(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-18
(45)【発行日】2023-10-26
(54)【発明の名称】電子顕微鏡及び電子顕微鏡の制御方法
(51)【国際特許分類】
H01J 37/26 20060101AFI20231019BHJP
【FI】
H01J37/26
(21)【出願番号】P 2021168130
(22)【出願日】2021-10-13
【審査請求日】2022-12-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000004271
【氏名又は名称】日本電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090387
【氏名又は名称】布施 行夫
(74)【代理人】
【識別番号】100090398
【氏名又は名称】大渕 美千栄
(74)【代理人】
【識別番号】100161540
【氏名又は名称】吉田 良伸
(72)【発明者】
【氏名】金子 武司
(72)【発明者】
【氏名】石川 勇
(72)【発明者】
【氏名】奥西 栄治
【審査官】田中 秀直
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-103387(JP,A)
【文献】特開2012-204041(JP,A)
【文献】特開2006-059687(JP,A)
【文献】特開2018-137160(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0284744(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2006/0038127(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/00-37/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子線のブランキングを行うブランカーと、
試料を傾斜可能に保持するステージと、
前記
電子線のブランキングを制御して前記試料にパルスビームを照射させるブランキング制御部と、
前記試料の傾斜角度を制御する傾斜制御部とを含み、
前記ブランキング制御部は、
前記試料の傾斜角度に基づいて、前記パルスビームのデューティ比を
、前記傾斜角度の絶対値が大きいほど大きくなるように設定する、
電子顕微鏡。
【請求項2】
請求項
1において、
前記ブランカーは、静電偏向板である、
電子顕微鏡。
【請求項3】
電子線のブランキングを行うブランカーと、試料を傾斜可能に保持するステージとを備えた
電子顕微鏡の制御方法であって、
前記
電子線のブランキングを制御して前記試料にパルスビームを照射させるブランキング制御工程と、
前記試料の傾斜角度を制御する傾斜制御工程とを含み、
前記ブランキング制御工程では、
前記試料の傾斜角度に基づいて、前記パルスビームのデューティ比を
、前記傾斜角度の絶対値が大きいほど大きくなるように設定する、
電子顕微鏡の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子線装置及び荷電粒子線装置の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
透過型電子顕微鏡(TEM)や走査透過型電子顕微鏡(STEM)にCT法を適用することで3次元構造物の構造観察・構造解析を可能とする手法(トモグラフィー)が知られている(例えば、特許文献1)。トモグラフィーでは、試料を様々な角度で傾斜させ、傾斜角度ごとの透過電子顕微鏡像(傾斜像シリーズ)を取得する。ここで、試料を傾斜させると試料の見かけの厚みが変わるため、試料の傾斜角度に応じて露光時間(傾斜像のデータ取得時間)を変え、傾斜角度が大きいほど露光時間が長くなるようにすることが行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のように検出器のデータ取得時間によって電子線照射量を制御すると、傾斜像シリーズを取得する際に多大な時間を必要とする。データ取得時間が長くなると、試料ドリフトが起こることで取得画像の劣化を招き、また、電子線照射によって試料が受けるダメージも大きくなる。
【0005】
本発明は、以上のような問題点に鑑みてなされたものであり、本発明のいくつかの態様によれば、データ取得時間の長時間化を防ぐことが可能な荷電粒子線装置及び荷電粒子線装置の制御方法を提供することができる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本発明に係る電子顕微鏡は、電子線のブランキングを行うブランカーと、試料を傾斜可能に保持するステージと、前記電子線のブランキングを制御して前記試料にパルスビームを照射させるブランキング制御部と、前記試料の傾斜角度を制御する傾斜制御部とを含み、前記ブランキング制御部は、前記試料の傾斜角度に基づいて、前記パルスビームのデューティ比を、前記傾斜角度の絶対値が大きいほど大きくなるように設定する。
【0007】
また、本発明に係る電子顕微鏡の制御方法は、電子線のブランキングを行うブランカーと、試料を傾斜可能に保持するステージとを備えた電子顕微鏡の制御方法であって、前記電子線のブランキングを制御して前記試料にパルスビームを照射させるブランキング制御工程と、前記試料の傾斜角度を制御する傾斜制御工程とを含み、前記ブランキング制御工程では、前記試料の傾斜角度に基づいて、前記パルスビームのデューティ比を、前記傾斜角度の絶対値が大きいほど大きくなるように設定する。
【0008】
本発明によれば、傾斜角度に応じて、パルスビームのデューティ比を変えることにより荷電粒子線照射量を制御するため、データ取得時間の長時間化を防ぐことができる。
【0010】
(3)本発明に係る荷電粒子線装置及び荷電粒子線装置の制御方法では、前記ブランカーは、静電偏向板であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本実施形態に係る荷電粒子線装置の構成の一例を示す図。
【
図2】パルスビームのデューティ比と電子線照射量との関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また以下で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0013】
図1は、本実施形態に係る荷電粒子線装置(電子顕微鏡)の構成の一例を示す図である。ここでは、電子顕微鏡が、透過型電子顕微鏡(TEM)の構成を有する場合について説明するが、電子顕微鏡は、走査透過型電子顕微鏡(STEM)の構成を有していてもよい。なお本実施形態の電子顕微鏡は
図1の構成要素(各部)の一部を省略した構成としてもよい。
【0014】
図1に示すように、電子顕微鏡1は、電子顕微鏡本体10と、処理部100と、操作部110と、表示部120と、記憶部130とを含む。
【0015】
電子顕微鏡本体10は、電子線源11と、ブランカー12と、照射レンズ系13と、偏向器14と、ステージ15と、対物レンズ16と、投影レンズ17と、検出器18と、ブランカー制御装置20と、ステージ制御装置21とを含む。
【0016】
電子線源11は、電子線(荷電粒子線の一例)を発生させる。電子線源11は、陰極から放出された電子を陽極で加速し電子線を放出する。電子線源11としては、例えば、電子銃を用いることができる。
【0017】
ブランカー12は、電子線源11の後段に配置されている。ブランカー12は、電子線のブランキングを行う。ブランカー12としては、高速でON/OFF(非照射/照射)の切り替えが可能な静電偏向板(静電シャッター)を用いる。ブランカー12は、ブランカー制御装置20によって制御される。
【0018】
照射レンズ系13は、ブランカー12の後段に配置されている。照射レンズ系13は、複数の集束レンズ(図示省略)で構成されている。照射レンズ系13は、試料Sに照射される電子線(入射電子線)の収束角を調整する。
【0019】
偏向器14は、照射レンズ系13の後段に配置されている。偏向器14は、複数の偏向コイルと、当該複数の偏向コイルに流れる電流量を制御するための電流制御部(図示省略)とを有する。偏向器14は、電流制御部で各偏向コイルに流れる電流を制御することにより入射電子線を二次元的に偏向させる。
【0020】
ステージ15は、試料Sを偏向器14の後段に位置させるように保持している。ステージ15は、ステージ制御装置21により制御され、試料Sを水平方向や垂直方向に移動させ、また試料Sを回転、傾斜させる。ステージ15は、光軸OAに直交する傾斜軸TAを中心(軸)として傾斜可能に構成され、試料Sが傾斜軸TAを中心(軸)として傾斜するように、試料Sを保持している。
【0021】
対物レンズ16は、試料Sの後段に配置されている。対物レンズ16は、試料Sを透過した電子線を結像させる。投影レンズ17は、対物レンズ16の後段に配置されている。投影レンズ17は、対物レンズ16によって結像された像をさらに拡大し、検出器18上に結像させる。
【0022】
検出器18は、投影レンズ17の後段に配置されている。検出器18は、投影レンズ17によって結像された透過電子顕微鏡像を検出する。検出器18の例として、二次元的に配置されたCCD(Charge Coupled Device)で形成された受光面を有するCCDカメラを挙げることができる。検出器18が検出した透過電子顕微鏡像の像情報は、処理部100に出力される。
【0023】
操作部110は、ユーザが操作情報を入力するためのものであり、入力された操作情報を処理部100に出力する。操作部110の機能は、キーボード、マウス、タッチパネル型ディスプレイなどのハードウェアにより実現することができる。
【0024】
表示部120は、処理部100によって生成された画像を表示するものであり、その機能は、LCD、CRTなどにより実現できる。表示部120は、処理部100により生成された、透過電子顕微鏡像や、再構成断面像、3次元像を表示する。
【0025】
記憶部130は、処理部100の各部としてコンピュータを機能させるためのプログラムや各種データを記憶するとともに、処理部100のワーク領域として機能し、その機能はハードディスク、RAMなどにより実現できる。
【0026】
処理部100は、ブランカー制御装置20、ステージ制御装置21等を制御する処理や、透過電子顕微鏡像を取得する処理、試料Sの三次元像を構築する処理等の処理を行う。処理部100の機能は、各種プロセッサ(CPU、DSP等)などのハードウェアや、プログラムにより実現できる。処理部100は、ブランキング制御部102、傾斜制御部104、像取得部106、3次元像構築部108を含む。
【0027】
ブランキング制御部102は、制御信号を生成してブランカー制御装置20に出力することで、ブランカー12による電子線のブランキングを制御し、電子線のブランキングを高速でON/OFFすることで試料Sにパルスビームを照射させる。
【0028】
傾斜制御部104は、制御信号を生成してステージ制御装置21に出力することで、試料S(ステージ15)の傾斜角度を複数段階で制御する。ブランキング制御部102は、傾斜制御部104によって設定された傾斜角度に基づいて、パルスビームのデューティ比(電子線の非照射/照射の周期に対する照射期間の比)を制御する。
【0029】
像取得部106は、検出器18から出力された像情報を取り込むことで透過電子顕微鏡像(TEM像)を取得する処理を行う。像取得部106は、試料S(ステージ15)が各傾斜角度に設定されたときに得られる傾斜角度ごとの透過電子顕微鏡像(傾斜像シリーズ)を取得する。例えば、像取得部106は、試料Sが-60°から+60°まで1°ステップで121段階に傾斜されたときに得られる121枚の透過電子顕微鏡像を取得する。なお、試料Sの最大傾斜角度(上記の例では、60°)とステップ角度(上記の例では、1°)は、予め設定情報として記憶部130に記憶されている。
【0030】
3次元像構築部108は、像取得部106によって取得された傾斜像シリーズに基づき試料Sの3次元像を構築するための処理を行う。具体的には、3次元像構築部108は、傾斜像シリーズを構成する透過電子顕微鏡像に対してCT法を適用することで断面像を再
構成し、得られた再構成断面像のシリーズを重ね合わせることで試料Sの3次元像を構築する。
【0031】
ここで、傾斜像を取得するために試料Sを傾斜させると、試料Sの見かけの(光軸OA方向の)厚みが変わる。すなわち、試料Sの傾斜角度によって試料Sを透過する電子線量(電子線透過量)が変わり、傾斜角度の絶対値が大きいほど電子線透過量は少なくなる。そこで、本実施形態の手法では、ブランカー12を制御して試料Sにパルスビームを照射し、試料Sの傾斜角度の絶対値が大きいほどパルスビームのデューティ比が大きくなるように(すなわち、電子線照射量が多くなるように)、電子線のブランキングを制御する。
図2に、パルスビームのデューティ比(ブランキングのON/OFFの周期に占めるOFFの期間の比)と電子線照射量との関係を示す。具体的には、試料Sの傾斜角度をθ、最大傾斜角度をθmax(θmax<90°)とすると、パルスビームのデューティ比DRを、以下の式(1)により設定する。
【0032】
DR=cos(|θmax|-|θ|) …(1)
これにより、試料Sの傾斜角度θに依らず、電子線透過量を一定にすることができる。このように、本実施形態の手法では、試料Sの傾斜角度θに応じて、パルスビームのデューティ比DRを変えることにより電子線照射量を制御するため、傾斜像シリーズの取得時間(データ取得時間)の長時間化を防ぐことができる。そして、長いデータ取得時間を必要としないため、試料ドリフトの発生を抑え、取得画像の劣化を防ぐことができる。また、傾斜角度θに応じた適切な量の電子線を試料Sに照射できるため、電子線の照射によって試料Sが受けるダメージを小さく抑えることができる。
【0033】
次に、処理部100の処理の一例について
図3のフローチャートを用いて説明する。まず、ブランキング制御部102は、ブランカー12(ブランカー制御装置20)を制御して電子線のブランキングをOFFにし、電子線を試料Sに照射させる(ステップS10)。なお、このときの試料Sの傾斜角度θは0°である。次に、像取得部106は、検出器18からの像情報に基づいて透過電子顕微鏡像を取得し、像取得完了を通知する信号をブランキング制御部102に出力する(ステップS11)。当該信号を検知したブランキング制御部102は、ブランカー12を制御して電子線のブランキングをONにし、電子線が試料Sに照射されないようにする(ステップS12)。
【0034】
次に、傾斜制御部104は、記憶部130に記憶された設定情報に従って、ステージ15(ステージ制御装置21)を制御して試料Sを目的の角度に傾斜させ、傾斜完了を通知する信号をブランキング制御部102に出力する(ステップS13)。当該信号を検知したブランキング制御部102は、試料Sの現在の傾斜角度θに基づいて式(1)によりデューティ比DRを設定し(ステップS14)、ブランカー12を制御して、設定したデューティ比DRのパルスビームを試料Sに照射させる(ステップS15)。次に、像取得部106は、検出器18からの像情報に基づいて透過電子顕微鏡像を取得し、像取得完了を通知する信号をブランキング制御部102に出力する(ステップS16)。当該信号を検知したブランキング制御部102は、ブランカー12を制御して電子線のブランキングをONにする(ステップS17)。
【0035】
次に、処理部100は、目的の枚数の透過電子顕微鏡像(傾斜像シリーズ)の取得が完了したか否かを判断し(ステップS18)、傾斜像シリーズの取得が完了していない場合(ステップS18のN)には、ステップS13に移行する。傾斜像シリーズの取得が完了した場合(ステップS18のY)には、3次元像構築部108は、傾斜像シリーズから断面像を再構成し(ステップS19)、再構成断面像のシリーズを重ね合わせることで3次元像を構築する(ステップS20)。
【0036】
なお、ステップS10においても、ステップS14、S15と同様に、試料Sの傾斜角度θ(=0°)に基づいて式(1)によりデューティ比DRを設定し、設定したデューティ比DRのパルスビームを試料Sに照射させるようにしてもよい。
【0037】
なお、本発明は、上述の実施の形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。本発明は、実施の形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法及び結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【0038】
例えば、上記実施例では、本発明を、透過型電子顕微鏡や走査透過型電子顕微鏡に適用する場合について説明したが、本発明はこれに限られない。本発明に係る荷電粒子線装置は、傾斜可能に保持された試料に荷電粒子線を照射する装置であればどのような装置であってもよく、本発明は、走査電子顕微鏡(SEM)や、集束イオンビーム装置(FIB)に適用することもできる。
【符号の説明】
【0039】
1…電子顕微鏡(荷電粒子線装置)、10…電子顕微鏡本体、11…電子線源、12…ブランカー、13…照射レンズ系、14…偏向器、15…ステージ、16…対物レンズ、17…投影レンズ、18…検出器、20…ブランカー制御装置、21…ステージ制御装置、100…処理部、102…ブランキング制御部、104…傾斜制御部、106…像取得部、108…3次元像構築部、110…操作部、120…表示部、130…記憶部、OA…光軸、S…試料、TA…傾斜軸