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特許7369857伝送路の構造を決定する決定方法および情報処理装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-18
(45)【発行日】2023-10-26
(54)【発明の名称】伝送路の構造を決定する決定方法および情報処理装置
(51)【国際特許分類】
   G06F 30/39 20200101AFI20231019BHJP
   G06F 30/27 20200101ALI20231019BHJP
   H05K 1/02 20060101ALI20231019BHJP
   H05K 3/00 20060101ALI20231019BHJP
   G06F 119/10 20200101ALN20231019BHJP
【FI】
G06F30/39
G06F30/27
H05K1/02
H05K3/00 D
G06F119:10
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2022512908
(86)(22)【出願日】2020-03-30
(86)【国際出願番号】 JP2020014592
(87)【国際公開番号】W WO2021199167
(87)【国際公開日】2021-10-07
【審査請求日】2022-08-16
(73)【特許権者】
【識別番号】390015587
【氏名又は名称】株式会社図研
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】生田 勝義
(72)【発明者】
【氏名】安永 守利
【審査官】田中 幸雄
(56)【参考文献】
【文献】安永守利,高周波経験不問!AI伝送線路デザイナ研究レポート,トランジスタ技術,日本,CQ出版株式会社,2019年08月01日,第56巻 第8号,118~128ページ
【文献】安永守利,高速ディジタル信号用パターンのAIによる最適化実験,トランジスタ技術,日本,CQ出版株式会社,2019年04月01日,第56巻 第4号,139~149ページ
【文献】安永守利,遺伝的アルゴリズムの電磁ノイズ低減配線への応用,科学研究費助成事業(学術研究助成基金助成金)研究成果報告書,日本,2013年,1~5ページ,https://kaken.nii.ac.jp/ja/file/KAKENHI-PROJECT-23650116seika.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 30/39
G06F 30/27
H05K 1/02
H05K 3/00
G06F 119/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
信号を伝送する伝送路の構造をコンピュータによって決定する決定方法であって、
前記伝送路を構成する複数の区間の各々の構造を特定するパラメータ値を探索する処理を終了条件が満たされるまで実行する探索工程を含み、
前記探索工程では、前記伝送路を通過した信号の波形品質を評価した第1評価値および前記伝送路を通過した信号が生じさせる放射ノイズの低減効果を評価した第2評価値を目的関数として前記処理を繰り返
前記第2評価値は、前記伝送路の出力側の複数点において高調波を評価した値である、
ことを特徴とする決定方法。
【請求項2】
信号を伝送する伝送路の構造をコンピュータによって決定する決定方法であって、
前記伝送路を構成する複数の区間の各々の構造を特定するパラメータ値を探索する処理を終了条件が満たされるまで実行する探索工程を含み、
前記探索工程では、前記伝送路を通過した信号の波形品質を評価した第1評価値および前記伝送路を通過した信号が生じさせる放射ノイズの低減効果を評価した第2評価値を目的関数として前記処理を繰り返
前記第2評価値は、前記伝送路の出力側の複数点における複数の高調波の各々について得られた電流振幅と周波数との積のうち最大値である、
ことを特徴とする決定方法。
【請求項3】
信号を伝送する伝送路の構造をコンピュータによって決定する決定方法であって、
前記伝送路を構成する複数の区間の各々の構造を特定するパラメータ値を探索する処理を終了条件が満たされるまで実行する探索工程を含み、
前記探索工程では、前記伝送路を通過した信号の波形品質を評価した第1評価値および前記伝送路を通過した信号が生じさせる放射ノイズの低減効果を評価した第2評価値を目的関数として前記処理を繰り返
前記第2評価値は、指定された周波数帯における透過係数である、
ことを特徴とする決定方法。
【請求項4】
前記探索工程では、進化計算アルゴリズムを使って前記処理を繰り返す、
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の決定方法。
【請求項5】
前記第1評価値は、前記伝送路を通過した信号のアイパターンを評価した値である、
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の決定方法。
【請求項6】
前記第1評価値は、前記アイパターンの開口部の大きさを評価した値である、
ことを特徴とする請求項に記載の決定方法。
【請求項7】
前記第1評価値は、前記開口部の面積、前記開口部の高さ、および、前記開口部の幅の少なくとも1つを評価した値である、
ことを特徴とする請求項に記載の決定方法。
【請求項8】
前記伝送路は、シングルエンド伝送路である、
ことを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載の決定方法。
【請求項9】
前記パラメータ値は、各区間の幅を含む、
ことを特徴とする請求項に記載の決定方法。
【請求項10】
前記伝送路は、一対の信号線で構成される差動伝送路である、
ことを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載の決定方法。
【請求項11】
信号を伝送する伝送路の構造をコンピュータによって決定する決定方法であって、
前記伝送路を構成する複数の区間の各々の構造を特定するパラメータ値を探索する処理を終了条件が満たされるまで実行する探索工程を含み、
前記探索工程では、前記伝送路を通過した信号の波形品質を評価した第1評価値および前記伝送路を通過した信号が生じさせる放射ノイズの低減効果を評価した第2評価値を目的関数として前記処理を繰り返し、
前記伝送路は、一対の信号線で構成される差動伝送路であり、
前記パラメータ値は、各区間における前記一対の信号線の幅および間隔を含む、
ことを特徴とす決定方法。
【請求項12】
信号を伝送する伝送路の構造をコンピュータによって決定する情報処理装置であって、
前記伝送路を構成する複数の区間の各々の構造を特定するパラメータ値を探索する処理を終了条件が満たされるまで実行するプロセッサを含み、
前記プロセッサは、前記伝送路を通過した信号の波形品質を評価した第1評価値および前記伝送路を通過した信号が生じさせる放射ノイズの低減効果を評価した第2評価値を目的関数として前記処理を繰り返
前記第2評価値は、前記伝送路の出力側の複数点において高調波を評価した値である、
ことを特徴とする情報処理装置。
【請求項13】
信号を伝送する伝送路の構造をコンピュータによって決定する情報処理装置であって、
前記伝送路を構成する複数の区間の各々の構造を特定するパラメータ値を探索する処理を終了条件が満たされるまで実行するプロセッサを含み、
前記プロセッサは、前記伝送路を通過した信号の波形品質を評価した第1評価値および前記伝送路を通過した信号が生じさせる放射ノイズの低減効果を評価した第2評価値を目的関数として前記処理を繰り返
前記第2評価値は、前記伝送路の出力側の複数点における複数の高調波の各々について得られた電流振幅と周波数との積のうち最大値である、
ことを特徴とする情報処理装置。
【請求項14】
信号を伝送する伝送路の構造をコンピュータによって決定する情報処理装置であって、
前記伝送路を構成する複数の区間の各々の構造を特定するパラメータ値を探索する処理を終了条件が満たされるまで実行するプロセッサを含み、
前記プロセッサは、前記伝送路を通過した信号の波形品質を評価した第1評価値および前記伝送路を通過した信号が生じさせる放射ノイズの低減効果を評価した第2評価値を目的関数として前記処理を繰り返
前記第2評価値は、指定された周波数帯における透過係数である、
ことを特徴とする情報処理装置。
【請求項15】
信号を伝送する伝送路の構造をコンピュータによって決定する情報処理装置であって、
前記伝送路を構成する複数の区間の各々の構造を特定するパラメータ値を探索する処理を終了条件が満たされるまで実行するプロセッサを含み、
前記プロセッサは、前記伝送路を通過した信号の波形品質を評価した第1評価値および前記伝送路を通過した信号が生じさせる放射ノイズの低減効果を評価した第2評価値を目的関数として前記処理を繰り返
前記伝送路は、一対の信号線で構成される差動伝送路であり、
前記パラメータ値は、各区間における前記一対の信号線の幅および間隔を含む、
ことを特徴とする情報処理装置。
【請求項16】
請求項1乃至11のいずれか1項に記載の決定方法をコンピュータに実行させるためのコンピュータプログラム。
【請求項17】
請求項1乃至11のいずれか1項に記載の決定方法をコンピュータに実行させるためのコンピュータプログラムを格納したメモリ媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、伝送路の構造を決定する決定方法および情報処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、高周波信号が伝送される伝送線を構成する配線パターンを備えた高周波用配線構造を、形状の相違により特性インピーダンスが異なる複数のセグメントにより形成する方法が記載されている。該方法では、最適化アルゴリズムを用いて、伝送線を伝播する高周波信号の波形歪を減少させる反射波を隣接する2つのセグメントどうしの境界で発生させるように、複数のセグメントのそれぞれの特性インピーダンスが設計される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-150644号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1には、伝送線を通過した信号が生じさせる放射ノイズの低減を考慮して複数のセグメントのそれぞれの特性インピーダンスを設計することは記載も示唆もされていない。
【0005】
本発明は、波形品質の確保と放射ノイズの低減との両立のために有利な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の側面は、信号を伝送する伝送路の構造を決定する決定方法に係り、前記決定方法は、前記伝送路を構成する複数の区間の各々の構造を特定するパラメータ値を探索する処理を終了条件が満たされるまで実行する探索工程を含み、前記探索工程では、前記伝送路を通過した信号の波形品質を評価した第1評価値および前記伝送路を通過した信号が生じさせる放射ノイズの低減効果を評価した第2評価値を目的関数として前記処理を繰り返す。
【0007】
本発明の第2の側面は、信号を伝送する伝送路の構造を決定する情報処理装置に係り、前記情報処理装置は、前記伝送路を構成する複数の区間の各々の構造を特定するパラメータ値を探索する処理を終了条件が満たされるまで実行するプロセッサを含み、前記プロセッサは、前記伝送路を通過した信号の波形品質を評価した第1評価値および前記伝送路を通過した信号が生じさせる放射ノイズの低減効果を評価した第2評価値を目的関数として前記処理を繰り返す。
【0008】
本発明の第3の側面は、上記の第1の側面に係る決定方法をコンピュータに実行させるためのコンピュータプログラムに関する。
【0009】
本発明の第4の側面は、上記の第1の側面に係る決定方法をコンピュータに実行させるためのコンピュータプログラムを格納したメモリ媒体に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、波形品質の確保と放射ノイズの低減との両立のために有利な技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】シングルエンド伝送路として構成された伝送路を模式的に示す図。
図2】差動伝送路として構成された伝送路を模式的に示す図。
図3】実施形態の情報処理装置の構成を示す図。
図4】実施形態の情報処理装置においてプログラムに従って実行されうる決定方法の流れを例示する図。
図5】波形品質を評価する手順を例示する図。
図6】アイパターンを例示する図。
図7】放射ノイズの低減効果を評価する手順の一例を示す図。
図8】伝送路を含む信号線路を例示する図。
図9】実施形態の決定方法に従って決定されたパラメータ値を有する差動伝送路のコモンモード電流の評価結果を例示する図。
図10】一様な幅および間隔を有する一対の信号線からなる差動伝送路のコモンモード電流の評価結果を比較例として例示する図。
図11】放射ノイズの低減効果を評価する手順の他の例を示す図。
図12】実施形態の決定方法に従って決定されたパラメータ値を有する差動伝送路のコモンモード透過係数を比較例のコモンモード透過係数とともに示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。尚、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではなく、また、実施形態で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明に必須のものとは限らない。実施形態で説明されている複数の特徴のうち二つ以上の特徴が任意に組み合わされてもよい。また、同一若しくは同様の構成には同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0013】
図1には、シングルエンド伝送路として構成された伝送路TLが模式的に示されている。伝送路TLは、第1電子部品の出力端子と第2電子部品の入力端子とを接続する信号線路の全体または一部として利用されうる。伝送路TLは、複数の区間S1、S2・・・Sn(nは自然数)で構成されうる。複数の区間S1、S2・・・Snは、それぞれ、その構造を示す属性としての1又は複数のパラメータ値P1、P2・・・Pnを有しうる。例えば、第1区間S1は、1又は複数のパラメータ値P1を有し、第n区間Snは、1又は複数のパラメータ値Pnを有する。ここで、区間S1、S2・・・Snを相互に区別する必要がない場合には区間Sと表現し、また、パラメータ値P1、P2・・・Pnを相互に区別する必要がない場合にはパラメータ値Pと表現する。パラメータ値Pは、例えば、区間Pの幅(区間Pが配置された面(紙面)に平行で、かつ、区間Pが延びる方向に直交する方向(紙面の縦方向)における寸法)でありうる。パラメータ値P1、P2・・・Pnの少なくとも1つは、他のパラメータ値と異なりうる。パラメータ値P1、P2・・・Pnは、進化計算アルゴリズム(遺伝的アルゴリズム)が適用された決定方法に従って決定されうる。進化計算アルゴリズムでは、各区間Sは、1つの遺伝子に対応し、区間S1~Snで構成される伝送路TLは、1つの個体に対応しうる。なお、進化計算アルゴリズムに代えて、パラメータ値Pを予め設定された規則に従って逐次変更する方法が採用されてもよい。
【0014】
図2には、差動伝送路として構成された伝送路TLが模式的に示されている。伝送路TLは、第1電子部品の出力端子と第2電子部品の入力端子とを接続する信号線路の全体または一部として利用されうる。伝送路TLは、複数の区間S1、S2・・・Sn(nは自然数)で構成されうる。伝送路TLは、一対の信号線で構成されうる。複数の区間S1、S2・・・Snの各々も、一対の信号線で構成されうる。複数の区間S1、S2・・・Snは、それぞれ、その構造を示す属性としての1又は複数のパラメータ値P1、P2・・・Pnを有しうる。例えば、第1区間S1は、1又は複数のパラメータ値P1を有し、第n区間Snは、1又は複数のパラメータ値Pnを有する。ここで、区間S1、S2・・・Snを相互に区別する必要がない場合には区間Sと表現し、また、パラメータ値P1、P2・・・Pnを相互に区別する必要がない場合にはパラメータ値Pと表現する。パラメータ値Pは、例えば、区間Pの幅(区間Pが配置された面(紙面)に平行で、かつ、区間Pが延びる方向に直交する方向(紙面の縦方向)における寸法)、および、区間Pにおける一対の信号線の間隔(距離)を含みうる。パラメータ値P1、P2・・・Pnの少なくとも1つは、他のパラメータ値と異なりうる。パラメータ値P1、P2・・・Pnは、進化計算アルゴリズムが適用された決定方法に従って決定されうる。進化計算アルゴリズムでは、各区間Sは、1つの遺伝子に対応し、区間S1~Snで構成される伝送路TLは、1つの個体に対応しうる。なお、進化計算アルゴリズムに代えて、パラメータ値Pを予め設定された規則に従って逐次変更する方法が採用されてもよい。
【0015】
図3には、実施形態の情報処理装置300の構成が示されている。情報処理装置300は、例えば、CPU(プロセッサ)310、入力部320、出力部325およびメモリ330を備える汎用又は専用のコンピュータ301で構成されうる。メモリ330は、プログラム(コンピュータプログラム)332を格納しうる。プログラム332は、例えば、コンピュータによって読み取り可能なメモリ媒体に格納された状態で、あるいは、通信回線を介して、コンピュータ301に提供されうる。プログラム332が組み込まれたコンピュータ301あるいは情報処理装置300は、進化計算アルゴリズム(遺伝的アルゴリズム)が適用された決定方法を実行する決定装置として動作しうる。メモリ330には、他のプログラム(例えば、プリント基板を設計するためのCADツール)が格納されてもよい。あるいは、プログラム332は、他のプログラム(例えば、プリント基板を設計するためのCADツール)に組み込まれてもよい。
【0016】
CPU310は、メモリ330に格納されたプログラム332に従って動作しうる。入力部320は、例えば、キーボード、マウス、タッチパネル、受信装置(通信装置)、メディアドライブ等の入力機器を含みうる。出力部325は、例えば、ディスプレイ、プリンタ、送信装置(通信装置)、メディアドライブ等の出力機器を含みうる。入力部320の一部と出力部325の一部とは一体化される場合もありうる。
【0017】
図4には、情報処理装置300においてプログラム332に従ってCPU310によって実行されうる決定方法の流れが例示されている。この決定方法は、信号を伝送する伝送路TLの構造を決定しうる。なお、以下では、動作主体がCPU310であるように説明するが、動作主体は、情報処理装置300あるいはコンピュータ301として理解されてもよい。概略的には、この決定方法は、伝送路TLを構成する複数の区間Sの各々の構造を特定するパラメータ値Pを探索する処理を終了条件が満たされるまで実行する探索工程を含みうる。該探索工程では、伝送路TLを通過した信号の波形品質を評価した第1評価値および伝送路TLを通過した信号が生じさせる放射ノイズ(電磁波ノイズ)の低減効果を評価した第2評価値を目的関数として前記処理を繰り返しうる。
【0018】
工程S402では、CPU310は、終了条件を決定する。終了条件は、例えば、第1評価値に対応する第1終了条件、および、第2評価値に対応する第2終了条件を含みうる。この場合、第1評価値が第1終了条件を満たし、かつ、第2評価値が第2終了条件を満たした場合に、終了条件が満たされたものとして、パラメータ値Pを探索する処理が終了されうる。あるいは、第1評価値および第2評価値を変数とする評価値が終了条件を満たす場合に、パラメータ値Pを探索する処理が終了されてもよい。
【0019】
工程S404では、CPU310は、複数(m個(mは自然数))の初期個体を生成しうる。ここで、各初期個体は、図2又は図3に例示的に示されるように、複数(n個)の区間Sで構成される伝送路TLでありうる。各区間Sの属性であるパラメータ値Pは、例えば、乱数に基づいて決定されうる。進化計算アルゴリズムの適用において、各区間Sは、n個の遺伝子を持つ1つの個体として理解されうる。
【0020】
工程S406では、CPU310は、工程S404で生成された複数の初期個体または後述するように工程S418において更新された世代の複数の個体を対象として、各個体の波形品質を評価し、評価結果としての第1評価値を生成しうる。波形品質の評価は、波形品質に関する個体の適応度の評価であるとも言える。
【0021】
工程S408では、CPU310は、工程S404で生成された複数の初期個体または後述するように工程S418において更新された世代の複数の個体を対象として、各個体のノイズ低減効果を評価し、評価結果としての第2評価値を生成しうる。ノイズ低減効果の評価は、ノイズ低減効果に関する個体の適応度の評価であるとも言える。工程S406および工程S408の実行順序は、入れ替えられてもよいし、工程S406および工程S408は、並列に実行されてもよい。
【0022】
工程S410では、CPU310は、工程S406および工程S408において生成された第1評価値および第2評価値が工程S402で設定された終了条件を満たしているかどうかを判断し、第1評価値および第2評価値が終了条件を満たしていれば、図4に示された決定方法を終了する。この場合、最新の世代の個体(パラメータ値P1~Pnで特定される個体)に基づいて、目的とする伝送路TLの構造が決定されうる。ここで、目的とする伝送路TLの構造を規定するパラメータ値P1~Pnは、例えば第1評価値および第2評価値を評価することによって最も優れていると判断される個体に基づいて決定されうる。一方、第1評価値および第2評価値が終了条件を満たしていなければ、CPU310は、工程S412~S418を経て、工程S406、S408を実行し、再び工程S410を実行する。したがって、第1評価値および第2評価値が終了条件を満たすまで、伝送路TLを構成する複数の区間Sの各々の構造を特定するパラメータ値Pを探索する処理が継続されうる。
【0023】
工程S412では、CPU310は、最新の世代の個体(パラメータ値P1~Pnで特定される個体)に対して選択操作(即ち淘汰操作)を行いうる。工程S414では、CPU310は、最新の世代の個体(パラメータ値P1~Pnで特定される個体)に対して交叉操作を行いうる。工程S416では、CPU310は、最新の世代の個体(パラメータ値P1~Pnで特定される個体)に対して突然変異操作を行いうる。工程S412、S414およびS416における選択操作、交叉操作および突然変異操作については、公知の技術に従いうる。また、工程S412、S414、S416の順番は、任意に変更可能である。工程S418では、CPU310は、工程S412、S414およびS416によって得られた結果に基づいて世代を更新しうる。
【0024】
工程S420は、任意的な工程であり、工程S420では、CPU310は、現在の世代が予め設定された強制終了条件としての設定世代を超えたかどうかを判断し、現在の世代が設定世代を超えた場合には、図4に示される決定方法を終了し、そうでなければ、工程S406に戻る。以上のような進化計算アルゴリズム(遺伝的アルゴリズム)によってパラメータ値P1~Pnを決定することによって伝送路TLの構造が決定される。
【0025】
図5には、工程S406における波形品質の評価の手順が例示されている。工程S502では、CPU310は、各個体のパラメータ値Pに基づいて、回路シミュレーション用のネットリストを作成し、そのネットリストを使って回路シミュレーションを実行しうる。この際に伝送路TLに与えられる入力信号は、伝送路TLに要求される仕様に応じて決定されうる。
【0026】
工程S504では、CPU310は、例えば、工程S502におけるシミュレーションの結果に基づいて、伝送路TLを通過した信号(電圧信号)のアイパターンを生成しうる。図6には、アイパターンが例示されている。工程S506では、CPU310は、工程S504で生成したアイパターンを評価し、その評価の結果としての第1評価値を生成しうる。CPU310は、例えば、アイパターンの開口部の大きさを評価し、その評価の結果としての第1評価値を生成しうる。第1評価値は、例えば、アイパターンの開口部の面積、該開口部の高さH、および、該開口部の幅Wの少なくとも1つを評価した値でありうる。
【0027】
なお、波形品質の評価方法は、アイパターンを用いる方法に限定されるものではなく、例えば、目標波形からの乖離を指標化した値が第1評価値として使用されてもよい。
【0028】
図7には、工程S408における放射ノイズの低減効果の評価の手順の一例が示されている。工程S702では、CPU310は、各個体のパラメータ値Pに基づいて、回路シミュレーション用のネットリストを作成し、そのネットリストを使って回路シミュレーションを実行しうる。この際に伝送路TLに与えられる入力信号は、伝送路TLに要求される仕様に応じて決定されうる。また、ネットリストは、図8に例示されるように、伝送路TLの出力側の(線路上の)複数点PP1~PP5における信号(電流波形)を観察可能に生成されうる。ここで、L1、L2、L3は、伝送路TLの下流側の伝送路でありうる。また、IC1は、伝送路TLに信号を与えるドライバでありうる。図3に例示されるような差動伝送路の構造を決定する場合には、シミュレーションにおいて、コモンモード電流が計算されうる。
【0029】
工程S704では、CPU310は、工程S702で実行したシミュレーションの結果から伝送路TLの出力側の複数点PP1~PP5の各々について電流波形を計算しうる。工程S706では、CPU310は、工程S704で計算した結果に基づいて、複数点PP1~PP5の各々における複数の高調波の電流成分を形成しうる。工程S708では、CPU310は、工程S706で計算した結果に基づいて、複数点PP1~PP5の各々における複数の高調波の電流成分の振幅(電流振幅)を計算しうる。工程S710では、CPU310は、工程S708で計算した結果に基づいて、複数点PP1~PP5の各々について、複数の高調波の電流振幅と周波数との積を計算しうる。工程S712では、CPU310は、工程S710で計算した積のうちの最大値を第2評価値として決定しうる。なお、この例では、伝送路TLの出力側の複数点PP1~PP5の各々について評価がなされているが、1つの点についてのみ評価がなされてもよい。
【0030】
図9には、図5および図7に示される評価方法を使って評価を行いながら図4に示される決定方法に従って決定されたパラメータ値Pを有する差動伝送路のコモンモード電流を評価した結果が例示されている。図9において、横軸は周波数であり、縦軸は、コモンモード電流の各周波数における成分(電流振幅)と周波数との積である。図10には、一様な幅および間隔を有する一対の信号線からなる差動伝送路のコモンモード電流を評価した結果が比較例として示されている。図10において、横軸は周波数であり、縦軸は、コモンモード電流の各周波数における成分(電流振幅)と周波数との積である。図9図10との比較より、実施形態の決定方法によって構造が決定された差動伝送路は、一様な幅および間隔を有する一対の信号線からなる差動伝送路よりも、ノイズ低減効果において優れていることが分かる。
【0031】
図11には、工程S408における放射ノイズの低減効果の評価の第2例の手順が例示されている。工程S1102では、CPU310は、各個体のパラメータ値Pに基づいて、回路シミュレーション用のネットリストを作成し、そのネットリストを使って回路シミュレーションを実行し、伝送路TLの周波数特性(Sパラメータ)を求めうる。あるいは、工程S1102では、CPU310は、各個体のパラメータ値Pに基づいて、電磁界解析用モデルを作成し、その電磁界解析用モデルを使って電磁界シミュレーションを実行し、伝送路TLの周波数特性(Sパラメータ)を求めうる。
【0032】
工程S1104では、CPU310は、工程S1102で求めた結果から、放射ノイズを低減したい周波数帯(指定された周波数帯)における透過係数を第2評価値として決定しうる。ここで、構造を決定する対象が図2に例示されるシングルエンド伝送路である場合は、CPU310では、Sパラメータの透過係数(S21)を第2評価値として決定しうる。一方、構造を決定する対象が図3に例示される差動伝送路である場合は、CPU310では、Sパラメータのコモンモード透過係数(Scc21)を第2評価値として決定しうる。
【0033】
図12には、図5および図11に示される評価方法を使って評価を行いながら図4に示される決定方法に従って決定されたパラメータ値Pを有する差動伝送路のコモンモード透過係数(Scc21)を評価した結果が例示されている。図12にはまた、一様な幅および間隔を有する一対の信号線からなる差動伝送路のコモンモード透過係数(Scc21)を評価した結果が例示されている。図12において、横軸は周波数であり、縦軸は、コモンモード透過係数(Scc21)である。図12における比較より、実施形態の決定方法によって構造が決定された差動伝送路は、一様な幅および間隔を有する一対の信号線からなる差動伝送路よりも、ノイズ低減効果において優れていることが分かる。
【0034】
伝送路TLは、例えば、EMI(Electro Magnetic Interference)を低減するためのEMIフィルタの代わりに使用されてもよい。例えば、図8に示されるような構成においては、従来は、ドライバIC1と伝送路L1との間にEMIフィルタが配置されうる。実施形態の伝送路TLは、そのEMIフィルタの代わりにドライバIC1と伝送路L1との間に配置され、EMIフィルタと同様の機能を果たしうる。これは、コストの低減および実装面積の減少に有利である。
【0035】
発明は上記の実施形態に制限されるものではなく、発明の要旨の範囲内で、種々の変形・変更が可能である。
図1
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図7
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図10
図11
図12