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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-18
(45)【発行日】2023-10-26
(54)【発明の名称】荷電粒子線装置および画像調整方法
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/22 20060101AFI20231019BHJP
   H01J 37/244 20060101ALI20231019BHJP
   H01J 37/317 20060101ALI20231019BHJP
【FI】
H01J37/22 502F
H01J37/244
H01J37/22 502E
H01J37/317 D
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021155341
(22)【出願日】2021-09-24
(65)【公開番号】P2023046640
(43)【公開日】2023-04-05
【審査請求日】2022-12-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000004271
【氏名又は名称】日本電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090387
【弁理士】
【氏名又は名称】布施 行夫
(74)【代理人】
【識別番号】100090398
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 美千栄
(74)【代理人】
【識別番号】100161540
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 良伸
(72)【発明者】
【氏名】三平 智宏
【審査官】藤本 加代子
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-046743(JP,A)
【文献】特開2014-053086(JP,A)
【文献】特開2008-282761(JP,A)
【文献】特開2006-073525(JP,A)
【文献】特開2005-026192(JP,A)
【文献】特開2001-243907(JP,A)
【文献】特開2007-047060(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2021/0192700(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/00-37/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子線で試料を走査して、画像を取得する荷電粒子線装置であって、
前記荷電粒子線で前記試料を走査する光学系と、
前記荷電粒子線で前記試料を走査することによって発生した信号を検出する検出器と、
前記画像のコントラストを調整するコントラスト調整回路と、
前記画像のブライトネスを調整するブライトネス調整回路と、
前記コントラスト調整回路および前記ブライトネス調整回路を制御する制御部と、
を含み、
前記制御部は、
基準画像における無信号状態での輝度の情報、および前記基準画像の各画素の輝度の平均値の情報を取得し、
取得した前記基準画像における無信号状態での輝度の情報に基づいて、前記ブライトネス調整回路を制御し、
前記ブライトネス調整回路が制御された状態で、前記画像を取得し、
前記基準画像の各画素の輝度の平均値に基づいて前記コントラスト調整回路を制御することによって、取得した前記画像のコントラストを調整し、
前記コントラスト調整回路は、前記検出器のゲインをコントラスト値に応じて制御し、
前記制御部は、前記画像の各画素の輝度の平均値と前記コントラスト値の関係式を用いて、前記基準画像の各画素の輝度の平均値の情報から前記コントラスト値を決定する、荷電粒子線装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記ブライトネス調整回路は、前記検出器が出力する像信号に加えるオフセットを、ブライトネス値に応じて制御し、
前記制御部は、前記画像における無信号状態での輝度と前記ブライトネス値の関係式を用いて、前記基準画像における無信号状態での輝度の情報から前記ブライトネス値を決定する、荷電粒子線装置。
【請求項3】
荷電粒子線で試料を走査することによって発生した信号を検出する検出器と、画像のコ
ントラストを調整するコントラスト調整回路と、前記画像のブライトネスを調整するブライトネス調整回路と、を含み、前記荷電粒子線で前記試料を走査して、前記画像を取得する荷電粒子線装置における画像調整方法であって、
基準画像における無信号状態での輝度の情報、および前記基準画像の各画素の輝度の平均値の情報を取得する工程と、
取得した前記基準画像における無信号状態での輝度の情報に基づいて、前記ブライトネス調整回路を制御する工程と、
前記ブライトネス調整回路が制御された状態で、前記画像を取得する工程と、
前記基準画像の各画素の輝度の平均値に基づいて前記コントラスト調整回路を制御することによって、取得した前記画像のコントラストを調整する工程と、
を含み、
前記コントラスト調整回路は、前記検出器のゲインをコントラスト値に応じて制御し、
前記画像の各画素の輝度の平均値と前記コントラスト値の関係式を用いて、前記基準画像の各画素の輝度の平均値の情報から前記コントラスト値を決定する、画像調整方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子線装置および画像調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
走査電子顕微鏡や集束イオンビーム装置などの荷電粒子線装置では、試料の画像を取得できる。例えば、走査電子顕微鏡では、電子線で試料を走査することによってSEM像(scanning electron microscope image)を取得できる。また、例えば、集束イオンビーム装置では、イオンビームで試料を走査することによってSIM像(scanning ion microscope image)を取得できる。
【0003】
このような荷電粒子線装置では、画像を取得する際には、一般的にコントラストとブライトネスの調整が行われる。例えば、特許文献1には、検出器の像信号に加えるゲインを調整することでコントラストを調整し、検出器の像信号にオフセットを加えることでブライトネスを調整する走査透過電子顕微鏡が開示されている。
【0004】
コントラストとブライトネスを調整する方法として、輝度のヒストグラムを用いた手法が知られている。例えば、目標分散値と目標平均値を設定し、調整の対象となる画像から輝度のヒストグラムを生成し、輝度の分散値が目標分散値からずれている場合にはコントラストを調整し、輝度の平均値が目標平均値からずれている場合にはブライトネスを調整する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2019-91715号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記の画像調整方法では、分散値が目標分散値からずれているためコントラストを調整すると、平均値も変化するため、再度、ブライトネスの調整を行わなくてはならない。このように、上記の画像調整方法では、コントラストの調整とブライトネスの調整を繰り返し行い、分散値を目標分散値に収束させ、平均値を目標平均値に収束させる必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る荷電粒子線装置の一態様は、
荷電粒子線で試料を走査して、画像を取得する荷電粒子線装置であって、
前記荷電粒子線で前記試料を走査する光学系と、
前記荷電粒子線で前記試料を走査することによって発生した信号を検出する検出器と、
前記画像のコントラストを調整するコントラスト調整回路と、
前記画像のブライトネスを調整するブライトネス調整回路と、
前記コントラスト調整回路および前記ブライトネス調整回路を制御する制御部と、
を含み、
前記制御部は、
基準画像における無信号状態での輝度の情報、および前記基準画像の各画素の輝度の平均値の情報を取得し、
取得した前記基準画像における無信号状態での輝度の情報に基づいて、前記ブライトネス調整回路を制御し、
前記ブライトネス調整回路が制御された状態で、前記画像を取得し、
前記基準画像の各画素の輝度の平均値に基づいて前記コントラスト調整回路を制御することによって、取得した前記画像のコントラストを調整し、
前記コントラスト調整回路は、前記検出器のゲインをコントラスト値に応じて制御し、
前記制御部は、前記画像の各画素の輝度の平均値と前記コントラスト値の関係式を用いて、前記基準画像の各画素の輝度の平均値の情報から前記コントラスト値を決定する
【0008】
このような荷電粒子線装置では、制御部が基準画像における無信号状態での輝度の情報に基づいてブライトネス調整回路を制御し、基準画像の各画素の輝度の平均値に基づいてコントラスト調整回路を制御することによって、取得した画像のコントラストを調整する。そのため、このような荷電粒子線装置では、ブライトネスの調整とコントラストの調整を独立して行うことができる。したがって、このような荷電粒子線装置では、容易に、ブライトネスの調整およびコントラストの調整を行うことができる。
【0009】
本発明に係る画像調整方法の一態様は、
荷電粒子線で試料を走査することによって発生した信号を検出する検出器と、画像のコントラストを調整するコントラスト調整回路と、前記画像のブライトネスを調整するブライトネス調整回路と、を含み、前記荷電粒子線で前記試料を走査して、前記画像を取得する荷電粒子線装置における画像調整方法であって、
基準画像における無信号状態での輝度の情報、および前記基準画像の各画素の輝度の平均値の情報を取得する工程と、
取得した前記基準画像における無信号状態での輝度の情報に基づいて、前記ブライトネス調整回路を制御する工程と、
前記ブライトネス調整回路が制御された状態で、前記画像を取得する工程と、
前記基準画像の各画素の輝度の平均値に基づいて前記コントラスト調整回路を制御することによって、取得した前記画像のコントラストを調整する工程と、
を含み、
前記コントラスト調整回路は、前記検出器のゲインをコントラスト値に応じて制御し、
前記画像の各画素の輝度の平均値と前記コントラスト値の関係式を用いて、前記基準画像の各画素の輝度の平均値の情報から前記コントラスト値を決定する
【0010】
このような画像調整方法は、基準画像における無信号状態での輝度の情報に基づいてブライトネス調整回路を制御する工程と、基準画像の各画素の輝度の平均値に基づいてコントラスト調整回路を制御することによって、取得した画像のコントラストを調整する工程と、を含む。そのため、このような画像調整方法では、ブライトネスの調整とコントラストの調整を独立して行うことができる。したがって、このような画像調整方法では、容易に、ブライトネスの調整およびコントラストの調整を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態に係る集束イオンビーム装置の構成を示す図。
図2】コントラスト調整回路、プリアンプ回路、およびアンプ回路の構成を示す図。
図3】無信号状態での輝度とブライトネス値の関係式を示すグラフ。
図4】画像の各画素の輝度の平均値とコントラスト値の関係式を示すグラフ。
図5】画像の輝度ヒストグラムの一例。
図6】画像の輝度ヒストグラムの一例。
図7】処理部の画像調整処理の一例を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また、以下で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0013】
1. 集束イオンビーム装置の構成
まず、本発明の一実施形態に係る集束イオンビーム装置について図面を参照しながら説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る集束イオンビーム装置の構成を示す図である
【0014】
集束イオンビーム装置100は、図1に示すように、イオン源10と、光学系20と、試料ステージ30と、二次電子検出器40と、コントラスト調整回路42と、プリアンプ回路50と、アンプ回路60と、制御部70と、PC(パーソナルコンピューター)80と、を含む。
【0015】
集束イオンビーム装置100では、イオン源10から放出されたイオンビームIBを、光学系20で集束して試料2上で走査することで、試料2をエッチング加工することができる。また、集束イオンビーム装置100では、イオンビームIBで試料2を走査し、試料2から放出された電子を二次電子検出器40で検出することで、SIM像を取得できる。
【0016】
イオン源10は、イオンビームIBを放出する。イオン源10では、Ga液体金属イオン源から引き出し電極の電界によりイオンビームIBを発生させ、カソードの電界で加速させる。これにより、イオンビームIBが放出される。
【0017】
光学系20は、集束レンズ21、ブランカー22、可動絞り23、非点収差補正器24、対物レンズ25、および偏向器26を含む。
【0018】
集束レンズ21は、イオン源10で発生したイオンビームIBを集束する。ブランカー22は、イオンビームIBのブランキングを行う。可動絞り23は、イオンビームIBの電流量を選択的に制限する。非点収差補正器24は、イオンビームIBの照射断面が円形になるようにビーム形状を整形する。対物レンズ25は、イオンビームIBを試料2の表面で集束する。偏向器26は、対物レンズ25によって集束されたイオンビームIBを二次元的に偏向させる。これにより、イオンビームIBで試料2上を走査できる。
【0019】
試料ステージ30は、試料2を保持している。試料ステージ30は、試料2を水平方向や垂直方向に移動させることができる。また、試料ステージ30は、試料2を回転させたり、傾斜させたりできる。
【0020】
二次電子検出器40は、イオンビームIBを試料2に照射することによって試料2から放出された二次電子を検出する。二次電子検出器40から出力される像信号(二次電子の強度信号)は、プリアンプ回路50およびアンプ回路60を介して制御部70に送られる。
【0021】
制御部70は、SIM像のブライトネスおよびコントラストを調整する画像調整処理を行う。画像調整処理については後述する。制御部70は、例えば、CPU(Central Processing Unit)および記憶装置(RAM(Random Access Memory)およびROM(Read Only Memory)など)を含む。制御部70では、CPUで記憶装置に記憶されたプログラムを実行することにより、各種計算処理、各種制御処理を行う。なお、制御部70の機能の少なくとも一部を、ASIC(ゲートアレイ等)などの専用回路により実現してもよい。
【0022】
PC80は、表示部として機能するディスプレイを含み、ディスプレイには、制御部70で生成されたSIM像や、集束イオンビーム装置100を操作するためのGUI(Graphical User Interface)が表示される。
【0023】
図2は、コントラスト調整回路42、プリアンプ回路50、およびアンプ回路60の構成を示す図である。
【0024】
集束イオンビーム装置100では、SIM像を観察する際には、コントラストとブライトネスの調整を行う。
【0025】
コントラストの調整は、像信号に与えるゲインを制御することで行われる。制御部70がコントラスト調整回路42に対してコントラスト値を設定することでコントラストを調整できる。ブライトネスの調整は、像信号に加算するオフセットを調整することで行われる。制御部70がプリアンプ回路50に対してブライトネス値を設定することでブライトネスを調整できる。
【0026】
コントラスト調整回路42は、制御部70からコントラスト値の情報を受けとり、二次電子検出器40のゲインをコントラスト値に応じて制御する。
【0027】
プリアンプ回路50は、図2に示すように、加算器52と、増幅器54と、を含む。
【0028】
コントラストを調整して二次電子検出器40により検出される像信号は、試料2に照射されるイオンビームIBの電流量(エミッション電流)I1と試料2の輝度成分Sの積(S×I1)となる。像信号(S×I1)は、加算器52によってブライトネス値Bが加算され、増幅器54によってGp倍に増幅される。したがって、プリアンプ回路50の出力信号V1は、V1=Gp×(S×I1+B)で表される。プリアンプ回路50は、ブライトネスを調整するためのブライトネス調整回路として機能する。
【0029】
アンプ回路60は、増幅器62を含む。プリアンプ回路50の出力信号V1は、増幅器62によってGa倍に増幅される。したがって、アンプ回路60の出力信号V2は、V2=Ga×Gp×(S×I1+B)で表される。
【0030】
アンプ回路60の出力信号V2は、A/D変換器64によってA/D変換され、制御部70に送られる。像信号は、制御部70において所定の演算処理が行われ、SIM像が生成される。例えば、像信号と当該像信号が得られた位置情報(座標)に基づいて、二次電子の強度の分布を示すSIM像が生成される。制御部70で生成されたSIM像は、PC80のディスプレイに表示される。
【0031】
2. 画像調整方法
集束イオンビーム装置100では、制御部70がブライトネスおよびコントラストを調整するための画像調整処理を行う。以下、画像調整処理について詳細に説明する。
【0032】
2.1. 基準画像の取得
まず、集束イオンビーム装置100において、ブライトネスおよびコントラストの基準となる基準画像を取得する。例えば、SIM像(以下、単に画像ともいう)が好みの明るさ(ブライトネス)およびコントラストになるようにユーザーがブライトネスおよびコントラストを調整することで、基準画像を取得する。制御部70が基準画像を用いて、ブライトネスおよびコントラストを調整することで、基準画像と同様のブライトネスおよびコントラストの画像が得られる。
【0033】
2.2. ブライトネスを調整するための指標
集束イオンビーム装置100では、ブライトネスを調整するための指標として、画像の無信号状態での輝度を用いる。画像の無信号状態での輝度とは、当該画像を取得したときのブライトネス値が設定された状態で、無信号状態にしたときの画像の輝度である。無信号状態とは、二次電子検出器40で二次電子(信号)が検出されない状態をいう。
【0034】
上述したように、アンプ回路60の出力信号V2は、V2=Ga×Gp×(S×I1+B)で表される。すなわち、画素の輝度は、アンプ回路60の出力信号V2=Ga×Gp×(S×I1+B)に応じた値となる。ここで、無信号状態では、S×I1=0である。そのため、無信号状態での輝度は、V2=Ga×Gp×Bに応じた値となる。したがって、無信号状態での輝度を、ブライトネスを調整するための指標とすることができる。
【0035】
なお、二次電子検出器40に設定されるゲインを零にした状態は、二次電子検出器40で二次電子(信号)が検出されない状態と等しい。すなわち、無信号状態での輝度は、ゲインを零にした状態の輝度と等しい。したがって、無信号状態での輝度として、ゲインを零にした状態の輝度を用いてもよい。
【0036】
上述したように、アンプ回路60の出力信号V2は、V2=Ga×Gp×(S×I1+B)で表される。ゲインを零にした場合、S×I1=0となる。そのため、ゲインを零にした場合、V2=Ga×Gp×Bとなる。したがって、無信号状態での輝度として、ゲインを零にした状態の輝度を用いることができる。
【0037】
また、無信号状態では、理想的にはすべての画素の輝度は等しいため、無信号状態での輝度は、無信号状態において画像の各画素の輝度の平均値、すなわち、全画素の輝度の和を画素数で割った値であってもよいし、任意の1つの画素の輝度であってもよい。
【0038】
制御部70は、画像の無信号状態での輝度を指標としてブライトネスの調整を行う。制御部70は、画像の無信号状態での輝度の目標値(以下、「ブライトネス目標値」ともいう)として、基準画像における無信号状態での輝度を用いる。
【0039】
図3は、集束イオンビーム装置100における、無信号状態での輝度とブライトネス値の関係式を示すグラフである。
【0040】
基準画像における無信号状態での輝度は、図3に示す無信号状態での輝度とブライトネス値の関係式を用いて、基準画像を取得したときのブライトネス値から求めることができる。図3に示す例では、関係式y=0.24x-350において、xに基準画像を取得したときのブライトネス値を代入することで、基準画像における無信号状態での輝度を求めることができる。
【0041】
図3に示す関係式は、集束イオンビーム装置100においてブライトネス値を変化させながら無信号状態での輝度を測定し、測定結果をグラフにプロットして、直線近似することで求めることができる。図3に示す関係式は、装置固有のものである。
【0042】
なお、ブライトネス目標値として、基準画像を取得したときのブライトネス値をそのまま用いることもできる。しかしながら、ブライトネス目標値としてブライトネス値をそのまま用いると、その目標値は、目標値を取得した装置にのみしか用いることができない。ブライトネス目標値として、無信号状態での輝度を用いることで、ブライトネス目標値を他の装置にも用いることができる。
【0043】
2.3. ブライトネスの調整方法
制御部70は、基準画像における無信号状態での輝度の情報に基づいて、プリアンプ回路50を制御する。
【0044】
具体的には、まず、制御部70は、図3に示す画像の無信号状態での輝度とブライトネス値の関係式を用いて、ブライトネス目標値からブライトネス値を決定する。
【0045】
上述したように、ブライトネス目標値は、基準画像の無信号状態での輝度である。図3に示す関係式に、基準画像における無信号状態での輝度を代入することで、ブライトネス値を求めることができる。図3に示す例では、関係式y=0.24x-350において、yにブライトネス目標値を代入することで、ブライトネス値を求めることができる。
【0046】
次に、制御部70は、像信号に決定されたブライトネス値に応じたオフセットが加算されるように、プリアンプ回路50を制御する。これにより、ブライトネスを調整できる。
【0047】
2.4. コントラストを調整するための指標
集束イオンビーム装置100では、コントラストを調整するための指標として、画像の各画素の輝度の平均値(以下、平均輝度ともいう)を用いる。平均輝度は、画像の全画素の輝度の和を画素数で割った値である。
【0048】
制御部70は、平均輝度を指標として、コントラストの調整を行う。制御部70は、平均輝度の目標値(以下、コントラスト目標値ともいう)として、基準画像の各画素の輝度の平均値(以下、基準画像の平均輝度ともいう)を用いる。
【0049】
2.5. コントラストの調整方法
制御部70は、上述したブライトネスの調整が終了した後、コントラストの調整を行う。制御部70は、基準画像の平均輝度に基づいて、プリアンプ回路50を制御する。
【0050】
具体的には、まず、制御部70は、平均輝度とコントラスト値の関係式を用いて、コントラスト目標値からコントラスト値を決定する。
【0051】
図4は、集束イオンビーム装置100における、平均輝度とコントラスト値の関係式を示すグラフである。図4には、照射電流IpがIp=1nAの場合の関係式と、Ip=23pAの場合の関係式を示している。なお、図4では、縦軸yとして、平均輝度から無信号状態での輝度を差し引いた値を用いている。
【0052】
上述したように、コントラスト目標値は、基準画像の平均輝度である。図4に示す関係式に、基準画像の平均輝度を代入することで、コントラスト値を求めることができる。図4に示す例では、例えば、関係式y=0.01e0.0055xにおいて、yにコントラスト目標値を代入することで、コントラスト値を求めることができる。
【0053】
図4に示す関係式は、集束イオンビーム装置100においてコントラスト値を変化させながら画像の各画素の輝度の平均値を計算し、計算結果をグラフにプロットして、指数関数で近似することで求めることができる。図4に示す関係式は、装置固有のものである。なお、図4に示すように、照射電流Ipごとに関係式を求めてもよい。
【0054】
次に、制御部70は、像信号に決定されたコントラスト値に応じたゲインが与えられるように、コントラスト調整回路42を制御する。この結果、二次電子検出器40にコントラスト値に応じたゲインが設定される。これにより、コントラストを調整できる。
【0055】
3. 画像調整の原理
図5および図6は、集束イオンビーム装置100で取得された画像の輝度ヒストグラムの一例である。
【0056】
上述したように、まず、ブライトネスの調整を行う。ブライトネスの調整では、無信号状態での輝度が、基準画像の無信号状態での輝度に一致するように、ブライトネス値が決定される。この結果、図5に示すヒストグラムにおいて、輝度の下限値が決まる。
【0057】
次に、コントラストの調整を行う。コントラストの調整では、取得した画像の平均輝度が、基準画像の平均輝度と一致するように、コントラスト値が決定される。この結果、図6に示すように取得した画像の平均輝度が決まる。以上の処理により、画像のブライトネスの調整およびコントラストの調整を行うことができる。
【0058】
ここで、図5および図6に示すように、コントラストの調整を行っても、輝度の下限値は変化しない。そのため、集束イオンビーム装置100における画像調整方法では、ブライトネスの調整とコントラストの調整を独立して行うことができる。
【0059】
4. 処理
図7は、制御部70の画像調整処理の一例を示すフローチャートである。
【0060】
まず、制御部70は、ブライトネスを調整するためのブライトネス目標値(基準画像における無信号状態での輝度)およびコントラストを調整するためのコントラスト目標値(基準画像の各画素の輝度の平均値)を取得する(S10)。
【0061】
例えば、ユーザーがPC80のディスプレイに表示された画像を見ながら、手動で、画像を好みのブライトネス(明るさ)およびコントラストに調整する。この状態で、集束イオンビーム装置100を操作するためのGUI上で、所定のボタンを押すと、制御部70は、基準画像における無信号状態での輝度の情報、および基準画像の各画素の輝度の平均値の情報を取得する。
【0062】
制御部70は、基準画像を取得したときのブライトネス値の情報を取得し、図3に示す無信号状態での輝度とブライトネス値の関係式を用いて無信号状態での輝度を計算し、ブライトネス目標値を取得する。また、制御部70は、基準画像の平均輝度を計算し、コントラスト目標値を取得する。
【0063】
なお、上記では、画像全体において、基準画像における無信号状態での輝度の情報、および基準画像の各画素の輝度の平均値の情報を取得したが、これらの情報を取得するための領域が指定可能となっていてもよい。すなわち、指定された画像の領域において、基準画像における無信号状態での輝度の情報、および基準画像の各画素の輝度の平均値の情報を取得してもよい。
【0064】
次に、制御部70は、ブライトネス目標値からブライトネス値を求める(S12)。制御部70は、図3に示す画像の無信号状態での輝度とブライトネス値の関係式を用いて、取得したブライトネス目標値からブライトネス値を決定する。
【0065】
次に、制御部70は、ブライトネスの調整を行う(S14)。制御部70は、像信号に決定されたブライトネス値に応じたオフセットが加算されるように、プリアンプ回路50を制御する。
【0066】
次に、制御部70は、プリアンプ回路50が制御された状態で、すなわち、像信号に決定されたブライトネス値に応じたオフセットが加えられた状態で、画像を取得する(S16)。制御部70は、光学系20を制御してイオンビームIBで試料2を走査し、二次電子検出器40から出力された像信号をプリアンプ回路50およびアンプ回路60を介して取得し、画像(SIM像)を生成する。これにより、画像を取得できる。
【0067】
次に、制御部70は、取得した画像の平均輝度を求める(S18)。制御部70は、取得した画像の平均輝度が所定範囲内か否かを判定する(S20)。
【0068】
例えば、輝度が256諧調で表されている場合、所定範囲を50以上200以下に設定する。これにより、飽和した画像や極端に暗い画像を処理から除外できる。なお、所定範囲は、適宜変更可能である。
【0069】
制御部70は、平均輝度が所定範囲内ではないと判定した場合(S20のNo)、コントラストを一定量変化させる(S22)。具体的には、平均輝度が50未満の場合には、平均輝度が高くなるように一定量コントラストを変化させる。すなわち、コントラスト値を一定量増加させる。平均輝度が200を超える場合には、平均輝度が低くなるように一定量コントラストを変化させる。すなわち、コントラスト値を一定量減少させる。前記一定量は、例えば、あらかじめ設定された量である。なお、一定量は、適宜変更可能である。
【0070】
制御部70は、コントラストを一定量変化させた後、処理S16に戻って、画像を取得し(S16)、取得した画像の平均輝度を求め(S18)、平均輝度が所定範囲内か否かを判定する(S20)。制御部70は、取得した画像の平均輝度が所定範囲内と判定されるまで、処理S16、処理S18、処理S20、処理S22を繰り返す。
【0071】
制御部70は、平均輝度が所定範囲内と判定した場合(S20のYes)、取得した画像の平均輝度がコントラスト目標値と一致しているか否かを判定する(S24)。すなわち、制御部70は、取得した画像の平均輝度が基準画像の平均輝度と一致しているか否かを判定する。
【0072】
制御部70は、取得した画像の平均輝度がコントラスト目標値と一致していないと判定した場合(S24のNo)、基準画像の平均輝度に基づいてコントラスト値を決定する(S26)。制御部70は、図4に示す平均輝度とコントラスト値の関係式を用いて、コントラスト目標値からコントラスト値を決定する。
【0073】
次に、制御部70は、コントラストの調整を行う(S28)。制御部70は、像信号に決定されたコントラスト値に応じたゲインが与えられるように、コントラスト調整回路42を制御する。これにより、二次電子検出器40にコントラスト値に応じたゲインが設定される。
【0074】
制御部70は、コントラストの調整(S28)を行った後、処理S16に戻って、画像を取得する処理(S16)、取得した画像の平均輝度を求める処理(S18)、平均輝度が所定範囲内か否かを判定する処理(S20)を行う。制御部70は、取得した画像の平均輝度がコントラスト目標値と一致していると判定されるまで、処理S16、処理S18、処理S20、処理S22、処理S24、処理S26、処理S28を繰り返す。
【0075】
制御部70は、取得した画像の平均輝度がコントラスト目標値と一致したと判定した場合(S24のYes)、画像調整処理を終了する。
【0076】
なお、ここでは、処理S24において取得した画像の平均輝度がコントラスト目標値と一致しているか否かを判定したが、取得した画像の平均輝度とコントラスト目標値を比較して、コントラストの調整を行うか否かを判定できればよい。例えば、取得した画像の平均輝度とコントラスト目標値の差が、所定値よりも大きい場合に、コントラスト値を決定し(S26)、コントラストの調整(S28)を行ってもよい。
【0077】
また、上記では、処理S10において、ユーザーがブライトネスおよびコントラストを調整して基準画像を生成し、ブライトネス目標値およびコントラスト目標値を取得したが
、制御部70にブライトネス目標値およびコントラスト目標値があらかじめ設定されていてもよい。
【0078】
5. 効果
集束イオンビーム装置100は、画像のコントラストを調整するコントラスト調整回路42と、画像のブライトネスを調整するブライトネス調整回路(プリアンプ回路50)と、コントラスト調整回路42およびプリアンプ回路50を制御する制御部70と、を含む。制御部70は、基準画像における無信号状態での輝度の情報、および基準画像の各画素の輝度の平均値の情報を取得し、取得した無信号状態での輝度の情報に基づいてプリアンプ回路50を制御する。また、制御部70は、プリアンプ回路50が制御された状態で画像を取得し、基準画像の各画素の輝度の平均値に基づいてコントラスト調整回路42を制御することによって、取得した画像のコントラストを調整する処理と、を行う。
【0079】
そのため、集束イオンビーム装置100では、ブライトネスの調整とコントラストの調整を独立して行うことができる。例えば、コントラストとブライトネスの調整を輝度の分散と平均を指標として行う場合、コントラストの調整とブライトネスの調整を繰り返して、分散と平均をそれぞれ目標値に収束させなければならない。
【0080】
これに対して、集束イオンビーム装置100では、ブライトネスの調整とコントラストの調整を独立して行うことができるため、このような繰り返し回数を低減できる。したがって、集束イオンビーム装置100では、容易に、ブライトネスの調整およびコントラストの調整を行うことができる。
【0081】
また、集束イオンビーム装置100では、コントラストの調整において画像の輝度分散を指標としないため、例えば構造物がなくコントラストの変化が小さい画像などでも、安定した調整が可能である。例えば、構造物がなくコントラストの変化が小さい画像に対して、輝度分散を指標としてコントラストの調整を行うと、目標分散値に合わせて分散値を大きくするため(ヒストグラムの幅を大きくするため)、ノイズが強調された画像になってしまう場合がある。これに対して、画像の平均輝度を指標としてコントラストを調整すると、コントラストの変化が小さい場合であっても、ノイズが強調されることなく、良好なコントラストの画像が得られる。
【0082】
また、コントラストを調整するための指標を無信号状態での輝度とし、ブライトネスを調整するための指標を平均輝度とすることによって、異なる装置間であっても、同じ目標値を用いて画像調整が可能である。例えば、装置ごとに、無信号状態での輝度とブライトネス値の関係式、および平均輝度とコントラスト値の関係式を準備することで、異なる装置間であっても、同じ目標値を用いて画像調整が可能である。
【0083】
集束イオンビーム装置100では、プリアンプ回路50は、二次電子検出器40が出力する像信号に加えるオフセットを、ブライトネス値に応じて制御し、制御部70は、画像における無信号状態での輝度とブライトネス値の関係式を用いて、基準画像における無信号状態での輝度の情報からブライトネス値を決定する。このように集束イオンビーム装置100では、基準画像における無信号状態での輝度に基づいてブライトネスを調整できる。
【0084】
集束イオンビーム装置100では、コントラスト調整回路42は、二次電子検出器40のゲインをコントラスト値に応じて制御し、制御部70は、画像の各画素の輝度の平均値とコントラスト値の関係式を用いて、基準画像の各画素の輝度の平均値の情報からコントラスト値を決定する。このように集束イオンビーム装置100では、基準画像の各画素の輝度の平均値に基づいてブライトネスを調整できる。
【0085】
6. 変形例
例えば、集束イオンビーム装置100において、自動で画像を取得する場合に、自動動作の設定(レシピ)に、ブライトネス目標値およびコントラスト目標値を加えてもよい。このときブライトネス目標値およびコントラスト目標値は、あらかじめ設定された値であってもよいし、ユーザーが好みの画像から取得したブライトネス目標値およびコントラスト目標値であってもよい。ブライトネス目標値およびコントラスト目標値は、上述したように、異なる装置間であっても用いることができるため、あらかじめレシピに組み込むことで、自動で画像を取得する場合であっても、好みの画像を得ることができる。また、異なる装置間でレシピの共有が可能である。
【0086】
また、上記では、本発明に係る荷電粒子線装置として、イオンビームで試料を走査する集束イオンビーム装置を例に挙げたが、例えば、本発明に係る荷電粒子線装置は、電子ビームで試料を走査する走査電子顕微鏡や走査透過電子顕微鏡などの電子顕微鏡であってもよい。
【0087】
なお、上述した実施形態及び変形例は一例であって、これらに限定されるわけではない。例えば各実施形態及び各変形例は、適宜組み合わせることが可能である。
【0088】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、さらに種々の変形が可能である。例えば、本発明は、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成を含む。実質的に同一の構成とは、例えば、機能、方法、及び結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成である。また、本発明は、実施形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【符号の説明】
【0089】
2…試料、10…イオン源、20…光学系、21…集束レンズ、22…ブランカー、23…可動絞り、24…非点収差補正器、25…対物レンズ、26…偏向器、30…試料ステージ、40…二次電子検出器、42…コントラスト調整回路、50…プリアンプ回路、52…加算器、54…増幅器、60…アンプ回路、62…増幅器、64…A/D変換器、70…制御部、100…集束イオンビーム装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7