(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-18
(45)【発行日】2023-10-26
(54)【発明の名称】熱触媒CVD用の触媒線支持部材、挿抜用治具、熱触媒CVD用ユニット、および成膜装置
(51)【国際特許分類】
C23C 16/44 20060101AFI20231019BHJP
C23C 16/452 20060101ALI20231019BHJP
【FI】
C23C16/44 B
C23C16/452
(21)【出願番号】P 2020059563
(22)【出願日】2020-03-30
【審査請求日】2022-09-15
(73)【特許権者】
【識別番号】309036221
【氏名又は名称】三菱重工機械システム株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000253503
【氏名又は名称】キリンホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100077
【氏名又は名称】大場 充
(74)【代理人】
【識別番号】100136010
【氏名又は名称】堀川 美夕紀
(74)【代理人】
【識別番号】100130030
【氏名又は名称】大竹 夕香子
(74)【代理人】
【識別番号】100203046
【氏名又は名称】山下 聖子
(72)【発明者】
【氏名】上田 敦士
(72)【発明者】
【氏名】原田 秀一
(72)【発明者】
【氏名】木下 悟
(72)【発明者】
【氏名】仲田 智明
【審査官】神▲崎▼ 賢一
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-093723(JP,A)
【文献】特開2010-248604(JP,A)
【文献】特開2018-059168(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 16/44
C23C 16/452
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
大気圧に対して減圧された雰囲気下、被処理物への成膜にあたり原料ガスの接触分解反応の触媒として用いられる触媒線を支持する部材であって、
前記触媒線を長手方向の端部から所定の範囲に亘り挟む挟持要素と、
弾性体を含み、前記弾性体の弾性力により、前記触媒線を挟む挟持方向への力を前記挟持要素に与える挟持力付与要素と、を備
え、
前記挟持力付与要素は、
前記弾性力を前記挟持要素に向けて伝達し、かつ、前記挟持要素から前記弾性体への熱伝導を抑える断熱要素を含む、
触媒線支持部材。
【請求項2】
大気圧に対して減圧された雰囲気下、被処理物への成膜にあたり原料ガスの接触分解反応の触媒として用いられる触媒線を支持する部材であって、
前記触媒線を長手方向の端部から所定の範囲に亘り挟む挟持要素と、
弾性体を含み、前記弾性体の弾性力により、前記触媒線を挟む挟持方向への力を前記挟持要素に与える挟持力付与要素と、を備え、
前記挟持力付与要素は、
前記長手方向への弾性力を作用させる前記弾性体と、
前記弾性体の前記長手方向への弾性力を前記挟持方向への力に変換する力変換部と、を含む、
触媒線支持部材。
【請求項3】
前記弾性体は、前記力変換部を前記長手方向に押圧するコイルばねに相当し、
前記力変換部は、前記挟持要素と共にくさび構造をなす筒状体に相当する、
請求項
2に記載の触媒線支持部材。
【請求項4】
前記筒状体は、前記挟持要素から前記コイルばねへの熱伝導を抑える断熱要素を兼ねる、
請求項
3に記載の触媒線支持部材。
【請求項5】
前記挟持要素を含み、前記触媒線の前記端部から離れる向きに前記長手方向に沿って延在したソケットと、
前記ソケットの周りに配置される前記コイルばねおよび前記筒状体と、
前記ソケットの周りであって、前記コイルばねと前記筒状体との間に介在するセラミック材料から形成された断熱要素と、を備える、
請求項
4に記載の触媒線支持部材。
【請求項6】
請求項
4または
5に記載の触媒線支持部材に対して前記触媒線を挿抜させるための治具であって、
前記長手方向に対して直交する受入方向から前記挟持要素を受け入れ可能な受容溝と、
前記受入方向に沿って配置される板状の基体と、を備え、
前記基体は、前記受入方向に移動されると、前記基体に形成された斜面が係合する前記筒状体と前記挟持要素との間に前記弾性力に抗して押し込まれる、
触媒線挿抜用治具。
【請求項7】
請求項1から
5のいずれか一項に記載の触媒線支持部材としての第1支持部材および第2支持部材と、
前記第1支持部材および前記第2支持部材と共に一体化され、前記原料ガスを前記触媒線の周囲に導入するガス導入管と、を備え、
前記触媒線は、一対の並行部を有した形状に形成され、
前記第1支持部材の前記挟持要素は、一方の前記並行部を挟み、
前記第2支持部材の前記挟持要素は、他方の前記並行部を挟み、
前記ガス導入管は、前記第1支持部材と前記第2支持部材との間を前記長手方向に延びる、熱触媒CVD用ユニット。
【請求項8】
前記ガス導入管は、前記挟持要素を超えて前記触媒線に隣接する位置まで前記長手方向に延び、
前記ガス導入管の先端部の内径は、前記挟持要素の位置における内径と比べて大きい、
請求項
7に記載の熱触媒CVD用ユニット。
【請求項9】
前記先端部は、前記ガス導入管の本体に対して着脱可能に設けられる、
請求項
8に記載の熱触媒CVD用ユニット。
【請求項10】
前記先端部の少なくとも一部は、前記本体の外周部を覆っている、
請求項
9に記載の熱触媒CVD用ユニット。
【請求項11】
請求項1から
5のいずれか一項に記載の触媒線支持部材としての第1支持部材および第2支持部材と、
前記原料ガスを前記触媒線の周囲に導入するガス導入管と、
前記触媒線、前記触媒線支持部材、および前記被処理物を収容可能なチャンバと、
前記チャンバから外部へと吸引により気体が流出する排気経路と、を備え、
前記触媒線は、一対の並行部を有した形状に形成され、
前記第1支持部材の前記挟持要素は、一方の前記並行部を挟み、
前記第2支持部材の前記挟持要素は、他方の前記並行部を挟み、
前記ガス導入管は、前記第1支持部材と前記第2支持部材との間を前記長手方向に延びる、成膜装置。
【請求項12】
前記被処理物は、ボトル状の容器であり、
前記第1支持部材、前記第2支持部材、および前記ガス導入管は、前記容器の口部を通じて前記容器の内側に挿入される、請求項
11に記載の成膜装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、熱触媒CVD法による物品への成膜に用いられる触媒線を支持する支持部材、支持部材に対して触媒線を挿抜するための挿抜用治具、触媒線の支持部材およびガス導入管を備えた熱触媒CVD用ユニット、および触媒線の支持部材を備えた成膜装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、プラズマCVDに対して生産効率を向上させることが可能な成膜技術として、触媒化学気相成長(Cat-CVD;Catalytic Chemical Vapor Deposition)法の実用化が検討されている(特許文献1)。以下、触媒化学気相成長法のことを熱触媒CVD法と称する。
熱触媒CVD法は、例えば2,000℃に加熱される触媒線を使用する。触媒線は、タンタル基合金や炭化タンタル等の通電により発熱する抵抗体である。
熱触媒CVD法では、発熱した触媒線に原料ガスを接触させ、触媒線の表面で接触分解反応により原料ガスを分解し、原料ガスの分解により得られた活性種を被処理物に堆積させる。
【0003】
特許文献1は、タンタルを主構成元素として含む触媒線が挿入されたボトル状の樹脂製容器の内側に、酸素ガスが添加された有機シラン系化合物を原料ガスとして導入し、容器の内部に成膜する技術を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
触媒線は、その両端部を支持するソケットから突出した部分が例えば容器内壁等の成膜対象に対向して配置され、通電により加熱されると、原料ガスとの接触により活性種を発生させる。触媒線の両端部はそれぞれ、ソケットの支持部にねじ等で固定されることにより、支持部材の半割部の間に拘束されている。成膜処理毎に触媒線の熱膨張が繰り返される。熱膨張により触媒線に過大な応力が作用することを避けつつ、支持部に触媒線を安定して支持したい。
以上より、本開示は、熱膨張による過大な応力が触媒線に作用することを避けつつ、触媒線を安定して支持可能な支持部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係る触媒線支持部材は、大気圧に対して減圧された雰囲気下、被処理物への成膜にあたり原料ガスの接触分解反応の触媒として用いられる触媒線を支持する部材であって、触媒線を長手方向の端部から所定の範囲に亘り挟む挟持要素と、弾性体を含み、弾性体の弾性力により、触媒線を挟む挟持方向への力を挟持要素に与える挟持力付与要素と、を備える。
【0007】
本開示に係る触媒線挿抜用治具は、上述の触媒線支持部材に対して触媒線を挿抜させるための治具であって、長手方向に対して直交する受入方向から挟持要素を受け入れ可能な受容溝と、受入方向に沿って配置される板状の基体と、を備える。基体は、受入方向に移動されると、基体に形成された斜面が係合する筒状体と、挟持要素との間に弾性力に抗して押し込まれる。
【0008】
本開示に係る熱触媒CVD用ユニットは、上述の触媒線支持部材としての第1支持部材および第2支持部材と、第1支持部材および第2支持部材と共に一体化され、原料ガスを触媒線の周囲に導入するガス導入管と、を備える。
触媒線は、一対の並行部を有した形状に形成される。
第1支持部材の挟持要素は、一方の並行部を挟む。
第2支持部材の挟持要素は、他方の並行部を挟む。
ガス導入管は、第1支持部材と第2支持部材との間を長手方向に延びる。
【0009】
本開示に係る成膜装置は、上述の触媒線支持部材としての第1支持部材および第2支持部材と、原料ガスを触媒線の周囲に導入するガス導入管と、触媒線、触媒線支持部材、および被処理物を収容可能なチャンバと、チャンバから外部へと吸引により気体が流出する排気経路と、を備える。
触媒線は、一対の並行部を有した形状に形成される。
第1支持部材の挟持要素は、一方の並行部を挟む。
第2支持部材の挟持要素は、他方の並行部を挟む。
ガス導入管は、第1支持部材と第2支持部材との間を長手方向に延びる。
【発明の効果】
【0010】
本開示の触媒線支持部材およびそれを備えた熱触媒CVD用ユニット並びに成膜装置によれば、触媒線支持部材が触媒線の熱膨張に追従して弾性変形可能な弾性体を含むことにより、触媒線の熱膨張時に挟持要素による触媒線への締め付けを緩和しつつ、弾性力により触媒線と挟持要素との電気的接続を確保しながら、触媒線に過大な応力を作用させることなく、触媒線を安定して支持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】第1実施形態に係る熱触媒CVD法による成膜装置を示す図である。
【
図2】
図1の部分拡大図であり、一対の触媒線支持部材を示している。
【
図4】触媒線支持部材の作用を説明するための図である。
【
図6A】支持部材から触媒線を挿抜するために治具が用いられる様子を示す図である。
【
図6B】挿抜用治具を示す平面図および側面図である。
【
図7】第2実施形態に係る熱触媒CVD用ユニットに備わるガス導入管の先端部および本体を示す外観図である。
【
図8A】
図7に示すガス導入管の先端部および本体を示す縦断面図である。
【
図8B】ガス導入管の先端部および本体の変形例を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照しながら、実施形態について説明する。
[第1実施形態]
〔成膜装置の概略構成〕
図1に示す成膜装置1は、加熱される触媒線3を原料ガスの接触分解反応の触媒として用いる熱触媒CVD(Cat-CVD;Catalytic Chemical Vapor Deposition)法により、ガスバリア性を有する薄膜を被処理物の一例としての容器2に形成する。
【0013】
成膜装置1は、通電により発熱する触媒線3と、折り曲げられた触媒線3の端部31,32を弾性的に支持する触媒線支持部としての一対の支持部材10と、触媒線3、支持部材10、および容器2を収容するチャンバ4と、ガス導入管5と、排気経路6とを備えている。
【0014】
〔容器〕
容器2(
図1)は、例えばPET(ポリエチレンテレフタレート)等の樹脂材料からボトル状に形成されている。容器2は、底部21から筒状に立ち上がる胴部22と、胴部22に対して径が小さい首部23および口部24とを備えている。
容器2の内表面に成膜するため、成膜時には、口部24を通じて容器2の内側に少なくとも触媒線3および支持部材10が挿入される。
【0015】
成膜処理の後、容器2の内部への例えば飲料の充填処理、続いて口部24に装着される図示しない蓋による容器2の密封処理を経て、容器入り製品が製造される。成膜装置1により容器2の内表面に形成される薄膜(以下、ガスバリア膜)は、酸素ガスや炭酸ガス、水蒸気等の気体の通過を防ぐガスバリア性を有するから、容器2に入れられた内容物の品質が保持される。
【0016】
〔触媒線〕
触媒線3(
図1および
図2)は、例えば、金属タンタル(Ta)、タンタル基合金または炭化タンタル(TaC
x)等を用いて形成されている。
触媒線3は、第1端部31および第2端部32を有する一本のワイヤに相当する。触媒線3は、折り曲げ部3Cにおいて折り曲げられることで、所定間隔をおいて平行に延びる一対の並行部3A,3Bを有したU字の形状をなしている。
なお、触媒線3は、ガス導入管5と干渉しない限り、複数箇所で折り曲げられることにより、並行部3Aと並行部3Bとの間に他の1つ以上の並行部を有していてもよい。
【0017】
図1に示す例では、触媒線3の両端部31,32がそれぞれ、チャンバ4の下壁42から起立した支持部材10の上端部に支持されている。並行部3A,3Bは、支持部材10により支持された長手方向D1の端部31,32から、上端に相当する折り曲げ部3Cに向けて、一方向に平行に延びている。
図1に示す触媒線3は、チャンバ4の軸線4Xの近傍で、軸線4Xに対して平行に配置されている。本実施形態において、軸線4Xは、上下方向(鉛直方向)に設定されているから、触媒線3の長手方向は上下方向に一致する。
【0018】
触媒線3がタンタルを主たる構成元素として含む場合、原料ガスとしては、例えば、有機シラン系化合物等を用いることができる。その場合、原料ガスに酸素ガスが添加されることが好ましい。有機シラン系化合物の一例として、ビニルシラン(CH2=CH-SiH3)を例示できる。
【0019】
触媒線3の並行部3A,3Bは、支持部材10を介して、絶縁体18Cに設けられた端子191,192に接続されている。それらの端子191,192に接続された電線193を通じて、成膜処理時には電源装置20により触媒線3に直流電流が印加される。直流電流の印加により、触媒線3は、例えば約2,000℃に発熱する。触媒線3は、成膜処理毎に熱膨張を繰り返す。
【0020】
発熱した触媒線3と接触した原料ガスの分解により、活性種が発生し、容器2に到達した活性種が容器2の内表面に堆積することで、ガスバリア膜が形成される。触媒線3から活性種が到達可能な領域(成膜可能領域)は、触媒線3から、触媒線3に対して直交する方向に所定距離だけ離れた位置までのほぼ円筒状の空間に相当する。
【0021】
触媒線3と容器2の内表面との間には、少なくとも、容器2と触媒線3との干渉を避け、かつ触媒線3から放射される熱による容器2への影響を避けるためのクリアランス分の距離が確保される。通電時における触媒線3の周囲の雰囲気は、所定の真空度まで減圧されるため、基本的には触媒線3からの放射熱のみを考慮した距離を触媒線3と容器2との間に確保することにより、成膜時の熱による樹脂製の容器2の変形を避けることができる。
【0022】
図1に示す例では、触媒線3および支持部材10に対して、口部24を下方に向けた倒立姿勢の容器2が昇降可能に構成されている。
例えば、一点鎖線で示すように容器2の胴部22が触媒線3の周りに配置されており、首部23および口部24が支持部材10の周りに配置されている状態から、口部24の近傍に設けられた鍔を把持する容器把持部7が矢印で示すように上方へ駆動されることにより、容器2が二点鎖線で示す位置へと上昇すると、二点鎖線で示すように首部23および口部24が触媒線3の周りに配置される。
こうした触媒線3に対する容器2の相対変位により、折り曲げられた状態の長さが容器2の高さに対して短い触媒線3を用いつつ、容器2の内部の全域に亘り成膜することができる。また、触媒線3に対して容器2を触媒線3の長手方向D1に変位させることで、容器2を含め、高さの異なる複数種類の容器への成膜に同一の成膜装置1を用いることができる。
【0023】
上記構造とは異なり、二点鎖線で示す位置に容器2が配置されているときに、触媒線3が、容器2の高さ方向のほぼ全体に亘り延びていてもよい。その場合は、容器2を昇降させる必要はない。
倒立姿勢の容器2に対して成膜することによれば、成膜時に発生するダストが容器2の内側に入り難い。
但し、成膜中の容器2の姿勢に制約はなく、正立姿勢に保持された状態で容器2への成膜が行われてもよい。その場合、触媒線3が上方から口部24を通じて容器2内に挿入される。
【0024】
〔支持部材の概要〕
図1および
図2に示すように、触媒線3の並行部3Aの端部31は、第1支持部材10-1に支持され、並行部3Bの端部32は、第2支持部材10-2に支持される。第1支持部材10-1および第2支持部材10-2を特に区別しない場合、第1支持部材10-1および第2支持部材10-2のそれぞれを単に支持部材10と称する。
【0025】
支持部材10は、少なくとも、挟持要素111および挟持力付与要素12を備えている。挟持要素111は、触媒線3を端部(端部31または端部32)から長手方向D1へ所定の範囲3Rに亘り挟む。この挟持範囲3Rの長手方向D1への長さは、触媒線3を安定して支持可能な長さに設定されている。
挟持力付与要素12は、コイルばね121の弾性力により、触媒線3を挟む挟持方向D2への力を挟持要素111に与える。支持部材10の詳細な構成は後述する。
【0026】
〔チャンバ〕
チャンバ4(
図1)は、上壁41、下壁42、および側壁43からなるチャンバ部材40により、円筒状に区画されている。
チャンバ部材40は、適宜な金属材料を用いて形成することができる。
【0027】
チャンバ部材40は、容器2を出し入れするため、上部40Uと下部40Lとに分割されており、上部40Uと下部40Lとの間が開閉可能に構成されている。上部40Uの端面と下部40Lの端面との間は、環状シール44により封止される。成膜時にチャンバ4は大気圧に対して減圧される。
【0028】
図示しない昇降機構により下部40Lに対して上部40Uが上昇することで、上部40Uと下部40Lとの間が開かれると、例えば、図示しないロボットアーム等により倒立の姿勢に支持された容器2が容器把持部7まで移動し、容器把持部7により容器2が把持される。
【0029】
チャンバ4の減圧に要する時間の短縮、および成膜のためチャンバ4に必要な原料ガスの使用量を抑える観点から、容器2のサイズに対してチャンバ部材40が大き過ぎる場合は、チャンバ4の容積を減らすために、チャンバ部材40の内壁に図示しないライナを配置することが好ましい。
【0030】
〔ガス導入管〕
ガス導入管5は、触媒線3の長手方向D1に対して平行に配置され、触媒線3および一対の支持部材10(10-1,10-2)と共に口部24から容器2の内側に挿入される。ガス導入管5は、供給源5Sから供給される原料ガスを容器2の内側に位置する吐出口50Aから触媒線3の周囲に導入する。ガス導入管5は、触媒線3の並行部3A,3Bの間に配置されることが好ましい。
【0031】
触媒線3の近傍に配置されるガス導入管5の変形を避けるため、ガス導入管5には、成膜時に触媒線3から放射される熱に耐えるセラミックス材料や耐熱金属等の耐熱性の高い材料から形成されている。ガス導入管5は、例えば、石英ガラス、あるいはモリブデンから形成されている。
【0032】
ガス導入管5は、同じく長手方向D1に対して平行に延びる一対の支持部材10と共に一体化されることが好ましい。この場合、一対の支持部材10とガス導入管5とを備えた熱触媒CVD用ユニット100が構成されている。
ガス導入管5と一対の支持部材10のそれぞれとの間には、部材の熱膨張を見込んだクリアランスが設定されることが好ましい。
図1に示すCVD用ユニット100は、一対の支持部材10およびガス導入管5を支持する基部18を備えている。基部18は、例えば銅から形成された基部電極18A,18Bと、絶縁体18Cとを含んでおり、下壁42に設置される。熱触媒CVD用ユニット100は、一対の支持部材10およびガス導入管5を結束する部材を備えていてもよい。
【0033】
図1に示す例では、ガス導入管5が、下壁42の軸心位置で絶縁体18Cと、基部電極18A,18Bの間とを貫通し、一対の支持部材10の間を上方へ延び、さらに、触媒線3の並行部3A,3Bの間を上方へ延びている。ガス導入管5の長さは、成膜する容器2の高さ等に応じて適宜に定めることができる。
【0034】
熱触媒CVD用ユニット100は、容器2等の被処理物の外表面への成膜に適用することもできる。その場合、単数または複数の被処理物と共に触媒線3を収容するチャンバ4に、チャンバ4に通じるガス導入経路を通じて原料ガスが導入される。
被処理物の外表面に成膜する場合、ガス導入管5が必ずしも並行部3A,3Bの間を延びている必要はない。ガス導入管5に代えて、原料ガスをチャンバ4に導入するガス導入経路が、例えば下壁42に形成されていれば足りる。その場合は、一対の支持部材10が一体に組み付けられてユニット化されていてもよい。
【0035】
被処理物としては、樹脂材料から形成されたものに限らず、他の材料、例えば、金属材料から形成されたものであってもよく、例えば、金属製のボトル状の缶であってもよい。使用する原料ガスに応じて、例えば、耐摩耗性を有する薄膜を被処理物に形成することも実現可能である。
【0036】
〔排気経路〕
チャンバ部材40の側壁43には、排気装置6Sに接続された排気経路6が設けられている。排気装置6Sは、真空ポンプ、真空タンク、真空バルブ、および圧力計等を含んで構成されている。この排気装置6Sの作動により、排気経路6を通じてチャンバ4から外部へと気体が吸引されることで、チャンバ4が所定の真空度まで減圧される。
【0037】
〔支持部材の詳細〕
次に、
図1~
図4を参照し、一対の支持部材10(10-1,10-2)の構成を説明する。一対の支持部材10はそれぞれ、触媒線3を弾性的に支持する。
以下、触媒線3の端部31に対応する第1支持部材10-1を例に取り説明する。触媒線3の端部32に対応する第2支持部材10-2は、第1支持部材10-1と同様に構成されている。これらの支持部材10-1,10-2のいずれも、触媒線3の長手方向D1に沿って延びている。
【0038】
第1支持部材10-1は、挟持要素111を含むソケット11と、コイルばね121、筒状体122、および第1カラー123を含む挟持力付与要素12と、ソケット11が装着される棒電極15と、ボルト16およびナット17とを備えている。
第1支持部材10-1は、触媒線3の熱膨張に追従可能に、触媒線3をコイルばね121の弾性力により挟んだ状態に支持する。第1支持部材10-1の各構成要素には、発熱した触媒線3から伝わる熱の勾配に応じて、適切な材質が選定される。
【0039】
触媒線3から発せられる熱が、触媒線3を挟持する挟持要素111に直接的に伝達され、挟持要素111から筒状体122へと熱が伝導する。そのため、少なくとも挟持要素111および筒状体122には、触媒線3から伝わる熱に対する耐熱性を有した材料が選定される。加えて、コイルばね121を許容温度以下に維持するため、熱伝導率が金属材料と比べて十分に低い材料から形成される断熱要素としての第1カラー123を筒状体122とコイルばね121との間に介在させている。
【0040】
<ソケット>
ソケット11は、全体として概ね横断面が円形の棒状に形成されており、触媒線3の端部31から離れる向きに長手方向D1に沿って延在している。また、ソケット11は、筒状体122に係合される斜面11Sよりも下方の領域である小径部dAと、斜面11Sよりも上方の領域である大径部dBとを含んでいる。
【0041】
このソケット11は、触媒線3を長手方向D1の端部31から挟持範囲3Rに亘り挟む挟持要素111と、挟持要素111から下方に連なり、棒電極15に装着される装着要素112とを含んでいる。ソケット11および棒電極15は、触媒線3に通電するための電極に相当する。ソケット11および棒電極15が一体に形成されていてもよい。
【0042】
ソケット11は、発熱した触媒線3から直接的に伝達される熱に対する耐熱性を有した材料を用いて一体に形成されている。触媒線3に近い筒状体122にも、ソケット11と同等の耐熱性が要求される。ソケット11および筒状体122は、例えば、導電性、強度、および耐熱性を有する金属(モリブデン合金等)を用いて形成することができる。
【0043】
(挟持要素)
挟持要素111は、一対の半割部111A,111Bからなる。半割部111A,111Bは、ソケット11の上端11Uから下方へ触媒線3の長手方向D1に対して平行に延び、触媒線3を挟持範囲3Rに亘り触媒線3の径方向の両側から挟む。半割部111A,111Bが挟持範囲3Rを挟む方向のことを挟持方向D2と称する。挟持方向D2は、触媒線3の長手方向D1に対して直交する。
半割部111A,111Bの間には、触媒線3の直径に対応する幅の間隙が、挟持範囲3Rの長さとほぼ同じ長さに亘り形成されている。
【0044】
図2に示すように、第1支持部材10-1の半割部111A,111Bの分割位置の位相と、第2支持部材10-2の半割部111A,111Bの分割位置の位相とが一致していると、触媒線3を安定した姿勢に支持する観点から好ましい。分割位置の位相が一致していると、第1支持部材10-1および第2支持部材10-2のそれぞれにおける挟持方向D2が互いに平行である。
さらに、本実施形態においては、第1支持部材10-1の挟持要素111と第2支持部材10-2の挟持要素111とが挟持方向D2に並んでいる。
【0045】
半割部111A,111Bは、挟持力付与要素12により付与される挟持力により触媒線3を挟持方向D2に締め付けつつ、触媒線3の熱膨張に追従して径方向外側へ拡がる。
半割部111A,111Bの基端には、応力集中によるソケット11の破損を防ぐため、側面視において円形状の孔11Hが、長手方向D1および挟持方向D2の双方に対して直交する方向に貫通している。
【0046】
挟持要素111の外周部には、ソケット11の上端11Uに向かうにつれて次第に外径が増加する斜面11Sが周方向に連続して形成されている。この斜面11Sよりも下方の小径部dAの外径に対して、斜面11Sよりも上方の大径部dBの外径は大きい。小径部dAは、斜面11Sの下端から、ソケット11の下端部11Lまでに亘り延在している。
【0047】
挟持要素111の質量を大径化により増加させると、熱容量を増加させて変形や溶損をより十分に防ぐ上で有利である。本実施形態の大径部dBの外径は、触媒線3が露出する上端11U側では最大径部dCの径にまで拡大されている。
【0048】
(装着部)
装着要素112は、横断面が円形の棒状に形成され、ソケット11の下端部11Lまで延びている。装着要素112の下端部11L側は、棒電極15の上端15Uから長手方向D1に沿って、棒電極15の軸心に形成された固定孔15Aに挿入される。装着要素112と棒電極15とは、それらを径方向に貫通する貫通孔15Bに挿入されるボルト16と、ボルト16に係合するナット17とを用いて固定される。
棒電極15は、ソケット11と同軸に棒状に形成されている。棒電極15の下端部15Lは、基部電極18Aに図示しないボルトを用いて締結される。
【0049】
支持部材10には、ソケット11、棒電極15、および挟持力付与要素12の各構成部材の全体に亘り、一定の外径が与えられている。
【0050】
<挟持力付与要素>
挟持力付与要素12は、弾性体としてのコイルばね121と、挟持要素111とコイルばね121との長手方向D1の間に介在する筒状体122と、筒状体122とコイルばね121との長手方向D1の間に介在する断熱要素としての第1カラー123と、第1カラー123と共にコイルばね121を保持する第2カラー124とを含んでいる。挟持要素111および筒状体122は共にくさび構造をなしている。
本実施形態の支持部材10は、細径化に適するくさび構造を挟持力付与要素12に採用する。
【0051】
コイルばね121、筒状体122、第1カラー123、および第2カラー124は、上述のソケット11の小径部dAの周りに配置されている。ソケット11の部位で言えば、筒状体122および第1カラー123が挟持要素111の周りに配置され、第2カラー124は装着要素112の周りに配置されている。コイルばね121の上側は、挟持要素111の周りに配置され、コイルばね121の下側は、装着要素112の周りに配置されている。
【0052】
(コイルばね)
コイルばね121は、圧縮コイルばねであり、長手方向D1に作用する弾性力により筒状体122を挟持要素111に対して押圧する。コイルばね121の上端部は、第1カラー123の保持部123Aに係合し、コイルばね121の下端部は、第2カラー124の保持部124Aに係合する。
【0053】
コイルばね121は、保持部123A,124Aにより、コイルばね121の内側に通された小径部dAとの間に空隙が存在する状態に、ソケット11と同軸に配置される。そのため、小径部dAはコイルばね121に干渉しない。また、空隙の存在により、小径部dAからコイルばね121への熱伝導が抑制される。
【0054】
(筒状体)
筒状体122は、挟持要素111と共に、コイルばね121の長手方向D1への弾性力F1(
図4)を挟持方向D2への挟持力F2(
図4)へと変換する。くさび構造をなす挟持要素111および筒状体122が力変換部12Fに相当する。挟持要素111は力変換部12Fを兼ねている。
筒状体122の内周部には、挟持要素111の斜面11Sに突き当てられて係合する斜面122Sが周方向に連続して形成されている。
斜面122Sは、筒状体122の上端122Uに向かうにつれて次第に内径が増加する。
【0055】
筒状体122は、コイルばね121により押圧されると、斜面122S,11Sに作用する分力(F2)により挟持要素111を挟持方向D2に加圧する。
コイルばね121および筒状体122により挟持力F2が付与される挟持要素111によって、触媒線3が挟持方向D2に締め付けられることで、触媒線3がソケット11に電気的に接続されるとともに固定される。
【0056】
挟持要素111に挟まれた触媒線3の膨張および収縮による径の変動に伴い、筒状体122は、小径部dAによりガイドされつつ、斜面122Sを斜面11Sに係合させつつ、ソケット11に対して長手方向D1に相対変位する。
例えば、触媒線3の熱膨張による径の拡大によって半割部111A,111Bの間が径方向外側に向けて拡がると、斜面122S,11Sに作用する分力により筒状体122がコイルばね121を押し下げながらソケット11に対して下方へ変位する。
【0057】
筒状体122および挟持要素111には、相対変位範囲に亘り斜面122S,11Sを係合させるに足りる高さおよび径方向の寸法が与えられている。これは、筒状体122および挟持要素111の熱容量の確保に寄与するとともに、挟持要素111に弾性力を安定して伝達することにも寄与する。
上述した挟持要素111の外径は、小径部dAから斜面11Sを経て大径部dBの径にまで増加し、さらに、最大径部dCの径にまで増加している。最大径部dCは、挟持要素111において筒状体122と干渉しない領域に設定されており、筒状体122の外径と同等あるいはそれよりも大きい径に形成されている。
【0058】
(第1カラー)
第1カラー123は、挟持要素111および筒状体122からコイルばね121への熱伝導を抑制する断熱要素に相当する。
【0059】
第1カラー123は、触媒線3から挟持要素111および筒状体122を介して伝わる熱に対する耐熱性を有するとともに熱伝導率が典型的な金属材料に比べて十分に低いセラミック材料を用いて筒状に形成されている。
【0060】
この第1カラー123は、コイルばね121の弾性力を、筒状体122を介して挟持要素111へと伝達する。第1カラー123には、筒状体122を確実に押すために必要な剛性が確保されている。
【0061】
触媒線3から発せられる熱の伝導が第1カラー123により抑制されることで、コイルばね121は、ソケット11や筒状体122に使用されるモリブデン等の耐熱金属よりも耐熱温度の低いばね材を用いて形成することができる。コイルばね121は、例えば、インコネル(登録商標)600,X-750等のニッケル基合金を用いて形成されている。コイルばね121に伝わる熱の温度によっては、SUS631J1-WPC等のステンレス鋼を用いることもできる。
触媒線3から2,000℃の熱が発せられたとしても、挟持要素111とコイルばね121との間に第1カラー123が介在していることで、コイルばね121を使用上許容される温度以下に維持することができる。
【0062】
(第2カラー)
第2カラー124は、第1カラー123等と比べると発熱源である触媒線3から離れており、また、第2カラー124と発熱源との間には断熱要素としての第1カラー123が介在している。そのため、第2カラー124に要求される耐熱温度は、第1カラー123やコイルばね121と比べて低い。したがって、第2カラー124は、例えば、ステンレス鋼等の適宜な金属材料を用いて形成することができる。同様の理由から、第2カラー124が上端15Uに配置される棒電極15も、例えば、ステンレス鋼等の適宜な金属材料を用いて形成することができる。
【0063】
本実施形態では、第1カラー123および第2カラー124の部品の共通化を図る観点から、第2カラー124は、第1カラー123と同様の石英ガラス等の材料を用いて、第1カラー123と同一の形状に形成されている。
【0064】
支持部材10を組み立てる際は、
図3に示すように、ソケット11の下端部11Lから、筒状体122、第1カラー123、コイルばね121、および第2カラー124をこの順序で挟持要素111および装着要素112に通し、装着要素112を棒電極15の固定孔15Aに挿入する。そして、ボルト16およびナット17により装着要素112を棒電極15に固定すると、コイルばね121が圧縮方向に弾性変形し、その弾性力が筒状体122を介して挟持要素111に作用させる挟持力によって触媒線3を弾性的に支持可能となる。
【0065】
図5は、変形例に係る支持部材10-3を示している。支持部材10-3に備わる筒状体125は、熱伝導率が金属材料と比べて十分に低い材料、例えば、セラミック材料から形成されている。この筒状体125は、挟持要素111からコイルばね121への熱伝導を抑える断熱要素を兼ねる。そうすると、支持部材10-3は第1カラー123(
図4)を備える必要がないから、部品点数を減らすことが可能となる。
【0066】
さらに、棒電極15の上端15Uにコイルばね112の下端部と係合する保持部を形成するならば、第2カラー124も必要ない。
【0067】
〔成膜処理の方法〕
成膜装置1により容器2に成膜する手順の一例を簡単に説明する。
熱触媒CVD用ユニット100が設置されたチャンバ部材40により区画されるチャンバ4に容器2を供給するステップの後、排気経路6を通じた吸引によりチャンバ4の雰囲気を所定の真空度まで減圧させる減圧ステップを行う。このとき容器2の内側には、触媒線3と、触媒線3を支持する第1支持部材10-1および第2支持部材10-2と、ガス導入管5とが挿入されており、口部24を通じて容器2の内部の圧力も真空化する。
ここで、各支持部材10-1,10-2およびガス導入管5の全体として、口部24の内径に対して細いため、口部24から容器2の内側に触媒線3、各支持部材10-1,10-2、およびガス導入管5をスムーズに挿入することができる。
【0068】
減圧のステップに続いて、ガス導入管5を通じて原料ガスを容器2の内側に導入するステップを行う。排気ステップおよび原料ガス導入ステップは、原料ガスの流量を調整可能な流量弁5V(
図1)や、排気装置6Sに備わる圧力計を用いて、導入される原料ガスの流量およびチャンバ4の圧力を所定の値に制御しながら行われることが好ましい。
さらに、触媒線3に直流電流を所定時間に亘り印加するステップを行う。このとき、発熱した触媒線3と接触した原料ガスの分解により発生した活性種が容器2の内壁に付着することで、容器2にガスバリア膜が形成される。ガスバリア膜が施された容器2をチャンバ4から取り出し、チャンバ4に供給された容器2に対して上記と同様のステップにより次回の成膜処理を行う。
【0069】
〔支持部材および成膜装置による作用効果〕
図4に、通電時の熱膨張によって触媒線3の径が拡大する様子を矢印A1で示している。支持部材10によれば、触媒線3の熱膨張による径の増大に追従して半割部111A,111Bの間を径方向(A1)に拡げつつ、筒状体122を押し上げるコイルばね121の弾性力F1により触媒線3と挟持要素111との電気的接続に必要な挟持方向D2への接触圧力を維持しながら、触媒線3に過大な応力を作用させることなく、触媒線3を安定して支持することができる。
【0070】
成膜装置1の第1支持部材10-1および第2支持部材10-2により触媒線3が支持された状態で、容器2の内部への成膜処理を規定回数繰り返して行う成膜処理試験を実施した。当該試験によれば、触媒線3に折損が発生することなく、同一の触媒線3を用いて数万回に亘る成膜処理を完了することができた。この試験結果は、熱膨張した触媒線3の径の拡大に伴い挟持力F2が適切に制御されることで、挟持要素111の上方に露出した触媒線3の根元等への応力集中が回避されることを意味している。
コイルばね121のばね定数の選定により挟持力F2を容易に調整可能である。
【0071】
上記試験結果によれば、従来例の如く挟持部により触媒線をリジッドに拘束した場合の成膜処理試験の結果が示す回数(数千回)の少なくとも10倍もの回数に亘り、触媒線3の寿命を確保できる。
また、触媒線3の熱膨張に追従して挟持力F2が適切に制御されることにより、チャンバ4および容器2の軸線に対して触媒線3の並行部3A,3Bが平行な姿勢を維持し、所定の位置に触媒線3が配置された状態で成膜が行われるため、ガスバリア膜の厚さや品質を安定させることができる。
上記試験において、挟持要素111、筒状体122、およびコイルばね121等に変形や溶損は見られなかった。
【0072】
触媒線3の熱膨張に追従して変位しつつ触媒線3を挟持方向D2に加圧する構造は、本実施形態に限らず、弾性体を含む適宜な構造により実現可能である。
例えば、挟持要素の斜面を上方に向けて形成し、その斜面に上方から係合する斜面を筒状体に与えることによっても、コイルばね121の弾性力を筒状体により挟持方向D2への力に変換するくさび構造を具備することができる。
最も簡素な構造としては、弾性力により触媒線3を挟持する弾性体としてのクリップを採用することができる。クリップは、挟持要素と挟持力付与要素とを兼ねる。
【0073】
〔挿抜用治具〕
挟持要素111の半割部111A,111Bの間に触媒線3を挿入する、あるいは半割部111A,111Bの間から触媒線3を抜き取る際は、挟持要素111に対して筒状体122を押し下げ、半割部111A,111Bの間を触媒線3の直径に対して広げる。つまり、挟持要素111および挟持力付与要素12による触媒線3への締め付けが緩い状態で、触媒線3を挟持要素111に対して挿抜する。
【0074】
上記挿抜作業を行うために、例えば
図6Aおよび
図6Bに示すような挿抜用治具8(触媒線挿抜用治具)を用いることができる。一対の支持部材10を横断する方向に挿抜用治具8を移動させる操作により、締め付けが緩い状態を保ち、一対の支持部材10の双方から一度に触媒線3を抜き取ったり、双方に一度に触媒線3を挿入したりすることができる。
【0075】
挿抜用治具8は、板状の基体81と、基体81に切欠状に形成され、一対の支持部材10の挟持要素111のいずれをも受け入れる受容溝82とを備えている。
【0076】
基体81は、受容溝82が各支持部材10の挟持要素111を受け入れる受入方向D3に沿って配置される。受入方向D3は、触媒線3の長手方向D1に対して直交する一方向に相当する。
挿抜用治具8により支持部材10の双方を一度に触媒線3に対して緩める限り、受入方向D3は、各支持部材の挟持要素111が並ぶ方向(並行部3A,3Bが並ぶ方向に同じ)に相当する。
【0077】
受容溝82は、受入方向D3における基体81の一端81Aから他端81Bに向けて受入方向D3に沿って延びている。受容溝82は、平面視においてU字状に形成されている。受容溝82の幅Wは、挟持要素111の小径部dAの外径に対応する寸法に設定されている。
基体81の一端81Aには、基体81の厚さ方向に対して傾斜した斜面81Cが形成されている。
【0078】
挿抜用治具8を使用する際は、
図2に挿抜用治具8を二点鎖線で示すように、挟持要素111の最大径部dCと筒状体122との間の隙間Gに挿抜用治具8の一端を押し込み、斜面81Cを筒状体122の上端縁に係合させる。そして、受容溝82に各支持部材10の挟持要素111を受け入れつつ、挿抜用治具8を受入方向D3に沿って移動させながら、
図6Aに示すように、筒状体122と最大径部dCとの間に基体81をコイルばね121の弾性力に抗して押し込む。
このとき、最大径部dCの下端により支えられた基体81の斜面81Cに発生する分力によって筒状体122が基体81の厚さの分だけ弾性力に抗して押し下げられ、半割部111A,111Bによる触媒線3への締め付けが緩むので、触媒線3を挟持要素111に対して挿抜可能となる。
【0079】
挟持要素111と筒状体122との間に押し込まれた基体81により、一対の支持部材10の双方において筒状体122が挟持要素111に対して押し下げられた状態が維持されるので、挿抜用治具8を使用しない場合と比べて触媒線3の挿抜を伴う交換作業が容易である。
一対の支持部材10のいずれか一方のみに対する挿抜で足りる場合は、挿抜用治具8により、一方の筒状体122を押し下げればよい。一対の支持部材10に対して個別に挿抜用治具8を使用できることは言うまでもない。一対の支持部材10に対して、専ら個別に使用される場合、受容溝82の長さは、一方の支持部材10に対応する寸法で足りる。
【0080】
[第2実施形態]
次に、
図1、
図7、
図8A、および
図8Bを参照し、触媒線3の周囲に原料ガスを導入するガス導入管の閉塞に対処可能な構造を開示する。
以下、第1実施形態と相違する事項を中心に説明する。第1実施形態と同様の構成要素には同じ符号を付している。
第2実施形態は、発熱した触媒線3と原料ガスとの接触分解反応により発生した活性種、あるいはダストのガス導入管の先端部への堆積により、ガス導入管の吐出口が狭くなったり、塞がれたりすることを軽減することを目的とする。なお、「ダスト」は、成膜対象物への成膜に至らなかった、原料ガスに由来する粉末のことを言う。
【0081】
図7は、ガス導入管50と、触媒線3を支持する一対の支持部材10とを含む熱触媒CVD用ユニット500の一部を拡大して示している。熱触媒CVD用ユニット500は、成膜装置1(
図1)に具備されている。
ガス導入管50の閉塞を軽減する目的からは、支持部材10とは異なる部材により触媒線3が支持されていてもよい。その場合、ガス導入管5は、必ずしも触媒線3の長手方向D1には延びていない。
【0082】
ガス導入管50は、挟持要素111を上方に超えて触媒線3に隣接する位置まで一対の支持部材10の間を長手方向D1に延びている。ガス導入管50は、上述したガス導入管5と同様に、触媒線3から放射される熱に耐えるセラミックス材料や耐熱金属等の耐熱性の高い材料から形成されている。ガス導入管50は、例えば、石英ガラス、あるいはモリブデンから形成されている。
【0083】
ガス導入管50の吐出口50Bの閉塞を軽減するため、
図8Aに示すように、ガス導入管50の先端部51の内径φ1は、挟持要素111(
図7)の位置における内径に相当するφ2と比べて拡大されている。
先端部51は、挟持要素111から上方に、触媒線3のすぐ隣に露出しているため、活性種やダストが堆積しやすいところ、その内径が拡大されているため、成膜処理が繰り返されても、吐出口50Bの閉塞には至り難い。そのため、ガス導入管50のメンテナンスや交換が必要になるまでの時間を延ばし、生産性を向上させることができる。
ガス導入管50の径は、支持部材10の上端11Uから上方に触媒線3が突出する範囲において、触媒線3と干渉しない限りにおいて拡大することができる。
【0084】
さらに、ガス導入管50の先端部51は、ガス導入管50の本体52に対して着脱可能に設けられることが好ましい。ガス導入管50において活性種やダストが最も堆積するのは先端部51であるから、ガス導入管50における必要範囲のみの交換が可能となる。
先端部51と本体52とは、異なる材料から形成されていてもよい。
【0085】
先端部51は本体52に適宜な方法で接続することができる。仮に先端部51の径と本体52の径とが同じであるとしたならば、それらの端面を突き当て、締結により着脱可能に接続することが可能である。
【0086】
図7および
図8Aに示す例では、先端部51の内径が本体52の外径に対して大きいから、本体52の外周部の周りに先端部51が配置される。先端部51は、本体52の外周部に形成された支持突起52Aにより支持される。支持突起52Aは、本体52の全周に亘り設けられていても、周方向の一部に設けられていてもいずれでもよい。先端部51が本体52に緩く嵌合しているとしても、チャンバ4の雰囲気が所定の真空度にまで減圧されることにより、先端部51と本体52とが成膜中に位置ずれなく、十分に結合する。
【0087】
ここで、先端部51を本体52に接続するにあたり、いずれを内周側にして差し込んでもよいが、接続箇所への活性種やダストの堆積を防いで、先端部51と本体52との抜き差しが容易な状態に保つ観点からは、
図7および
図8Aに示すように、先端部51と本体52との間にできる開口53が下方を向くように、先端部51の少なくとも下側の範囲が本体52の外周部を覆っていることが好ましい。
【0088】
図8Bに示す例は、先端部54の吐出口50C側の内径を接続箇所の内径φ2に対して大きいφ3にまで拡大したものである。そうすることで、吐出口50Cをより一層閉塞し難くすることができる。
【0089】
以上で説明した以外にも、上記実施形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更したりすることが可能である。
【0090】
〔付記〕
以上で説明した触媒線支持部材、触媒線挿抜用治具、熱触媒CVD用ユニット、および成膜装置は、以下のように把握される。
(1)本開示の触媒線支持部材10は、大気圧に対して減圧された雰囲気下、被処理物2への成膜にあたり原料ガスの接触分解反応の触媒として用いられる触媒線を支持する部材であって、触媒線3を長手方向D1の端部から所定の範囲3Rに亘り挟む挟持要素111と、弾性体121を含み、弾性体121の弾性力により、触媒線3を挟む挟持方向D2への力を挟持要素111に与える挟持力付与要素12と、を備える。
(2)挟持力付与要素12は、弾性力を挟持要素111に向けて伝達し、かつ、挟持要素111から弾性体121への熱伝導を抑える断熱要素123を含む。
(3)挟持力付与要素12は、長手方向D1への弾性力を作用させる弾性体121と、弾性体121の長手方向D1への弾性力を挟持方向D2への力に変換する力変換部12Fと、を含む。
(4)弾性体121は、力変換部12Fを長手方向D1に押圧するコイルばね121に相当し、力変換部12Fは、挟持要素111と共にくさび構造をなす筒状体122に相当する。
(5)筒状体125は、挟持要素111からコイルばね121への熱伝導を抑える断熱要素を兼ねる。
(6)触媒線支持部材10は、挟持要素111を含み、触媒線3の端部から離れる向きに長手方向D1に沿って延在したソケット11と、ソケット11の周りに配置されるコイルばね121および筒状体122と、ソケット11の周りであって、コイルばね121と筒状体122との間に介在するセラミック材料から形成された断熱要素123と、を備える。
(7)本開示の触媒線挿抜用治具8は、上述の触媒線支持部材10に対して触媒線3を挿抜させるための治具であって、長手方向D1に対して直交する受入方向D3から挟持要素111を受け入れ可能な受容溝82と、受入方向D3に沿って配置される板状の基体81と、を備える。基体81は、受入方向D3に移動されると、基体81に形成された斜面81Cが係合する筒状体122と挟持要素111との間に弾性力に抗して押し込まれる。
(8)本開示の熱触媒CVD用ユニット100,500は、上述の触媒線支持部材10としての第1支持部材10-1および第2支持部材10-2と、第1支持部材10-1および第2支持部材10-2と共に一体化され、原料ガスを触媒線3の周囲に導入するガス導入管5と、を備える。
触媒線3は、一対の並行部3A,3Bを有した形状に形成される。第1支持部材10-1の挟持要素111は、一方の並行部3Aを挟む。第2支持部材10-2の挟持要素111は、他方の並行部3Bを挟む。ガス導入管5は、第1支持部材10-1と第2支持部材10-2との間を長手方向D1に延びる。
(9)ガス導入管50は、挟持要素111を超える位置まで第1支持部材10-1と第2支持部材10-2との間を長手方向D1に延びている。ガス導入管50の先端部51の内径φ1は、挟持要素111の位置における内径φ2と比べて大きい。
(10)先端部51は、ガス導入管50の本体52に対して着脱可能に設けられる。
(11)先端部51の少なくとも一部は、本体52の外周部を覆っている。
(12)本開示の成膜装置1は、上述の触媒線支持部材10としての第1支持部材10-1および第2支持部材10-2と、原料ガスを触媒線3の周囲に導入するガス導入管5と、触媒線3、触媒線支持部材10、および被処理物2を収容可能なチャンバ4と、チャンバ4から外部へと吸引により気体が流出する排気経路6と、を備える。触媒線3は、一対の並行部3A,3Bを有した形状に形成される。第1支持部材10-1の挟持要素111は、一方の並行部3Aを挟む。第2支持部材10-2の挟持要素111は、他方の並行部3Bを挟む。ガス導入管5は、第1支持部材10-1と第2支持部材10-2との間を長手方向D1に延びる。
(13)被処理物は、ボトル状の容器2であり、第1支持部材10-1、第2支持部材10-2、およびガス導入管5は、容器2の口部24を通じて容器2の内側に挿入される。
【符号の説明】
【0091】
1 成膜装置
2 容器(被処理物)
3 触媒線
3A,3B 並行部
3C 折り曲げ部
3R 挟持範囲
4 チャンバ
4X 軸線
5 ガス導入管
5S 供給源
5V 流量弁
6 排気経路
6S 排気装置
7 容器把持部
8 挿抜用治具(触媒線挿抜用治具)
10 支持部材(触媒線支持部材)
11 ソケット
11H 孔
11L 下端部
11S 斜面
11U 上端
12 挟持力付与要素
12F 力変換部
15 棒電極
15A 固定孔
15B 貫通孔
15L 下端部
15U 上端
16 ボルト
17 ナット
18 基部
18A,18B 基部電極
18C 絶縁体
21 底部
22 胴部
23 首部
24 口部
191,192 端子
193 電線
20 電源装置
31,32 端部
40 チャンバ部材
40L 下部
40U 上部
41 上壁
42 下壁
43 側壁
44 環状シール
50 ガス導入管
50A,50B,50C 吐出口
51,54 先端部
52 本体
52A 支持突起
53 開口
81 基体
81A 一端
81B 他端
81C 斜面
82 受容溝
100,500 熱触媒CVD用ユニット
111 挟持要素
111A,111B 半割部
112 装着要素
122 筒状体
122S 斜面
122U 上端
123 第1カラー(断熱要素)
123A 保持部
124 第2カラー
124A 保持部
125 筒状体(断熱要素)
D1 長手方向
D2 挟持方向
D3 受入方向
dA 小径部
dB 大径部
dC 最大径部
F1 弾性力
F2 挟持力
G 隙間
W 幅
φ1,φ2,φ3 内径