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  • 特許-回転子のシャフト交換方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-18
(45)【発行日】2023-10-26
(54)【発明の名称】回転子のシャフト交換方法
(51)【国際特許分類】
   H02K 15/02 20060101AFI20231019BHJP
【FI】
H02K15/02 A
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020077174
(22)【出願日】2020-04-24
(65)【公開番号】P2021175261
(43)【公開日】2021-11-01
【審査請求日】2023-03-15
(73)【特許権者】
【識別番号】319007240
【氏名又は名称】株式会社日立インダストリアルプロダクツ
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】千葉 能久
(72)【発明者】
【氏名】藤井 克彦
(72)【発明者】
【氏名】杉本 愼治
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 雅彦
(72)【発明者】
【氏名】柿崎 亮
(72)【発明者】
【氏名】正岡 英樹
【審査官】若林 治男
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/043767(WO,A1)
【文献】特開2018-179271(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転子鉄心の中央部に設けられた穴に挿入されているシャフトを交換する回転子のシャフト交換方法であって、
前記回転子鉄心を固定すると共に、前記シャフトに、少なくとも前記回転子鉄心と前記シャフトの間に配置されているキーが設置されているキー溝に達する貫通孔を設け、前記貫通孔から前記キーを抜き取り、前記シャフトを、該シャフトの中心に向けて押しつぶすように変形させ、その後、前記シャフトを前記回転子鉄心から引き抜いて前記回転子鉄心を取り出し、取り出した前記回転子鉄心を新たなシャフトに取り付けることを特徴とする回転子のシャフト交換方法。
【請求項2】
請求項1に記載の回転子のシャフト交換方法であって、
前記シャフトを前記回転子鉄心から抜いた後に、前記回転子鉄心に形成されている通風孔に固定具を配置して前記回転子鉄心を固定することを特徴とする回転子のシャフト交換方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の回転子のシャフト交換方法であって、
前記シャフトには、前記シャフトと中心を同じにする第1の貫通孔と、前記回転子鉄心と前記シャフトの間に設けられているキーが設置されているキー溝に達する第2の貫通孔と、前記第1の貫通孔を挟んで前記第2の貫通孔とは反対側の位置に設けられた第3の貫通孔の3つの貫通孔が形成されており、
前記第2の貫通孔から前記キーを抜き取り、前記シャフトを、該シャフトの中心に向けて押しつぶすように変形させて、前記シャフトを前記回転子鉄心から引き抜いて前記回転子鉄心を取り出すことを特徴とする回転子のシャフト交換方法。
【請求項4】
請求項3に記載の回転子のシャフト交換方法であって、
3つの前記貫通孔を加工する前に、前記シャフトの端部を切断することを特徴とする回転子のシャフト交換方法。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の回転子のシャフト交換方法であって、
前記シャフトは、該シャフトの交換後、前記回転子鉄心と前記シャフトがカシメにより固定されており、前記カシメは、前記シャフトの交換前になされたカシメの位置とは異なる位置で行われていることを特徴とする回転子のシャフト交換方法。
【請求項6】
請求項5に記載の回転子のシャフト交換方法であって、
前記シャフトの交換前になされたカシメの位置又は前記シャフトの交換後になされたカシメの位置は、前記シャフトの取り外し前に前記回転子鉄心に印が付けられていることを特徴とする回転子のシャフト交換方法。
【請求項7】
回転子鉄心の中央部に設けられた穴に挿入されているシャフトを交換する回転子のシャフト交換方法であって、
前記シャフトを前記回転子鉄心から抜いた後に、前記回転子鉄心に形成されている通風孔に固定具を配置して前記回転子鉄心を固定し、
次に、前記シャフトの両端を回転子鉄心に近い位置で切断し、前記回転子鉄心の軸方向両端に配置されているエンドプレートに設置しているエンドプレートキーを前記回転子鉄心の端の前記エンドプレートから取り除くため、前記エンドプレートの位置を固定するカシメの加工を除去し、その後、前記エンドプレートキーを前記エンドプレートのエンドプレートキー用溝から取り外し、
次に、前記シャフトに、前記シャフトと中心を同じにする第1の貫通孔と、前記回転子鉄心と前記シャフトの間に配置されているキーが設置されているキー溝に達する第2の貫通孔と、前記第1の貫通孔を挟んで前記第2の貫通孔とは反対側の位置に設けられた第3の貫通孔の3つの貫通孔を形成し、前記シャフトに3つの貫通孔を形成した後、前記キーを前記第2の貫通孔より取り出し、前記キーを取り出した後、前記シャフトを、前記シャフトの中心に向かって押しつぶすように変形させ、前記シャフトと前記回転子鉄心間の締め代をなくして前記シャフトを移動可能とし、前記シャフトを前記回転子鉄心から引き抜いて前記回転子鉄心を取り出し、その後、前記回転子鉄心を新たなシャフトに取り付けることを特徴とする回転子のシャフト交換方法。
【請求項8】
請求項7に記載の回転子のシャフト交換方法であって、
前記回転子鉄心を新たなシャフトに取り付けた後、前記回転子鉄心と前記シャフトの固定を実施するため、前記回転子鉄心の軸方向両端に配置されているエンドプレートのエンドプレートキー用溝からエンドプレートキーを挿入し、挿入した前記エンドプレートキーを固定させるため、前記シャフトの交換前の位置とは異なる位置で固定を行って前記回転子鉄心と前記シャフトを固定することを特徴とする回転子のシャフト交換方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転子のシャフト交換方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、電動機や発電機などの回転機は、回転子と固定子で構成されている。上記回転子は、動力伝達のため回転子のシャフト端部で負荷機のシャフトと直結されている。通常、負荷機と回転子との両シャフト端部の直結には、カップリングが用いられている。
【0003】
上記したカップリングは、回転子と負荷機のシャフト端部形状の違いを吸収して、互いのシャフトを直結するための機構であり、シャフトからカップリングへのトルク伝達には、キーによる伝達や焼き嵌め等の締め付けによる伝達、或いはシャフト端をギア状に加工したスプラインシャフトによる伝達などがある。
【0004】
上記した焼き嵌め等の締め付けによる伝達は、大きなトルクの伝達の際の使用されることが多く、必然的に大きな締め付け力が必要となることから、メンテナンス時などでカップリングの取り外しが必要となった場合には、シャフトからカップリングを取り外す際の締め付け力の緩和が十分にできず、回転子のシャフト直結端に抜き傷が付く恐れがある。
【0005】
また、スプラインシャフトは、締め付けによるトルク伝達を伴わないため、メンテナンス等での直結解体時の作業による傷の発生は、焼き嵌めによるトルク伝達に比べ可能性は低いが、稼働時にスプラインの潤滑が必要なため、潤滑の不良など別の原因でしばしばシャフトの傷が発生する。
【0006】
このシャフトの傷が軽微な傷であれば研磨等による修正加工で対応可能あるが、修正加工が不可能な大きな傷が生じた場合は、回転子は使用不可となってしまう。
【0007】
回転機の回転子は、一般に、積層した電磁鋼板等で構成された回転子鉄心の中央部に穴をあけ、この穴にシャフトを配置した構造であり、回転子鉄心で発生したトルクをシャフトに伝達するため、回転子鉄心の中央部の穴とシャフトは、焼き嵌め等により固定されている。
【0008】
また、回転子鉄心は、シャフトを芯として構成されるため、特に、電磁鋼板を積層した回転子鉄心では、ボーリング等でシャフトを取り除いたとしても回転子として形状を保つことができず変形する恐れがある。
【0009】
そのため、従来は、シャフトのみの交換が行えず、回転子全体の交換を行ってきた。回転子は、製作を行うために多くのコストや時間を要するため、シャフトのみの交換手法の確立が望まれてきた。
【0010】
回転機のシャフト交換に関する先行技術文献としては、特許文献1を挙げることができる。
【0011】
この特許文献1には、回転機シャフトの端部に締結用ねじ孔を形成し、このねじ孔にねじ部を螺合して外周にボール溝を形成したボールねじを組付けたアクチュエータ構造において、締結用ねじ部を締結用ねじ孔内に案内する中空円筒部材をケーシングの回転機シャフトと同軸線上に配置し、中空円筒部材の内面に沿って締結用ねじ部を回転機シャフトの締結用ねじ孔に締結した構造とすることで、シャフトを容易に交換できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特開2007-154944号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上述した特許文献1では、回転機シャフトの両端のねじを締結させ、フランジを介して軸受けに押し付ける構造を採っているため、そのフランジを外すことでシャフトの交換を容易に行うことができる。
【0014】
しかしながら、上述した特許文献1でのシャフトの交換構造の場合、シャフトをフランジと共に機械的に引き抜くため、回転子鉄心の内周側やシャフトの周辺部品に傷をつける可能性が高く、また、大型の回転機の場合は、シャフトと回転子部品は強く固定されているため、機械的に抜くことが難しく、シャフトのみの交換を行うという課題の解決には至らなかった。
【0015】
本発明は上述の点に鑑みなされたもので、その目的とするところは、回転子鉄心を傷付けることがないことは勿論、回転機の構造を変えることなくシャフトのみの交換が行える回転子のシャフト交換方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の回転子のシャフト交換方法は、上記目的を達成するために、回転子鉄心の中央部に設けられた穴に挿入されているシャフトを交換する回転子のシャフト交換方法であって、前記回転子鉄心を固定すると共に、前記シャフトに、少なくとも前記回転子鉄心と前記シャフトの間に配置されているキーが設置されているキー溝に達する貫通孔を設け、前記貫通孔から前記キーを抜き取り、前記シャフトを、該シャフトの中心に向けて押しつぶすように変形させ、その後、前記シャフトを前記回転子鉄心から引き抜いて前記回転子鉄心を取り出し、取り出した前記回転子鉄心を新たなシャフトに取り付けることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、回転子鉄心を傷付けることがないことは勿論、回転機の構造を変えることなくシャフトのみの交換が行える。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の回転子のシャフト交換方法の対象であるシャフトが回転子鉄心の中央部に設けられた穴に挿入されている状態を示す図である。
図2】本発明の回転子のシャフト交換方法の対象であるシャフトに3つの貫通孔が形成された状態を示すシャフトの側面図である。
図3】回転子鉄心の軸方向両端に配置されているエンドブラケットを示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図示した実施例に基づいて本発明の回転子のシャフト交換方法を説明する。なお、各図において、同一構成部品には同符号を使用する。
【実施例1】
【0020】
図1図2及び図3を用いて本発明の回転子のシャフト交換方法の実施例1を説明する。
【0021】
本発明は、まず、回転子鉄心2の中央部に設けられた穴に挿入されているシャフト1をボーリング等で抜いた後に、回転子鉄心2がばらけないように回転子鉄心2に形成されている通風孔等を利用して固定具6を配置し、回転子鉄心を固定する。
【0022】
なお、固定具6による回転子鉄心2の固定は、回転子鉄心2の軸方向両面にプレートを取り付け、通風孔等を利用して配置されたボルトを締め付けることで行われる。
【0023】
次に、シャフト1を抜きやすくするため(シャフト1は短い方が抜きやすい)に、シャフト1の両端を回転子鉄心2に近い位置でマシニングセンタにより切断し、シャフト1に回転子鉄心2を取り付けるために回転子鉄心2の軸方向両端に設置しているエンドプレート4に設置しているエンドプレートキー7を回転子鉄心2の端のエンドプレート4から取り除くため、エンドプレート4の位置を固定するカシメ8等の加工を除去する。その後、エンドプレートキー7をエンドプレート4のエンドプレートキー用溝9から取り外す。
【0024】
次に、シャフト1に3つの貫通孔をあける(図1の状態で、ドリル等であける)。即ち、シャフト1には、シャフト1と中心を同じにする第1の貫通孔3aと、回転子鉄心2とシャフト1の間に配置されているキー5aが設置されているキー溝5bに達する第2の貫通孔3b(シャフト1及び回転子鉄心2を固定させるために、シャフト1及び回転子鉄心2の間に設置されているキー5aを取り除くために、キー5aが配置されているキー溝5bに達するような貫通孔)と、第1の貫通孔3aを挟んで第2の貫通孔3bとは反対側の位置(シャフト1の中心に対して点対称な位置)に設けられた第3の貫通孔3cの3つの貫通孔とをあける。
【0025】
シャフト1に第1の貫通孔3a、第2の貫通孔3b及び第2の貫通孔3bの3つの貫通孔をドリル等であけた後、シャフト1及び回転子鉄心2を固定させるために、シャフト1及び回転子鉄心2の間に配置されているキー5aを、シャフト1にあけた第2の貫通孔3bから取り除く。キー5aを第2の貫通孔3bから取り出した後、シャフト1を引き抜くために、シャフト1をシャフト1の中心に向かって押しつぶす(クランプ等によって締めあげて押しつぶす)ように変形させ、シャフト1と回転子鉄心2間の締め代をなくし、シャフト1を移動可能にする。シャフト1を変形させた後、シャフト1を回転子鉄心2から引き抜き、回転子鉄心2を取り出す。
【0026】
回転子鉄心2のみを取り出した後、回転子鉄心2を焼嵌等により新規なシャフトに取り付ける。回転子鉄心2を新規なシャフトに散り付けた後、回転子鉄心2とシャフト1の固定を実施するため、回転子鉄心2の軸方向両端に配置されているエンドプレート4のエンドプレートキー用溝9からエンドプレートキー7を挿入する。挿入したエンドプレートキー7を固定させるため、シャフト1の交換前の位置(図3のカシメ8の位置)とは異なる位置(図3のカシメ10の位置)で固定を行い(同じ位置で固定すると、1度目の固定による摩耗等で固定が緩くなる可能性があるため、異なる位置で固定する)、回転子鉄心2とシャフト1を固定する。
【0027】
なお、エンドプレートキー7の固定の際は、カシメ等の方法を実施し回転子鉄心に印を付けておくことが好ましい。
【0028】
このような本実施例によると、回転機の構造を変えることなくシャフト1の交換が行えるため、負荷伝達が大きい回転機の回転子にも適応可能である。また、追加部品の製作がなくなり低コストでシャフト1を交換できる。
【0029】
従って、本実施例によれば、回転子鉄心2を傷付けることがないことは勿論、回転機の構造を変えることなくシャフト1のみの交換が行える。
【0030】
なお、上記した実施例は本発明を分かり易く説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0031】
1…シャフト、2…回転子鉄心、3a…第1の貫通孔、3b…第2の貫通孔、3c…第3の貫通孔、4…エンドプレート、5a…キー、5b…キー溝、6…固定具、7…エンドプレートキー、8…加工前のカシメ、9…エンドプレートキー用溝、10…加工後のカシメ。
図1
図2
図3