(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-18
(45)【発行日】2023-10-26
(54)【発明の名称】乱用防止長期作用型徐放性オピオイドプロドラッグ
(51)【国際特許分類】
C07D 489/08 20060101AFI20231019BHJP
A61K 31/485 20060101ALI20231019BHJP
A61P 25/04 20060101ALI20231019BHJP
A61P 25/36 20060101ALI20231019BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20231019BHJP
【FI】
C07D489/08 CSP
A61K31/485
A61P25/04
A61P25/36
A61P43/00 123
(21)【出願番号】P 2020502994
(86)(22)【出願日】2018-07-19
(86)【国際出願番号】 US2018042880
(87)【国際公開番号】W WO2019018638
(87)【国際公開日】2019-01-24
【審査請求日】2021-07-15
(32)【優先日】2017-07-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】520019078
【氏名又は名称】スーチョウ ランシンダタイ ファーマシューティクス エルティーディー シーオー.
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】オウヤン,フイ
(72)【発明者】
【氏名】チウ,ヨン
【審査官】神谷 昌克
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2011/0015398(US,A1)
【文献】特表2007-505139(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
A61K
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式1の化合物、または薬学的に許容可能なその塩であって、
【化1】
式中、
R
1
が、式CH
3
(CH
2
)
n
-を有する非置換直鎖アルキル鎖であり、nが8~24の整数である、化合物または薬学的に許容可能なその塩。
【請求項2】
nが10~24の整数である、請求項1に記載の化合物または薬学的に許容可能なその塩。
【請求項3】
R
1が、CH
3(CH
2)
10-、CH
3(CH
2)
12-、CH
3(CH
2)
14-、およびCH
3(CH
2)
16-から選択される、請求項
1に記載の化合物または薬学的に許容可能なその塩。
【請求項4】
R
1
が、CH
3
(CH
2
)
10
-である、請求項1に記載の化合物または薬学的に許容可能なその塩。
【請求項5】
R
1
が、CH
3
(CH
2
)
12
-である、請求項1に記載の化合物または薬学的に許容可能なその塩。
【請求項6】
R
1
が、CH
3
(CH
2
)
14
-である、請求項1に記載の化合物または薬学的に許容可能なその塩。
【請求項7】
R
1
が、CH
3
(CH
2
)
16
-である、請求項1に記載の化合物または薬学的に許容可能なその塩。
【請求項8】
請求項1~
7のいずれか1項に記載の化合物または薬学的に許容可能なその塩および薬学的に許容可能な賦形剤または担体を含む医薬組成物。
【請求項9】
治療を必要としている対象の疼痛を治療する用の医薬組成物の製造における、請求項1~
7のいずれか1項に記載の化合物または薬学的に許容可能なその塩の使用。
【請求項10】
前記医薬組成物が、皮下または筋肉内投与用の医薬組成物に製剤化されている、請求項
9に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2017年7月20日に出願された米国仮出願第62/534,907号の利益を主張する。この米国仮出願の内容は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
発明の分野
種々の実施形態では、本発明は一般に、処方薬物乱用の撲滅を目的とする乱用防止製剤に関する。例えば、いくつかの実施形態では、本発明は、乱用防止長期作用型徐放性オピオイド製剤の作製と適用に関する。
【背景技術】
【0003】
米国では、処方オピオイド薬の乱用が「蔓延」している。オピオイドの乱用比率は、1990~2000年の10年間で4倍になった(例えば、Passik SD et al.Clin J Pain 22(2):173-181(2006)を参照)。アメリカ疾病管理予防センターは、新規オピオイド使用者の数が、2000~2010年で104%増加したことを示す統計データを発表した。2010年には、米国内に240万人のオピオイド乱用者が存在した(Lembke A N Engl J Med 367:1580-1(2012))。2007年までに、米国人は、世界中の全てのオピオイド供給の80%およびヒドロコドンの99%を使用していた(Manchikanti,Pain Physician 10:399-424(2007))。
【0004】
処方オピオイド薬の乱用は、大きな社会的および経済的コストと関連している。処方オピオイドの過量投与は、コカインおよびヘロインの合計より多くの死亡の原因になっている(Jones CM et al.JAMA 309:657-9(2013))。2003年以来、処方オピオイド薬に関連する死亡数は、年々増大しており、2010年だけでも16,000件を超える死亡数になっている(Volkow ND et al.The New England Journal of Medicine 370(22):2063-2066(2014))。重大な病的状態および死亡率を引き起こすのに加えて、処方オピオイド薬の乱用は、健康管理システムにおける大きな負荷を生じた。オピオイド乱用者に対する平均直接医療費は、非乱用者の平均より8倍多い。処方薬乱用の経済的影響は、医療費だけでも毎年725億ドルになると推定されている。
【0005】
処方オピオイド薬の乱用に付随する大きな社会的および経済的コストにもかかわらず、オピオイドは、米国において慢性疼痛を抱えて生きている1億人の成人の医療と転帰を改善するために不可欠である。慢性疼痛に関連する医学的処置および失われた生産性のコストは、年間5600億ドル~6350億ドルと推定されている(Institute of Medicine,See http://www.nap.edu/openbook.php?record_ id=13172(2011))。オピオイドは、癌患者の重度急性疼痛および慢性疼痛の治療用として広く認められている。米国疼痛学会による「Clinical Guidelines for the Use of Chronic Opioid Therapy in Chronic Noncancer Pain(慢性非癌性疼痛における慢性オピオイド療法の使用のための臨床ガイドライン)」によると、状態が、「生活の機能または質に悪影響を与え、潜在的治療効果が潜在的害を上回るか、またはその可能性がある」場合には、中等度または重度の慢性非癌性疼痛に対してもオピオイドが推奨されている。慢性オピオイド治療による大きなリスク因子は、乱用、中毒、および流用である(Chou R et al,J Pain.10(2):113-30(2009))。
【0006】
持続放出(ER)オピオイド製剤は、慢性疼痛治療中の薬物乱用リスクの低減に関して、限られた成果しかもたらしていない。薬物乱用者は、「放心状態(dump)」効果を引き起こすことにより、すなわち、過剰数の丸薬を経口摂取すること、または改変製剤を鼻で吸うこと、その煙を吸い込むこと、またはそれを注射することにより多幸感を得ようとする。効果は、短時間(Tmax)の間、遙かに高いピーク血中濃度(Cmax)を生じる。乱用者の多幸感の所望の「報償」は、乱用指数(AQ=Cmax/Tmax)により測定できる(Raffa RB et al.Drugs 70(13):1657-1675(2010))。ER製剤は、Tmaxを増大させ、Cmaxを低減することにより、処方医薬の乱用指数を減らす完全な解決策のように見える。ER製剤はまた、慢性疼痛管理のための長時間作用型効果の利便性を与える。FDAは、多数のERオピオイド製剤、例えば、Avinza、Exalgo、カディアン、MSコンチン、Nucynta、Opana、およびオキシコンチンを認可した。これら全ての製剤は、薬物乱用を抑止するために、種々の乱用防止製剤技術を採用した。しかし、厳密に検査すると、ER製剤は、その1回の服用当たりのより高い薬物量のために、乱用者にとって、即効型(IR)製剤より大きな魅力があった。乱用者は、いつでもER製剤を粉砕すること、切断すること、破壊すること、噛み砕くこと、および抽出することができる。改質製剤は通常、より短い期間で、より高い開始時血中濃度を生成する(Webster L.Pain Med 10(S2):S124-S133(2009))。
【0007】
オピオイド乱用潜在力を減らす観点でのオピオイド製剤への抑止作用のある化学薬品の添加は成功していない。一例は、使用者が製剤を変更する際の使用者の薬物効果に対する反応を減らすためのオピオイド受容体拮抗薬の、ナロキソンまたはナルトレキソンの添加である。別の例は、使用者が製剤を変更する際の不快感の副作用を生じさせるオピオイド製剤中へのナイアシンまたはアセトアミノフェンの添加である。これらの製剤の内で、サボキソンは、軽微な役割しか果たさないにも関わらず、まだ市場に出ている。Embeda、Oxytrex、Oxecta、およびAcuracetなどのその他の製剤は、薬物乱用潜在力を低減させる証拠がなかったか、または製剤開発過程で問題に遭遇した(Webster LR Exp Opin Investig Drugs 16(8):1277-1283(2007);Webster LR et al.J Pain 7(12):937-946(2006);Largent-Milnes TM et al.J Pain 9(8):700-713(2008))。
【0008】
プロドラッグ戦略は、乱用防止オピオイド製剤を作製できる可能性がある。Bio-MD技術は、ペプチドのオピオイドへの結合を伴う(Jenkins TEら、米国特許出願公開第2011/0262,355A1号)。小腸中で、オピオイド上のペプチドマスクは、酵素トリプシンにより開裂され、オピオイドを放出する。不活性オピオイド複合体は、投与後、体循環中で安定であり、小腸中で活性オピオイドに変換されるまで、化学操作に耐性がある。Bio-MD技術はまだ開発段階にある。
【0009】
まとめると、製剤技術は、乱用防止オピオイド製剤の開発において限られた成果に到達したところである。プロドラッグ技術は、処方オピオイド薬乱用を撲滅するための有望な代替物を提供する。
【発明の概要】
【0010】
種々の実施形態では、本発明は、オピオイドプロドラッグなどの規制物質のためのプロドラッグを提供し、これは、薬物改変を防止/抑止する、および/またはインビボで長期作用型徐放性プロファイルを達成する物理的、化学的および生物学的活性を有し得る。長期作用型徐放性プロファイルは、病院または診療所でのみ、医師がオピオイド製剤を使用することを可能とし、医院外での患者のオピオイドへの接近を制限し、オピオイド乱用の可能性を完全に回避する。
【0011】
本開示のいくつかの実施形態は、例えば、本明細書に記載のような規制物質の新規プロドラッグに関する。いくつかの実施形態では、プロドラッグは、式I-Xの化合物、または薬学的に許容可能なその塩であり、
【化1】
式中、A、L、およびDは、本明細書で定義される。いくつかの実施形態では、Aは、脂質、置換脂質、天然の生分解性ポリマー、または合成生分解性ポリマーの残基である。いくつかの実施形態では、Dは、規制物質(例えば、表1の化合物のいずれか、例えば、本明細書で記載のオピオイド、例えば、オキシモルホン、ヒドロモルホン、モルヒネ、レボルファノール、またはオキシコドン)の残基である。Lは通常、エステルリンカーなどのリンカーである。通常、式I-Xの化合物の投与は、例えば、リンカーLの加水分解を介して、規制物質またはその代謝物のインビボでの放出をもたらし得る。
【0012】
いくつかの特定の実施形態では、新規プロドラッグは、オキシモルホンのプロドラッグである。いくつかの実施形態では、プロドラッグは、式1の化合物、または薬学的に許容可能なその塩であり:
【化2】
式中、R
1は本明細書で定義される。いくつかの実施形態では、R
1は、7~30個の炭素を有する非置換直鎖アルキル鎖である。いくつかの実施形態では、R
1は、7~30個の炭素を有する非置換分岐アルキル鎖である。いくつかの実施形態では、R
1は、7~30個の総炭素数を有する置換もしくは非置換直鎖または分岐アルキル鎖である。いくつかの実施形態では、R
1は、式CH
3(CH
2)
n-を有する非置換直鎖アルキル鎖であり、式中、nは8~24(例えば、10~24)の整数である。いくつかの特定の実施形態では、R
1は、CH
3(CH
2)
10-、CH
3(CH
2)
12-、CH
3(CH
2)
14-、およびCH
3(CH
2)
16-から選択される。いくつかの実施形態では、新規プロドラッグは、ヒドロモルホンのプロドラッグである。いくつかの実施形態では、プロドラッグは、式2の化合物、または薬学的に許容可能なその塩であり:
【化3】
式中、R
2は本明細書で定義される。いくつかの実施形態では、R
2は、7~30個の炭素を有する非置換直鎖アルキル鎖である。いくつかの実施形態では、R
2は、7~30個の炭素を有する非置換分岐アルキル鎖である。いくつかの実施形態では、R
2は、7~30個の総炭素数を有する置換もしくは非置換直鎖または分岐アルキル鎖である。いくつかの実施形態では、R
2は、式CH
3(CH
2)
n-を有する非置換直鎖アルキル鎖であり、式中、nは8~24(例えば、10~24)の整数である。いくつかの特定の実施形態では、R
2は、CH
3(CH
2)
10-、CH
3(CH
2)
12-、CH
3(CH
2)
14-、およびCH
3(CH
2)
16-から選択される。
【0013】
本開示の特定の実施形態は、本明細書のプロドラッグを含む医薬組成物に関する。いくつかの実施形態では、医薬組成物は、乱用防止製剤である。いくつかの実施形態では、医薬組成物は、式I-Xの化合物、または薬学的に許容可能なその塩を含むことができ、
【化4】
式中、A、L、およびDは、本明細書で定義される。いくつかの実施形態では、医薬組成物は、皮下または筋肉注射などの注射用に処方できる。いくつかの実施形態では、医薬組成物は、一般的な改変条件、例えば、重曹または食酢媒介による、それぞれ約8.3または2.4のpHでの加水分解、または約1.6のpHでのクエン酸媒介加水分解に対し耐えることができる(例えば、これらの条件下で実質的に安定である)。いくつかの実施形態では、式I-Xの化合物または薬学的に許容可能なその塩を含む医薬組成物は、規制物質(例えば、オキシモルホンまたはヒドロモルホン)の長時間作用型放出をもたらすことができる。いくつかの実施形態では、医薬組成物は、投与後、対象使用者中で、少なくとも3日間などの長期間にわたり規制物質またはその代謝物を放出できる。いくつかの実施形態では、医薬組成物は、式I-Xの化合物、または薬学的に許容可能なその塩を含み、式中、Dは、モルヒネ、オキシモルホン、ヒドロモルホン、レボルファノール、またはオキシコドンの残基である。いくつかの実施形態では、医薬組成物は、式1または2の化合物(例えば、化合物番号1~8のいずれか)、または薬学的に許容可能なその塩を含む。
【0014】
本明細書で記載のプロドラッグは、鎮痛薬(例えば、オキシモルホンまたはヒドロモルホン)であり得る。したがって、本開示のある実施形態はまた、疼痛(例えば、慢性疼痛)を治療する方法に関する。いくつかの実施形態では、方法は、治療有効量の鎮痛薬(例えば、オキシモルホンまたはヒドロモルホン)のプロドラッグまたは薬学的に許容可能なその塩、または鎮痛薬のプロドラッグまたは薬学的に許容可能なその塩を含む医薬組成物(例えば、注射可能製剤)を、それを必要としている対象に投与することを含む。いくつかの実施形態では、投与は、皮下または筋肉注射などの注射であり得る。いくつかの実施形態では、プロドラッグは、式I-Xの化合物、または薬学的に許容可能なその塩であり、式中、Dは、表1に記載の、鎮痛薬、例えば、表1に記載のオピオイドまたはフェノール性オピオイドのいずれかである規制物質の残基である。いくつかの実施形態では、Dは、モルヒネ、オキシモルホン、ヒドロモルホン、レボルファノール、またはオキシコドンの残基である。いくつかの実施形態では、プロドラッグは、式1または2の化合物(例えば、化合物番号1~8のいずれか)、または薬学的に許容可能なその塩であり得る。
【0015】
いくつかの実施形態では、本開示はまた、規制物質の乱用の可能性を低減する方法も提供する。いくつかの実施形態では、方法は、規制物質のプロドラッグを提供すること、およびプロドラッグを乱用防止製剤に処方することを含み、プロドラッグは、式I-Xの化合物(本明細書で定義のような)または薬学的に許容可能なその塩であり、式I-X中のDは、規制物質の残基である。いくつかの実施形態では、乱用防止製剤は、皮下または筋肉注射可能製剤などの注射可能製剤である。いくつかの実施形態では、乱用防止製剤は、一般的な改変条件、例えば、重曹または食酢媒介による、それぞれ約8.3または2.4のpHでの加水分解、または約1.6のpHでのクエン酸媒介加水分解に対し耐性がある(例えば、これらの条件下で実質的に安定である)。いくつかの実施形態では、乱用防止製剤は、プロドラッグを含むミセルを含む。いくつかの実施形態では、方法は、乱用防止製剤の投与を病院設定に制限することをさらに含む。いくつかの実施形態では、乱用防止製剤はまた、規制物質の長時間作用型放出も提供する。例えば、乱用防止製剤は、投与後、対象使用者中で、少なくとも3日間などの長期間にわたり規制物質またはその代謝物を放出できる。いくつかの実施形態では、プロドラッグは、式I-Xの化合物、または薬学的に許容可能なその塩であり、式中、Dは、例えば、表1に記載のオピオイドまたはフェノール性オピオイドのいずれかである、表1に記載の規制物質の残基である。いくつかの実施形態では、Dは、モルヒネ、オキシモルホン、ヒドロモルホン、レボルファノール、またはオキシコドンの残基である。いくつかの実施形態では、プロドラッグは、式1または2の化合物(例えば、化合物番号1~8のいずれか)、または薬学的に許容可能なその塩であり得る。
【0016】
一態様では、本発明は、式(I)の構造を有する化合物、または薬学的に許容可能なその塩または溶媒和物を提供する。
【化5】
【0017】
式Iの化合物は、式Iで表されるように、エステルリンカーによりプロドラッグ部分(「プロ部分(promoiety)」と定義される)に結合されたオピオイドおよびその他の規制物質(まとめて「薬物(drug)」と定義される)を対象とする。エステルリンカーは、カルボキシルエステルとしての式I(a);カルボキシルアルキルオキシエステルとしての式I(b);カルバメートエステルとしての式I(c);カーボネートエステルとしての式I(d);リン酸エステルとしての式I(e);およびホスフェートカルボキシルアルキルオキシエステルとしての式I(f)であり得る。プロ部分は、脂質または天然の生分解性ポリマーまたは合成ポリマーであり得る。薬物は、ヒドロキシル、二級アミン、またはカルボン酸基を有するスケジュールII、III、またはIV規制物質から選択でき、該規制物質は、前述のヒドロキシル、二級アミン、またはカルボン酸基のO、N、またはCOを介して式Iのプロ部分に結合される。Rは、水素、アルキルまたは置換アルキル基である。本明細書で使用される場合、「オピオイド」という用語は、限定されないが、当該技術分野において一般に既知のオピオイド類似体を意味する。遊離ヒドロキシル基、二級アミン、またはカルボン酸基を有する、いずれの表1に示すスケジュールII、III、またはIV規制物質も、式(I)に記載のプロドラッグにすることができる。
【0018】
別の態様では、式(I)の化合物および薬学的に許容可能な賦形剤を含む医薬組成物が提供される。いくつかの実施形態では、医薬組成物は、皮下または筋肉注射などの注射用に処方される。
【0019】
別の態様では、薬物(例えば、オピオイド薬)改変に耐える方法を提供する。いくつかの実施形態では、方法は、乱用防止型の有効量の式(I)の化合物を処方し、それにより、薬物乱用を防ぐことを含む。いくつかの実施形態では、式(I)の化合物は、インビボで長期作用型徐放性プロファイルを得るようにも処方できる。長期作用型徐放性プロファイルは、病院または診療所でのみ、医師がオピオイド製剤を使用することを可能とし、医院外での患者のオピオイドへの接近を制限し、オピオイド乱用の可能性を完全に回避する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1A】ラット薬物動態学的(PK)調査での化合物2の投与後の約30日間にわたる化合物2およびオキシモルホンそれぞれの血漿中濃度プロファイルを示すグラフである。グラフは平均(±標準偏差)のデータポイントをベースとした。
【
図1B】ラット薬物動態学的(PK)調査での化合物2の投与後の約30日間にわたる化合物2およびオキシモルホンそれぞれの血漿中濃度プロファイルを示すグラフである。グラフは平均(±標準偏差)のデータポイントをベースとした。
【
図2A】ラットPK調査での化合物3の投与後の約30日間にわたる化合物3およびオキシモルホンそれぞれの血漿中濃度プロファイルを示すグラフである。グラフは平均(±標準偏差)のデータポイントをベースとした。
【
図2B】ラットPK調査での化合物3の投与後の約30日間にわたる化合物3およびオキシモルホンそれぞれの血漿中濃度プロファイルを示すグラフである。グラフは平均(±標準偏差)のデータポイントをベースとした。
【
図3A】ラットPK調査での化合物7の投与後の約30日間にわたる化合物7およびヒドロモルホンそれぞれの血漿中濃度プロファイルを示すグラフである。グラフは平均(±標準偏差)のデータポイントをベースとした。
【
図3B】ラットPK調査での化合物7の投与後の約30日間にわたる化合物7およびヒドロモルホンそれぞれの血漿中濃度プロファイルを示すグラフである。グラフは平均(±標準偏差)のデータポイントをベースとした。
【発明を実施するための形態】
【0021】
I.定義
本明細書で使用の略語は、化学および生物学技術の範囲内でそれらの通常の意味を有する。
【0022】
部分がそれらの通常の左から右へ記述された化学式により指定される場合、それらは、右から左への構造の記述により得られる化学的に同じ部分も同様に包含し、例えば、-CH2O-は、-OCH2-と同等である。
【0023】
また、本明細書で記載の可変部分の特定の実施形態は、同じ識別子を有する別の特定の実施形態と同じでもまたは異なっていてもよいことを理解することが意図される。
【0024】
用語の「アルキル」は、別に定める場合を除き、単独で、または別の置換基の一部として、直鎖(すなわち、非分岐鎖)または分枝鎖、または環状炭化水素ラジカル、またはこれらの組み合わせを意味し、完全に飽和、一不飽和または多価不飽和であってもよく、指定の数の炭素原子を有する(すなわち、C1-C10は1~10個の炭素を意味する)二価および多価ラジカルを含み得る。飽和炭化水素ラジカルの例には、限定されないが、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、t-ブチル、イソブチル、sec-ブチル、シクロヘキシル、(シクロヘキシル)メチル、シクロプロピルメチル、例えば、n-ペンチル、n-ヘキシル、n-ヘプチル、n-オクチルのホモログおよび異性体、などの基が挙げられる。不飽和アルキル基は、1つまたは複数の二重結合または三重結合を有するものである。不飽和のアルキル基の例には、限定されないが、ビニル、2-プロペニル、クロチル、2-イソペンテニル、2-(ブタジエニル)、2,4-ペンタジエニル、3-(1,4-ペンタジエニル)、エチニル、1-および3-プロピニル、3-ブチニル、およびより高級ホモログおよび異性体が挙げられる。
【0025】
用語の「置換アルキル」は、任意の位置の炭素が官能基に結合したアルキル基を意味する。官能基は、限定されないが、アルコキシ、アルキルアミノ、アルキルチオ、ヘテロアルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、ハロ、アリール、ヘテロアルキル、ヘテロ原子環ヘテロ原子、またはヘテロアリール基であり得る。
【0026】
用語の「アルキレン」は、単独でまたは別の置換基の一部として、限定されないが、-CH2CH2CH2CH2-により例示されるような、アルキルに由来する二価のラジカルを意味する。通常、アルキル(またはアルキレン)基は、10個以下の炭素原子を有する基を含む、1~24個の炭素原子を有する。「低級アルキル」または「低級アルキレン」は、より短い鎖のアルキルまたはアルキレン基であり、通常は、8個またはそれ未満の炭素原子を有する。
【0027】
用語の「アルコキシ」、「アルキルアミノ」、および「アルキルチオ」(またはチオアルコキシ)は、それらの従来の意味で使用され、それぞれ酸素原子、アミノ基、またはイオウ原子を介して、分子の残部に結合したアルキル基を意味する。
【0028】
用語の「ヘテロアルキル」は、単独でまたは別の用語と組み合わせて、別に定める場合を除き、安定な直鎖または分枝鎖、または炭化水素ラジカル、またはこれらの組み合わせを意味し、示した数の炭素原子およびO、N、P、SiおよびSからなる群より選択されるヘテロ原子からなり、また、窒素およびイオウ原子は任意に酸化されてもよく、窒素へテロ原子は任意に四級化されてもよい。ヘテロ原子のO、N、PおよびSならびにSiは、ヘテロアルキル基の任意の内部位置またはアルキル基が分子の残りの部分に結合する位置に配置されてもよい。例には、-CH2-CH2-O-CH3、-CH2-CH2-NH-CH3、-CH2-CH2-N(CH3)-CH3、-CH2-S-CH2-CH3、-CH2-CH2、-S(O)-CH3、-CH2-CH2-S(O)2-CH3、-CH=CH-O-CH3、-Si(CH3)3、-CH2-CH=N-OCH3、-CH=CH-N(CH3)-CH3、O-CH3、-O-CH2-CH3、および-CNが挙げられるが、これらに限定されない。例えば、-CH2-NH-OCH3および-CH2-O-Si(CH3)3のように、2個までのヘテロ原子を連続させてもよい。同様に、用語の「ヘテロアルキレン」は、単独でまたは別の置換基の一部として、限定されないが、-CH2-CH2-S-CH2-CH2-および-CH2-S-CH2-CH2-NH-CH2-により例示されるような、ヘテロアルキルに由来する二価のラジカルを意味する。ヘテロアルキレン基に関しては、ヘテロ原子はまた、鎖の末端の片方または両方を占め得る(例えば、アルキレンオキシ、アルキレンジオキシ、アルキレンアミノ、アルキレンジアミノ、など)。またさらに、アルキレンおよびヘテロアルキレン連結基に関しては、連結基の向きは、連結基が書かれた式の方向により示唆されない。例えば、式-C(O)2R’-は、-C(O)2R’-および-R’C(O)2-の両方を表す。上述のように、本明細書で使用される場合、ヘテロアルキル基は、-C(O)R’、-C(O)NR’、-NR’R”、-OR’,-SR’、および/または-SO2R’などのヘテロ原子を介して分子の残部に結合した基を含む。「ヘテロアルキル」が記述され、続いて、-NR’R”などの特定のヘテロアルキル基が記述される場合、この用語のヘテロアルキルおよび-NR’R”は、重複性または相互排他的ではないことを理解するであろう。むしろ、特定のヘテロアルキル基が明確性を与えるために記述される。従って、用語の「ヘテロアルキル」は、本明細書では、-NR’R”などの特定のヘテロアルキル基を排除すると解釈されるべきではない。
【0029】
用語の「シクロアルキル」および「ヘテロシクロアルキル」は、単独で、またはその他の用語と組み合わせて、別に定める場合を除き、「アルキル」および「ヘテロアルキル」それぞれの環状バージョンを表す。さらに、ヘテロシクロアルキルの場合、ヘテロ原子は、ヘテロ環が分子の残部に結合する位置を占めることができる。シクロアルキルの例には、限定されないが、シクロペンチル、シクロヘキシル、1-シクロヘキセニル、3-シクロヘキセニル、シクロヘプチル、などが挙げられる。ヘテロシクロアルキルの例には、限定されないが、1-(1,2,5,6-テトラヒドロピリジル)、1-ピペリジニル、2-ピペリジニル、3-ピペリジニル、4-モルホリニル、3-モルホリニル、テトラヒドロフラン-2-イル、テトラヒドロフラン-3-イル、テトラヒドロチエン-2-イル、テトラヒドロチエン-3-イル、1-ピペラジニル、2-ピペラジニル、などが挙げられる。
【0030】
用語の「ハロ」または「ハロゲン」は、単独でまたは別の置換基の一部として、別に定める場合を除き、フッ素、塩素、臭素、またはヨウ素原子を意味する。さらに、「ハロアルキル」などの用語は、モノハロアルキルおよびポリハロアルキルを含むことが意図されている。
【0031】
用語の「アリール」は、別に定める場合を除き、多価不飽和芳香族炭化水素置換基を意味し、これは、一緒に縮合または共有結合で連結されている単環または多環(好ましくは、1~3環)であり得る。用語の「ヘテロアリール」は、N、O、およびSから選択される1~4個のヘテロ原子を含むアリール基(または環)を意味し、窒素およびイオウ原子は任意に酸化されてもよく、また、窒素原子(単一または複数)は任意に四級化されてもよい。ヘテロアリール基は、炭素またはヘテロ原子を介して分子の残りの部分に結合し得る。アリールおよびヘテロアリール基の非限定的例には、フェニル、1-ナフチル、2-ナフチル、4-ビフェニル、1-ピロリル、2-ピロリル、3-ピロリル、3-ピラゾリル、2-イミダゾリル、4-イミダゾリル、ピラジニル、2-オキサゾリル、4-オキサゾリル、2-フェニル-4-オキサゾリル、5-オキサゾリル、3-イソオキサゾリル、4-イソオキサゾリル、5-イソオキサゾリル、2-チアゾリル、4-チアゾリル、5-チアゾリル、2-フリル、3-フリル、2-チエニル、3-チエニル、2-ピリジル、3-ピリジル、4-ピリジル、2-ピリミジル、4-ピリミジル、5-ベンゾチアゾリル、プリニル、2-ベンゾイミダゾリル、5-インドリル、1-イソキノリル、5-イソキノリル、2-キノキサリニル、5-キノキサリニル、3-キノリル、および6-キノリル、が挙げられる。上述のアリールおよびヘテロアリール環系のそれぞれに対する置換基部分は、下記の許容可能な置換基部分の群から選択され得る。
【0032】
簡潔にするために、用語の「アリール」は、その他の用語(例えば、アリールオキシ、アリールチオキシ、アリールアルキル)と組み合わせて使用される場合、上記で定義のアリールおよびヘテロアリール環の両方を含む。従って、用語の「アリールアルキル」は、炭素原子(例えば、メチレン基)が、例えば、酸素原子で置換されているアルキル基(例えば、フェノキシメチル、2-ピリジルオキシメチル、3-(1-ナフチルオキシ)プロピル、など)を含むアルキル基(例えば、ベンジル、フェネチル、ピリジルメチル、など)にアリール基が結合されているラジカルを含むことが意図されている。
【0033】
本明細書で使用される場合、用語の「オキソ」は、炭素原子に二重結合している酸素を意味する。
【0034】
それぞれの上記用語(例えば、「アルキル」、「ヘテロアルキル」、「アリール」および「ヘテロアリール」)は、置換および非置換の両方タイプの示したラジカルを含むことが意図されている。各タイプのラジカルの好ましい置換基部分は、下記に提供されている。
【0035】
アルキルおよびヘテロアルキルラジカル(多くの場合、アルキレン、アルケニル、ヘテロアルキレン、ヘテロアルケニル、アルキニル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、シクロアルケニル、およびヘテロシクロアルケニルと呼ばれる基を含む)に対する置換基部分は、限定されないが、0~(2m’+1)の数(式中、m’はラジカル中の炭素原子の総数)の-OR’、=O、=NR’、=N-OR’、-NR’R”、-SR’、-ハロゲン、-SiR’R”R”’、-OC(O)R’、-C(O)R’、-CO2R’、-CONR’R”、-OC(O)NR’R”、-NR”C(O)R’、-NR’-C(O)NR”R”’、-NR”C(O)2R’、-NR-C(NR’R”R’”)=NR””、-NR-C(NR’R”)=NR’”、-S(O)R’、-S(O)2R’、-S(O)2NR’R”、-NRSO2R’、-CNおよび-NO2から選択される種々の基の1個または複数であり得る。R’、R”、R”’およびR””は、それぞれ、好ましくは独立に、水素、置換もしくは非置換ヘテロアルキル、置換もしくは非置換シクロアルキル、置換もしくは非置換ヘテロシクロアルキル、置換もしくは非置換アリール(例えば、1~3個のハロゲンで置換されたアリール)、置換もしくは非置換アルキル、アルコキシもしくはチオアルコキシ基、またはアリールアルキル基を意味する。本発明の化合物が2個以上のR基を含む場合、例えば、それぞれのR基は、2個以上のこれらに基が存在する場合、各R’、R”、R”’およびR””基として独立に選択される。R’およびR”が同じ窒素原子に結合する場合、それらは、窒素原子と組み合わせて、4-、5-、6-または7-員環を形成できる。例えば、-NR’R”は、限定されないが、1-ピロリジニルおよび4-モルホリニルを含むことが意図されている。上記の置換基部分の考察から、当業者なら、用語の「アルキル」は、水素基以外の基に結合した炭素原子を含む基、例えば、ハロアルキル(例えば、-CF3および-CH2CF3)およびアシル(例えば、-C(O)CH3、-C(O)CF3、-C(O)CH2OCH3、など)を含むことが意図されていることを理解するであろう。
【0036】
アルキルラジカルに対し記載された置換基部分と同様に、アリールおよびヘテロアリール基に対する置換基部分は変化し、例えば、0~芳香環系上の未結合原子価の総数の範囲の数の、ハロゲン、-OR’、-NR’R”、-SR’、-ハロゲン、-SiR’R”R”’、-OC(O)R’、-C(O)R’、-CO2R’、-CONR’R”、-OC(O)NR’R”、-NR”C(O)R’、-NR’-C(O)NR”R”’、-NR”C(O)2R’、-NR-C(NR’R”R’”)=NR””、-NR-C(NR’R”)=NR’”、-S(O)R’、-S(O)2R’、-S(O)2NR’R”、-NRSO2R’、-CNおよび-NO2、-R’、-N3、-CH(Ph)2、フルオロ(C1-C4)アルコキシ、およびフルオロ(C1-C4)アルキルから選択され得;R’、R”、R”’およびR””は、好ましくは独立に、水素、置換もしくは非置換アルキル、置換もしくは非置換ヘテロアルキル、置換もしくは非置換シクロアルキル、置換もしくは非置換ヘテロシクロアルキル、置換もしくは非置換アリールおよび置換もしくは非置換ヘテロアリールから選択される。本発明の化合物が2個以上のR基を含む場合、例えば、それぞれのR基は、2個以上のこれらの基が存在する場合、各R’、R”、R”’およびR””基として独立に選択される。
【0037】
アリールまたはヘテロアリール環の隣接原子上の2つの置換基部分は、式-Q’-C(O)-(CRR’)q-Q”-の環を任意に形成してよく、式中、Q’およびQ”は独立に、-NR-、-O-、-CRR’-または単結合であり、qは0~3の整数である。あるいは、アリールまたはヘテロアリール環の隣接原子上の2つの置換基部分は、式-A-(CH2)r-B-の置換基で任意に置換されてもよく、式中、AおよびBは独立に、-CRR’-、-O-、-NR-、-S-、-S(O)-、-S(O)2-、-S(O)2NR’-または単結合であり、rは1~4の整数である。このようにして形成された新しい環の単結合の1つが、二重結合で任意に置換されてもよい。あるいは、アリールまたはヘテロアリール環の隣接原子上の2つの置換基部分は、式-(CRR’)s-X’-(C”R”’)d-の置換基で任意に置換されてもよく、式中、sおよびdは独立に、0~3の整数であり、X’は、-O-、-NR’-、-S-、-S(O)-、-S(O)2-または-S(O)2NR’-である。置換基部分R、R’、R”およびR”’は、好ましくは独立に、水素、置換もしくは非置換アルキル、置換もしくは非置換シクロアルキル、置換もしくは非置換ヘテロシクロアルキル、置換もしくは非置換アリール、および置換もしくは非置換ヘテロアリールから選択される。
【0038】
本明細書で使用される場合、「ヘテロ原子」または「環ヘテロ原子」という用語は、酸素(O)、窒素(N)、硫黄(S)、リン(P)、およびケイ素(Si)を含むことが意図されている。
【0039】
文脈から別義が明らかでない限り、本明細書で使用される場合、用語の「規制物質」は、米国規制物質法、21U.S.C.§802で定義されているいずれかのものを意味し、21U.S.C.§812に記載のスケジュールI、II、III、IV、およびV薬物のいずれかを含む。規制物質のリストについては、21C.F.R.§§1308.11-15も参照されたい。この内容は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。本明細書で使用される場合、用語の「規制物質」はまた、米国規制物質法、21U.S.C.§802で定義されているいずれかのものにインビトロまたはインビボで変換可能な任意の化合物も含む。代表的規制物質を本開示の表1に記載する。
【0040】
用語の「薬学的に許容可能な塩」は、本明細書に記載の化合物上に認められる特定の置換基部分に応じて、相対的に無毒性の酸または塩基で作製される化合物の塩を含むことが意図されている。本開示のプロドラッグが相対的に酸性の官能基を含む場合には、中性型のこのような化合物を、未希釈または好適な不活性溶媒中の十分な量の所望の塩基と接触させることにより、塩基付加塩を得ることができる。薬学的に許容可能な塩基付加塩の例には、ナトリウム、カリウム、カルシウム、アンモニウム、有機アミノ、またはマグネシウム塩、または類似塩が挙げられる。本開示のプロドラッグが相対的に塩基性の官能基を含む場合には、中性型のこのような化合物を、未希釈または好適な不活性溶媒中の十分な量の所望の酸と接触させることにより、酸付加塩を得ることができる。薬学的に許容可能な酸付加塩の例には、塩酸、臭化水素酸、硝酸、炭酸、一水素炭酸、リン酸、一水素リン酸、二水素リン酸、硫酸、一水素硫酸、ヨウ化水素酸、または亜リン酸などの無機酸から誘導されたもの、ならびに、酢酸、プロピオン酸、イソ酪酸、マレイン酸、マロン酸、安息香酸、コハク酸、スベリン酸、フマル酸、乳酸、マンデル酸、フタル酸、ベンゼンスルホン酸、p-トリルスルホン酸、クエン酸、酒石酸、メタンスルホン酸などの相対的に無毒性の有機酸から誘導された塩が挙げられる。さらに、アルギン酸塩などのアミノ酸の塩、およびグルクロン酸またはガラクツロン酸などの有機酸の塩も挙げられる(例えば、Berge et al.,1977を参照)。本開示のある種の特定のプロドラッグは、化合物の塩基または酸付加塩への変換を可能とする塩基性および酸性官能基の両方を含む。
【0041】
中性型の化合物は、好ましくは、塩を塩基または酸と接触させ、従来の方法で親化合物を単離することにより生成される。親型の化合物は、種々の塩型とは、極性溶媒中の溶解度などの特定の物理学的性質が異なる。
【0042】
本明細書で使用される場合、「本開示のプロドラッグ」という用語は、式I、I-X、1、もしくは2、または任意の化合物番号1~8による本明細書で記載のいずれかの化合物、その同位体標識化合物、その可能な立体異性体(ジアステレオ異性体、エナンチオマー、およびラセミ混合物を含む)、その互変異性体、その配座異性体、および/または薬学的に許容可能なその塩(例えば、HCl塩などの酸付加塩またはナトリウム塩などの塩基付加塩)を意味する。本開示のプロドラッグの水和物および溶媒和物は、本開示の組成物と見なされ、この場合、プロドラッグは、水または溶媒とそれぞれ結合している。本開示のいくつかのプロドラッグはまた、種々の多形または非晶質型で存在し得る。本明細書で記載のプロドラッグは、生理的条件下で容易に化学変化を受けて、活性化合物、すなわち、オピオイドまたはその他の規制物質をもたらす化合物を含む。さらに、プロドラッグは、エクスビボ環境中で化学的または生化学的方法により変換できる。例えば、プロドラッグは、好適な酵素または化学試薬を有する経皮貼付剤リザーバー中に置かれると、活性化合物にゆっくり変換され得る。
【0043】
オピオイドは、疼痛を緩和する薬物である。それらは、脳に到達する疼痛シグナルの強度を低減し、感情をコントロールする脳領域に影響を与え、疼痛性刺激の効果を減少させる。このクラスに含まれる薬物には、ヒドロコドン(例えば、バイコジン)、オキシコドン(例えば、オキシコンチン、パーコセット)、モルヒネ(例えば、カディアン、Avinza)、ヒドロモルホン(例えば、ジラウジッド、パラドン)、コデイン、および関連薬物が挙げられる。ヒドロコドン製剤は、歯科疼痛および傷害関連疼痛を含む種々の有痛性状態のために最も一般的に処方される。モルヒネは、激痛を軽減するために、多くの場合、外科手術の前後で使用される。他方では、コデインは、多くの場合、軽度の疼痛用として処方される。それらの疼痛緩和特性に加えて、いくつかのこれらの薬物-例えば、コデインおよびジフェノキシレート(ロモティル)は、咳および重度の下痢を緩和するために使用できる。
【0044】
本開示の特定のプロドラッグは、不斉炭素原子(光学中心)または二重結合を有し、ラセミ体、ジアステレオマー、互変異性体、幾何異性体および個別の異性体は、本発明の範囲内に包含される。本開示のプロドラッグは、不安定で合成および/または単離できないことが当技術分野において既知であるものは含まない。
【0045】
本開示のプロドラッグは、このような化合物を構成する1種または複数の原子の位置に、非天然比率の原子同位体も含み得る。例えば、本開示のプロドラッグは、例えば、トリチウム(3H)、ヨウ素125(125I)または炭素14(14C)などの放射性同位元素で放射標識され得る。本開示のプロドラッグの全ての同位体の変動は、放射性であるなしにかかわらず、本発明の範囲内に包含される。
【0046】
実線および破線の楔形結合は、当該技術分野において慣例の立体化学を示す。
【0047】
II.化合物
種々の実施形態では、本開示は、規制物質の新規プロドラッグ、プロドラッグを含む医薬組成物、ならびにプロドラッグを含む乱用防止製剤の作製方法、およびプロドラッグまたは医薬組成物、乱用防止製剤のいずれかの、例えば、慢性疼痛などの疼痛の治療のための使用方法を提供する。
【0048】
本開示のプロドラッグは通常、規制物質を、天然生分解性ポリマーまたは合成生分解性ポリマーなどの脂質またはポリマーに結合する。いくつかの実施形態では、プロドラッグは、式I-Xの化合物、または薬学的に許容可能なその塩であり得:
【化6】
式中、
Aは、脂質、置換脂質、天然生分解性ポリマー、または合成生分解性ポリマーの残基であり;
Dは、規制物質(例えば、表1の化合物のいずれか、例えば、本明細書で記載のオピオイド、例えば、オキシモルホン、ヒドロモルホン、モルヒネ、レボルファノール、またはオキシコドン)の残基であり;および
Lは、
【化7】
のリンカーであり、
式中、XはOまたはNR
33であり、R
30、R
31、R
32およびR
33はそれぞれ独立に、水素、アルキル、置換アルキル、任意に置換されてもよいシクロアルキル、任意に置換されてもよいヘテロアルキル、任意に置換されてもよいヘテロシクロアルキル、任意に置換されてもよいアリール、または任意に置換されてもよいヘテロアリールであり、または規制物質の環状-NH-官能基がリンカーLの一部を形成する場合、R
30またはR
33は、Dに結合した結合であり得る。リンカーLは通常、規制物質および脂質、置換脂質、生分解性ポリマーまたは合成ポリマーからの原子/基(別の薬剤からの原子/基を含めても含めなくてもよい)から誘導される(必須ではないが)。いくつかの実施形態では、規制物質および脂質、置換脂質、生分解性ポリマーまたは合成ポリマーは、別の薬剤と共にまたはそれなしに、Lのリンカーを形成できる。
【0049】
本明細書で使用される場合、規制物質の「残基」は、リンカーの一部が誘導できる原子/基を含まない、規制物質の残部として理解されるべきである。例えば、スキーム1は、ヒドロモルホンのプロドラッグを示し、フェノール性酸素がカルボニル基に結合され、これは、リンカーL、-C(=O)O-を表す。また、このプロドラックでは、Dは、ヒドロモルホンの残基であり、これは、スキーム1に示すように、フェノール性ヒドロキシル基のないヒドロモルホンの残部である。脂質、生分解性ポリマーまたは合成ポリマーの「残基」も、同様に理解されるべきである。例えば、スキーム1に示すように、ヒドロモルホンのプロドラックでは、Aは、パルミチン酸の残基であり、これは、COOH基のないパルミチン酸の残部である。通常、式I-Xの化合物(スキーム1のヒドロモルホンのプロドラッグなど)は、インビトロまたはインビボで、または別の方法で、例えば、リンカーLの加水分解により規制物質に変換され得る。
【化8】
【0050】
式I-Xの可変性Dは、種々の規制物質の残基であり得る。例えば、いくつかの実施形態では、Dは、スケジュールII、IIIまたはIV規制物質、例えば、表1に記載のものの残基であり得る。いくつかの実施形態では、Dは、表1の規制物質のいずれかの残基であり得、これは、ヒドロキシル、-NH-または-NH2、またはカルボン酸基、もしくはその前駆物質を有し、酸素または窒素原子、または規制物質のC(=O)基は、式I-XのリンカーLの一部を形成し得る。本明細書で使用される場合、用語の「前駆物質」は通常、言及された基または化合物に、通常、1回または2回の化学変換で、変換できる基または化合物を意味する。例えば、ヒドロキシル、-NH-または-NH2、またはカルボン酸基の前駆物質は、O-Pg、N-Pg、N(Pg)(Pg’)またはC(=O)-Pgの基であり得、ここで、PgおよびPg’は保護基であり得る。いくつかの実施形態では、Dは、フェノール性オピオイド(すなわち、フェノール性ヒドロキシル基、例えば、オキシモルホンなどの表1のフェノール性オピオイドを有するオピオイド)などのオピオイド規制物質の残基であり得る。いくつかの実施形態では、Dは、フェノール性オピオイドの残基であり得、Dは、フェノール性ヒドロキシル基のないフェノール性オピオイドの残部を表し、例えば、スキーム1に示すヒドロモルホンの残基を参照されたい。いくつかの実施形態では、Dは、ヒドロキシル、-NH-または-NH2、またはカルボン酸基、もしくはその前駆物質を有する任意のオピオイド(例えば、表1のいずれかのオピオイド)の残基であり得、式I-XのリンカーLの一部は、ヒドロキシル、-NH-もしくは-NH2、またはカルボン酸基、またはその前駆物質から誘導できる。例えば、リンカーは、酸素または窒素原子、またはオピオイドのC(=O)基を、例えば、本明細書に記載のエステル、アミド結合などの形で、含み得る。いくつかの実施形態では、Dは、モルヒネ、オキシモルホン、ヒドロモルホン、レボルファノール、またはオキシコドンの残基であり得る。2個以上のヒドロキシル、-NH-または-NH2、またはカルボン酸基を有する規制物質では、リンカーLはいずれかのこのような基から誘導できる。いくつかの実施形態では、式I-XのDはまた、1個または複数のそのヒドロキシル、-NH-または-NH2、および/またはカルボン酸基、またはその前駆物質を有し、リンカーを介して独立に選択された残基Aに結合された規制物質の残基であり得ることに留意されたい。
【0051】
種々の脂質、置換脂質、生分解性天然または合成ポリマーの残基は、式I-Xの化合物に好適する。例えば、いくつかの実施形態では、式I-XのAは、脂質の残基であり得る。いくつかの実施形態では、Aは、7~30個の炭素(COOHからの炭素は含まない)、例えば、8~24個の炭素、または10~24個の炭素を有する飽和または不飽和の直鎖または分枝鎖脂肪酸から選択される脂質の残基であり得、これは、任意に置換されてもよい、胆汁酸、スクアレン、ビタミンEおよびビタミンE TPGS(トコフェロールポリエチレングリコール1000スクシネート)などのその誘導体、コレステロール、およびレチノイン酸である。本明細書において参照される残基Aの炭素数は、別段の指定がない限り、または文脈から別義が明らかでない限り、分岐炭素および任意の置換基からの炭素を含む残基Aの総炭素数と理解されるべきである。いくつかの実施形態では、Aは、例えば、8~24個の炭素、または12~20個の炭素などの、任意に置換されてもよい7~30個の炭素(COOHからの炭素は含まない)を有する、直鎖飽和または不飽和脂肪酸の残基であり得る。いくつかの実施形態では、脂肪酸鎖は、非置換である。いくつかの実施形態では、脂肪酸鎖は、例えば、ハロゲン、任意に置換されてもよいアルキル(例えば、C1-6アルキル)、任意に置換されてもよいヘテロアルキル(例えば、酸素および窒素から独立に選択される1または2個のヘテロ原子を有する、例えば、C1-6ヘテロアルキル)、任意に置換されてもよいアルケニル(例えば、C2-6アルケニル)、任意に置換されてもよいアルキニル(例えば、C2-6アルキニル)、任意に置換されてもよいシクロアルキル(例えば、C3-6シクロアルキル)、任意に置換されてもよいアリール(例えば、C6-14アリール)、任意に置換されてもよいヘテロシクロアルキル(例えば、5~8員ヘテロシクロアルキル)、任意に置換されてもよいヘテロアリール(例えば、5~10員ヘテロアリール)、単鎖ペプチド(例えば、モノ、ジ、トリまたはテトラペプチド)、-NR100R101、-C(=O)NR100R101、-COOR102、および-OR102、から独立に選択される1個または複数(例えば、1、2、3、4、5、または6個)の基で置換され、R100、R101、およびR102は、それぞれ独立に、水素、任意に置換されてもよいアルキル(例えば、C1-6アルキル)、任意に置換されてもよいヘテロアルキル(例えば、酸素および窒素から独立に選択される、例えば、1または2個のヘテロ原子を有する、C1-6ヘテロアルキル)、任意に置換されてもよいシクロアルキル(例えば、C3-6シクロアルキル)、任意に置換されてもよいアリール(例えば、C6-14アリール)、任意に置換されてもよいヘテロシクロアルキル(例えば、5~8員ヘテロシクロアルキル)、任意に置換されてもよいヘテロアリール(例えば、5~10員ヘテロアリール)であり、それぞれの任意に置換されてもよい基は、独立に、オキソ、ハロゲン、ヒドロキシル、NH2、-NH(C1-4アルキル)、-N(C1-4アルキル)(C1-4アルキル)、1~3個のフッ素で任意に置換されてもよいC1-4アルキル、1~3個のフッ素で任意に置換されてもよいC1-4アルコキシ、C2-4アルケニル、C2-4アルキニル、1~3個のフッ素または1~2個のC1-4アルキルで任意に置換されてもよいC3-6シクロアルキル、および1~3個のフッ素または1~2個のC1-4アルキルで任意に置換されてもよいC3-6シクロアルコキシから選択される1個または複数(例えば、1~3個)の置換基で任意に置換されてもよい。本明細書で使用される場合、置換基としての単鎖ペプチドは、置換されている基、例えば、脂肪酸鎖に、N末端を経由して(水素の1個または両方がC1-4アルキルまたはC1-6アルカノイルで任意に置換されてもよいNH2を経由して)またはC末端を経由して(例えば、-C(=O)、-OC(=O)、-NC(=O)、などを経由して)結合でき、N末端の場合には、非結合端末はNH2、またはその保護誘導体、例えば、N-Pg(例えば、NHC(=O)CH3)であり、C末端の場合には、CO2H、またはエステル(例えば、C1-4アルキルエステル)またはそのアミド誘導体である。いくつかの実施形態では、置換基としての単鎖ペプチドは、置換されている基、例えば、脂肪酸鎖にN末端を経由して結合できる。いくつかの実施形態では、置換基としての単鎖ペプチドは、置換されている基、例えば、脂肪酸鎖にC末端を経由して結合できる。いくつかの実施形態では、単鎖ペプチドは、1、2、3または4個のアミノ酸単位を有するそれぞれ、モノ、ジ、トリ、またはテトラペプチドであり得、これは、アラニン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、バリン、フェニルアラニン、トリプトファン、チロシン、アスパラギン、システイン、グルタミン、セリン、トレオニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、アルギニン、ヒスチジン、リシン、グリシン、およびプロリンから選択されるアルファアミノ酸(例えば、DまたはL-アミノ酸)から誘導できる。いくつかの実施形態では、脂肪酸鎖は、1個または複数(例えば、1、2、3、4、5、または6個)の独立に選択される疎水基で置換できる。本明細書で使用される場合、「疎水基」という用語は、一般的に、ハロゲンまたは酸素および窒素原子から選択される2個以下のヘテロ原子を有する炭素含有基を意味し、これは通常、OHまたはNH基および塩基性窒素原子を含まない。疎水基の例には、ハロゲン、アルキル、アルコキシ、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、シクロアルコキシ、アリール、非塩基性ヘテロ環化合物およびヘテロアリール、などが挙げられる。いくつかの実施形態では、脂肪酸鎖は、ハロゲン、C1-4アルキル、C1-4アルコキシ、C2-4アルケニル、C2-4アルキニル、C3-6シクロアルキル、およびC3-6シクロアルコキシから独立に選択される1個または複数(例えば、1、2、3、4、5、または6個)の基で置換される。いくつかの実施形態では、式I-XのAは、式CH3(CH2)n-を有し、式中、nは7~30(例えば、8~24または10~24)の整数であり得る。いくつかの実施形態では、式I-XのAは、1~6個の二重結合を有する脂肪酸の残基であり得る。
【0052】
いくつかの実施形態では、式I-XのAはまた、天然の生分解性ポリマーの残基であり得る。例えば、いくつかの実施形態では、式I-XのAは、アルギネート、キトサン、誘導セルロース、デンプン、ヒアルロン酸、およびデキストランから選択される生分解性ポリマーの残基であり得る。いくつかの実施形態では、式I-XのAは、ペプチド、ポリエステル、ポリエーテル、ポリウレタン、ポリホスパジン、ポリカーボネート、およびポリエステルアミドから選択される生分解性ポリマーの残基であり得る。いくつかの実施形態では、式I-XのAはまた、ポリ乳酸(PLA)、ポリグリコール酸(PGA)、ポリカプロラクトン(PCL)、これらのコポリマー、例えば、ポリ乳酸グリコール酸(PLGA);およびポリエチレングリコール(PEG)およびその誘導体から選択されるポリマーの残基であり得る。生分解性ポリマー中のOH基、NH基もしくはCOOH基、またはその前駆物質は、例えば、エステル結合またはアミド結合、などを介して、式I-XのリンカーLの一部を形成できる。いくつかの実施形態では、式I-XのAはまた、1個または複数のそのヒドロキシル、-NH-または-NH2、および/またはカルボン酸基、またはその前駆物質を有し、リンカーを介して独立に選択された残基Dに結合された脂質の、天然のまたは合成の生分解性ポリマーの残基であり得ることに留意されたい。
【0053】
式I-XのリンカーLは、規制物質および脂質、生分解性天然または合成ポリマー由来の原子/基への結合に応じて変化し得る。例えば、Lは、エステルリンカー、アミドリンカー、カルバメートリンカー、カーボネートリンカー、ホスホネートリンカー、などであり得る。いくつかの実施形態では、Lは、
【化9】
であり得る。いくつかの実施形態では、Lは、
【化10】
であり得、式中、XはOまたはNR
33であり、R
33は、水素、アルキル(例えば、C1-4アルキル)または置換アルキル(例えば、それぞれ独立に、オキソ、F、ヒドロキシル、C1-4アルキルまたはC
1-4アルコキシから選択される1~3個の置換基で任意に置換されてもよいC
1-4アルキル)である。
【0054】
本明細書で記載のD、AまたはLのいずれかの定義は、D、AおよびLの本明細書に記載のその他のいずれかの定義と組み合わせることができることに留意されたい。このような組み合わせは、特に意図され、また、本発明の範囲内にある。
【0055】
いくつかの実施形態では、プロドラッグは、式(I)の構造を有する化合物、または薬学的に許容可能なその塩または溶媒和物であり得る。
【化11】
【0056】
式Iの化合物は、式Iで表されるように、エステルリンカーによりプロドラッグ部分(「プロ部分(promoiety)」と定義される)に結合されたオピオイドおよびその他の規制物質(まとめて「薬物(drug)」と定義される)を対象とする。エステルリンカーは、カルボキシルエステルとしての式I(a);カルボキシルアルキルオキシエステルとしての式I(b);カルバメートエステルとしての式I(c);カーボネートエステルとしての式I(d);リン酸エステルとしての式I(e);およびホスフェートカルボキシルアルキルオキシエステルとしての式I(f)であり得る。プロ部分は、脂質または天然の生分解性ポリマーまたは合成ポリマーである。薬物は、ヒドロキシル、二級アミン、またはカルボン酸基を有するスケジュールII、III、またはIV規制物質から選択され、該規制物質は、前述のヒドロキシル、二級アミン、またはカルボン酸基のO、N、またはCOを介して式Iのプロ部分に結合される。Rは、水素、アルキルまたは置換アルキル基である。本明細書で使用される場合、「オピオイド」という用語は、限定されないが、当該技術分野において一般に既知のオピオイド類似体を意味する。遊離ヒドロキシル基、二級アミン、またはカルボン酸基を有する、いずれの表1に示すスケジュールII、III、またはIV規制物質も、式(I)に記載のプロドラッグにすることができる。
【0057】
いくつかの特定の実施形態では、本開示はまた、オキシモルホンのプロドラッグを提供する。いくつかの実施形態では、プロドラッグは、式1の化合物、または薬学的に許容可能なその塩であり、
【化12】
式中、R
1は、R
10、-OR
10、または-NHR
10であり、R
10は、任意に置換されてもよい、合計7~30個の炭素を有する直鎖または分岐アルキル、アルケニル、またはアルキニル鎖である。いくつかの実施形態では、アルキル、アルケニル、またはアルキニル鎖は、1個または複数の疎水基(例えば、本明細書で記載のような)で任意に置換されてもよい。いくつかの実施形態では、アルキル、アルケニル、またはアルキニル鎖は、ハロゲン、C
1-4アルキル、C
1-4アルコキシ、C
2-4アルケニル、C
2-4アルキニル、C
1-4アルコキシ、C
3-6シクロアルキル、およびC
3-6シクロアルコキシから独立に選択される1個または複数(例えば、1、2、3、4、5、または6個)の基で任意に置換されてもよい。いくつかの実施形態では、アルキル、アルケニル、またはアルキニル鎖は、例えば、ハロゲン、任意に置換されてもよいアルキル基(例えば、C
1-6アルキル)、任意に置換されてもよいヘテロアルキル(例えば、酸素および窒素から独立に選択される1または2個のヘテロ原子を有する、例えば、C
1-6ヘテロアルキル)、任意に置換されてもよいアルケニル(例えば、C
2-6アルケニル)、任意に置換されてもよいアルキニル(例えば、C
2-6アルキニル)、任意に置換されてもよいシクロアルキル(例えば、C
3-6シクロアルキル)、任意に置換されてもよいアリール(例えば、C
6-14アリール)、任意に置換されてもよいヘテロシクロアルキル(例えば、5~8員ヘテロシクロアルキル)、任意に置換されてもよいヘテロアリール(例えば、5~10員ヘテロアリール)、単鎖ペプチド(例えば、モノ、ジ、トリまたはテトラペプチド)、-NR
100R
101、-C(=O)NR
100R
101、-COOR
102、および-OR
102から独立に選択される1個または複数(例えば、1、2、3、4、5、または6個)の基で任意に置換することができ、R
100、R
101、およびR
102は、それぞれ独立に、水素、任意に置換されてもよいアルキル(例えば、C
1-6アルキル)、任意に置換されてもよいヘテロアルキル(例えば、酸素および窒素から独立に選択される、例えば、1または2個のヘテロ原子を有する、C
1-6ヘテロアルキル)、任意に置換されてもよいシクロアルキル(例えば、C
3-6シクロアルキル)、任意に置換されてもよいアリール(例えば、C
6-14アリール)、任意に置換されてもよいヘテロシクロアルキル(例えば、5~8員ヘテロシクロアルキル)、任意に置換されてもよいヘテロアリール(例えば、5~10員ヘテロアリール)であり、それぞれの任意に置換されてもよい基は、独立に、オキソ、ハロゲン、ヒドロキシル、NH
2、-NH(C
1-4アルキル)、-N(C
1-4アルキル)(C
1-4アルキル)、1~3個のフッ素で任意に置換されてもよいC
1-4アルキル、1~3個のフッ素で任意に置換されてもよいC
1-4アルコキシ、C
2-4アルケニル、C
2-4アルキニル、1~3個のフッ素または1~2個のC
1-4アルキルで任意に置換されてもよいC
3-6シクロアルキル、および1~3個のフッ素または1~2個のC
1-4アルキルで任意に置換されてもよいC
3-6シクロアルコキシから選択される1個または複数(例えば、1~3個)の置換基で任意に置換されてもよい。いくつかの実施形態では、単鎖ペプチドは、モノ、ジ、トリ、またはテトラペプチドであり得、これは、アラニン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、バリン、フェニルアラニン、トリプトファン、チロシン、アスパラギン、システイン、グルタミン、セリン、トレオニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、アルギニン、ヒスチジン、リシン、グリシン、およびプロリンから選択されるアルファアミノ酸(例えば、DまたはL-アミノ酸)から誘導できる。いくつかの実施形態では、R
1は、7~30(例えば、10~24)個の炭素を有する非置換直鎖アルキル鎖である。いくつかの実施形態では、R
1は、7~30(例えば、10~24)個の炭素を有する非置換分岐アルキル鎖である。いくつかの実施形態では、R
1は、式CH
3(CH
2)
n-を有する非置換直鎖アルキル鎖であり、式中、nは8~24(例えば、10~24)の整数である。いくつかの特定の実施形態では、R
1は、CH
3(CH
2)
10-、CH
3(CH
2)
12-、CH
3(CH
2)
14-、およびCH
3(CH
2)
16-から選択される。
【0058】
いくつかの実施形態では、本開示はまた、ヒドロモルホンのプロドラッグを提供する。いくつかの実施形態では、プロドラッグは、式2の化合物、または薬学的に許容可能なその塩であり、
【化13】
式中、R
2は、R
20、-OR
20、または-NHR
20であり、R
20は、任意に置換されてもよい、総数7~30個の炭素を有する直鎖または分岐アルキル、アルケニル、またはアルキニル鎖である。いくつかの実施形態では、アルキル、アルケニル、またはアルキニル鎖は、1個または複数の疎水基(例えば、本明細書で記載のような)で任意に置換されてもよい。いくつかの実施形態では、アルキル、アルケニル、またはアルキニル鎖は、ハロゲン、C
1-4アルキル、C
1-4アルコキシ、C
2-4アルケニル、C
2-4アルキニル、C
1-4アルコキシ、C
3-6シクロアルキル、およびC
3-6シクロアルコキシから独立に選択される1個または複数(例えば、1、2、3、4、5、または6個)の基で任意に置換されてもよい。いくつかの実施形態では、アルキル、アルケニル、またはアルキニル鎖は、ハロゲン、任意に置換されてもよいアルキル基(例えば、C
1-6アルキル)、任意に置換されてもよいヘテロアルキル(例えば、酸素および窒素から独立に選択される1または2個のヘテロ原子を有する、例えば、C
1-6ヘテロアルキル)、任意に置換されてもよいアルケニル(例えば、C
2-6アルケニル)、任意に置換されてもよいアルキニル(例えば、C
2-6アルキニル)、任意に置換されてもよいシクロアルキル(例えば、C
3-6シクロアルキル)、任意に置換されてもよいアリール(例えば、C
6-14アリール)、任意に置換されてもよいヘテロシクロアルキル(例えば、5~8員ヘテロシクロアルキル)、任意に置換されてもよいヘテロアリール(例えば、5~10員ヘテロアリール)、単鎖ペプチド(例えば、モノ、ジ、トリまたはテトラペプチド)、-NR
100R
101、-C(=O)NR
100R
101、-COOR
102、および-OR
102から独立に選択される1個または複数(例えば、1、2、3、4、5、または6個)の基で任意に置換することができ、R
100、R
101、およびR
102は、それぞれ独立に、水素、任意に置換されてもよいアルキル(例えば、C
1-6アルキル)、任意に置換されてもよいヘテロアルキル(例えば、酸素および窒素から独立に選択される、例えば、1または2個のヘテロ原子を有する、C
1-6ヘテロアルキル)、任意に置換されてもよいシクロアルキル(例えば、C
3-6シクロアルキル)、任意に置換されてもよいアリール(例えば、C
6-14アリール)、任意に置換されてもよいヘテロシクロアルキル(例えば、5~8員ヘテロシクロアルキル)、任意に置換されてもよいヘテロアリール(例えば、5~10員ヘテロアリール)であり、それぞれの任意に置換されてもよい基は、独立に、オキソ、ハロゲン、ヒドロキシル、NH
2、-NH(C
1-4アルキル)、-N(C
1-4アルキル)(C
1-4アルキル)、1~3個のフッ素で任意に置換されてもよいC
1-4アルキル、1~3個のフッ素で任意に置換されてもよいC
1-4アルコキシ、C
2-4アルケニル、C
2-4アルキニル、1~3個のフッ素または1~2個のC
1-4アルキルで任意に置換されてもよいC
3-6シクロアルキル、および1~3個のフッ素または1~2個のC
1-4アルキルで任意に置換されてもよいC
3-6シクロアルコキシから選択される1個または複数(例えば、1~3個)の置換基で任意に置換されてもよい。いくつかの実施形態では、単鎖ペプチドは、モノ、ジ、トリ、またはテトラペプチドであり得、これは、アラニン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、バリン、フェニルアラニン、トリプトファン、チロシン、アスパラギン、システイン、グルタミン、セリン、トレオニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、アルギニン、ヒスチジン、リシン、グリシン、およびプロリンから選択されるアルファアミノ酸(例えば、DまたはL-アミノ酸)から誘導できる。いくつかの実施形態では、R
2は、7~30(例えば、10~24)個の炭素を有する非置換直鎖アルキル鎖である。いくつかの実施形態では、R
2は、7~30(例えば、10~24)個の炭素を有する非置換分岐アルキル鎖である。いくつかの実施形態では、R
2は、式CH
3(CH
2)
n-を有する非置換直鎖アルキル鎖であり、式中、nは8~24(例えば、10~24)の整数である。いくつかの特定の実施形態では、R
2は、CH
3(CH
2)
10-、CH
3(CH
2)
12-、CH
3(CH
2)
14-、およびCH
3(CH
2)
16-から選択される。
【0059】
いくつかの実施形態では、本開示はまた、化合物番号1~8(実施例セクションを参照)のいずれか1種または薬学的に許容可能なその塩であり得る特定のプロドラッグを提供する。
【表1】
【0060】
本明細書で記載のいくつかの化合物は、例えば、R-、S-およびラセミ(RS-)型を含む立体異性体型として存在できることは理解されよう。化合物が2つ以上のキラル中心を有する場合、全てのジアステレオマーが本明細書で意図されている。図または他の場合に、化合物中のキラル中心の立体化学が特に指定される場合、化合物は、キラル中心に関連して指定された立体異性体型が主に存在し、他の立体異性体は、20%未満、15%未満、10%未満、5%未満、1%未満、または検出不能のレベルで存在すると理解されるべきである。明示的に別義が示されない限り、全ての立体異性体型が本明細書で意図されている。
【0061】
本開示のプロドラッグは通常、好適な条件下で、対応する規制物質を脂質、置換脂質、生分解性天然のまたは合成ポリマーと結合させることにより作製できる。いくつかの実施形態では、カルボニルドナー剤、ホスホリルドナー剤、などを用いて、規制物質を、脂質、生分解性天然のまたは合成ポリマーと連結することができる。本明細書のプロドラッグの作製のために、種々のカップリング法を用いることができ、これらの方法は、当該技術分野において既知であり、また、実施例セクションで例示される。
【0062】
例えば、オキシモルホンおよびヒドロモルホンの長鎖脂肪酸エステルプロドラッグの合成は、それぞれ実施例1および実施例2に示す手法を用いて実施でき、この場合、長鎖脂肪酸は、SOCl2などの活性化剤を用いて対応するアシルクロリドなどの活性化型に変換される。アシルクロリドなどの得られた活性化型は、その後、ヒドロモルホンおよびオキシモルホンのフェノール性ヒドロキシル基と結合し、長鎖脂肪酸エステルオピオイドプロドラッグを得ることができる。本開示を考慮すれば、本開示のプロドラッグは、当業者により容易に作製できる。
【0063】
別の態様では、本開示はまた、本開示のプロドラッグの作製に有用な、本明細書で開示のプロセスおよび新規中間体を提供する。他の態様では、本開示のプロドラッグの合成、分析、分離、単離、精製、特性評価、および試験方法が提供される。
【0064】
当業者には明らかなように、特定の官能基が望ましくない反応を起こさないようにするために、従来の保護基が必要になる場合がある。種々の官能基のための好適な保護基ならびに特定の官能基の保護および脱保護のための好適な条件は、当該技術分野において周知である。例えば、多数の保護基が、“Protective Groups in Organic Synthesis”,4th ed.P.G.M.Wuts;T.W.Greene,John Wiley,2007、およびその中で引用されている文献中に記載されている。本明細書で記載の反応のための試薬は通常、既知の化合物であるか、または既知手順もしくはその自明の修正により作製できる。例えば、多くの試薬は、Aldrich Chemical Co.(Milwaukee,Wisconsin,USA),Sigma(St.Louis,Missouri,USA)などの市販の業者から入手できる。その他の試薬は、次記などの標準的参照テキストに記載の手順、またはその自明の修正により作成し得る:Fieser and Fieser’s Reagents for Organic Synthesis,Volumes 1-15(John Wiley and Sons,1991),Rodd’s Chemistry of Carbon Compounds,Volumes 1-5 and Supplemental(Elsevier Science Publishers,1989),Organic Reactions,Volumes 1-40(John Wiley and Sons,1991),March’s Advanced Organic Chemistry,(Wiley,7th Edition),およびLarock’s Comprehensive Organic Transformations(Wiley-VCH,1999)。
【0065】
III.使用方法
本開示のプロドラッグは、親薬物(規制物質)の投与が有用であるいずれかの疾患の治療に有用である。例えば、いくつかの実施形態では、規制物質は、鎮痛薬であり、このような規制物質のプロドラッグは、疼痛(例えば、慢性疼痛)の治療方法で使用できる。
【0066】
したがって、いくつかの実施形態では、本開示は、疼痛(例えば、慢性疼痛)を治療する方法を提供し、該方法は、治療有効量の本開示のプロドラッグ(例えば、式I、I-X、1または2)またはプロドラッグを含む医薬組成物を、それを必要としている対象に投与することを含み、プロドラッグは、鎮痛薬(例えば、フェノール性オピオイドなどのオピオイド)のプロドラッグである。いくつかの実施形態では、プロドラッグは、式I-Xの化合物、または薬学的に許容可能なその塩であり、式中、Dは、表1に記載の、鎮痛薬、例えば、表1に記載のオピオイドまたはフェノール性オピオイドのいずれかである規制物質の残基である。いくつかの実施形態では、Dは、モルヒネ、オキシモルホン、ヒドロモルホン、レボルファノール、またはオキシコドンの残基である。いくつかの実施形態では、プロドラッグは、式1または2の化合物、または薬学的に許容可能なその塩である。いくつかの実施形態では、プロドラッグは、化合物番号1~8のいずれか1種、または薬学的に許容可能なその塩である。いくつかの実施形態では、投与は、皮下または筋肉注射などの注射であり得る。実施例セクションで示すように、本開示のいくつかの例示的プロドラッグの筋肉注射は、対応する親薬物(例えば、オキシモルホンまたはヒドロモルホン)をインビボでゆっくり放出することを示し、従って、持続性効果をもたらすことができる。この放出プロファイルは、少なくとも、それが、より少ない頻度の投与およびより良好な患者服薬遵守を可能とするという点で有利であり得る。また、プロドラッグは注射により投与されるので、製剤は病院での使用に限定でき、従って、乱用者が、規制物質の抽出を試みる(または別の方法で改変を試みる)ために、多量のプロドラッグを入手する可能性を大きく低減できる。さらに、規制物質またはその代謝物は、投与後、ゆっくりとしか放出されないので、乱用者の潜在的多幸感の報償は、単なる製剤の注射によるだけでは達成され得ない。従って、乱用の可能性も低減される。
【0067】
いくつかの実施形態では、本開示のプロドラッグは、乱用防止製剤の作製のために使用できる。本明細書に記載のように、発明者らはまた、プロドラッグおよびこれを含む医薬組成物を、薬物乱用者によりよく使われる、噛み砕き、圧潰、注射、および吸入、または有機溶媒による単純な抽出を含む一部のまたは全ての化学的および物理的条件に効果的に耐えるように設計した。用語の「乱用防止」および「乱用耐性」は、本明細書では同義で使用され、これら用語は両方とも、完全な乱用防止を必要としない。乱用防止または耐性特性/方法には、限定されないが、製剤が潜在的乱用者による一般的な加水分解条件に耐性を持つことを可能とする特性、潜在的乱用者の規制物質に対するアクセスを制限する方法などの本明細書で記載の薬物乱用を防止するのに有用な特性/方法のいずれかが含まれる。用語の「乱用」は、たとえ1回であっても、所望の心理的なまたは生理学的効果を得るために、製剤または物質の意図的な非治療的使用と理解されるべきである。
【0068】
いくつかの実施形態では、本開示はまた、規制物質の乱用の可能性を低減する方法も提供する。いくつかの実施形態では、方法は、規制物質のプロドラッグを提供すること、およびプロドラッグを乱用防止製剤に処方することを含み、プロドラッグは、式I-Xの化合物(本明細書で定義のような)または薬学的に許容可能なその塩であり、式I-X中のDは、規制物質の残基である。いくつかの実施形態では、プロドラッグは、式I、I-X、1または2の化合物、または薬学的に許容可能なその塩である。いくつかの実施形態では、プロドラッグは、式I-Xの化合物、または薬学的に許容可能なその塩であり、式中、Dは、例えば、表1に記載のオピオイドまたはフェノール性オピオイドのいずれかである、表1に記載の規制物質の残基である。いくつかの実施形態では、Dは、モルヒネ、オキシモルホン、ヒドロモルホン、レボルファノール、またはオキシコドンの残基である。いくつかの実施形態では、プロドラッグは、式1または2の化合物(例えば、化合物番号1~8のいずれか)、または薬学的に許容可能なその塩であり得る。いくつかの実施形態では、乱用防止製剤は、皮下または筋肉注射可能製剤などの注射可能製剤である。いくつかの実施形態では、乱用防止製剤は、一般的な改変条件、例えば、重曹または食酢媒介による、それぞれ約8.3または2.4のpHでの加水分解、または約1.6のpHでのクエン酸媒介加水分解に対し耐性がある(例えば、これらの条件下で実質的に安定である)。本明細書で使用される場合、「実質的に安定な」は、所与の条件下、例えば、本明細書で記載の一般的な改変条件下での加水分解で30%未満、20%未満、または5%未満の分解と理解されるべきである。従って、たとえ、乱用者がプロドラッグ製剤を得ることができる場合でも、プロドラッグ製剤から規制物質を得ることが困難であるために、薬物乱用の可能性も低減される。いくつかの実施形態では、乱用防止製剤は、プロドラッグを含むミセルを含む。理論に拘泥することを望むものではないが、ミセル形成は、加水分解速度をさらに低下させることができ、従って、プロドラッグ製剤から規制物質を回収することを試みる一般的な改変条件に対する製剤の安定性を改善すると考えられている。いくつかの実施形態では、方法は、乱用防止製剤の投与を病院設定に制限することをさらに含む。従って、方法は、潜在的乱用者に対するプロドラッグ製剤の入手を制限し、これも同様に、乱用の可能性を低減させる。いくつかの実施形態では、乱用防止製剤はまた、規制物質の長時間作用型放出も提供する。例えば、乱用防止製剤は、投与後、対象中で、少なくとも3日間などの長期間にわたり規制物質またはその代謝物を放出できる。規制物質またはその代謝物は、投与後、ゆっくりとしか放出されないので、乱用者の潜在的多幸感の報償は、単なる製剤の注射によるだけでは達成され得ない。従って、乱用の可能性も低減される。
【0069】
理論に拘泥することを望むものではないが、長鎖脂肪酸をベースにした例示的プロドラッグに関する次の論理的根拠は、本開示のプロドラッグまたはプロドラッグを含む医薬組成物の使用による薬物乱用可能性を低減するなどの本開示のプロドラッグおよび/または方法の利点をさらに示す。
【0070】
理論に拘泥することを望むものではないが、長鎖脂肪酸をベースにしたプロドラッグは、改変に耐える物理的および化学的条件で安定であると考えられている。エステルプロドラッグは、通常の貯蔵条件下で、通常、安定である。多くのカルボキシルエステルプロドラッグが薬物透過性を改善し、バイオアベイラビリティを高めるように設計されてきた(Williams FM,Clin Pharmacokinet.10(5):392-403(1985);Beaumont K et al.Curr Drug Metab.4(6):461-85(2003))。FDAの承認を得るために、これらの販売されているカルボキシルエステルプロドラッグは、通常の貯蔵条件下で適切な安定性、通常、室温で18~24ヶ月の貯蔵寿命を有さなければならない。カルボキシルエステルプロドラッグはまた、一般的なキッチンケミストリー改変条件下で安定である。エステル結合のpH安定性プロファイルは、逆U字型曲線であり、すなわち、エステル結合はpH3~6で最も安定であり、それより酸性または塩基性pHではより低い安定性である(Mabey W.J.Phys.Chem.Ref.Data 7:383(1978))ことが報告されている。酢酸(1.0MでpH=2.4)、クエン酸(1.0MでpH=1.57)および重曹(1.0MでpH=8.3)などのキッチン化学薬品により生成される弱酸および弱塩基条件は、高温で数時間かけても、カルボキシルエステルを加水分解できない。
【0071】
長鎖脂肪酸エステルは、一般的な改変条件下で、追加の安定性を提供する。長鎖脂肪酸鎖は、プロドラッグの水溶解度を大きく低下させ、これは、水性媒体中での抽出または操作を困難にする。例えば、単量体ラウレートの溶解度は、500μMより大きく、一方、単量体ミリステートの溶解度は、20~30μMであった。他方、パルミテート、ステアレート、およびオレエート溶液は、1μM未満の濃度であっても凝集傾向を示した(Vorum H et al.Biochim Biophys Acta.22;1126(2):135-42(1992))。可溶化されると、長鎖脂肪酸エステルは、ミセルを形成し、水性媒体中での酸または塩基触媒加水分解を遅らせる。従って、長鎖脂肪酸エステルプロドラッグは、優れた改変耐性特性を与える。
【0072】
理論に拘泥することを望むものではないが、長鎖脂肪酸をベースにしたプロドラッグからの規制物質の酵素媒介放出は、調節できるとも考えられている。制御可能な加水分解速度は、人体中への投与直後のエステルプロドラッグからの活性親薬物の放出を防ぐことができる。エステラーゼは、一般的に、基質特異性を欠いている。エステルプロドラッグは全ての組織中で種々のエステラーゼにより加水分解されると考えられている。しかし、最近、1種のカルボキシルエステラーゼが常に、それぞれの基質に対し支配的であり、主要な加水分解経路として機能することを報告している。カルボキシルエステルによる加水分解を受ける薬物は、それらの素質の臨床的に有意な変化を受けやすいであろう(Laizure SC et al.PHARMACOTHERAPY,33:210-22(2013))。
【0073】
国際生化学連合の酵素委員会(EC)(Moss GP,2011)によると、2つの酵素カテゴリー:カルボキシルエステラーゼおよびリパーゼ、がカルボキシルエステルの加水分解を触媒する。分類を下記にまとめている:
【0074】
EC3:加水分解酵素
EC3.1:エステル加水分解酵素
EC3.1.1:カルボキシルエステル加水分解酵素
EC3.1.1.1:カルボキシルエステラーゼ
EC3.1.1.3:リパーゼ(トリアシルグリセロール加水分解酵素とも呼ばれる)
【0075】
カルボキシラーゼとリパーゼとの間には大きな差異がある。
(1)発現プロファイル:ヒトでは、2つのカルボキシルエステラーゼ、hCE1およびhCE2は、薬物代謝の重要なメディエーターである。両方は、肝臓で発現されるが、hCE1は、hCE2を大きく超える。腸では、hCE2のみが存在し、高度に発現されている(Imai T et al.Drug Metab Dispos 34:1734-41(2006);Zhang W et al.Appl Immunohistochem Mol Morphol 10:374(2002))。カルボキシルエステルリパーゼは、主に膵臓および授乳中の乳腺、ならびに肝臓、マクロファージおよび血管壁で発現される(Hui D,et al.Journal of Lipid Research 43:2017-30(2002))。 (2)基質選択性:hCE1は、小さいアルコール基および大きなアシル基を有する基質を触媒するが、hCE2は、大きなアルコール基および小さなアシル基を有する基質を触媒する(Imai T.,et al.Drug Metab Dispos 34:1734-41(2006))。リパーゼは、主に、トリアシルグリセロール由来の長鎖脂肪酸を加水分解する。
(3)基質特性:カルボキシラーゼは溶液中の短鎖脂肪酸エステルの加水分解を触媒し、リパーゼは、エステルおよびトリアシルグリセロールの溶液上で活性であるが、カルボキシルエステラーゼと対照的に、それらは、全て、乳化基質に対して最大の活性を示す。
【0076】
望ましい酵素変換速度は、本明細書に記載の適切なプロドラッグを選択することにより達成できる。第1に、長鎖脂肪酸エステルの酵素触媒加水分解速度は、短鎖脂肪酸エステルの場合より遅い。より長い脂肪酸鎖を選択することにより、エステルプロドラッグの加水分解速度を遅くすることができる。Buchwaldらは、最速加水分解速度は、短すぎず、長すぎない脂肪酸鎖、ヒト血液中では、ほぼ4炭素原子長さの脂肪酸鎖で達成されることを報告した。(Buchwald P et al.Pharmazie.57(2):87-93(2002))。アセトアミノフェンの脂肪酸エステルの緩衝膵リパーゼ中の加水分解の調査については、Bauguessらは、アシル部分の鎖長と、対応する加水分解速度との間には、負の関係が存在することを報告した。より長い鎖のエステル、p-アセトアミドフェニルパルミテートおよびp-アセトアミドフェニルステアレートは、同じインビトロ条件下で、p-アセトアミドフェニルデカノエート、p-アセトアミドフェニルラウレートおよびp-アセトアミドフェニルミリステートより遙かにゆっくり加水分解された(Bauguess CT et al.J Pharm Sci.64(1):117-120(1975))。従って、「持続」放出プロファイルは、適切な脂肪酸鎖長により達成できる。
【0077】
第2に、エステラーゼとリパーゼとの間の差異を利用することにより、長鎖脂肪酸をベースにしたプロドラッグを用いて、酵素変換の部位を限定できる。カルボキシルエステラーゼまたはその他のエステラーゼにより加水分解できる、ほとんどの販売されている短鎖脂肪酸エステルプロドラッグと異なり、長鎖脂肪酸エステルは、カルボキシルエステルリパーゼ(CEL)により主に加水分解される(Lindstrom et al.Biochim Biophys Acta.959(2):178-84(1988))。主要ヒトCELは、膵臓により消化器系中に分泌され、脂質の消化および吸収に関与する。その他のヒトリパーゼは、血管壁で発現され、脈管構造中のlysoPCのレベルを減らすことによる、アテローム性動脈硬化症に対する保護機序であり得る。これらのCELはまた、リポタンパク質代謝およびアテローム性動脈硬化症に関与し得る(Li et al.Biochem.J.329:675-679(1998))。カルボキシルエステルリパーゼの主要機能は、食用脂肪および脂質を消化することであるので、CELの血漿および血管中の発現レベルは、消化路中よりも遙かに少ない(Hui et al.2002)。従って、長鎖脂肪酸エステルオピオイドプロドラッグの血漿中の変換速度は、消化管中よりも遙かに小さい。プロドラッグはまた、血漿中でカルボキシルエステラーゼに対し不活性のまま残存するミセルを形成できる。ミセルは、徐々に取り込まれ、内皮細胞壁および肝臓中でリパーゼにより開裂されるが、これもまた、薬物乱用者により望まれる多幸感を生成するにはあまりにもゆっくりすぎる。従って、吸引または鼻で吸われる場合、長鎖脂肪酸エステルオピオイドプロドラッグは、体循環中で「持続」放出プロファイルを示す。
【0078】
さらに、実施例セクションで示すように、発明者らは、本開示のいくつかの例示的脂肪酸ベースプロドラッグが、注射可能製剤(例えば、筋肉注射)に処方でき、これは、ラットPK試験で、長期間にわたり規制物質(例えば、オキシモルホンまたはヒドロモルホン)の持続性放出をもたらしたことを確認した。さらに、脂肪酸鎖長を変えることにより、異なるPKプロファイルが観察できることが認められた。従って、本明細書に記載の異なる脂肪酸エステルプロドラッグを用いて、異なる用途に使用できる。具体的には、実施例6で示すように、化合物2(脂肪酸鎖長16、n=14)のラットの筋肉内投与は、実質的にプロドラッグの循環中での曝露をもたらさず、規制物質(実施例ではオキシモルホン)のプロドラッグに対するCmaxの平均比率は、20超(表2Bに示すように、2種の異なる投与量に対し、21および63.7)であり、150超(2つの異なる投与量に対し表2Bに示すように、151と161)のAUCの平均比率(実施例中の最後の測定点で)である。対照的に、脂肪酸鎖長が20(n=18)である場合、異なるPKプロファイルが観察された。同様に、実施例6で示すように、オキシモルホンプロドラッグの場合には、ラットへの化合物3の筋肉内投与は、規制物質(実施例ではオキシモルホン)のプロドラッグに対するCmaxの平均比率は、約3(投与量試験の表3Bに示すように、3.22)であり、5未満(投与量試験の表3Bに示すように4.44)のAUCの平均比率(実施例中の最後の測定点で)である。同様に、ヒドロモルホンプロドラッグの場合には、ラットへの化合物7の筋肉内投与は、規制物質(実施例ではヒドロモルホン)のプロドラッグに対するCmaxの平均比率は、1未満(投与量試験の表4Bに示すように、0.757)であり、2未満(投与量試験の表4Bに示すように1.56)のAUCの平均比率(実施例中の最後の測定点で)である。
【0079】
同様に、理論に拘泥することを望むものではないが、本開示のプロドラッグは、低減したCNSおよび吸入浸透を達成するために調節できると考えられている。オピオイドのエステルプロドラッグの主要な懸念は、高められたCNS浸透であり、これは、乱用の問題を悪化させる。ヘロインは、古典的な例である:モルヒネ分子のヒドロキシル基がアシル基により変性される場合、得られた化合物、ヘロインは、その改善された膜透過性に起因して、顕著なCNS透過性を示す。広く受け入れられているように、化合物のlogP値と、そのCNS分布との間の関連性は、鐘形曲線である。CNS透過性に対する最適logP値は、2.8であることが報告されている(Wager et al.ACS Chem.Neurosci.1:420-434(2010))。モルヒネ分子のアシル化は、logP値を0.89から1.58へ増大させ、従って、そのCNS透過性を増大させる。しかし、長鎖脂肪酸エステルのlogP値は、グラフの極めて高い側にあり(すなわち、logP>6)、CNS中に浸透しない。同じ理由で、長鎖脂肪酸エステルは、煙を吸うまたは鼻で吸う場合、肺細胞膜を通る最小限の浸透性を有する。
【0080】
さらに、本明細書で考察したように、本開示のプロドラッグは、規制物質の長時間作用性放出をもたらすように処方することができ、これにより、薬物乱用の可能性を低減し、患者の服薬遵守を高めることができると考えられている。例えば、実施例セクションのラットPKデータは、長鎖脂肪酸エステルプロドラッグ(例えば、オキシモルホンまたはヒドロモルホンパルミテートまたはアラキジン酸)の注射(例えば、筋肉注射)は、長期間にわたり規制物質を供給でき、オキシモルホンまたはヒドロモルホンのそれぞれのT1/2が、100時間を超える(例えば、表2B、3B、および4Bを参照)。理論に拘泥することを望むものではないが、中程度に水溶性の化合物の場合には、長鎖脂肪酸の添加は、プロドラッグの溶解度を顕著に低減させると考えられている。得られた親油性のプロドラッグが筋肉内経由で注射される場合、プロドラッグは、注射部位で徐放性製剤を形成でき、変換されてゆっくりと親薬物に戻り、徐々に体循環中に放出され得る。
【0081】
同様に、理論に拘泥することを望むものではないが、脂質化化合物は、アルブミンまたは血清リポタンパク質に結合することにより、長時間作用効果を達成できるという仮説が立てられている。アルブミンは、血漿中の脂肪酸のための担体である(Van der Vusse Drug Metab.Pharmacokinet 24:300-307(2009))。それは、長鎖脂肪酸のための、ナノモル解離定数範囲の親和性を有する、6~7個の脂肪酸結合部位を有する(Bhattacharya et al.J.Mol.Biol.303:721-732(2000);Spector et al J.Lipid Res.16:165-179(1975))。タンパク質への結合は、化合物を安定化し、その循環半減期を増大させる。
【0082】
従って、本明細書の実施例は、本開示のプロドラッグを、潜在する規制物質をゆっくり放出するように使用できることを示す。さらに、プロドラッグが3~4週毎の、通常、病院での使用に限定できる、筋肉注射などの注射により投与される場合、規制物質の薬物乱用および流用の機会を減らすことができる。さらに、例えば、慢性疼痛の治療のための、血漿中の一貫して24時間絶え間ないレベルの規制物質、例えば、オキシモルホンまたはヒドロモルホンにより、および低減した注射頻度により、患者のアドヒアランスおよび服薬遵守を同様に大きく改善できる。本明細書で考察したように、プロドラッグを作製する化学は、費用対効果が大きく、直接的である。さらに、無数の潜在的脂肪酸は、特定の特性にあわせて、プロドラッグを作製可能にする。
【0083】
当業者により理解されるように、実施例セクションでは、2つのオピオイドの例が記載されるが、この開示の教示は、より広範な用途を有し、本開示のプロドラッグは、例示オピオイド以外の乱用防止製剤を開発するために使用できる。例えば、遊離ヒドロキシル基またはケト互変異性体を有する全てのオピオイドは、本明細書のこのプロドラッグ技術により改変できる。本発明はまた、表1で提供されるアヘン誘導体、幻覚発現性または精神異常発現性物質、および刺激薬などの乱用の可能性のある任意の非オピオイド薬にも適用できる。
【0084】
IV.医薬組成物
別の態様では、本発明は、本開示のいずれかのプロドラッグ(例えば、式I、I-X、1、または2、または化合物番号1~8のいずれか1つ、または薬学的に許容可能なその塩)を含む医薬組成物を提供する。通常、医薬組成物は、薬学的に許容可能な賦形剤および本開示のプロドラッグ(例えば、式I、I-X、1、または2、または化合物番号1~8のいずれか1つ、または薬学的に許容可能なその塩)を含む。いくつかの実施形態では、プロドラッグは、式I-Xの化合物、または薬学的に許容可能なその塩であり、式中、Dは、例えば、表1に記載のオピオイドまたはフェノール性オピオイドのいずれかである、表1に記載の規制物質の残基である。いくつかの実施形態では、Dは、モルヒネ、オキシモルホン、ヒドロモルホン、レボルファノール、またはオキシコドンの残基である。いくつかの実施形態では、プロドラッグは、式1または2の化合物(例えば、化合物番号1~8のいずれか)、または薬学的に許容可能なその塩であり得る。いくつかの実施形態では、医薬組成物は、規制物質の長時間作用型放出を達成できる。例えば、いくつかの実施形態では、医薬組成物は、投与後、対象中で、少なくとも3日間などの長期間にわたり規制物質またはその代謝物を放出できる。
【0085】
いくつかの実施形態では、本開示の医薬組成物は、乱用防止作用がある。本明細書で説明されるように、本開示の医薬組成物は、薬物乱用の可能性を低減できる。例えば、いくつかの実施形態では、医薬組成物は、皮下または筋肉注射などの注射用に処方でき、これは、病院での使用に限定できる。これは、製剤の潜在的乱用者の利用可能性を減らすので、規制物質の薬物乱用の可能性も低減される。さらに、医薬組成物は通常、投与後、規制物質またはその代謝物をゆっくり放出するので、乱用者の潜在的多幸感の報償は、単なる医薬組成物の投与(例えば、注射による)によるだけでは達成され得ない。さらに、本明細書の医薬組成物はまた、一般的な乱用条件に対して耐性がある(例えば、実質的にその条件下で安定である)として特徴付けることができる。例えば、いくつかの実施形態では、医薬組成物は、酸または塩基触媒加水分解条件下、例えば、約1~3のpH(酸触媒)での加水分解条件下または食酢もしくは重曹媒介加水分解などの約8~9(塩基触媒)での加水分解条件下、約2.4または約8.3のpHでの加水分解条件下、または約1.6のpHでのクエン酸媒介加水分解条件下で実質的に安定である。いくつかの実施形態では、医薬組成物は、本開示のプロドラッグを含むミセルを含むことができる。理論に拘泥することを望むものではないが、ミセルは通常、酸または塩基触媒加水分解に対しより安定であるので、プロドラッグのミセルを含む医薬組成物は、同様に、乱用防止作用があり得る。
【0086】
例示的実施形態では、医薬組成物は、1μg~2000mg、例えば、1μg~1mg、1mg~10mg、1mg~100mg、1mg~1000mg、1mg~1500mg、さらには、1mg~2000mgの本明細書で開示のプロドラッグを含む。
【0087】
本開示のプロドラッグは、多種多様の経口、非経口、および局所剤形で作製および投与できる。経口剤には、患者による摂取に好適する、錠剤、丸剤、散剤、糖衣錠、カプセル、液剤、ロゼンジ、ゲル、シロップ、スラリー、懸濁剤、などが挙げられる。本開示のプロドラッグはまた、注射、すなわち、静脈内、筋肉内、皮内、皮下、十二指腸内、または腹腔内注射により投与できる。また、本明細書で記載の本開示のプロドラッグは、吸入により、例えば、鼻腔内に投与できる。さらに、本開示のプロドラッグは、経皮的に投与できる。本開示のプロドラッグは、坐剤、吹送法、散剤およびエアロゾル処方薬を含む眼内、膣内および直腸内経路により投与することもできる。本明細書に記載の医薬組成物は、経口投与に適応できる。
【0088】
本開示のプロドラッグからの医薬組成物の作製のための、薬学的に許容可能な担体は固体または液体であり得る。固体形態の製剤には、散剤、錠剤、丸薬、カプセル、カシェ剤、坐剤、および分散性顆粒が挙げられる。固体担体は、希釈剤、香味剤、結合剤、防腐剤、錠剤崩壊剤、または封入物質としても作用し得る1種または複数の物質であり得る。製剤および投与の技術に関する詳細は、科学および特許文献で十分に記載されており、例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences,Maack Publishing Co.,Easton PA(Remington’s)の最新版を参照されたい。
【0089】
粉末では、担体は、微粉化された活性物質との混合物である微粉化固体である。錠剤では、活性成分は、必要な結合特性を有する担体と適切な比率で混合され、所望の形状および大きさに圧縮される。
【0090】
散剤および錠剤は、5重量%~70重量%の活性化合物を含むのが好ましい。好適な担体は、炭酸マグネシウム、ステアリン酸マグネシウム、滑石、糖、ラクトース、ペクチン、デキストリン、デンプン、ゼラチン、トラガント、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、低融点ワックス、ココアバター、などである。用語の「製剤」は、活性化合物を伴い、他の担体を含有または非含有の活性成分が担体によりに取り囲まれてカプセルを形成するように組み込まれる担体としての封入物質と活性化合物の配合物を含むことが意図されている。同様に、カシェ剤およびトローチ剤も含まれる。錠剤、散剤、カプセル、丸薬、カシェ剤、およびトローチ剤は、経口投与に好適する固形剤形として使用できる。
【0091】
適切な固体賦形剤は炭水化物またはタンパク質充填剤であり、限定されないが、ラクトース、シュクロース、マンニトールまたはソルビトールを含む糖;トウモロコシ、コムギ、コメ、ジャガイモまたは他の植物に由来するデンプン;メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースまたはカルボキシメチルセルロースナトリウムなどのセルロース;およびアラビアおよびトラガカントを含むゴム:ならびにゼラチンおよびコラーゲンなどのタンパク質を含む。必要に応じ、架橋化ポリビニルピロリドン、寒天、アルギン酸またはアルギン酸ナトリウムのなどの塩のなどの崩壊剤または可溶化剤を加えてもよい。
【0092】
糖衣錠コアは、濃縮糖溶液などの好適なコーティングを用いて形成され、この糖溶液は、アラビアゴム、タルク、ポリビニルピロリドン、カルボポールゲル、ポリエチレングリコール、および/または二酸化チタン、ラッカー溶液、および好適な有機溶媒または溶媒混合物も含み得る。色素または顔料を、製剤を識別するために、または活性化合物の量(すなわち、投与量)を特徴付けるために、錠剤または糖衣錠コーティングに加えてもよい。本発明の製剤は、例えば、ゼラチンから作製されたプッシュ・フィット型カプセル、ならびに、ゼラチンおよびグリセロールまたはソルビトールなどのコーティングから作製されたソフトシールカプセルを用いて、経口でも使用できる。プッシュ・フィット型カプセルは、ラクトースまたはデンプンなどの充填剤または結合剤、タルクまたはステアリン酸マグネシウムなどの潤滑剤、および必要に応じて安定化剤と混合した本開示のプロドラッグを含むことができる。軟カプセルでは、本開示のプロドラッグを、好適な液体、例えば、安定剤を含有または非含有の、脂肪油、流動パラフィンまたは液状のポリエチレングリコールに溶解または懸濁させ得る。
【0093】
坐剤の作製のために、脂肪酸グリセリドまたはココアバターの混合物などの低融点ワックスを最初に融解させ、撹拌しながらその中に活性成分を均一に分散させる。その後、融解した均一混合物を簡便寸法のモールドに注ぎ込み、冷却することにより固化させる。
【0094】
液体形態の製剤は、溶液、懸濁液、乳剤を含み、例えば、水または水/プロピレングリコール溶液を含む。非経口注射のために、液状製剤が、ポリエチレングリコール水溶液の溶液で処方できる。
【0095】
経口使用に好適な水溶液は、活性成分を水中に溶解し、好適な着色剤、香味料、安定剤、および必要に応じ増粘剤を加えることにより作製できる。経口使用に好適する水性懸濁液は、天然のまたは合成ゴム、樹脂、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、トラガカントゴムおよびアラビアゴムなどの粘着性物質、および天然ホスファチド(例えば、レシチン)、アルキレンオキシドと脂肪酸との縮合生成物(例えばポリオキシエチレンステアレート)、エチレンオキシドと長鎖脂肪族アルコールとの縮合生成物(例えばヘプタデカエチレンオキシセタノール)、エチレンオキシドと脂肪酸およびヘキシトールから誘導された部分エステルとの縮合生成物(例えばポリエチレンソルビトールモノオレエート)、またはエチレンオキシドと脂肪酸および無水ヘキシトールから誘導された部分エステルとの縮合生成物(例えば、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート)などの分散または湿潤剤を含む水中に微粉化活性成分を分散させることにより作製できる。また水性懸濁液は、エチルまたはn-プロピルp-ヒドロキシ安息香酸などの1種または複数の防腐剤、1種または複数の着色剤、1種または複数の香味剤およびスクロース、アスパルテームまたはサッカリンなどの1種または複数の甘味剤を含むこともできる。製剤は、モル浸透圧濃度を調節することができる。
【0096】
また、固体形態製剤も含まれ、これは、使用の少し前に、経口投与用の液体形態製剤に変換されることが意図されている。このような液体形態の製剤は、溶液、懸濁液、乳剤を含む。これらの製剤は、活性成分に加えて、着色剤、香味料、安定剤、緩衝液、人工および天然の甘味剤、分散剤、増粘剤、可溶化剤、などを含み得る。
【0097】
ラッカセイ油、オリーブ油、ゴマ油またはヤシ油などの植物油、または流動パラフィンなどの鉱物油またはこれらの混合物などの油担体は、同様に本開示のプロドラッグの処方に、例えば、注射可能製剤用として使用することができる。いくつかの実施形態では、油は担体として使用され、プロドラッグが油担体中に懸濁される。いくつかの実施形態では、油懸濁液は、蜜ろう、硬質パラフィンまたはセチルアルコールなどの増粘剤を含み得る。グリセロール、ソルビトールまたはスクロースなどの甘味剤を加えて口当たりの良い経口剤を提供することができる。これらの製剤はまた、アスコルビン酸などの酸化防止剤の添加により保存できる。本発明の医薬製剤は、水中油型乳剤の形態とすることもできる。油性相は上記の植物油または鉱物油、またはこれらの混合物であり得る。適切な乳化剤には、アラビアゴムおよびトラガカントゴムなどの天然ゴム、ダイズレシチンなどの天然に存在するホスファチド、ソルビタンモノ-オレエートなどの脂肪酸と無水ヘキシトールから誘導されるエステルもしくは部分エステル、およびポリエチレンソルビタンモノ-オレエートなどのこれら部分エステルとエチレンオキシドとの縮合生成物が含まれる。また乳液はシロップおよびエリキシル製剤におけるような甘味剤および香味剤も含むことができる。このような製剤は粘滑薬、防腐剤または着色剤も含むことができる。
【0098】
本開示のプロドラッグは、アプリケータースティック、液剤、懸濁剤、乳剤、ゲル、クリーム、軟膏、ペースト、ゼリー、ペイント、散剤およびエアロゾルとして処方され、局所的経路により経皮的に送達することができる。
【0099】
本開示のプロドラッグは、体内での持続放出のためのマイクロスフェアまたはインプラントとして送達することもできる。例えば、マイクロスフェアは、生分解性および注射可能ゲル製剤として、薬物含有マイクロスフェアの皮内注射を介して投与でき、皮下にゆっくり放出される、または経口投与用のマイクロスフェアとして投与される。経皮および皮内経路の両方が数週間または数カ月間、一定の送達を提供する。
【0100】
本開示のプロドラッグは、体内での持続放出のために、皮下(SC)または筋肉内(IM)注射可能インサイツ徐放性製剤として送達することもできる。プロドラッグは、注射器中で有機溶媒と混合して、液体形態のままで残存するようにできる。注射後、プロドラッグは、インサイツ徐放性製剤を形成でき、これは、数週間または数カ月間、薬物を絶えず送達する。
【0101】
本開示のプロドラッグは、塩として提供することができ、この塩は、限定されないが、塩酸、硫酸、酢酸、乳酸、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸などを含む多くの異なる種類の酸を用いて形成することができる。塩は、対応する遊離塩基型と比較して、水性溶媒またはその他のプロトン性溶媒への可溶性がより高い傾向がある。他の場合では、製剤は、使用前に緩衝液と混合される4.5から5.5のpH範囲の1mM~50mMのヒスチジン、0.1%~2%のスクロース、2%~7%マンニトール中の凍結乾燥粉末であり得る。
【0102】
別の実施形態では、本開示のプロドラッグは、静脈内(IV)投与または臓器の体腔または内腔中への投与などの非経口的投与に有用である。投与用の製剤は一般に、薬学的に許容可能な担体中に溶解した化合物溶液を含む。用いることができる許容可能なビークルおよび溶媒は、特に、水およびリンゲル液、等張性塩化ナトリウムである。加えて、無菌の不揮発性油を溶媒または懸濁剤として従来どおり使用することができる。この目的には、合成のモノまたはジグリセリドを含む任意の銘柄の不揮発性油を使用することができる。さらに、オレイン酸などの脂肪酸も同様に、注射剤の調製に使用することができる。これらの溶液は滅菌され、そして一般に望ましくない物質を含まない。これらの製剤は通例のよく知られた滅菌技術により滅菌され得る。製剤は、pH調整剤および緩衝剤、毒性調整剤、例えば、酢酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、乳酸ナトリウムなどの製薬学的に許容され得る補助物質を適切な生理学的条件の必要性に応じて含み得る。これらの製剤中のプロドラッグの濃度は極めて広範囲に変動し得るが、選択した特定の投与方法および患者のニーズに従い、主に液量、粘度、体重、などに基づき選択される。IV投与の場合、製剤は無菌の注入可能な水性または油性懸濁液などの無菌の注入可能な調製物であり得る。この懸濁液はこれらの適切な分散または湿潤剤および沈殿防止剤を使用して、既知の技術により処方することができる。また無菌の注射可能な調製物はまた、1,3-ブタンジオールの溶液などの非毒性の非経口的に許容され得る希釈剤または溶媒中の無菌の注射可能な溶液または懸濁液であり得る。
【0103】
別の実施形態では、本開示のプロドラッグは、細胞膜と融合するか、またはエンドサイトーシスにより取り込まれるリポソームの使用により、すなわち、リポソームに結合するリガンドを採用することにより、またはエンドサイトーシスを生ずる細胞の表面膜タンパク質受容体に結合するオリゴヌクレオチドに直接結合するリガンドを採用することにより、送達することができる。リポソームを使用することにより、特にリポソーム表面が標的細胞に特異的なリガンドを持つ場合、またはそうではなく特異的な臓器に優先的に向けられる場合、プロドラッグの送達をインビボで標的細胞に向けることができる。
【0104】
医薬品は、好ましくは単位剤形である。このような形態では、製剤は、適切な量の活性成分を含む単位用量に分割される。単位剤形は、パッケージ化された製剤であり得、パッケージは、バイアルまたはアンプル中の小分けされた錠剤、カプセル、および散剤などの別々の量の製剤を含む。また、単位剤形は、カプセル、錠剤、カシェ剤、またはトローチ剤それ自体であり得、またはパッケージ化形態にした適切な数のこれらのいずれかであり得る。
【0105】
単位用量製剤中の活性成分の量は、特定の用途および活性成分の効力に応じて、0.1mg~10000mg、より典型的には1.0mg~1000mg、最も典型的には、10mg~500mgに変化または調節し得る。組成物はまた、必要に応じ、他の適合性のある治療薬も含むことができる。
【0106】
本開示のプロドラッグは、リパーゼまたはエステラーゼにより代謝され得る。プロドラッグがリパーゼまたはエステラーゼにより代謝される場合、エステル結合は切断され、活性規制物質(例えば、オピオイド)が放出される。
【0107】
本明細書で提供される教示を利用して効果的投与計画を策定でき、この計画には、化合物の効力、相対的バイオアベイラビリティ、放出速度、患者の体重、有害副作用の存在および重症度、好ましい投与方法、および選択した薬剤の毒性プロファイルなどの因子を考慮することによる、活性化合物の注意深い選択が必要となる場合がある。
【0108】
V.例示的実施形態
以下に示すのは、いくつかの例示的実施形態E1~E11である。
1.式(I)の構造を有する化合物、または薬学的に許容可能なその塩であって、
【化14】
式中、エステルリンカーは、カルボキシルエステルとしての式I(a)、カルボキシルアルキルオキシエステルとしての式I(b)、カルバメートエステルとしての式I(c)、カーボネートエステルとしての式I(d)、リン酸エステルとしての式I(e)、ホスフェートカルボキシルアルキルオキシエステルとしての式I(f)であり;プロ部分は、脂質、天然の生分解性ポリマーおよび合成ポリマーから選択され;薬物は、表1のヒドロキシル、二級アミン、またはカルボン酸基を有するスケジュールII、III、またはIV規制物質から選択され;およびRは、水素、アルキルまたは置換アルキル基から選択される。
2.脂質が、8~24個の炭素を有する飽和または不飽和直鎖または分枝鎖脂質からなり;脂質が、胆汁酸、スクアレン、ビタミンEおよびビタミンE TPGSなどのその誘導体、コレステロール、およびレチノイン酸からさらになる、実施形態1に記載の化合物。
3.天然の生分解性ポリマーが、アルギネート、キトサン、誘導セルロース、デンプン、ヒアルロン酸、およびデキストランからなり;および合成ポリマーが、ポリエステル、ポリエーテル、ポリウレタン、ポリホスパジン、ポリカーボネート、およびポリエステルアミドからなる、実施形態1に記載の化合物。
4.ポリエステルが、ポリ乳酸(PLA)、ポリグリコール酸(PGA)、ポリカプロラクトン(PCL)、およびポリ乳酸グリコール酸(PLGA)を含むそれらのコポリマーからなり;ポリエーテルが、ポリエチレングリコール(PEG)およびその誘導体からなる、実施形態3に記載の化合物。
5.薬物が、モルヒネ、オキシモルホン、ヒドロモルホン、およびオキシコドンである、実施形態1に記載の化合物。
6.エステルリンカーがカルボキシルエステルである、実施形態3に記載の化合物。
7.脂質が、12~20個の炭素を有する直鎖脂肪酸である、実施形態2に記載の化合物。
8.薬学的に許容可能な塩が、酢酸、臭化水素酸、塩酸、クエン酸、マレイン酸、メタンスルホン酸、硝酸、リン酸、コハク酸、硫酸、および酒石酸からなる群より選択される酸を用いて形成される、実施形態1に記載の化合物。
9.実施形態1に記載の化合物および薬学的に許容可能な賦形剤を含む医薬組成物。
10.実施形態9に記載の医薬組成物は、長時間作用型放出のために、皮下にまたは筋肉内に注射できる。
11.有効量の実施形態1に記載の内の1種の化合物を、それを必要としている対象に投与することを含む、オピオイド薬改変および乱用に耐える方法。
【0109】
VI.実施例
実施例1-オキシモルホンエステルプロドラッグの合成
【化15】
オキシモルホンパルミチン酸(n=14)エステルの例示的作製手順。脂肪酸(パルミチン酸)およびスルホニルクロリド(>10mol当量)を乾燥した丸底フラスコに加えた。混合物を油浴中、85℃で2時間還流した。液体スルホニルクロリドを減圧下、ロータリーエバポレーターを用いて除去し、油ポンプを用いてさらに除去した。無水CH2Cl2を混合物に加えた。その後、加えた溶媒を減圧下でロータリーエバポレーターを用いて除去し、油ポンプを用いてさらに除去した。無水CH2CH2の添加と除去のステップを3回繰り返し、残留スルホニルクロリドを完全に除去した。得られた淡黄色結晶をさらに精製することなく次の反応に使用した。
【0110】
オキシモルホンクロリド塩(1.0mol当量)およびトリエチルアミン(4.0mol当量)を丸底フラスコ中の無水CH2Cl2に溶解した。フラスコを氷水浴中で保持した。上記で作製した脂肪酸クロリド(パルミチン酸クロリド)(1.1mol当量)を混合物に加えた。混合物を一晩撹拌した。混合物を0.1Nクエン酸(2回)および水(1回)で洗浄した。有機相を回収し、無水K2SO4で乾燥した。ロータリーエバポレーターを用いて、有機溶剤を除去した。得られた混合物を、CH2Cl2:MeOH=20:1を用いてシリカクロマトグラフィーで精製した。
【0111】
上記手順に従って、n=10、14、18、および22のオキシモルホンエステルを合成した。得られた生成物は淡黄色の油(または白色粉末)であり、反応収率は通常80%を超える。
【0112】
生成物の特性評価。
化合物1.オキシモルホンドデカネート(nは10)。MS(m/z):484.3.1H NMR(300MHz,CDCl3)δ6.83(1H,d),6.69(1H,d),4.68(1H,s),3.19(1H,d),3.00(2H,m),2.0-2.7(10H,m),1.6-1.8(5H,m),1.0-1.5(16H,m),0.87(3H,t).化合物1は、淡黄色の油として得られた。
化合物2.オキシモルホンヘキサデカネート(nは14)。MS(m/z):540.3.1H NMR(300MHz,CDCl3)δ6.84(1H,d),6.69(1H,d),4.68(1H,s),2.9-3.4(3H,m),2.0-2.6(10H,m),1.6-1.8(5H,m),1.0-1.5(24H,m),0.87(3H,t).化合物2は、白色ワックスとして得られた。
化合物3.オキシモルホンエイコサネート(nは18)。MS(m/z):596.4.1H NMR(300MHz,CDCl3)δ6.84(1H,d),6.69(1H,d),4.68(1H,s),2.9-3.4(2H,m),1.9-2.7(10H,m),1.6-1.8(6H,m),1.0-1.6(32H,m),0.87(3H,t).化合物3は、白色粉末として得られた。
化合物4.オキシモルホンテトラコサネート(nは22)。MS(m/z):652.4.1H NMR(300MHz,CDCl3)δ6.84(1H,d),6.69(1H,d),4.69(1H,s),3.30(1H,s),3.08(2H,m),2.0-2.8(10H,m),1.6-2.0(5H,m),1.0-1.5(40H,m),0.87(3H,t).化合物4は、灰色がかった白色の粉末として得られた。
【0113】
実施例2-ヒドロモルホンエステルプロドラッグの合成
【化16】
実施例1に記載の手順に従い、代わりにヒドロモルホンクロリド塩を使って、n=10、14、18、および22のヒドロモルホンエステルを作製した。
【0114】
生成物の特性評価。
化合物5.ヒドロモルホンドデカネート(nは10)。MS(m/z):468.3.1H NMR(300MHz,CDCl3)δ6.82(1H,d),6.68(1H,d),4.67(1H,s),3.24(1H,s),3.05(1H,s),2.0-2.6(11H,m),1.6-1.8(4H,m),1.0-1.5(18H,m),0.87(3H,t).化合物5は、淡黄色の油として得られた。
化合物6.ヒドロモルホンヘキサデカネート(nは14)。MS(m/z):524.3.1H NMR(300MHz,CDCl3)δ6.83(1H,d),6.68(1H,d),4.68(1H,s),3.66(1H,s),2.9-3.4(2H,m),1.9-2.6(12H,m),1.6-1.8(4H,m),1.0-1.5(24H,m),0.87(3H,t).化合物6は、淡黄色の油として得られた。
化合物7.ヒドロモルホンエイコサネート(nは18)。MS(m/z):580.4.1H NMR(300MHz,CDCl3)δ6.82(1H,d),6.68(1H,d),4.67(1H,s),3.65(1H,m),2.9-3.4(4H,m),1.9-2.6(10H,m),1.6-1.8(4H,m),1.0-1.6(32H,m),0.87(3H,t).化合物7は、白色ワックスとして得られた。
化合物8.ヒドロモルホンテトラコサネート(nは22)。MS(m/z):636.4.1H NMR(300MHz,CDCl3)δ6.84(1H,d),6.69(1H,d),4.69(1H,s),3.27(1H,s),3.08(1H,d),2.0-2.8(11H,m),1.6-2.0(4H,m),1.0-1.5(42H,m),0.87(3H,t).化合物8は、灰色がかった白色の粉末として得られた。
【0115】
実施例3-改変条件下での安定性試験
プロドラッグを、80℃での1.0Mの重曹(pH=8.3)、食酢(5%酢酸、pH=2.5)、およびウォッカ(40%アルコール)、ならびに25℃での塩素および過酸化水素を含む、一般的改変条件に供する。最終インキュベーション混合物は、0.5mLの最終体積の改変媒質中に10μMの試験化合物を含む。プロドラッグを加えて、インキュベーションを開始する。0、30、および60分で、0.05mLの一定分量をインキュベーション混合物から取り出し、0.15mLのメタノールでクエンチし、氷上に置く。分析用に一定分量を取り出す。プロドラッグおよび親薬物の両方の濃度をLC-MS/MSで分析し、プロドラッグの安定性を比較する。
【0116】
実施例4-ヒトカルボキシルエステラーゼおよびリパーゼ中の安定性試験
プロドラッグを、ヒト組換えカルボキシルエステラーゼ1b、ヒト組換えカルボキシルエステラーゼ1c、およびヒト組換えカルボキシルエステラーゼ2を含む組換えヒトカルボキシルエステラーゼ混合物中で試験する。プロドラッグはまた、組換えヒト膵リパーゼ中でも試験する。カルボキシルエステラーゼおよびリパーゼ中の加水分解速度により、生物学的条件下でのプロドラッグの安定性の順位付けが可能となる。
【0117】
最終インキュベーション混合物は、1.0mLの最終体積の0.1Mのリン酸カリウム緩衝液(pH=6.0)中の1μMの試験化合物および0.1mg/mLのヒト組換えカルボキシルエステラーゼまたはリパーゼを含む。酵素活性の阻害を防ぐためのインキュベーション中のDMSOの最終パーセンテージは1.0%以下である。37℃でのプレインキュベーション後に、試験品を加えて、反応を開始する。0、30、および60分で、0.02mLの一定分量をインキュベーションから取り出し、0.18mLの新しく作製した0.01%(v/v)のリン酸を含む、水中6Nのグアニジニウム塩酸溶液の添加によりクエンチする。次に、混合物を7500g、4℃で10分間遠心分離し、上清をLC-MS/MSを用いて分析する。プロドラッグの残留および親薬物の形成パーセンテージが記録される。
【0118】
実施例5-ヒト血漿中の安定性試験
選択したプロドラッグをヒト血漿中で試験し、それらの安定性を評価する。最終インキュベーション混合物は、1.0mLの最終体積のヒト血漿中に1μMの試験化合物を含む。酵素活性の阻害を防ぐためのインキュベーション中のDMSOの最終パーセンテージは1.0%以下である。37℃でのプレインキュベーション後に、試験品を加えて、反応を開始する。0、30、および60分で、0.02mLの一定分量をインキュベーションから取り出し、0.18mLの新しく作製した0.01%(v/v)のリン酸を含む、水中6Nのグアニジニウム塩酸溶液の添加によりクエンチする。次に、混合物を7500g、4℃で10分間遠心分離し、上清をLC-MS/MSを用いて分析する。プロドラッグの残留および親薬物の形成パーセンテージが記録される。
【0119】
実施例6-ラットにおける薬物動態学的試験
基本手順:1.8gのプロドラッグを50mlのガラスバイアルに加えることにより、オピオイドエステルプロドラッグ配合物を作製して、180mg/mlの懸濁液を得る。固形物に、30mlの注射ビークル(リン酸緩衝食塩水(PBS)pH7中の2~3%のCMC、0.2%のポリソルベート20)を加える。得られた混合物を10分間超音波処理し、静置する。投与の前に、バイアルの内容物を均一な凝集塊不含懸濁液が得られるまで振盪する。
【0120】
12匹の体重が約250gの雄スプラーグドーリーラットをこの試験で使用する。エステルプロドラッグ(180mg)の単回の筋肉注射をラットに投与する。投与の0(投与前)、0.5、1、2、4、8、12および24日後に血液試料を集める。凝血活性化因子を含む商業的に入手できるプラスチックチューブを用いて、血液を収集する。収集後、10分以内に、血液を2,500gで10分間遠心分離する。血漿を分離し、LC-MS/MSによる分析を行うまで、-18℃で凍結する。プロドラッグおよびその対応する親薬物の両方が分析される。試験品の薬物動態学的パラメーター(AUC、Tmax、Cmax、T1/2、など)を対比して、プロドラッグの特性をそれらの親薬物と比較する。
【0121】
化合物2、3、および7の薬物動態学的試験。3種の化合物(化合物2、3および7)に対し、ラットの薬物動態学的試験を実施した。ゴマ油(化合物2、100mg当量/mL)または水性懸濁液(化合物3および7、それぞれ100mg当量/mLおよび60mg当量/mL)中で配合物を作製した。投与量の「当量」は、それぞれの親薬物、例えば、この実施例では、オキシモルホンまたはヒドロモルホンの等価投与量を意味する。ゴマ油配合物は、1.2%のベンジルアルコールを含む。2%のCMCおよび0.2%のツイーン80を含むPBS緩衝液中の懸濁配合物を作製した。懸濁状態の試験化合物の粒径を10ミクロン未満に保持した。スプラーグドーリーラットへの投与前に、油および懸濁液配合物の両方を電子ビームにより殺菌した。
【0122】
約250gの体重の12匹の雄スプラーグドーリーラットを無作為に3つの群に分割した。試験に入る前に、ラットを少なくとも5日間、ケージに収容し、その期間は、標準的ペレットおよび水に対して自由に利用可能にした。後肢への筋肉注射により、配合物(0.05mL)をラットに投与した。血液(0.10mL)を個々の尾静脈穿刺により、次記の時点でサンプリングした:投与後0.5、2、8時間目、1、3、6、13、27日目。血液をK2EDTAコートチューブに収集し、4℃、2000gで10分間遠心分離し、血漿を得た。血漿(0.05mL)を直ちに、50ng/mLのISTD(テルフェナジンおよびブスピロン)を含む100uLのメタノール/アセトニトリル(1:1)でクエンチした。混合物を1分間ボルテックスし、4000rpmで15分間遠心分離した。上清を注射用に、水中0.1%FAで2倍に希釈した。プロドラッグおよび薬物の両方をAB Sciex API 5500のLC-MS/MSを用いて分析した。薬物動態学的パラメーターを計算し、以下のように報告した。
【0123】
表2Aおよび2Bは、化合物2のPK試験で観察および/または計算された薬物動態学的データをまとめたものである。表2Aは、プロドラッグ化合物2のPKプロファイルを示し、表2Bは、この試験で化合物2の筋肉注射から観察された親薬物オキシモルホンのPKプロファイルを示す。
図1Aおよび1BのPKグラフも参照されたい。
【表2】
【表3】
【0124】
表3Aおよび3Bは、化合物3のPK試験で観察および/または計算された薬物動態学的データをまとめたものである。表3Aは、プロドラッグ化合物3のPKプロファイルを示し、表3Bは、この試験で化合物3の筋肉注射から観察された親薬物オキシモルホンのPKプロファイルを示す。
図2Aおよび2BのPKグラフも参照されたい。
【表4】
【表5】
【0125】
表4Aおよび4Bは、化合物7のPK試験で観察および/または計算された薬物動態学的データをまとめたものである。表4Aは、プロドラッグ化合物7のPKプロファイルを示し、表4Bは、この試験で化合物7の筋肉注射から観察された親薬物ヒドロモルホンのPKプロファイルを示す。
図3Aおよび3BのPKグラフも参照されたい。
【表6】
【表7】
【0126】
発明の概要および要約セクションを除く、詳細説明セクションは、特許請求の範囲を解釈するために使用されることが意図されていることは理解されるべきである。発明の概要および要約セクションは、本発明の全てではなく、1つまたは複数の本発明により意図されている例示的実施形態を記載し得るものであり、従って、本発明および添付特許請求の範囲を多少なりとも限定する意図はない。
【0127】
本発明は、特定機能の実施態様およびそれらの関連性を例示する機能的構成単位を使用してこれまで記載されてきた。これらの機能的構成単位の境界は、説明の便宜のために本明細書で適宜定義されている。別の境界は、特定の機能およびそれらの関連性が適切に実施される限り、定義できる。
【0128】
類として記載された本発明の態様に関しては、全ての個別の種は、個々に本発明の別々の態様と見なされる。本発明の態様が、特徴を「含む(comprising)」として記載される場合、実施形態もまた、特徴「からなる(consisting of)」または特徴「から本質的になる(consisting essentially of)」ことが意図されている。
【0129】
前述の特定の実施形態の記載は、当該技術の範囲内の知識を適用することにより、他者が、過度の実験をすることなく、また本発明の一般的概念から逸脱することなく、様々な用途に向けてこのような特定の実施形態を容易に修正および/または適合させることができるという本発明の一般的性質を完全に明らかにしている。従って、このような適合および修正は、本明細書で提示された教示および手引きに基づいて、開示された実施形態の等価物の意味および範囲に入ることが意図されている。本明細書の用語または表現が教示および手引きを考慮して当業者により解釈され得るように、本明細書の表現または用語は、説明を目的とし、限定を目的とするものではないことを理解されたい。
【0130】
本発明の広がりと範囲は、上述した例示的実施形態によって限定されるべきではなく、次の特許請求の範囲およびそれらの等価物によってのみ定められるべきものである。
【0131】
本明細書で記載の種々の外観、実施形態、および選択肢の全ては、いずれかのおよび全ての変種の形態で組み合わせることができる。
【0132】
本明細書で挙げた刊行物、特許および特許出願はすべて、個々の刊行物、特許および特許出願のそれぞれがあたかも具体的に、個別に参照により組み込まれることが示されているのと同程度に、参照により本明細書に組み込まれる。本文書における用語のいずれかの意味または定義が、参照により組み込まれた文献中の同一の用語のいずれかの意味または定義と矛盾する場合には、本文書でその用語に与えられた定義または意味が優先されるものとする。