(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-18
(45)【発行日】2023-10-26
(54)【発明の名称】エポキシ化触媒を調製するためのプロセス
(51)【国際特許分類】
B01J 23/50 20060101AFI20231019BHJP
B01J 37/08 20060101ALI20231019BHJP
B01J 37/02 20060101ALI20231019BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20231019BHJP
【FI】
B01J23/50 Z
B01J37/08
B01J37/02 101C
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2020532044
(86)(22)【出願日】2018-11-30
(86)【国際出願番号】 US2018063193
(87)【国際公開番号】W WO2019133174
(87)【国際公開日】2019-07-04
【審査請求日】2021-11-18
(32)【優先日】2017-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】508168701
【氏名又は名称】ダウ テクノロジー インベストメンツ リミティド ライアビリティー カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100095360
【氏名又は名称】片山 英二
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】グロール、ダニエル
(72)【発明者】
【氏名】スルナック、トーマス ゼッド.
(72)【発明者】
【氏名】ツェ―、キャシー エル.
(72)【発明者】
【氏名】アテネ、ジョージ エル.
(72)【発明者】
【氏名】エッセンマッチャー、カイル アール.
(72)【発明者】
【氏名】シーボルト、ゲイリー エム.
(72)【発明者】
【氏名】ムンロ、ティム ディー.
【審査官】佐藤 慶明
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-319996(JP,A)
【文献】特開平10-237684(JP,A)
【文献】特表2015-501203(JP,A)
【文献】米国特許第03563913(US,A)
【文献】特表2014-532552(JP,A)
【文献】特表2019-529079(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 - 38/74
C07B 61/00
C07D 301/00 - 305/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレンをエチレンオキシド(EO)に酸化するのに好適な銀含有触媒を調製するためのプロセスであって、
(a)細孔を有する支持体を提供するステップと、
(b)銀含有含浸溶液を提供するステップと、
(c)ある量の界面活性剤を前記含浸溶液に添加し、界面活性剤含有含浸溶液を形成するステップであって、前記界面活性剤が、前記含浸溶液中の銀の0.4重量%~4.0重量%の量で前記含浸溶液に添加される、ステップと、
(d)ステップ(c)の後に、前記支持体を前記界面活性剤含有含浸溶液と接触させるステップと、
(e)前記細孔内に含有されていない界面活性剤含有含浸溶液を優先的に除去する様式で、前記銀を
前記支持体上に固定する前に、前記界面活性剤含有含浸溶液の少なくとも一部分を除去するステップと、を含む、プロセス。
【請求項2】
以下の追加のステップ、
(f)ステップ(e)の後、ステップ(d)の含浸された支持体を、少なくとも1回焙煎するステップを更に含む、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記優先的除去ステップ(e)が、遠心分離機を使用して実行される、請求項1に記載のプロセス。
【請求項4】
前記含浸ステップ(d)が、2回以上実行されるか、または前記除去ステップ(e)が、2回以上かつ2つ以上の異なる処理条件下で実行される、請求項1に記載のプロセス。
【請求項5】
前記支持体が、第1の細孔径範囲を有する第1のセットの支持孔と、第2の細孔径範囲を有する少なくとも第2のセットの支持孔とを有し、前記第2の細孔径範囲が、前記第1の細孔径範囲より小さく、前記除去ステップ(d)が、前記支持体の前記少なくとも第2のセットの細孔に含有される界面活性剤含有含浸溶液と比較して、前記支持体の前記第1のセットの支持孔に含有される界面活性剤含有含浸溶液を遠心分離ステップにより優先的に除去する、
請求項1に記載のプロセス。
【請求項6】
前記支持体が、多孔性多峰
性触媒支持体である、請求項5に記載のプロセス。
【請求項7】
前記支持体の第1のセットの支持孔の第1の細孔径範囲が、3ミクロン~200ミクロンであり、前記支持体の第2のセットの支持孔の第2の細孔径範囲が、0.01ミクロン~3ミクロンである、請求項5または6に記載のプロセス。
【請求項8】
前記界面活性剤が、ノニルフェノールエトキシレート、アルキルポリグルコシド、リン酸エステル、第二級アルコールアルコキシレート、アルキルフェニルオキシドジスルホン酸塩、低泡性界面活性剤、スルフェート、またはスルホネートのうちの1種以上である、請求項1に記載のプロセス。
【請求項9】
前記含浸溶液が、1種以上の促進剤を更に含む、請求項1に記載のプロセス。
【請求項10】
前記支持体が、アルファ-アルミナを含む、請求項1に記載のプロセス。
【請求項11】
支持体の総重量に基づいて、少なくとも10重量パーセントの銀充填量が、前記支持体に提供される、請求項1に記載のプロセス。
【請求項12】
エチレンをエチレンオキシドにエポキシ化するためのプロセスであって、請求項1に記載のプロセスに従って生成されたエポキシ化触媒の存在下でエチレンと酸素とを接触させることを含む、プロセス。
【請求項13】
1,2-ジオール、1,2-ジオールエーテル、1,2-カーボネート、またはアルカノールアミンを調製するためのプロセスであって、請求項12に記載のプロセスによって調製されたエチレンオキシドを、前記1,2-ジオール、1,2-ジオールエーテル、1,2-カーボネート、またはアルカノールアミンに変換することを含む、プロセス。
【請求項14】
前記含浸溶液に、前記界面活性剤が前記含浸溶液の重量に基づいて0.05
重量%から2重量%の量で添加される、請求項1に記載のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エポキシ化触媒を調製するためのプロセスに関する。より具体的には、本発明は、オレフィンエポキシ化反応に有用な銀含有触媒を調製するためのプロセスに関する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0002】
酸素の存在下および銀系触媒の存在下でのエチレンの触媒エポキシ化を介したエチレンオキシドの生成は、既知である。一般に、エポキシ化反応は、少なくともエチレンおよび酸素を含有する供給物を支持された銀含有触媒と接触させ、対応するエチレンオキシド(EO)の生成をもたらすステップを含む。EOを生成するために使用される市販の触媒は、アルミナ支持体上に担持された銀粒子を含むことが知られている。このような触媒は、典型的には、多孔性アルミナから作製された担体支持体を銀含有含浸溶液で含浸し、続いて、含浸された支持体を熱処理すること(「焙煎」と称されることもある)によって調製される。高い表面張力は、望ましくないことに、過剰の銀含浸溶液を、形成された担体ペレット材料の外面上に付着させる。
【0003】
支持体の外面上に存在する過剰の銀含浸溶液は、触媒調製に関連するコストおよび触媒性能の両方に関連するいくつかの望ましくない結果を引き起こす。触媒生成中、過剰の溶液の一部分は、含浸装置の下流の触媒処理装置内で失われる可能性があり、その結果、銀の損失、装置の汚損、および触媒生成プラントの信頼性と実行時間の低下をもたらす。触媒ペレットが、ガス流を触媒床または層に通過させることによって熱処理されるか焼ステップを利用して、触媒が作製される場合、触媒担体ペレットの外面上に過剰の含浸溶液が存在すると、特に問題になる可能性がある。触媒か焼ステップが、メッシュベルトを利用して行われる場合、過剰の溶液がベルトに移行し、銀の堆積物で開口部の閉塞をもたらす可能性がある。このような閉塞は、ガス流量の低減をもたらす可能性があり、か焼プロセスの品質および後続の最終触媒品質に潜在的に影響を及ぼし得る。結果として、このような汚損は、合成プロセスの停止および洗浄を必要とする。か焼プロセス中に除去されない多孔性アルミナ担体の表面に付着している含浸溶液は、アルミナ表面上で相対的に大きな銀粒子に凝集し得る。これらの銀の凝集体は表面積が小さく、触媒的に不活性になり、したがって、EOまたは他の生成のための触媒としては効果的でない。
【0004】
したがって、含浸プロセス中に担体に付着する過剰の銀含有溶液を低減させることが望ましいであろう。
【0005】
様々な界面活性剤の銀含浸溶液への添加によって、触媒合成中の担体外面からの溶液の排出が改善され得ることが見出された。結果として、EO触媒の合成に消費される銀含有溶液の量は、触媒性能を低下させることなく、最大15%削減された。改善は、ペンタリングなどのより複雑な担体形状で最も明白であるが、界面活性剤の含浸溶液への添加はまた、標準的なモノリング担体のようなより典型的な形状でも利益を生み出す。
【0006】
加えて、界面活性剤の使用は、銀の外面の凝集が低減したEO触媒を供給することができ、か焼後の触媒の取り扱いは、粉塵や破片の形成を低減させることによって、簡素化され得る。触媒装填中および触媒プロセス中の粉塵の発生は、圧力低下を増加させることが知られているため、界面活性剤の使用は、EO触媒プロセスにおける銀の利用を更に改善し得、反応器チューブシート全域にわたるより一貫した圧力低下、およびより短いプラントのターンアラウンドタイムによりプラント性能の改善ももたらし得る。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施形態は、エチレンをエチレンオキシド(EO)に酸化するための銀含有触媒を調製するためのプロセスであって、
(a)細孔を有する支持体を提供するステップと、
(b)銀含有含浸溶液を提供するステップと、
(c)ある量の界面活性剤を含浸溶液に添加するステップと、
(d)支持体を界面活性剤含有含浸溶液と接触させるステップと、
(e)細孔内に含有されていない含浸溶液を優先的に除去する様式で、後続の触媒調製ステップの前に、銀含浸溶液の少なくとも一部分を除去するステップと、を含む、プロセスに関する。
【0008】
別の実施形態において、銀含有触媒を調製するためのプロセスは、以下の追加のステップ、
(f)オレフィンをエポキシ化するのに有用な銀含有触媒を形成するのに十分な時間および温度で、ステップ(e)の含浸された触媒支持部材を、少なくとも1回焙煎(例えば、か焼)するステップを更に含み得る。
【0009】
別の実施形態において、ステップ(e)における過剰の銀溶液の選択的除去手段は、単純に含浸された触媒支持部材を重力を使用して廃液させることを含み得る。
【0010】
更に別の実施形態において、ステップ(e)における選択的除去手段は、含浸された触媒支持部材を遠心分離して、支持孔に含有されていない含浸溶液の少なくとも一部分を除去するための遠心分離機を含み得る。
【0011】
任意の一実施形態において、含浸ステップ(d)および/または除去ステップ(e)は、触媒支持部材内に含有される銀含浸溶液を更に除去するのに十分な時間、少なくとももう1回繰り返され得る。
【0012】
更なる実施形態において、除去ステップ(e)は、焙煎ステップ(f)の前に少なくとも2回実行され得る。除去ステップ(e)は、銀溶液を外面から除去し、焙煎後に、触媒支持体の細孔内でより均等に分布した銀の粒径を有する支持体を提供するのに十分な遠心力および時間で有利に実行される。
【0013】
更に他の実施形態において、上記のステップ(a)~(f)のうちの任意の1つ以上は、任意に、触媒支持体の細孔内に堆積される銀の量を制御するのに、必要に応じて、十分なだけ何度も繰り返され得る。
【0014】
更に別の実施形態において、支持体は、第1のサイズ範囲を有する第1のセットの支持孔と、第2のサイズ範囲を有する少なくとも第2のセットの支持孔とを有し、第2のサイズ範囲は、第1のサイズ範囲より小さく、除去ステップ(e)は、多孔性多峰性触媒支持体の少なくとも第2のセットの細孔に含有される銀含浸溶液と比較して、多孔性多峰性触媒支持体の第1のセットの支持孔に含有される銀含浸溶液を優先的に除去する。
【0015】
本発明のプロセスによって調製される、エチレンオキシド触媒でエチレンおよび酸素を含む供給物からエチレンオキシドを生成するための反応系もまた、本出願において提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図面は、本発明の非限定的な実施形態を示す。
【0017】
【
図1】過剰の銀含浸溶液を支持体から排出させることを可能にする際の、1重量%で添加された様々な界面活性剤の有効性を示すグラフ表示である。
【
図2】EO触媒の合成に使用される銀含浸溶液の量および金属銀の量を低減させる際の、様々な界面活性剤の有効性を示すグラフ表示である。
【
図3】過剰の銀含浸溶液を支持体から排出させることを可能にする際の、0.1重量%で添加された様々な界面活性剤の有効性を示すグラフ表示である。
【
図4】EO触媒の合成に使用される銀含浸溶液および金属銀の量を低減させる際の、様々な界面活性剤の有効性を示すグラフ表示である。
【
図5】1.0重量%の様々な界面活性剤を使用して調製された触媒の性能のグラフ表示である。
【
図6】0.1重量%の様々な界面活性剤を使用して調製された触媒の性能のグラフ表示である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本明細書において、「触媒」は、化学反応の速度を増加させる物質を意味する。
【0019】
エポキシ化反応において、エチレンは、反応器内で担持された銀含有触媒の存在下で、酸素または酸素含有ガスと反応して、エチレンオキシドを形成する。エポキシ化反応は、エポキシ化反応の「活性」、「選択性」、および/または「生産性」に関して特徴付けることができる。
【0020】
例えば、「効率」と同義であるエポキシ化反応の「選択性」は、対応するエチレンオキシド生成物を形成する、変換または反応されたエチレンの(分数としてのまたはパーセントでの)相対量を指す。「効率」および「選択性」という用語は、本明細書において互換的に使用される。例えば、「エチレンオキシドに対する効率」は、エチレンオキシドを形成する、変換または反応されたエチレンのモル基準でのパーセンテージを指す。エチレンオキシドの「収率」は、本プロセスによって生成されたエチレンオキシドの正味のモル数を、任意の所与の期間中に本プロセスに供給されたエチレンの正味のモル数で割ったものを指す。
【0021】
例えば、固定床反応器内の触媒の「活性」は一般に、反応器内の触媒容積の単位当たりの所望の生成物に対する反応速度として定義される。活性は、触媒上の利用可能な活性部位の総数および各部位の反応速度の両方に関する。
【0022】
加えて、エポキシ化反応の「活性」は、いくつかの方法で定量化することができ、その1つの方法は、反応器の入口流に含有されるエチレンオキシドに対する、反応器の出口流に含有されるエチレンオキシドのモルパーセントである(入口流のオレフィンオキシドのモルパーセントは、典型的には、ゼロパーセントに接近するが、必ずしもそうではない)一方で、反応器の温度は、実質的に一定に維持され、別の方法は、エチレンオキシドの所与の生成速度を維持するのに必要とされる温度である。いくつかの場合、活性は、特定の一定温度で生成されるエチレンオキシドのモルパーセントに関して、ある期間にわたって測定される。あるいは、エポキシ化反応の「活性」は、供給物中の圧力および総モルなどの他の条件を考慮して、特定の速度でエチレンオキシドの生成を持続させるのに必要とされる温度の関数として測定され得る。
【0023】
「促進剤」は、時に「阻害剤」または「調節剤」と称され、エチレンオキシドの所望の形成に対する速度を増加させること、および/またはエチレンオキシドの所望の形成と比較して、エチレンまたはエチレンオキシドの二酸化炭素および水への望ましくない酸化を抑制することによって、触媒の性能を増強する材料を指す。
【0024】
「反応温度」、「エポキシ化温度」、または「エポキシ化反応温度」という用語は、反応器の触媒床温度を直接的または間接的に示す任意の選択された温度(複数可)を指す。特定の実施形態において、反応温度は、触媒床内の特定の位置における触媒床温度であり得る。他の実施形態において、反応温度は、1つ以上の触媒床の寸法に沿って(例えば、長さに沿って)行われたいくつかの触媒床温度測定値の数値平均であり得る。更なる実施形態において、反応温度は、反応器出口のガス温度であり得る。更なる実施形態において、反応温度は、反応器入口または出口の冷却剤温度であり得る。
【0025】
本明細書で使用される場合、「反応生成物」という用語は、未反応供給物成分、および化学反応の結果として生成される成分の両方を含む。例えば、エチレンオキシドの生成プロセスにおいて、「反応生成物」は、エチレンオキシド生成物、ならびに存在する場合、任意の副生成物(二酸化炭素など)および/または未反応供給物成分(例えば、エチレン、酸素、および/または塩化物)を含む。
【0026】
本明細書において、「銀充填量」は、か焼された触媒に基づく、銀である触媒の重量パーセントまたは重量分率を意味する。銀充填量は、蛍光X線、滴定、または当業者にとって既知である他の手段(中性子放射化分析、NAA)によって決定することができる。
【0027】
本明細書において、「銀粒径」は、動的パルスCO化学吸着法、走査型電子顕微鏡(SEM)、または当業者にとって既知である他の手段によって測定される、ナノメートルでの平均粒径を指す。
【0028】
動的パルスCO化学吸着法は、さらされた銀部位の決定を可能にし、CO
2を生成する酸化銀表面上でのCOの反応に基づいている。CO滴定実験からの平均粒径は、以下の式によって決定することができる。
【数1】
式中、σ
Agは、銀原子の平均原子表面密度であり、ρ
Agは、銀の密度であり、N
Aは、アボガドロ数であり、n
Agは、試料上に存在する銀原子のモル数であり、n
CO2は、生成されたCO
2の総モル数である。表面原子と吸着ガスとの間の化学量論は、1に等しいと考えられる。
【0029】
本明細書において、触媒支持体に関する「多峰性細孔径分布」とは、細孔径が、当業者にとって既知である方法(水銀圧入法など)によって決定される少なくとも2つの異なる様式を有する連続確率分布である、支持体を意味する。
【0030】
本明細書において、触媒支持体に関する「二峰性細孔径分布」は、2つの異なる様式を有する細孔の細孔径の連続確率分布を意味する。
【0031】
本明細書において、粒径に関する「制御する」または「制御すること」という用語は、含浸手段、か焼手段、および選択的除去手段と組み合わせて、主に含浸溶液中の銀濃度を使用して、所望の粒径の銀粒子を提供することを意味する。
【0032】
本発明の一実施形態は、エチレンをエチレンオキシド(EO)に酸化するための銀含有触媒を調製するためのプロセスであって、
(a)細孔を有する支持体を提供するステップと、
(b)銀含有含浸溶液を提供するステップと、
(c)ある量の界面活性剤を含浸溶液に添加するステップと、
(d)支持体を界面活性剤含有含浸溶液と接触させるステップと、
(e)細孔内に含有されていない含浸溶液を優先的に除去する様式で、銀を担体上に固定する前に、含浸溶液の少なくとも一部分を除去するステップと、を含む、プロセスに関する。
【0033】
各実施形態について、界面活性剤は、含浸溶液がその他の方法で完了された後に界面活性剤を添加する好ましい実施形態を含む、含浸溶液の調製の任意の段階で添加され得ることを理解されたい。
【0034】
本発明の得られた銀系触媒は、他の潜在的な用途の中でも、エチレンをエポキシ化して、エチレンオキシドを形成するのに有用である。
【0035】
銀系触媒を調製するための本発明の広範な一般的手順は、少なくとも以下のステップ:多孔性支持部材を含浸させるのに有用な銀含有成分(複数可)を含む含浸溶液を調製するステップと、支持部材を調製された含浸溶液と接触させ、含浸させるステップと、次いで、含浸された含浸溶液の少なくとも一部分を、支持体の細孔に入っていない溶液を優先的に除去する様式で支持体から除去するステップと、を含む。
【0036】
好ましい一実施形態において、本発明のプロセスは、例えば、5つのステップのプロセスを含んでもよく、
(a)細孔を有する支持体を提供するステップと、
(b)銀含有含浸溶液を提供するステップと、
(c)ある量の界面活性剤を含浸溶液に添加するステップと、
(d)支持体を界面活性剤含有含浸溶液と接触させるステップと、
(e)細孔内に含有されていない含浸溶液を優先的に除去する様式で、銀を担体上に固定する前に、含浸溶液の少なくとも一部分を除去するステップと、
(f)ステップ(e)の多孔性触媒支持部材を焙煎(例えば、か焼)して、銀含有溶液成分を金属銀に化学的に還元し、多孔性触媒支持部材の内面および外面上に堆積させて、触媒を形成するステップと、を含む。
【0037】
他の実施形態において、本発明のプロセスは、1回の含浸ステップまたは一連の2回以上の含浸ステップを含み得る。その後、含浸ステップからの含浸された支持体を、遠心分離ステップ、その後のか焼ステップなどの除去手段によって処理しても、または除去手段に供してもよい。本発明のプロセスのうちの含浸、遠心分離、または焙煎ステップのいずれも、1回または必要に応じて実行され得、いくつかの実施形態において、ステップのうちのいずれかもしくは全ては、2回以上実行され得る。
【0038】
本発明のプロセスの別の実施形態において、触媒は、一連の直列の第1の含浸ステップ、第1の遠心分離ステップ、および第1のか焼ステップ、続いて、一連の直列の第2の含浸ステップ、第2の遠心分離ステップ、および第2のか焼ステップに供される。このようなステップは、複数回繰り返され得る。プロセスの結果として、触媒は、本質的に一連の含浸、遠心分離、およびか焼ステップを2回以上受けて、触媒生成物を生成する。
【0039】
更に別の実施形態において、オレフィンのエポキシ化のための銀含有触媒を調製するための本発明のプロセスは、以下のステップ:
(a)少なくとも2つの様式の細孔径分布を有する多孔性多峰性支持体を提供するステップと、
(b)多孔性多峰性支持体の細孔に含浸させるための、界面活性剤を含有し、銀を含有する含浸溶液を提供するステップと、
(c)多孔性多峰性支持体にステップ(b)の含浸溶液を含浸させて、第1の量の含浸溶液を有する多孔性多峰性支持体を提供するステップと、
(d)含浸された銀含有溶液を多孔性多峰性支持体から遠心分離するステップと、
(e)ステップ(d)の含浸された多孔性多峰性支持体を焙煎するステップと、
(f)多孔性多峰性支持体にステップ(b)の含浸溶液または異なる含浸溶液を含浸させて、多孔性多峰性支持体に第2の量の含浸溶液を提供するステップと、
(g)銀含有含浸溶液をステップ(f)の多孔性多峰性支持体から遠心分離して、多孔性多峰性支持体に支持孔内に残っている第3の量の含浸溶液を提供するステップと、
(h)オレフィンをエポキシ化するのに有用な銀含有触媒を形成するのに十分な時間および温度で、ステップ(g)の含浸された多孔性多峰性支持体を焙煎するステップであって、遠心分離ステップ(d)および(g)が、異なる遠心分離条件下で実行される、焙煎するステップと、を含み得る。
【0040】
更に別の実施形態において、含浸され遠心分離された触媒は、2回の連続したか焼ステップ、すなわち、第1のか焼ステップに順次続いて同じ温度または異なる温度での第2のか焼ステップに供されて、触媒生成物を提供し得る。同様に、上記のステップ(e)および(h)におけるか焼ステップは、異なる温度、ガス流、および/またはガス組成を利用し得る。
【0041】
上記の実施形態のいずれかにおいて、溶液除去の程度は、支持体の外面上に存在する含浸された界面活性剤および銀含有溶液の少なくとも40パーセント(%)、少なくとも50%、少なくとも70%、または少なくとも90%を除去し得る。更に、多峰性細孔を有する実施形態において、表面および第1の(すなわち、より大きい)セットの細孔からの溶液除去の程度は、少なくとも20%、30%、50%または80%であり得る。更に別の実施形態において、多孔性多峰性支持体の外面上および少なくとも第1のセットの支持孔内に存在する界面活性剤および銀含有含浸溶液の最大100%が、除去され得る。
【0042】
本発明に従って触媒を調製するためのプロセスは、含浸溶液に含浸されることになる多孔性支持体(「支持体」としても知られる)を提供する第1のステップから始まる。本明細書に記載される触媒調製プロセスは、二峰性支持体などの多峰性細孔径分布を有するものを含む、様々な種類の支持体、および含浸技法を介して調製される他の触媒に適用され得る。多峰性支持体は、少なくとも2つの異なる細孔様式を有する支持体を含む。一般に、本発明の多孔性多峰性支持体は、第1のサイズ範囲の少なくとも第1のセットの支持孔と、第2のサイズ範囲の少なくとも第2のセットの支持孔とを有することができ、第2のセットの支持孔の第2のサイズ範囲は、第1のセットの支持孔の第1のサイズ範囲よりも小さい。一般に、支持体内の細孔径は、0.01μm~100μmの範囲である。
【0043】
少なくとも2つの異なる細孔径の範囲を有する細孔を有する多孔性支持体について、第1のセット(すなわち、より大きい細孔径を有するセット)の細孔径は、有利なことには、一実施形態において約3μm~約100μm、別の実施形態において約5μm~約50μmの範囲であってもよく、第2のセットの支持孔は、一実施形態において約0.01μm~約3μm、別の実施形態において約0.01μm~約1μmの範囲であってもよい。
【0044】
選択される多孔性耐火性材料が、化学物質の存在下で、かつ支持体が利用される用途で用いられる処理条件において、相対的に不活性であるか、有益な様式で作用する限り、支持体は、あらゆる既知の多孔性耐熱性構造または支持材料を含み得る。
【0045】
支持体は、例えば、炭化ケイ素、粘土、軽石、ゼオライト、木炭、およびアルカリ土類金属炭酸塩(炭酸カルシウムなど)などの天然または人工の無機支持材料、ならびにこれらの混合物を含む、広範囲の支持材料から選択され得る。他の実施形態は、アルミナ、マグネシア、ジルコニア、およびシリカ、ならびにそれらの混合物などの耐熱性支持材料を含み得る。好ましい一実施形態において、支持体材料は、アルファ-アルミナであり得る。例示的な一実施形態において、銀は、アルファアルミナ触媒支持体上に堆積され、任意に、1種以上の促進剤もまた触媒上に堆積され得る。
【0046】
支持体に使用される材料は、結合剤と共にまたは結合剤なしで使用され得る。結合剤は、使用される場合、例えば、無機の種類の材料であり得る。
【0047】
一般に、多孔性支持体は、周知の方法で調製される。例えば、アルケンオキシド触媒中での使用に好適な支持体を調製するためのいくつかの周知の方法は、参照により本明細書に組み込まれる、WO2013/148417A1、ならびに米国特許第4,379,134号、同第4,806,518号、同第5,063,195号、同第5,384,302号、および同第6,831,037号に記載されている。
【0048】
例えば、少なくとも95%の純度のアルファ-アルミナ支持体は、原材料を配合(混合)し、押し出し、乾燥させ、高温か焼することによって調製され得る。この場合、出発原材料は、通常、異なる特性を有する1つ以上のアルファ-アルミナ粉末(複数可)、物理的強度をもたらすための結合剤として添加され得る粘土型の材料、ならびにか焼ステップ中にそれを除去した後に所望の多孔性および/または細孔径分布をもたらすために混合物中に使用される熱焼材料(通常、有機化合物)を含む。最終支持体内の不純物のレベルは、使用される原材料の純度、およびか焼ステップ中のそれらの揮発度によって決定される。一般的な不純物としては、シリカ、アルカリおよびアルカリ土類金属酸化物、ならびに微量の金属および/または非金属含有添加剤を挙げることができる。
【0049】
アルミナは、非常に高純度グレードのもの、すなわち、少なくとも98重量パーセント(percent by weight)または重量パーセント(weight percent)(重量%)のアルファ-アルミナであり得、任意の残りの成分は、シリカ、アルカリ金属酸化物(例えば、酸化ナトリウム)、ならびに微量の他の金属含有および/または非金属含有添加剤または不純物であり得る。同様に、アルミナは、より低い純度のもの、すなわち、80重量%のアルファ-アルミナであり、残りは、非晶質および/または結晶質アルミナ、ならびに他のアルミナ酸化物、シリカ、シリカアルミナ、ムライト、様々なアルカリ金属酸化物(例えば、酸化カリウムおよび酸化セシウム)、アルカリ土類金属酸化物、遷移金属酸化物(例えば、酸化鉄および酸化チタン)、ならびに他の金属および非金属酸化物のうちの1つ以上であり得る。加えて、支持体を作製するために使用される材料は、意図される反応のための促進剤、例えばレニウム(レナートなど)およびモリブデンを含み得る。
【0050】
アルファ-アルミナ支持体は、一実施形態において少なくとも0.3立方センチメートル/グラム(cm3/g)、および別の実施形態において約0.4cm3/g~約2.0cm3/gの細孔容積を有してもよく、細孔径は、約0.1ミクロン~約50ミクロンの範囲であり得る。
【0051】
アルファ-アルミナ支持体は、一実施形態において少なくとも約0.5平方メートル/グラム(m2/g)、および別の実施形態において少なくとも約0.7m2/gの比表面積を有し得る。アルファ-アルミナ支持体の表面積は、一実施形態において約10m2/g未満、および別の実施形態において約5m2/g未満であり得る。
【0052】
本発明において有用なアルファ-アルミナ支持体は、任意の好適な形状のものであり得る。支持体の例示的な形状としては、ボール、塊状物、平板、小片、ペレット、リング、球体、ワゴンホイール、ならびに星型の内面および/または外面を有する環状体などが挙げられる。
【0053】
支持体は、反応器内で用いるのに好適な任意のサイズのものであり得る。例えば、触媒で充填された、1インチ~3インチ(2.5cm~7.5cm)の外径および15フィート~45フィート(4.5m~13.5m)の長さの(好適な外殻内に)複数の平行な細長いチューブを有する、固定床エチレンオキシド反応器内では、球体、ペレット、リング、十字分割リング、ペンタリング、および平板などの形状を有し、0.1インチ(0.25cm)~0.8インチ(2cm)の直径を有するアルファアルミナ支持体を用いることが望ましい。
【0054】
本発明において有用な含浸溶液は、液体媒体中のナノ粒子の任意の懸濁液であり得、したがって、懸濁液は、支持体の外面に付着している液体の低減または除去から利益を得るであろう。好ましい含浸溶液としては、銀含有含浸溶液が挙げられる。一実施形態において、銀および他の金属(銅または金など)を含み得る二金属系を使用してもよいが、典型的には、銀のみが支持体に含浸される。支持体に含浸させるのに使用される銀含浸溶液は、参照により本明細書に組み込まれる、米国特許第5,187,140号に開示されている溶媒または錯化剤/可溶化剤などの含浸培地中に銀成分を含む。
【0055】
本発明において用いられる特定の銀成分は、例えば、銀錯体、硝酸塩、酸化銀またはカルボン酸銀(酢酸銀など)、シュウ酸塩、クエン酸塩、フタル酸塩、乳酸塩、プロピオン酸塩、酪酸塩、および高級脂肪酸塩、ならびにそれらの混合物の中から選択され得る。別の実施形態において、アミンと錯体化した酸化銀は、本発明の実施に使用することができる銀の形態であり得る。
【0056】
含浸媒体または溶液中で上記の好ましい銀成分を含むナノ粒子を所望の濃度まで可溶化するために、幅広い種類の溶媒または錯化剤/可溶化剤が用いられ得る。溶媒または錯化剤/可溶化剤が、含浸溶液中で銀成分を所望の濃度まで可溶化することができ、溶媒または錯化剤/可溶化剤が、触媒の性能特性に悪影響を及ぼさない限り、溶媒は、当該技術分野において既知である任意の従来の溶媒または任意の錯化剤/可溶化剤であり得る。この目的に好適な溶媒または錯化剤/可溶化剤の中には、例えば、(米国特許第2,477,436号および同第3,501,417号に開示される)乳酸、(米国特許第2,463,228号に開示される)アンモニア、(米国特許第2,825,701号および同第3,563,914号に開示される)エチレングリコールなどのアルコール、ならびに(米国特許第2,459,896号、同第3,563,914号、同第3,215,750号、同第3,702,259号、同第4,097,414号、同第4,374,260号、および同第4,321,206号に開示される)アミンおよびアミンの水溶性混合物を含めることができ、これらの全ては、参照により本明細書に組み込まれる。本発明の含浸溶液中には、上記の溶媒または錯化剤/可溶化剤のうちの2つ以上の組み合わせもまた使用され得る。
【0057】
本発明で使用するための界面活性剤は、銀含浸溶液と支持体表面との間の表面張力を低減させ得る任意の材料であり得、それは、後続の触媒製造処理ステップまたは最終触媒性能を過度に妨害しない。様々な用途に好適な周知の界面活性剤の種類の例として、ノニルフェノールエトキシレート、アルキルポリグルコシド、リン酸エステル、第二級アルコールアルコキシレート、アルキルフェニルオキシドジスルホン酸塩、低泡性界面活性剤、スルフェート、およびスルホネートが挙げられるが、これらに限定されない。本発明において有用であり得る市販の化合物としては、TERGITOL(商標)15S9、TERGITOL(商標)NP-9、TRITON(商標)CF-10、TRITON(商標)CF-32、TRITON(商標)CF-76、およびECOSURF(商標)LF 30(全ては、Dow Chemical Company製)、DYNOL(商標)604、およびSurfynol(登録商標)440(どちらも、Evonik Industries製)、ならびにENVIROGEM(登録商標)AD01(Air Products製)が挙げられる。
【0058】
2種以上の界面活性剤が一緒に使用され得ることもまた企図される。
【0059】
界面活性剤は、支持体の外面上および/またはより大きな細孔径を有する少なくとも第1のセットの細孔に残っている溶液の量を低減させる量で添加されるべきである。一般に、界面活性剤は、溶液の0.05重量%から、好ましくは0.1重量%から2重量%まで、より好ましくは1重量%までの量で添加されるべきであることが示唆される。界面活性剤の所望の量は、溶液中の銀(または他のナノ粒子)の濃度に依存し得る。銀含有溶液について、界面活性剤は、使用される単位銀あたり0.1重量%~8重量%、好ましくは約2重量%~6重量%の界面活性剤の量で添加されることが示唆される(例えば、溶液が26重量%の銀を含有する場合、次いで、溶液に添加される界面活性剤の推奨量は、約4重量%であり得る)。これらの推奨量よりも少ない界面活性剤の量は、界面活性剤を使用しない場合と比較して、望ましくない含浸溶液の除去を依然として改善するが、改善は少ないであろうと考えられる。これらの推奨量よりも多い界面活性剤の量も、望ましくない含浸溶液の除去を改善すると予測されるが、界面活性剤の量が増えると、その相対的有効性は、低下すると予測される。最も効果的な界面活性剤のパーセンテージの範囲は、異なる界面活性剤、使用される界面活性剤の組み合わせ、または含浸溶液組成によって異なることも予測される。一般に、支持体は、酸素または酸素含有ガスでのアルケンの、対応するアルケンオキシドへの直接酸化に触媒作用を及ぼすことができる量の銀を含有する含浸溶液で含浸される。このような触媒を作製する際、支持体は、典型的には、支持体上に所望の量の銀が堆積され得るように(1回以上)含浸され得る。
【0060】
一般に、銀含浸溶液中に溶解する銀成分の量は、1回の含浸当たりで最終触媒に最終的に提供される量よりも多い。例えば、Ag2Oは、シュウ酸およびエチレンジアミンの溶液中に、約30重量%程度まで溶解し得る。このような溶液を約0.7cc/gの多孔度のアルファアルミナ支持体上に真空含浸させると、触媒の総重量に基づいて約25重量%の銀を含有する触媒がもたらされる。したがって、約25重量%超、約30重量%超、またはそれ以上の銀充填量を有する触媒を得るためには、所望の量の銀が支持体上に堆積されるまで、支持体を、促進剤の有無に関わらず、少なくとも2回以上の銀溶液での連続した含浸に供する必要がある。2回以上の含浸を使用して、本発明の触媒を作製して、得られる触媒中で銀の所望の充填量を達成し得る。
【0061】
既知のように、含浸の回数、各含浸に使用される溶液の濃度、およびか焼条件は、得られる触媒中の銀の粒径を微調整するために使用され得る要因である。例えば、銀塩の濃度は、最初の含浸溶液中よりも、より後の含浸溶液中で高くあり得る。他の例において、各含浸ステップ中、ほぼ等しい濃度の銀が使用され得る。更なる例において、最初の含浸において、その後の含浸よりも高い濃度の銀が使用され得る。含浸の各々の後には、焙煎または銀を不溶性にするための他の手順を続けてもよい。
【0062】
界面活性剤に加えて、例えば、1種以上の促進剤、アルカリ金属、アルカリ土類金属、およびオキシアニオン、ならびにそれらの混合物を含む、様々な任意の化合物または添加剤が、含浸溶液に添加され得る。一実施形態において、促進剤は、触媒の調製中に触媒に導入される材料(例えば、本明細書において「触媒促進剤」とも呼ばれる固相促進剤)であり得る。別の代替の実施形態において、促進剤は、エポキシ化反応器供給物に導入されるガス(気相促進剤)であり得る。一例において、有機ハロゲン化物気相促進剤が、エポキシ化反応器供給物に連続的に添加されて、触媒効率/選択性を増加させ得る。銀系エチレンエポキシ化触媒について、典型的には、固相および気相促進剤の両方が、触媒プロセス中、使用される。
【0063】
必要に応じて、好適なアルカリ金属促進剤成分を使用して、含浸溶液を形成することができる。例えば、アルカリ金属促進剤成分は、用いられる特定の溶媒または可溶化剤に可溶性であり、含浸溶液中の他の成分と適合する全ての促進剤を含み得る。したがって、硝酸塩、ハロゲン化物、水酸化物、硫酸塩、およびカルボン酸塩などのアルカリ金属の無機および有機成分が、使用され得る。一例示として、バリウム、カルシウム、およびマグネシウムの塩などのアルカリ土類塩は、本発明のプロセスに従って含浸溶液中に容易に可溶化され得、支持体上に堆積され得る。
【0064】
支持体の表面に銀および促進剤を含浸または堆積させる順序は、任意である。したがって、銀および塩の含浸および堆積は、同時にまたは連続的に行うことができ、すなわち、促進剤は、支持体に銀を添加する前、添加中、または添加後に堆積され得る。促進剤は、一緒にまたは連続的に堆積され得る。例えば、1種以上の塩を最初に付着させ、続いて銀および追加のまたは他の塩を同時または順次に付着させることができる。
【0065】
触媒支持体の含浸は、同時堆積または連続堆積のための周知の手順に従って、銀および促進剤を含有する1つ以上の溶液を使用して行うことができる。同時堆積について、含浸後に、銀成分を銀金属に化学的に還元し、塩を触媒表面上に堆積させるために、含浸された支持体が処理される(例えば、加熱または化学処理)。
【0066】
連続堆積について、支持体は、最初に(用いられる順序に応じて)銀または促進剤で含浸され、次いで、上記のように処理される。これに続いて、第2の含浸ステップおよび対応する加熱または化学処理を行って、銀および促進剤を含有する最終触媒を生成する。
【0067】
本発明の一実施形態において、1種以上の促進剤が、銀と同時に添加される。別の実施形態において、1種以上の促進剤が、一番最後の銀含浸ステップにおいて、触媒に添加される。
【0068】
含浸溶液の全ての成分は、典型的には、容器内で、効果的な含浸溶液の調製を可能にする温度で混合され、分散される。例えば、上記成分の混合中の温度は、一般に、一実施形態では約室温(23℃)~約70℃であり、別の実施形態では約室温~約50℃であり得る。選択された界面活性剤は、所望の含浸温度に最適化され得る。
【0069】
本発明の含浸溶液の調製、および/またはそのステップのうちのいずれかは、バッチまたは連続プロセスであり得る。含浸溶液を調製するために使用されるプロセスおよび装置の種類は、当該技術分野において既知である任意の従来のプロセスまたは装置であり得る。例えば、混合容器を使用して、上記の成分:銀成分、溶媒、および任意に促進剤(複数可)などの任意の他の望ましい添加剤をブレンドまたは混合する。
【0070】
一般に、銀触媒材料および任意の他の添加剤(促進剤など)を堆積させるための手順は、本発明に従う多孔性アルミナ支持体を、溶媒または可溶化剤、銀錯体、および必要に応じて、1つ以上の促進剤を含む溶液に含浸させることを含む。支持体の含浸は、一般に、ドライコーティング手順よりも銀を効率的に利用するため、銀堆積のための好ましい技法であり、ドライコーティングは、一般に、支持体の内面上に実質的な銀の堆積を行うことができない。加えて、ドライコーティングされた触媒は、機械的摩耗による銀の損失をより受けやすい。
【0071】
銀含有溶液を支持体に取り込むために使用されるプロセスおよび装置の種類は、当該技術分野において既知である任意の従来の含浸プロセスまたは装置であり得る。例えば、容器は支持体を入れるために使用され、支持体は上記の含浸溶液で飽和され、含浸溶液を容器内で支持体に通過させる。担体の細孔の完全な充填を確実にする特に有用な技法は、担体を含浸溶液にさらす前に、真空を適用して担体の細孔を排気することを用いる。
【0072】
本明細書で使用される場合、「表面積」とは、参照により本明細書に組み込まれる、Journal of the American Chemical Society 60(1938)pp.309~316に記載されているような、窒素によるBET(Brunauer、Emmett、およびTeller)法によって決定されるような、支持体の表面積を指す。「総細孔容積」は、支持体の細孔容積を意味し、典型的には水銀多孔度測定によって決定される。本明細書に報告される測定は、130°の接触角、0.485N/Mの水銀の表面張力と仮定して、参照により本明細書に組み込まれる、Micromeritics Autopore IV 9520を使用する60,000psiaまでの水銀圧入を使用して、参照により本明細書に組み込まれる、Webb & Orr,Analytical Methods in Fine Particle Technology(1997)p.155に記載されている方法を使用した。「多孔度」は、材料の全容積に対する非固体容積の割合である。当業者であれば、水銀多孔度測定または吸水率によって測定される総細孔容積を使用して、開放多孔度を推定することができる。触媒的には重要ではないが、閉鎖した細孔は、これらの技術を使用して決定されないであろう。言い換えれば、多孔度は、試料の全容積で割ったアクセス可能な空隙容積(非占有空間)として定義される。“
【0073】
多孔性触媒支持体に含浸溶液を充填させた後(本明細書において「含浸された支持体」とも称される)、支持体の細孔内に吸収されていない任意の含浸溶液は、本明細書において「非含浸溶液」と称される。これは、支持体の外面の周囲およびその上の溶液を含み得る。触媒支持体の細孔内に含浸または吸収された溶液は、本明細書において「含浸された溶液」と呼ばれる。存在する場合、非含浸溶液の大部分、および含浸された溶液の少なくとも一部分が、異なるステップで含浸された支持体から除去されることが、本発明の特徴である。
【0074】
例えば、銀含有含浸溶液での触媒支持体の各含浸後に、濾過、排液、または遠心分離などの従来の分離手段を用いることによって、残りの、余分な、または過剰の非含浸溶液を含浸された支持体全体から分離することが望ましい。例えば、非含浸溶液は、含浸された支持体から排水されてもよく、すなわち、非含浸溶液は、支持体全体の外面から物理的に分離される。別の例として、遠心分離が分離手段として使用されるとき、遠心分離は、非含浸溶液を含浸された触媒全体の外面から分離するための操作条件下で使用される。一般的に言って、含浸された支持体からあらゆる過剰の非含浸溶液を分離するために、排液が最も一般的に使用される。
【0075】
支持体が2つ以上の異なる細孔径の範囲を有する細孔を有し、次いで、上記の分離方法のいずれかに従う実施形態について、含浸された支持体は、より大きな細孔径を有する含浸された支持体の支持孔から、含浸された溶液の少なくとも一部分を、選択的かつ物理的に除去する第2の除去方法に供され得る。好ましくは、この第2の除去方法は、遠心分離を含む。
【0076】
本発明において、除去手段として遠心分離が使用される場合、遠心分離条件は、触媒全体の表面からだけでなく、触媒支持体の(より大きな細孔を有する細孔である)特定の細孔からも、含浸された溶液を選択的に除去するように選択され得る。遠心分離ステップは、廃液ステップ(使用された場合)で除去されなかった触媒支持体の表面からの過剰の非含浸含浸溶液、および触媒支持体の特定の細孔からの含浸された溶液を分離する。一般に、本発明の遠心分離ステップを実行するために考慮すべき重要な要因としては、例えば、回転速度(r.p.m.)、遠心分離機の半径、時間、および遠心分離の温度を挙げることができる。回転速度および遠心分離機の半径が、相対遠心力(RCF)を決定する。RCFは、以下の式(1)を使用して計算することができる。
【数2】
式中、R
cは、遠心分離機の半径(mm)であり、r.p.m.は、毎分回転数での回転速度である。
【0077】
遠心力は、以下の式から計算することができる。
【数3】
式中、mは、細孔内に存在する液体の質量であり、ωは、角速度であり、rは、細孔の半径であり、hは、細孔内に存在する液体の高さであり、R
cは、遠心分離機の半径であり、ρは、液体の密度である。細孔内部の液体の高さは、表面張力と重力との均衡によって決される。
【数4】
式中、θは、接触角である。
【0078】
溶液を、より大きな細孔径を有する細孔から選択的に除去するために、遠心力は、対応する細孔の毛細管力に等しくなければならない。毛細管力は、以下の式によって計算される。
【数5】
【0079】
要約として、特定のサイズの細孔の内側に位置する溶液を除去するのに最適なRCFは、毛細管力を遠心力と一致させることによって決定される。これに基づいて、以下の関係が得られる。
【数6】
【0080】
式(5)に表される物理的性質は、温度依存性であり、したがって、遠心分離プロセスの効率に影響を与え得る。
【0081】
上記の式(5)を用いて本発明を更に例示するために、以下の特性を式中で使用することができ、含浸液体の特性について、γ=7.28×10-2 N/m、θ=85°、およびρ=1493kg m-3であり、細孔径が1,000μm~1μmの範囲であると想定すると、遠心力(RCF)は、例えば、約0.1~1,500,000であり得る。
【0082】
遠心分離時間は、例えば、一実施形態において例えば約1分~約20分および別の実施形態において約5分~約10分であり得る。遠心分離が実行される温度は、それが細孔内部の含浸溶液の特性、およびそれが支持体と相互作用する手段を決定し得るため、一要因であり得る。遠心分離は、任意の好適な温度で実行され得る、例えば、溶液が遠心分離機内で蒸発または分解するほど高くないか、または流体が流動性を有さないほど低い温度でない、すなわち、溶液は、十分に流動性を有したままであり、遠心分離機によって支持体から除去可能であるのに必要なレオロジーを有するべきである。一般的な一実施形態では、例えば、遠心分離温度は約20℃~約80℃であり得る。一実施形態において、例えば、本明細の実施例に記載される種類の銀アミンシュウ酸塩溶液は、約20℃~約40度の温度で遠心分離され得る。
【0083】
本発明の遠心分離ステップ、および/またはそのステップのうちのいずれも、バッチプロセスであってもよく、このプロセスで使用される装置は、当業者に周知の任意の遠心分離機および補助装置であり得る。
【0084】
遠心分離は、過剰の非含浸含浸溶液を触媒支持体の表面から分離し、また含浸された溶液の少なくとも一部分を触媒支持体内の特定のサイズ範囲の細孔から分離するため、本発明のプロセスの遠心分離ステップは、重要である。このように、含浸溶液の調整と組み合わせた遠心分離ステップは、細孔内の銀の濃度を細孔内の利用可能な表面積と一致するように調整することによって、支持体内の各種類の細孔に対する銀の粒径の制御を可能にする。適切な遠心力および遠心分離時間を提供するように遠心分離速度を選択することによって、どの細孔様式が銀含浸溶液で充填されたままであるかを制御し、したがって支持体内の最終銀粒径および銀粒子の位置を制御することが可能である。
【0085】
遠心分離ステップ(複数可)の追加の利益は、遠心分離が、支持体ペレットの外面に残された銀溶液の量を低減し得、か焼後のペレット表面の銀クラストの形成を低減し得るか、または更にはそれを防止し得ることである。外面上の過剰の銀は、操作中に触媒から剥げ落ち、微粉の蓄積および圧力低下の増加をもたらすと仮定される。加えて、か焼前に過剰の銀溶液を除去することは、溶液の回収を可能にし、触媒生成プロセスにおけるより良好な銀の利用を可能にし、生成コストを削減する。
【0086】
この様式における触媒の生成の追加の有益性は、生産性を損失することなく、現在の最新技術の触媒と比較して全体的により低い銀充填量を有し得ることである。このより低い銀充填量は、このような触媒を生成するコストを削減し得ることが理解される。加えて、より低い銀充填量および銀の外面ペレットの堆積の低減は、(1)細孔閉塞の減少をもたらし得、したがって触媒中の拡散障壁を低減させ得る、(3)更なる触媒取り扱い中の銀の後続の損失を低減させ得る。
【0087】
上記の遠心分離ステップ後、得られた遠心分離された支持体は一般に、支持体内の液体を蒸発させるために、かつ銀金属塩の金属銀への分解および還元をもたらし、それによって、銀および促進剤(存在する場合)の支持体の内面上および外面上への堆積をもたらすために、高温での熱処理、すなわち焙煎される。
【0088】
含浸され/遠心分離された支持体を加熱するために、様々な熱処理雰囲気が用いられ得る。例えば、支持体は、空気中または不活性雰囲気(窒素雰囲気など)中で加熱され得る。熱処理が酸化環境中で行われる場合、この熱処理は「か焼」と称されることがある。
【0089】
一般に、存在する溶媒(複数可)を除去し、存在する場合、促進剤種を(分解の有無に関わらず)銀および支持体表面上に堆積させるために、銀溶液で含浸された支持体は、大気圧または準大気圧で熱処理される。熱処理は、過剰の溶媒を除去し、銀塩の実質的に全てを銀金属に変換するのに十分な温度および時間で実行され得る。例えば、含浸され/遠心分離された支持体は、一実施形態において約100℃~約900℃、別の実施形態において約200℃~約700℃の温度で、変換、すなわち、銀塩の実質的に全てを銀金属に化学的に還元するのに十分な一定時間加熱され得る。例えば、焙煎ステップは、約2分~約12時間にわたって実行され得る。更に、焙煎ステップは、有利なことには、空気下で実行され得るが(この場合、「か焼」という用語は、多くの場合プロセスを説明するために使用される)、当技術分野で一般に知られているように、他のガスも使用され得る。
【0090】
一般に、温度が高いほど、化学的還元に必要な時間は短くなる。例えば、約400℃~約900℃の温度では、銀種の金属銀への化学的還元は、約1分~約5分で達成され得る。含浸された支持体を熱処理するための他の時間が、当技術分野において提案されている。例えば、米国特許第3,563,914号は、含浸された支持体を300秒未満加熱して、乾燥させることを提案しているが、焙煎して、触媒を化学的に還元することは提案しておらず、米国特許第3,702,259号は、含浸された支持体を100℃~375℃の温度で2時間~8時間加熱して、触媒中の銀塩を化学的に還元することを開示しており、米国特許第3,962,136号は、100℃~375℃の温度で4時間~8時間を提案しており、上記の特許は全て、参照により本明細書に組み込まれる。本発明において、広範囲の加熱時間が用いられ得るが、銀塩の金属銀への実質的に完全な化学的還元が達成されるように、化学的還元時間が温度と相関することが好ましい。この目的のために、連続的または段階的加熱プログラムを使用することが望ましい。触媒の短時間(4時間以下など)の連続的な焙煎が好ましく、これは本発明の触媒を作製する上で効果的に行うことができる。2回以上の焙煎ステップが使用される場合、焙煎条件が各焙煎ステップにおいて同じである必要はない。
【0091】
本発明の焙煎またはか焼ステップ、および/またはその他のステップのうちのいずれも、バッチまたは連続プロセスであり得る。含浸された多孔性支持体を加熱することを含む本発明のプロセスのステップは、任意の従来の加熱手段を使用して実行され得る。例えば、このような熱処理に使用される装置は、化学的還元を行うためのガスの静止または流動雰囲気を含み得る。
【0092】
エチレンのエチレンオキシドへの選択的酸化に有用な、高度に効率的な銀含有エポキシ化触媒は、上記の調製プロセスから得られる。触媒は、多孔性支持体上に堆積した少なくとも1つの触媒種を含み、少なくとも1つの触媒種は、銀であり、支持体上に堆積した銀は、最終触媒中で制御された平均粒径を有する。
【0093】
本発明のプロセスによって生成される高度に効率的な触媒の活性成分は、触媒種としての銀、促進剤としてのレニウム、任意にレニウム共促進剤、および任意に他の金属を含み得る。
【0094】
加熱帯で焙煎された後、銀含浸された触媒は、秤量されてもよく、含浸前の材料との比較での重量増加に基づいて、溶媒および前駆体材料の完全な除去を想定して、支持体上の銀の重量(銀の重量%)を計算することができる。
【0095】
所望の触媒種が銀を含む場合、一般に、支持体上に担持される銀の重量%濃度は、含浸溶液中の銀濃度、支持体の細孔容積、および使用される含浸ステップの数に依存し得る。一般に、含浸は、適切な量の銀を支持体上に提供することを可能にするのに十分であることが望ましい。例えば、支持体上に担持される銀の量は、触媒の重量に基づいて、一実施形態において約5重量%超、別の実施形態において約10重量%超、更に別の実施形態において約15重量%超、更に別の実施形態において約20重量%超、更に別の実施形態において約25重量%超、更に別の実施形態において約27重量%超、および更に別の実施形態において約30重量%超の量であり得る。支持体に関連して提供される銀の量は、通常、触媒の重量に基づいて、一実施形態において約70重量%未満、および別の実施形態において約50重量%未満であり得る。例えば、参照により本明細書に組み込まれるUS2014/0371470A1を参照されたい。
【0096】
他の実施形態において、支持体上の重量%の銀は、例えば、一実施形態において約5重量%~約70重量%、別の実施形態において約5重量%~約50重量%、更に別の実施形態において約15重量%~約40重量%、更に別の実施形態において約15重量%~約35重量%であり得る。しかしながら、これらの実施形態において、支持体上に得られる重量%の銀は、望まれるものを超えている。触媒調製中に界面活性剤を使用すると、より最適な重量%の銀がもたらされる。
【0097】
本発明のプロセスによって調製される、得られる触媒は、支持体の小さな細孔および大きな細孔の両方おいて、改善された全体的な触媒性能を提供するのに十分な所望の径の銀粒子を有する。最終触媒中の銀粒径は重要であるが、銀粒径は広範囲を含み得る。例えば、好適な銀の粒径は、直径が約10オングストローム(Å)~約10,000Åの範囲であり得る。典型的には、銀の粒径は、一実施形態において、直径が約100Å超~約5,000Å未満の範囲であり得る。銀および任意の促進剤(用いられる場合)が、アルミナ支持体内、その全体、および/またはその上に比較的均一に分散されていることが望ましい。本発明のプロセスによって、銀粒子は、支持体全体にわたって比較的均一な粒径、すなわち比較的狭い粒径分布も有する。
【0098】
支持体上に堆積される銀金属の粒径は、用いられる触媒調製手順の関数である。したがって、溶媒および/または錯化剤、銀塩、熱処理条件、ならびに触媒支持体の特定の選択は、得られる銀粒子の径に様々な程度で影響を及ぼし得る。
【0099】
本発明に従う触媒は、1つ以上の促進剤または共促進剤を任意で含み得る。例えば、レニウムに加えて、銀系エポキシ化触媒用の既知の促進剤としては、モリブデン、タングステン、硫黄、リチウム、ナトリウム、マンガン、ルビジウム、およびセシウムが挙げられるが、これらに限定されない。レニウム、モリブデン、またはタングステンは、オキシアニオンとして、例えば、過レニウム酸塩、モリブデン酸塩、またはタングステン酸塩として、塩または酸形態で好適に提供され得る。促進剤の例、それらの特徴、および促進剤を触媒の一部として組み込むための方法は、米国特許第5,187,140号の特に11~15欄、同第6,511,938号、同第5,504,053号、同第5,102,848号、同第4,916,243号、同第4,908,343号、同第5,059,481号、同第4,761,394号、同第4,766,105号、同第4,808,738号、同第4,820,675号、および同第4,833,261号に記載されており、これら全ての特許は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0100】
促進剤および/または共促進剤の濃度は、使用される場合、例えば、一実施形態において約0重量%~約1.0重量%、別の実施形態において約0.0005重量%~約1.0重量%、および更に別の実施形態において約0.005重量%~約0.5重量%で変動し得る。
【0101】
一般に、本発明の方法はオレフィン化合物を酸化物生成物に酸化するために使用することができる。本発明の触媒が有利に使用される最終用途の一例は、エチレンのエチレンオキシドへのエポキシ化であり得る。そのようなエポキシ化反応における触媒の性能は、典型的には、エポキシ化反応中の触媒の選択性、活性、および安定性に基づいて評価される。「安定性」は、典型的には、特定のバッチの触媒が使用されている間、すなわち、より多くのエチレンオキシドが累積的に生成されるときに、選択性および/または活性がいかに変化するかを指す。
【0102】
例えば、銀ベースの担持触媒が上記のように調製された後、触媒は、参照により本明細書に組み込まれる、US2014/0323295A1に開示されるように、エチレンをエポキシ化してエチレンオキシドを形成する方法において使用され得る。エチレンをエポキシ化する反応プロセスはまた、例えば、参照により本明細書に組み込まれる、米国特許第6,511,938号および同第5,057,481号、ならびにKirk-Othmer Encyclopedia of Chemical Technology,4thEd.(1994)Volume9,pages915-959にも記載されている。
【0103】
典型的には、エポキシ化反応は、エチレンおよび酸素を含む供給物を本発明のエポキシ化触媒と接触させることにより、気相で実行するのが望ましい。一般に、触媒は、固体材料として存在し、より具体的には、所望の反応器内で充填床として存在し得る。使用される触媒の量は、任意の好適な量であることができ、用途に依存するであろう。一実施形態において、エチレンのエチレンオキシドへの変換は、例えば、エチレンおよび酸素または酸素含有ガスを含有する供給流を触媒含有反応器に連続的に導入することによって、連続プロセスで実行され得る。得られたエチレンオキシドは、従来の方法を使用して反応生成物から分離され、回収される。
【0104】
本明細書に記載される触媒を使用して、エチレンをエチレンオキシドに変換するのに使用される反応器は、固定床管状反応器、連続撹拌槽型反応器(CSTR)、および流動床反応器を含む、様々な反応器の種類のものであってもよく、これらの多種多様なものは、当業者にとって周知であり、本明細書で詳細に説明する必要はない。
【0105】
酸素は、空気などの酸素含有流として、または市販の酸素として、または酸素富化空気として反応に供給され得る。反応器供給流中の酸素濃度は、広範囲にわたって変動し得、実際には、一般に可燃性が、酸素濃度の制限要因である。一般に、反応器供給物中の酸素濃度は、少なくとも1モルパーセント、好ましくは少なくとも2モルパーセント、および更により好ましくは少なくとも4モルパーセントであるであろう。酸素濃度は一般に、15モルパーセント以下、好ましくは12モルパーセント以下、および更により好ましくは9モルパーセント以下であるであろう。
【0106】
反応器供給流中のエチレンの濃度は、広範囲にわたって変動し得る。しかしながら、それは、好ましくは少なくとも18モルパーセント、およびより好ましくは少なくとも20モルパーセントである。反応器供給流中のエチレンの濃度は、好ましくは50モルパーセント以下、およびより好ましくは40モルパーセント以下である。
【0107】
一般に、エポキシ化反応は約180℃~約315℃の温度で、そして約大気圧から約35バールの範囲の反応器圧力で行われる。ガス時空間速度(GHSV)は、約3,000h-1よりも大きい場合がある。大規模触媒含有反応器内の滞留時間は一般に、約0.5秒~約2.5秒ほどである。上記のエポキシ化処理条件は一般に、所望の質量速度および生産性に応じて用いられる。
【実施例】
【0108】
以下の実施例は、本発明をより詳細に更に例示するが、その範囲を限定するものとは解釈されないものとする。
【0109】
エチレンオキシド触媒を、「ダブルディップ」含浸プロセスを使用して調製する。このプロセスにおいて、多孔性α-アルミナ担体を銀含有溶液で真空含浸し、続いて焙煎する。比較例を、界面活性剤を使用しないという点で現在の実施を模倣するように設計する。本発明の実施例では、0.1または1.0重量%の界面活性剤が、含浸ステップの前に溶液に溶解する。
【0110】
アルミナ担体(Saint Gobain Corporationから入手したNorpro A-LAP-C1-5、1.29m2/gの表面積、0.70cm3/gの細孔容積)を、この研究で調製される全ての触媒について、受け取ったままの状態で使用する。担体ペレットを真空フラスコに充填し、垂直の貫通穴および真空サイドアームを含有するテフロンストッパーで上部を密閉する。分離漏斗のガラスドレーンチューブを垂直の穴に挿入し、ゴム製のOリングを用いた圧縮フィッティングによって所定の位置に保持して、良好な密閉を確保する。アルミナ担体を、氷水中に沈められたトラップを通して接続された機械的ポンプによって70トルで15分間排気する。0、0.1%または1.0%の界面活性剤を含有する、米国特許出願公開第2009/177000号の「触媒調製」に記載されているように調製された銀-アミン-シュウ酸塩溶液などの銀含有含浸溶液を、真空フラスコへの真空ラインが閉じている間、分離漏斗に注ぐ。次いで、分離漏斗のストップコックを開き、排気されたアルミナ担体ペレットを含浸溶液で被覆する。次いで、真空を大気圧に破壊し、ペレットを15分間浸漬させる。
【0111】
浸漬後、真空フラスコの下部のストップコックを開き、過剰の銀含有含浸溶液を触媒ペレットから10分間排出させる。次いで、湿った触媒ペレットを金網バスケットに配置し、500℃に予熱されたマッフル炉に挿入し、そこで5分間焙煎する。
【0112】
真空含浸手順を、促進剤前駆体を、最初に銀含有含浸溶液中に溶解させることを除いて、第2の含浸のために繰り返す。
【0113】
アルミナ担体に吸収される銀含浸溶液の低減
銀含浸溶液の使用量を低減させる際の様々な界面活性剤の有効性を確認するために、界面活性剤含有溶液による含浸前、および含浸および排液後に、乾燥α-アルミナ担体の重量を測定する。担体が理論的に吸収すべき銀溶液の量は、その測定された比細孔容積および溶液の密度から分かる。
図1に示されるように、全ての場合において保持される銀含浸溶液の量は、全ての場合において理論量よりも多い。含浸溶液が界面活性剤を含有していない場合、触媒担体によって理論量を超えて保持される溶液の量は、約20%であるが、一方では、界面活性剤の存在下で保持される同じ溶液の量は、2.9~9.7%の範囲である。界面活性剤を使用しない場合と使用した場合の触媒ペレットに保持される銀溶液の量の差異は、過剰の含浸溶液の改善された回収を表し、後続の含浸に再利用することができる可能性がある。界面活性剤の使用は、細孔外銀溶液の保持を完全に除去しなかったので、例えば、界面活性剤の使用を遠心分離と組み合わせることによって、または様々な種類の界面活性剤を様々な濃度で組み合わせることによって、プロセスを改善する更なる機会が依然として可能である。
【0114】
界面活性剤を使用せず調製された触媒と比較して、様々な界面活性剤を使用する触媒の合成における銀含有溶液の利用の改善を計算し、
図2にプロットする。このプロットにおいて、溶液および銀、例えば、TERGITOL(商標)とTRITON(商標)CT-76の両方、の利用が改善された界面活性剤変性触媒(
図1)が、担体の細孔容積に対して最も低い溶液取り込みを有した(
図1)。全ての触媒における銀溶液の低減値は、それぞれの銀金属の低減値よりも一貫して1.4~1.8倍大きい。銀溶液および金属銀の低減の間の観察された差異は、焙煎中の界面活性剤なしの比較例における過剰の銀溶液の損失に起因すると考えている。
【0115】
次に、アルミナ担体を、0.1%の界面活性剤量を含有する銀溶液で含浸させ、理論上の容積に対する触媒担体に保持される溶液量も計算した(
図3)。
【0116】
界面活性剤を使用しない場合、細孔容量に対する担体によって保持された銀溶液の量は、先の一連の測定中で判明した約20%(
図1)と比較して、約16.5%(
図3)である。この差異は、湿った触媒の計量に関連する実験誤差に起因する可能性があり、取り扱いおよび移動中に外部に保持されたHEC溶液の一部が失われる可能性がある。しかしながら、どちらの値も、銀含浸溶液の利用を改善する必要性が存在することを実証する。
【0117】
界面活性剤を使用しない場合の溶液吸収量と比較して、0.1%界面活性剤の使用による銀溶液の吸収量の低減を
図4に示す。界面活性剤を使用しない場合と比較して、0.1%の界面活性剤を使用による触媒上で捕集された銀の量の低減を同じ図に示す。1%の界面活性剤で調製された触媒のシリーズで観察されたように、乾燥触媒上での金属銀の見かけ上の低減した使用量の値は、銀含有溶液の低減した使用量よりも小さい。重ねて、これらのかなりの体系的な差異は、界面活性剤を使用せずに調製された触媒の焙煎中に失われた銀含有溶液によって引き起こされた可能性がある。
【0118】
界面活性剤を使用して調製されたEO触媒の触媒性能
EO触媒の調製中の銀含有含浸溶液の改善された利用は、触媒コストを削減し、焙煎スループットを増加させるために望ましい。コスト削減が価値あるものであることを証明するために、EO触媒の性能は、合成中に界面活性剤が使用されなかった触媒に比べて低下してはならない。
【0119】
界面活性剤変性触媒の触媒性能は、Rotoberty(商標)反応器を使用して測定される。同量の45mLの触媒を、各Rotoberty反応器に充填する。触媒性能の尺度として2つの出力パラメータ、生成物ストリーム中でのエチレンオキシドの生成率、およびエチレン前駆体をエチレンオキシドに変換する際の炭素効率が監視される。これらのパラメータを、各実施例で同じ手段で計算した。高性能触媒において、これら両方の量が最大化される。
【0120】
図5は、1重量%の界面活性剤で調製されたいくつかの触媒について、生成するEOの関数としての様々な界面活性剤変性触媒の炭素効率のプロットを示す。1%のTERGITOL(商標)15S9および1%のTERGITOL(商標)NP-9で変性された触媒は、界面活性剤を含有しない触媒よりもわずかに高い性能を示すようである。これら3種の触媒間の見かけ上の差異は相対的に小さく、相対性能値は、おそらく測定誤差の範囲内である。しかしながら、これらの触媒の類似の性能特性は、異なる量の銀で達成される。界面活性剤なしで調製されたEO触媒は、約11.1gの銀を含有し、一方では、両方のTERGITOL(商標)で変性された触媒は、わずか約9.6gを含有し、すなわち、およそ13%銀が少ない。
【0121】
他の界面活性剤変性触媒の性能は、Surfynol(登録商標)>DYNOL(商標)>TRITON(商標)CF76の順に低下するようである。前者の2つの触媒の性能は、触媒溶液に界面活性剤を含まない比較例の、おそらく誤差の範囲内である。両方のTERGITOL(商標)変性触媒の場合と同様に、後者の触媒に含有される銀の量は、界面活性剤を使用しない比較例の銀含有量よりも低い。
【0122】
0.1%の界面活性剤を使用して調製されたEO触媒の性能特性も決定した(
図6)。これらの触媒において、相対性能は以下の順序で低下するようである。TRITON(商標)CF32>ENVIROGEM(登録商標)AD01>TRITON(商標)CF-10>界面活性剤なし>TERGITOL(商標)15S9>ECOSURF(商標)LF-30。性能において互いに隣接する触媒間の差異はごくわずかであるが、性能スペクトルの両端にある触媒間の差異は無視できない。
【0123】
これらの結果は、銀の少ない触媒は、標準的な手順を使用して調製された触媒と比較して、同等または改善された性能を与え得ることを示唆している。銀の使用量を減らしても、稼働時間の増加を伴う性能の低下をもたらさないことを実証するには、追加の試験が必要である。
本願は以下の態様にも関する。
(1) エチレンをエチレンオキシド(EO)に酸化するのに好適な銀含有触媒を調製するためのプロセスであって、
(a)細孔を有する支持体を提供するステップと、
(b)銀含有含浸溶液を提供するステップと、
(c)ある量の界面活性剤を前記含浸溶液に添加するステップと、
(d)前記支持体を前記界面活性剤含有含浸溶液と接触させるステップと、
(e)前記細孔内に含有されていない含浸溶液を優先的に除去する様式で、前記銀を前記担体上に固定する前に、前記含浸溶液の少なくとも一部分を除去するステップと、を含む、プロセス。
(2) 以下の追加のステップ、
(f)オレフィンをエポキシ化するのに有用な銀含有触媒を形成するのに十分な時間および温度で、ステップ(d)の前記含浸された触媒支持部材を、少なくとも1回焙煎するステップを更に含む、前記(1)に記載のプロセス。
(3) 前記優先的除去ステップ(d)が、遠心分離機を使用して実行される、前記(1)に記載のプロセス。
(4) 前記優先的除去ステップ(e)が、前記含浸された触媒支持部材を重力を使用して廃液させるによって実行される、前記(1)に記載のプロセス。
(5) 前記含浸ステップ(c)が、2回以上実行されるか、または前記除去ステップ(d)が、2回以上かつ2つ以上の異なる処理条件下で実行される、前記(1)に記載のプロセス。
(6) 前記支持体が、第1のサイズ範囲を有する第1のセットの支持孔と、第2のサイズ範囲を有する少なくとも第2のセットの支持孔とを有し、前記第2のサイズ範囲が、前記第1のサイズ範囲より小さく、前記除去ステップ(d)が、前記多孔性多峰性触媒支持体の前記少なくとも第2のセットの細孔に含有される銀含浸溶液と比較して、前記多孔性多峰性触媒支持体の前記第1のセットの支持孔に含有される銀含浸溶液を優先的に除去する、前記(1)に記載のプロセス。
(7) 前記支持体の前記第1のセットの細孔の前記第1の細孔径範囲が、約3ミクロン~約200ミクロンであり、前記支持体の前記第2のセットの細孔の前記第2の細孔径範囲が、約0.01ミクロン~約3ミクロンである、前記(6)に記載のプロセス。
(8) 前記界面活性剤が、ノニルフェノールエトキシレート、アルキルポリグルコシド、リン酸エステル、第二級アルコールアルコキシレート、アルキルフェニルオキシドジスルホン酸塩、低泡性界面活性剤、スルフェート、またはスルホネートのうちの1種以上である、前記(1)に記載のプロセス。
(9) 前記界面活性剤が、前記含浸溶液中の銀の0.2重量%~8.0重量%の量で前記含浸溶液に添加される、前記(8)に記載のプロセス。
(10) 前記界面活性剤が、前記含浸溶液中の銀の0.4重量%~4.0重量%の量で前記含浸溶液に添加される、前記(9)に記載のプロセス。
(11) 前記第1の銀含有含浸溶液が、1つ以上の促進剤を更に含む、前記(1)に記載のプロセス。
(12) 前記支持体が、アルファ-アルミナを含む、前記(1)に記載のプロセス。
(13) 前記多孔性多峰性支持体の総重量に基づいて、少なくとも10重量パーセントの銀充填量が、前記多孔性多峰性支持体に提供される、前記(1)に記載のプロセス。
(14) 前記(1)に従って調製される、エチレンをエチレンオキシドに酸化するのに有用な銀含有エポキシ化触媒であって、前記触媒が、多孔性支持体上に堆積した少なくとも1つの触媒種を含み、前記少なくとも1つの触媒種が、銀である、銀含有エポキシ化触媒。
(15) エチレンをエチレンオキシドにエポキシ化するためのプロセスであって、前記(1)に記載のプロセスに従って生成されたエポキシ化触媒の存在下でエチレンと酸素とを接触させることを含む、プロセス。
(16) 1,2-ジオール、1,2-ジオールエーテル、1,2-カーボネート、またはアルカノールアミンを調製するためのプロセスであって、前記(14)に記載のプロセスによって調製されたエチレンオキシドを、前記1,2-ジオール、1,2-ジオールエーテル、1,2-カーボネート、またはアルカノールアミンに変換することを含む、プロセス。