とA波の波高値を用いた診断が行われることがある。しかし、ノイズに基づくピークがドプラ波形に現れ、検出対象でないピークが検出されてしまうことがある。特許文献2には、このような問題点を解決する技術が記載されているが、この技術は時間経過と共に時間軸上における位置が変化するノイズピークの誤検出を回避するものであるため、検出対象のピークと一定の時間関係にあるノイズピークが検出されてしまうことがある。
【0007】
本発明の目的は、ドプラ波形における検出対象でないピークを検出してしまうことを回避することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、超音波の送受信によって得られた信号に基づいてドプラ波形を生成し、前記ドプラ波形に対して二階微分処理を施し、前記二階微分処理によって得られた二階微分値の極性が、検出対象ピークの曲線に応じた一定の極性となるピーク検出区間を特定し、複数の前記ピーク検出区間のそれぞれについて、前記ピーク検出区間の時間長と、前記ピーク検出区間における前記ドプラ波形の波高値とに基づくピーク規模を求め、複数の前記ピーク検出区間に対応する複数の前記ピーク規模についての順位付けに基づいて、複数の前記ピーク検出区間からいずれかを特定し、特定された前記ピーク検出区間から前記ドプラ波形におけるピークを検出する演算デバイス、を備え、前記ピーク規模は、前記ピーク検出区間における前記ドプラ波形の時間積分値に基づく値であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ドプラ波形における検出対象でないピークを検出してしまうことを回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図2】心臓の僧帽弁口における血流速度を表すドプラ波形を示す図である。
【
図3】心臓の僧帽弁口における血流速度につき実測されたドプラ波形を示す図である。
【
図4】ピーク検出処理の流れを示すフローチャートである。
【
図5】ドプラ波形に対するピーク検出処理を時間波形によって説明する図である。
【
図7】心臓の僧帽弁口における血流速度を示すドプラ波形を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1には、本発明の実施形態に係る超音波診断装置の構成が示されている。超音波診断装置は、超音波プローブ10、送受信部12、演算デバイス18、表示部20、制御部22、操作部24および心電計26を備えている。操作部24は、キーボード、マウス、回転ツマミ、レバー等を含み、ユーザの操作に基づく操作情報を制御部22に出力する。制御部22は、操作情報に基づいて超音波診断装置の全体的な制御を行う。超音波診断装置はドプラモードで動作するように構成されている。ドプラモードでは、制御部22の制御によって、送受信部12、超音波プローブ10、演算デバイス18および表示部20が以下に説明されるように動作する。
【0012】
送受信部12は、送信回路14および受信回路16を備えている。超音波プローブ10は、複数の振動素子を備えている。送信回路14は、所定の繰り返し周期で各振動素子に送信パルス信号を出力する。各振動素子は、送信パルス信号を超音波パルスに変換し、被検体に送信する。送信回路14は、各振動素子から発せられた超音波パルスが特定の方向で強め合うように、各振動素子に出力するパルス信号の遅延時間を調整し、その特定の方向に超音波パルスによる送信ビームを形成する。
【0013】
複数の振動素子のそれぞれは、被検体で反射した超音波パルスを受信し、受信パルス信号に変換して受信回路16に出力する。受信回路16は、送信ビーム方向から受信された超音波パルスに基づく受信パルス信号が強め合うように、各振動素子から出力された受信パルス信号を整相加算して受信信号を生成し、この受信信号を演算デバイス18に出力する。なお、受信回路16は、被検体に設定されたゲート(診断対象となる領域)で反射した超音波パルスに対して受信信号を生成する。すなわち、受信回路16は、超音波パルスが送信されてからゲートで超音波パルスが反射し、各振動素子で超音波パルスが受信される時間帯において受信信号を生成する。このような処理によって、受信回路16は、繰り返し周期で送信された各超音波パルスに対応する受信信号を演算デバイス18に出力する。
【0014】
演算デバイス18は、ドプラ波形生成部28、計測時相探索部30、トレース処理部32、ピーク検出処理部34、表示処理部38およびメモリ36を備えている。演算デバイス18は、メモリ36または外部の記憶媒体に記憶されたプログラムを実行することで、これらの構成要素(ドプラ波形生成部28、計測時相探索部30、トレース処理部32、ピーク検出処理部34および表示処理部38)を実現するプロセッサによって構成されてよい。各構成要素が演算に用いる情報、演算の過程で一時的に記憶されるべき情報、演算の結果得られた情報等はメモリ36に記憶されてよい。
【0015】
ドプラ波形生成部28は、繰り返し周期で受信回路16から順次出力された受信信号に基づいてドプラ波形データを生成する。ドプラ波形データが示すドプラ波形は、横軸を時間軸とし縦軸を速度軸(ドプラシフト周波数軸)とした場合の時間波形として定義される。複数の画素が縦横に配列された画像によってドプラ波形を表す場合、各時間に対して縦方向に配列された複数の画素(画素ライン)の各画素値は、ドプラシフト周波数軸上に表される周波数スペクトラムを表す。
【0016】
図2には、心臓の僧帽弁口における血流速度を表すドプラ波形が概念的に示されている。横軸は時間を示し縦軸は血流速度を示す。
図3には、心臓の僧帽弁口における血流速度につき実測されたドプラ波形が示されている。
図2および
図3には、各心拍周期Tにおいて2つのピークPEおよびPAが現れる例が示されている。1心拍周期において先にピークが現れる波形はE波と称され、後にピークが現れる波形はA波と称される。心臓の診断では、E波の波高値とA波の波高値が測定される。なお、波高値は、時間波形に現れるピークの極大値の絶対値として定義される。
【0017】
超音波診断装置は、
図1に示されているように、方向が異なる2つの送信ビーム40および42を時分割処理によって形成してもよい。超音波診断装置は、一方の送信ビーム上に設定されたゲートg1および他方の送信ビーム上に設定されたゲートg2のそれぞれについて、時分割処理によってドプラ波形を求めてもよい。すなわち、超音波診断装置は、ある時間帯において一方の送信ビーム40上に設定されたゲートg1についてドプラ波形を求め、他の時間帯において他方の送信ビーム41上に設定されたゲートg2についてドプラ波形を求めてもよい。
【0018】
ドプラ波形生成部28は、複数の心拍周期に亘ってドプラ波形データを生成する。心電計26は、被検体の心拍波形を表す心拍波形データを演算デバイス18に出力する。表示処理部38は、ドプラ波形および心拍波形を複数の心拍周期に亘って示す診断画像データを生成し、表示部20に出力する。表示部20は、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ等であってよい。また、表示部20は、操作部24と共にタッチパネルを構成してもよい。表示部20は、診断画像データに基づいて、ドプラ波形および心拍波形を複数の心拍周期に亘って示す診断画像を表示する。
【0019】
ドプラ波形のピークを検出するピーク検出処理が以下に説明される。ピーク検出処理は、超音波診断装置がフリーズ状態にあるときに実行されてよい。フリーズ状態は、表示部20に表示される画像が静止した状態である。フリーズ状態では、複数の心拍周期に亘るドプラ波形データおよび心拍波形データがメモリ36に記憶されている。また、フリーズ状態では、送受信部12は動作を停止してもよく、超音波プローブ10からは超音波パルスが送信されなくてもよい。
【0020】
計測時相探索部30は、操作部24におけるユーザの操作に従って計測時相を決定する。計測時相は、ドプラ波形のピークが検出される心拍周期である。具体的には、操作部24における操作に応じた制御部22の制御に従って、計測時相探索部30はメモリ36に記憶された心拍波形データを参照し、複数の心拍周期の中から計測時相を特定する。
【0021】
トレース処理部32は、計測時相に対応するドプラ波形データに対してトレース処理を施す。トレース処理は、ノイズが抑制されたドプラ波形を求める処理である。ノイズが抑制されたドプラ波形を示すトレース後・ドプラ波形データが、トレース処理によって求められる。複数の画素が縦横に配列された画像によってドプラ波形が表される場合、例えば、画素値が所定の閾値を超える画素を抽出することで、トレース後・ドプラ波形データが求められる。
【0022】
ピーク検出処理部34は、トレース後・ドプラ波形データに対しピーク検出処理を実行する。ピーク検出処理は、トレース後・ドプラ波形データによって表されるドプラ波形のピークの時間軸上での位置を求め、さらに、そのピークの波高値を求める処理である。
図4には、ピーク検出処理の流れを示すフローチャートが示されている。
図5には、ドプラ波形に対するピーク検出処理を時間波形によって説明する図が示されている。
図5における横軸は時間を示し縦軸は速度を示す。
【0023】
ピーク検出処理部34は、トレース後・ドプラ波形データに対して平滑化処理を施す(S101)。平滑化処理は、時間軸方向に沿った移動平均化処理等であってもよい。移動平均化処理は、ある時間におけるドプラ波形の値を、その時間を含む所定時間長の時間帯でのドプラ波形の平均値に置き換える処理である。
図5(a)には、平滑化処理が施される前のドプラ波形が示されている。
図5(b)には、平滑処理化処理が施された平滑化ドプラ波形が示されている。
【0024】
ピーク検出処理部34は、平滑化ドプラ波形データに対する一階微分処理を実行し、さらに、二階微分処理を実行する(S102)。
図5(c)には、一階微分処理によって得られる一階微分ドプラ波形が示されている。
図5(d)には、二階微分処理によって得られる二階微分ドプラ波形が示されている。一階微分ドプラ波形は、平滑化ドプラ波形の傾きを表す。
【0025】
二階微分ドプラ波形は、その極性によって、平滑化ドプラ波形が上に凸(速度軸の正方向に凸)であるか、下に凸(速度軸の負方向に凸)であるかを示す。すなわち、二階微分ドプラ波形の値が負である時間帯では、平滑化ドプラ波形は上に凸であり、二階微分ドプラ波形の値が正である時間帯では、平滑化ドプラ波形は下に凸である。
【0026】
ピーク検出処理部34は、二階微分ドプラ波形の値が負になるピーク検出区間を特定する(S103)。ピーク検出処理部34によって複数のピーク検出区間が特定されてもよい。心臓の僧帽弁口における血流速度を表すドプラ波形については、一般に複数のピーク検出区間が特定される。
図5(d)に示されている例では、時刻t1から時刻t2までの時間帯と、時刻t3から時刻t4までの時間帯がピーク検出区間である。
【0027】
ピーク検出処理部34は、各区間について検出対象ドプラ波形のピークを検出する(S104)。ピーク検出処理部34は、さらに、検出されたピークについて波高値を取得し(S105)、ピーク規模を算出する(S106)。ピーク規模は、ピーク検出区間の時間長が大きい程大きく、ピーク検出区間における平滑化ドプラ波形の波高値が大きい程大きくなる値である。ピーク規模は、例えば、ピーク検出区間の時間長と、波高値との積として定義される。また、ピーク規模は、ピーク検出区間における平滑化ドプラ波形の時間積分値(面積)として定義されてもよい。また、ピーク規模は、ピーク検出区間の時間長と波高値の加算値として定義されてもよい。
【0028】
ピーク検出処理部34は、複数のピーク検出区間が特定されたときは、複数のピーク検出区間のそれぞれに対して、平滑化ドプラ波形の波高値とピーク規模を求める。ピーク検出処理部34は、複数のピーク検出区間について、ピーク規模に基づく順位付けを行い(S107)、ピーク規模が最も大きい第1ピーク検出区間と、ピーク規模が2番目に大きい第2ピーク検出区間を特定する。
【0029】
ピーク検出処理部34は、E波およびA波のピークを特定する(S108)。すなわち、ピーク検出処理部34は、第1ピーク検出区間および第2ピーク検出区間のうち、時相が早い一方における検出対象ドプラ波形のピークの位置をE波のピークの位置として求めると共に、そのピークに対して先に取得された波高値をE波の波高値として求める。また、ピーク検出処理部34は、第1ピーク検出区間および第2ピーク検出区間のうち、時相が遅い他方における検出対象ドプラ波形のピークの位置をA波のピークの位置として求めると共に、そのピークに対して先に取得された波高値をA波の波高値として求める。
【0030】
ピーク検出処理部34は、E波の波高値およびA波の波高値に基づいて、評価指標を求める。評価指標は、例えば、E波の波高値をA波の波高値で除した値として定義される。ピーク検出処理部34は、評価指標、E波の波高値およびA波の波高値を表示処理部38に出力する。表示処理部38は、評価指標、E波の波高値およびA波の波高値を表示部20に表示させる。
【0031】
上記のピーク検出処理では、E波およびA波の各ピークを検出対象ピークとし、平滑化ドプラ波形の二階微分値が負である複数のピーク検出区間が特定される。そして、各ピーク検出区間におけるピーク規模が求められ、ピーク規模に基づく順位付けに基づいて、E波およびA波に対応するピーク検出区間が特定される。さらに、E波に対応するピーク検出区間においてE波のピークの位置および波高値が求められ、A波に対応するピーク検出区間においてA波のピークの位置および波高値が求められる。
【0032】
平滑化ドプラ波形の二階微分値が負である時間帯をピーク検出区間とする理由は、検出対象ピークが速度軸の正側に凸(上に凸)であるためである。検出対象ピークが速度軸の負側に凸(下に凸)である場合には、平滑化ドプラ波形の二階微分値が正である時間帯がピーク検出区間とされる。
【0033】
図6には実測されたドプラ波形が示されている。
図6(a)には、心臓の僧帽弁口における血流速度を示すドプラ波形が示され、
図6(b)には、心臓の僧帽弁輪の運動速度を示すドプラ波形が示されている。
図6(a)および(b)に示されているドプラ波形は、方向が異なる2つの送信ビームに基づいて、時分割処理によって求められてよい。なお、
図6(c)には、心電計26によって得られた心拍波形データに基づく心拍波形が示されている。
【0034】
心臓の僧帽弁輪の運動速度を示すドプラ波形におけるE波およびA波の各ピークは、下に凸である。したがって、E波およびA波のピークを特定する場合には、次のような処理が実行される。すなわち、ピーク検出処理において平滑化ドプラ波形の二階微分値が正である複数のピーク検出区間が特定される。そして、各ピーク検出区間におけるピーク規模が求められ、ピーク規模に基づく順位付けに基づいて、E波およびA波に対応するピーク検出区間が特定される。さらに、E波に対応するピーク検出区間においてE波のピークの位置および波高値が求められ、A波に対応するピーク検出区間においてA波のピークの位置および波高値が求められる。
【0035】
ピーク検出処理部34は、僧帽弁輪の運動速度から求められたE波の波高値に対する、僧帽弁口における血流速度から求められたE波の波高値の比として定義される拡張能を求めてもよい。ピーク検出処理部34は、E波のピークの位置およびA波のピークの位置を表す情報を表示処理部38に出力する。表示処理部38は、各ピークの位置を示す情報を表示部20に表示させる。また、ピーク検出処理部34は、僧帽弁口における血流速度による評価指標、E波の波高値およびA波の波高値を表示処理部38に出力すると共に、僧帽弁輪の運動速度による評価指標、E波の波高値およびA波の波高値、拡張能を表示処理部38に出力してもよい。表示処理部38は、ピーク検出処理部34から出力された各値を表示部20に表示させる。
【0036】
なお、上記では、2つのピークを検出対象ピークとする実施形態が示されたが、検出対象ピークは1つであってもよい。この場合、複数のピーク検出区間が特定された場合には、ピーク規模が最大であるピーク検出区間においてピークの位置および波高値が求められる。また、検出対象ピークは3つ以上であってもよい。この場合、検出対象ピークの数をNとして、ピーク規模が大きい順位で上位N個のピーク検出区間においてピークの位置および波高値が求められる。
【0037】
ピーク検出処理は、次の(1)~(5)の事項に基づく方法に基づいている。(1)超音波の送受信によって得られた信号に基づいてドプラ波形を生成すること。(2)ドプラ波形に対して二階微分処理を施すこと。(3)二階微分処理によって得られた二階微分値の極性が、検出対象ピークの曲線に応じた極性となるピーク検出区間を特定すること。例えば、検出対象ピークが上に凸である場合には、二階微分値が負である時間帯をピーク検出区間とし、検出対象ピークが下に凸である場合には、二階微分値が正である時間帯をピーク検出区間とすること。(4)複数のピーク検出区間のそれぞれについてピーク規模を求めること。ピーク規模は、ピーク検出区間の時間長と、ピーク検出区間におけるドプラ波形のピーク波高値とに基づく値である。ピーク規模は、ピーク検出区間の時間長が大きい程大きく、ピーク検出区間におけるドプラ波形の波高値が大きい程大きい値であってよい。(5)各ピーク検出区間に対応するピーク規模に基づいて、ドプラ波形におけるピークを検出すること。具体的には、1心拍分のドプラ波形について、ピーク規模が上位の2つとなる2つのピーク検出区間のうち、時相が早い方のピーク検出区間におけるドプラ波形のピークがE波のピークとして検出され、時相が遅い方のピーク検出区間におけるドプラ波形のピークがA波のピークとして検出される。
【0038】
演算デバイス18における記憶媒体としてのメモリ36には、上記(1)~(5)の事項に基づく方法に従った処理を実行するためのプログラムが記憶されてもよい。
【0039】
このようなピーク検出処理によれば、ドプラ波形の凹凸に応じてピーク検出区間が特定された上で、各ピーク検出区間におけるピークの規模に基づいて、ドプラ波形に現れる複数のピークのうちの検出対象ピークが特定される。これによって、ピーク規模が比較的小さい検出対象でないピークが誤って検出されてしまうことが回避される。
【0040】
例えば、心臓の僧帽弁口における血流速度を示すドプラ波形には、
図7に示されるように、E波およびA波と時間軸上での位置関係が一定となるインパルス状ノイズ50が現れることがある。このようなインパルス状ノイズ50は、血液のみならず心臓の組織が送信ビーム上に位置することによって生じる場合がある。各実施形態に係るピーク検出処理によれば、このようなインパルス状ノイズを検出対象ノイズとして誤検出してしまうことが回避される。
【符号の説明】
【0041】
10 超音波プローブ、12 送受信部、14 送信回路、16 受信回路、18 演算デバイス、20 表示部、22 制御部、24 操作部、26 心電計、28 ドプラ波形生成部、30 計測時相探索部、32 トレース処理部、34 ピーク検出処理部、36 メモリ、38 表示処理部、50 インパルス状ノイズ。