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  • 特許-放射線治療用マイクロスフェア 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-18
(45)【発行日】2023-10-26
(54)【発明の名称】放射線治療用マイクロスフェア
(51)【国際特許分類】
   A61K 9/16 20060101AFI20231019BHJP
   A61K 9/36 20060101ALI20231019BHJP
   A61K 47/24 20060101ALI20231019BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20231019BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20231019BHJP
   A61K 51/12 20060101ALI20231019BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20231019BHJP
【FI】
A61K9/16
A61K9/36
A61K47/24
A61K47/36
A61K45/00
A61K51/12 100
A61K51/12 200
A61P35/00
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021569439
(86)(22)【出願日】2020-05-21
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-21
(86)【国際出願番号】 US2020033983
(87)【国際公開番号】W WO2020237042
(87)【国際公開日】2020-11-26
【審査請求日】2022-02-01
(31)【優先権主張番号】62/851,915
(32)【優先日】2019-05-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】500039463
【氏名又は名称】ボード オブ リージェンツ,ザ ユニバーシティ オブ テキサス システム
【氏名又は名称原語表記】BOARD OF REGENTS,THE UNIVERSITY OF TEXAS SYSTEM
【住所又は居所原語表記】210 West 7th Street Austin,Texas 78701 U.S.A.
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】フィリップス ウィリアム ティー.
(72)【発明者】
【氏名】ビタール ライアン
【審査官】田澤 俊樹
(56)【参考文献】
【文献】特表2003-512395(JP,A)
【文献】特表昭63-501290(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0104052(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2009/0155344(US,A1)
【文献】特表2006-527265(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0075777(US,A1)
【文献】特表2005-513081(JP,A)
【文献】特表2015-526510(JP,A)
【文献】Alginate microspheres containing temperature sensitive liposomes (TSL) for MR-guided embolization and triggered release of Doxorubicin,PLOS ONE,2015年,10,(11)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/00-9/72
47/00-47/69
45/00
51/12
A61P 1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程を含む、リポソーム含有アルギン酸マイクロスフェアを作製するための方法:
超音波ノズルを用いて、リポソーム/アルギン酸塩溶液を、アルギン酸架橋剤を含む硬化液に噴霧する工程;および
20~80μmの平均直径を有するリポソーム含有アルギン酸マイクロスフェアを単離する工程。
【請求項2】
超音波ノズルが、1Hz~100kHzのノズルである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
超音波ノズルが、25kHzのノズルである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
超音波ノズルが、硬化液から1~10cmの位置に配置される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
硬化液がカチオンを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
カチオンが、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、鉄、銀、アルミニウム、マグネシウム、マンガン、銅、および亜鉛から選択される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
硬化液がCaCl2を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
リポソーム/アルギン酸塩溶液が、1:1のリポソームとアルギン酸塩の比率を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
リポソームが治療薬またはイメージング剤を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
治療薬が、温熱治療薬、化学療法薬、または放射線治療薬である、請求項9に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
この出願は、2019年5月23日に出願された米国仮出願第62/851,915号の優先権を主張するものであり、その全体が参照により組み入れられる。
【0002】
連邦政府により資金提供を受けた研究に関する声明
なし。
【背景技術】
【0003】
背景
肝細胞癌(Hepatocellular Carcinoma:HCC)は、最もよく見られるタイプの肝臓がんである。それは、がんの種類としては6番目に多く、がんによる死亡原因としては3番目に多いものである。HCCは特に侵襲性が強く、生存率が低いため(5年生存率が5%未満)、世界中で重要な社会健康上の問題となっている(GlobalData Intelligence Center - Pharma, URL pharma.globaldata.com/HomePage, 2019(非特許文献1))。HCCは、肝硬変、つまり肝臓の瘢痕化を呈している肝臓に発生することが最も多く、肝硬変は、B型肝炎感染、C型肝炎感染、慢性アルコール乱用、およびトウモロコシなどの特定の作物で生育し得る真菌に普通に見られるアフラトキシンを含めて、多くの要因によって引き起こされる可能性がある。HCCは、女性と比較して2.4:1の割合で男性に多く見られることもわかっている(Balogh et al., J Hepatocell Carcinoma 3:41-53, 2016(非特許文献2))。
【0004】
肝硬変を示さないHCCの主な治療手段は、手術(切除)によって腫瘍を取り除くことである。しかし、患者の肝機能がすでに損なわれている場合、腫瘍が複数の場所に広がっているか大きすぎる場合、または切除後に患者の肝臓がほとんど残らないため術後の肝機能を確保できない場合には、腫瘍が切除可能とは見なされないことがある。肝硬変を示す患者にとって、最良の治療法は肝移植であるが、ドナー臓器の不足のため、移植の基準を満たす患者の待ち時間は2年を超えている。
【0005】
切除不能なHCCについては、疾患の進行を遅らせるために腫瘍のサイズや数を減らそうとしたり、切除を可能にするために患者指標(patient indicators)を改善しようとする、他の非外科的選択肢がいくつか利用可能である。最も一般的な方法は、2つの主要な血管のうちの1つである肝動脈をブロック(閉塞)して腫瘍の血液供給を遮断する肝動脈化学塞栓術(transarterial chemoembolization)である。塞栓術に先立って、化学療法薬を腫瘍細胞に優先的に送達するために、化学療法薬が動脈に注入される。このアプローチは、肝門脈を無傷のまま残すため、主に血液供給を肝門脈に頼っている非腫瘍性肝細胞の健康を保持すると考えられる。最近では、化学療法薬を経時的に放出するビーズの使用が、これらの治療法の有効性を高めることが示唆されている。
【0006】
同様に、肝動脈放射線塞栓術(transarterial radioembolization)は、腫瘍の血液供給を遮断するために同じタイプの粒子を使用するものである;しかし、化学療法薬の代わりに、該粒子は、腫瘍に送達される粒子(マイクロスフェア)に埋め込まれた、イットリウム-90(Y-90)などのアイソトープから放出される放射線を当てにしている。経皮的局所焼灼術(percutaneous local ablation)として知られる、この方法の1つの変形は、放射線塞栓術に続いて、エタノールを腫瘍に数日間にわたって直接注入するものである。
【0007】
最後に、900kHzを超える周波数の電磁波を用いて、腫瘍を100℃より高い温度に加熱するマイクロ波焼灼術がある。これにより、腫瘍のより速く、より均一な焼灼(アブレーション)が可能であるが、研究からは、放射線塞栓術と比較して、有効性の統計上の差異がまだ示されていない。
【0008】
切除または局所焼灼を行うには進行しすぎていると判断されたHCC患者の標準治療は、全身化学療法である。治療群の平均生存期間の改善を示した唯一の治療法は、Bayer社のNexavar(ソラフェニブ)であるが、これは生存期間を3ヶ月延長したにすぎない。したがって、HCCとその他のがんに対する追加の治療法の選択肢が求められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【文献】GlobalData Intelligence Center - Pharma, URL pharma.globaldata.com/HomePage, 2019
【文献】Balogh et al., J Hepatocell Carcinoma 3:41-53, 2016
【発明の概要】
【0010】
特定の態様は、リポソーム含有のアルギン酸マイクロスフェア(alginate microsphere)を含む組成物、および該マイクロスフェアの作製方法に向けられ、任意で、該リポソームには様々な有用物質が封入される。リポソームに封入してアルギン酸マイクロスフェアに装填できる注目の物質としては、放射線治療薬(例:レニウム188)、放射性標識(例:テクネチウム99m)、化学療法薬(ドキソルビシン)、磁性粒子(例:10μm鉄ナノ粒子)、および放射線不透過性物質(例:ヨード造影剤)が挙げられる。特定の局面では、アルギン酸マイクロスフェア中のレニウム-188リポソーム(Rhe-LAM)は、肝腫瘍、特に肝細胞癌(HCC)の治療に使用することができる。より特定の局面では、HCC治療は放射線塞栓術を介して行われ、この場合、マイクロスフェアが動脈から腫瘍への血液供給を遮断すると同時に、レニウム-188が主にがん細胞に標的指向された高線量の放射線を送達する。
【0011】
標準的な製造方法で作製されたマイクロ粒子は、多くの場合、広い粒度分布を有し、均一性に欠け、適切な放出速度または他の特性を提供できず、製造が困難で費用がかかる。さらに、マイクロ粒子は大きく、かつ凝集体を形成しやすいことがあり、注入または吸入によって患者に投与するには大きすぎると考えられる粒子を除去するためのサイズ選択プロセスが必要となる。これにはふるい分けが必要で、製品のロスが発生する。本明細書に記載される特定の態様では、リポソーム含有マイクロスフェアを作製するために、超音波ノズルまたはネブライザーが使用される。超音波ネブライザーは、高周波の電気エネルギーを用いて機械振動エネルギーを作り出すもので、一般には圧電トランスデューサを利用する。このエネルギーが液体または配合物に伝わって直接的にまたはカップリング流体(マイクロスフェアを含むエアロゾルを生成する)を介してマイクロスフェアを形成し、その後、マイクロスフェアは硬化または架橋される。一般的に、超音波エネルギーは、会合またはリポソームを形成している脂質を破壊する。本明細書に記載される結果は、リポソームが超音波の破壊的作用に抵抗して、製造プロセスの間無傷のまま残っており、その結果、より小さなリポソームを含有するアルギン酸マイクロスフェアが形成されるという点で、驚くべき予想外のことである。
【0012】
特定の局面では、リポソーム含有アルギン酸マイクロスフェア(LAM)は、リポソーム/アルギン酸塩溶液(液体または供給源)を、アルギン酸架橋剤を含む硬化液に噴霧することによって作製される。一般的には、液体を電動ポンプによって単純または複雑なオリフィスノズルに供給し、そのノズルから液体流を噴霧してスプレー液滴にする;その液滴が硬化液にさらされると、架橋される。ノズルは、多くの場合、第一に、必要とされる流量の望ましい範囲で選択され、第二に、液滴サイズの範囲で選択される。本明細書に記載の液体から液滴を生成することができるスプレーアトマイザーは、どれも使用することができる。適切なスプレーアトマイザーには、二流体ノズル、一流体ノズル、Sono-Tek(商標)超音波ノズルなどの超音波ノズル、回転式アトマイザーまたは振動オリフィスエアロゾル発生装置(VOAG)などが含まれる。特定の局面では、ノズルは超音波ノズルであり、1Hz~約100kHzのノズルである。特定の一局面では、ノズルは25kHzのノズルである。ある局面では、スプレーアトマイザーは、以下の1つまたは複数の仕様を持つことができる:(a)25kHz~180kHzのノズル、特に25kHzノズル;(b)1~10Wの発生装置、特に5.0W発生装置;(c)0.1~1.0ml/min、特に0.5ml/minの流量が可能なポンプ(この程度に低い流量にはマイクロボア(microbore)が必要かもしれない)。硬化液は、噴霧された液体を受け取る位置に配置され得る。ノズルと硬化液との間の距離は、1~10cmの間で変化し、特に4cmであり得る。このシステムは、ノズルの使用全体にわたって作動させることができる。発生装置を作動させると、そのポンプによってリポソーム含有アルギン酸マイクロスフェア(LAM)が形成され得る。マイクロスフェアは、硬化液(例えば、CaCl2溶液)中で1~10分間、特に5分間、室温(例えば、20~30℃)でインキュベートされる。特定の局面では、マイクロスフェアは、例えば1000~1200rpmで、スピンダウンされ得る。続いて、上清を抜き取り、遊離の試薬(例えば、未結合のRe-188/Tc-99m)からスフェアを洗浄する。架橋または遠心分離中に発生した可能性のある集塊を除くために、マイクロスフェア溶液を100μm孔のステンレス鋼メッシュに通してもよい。これらのLAMは動脈内投与に使用することができる。特定の局面では、マイクロスフェアを光学顕微鏡で可視化し、線量計を用いて、放射性物質が装填されたLAMにおける放射能保持量を測定することができる。
【0013】
特定の態様は、直径が1、10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、150、200、300、350、400、450、500μmまで(それらの間の全ての値および範囲を含み、特定の局面では、値または部分範囲のいずれかを特に除外できる)のLAMに向けられる。特定の局面では、LAMは20~80μm(それらの間の全ての値および範囲を含む)の平均直径を有する。特定の局面では、リポソームとアルギン酸塩の比率(w/wまたはv/v)は、4:1、3:1、2:1、1:1、1:2、1:3、1:4(それらの間のすべての比率および範囲を含み、特定の局面では、値または部分範囲のいずれかを特に除外できる)である。特定の局面では、LAMは、10~80重量%のリポソーム/脂質、10~80重量%のアルギン酸塩溶液、0.01~5重量%のアルギン酸架橋剤、および1~30重量%の治療薬および/またはイメージング剤を含む。
【0014】
本明細書で使用する「リポソーム」とは、1つまたは複数のリン脂質層で囲まれた水性コアからなる小胞(ベシクル)を指す。リポソームは、単一の二重層で構成されたユニラメラ型であっても、2つ以上の同心円状の二重層で構成されたマルチラメラ型であってもよい。リポソームには、小さなユニラメラ小胞(SUV)から大きなマルチラメラ小胞までの幅がある。LMVは、一般的に脂質を有機溶媒に溶解し、その溶液を容器の壁に塗布して、該溶媒を蒸発させることにより形成された、脂質のドライフィルム/ケーキをかき混ぜながら水和させることで自然に形成される。その後、エネルギーを加えると、LMVがSUV、LUVなどに変換される。エネルギーは、より小さな単一および多重ラメラ小胞をもたらすように超音波処理、高圧、高温、および押し出しの形をとることができるが、これらに限定されない。このプロセスの間に、水性媒体の一部が小胞に取り込まれる。また、リポソームは、エマルションテンプレート法(emulsion templating)を用いて調製することもできる。エマルションテンプレート法は、簡単に言えば、脂質で安定化された油中水型エマルションを調製し、該エマルションを水相上に層状化し、水/油滴を水相中に遠心分離し、油相を除去してユニラメラリポソームの分散液を得ることを含む。上述した方法だけでなく、任意の方法で調製されたリポソームは、本発明の組成物および方法において使用することができる。前述の技術、ならびに当技術分野で知られているかまたは将来的に知られるようになり得る他の技術はいずれも、本発明の送達界面(delivery interface)内または送達界面上の治療薬の組成物として使用され得る。リン脂質および/またはスフィンゴ脂質を含むリポソームは、内部リポソーム容積内に封入された親水性(水溶性)もしくは沈殿性の治療用化合物を送達するために、かつ/または疎水性二重層膜内に分散された疎水性の治療薬を送達するために使用される。特定の局面では、リポソームは、スフィンゴ脂質、エーテル脂質、ステロール、リン脂質、ホスホグリセリド、および糖脂質から選択される脂質を含む。特定の局面では、脂質には、例えば、DSPC(1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン)が含まれる。
【0015】
本明細書で使用する「アルギン酸(塩)」(alginate)とは、海藻に由来することができる直鎖状の多糖類を指す。アルギン酸の最も一般的な供給源は、オオウキモ(Macrocystis pyrifera)という種である。アルギン酸は、D-マンヌロン酸(M)とL-グルロン酸(G)の繰り返し単位で構成され、その繰り返し単位は交互のブロックと交互の各残基の両方で提示される。可溶性アルギン酸塩は、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム、アルギン酸アンモニウムを含むがこれらに限定されない、1価の塩の形であり得る。特定の局面では、アルギン酸塩には、限定するものではないが、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム、アルギン酸カルシウム、アルギン酸マグネシウム、アルギン酸アンモニウム、およびアルギン酸トリエタノールアミンの1つまたは複数が含まれる。アルギン酸塩は、5~80重量%の範囲の量で、好ましくは20~60重量%の範囲の量で、最も好ましくは約50重量%の量で配合物中に存在する。特定の局面では、アルギン酸はウルトラピュア(ultra-pure)アルギン酸(例えば、Novamatrix社のウルトラピュアアルギン酸)である。アルギン酸は、溶液中の多価カチオン、例えば多価カチオンを含む水溶液またはアルコール溶液、がアルギン酸と反応して提供されるイオンゲル化により架橋される。アルギン酸と共に使用するための多価カチオン(例えば、2価カチオン;1価カチオンはアルギン酸を架橋するのに十分でない)としては、限定するものではないが、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、鉄、銀、アルミニウム、マグネシウム、マンガン、銅、および亜鉛(これらの塩を含む)が挙げられる。特定の局面では、該カチオンはカルシウムであり、塩化カルシウム水溶液の形で提供される。
【0016】
特定の局面では、治療薬またはイメージング剤は、化学療法薬、放射線治療薬、温熱治療薬、または造影剤である。
【0017】
特定の局面において、放射線治療薬には、β放射体(131I、90Y、177Lu、186Re、188Re、これらのいずれか1つを特に除外できる)またはγ放射体(125I、123I)などの放射性標識が含まれる。特定の局面では、放射線治療薬は188Reである。さらに、「放射線治療薬」という用語は、放射性標識された部分をより広く包含すると解釈され、放射性核種と会合した、もしくは放射性核種を含むリポソームまたはLAMが含まれる。リポソームまたはLAMは、キレート剤、直接化学結合、またはリンカータンパク質などの他の手段を介して、放射性核種と会合することができる。
【0018】
特定の局面において、化学療法薬には、増殖している細胞を抑制するかまたは死滅させる化合物、およびがんの治療に使用できるかまたは使用が承認されている化合物が含まれるが、これらに限定されない。例示的な化学療法薬には、核分裂または細胞原形質分裂のレベルで細胞分裂を阻止、妨害、破壊、または遅延させる細胞増殖抑制剤が含まれる。そのような薬剤は、タキサン類、特にドセタキセルまたはパクリタキセル、およびエポチロン類、特にエポチロンA、B、C、D、E、Fなどの、微小管を安定化させるもの、あるいはビンカアルカロイド類、特にビンブラスチン、ビンクリスチン、ビンデシン、ビンフルニン、ビノレルビンなどの、微小管を不安定にするものであり得る。ミセルは親油性の薬剤を運ぶために使用され得るが、リポソームは親水性の薬剤を運ぶために使用され得る。
【0019】
一般的に、温熱治療薬は、エネルギー感受性材料の複数の磁性ナノ粒子、つまり「サセプタ」(susceptor)を含み、これは、交流磁場(AMF)などのエネルギー源の存在下で、磁気ヒステリシス損失によって熱を発生させることができる。ここに記載の方法は、一般に、治療を必要とする対象に有効量の温熱治療化合物を投与するステップと、該対象にエネルギーを印加するステップを含む。エネルギーの印加は、磁性ナノ粒子の誘導加温を引き起こし、それは次に、温熱治療化合物が投与された組織を十分に加温して、組織を焼灼することができる。特定の局面では、温熱治療薬は、限定するものではないが、マグネタイト(Fe3O4)、マグヘマイト(γ-Fe2O3)およびFeCo/SiO2を含み、いくつかの態様では、例えば、Co36C65、Bi3Fe5O12、BaFe12O19、NiFe、CoNiFe、Co-Fe3O4、およびFePt-Agの超常磁性粒子の凝集体を含んでもよく、該凝集体の状態が磁気ブロッキング(magnetic blocking)を起こし得る。温熱療法では、AC磁場に対するMNPの応答により、熱エネルギーが周囲に放散されて、腫瘍細胞を死滅させる。さらに、ハイパーサーミアは、がんの放射線および化学療法による治療を高めることができる。本明細書で使用する用語「ハイパーサーミア」(hyperthermia)とは、組織を約40℃~約60℃の温度に加温することを意味する。本明細書で使用する用語「交流磁場」(alternating magnetic field)または「AMF」とは、その磁場ベクトルの方向が、約80kHz~約800kHzの範囲の周波数を有する、典型的には正弦波、三角波、矩形波、または同様の形状パターンで、周期的に変化する磁場を意味する。また、生じる磁場ベクトルのAMF成分のみが方向を変えるように、AMFを静磁場に加えることもできる。交流磁場は、交流電場を伴うことがあり、電磁的な性質であり得ることが理解されよう。特定の態様では、温熱治療薬を脂質の非存在下でアルギン酸マイクロスフェアに組み込むことができる;かくして、温熱治療薬がリポソームに組み込まれずに、アルギン酸マイクロスフェアに組み込まれた、温熱治療薬含有アルギン酸マイクロスフェアが形成される。
【0020】
特定の局面において、造影剤またはイメージング剤には、遷移金属、カーボンナノチューブ、フラーレン、グラフェンなどのカーボンナノ材料、インドシアニングリーン(ICG)などの近赤外吸収(NIR)色素、および金ナノ粒子が含まれるが、これらに限定されない。遷移金属は、元素周期表の第3族から第12族の金属を指し、例えば、チタン(Ti)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、テクネチウム(Tc)、レニウム(Re)、コバルト(Co)、ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、銀(Ag)、金(Au)、ランタニド系元素、例えば、ユーロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、ランタン(La)、イッテルビウム(Yb)、エルビウム(Er)など、またはポスト遷移金属、例えば、ガリウム(Ga)、インジウム(In)などである。一局面では、画像診断法は、陽電子放出断層撮影(PET)、単一光子放射断層撮影(SPECT)、コンピュータ断層撮影(CT)、磁気共鳴イメージング(MRI)、超音波イメージング(US)、および光学イメージングを含む群から選択される。本発明の別の局面では、画像診断法は陽電子放出断層撮影(PET)である。イメージング剤には、放射性標識、フルオロフォア、蛍光色素、光学レポーター、磁気レポーター、X線レポーター、超音波イメージングレポーター、またはナノ粒子レポーターが含まれるが、これらに限定されない。本発明の別の局面では、イメージング剤は、以下からなる群より選択される放射性同位元素を含む群から選択された放射性標識である:アスタチン、ビスマス、炭素、銅、フッ素、ガリウム、インジウム、ヨウ素、ルテチウム、窒素、酸素、リン、レニウム、ルビジウム、サマリウム、テクネチウム、タリウム、イットリウム、およびジルコニウム。別の局面では、放射性標識は、ジルコニウム-89(89Zr)、ヨウ素-124(124I)、ヨウ素-131(131I)、ヨウ素-125(125I)、ヨウ素-123(123I)、ビスマス-212(212Bi)、ビスマス-213(213Bi)、アスタチン-221(211At)、銅-67(67Cu)、銅-64(64Cu)、レニウム-186(186Re)、レニウム-186(188Re)、リン-32(32P)、サマリウム-153(153Sm)、ルテチウム-177(117Lu)、テクネチウム-99m(99mTc)、ガリウム-67(67Ga)、インジウム-111(111In)、タリウム-201(201Tl)、炭素-11、窒素-13(13N)、酸素-15(15O)、フッ素-18(18F)、およびルビジウム-82(82Ru)を含む群から選択される。
【0021】
本発明の他の態様は、本出願を通して説明される。本発明の1つの局面に関して説明された任意の態様は、本発明の他の局面にも適用され、その逆もまた同様である。本明細書に記載の各態様は、本発明の全ての局面に適用可能な本発明の態様であると理解される。本明細書で説明される任意の態様は、本発明の任意の方法または組成物に関して実施することができ、その逆もまた同様であると考えられる。さらに、本発明の組成物およびキットは、本発明の方法を実施するために使用することができる。
【0022】
特許請求の範囲および/または明細書において用語「含む」(comprising)と併せて使用される場合の単語「a」または「an」の使用は、「1つ」を意味し得るが、「1つまたは複数」、「少なくとも1つ」、および「1つまたは2つ以上」の意味とも矛盾しない。
【0023】
本出願全体を通して、用語「約」は、ある値が、その値を決定するために使用されている装置または方法の誤差の標準偏差を含む、ことを示すために使用される。
【0024】
特許請求の範囲における用語「または」の使用は、代替物のみを指すことが明示的に示されない限り、または代替物が相互に排他的でない限り、「および/または」を意味するために使用されるが、本開示では、代替物のみと「および/または」を指す定義が支持される。
【0025】
本明細書および特許請求の範囲で使用される単語「comprising」(およびcomprisingの任意の形、例えば、「comprise」、「comprises」など)、「having」(およびhavingの任意の形、例えば、「have」、「has」など)、「including」(およびincludingの任意の形、例えば、「includes」、「include」など)、または「containing」(およびcontainingの任意の形、例えば、「contains」、「contain」など)は、包括的またはオープンエンドであり、追加の、記載されていない要素または方法ステップを除外するものではない。
【0026】
本明細書で使用する用語「含む」(comprises,comprising,includes,including)、「有する」(has,having)、「含有する」(contains,containing)、「~を特徴とする」(characterized by)、またはそれらの他の変化形は、記載された構成要素の、特に明示された制限を条件として、非排他的包含を網羅することが意図される。例えば、要素(構成成分または特徴またはステップなど)のリストを「含む」(comprises)化学的組成物および/または方法は、必ずしもそれらの要素(または構成成分または特徴またはステップ)のみに限定されるものではなく、明示的にリストアップされていないか、あるいは化学的組成物および/または方法に固有ではない他の要素(または構成成分または特徴またはステップ)を含んでいてもよい。
【0027】
本明細書で使用する移行句「からなる」(consists ofおよびconsisting of)は、指定されていない要素、ステップ、または構成成分を除外する。例えば、ある請求項で「からなる」が使用されている場合、その請求項は、そこに具体的に記載された構成成分、材料またはステップに限定されるが、通常それらに付随する不純物(すなわち、所与の構成成分に含まれる不純物)は除かれる。語句「からなる」が、前置き(preamble)の直後ではなく、請求項の本文の節に現れる場合、語句「からなる」は、その節に記載された要素(または構成成分またはステップ)のみを制限する;他の要素(または構成成分)は、請求項全体から除外されない。
【0028】
本明細書で使用する移行句「本質的に~からなる」(consists essentially ofおよびconsisting essentially of)は、文字通り開示されたものに加えて、材料、ステップ、特徴、構成成分、または要素を含む化学的組成物および/または方法を定義するために使用されるが、ただし、これらの追加の材料、ステップ、特徴、構成成分、または要素が、請求項に記載の発明の基本的かつ新規な特性(複数可)に実質的な影響を及ぼさないことを条件とする。「本質的に~からなる」という用語は、「含む」と「からなる」の中間に位置している。
【0029】
[本発明1001]
以下の工程を含む、リポソーム含有アルギン酸マイクロスフェアを作製するための方法:
アトマイザーを用いて、リポソーム/アルギン酸塩溶液を、アルギン酸架橋剤を含む硬化液に噴霧する工程;および
20~80μmの平均直径を有するリポソーム含有アルギン酸マイクロスフェアを単離する工程。
[本発明1002]
アトマイザーが超音波ノズルである、本発明1001の方法。
[本発明1003]
超音波ノズルが、1Hz~100kHzのノズルである、本発明1002の方法。
[本発明1004]
超音波ノズルが、25kHzのノズルである、本発明1002の方法。
[本発明1005]
アトマイザーが、硬化液から1~10cmの位置に配置される、本発明1001の方法。
[本発明1006]
硬化液がカチオンを含む、本発明1001の方法。
[本発明1007]
カチオンが、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、鉄、銀、アルミニウム、マグネシウム、マンガン、銅、および亜鉛から選択される、本発明1006の方法。
[本発明1008]
硬化液がCaCl 2 を含む、本発明1001の方法。
[本発明1009]
リポソーム/アルギン酸塩溶液が、1:1のリポソームとアルギン酸塩の比率を含む、本発明1001の方法。
[本発明1010]
リポソームが治療薬またはイメージング剤を含む、本発明1001の方法。
[本発明1011]
治療薬が、温熱治療薬、化学療法薬、または放射線治療薬である、本発明1010の方法。
[本発明1012]
(a)20~80μmの平均直径を有するアルギン酸マイクロスフェア;ならびに
(b)該アルギン酸マイクロスフェア中に分散されたリポソームであって、治療薬および/またはイメージング剤を含むリポソーム
を含む、リポソーム含有アルギン酸マイクロスフェア。
[本発明1013]
本発明1012のリポソーム含有アルギン酸マイクロスフェアを腫瘍血管系に注入する工程を含む、腫瘍を有する対象に対して塞栓療法を実施するための方法。
[本発明1014]
アルギン酸マイクロスフェア中に封入された温熱治療薬を含む、温熱治療用アルギン酸マイクロスフェア。
[本発明1015]
温熱治療薬が、アルギン酸マイクロスフェアに内包されたリポソームに封入されている、本発明1014のマイクロスフェア。
本発明の他の目的、特徴および利点は、以下の詳細な説明から明らかになるであろう。しかしながら、本発明の精神および範囲内での様々な変更および修飾がこの詳細な説明から当業者には明らかになるであろうから、詳細な説明および特定の実施例は、本発明の具体的な態様を示しているが、例示としてのみ与えられていることを理解すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0030】
以下の図面は、本明細書の一部を構成し、本発明の特定の局面をさらに明示するために含まれる。本発明は、本明細書に提示された具体的な態様の詳細な説明と組み合わせて、これらの図面の1つまたは複数を参照することによって、よりよく理解することができる。
図1】肝動脈への動脈内注入後の2匹のウサギの画像であって、肝臓での塞栓効果を示している。
【発明を実施するための形態】
【0031】
詳細な説明
以下の説明は、本発明の様々な態様に向けられている。「発明」という用語は、特定の態様を指すものではなく、また本開示の範囲を限定するものでもない。これらの態様の1つまたは複数は好適であり得るが、開示された態様は、特許請求の範囲を含む本開示の範囲を限定するものとして解釈されるべきでなく、また使用されるべきでもない。さらに、当業者であれば、以下の説明が広範な適用範囲を有し、かつ任意の態様の説明が、その態様の例示にすぎないことを意味し、特許請求の範囲を含む本開示の範囲がその態様に限定されることを暗示するものではないことを理解するであろう。
【0032】
態様は、治療用および/または診断用アルギン酸マイクロスフェアに向けられており、特定の局面は、動脈内塞栓療法のための治療用アルギン酸マイクロスフェアに向けられる。さらなる局面では、治療用アルギン酸マイクロスフェアは、放射線治療用アルギン酸マイクロスフェアである。特定の態様では、超音波スプレー噴霧化を用いて、アルギン酸マイクロスフェアを作製することができる。本明細書に記載の方法は、小型(20~80ミクロン)の均一なリポソーム含有アルギン酸マイクロスフェア(LAM)の製造に使用され得る。サイズが250ミクロンのマイクロスフェアに封入されたより大きなレニウムリポソームは、すでに記載されている;しかし、例えば肝細胞癌(HCC)および他のがんへの動脈内送達には、より小さなマイクロスフェアが必要となる。特定の局面には、以下が含まれる。
【0033】
超音波噴霧化を用いてLAMに様々な抗がん剤(例:薬物ドキソルビシン)を装填する方法であり、薬物はDox-LAM内に安定して保持され、腫瘍への動脈内送達後に徐々に放出される可能性がある。
【0034】
前もって形成されたLAMにレニウム-188、Tc-99mまたは様々な抗がん剤を安定的に装填する方法。驚くべきことに、標識剤または薬物は、アルギン酸マイクロスフェアに浸透することができ、その後リポソームに入り込んで、そこで安定的に捕捉される。
【0035】
10ナノメートルの小さな鉄粒子を含む磁性アルギン酸マイクロスフェア(MAM)を作製する方法。驚くべき発見は、これらの小さな鉄ナノ粒子がアルギン酸マイクロスフェアの内部に安定的に保持されたことである。この発見に使用された鉄ナノ粒子は、現在San Antonioで、交流電場での熱的加温によるヒト前立腺がんの治療のために研究開発中である。
【0036】
特定の局面では、Re-188のβ線放出マイクロスフェアは、肝臓がんの治療に使用することができる。この塞栓性の、しかし最終的には生分解性の、マイクロカプセルは、安価なβ線放出放射性核種Re-188を運ぶことができる。この治療剤は、わずか数時間で製造して投与することができ、高品質のイメージングを可能にする。提案されるモデルは、Re-188リポソームをアルギン酸マイクロスフェアに封入することを必要とする。
【0037】
このマイクロスフェアシステムはフレキシブルであって、放射性核種に加えて、薬物を運ぶことができる。例えば、以前の研究では、放射性標識リポソーム化ドキソルビシンは、放射性核種レニウムと共に使用された。このリポソーム化ドキソルビシンを、肝臓がんの動脈内治療のためにマイクロスフェアに組み込むことができそうである。これらのデュアルモダリティ(dual modality)のマイクロスフェアは、改善された治療効果を示す可能性がある。また、動脈内注入時の腫瘍治療の可視化を補助するために、放射線不透過性物質であるヨード造影剤をマイクロスフェアに組み込むこともできそうである。
【0038】
I. アルギン酸マイクロスフェア
アルギン酸は、カルシウム、バリウムなどの2価カチオンの存在下で硬化したゲルマトリックスを形成する多糖類である。アルギン酸塩から作製されたマイクロスフェアは、アルギン酸マトリックスからの治療薬の遅延放出について研究されてきた。特に、低分子量の分子(ドキソルビシンなど)は、該スフェアから標的組織へとエスケープすることができる。遊離の放射性核種も例外ではなく、動脈内に投与された場合には、体循環に漏出する可能性が非常に高いと考えられる。したがって、本発明は、放射性核種を多孔質アルギン酸界面からエスケープさせることなく、アルギン酸マイクロスフェアにRe 188を封入することに基づいている。本開示は、Re標識付加リポソームを含むアルギン酸マイクロスフェアを作製することで、マイクロスフェアにRe-188を首尾よく封入することを提案している。リポソームは、Re-188が脂質二重層を通過することを可能とせず、また、リポソームは>100nmであるため、アルギン酸の多孔質界面からエスケープすることができない。これらのスフェアは、放射線塞栓術のために肝腫瘍への直接動脈内送達が意図されており、そのため、毛細血管床に入ることができても、通過する(体循環に入る)ことはできないサイズ範囲が必要となる。したがって、提案されるモデルは、レニウムリポソームを含有するアルギン酸マイクロスフェア(20~80μm)を作製する手段である。先に述べたように、放射性核種としてRe-188の代わりにTc-99mを使用することも可能で、これら2つの核種は同様の化学的性質を共有している。放射性標識付加の手順は実質的に同じである。
【0039】
リポソームの形成: 硫酸アンモニウム勾配によりリポソームを作製する。丸底フラスコにリン脂質とコレステロールを適量加える。脂質の組成に応じてクロロホルムまたはクロロホルム-メタノールを加え、脂質を溶解して脂質溶液とする。脂質溶液を回転蒸発させて溶媒を除去し、脂質薄膜を形成する。温度と蒸発時間は、脂質の配合によって変化しうる。脂質薄膜を真空下で少なくとも4時間乾燥させる。特定の局面では、乾燥を一晩とすることもできる。所定の総脂質濃度(例えば、60mM)で注入するために、脂質薄膜を再水和する(例えば、滅菌水中の300mMスクロース)。この溶液をボルテックスし、全ての脂質が溶解状態になるまで脂質の相転移温度以上に加熱する。脂質溶液を凍結し、凍結乾燥させて乾燥粉末を形成する。この乾燥粉末を、適切な緩衝液(例えば、滅菌水中の硫酸アンモニウム)で、適切な総脂質濃度(例えば、60mM)になるまで再水和して、新しい溶液を形成する。この溶液を激しくボルテックスし、全ての脂質が溶解状態になるまで脂質の相転移温度以上に加熱する。脂質溶液を液体窒素で凍結させた後、脂質の相転移温度以上の温度に設定したウォーターバスで融解する。凍結融解の手順を少なくとも3回繰り返す。所望の粒子径になるまでリポソームサンプルを押し出す。押し出し後、最終的なリポソーム製品は必要になるまで4℃で保存する必要がある。リポソームは、レーザー光散乱による粒子径測定、発熱性、無菌性、および脂質濃度によって特徴付けることができる。
【0040】
アルギン酸塩の調製: アルギン酸塩溶液(例えば、1、2、3、4、5、6%w/v)を、水または他の適切な緩衝液(例えば、HEPES緩衝液)で調製する。このアルギン酸塩溶液を少なくとも48時間静置させて、均質化しかつ気泡を除去する。
【0041】
架橋剤の調製: 0.136M CaCl-2H2Oと0.05%w/v Tween 80の架橋用溶液を調製する。場合によっては、BaC12も許容される架橋剤である。
【0042】
放射性標識リポソームの作製: pH7.4の緩衝液でSephadex G-25カラムを準備する。通常、2mlのリポソームに対して1本のカラムを使用する。Sephadex G25カラムリザーバーから緩衝液を流し、リポソームをカラムの上部に加えて、pH7.4の緩衝液で溶出する。収量を最大にし、希釈を最小にするには、放射性標識付加の前にリポソームを脱塩するための遠心分離法(重力法ではない)を使用する。収量を最大にし、効率を最小にするには、標識されたリポソームをSephadexカラムに通さない。後続のステップで該スフェアを洗浄すると、遊離のRe-188/Tc-99mが除去される。
【0043】
リポソーム/アルギン酸塩溶液の調製: リポソーム溶液とアルギン酸塩溶液を体積比1:1で均質になるまでボルテックスする。
【0044】
ノズル装置とその使用: 特定の局面では、ノズル装置が使用される。ノズル装置は、以下の1つまたは複数の仕様を持つことができる:(a)動脈内塞栓のためには、25kHzのノズルが推奨される;(b)5.0Wの発生装置;(c)0.5ml/minのシリンジポンプ(この程度に低い流量にはマイクロボアが必要かもしれない);(d)架橋用溶液を撹拌プレートの上、ノズルの下(例えば、約4cm下)に置く。ノズルの使用全体にわたって作動させる;(e)発生装置を作動させ、次にシリンジポンプを動かしてリポソーム含有アルギン酸マイクロスフェアを形成する。マイクロスフェアを室温でCaCl2溶液中にて5分間インキュベートする。マイクロスフェアを1000~1200rpmでスピンダウンし、上清を抜き取って、遊離のRe-188/Tc-99mからスフェアを洗浄する。ペレットを滅菌DI水でさらに再懸濁してスフェアを洗浄することが推奨される。その混合物を遠心分離し、上清を抜き取る。洗浄したスフェアを滅菌生理食塩水中に再懸濁する。架橋または遠心分離中に発生した可能性のある集塊を除くために、スフェア/生理食塩水を100μm孔のステンレス鋼メッシュに通す。リポソーム含有マイクロスフェアを動脈内投与用のシリンジに吸引する。
【0045】
これらのマイクロスフェアは、現行のY-90マイクロスフェアと比較して、インターベンショナルラジオロジー(interventional radiology:画像下治療)による肝腫瘍の治療において、以下のような大きな利点があると予測される。すなわち、Re-188は容易に入手でき、Y-90マイクロスフェアよりもはるかに安価である。これは、レニウム-188発生装置が、500mCi発生装置(1日数人の患者を4ヶ月間治療するのに十分)または3,000mCi発生装置(1日5~10人の患者を4ヶ月間治療するのに十分)に関して比較的低コストで1回限りで購入できるようになったためである。これらの発生装置は、Re-188を発生装置から6ヶ月間毎日ミルキング(milking)することで、最大6ヶ月間使用することができる。この発生装置は、急な依頼に対して投与用のRe-188マイクロスフェアを迅速に製造することができ、これは、肝腫瘍の増殖速度を考慮すると、患者に大きな利益をもたらす可能性がある。Re-188マイクロスフェアの低コストおよび入手しやすさは、リアクターで製造されかつ2週間の先行発注を必要とするY-90マイクロスフェアと比較して、大きな利益を提供することができる。また、レニウム発生装置の低コストとポータビリティは、米国よりも肝腫瘍の発生率が高い発展途上国においてもこの技術が容易に利用可能になり得ることを意味している。
【0046】
Y-90と同様に、Re-188は、組織中で4mmの平均組織経路長を示す高エネルギーのβ粒子を有する。この組織経路長は、肝腫瘍内に広範なマイクロフィールド(micro field)の放射線を提供するために動脈内療法にとって重要である。このβエネルギーと組織中の経路長は、膠芽腫の治療に現在使用されているRe-186の2倍の大きさ(長さ)に相当する。Y-90とは異なり、Re-188は、15%のガンマ光子を有し、分布と保持を監視するための非常に高品質のSPECT画像を取得するために理想的な光子エネルギー範囲にある。対照的に、Y-90はガンマ光子を放出せず、レニウム-188のせいぜい100分の1の光子束を持つ制動放射線(Bremsstrahlung radiation)のみを発生する。レニウムは、レニウム-188マイクロスフェアの使用場所近くに配置できるRe-188発生装置から簡単に入手可能である。この発生装置は6ヶ月間持続することができ、数千人の患者の治療に必要なレニウム-188を比較的低コストで提供することが可能である。
【0047】
特定の態様では、マイクロスフェアはスプレー噴霧化によって作製することができる。従来の噴霧方法には、空気圧およびエレクトロスプレーが含まれる。特定の局面では、この方法は、狭いサイズ範囲を有するマイクロスフェアを作製するための方法として、超音波処理を使用する。Sono-tek Corp(Poughkeepsie, NY)は、従来の方法と比較して狭いサイズ範囲で流体を速やかに霧化できる超音波霧化面を持つノズルを製造している。マイクロスフェアの平均サイズは、スフェアの作製にどの周波数のノズルを選択するかに大きく依存している。ノズルを用いた研究では、20~80のサイズ範囲(平均44ミクロン)のスフェアが25kHzのノズルを用いて0.5ml/minの速度で作製され得ることがわかった。
【0048】
アルギン酸マイクロスフェアは、マイクロフルイダイゼーション(Microfluidization)技術を用いて製造することもできる。製造可能なアルギン酸マイクロスフェアのサイズは、利用するマイクロフルイディクス(microfluidics)システムに応じて20~500の範囲であり得る。40ミクロン±3ミクロンのアルギン酸マイクロスフェアをマイクロフルイダイゼーションにより作製することができる。この方法は、この方法により導入される時間的要因のため、放射性核種ではまだ試験されたことがない。超音波霧化による架橋は数分でできるが、単一のマイクロ流体チップを用いたスフェアの作製には丸1日かかることがある。患者に投与する前に、多くの放射能が崩壊してしまう。したがって、この方法は、(A)多数のチップを同時に利用するか、または(B)複数の入口/出口を備えた単一のチップを利用するか、のいずれかにより検討され得る。
【0049】
リポソームナノ粒子を含有する生分解性アルギン酸マイクロスフェアを使用することの大きな利点は、治療薬の腫瘍内分布を改善するために、腫瘍内マクロファージによるリポソームマイクロスフェアの摂取を利用できることである、と考えられる。さらに、この改善された生体内分布は、腫瘍内で自由に移動できるマクロファージによる分解したマイクロスフェアの食作用に起因すると考えられる。マクロファージはまた、別のタイプのナノ粒子の腫瘍被覆率(tumor coverage)を高めるメカニズムとしても提案されており、ナノ粒子が腫瘍の小さな領域の注入部位から腫瘍全体を覆うように移動することを示す証拠がある。動脈内送達後のマクロファージにより高められた腫瘍内被覆率の向上には、β線放出放射性核種のナノ粒子を含有する分解可能なマイクロスフェアが、腫瘍に栄養を与える動脈を閉塞したことが含まれる。マクロファージは、マイクロスフェアを部分的に分解してナノ粒子を摂取し、腫瘍の部分を通って治療用放射線を移動させることができる。マイクロスフェアが完全に分解されると、マクロファージが、腫瘍の浸潤先端部を含めて、腫瘍を覆ってしまう。
【0050】
最近の研究では、サイズが250ミクロンのアルギン酸マイクロスフェアを肝臓に注入すると、このアルギン酸マイクロスフェアのかなりの部分が分解して、2週間後までに腫瘍内に広がることが示されている。サイズが200ミクロンを超えるマイクロスフェアとは対照的に、100μm未満のマイクロスフェアを使用すると、マクロファージによるそれらの生分解性が向上する可能性が高くなると予想される。必要に応じて分解速度を高める別のアプローチは、アルギン酸マイクロスフェアに、例えばゼラチンおよびグルコマンナンなどの他の成分を含めることであろう。ゲイツ財団(Gates Foundation)からのドラッグデリバリー研究助成の一環として行われた以前の研究において、本発明者らは、ゼラチン(コラーゲン)(ゼラチンとアルギン酸の割合が1:2)および/またはグルコマンナン(グルコマンナンとアルギン酸の割合が1:2)のかなりの部分を含むアルギン酸マイクロカプセルもまた、安定したアルギン酸ベースのマイクロスフェアをまだ形成することができ、かつTc-99mまたはRe-186で安定的に放射性標識され得ることを示した。マイクロスフェアの組成を変えることで、マクロファージにコラゲナーゼが存在するために、より急速なマクロファージ分解が起こる可能性があり、また、グルコマンナンによるマクロファージ上のマンノース受容体のM2マクロファージ刺激が増加して、結果的に、アルギン酸/グルコマンナンのハイブリッドマイクロスフェアのより迅速な食作用と分解が起こる可能性もある。以前の研究では、グルコマンナンがマクロファージによるナノ粒子の取り込みを促進できることが示されている。分解可能なマイクロスフェアを作製して、投与後のその分解時間をコントロールすることができれば、生分解性でないガラスまたは樹脂マイクロスフェアを用いた塞栓術と比較して、このアルギン酸ベースのマイクロスフェアの製造に大きな利点が提供されると考えられる。生分解性のマイクロスフェアは、恒久的なガラスまたは樹脂マイクロスフェアよりも正常な肝組織への損傷が少ない可能性がある。
【0051】
レニウム-マイクロスフェアは、動脈内送達によるがんの治療に使用することができ、最初のがん治療の候補は肝臓がんである。この戦略は、肺がんにも拡張できる可能性がある。低コストのレニウム-188発生装置とアルギン酸マイクロスフェア作製が利用可能であるため、この治療法はがんの治療のための安価な選択肢となる。
【0052】
レニウム-188の最も代表的な代替物であるTc-99mリポソームを含むマイクロスフェア(Tec-LAM)を、ウサギの肝動脈に動脈内注入したところ、投与後1時間で2匹のウサギのこの画像に示されるように、肝臓での塞栓効果が実証された。24時間後、画像の変化は最小限に抑えられ、両方のウサギは非常によく似た肝臓の外観を呈し、極めて良好な保持を示した。肺または腎臓では放射能が可視化されないことに留意されたい。肺で放射能が可視化されないことは、このTec-LAMにとって非常に有望である。現在、臨床的に利用可能なY-90含有マイクロスフェアは一般的に、肺で5%の放射能を示し、これは、肺へのシャント(shunting)が高すぎる場合には治療の制限要因となり得る。肺の放射能または腎臓の放射能が可視化されないという事実は、非常に励みになり、LAMがそれらの注入場所で動脈内に塞栓を起こし、時間が経過しても循環の中で大きく崩壊しないことを示している。Re-186マイクロスフェアの開発は進展しているが、インビトロでの試験はまだ行われていない。
【0053】
II. リポソーム
リポソームの組成に適した脂質の選択は、以下の要因に支配される:(1)リポソームの安定性、(2)相転移温度、(3)電荷、(4)哺乳類系への無毒性、(5)カプセル化(封入)効率、(6)脂質混合物の特性など。小胞形成性の脂質は、好ましくは、2本の炭化水素鎖、典型的にはアシル鎖と、極性または非極性のいずれかのヘッドグループ(head group)とを有する。炭化水素鎖は、飽和であってもよいし、様々な不飽和度を有していてもよい。様々な合成の小胞形成性脂質および天然由来の小胞形成性脂質が存在しており、例えば、スフィンゴ脂質、エーテル脂質、ステロール、リン脂質、ホスホグリセリド、および糖脂質(例:セレブロシドおよびガングリオシド)がある。
【0054】
ホスホグリセリドには、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジン酸、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルセリン、ホスファチジルグリセロール、およびジホスファチジルグリセロール(カルジオリピン)などのリン脂質が含まれ、2本の炭化水素鎖は典型的には、長さが約14~22個の炭素原子であり、様々な不飽和度を有する。本明細書で使用する略語「PC」はホスファチジルコリンを表し、「PS」はホスファチジルセリンを表す。飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸のいずれかを含む脂質は、当業者に広く利用可能である。さらに、脂質の2本の炭化水素鎖は、対称であっても非対称であってもよい。アシル鎖が様々な長さと飽和度を有する上記の脂質およびリン脂質は、商業的に入手できるか、または公表された方法に従って調製することができる。
【0055】
ホスファチジルコリンとしては、ジラウロイルホスファチジルコリン、ジミリストイルホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルコリン、ジステアロイルホスファチジルコリン、ジアラキドイルホスファチジルコリン、ジオレオイルホスファチジルコリン、ジリノレオイルホスファチジルコリン、ジエルコイルホスファチジルコリン、パルミトイル-オレオイルホスファチジルコリン、卵ホスファチジルコリン、ミリストイル-パルミトイルホスファチジルコリン、パルミトイル-ミリストイル-ホスファチジルコリン、ミリストイル-ステアロイルホスファチジルコリン、パルミトイル-ステアロイル-ホスファチジルコリン、ステアロイル-パルミトイルホスファチジルコリン、ステアロイル-オレオイル-ホスファチジルコリン、ステアロイル-リノレオイルホスファチジルコリン、およびパルミトイル-リノレオイル-ホスファチジルコリンが挙げられるが、これらに限定されない。非対称型ホスファチジルコリンは、1-アシル,2-アシル-sn-グリセロ-3-ホスホコリンと呼ばれ、これらのアシル基は互いに異なっている。対称型ホスファチジルコリンは、1,2-ジアシル-sn-グリセロ-3-ホスホコリンと呼ばれる。本明細書で使用する略語「PC」は、ホスファチジルコリンを指す。ホスファチジルコリンの1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリンは、本明細書では「DMPC」と略記される。ホスファチジルコリンの1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリンは、本明細書では「DOPC」と略記される。ホスファチジルコリンの1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリンは、本明細書では「DPPC」と略記される。
【0056】
一般に、様々な脂質に見られる飽和アシル基には、以下の慣用名を有する基が含まれる:プロピオニル、ブタノイル、ペンタノイル、カプロイル、ヘプタノイル、カプリロイル、ノナノイル、カプリル、ウンデカノイル、ラウロイル、トリデカノイル、ミリストイル、ペンタデカノイル、パルミトイル、フィタノイル、ヘプタデカノイル、ステアロイル、ノナデカノイル、アラキドイル、ヘネイコサノイル、ベヘノイル、トルシサノイル、およびリグノセロイル。飽和アシル基の対応するIUPAC名は、以下の通りである:トリアノイック、テトラノイック、ペンタノイック、ヘキサノイック、ヘプタノイック、オクタノイック、ノナノイック、デカノイック、ウンデカノイック、ドデカノイック、トリデカノイック、テトラデカノイック、ペンタデカノイック、ヘキサデカノイック、3,7,11,15-テトラメチルヘキサデカノイック、ヘプタデカノイック、オクタデカノイック、ノナデカノイック、エイコサノイック、ヘネイコサノイック、ドコサノイック、トロコサノイック、およびテトラコサノイック。対称型と非対称型の両方のホスファチジルコリンに見られる不飽和アシル基には、ミリストレオイル、パルミトレイル、オレオイル、エライドイル、リノレオイル、リノレノイル、エイコセノイル、およびアラキドノイルが含まれる。不飽和アシル基の対応するIUPAC名は、9-cis-テトラデカノイック、9-cis-ヘキサデカノイック、9-cis-オクタデカノイック、9-trans-オクタデカノイック、9-cis-12-cis-オクタデカジエノイック、9-cis-12-cis-15-cis-オクタデカトリエノイック、11-cis-エイコセノイック、および5-cis-8-cis-11-cis-14-cis-エイコサテトラエノイックである。
【0057】
ホスファチジルエタノールアミンとしては、ジミリストイル-ホスファチジルエタノールアミン、ジパルミトイル-ホスファチジルエタノールアミン、ジステアロイル-ホスファチジルエタノールアミン、ジオレオイル-ホスファチジルエタノールアミン、および卵ホスファチジルエタノールアミンが挙げられるが、これらに限定されない。また、ホスファチジルエタノールアミンは、IUPAC命名法では、対称型脂質か非対称型脂質かに応じて、1,2-ジアシル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミンまたは1-アシル-2-アシル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミンと呼ばれることもある。
【0058】
ホスファチジン酸としては、ジミリストイルホスファチジン酸、ジパルミトイルホスファチジン酸、およびジオレオイルホスファチジン酸が挙げられるが、これらに限定されない。また、ホスファチジン酸は、IUPAC命名法では、対称型脂質か非対称型脂質かに応じて、1,2-ジアシル-sn-グリセロ-3-リン酸または1-アシル-2-アシル-sn-グリセロ-3-リン酸と呼ばれることもある。
【0059】
ホスファチジルセリンとしては、ジミリストイルホスファチジルセリン、ジパルミトイルホスファチジルセリン、ジオレオイルホスファチジルセリン、ジステアロイルホスファチジルセリン、パルミトイル-オレイルホスファチジルセリン、および脳ホスファチジルセリンが挙げられるが、これらに限定されない。また、ホスファチジルセリンは、IUPAC命名法では、対称型脂質か非対称型脂質かに応じて、1,2-ジアシル-sn-グリセロ-3-[ホスホ-L-セリン]または1-アシル-2-アシル-sn-グリセロ-3-[ホスホ-L-セリン]と呼ばれることもある。本明細書で使用する略語「PS」は、ホスファチジルセリンを指す。
【0060】
ホスファチジルグリセロールとしては、ジラウリロイルホスファチジルグリセロール、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール、ジステアロイルホスファチジルグリセロール、ジオレオイルホスファチジルグリセロール、ジミリストイルホスファチジルグリセロール、パルミトイル-オレオイルホスファチジルグリセロール、および卵ホスファチジルグリセロールが挙げられるが、これらに限定されない。また、ホスファチジルグリセロールは、IUPAC命名法では、対称型脂質か非対称型脂質かに応じて、1,2-ジアシル-sn-グリセロ-3-[ホスホ-rac-(1-グリセロール)]または1-アシル-2-アシル-sn-グリセロ-3-[ホスホ-rac-(1-グリセロール)]と呼ばれることもある。ホスファチジルグリセロールの1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-[ホスホ-rac-(1-グリセロール)]は、本明細書では「DMPG」と略記される。ホスファチジルグリセロールの1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-(ホスホ-rac-1-グリセロール)(ナトリウム塩)は、本明細書では「DPPG」と略記される。
【0061】
適切なスフィンゴミエリンとしては、脳スフィンゴミエリン、卵スフィンゴミエリン、ジパルミトイルスフィンゴミエリン、およびジステアロイルスフィンゴミエリンが挙げられるが、これらに限定されない。
【0062】
他の適切な脂質には、糖脂質、スフィンゴ脂質、エーテル脂質、セレブロシドとガングリオシドなどの糖脂質、コレステロールとエルゴステロールなどのステロールが含まれる。本明細書で使用するコレステロールという用語は、「Chol」と略記されることがある。リポソームに使用するのに適した追加の脂質は、当業者に知られている。
【0063】
特定の局面では、リポソームの全体的な表面電荷を変えることができる。特定の態様では、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジン酸、カルジオリピンなどのアニオン性リン脂質を使用する。ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)などの中性脂質を使用してもよい。リポソームの電荷を変化させるために、カチオン性脂質を、脂質組成物の微量成分として、または主成分もしくは唯一の成分として、使用することもできる。適切なカチオン性脂質は、一般的に、ステロール、アシルまたはジアシル鎖などの親油性部分を有し、該脂質は全体的に正味の正電荷を有する。好ましくは、脂質のヘッドグループは正電荷を帯びている。
【0064】
当業者は、指定された程度の流動性または剛性(硬さ)を達成する小胞形成性脂質を選択するであろう。リポソームの流動性または剛性を利用して、リポソームの安定性または封入された薬剤の放出速度などの要因を制御することができる。より硬い脂質二重層、または液晶二重層を有するリポソームは、比較的硬い脂質を組み込むことによって達成される。脂質二重層の硬さは、二重層中に存在する脂質の相転移温度と相関している。相転移温度とは、脂質が物理的状態を変化させて、秩序あるゲル相から無秩序な液晶相へと移行する温度である。脂質の相転移温度には、脂質の炭化水素鎖の長さと不飽和度、電荷、およびヘッドグループの種類を含めて、いくつかの要因が影響している。相転移温度が比較的高い脂質は、より硬い二重層をもたらすだろう。コレステロールなどの他の脂質成分も、脂質二重層構造の膜剛性に寄与することが知られている。コレステロールは、脂質二重層の流動性、弾力性、透過性を操作するために、当業者に広く利用されている。それは、脂質二重層の隙間を埋めることで機能すると考えられる。対照的に、脂質の流動性は、比較的流動性のある脂質、典型的にはより低い相転移温度を有する脂質、を組み込むことによって達成される。多くの脂質の相転移温度は、様々な情報源で表にまとめられている。
【0065】
特定の局面では、リポソームは、ジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)およびジミリストイルホスファチジルグリセロール(DMPG)、ホスファチジルセリン、ホスファチジルコリン、ジオレオイルホスファチジルコリン[DOPC]、コレステロール(CHOL)、およびカルジオリピンなどの内因性リン脂質から作られる。
【0066】
III. 投与および治療の方法
塞栓療法: 腫瘍動脈塞栓の方法には、微小動脈に塞栓を注入して、機械的遮断を引き起こし、かつ腫瘍の成長を抑制することが含まれる。特定の局面では、その塞栓は、本明細書に記載されるようなリポソームアルギン酸マイクロスフェア(LAM)である。特定の局面では、治療される腫瘍は、外科手術に適さない悪性腫瘍である。そうした腫瘍は、肝細胞癌(HCC)、腎臓がん、骨盤内腫瘍、および頭頸部がんであり得る。
【0067】
塞栓目的でのマイクロスフェアの有効性は、マイクロスフェアの直径、マイクロスフェアの分解速度、および治療薬の放出速度の1つまたは複数に依存する。マイクロスフェア製剤は、がんまたは腫瘍を支援している微小血管を遮断することができる。塞栓は、腫瘍を標的とした治療薬を供給することができ、治療薬を標的指向可能および制御可能となるようにする。この種の薬物投与は、インビボでの薬物分布を改善し、薬物動態学的特性を高め、薬物の生物学的利用能を増加し、治療効果を改善し、かつ毒性または副作用を軽減することができる。
図1