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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-18
(45)【発行日】2023-10-26
(54)【発明の名称】錠構造及び非常解錠機能付き電子錠
(51)【国際特許分類】
   E05B 65/10 20060101AFI20231019BHJP
   E05B 41/00 20060101ALI20231019BHJP
   E05B 47/06 20060101ALI20231019BHJP
【FI】
E05B65/10 J
E05B41/00 E
E05B47/06 B
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020026974
(22)【出願日】2020-02-20
(65)【公開番号】P2021130971
(43)【公開日】2021-09-09
【審査請求日】2022-12-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000131511
【氏名又は名称】株式会社シブタニ
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100166796
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 雅至
(72)【発明者】
【氏名】田中 敦士
【審査官】砂川 充
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-108756(JP,A)
【文献】特開平9-317278(JP,A)
【文献】特開平7-158346(JP,A)
【文献】実開平2-27475(JP,U)
【文献】特開2011-12485(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E05B 37/00-37/22
E05B 41/00
E05B 47/00-47/08
E05B 65/00-65/02
E05B 65/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回動可能に配置された摘み部材(1)と、
前記摘み部材(1)の円周方向の所定範囲にわたって設けられた溝(1a)と、
前記溝(1a)に係合して前記摘み部材(1)を回動規制し、または前記溝(1a)から脱出することで前記摘み部材(1)の回動規制を解除する溝係脱部材(12)と、
前記摘み部材(1)の回動に伴い受座に対して掛け外しされ、受座に掛けられた状態で前記摘み部材(1)が回動規制されることで施錠状態となり、受座に掛けられた状態で前記摘み部材(1)の回動規制が解除されて解錠可能状態となるロック片(2)と、
鍵が挿入されて前記摘み部材(1)の内周側で回転するシリンダ(21)と、
前記シリンダ(21)の回転に連動して回転し、前記シリンダ(21)の回転に伴い前記溝係脱部材(12)を前記溝(1a)に係合可能とし、または前記シリンダ(21)の回転角が一定の角度に達すると前記溝係脱部材(12)を前記溝(1a)から脱出させるカム(22)と、
を有する錠構造。
【請求項2】
前記錠構造を有し、
電動式拘束解放機構(10)により、前記ロック片(2)は前記施錠状態と前記解錠可能状態とに切り替えられ、
前記電動式拘束解放機構(10)が前記ロック片(2)を動作規制したまま作動しない場合に鍵を挿入して回すと、前記ロック片(2)の動作規制が機械式拘束解放機構(20)により解除される非常解錠機能付き電子錠であって、
前記電動式拘束解放機構(10)は、アクチュエータ(11)により駆動される前記溝係脱部材(12)を備え、前記溝係脱部材(12)が前記溝(1a)へ向けて付勢されており
前記機械式拘束解放機構(20)は、前記シリンダ(21)と、前記カム(22)とを備え、
前記施錠状態で、前記シリンダ(21)に鍵を挿入して回すと、前記シリンダ(21)の回転角が一定の角度となるまでは、前記摘み部材(1)は回転せず制止された状態のまま、前記シリンダ(21)と共に前記カム(22)が回転し、
前記シリンダ(21)の回転角が一定の角度に達したとき、前記溝係脱部材(12)が前記溝(1a)から脱出し、これに伴い、前記ロック片(2)の動作規制が解除されて、解錠可能状態となることを特徴とする非常解錠機能付き電子錠。
【請求項3】
前記シリンダ(21)の回転角が一定の角度に達した後、その角度を超えて前記シリンダ(21)が同方向に回転するように、鍵をさらに回すと、前記シリンダ(21)と一体に前記摘み部材(1)が回転し、前記摘み部材(1)に連動して、前記ロック片(2)が受座から外れ、解錠状態となることを特徴とする請求項に記載の非常解錠機能付き電子錠。
【請求項4】
前記シリンダ(21)の回転角が一定の角度に達した状態で、鍵を操作して回すことなく、前記摘み部材(1)を回すと、前記摘み部材(1)に連動して、前記ロック片(2)が受座から外れ、解錠状態となることを特徴とする請求項に記載の非常解錠機能付き電子錠。
【請求項5】
前記カム(22)の回転位相に応じたセンサー出力を発するセンサーを備えたことを特徴とする請求項乃至のいずれかに記載の非常解錠機能付き電子錠。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、停電等の非常時に鍵を使用して解錠できる機能を備えた電子錠に関するものである。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、図10(10A)に示すような非常解錠機能付き電子錠が記載されている。この電子錠は、シリンダケース51の内周に鍵穴52aを有するロータ52が回動自在に挿入され、ロータ52の回転に伴い揺動する鎌形のロック片53を有し、ロック片53の揺動が電動式拘束解放機構54により規制されて施錠されるものである。
【0003】
電動式拘束解放機構54は、ソレノイド55とこれにより駆動されて上下方向にスライドする規制部材56とを備え、規制部材56には係止部56aが形成され、ロック片53には係止切欠53aが形成されている。
【0004】
そして、規制部材56が下降して係止部56aが係止切欠53aに係合し、ロック片53の動作が規制されることにより、施錠状態が維持される。また、規制部材56が上昇して係止部56aが係止切欠53aから離脱すると、ロック片53の動作規制が解除されて解錠可能状態となる。
【0005】
このような電子錠における通常の解錠に際しては、ロック片53の動作規制が電動式拘束解放機構54により解除された状態で、図10(10B)に示す通常解錠用の鍵57の短いブレード部57aをロータ52の鍵穴52aに挿入し、鍵57を回してロータ52を回転させ、ロック片53を解錠方向へ揺動させる。
【0006】
一方、停電等により電動式拘束解放機構54が作動しない非常時に解錠する場合には、図10(10C)に示す非常解錠用の鍵58の長いブレード部58aをロータ52の鍵穴52aに挿入し、ブレード部58aの先端の解除突部58bにより規制部材56を押し上げてロック片53の動作規制を解除し、鍵58を回してロータ52を回転させ、ロック片53を解錠方向へ揺動させる。
【0007】
また、下記特許文献2には、図11に示すような非常解錠機能付き電子錠が記載されている。この電子錠は、摘み部材61を回してロック片62を揺動させるものである。
【0008】
このような電子錠における通常の解錠に際しては、前面上部のボタン63を押して通電させ、ボタン63の表面にICカードを近付けると、電動式拘束解放機構によるロック片62の動作規制が解除されるので、この状態で摘み部材61を回してロック片62を解錠方向へ揺動させる。
【0009】
一方、停電等により電動式拘束解放機構が作動しない非常時に解錠する場合には、摘み部材61の側方に並べて設けられた機械式拘束解放機構のシリンダ64に鍵を挿入して回すと、ロック片62の動作規制が解除されるので、この状態で摘み部材61を回して、ロック片62を解錠方向へ揺動させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2007-327330号公報
【文献】特開2016-108756号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、図10に示すような非常解錠機能付き電子錠では、通常時にも鍵57を使用して解錠しなければならず、利便性に欠けるほか、通常解錠用と非常解錠用の2つの鍵57,58を用意して管理しなければならず、運用が煩わしくなるという問題がある。
【0012】
また、図11に示すような非常解錠機能付き電子錠では、ロック片62を操作する摘み部材61と非常解錠用のシリンダ64とが別離状態で並設されていることから、非常解錠時における操作に手間がかかるほか、電動式拘束解放機構と機械式拘束解放機構を連携させるために多数の部品を必要とし、構造が複雑化するという問題がある。
【0013】
そこで、この発明は、解錠操作が簡単で、利便性に優れ、少ない部品点数で構成できる非常解錠機能付き電子錠を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するため、この発明は、回動可能に配置された摘み部材と、
前記摘み部材の円周方向の所定範囲にわたって設けられた溝と、
前記溝に係合して前記摘み部材を回動規制し、または前記溝から脱出することで前記摘み部材の回動規制を解除する溝係脱部材と、
前記摘み部材の回動に伴い受座に対して掛け外しされ、受座に掛けられた状態で前記摘み部材が回動規制されることで施錠状態となり、受座に掛けられた状態で前記摘み部材の回動規制が解除されて解錠可能状態となるロック片と、
鍵が挿入されて前記摘み部材の内周側で回転するシリンダと、
前記シリンダの回転に連動して回転し、前記シリンダの回転に伴い前記溝係脱部材を前記溝に係合可能とし、または前記シリンダの回転角が一定の角度に達すると前記溝係脱部材を前記溝から脱出させるカムと、
を有する錠構造を提供することとしたのである。
【0015】
また、前記錠構造を有し、
電動式拘束解放機構により、前記ロック片は前記施錠状態と前記解錠可能状態とに切り替えられ、
前記電動式拘束解放機構が前記ロック片を動作規制したまま作動しない場合に鍵を挿入して回すと、前記ロック片の動作規制が機械式拘束解放機構により解除される非常解錠機能付き電子錠であって
前記電動式拘束解放機構は、アクチュエータにより駆動される前記溝係脱部材を備え、前記溝係脱部材が前記溝へ向けて付勢されており
前記機械式拘束解放機構は、前記シリンダと、前記カムとを備え、
前記施錠状態で、前記シリンダに鍵を挿入して回すと、前記シリンダの回転角が一定の角度となるまでは、前記摘み部材は回転せず制止された状態のまま、前記シリンダと共に前記カムが回転し、
前記シリンダの回転角が一定の角度に達したとき、前記溝係脱部材が前記溝から脱出し、これに伴い、前記ロック片の動作規制が解除されて、解錠可能状態となるものとしたのである。
【0016】
また、前記シリンダの回転角が一定の角度に達した後、その角度を超えて前記シリンダが同方向に回転するように、鍵をさらに回すと、前記シリンダと一体に前記摘み部材が回転し、前記摘み部材に連動して、前記ロック片が受座から外れ、解錠状態となるものとしたのである。
【0017】
或いは、前記シリンダの回転角が一定の角度に達した状態で、鍵を操作して回すことなく、前記摘み部材を回すと、前記摘み部材に連動して、前記ロック片が受座から外れ、解錠状態となるものとしたのである。
【0018】
また、前記カムの回転位相に応じたセンサー出力を発するセンサーを備えたものとし、センサー出力に基づき、施解錠状態を認識できるようにしたのである。
【発明の効果】
【0019】
この発明に係る非常解錠機能付き電子錠では、施錠状態から電動式拘束解放機構によりロック片の動作規制が解除される通常時の解錠に際しては、鍵を使用することなく、摘み部材を回すだけで、ロック片を受座から外して解錠できる。
【0020】
一方、電動式拘束解放機構が作動しない非常時に解錠する場合には、鍵をシリンダに挿入して回すと、一定の角度までは摘み部材は回転せずシリンダと共にカムが回転し、ロック片の動作規制が解除されて解錠可能状態となる。
【0021】
そして、そのままさらに鍵を回すと、摘み部材がシリンダと一体に回転し、ロック片が受座から外れて解錠状態となる。
【0022】
或いは、シリンダの回転角が一定の角度に達した状態で、鍵を操作して回すことなく、摘み部材を回すと、ロック片が受座から外れて解錠状態となる。
【0023】
このため、非常時の解錠操作においても、図11に示す特許文献2に記載の電子錠のように、非常解錠用のシリンダ64に鍵を挿入して回してから、シリンダ64から離れた場所にある摘み部材61を回すという煩わしい2つの操作を行うことなく簡単に解錠でき、非常解錠用の1種類の鍵だけを保管しておけばよく、利便性に優れたものとなる。
【0024】
また、摘み部材とシリンダとが同一の軸周りに回転するので、少ない部品点数で構成でき、簡素で堅牢な構造となり、製造コストを抑制することができるほか、故障しにくいものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】この発明に係る非常解錠機能付き電子錠の実施形態の施錠状態を示す斜視図
図2】同上の非常時の解錠可能状態を示す斜視図
図3】同上の非常時の解錠状態を示す斜視図
図4】同上の電子錠の分解斜視図
図5】同上の(5A)前ケースを取り外した状態の正面図、(5B)幅方向中央部における縦断側面図
図6】同上の(6A)図5(5B)のX1-X1断面における施錠状態を示す概略正面図、(6B)図5(5B)のX2-X2断面における施錠状態を示す概略正面図
図7】同上の(7A)図5(5B)のX1-X1断面における非常時の解錠可能状態を示す概略正面図、(7B)図5(5B)のX2-X2断面における非常時の解錠可能状態を示す概略正面図
図8】同上の図5(5B)のX1-X1断面における非常時の解錠状態を示す概略正面図
図9】同上の(9A)図5(5B)のX1-X1断面における溝係脱部材が没入した通常時の解錠可能状態を示す概略正面図、(9B)図5(5B)のX1-X1断面における溝係脱部材が没入した通常時の解錠状態を示す概略正面図
図10】特許文献1に記載の非常解錠機能付き電子錠の(10A)主要部全体を示す斜視図、(10B)通常解錠用の鍵を示す側面図、(10C)非常解錠用の鍵を示す側面図
図11】特許文献2に記載の非常解錠機能付き電子錠を示す正面図
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、この発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
【0027】
図1に示すように、この発明に係る非常解錠機能付き電子錠は、円筒状の摘み部材1の回動操作に伴い受座Sに対して掛け外しされる鎌形のロック片2を備え、前ケース31と後ケース32から構成される空間内部に、電動式拘束解放機構10と機械式拘束解放機構20とを組み込んだ構成とされている。
【0028】
電動式拘束解放機構10は、電力により作動する手段を用いて、ロック片2を受座Sから外れる方向への動作が規制された状態と、そのような規制が解除された状態とに切り替えるものである。
【0029】
これにより、ロック片2は、受座Sに掛けられて動作規制された施錠状態から、受座Sに掛けられたまま動作規制解除された解錠可能状態を経て、動作規制解除に伴い受座Sから外された解錠状態まで間の遷移が可能となる。
【0030】
機械式拘束解放機構20は、停電等により電動式拘束解放機構10がロック片2の動作を規制したまま作動しない非常時に、図2及び図3に示すように、鍵Kを挿入して回すことにより、解錠可能状態を経て解錠状態に遷移させるものである。
【0031】
図4及び図5に示すように、摘み部材1は、前部の外周に指掛かりをよくするため凹凸が形成され、後部の外周に溝1aを有する形状とされている。摘み部材1の後端には、ねじ軸1bが突設され、ねじ軸1bの外周には、平坦部1cが設けられている。
【0032】
ロック片2は、先端側に鉤状部2aを有する鎌形であり、鉤状部2aが施錠時に受座Sに係合し、解錠時に受座Sから離脱する。ロック片2の基端側に設けられた貫穴2bの周縁には、摘み部材1のねじ軸1bの平坦部に対応して直線部2cが形成されている。
【0033】
ロック片2の貫穴2bには、摘み部材1のねじ軸1bが挿通され、ねじ軸1bの平坦部1cと貫穴2bの直線部2cとが係合して、摘み部材1とロック片2とが一体に回転するようになっている。ねじ軸1bには、後ケース32の外部において、後方からナット3がねじ込まれ、これによりロック片2が抜け止めされている。
【0034】
電動式拘束解放機構10の駆動源は、コネクタ40を介して外部の制御装置に接続されるアクチュエータ11としてのソレノイドであり、アクチュエータ11の下部には、摘み部材1の溝1aに対して出没方向にスライドする溝係脱部材12としてのプランジャが設けられている。
【0035】
溝係脱部材12の周囲にはコイルばね13が嵌められ、その下方の前部と後部にコイルばね13を受ける突起12aが設けられている。溝係脱部材12は、コイルばね13によりアクチュエータ11から突出する方向(図では下方)へ向けて付勢されている。
【0036】
機械式拘束解放機構20は、摘み部材1の内周に嵌め入れられるシリンダ21と、その後方に位置するカム22と、シリンダ21の後端側でカム22を摘み部材1の内周に保持するカムホルダ23とを備えており、カム22とカムホルダ23とは摘み部材1の後部のスロットに収められている。
【0037】
シリンダ21は、前面に鍵穴21aを有し、後面に突出する鍵軸21bを有する。鍵穴21aには防塵カバーが設けられ、この防塵カバーは、後述する鍵Kの先端により押し開かれ、鍵Kを抜くと閉じるようになっている。
【0038】
また、シリンダ21には複数個のタンブラ21cが設けられており、鍵Kを抜いた状態では、タンブラ21cはシリンダ21の外周側に突出することで、摘み部材1の内周面に形成された係止溝(図示せず)に係合し、シリンダ21は摘み部材1と一体化して回転する。一方、鍵Kをシリンダ21の鍵穴21aに挿入すると、タンブラ21cはシリンダ21の外周円筒面より内側に没入して、シリンダ21は摘み部材1とは独立して回転することが可能になる。
【0039】
カム22は、厚さ方向にずれて相反する方向に張り出すメインカム部22a及びサブカム部22bを有し、カムホルダ23への嵌入部に鍵軸穴22cが設けられている。カムホルダ23には、カム22の鍵軸穴22cに連通する鍵軸穴23aが設けられている。この鍵軸穴23a,22cに鍵軸21bが係合している。
【0040】
図示しない外部の制御装置には、コネクタ40を介して、アクチュエータ11と、カム22の回転位相に応じたセンサー出力を発するセンサーとしてのスイッチ41と、インジケータランプ42とが接続されている。
【0041】
スイッチ41は、板ばね状の押圧片41aを有し、サブカム部22bの押圧片41aに対する位置関係の変化に応じて導通状態が変化し、制御装置は、この導通状態をセンサー出力として検出し、アクチュエータ11の動作状態との組み合わせに応じて、インジケータランプ42の表示状態(点灯状態、発光色など)を適宜変化させる。
【0042】
なお、停電時においてもインジケータランプ42による状態表示を可能にするために、非常時用電池(図示せず)を設けて、制御装置、スイッチ41、インジケータランプ42等に給電する構成としている。ただし、非常時用電池は消費電力が大きいアクチュエータ11への給電は行わないものとしている。
【0043】
この非常解錠機能付き電子錠の組み立てに際して、前ケース31と後ケース32は、後方からビスによりねじ止めされる。この組立状態において、摘み部材1及びシリンダ21は、前ケース31の貫穴31aから前方へ突出し、摘み部材1の後端のボス部が後ケース32の貫穴32aに挿入される。
【0044】
また、溝係脱部材12の突起12aが後ケース32のガイド部32bにスライド自在に係合し、後ケース32の支持部32cに支持されたインジケータランプ42が前ケース31の窓穴31bから露出する。
【0045】
このような非常解錠機能付き電子錠では、図1及び図6(6B)に示す施錠状態において、溝係脱部材12がコイルばね13で押されて摘み部材1の溝1aに係合しており、溝1aの一端の回転規制部1eに溝係脱部材12の円筒面が当接して、摘み部材1の回転が阻止されるので、ロック片2を受座Sから外れるように揺動させることはできない。
【0046】
そして、この施錠状態からの通常時の解錠に際しては、図9(9A)に示すように、電動式拘束解放機構10のアクチュエータ11により溝係脱部材12が没入方向(図では上方)へ引き込まれて、ロック片2の動作規制が解除されるので、図9(9B)に示すように、摘み部材1を90°反時計方向に回すだけで、ロック片2を受座Sから外れるように揺動させて解錠できる。
【0047】
ここで、通常時におけるインジケータランプ42の動作を説明する。図6(6B)に示すように、溝係脱部材12が摘み部材1の溝1aに係合しているとき、スイッチ41の押圧片41aがサブカム部22bで押されて導通状態となる。このとき制御装置は、インジケータランプ42を青色(施錠状態を意味する)に点灯させる。
【0048】
次に、図9(9A)に示すように、制御装置により制御されたアクチュエータ11が溝係脱部材12を没入方向に引き込んでいるが、摘み部材1を回転させていない状態では、スイッチ41の押圧片41aは、サブカム部22bに押されたままであり、導通状態を維持している。このとき制御装置は、インジケータランプ42を黄色(解錠可能状態を意味する)に点灯させる。
【0049】
そして、図9(9B)に示すように、摘み部材1を反時計方向に回転させると、これに伴ってロック片2が解錠方向へ回転し、スイッチ41の押圧片41aのサブカム部22bによる押圧が解除されて非導通状態となる。このとき制御装置は、インジケータランプ42を赤色(解錠状態を意味する)に点灯させる。このように、インジケータランプ42の点灯状況によって、施解錠状態を外部から認識できる。
【0050】
一方、電動式拘束解放機構10が作動しない非常時に解錠する場合には、図2に示すように、鍵Kをシリンダ21の鍵穴21aに挿入する。鍵Kを挿入することで、シリンダ21に配設したタンブラ21cは、シリンダ21の外周円筒面内に没入して、シリンダ21は摘み部材1とは独立して回転することが可能になる。なお、このときシリンダ21はカム22,カムホルダ23と共に一体的に回転する。
【0051】
この状態で鍵Kを回すと、図7(7A)、(7B)に示すように、一定の角度(この実施形態においては鍵Kを挿入した状態から反時計方向に45°)までは、シリンダ21と共にカム22のみが回転し、メインカム部22aの一端側により溝係脱部材12が没入方向(図では上方)へ押される。それまでは、摘み部材1は回転規制部1eに溝係脱部材12の円筒面が当接しているため回転しない。
【0052】
このシリンダ21とカム22の回転に伴い、シリンダ21の回転角が上述の一定の角度に達するまでに、メインカム部22aの一端側により押された溝係脱部材12が溝1aから脱出して、摘み部材1の外周の溝1aのない乗上面1dに乗り上げ可能になり、摘み部材1の回転が許容され、ロック片2の動作規制が解除されて解錠可能状態となる。
【0053】
そして、シリンダ21の回転角が上述の一定の角度に達すると、メインカム部22aの他端側である押圧部22dが、摘み部材1のスロットの端部であるカム当接面1fに周方向に当接して、シリンダ21と一体回転するカム22により、摘み部材1がシリンダ21と一体に回転可能になる。
【0054】
その後、図3及び図8に示すように、そのままさらに鍵Kを回して、鍵Kを上述の一定の角度からさらに一定の角度(この実施形態おいてはさらに反時計方向に90°)回転させると、摘み部材1に連動して、ロック片2が受座Sから外れ、解錠状態となる。
【0055】
ここで、非常時におけるインジケータランプ42の動作を説明する。この電子錠では、停電時などの非常時においても、制御装置、スイッチ41、インジケータランプ42には非常時用電池から給電され、電子錠の施解錠状態を外部から認識できるように構成している。具体的には、以下のとおりである。
【0056】
施錠状態では、図6(6A)に示すように、スイッチ41の押圧片41aがサブカム部22bで押されて導通状態となる。通常時においては前述のとおり、制御装置は、インジケータランプ42を青色に点灯させている。
【0057】
一方、停電等の非常事態が発生すると、非常時用電池からの給電が自動的に開始され、制御装置は、インジケータランプ42を青色(施錠状態を意味する)で点滅(解錠には鍵Kを必要とする非常時を意味する)させる。
【0058】
そこで、鍵Kを鍵穴21aに挿入し、反時計方向に回転させると、図7(7A)に示すように、スイッチ41の押圧片41aのサブカム部22bによる押圧が解除されて非導通状態となる。このとき制御装置は、インジケータランプ42を赤色(解錠可能または解錠状態を意味する)に点滅させる。このように、インジケータランプ42の点灯状況によって、施解錠状態を外部から認識できる。
【0059】
このように、上記のような非常解錠機能付き電子錠は、非常時の解錠操作においても、図11に示す特許文献2に記載の電子錠のように、非常解錠用のシリンダ64に鍵を挿入して回してから、シリンダ64から離れた場所にある摘み部材61を回すという煩わしい2つの操作を行うことなく簡単に解錠でき、非常解錠用の1種類の鍵だけを保管しておけばよく、利便性に優れたものとなる。
【0060】
また、摘み部材1とシリンダ21とが同一の軸周りに回転するので、少ない部品点数で構成でき、簡素で堅牢な構造となり、製造コストを抑制することができるほか、故障しにくいものとすることができる。
【0061】
なお、上記実施形態では、シリンダ21の回転角が一定の角度に達した後、その角度を超えてシリンダ21が同方向に回転するように、鍵Kをさらに回すと、シリンダ21と一体に摘み部材1が回転し、摘み部材1に連動して、ロック片2が受座から外れ、解錠状態となる例を示したが、これに限定されるものではない。
【0062】
例えば、シリンダ21の回転角が一定の角度に達した状態で、鍵Kを操作して回すことなく、摘み部材1を回すと、摘み部材1に連動して、ロック片2が受座Sから外れ、解錠状態となるようにしてもよい。以下、この変形例について説明する。
【0063】
上述のとおり、鍵穴21aに鍵Kを挿入して回すと、図7(7A)、(7B)に示すように、一定の角度までは、シリンダ21と共にカム22のみが回転し、メインカム部22aの一端側により溝係脱部材12が没入方向(図では上方)へ押される。それまでは、摘み部材1は回転規制部1eに溝係脱部材12の円筒面が当接しているため回転しない。
【0064】
このシリンダ21とカム22の回転に伴い、シリンダ21の回転角が上述の一定の角度に達するまでに、メインカム部22aの一端側により押された溝係脱部材12が溝1aから脱出して、摘み部材1の外周の溝1aのない乗上面1dに乗り上げ可能になり、摘み部材1の回転が許容され、ロック片2の動作規制が解除されて解錠可能状態となる。
【0065】
そして、シリンダ21の回転角が上述の一定の角度に達した状態で、鍵Kはそのままとして、摘み部材1を反時計方向に回すと、摘み部材1に連動して、ロック片2が受座Sから外れ、解錠状態となる。なお、このときの摘み部材1とカム22の回転方向の位置関係は、図9(9B)における摘み部材1とカム22の回転方向の位置関係と同様になる。
【0066】
このように構成すると、非常時においても通常時と同様、解錠する際には、摘み部材1を反時計方向に90°回せばよいという点で共通化することができ、操作性の統一を図ることが可能になるほか、離れた場所にある2つの部材を操作する必要がないため、非常時の操作に戸惑うことがなくなる。
【0067】
ところで、上記変形例においては、施錠状態から解錠可能状態に遷移させるにあたって鍵Kを回す方向と、解錠可能状態から解錠状態に遷移させるにあたって摘み部材1を回す方向とを、一例として反時計方向に統一したが、これらの方向を互いに逆方向になるように構成してもよい。
【0068】
また、上記実施形態では、摘み部材1の回動操作に伴い鎌形のロック片2が揺動する鎌錠について例示したが、開き戸に使用する場合は、ロック片2は、鉤状部2aを有しない長方形状としてもよい。また、摘み部材1の回動操作に伴いラッチボルトのロック片2が水平にスライドする錠においても、摘み部材1とロック片2とを、ラックアンドピニオン等の機構で連動するように変更すれば、同様の非常解錠構造を適用することができる。
【0069】
また、上記実施形態では、アクチュエータ11としてソレノイド、溝係脱部材12としてプランジャを例示したが、アクチュエータ11は、DCモータ、超音波モータ、ボイスコイルアクチュエータなど電気制御されるものであればよく、特に限定はされない。また溝係脱部材12は、回動レバー、ラッチボルト等でもかまわない。
【0070】
そのほか、上記実施形態では、カム22の回転位相を検出するセンサーとして板ばね状の押圧片41aを有するスイッチ41を設け、この押圧片41aを押圧してスイッチ41の動作状態を変化させるための手段としてカムに一体的にサブカム部22bを設けたが、このような機能を発揮させる手段としては、上述した機械的手段に限定されるものではなく、磁気的、光学的などの手段でもよい。
【0071】
例えば、上記実施形態におけるサブカム部22bに替わって、長手方向にN極、S極に着磁した棒状または円弧状の磁石を配置すると共に、スイッチ41に替わって、ホール素子等の磁束センサーを配置して、カム22の回転位相を検出するようにしてもよい。その他、サブカム部22bに替わって、開口部と遮光部を有するスリットを配置して、スイッチ41に替わって光学センサーを配置して、カム22の回転位相を検出するようにしてもよい。要はカム22の回転位相を検出できる手段であるならば、その構成に限定はない。
【符号の説明】
【0072】
1 摘み部材
1a 溝
1b ねじ軸
1c 平坦部
1d 乗上面
1e 回転規制部
1f カム当接面
2 ロック片
2a 鉤状部
2b 貫穴
2c 直線部
3 ナット
10 電動式拘束解放機構
11 アクチュエータ
12 溝係脱部材
12a 突起
13 コイルばね
20 機械式拘束解放機構
21 シリンダ
21a 鍵穴
21b 鍵軸
21c タンブラ
22 カム
22a メインカム部
22b サブカム部
22c 鍵軸穴
22d 押圧部
23 カムホルダ
23a 鍵軸穴
31 前ケース
31a 貫穴
31b 窓穴
32 後ケース
32a 貫穴
32b ガイド部
32c 支持部
40 コネクタ
41 スイッチ(センサー)
41a 押圧片
42 インジケータランプ
K 鍵
S 受座
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11