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特許7369773耐食性及び表面品質に優れた亜鉛合金めっき鋼材とその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-18
(45)【発行日】2023-10-26
(54)【発明の名称】耐食性及び表面品質に優れた亜鉛合金めっき鋼材とその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 2/06 20060101AFI20231019BHJP
   C22C 18/04 20060101ALI20231019BHJP
   C23C 2/26 20060101ALI20231019BHJP
   C23C 2/32 20060101ALI20231019BHJP
【FI】
C23C2/06
C22C18/04
C23C2/26
C23C2/32
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021534947
(86)(22)【出願日】2019-12-12
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-16
(86)【国際出願番号】 KR2019017543
(87)【国際公開番号】W WO2020130482
(87)【国際公開日】2020-06-25
【審査請求日】2021-08-02
(31)【優先権主張番号】10-2018-0165329
(32)【優先日】2018-12-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2019-0150433
(32)【優先日】2019-11-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】522492576
【氏名又は名称】ポスコ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100195257
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 一志
(74)【代理人】
【識別番号】100134382
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 澄恵
(72)【発明者】
【氏名】キム、 ヒュン-ユン
(72)【発明者】
【氏名】ハン、 ド-キョン
(72)【発明者】
【氏名】キム、 ミョン-ス
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】韓国登録特許第10-1376381(KR,B1)
【文献】国際公開第2018/139620(WO,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2014-0074231(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 2/06
C23C 2/26
C22C 18/04
C23C 2/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
素地鉄を用意する段階;
前記用意された素地鉄を重量%で、Al:8~25%、Mg:4~12%、選択的に、Be、Ca、Ce、Li、Sc、Sr、V及びYからなる群から選択された1種以上:0.0005~0.009%、残りはZn及び不可避不純物からなるめっき浴に浸漬してめっきする段階;
前記めっきされた素地鉄をワイピングする段階;及び
前記ワイピング後、溶融亜鉛めっき層の表面に多角形凝固相を形成する段階;
を含み、
前記多角形凝固相の形成は、
体積分率で窒素78~99%を含むガスを溶融亜鉛めっき層の表面に噴射(1次ガス噴
射)した後、露点が-5~50℃である気体を噴射(2次ガス噴射)して行う、耐食性及
び表面品質に優れた亜鉛合金めっき鋼材の製造方法。
【請求項2】
前記気体を噴射した後、100Hz~5MHzの振動を付加することをさらに含む、請
求項に記載の耐食性及び表面品質に優れた亜鉛合金めっき鋼材の製造方法。
【請求項3】
前記Al及びMgは、下記関係式1を満たす、請求項に記載の耐食性及び表面品質に
優れた亜鉛合金めっき鋼材の製造方法。
[関係式1]
Mg≦-0.0186×Al+1.0093×Al+4.5
(但し、前記Al及びMgは、各成分の含有量(重量%)を意味する)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車、建材資材、家電製品などに用いられる亜鉛合金めっき鋼材に関するものであって、より詳細には、耐食性及び表面品質に優れた亜鉛合金めっき鋼材及びこれを製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄は産業において最も多く用いられる素材であって、優れた物理的、機械的な特性を有している。しかし、鉄は酸化しやすく腐食に弱いという欠点を有している。このため、鉄の酸化を防止する方法として、鉄よりも酸素との反応性が高い金属を保護膜として素材表面にコーティングし、腐食を遅延させる方法が開発されている。代表的なものとして亜鉛または亜鉛系皮膜を形成した亜鉛めっき鋼材がある。
【0003】
上記亜鉛めっき鋼材は、酸化電位がさらに高い亜鉛が素地鉄よりも先に溶解される犠牲方式作用及び亜鉛の腐食生成物が緻密で腐食を遅延させる腐食抑制作用などによって腐食から鉄を保護する。
【0004】
しかし、最近、腐食環境が日増しに悪化し、省資源及び省エネの側面から高度の耐食性向上に多くの努力をしている。このような努力の一環として、優れた耐食性を有する亜鉛-アルミニウム合金めっきも検討されているが、アルミニウムが亜鉛よりもアルカリ条件で溶解しやすいため、長期耐久性の面で不十分であるという欠点がある。
【0005】
最近になってマグネシウム(Mg)を利用して耐食性を大幅に向上させる成果を得ている。特許文献1では、Mg:0.05~10.0重量%、Al:0.1~10.0重量%、残部Zn及び不可避不純物から構成されるZn-Mg-Al合金めっき層を有することを特徴とするが、粗大なめっき組織が形成されるか、または特定組織が集中的に形成されると、まず、腐食が発生するという問題がある。
【0006】
一方、めっき層の組織を制御して耐食性を向上させる成果として、特許文献2では、Zn-Al-Mg-Siめっき層を有し、これらのめっき層がAl/Zn/ZnMgの三元共晶組織のうちMgSi相、ZnMg相、Al相、Zn相などが混在した金属組織を有することを特徴とする。しかし、Siを含有した高強度鋼に限定され、めっき組織中に必ずSi成分を含むため、めっき用インゴット製造費用が増加して作業管理が難しくなるという問題がある。また、Zn-Al-Mg主成分にその他の元素を添加して耐食性を向上させようとする技術である特許文献3では、めっき層にクロム(Cr)を添加してAl-Fe-Si系合金層中にCrを含有することを特徴とするが、Cr成分の添加によってドロス過度生成の問題があり、めっき浴の成分管理に不利であるという欠点がある。
【0007】
したがって、優れた耐食性を確保しつつ、ドロスなどから表面を保護して優れた表面品質を有するめっき鋼材に対する要求が続いている実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】日本国公開特許第1999-158656号公報
【文献】日本国公開特許第2001-295018号公報
【文献】韓国公開特許第10-2011-0088573号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の一側面は、めっき層の組成及び微細組織を最適化して優れた耐食性を確保するとともに、表面特性に優れた亜鉛合金めっき鋼材とこれを製造する方法を提供する。
【0010】
本発明の課題は、上述した事項に限定されない。本発明のさらなる課題は明細書の全体内容に記述されており、本発明が属する技術分野で通常の知識を有する者であれば、本発明の明細書に記載された内容から本発明のさらなる課題を理解するのに何ら困難がない。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様は、素地鉄及び上記素地鉄上に形成された亜鉛合金めっき層を含み、
上記亜鉛合金めっき層は、重量%で、Al:8~25%、Mg:4~12%、残りはZn及び不可避不純物を含み、
上記亜鉛合金めっき層の表面で観察される多角形凝固相が占める面積分率は、20~90%である耐食性及び表面品質に優れた亜鉛合金めっき鋼材を提供する。
【0012】
本発明のもう一つの一態様は、素地鉄を用意する段階;
上記用意された素地鉄を重量%で、Al:8~25%、Mg:4~12%、残りはZn及び不可避不純物を含むめっき浴に浸漬してめっきする段階;
上記めっきされた素地鉄をワイピングする段階;及び
上記ワイピング後、溶融亜鉛めっき層の表面に多角形凝固相を形成する段階を含む耐食性及び表面品質に優れた亜鉛合金めっき鋼材の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によると、優れた耐食性及び表面特性を有するZn-Al-Mg系亜鉛合金めっき鋼材とこれを製造する方法を提供することができる。特に、優れた耐食性及び表面特性を有するため、従来のめっき鋼材が適用されなかった新しい分野への拡大適用が可能であるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施例のうち発明例1のめっき層の表面を観察した写真である。
図2】本発明の実施例のうち比較例1のめっき層の表面を観察した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0016】
本発明の亜鉛合金めっき鋼材は素地鉄及び上記素地鉄上に形成された亜鉛合金めっき層を含む。
【0017】
上記素地鉄の種類は特に限定せず、本発明が属する技術分野で適用することができる素地鉄であれば十分である。例えば、熱延鋼板、冷延鋼板、線材、鋼線などが挙げられる。
【0018】
上記亜鉛合金めっき層は、亜鉛(Zn)をベースとして、マグネシウム(Mg)及びアルミニウム(Al)を含む。上記亜鉛合金めっき層は、重量%で、Al:8~25%、Mg:4~12%、残りはZn及び不可避不純物を含むことが好ましい。また、Be、Ca、Ce、Li、Sc、Sr、V及びYのうち1種以上を0.0005~0.009%さらに含むことができる。以下、各成分の組成範囲について詳細に説明する。
【0019】
アルミニウム(Al):8~25重量%(以下、%)
上記Alは、溶湯の製造時にMg成分を安定化し、腐食環境での初期腐食を抑制する腐食障壁役割を果たすものであって、Mg含有量に応じてAl含有量が異なることができる。上記Al含有量が8%未満であると、溶湯の製造時にMgを安定化することができず、溶湯表面にMg酸化物が生成されて使用が困難になる。一方、25%を超える場合には、めっき温度の上昇及びめっき浴中に設けられる各種設備の溶食が過度に発生するため、好ましくない。
【0020】
マグネシウム(Mg):4~12%
上記Mgは、耐食性を発現する組織を形成する主成分であって、上記Mgが4%未満であると、耐食性の発現が十分でなく、12%を超える場合には、Mg酸化物が多量に形成される問題があって、2次的に材質劣化と費用上昇などの様々な問題を引き起こす可能性があるため、上記Mgは4~12%含むことが好ましい。より好ましくは、上記Mgは5%以上含むことができる。
【0021】
一方、上記Al及びMgは下記関係式1を満たすことが好ましい。
[関係式1]
Mg≦-0.0186×Al+1.0093×Al+4.5
【0022】
ここで、Al及びMgは、各成分の含有量(重量%)を意味する。本発明では、めっき時の溶湯の安定化と酸化物の生成を最大限抑制するために、上記Al及びMgの含有量が関係式1の条件を満たすことが好ましい。
【0023】
一方、上記Al及びMg以外に、Mg成分をさらに安定化するために、ベリリウム(Be)、カルシウム(Ca)、セリウム(Ce)、リチウム(Li)、スカンジウム(Sc)、ストロンチウム(Sr)、バナジウム(V)、イットリウム(Y)などをさらに含むことができ、0.0005~0.009%含むことが好ましい。0.0005%未満であると、実質的なMg安定化の効果を期待しにくく、0.009%を超える場合には、めっき末期に凝固されて腐食が起こり、耐食性を阻害することがあり、費用上昇の問題があるため、好ましくない。
【0024】
上記合金組成以外の残りは亜鉛(Zn)及び不可避不純物を含む。上記組成以外に有効な成分の添加を排除するものではない。
【0025】
上記亜鉛合金めっき層の表面では、多角形凝固相を含み、表面で観察される多角形凝固相が占める面積分率は、20~90%であることが好ましい。
【0026】
上記亜鉛合金めっき層の表面を走査電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope、SEM)、光学顕微鏡で観察するようになると、多角形状、円状、楕円状、砂形状など多様な形態の組織が観察される。本発明では、上記多角形凝固相は表面で観察された組織のうち一つであって、表層に露出しており、周辺の他の凝固組織と色及び形態などで明確に区別される。すなわち、図1に示したように、周辺の他の組織との境界がほぼ線形で区別され、上記直線と直線が交差して一定角を形成している。このとき、角度は多様に構成することができるため、これを特に限定しない。また、上記多角形凝固相は、多重に重なって形成されることができ、数個の角度を有することができ、多角形凝固組織の内部は、すべて同様の色乃至同様の形態を有しないことができる。一部組織は重なり、変形することができ、異なって見える場合があるため、上記角を2個以上有する場合、多角形凝固相に含まれる。
【0027】
上記多角形凝固相はZn、Al、Mgのうち2~3成分が検出され、単一金属間化合物または金属間化合物にZn、Al、安定化のための追加元素などが含まれた合金相であることができる。ここで、金属間化合物は、MgZn、MgZn11などが挙げられる。
【0028】
上記多角形凝固相が表面に占める面積は、面積分率で20~90%であることが好ましい。上記多角形凝固相の面積が20%未満であると、耐食性及び加工性が不十分であり、90%を超えると、却って耐食性が低下するという問題が生じる。より好ましくは、面積分率が30~70%である。上記多角形凝固相は表面で観察されるため、表面積に占める面積を示したものである。
【0029】
上記多角形凝固相の短軸(a)に対する長軸(b)の比(b/a)の平均が1~3であることが好ましい。図1に示したように、多角形凝固相の形状は、短軸(a)及び長軸(b)に規定されることができ、一部の凝固相が重なって分離することが困難であるか、または変形されたものをすべて含み、b/a比で示すことができる。上記b/a比率が1以上では、加工性に優れるが、b/a比が過度に大きくなって凝固相が過度に長くなると加工に不利に作用する。したがって、上記b/a比が3を超えると、加工性が却って不利になるため、上記b/aは1~3であることが好ましい。
【0030】
本発明の亜鉛合金めっき層は、様々な相(phase)を含むことができる。例えば、MgZn、MgZn11、Al固溶相、Zn固溶相、Al/Zn/Mg共晶相などが挙げられる。この中で、上記亜鉛合金めっき層の微細組織は、上記MgZn及びMgZn11のうち1種以上が面積分率で20~45%であることが好ましい。これはめっき層の表面積の面積分率であることが好ましい。
【0031】
本発明において、上記亜鉛合金めっき層に形成される相(phase)は、実質的に非平衡状態で生成されるものであってもよい。例えば、MgZnの場合、原子%でMg/Zn比を計算すると、0.33で構成される必要があるが、実際には0.19~0.24と計算された。また、非平衡状態で生成された上記相は、他の成分が検出され得るが、これらは成分分析及び形状分析などを総合的に検討して決定する。
【0032】
上記MgZn及びMgZn11のうち1種以上が20%未満であると、常時水分環境及び塩水環境で耐食性が十分でなく、45%を超える場合には、耐食性が増加するが、上記MgZn合金相及びMgZn11合金相が硬質であるため、めっき層のクラックが発生する可能性が高くなる。より好ましくは、20~40%である。
【0033】
残りはZn固溶相、Al固溶相、Al/Zn/Mg共晶相、非化学量論的組成などを含むことができる。
【0034】
以下、本発明の亜鉛合金めっき鋼材を製造する一実施例について詳細に説明する。
【0035】
本発明は、耐食性及び表面外観に優れた亜鉛合金めっき層を形成するための方案を提案する。
【0036】
めっき層の凝固過程は、核生成及び成長によって進行するが、冷却すると凝固核が生成され、凝固核は熱力学的にギブス自由エネルギーが最も低いところで生成される。上記ギブス自由エネルギーの差は、均一核生成よりも不均一核生成であるとき、凝固に有利な位置になり、不均一核生成部位の面積が大きいほど、核生成が有利であり、多数の核生成が行われる。この時、不均一核生成部位は溶融金属の液相と固相が接触する所であって、鋼板表面が代表的である。別の不均一核生成部位としては、溶融金属の液相と大気が接触する所であって、溶融金属の表面である。ここで、本発明の発明者らはめっき層の表面に多角形凝固相を形成するために、めっき浴を抜け出した鋼材の凝固を調節する方案を導出するようになった。
【0037】
本発明の亜鉛合金めっき鋼材を製造する方法は、素地鉄を用意し、用意された素地鉄をめっき浴に浸漬してめっきした後、ワイピングしてめっき層の厚さを調節し、溶融亜鉛めっき層の表面に多角形凝固相を形成する過程を含む。以下、各過程について詳細に説明する。
【0038】
まず、素地鉄を用意する。上述したように、上記素地鉄は、その種類を制限せず、本発明が属する技術分野で適用することができるものであれば、問題ない。上記素地鉄をめっき浴に浸漬する前に表面に存在する酸化物、不純物などを除去する工程、還元のための熱処理工程などを含むことができる。
【0039】
上記素地鉄をめっき浴に浸漬して素地鉄の表面に亜鉛合金めっき層を形成する。上記めっき浴組成は重量%で、Al:8~25%、Mg:4~12%、残りはZn及び不可避不純物を含むことが好ましく、追加的にBe、Ca、Ce、Li、Sc、Sr、V及びYからなる群から選択された1種以上を0.0005~0.009%含むことができる。また、上記Al及びMgの含有量は、下記関係式1を満たすことができる。上記めっき浴の合金組成範囲は、上述した亜鉛合金めっき層の合金組成範囲について説明したものと変わらない。
[関係式1]
Mg≦-0.0186×Al+1.0093×Al+4.5
【0040】
上記めっき浴の温度は、融点に応じて異なり、上記融点は、めっき浴の組成に依存する物理化学的特性である。上記めっき浴の温度を決定する要素は、作業の便宜性、加熱費用及びめっき品質など多様である。このような点を総合して考慮すると、上記めっき浴の温度は融点より高く、好ましくは融点に対して20~100℃高くする。
【0041】
一方、めっき浴に沈着される素地鉄は、作業の便宜性、熱バランスなどを考慮して設定する。好ましくは上記めっき浴温度の-10~+10℃とする。
【0042】
上記めっき浴から引き出された亜鉛合金めっき鋼材について、めっき浴上部のエアナイフ(air knife)と呼ばれるワイピングノズルによりめっき層の厚さが調節されるワイピング処理を行う。上記ワイピングノズルは、空気または不活性気体を噴射してめっき層の厚さを調整する。
【0043】
上記ワイピング処理後、めっき層の表面に多角形凝固相を形成する。このため、1次的に窒素濃度が体積分率で、78~99%を含む気体を噴射(1次ガス噴射)し、2次的に露点が-5~50℃である気体を順に噴射(2次ガス噴射)する。
【0044】
上記1次ガス噴射時、窒素以外の気体は、特に制限されないが、空気、酸素または窒素、アルゴンなどの不活性気体とこれらの混合気体を含むことができる。一方、上記2次ガス噴射での露点は、ガス中に含まれる水分量を規定する特定値であり、このとき、2次ガス噴射時、気体の種類は特に制限されない。一例として、窒素濃度89~99%を含む気体を使用することができる。
【0045】
上記1次気体噴射時、窒素濃度が78%未満であると、表面欠陥が発生しやすく、99%を超えると、多角形凝固相の形成が不足する。また、2次気体噴射時に露点が上昇すると、多角形凝固核の形状が増加するが、-5℃未満では十分でなく、露点が50℃を超えると、表面欠陥が多量に発生するという問題がある。
【0046】
一方、追加的に2次気体噴射後に多角形凝固相の形成に有利な環境を付与するためには、100Hz~5MHzの振動を付加することができる。上記振動が100Hz未満であると、めっき層の表面に多角形凝固相の形成が不十分であることがあり、5MHzを超えると、表面欠陥が発生することがある。
【実施例
【0047】
以下、本発明の実施例について詳細に説明する。下記実施例は、本発明の理解のためのものであって、本発明の権利範囲を限定するためのものではない。本発明の権利範囲は、特許請求の範囲に記載された事項と、それから合理的に類推される事項によって決定されるものであるためである。
【0048】
(実施例)
素地鉄として厚さ0.8mmの冷延鋼板であって、0.03重量%C-0.2重量%Si-0.15重量%Mn-0.01重量%P-0.01重量%S(残りはFeと不可避不純物)を含む冷延鋼板を用意し、オイルなどの鋼板表面に付着した不純物を除去するための脱脂工程を経て、次のように水素10vol.%-窒素90vol.%である還元性雰囲気で800℃で熱処理する工程を経てから、溶融亜鉛合金めっき浴に浸漬して下記表1のめっき層組成を有するようにめっき鋼板を製造した。このとき、上記溶融亜鉛めっき浴の温度は493℃、引込まれる鋼板の温度も493℃とした。上記浸漬後のエアワイピングを介してめっき層の厚さを約8~10μmに調節した。この後、表1の1次及び2次ガス処理を行い、めっき鋼板を製造した。
【0049】
製造された亜鉛合金めっき鋼材はEDS分析を介して相(phase)を同定し、XRD分析を介してMgZn及びMgZn11相(phase)分率を測定した。一方、多角形凝固相の面積分率は、イメージ分析器(image analyzer)を用いて測定し、短軸(a)に対する長軸(b)の比(b/a)は、それぞれの長さを測定して計算した。
【0050】
上記亜鉛合金めっき鋼材について表面品質及び耐食性を評価し、その結果を表1に併せて示した。
【0051】
上記耐食性は塩水噴霧試験を行い、赤錆発生時間を測定し、比較サンプルと比較して評価した。この時、比較サンプルはめっき層の組成が94重量%Zn-3重量%Al-3重量%Mgである亜鉛合金めっき鋼材を用い、上記塩水噴霧試験は、塩度5%、温度35℃、pH6.8、塩水噴霧量2ml/80cm・1Hrで行った。
【0052】
評価結果は、比較サンプルに比べて赤錆発生時間が1.5倍以上である場合には良好(○)、1.5倍未満である場合には不良(×)と評価した。
【0053】
一方、表面品質は、製造されたサンプルからサンプルの外観を観察してドロスなどの表面欠陥の発生有無を評価した。その結果は以下のとおりである。
良好(○):ドロス、点状などの表面欠陥の発生なし
不良(×):ドロス、点状などの表面欠陥の発生あり
【0054】
【表1】
【0055】
上記表1に示したように、本発明の条件を満たす発明例はいずれも、優れた表面品質及び耐食性を有することが分かる。
【0056】
特に、図1は、上記発明例1の表面を観察した写真であって、上記図1を参照すると、直線が交差して一定角をなす多角形凝固相が適正分率で形成されていることが分かる。これに対し、図2は、上記比較例1の表面を観察した写真であって、図1と比較すると、表面から多角形凝固相を観察することは困難であることが分かる。
【0057】
比較例1及び2は、提示しためっき層の必須成分であるAl及びMgの含有量が本発明で提示した範囲から外れた場合であって、比較例1は、Al及びMgの含有量が非常に少なく、表面で観察される多角形凝固相が十分でないため、耐食性を確保できておらず、比較例2は、めっき層のAl及びMgの含有量が過度であり、表面での多角形凝固相が多すぎて表面品質及び耐食性がすべて劣化したことが分かる。
【0058】
比較例3は、補充的な効果のために添加されたBeがめっき層に過度に含まれた場合であって、表面品質及び耐食性が劣化したことが分かる。比較例4及び5は、本発明で提示するガス噴射条件を満たしておらず、めっき層の表面耐食性及び表面特性が劣化したことが確認できる。
図1
図2