(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-18
(45)【発行日】2023-10-26
(54)【発明の名称】免震建物およびその設計方法
(51)【国際特許分類】
E04H 9/02 20060101AFI20231019BHJP
F16F 15/04 20060101ALI20231019BHJP
F16F 1/40 20060101ALI20231019BHJP
【FI】
E04H9/02 331A
E04H9/02 331E
F16F15/04 P
F16F1/40
(21)【出願番号】P 2020117013
(22)【出願日】2020-07-07
【審査請求日】2022-08-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124084
【氏名又は名称】黒岩 久人
(72)【発明者】
【氏名】金井 佳吾
(72)【発明者】
【氏名】木村 雄一
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 涼平
(72)【発明者】
【氏名】欄木 龍大
(72)【発明者】
【氏名】大和 伸行
【審査官】沖原 有里奈
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-009063(JP,A)
【文献】特開2017-203297(JP,A)
【文献】特開平08-120973(JP,A)
【文献】特開2000-310058(JP,A)
【文献】特開2017-210308(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 9/00-9/16
F16F 15/00-15/36
F16F 1/00-6/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層ゴムを用いた積層ゴム支承および/または弾性すべり支承で支持される免震建物の設計方法であって、
前記積層ゴムの圧縮軸力と圧縮変位との関係を非線形関数として前記免震建物の解析モデルを生成し、前記解析モデルを用いて振動解析を行うことで、前記免震建物を設計することを特徴とする免震建物の設計方法。
【請求項2】
積層ゴムを用いた積層ゴム支承および/または弾性すべり支承で支持される免震建物の設計方法であって、
前記免震建物は、下部構造体と、前記下部構造体の上に設けられた前記積層ゴム支承または前記弾性すべり支承を含む免震層と、前記免震層の上に設けられた上部構造体と、を備え、
前記免震建物の解析モデルを生成し、前記積層ゴムの圧縮軸力と圧縮変位との関係を非線形関数として、前記解析モデルに水平方向および上下方向の地震力を入力して応答を求める解析工程と、
前記下部構造体および前記上部構造体の応答加速度および応答変位量が、それぞれ、所定の閾値を下回るか否かを判定し、この判定が肯定的である場合には、次の工程に移り、否定的である場合には、前記免震建物の設計を変更して前記解析工程に戻る第1の検証工程と、
前記免震層を構成する積層ゴムのせん断変形量、上下変形量、および免震支承の面圧のうち少なくとも1つの応答値が、それぞれ、所定の閾値を下回るか否かを判定し、この判定が肯定的である場合には、設計を終了し、否定的である場合には、前記免震建物の設計を変更して前記解析工程に戻る第2の検証工程と、を備えることを特徴とする免震建物の設計方法。
【請求項3】
積層ゴムを用いた積層ゴム支承および/または弾性すべり支承で支持される免震建物であって、
前記積層ゴムの圧縮剛性が非線形関数で決定されて、前記積層ゴム支承および/または前記弾性すべり支承の浮き上がりが許容されていることを特徴とする免震建物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層ゴム支承や弾性すべり支承で支持される免震建物およびその設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、弾性すべり支承を免震支承として用いた免震建物がある。この弾性すべり支承は、すべり板の上を積層ゴムが水平方向に摺動する構造であり、柱の軸力によって生じる積層ゴムとすべり板との摩擦力により地震エネルギーを吸収する。この弾性すべり支承は、軸力変動の小さい中柱の直下に配置されることが多く、従来では、弾性すべり支承の浮き上がりは許容されていなかった。また、免震建物を設計する際、弾性すべり支承の積層ゴムの圧縮剛性(圧縮軸力と圧縮変位との関係)は、直線で近似して用いていた。
ところで、近年、板状のマンションのような平面視で所定方向に長い建物にも、弾性すべり支承を設ける場合がある。また、想定される地震力が増大傾向にあり、水平方向の揺れに加えて、上下方向の揺れが想定されている。このような場合、弾性すべり支承に大きな引き抜き力が作用して、実際の免震建物の挙動が設計と大きく異なるおそれがあった。
【0003】
特許文献1には、建物に適用される免震構造を設計する方法が示されている。建物は、上部構造物、下部構造物、および免震構造を備えている。上部構造物は、第1の質量要素、第2の質量要素、および上部弾性要素を含んでいる。免震構造は、下部弾性要素、慣性質量要素、および粘弾性要素を含んでいる。この免震構造の設計方法は、下部弾性要素の弾性係数、連結弾性要素の弾性係数、および上部構造物の第1の質量要素の質量を含む第1の関数を利用して、連結減衰要素の減衰係数を得るステップと、下部弾性要素の弾性係数および連結弾性要素の弾性係数を利用して、第1の等価弾性係数を得るステップと、第1の質量要素の質量、第2の質量要素の質量、第1の等価弾性係数、および上部弾性要素の弾性係数を含む第2の関数を利用して、慣性質量要素の質量を得るステップと、を有する。
特許文献2には、上下部構造の一方に固定された帯板状のすべり板と、上下部構造の他方に固定された積層ゴム支承部材とを備えた免震装置が示されている。積層ゴム支承部材とすべり板との間には、すべり材が介装されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-203297号公報
【文献】特許第3941251号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、信頼性の高い免震建物の設計方法、および、この設計方法で設計された免震建物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、信頼性の高い免震建物の設計方法として、免震建物の解析モデルを生成する際、積層ゴム支承や弾性すべり支承を構成する積層ゴムの圧縮剛性を実大試験体の実験結果に基づいた非線形関数とし、この解析モデルを用いて振動解析を行って、建物および積層ゴムのそれぞれの応答値が閾値を下回るようにすることで、積層ゴム支承や弾性すべり支承の浮き上がりを許容した免震建物が構築可能となる点に着眼して、本発明に至った。
第1の発明の免震建物の設計方法は、積層ゴム(例えば、後述の積層ゴム22)を用いた積層ゴム支承(例えば、後述の積層ゴム支承20)および/または弾性すべり支承(例えば、後述の弾性すべり支承21)で支持される免震建物(例えば、後述の免震建物1)の設計方法であって、前記積層ゴムの圧縮軸力と圧縮変位との関係を非線形関数として前記免震建物の解析モデルを生成し、前記解析モデルを用いて振動解析を行うことで、前記免震建物を設計することを特徴とする。
【0007】
第2の発明の免震建物の設計方法は、積層ゴム(例えば、後述の積層ゴム22)を用いた積層ゴム支承(例えば、後述の積層ゴム支承20)および/または弾性すべり支承(例えば、後述の弾性すべり支承21)で支持される免震建物(例えば、後述の免震建物1)の設計方法であって、前記免震建物は、下部構造体(例えば、後述の下部構造体10)と、前記下部構造体の上に設けられた前記積層ゴム支承または前記弾性すべり支承を含む免震層(例えば、後述の免震層11)と、前記免震層の上に設けられた上部構造体(例えば、後述の上部構造体12)と、を備え、前記免震建物の解析モデル(多質点系モデル、立体骨組モデル)を生成し、前記積層ゴムの圧縮軸力と圧縮変位との関係を非線形関数として、前記解析モデルに水平方向および上下方向の地震力を入力して応答を求める解析工程(例えば、後述のステップS1、S2)と、前記下部構造体および前記上部構造体の応答加速度および応答変位量が、それぞれ、所定の閾値を下回るか否かを判定し、この判定が肯定的である場合には、次の工程に移り、否定的である場合には、前記免震建物の設計を変更して前記解析工程に戻る第1の検証工程(例えば、後述のステップS3、S5)と、前記免震層を構成する積層ゴムのせん断変形量、上下変形量、および免震支承の面圧のうち少なくとも1つの応答値が、それぞれ、所定の閾値を下回るか否かを判定し、この判定が肯定的である場合には、設計を終了し、否定的である場合には、前記免震建物の設計を変更して前記解析工程に戻る第2の検証工程(例えば、後述のステップS4、S6)と、を備えることを特徴とする。
【0008】
免震建物を設計する際には、この免震建物に設置される積層ゴム支承や弾性すべり支承などの免震支承をモデル化して、振動解析を行っている。従来では、この振動解析において、免震支承の積層ゴムの圧縮軸力と圧縮変位との関係を表わす圧縮剛性(勾配)を、積層ゴムの加力試験で得られる圧縮剛性よりも大きく設定していた(例えば、日本建築学会:免震構造設計指針、pp.25~pp.31、2001年9月10日、第3版)。つまり、実際の弾性すべり支承では、地震発生前の建物自重のみが作用している状態で、積層ゴムの圧縮変位量が従来の設計方法による想定値よりも大きく、一定量沈下した状態となっている(つまり、柱の軸力により大きく潰れている)。よって、実際は、弾性すべり支承に浮き上がりが作用した際、振動解析による想定値以上沈下しているため、浮き上がり現象は起きないが、振動解析上では大きく浮き上がることとなっている場合があった。そのため、従来では、免震支承が浮き上がる場合は、免震計画を検討し直す必要があった。具体的には、免震支承に引張力が作用する場合には、引き抜き力を緩和するために引き抜き対応型免震支承を設けていた。
そこで、第1および第2の発明によれば、振動解析において、免震層を構成する積層ゴムの圧縮剛性を非線形関数とした。これにより、地震時の免震支承の挙動について、浮き上がりも考慮した実態に近い解析を行うことができ、免震支承の個数を適正化して、信頼性の高い免震建物を設計できる。
【0009】
第3の発明の免震建物の設計方法は、前記積層ゴムの圧縮軸力と圧縮変位との関係を示す非線形関数は、実大試験体を用いた試験結果あるいはシミュレーション解析の解析結果に近似した多折れ線または曲線であることを特徴とする。
【0010】
この発明によれば、積層ゴムの圧縮軸力と圧縮変位との関係を示す非線形関数を、積層ゴムの実大試験体の試験結果あるいはシミュレーション解析の解析結果に近似した多折れ線または曲線としたので、免震建物の設計における信頼性をより向上できる。
【0011】
第4の発明の免震建物は、上述の免震建物の設計方法により設計されたことを特徴とする。
この発明によれば、信頼性の高い免震建物を構築できる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、信頼性の高い免震建物の設計方法、および、この設計方法で設計された免震建物を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態に係る免震支承の設計方法により設計される免震建物の縦断面図である。
【
図2】免震建物に用いられる積層ゴム支承および弾性すべり支承の側面図である。
【
図3】免震建物の設計方法のフローチャートである。
【
図4】積層ゴム支承および弾性すべり支承を構成する積層ゴムの解析モデルに設定した圧縮剛性を示す図である。
【
図5】本発明の実施例である免震建物の軸組および免震支承の配置を示す図である。
【
図6】実施例の弾性すべり支承をモデル化した図である。
【
図7】実施例の弾性すべり支承の解析モデルのせん断ばねに設定した面圧と摩擦係数との関係を示す図である。
【
図8】実施例の弾性すべり支承の解析モデルのせん断ばねに設定した面圧とせん断力との関係を示す図である。
【
図9】実施例の弾性すべり支承の解析モデルの非線形鉛直ばねに設定した圧縮剛性を示す図である。
【
図10】実施例の積層ゴム支承(φ1200)の解析モデルに設定した圧縮剛性を示す図である。
【
図11】実施例の積層ゴム支承(φ1100)の解析モデルに設定した圧縮剛性を示す図である。
【
図12】実施例の弾性すべり支承および積層ゴム支承の圧縮剛性を比較した図である。
【
図13】実施例の免震建物の振動解析結果(弾性すべり支承の圧縮変位および面圧の時刻歴応答結果)を示す図(その1)である。
【
図14】実施例の免震建物の振動解析結果(弾性すべり支承の圧縮変位および面圧の時刻歴応答結果)を示す図(その2)である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、積層ゴムの圧縮剛性を実大試験体の実験結果に基づいた非線形関数として、免震建物の解析モデルを生成し、この解析モデルを用いて振動解析を行う、免震建物の設計方法、およびその設計方法により設計した免震建物である。
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る免震建物の設計方法により設計される免震建物1の縦断面図である。
免震建物1は、下部構造体10と、下部構造体10の上に設けられた積層ゴム支承20および弾性すべり支承21を含む免震層11と、免震層11の上に設けられた上部構造体12と、を備える。積層ゴム支承20は、免震建物1の外周部の柱13の直下に配置され、弾性すべり支承21は、免震建物1の内周部の柱13の直下に配置されている(
図2(a)、(b)参照)。以降、積層ゴム支承20および弾性すべり支承21を、まとめて免震支承と呼ぶ。
図2(a)は、積層ゴム支承20の側面図であり、
図2(b)は、弾性すべり支承21の側面図である。
積層ゴム支承20は、積層ゴム22単体で構成されている。積層ゴム22は、下部構造体10の上に固定された下フランジ30と、この下フランジ30の上に設けられてゴムと鋼板とを交互に積層して構成された積層ゴム本体31と、積層ゴム本体31の上に設けられて上部構造体12に固定された上フランジ32と、を備える。
弾性すべり支承21は、下部構造体10の上に固定されたすべり板23と、このすべり板23の上に摺動可能に設けられて上部構造体12を支持する積層ゴム22と、を備える。この弾性すべり支承21では、柱13の軸力を受ける積層ゴム22がすべり板23上を摺動することで、地震エネルギーを吸収する。
【0015】
図3は、免震建物1の設計方法のフローチャートである。
ステップS1では、三次元仮想空間上に免震建物1の解析モデル(多質点系モデル、立体骨組モデル)を生成する。
ステップS2では、生成した解析モデルに水平方向および上下方向の地震力を入力して応答を求める。このとき、
図4に示すように、従来の設計方法では、積層ゴム支承20および弾性すべり支承21の積層ゴム22の圧縮剛性(圧縮軸力と圧縮変位との関係)が線形であったが、本発明では非線形とする。
ステップS3では、下部構造体10および上部構造体12の応答加速度および応答変位量が、それぞれ、所定の閾値を下回るか否かを判定する。この判定がYes(肯定的)である場合には、次のステップS4に移り、No(否定的)である場合には、ステップS5に移る。
【0016】
ステップS5では、免震建物1の設計を変更して、ステップS1に戻る。
ステップS4では、積層ゴム支承20および弾性すべり支承21の積層ゴム22のせん断変形量、上下変形量、および免震支承(積層ゴム支承20および弾性すべり支承21)の面圧の応答値が、それぞれ、所定の閾値を下回るか否かを判定する。この判定がYes(肯定的)である場合には、設計を終了し、No(否定的)である場合には、ステップS6に移る。
ステップS6では、免震建物1の設計を変更して、ステップS1に戻る。
【0017】
〔実施例〕
以下、本発明の免震建物の設計方法を適用した実施例について説明する。本実施例では、免震建物をモデル化して振動解析(三次元有限要素解析)を行った。
〔1.免震建物の構造〕
図5(a)は、本実施例の設計対象となる免震建物の軸組を示す正面図および側面図である。
図5(b)は、免震建物における免震支承の配置を示す平面図である。この免震建物の構造は、以下の通りである。
階数: 19階
建物高さ: 約60m
階高: 3.1m
構造種別: 基礎免震の鉄筋コンクリート造
架構形式: 桁方向がラーメン構造、梁間方向が連層耐震壁
アスペクト比:最高部分で4.9
【0018】
ここで、免震建物の中央部(Y5~Y8通り)には、φ1200mmの弾性すべり支承(SA80-1200-8.0×3)が配置されている。一方、免震建物の端部(Y1~Y4通り、Y9~Y12通り)には、φ1200mmの積層ゴム支承(R40-1200-9.0×26)またはφ1100mmの積層ゴム支承(R40-1100-8.3×26)が配置されている。
【0019】
〔2.弾性すべり支承のモデル化〕
免震建物の下部構造体と上部構造体との間のギャップ要素である弾性すべり支承を、
図6のようにモデル化した。すなわち、弾性すべり支承を、鉛直方向に直列に配置された2つの鉛直ばねと、せん断方向(水平方向)でかつ互いに交差するX方向およびY方向に伸縮する2つのせん断ばねと、を組み合わせて表わした。
せん断ばねについては、初期剛性および摩擦係数を設定することで、弾性すべり支承のスリップ特性を表わした。本実施例では、摩擦係数の面圧依存性を考慮することで、弾性すべり支承の水平方向の特性を高精度で解析できるようにした。
また、詳しくは後述するが、上側の弾性鉛直ばねは剛とし、下側の非線形鉛直ばねの圧縮剛性を非線形として浮き上がりを考慮できるようにした。本実施例では、このように2つの鉛直ばねを直列に配置することで、面圧依存性を保持したまま圧縮方向の変形特性を表現した。
【0020】
せん断ばねの摩擦係数μは、一定値とすることなく、面圧に応じて変動するように設定する。具体的には、
図7に示すように、10N/mm
2から30N/mm
2までの範囲で、メーカーの評価式に近似した直線を設定する。すると、面圧とせん断力との関係は、
図8に示すようになる。
【0021】
下側の非線形鉛直ばねについて、引張剛性をゼロとすることで、弾性すべり支承の浮き上がりを表現した。
また、下側の非線形鉛直ばねの圧縮剛性を、
図9に示すように、3本の直線からなるトリリニアの非線形関数で表わした。
従来では、弾性すべり支承をモデル化する際、ゴムの縦弾性係数、全ゴムの層厚さ、断面積に基づいて、圧縮剛性を線形としていた(例えば、日本建築学会:免震構造設計指針、pp.25~pp.31、2001年9月10日、第3版)。以下、この圧縮剛性を線形とした解析モデルを圧縮線形モデルと呼ぶ。
【0022】
これに対し、本発明では、弾性すべり支承をモデル化する際、圧縮剛性をトリリニア型の非線形とした。以下、この圧縮剛性を非線形とした解析モデルを圧縮非線形モデルと呼ぶ。具体的には、まず、弾性すべり支承の加力実験を行った。この加力実験では、基準面圧を20N/mm2とし、基準面圧+30%まで載荷し(実験データP)、その後、基準面圧+30%から-30%の間で3サイクル載荷した後、除荷した(実験データQ)。実験データP、Qに示すように、最初に載荷したときは積層ゴムが硬いが、一度力を加えることによってゴム物性が馴染んで剛性が低下している。
次に、弾性すべり支承の実験データの面圧2.0N/mm2の点を第1折れ点aとし、基準面圧-30%の点を第2折れ点bとし、基準面圧+30%となる点を終点cとする。次に、原点と第1折れ点aとを結ぶ直線を第1勾配Aとし、第1折れ点aと第2折れ点bとを結ぶ直線を第2勾配Bとし、第2折れ点bと終点cとを結ぶ直線を第3勾配Cとする。これら第1勾配A、第2勾配B、第3勾配Cの比率を求めて、第3勾配Cが従来の線形のデータと一致するように、非線形関数を設定した。
また、上側の弾性鉛直ばねの圧縮剛性を、第3勾配Cの1000倍とした。
【0023】
〔3.積層ゴム支承のモデル化〕
積層ゴム支承の圧縮剛性についても、支承の種類や径によって異なり、基準面圧も弾性すべり支承とは異なるものの、弾性すべり支承と同様に、加力実験の結果に基づいてモデル化した。すなわち、積層ゴム支承を単一の鉛直ばねでモデル化し、以下のように設定した。この積層ゴム支承の鉛直ばねについては、基準面圧を15N/mm
2とし、上述の弾性すべり支承と同様の手順で圧縮剛性を決定した。これにより、積層ゴム支承の鉛直ばねは、
図10および
図11に示すように、3本の直線からなるトリリニアの非線形関数となった。また、積層ゴム支承の鉛直ばねの引張剛性を、例えば第3勾配の1/10とした。
以上の実施例で用いた、φ1200mmの弾性すべり支承(SA80-1200-8.0×3)、φ1200mmの積層ゴム支承(R40-1200-9.0×26)、およびφ1100mmの積層ゴム支承(R40-1100-8.3×26)について、積層ゴムの圧縮剛性をまとめると、
図12のようになった。
【0024】
〔4.振動解析〕
以上の免震建物の解析モデルに、告示jMA-Kobe(レベル2)のNS位相およびUD位相に対して、所定の倍率をかけたものを入力し、免震建物の解析モデルでのX2通り、Y5通りにおける弾性すべり支承の鉛直変位および面圧の時刻歴応答を求めた。
図13は、入力地震動としてH1.5-V1.5(水平動1.5 倍、上下動1.5倍)を用いた場合であり、
図14は、入力地震動としてH1.5-V3.0(水平動1.5 倍、上下動3.0倍)を用いた場合である。
図13に示すH1.5-V1.5の場合、圧縮線形モデルの最大浮き上がり量は0.071cmであるのに対し、圧縮非線形モデルの最大浮き上がり量は0.002cmである。どちらの圧縮モデルとも、極微量の浮き上がりが生じているものの、圧縮非線形モデルの方が全体的に浮き上がり量は抑制されていることが判る。
図14に示すH1.5-V3.0の場合、15~17秒付近ではH1.5-V1.5の場合と同様に、浮き上がりが顕著に生じている。鉛直変位については、圧縮線形モデルで最大0.230cm、圧縮非線形モデルでは0.119cmであり、
図13に示すH1.5-V1.5と同様に、圧縮非線形モデルの方が圧縮線型モデルよりも抑えられている。これは、弾性すべり支承の圧縮剛性をトリリニア型で模擬したことで、長期軸力による圧縮方向のひずみが増大して、支承の浮き上がり量が減少したと考えられる。最大浮き上がり発生(16.6秒)後の支承着座時の最大面圧は、H1.5-V1.5で圧縮線形モデルの場合は16.8N/mm
2で、圧縮非線形の場合は17.5N/mm
2であり、 共に基準面圧相当である。H1.5-V3.0では圧縮線形で23.7N/mm
2、圧縮非線形では23.3N/mm
2であり、短期許容面圧以下である。圧縮剛性の線形、非線形特性の違いに関わらず、両モデル共に同程度の面圧を受けることから浮き上がり量の違いによる着座時面圧への影響は僅かであった。
上述のように、弾性すべり支承の鉛直加力試験に基づき、圧縮剛性の非線形特性を考慮し、上下動に対する支承の浮き上がり挙動を検討した。実施例では、従来に比べて、弾性すべり支承の浮き上がりが小さくなるか、あるいは、なくなることが確認された。
【0025】
本実施形態によれば、以下のような効果がある。
(1)免震層11を構成する積層ゴム支承20および弾性すべり支承21の積層ゴム22について、圧縮軸力と圧縮変位との関係を非線形関数とした。これにより、地震時の免震支承の挙動について、浮き上がりも考慮した実態に近い解析を行うことができ、信頼性の高い免震建物1を設計できる。
(2)積層ゴム22の圧縮軸力と圧縮変位との関係を示す非線形関数を、シミュレーション解析の解析結果に近似したトリリニア(多折れ線)としたので、免震建物1の設計における信頼性をより向上できる。
【0026】
(3)本発明の免震建物の設計方法では、免震支承をモデル化する際、圧縮剛性を低剛性かつ非線形とした。これにより、地震発生前の長期軸力のみが作用した状態における沈下変位量を、実状と整合するように大きく評価することができ、沈み込みによるポテンシャルエネルギー量も大きくなるため、振動解析によっても、実際の観測記録のように浮き上がり現象が発生しなくなる。したがって、免震支承の解析モデルの圧縮剛性を、非線形かつ低く設定することで、実験結果を裏付けるように歪エネルギーを大きくモデル化できる。
【0027】
なお、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
【符号の説明】
【0028】
1…免震建物 10…下部構造体 11…免震層 12…上部構造体 13…柱
20…積層ゴム支承 21…弾性すべり支承 22…積層ゴム 23…すべり板
30…下フランジ 31…積層ゴム本体 32…上フランジ
P、Q…実験データ a…第1折れ点 b…第2折れ点 c…終点
A…第1勾配 B…第2勾配 C…第3勾配