(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-18
(45)【発行日】2023-10-26
(54)【発明の名称】鉄筋腐食性状評価方法
(51)【国際特許分類】
G01N 1/02 20060101AFI20231019BHJP
G01N 33/2045 20190101ALI20231019BHJP
【FI】
G01N1/02 A
G01N33/2045 100
(21)【出願番号】P 2020067443
(22)【出願日】2020-04-03
【審査請求日】2023-03-06
(73)【特許権者】
【識別番号】501497264
【氏名又は名称】西日本高速道路エンジニアリング四国株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】橋本 和明
(72)【発明者】
【氏名】松田 靖博
(72)【発明者】
【氏名】橋爪 謙治
【審査官】前田 敏行
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-152491(JP,A)
【文献】米国特許第05365779(US,A)
【文献】飯田悟ら,体臭発生機構の解析とその対処(1) -腋臭に関与する鉄の影響と抗酸化剤の防臭効果-,日本化粧品技術者会誌,日本,日本化粧品技術者会,2003年09月20日,37,195-201
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/02
G01N 33/2045
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄筋を有する構造物の表面を打撃する工程(P-1)と、
前記工程(P-1)後に打撃部周囲の空気を採取する工程(P-2)と、
前記空気を皮脂成分と共に塩成分に接触させて臭気成分を含んだ気体を得る工程(P-3)と、
前記臭気成分を含んだ気体を分析し、前記臭気成分を検出する工程(P-4)と、
前記臭気成分の検出量により、鉄筋の腐食の有無を評価する工程(P-5)と、
を有する鉄筋を有する構造物の鉄筋腐食性状評価方法。
【請求項2】
前記皮脂成分が人工垢であり、前記塩成分が人工汗である請求項1に記載の鉄筋を有する構造物の鉄筋腐食性状評価方法。
【請求項3】
前記工程(P-1)が、打音検査である請求項1又は請求項2に記載の鉄筋を有する構造物の鉄筋腐食性状評価方法。
【請求項4】
前記臭気成分が、炭素数7以上10以下のアルデヒド及びアルケニルケトンからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物である請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の鉄筋を有する構造物の鉄筋腐食性状評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄筋腐食性状評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
橋梁やビルディング等には、鉄筋コンクリート及び鉄筋鉄骨コンクリート等の鉄筋を有する構造物が使用される。内部に含まれる鉄筋及び鉄骨(以下、単に鉄筋と呼ぶ)は、構造物の強度を補強する目的で使用されている。
【0003】
鉄筋を有する構造物は、構造物内部の鉄筋が腐食して膨張することで、ひび割れなどの損傷を引き起こすことがある。そこで鉄筋の腐食に起因する鉄筋を有する構造物の損傷を未然に防ぐために、早期に鉄筋の腐食の有無及び腐食度合を診断することが必要となる。
【0004】
そのため、鉄筋を有する構造物の検査技術が各種提案されている。
【0005】
特許文献1には、「鉄筋コンクリートが、予め定められた所定時間、電磁誘導加熱によって加熱される加熱ステップと、コンクリートの表面の温度が計測され、時間と共に変化する前記コンクリートの表面の温度情報が取得される温度計測ステップと、コンクリートの表面の最高温度への到達時間の違いから、コンクリート内の空洞厚が算定される空洞厚算定ステップと、空洞厚に応じて低下する温度上昇量の影響が除去された温度上昇量の補正値を算定する補正上昇量算定ステップと、鉄筋が腐食していない状態におけるコンクリート表面の最高温度と、補正上昇量算定ステップで得られた温度上昇量の補正値の最高温度とを用い、鉄筋の腐食率を算定する腐食率算定ステップとからなる鉄筋コンクリートの鉄筋腐食性状評価方法。」が提案されている。
【0006】
特許文献2には、「構造物の検査対象表面を打撃する打撃部と、前記打撃部の打撃面を前記検査対象表面に押し付ける押付力を調整可能に設定する押付部と、前記打撃部の打撃により発生する打撃音を検出する検出部と、前記検出部からの検出信号に基づいて前記構造物内部の状態を判定する処理部とを備えている構造物の打音検査装置。」が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2016-191696号公報
【文献】特開2019-39787号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このように、鉄筋の腐食の有無及び腐食度合を診断する手法が検討されている。
そこで本発明の課題は、新たな鉄筋の腐食の有無及び腐食度合を診断する鉄筋腐食性状評価方法、つまり、鉄筋を有する構造物の表面を打撃した後の空気中の成分を分析することにより鉄筋の腐食の有無及び腐食度合を診断する鉄筋腐食性状評価方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題は、以下の手段により解決される。即ち
<1>
鉄筋を有する構造物の表面を打撃する工程(P-1)と、
前記工程(P-1)後に打撃部周囲の空気を採取する工程(P-2)と、
前記空気を皮脂成分と共に塩成分に接触させて臭気成分を含んだ気体を得る工程(P-3)と、
前記臭気成分を含んだ気体を分析し、前記臭気成分を検出する工程(P-4)と、
前記臭気成分の検出量により、鉄筋の腐食の有無を評価する工程(P-5)と、
を有する鉄筋を有する構造物の鉄筋腐食性状評価方法。
<2>
前記皮脂成分が人工垢であり、前記塩成分が人工汗である前記<1>に記載の鉄筋を有する構造物の鉄筋腐食性状評価方法。
<3>
前記工程(P-1)が、打音検査である前記<1>又は<2>に記載の鉄筋を有する構造物の鉄筋腐食性状評価方法。
<4>
前記臭気成分が、炭素数7以上10以下のアルデヒド及びアルケニルケトンからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物である前記<1>~<3>のいずれか1つに記載の鉄筋を有する構造物の鉄筋腐食性状評価方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、新たな鉄筋の腐食の有無及び腐食度合を診断する方法、つまり、鉄筋を有する構造物の表面を打撃した後の空気中の成分を分析することにより鉄筋の腐食の有無及び腐食度合を診断する手法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】試験例1のガスクロマトグラフィー分析結果を示す図である。
【
図2】試験例2のガスクロマトグラフィー分析結果を示す図である。
【
図3】試験例3のガスクロマトグラフィー分析結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一例である実施形態について説明する。これらの説明および試験例は、実施形態を例示するものであり、発明の範囲を制限するものではない。
本明細書中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本明細書中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、試験例に示されている値に置き換えてもよい。
【0013】
各成分は該当する物質を複数種含んでいてもよい。
組成物中の各成分の量について言及する場合、組成物中に各成分に該当する物質が複数種存在する場合には、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の物質の合計量を意味する。
【0014】
本明細書において、「工程」との語は、独立した工程だけでなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
【0015】
<鉄筋腐食性状評価方法>
本実施形態に係る鉄筋腐食性状評価方法は、
鉄筋を有する構造物の表面を打撃する工程(P-1)と、
前記工程(P-1)後に打撃部周囲の空気を採取する工程(P-2)と、
前記空気を皮脂成分と共に塩成分に接触させて臭気成分を含んだ気体を得る工程(P-3)と、
前記臭気成分を含んだ気体を分析し、前記臭気成分を検出する工程(P-4)と、
前記臭気成分の検出量により、鉄筋の腐食の有無を評価する工程(P-5)と、
を有する。
【0016】
本実施形態に係る鉄筋腐食性状評価方法は、上記構成により、鉄筋の腐食の有無及び腐食度合を診断することができる。その理由は、次の通りである。
【0017】
本実施形態に係る鉄筋腐食性状評価方法では、鉄筋を有する構造物(以下、単に構造物と称することがある)の表面を打撃する工程(P-1)を含む。本工程により、構造物中の酸化鉄が、構造物の空隙や亀裂を経由して空気中に浮遊する。
また、本実施形態に係る鉄筋腐食性状評価方法は、前記工程(P-1)後に打撃部周囲の空気を採取する工程(P-2)を含む。本工程により、浮遊した酸化鉄を含む空気が採取される。
次に、本実施形態に係る鉄筋腐食性状評価方法は、前記空気を皮脂成分と共に塩成分に接触させて臭気成分を含んだ気体を得る工程(P-3)を含む。本工程により、採取された酸化鉄が皮脂成分及び塩成分に接触することで、臭気成分が発生する。
そして、前記臭気成分を含んだ気体を分析し、前記臭気成分を検出する工程(P-4)と、前記臭気成分の検出量により、鉄筋の腐食の有無及び腐食度合を評価する工程(P-5)を実施する。それにより、鉄筋の腐食の有無及び腐食度合を評価できる。
【0018】
そのため、本実施形態に係る鉄筋腐食性状評価方法は、鉄筋の腐食の有無及び腐食度合を診断することができる。
【0019】
<工程(P-1)>
本実施形態に係る鉄筋腐食性状評価方法は、鉄筋を有する構造物の表面を打撃する工程(P-1)を含む。
本工程により、構造物中の鉄筋が腐食している場合、酸化鉄が構造物の空隙や亀裂を経由して空気中に浮遊する。
【0020】
工程(P-1)は、具体的には、例えば、構造物の表面をハンマーで打撃する工程が挙げられる。
本工程は、周知の構造物の打音検査を実施する工程を採用することができる。
【0021】
<工程(P-2)>
本実施形態に係る鉄筋腐食性状評価方法は、前記工程(P-1)後に打撃部周囲の空気を採取する工程(P-2)を含む。
本工程により、浮遊した酸化鉄を含む空気を採取する。
【0022】
空気を採取する工程は、特に制限はなく、例えば、ポリ袋等を使用して手動で空気を採取する工程でもよいし、ポンプ等を使用して自動で空気を吸引して採取する工程でもよい。
【0023】
ここで打撃部周囲とは、打撃部を中心点とした半径約1.0m程度の範囲内の領域をいう。
【0024】
<工程(P-3)>
本実施形態に係る鉄筋腐食性状評価方法は、工程(P-2)によって得た空気を皮脂成分と共に塩成分に接触させて臭気成分を含んだ気体を得る工程(P-3)を含む。
本工程により、採取された酸化鉄を皮脂成分と共に塩成分に接触させることで、臭気成分を発生させる。
【0025】
工程(P-3)は、特に制限はなく、例えば、工程(P-2)によって得た空気、皮脂成分及び塩成分を容器中に密閉する方法などが挙げられる。
また、工程(P-3)としては、皮脂成分及び塩成分を含んだフィルターに、工程(P-2)によって得た空気を通過させる方法なども挙げられる。
【0026】
ここで皮脂成分とは、トリオレインなどのトリグリセライド;スクワレン;ミリスチルオクタデシレートなどのエステル;及びオレイン酸等の脂肪酸;からなる群から選択される少なくとも1種の化合物又はこれらの混合物をいう。
【0027】
皮脂成分としては、トリグリセライド;スクワレン;ミリスチルオクタデシレートなどのエステル;及びオレイン酸等の脂肪酸の混合物が好ましい。
【0028】
上記混合物としては、トリグリセライド5~50質量%、スクワレン5~20質量%、エステル5~50質量%、脂肪酸5~35質量%の混合物が好ましい。
【0029】
上記混合物としては、具体的には、次の組成の人工垢が特に好ましい。
【0030】
人工垢:オレイン酸45質量%、トリオレイン25質量%、オレイン酸コレステロール20質量%、流動パラフィン4質量%、スクワレン4質量%、コレステロール2質量%
【0031】
皮脂成分は、水、アルコール類、炭素数6以上12以下のアルカン及びアセトン等の溶剤に溶解して使用してもよい。
【0032】
皮脂成分を溶剤に溶解して使用する場合、皮脂成分の含有量は、皮脂成分及び溶剤の全質量に対し50質量%以上99質量%以下であることが好ましく、75質量%以上99質量%以下であることがより好ましく、90質量%以上99質量%以下であることが更に好ましい。
【0033】
塩成分とは、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩及び塩酸塩等からなる群から選択される少なくとも1種の化合物又はこれらの混合物が挙げられる。
【0034】
工程(P-2)によって得た空気を皮脂成分と共に塩成分に接触させることにより、酸化鉄及び皮脂成分の反応を円滑に行うことができ、臭気成分をより効率よく発生することができる。
【0035】
塩成分としては、ナトリウム塩及び塩酸塩の混合物が好ましい。
【0036】
また、塩成分は水に溶解し、水溶液として使用することが好ましい。
塩成分を水に溶解して使用する場合、塩成分の含有量は、塩成分及び水の全質量に対し0.1質量%以上5.0質量%以下であることが好ましく、0.3質量%以上2.5質量%以下であることがより好ましく、0.5質量%以上1.0質量%以下であることが更に好ましい。
【0037】
上記水溶液としては、具体的には、次の組成の人工汗が特に好ましい。
人工汗:水99.22質量%、L-ヒスチジン塩酸塩(1水和物)0.05質量%、塩化ナトリウム0.50質量%、りん酸二水素ナトリウム(2水和物)0.22質量%、水酸化ナトリウム0.01質量%
【0038】
臭気成分は、工程(P-2)によって得た空気を皮脂成分及び塩成分に接触させることで生じる化合物である。
臭気成分としては、アルデヒド及びアルケニルケトン(アルケニル基を有するケトン)からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物が挙げられる。
【0039】
前記アルデヒド及び前記アルケニルケトンの炭素数は、鉄筋腐食性評価の正確性の向上の観点から、7以上12以下であることが好ましく、8以上11以下であることがより好ましく、8以上10以下であることが更に好ましい。
【0040】
前記アルデヒド及び前記アルケニルケトンの構造は、直鎖構造であっても分岐構造であってもよく、環状構造を有していてもよい。
【0041】
前記アルデヒドとしては、具体的には、n-ヘプタナール、n-オクタナール、n-ノナナール、n-デカナール等が挙げられる。
前記アルケニルケトンとしては、具体的には、1-オクテン-3-オン及び6-メチル-5-ヘプテン-2-オン等が挙げられる。
【0042】
<工程(P-4)>
本実施形態に係る鉄筋腐食性状評価方法は、臭気成分を含んだ気体を分析し、前記臭気成分を検出する工程(P-4)を含む。
本工程により、臭気成分の検出量が測定され、次の工程(P-5)における腐食の有無及び腐食度合の評価における判断材料となる。
【0043】
工程(P-4)は、特に制限はなく、例えば、ガスクロマトグラフィーを用いて臭気成分を検出する方法が挙げられる。
具体的には、例えば、工程(P-3)によって得られる臭気成分を含んだ気体から任意の量の気体をシリンジによって採取し、ガスクロマトグラフィー装置に注入し、臭気成分を検出する方法等が挙げられる。
臭気成分の含有量は、あらかじめ臭気成分の検量線を作成しておき、同一条件で測定したときのピーク面積から算出することができる。
【0044】
臭気成分の分析には、ガスクロマトグラフィー以外の方法を用いてもよい。
例えば、赤外線(IR)分光分析等が挙げられる。
【0045】
<工程(P-5)>
本実施形態に係る鉄筋腐食性状評価方法は、臭気成分の検出量により、鉄筋の腐食の有無及び腐食度合を評価する工程(P-5)を含む。
本工程により、工程(P-4)により測定された臭気成分の検出量から、鉄筋の腐食の有無及び腐食度合が評価される。
【0046】
鉄筋の腐食の有無を評価する方法としては、例えば、下記の方法が挙げられる。
あらかじめ鉄筋の腐食を有すると判断される構造物を用いて、工程(P-1)~工程(P-4)により、臭気成分の検出量を測定し、得られる測定値を基準値とする。続いて、鉄筋の腐食の有無を評価する構造物を用いて、同様の手順により臭気成分の検出量を測定し、その検出量が、前記基準値以上の場合は腐食有りとし、基準値未満の場合は腐食無しとする方法が挙げられる。
【0047】
一方、鉄筋の腐食度合を評価する方法としては、例えば、下記の方法が挙げられる。
鉄筋の腐食度合が異なる構造物を複数用意し、それぞれの構造物に対し工程(P-1)~工程(P-4)により、臭気成分の検出量を測定する。そして、一方の軸を数値化した腐食度合とし、片一方の軸を臭気成分の検出量としたグラフに測定結果をプロットし、検量線を作成する。さらに、数値化した腐食度合を、腐食度合が最小のものから、最大のものにかけて、3つ以上の数値範囲に分割し、腐食度合を表す指標とする。
続いて、鉄筋の腐食度合を評価する構造物を工程(P-1)~工程(P-4)により、臭気成分の検出量を測定する。得られる測定値を前記検量線に代入することで、腐食度合を表す数値を算出する。そして、測定により得られる腐食度合を表す数値が、前記腐食度合を表す指標のうちどの数値範囲に該当するかを判断し、鉄筋の腐食度合を判別する方法が挙げられる。
【0048】
(試験例)
以下に、酸化鉄から生成する臭気成分を分析することにより、構造物の鉄筋の腐食の有無及び腐食度合を診断することができることを示す。
なお、本発明はこれらの試験例に何ら限定されるものではない。なお、以下の説明において、特に断りのない限り、「部」及び「%」はすべて質量基準である。
【0049】
<試験例1>
シャーレに腐食させた異形棒鋼の錆片0.4g、人工垢(伊勢久(株)製)3g及び人工汗液A法 酸性(伊勢久(株)製)20mLを加え、1時間静置した。その後、腐食させた異形棒鋼の錆片、人工垢及び人工汗液を入れたシャーレを、容量5Lのサンプリングバッグ(ジーエルサイエンス株式会社製、スマートバッグPA-A-A-5)内に入れ、サンプリングバッグ内を真空ポンプで脱気した後、積算流量計(コフロック株式会社製、FCM4000-3100)を通じてバッグ内に高純度窒素ガス1Lを注入した。サンプリングバッグを密閉し、20℃で1時間静置した。2,6-DiPhenyl-p-phenylene Oxide(Tenax-TA)入りカートリッジ(ジーエルサイエンス株式会社製、Packed Liner with Tenax60/80)を用いて、サンプリングバッグ内のガス0.5Lに含まれる揮発性有機化合物を捕集後した。カートリッジを、多機能注入口(ATAS GL International BV社製、OPTIC-4 Multimode GC Inlet)を備えたガスクロマトグラフィー装置に取り付け、臭気成分を測定した。その結果を
図1に示す。
図1に示される様に、オクタナール及び6-メチル-5-ヘプテン-2-オンが検出された。
なお、腐食させた異形棒鋼の錆片と皮脂成分と塩成分との反応により発生する臭気成分のひとつとして、1-オクテン-3-オンが知られている。本試験例では、1-オクテン-3-オンと分子量が同じであり、かつ、アルケニル基を有するケトン構造の6-メチル-5-ヘプテン-2-オンが検出されたことから、1-オクテン-3-オンが臭気成分として含有されていると考えられる。
【0050】
<試験例2>
腐食させた異形棒鋼の錆片を0.8g添加したこと以外は試験例1と同様にして、臭気成分を測定した。
その結果を
図2に示す。
図2に示されるように、オクタナール及び6-メチル-5-ヘプテン-2-オンが検出された。
【0051】
<試験例3>
腐食させた異形棒鋼の錆片を添加していないこと以外は試験例1と同様にして、臭気成分を測定した。
その結果を
図3に示す。
図3に示される様に、オクタナール及び6-メチル-5-ヘプテン-2-オンは検出されなかった。
【0052】
試験例1~試験例3で使用したガスクロマトグラフィー測定条件を以下に示す。
・ガスクロマトグラフィー測定条件
機器:島津製作所社製、GCMS QP-2010Ultra
注入口加熱脱着温度、時間:280℃、3分間
クライオフォーカス温度:-90℃
キャピラリーカラム:ジーエルサイエンス株式会社製、Inert Cap Pure WAX(長さ:30m、内径:0.25mm、膜厚:0.25μm)
カラム槽温度:40℃で1分保持→12.5℃/分で240℃まで昇温
キャリアガス:超高純度ヘリウム、4mL/min
インターフェース温度:230℃
イオン源温度:240℃
スキャン範囲:m/z 30~350
【0053】
【0054】
上記結果から、腐食させた異形棒鋼の錆片から生成する臭気成分を分析することにより、構造物の鉄筋の腐食の有無及び腐食度合を診断することができることがわかる。