(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-18
(45)【発行日】2023-10-26
(54)【発明の名称】二酸化炭素吸収液の再資源化方法、セメント用粉砕助剤、及び、セメントの製造方法
(51)【国際特許分類】
B02C 23/06 20060101AFI20231019BHJP
C04B 7/52 20060101ALI20231019BHJP
C04B 24/12 20060101ALI20231019BHJP
C04B 103/52 20060101ALN20231019BHJP
【FI】
B02C23/06 ZAB
C04B7/52
C04B24/12 Z
C04B103:52
(21)【出願番号】P 2020048870
(22)【出願日】2020-03-19
【審査請求日】2022-08-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長谷部 翔
(72)【発明者】
【氏名】太田 亨
【審査官】河野 隆一朗
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第105130261(CN,A)
【文献】国際公開第2008/038732(WO,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2013-0023561(KR,A)
【文献】特開2021-147273(JP,A)
【文献】国際公開第2019/115722(WO,A1)
【文献】中国実用新案第206045719(CN,U)
【文献】国際公開第2010/061811(WO,A1)
【文献】特開2017-210398(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B02C 23/06
C04B 24/12
C04B 7/52
B01D 53/14 - 53/18
B01D 53/62
C04B 103/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用済みアミン系二酸化炭素吸収液と、生石灰及び/又は消石灰を含む粉体又はスラリーとを含み、セメント用粉砕助剤として用いることを特徴とする、二酸化炭素吸収液の再資源化方法
であって、
前記セメント用粉砕助剤中、前記粉体及びスラリーは、前記アミン系二酸化炭素吸収液に含有されている二酸化炭素の全量を炭酸カルシウムにすることができる量以上含まれている、再資源化方法。
【請求項2】
前記アミン系二酸化炭素吸収液は、未使用の場合から二酸化炭素の吸収能が80%以上低下したものである、請求項
1に記載の二酸化炭素吸収液の再資源化方法。
【請求項3】
前記アミン系二酸化炭素吸収液は、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、又はトリエタノールアミンを含む、請求項1
又は2に記載の二酸化炭素吸収液の再資源化方法。
【請求項4】
得られるセメント100質量部に対して、前記アミン系二酸化炭素吸収液は、0.02質量部~0.40質量部添加される、請求項1~
3のいずれか1項に記載の二酸化炭素吸収液の再資源化方法。
【請求項5】
使用済みアミン系二酸化炭素吸収液と、生石灰及び/又は消石灰を含む粉体又はスラリーとを混合する工程(2)、及び、
前記工程(2)で得られたセメント用粉砕助剤を用いてセメントの粉砕を行う工程(3)、
を含むことを特徴とする、セメントの製造方法
であって、
前記セメント用粉砕助剤中、前記粉体及びスラリーは、前記アミン系二酸化炭素吸収液に含有されている二酸化炭素の全量を炭酸カルシウムにすることができる量以上含まれている、製造方法。
【請求項6】
前記工程(2)に先立ち、さらに使用済みアミン系二酸化炭素吸収液を回収する工程(1)を含む、請求項
5に記載のセメントの製造方法。
【請求項7】
前記アミン系二酸化炭素吸収液は、未使用の場合から二酸化炭素の吸収能が80%以上低下したものである、請求項
5又は6に記載のセメントの製造方法。
【請求項8】
前記アミン系二酸化炭素吸収液は、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、又はトリエタノールアミンを含む、請求項
5~
7のいずれか1項に記載のセメントの製造方法。
【請求項9】
得られるセメント100質量部に対して、前記セメント用粉砕助剤は、0.02質量部~0.40質量部添加される、請求項
5~
8のいずれか1項に記載のセメントの製造方法。
【請求項10】
使用済みアミン系二酸化炭素吸収液と、生石灰及び/又は消石灰を含む粉体又はスラリーとを含む、セメント用粉砕助剤
であって、
前記セメント用粉砕助剤中、前記粉体及びスラリーは、前記アミン系二酸化炭素吸収液に含有されている二酸化炭素の全量を炭酸カルシウムにすることができる量以上含まれている、粉砕助剤。
【請求項11】
使用済みアミン系二酸化炭素吸収液と、生石灰及び/又は消石灰を含む粉体又はスラリーとを混合して得られる、セメント用粉砕助剤
であって、
前記セメント用粉砕助剤中、前記粉体及びスラリーは、前記アミン系二酸化炭素吸収液に含有されている二酸化炭素の全量を炭酸カルシウムにすることができる量以上含まれている、粉砕助剤。
【請求項12】
前記アミン系二酸化炭素吸収液は、未使用の場合から二酸化炭素の吸収能が80%以上低下したものである、請求項
10又は11に記載のセメント用粉砕助剤。
【請求項13】
前記アミン系二酸化炭素吸収液は、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、又はトリエタノールアミンを含む、請求項
10又は11に記載のセメント用粉砕助剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化炭素の化学吸収によって劣化したアミン系二酸化炭素吸収液の再資源化方法、及び、再資源化されたセメント用粉砕助剤、並びに、それを用いたセメント製造方法等に関する。本発明のアミン系二酸化炭素吸収液の再資源化方法、及び、再資源化されたセメント用粉砕助剤、並びに、セメントの製造方法は、例えば、二酸化炭素吸収液のリサイクル活用を実現ないし著しく高める可能性を有する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化の抑制策として、大気中への二酸化炭素の排出量の低減が求められている。この二酸化炭素を分離、回収、貯留する技術(CCS;Carbon dioxide Capture and Storage)の一つに、化学吸収法を利用した二酸化炭素の回収技術があり、火力発電所等のボイラ燃焼排ガス中の二酸化炭素排出量の低減に用いられている。
【0003】
この化学吸収法は、二酸化炭素を含有するボイラからの燃焼排ガスに、必要に応じて集塵、脱硝、脱硫等を施した後に、吸収塔で燃焼排ガスと吸収液とを接触させることにより、燃焼排ガス中の二酸化炭素を吸収液に吸収させて、大気に放出させる燃焼排ガスから二酸化炭素を除去する方法である。この二酸化炭素を吸収した吸収液を、例えば、熱交換機器等によって加熱し、次いで再生塔で吸収液から二酸化炭素を解離させて回収した後、再生塔で二酸化炭素が解離された吸収液は、吸収塔へ循環されて燃焼排ガス中の二酸化炭素吸収のために再利用される。このような化学吸収法に用いられる吸収液としては、アミン類の水溶液が使用され、特に、モノエタノールアミン(MEA)、ジエタノールアミン(DEA)、トリエタノールアミン(TEA)、ジグリコールアミン(DGA)、ジイソプロパノールアミン(DIPA)、及び、メチルジエタノールアミン(MDEA)が広範囲に使用されている。これらは、分子内にアミノ基とヒドロキシル基を有するためにアルカノールアミンとも呼ばれる(以後、「アミン」と略称する場合がある。)。
【0004】
これらアミンに、例えば、硫黄酸化物(SOx)、塩化水素(HCl)やギ酸(HCOOH)等の二酸化炭素より強い酸が混入すると、それらの酸はアミンと強固な結合を作るため、通常の再生塔の処理条件では、アミンからそれら酸は解離せずに結合したままとなる。このような強い酸と結合したアミンは、二酸化炭素を吸収する能力が低下する。さらに、そのような強い酸が存在しない場合であっても、二酸化炭素吸収液としてのアミンには熱化学的な劣化が生じること、そして、その熱化学的な劣化には二酸化炭素や酸素等が関与していることが知られている。
【0005】
このように、アミン系二酸化炭素吸収液は、再生利用を繰り返すことによって二酸化炭素吸収能に劣る二酸化炭素吸収液となる。そのため、二酸化炭素吸収能が劣化したアミンの再生方法が積極的に開発されているが、有効な再生方法が開発されたとしても、化学吸収法に用いられたアミンは、いずれは、再生しても二酸化炭素吸収能が回復しない二酸化炭素吸収液になってしまう。
【0006】
そして、現在、それら二酸化炭素吸収能が低下した二酸化炭素吸収液のほとんどは、焼却処分されている。焼却されることによって、当該二酸化炭素吸収液中のアミンが吸収していた二酸化炭素は大気に放出されることになる。
【0007】
したがって、今後、このアミンを用いた化学吸収法による二酸化炭素の回収技術が普及するに伴い、多量に発生する二酸化炭素吸収能が低下した二酸化炭素吸収液について、環境に負荷を掛けない処理方法が必要となってくる。特に、液中に内包されている二酸化炭素を大気に放出しないことが可能な、二酸化炭素吸収能が低下した二酸化炭素吸収液の処理方法が求められる。
【0008】
一方、セメント産業においては、仕上粉砕工程での粉砕効率を高めるために、各種粉砕助剤は1質量%未満の範囲で添加されるのが通例である。かかる粉砕助剤は、粉砕効率を高めるとともに、製造されたセメントの凝結性状や強度発現性等に悪影響を及ぼさないものである必要がある。一般に、セメントクリンカと石膏からセメントを製造する工程である仕上粉砕工程に用いられるセメント用粉砕助剤としては、ジエチレングリコール(DEG)、エチレングリコール(EG)、トリイソプロパノールアミン(TIPA)等が使用されている。そして、トリアルカノールアミンをセメント用粉砕助剤として利用する技術も知られている(たとえば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、二酸化炭素吸収能が低下した二酸化炭素吸収液のリサイクル活用という将来課題に鑑みてなされたものであり、二酸化炭素吸収能が低下した二酸化炭素吸収液について、当該二酸化炭素吸収液が含有している二酸化炭素を大気に放出しない再資源化方法を提供することを目的とする。
【0011】
また、本発明は、二酸化炭素吸収能が低下した二酸化炭素吸収液について、当該二酸化炭素吸収液が含有している二酸化炭素を大気に放出しないセメントの製造方法を提供することを目的とする。
【0012】
また、本発明は、二酸化炭素吸収能が低下した二酸化炭素吸収液について、当該二酸化炭素吸収液が含有している二酸化炭素を大気に放出しないセメント用粉砕助剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、以下に示すように、二酸化炭素吸収液の再資源化方法、粉砕助剤、及び、セメントの製造方法等により上記目的を達成できることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0014】
本発明は、次の各項に記載の態様を含む。
【0015】
項1.使用済みアミン系二酸化炭素吸収液と、生石灰及び/又は消石灰を含む粉体又はスラリーとを含み、セメント用粉砕助剤として用いることを特徴とする、二酸化炭素吸収液の再資源化方法。
【0016】
項2.上記セメント用粉砕助剤中、上記粉体及びスラリーは、上記アミン系二酸化炭素吸収液に含有されている二酸化炭素の全量を炭酸カルシウムにすることができる量以上含まれている、項1に記載の二酸化炭素吸収液の再資源化方法。
【0017】
項3.上記アミン系二酸化炭素吸収液は、未使用の場合から二酸化炭素の吸収能が80%以上低下したものである、項1又は2に記載の二酸化炭素吸収液の再資源化方法。
【0018】
項4.上記アミン系二酸化炭素吸収液は、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、又はトリエタノールアミンを含む、項1~3のいずれか1項に記載の二酸化炭素吸収液の再資源化方法。
【0019】
項5.得られるセメント100質量部に対して、上記アミン系二酸化炭素吸収液は、0.02質量部~0.40質量部添加される、項1~4のいずれか1項に記載の二酸化炭素吸収液の再資源化方法。
【0020】
項6.使用済みアミン系二酸化炭素吸収液と、生石灰及び/又は消石灰を含む粉体又はスラリーとを混合する工程(2)、及び、
上記工程(2)で得られたセメント用粉砕助剤を用いてセメントの粉砕を行う工程(3)、
を含むことを特徴とする、セメントの製造方法。
【0021】
項7.上記工程(2)に先立ち、さらに使用済みアミン系二酸化炭素吸収液を回収する工程(1)を含む、項6に記載のセメントの製造方法。
【0022】
項8.上記セメント用粉砕助剤中、上記粉体及びスラリーは、上記アミン系二酸化炭素吸収液に含有されている二酸化炭素の全量を炭酸カルシウムにすることができる量以上含まれている、項6又は7に記載のセメントの製造方法。
【0023】
項9.上記アミン系二酸化炭素吸収液は、未使用の場合から二酸化炭素の吸収能が80%以上低下したものである、項6~8のいずれか1項に記載のセメントの製造方法。
【0024】
項10.上記アミン系二酸化炭素吸収液は、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、又はトリエタノールアミンを含む、項6~9のいずれか1項に記載のセメントの製造方法。
【0025】
項11.得られるセメント100質量部に対して、上記セメント用粉砕助剤は、0.02質量部~0.40質量部添加される、項6~10のいずれか1項に記載のセメントの製造方法。
【0026】
項12.使用済みアミン系二酸化炭素吸収液と、生石灰及び/又は消石灰を含む粉体又はスラリーとを含む、セメント用粉砕助剤。
【0027】
項13.使用済みアミン系二酸化炭素吸収液と、生石灰及び/又は消石灰を含む粉体又はスラリーとを混合して得られる、セメント用粉砕助剤。
【0028】
項14.上記セメント用粉砕助剤中、上記粉体及びスラリーは、上記アミン系二酸化炭素吸収液に含有されている二酸化炭素の全量を炭酸カルシウムにすることができる量以上含まれている、項12又は13に記載のセメント用粉砕助剤。
【0029】
項15.上記アミン系二酸化炭素吸収液は、未使用の場合から二酸化炭素の吸収能が80%以上低下したものである、項12~14のいずれか1項に記載のセメント用粉砕助剤。
【0030】
項16.上記アミン系二酸化炭素吸収液は、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、又はトリエタノールアミンを含む、項12~15のいずれか1項に記載のセメント用粉砕助剤。
【発明の効果】
【0031】
本発明の二酸化炭素吸収液の再資源化方法を用いることにより、二酸化炭素の吸収能力が低下した使用済のアミン系二酸化炭素吸収液を、当該廃アミンが含有する二酸化炭素を大気に放出することなく、有効にリサイクル活用することができる。
【0032】
また、本発明のセメントの製造方法を用いることにより、二酸化炭素の吸収能力が低下した使用済のアミン系二酸化炭素吸収液を、当該廃アミンが含有する二酸化炭素を大気に放出することなく、アミン系粉砕助剤として有効にリサイクル活用することができる。加えて、同成分の二酸化炭素吸収液として未使用のアミン系粉砕助剤に比して性能が向上されたセメントが得られる場合もある。
【0033】
また、本発明のセメント用粉砕助剤を用いることにより、二酸化炭素の吸収能力が低下した使用済のアミン系二酸化炭素吸収液を、当該廃アミンが含有する二酸化炭素を大気に放出することなく、有効にリサイクル活用することができる。加えて、同成分の二酸化炭素吸収液として未使用のアミン系粉砕助剤に比して得られるセメントに性能の向上をもたらす場合もある。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0035】
(セメント用粉砕助剤)
本発明のセメント用粉砕助剤は、使用済みアミン系二酸化炭素吸収液と、生石灰及び/又は消石灰を含む粉体又はスラリーとを含む。
【0036】
また、本発明の別のセメント用粉砕助剤は、使用済みアミン系二酸化炭素吸収液と、生石灰及び/又は消石灰を含む粉体又はスラリーとを混合して得られる。
【0037】
本発明のセメント用粉砕助剤は、使用済みアミン系二酸化炭素吸収液と、生石灰及び/又は消石灰を含む粉体又はスラリー(以後、「カルシウム源」と称する場合もある。)とを含むため、又は、使用済みアミン系二酸化炭素吸収液と、生石灰及び/又は消石灰を含む粉体又はスラリーとを混合して得られるため、二酸化炭素の吸収能力が低下した使用済のアミン系二酸化炭素吸収液を、当該廃アミンが含有する二酸化炭素を大気に放出することなく、有効にリサイクル活用することができる。また、本発明のセメント用粉砕助剤は、二酸化炭素ないし二酸化炭素由来の成分を含む廃アミンが廃棄物として焼却処理等されることを回避できる。加えて、同成分の二酸化炭素吸収液として未使用のアミン系粉砕助剤に比して得られるセメントに性能の向上をもたらす場合もある。
【0038】
アミン系二酸化炭素吸収液の使用後廃棄品の年間発生量は、2002年当時の千葉県内4ヵ所の製油所における実績データによると、吸収液として使用した純アミン量の6.5質量%に相当する量が廃棄されている。
【0039】
例えば、NMRを用いた研究によると、二酸化炭素を吸収したモノエタノールアミン(MEA)は、その分子構造中に、吸収した二酸化炭素の86%をカルバメートアニオン(RNHCOO-)、13%を重炭酸イオン(HCO3
-)又は炭酸イオン(CO3
2-)として含有しているとされ、そして、放射光を用いたX線回折の研究によると、モノエタノールアミンに吸収された二酸化炭素は、カルバメートアニオンであっても重炭酸イオン又は炭酸イオンであっても、水分子と水素結合しているとされる。
【0040】
本発明において、「使用済みアミン系二酸化炭素吸収液」とは、モノエタノールアミン(以後、「MEA」と称する場合もある。)、ジエタノールアミン(以後、「DEA」と称する場合もある。)、又は、トリエタノールアミン(以後、「TEA」と称する場合もある。)等を含むアミン系二酸化炭素吸収液の使用済品である。二酸化炭素吸収液として二酸化炭素に接触させる等、二酸化炭素吸収液等としての繰り返し使用によって二酸化炭素の吸収能力が低下し、熱分解、減圧蒸留、イオン交換、電気透析等の再生方法を施しても二酸化炭素の吸収能力が十分に回復しないもの(以後、「廃アミン」と称する場合もある。)をいう。また、廃アミンではない同成分の二酸化炭素吸収液として未使用のアミン等に、排ガス等のCO2除去目的ではない、例えば、意図的なCO2バブリングによりCO2吸収させたアミンを用いることもできうる。
【0041】
なお、上記使用済みアミン系二酸化炭素吸収液中におけるアミンの残存量、例えば、モノエタノールアミン、ジエタノールアミンやトリエタノールアミンの残存量を、例えば、蛍光ラベル化剤(FMOC)を用いた高速液体クロマトグラフ分析法(FMOC-HPLC)を用いて測定した場合でも、モノエタノールアミン等は、ほぼ当初量が定量されてしまい、使用済みアミン系二酸化炭素吸収液を直接特別なキャラクターから特定することは現状では困難である。
【0042】
本発明において、上記アミン系二酸化炭素吸収液は、未使用の場合(対応する同成分の未使用品に比してでもよい)から、二酸化炭素の吸収能が80%以上低下したものを用いることができ、二酸化炭素の吸収能が85%以上低下したものであってもよく、二酸化炭素の吸収能が90%以上低下したものであってもよく、二酸化炭素の吸収能が95%以上低下したものであってもよい。
【0043】
なお、本発明において、二酸化炭素の吸収能の低下量の測定は、未使用の二酸化炭素吸収液に二酸化炭素ガスをバブリングして飽和するまで二酸化炭素を吸収させた後の二酸化炭素吸収液と、当該二酸化炭素吸収液の未使用品のそれぞれの質量を測定して、二酸化炭素吸収量と二酸化炭素吸収液の質量に関する検量線を得ることによって、簡便に評価することができる。より具体的には、二酸化炭素吸収液に二酸化炭素の吸収が生じない温度環境、例えば、70℃の恒温槽に一定時間静置して乖離できる二酸化炭素の全てが放出した後の評価対象の二酸化炭素吸収液の質量と、二酸化炭素の吸収が効率的に生じる温度環境、例えば40℃の恒温槽内で二酸化炭素ガスをバブリングして飽和するまで二酸化炭素を吸収させた当該二酸化炭素吸収液の質量を測定し、それらの質量差が当該二酸化炭素吸収液が吸収できる二酸化炭素量に相当するとして評価できる。
【0044】
本発明のセメント用粉砕助剤において、上記アミン系二酸化炭素吸収液は、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、又はトリエタノールアミンを含むことが好ましい例としてあげることができる。また、これらは単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0045】
また、本発明において、上記アミン系二酸化炭素吸収液は、通常、その粘度や、二酸化炭素の吸収や放散の反応速度、反応熱を最適化するために、アミンの濃度が30質量%の水溶液で用いられるが、その他に、例えば、アミン濃度が、10質量%、20質量%、40質量%、又は、50質量%として用いられてもよい。
【0046】
また、本発明において、上記廃アミンと組み合わせられる生石灰(CaO)及び/又は消石灰(Ca(OH)2))を含む粉体又はスラリー(カルシウム源)は、混合された廃アミンが含有する二酸化炭素が当該廃アミンから乖離したとしても、当該カルシウム源中の生石灰及び/又は消石灰と反応して、主として炭酸カルシウム(CaCO3)として固定して、大気中に二酸化炭素を放出させないためのカルシウム源として作用しうる。
【0047】
上記カルシウム源としては、例えば、工業原料としての酸化カルシウム又は水酸化カルシウムの、粉体又は水と混合して得られるスラリーの他、コンクリートスラッジやセメントキルンダストを使用することもできる。これらは単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0048】
本発明において、コンクリートスラッジとは、生コンクリートを運んだ後のミキサー車を水洗した際に発生する汚泥の内、分級して大型の骨材が回収された後の未水和セメント粒子、セメントの水和物、骨材微粒分等からなるものであって、通常、コンクリートスラッジ固形分中には40質量%前後のカルシウム(CaO換算)が存在する。
【0049】
上記コンクリートスラッジが含む未水和セメント粒子、セメントの水和物、骨材微粒分は、JISで定められるセメント用粉砕助剤の添加量である1質量%未満の添加であれば、セメントの品質には影響を及ぼさない。また、コンクリートスラッジ中のセメントの水和物には水酸化カルシウムが含まれているために、周囲に二酸化炭素が存在する場合には、その二酸化炭素を炭酸カルシウムとして固定することができる。
【0050】
また、セメントキルンダストとは、セメントキルンの窯尻から最下段サイクロンに至るまでのキルン排ガス流路から燃焼ガスの一部を冷却しながら抽気して得られた粉体であって、通常、20質量%前後の酸化カルシウム(フリーライム)を含有する。
【0051】
上記セメントキルンダストは、元々がセメントクリンカとなるべきセメントクリンカ原料からの生成物であり、JISで定められるセメント用粉砕助剤の添加量である1質量%未満の添加であれば、セメントの品質に影響を及ぼすことはない。また、含有するフリーライムによって、周囲に湿分が存在する一般的な環境においては、二酸化炭素を炭酸カルシウムとして固定することができる。
【0052】
本発明において、上記セメント用粉砕助剤中、上記粉体及びスラリーは、上記アミン系二酸化炭素吸収液に含有されている二酸化炭素の全量を炭酸カルシウムにすることができる量以上含まれているものとすることが好ましい。すなわち、セメント用粉砕助剤における、廃アミンとカルシウム源との混合割合は、廃アミンが含有する二酸化炭素の全てを、炭酸カルシウムとすることができる量のカルシウム源を添加すればよい。より具体的には、例えば、40℃環境におけるMEA、DEAとTEAの30%水溶液の飽和二酸化炭素吸収量である、それぞれ120g/L、80g/L、60g/Lの二酸化炭素を、炭酸カルシウムに変化させるだけのカルシウム量として、生石灰の場合には、それぞれ0.15g/mL-MEA、0.10g/mL-DEA、0.075g/mL-TEAを、消石灰の場合には、それぞれ0.2g/mL-MEA、0.13g/mL-DEA、0.1g/mL-TEAを混合すればよい。なお、単位のg/mL-MEAとは、1mLのMEA当たりの添加量(g)を示し、g/mL-DEAとはDEAに関する同様の単位であり、g/mL-TEAとはTEAに関する同様の単位である。
【0053】
また、セメント用粉砕助剤における、廃アミンとカルシウム源との混合割合は、廃アミン中に含有されている(ないし、含有されていると推測される値の)二酸化炭素1モルに対し、例えば、カルシウム原子が1.5モル等量となるカルシウム源とすることができ、1.3モル等量、1.2モル等量、1.1モル等量、1.05モル等量の各カルシウム源をあげることができる。
【0054】
また、カルシウム源としてコンクリートスラッジやセメントキルンダストを用いた場合の廃アミンとカルシウム源の混合割合は、用いるコンクリートスラッジやセメントキルンダストが含有する生石灰量や消石灰量を基に算出することになるが、例えば、概略、コンクリートスラッジの場合には、それぞれ0.5g/mL-MEA、0.33g/mL-DEA、0.25g/mL-TEAを、セメントキルンダストの場合には、それぞれ0.75g/mL-MEA、0.5g/mL-DEA、0.38g/mL-TEAを混合すればよい。
【0055】
本発明のセメント用粉砕助剤において、上記粉砕助剤のセメントへの添加量は、汎用のセメント用粉砕助剤と同程度であって、粉砕助剤を添加して得られるセメント100質量部に対して0.02質量部~0.40質量部であり、0.05質量部~0.30質量部であってもよく、0.10質量部~0.20質量部であってもよい。上記添加量が0.02質量部未満の場合には、本発明の効果が十分に得られない場合があり、0.40質量部を超える場合には、粉体流動性が過剰に良好となるために、フラッシュ等のセメント製造工程におけるトラブルを発生させる場合がある。
【0056】
本発明の粉砕助剤を用いて粉砕されるセメントとは、JIS R 5210「ポルトランドセメント」に規定されるポルトランドセメント、JIS R 5211「高炉セメント」、JIS R 5212「シリカセメント」、及び、JIS R 5213「フライアッシュセメント」や欧州セメント規格等に規定される各種混合セメント、JIS R 5214「エコセメント」に規定されるエコセメント、並びに、分離粉砕して混合セメントを製造する際の基材セメント、及び、セメント混合材等をあげることができる。以後、これらを総称して「セメント組成物」と称する場合がある。
【0057】
本発明において、上記粉砕助剤を使用可能な粉砕ミルとしては、例えば、ボールミル、チューブミル、ローラーミル等がある。
【0058】
本発明の粉砕助剤は、例えば、セメント組成物の粉砕時に粉砕ミル内への添加、粉砕ミルへの各材料の輸送過程、例えば、ベルトコンベア上の材料上への添加、又は、粉砕前の貯蔵庫内に存する各材料への添加等により使用することができる。なお、セメント組成物の粉砕方法については、特に限定されるものではなく、公知の方法を適宜用いることができる。
【0059】
(二酸化炭素吸収液の再資源化方法)
本発明の二酸化炭素吸収液の再資源化方法は、使用済みアミン系二酸化炭素吸収液と、生石灰及び/又は消石灰を含む粉体又はスラリーとを含み、セメント用粉砕助剤として用いることを特徴とする。
【0060】
本発明の二酸化炭素吸収液の再資源化方法は、使用済みアミン系二酸化炭素吸収液を、セメント用粉砕助剤として使用することが可能であるため、二酸化炭素の吸収能力が低下した使用済のアミン系二酸化炭素吸収液を、当該廃アミンが含有する二酸化炭素を大気に放出することなく、有効にリサイクル活用することができる。また、本発明の二酸化炭素吸収液の再資源化方法は、廃棄物として焼却処理等されることを回避できるだけでなく、二酸化炭素吸収液として未使用のアミン系粉砕助剤に比して性能が向上されたセメントが得られる場合もある。
【0061】
なお、本発明の二酸化炭素吸収液の再資源化方法において、特に記載していない構成について、本発明の作用効果を奏するものであれば、上記粉砕助剤の説明や後述のセメントの製造方法等で記載したものを適宜用いることができる。
【0062】
本発明の二酸化炭素吸収液の再資源化方法において、上記アミン系二酸化炭素吸収液のセメントへの添加量は、汎用のセメント用粉砕助剤と同程度であって、上記アミン系二酸化炭素吸収液を添加して得られるセメント100質量部に対して0.02質量部~0.40質量部であり、0.05質量部~0.30質量部であってもよく、0.10質量部~0.20質量部であってもよい。上記添加量が0.02質量部未満の場合には、本発明の効果が十分に得られない場合があり、0.40質量部を超える場合には、粉体流動性が過剰に良好となるために、フラッシュ等のセメント製造工程におけるトラブルを発生させる場合がある。
【0063】
(セメントの製造方法)
本発明のセメントの製造方法は、
使用済みアミン系二酸化炭素吸収液と、生石灰及び/又は消石灰を含む粉体又はスラリーとを混合する工程(2)、及び、
上記工程(2)で得られたセメント用粉砕助剤を用いてセメントの粉砕を行う工程(3)、
を含むことを特徴とする。
【0064】
本発明のセメントの製造方法は、使用済みアミン系二酸化炭素吸収液と、生石灰及び/又は消石灰を含む粉体又はスラリーとを混合する工程(2)で得られたセメント用粉砕助剤を使用することが可能であるため、二酸化炭素の吸収能力が低下したアミン系二酸化炭素吸収液を、当該廃アミンが含有する二酸化炭素を大気に放出することなく、アミン系粉砕助剤として有効にリサイクル活用することができる。加えて、二酸化炭素吸収液として未使用のアミン系粉砕助剤に比して性能が向上をされたセメントが得られる場合もある。
【0065】
なお、本発明のセメントの製造方法において、特に記載していない構成について、本発明の作用効果を奏するものであれば、上記粉砕助剤や上記再資源化方法における説明等で記載したものを適宜用いることができる。
【0066】
本発明のセメントの製造方法は、使用済みアミン系二酸化炭素吸収液と、生石灰及び/又は消石灰を含む粉体又はスラリーとを混合する工程(2)を含む。
【0067】
本発明のセメントの製造方法において、上記混合する工程(2)は、使用済みアミン系二酸化炭素吸収液と、生石灰及び/又は消石灰を含む粉体又はスラリーとを混合させてセメント用粉砕助剤を得る工程であれば特に限定されず、公知の手法を適宜用いることができる。上記工程(2)として、例えば、使用済みアミン系二酸化炭素吸収液と、生石灰及び/又は消石灰を含む粉体又はスラリーとのいずれか一方を他方に添加する工程や、これらのいずれか一方又は両方を水等で希釈したり、その他粉砕助剤と混合したりする工程をあげることができる。
【0068】
また、本発明のセメントの製造方法は、上記工程(2)で得られたセメント用粉砕助剤を用いてセメントの粉砕を行う工程(3)を含む。
【0069】
本発明のセメントの製造方法において、上記セメントの粉砕を行う工程(3)は、セメント用粉砕助剤を用いてセメントの粉砕を行う工程であれば特に限定されず、公知の手法を適宜用いることができる。上記工程(3)は、具体的には、上記粉砕ミルを用いた上記セメント組成物の仕上粉砕工程である。
【0070】
また、本発明のセメントの製造方法において、上記工程(2)に先立ち、さらに使用済みアミン系二酸化炭素吸収液を回収する工程(1)を含むことができる。
【0071】
本発明のセメントの製造方法において、上記使用済みアミン系二酸化炭素吸収液を回収する工程(1)は、上記廃アミン等の使用済みアミン系二酸化炭素吸収液を得る工程であれば特に限定されず、公知の手法を適宜用いることができる。上記工程(1)として、例えば、使用済みアミン系二酸化炭素吸収液を吸収塔等から抜き出す工程等をあげることができる。
【0072】
本発明のセメントの製造方法において、上記セメント用粉砕助剤のセメントへの添加量は、汎用のセメント用粉砕助剤と同程度であって、上記粉砕助剤を添加して得られるセメント100質量部に対して0.02質量部~0.40質量部であり、0.05質量部~0.30質量部であってもよく、0.10質量部~0.20質量部であってもよい。上記添加量が0.02質量部未満の場合には、本発明の効果が十分に得られない場合があり、0.40質量部を超える場合には、粉体流動性が過剰に良好となるために、フラッシュ等のセメント製造工程におけるトラブルを発生させる場合がある。
【実施例】
【0073】
以下、本発明の構成と効果を具体的に示す実施例等について説明する。なお、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0074】
〔実施例1~3、参考例1~2〕
本発明における実施例1~3、参考例1~2における粉砕助剤として、下記の5種類の二酸化炭素吸収液を準備した。
・1)参考例1:未使用MEA(30質量%水溶液)
・2)実施例1:上記未使用MEAから作成した使用済みMEA50mLに、試薬の水酸化カルシウムを10g添加(0.2g/mL-MEAに相当)
・3)実施例2:上記未使用MEAから作成した使用済みMEA50mLに、セメントキルンダスト(CaO量:25質量%)を30g添加(0.6g/mL-MEAに相当)
・4)参考例2:未使用TEA(30質量%水溶液)
・5)実施例3:上記未使用TEAから作成した使用済みTEA50mLに、試薬の水酸化カルシウムを5g添加(0.1g/mL-TEAに相当)
【0075】
上記の使用済みMEA、及び、使用済みTEAとは、それぞれの30%水溶液の未使用品200mlに、20℃環境下で、二酸化炭素ガス(純度99.5%以上)を100ml/分で3時間バブリングした後、各水溶液の入口及び出口におけるガス中の二酸化炭素濃度を気体熱伝導式の二酸化炭素計(新コスモス電機株式会社製、XP-3140)により連続的に測定し、出口でのガス中の二酸化炭素量が入口でのガスの二酸化炭素量の90%以上となり、二酸化炭素の吸収能力が開始当初の10%程度に減じた、二酸化炭素を多量に含有したアミン系二酸化炭素吸収液である。気体熱伝導式の二酸化炭素計(同上)で測定したそれぞれの二酸化炭素含有量は以下のとおりである。
・2)、3)使用済みMEA:120g/L
・5)使用済みTEA:61g/L
【0076】
上記粉砕助剤の添加量は、全てにおいて400ppmとした。
【0077】
また、セメントの粉砕は、ジョークラッシャーで5mm以下に粗粉砕した普通ポルトランドセメントクリンカ5kgと、出来上がりのセメントのSO3量が2.0質量%となる量の二水石膏を、ボールミルを用いて、ブレーン比表面積が3300±50cm2/gとなるように粉砕した。
【0078】
セメントの粉砕に使用した普通ポルトランドセメントクリンカと二水石膏は、以下のとおりである。
・普通ポルトランドセメントクリンカ(太平洋セメント株式会社製)
・二水石膏:硫酸カルシウム二水和物(関東化学株式会社製、鹿1級試薬)
【0079】
得られた各セメントについて、モルタル圧縮強さ及び凝結(いずれも、JIS R 5201「セメントの物理試験方法」に準拠。)を評価した。それらの測定結果を、各セメントのブレーン比表面積(JIS R 5201「セメントの物理試験方法」準拠)、及び、要した粉砕時間とともに、表1に示す。
【0080】
【0081】
表1から明らかなように、トリアルカノールアミンを粉砕助剤として用いた場合(参考例1、2)と比較して、二酸化炭素の吸収能力が90%程度低下したアミン系二酸化炭素吸収液を再資源化したセメント用粉砕助剤を用いた場合(実施例1~3)、粉砕時間と凝結は同等の効果が認められ、モルタル圧縮強さは同等以上の効果が確認された。