IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ フクビ化学工業株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-18
(45)【発行日】2023-10-26
(54)【発明の名称】コーティング剤および積層体
(51)【国際特許分類】
   C09D 175/14 20060101AFI20231019BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20231019BHJP
   C09D 4/02 20060101ALI20231019BHJP
   C09D 5/00 20060101ALI20231019BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20231019BHJP
   C09D 7/65 20180101ALI20231019BHJP
【FI】
C09D175/14
B32B27/30 A
C09D4/02
C09D5/00 Z
C09D7/61
C09D7/65
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020110232
(22)【出願日】2020-06-26
(65)【公開番号】P2022007323
(43)【公開日】2022-01-13
【審査請求日】2022-09-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000010065
【氏名又は名称】フクビ化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100162765
【弁理士】
【氏名又は名称】宇佐美 綾
(72)【発明者】
【氏名】新井 祐
【審査官】桜田 政美
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-005799(JP,A)
【文献】特開2010-143153(JP,A)
【文献】国際公開第2018/181147(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 175/14
B32B 27/30
C09D 4/02
C09D 5/00
C09D 7/61
C09D 7/65
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
官能基数が3以下のウレタンアクリレートと、2-ヒドロキシエチルアクリレートと、フッ素系アクリレートと、艶消し粒子と、光重合開始剤と、を含むコーティング剤であって、
前記コーティング剤の硬化後におけるグロス値が15以下であり、
前記ウレタンアクリレートと前記2-ヒドロキシエチルアクリレートの質量比が45:55~70:30であり、
前記ウレタンアクリレートと前記2-ヒドロキシエチルアクリレートの合計100質量部に対して、前記フッ素系アクリレートを1~10質量部、前記艶消し粒子を5~15質量部、前記光重合開始剤を2.5~3.5質量部、それぞれ含む、コーティング剤。
【請求項2】
前記艶消し粒子が、シリカ粒子を含む、請求項1に記載のコーティング剤。
【請求項3】
前記艶消し粒子が、シリカ粒子とポリエチレンワックスとを含み、
前記艶消し粒子に含まれる前記シリカ粒子と前記ポリエチレンワックスの質量比が3:7~7:3である、請求項1または請求項2に記載のコーティング剤。
【請求項4】
前記ウレタンアクリレートと前記2-ヒドロキシエチルアクリレートの合計100質量部に対して、抗菌剤および抗ウイルス剤の少なくとも一つを0.1~5質量部含む、請求項1から請求項のいずれか1項に記載のコーティング剤。
【請求項5】
基材と、前記基材の表面に設けられた皮膜と、を備える積層体であって、
前記皮膜は請求項1から請求項のいずれか1項に記載のコーティング剤の硬化物である、積層体。
【請求項6】
前記基材が樹脂の押出成形体である、請求項に記載の積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、艶消し性を付与するため建材等の表面に塗布されるコーティング剤、および当該コーティング剤を用いた積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
建築物の内装に用いられる建材、例えば巾木、化粧板、腰壁、床材等においては、外観を美しく保てるように、従来からコーティング剤によって表面に皮膜を形成し、防汚性が付与することが行われている。また、これらの建材において、いわゆる「てかり」を抑えて落ち着いた雰囲気を醸し出すため、コーティング剤によって艶消し性を付与することも行われている。
【0003】
このような艶消し性および防汚性を付与することができるコーティング剤として、特許文献1には、2官能以上の活性エネルギー線重合性アクリレートモノマー、3官能以上の活性エネルギー線重合性アクリレートオリゴマー、重合開始剤、ワックスおよび/または樹脂ビーズ成分を有する建材トップコート用活性エネルギー線硬化型塗料組成物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2005-047952号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に開示された塗料組成物ではグロス値が全て17以上となっており、艶消し性が十分ではなかった。
【0006】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、艶消し性に優れた皮膜を形成可能なコーティング剤、およびこのコーティング剤を用いた積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、種々検討した結果、上記目的は、以下の発明により達成されることを見出した。
【0008】
本発明の一局面に係るコーティング剤は、官能基数が3以下のウレタンアクリレートと、2-ヒドロキシエチルアクリレートと、フッ素系アクリレートと、艶消し粒子と、光重合開始剤と、を含むコーティング剤であって、前記コーティング剤の硬化後におけるグロス値が15以下である。
【0009】
また、本発明の他の局面に係る積層体は、基材と、前記基材の表面に設けられた皮膜と、を備える積層体であって、前記皮膜は上記コーティング剤の硬化物である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、艶消し性に優れた皮膜を形成可能なコーティング剤、および艶消し性に優れた皮膜を有する積層体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本実施形態に係るコーティング剤は、基材の表面に塗布され、硬化することにより皮膜を形成し、基材の表面の艶を抑えるためのものである。
【0012】
本実施形態に係るコーティング剤は、官能基数が3以下のウレタンアクリレートと、2-ヒドロキシエチルアクリレートと、フッ素系アクリレートと、艶消し粒子と、光重合開始剤と、を含むコーティング剤であって、コーティング剤の硬化後におけるグロス値が15以下である。そのため、本実施形態に係るコーティング剤は艶消し性に優れた皮膜を形成することが可能であり、本実施形態に係るコーティング剤を基材の表面に塗布し、硬化させることにより、基材の表面の艶を抑えることができる。
【0013】
官能基数が3以下のウレタンアクリレートおよび2-ヒドロキシエチルアクリレートは、コーティング剤の主成分であり、バインダーとして機能する。
【0014】
官能基数が3以下のウレタンアクリレートは、適度な柔軟性を有し、クラックが生じにくく、すなわち耐クラック性の良好な樹脂である。そのため、本実施形態に係るコーティング剤は、軟質樹脂系の基材上に形成された皮膜の状態において、良好な耐クラック性を有する。
【0015】
ウレタンアクリレートの柔軟性は、官能基数によって異なり、官能基数が多いほど硬化後のコーティング剤が硬く、脆くなり、耐クラック性が低下する。本実施形態では、硬化後の樹脂に適度な柔軟性を付与して耐クラック性を良好にするため、ウレタンアクリレートの官能基数を3以下とする。一定の皮膜強度を維持するという観点から、ウレタンアクリレートの官能基数は、2以上が好ましい。
【0016】
本実施形態に係るコーティング剤では、官能基数が3以下のウレタンアクリレートは、平均官能基数が3以下となるように、ウレタンアクリレートとアクリレートモノマーとを混合した混合物としてもよく、例えば官能基数が3~5のウレタンアクリレート50~100質量部に対して官能基数が1~2のアクリレートモノマー0~50質量部を混合することができる。ウレタンアクリレートとアクリレートモノマーとを混合することにより、コーティング剤のハンドリング性が良好となり、後述する積層体の生産性が向上する。また、本実施形態に係るコーティング剤において、官能基数が3~5のウレタンアクリレート50~80質量部に対して官能基数が1~2のアクリレートモノマー20~50質量部を混合することが好ましい。
【0017】
2-ヒドロキシエチルアクリレートは、官能基数が1のアクリレートモノマーであり、硬化後のコーティング剤に艶消し性を付与する樹脂である。
【0018】
官能基数が3以下のウレタンアクリレートと2-ヒドロキシエチルアクリレートの質量比は、45:55~70:30が好ましい(官能基数が3以下のウレタンアクリレートの質量の2-ヒドロキシエチルアクリレートの質量に対する比の値は、45/55~70/30が好ましい。)。上記質量比をこの範囲とすることにより、コーティング剤の基材との密着性をより良好とすることができ、また、硬化後のコーティング剤をより汚れにくくすることができる。官能基数が3以下のウレタンアクリレートと2-ヒドロキシエチルアクリレートの質量比は、50:50以上がより好ましく、65:35以下がより好ましい。
【0019】
フッ素系アクリレートは、硬化後のコーティング剤に防汚性および撥水性を付与する樹脂である。フッ素系アクリレートには、例えばフッ素変性ウレタンアクリレート、フルオロアルキル構造、パーフルオロポリエーテル構造を有するアクリレートを用いることができる。本実施形態に係るコーティング剤は、官能基数が3以下のウレタンアクリレートと2-ヒドロキシエチルアクリレートの合計100質量部に対して、フッ素系アクリレートを1~10質量部含むことが好ましい。フッ素系アクリレートの含有量をこの範囲とすることにより、硬化後のコーティング剤をより汚れにくくすることができる。フッ素系アクリレートの含有量は、3質量部以上がより好ましく、また、8質量部以下がより好ましい。
【0020】
艶消し粒子は、硬化後のコーティング剤に艶消し性を付与するための粒子である。本実施形態に係るコーティング剤は、官能基数が3以下のウレタンアクリレートと2-ヒドロキシエチルアクリレートの合計100質量部に対して、艶消し粒子を5~15質量部含むことが好ましい。艶消し粒子の含有量をこの範囲とすることにより、十分な艶消し性を得ることができる。艶消し粒子の含有量は、7質量部以上がより好ましく、また、12質量部以下がより好ましい。
【0021】
艶消し粒子には、例えば、粒子状の艶消し材を単独で使用することができ、さらに艶消し材と粒子状のワックスとを混合して用いることもできる。
【0022】
艶消し材には、例えば、シリカ粒子、酸化アルミニウム粒子、酸化チタン粒子等の無機粒子を使用することができる。艶消し性および透明度の発現性を考慮すると、これらの向き粒子のうち、シリカ粒子が好ましい。また、例えばポリエーテル変性シリコーン処理シリカのように表面処理を施した粒子を使用することができる。艶消し材の平均粒径は、1~5μmが好ましい。本実施形態において艶消し材の平均粒径とは、メジアン径(d50)の値を指す。
【0023】
ワックスには、例えばポリオレフィンワックス、パラフィンワックス、マイクロクリスタンワックス、脂肪族系ワックス等を使用することができ、ポリオレフィンワックスとして、通常のポリエチレンワックス、PTFE変性ポリエチレンワックス等を使用することができる。ワックスの平均粒径は、1~10μmが好ましい。本実施形態においてワックスの平均粒径とは、メジアン径(d50)の値を指す。
【0024】
艶消し粒子が、艶消し材とワックスとを含む場合、艶消し材がシリカ粒子であり、ワックスがポリエチレンワックスであることが好ましく、また、艶消し粒子に含まれる艶消し材とワックスとの質量比は、3:7~7:3が好ましい(シリカ粒子の質量のポリエチレンワックスの質量に対する比の値は、3/7~7/3が好ましい。)。ポリエチレンワックスは、通常のポリエチレンワックスでも、PTFE変性ポリエチレンワックスでもよい。艶消し材とワックスとの質量比をこの範囲とすることにより、高い艶消し性と防汚性とを得ることができる。艶消し粒子に含まれる艶消し材とワックスとの質量比は、4:6以上がより好ましく、6:4以下がより好ましい。
【0025】
光重合開始剤は、未硬化状態にあるコーティング剤に対して、紫外線照射によってウレタンアクリレートの硬化を開始させる効果を発揮する。また、光重合開始剤は、硬化後のコーティング剤の防汚性を向上させることが可能である。
【0026】
本実施形態に係るコーティング剤は、官能基数が3以下のウレタンアクリレートと2-ヒドロキシエチルアクリレートの合計100質量部に対して、光重合開始剤を2.5~3.5質量部含むことが好ましい。光重合開始剤の含有量をこの範囲とすることにより、紫外線照射によってウレタンアクリレートの硬化を開始させる効果を十分に得ることができるとともに、硬化後のコーティング剤をより汚れにくくすることができる。
【0027】
光重合開始剤には、例えば、ベンゾフェノン、ベンゾインエチルエーテル、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン、アセトフェノン、キサントン、3-メチルアセトフェノン、4-クロロベンゾフェノン、4,4′-ジメトキシベゾフェノン、N,N,N′,N′-テトラメチル-4,4′-ジアミノベンゾフェノン、ベンゾインプロピルエーテル、ベンジルジメチルケタール、1-(4-イソプロピルフェニル)-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンのうち、1種または2種以上を使用することができる。
【0028】
本実施形態に係るコーティング剤は、以上の成分に加えて、任意の成分として他の成分、例えば抗菌剤、抗ウイルス剤、消臭剤等を添加剤として含有してもよい。抗菌剤としては、例えば銀イオン系や銅イオン系等の無機系抗菌剤、有機合成抗菌剤や有機天然抗菌剤等の有機系抗菌剤、光触媒等を使用することができる。抗ウイルス剤としては、例えば銀イオン系や銅イオン系等の無機系抗ウイルス剤、4級アンモニウム塩やイオン基含有ポリマー系等の有機系抗ウイルス剤、光触媒等を使用することができる。
【0029】
本実施形態に係るコーティング剤は、硬化後におけるグロス値が15以下である。グロス値は、艶消し性の程度を示す値であり、グロス値が小さいほど艶消し性が高い。グロス値は、JIS Z 8741-1997によって60度鏡面光沢度として測定することができる。
【0030】
次に、本実施形態に係る積層体について説明する。本実施形態に係る積層体は、基材と、基材の表面に設けられた皮膜と、を備え、皮膜は、上記の本実施形態に係るコーティング剤の硬化物である。そのため、本実施形態に係る積層体は、艶消し性に優れた皮膜を有し、表面の艶が押さえられている。
【0031】
基材は、例えばシート状とすることができる。この場合、シート状の基材の一方の面にコーティング剤を塗布し、紫外線を照射することで、光重合開始剤によってウレタンアクリレートを硬化させ、皮膜を形成することができる。これにより積層体が完成する。
【0032】
皮膜の厚さは、5μm以上が好ましい。また、30μm以下が好ましく、15μm以下がより好ましい。これにより、艶消し性だけでなく、耐クラック性に優れた皮膜とすることができる。皮膜の厚さが5μmよりも薄いと、艶消し粒子の影響により、皮膜表面の平滑性が低下し、汚れやすくなる。皮膜の厚さが30μmよりも厚いと、皮膜の脆性が増加し、耐クラック性が低下する。
【0033】
積層体は、例えば床下地の表面に接着剤によって接着され、これにより、艶消し性を有する床材を構成することができる。また、積層体は、床材の他に、巾木、化粧板、腰壁等の建材にも適用することができる。この場合も、各建材の下地材の表面に積層体を接着すればよい。
【0034】
基材は、樹脂の押出成形体であることが好ましい。また、基材は、例えば軟質PVC等の軟質樹脂系の樹脂からなるものが好ましい。
【0035】
本明細書は、上述したように様々な態様の技術を開示しているが、そのうち主な技術を以下にまとめる。
【0036】
上述したように、本発明の一局面に係るコーティング剤は、官能基数が3以下のウレタンアクリレートと、2-ヒドロキシエチルアクリレートと、フッ素系アクリレートと、艶消し粒子と、光重合開始剤と、を含むコーティング剤であって、前記コーティング剤の硬化後におけるグロス値が15以下である。
【0037】
この構成によれば、艶消し性に優れた皮膜を形成可能なコーティング剤を得ることができる。
【0038】
上記構成のコーティング剤において、前記ウレタンアクリレートと前記2-ヒドロキシエチルアクリレートの質量比が45:55~70:30であり、前記ウレタンアクリレートと前記2-ヒドロキシエチルアクリレートの合計100質量部に対して、前記フッ素系アクリレートを1~10質量部、前記艶消し粒子を5~15質量部、前記光重合開始剤を2.5~3.5質量部、それぞれ含んでもよい。
【0039】
これにより、艶消し性に優れた皮膜を形成可能なコーティング剤をより確実に得ることができる。
【0040】
上記構成のコーティング剤において、前記艶消し粒子が、シリカ粒子を含んでもよい。また、上記構成のコーティング剤において、前記艶消し粒子が、シリカ粒子とポリエチレンワックスとを含み、前記艶消し粒子に含まれる前記シリカ粒子と前記ポリエチレンワックスの質量比が3:7~7:3であってもよい。
【0041】
これにより、防汚性に優れた皮膜を形成可能なコーティング剤を得ることができる。
【0042】
上記構成のコーティング剤において、前記ウレタンアクリレートと前記2-ヒドロキシエチルアクリレートの合計100質量部に対して、抗菌剤および抗ウイルス剤の少なくとも一つを0.1~5質量部含んでもよい。
【0043】
これにより、抗菌性および/または抗ウイルス性に優れた皮膜を形成可能なコーティング剤を得ることができる。
【0044】
また、本発明の他の局面に係る積層体は、基材と、前記基材の表面に設けられた皮膜と、を備える積層体であって、前記皮膜は上記コーティング剤の硬化物である。
【0045】
この構成によれば、艶消し性に優れた皮膜を有する積層体を得ることができる。
【0046】
上記構成の積層体において、前記基材が押出成形体であってもよい。
【0047】
この構成によれば、長尺の積層体をより容易に得ることができる。
【0048】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記実施例によって制限されず、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例
【0049】
[試験例1]
表1および表2に示す成分割合(表中の成分の数値の単位は質量部である。)で、各原料を混合してコーティング剤を作成した。基材は、縦100mm、横100mm、厚さ2mmのシート状の軟質PVCの押出成形体を用いた。作成したコーティング剤を、基材の表面に塗布し、紫外線を照射して硬化させ、厚さ10μmの皮膜を形成し、試料とした。
【0050】
使用したコーティング剤の各原料は、以下の通りである。
官能基数が3以下のウレタンアクリレート:ダイセル・オルネクス株式会社製の官能基数2.5のウレタンアクリレートEBECRYL8800(表1および表2では単に「ウレタンアクリレート」と記載した。)
2-ヒドロキシエチルアクリレート:共栄社化学株式会社製のライトエステルHOA(N)(表1および表2では「HEA」と記載した。)。
防汚剤:ダイセル・オルネクス株式会社製のフッ素変性ウレタンアクリレートEBECRYL8110
艶消し粒子(シリカ粒子):エボニック製のポリエーテル変性シリコーン処理シリカACEMATT3600
艶消し粒子(ワックス):BYK-Chemie製のポリエチレンワックスCERAFLOUR925(表1および表2では「ワックス1」と記載した。)、または同社製のPTFE変性ポリエチレンワックスCERAFLOUR996(表1および表2では「ワックス2」と記載した。)
光重合開始剤:IGM Resins製のアルキルフェノン系光重合開始剤omnirad184
【0051】
【表1】
【0052】
【表2】
【0053】
上述のようにして得られた実施例1~9および比較例1~8の試料について、艶消し性(60°グロス値)の評価試験を行った。
【0054】
JIS Z 8741-1997に従い、光沢度計を用いて試料に形成された皮膜の60度鏡面光沢度(60°グロス値)を測定した。60°グロス値は、本発明で規定する15以下を合格とし、15よりも大きい場合を不合格とした。
【0055】
測定した60°グロス値を上記表1および表2に各試料の成分割合と併せて示す。
【0056】
表1、表2からわかるように、実施例1~14の試料では、60°グロス値が15以下であり、優れた艶消し性を有していた。一方比較例1および比較例2では60°グロス値が25と大きく、艶消し性に劣っていた。
【0057】
比較例1および比較例2で60°グロス値が大きかった理由としては、官能基数が3以下のウレタンアクリレートと2-ヒドロキシエチルアクリレート(HEA)の質量比が80:20と好ましい範囲(45:55~70:30)よりも大きかったことが影響している可能性がある。
【0058】
[試験例2]
グロス値が15以下であった実施例1~14については、以下の項目の試験を行った。
【0059】
[耐ヒールマーク性(耐汚染性)]
JIS K 3920に従い、ヒールマーク試験機を用いて試料に形成された皮膜の耐ヒールマーク性について試験を行った。試験後の皮膜に付着したヒールマークの皮膜に占める割合に基づき、以下の基準で耐ヒールマーク性(耐汚染性)を評価した。
◎:5%未満
○:5%以上10%未満
△:10%以上20%未満
▲:20%以上50%未満
×:50%以上
【0060】
[密着性]
試料に形成された皮膜の密着性を評価するため、皮膜に縦10マス横10マス、合計100マスの切り込みを設け、皮膜にテープを貼り付けて剥がす碁盤目剥離試験を行った。剥がれたマス目の個数の全マス目の個数に対する割合に基づき、以下の基準で皮膜の密着性を評価した。
○:剥がれ10%未満
×:剥がれ10%以上
【0061】
以上の項目についての評価結果を表3および表4に示す。
【0062】
【表3】
【0063】
【表4】
【0064】
表3および表4からわかるように、皮膜の耐ヒールマーク性(耐汚染性)については、実施例1~5、8、9、11、13(評価◎、○、△)は、実施例6、7、10、12、14(評価▲、×)に比べて良好であった。密着性については、実施例1~5、8~11、13、14(評価○)は、実施例6、7、12(評価×)に比べて良好であった。
【0065】
なお、表面に皮膜を形成していない状態の基材についても、耐ヒールマーク性を評価したところ、評価は×であった。
【0066】
実施例6、実施例7および実施例12は、いずれも密着性の評価が×であり、耐ヒールマーク性の評価が▲または×であった。これは、官能基数が3以下のウレタンアクリレートと2-ヒドロキシエチルアクリレート(HEA)の質量比が40:60と好ましい範囲(45:55~70:30)よりも小さかったことが影響していると考えられる。
【0067】
実施例10は、耐ヒールマーク性の評価が▲であった。これは、光重合開始剤の含有量が好ましい範囲(2.5~3.5質量部)よりも多かったため、皮膜の硬化が急速に進行し、皮膜の収縮によって生じる凹凸が、光重合開始剤の含有量が好ましい範囲であった実施例8、9に比べて大きかったことが影響していると考えられる。
【0068】
実施例14は、耐ヒールマーク性の評価が×であった。これは、艶消し粒子が、PTFE変性ポリエチレンワックスCERAFLOUR996(ワックス2)だけであり、シリカ粒子を含んでいないことが影響していると考えられる。
【0069】
[試験例3]
表5に示す成分割合(表中の成分の数値の単位は質量部である。)で、各原料を混合してコーティング剤を作成した。実施例15および実施例16のコーティング剤は、それぞれ実施例2のコーティング剤に抗菌剤または抗ウイルス剤を添加したものであり、試料の作製条件は、抗菌剤または抗ウイルス剤を含むことが異なる以外、実施例2と同様とした。使用した抗菌剤および抗ウイルスは、以下の通りである。
抗菌剤:富士ケミカル株式会社製の銀系抗菌剤バクテキラー
抗ウイルス剤:積水マテリアルソリューションズ株式会社製のイオン基含有ポリマー系抗ウイルス剤ウィルテイカー
【0070】
【表5】
【0071】
実施例15、16の試料に形成された皮膜について、それぞれ艶消し性(60°グロス値)の評価試験および、抗菌性または抗ウイルス性の評価試験を行った。抗菌性の評価試験は、JIS Z 2801のフィルム密着法に準拠して行い、抗ウイルス性の評価試験は、ISO21702に準拠して、A型インフルエンザウイルスおよびネコカリシウイルスについて行った。
【0072】
抗菌活性値が2.0以上または抗ウイルス活性値が2.0以上の場合、抗菌性または抗ウイルス性の評価を○とした。これらの項目についての評価結果を表5に成分割合と併せて示す。
【0073】
その結果、実施例15では、60°グロス値が6であり優れた艶消し性を有しているとともに、抗菌性の評価が○であり、皮膜に抗菌性があることが確認できた。
【0074】
実施例16では、60°グロス値が6であり優れた艶消し性を有しているとともに、抗ウイルス性の評価はA型インフルエンザウイルスおよびネコカリシウイルスのいずれについても○であり、皮膜に抗ウイルス性があることが確認できた。
【0075】
なお、実施例15、16の試料のいずれについても、実施例2と同等の耐ヒールマーク性および密着性を有することを確認した。