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特許7369738マススペクトル処理装置及びマススペクトル処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-18
(45)【発行日】2023-10-26
(54)【発明の名称】マススペクトル処理装置及びマススペクトル処理方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/62 20210101AFI20231019BHJP
   H01J 49/00 20060101ALI20231019BHJP
【FI】
G01N27/62 D
H01J49/00 360
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2021101754
(22)【出願日】2021-06-18
(65)【公開番号】P2023000755
(43)【公開日】2023-01-04
【審査請求日】2022-09-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000004271
【氏名又は名称】日本電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 貴弥
【審査官】嶋田 行志
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-008314(JP,A)
【文献】特開2017-090228(JP,A)
【文献】特開2021-032808(JP,A)
【文献】特開2019-035719(JP,A)
【文献】特開2018-044810(JP,A)
【文献】特開2018-044803(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/60-G01N 27/92
H01J 49/00-H01J 49/48
PubMed
ACS PUBLICATIONS
Oxford Journals
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成高分子を含む試料のマススペクトルに含まれるピークについて、ピークリストを作成するリスト作成部と、
前記ピークリストに含まれる複数のピークのそれぞれについて、指定されたモノマーについてのKM(ケンドリックマス)を計算し、前記KMを前記モノマーの整数質量で除した場合における小数点以下の部分であるRKM、又は、NKM(ノミナルケンドリックマス)を前記モノマーの整数質量で除した場合における余りであるRKMを算出する解析部と、
前記ピークリストに含まれる複数のピークであって、起点ピークのRKMに対する許容範囲を含むグループ化条件を満たす複数のピークを、グループ化するグループ化部と、
を含むことを特徴とするマススペクトル処理装置。
【請求項2】
請求項1に記載のマススペクトル処理装置において、
前記解析部は、更に、前記ピークリストに含まれる複数のピークのそれぞれについて、前記モノマーについてのKMD(ケンドリックマスディフェクト)を計算し、
前記グループ化部は、前記ピークリストに含まれる複数のピークであって、前記起点ピークのKMDに対する許容範囲と前記起点ピークのRKMに対する許容範囲とを含むグループ化条件を満たす複数のピークを、グループ化する、
ことを特徴とするマススペクトル処理装置。
【請求項3】
請求項1に記載のマススペクトル処理装置において、
前記解析部は、前記KMの整数部分であるNKMとRKMとの2軸で定義される座標系に前記ピークリストに含まれる複数のピークを複数のピーク点としてプロットすることでNKM-RKMプロットを作成し、
前記NKM-RKMプロットは、ディスプレイに表示される、
ことを特徴とするマススペクトル処理装置。
【請求項4】
請求項2に記載のマススペクトル処理装置において、
前記解析部は、前記KMの整数部分であるNKMとKMDとの2軸で定義される座標系に前記ピークリストに含まれる複数のピークを複数のピーク点としてプロットすることでKMDプロットを作成し、RKMとKMDとの2軸で定義される座標系に前記ピークリストに含まれる複数のピークを複数のピーク点としてプロットすることでRKM-KMDプロットを作成し、
前記KMDプロットと前記RKM-KMDプロットは、ディスプレイに表示される、
ことを特徴とするマススペクトル処理装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のマススペクトル処理装置において、
前記グループ化部は、前記ピークリストに基づいて表示用ピークリストを作成し、前記表示用ピークリストにおいて、グループ毎にグループに含まれるピーク群の色を異ならせる、
ことを特徴とするマススペクトル処理装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のマススペクトル処理装置において、
グループ毎に、グループに含まれる各ピークのイオン強度に基づいて、グループのポリマー指標を演算する指標演算部を更に含む、
ことを特徴とするマススペクトル処理装置。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか一項に記載のマススペクトル処理装置において、
前記解析部は、前記ピークリストからグループ化されたピークを削除し、その削除後のピークリストを対象としてグループ化を行い、その削除及びグループ化の処理を繰り返して実行することで、複数のグループを形成する、
ことを特徴とするマススペクトル処理装置。
【請求項8】
請求項2に記載のマススペクトル処理装置において、
前記起点ピークのKMDに対する許容範囲は、分子量に応じて大きくなる、
ことを特徴とするマススペクトル処理装置。
【請求項9】
請求項1から請求項8のいずれか一項に記載のマススペクトル処理装置において、
前記起点ピークはモノアイソトピックピークであり、
前記グループ化部は、分子量が大きくなるに従い、RKMの許容範囲を大きくする、
ことを特徴とするマススペクトル処理装置。
【請求項10】
請求項1から請求項8のいずれか一項に記載のマススペクトル処理装置において、
前記起点ピークは、前記試料の同位体ピークの中でイオン強度が最大のピークであり、
前記グループ化部は、分子量が大きくなるに従い、RKMの許容範囲を大きくする、
ことを特徴とするマススペクトル処理装置。
【請求項11】
請求項1から請求項10のいずれか一項に記載のマススペクトル処理装置において、
前記グループ化部は、グループ化されたピークの数の下限値に従って、グループ化されたピークが、ポリマーのピークであるか否かを判定する、
ことを特徴とするマススペクトル処理装置。
【請求項12】
合成高分子を含む試料のマススペクトルに含まれるピークについて、ピークリストを作成し、
前記ピークリストに含まれる複数のピークのそれぞれについて、指定されたモノマーについてのKM(ケンドリックマス)を計算し、前記KMを前記モノマーの整数質量で除した場合における小数点以下の部分であるRKM、又は、NKM(ノミナルケンドリックマス)を前記モノマーの整数質量で除した場合における余りであるRKMを算出し、
前記ピークリストに含まれる複数のピークであって、起点ピークのRKMに対する許容範囲を含むグループ化条件を満たす複数のピークを、グループ化する、
ことを特徴とするマススペクトル処理方法。
【請求項13】
請求項12に記載のマススペクトル処理方法において、更に、
前記ピークリストに含まれる複数のピークのそれぞれについて、前記モノマーについてのKMD(ケンドリックマスディフェクト)を計算し、
前記ピークリストに含まれる複数のピークであって、前記起点ピークのKMDに対する許容範囲と前記起点ピークのRKMに対する許容範囲とを含むグループ化条件を満たす複数のピークを、グループ化する、
ことを特徴とするマススペクトル処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マススペクトル処理装置及びマススペクトル処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
質量分析システムは、一般的に、質量分析装置と情報処理装置とを含む。質量分析装置は、マススペクトルを測定する装置である。情報処理装置は、マススペクトル処理装置として機能する。質量分析法においては、質量mは、12Cの質量を12uとする単位系によって表現される。
【0003】
質量分析対象の試料がポリマーである場合、その試料のマススペクトルは、複数の重合度に対応する複数のピークを含む。重合度のみが異なる複数のポリマーはポリマーシリーズと称される。
【0004】
なお、複数のポリマーを含む試料から得られたマススペクトルを解析する手法として、ケンドリックマスディフェクト(KMD:Kendrick Mass Defect)解析法等が知られている。特許文献1,2には、KMD解析法を用いて、マススペクトル成分の指標を演算することが記載されている。特許文献3には、KMD解析法に従って得らえた値を3次元表示することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2020-8314号公報
【文献】特開2019-128188号公報
【文献】特開2017-90228号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、ポリマーのマススペクトルから同一のポリマーシリーズを容易に特定することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の1つの態様は、合成高分子を含む試料のマススペクトルに対してピーク判定を行うことで、ピークリストを作成するリスト作成部と、前記ピークリストに含まれる複数のピークのそれぞれについて、指定されたモノマーについてのKM(ケンドリックマス)を計算し、前記KMを前記モノマーの整数質量で除した場合における小数点以下の部分であるRKM、又は、NKM(ノミナルケンドリックマス)を前記モノマーの整数質量で除した場合における余りであるRKMを算出する解析部と、前記ピークリストに含まれる複数のピークであって、起点ピークのRKMに対する許容範囲を含むグループ化条件を満たす複数のピークを、グループ化するグループ化部と、 を含むことを特徴とするマススペクトル処理装置である。
【0008】
前記解析部は、更に、前記ピークリストに含まれる複数のピークのそれぞれについて、前記モノマーについてのKMD(ケンドリックマスディフェクト)を計算し、前記グループ化部は、前記ピークリストに含まれる複数のピークであって、前記起点ピークのKMDに対する許容範囲と前記起点ピークのRKMに対する許容範囲とを含むグループ化条件を満たす複数のピークを、グループ化してもよい。
【0009】
前記解析部は、前記KMの整数部分であるNKMとRKMとの2軸で定義される座標系に前記ピークリストに含まれる複数のピークを複数のピーク点としてプロットすることでNKM-RKMプロットを作成し、前記NKM-RKMプロットは、ディスプレイに表示されてもよい。
【0010】
前記解析部は、前記KMの整数部分であるNKMとKMDとの2軸で定義される座標系に前記ピークリストに含まれる複数のピークを複数のピーク点としてプロットすることでKMDプロットを作成し、RKMとKMDとの2軸で定義される座標系に前記ピークリストに含まれる複数のピークを複数のピーク点としてプロットすることでRKM-KMDプロットを作成し、前記KMDプロットと前記RKM-KMDプロットは、ディスプレイに表示されてもよい。
【0011】
前記グループ化部は、前記ピークリストに基づいて表示用ピークリストを作成し、前記表示用ピークリストにおいて、グループ毎にグループに含まれるピーク群の色を異ならせてもよい。
【0012】
マススペクトル処理装置は、グループ毎に、グループに含まれる各ピークのイオン強度に基づいて、グループのポリマー指標を演算する指標演算部を更に含んでもよい。
【0013】
前記解析部は、前記ピークリストからグループ化されたピークを削除し、その削除後のピークリストを対象としてグループ化を行い、その削除及びグループ化の処理を繰り返して実行することで、複数のグループを形成してもよい。
【0014】
前記起点ピークのKMDに対する許容範囲は、分子量に応じて大きくなってもよい。
【0015】
前記起点ピークはモノアイソトピックピークであり、前記グループ化部は、分子量が大きくなるに従い、RKMの許容範囲を大きくしてもよい。
【0016】
前記起点ピークは、前記試料の同位体ピークの中でイオン強度が最大のピークであり、前記グループ化部は、分子量が大きくなるに従い、RKMの許容範囲を大きくしてもよい。
【0017】
前記グループ化部は、グループ化されたピークの数の下限値に従って、グループ化されたピークが、ポリマーのピークであるか否かを判定してもよい。
【0018】
本発明の1つの態様は、合成高分子を含む試料のマススペクトルに対してピーク判定を行うことで、ピークリストを作成し、前記ピークリストに含まれる複数のピークのそれぞれについて、指定されたモノマーについてのKM(ケンドリックマス)を計算し、前記KMを前記モノマーの整数質量で除した場合における小数点以下の部分であるRKM、又は、NKM(ノミナルケンドリックマス)を前記モノマーの整数質量で除した場合における余りであるRKMを算出し、前記ピークリストに含まれる複数のピークであって、起点ピークのRKMに対する許容範囲を含むグループ化条件を満たす複数のピークを、グループ化する、ことを特徴とするマススペクトル処理方法である。
【0019】
マススペクトル処理方法では、前記ピークリストに含まれる複数のピークのそれぞれについて、前記モノマーについてのKMD(ケンドリックマスディフェクト)を計算し、前記ピークリストに含まれる複数のピークであって、前記起点ピークのKMDに対する許容範囲と前記起点ピークのRKMに対する許容範囲とを含むグループ化条件を満たす複数のピークを、グループ化してもよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、ポリマーのマススペクトルから同一のポリマーシリーズを容易に特定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】マススペクトルの一例を示す図である。
図2】KMDプロットの一例を示す図である。
図3】RKM-KMDプロットの一例を示す図である。
図4】同位体ピークを示す図である。
図5】デアイソトープ処理が適用されていないRKM-KMDプロットの一例を示す図である。
図6】NKM-RKMプロットの一例を示す図である。
図7】実施形態に係る質量分析システムの構成を示すブロック図である。
図8】実施例1に係る処理の流れを示すフローチャートである。
図9】ピークリストの一例を示す図である。
図10】表示用ピークリストの一例を示す図である。
図11】実施例2に係る処理の流れを示すフローチャートである。
図12】NKMに応じたKMDの許容範囲の一例を示す図である。
図13】グループ化の対象となる同位体ピークの数を示す図である。
図14】イオン強度が最大となる同位体ピークの位置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、実施形態について説明する。
【0023】
(ポリマーの質量分析について)
ポリマーは、あるモノマー単位が繰り返される構造を有する。そのため、ポリマーの質量は、主に、モノマーの数(つまり重合度)と両末端基の質量とによって特徴付けられる。質量分析システムでは、イオン化のためにカチオン化剤が用いられることもある。そのため、マススペクトル上で観測されるポリマーの質量は、一般的に、以下の式(1)のように表現される。
(ポリマーの質量)=(モノマーの質量)×(重合度)+(末端基の質量)+(カチオン化剤の質量)・・・(1)
【0024】
ポリマーは異なる重合度を含むため、マススペクトル上では、モノマーの質量の間隔でピークが観測され、イオン強度も、重合度によって分布を有する。図1には、そのマススペクトルの一例が示されている。横軸は、イオンの質量を価数で除したことで得られる値(m/z)を示しており、縦軸は、イオン強度を示している。
【0025】
ポリマー分析において質量分析の利点は、モノマーの質量や末端基の質量の違いによって、異なるポリマーシリーズを識別することができる点にある。
【0026】
また、識別されたポリマーシリーズについて、ポリマーの分布を示すポリマー指標値が算出されてもよい。ポリマー指標値は、例えば、数平均分子量や、重量平均分子量や、多分散度等である。
【0027】
(KMD解析法及びRKM解析法)
ケンドリックマスディフェクト解析法(以下、「KMD解析法」と称する)は、繰り返し構造を有するポリマーのマススペクトル上に等間隔に現れるピーク群を、KMDプロットと呼ばれる図によって可視化する方法である。KMDプロットの横軸は、質量の整数成分に関連する値を示し、縦軸は、質量の小数部分に関連する値を示す。小数部分に関連する値をプロットする必要があるため、質量精度が重要となる。そのため、KMD解析法では、フーリエ変換型質量分析計や飛行時間型質量分析計(例えば、10m以上の飛行時間を有する装置)によって得られるデータが用いられる。
【0028】
あるポリマーについて、ケンドリック質量(以下、「KM」と称する)は、以下の式(2)に従って計算される。
KM=M×Mri/Mr・・・(2)
【0029】
ここで、Mはポリマーの質量であり、Mriはモノマー単位の整数質量であり、Mrはモノマー単位の精密質量である。これらは、通常、ユーザーによって指定される。
【0030】
上記のケンドリック質量KMのうちの整数部分を「NKM」と称し、KMとNKMとの差をケンドリックマスディフェクト(KMD)と称する。
【0031】
ポリマーシリーズ(重要度のみが異なる複数のポリマー)Aの質量Anは、一般的に、以下の式(3)のように表現される。
An=Mr×n+Me+Mc・・・(3)
【0032】
ここで、nは重合度(整数)であり、Meは末端基の質量であり、Mcはカチオン化剤の質量である。式(2)中のMに式(3)で表現されたAnを代入すると、以下に示す式(4)が導かれる。
KM=Mri×n+(Me+Mc)Mri/Mr・・・(4)
【0033】
また、ケンドリックマスディフェクト(KMD)は、以下の式(5)のように表現される。
KMD=NKM-KM・・・(5)
【0034】
上述したように、ノミナルケンドリックマス(NKM)は、KMの整数部分である。
【0035】
式(4)において、右辺第1項(Mri×n)は整数であるから、小数部分は右辺第2項のみから生じ、一定値となり、重合度nに依存しない。
【0036】
式(4)の右辺第1項は整数となるため、KMDは、以下の式(5)のように表現される。
KMD=1-Round{(Me+Mc)Mri/Mr}・・・(6)
【0037】
ここで、Round{}は、四捨五入である。
【0038】
NKMを横軸にとり、KMDを縦軸にとり、それらの2軸で定義される座標系に対して、各重合度のポリマー(マススペクトル中の各ピーク)をプロットしたものが、KMDプロットである。KMDプロットにおいて、マススペクトル中の各ピークは、ピーク点(つまりピークを表す表示要素)によって表現される。KMDプロットは、ピーク点マップとして観念される。
【0039】
指定されたモノマーを構成要素として有し、末端基と付加イオンが同じ複数のポリマー(つまり重合度のみが異なる複数のポリマー)は、KMDプロット上において、横軸に平行な等間隔の点の集まりとして表現される。なお、末端基と付加イオンが同じ複数のポリマーは、同一のポリマーシリーズに含まれる。
【0040】
図2には、KMDプロットの一例が示されている。ここでは一例として、末端基の異なる5種類のポリエチレンオキシドの混合物を測定することで得られたマススペクトルのピークが判定され、同位体ピークを排除するデアイソトープ処理が実行されている。このようなピーク判定及びデアイソトープ処理を実行することで得られたKMDプロットが、図2に示されている。Mrとして、COの質量が用いられている。
【0041】
KMDプロットにおいては、同じポリマーシリーズは横軸に平行に並ぶ複数のピーク点として表現される。図2に示す例では、横軸に平行な5つの集合(ピーク点の集まり)が、KMDプロット上に表現されている。KMDプロットによれば、複数のポリマーに対応する複数のマススペクトル成分を空間的に区別することが可能となる。
【0042】
以下、RKM解析法について説明する。RKM法では、一般的に、上記のKMをMriで除した場合における小数点以下の部分がRKM(Remainder of KM)と定義される。横軸にKMRをとり、縦軸にKMDをとり、それらの2軸で定義される座標系に対して、複数のピークを複数のピーク点としてマッピングすることで、RKM-KMDプロットが生成される。RKM-KMDプロットは、ピーク点マップとして観念される。図3には、RKM-KMDプロットの一例が示されている。
【0043】
RKMは、以下の式(7)のように表現される。
RKM=KM/Mri-Floor(KM/Mri)・・・(7)
【0044】
ここで、Floor()は、切り捨てである。
【0045】
式(7)中のKMに、式(4)で表現されるKMを代入すると、以下に示す式(8)が導かれる。
RKM={n+(Me+Mc)/Mr}-Floor(n+(Me+Mc)/Mr)
・・・(8)
【0046】
nは整数であるため、小数点以下の部分を表すRKMとは無関係となる。したがって、RKMは、以下の式(9)のように表現される。
RKM=(Me+Mc)/Mr-Floor((Me+Mc)/Mr)・・・(9)
【0047】
なお、NKMをMriで除した場合における余りが、RKMとして定義されてもよい。
【0048】
RKM-KMDプロットにおいて、指定されたモノマー単位を有し、かつ、末端基とカチオン化剤との組み合わせが同一である複数のポリマーを表す複数のピーク点は、一点に集まる。つまり、同一のポリマー同士では、Me、Mc及びMrが同じ値になるため、RKMは同じ値となる。そのため、RKM-KMDプロット上では、同一のポリマーシリーズは一点に集まる。RKM-KMDプロットによれば、末端基とカチオン化剤との組み合わせの違いにより、複数のポリマーを空間的に区別することが可能となる。なお、カチオン化剤が同じ場合には、末端基の違いから、複数のポリマーを空間的に区別することが可能となる。
【0049】
RKM-KMDプロットでは、分子量分布を把握することができないため、図2に示されているKMDプロットとRKM-KMDプロットの両方を用いて、分析が行われてもよい。
【0050】
上述したKMDプロット、及び、RKM-KMDプロットは、マススペクトル中のピークリストに対してデアイソトープ処理を適用した場合のプロットである。以下では、デアイソトープ処理を適用する前のピークリスト(つまり、同位体ピークを含むピークリスト)に基づいて生成される各プロットについて説明する。
【0051】
化合物を構成する元素には複数の安定同位体が存在するため、化合物を構成する元素に応じて同位体ピークが検出される。図4には、(CO)の各同位体ピークが示されている。具体的には、(CO)、(CO)23、(CO)45、(CO)90、(CO)136、及び、(CO)182のそれぞれの同位体ピークが示されている。各マススペクトルにおいて、横軸はm/zであり、縦軸はイオン強度である。それぞれのm/zは、44、1000、2000、4000、6000、8000程度である。
【0052】
化合物を構成する元素のうち最も存在の大きい安定同位体(炭素12C、水素H、酸素16O)のみで構成されるピークは、モノアイソトピックピークと呼ばれ、一般的に、最もm/zの小さいピークである。
【0053】
同位体ピークは、モノアイソトピックピークから1u毎に増えるが、質量が大きくなるに従い、モノアイソトピックピークの割合が小さくなる。同位体ピークも含めて解析する場合、KMDプロットやRKM-KMDプロットにおいては、1u間隔で離れた位置に、モノアイソトピックピークと同位体ピークが現れる。図4においては、矢印が指し示すピークが、モノアイソトピックピークである。
【0054】
図5には、デアイソトープ処理が適用されていないRKM-KMDプロットが示されている。図5に示されているRKM-KMDプロットは、図3に示されているRKM-KMDプロットの基になるデータと同じデータを、デアイソトープ処理を行わずにマッピングすることで生成されたプロットである。
【0055】
以上のようなKMDプロット及びRKM-KMDプロットは、精密質量を用いたプロットであるため、これらのプロットを用いた解析は、主に分子量が3000以下のポリマーが対象となる。
【0056】
以下では、比較的分子量が大きいポリマーを解析するためのNKM-RKMプロットについて説明する。横軸にNKMをとり、縦軸にRKMをとり、それらの2軸で定義される座標系に対して、複数のピークを複数のピーク点としてマッピングすることで、NKM-RKMプロットが生成される。
【0057】
上述したように、指定されたモノマー単位を有し、かつ、末端基とカチオン化剤との組み合わせが同一である複数のポリマーが分析対象である場合、RKMは同じ値となるため、NKM-RKMプロット上では、当該複数のポリマーは、横軸に平行な点の集まりとして表現される。
【0058】
分析対象の分子量が大きくなると、モノアイソトピックピークの割合が小さくなるため、デアイソトープ処理を行わずに解析が行われてもよい。この場合、上述したように同位体ピークの影響が大きくなる。同位体ピークの中で最もイオン強度の強いピークは、分子量が大きくなるに従い、高質量側にシフトする。この場合、NKM-RKMプロット上の同一ポリマーシリーズを表現するピーク点集団は、右斜め上に向かって分布することになる。
【0059】
図6には、NKM-RKMプロットの一例が示されている。このプロットは、m/zが1000~8000程度の分子量分布を有するポリメタクリル酸メチルのNKM-RKMプロットである。Mrとして、Cの質量が用いられている。
【0060】
以下に示す実施形態では、上述したプロットに含まれるピーク点集団を利用することで、マススペクトルに含まれる同一のポリマーシリーズが識別される。
【0061】
(質量分析システム10の構成)
図7を参照して、実施形態に係る質量分析システム10について説明する。図7は、質量分析システム10の構成を示すブロック図である。
【0062】
質量分析システム10は、質量分析装置12と情報処理装置14とを含む。情報処理装置14は、マススペクトル処理装置として機能する。後述するように、情報処理装置14によって、KM、KMD、NKM及びRKM等の値が算出され、KMDプロット、RKM-KMDプロット、NKM-RKMプロット等のプロットが生成される。分析対象となる試料は、合成ポリマー又は天然ポリマーである。具体的には、その試料は、複数のポリマーを含む混合物である。なお、他の試料が分析されてもよい。
【0063】
質量分析装置12は、イオン源16、質量分析部18及び検出器20を含む。それらは、電気的部品及び機械的部品を含む機器である。
【0064】
イオン源16は、例えば、マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI:Matrix Assisted Laser Desorption/Ionization)法に従うイオン源である。MALDIによれば、もっぱら1価イオンが生成される。他のイオン源が用いられてもよい。
【0065】
質量分析部18は、イオンが有する質量(正確にはm/z)に応じて、質量分離を行う機器である。例えば、飛行時間型質量分析計が用いられる。他の質量分析計が用いられてもよい。
【0066】
検出器20は、イオンを検出する機器である。検出器20の出力信号はマススペクトルに相当する。マススペクトルに相当する出力信号は、情報処理装置14に入力される。
【0067】
情報処理装置14は、上述したようにマススペクトル処理装置として機能する装置である。情報処理装置14の各機能は、例えば、ハードウェアとソフトウェアとの協働により実現される。具体的には、情報処理装置14は、1又は複数のCPU等のプロセッサを含む。当該1又は複数のプロセッサが、図示しない記憶装置(例えばメモリやハードディスクドライブ等)に記憶されているプログラムを読み出して実行することで、情報処理装置14の各機能が実現される。各機能を実現するためのプログラムは、例えば、可搬性記録媒体又はネットワークを介して情報処理装置14に記憶されてもよい。例えば、情報処理装置14は、パーソナルコンピュータ(PC)によって構成されてもよい。別の例として、情報処理装置14の各機能は、プロセッサや電子回路やASIC(Application Specific Integrated Circuit)等のハードウェア資源により実現されてもよい。その実現においてメモリ等のデバイスが利用されてもよい。更に別の例として、情報処理装置14の各機能は、DSP(Digital Signal Processor)やFPGA(Field Programmable Gate Array)等によって実現されてもよい。情報処理装置14は、複数の情報処理装置によって構成されてもよい。
【0068】
情報処理装置14は、例えば、記憶部22、リスト作成部24、解析部26、グループ化部28、指標演算部30及び表示制御部32を含む。
【0069】
また、情報処理装置14には、表示部34及び操作部36が接続されている。表示部34は、液晶ディスプレイやELディスプレイ等のディスプレイである。表示部34には、例えば、マススペクトルや各プロットやポリマー指標等が表示される。
【0070】
操作部36は、キーボードやポインティング(例えばマウスやタッチパネルやペンタブレット等)等である。例えば、ユーザーが操作部36を操作することで、各種の情報が情報処理装置14に入力される。具体的には、ユーザーが操作部36を操作することで、モノマー単位の質量、後述するグループ化の条件、及び、モノマー指標等が指定される。
【0071】
記憶部22は、例えば、メモリやハードディスクドライブ等の記憶装置によって構成される。記憶部22には、質量分析装置12によって生成されたマススペクトルが記憶される。
【0072】
リスト作成部24は、分析対象のマススペクトルに対してピーク判定を行うことで、ピークリストを作成する。なお、ユーザーが、操作部36を操作することで、分析対象のピークを指定してピークリストを作成してもよい。
【0073】
解析部26は、分析対象のマススペクトルについて、指定されたモノマー単位についてのKM、NKM、KMD及びRKM等の値を算出し、ピークリストに基づいて、ピーク点マップを作成する。ピーク点マップは、KMDプロット、RKM-KMDプロット、及び、NKM-RKMプロット等である。例えば、ユーザーが、操作部36を操作することで、モノマー単位の質量(整数質量及び精密質量)を指定する。
【0074】
グループ化部28は、グループ化条件に従って、ピークリストに含まれる各ピークをグループ化する。グループ化条件は、例えば、KMDプロット、RKM-KMDプロット、及び、NKM-RKMプロット等を用いて設定される。例えば、ユーザーが、操作部36を操作することで、グループ化条件を指定する。なお、グループ化条件が、予め設定されてもよい。
【0075】
指標演算部30は、グループ毎に、グループに含まれる各ピークのイオン強度に基づいて、グループのポリマー指標を演算する。ポリマー指標は、例えば、総イオン強度Itotal、数平均分子量Mn、重量平均分子量Mw、多分散度PD、数平均重合度Dpn、及び、重量平均重合度Dpw等である。ポリマー指標は、ポリマーの性質を示す値である。各値は、以下の式(10)~式(14)のように定義される。
【数1】
【0076】
ここで、Miは、重合度iで特定されるポリマーイオンの重量であり、niは重合度iで特定されるポリマーイオンのイオン量である。Rは繰り返し単位(モノマー)の質量である。なお、重合度iの範囲の最大値及び最小値は、ユーザーによって指定され、又は、予め設定される。各ポリマー指標は、グループの特徴を示している。つまり、各ポリマー指標は、グループの特徴を反映した情報である。
【0077】
表示制御部32は、各種の情報を表示部34に表示させる。例えば、表示制御部32は、マススペクトル、KMDプロット、RKM-KMDプロット、NKM-RKMプロット、及び、モノマー指標等を、表示部34に表示させる。
【0078】
(実施例1に係る処理)
以下、図8を参照して、実施例1に係る処理について説明する。図8は、実施例1に係る処理の流れを示すフローチャートである。
【0079】
まず、質量分析装置12によって、複数のポリマーを含む試料のマススペクトルが取得され、そのマススペクトルが、情報処理装置14の記憶部22に記憶される(S01)。例えば、図1に示されているマススペクトルが取得される。マススペクトルは、m/z軸上に離散的に並んだ複数のピークによって構成される。表示制御部32は、マススペクトルを表示部34に表示させてもよい。
【0080】
次に、リスト作成部24は、マススペクトルに対してピーク判定を行うことで、ピークリストを作成する(S02)。このピークリストが、分析対象ピークリストである。例えば、リスト作成部24は、マススペクトルに含まれる全てのピークを識別し、各ピークのm/zとイオン強度とを特定し、各ピークのm/zとイオン強度との組み合わせを示すピークリストを作成し、そのピークリストを分析対象ピークリストとして定める。リスト作成部24は、特定のm/z範囲に含まれるピークを識別し、その範囲に含まれる各ピークを示すピークリストを分析対象ピークリストとして作成してもよい。その範囲は、ユーザーによって指定されてもよいし、予め設定されてもよい。なお、ユーザーが、操作部36を操作することで、分析対象のピークを指定してもよい。例えば、ユーザーは、表示部34に表示されているマススペクトルを参照して、分析対象のピークを指定する。その指定されたピークを示すピークリストが分析対象ピークリストとして作成される。なお、リスト作成部24は、デアイソトープ処理を実行してもよい。
【0081】
図9には、分析対象ピークリストの一例が示されている。分析対象ピークリストは、例えば、各ピークのm/zとイオン強度との組み合わせを含む。なお、図9に示す例では、分析対象ピークリストは、表形式で表現されているが、図1に示されているマススペクトルと同様の表現形式によって表現されてもよい。
【0082】
次に、ユーザーは、操作部36を操作することで、分析対象ピークリストに含まれるモノマー単位を指定する(S03)。具体的には、モノマー単位の質量(整数質量、精密質量)が指定される。なお、モノマー単位の質量は、予め指定されてもよい。
【0083】
解析部26は、分析対象ピークリストをコピーすることで、表示用ピークリストを作成する(S04)。分析対象ピークリストは、後述する解析部26による解析の対象となるリストである。表示用ピークリストは、表示部34に表示されるリストである。
【0084】
図10には、表示用ピークリストの一例が示されている。表示用ピークリストに含まれる各ピークのm/zとイオン強度との組み合わせは、図9に示されている分析対象ピークリストに含まれる各ピークのm/zとイオン強度との組み合わせと同じである。後述するように、表示用ピークリストにおいて、同じグループに属する各ピークは同じ色で表示され、異なるグループに属する各ピークは異なる色で表示される。つまり、グループ毎に色を異ならせて各ピークが表示される。図10に示す例では、色とハッチングの種類とが対応している。同じ色のピーク(つまり同じグループ)には、同じハッチングが施されている。なお、表示用ピークリストは、表形式で表現されずに、図1に示されているマススペクトルと同様の表現形式によって表現されてもよい。この場合、マススペクトルにおいて、グループ毎に異なる色で各ピークが表現される。
【0085】
次に、解析部26は、分析対象ピークリストに含まれる複数のピークに基づいて、ピーク点マップを作成する(S05)。実施例1では、解析部26は、KMDプロットとRKM-KMDプロットを、ピーク点マップとして作成する。例えば、解析部26は、図2に示されているKMDプロットと、図3に示されているRKM-KMDプロットを作成する。
【0086】
図2に示されているKMDプロットは、ピーク点集合40,42,44,46,48を含む。なお、ピーク点集合44,46は、近いKMDを有している。各ピーク点集合は、横軸に平行に並んだ複数のピーク点によって構成されている。各ピーク点は、あるモノマーのマススペクトルを構成する各ピークに相当する。
【0087】
図3に示されているRKM-KMDプロットは、ピーク点集合50,52,54,56,58を含む。ピーク点集合50は、ピーク点集合40に対応し、ピーク点集合52は、ピーク点集合42に対応し、ピーク点集合54は、ピーク点集合44に対応し、ピーク点集合56は、ピーク点集合46に対応し、ピーク点集合58は、ピーク点集合48に対応する。各ピーク点集合は、複数の重合度に対応した複数のピーク点によって構成されており、当該複数のピーク点が同じ座標上に重畳して表示されている。各ピーク点は、あるモノマーのマススペクトルを構成する各ピークに相当する。
【0088】
以上のように、ポリマー毎にピーク点を集合させる機能を有する座標系(KMDプロットの座標系やRKM-KMDプロットの座標系)を利用することで、注目するポリマーについてのマススペクトルを他のポリマーについてのマススペクトルから精度良く分離することが可能となる。なお、そのような機能を有する座標系として、上記の座標系以外の座標系が用いられてもよい。
【0089】
次に、ユーザーは、操作部36を操作することで、ピークのグループ化の条件を指定する(S06)。ここで指定されるグループ化の条件は、後述する起点ピークのKMDに対する許容範囲と、その起点ピークのRKMに対する許容範囲とを含む。RKMの許容範囲は、KMをMriで除した値の小数点以下の部分として、0~1の範囲内で指定されてもよいし、NKMをMriで除した余りの部分として、0~Mriの範囲内で指定されてもよい。また、ユーザーは、グループ化の対象となるNKMの範囲を指定してもよい。
【0090】
表示制御部32は、KMDプロットとRKM-KMDプロットを表示部34に表示させてもよい。この場合、ユーザーは、表示されているKMDプロットとRKM-KMDプロットを参照して、KMDの許容範囲とRKMの許容範囲をプロット上で指定してもよい。
【0091】
次に、ユーザーは、操作部36を操作することで、マススペクトルから起点ピークを指定する(S07)。例えば、マススペクトルが表示部34に表示され、ユーザーは、その表示されているマススペクトルから起点ピークを指定する。分析対象ピークリストが表示部34に表示され、ユーザーは、その表示されている分析対象ピークリストから起点ピークを指定してもよい。
【0092】
また、ユーザーは、起点ピークのイオン強度の下限値と、グループ化されるグループの最大数を指定する。下限値及び最大数は、予め設定されてもよい。
【0093】
ユーザーが、起点ピークを選択するためのm/z範囲を指定し、グループ化部28は、そのm/z範囲に含まれるピーク群の中から最大のイオン強度を有するピークを起点ピークとして選択してもよい。
【0094】
また、KMDプロットやRKM-KMDプロットが表示部34に表示され、ユーザーは、それらのプロット上で、起点ピークを指定してもよい。
【0095】
次に、グループ化部28は、起点ピークを基準としてグループ化の条件を満たす複数のピークをグループ化する(S08)。つまり、グループ化部28は、起点ピークを基準としてグループ化の条件を満たす複数のピークを、同一のグループに所属させる。同一のグループに属する複数のピークは、同一のポリマーシリーズを構成する。具体的には、グループ化部28は、起点ピークのKMDを基準として、ステップS06にて指定されたKMDの許容範囲内に含まれるKMDを有し、かつ、起点ピークのRKMを基準として、ステップS06にて指定されたRKMの許容範囲内に含まれるRKMを有するピークを、同一のグループに所属させる。その同一のグループに属する複数のピークは、同一のポリマーシリーズを構成する。
【0096】
グループ化部28は、表示用ピークリストのうちグループ化されたピーク群の色を、当該ピーク群以外の他のピーク群の色と異ならせる(S09)。これにより、ピーク群がグループ化されたことが明示される。複数のグループが形成された場合、グループ化部28は、グループ毎に、グループ化されたピーク群の色を変える。
【0097】
図10に示す例では、あるグループに属するピーク群の色は第1色(例えば赤)で表示され、別のグループに属するピーク群の色は第2色(例えば青)で表示される。グループ化の処理が進むにつれて、表示用ピークリストに含まれる各ピークが同じグループ又は別々のグループに分けられて、複数のグループが形成される。そして、表示用ピークリストにおいて、グループ毎に異なる色で各グループに属する各ピークが表示される。表示用ピークリストが、マススペクトルと同様の表現形式によって表現される場合、そのマススペクトルにおいて、あるグループに属するピーク群は第1色で表現され、別のグループに属するピーク群は第2色で表現される。他のグループについても同様である。
【0098】
グループ化部28は、グループ化されたピーク群(以下、「グループ化ピークリスト」と称する)を、分析対象ピークリストから削除する(S10)。
【0099】
グループ化部28によってグループ化されたグループの数が、ステップS07にて設定されたグループの最大数に到達するまで、又は、起点ピークのイオン強度が、ステップS07にて設定された下限値未満となるまで、ステップS07~S10の処理が繰り返し実行される。
【0100】
以上のようにしてグループが作成されると、指標演算部30は、グループ毎に、グループに含まれる各ピークのイオン強度に基づいて、グループのポリマー指標を演算する(S11)。上述したように、ポリマー指標は、総イオン強度Itotal、数平均分子量Mn、重量平均分子量Mw、多分散度PD、数平均重合度Dpn、及び、重量平均重合度Dpw等である。指標演算部30は、これらのポリマー指標の中からユーザーによって指定されたポリマー指標を演算してもよいし、予め設定されたポリマー指標を演算してもよい。
【0101】
表示制御部32は、指標演算部30によって演算されたポリマー指標を表示部34に表示させてもよい。表示制御部32は、KMDプロットやRKM-KMDプロットと共にポリマー指標を表示部34に表示させてもよい。
【0102】
表示制御部32は、図10に示されている表示用ピークリストを表示部34に表示させてもよい。なお、グループ化部28は、図1に示されているマススペクトルにおいて、グループ毎に、同じグループに属するピーク群を同じ色に着色し、表示制御部32は、グループ毎に着色されたマススペクトルを表示部34に表示させてもよい。
【0103】
表示用ピークリスト、KMDプロット、RKM-KMDプロット、及び、演算されたポリマー指標等は、外部の装置に出力されてもよい。
【0104】
実施例1によれば、ユーザーが、グループ化の条件として、KMDの許容範囲とRKMの許容範囲を指定することで、同一のポリマーシリーズを構成する複数のピークをグループ化することが可能となる。このように、簡易な操作によって、同一のポリマーシリーズを構成する複数のピークをグループ化することが可能となる。また、各グループのポリマー指標を演算してユーザーに提供することが可能となる。
【0105】
(実施例2に係る処理)
以下、図11を参照して、実施例2に係る処理について説明する。図11は、実施例2に係る処理の流れを示すフローチャートである。
【0106】
まず、質量分析装置12によって、複数のポリマーを含む試料のマススペクトルが取得され、そのマススペクトルが、情報処理装置14の記憶部22に記憶される(S21)。例えば、図1に示されているマススペクトルが取得される。表示制御部32は、マススペクトルを表示部34に表示させてもよい。
【0107】
次に、リスト作成部24は、マススペクトルに対してピーク判定を行うことで、ピークリストを作成する(S22)。このピークリストが、分析対象ピークリストである。例えば、図9に示されている分析対象ピークリストが作成される。なお、リスト作成部24は、デアイソトープ処理を実行してもよい。
【0108】
次に、ユーザーは、操作部36を操作することで、そのピークリストに含まれるモノマー単位を指定する(S23)。具体的には、モノマー単位の質量(整数質量、精密質量)が指定される。なお、モノマー単位の質量は、予め指定されてもよい。
【0109】
解析部26は、分析対象ピークリストをコピーすることで、表示用ピークリストを作成する(S24)。例えば、図10に示されている表示用ピークリストが作成される。
【0110】
次に、解析部26は、分析対象ピークリストに含まれる複数のピークに基づいて、ピーク点マップを作成する(S25)。実施例2では、解析部26は、NKM-RKMプロットを、ピーク点マップとして作成する。例えば、解析部26は、図6に示されているNKM-RKMプロットを作成する。図6に示されているNKM-RKMプロットは、ピーク点集合60,62を含む。各ピーク点は、あるモノマーのマススペクトルを構成する各ピークに相当する。
【0111】
以上のように、ポリマー毎にピーク点を集合させる機能を有する座標系(NKM-RKMプロットの座標系)を利用することで、注目するポリマーについてのマススペクトルを他のポリマーについてのマススペクトルから精度良く分離することが可能となる。なお、そのような機能を有する座標系として、上記の座標系以外の座標系が用いられてもよい。
【0112】
次に、ユーザーは、操作部36を操作することで、ピークのグループ化の条件を指定する(S26)。ここで指定されるグループ化の条件は、後述する起点ピークのRKMに対する許容範囲を含む。RKMの許容範囲は、KMをMriで除した値の小数点以下の部分として、0~1の範囲内で指定されてもよいし、NKMをMriで除した余りの部分として、0~Mriの範囲内で指定されてもよい。また、ユーザーは、グループ化の対象となるNKMの範囲を指定してもよい。
【0113】
表示制御部32は、NKM-RKMプロットを表示部34に表示させてもよい。この場合、ユーザーは、表示されているNKM-RKMプロットを参照して、RKMの許容範囲をプロット上で指定してもよい。
【0114】
次に、ユーザーは、操作部36を操作することで、マススペクトルから起点ピークを指定する(S27)。例えば、マススペクトルが表示部34に表示され、ユーザーは、その表示されているマススペクトルから起点ピークを指定する。ユーザーは、分析対象ピークリストから起点ピークを指定してもよい。
【0115】
また、ユーザーは、起点ピークのイオン強度の下限値と、グループ化されるグループの最大数を指定する。下限値及び最大数は、予め設定されてもよい。
【0116】
ユーザーが、起点ピークを選択するためのm/z範囲を指定し、グループ化部28は、そのm/z範囲に含まれるピーク群の中から最大のイオン強度を有するピークを起点ピークとして選択してもよい。
【0117】
また、NKM-RKMプロットが表示部34に表示され、ユーザーは、それらのプロット上で、起点ピークを指定してもよい。
【0118】
次に、グループ化部28は、起点ピークを基準としてグループ化の条件を満たす複数のピークをグループ化する(S28)。つまり、グループ化部28は、起点ピークを基準としてグループ化の条件を満たす複数のピークを、同一のグループに所属させる。同一のグループに属する複数のピークは、同一のポリマーシリーズを構成する。具体的には、グループ化部28は、起点ピークのRKMを基準として、ステップS26にて指定されたRKMの許容範囲内に含まれるRKMを有するピークを、同一のグループに所属させる。その同一のグループに属する複数のピークは、同一のポリマーシリーズを構成する。
【0119】
グループ化部28は、表示用ピークリストのうちグループ化されたピーク群の色を、当該ピーク群以外の他のピーク群の色と異ならせる(S29)。これにより、ピーク群がグループ化されたことが明示される。複数のグループが形成された場合、グループ化部28は、グループ毎に、グループ化されたピーク群の色を変える。図10には、その表示例が示されている。
【0120】
グループ化部28は、グループ化されたピーク群であるグループ化ピークリストを、分析対象ピークリストから削除する(S30)。
【0121】
グループ化部28によってグループ化されたグループの数が、ステップS27にて設定されたグループの最大数に到達するまで、又は、起点ピークのイオン強度が、ステップS27にて設定された下限値未満となるまで、ステップS27~S30の処理が繰り返し実行される。
【0122】
以上のようにしてグループが作成されると、指標演算部30は、グループ毎に、グループに含まれる各ピークのイオン強度に基づいて、グループのポリマー指標を演算する(S31)。
【0123】
表示用ピークリスト、NKM-RKMプロット、及び、演算されたポリマー指標等は、外部の装置に出力されてもよい。
【0124】
実施例2によれば、ユーザーが、グループ化の条件として、RKMの許容範囲を指定することで、同一のポリマーシリーズを構成する複数のピークをグループ化することが可能となる。このように、簡易な操作によって、同一のポリマーシリーズを構成する複数のピークをグループ化することが可能となる。また、各グループのポリマー指標を演算してユーザーに提供することが可能となる。
【0125】
(実施例3)
以下、実施例3について説明する。質量分析法では、一般的に、分子量が大きくなるに従い質量誤差が大きくなる。すなわち、KMDのばらつきが大きくなる。
【0126】
実施例3では、グループ化部28は、ピークのNKMに応じてKMDの許容範囲を変えて、分析対象ピークリストに含まれる複数のピークをグループ化する。例えば、グループ化部28は、NKMが大きくなるほど、KMDの許容範囲を徐々に又は段階的に大きくする。
【0127】
例えば、実施例3は、実施例1に組み込まれる。グループ化部28は、実施例1において、ピークのNKMに応じてKMDの許容範囲を変えて、起点ピークのKMDを基準として、KMDの許容範囲内に含まれるKMDを有し、かつ、起点ピークのRKMを基準として、RKMの許容範囲内に含まれるRKMを有するピークを、同一のグループに所属させる。
【0128】
図12には、NKMに応じたKMDの許容範囲の一例が示されている。図12に示されているプロットは、KMDプロットである。符号64は、KMDの許容範囲の上限値を指し示している。符号66は、KMDの許容範囲の下限値を指し示している。符号64が指し示す線分と符号66が指し示す線分との間の範囲が、KMDの許容範囲である。
【0129】
例えば、NKMが小さい領域では、KMDの許容範囲は一定であり、あるNKM(NKMの閾値)を超える領域では、KMDの許容範囲は、NKMに応じて大きくなる。その閾値を超える領域では、例えば、KMDの許容範囲は、NKMに比例して大きくなる。つまり、符号64が指し示す上限値は、NKMに比例して大きくなり、符号66が指し示す下限値は、NKMに比例して小さくなる。
【0130】
なお、図12に示されている許容範囲は一例に過ぎない。上限値又は下限値のいずれか一方のみが、NKMに応じて変わってもよいし、上限値及び下限値の中の少なくとも一方が、KMDプロット上において曲線を描くように変わってもよい。
【0131】
(実施例4)
以下、実施例4について説明する。実施例4では、同位体ピークの分布が考慮されたRKMの許容範囲が設定される。
【0132】
図4を参照して説明したように、同位体ピークの分布は、質量毎に異なる。特に、分子量が大きくなるにしたがって、グループ化すべき同位体ピークの数は多くなる。
【0133】
そこで、実施例4では、起点ピークとして、モノアイソトピックピークが用いられる。例えば、グループ化部28は、モノアイソトピックピークを起点ピークとして指定してグループ化を行ってもよいし、ユーザーが、モノアイソトピックピークを起点ピークとして指定してもよい。例えば、デアイソトープ処理が実行されたピークリストに基づいて、モノアイソトピックピークが起点ピークとして指定される。なお、デアイソトープ処理が実行することができる必要があるため、ポリマーの分子量分布は、m/zが1000~2000程度の範囲まで存在していることが好ましい。
【0134】
また、グループ化部28は、分子量に応じて、グループ化の対象となるピークのRKMの許容範囲を変える。例えば、グループ化部28は、NKMが大きくなるに従い、グループ化の対象となるピークのRKMの許容範囲を大きくする。
【0135】
グループ化部28は、RKMの許容範囲を決定するために、同位体ピークの数を算出する。例えば、試料がポリエチレンオキシドである場合、グループ化部28は、(CO)nのnを変えながら同位体パターンを計算し、同位体ピークの数を算出する。そして、グループ化部28は、その数に応じたRKMの許容範囲を設定する。
【0136】
図13には、NKMに対する、グループ化の対象となる同位体ピークの数が示されている。この数は、モノアイソトピックピークを含む。また、最大のイオン強度の1%以上のイオン強度を有する同位体ピークが、対象となる。
【0137】
RKMが、KMをMriで除した場合における小数点以下の部分であり、0~1の範囲内でRKMの範囲が指定される場合、図13に示されているNKMをMriで除した場合における小数点以下の部分の範囲が、RKMの範囲として用いられる。
【0138】
RKMが、NKMをMriで除した場合の余りであり、0~Mriの範囲内でRKMの範囲が指定される場合、その余りが、RKMの範囲として用いられる。
【0139】
(実施例5)
以下、実施例5について説明する。
【0140】
上記の実施例4では、デアイソトープ処理が可能な比較的低分子領域まで分子量が分布している試料が想定されているが、ポリマーの分子量が、高分子領域のみに分布している場合、モノアイソトピックピークを識別することが困難なことがある。そのような場合、グループ化部28は、同位体ピークの中でイオン強度が最大のピークを起点ピークとして定め、グループ化を実行する。
【0141】
例えば、グループ化部28は、実施例4にて説明した同位体パターンの計算に基づいて、同位体ピークの中でイオン強度が最大となるピークを特定する。
【0142】
図14には、イオン強度が最大となる同位体ピークの位置(モノアイソトピックピークの位置は0である)が示されている。試料は、ポリエチレンオキシドである。
【0143】
グループ化部28は、イオン強度が最大となるピークを起点ピークとして定め、更に、実施例4と同様に、NKMが大きくなるに従い、RKMの許容範囲を大きくして、グループ化を行う。
【0144】
(実施例6)
以下、実施例6について説明する。
【0145】
マススペクトルの中にはポリマーではない物質のピークが含まれることがある。例えば、マトリックス由来のピークや添加剤由来のピーク等が、マススペクトルに含まれることがある。これらのピークは、モノマー単位で現れないため、同一のグループに含まれるピークの数は少ない。
【0146】
実施例6では、グループ化部28は、グループ化されたピークの数の下限値に従って、そのグループ化されたピークが、ポリマーのピークであるか否かを判定する。下限値は、ユーザーによって指定されてもよいし、予め設定されてもよい。
【0147】
例えば、グループ化によって、あるグループが形成され、当該グループに含まれるピークの数が、下限値を超える場合、グループ化部28は、当該グループに含まれるピークは、ポリマーを表すピークであると判定する。
【0148】
一方、当該グループに含まれるピークの数が、下限値以下である場合、グループ化部28は、当該グループに含まれるピークは、ポリマーを表すピークではないと判定する。
【符号の説明】
【0149】
10 質量分析システム、12 質量分析装置、14 情報処理装置、22 記憶部、24 リスト作成部、26 解析部、28 グループ化部、30 指標演算部、32 表示制御部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14