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特許7369801顕微鏡システム、設定探索方法、及び、プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-18
(45)【発行日】2023-10-26
(54)【発明の名称】顕微鏡システム、設定探索方法、及び、プログラム
(51)【国際特許分類】
   G02B 21/00 20060101AFI20231019BHJP
【FI】
G02B21/00
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2021577774
(86)(22)【出願日】2020-02-12
(86)【国際出願番号】 JP2020005412
(87)【国際公開番号】W WO2021161432
(87)【国際公開日】2021-08-19
【審査請求日】2022-06-29
(73)【特許権者】
【識別番号】322004393
【氏名又は名称】株式会社エビデント
(74)【代理人】
【識別番号】110004185
【氏名又は名称】インフォート弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100121083
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 宏義
(74)【代理人】
【識別番号】100138391
【弁理士】
【氏名又は名称】天田 昌行
(74)【代理人】
【識別番号】100074099
【弁理士】
【氏名又は名称】大菅 義之
(74)【代理人】
【識別番号】100182936
【弁理士】
【氏名又は名称】矢野 直樹
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 伸吾
【審査官】瀬戸 息吹
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-114796(JP,A)
【文献】特開2015-105964(JP,A)
【文献】特開2017-026664(JP,A)
【文献】特開2008-112059(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0003489(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 19/00 - 21/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項10】
請求項1に記載の顕微鏡システムにおいて、
前記演算装置は、前記複数の画像データの全てにおいて、前記コントラスト値の各々を 算出する
ことを特徴とする顕微鏡システム。
【請求項12】
請求項11に記載の設定探索方法において、
前記複数の画像データの全てにおいて、前記コントラスト値の各々を算出する
ことを特徴とする設定探索方法。
【請求項13】
コンピュータに、
球面収差補正装置の設定が異なる状態で取得した複数の画像データのうちの少なくとも1つの画像データに含まれる画素値が飽和した画素データの位置の各々前記複数の画像 データに対して共通して定義された第1の位置として特定し、
前記複数の画像データの各々に含まれる前記第1の位置に対応する画素データを前記複数の画像データのコントラスト値の各々の計算から除いて、前記複数の画像データの各々のコントラスト値を算出し、
前記複数の画像データの各々のコントラスト値を含む複数のコントラスト値に基づいて球面収差が補正される前記球面収差補正装置の設定を特定する、
処理を実行させることを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、顕微鏡システム、球面収差が補正される設定を探索する設定探索方法、及び、プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、顕微鏡システムの補正環は、カバーガラスの厚さに起因する球面収差を補正する手段として用いられている。サンプル(例えば、生体試料)の深部を観察する手法が開発された近年では、補正環は、観察対象面の深さに応じて変化する球面収差を補正する目的にも使用されている。このような技術は、例えば、特許文献1から特許文献3に記載されている。
【0003】
また、サンプル内部で発生する球面収差量は、サンプルの屈折率分布に依存する。このため、球面収差が補正される補正環の位置を知ることができれば、サンプルの屈折率を逆算することが可能である。このような技術は、例えば、特許文献2、特許文献3に記載されている。
【0004】
球面収差が補正されているか否かの判定は、特許文献1から特許文献3に記載されるように、画像のコントラストを評価した評価値(以降、コントラスト値と記す)に基づいて行うことができる。これは、球面収差が補正された状態では、球面収差が補正されていない状態に比べて、コントラストの高い画像が得られるためである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-160213号公報
【文献】特開2017-026664号公報
【文献】特開2017-026665号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、球面収差が補正されているか否かを正確に判定するためには、S/N比が高い画像を用いてコントラスト値を算出することが望ましい。S/N比が低い画像では、球面収差量とは無関係なノイズの影響が相対的に大きくなり、球面収差に起因するコントラストの変化を正確に把握することが難しいからである。S/N比が高い画像は、例えば、照明光の強度を強くして、画像のシグナル成分をノイズ成分に対して大きくすることによって取得可能である。
【0007】
しかしながら、照明光の強度が強くなりすぎると、画像に含まれる飽和画素の割合が増加してしまう。コントラスト値は、飽和画素の割合が増加すると、実際よりも低く算出されてしまうことがあり、その結果、不正確な位置を球面収差が補正される補正環の位置として認識してしまうことがある。また、球面収差が補正される補正環の最適位置が決まっていない状態で照明光の強度を調整しても、補正環調整を行う過程で補正環の設定を変更することによって、さらに明るさが変化してしまい、その結果、飽和画素の割合が増加してしまうことがある。つまり、補正環調整を開始する前に照明光の強度を適正に調整した場合であっても、同様の問題は生じ得る。
【0008】
以上では、補正環を例に説明したが、補正環に限らず、球面収差を補正する補正装置であれば、同様の技術的な課題が生じ得る。
【0009】
以上のような実情を踏まえ、本開示の一つの目的は、飽和画素が生じた場合であっても球面収差が補正される設定を精度良く特定する技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様に係る顕微鏡システムは、球面収差補正装置を有し、前記球面収差補正装置の設定が異なる複数の状態の各々で画像データを取得することで複数の画像データを取得する顕微鏡装置と、前記複数の画像データの各々のコントラスト値を含む複数のコントラスト値に基づいて球面収差が補正される前記球面収差補正装置の設定を特定する演算装置と、を備え、前記演算装置は、前記複数の画像データのうちの少なくとも1つの画像データに含まれる画素値が飽和した画素データの位置の各々前記複数の画像データに対 して共通して定義された第1の位置として特定し、前記複数の画像データの各々に含まれる前記第1の位置に対応する画素データを前記複数の画像データのコントラスト値の各々の計算から除いて、前記複数のコントラスト値の各々を算出する。
【0011】
本発明の一実施形態に係る設定探索方法は、球面収差が補正される設定を探索する設定探索方法であって、球面収差補正装置の設定が異なる複数の状態の各々で画像データを取得することで複数の画像データを取得し、前記複数の画像データのうちの少なくとも1つの画像データに含まれる画素値が飽和した画素データの位置の各々前記複数の画像デー タに対して共通して定義された第1の位置として特定し、前記複数の画像データの各々に含まれる前記第1の位置に対応する画素データを前記複数の画像データのコントラスト値の各々の計算から除いて、前記複数の画像データの各々のコントラスト値を算出し、前記複数の画像データの各々のコントラスト値を含む複数のコントラスト値に基づいて球面収差が補正される前記球面収差補正装置の設定を特定する。
【0012】
本発明の一実施形態に係るプログラムは、コンピュータに、球面収差補正装置の設定が異なる状態で取得した複数の画像データのうちの少なくとも1つの画像データに含まれる画素値が飽和した画素データの位置の各々前記複数の画像データに対して共通して定義 された第1の位置として特定し、前記複数の画像データの各々に含まれる前記第1の位置に対応する画素データを前記複数の画像データのコントラスト値の各々の計算から除いて、前記複数の画像データの各々のコントラスト値を算出し、前記複数の画像データの各々のコントラスト値を含む複数のコントラスト値に基づいて球面収差が補正される前記球面収差補正装置の設定を特定する、処理を実行させる。
【発明の効果】
【0013】
本開示によれば、飽和画素が生じた場合であっても球面収差が補正される設定を精度良く特定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】第1の実施形態に係る顕微鏡システムの構成を例示した図である。
図2図1に示す演算装置の構成を例示した図である。
図3図1に示す顕微鏡装置の構成を例示した図である。
図4】第1の実施形態に係る補正環設定処理のフローチャートである。
図5】飽和画素位置特定処理のフローチャートである。
図6】コントラスト算出処理のフローチャートである。
図7】従来のコントラスト値の算出方法を説明するための図である。
図8】第1の実施形態におけるコントラスト値の算出方法の一例を説明するための図である。
図9】第1の実施形態におけるコントラスト値の算出方法の別の例を説明するための図である。
図10】第2の実施形態に係る補正環設定処理のフローチャートである。
図11図10に示す補正環設定処理の変形例のフローチャートである。
図12】第3の実施形態に係る関係算出処理のフローチャートである。
図13】補正環の設定と観察深さの関係の算出方法の一例を説明するための図である。
図14】第3の実施形態に係るZ-Series撮影処理のフローチャートである。
図15】第4の実施形態に係る屈折率表示処理のフローチャートである。
図16】屈折率の表示方法の一例を説明するための図である。
図17】屈折率の表示方法の一例を説明するための別の図である。
図18】コントラスト値の算出方法の更に別の例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[第1の実施形態]
図1は、本実施形態に係る顕微鏡システム1の構成を例示した図である。図2は、図1に示す演算装置20の構成を例示した図である。図3は、図1に示す顕微鏡100の構成を例示した図である。
【0016】
図1に示す顕微鏡システム1は、顕微鏡100と、顕微鏡制御装置10と、演算装置20と、表示装置30と、演算装置20への指示を入力するための複数の入力装置(キーボード40、補正環操作装置50、焦準操作装置60)を備えている。なお、以降では、顕微鏡100と顕微鏡制御装置10を顕微鏡装置と総称する。
【0017】
顕微鏡制御装置10は、演算装置20からの指示に従って顕微鏡100の動作を制御する装置であり、顕微鏡100の各種電動部の動作を制御する制御信号を生成する。また、顕微鏡100からの信号に基づいて画像データを生成する。顕微鏡制御装置10は、光源の出力を制御する光源制御装置11と、ズーム倍率を制御するズーム制御装置12と、観察対象面の光軸方向の位置(以降、単に、観察対象面の位置と記す)を制御する焦準制御装置13と、補正環111の設定を制御する補正環制御装置14と、を備えている。なお、補正環111は、球面収差を補正する球面収差補正装置の一例であり、補正環制御装置14は、補正制御装置の一例である。補正環111の設定は、例えば、基準位置に対する補正環111の回転角度(以降、単に、補正環111の角度と記す)のことである。
【0018】
演算装置20は、各種の演算処理を行うコンピュータであり、例えば、図2に示すように、プロセッサ21、メモリ22、入力I/F装置23、出力I/F装置24、可搬記録媒体26が挿入される可搬記録媒体駆動装置25を備え、これらがバス27によって相互に接続されている。なお、図2は、演算装置20の構成の一例であり、演算装置20はこの構成に限定されるものではない。
【0019】
プロセッサ21は、1つ以上のプロセッサを含んでいる。1つ以上のプロセッサは、例えば、中央処理装置(CPU:Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、DSP(Digital Signal Processor)などを含んでもよい。また、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)などを含んでもよい。プロセッサ21は、例えば、所定のソフトウェアプログラムを実行して演算処理を行ってもよい。
【0020】
メモリ22は、プロセッサ21が実行するソフトウェアプログラムを格納した、非一時的なコンピュータ可読媒体を含んでいる。メモリ22は、例えば、1つ又は複数の任意の半導体メモリを含んでもよく、さらに、1つ又は複数のその他の記憶装置を含んでもよい。半導体メモリは、例えば、RAM(Random Access Memory)などの揮発性メモリ、ROM(Read Only Memory)、プログラマブルROM、フラッシュメモリなどの不揮発性メモリを含んでいる。RAMには、例えば、DRAM(Dynamic Random Access Memory)、SRAM(Static Random Access Memory)などが含まれてもよい。その他の記憶装置には、例えば磁気ディスクを含む磁気記憶装置、例えば光ディスクを含む光学記憶装置などが含まれてもよい。
【0021】
入力I/F装置23は、キーボード40、補正環操作装置50、焦準操作装置60、及び表示装置30からの信号を受信する。また、入力I/F装置23は、顕微鏡100からの信号も受信する。出力I/F装置24は、表示装置30及び顕微鏡制御装置10へ信号を出力する。可搬記録媒体駆動装置25は、可搬記録媒体26を収容するものである。
【0022】
演算装置20は、メモリ22または可搬記録媒体26に格納されているプログラムをプロセッサ21がメモリ22に読み出して実行することで、様々な手段として動作する。演算装置20は、例えば、画像データのコントラスト値を算出する手段(コントラスト算出手段)、球面収差が補正される補正環111の設定を算出する手段(目標値算出手段)、サンプルSの屈折率を算出する手段(屈折率算出手段)、及び、表示装置30を制御する手段(表示制御手段)として動作する。
【0023】
表示装置30は、例えば、液晶ディスプレイ装置、有機ELディスプレイ装置、CRTディスプレイ装置などである。なお、表示装置30は、タッチパネルセンサを備えてもよく、その場合、入力装置としても機能する。
【0024】
補正環操作装置50は、補正環111の設定を指示するための入力手段である。利用者が補正環操作装置50で補正環111の設定を指示すると、補正環制御装置14は、補正環111の設定を指示された設定に変更する。
【0025】
焦準操作装置60は、観察対象面の位置(即ち、観察深さ)の変更を指示するための入力手段である。利用者が焦準操作装置60を用いて観察対象面の位置の変更を指示すると、焦準制御装置13は、焦準装置109を光軸方向に移動させて観察対象面の位置を変更する。
【0026】
顕微鏡100は、例えば、2光子励起顕微鏡である。サンプルSは、例えば、マウスの脳などの生体試料であるが、生体試料に限らない。顕微鏡100は、図3に示すように、照明光路上に、レーザー101と、走査ユニット102と、瞳投影光学系103と、ミラー104と、ダイクロイックミラー105と、対物レンズ110とを備えている。
【0027】
レーザー101は、例えば、超短パルスレーザーであり、近赤外域のレーザー光を発振する。レーザー101の出力は、光源制御装置11によって制御される。即ち、光源制御装置11は、サンプルに照射するレーザー光の出力を制御するレーザー制御装置である。
【0028】
走査ユニット102は、レーザー光でサンプルSを2次元に走査するための走査手段であり、例えば、ガルバノスキャナとレゾナントスキャナを含んでいる。走査ユニット102の走査範囲が変化することでズーム倍率が変化する。走査ユニット102の走査範囲は、ズーム制御装置12によって制御される。
【0029】
瞳投影光学系103は、走査ユニット102の像を対物レンズ110の瞳位置に投影する光学系である。ダイクロイックミラー105は、励起光(レーザ光)とサンプルSからの検出光(蛍光)とを分離する光分離手段であり、波長によってレーザー光と蛍光を分離する。
【0030】
対物レンズ110は、補正環111を備えた乾燥系又は液浸系の対物レンズであり、焦準装置109に装着されている。焦準装置109は、対物レンズ110を対物レンズ110の光軸方向に移動させる手段であり、焦準装置109の移動(即ち、対物レンズ110の移動)は、焦準制御装置13によって制御される。
【0031】
補正環111は、その設定に応じて対物レンズ110を構成するレンズの一部を光軸方向に動かして、球面収差を補正する補正装置である。補正環111の設定は、補正環制御装置14(補正装置制御装置)によって変更される。なお、補正環111の設定は、補正環111を直接操作することで、手動で変更することもできる。
【0032】
顕微鏡100は、さらに、検出光路(ダイクロイックミラー105の反射光路)上に、瞳投影光学系106と、光検出器107とを備えている。光検出器107から出力された信号は、A/D変換器108に出力される。
【0033】
瞳投影光学系106は、対物レンズ110の瞳の像を光検出器107に投影する光学系である。光検出器107は、例えば、光電子増倍管(PMT)であり、入射した蛍光の光量に応じたアナログ信号を出力する。A/D変換器108は、光検出器107からのアナログ信号をデジタル信号(輝度信号)に変換して、顕微鏡制御装置10に出力する。光検出器107の感度は、図示しない検出感度制御装置によって制御される。なお、検出感度制御は、例えば、光検出器107に印加する印加電圧の調整、光検出器107から出力されるアナログ信号の増幅率調整、デジタル信号の段階での増幅率調整のいずれか、または、それらの組合せにより行われる。
【0034】
以上のように構成された顕微鏡システム1では、顕微鏡100は、走査ユニット102を用いてレーザー光で対物レンズ110の光軸と直交する方向にサンプルSを走査して、サンプルSの各位置からの蛍光を光検出器107で検出する。顕微鏡制御装置10は、走査ユニット102の走査タイミングに合わせてA/D変換器108でサンプリングされたアナログ信号に基づいて、画像データを生成し、演算装置20へ出力する。即ち、画像データは、顕微鏡100と顕微鏡制御装置10を含む顕微鏡装置によって取得される。
【0035】
図4は、第1の実施形態に係る補正環設定処理のフローチャートである。図5は、飽和画素位置特定処理のフローチャートである。図6は、コントラスト算出処理のフローチャートである。以下、図4から図6を参照しながら、観察対象面において生じる球面収差を補正するために、顕微鏡システム1で行われる補正環設定処理について説明する。なお、図4に示す補正環設定処理は、球面収差が補正される設定を探索する設定探索方法の一例であり、例えば、利用者が焦準操作装置60を操作して観察対象面の位置を指定することによって開始される。
【0036】
まず最初に、顕微鏡システム1は、サンプルS内のコントラスト評価の対象とすべき範囲(以降、注目領域と記す)の指定を受け付ける(ステップS1)。観察者による注目領域の指定は、例えば、観察者が表示装置30に表示されたサンプルSのライブ画像を見ながら、より良好に観察すべき部分(例えば、サンプルS内の特徴的な形状を有する部分)が含まれるようにキーボード40などの入力装置を用いることによって行なわれる。なお、画像全体でコントラストを評価する場合には、ステップS1は省略してもよい。
【0037】
次に、顕微鏡システム1は、補正環111の設定を初期設定に変更する(ステップS2)。ここでは、演算装置20は、補正環制御装置14を制御して、補正環111の角度を、例えば、可動範囲の一端の角度に設定する。
【0038】
その後、顕微鏡システム1は、画像データを取得し(ステップS3)、予め決められた全ての補正環111の設定で画像データが取得されたか否かを判定する(ステップS4)。全ての補正環111の設定で画像データが取得されていないと判定すると(ステップS4NO)、顕微鏡システム1は、補正環111の設定を変更し(ステップS5)、ステップS3に戻って再び画像データを取得する。これにより、顕微鏡システム1は、予め決められた全ての補正環111の設定で画像データが取得されるまで(ステップS4YES)、画像データの取得(ステップS3)と補正環111の設定変更(ステップS5)を繰り返す。ここでは、演算装置20は、補正環制御装置14を制御して、補正環111の角度を、可動範囲の一端である初期位置から所定角度ずつ動かすことで、可動範囲の他端まで動かす。補正環制御装置14のこのような一連の制御動作中に、顕微鏡制御装置10が補正環111の各角度で画像データを取得して演算装置20へ出力することで、演算装置20は、同一の観察対象面に対して、複数の画像データを取得する。即ち、ステップS3からステップS5では、顕微鏡装置は、補正環111の設定が異なる複数の状態の各々で画像データを取得することで複数の画像データを取得し、演算装置20へ出力する。なお、演算装置20は、顕微鏡装置から取得した複数の画像データを、メモリ22へ格納する。
【0039】
複数の画像データを取得すると、顕微鏡システム1は、画像データに含まれる飽和画素の位置を特定する(ステップS6)。ここでは、演算装置20は、例えば、図5に示す飽和画素位置特定処理を開始し、複数の画像データに含まれる画素値が飽和した画素データの位置を第1の位置として特定する。
【0040】
具体的には、演算装置20は、メモリ22に格納された複数の画像データから1つの画像データを読み出して(ステップS11)、読み出した画像データに画素値が飽和した画素データが含まれているか否かを判定する(ステップS12)。そして、画素値が飽和した画素データが含まれている場合には、その画素データの画素(以降、飽和画素と記す)の位置を第1の位置として記憶する(ステップS13)。演算装置20は、ステップS11からステップS13の処理を、メモリ22に格納された複数の画像データの全てに対して行い(ステップS14YES)、図5に示す飽和画素位置特定処理を終了する。
【0041】
飽和画素位置特定処理が終了すると、顕微鏡システム1は、複数の画像データの各々のコントラスト値を算出する(ステップS7)。ここでは、演算装置20は、例えば、図6に示すコントラスト算出処理を開始し、複数の画像データから複数のコントラスト値を算出する。
【0042】
具体的には、演算装置20は、飽和画素の位置である第1の位置をメモリ22から読み出す(ステップS21)。さらに、演算装置20は、メモリ22に格納された複数の画像データから1つの画像データを読み出して(ステップS22)、読み出した画像データのコントラスト値を、画像データと第1の位置とを用いて算出する(ステップS23)。なお、コントラスト値の算出方法の詳細については後述する。演算装置20は、ステップS22及びステップS23の処理を、メモリ22に格納された複数の画像データの全てに対して行い(ステップS24YES)、図6に示すコントラスト算出処理を終了する。
【0043】
コントラスト算出処理が終了し、複数の画像データの各々のコントラスト値を含む複数のコントラスト値が算出されると、顕微鏡システム1は、球面収差が補正される設定を目標設定として特定する(ステップS8)。ここでは、演算装置20は、ステップS7で算出した複数のコントラスト値に基づいて、球面収差が補正される補正環111の設定、つまり、補正環111の角度、を特定する。より具体的には、演算装置20は、例えば、複数のコントラスト値のうちの最大のコントラスト値を特定し、その最大のコントラスト値を有する画像データを取得したときの補正環111の角度を目標設定として特定してもよい。また、複数のコントラスト値とそれらに対応する補正環111の角度との組み合わせからコントラスト値が最大になる補正環111の角度を推定して、推定した角度を目標設定として特定してもよい。
【0044】
最後に、顕微鏡システム1は、目標設定に補正環111の設定を変更し(ステップS9)、補正環設定処理を終了する。ここでは、補正環制御装置14は、演算装置20の指示に従って、ステップS8で特定された設定に、補正環111の設定を変更する。これにより、球面収差が補正されるため、良好な画質でサンプルSを観察することができる。
【0045】
図7は、従来のコントラスト値の算出方法を説明するための図である。図8は、本実施形態におけるコントラスト値の算出方法の一例を説明するための図である。以下、図7及び図8を参照しながら、顕微鏡システム1が行うコントラスト算出方法について、従来のコントラスト算出方法と異なる点を中心に説明する。
【0046】
画像のコントラストを評価する評価式の一つに、画素間での画素値の差分に基づいて画像のコントラストを評価する評価式が知られている。具体的な評価式としては、例えば、x方向にn画素分ずれた位置にある2つの画素の画素値の差分の2乗を、画像データ全体で積算してコントラスト値を算出する下式が知られている。下式は、J.F.Brennerらによって提案された評価式であり、Brenner gradientと呼ばれている。
【数1】
【0047】
ここで、FBrennerはコントラスト値であり、xは画像を構成する画素の列を特定する変数であり、yは画像を構成する画素の行を特定する変数である。Wは画像を構成する画素のx方向の画素数(即ち、列数)であり、Hは画像を構成する画素のy方向の画素数(即ち、行数)である。fは特定された画素に対応する画素データの画素値である。nはシフト量であり、画素値の差分が算出される画素間の間隔を示す整数(例えば、2など)である。
【0048】
Brenner gradientのような、画素間での画素値の差分に基づいて画像のコントラストを評価する評価式は、画像データに含まれる最大画素値と最小画素値から画像のコントラストを評価する評価式よりも、画像に生じるコントラスト変化を詳細に捉えることができる。このため、球面収差の補正状態の評価に好適である。
【0049】
その一方で、S/N比を稼ぐために照明強度が強い状態で画像を取得した場合、図7に示すように、球面収差が補正されて画像が明るくなるにつれて飽和画素の画素数が増加することがあり、Brenner gradientを用いた従来のコントラスト算出方法では、目標設定を誤ってしまうことがある。これは、飽和画素の数が増加すると、例えば、飽和画素間での画素値の差分が0になるなど、飽和画素を含む画素間での画素値の差分が実際よりも小さく見積もられてしまい、その結果として、算出されるコントラスト値が実際のコントラスト値に対して下振れしてしまうからである。
【0050】
図7には、補正環111の角度θが0°、10°、20°の状態で取得した画像データに含まれる画素データが模式的に描かれている。なお、図7では、説明を簡略化するため、1行6列に並んだ画素からなる画像が描かれているが、画像を構成する画素の行数及び列数はこの例に限らない。この例では、画像データ間で画素データを比較すると、角度θを大きくするにつれて画素値が増加する傾向を確認することができるため、角度θが20°のときに最も球面収差が補正された状態にあると考えられる。しかしながら、算出されたコントラスト値としては、角度θ=20°のときよりも角度θ=10°のときの方が大きな値となるため、演算装置20は、角度θ=10°を目標設定として誤認してしまう。
【0051】
このように、球面収差の変動に伴うコントラストの変化を精度よく検出するために明るさを調整してS/N比を高めると、従来の算出方法では、却って目標設定を誤ってしまうことが起こり得る。
【0052】
そこで、本願では、画像データに含まれる画素データの一部を除外して画像を比較したとしても、画像間の明るさの関係に大きな影響はないという点に着目して、上記の課題を解決する技術を提案する。
【0053】
具体的には、演算装置20は、図6のステップS23において、ステップS22で読み出した画像データに含まれる第1の位置の画素データを、その読み出した画像データのコントラスト値を算出する計算から除外する。即ち、画像データに含まれる第1の位置の画素データを除いて、画像データのコントラスト値を算出する。より具体的には、図8に示すように、複数の画像データの各々のコントラスト値を算出する場合に、複数の画像データの少なくとも一つで画素値が飽和している画素データの位置(第1の位置)を特定し、その第1の位置に対応する画素データについては、その対応する画素データの画素値が飽和しているか否かにかかわらず、各画像データのコントラスト値の計算から除外する。なお、画素間での画素値の差分に基づいて画像のコントラストを評価する評価式を用いる点については、顕微鏡システム1が行うコントラスト算出方法は、従来のコントラスト算出方法と同様である。
【0054】
図8を参照しながらさらに詳細に説明する。図8には、図7と同様に、補正環111の角度θが0°、10°、20°の状態で取得した画像データに含まれる画素データが模式的に描かれている。この例では、画像データは8ビット画像データであり、角度θ=20°で取得した画像の左から3番目と4番目の画素において画素値が飽和している。このため、演算装置20は、ステップS23では、全ての画像データの左から3番目と4番目の画素データを除いて、画像データのコントラスト値を算出する。より詳細には、全ての画像(角度θ=0°、10°、20°で取得した画像)に対して、左から3番目と4番目の画素の少なくとも一方を含む画素間(具体的には、左から2番目と3番目、3番目と4番目、4番目と5番目)での画素値の差分を、コントラスト値算出のための積算対象から除外して、コントラスト値を算出する。
【0055】
これにより、飽和画素を含むことによって生じる画素間の差分の不正確さを排除することができる。さらに、一部の画素の存在を無視してコントラスト値を計算しても、複数の画像の各々で等しく無視している限り、図8のコントラスト値の関係によって示されるように、複数の画像のコントラストの相対的な関係は一般に維持される。このため、飽和画素が含まれている場合であっても、複数の画像間のコントラストを正しく比較して評価することができる。従って、顕微鏡システム1によれば、飽和画素が生じた場合であっても球面収差が補正される設定を精度良く特定することができる。
【0056】
また、顕微鏡システム1によれば、飽和画素が生じた場合でも球面収差を適切に補正することができるため、図4に示す目標設定を探索する処理を開始する前に行われる、光源の出力調整や検出器の感度調整といった明るさ調整が容易になる。つまり、利用者は、飽和画素の発生を過度に心配することなく、良好なS/N比を得るための明るさ調整を行うことができる。また、球面収差を調整する過程で、補正環の設定を変えることによって新たに飽和画素が生じた場合であっても、球面収差が補正される設定を精度良く特定することができる。
【0057】
以上では、飽和画素の位置を第1の位置として特定し、第1の位置の画素の画素データを除いて各画像データのコントラスト値を算出する例を示したが、演算装置20は、さらに他の画素データを計算から除外してもよい。具体的には、演算装置20は、同一の観察対象面に対して取得された複数の画像データに含まれている画素値が閾値未満の画素データの位置を、第2の位置として特定し、それらの複数の画像データの各々に含まれる第1の位置と第2の位置の画素データを除いて、複数のコントラスト値の各々を算出してもよい。この点は、以降の実施形態においても同様である。なお、この閾値は、例えば、光が入射していない状態で光検出器から出力される信号に対応する画素値(以降、バックグラウンド輝度と記す)を基準に決定することが望ましい。
【0058】
バックグラウンド輝度を基準にして決定した閾値未満の画素値を有する画素データは、画像の何も映っていない部分に対応していることが想定される。このため、閾値未満の画素値を有する画素データをコントラスト値の計算から除外することで、バックグラウンドノイズの影響を抑えながら、コントラスト値を算出することができる。従って、第1の位置と第2の位置の両方を特定し、それらの位置の画素データをコントラスト値の計算から除外することで、球面収差が補正される設定をさらに精度良く特定することができる。図9を参照しながら詳細に説明すると、θ=0°の補正環位置において、左から6番目の画素(右端の画素)の輝度値がバックグラウンド輝度(ここではバックグラウンド輝度値を10とする)未満となっている。このため、左から5番目と6番目の画素値の差分を、全ての補正環位置(θ=0°、θ=10°、θ=20°)で取得した画像において、コントラスト値算出のための積算対象から除外すればよい。
【0059】
[第2の実施形態]
図10は、本実施形態に係る補正環設定処理のフローチャートである。本実施形態に係る顕微鏡システム(以降、単に顕微鏡システムと記す。)は、図4に示す補正環設定処理を行う代わりに、図10に示す補正環設定処理を行う点が、顕微鏡システム1とは異なっている。その他の点は、顕微鏡システム1と同様である。なお、図10に示す補正環設定処理は、補正環設定処理中に自動的に光量が調整される点が、図4に示す補正環設定処理とは異なっている。
【0060】
具体的には、顕微鏡システムは、まず、ステップS31からステップS36において、補正環111の設定が異なる複数の状態の各々で画像データを取得することで複数の画像データを取得し、複数の画像データに含まれる飽和画素位置を第1の位置として特定する。これらの処理は、図4のステップS1からステップS6の処理と同様である。
【0061】
次に、顕微鏡システムは、飽和画素の割合が閾値TH1以上か否かを判定する(ステップS37)。ここでは、演算装置20は、まず、メモリ22に記憶されている第1の位置を読み出す。その後、演算装置20は、飽和画素の割合、つまり、画像の画素数に対する第1の位置の数の割合(=第1の位置の数/画像の画素数)を算出する。さらに、演算装置20は、算出した割合を閾値TH1と比較することで、上記の判定を行う。なお、閾値TH1は、例えば、0.5%などである。
【0062】
ステップS37の判定の結果、飽和画素の割合が閾値TH1以上であると判定されると、顕微鏡システムは、レーザー101から出射される光量を抑制し(ステップS38)、さらに、ステップS36で特定した飽和画素位置をリセットする(ステップS39)。その後、顕微鏡システムは、再び、ステップS32からステップS37の処理を行う。これは、閾値TH1以上に飽和画素が生じていることから、照明光量が強すぎると考えられるためである。ステップS38では、演算装置20は、光源制御装置11を制御し、光源制御装置11は、演算装置20からの指示に従って、複数の画像データに含まれる画素値が飽和した画素データの割合(飽和画素の割合)に応じてレーザー101の出力を制御する。さらに具体的には、光源制御装置11は、飽和画素の割合が閾値TH1以上の場合に、レーザー101の出力を低下させる。なお、レーザー101の出力の低下量は、特に限定しないが、例えば、予め決められた一定量である。また、飽和画素の割合が閾値TH1を超えないようなレーザー101の出力を推定し、推定した出力になるようにレーザー101の出力を低下させてもよい。なお、ステップS39のリセット処理は、光量抑制前に特定された飽和画素位置が現在の光量設定における飽和画素位置と混同されることを防止する、という目的で行われる。
【0063】
ステップS37の判定の結果、飽和画素の割合が閾値TH1未満であると判定されると、顕微鏡システムは、複数の画像データの各々のコントラスト値を算出し(ステップS40)、さらに、球面収差が補正される設定を目標設定として特定する(ステップS41)。最後に、顕微鏡システムは、標設定に補正環111の設定を変更し(ステップS42)、補正環設定処理を終了する。なお、ステップS40からステップS42の処理は、図4のステップS7からステップS9の処理と同様である。
【0064】
本実施形態に係る顕微鏡システムによっても、顕微鏡システム1と同様の効果を得ることができる。なお、顕微鏡システム1において、輝度が飽和した画素の割合が高すぎる場合、コントラスト計算に使える画素が少ないため、調整の精度が低下する可能性がある。また、本実施形態では、レーザー101の出力が高すぎる場合に、自動的に適切な光量に調整される。この方法によれば、輝度が飽和した画素の割合を下げて、コントラスト計算に使える画素を増やすことができるので、顕微鏡システム1よりもさらに調整の精度を高めることができる。
【0065】
図11は、図10に示す補正環設定処理の変形例のフローチャートである。図10では、補正環111の全ての設定で画像を取得した後に、飽和画素の割合に基づいて光量調整の要否を判定する例を示したが、光量調整の要否の判定は任意のタイミングで行ってもよく、例えば、図11に示すように、画像データを取得する度に光量調整の要否を判定してもよい。
【0066】
図11に示す補正環設定処理は、画像データを取得する度に飽和画素位置の特定と飽和画素の割合が閾値以上か否かの判定が行われる点(ステップS54、ステップS55)が、図10に示す補正環設定処理とは異なっている。
【0067】
なお、各ステップにおける処理内容は、図10に示す補正環設定処理の対応するステップの処理内容と同様である。このため、各ステップについての詳細な説明は省略する。
【0068】
変形例に係る補正環設定処理によれば、画像データを取得する度に飽和画素位置の特定と飽和画素の割合が閾値以上か否かの判定とを行うことで、光量調整が必要な状態を早期に発見することができる。このため、不適切な光量設定での画像取得回数を抑制することが可能であり、画像取得によって生じる試料への悪影響を抑制することができる。また、光量設定がより短時間で最適化されるため、設定処理に要するトータルの処理時間を短縮することができる。
【0069】
本実施形態、および、本実施形態の変形例の顕微鏡システムでは、飽和した画素の割合を下げるために、レーザー光源の出力を制御(抑制)している。これに替えて、又はこれに加えて、図示しない検出感度制御装置により光検出器の感度を制御(低下)させてもよい。この場合、図10のフローチャートのステップS38、および、図11のフローチャートのステップS56のステップにおいて、「光量抑制」に替えて又は加えて、「光検出器感度抑制」を行えばよい。即ち、顕微鏡システムでは、飽和画素の割合が閾値を超えている場合には、レーザー-光源の出力と光検出器の感度の両方が制御されてもよく、どちらか一方のみが制御されてもよい。
【0070】
[第3の実施形態]
第1の実施形態及び第2の実施形態には、利用者が焦準操作装置60を操作することによって指定した観察対象面を観察するときに、複数の画像データを取得してその観察対象面における目標設定を特定する例が示されている。つまり、観察対象面を変更する度に、複数の画像データを取得してその観察対象面における目標設定を特定する例が示されている。これに対して、本実施形態では、予め観察対象面の位置(観察深さ)と目標設定の関係を特定し、その後、利用者が指定した観察対象面を観察するときに、予め特定した関係から指定した観察対象面における目標設定を特定する。つまり、観察対象面を変更する度に複数の画像データを取得することなく、任意の観察対象面における目標設定を特定する。
【0071】
図12は、本実施形態に係る関係算出処理のフローチャートである。図13は、補正環の設定と観察深さの関係の算出方法の一例を説明するための図である。図14は、本実施形態に係るZ-Series撮影処理のフローチャートである。以下、図12から図14を参照しながら、サンプルSにおける補正環111の設定と観察深さとの関係を算出する処理と、算出した関係を用いてZ-Series撮影を行う処理について説明する。
【0072】
なお、Z-Series撮影とは、サンプルSの深さ方向(つまり、対物レンズ110の光軸方向)に観察対象面を所定距離ずつ移動しながら二次元画像の取得を繰り返す撮影方法のことであり、サンプルの3次元情報を得るために用いられる。Z-Series撮影は、Zスタック撮影とも呼ばれる。
【0073】
利用者の指示によって、図12に示す関係算出処理が開始されると、顕微鏡システム1は、まず、サンプルSとステージの界面に焦点を合わせる(ステップS71)。ここでは、演算装置20は、焦準制御装置13を制御して、焦準制御装置13がサンプルSとステージの界面に焦点を合わせる。このステップは、既知の任意の方法により行われ得る。このときの観察深さ(観察対象面の位置)をD0とし、観察深さの基準とする。
【0074】
その後、顕微鏡システム1は、観察深さ範囲の指定を受け付ける(ステップS72)。ここでは、利用者が、観察する可能性がある深さ範囲を観察深さの範囲としてキーボード40などの入力装置を用いて入力することで、演算装置20は、観察深さ範囲の指定を受け付ける。なお、観察深さ範囲の指定は、少なくとも観察深さ範囲の両端が指定されればよく、観察深さ範囲の両端に加えてその観察深さ内の任意の深さが指定されてもよい。即ち、ステップS72では、少なくとも2つの観察深さが指定される。
【0075】
次に、顕微鏡システム1は、観察対象面を最初の観察深さへ移動する(ステップS73)。ここでは、演算装置20は、焦準制御装置13を制御して、焦準制御装置13は、例えば、観察対象面をステップS72で指定された観察深さ範囲の一端である観察深さD1へ移動する。
【0076】
さらに、顕微鏡システム1は、ステップS74からステップS81において、観察深さD1の観察対象面における球面収差が補正される補正環111の設定を特定する。これらの処理は、図4のステップS1からステップS8の処理と同様である。
【0077】
その後、顕微鏡システム1は、ステップS72で指定された全ての観察深さで設定が特定されたか否かを判定する(ステップS82)。そして、顕微鏡システム1は、設定が特定されていない観察深さがある場合には(ステップS82NO)、観察対象面を次の観察深さへ移動し(ステップS83)、移動後の観察対象面に対して、ステップS74からステップS82の処理を繰り返す。ここでは、演算装置20は、焦準制御装置13を制御して、焦準制御装置13は、例えば、観察対象面をステップS72で指定された観察深さ範囲の他端である観察深さD2へ移動する。
【0078】
ステップS72で指定された全ての観察深さで設定が特定されると(ステップS83YES)、顕微鏡システム1は、球面収差が補正される設定と観察深さとの関係を算出する(ステップS84)。ここでは、演算装置20は、ステップ82で特定された観察深さD1における目標設定である角度θ1と、ステップ82で特定された観察深さD2における目標設定である角度θ2と、を用いて球面収差が補正される設定と観察深さとの関係を算出する。具体的には、図13に示すように、観察深さD1と角度θ1によって特定されるポイントP1と、観察深さD2と角度θ2によって特定されるポイントP2と、を線形補間することで、破線で示す関係を算出する。なお、ここでは、2点の線形補間により、関係を算出する例を示したが、3点以上の情報から関係を算出してもよく、その場合、例えば、最小二乗法などの関数近似を用いて関係を算出してもよい。
【0079】
最後に、顕微鏡システム1は、算出された関係を記憶して(ステップS85)、図12に示す関係算出処理を終了する。ここでは、演算装置20は、算出された関係をメモリ22に記憶する。
【0080】
関係算出処理が終了した後、サンプルSに対する図14に示すZ-Series撮影処理が開始されると、顕微鏡システム1は、まず、Z-Series撮影で撮影すべき観察深さ範囲の指定を受け付ける(ステップS91)。ここでは、利用者が、例えば、観察深さの範囲をキーボード40などの入力装置を用いて入力することで、演算装置20は、観察深さ範囲との指定を受け付ける。演算装置20は、さらに、観察深さ範囲内で画像データを取得する複数の観察深さを決定する。複数の観察深さは、例えば、所定間隔で分布してもよく、所定間隔は、ステップS91において観察深さ範囲とともに利用者によって指定されてもよい。
【0081】
観察深さ範囲が指定されて、Z-Series撮影の対象となる複数の観察深さが決定されると、顕微鏡システム1は、観察対象面を最初の観察深さへ移動する(ステップS92)。ここでは、演算装置20は、焦準制御装置13を制御して、焦準制御装置13は、例えば、観察対象面をステップS91で決定された一つの観察深さへ移動する。
【0082】
さらに、顕微鏡システム1は、補正環111の設定を変更する(ステップS93)。ここでは、演算装置20は、まず、図12に示す関係算出処理によって予め算出された関係をメモリ22から読み出し、観察対象面の観察深さに対応する目標設定(補正環111の角度)を算出する。その後、補正環制御装置14は、演算装置20の指示に従って、算出した目標設定に、補正環111の設定を変更する。これにより、球面収差が補正される。
【0083】
その後、顕微鏡システム1は、画像データを取得する(ステップS94)。これにより、球面収差が補正された画像を得ることができる。さらに、顕微鏡システム1は、ステップS91で決定した全ての観察深さで画像データを取得済みか否かを判定し(ステップS95)、取得済みでなければ、観察対象面を次の観察深さへ移動する(ステップS96)。そして、すべての観察深さで画像データの取得が終了すると(ステップS95YES)、顕微鏡システム1は、図14に示すZ-Series撮影処理を終了する。
【0084】
本実施形態に係る顕微鏡システムによっても、顕微鏡システム1と同様の効果を得ることができる。また、本実施形態では、予め観察深さと目標設定の関係が算出されるため、観察深さを変更する度に目標設定を探索するために複数の画像データを取得する必要がない。また、察深さと目標設定の関係も、比較的少ない数の観察深さにおける情報から補間や関数近似を用いて算出される。従って、目標設定を探索するための予備的な撮影の回数を大幅に削減することができる。このため、サンプルSへのダメージを抑制することができる。また、球面収差を良好に補正しながらZ-Series撮影処理を比較的短時間で終了することが可能となる。
【0085】
[第4の実施形態]
第3の実施形態では、任意の深さの観察対象面において球面収差が補正された高画質な画像を得るために目標設定と観察深さの関係を算出する例を示したが、目標設定と観察深さの関係は画像データ取得以外の目的で算出されてもよい。本実施形態では、サンプルSの屈折率を表示するために目標設定と観察深さの関係を利用する点が、第3の実施形態とは異なっている。
【0086】
図15は、本実施形態に係る屈折率表示処理のフローチャートである。図16及び図17は、屈折率の表示方法の一例を説明するための図である。以下、図15から図17を参照しながら、目標設定と観察深さの関係を用いて屈折率を表示する処理について説明する。
【0087】
図12に示す関係算出処理が行われた後に、利用者の指示によって、図15に示す屈折率表示処理が開始されると、顕微鏡システム1は、まず、図12に示す関係算出処理で算出された関係を表示する(ステップS101)。ここでは、演算装置20は、例えば、図16に示すグラフを表示装置30に表示させる。なお、図16に示すグラフは、図12に示す関係算出処理において、観察深さD1、D2、D3のそれぞれで複数の画像データを取得してそれぞれの深さにおける目標設定を算出した場合の例である。
【0088】
その後、顕微鏡システム1は、屈折率を表示すべき観察深さの指定を受け付ける(ステップS102)。ここで、例えば、図17に示すように、サンプルS中の屈折率を知りたい部分に対応する観察深さを、利用者が表示装置30に表示されたグラフ上でカーソルC等を用いて選択することによって、演算装置20が指定された観察深さを検出する。
【0089】
観察深さが指定されると、顕微鏡システム1は、表示装置30に表示されている情報、即ち、観察深さ毎に特定された球面収差が補正される補正環111の設定に基づいて、サンプルSの指定された観察深さにおける屈折率を算出する。具体的には、顕微鏡システム1は、まず、深さ方向の設定変化率を算出し(ステップS103)、さらに、ステップS102で指定された観察深さにおけるサンプルSの屈折率を算出する(ステップS104)。
【0090】
なお、特許文献2、3に記載されているように、観察対象面における球面収差量の変化率(=観察対象面の深さ変化量あたりの球面収差量の変化量)は、対物レンズ110とサンプルSの間の媒質(例えば、空気や浸液)の屈折率と、その観察対象面におけるサンプルSの屈折率に依存している。また、対物レンズが定まると補正環の設定と球面収差量の関係は既知である。ステップS104では、演算装置20は、ステップS103で算出された設定変化率から球面収差量の変化率を算出し、さらに、球面収差量の変化率と媒質の屈折率に基づいて、観察深さにおけるサンプルSの屈折率を算出する。
【0091】
屈折率を算出すると、顕微鏡システム1は、算出した屈折率を表示する(ステップS105)。ここでは、表示装置30は、例えば、図17に示すように、演算装置20が算出した屈折率を表示する。なお、図17には、図16に示すグラフ上に、利用者によって指定された観察深さにおけるサンプルSの屈折率が重ねて表示された様子が示されている。
【0092】
本実施形態に係る顕微鏡システムによれば、利用者は、サンプルSの構造によらず、サンプルSの任意の面における屈折率を容易に知ることができる。
【0093】
上述した実施形態は、発明の理解を容易にするための具体例を示したものであり、本発明の実施形態はこれに限定されるものではない。顕微鏡システム、設定探索方法、及び、プログラムは、特許請求の範囲の記載を逸脱しない範囲において、さまざまな変形、変更が可能である。
【0094】
例えば、上述した実施形態では、コントラスト値の算出において評価式として式(1)を使用したが、評価式は画素間での画素値の差分を用いてコントラスト値の算出するものであればよく、例えば、下式を用いてもよい。
【数2】
【0095】
式(1)の代わりに、異なる複数のシフト量(例えば、n=1、2、3、5、10など)を使用する式(2)を用いることで、広い空間周波数領域でコントラストを安定して評価することができる。このため、画像に含まれる周波数成分によらず、即ち、サンプルや光学系の倍率などによらず、画像のコントラストの評価を安定して行うことができる。
【0096】
また、上述した実施形態では、第1の位置の画素データを、コントラスト値を算出する計算から除外する例を示したが、例えば、図18に示すように、飽和画素の画素データを加工してコントラスト値の算出に使用してもよい。即ち、一ライン毎に飽和画素の有無を判定し、飽和画素が存在する場合には、そのライン内における飽和画素の周囲の画素の画素データから画素値についての近似曲線を算出する。そして、画像のビット数に起因する階調制限がなかった場合の飽和画素の画素データの画素値を、算出した近似曲線に基づいて推定する。このように、コントラスト計算において画像データに含まれる画素値をそのまま使用せずに加工して使用することで、飽和に起因するコントラスト評価の精度低下を抑制することが可能となる。
【符号の説明】
【0097】
1 顕微鏡システム
10 顕微鏡制御装置
11 光源制御装置
12 ズーム制御装置
13 焦準制御装置
14 補正環制御装置
20 演算装置
21 プロセッサ
22 メモリ
26 可搬記録媒体
30 表示装置
40 キーボード
50 補正環操作装置
60 焦準操作装置
100 顕微鏡
101 レーザー
102 走査ユニット
107 光検出器
108 A/D変換器
109 焦準装置
110 対物レンズ
111 補正環
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18