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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-18
(45)【発行日】2023-10-26
(54)【発明の名称】溶剤希釈形さび止め油組成物
(51)【国際特許分類】
   C23F 11/00 20060101AFI20231019BHJP
【FI】
C23F11/00 C
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020046600
(22)【出願日】2020-03-17
(65)【公開番号】P2020164987
(43)【公開日】2020-10-08
【審査請求日】2022-09-05
(31)【優先権主張番号】P 2019068871
(32)【優先日】2019-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】ENEOS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(72)【発明者】
【氏名】金子 波路
(72)【発明者】
【氏名】柴田 潤一
(72)【発明者】
【氏名】吉田 公一
(72)【発明者】
【氏名】本山 忠昭
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-080141(JP,A)
【文献】国際公開第2014/119678(WO,A1)
【文献】特開2013-199670(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23F 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)成分:基油と、(B)成分:スルホン酸塩と、(C)成分:炭素数12~48のカルボン酸とを含有し、
前記(B)成分が、スルホン酸アルカリ金属塩、スルホン酸アルカリ土類金属塩、スルホン酸アミン塩からなる群から選択される一種以上を含み、
前記(C)成分が、ダイマー酸を含み、
40℃における動粘度が1~10mm/sである、溶剤希釈形さび止め油組成物。
【請求項2】
40℃における動粘度が1~5mm/sである、請求項1に記載の溶剤希釈形さび止め油組成物。
【請求項3】
前記(B)成分が、スルホン酸アルカリ土類金属塩である、請求項1又は2に記載の溶剤希釈形さび止め油組成物。
【請求項4】
前記(B)成分が、スルホン酸カルシウム塩である、請求項1~のいずれか一項に記載の溶剤希釈形さび止め油組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶剤希釈形さび止め油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鋼板、軸受、鋼球、ガイドレールなどの金属製部材の分野では、部材のさびの発生を防止するためにさび止め油が使用されている。
さび止め油の規格はJIS K2246で規定されており、指紋除去形、溶剤希釈形、ペトロラタム形、潤滑油形、気化性さび止め油の5種類に分類されている。また、指紋除去形、ペトロラタム形以外の3種類はその用途や性質によって更に細かく分類されている。
【0003】
近年、さび止め油組成物に対する防錆性の向上がより一層求められている。
例えば、特許文献1では、さび止め油組成物の塗膜の厚膜化により防錆性の向上を図るため、スルホン酸金属塩、スルホン酸アミン塩、カルボン酸、エステル、アミン等のさび止め添加剤に加えて、ワックス、ペトロラタム、重質基油などの重質成分が配合されたさび止め油組成物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2002-302690号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のような従来のさび止め油組成物では、粘度上昇により、取り扱い性(スプレー塗布の際の噴霧性等)悪化などの問題がある。
【0006】
一方で、比較的粘度の低い溶剤希釈形さび止め油組成物については、取り扱い性には優れるものの、溶剤希釈形さび止め油組成物を金属製部材に塗布する際に、溶剤希釈形さび止め油組成物が流れ落ちてしまう場合や塗布膜が薄く被膜強度が低い場合があり、結果的に十分な防錆性が得られない場合がある。
そのため、さび止め油組成物の粘度が低く、取り扱い性(スプレー塗布の際の噴霧性等)に優れること、及び、皮膜強度が高く、防錆性に優れることの両立は困難である。
また、さび止め油組成物における原料の組み合わせによっては、ステインが発生してしまうという問題もある。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、取り扱い性及び防錆性が良好な溶剤希釈形さび止め油組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明は以下の構成を採用した。
すなわち、本発明の第1の態様は、(A)成分:基油と、(B)成分:スルホン酸塩と、(C)成分:炭素数12~48のカルボン酸とを含有し、前記(B)成分が、スルホン酸アルカリ金属塩、スルホン酸アルカリ土類金属塩、スルホン酸アミン塩からなる群から選択される一種以上を含み、40℃における動粘度が1~10mm/sである、溶剤希釈形さび止め油組成物である。
【0009】
本発明の第1の態様においては、40℃における動粘度が1~5mm/sであることが好ましい。
本発明の第1の態様においては、前記(C)成分が、オレイン酸骨格を有するカルボン酸であることが好ましい。
本発明の第1の態様においては、前記(C)成分が、ダイマー酸であることが好ましい。
本発明の第1の態様においては、前記(B)成分が、スルホン酸アルカリ土類金属塩であることが好ましい。
本発明の第1の態様においては、前記(B)成分が、スルホン酸カルシウム塩であることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、取り扱い性及び防錆性が良好な溶剤希釈形さび止め油組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書において、動粘度は、JIS K 2283-2000「原油及び石油製品-動粘度試験方法及び粘度指数算出方法」に準拠して測定される値を意味する。
【0012】
本明細書において、「溶剤希釈形さび止め油組成物」とは、JIS K2246で規定されているものであり、さび止め油組成物が溶剤を含有しており、その溶剤が揮発することによって油膜の粘度が増加し、さらに塗布された油膜中の添加剤濃度が増加し、高い防錆性を発揮するものである。
【0013】
(溶剤希釈形さび止め油組成物)
本実施形態の溶剤希釈形さび止め油組成物は、(A)成分:基油と、(B)成分:スルホン酸塩と、(C)成分:炭素数12~48のカルボン酸とを含有し、前記(B)成分が、スルホン酸アルカリ金属塩、スルホン酸アルカリ土類金属塩、スルホン酸アミン塩からなる群から選択される一種以上を含み、40℃における動粘度が1~10mm/sである。
【0014】
ここで、「溶剤希釈形さび止め油」とは、JIS K2246で規定されているものであり、さび止め油が溶剤を含有しており、その溶剤が揮発することによって油膜の粘度が増加し、さらに塗布された油膜中の添加剤濃度が増加し、高いさび止め性を発揮するものである。
【0015】
本実施形態の溶剤希釈形さび止め油組成物は、40℃における動粘度が1mm/s以上であり、好ましくは2mm/s以上である。
本実施形態の溶剤希釈形さび止め油組成物の40℃における動粘度が上記好ましい下限値以上であれば、被膜強度がより向上して、防錆性がより優れる。
【0016】
本実施形態の溶剤希釈形さび止め油組成物は、40℃における動粘度が10mm/s以下であり、好ましくは5mm/s以下であり、より好ましくは3mm/s以下である。
本実施形態の溶剤希釈形さび止め油組成物の40℃における動粘度が上記好ましい上限値以下であれば、取り扱い性がより優れる。
【0017】
すなわち、本実施形態の溶剤希釈形さび止め油組成物の40℃における動粘度は、下限値が1mm/sであり、好ましくは2mm/sである。一方上限値は10mm/sであり、好ましくは5mm/sであり、より好ましくは3mm/sである。
【0018】
<(A)成分:基油>
本実施形態の溶剤希釈形さび止め油組成物は、(A)成分:基油を含有する。
前記(A)成分は、(A1)成分:40℃における動粘度が5.0mm/s以上の鉱油又は合成油、及び、(A2)成分:40℃における動粘度が5.0mm/s未満の鉱油又は合成油(以下、溶剤ともいう)を含む。
【0019】
≪(A1)成分における鉱油≫
(A1)成分における鉱油として、具体的には、原油を常圧蒸留及び減圧蒸留して得られた潤滑油留分に対して、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、接触脱ろう、水素化精製、硫酸洗浄、白土処理の1種以上の精製手段を適用して得られるパラフィン系又はナフテン系の鉱油等が挙げられる。
【0020】
また、上記鉱油の5%留出温度は200℃以上であることが好ましく、より好ましくは230℃以上、さらに好ましくは260℃以上である。鉱油の5%留出温度を200℃以上とすることにより、室温での油剤の揮発を十分に防止することができる。
【0021】
一方、上記鉱油の95%留出温度は620℃以下であることが好ましく、より好ましくは500℃以下、さらに好ましくは480℃以下である。鉱油の95%留出温度を620℃以下とすることにより、油剤除去工程における油剤除去性を良好にすることができる。
【0022】
鉱油の5%留出温度と95%留出温度の温度差は100℃以下であることが好ましく、より好ましくは90℃以下、さらに好ましくは80℃以下である。かかる温度差を100℃以下とすることにより、室温での油剤の揮発の防止と油剤除去工程における油剤除去性とをより両立させることができる。
ここで、5%留出温度および95%留出温度とは、JIS K2254「石油製品-蒸留試験方法」に準拠して測定されたGC蒸留での値を意味する。
【0023】
≪(A1)成分における合成油≫
(A1)成分における合成油としては、ポリオレフィン、アルキルベンゼン等が好適に使用される。
【0024】
・ポリオレフィン
ポリオレフィンとしては、炭素数2~16、好ましくは炭素数2~12のオレフィンモノマーを単独重合又は共重合したもの、これらの重合体の水素化物等が挙げられる。前記オレフィンモノマーは、α-オレフィン、内部オレフィン、直鎖状オレフィン、分岐鎖状オレフィンのうちのいずれであってもよい。このようなオレフィンモノマーとしては、具体的には、エチレン、プロピレン、1-ブテン、2-ブテン、イソブテン、ペンテン、ヘキセン、ヘプテン、オクテン、ノネン、デセン、ウンデセン、ドデセン、トリデセン、テトラデセン、ペンタデセン、ヘキサデセン及びこれらの混合物等が挙げられる。
【0025】
上記ポリオレフィンは公知の方法により製造することができる。例えば、無触媒による熱反応によって製造することができるほか、過酸化ベンゾイル等の有機過酸化物触媒;塩化アルミニウム、塩化アルミニウム-多価アルコール系、塩化アルミニウム-四塩化チタン系、塩化アルミニウム-アルキル錫ハライド系、フッ化ホウ素等のフリーデルクラフツ型触媒;有機塩化アルミニウム-四塩化チタン系、有機アルミニウム-四塩化チタン系等のチーグラー型触媒;アルミノキサン-ジルコノセン系、イオン性化合物-ジルコノセン系等のメタロセン型触媒;塩化アルミニウム-塩基系、フッ化ホウ素-塩基系等のルイス酸コンプレックス型触媒等の公知の触媒を用いて、上記のオレフィンを単独重合又は共重合させることによって目的のポリオレフィンを製造することができる。
【0026】
・アルキルベンゼン
アルキルベンゼンとしては、分子中に炭素数1~40のアルキル基を1~4個有するものが好ましい。また、アルキルベンゼンのアルキル基は直鎖状であっても分岐鎖状であってもよいが、安定性、粘度特性等の点から分岐鎖状のアルキル基が好ましく、特に入手が容易であるという点から、プロピレン、ブテン、イソブチレン等のオレフィンのオリゴマーから誘導される分岐鎖状アルキル基がより好ましい。
【0027】
本実施形態におけるアルキルベンゼンは上記の中でも、安定性、入手可能性の点から1個又は2個のアルキル基を有するアルキルベンゼン、すなわちモノアルキルベンゼン、ジアルキルベンゼン、又はこれらの混合物が最も好ましい。また、アルキルベンゼンとしては、単一の構造のアルキルベンゼンだけでなく、異なる構造を有するアルキルベンゼンの混合物であっても良い。
【0028】
上記アルキルベンゼンは公知の方法により製造することができる。例えば、芳香族化合物を原料とし、アルキル化剤及びアルキル化触媒を用いて製造することができる。
ここで、原料として使用される芳香族化合物として、具体的には、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、メチルエチルベンゼン、ジエチルベンゼン、これらの混合物等が挙げられる。
アルキル化剤として、具体的には、エチレン、プロピレン、ブテン、イソブチレン等の低級モノオレフィン、好ましくはプロピレンの重合によって得られる炭素数6~40の直鎖状又は分枝鎖状のオレフィン;ワックス、重質油、石油留分、ポリエチレン、ポリプロピレン等の熱分解によって得られる炭素数6~40の直鎖状又は分岐鎖状のオレフィン;灯油、軽油等の石油留分からn-パラフィンを分離し、これを触媒によりオレフィン化することによって得られる炭素数9~40の直鎖状オレフィン、これらの混合物等が挙げられる。
アルキル化の際のアルキル化触媒としては、塩化アルミニウム、塩化亜鉛等のフリーデルクラフツ型触媒;硫酸、リン酸、ケイタングステン酸、フッ化水素酸、活性白土等の酸性触媒、等の公知の触媒が挙げられる。
【0029】
≪(A2)成分における鉱油≫
(A2)成分における鉱油として、具体的には、パラフィン系又はナフテン系の原油の蒸留により得られる灯油留分;灯油留分からの抽出操作等により得られるノルマルパラフィン;パラフィン系又はナフテン系の原油の蒸留により得られる潤滑油留分;潤滑油脱ろう工程により得られるワックス(スラックワックス等);ガス・トゥー・リキッド(GTL)プロセス等により得られる合成ワックス(フィッシャー・トロプシュワックス、GTLワックス等)を原料とし、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、水素化異性化、溶剤脱ろう、接触脱ろう、水素化精製、硫酸洗浄、白土処理等の精製処理を1つ又は2つ以上組み合わせて精製したパラフィン系鉱油、ナフテン系鉱油、ノルマルパラフィン系基油、イソパラフィン系基油が挙げられる。
【0030】
上記鉱油中の芳香族分は特に制限されないが、作業環境の観点から、好ましくは5容量%以下、より好ましくは3容量%以下、さらに好ましくは1容量%以下、特に好ましくは0.5容量%以下である。ここで、芳香族分とは、JIS K2536「石油製品-炭化水素タイプ試験」の蛍光指示薬吸着法に準拠して測定された値を意味する。
【0031】
また、上記鉱油中のナフテン分は特に制限されないが、好ましくは10容量%以上、より好ましくは15容量%以上、さらに好ましくは20容量%以上、特に好ましくは25容量%以上、最も好ましくは30容量%以上である。
【0032】
上記鉱油中のパラフィン分は特に制限されないが、5容量%以上であることが好ましく、より好ましくは10容量%以上、さらに好ましくは20容量%以上である。
【0033】
本発明においてナフテン分、パラフィン分とは、FIイオン化(ガラスリザーバ使用)による質量分析法により得られた分子イオン強度をもって、これらの割合を決定するものである。以下にその測定法を具体的に示す。
【0034】
(1)径18mm、長さ980mmの溶出クロマト用吸着管に、約175℃、3時間の乾燥により活性化された呼び径74~149μmシリカゲル(富士シリシア化学(株)製grade923)120gを充填する。
(2)n-ペンタン75mlを注入し、シリカゲルを予め湿す。
(3)試料約2gを精秤し、等容量のn-ペンタンで希釈し、得られた試料溶液を注入する。
(4)試料溶液の液面がシリカゲル上端に達したとき、飽和炭化水素成分を分離するために、n-ペンタン140mlを注入し、吸着管の下端より溶出液を回収する。
(5)溶出液をロータリーエバポレーターにかけて溶媒を留去し、飽和炭化水素成分を得る。
(6)飽和炭化水素成分を質量分析計でタイプ分析を行う。質量分析におけるイオン化方法としては、ガラスリザーバを使用したFIイオン化法が用いられ、質量分析計は日本電子(株)製JMS-AX505Hを使用する。
【0035】
測定条件を以下に示す。
加速電圧:3.0kV、カソード電圧:-5~-6kV、分解能:約500、エミッター:カーボン、エミッター電流:5mA、測定範囲:質量数35~700、補助オーブン温度:300℃、セパレータ温度:300℃、主要オーブン温度:350℃、試料注入量:1μL。
【0036】
質量分析法によって得られた分子イオンは、同位体補正後、その質量数からパラフィン類(C2n+2)とナフテン類(C2n、C2n-2、C2n-4・・・)の2タイプに分類・整理し、それぞれのイオン強度の分率を求め、飽和炭化水素成分全体に対する各タイプの含有量を定める。次いで、飽和炭化水素成分の含有量をもとに、試料全体に対するパラフィン分、ナフテン分の各含有量を求める。
【0037】
なお、FI法質量分析のタイプ分析法によるデータ処理の詳細は、「日石レビュー」第33巻第4号135~142頁の特に「2.2.3データ処理」の項に記載されている。
【0038】
また、鉱油の5%留出温度は260℃以下であることが好ましく、より好ましくは240℃以下、さらに好ましくは220℃以下である。鉱油の初留点5%留出温度を260℃以下とすることにより、鉱油(溶剤)が低温より揮発し始め、防錆剤が早くに濃縮される。
一方、鉱油の95%留出温度は280℃以下であることが好ましく、より好ましくは260℃以下、さらに好ましくは240℃以下である。鉱油の終点を280℃以下とすることにより、鉱油(溶剤)が揮発しきるのが早くなり、防錆剤の濃度がより高まりやすい。
また、鉱油の初留点5%留出温度と終点95%留出温度の温度差は100℃以下であることが好ましく、より好ましくは60℃以下、さらに好ましくは30℃以下である。かかる温度差を100℃以下とすることにより、鉱油(溶剤)の揮発の始まりと終わりの時間を短くでき、防錆剤の濃度がより高まりやすい。
ここで、5%留出温度および95%留出温度とは、JIS K2254「石油製品-蒸留試験方法」に準拠して測定された値を意味する。
ここで、5%留出温度および95%留出温度とは、JIS K2254「石油製品-蒸留試験方法」に準拠して測定された値を意味する。
【0039】
本実施形態の溶剤希釈形さび止め油組成物における基油は、上述した(A1)成分における鉱油及び/又は合成油をそれぞれ1種単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0040】
≪(A2)成分における合成油≫
(A2)成分における合成油として、具体的には、オレフィンオリゴマー(プロピレンオリゴマー、イソブチレンオリゴマー、ポリブテン、1-オクテンオリゴマー、1-デセンオリゴマー、エチレン-プロピレンオリゴマー等)又はその水素化物、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、ジエステル(ジトリデシルグルタレート、ジ-2-エチルヘキシルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、ジ-2-エチルヘキシルセバケート等)、ポリオールエステル(トリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンペラルゴネート、ペンタエリスリトール2-エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールペラルゴネート等)、ポリグリコール、シリコーン油、ジアルキルジフェニルエーテル、ポリフェニルエーテル等が挙げられる。
【0041】
前記合成油における芳香族分の含有量は、特に限定されないが、例えば、本実施形態の希釈形さび止め油組成物を樹脂材に対して用いる場合は、樹脂材との相性の観点から、該合成油全量に対して、1質量%未満であることが好ましい。
【0042】
本実施形態の溶剤希釈形さび止め油組成物における基油は、(A2)成分における鉱油及び/又は合成油をそれぞれ1種単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0043】
本実施形態の溶剤希釈形さび止め油組成物における(A)成分:基油は、上述した(A1)成分と(A2)成分との混合物であることが好ましい。
【0044】
本実施形態の溶剤希釈形さび止め油組成物における(A)成分:基油の含有量は、溶剤希釈形さび止め油組成物全量に対して、下限値は好ましくは70質量%であり、より好ましくは75質量%であり、さらに好ましくは78質量%である。上限値は好ましくは98質量%であり、より好ましくは96質量%であり、さらに好ましくは95質量%以下ある。
【0045】
<(B)成分:スルホン酸塩>
本実施形態の溶剤希釈形さび止め油組成物は、スルホン酸アルカリ金属塩、スルホン酸アルカリ土類金属塩、スルホン酸アミン塩からなる群から選択される一種以上を含む。
スルホン酸塩はいずれも人体や生態系に対して十分に高い安全性を有するものである。
本実施形態の溶剤希釈形さび止め油組成物は、スルホン酸塩を含有することにより、防錆性を向上させることができる。
【0046】
本実施形態におけるスルホン酸塩は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、又はアミンとスルホン酸とを反応させることにより得ることができる。
【0047】
・アルカリ金属
スルホン酸アルカリ金属塩の原料として使用されるアルカリ金属としては、ナトリウム、カリウムが好ましい。
【0048】
・アルカリ土類金属
スルホン酸アルカリ土類金属塩の原料として使用されるアルカリ土類金属としては、マグネシウム、カルシウム、バリウムが好ましく、カルシウム、バリウムがより好ましく、カルシウムがさらに好ましい。
【0049】
・アミン
スルホン酸アミン塩の原料として使用されるアミンとしては、モノアミン、ポリアミン、アルカノールアミン等が挙げられる。
【0050】
モノアミンとしては、第1級アミン、第2級アミン、第3級アミンのモノアミンが挙げられる。
第1級アミンとして、具体的には、エチルアミン、n-プロピルアミン、ブチルアミン、1-エチルブチルアミン、1,3-ジアミノプロパン、シクロヘキシルアミン等が挙げられる。
第2級アミンとして、具体的には、ジエチルアミン、ジ-n-プロピルアミン、ジ-n-ブチルアミン、4,4’-ジアミノジフェニルアミン、ジエチレントリアミン、テトラエチレンペンタミン、N-(2-アミノエチル)エタノールアミン等が挙げられる。
第3級アミンとして、具体的には、ジメチルエチルアミン、ジエチルメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン等が挙げられる。
【0051】
アルカノールアミンとして、具体的には、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、プロパノールアミン等が挙げられる。
【0052】
ポリアミンとして、具体的には、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、プロピレンジアミン、ジプロピレントリアミン、トリプロピレンテトラミン、テトラプロピレンペンタミン、ペンタプロピレンヘキサミン、ブチレンジアミン、ジブチレントリアミン、トリブチレンテトラミン、テトラブチレンペンタミン、ペンタブチレンヘキサミン等のアルキレンポリアミン;N-メチルエチレンジアミン、N-エチルエチレンジアミン、N-プロピルエチレンジアミン等のN-アルキルエチレンジアミン;N-ビニルエチレンジアミン、N-プロペニルエチレンジアミン、N-ブテニルエチレンジアミン等のN-アルケニルエチレンジアミン;N-アルキルジエチレントリアミン、N-アルケニルジエチレントリアミン、N-アルキルトリエチレンテトラミン等のN-アルキル又はN-アルケニルアルキレンポリアミン等が挙げられる。また、上記ポリアミンには油脂から誘導されるポリアミン(牛脂ポリアミン等)も含まれる。
【0053】
・スルホン酸
スルホン酸塩の原料として使用されるスルホン酸は、常法によって製造された公知のものを使用することができる。具体的には、石油スルホン酸、合成スルホン酸等が挙げられる。
【0054】
・・石油スルホン酸
石油スルホン酸とは、一般に鉱油の潤滑油留分のアルキル芳香族化合物をスルホン化したものやホワイトオイル製造時に副生するマホガニー酸等である。
【0055】
・・合成スルホン酸
合成スルホン酸とは、洗剤等の原料となるアルキルベンゼン製造プラントから副生するもの、若しくは、ポリオレフィンをベンゼンにアルキル化することにより得られる直鎖状や分岐鎖状のアルキル基を有するアルキルベンゼンをスルホン化したもの、又は、ジノニルナフタレン等のアルキルナフタレンをスルホン化したもの等が挙げられる。これらのスルホン酸の分子量について特に制限はないが、好ましくは100~1500、より好ましくは200~700のものが使用される。
【0056】
上記スルホン酸の中でも、ナフタレン環に結合する2つのアルキル基の総炭素数が14~30であるジアルキルナフタレンスルホン酸;ベンゼン環に結合する2つのアルキル基がそれぞれ直鎖アルキル基又は側鎖メチル基を1個有する分岐鎖状アルキル基であり、かつ、2つのアルキル基の総炭素数が14~30であるジアルキルベンゼンスルホン酸;及びベンゼン環に結合するアルキルの炭素数が15以上であるモノアルキルベンゼンスルホン酸からなる群より選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。
【0057】
・・・ジアルキルナフタレンスルホン酸
ナフタレン環に結合する2つのアルキル基の総炭素数が14~30のジアルキルナフタレンスルホン酸は、2つのアルキル基の総炭素数が14以上であれば、抗乳化性がより向上し、他方30以下であれば、貯蔵安定性がより向上する。なお、2つのアルキル基はそれぞれ直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。また、2つのアルキル基の総炭素数が14~30であれば各アルキル基の炭素数について特に制限はないが、各アルキル基の炭素数はそれぞれ6~18であることが好ましい。
【0058】
・・・ジアルキルベンゼンスルホン酸
ベンゼン環に結合する2つのアルキル基がそれぞれ直鎖アルキル基又は側鎖メチル基を1個有する分岐鎖状アルキル基であり、かつ、2つのアルキル基の総炭素数が14~30のジアルキルベンゼンスルホン酸は、アルキル基の炭素数が14以上であれば、抗乳化性がより向上し、他方30以下であれば、貯蔵安定性がより向上する。なお、ベンゼン環に結合する2つのアルキル基の総炭素数が14~30であれば各アルキル基の炭素数については特に限定はないが、各アルキル基の炭素数はそれぞれ6~18であることが好ましい。
【0059】
・・・モノアルキルベンゼンスルホン酸
ベンゼン環に結合する1つのアルキル基の炭素数が15以上のモノアルキルベンゼンスルホン酸は、炭素数が14以上であれば、貯蔵安定性がより向上する。また、ベンゼン環に結合するアルキル基は、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。
【0060】
上記の原料を用いて得られるスルホン酸塩としては、具体的には以下のものが挙げられる。すなわち、アルカリ金属の塩基(アルカリ金属の酸化物や水酸化物等)、アルカリ土類金属の塩基(アルカリ土類金属の酸化物や水酸化物等)又はアミン(アンモニア、アルキルアミンやアルカノールアミン等)とスルホン酸とを反応させることにより得られる中性(正塩)スルホネート;上記の中性(正塩)スルホネートと、過剰のアルカリ金属の塩基、アルカリ土類金属の塩基又はアミンを水の存在下で加熱することにより得られる塩基性スルホネート;炭酸ガスの存在下で上記の中性(正塩)スルホネートをアルカリ金属の塩基、アルカリ土類金属の塩基又はアミンと反応させることにより得られる炭酸塩過塩基性(超塩基性)スルホネート;上記の中性(正塩)スルホネートをアルカリ金属の塩基、アルカリ土類金属の塩基若しくはアミン、及び、ホウ酸、若しくは無水ホウ酸等のホウ酸化合物との反応、又は、上記の炭酸塩過塩基性(超塩基性)スルホネートとホウ酸、若しくは無水ホウ酸等のホウ酸化合物との反応によって得られるホウ酸塩過塩基性(超塩基性)スルホネート、及びこれらの混合物等が挙げられる。
【0061】
なお、上記の中性(正塩)スルホネートを製造する場合、反応促進剤として目的とするスルホン酸塩と同じアルカリ金属、アルカリ土類金属又はアミンの塩化物を添加することや、目的とするスルホネートと異なるアルカリ金属、アルカリ土類金属又アミンの中性(正塩)スルホネートを調製した後に目的とするスルホン酸塩と同じアルカリ金属アルカリ土類金属又はアミンの塩化物を添加して交換反応を行うことによっても目的のスルホン酸塩を得ることが可能である。
【0062】
(B)成分は、上記の中でも、防錆性をより向上させることができるため、アルカリ土類金属の塩基(アルカリ土類金属の酸化物や水酸化物等)とスルホン酸とを反応させることにより得られる中性(正塩)スルホネートが好ましく、アルカリ土類金属の塩基(アルカリ土類金属の酸化物や水酸化物等)とジアルキルナフタレンスルホン酸又はジアルキルベンゼンスルホン酸とを反応させることにより得られる中性(正塩)スルホネートがより好ましい。
具体的には、ジアルキルナフタレンスルホン酸バリウム塩、ジアルキルベンゼンスルホン酸カルシウム塩が好ましく、ジアルキルベンゼンスルホン酸カルシウム塩がより好ましい。
【0063】
本実施形態の溶剤希釈形さび止め油組成物に含まれる(B)成分は、1種でもよく2種以上でもよい。
(B)成分の含有量は、溶剤希釈形さび止め油組成物全量に対して、好ましくは5質量%以上、より好ましくは8質量%以上、さらに好ましくは10質量%以上である。
(B)成分の含有量が、上記好ましい下限値以上であれば、防錆性がより優れる。
【0064】
また、(B)成分の含有量は、溶剤希釈形さび止め油組成物全量に対して、好ましくは20質量%以下、より好ましくは18質量%以下、さらに好ましくは15質量%以下である。
【0065】
すなわち、(B)成分の含有量は、溶剤希釈形さび止め油組成物全量に対して、下限値は好ましくは5質量%、より好ましくは8質量%、さらに好ましくは10質量%である。上限値は好ましくは20質量%、より好ましくは18質量%、さらに好ましくは15質量%である。
【0066】
<(C)成分:炭素数12~48のカルボン酸>
本実施形態の溶剤希釈形さび止め油組成物は、炭素数12~48のカルボン酸を含有する。
本実施形態の溶剤希釈形さび止め油組成物は、炭素数12~48のカルボン酸を含有することにより、皮膜強度が高めることができ、防錆性をより向上させることができる。
【0067】
上記カルボン酸としては、脂肪酸、ジカルボン酸、ヒドロキシ脂肪酸、ナフテン酸、樹脂酸、酸化ワックス、ラノリン脂肪酸などが挙げられる。
【0068】
・脂肪酸
脂肪酸は、飽和脂肪酸であっても不飽和脂肪酸であってもよく、また直鎖状脂肪酸であっても分岐鎖状脂肪酸であってもよい。
【0069】
炭素数12~48の直鎖状の脂肪酸として、具体的には、ドデカン酸、テトラデカン酸、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸、エイコサン酸、ドコサン酸、テトラコサン酸、ヘキサコサン酸、オクタコサン酸、トリアコンタン酸等の飽和脂肪酸;ドデセン酸、テトラデセン酸、ペンタデセン酸、ヘキサデセン酸(パルミトレイン酸等)、ヘプタデセン酸、オクタデセン酸(オレイン酸、リノール酸等)、エイコセン酸、ヘンイコセン酸、ドコセン酸、トリコセン酸、テトラコセン酸等の不飽和脂肪酸;前記飽和脂肪酸及び/又は不飽和脂肪酸の混合物等が挙げられる。
分岐鎖状脂肪酸として、具体的には、イソステアリン酸、2-オクチルドデカン酸等が挙げられる。
【0070】
・ジカルボン酸
ジカルボン酸は、2つのカルボキシ基をもつ化合物である。
炭素数12~48のジカルボン酸として、具体的には、ドデカン二酸、テトラデカン二酸、ペンタデカン二酸、ヘキサデカン二酸、ヘプタデカン二酸、オクタデカン二酸、エイコサン二酸、ドコサン二酸、テトラコサン二酸、ヘキサコサ二ン酸、オクタコサン二酸、トリアコンタン二酸、ダイマー酸等が挙げられる。なお、本明細書において、ダイマー酸とは、オレイン酸の二量化によって生成されるカルボン酸を意味する。
【0071】
・ヒドロキシ脂肪酸
ヒドロキシ脂肪酸は、ヒドロキシ基を1つ以上有する脂肪酸である。ヒドロキシ脂肪酸が有するヒドロキシ基の数は、1~3が好ましい。
炭素数12~48のヒドロキシ脂肪酸として、具体的には、リシノール酸等が挙げられる。
【0072】
・ナフテン酸
ナフテン酸は、石油中のカルボン酸類であって、ナフテン環にカルボキシ基が結合したものをいう。
【0073】
・樹脂酸
樹脂酸は、天然樹脂中に存在するカルボン酸である。
樹脂酸として、具体的には、アビエチン酸、ピマル酸、レポピマール酸、ネオアビエチン酸、パルストリン酸等が挙げられる。
【0074】
・酸化ワックス
酸化ワックスは、ワックスを酸化して得られるものである。前記ワックスとして、具体的には、石油留分の精製の際に得られるパラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ペトラタム、合成により得られるポリオレフィンワックス等が挙げられる。
【0075】
・ラノリン脂肪酸
ラノリン脂肪酸は、羊の毛に付着するろう状物質を精製(加水分解等)して得られるカルボン酸である。
【0076】
(C)成分は、上記の中でも、オレイン酸骨格を有するカルボン酸であることが好ましい。ここで、「オレイン酸骨格を有する」とは、オレイン酸又はオレイン酸から合成される化合物を意味する。また、オレイン酸から合成される化合物とは、オレイン酸誘導体、オレイン酸と特定の化合物との縮合物、オレイン酸を二量化したもの等が挙げられる。
(C)成分として、具体的には、オレイン酸、N-オレオイルサルコシン(オレイン酸とN-メチルグリシンとの縮合物)、ダイマー酸が好ましく、N-オレオイルサルコシン、ダイマー酸がより好ましく、ダイマー酸がさらに好ましい。
【0077】
本実施形態の溶剤希釈形さび止め油組成物に含まれる(C)成分は、1種でもよく2種以上でもよい。
(C)成分の含有量は、溶剤希釈形さび止め油組成物全量に対して、好ましくは0.03質量%以上、より好ましくは0.05質量%以上、さらに好ましくは0.2質量%以上である。
(C)成分の含有量が、上記好ましい下限値以上であれば、防錆性をより向上させることができる。
【0078】
(C)成分の含有量は、溶剤希釈形さび止め油組成物全量に対して、好ましくは4質量%以下、より好ましくは1質量%以下、さらに好ましくは0.7質量%以下、特に好ましくは、0.4質量%以下である。
(C)成分の含有量が、上記好ましい上限値以下であれば、よりステインが生じにくく、かつ、安定性がより向上する。
【0079】
例えば、(C)成分の含有量は、溶剤希釈形さび止め油組成物全量に対して、好ましくは0.03質量%以上4質量%以下、より好ましくは0.05質量%以上1質量%以下、さらに好ましくは0.2質量%以上0.7質量%以下、特に好ましくは0.2質量%以上0.4質量%以下である。
【0080】
<任意成分>
本実施形態の溶剤希釈形さび止め油組成物は、上述した(A)成分、(B)成分、(C)成分以外の成分(任意成分)をさらに含有してもよい。
かかる任意成分としては、例えば、以下に示す(D)成分:エステル系防錆剤、(E)成分:酸化防止剤等が挙げられる。
【0081】
≪(D)成分:エステル系防錆剤≫
エステル系防錆剤としては、多価アルコールの部分エステル、エステル化酸化ワックス、エステル化ラノリン脂肪酸、アルキル又はアルケニルコハク酸エステル等が挙げられる。
【0082】
・多価アルコールの部分エステル
多価アルコールの部分エステルは、多価アルコール中のヒドロキシ基の少なくとも1つ以上がエステル化されておらず、ヒドロキシ基のままで残っているエステルである。
【0083】
多価アルコールの部分エステルの原料である多価アルコールとしては、分子中のヒドロキシ基の数が、好ましくは2~10(より好ましくは3~6)であり、かつ、炭素数が2~20(より好ましくは3~10)である多価アルコールが挙げられる。
これらの多価アルコールの中でも、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール及びソルビタンからなる群より選ばれる少なくとも1種の多価アルコールを用いることが好ましい。
【0084】
多価アルコールの部分エステルの原料であるカルボン酸としては、カルボン酸の炭素数が、好ましくは2~30、より好ましくは6~24、さらに好ましくは10~22である。
当該カルボン酸は、飽和カルボン酸であっても不飽和カルボン酸であってもよく、また直鎖状カルボン酸であっても分岐鎖状カルボン酸であってもよい。
具体的には、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、テトラデカン酸、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸、エイコサン酸、ドコサン酸、テトラコサン酸、ヘキサコサン酸、オクタコサン酸、トリアコンタン酸等の飽和脂肪酸;ドデセン酸、テトラデセン酸、ペンタデセン酸、ヘキサデセン酸(パルミトレイン酸等)、ヘプタデセン酸、オクタデセン酸(オレイン酸、リノール酸等)、エイコセン酸、ヘンイコセン酸、ドコセン酸、トリコセン酸、テトラコセン酸等の不飽和脂肪酸等が挙げられる。
【0085】
多価アルコールの部分エステルとしては、上記の中でも、モノオレイン酸ソルビタンが好ましい。
【0086】
・エステル化酸化ワックス
エステル化酸化ワックスは、酸化ワックスとアルコール類とを反応させ、酸化ワックスが有するカルボキシ基の一部又は全部をエステル化させたものである。
エステル化酸化ワックスの原料として使用される酸化ワックスとしては、上述した(C)成分において説明した酸化ワックスと同様のものが挙げられる。
エステル化酸化ワックスの原料として使用されるアルコール類としては、炭素数1~20の直鎖状または分岐状の飽和1価アルコール、炭素数1~20の直鎖状または分岐状の不飽和1価アルコール、上記多価アルコールの部分エステルにおいて説明した多価アルコール、ラノリンの加水分解により得られるアルコール等が挙げられる。
【0087】
・エステル化ラノリン脂肪酸
エステル化ラノリン脂肪酸は、羊の毛に付着するろう状物質を精製(加水分解等)して得られたラノリン脂肪酸とアルコールとを反応させて得られたものである。ここで、エステル化ラノリン脂肪酸の原料として使用されるアルコールとしては、上記のエステル化酸化ワックスにおいて説明したアルコールと同様のものが挙げられる。その中でも多価アルコールが好ましく、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ソルビタン、ペンタエリスリトール、グリセリンがより好ましい。
【0088】
・アルキル又はアルケニルコハク酸エステル
アルキル又はアルケニルコハク酸エステルは、アルキル又はアルケニルコハク酸とアルコールとを反応させて得られたものである。ここで、アルキル又はアルケニルコハク酸エステルの原料として使用されるアルコールとしては、上記のエステル化酸化ワックスにおいて説明したアルコールと同様のものが挙げられる。
【0089】
本実施形態の溶剤希釈形さび止め油組成物に含まれる(D)成分は、1種でもよく2種以上でもよい。
(D)成分としては、上記の中でも、多価アルコールの部分エステルが好ましい。
(D)成分の含有量としては、溶剤希釈形さび止め油組成物全量に対して、下限値は好ましくは1質量%、より好ましくは3質量%、さらに好ましくは5質量%である。上限値は15質量%、より好ましくは12質量%、さらに好ましくは10質量%である。
(D)成分の含有量が上記範囲内であれば、防錆性をより向上させることができる。
【0090】
≪(E)成分:酸化防止剤≫
酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、ヒンダードアミン系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、ベンゾトリアゾール系酸化防止剤、ベンゾフェノン系酸化防止剤、ヒドロキシルアミン系酸化防止剤、サリチル酸エステル系酸化防止剤、トリアジン系酸化防止剤等が挙げられる。その中でも、フェノール系酸化防止剤が好ましく、2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾールがより好ましい。
【0091】
本実施形態の溶剤希釈形さび止め油組成物に含まれる(E)成分は、1種でもよく2種以上でもよい。
(E)成分の含有量としては、溶剤希釈形さび止め油組成物全量に対して、下限値は好ましくは0.05質量%、より好ましくは0.1質量%、さらに好ましくは0.2質量%である。上限値は5質量%、より好ましくは2質量%、さらに好ましくは1質量%である。
【0092】
本実施形態の溶剤希釈形さび止め油組成物は、必要に応じてその他の添加剤を含有させてもよい。具体的には、腐食防止剤、造膜剤、消泡剤、界面活性剤、及びこれらの混合物等が挙げられる。
【0093】
以上説明した本実施形態の溶剤希釈形さび止め油組成物は、(A)成分:基油と、(B)成分:スルホン酸塩と、(C)成分:炭素数12~48のカルボン酸とを含有し、前記(B)成分が、スルホン酸アルカリ金属塩、スルホン酸アルカリ土類金属塩、スルホン酸アミン塩からなる群から選択される一種以上を含み、40℃における動粘度が1~10mm/sである。
前記(C)成分と、前記(B)成分とを併用することにより、非常に低粘度の溶剤希釈形さび止め油組成物であっても、十分な防錆性を有する。これは、前記(C)成分と、前記(B)成分とを併用することにより、金属製部材等との吸着性が高まり、溶剤希釈形さび止め油組成物を塗布して、溶剤が揮発した後に塗布膜の膜強度を高めることができることによるものと推測される。
【実施例
【0094】
以下に実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0095】
<溶剤希釈形さび止め油組成物の調製>
(実施例1~9、比較例1~3)
表1に示す各成分及びを用いて、各例の溶剤希釈形さび止め油組成物をそれぞれ調製した。なお、表1中の40℃における動粘度は、JIS K 2283-2000「原油及び石油製品-動粘度試験方法及び粘度指数算出方法」に準拠して測定した値である。
【0096】
[さび止め性の評価]
JISK2246「さび止め油」中性塩水噴霧試験に準拠して、各例の溶剤希釈形さび止め油組成物のさび止め性を評価した。評価は所定の時間毎(4、24、48、72時間)に行った。本試験における評価はJISK2246「さび止め油」に規定されるさび発生度(A級~E級;A級が最も防錆性に優れていることを表す)に基づいて行った。なお、試験片としては、SPCC-SBを用いた。
上記評価を3つの試験片で行い、その結果を「塩水噴霧試験(4h、24h、48h、72h)」として、それぞれ表1に示す。
【0097】
【表1】
【0098】
表1中、各略号はそれぞれ以下の意味を有する。なお、数値は配合量(質量%)である。
(A1)-1:鉱油(40℃における動粘度:23mm/s、5%留出温度:347.6℃、95%留出温度:469.6℃)
(A1)-2:鉱油(40℃における動粘度:6.8mm/s、5%留出温度:270.1℃、95%留出温度:392.4℃)
(A2)-1:ナフテン系溶剤(40℃における動粘度:1.7mm/s、芳香族分:1質量%未満、5%留出温度:212.5℃、95%留出温度:234.5℃)
【0099】
(B)-1:ジアルキルナフタレンスルホン酸バリウム塩
(B)-2:ジアルキルベンゼンスルホン酸カルシウム塩
【0100】
(C)-1:ダイマー酸
(C)-2:N-オレオイルサルコシン
(C)-3:オレイン酸
【0101】
(D)-1:モノオレイン酸ソルビタン
(E)-1:2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール
【0102】
表1に示す結果から、実施例の溶剤希釈形さび止め油組成物によれば、粘度が低く、取り扱い性が高く、かつ、防錆性にも優れることが確認できる。
また、上記実施例の中でも、ダイマー酸を含有する実施例1~3、6~9の溶剤希釈形さび止め油組成物が、特に防錆性に優れることが確認できる。
【0103】
また、実施例1~9の溶剤希釈形さび止め油組成物について、下記に示すステインの評価を行った。
【0104】
[ステインの評価]
試験片としては、SPCC-SD(冷間圧延鋼板)を用いた。
該試験片を抽出油(JXTGエネルギー社製;商品名「抽出油(N)」)を用いて超音波洗浄した後、メタノールで煮沸洗浄した。
実施例1~9の溶剤希釈形さび止め油組成物95mLと蒸留水5mLとをそれぞれスクリュ-瓶にいれ、混合し、各例の溶剤希釈形さび止め油組成物を含有する混合液を調製した。
該混合液を、上記洗浄済み試験片にそれぞれ0.2mL滴下した。次いで、直ちに別の洗浄済み試験片を、該混合液が滴下された試験片の上部に載せて、2つの試験片を重ね合わせた。次いで、重ね合わされた試験片に該混合液をそれぞれ0.2mL滴下して、直ちに別の洗浄済み試験片を、該混合液が滴下された試験片の上部に載せて、3つの試験片を重ね合わせてサンプルとした。各サンプルの上に100gの分銅を載せ、82℃の恒温槽に入れて、24時間静置した。その後、各サンプルを抽出油(JXTGエネルギー社製;商品名「抽出油(N)」)で洗浄し、目視でステインを評価した。
【0105】
上記ステインの評価の結果、実施例2及び3の溶剤希釈形さび止め油組成物は、他の実施例の溶剤希釈形さび止め油組成物に比べて、よりステインが発生し難かった。また、その中でも、実施例2の溶剤希釈形さび止め油組成物が、特にステインが発生し難かった。このことから、実施例2及び3の溶剤希釈形さび止め油組成物は、取り扱い性、及び、防錆性に加えて、耐ステイン性も良好であることが確認できる。
【0106】
以上の結果から、本実施形態の溶剤希釈形さび止め油組成物は、取り扱い性、及び、防錆性のいずれも良好であることが確認できる。