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特許7369930X線回折測定装置およびX線回折測定装置の撮像面機構特性検出方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-19
(45)【発行日】2023-10-27
(54)【発明の名称】X線回折測定装置およびX線回折測定装置の撮像面機構特性検出方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/205 20180101AFI20231020BHJP
   G01N 23/2055 20180101ALI20231020BHJP
【FI】
G01N23/205
G01N23/2055 310
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021023298
(22)【出願日】2021-02-17
(65)【公開番号】P2022125617
(43)【公開日】2022-08-29
【審査請求日】2022-09-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000112004
【氏名又は名称】パルステック工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130281
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 道幸
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100214813
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 幸江
(72)【発明者】
【氏名】丸山 洋一
【審査官】吉田 将志
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-104673(JP,A)
【文献】特開2020-020614(JP,A)
【文献】特開2010-094498(JP,A)
【文献】特開2013-013651(JP,A)
【文献】特開2017-032283(JP,A)
【文献】特開2015-078934(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/00 - G01N 23/2276
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象とする測定対象物に向けてX線を出射するX線出射手段と、
前記X線出射手段により前記測定対象物に向けてX線が照射された際、前記測定対象物にて発生した回折X線を、前記X線出射手段により出射されるX線の光軸に対して垂直な撮像面にて受光し、前記撮像面に前記回折X線の像である回折環を形成するとともに前記回折環の形状を検出する回折環形成検出手段とを備えたX線回折測定装置において、
前記回折環形成検出手段により検出される回折環の形状を記憶する記憶手段と、
前記記憶手段に記憶した回折環の形状を用いて演算を行う演算手段とを備え、
前記演算手段は、前記X線出射手段により出射されたX線の照射点から前記撮像面までの距離である照射点―撮像面間距離が異なる条件で、前記回折環形成検出手段により検出された2つ以上の回折環の形状が前記記憶手段に記憶されているとき、前記記憶手段に記憶された回折環の形状から前記照射点―撮像面間距離と回折環の重心座標とをそれぞれ算出して前記記憶手段に記憶し、前記記憶手段に記憶した照射点―撮像面間距離における変化の度合に対する前記記憶手段に記憶した回折環の重心座標における変化の度合から、前記撮像面の前記X線出射手段により出射されるX線の光軸に対して垂直な平面に対する傾きである撮像面の傾きの度合を算出する傾き計算手段を備えていることを特徴とするX線回折測定装置。
【請求項2】
対象とする測定対象物に向けてX線を出射するX線出射手段と、
前記X線出射手段により前記測定対象物に向けてX線が照射された際、前記測定対象物にて発生した回折X線を、前記X線出射手段により出射されるX線の光軸に対して垂直な撮像面にて受光し、前記撮像面に前記回折X線の像である回折環を形成するとともに前記回折環の形状を検出する回折環形成検出手段とを備えたX線回折測定装置において、
前記X線出射手段により出射されたX線の照射点から前記撮像面までの距離である照射点―撮像面間距離を検出する距離検出手段と、
前記回折環形成検出手段により検出される回折環の形状を前記距離検出手段により検出される照射点―撮像面間距離と対応づけて記憶する記憶手段と、
前記記憶手段に記憶した回折環の形状を用いて演算を行う演算手段とを備え、
前記演算手段は、前記照射点―撮像面間距離が異なる条件で、前記回折環形成検出手段により検出された2つ以上の回折環の形状と前記距離検出手段により検出された2つ以上の照射点―撮像面間距離が前記記憶手段に記憶されているとき、前記記憶手段に記憶された回折環の形状から回折環の重心座標をそれぞれ算出して前記記憶手段に記憶し、前記記憶手段に記憶した照射点―撮像面間距離における変化の度合に対する前記記憶手段に記憶した回折環の重心座標における変化の度合から、前記撮像面の前記X線出射手段により出射されるX線の光軸に対して垂直な平面に対する傾きである撮像面の傾きの度合を算出する傾き計算手段を備えていることを特徴とするX線回折測定装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のX線回折測定装置において、
前記演算手段は、前記記憶手段に記憶した前記照射点―撮像面間距離の変化に対する前記記憶手段に記憶したそれぞれの回折環の重心座標の変化の方向と変化の度合から、前記照射点―撮像面間距離が0のときの回折環の重心座標を、前記撮像面が前記X線出射手段により出射されるX線の光軸と交差する点である回折環の中心点の座標として算出する中心点計算手段を備えていることを特徴とするX線回折測定装置。
【請求項4】
請求項3に記載のX線回折測定装置において、
前記演算手段は、前記中心点計算手段により算出された回折環の中心点の座標と、前記中心点計算手段による計算の過程で算出された回折環の重心座標の変化の方向と、前記傾き計算手段により算出された撮像面の傾き度合とを前記記憶手段に記憶し、前記記憶手段に照射点―撮像面間距離が新たに記憶されたとき、前記記憶された照射点―撮像面間距離と、前記記憶手段に記憶されている回折環の中心点の座標、回折環の重心座標の変化の方向及び撮像面の傾きの度合とを用いて無応力の測定対象物における回折環である基準回折環の形状を算出する基準回折環計算手段と、
前記基準回折環計算手段により得られた基準回折環を、撮像面の傾き度合が0の場合の回折環の形状にするための補正係数を計算し、得られた補正係数を用いて前記回折環形成検出手段により検出された回折環の形状を補正する補正手段とを備えていることを特徴とするX線回折測定装置。
【請求項5】
対象とする測定対象物に向けてX線を出射するX線出射手段と、
前記X線出射手段により前記測定対象物に向けてX線が照射された際、前記測定対象物にて発生した回折X線を、前記X線出射手段により出射されるX線の光軸に対して垂直な撮像面にて受光し、前記撮像面に前記回折X線の像である回折環を形成するとともに前記回折環の形状を検出する回折環形成検出手段とを備えたX線回折測定装置における、前記撮像面の機構特性検出方法において、
前記X線出射手段によりX線を出射し、前記回折環形成検出手段により回折環の形状を検出することを、X線の照射点から前記撮像面までの距離である照射点―撮像面間距離が異なる条件で2つ以上行う回折環形状検出ステップと、
前記回折環形状検出ステップにより得られた2つ以上の回折環の形状を用いて、前記照射点―撮像面間距離と回折環の重心座標とをそれぞれ算出し、前記算出した照射点―撮像面間距離における変化の度合に対する前記算出した回折環の重心座標における変化の度合から、前記撮像面の前記X線出射手段により出射されるX線の光軸に対して垂直な平面に対する傾きである撮像面の傾きの度合を算出する傾き計算ステップとを行うことを特徴とする前記撮像面の機構特性検出方法。
【請求項6】
対象とする測定対象物に向けてX線を出射するX線出射手段と、
前記X線出射手段により前記測定対象物に向けてX線が照射された際、前記測定対象物にて発生した回折X線を、前記X線出射手段により出射されるX線の光軸に対して垂直な撮像面にて受光し、前記撮像面に前記回折X線の像である回折環を形成するとともに前記回折環の形状を検出する回折環形成検出手段と、
前記X線出射手段により出射されたX線の照射点から前記撮像面までの距離である照射点―撮像面間距離を検出する距離検出手段とを備えたX線回折測定装置における、前記撮像面の機構特性検出方法において、
前記X線出射手段によりX線を出射し、前記回折環形成検出手段により回折環の形状を検出するとともに前記距離検出手段により照射点―撮像面間距離を検出することを、前記照射点―撮像面間距離が異なる条件で2つ以上行う回折環形状検出ステップと、
前記回折環形状検出ステップにより得られた2つ以上の回折環の形状を用いて、回折環の重心座標をそれぞれ算出し、前記検出した照射点―撮像面間距離における変化の度合に対する前記算出した回折環の重心座標における変化の度合から、前記撮像面の前記X線出射手段により出射されるX線の光軸に対して垂直な平面に対する傾きである撮像面の傾きの度合を算出する傾き計算ステップとを行うことを特徴とする前記撮像面の機構特性検出方法。
【請求項7】
請求項5又は請求項6に記載の前記撮像面の機構特性検出方法において、
前記傾き計算ステップによる計算に用いられた前記回折環形状検出ステップにより得られた2つ以上の回折環の重心座標と、前記照射点-撮像面間距離とを用いて、前記照射点-撮像面間距離の変化に対する前記回折環の重心座標の変化の方向と変化の度合から、前記照射点-撮像面間距離が0のときの回折環の重心座標を、前記撮像面が前記X線出射手段により出射されるX線の光軸と交差する点である回折環の中心点の座標として算出する中心点計算ステップをも行うことを特徴とする前記撮像面の機構特性検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定対象物にX線を照射し、測定対象物で回折したX線により回折環を撮像するX線回折測定装置、および該X線回折測定装置における撮像面機構特性の検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、測定対象物に所定の入射角でX線を照射して、測定対象物で回折したX線により撮像面にX線回折環(以下、回折環という)を形成し、形成された回折環の形状を検出してcosα法による分析を行い、測定対象物の残留応力を測定するX線回折測定装置が知られている。このX線回折測定装置には、例えば特許文献1に示されている装置のように、撮像面をイメージングプレートにして、測定対象物へのX線照射によりイメージングプレートに回折環を撮像し、その後にイメージングプレートにレーザ光を走査しながら照射して走査位置と共に発光強度を検出することで、撮像された回折環の形状を検出する装置がある。この装置は回折環の形状を精度よく検出することができるが、回折環の撮像と検出を別々に行うため、測定に時間がかかるという問題がある。この問題に対応したX線回折測定装置として、例えば特許文献2に示されている装置のように撮像面に固体撮像素子を配置し、該固体撮像素子で撮像面の位置ごとの回折X線強度を検出することで、回折環の撮像と検出を同時に行うX線回折測定装置がある。この装置は、撮像と検出を同時に行うため測定対象物1点あたりの測定を短時間で行うことができ、測定効率がよい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第6048547号公報
【文献】特許第6313010号公報
【発明の概要】
【0004】
しかしながら、本願発明者は、固体撮像素子を回折環の撮像面に配置したX線回折測定装置は、製作した段階で出射X線の光軸が該撮像面の法線に対して僅かにずれがあり、このずれが測定に影響を及ぼしていることを見出した。別の言い方をすると、該撮像面が出射X線の光軸に垂直な平面から僅かに傾いており、この傾きが測定の結果得られる残留応力等を真値からずれた値にしていることを見出した。以下、撮像面のこの状態を、撮像面の傾き、という表現で言い表す。この撮像面の傾きの影響の1つは、撮像される回折環の形状の本来の形状からのずれである。無応力の測定対象物であっても該回折環の形状が真円からずれていると、それにより残留応力の測定値は0以外の値を示すことになり、どのような測定対象物でも残留応力の測定値は本来の値からこのずれ分が加わった値になる。また、撮像面の傾きの影響のもう1つは、定義した回折環の中心点の本来の回折環の中心点からのすれである。本来の回折環の中心点は撮像面と出射X線の光軸とが交差する点であり、通常この点は、無応力の測定対象物を用いて回折環を撮像し、該回折環の中心点を算出する形で定義される。しかし、撮像面の傾きがあると、算出される中心点は本来の中心点からずれる。回折環の形状から残留応力を算出する際、回折環の周方向位置(回転角度)ごとの半径値が用いられるが、定義した中心点が本来の中心点からずれていると、この半径値が正規の半径値からずれることになり、残留応力等の測定値も本来の値からずれた値になる。
【0005】
本発明はこの問題を解消するためなされたもので、その目的は、測定対象物にX線を照射し、測定対象物で回折したX線により回折環を撮像するX線回折測定装置において、撮像面の傾き度合を検出する機能、回折環の中心点を検出する機能、及び検出した撮像面の傾きの度合及び回折環の中心点を用いて検出した回折環の形状を補正する機能を備えたX線回折測定装置を提供することにある。また、測定対象物にX線を照射し、測定対象物で回折したX線により回折環を撮像するX線回折測定装置において、撮像面の傾き度合及び回折環の中心点といった撮像面の機構特性を検出する方法を提供することにある。
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の特徴は、対象とする測定対象物に向けてX線を出射するX線出射手段と、X線出射手段により測定対象物に向けてX線が照射された際、測定対象物にて発生した回折X線を、X線出射手段により出射されるX線の光軸に対して垂直な撮像面にて受光し、撮像面に回折X線の像である回折環を形成するとともに回折環の形状を検出する回折環形成検出手段とを備えたX線回折測定装置において、回折環形成検出手段により検出される回折環の形状を記憶する記憶手段と、記憶手段に記憶した回折環の形状を用いて演算を行う演算手段とを備え、演算手段は、X線出射手段により出射されたX線の照射点から撮像面までの距離である照射点―撮像面間距離が異なる条件で、回折環形成検出手段により検出された2つ以上の回折環の形状が記憶手段に記憶されているとき、記憶手段に記憶された回折環の形状から照射点―撮像面間距離と回折環の重心座標とをそれぞれ算出して記憶手段に記憶し、記憶手段に記憶した照射点―撮像面間距離における変化の度合に対する記憶手段に記憶した回折環の重心座標における変化の度合から、撮像面のX線出射手段により出射されるX線の光軸に対して垂直な平面に対する傾きである撮像面の傾きの度合を算出する傾き計算手段を備えているようにしたことにある。
【0007】
これによれば、X線回折測定装置の製作が完了した段階で、無応力の測定対象物(例えば、金属粉糊塗の測定対象物)を照射点―撮像面間距離が異なる2つ以上の条件でX線回折測定して、記憶手段に回折環の形状を記憶させれば、演算手段にある傾き計算手段が記憶された回折環の形状を用いて撮像面の傾きの度合を算出する。よって、算出された撮像面の傾きの度合が許容値内であるか否かを確認することで、制作されたX線回折測定装置の品質状態を管理することができる。また、X線回折測定装置を使用開始した後、定期的に同様にして撮像面の傾きの度合を算出すれば、X線回折測定装置の劣化の有無を確認することができる。なお、X線回折測定する対象は無応力の測定対象物が望ましいが、残留応力が小さな測定対象物であれば、撮像面の傾きの度合を精度よく求めることができる。
【0008】
また、上述したX線回折測定装置の構成を変更して、X線回折測定装置を、対象とする測定対象物に向けてX線を出射するX線出射手段と、X線出射手段により測定対象物に向けてX線が照射された際、測定対象物にて発生した回折X線を、X線出射手段により出射されるX線の光軸に対して垂直な撮像面にて受光し、撮像面に回折X線の像である回折環を形成するとともに回折環の形状を検出する回折環形成検出手段とを備えたX線回折測定装置において、X線出射手段により出射されたX線の照射点から撮像面までの距離である照射点―撮像面間距離を検出する距離検出手段と、回折環形成検出手段により検出される回折環の形状を距離検出手段により検出される照射点―撮像面間距離と対応づけて記憶する記憶手段と、記憶手段に記憶した回折環の形状を用いて演算を行う演算手段とを備え、演算手段は、照射点―撮像面間距離が異なる条件で、回折環形成検出手段により検出された2つ以上の回折環の形状と距離検出手段により検出された2つ以上の照射点―撮像面間距離が記憶手段に記憶されているとき、記憶手段に記憶された回折環の形状から回折環の重心座標をそれぞれ算出して記憶手段に記憶し、記憶手段に記憶した照射点―撮像面間距離における変化の度合に対する記憶手段に記憶した回折環の重心座標における変化の度合から、撮像面のX線出射手段により出射されるX線の光軸に対して垂直な平面に対する傾きである撮像面の傾きの度合を算出する傾き計算手段を備えているX線回折測定装置としてもよい。
【0009】
これによれば、照射点―撮像面間距離を、回折環形成検出手段により検出された回折環の形状から算出することに替えて、距離検出手段により検出するようにしたのみであるので、上述した効果と同じ効果を得ることができる。
【0010】
また、本発明の他の特徴は、演算手段は、記憶手段に記憶した照射点―撮像面間距離の変化に対する記憶手段に記憶したそれぞれの回折環の重心座標の変化の方向と変化の度合から、照射点―撮像面間距離が0のときの回折環の重心座標を、撮像面がX線出射手段により出射されるX線の光軸と交差する点である回折環の中心点の座標として算出する中心点計算手段を備えているようにしたことにある。
【0011】
これによれば、X線回折測定装置の製作が完了した段階で、無応力の測定対象物を照射点―撮像面間距離が異なる2つ以上の条件でX線回折測定すれば、演算手段にある中心点計算手段が回折環の中心点を算出するので、残留応力の計算に用いる回折環の周方向位置ごとの半径値を本来の回折環の中心点からの距離で得ることができ、残留応力等の測定値を精度よく算出することができる。なお、X線回折測定する対象は、残留応力が小さな測定対象物であっても回折環の中心点を精度よく求めることができる。
【0012】
また、本発明の他の特徴は、演算手段は、中心点計算手段により算出された回折環の中心点の座標と、中心点計算手段による計算の過程で算出された回折環の重心座標の変化の方向と、傾き計算手段により算出された撮像面の傾き度合とを記憶手段に記憶し、記憶手段に照射点―撮像面間距離が新たに記憶されたとき、記憶された照射点―撮像面間距離と、記憶手段に記憶されている回折環の中心点の座標、回折環の重心座標の変化の方向及び撮像面の傾きの度合とを用いて無応力の測定対象物における回折環である基準回折環の形状を算出する基準回折環計算手段と、基準回折環計算手段により得られた基準回折環を、撮像面の傾き度合が0の場合の回折環の形状にするための補正係数を計算し、得られた補正係数を用いて回折環形成検出手段により検出された回折環の形状を補正する補正手段とを備えているようにしたことにある。
【0013】
これによれば、照射点―撮像面間距離が距離検出手段により得られるか、回折環形成検出手段により検出された回折環の形状から算出されれば、記憶手段に記憶されている回折環の中心点の座標、回折環の重心座標の変化の方向及び撮像面の傾きの度合を用いて、基準回折環の形状を算出することができる。そして、基準回折環の形状が撮像面の傾き度合が0の場合の回折環の形状(すなわち真円)にするための補正係数を計算し、回折環形成検出手段により検出された回折環の形状をこの補正係数を用いて補正することで、撮像面の傾きが0の場合の回折環の形状を得ることができる。これにより、撮像面の傾き度合が許容値より大きい場合でも、残留応力等の測定値を精度よく算出することができる。なお、基準回折環の半径は測定対象物の材質、すなわち回折角によって変わるが、測定対象物の材質ごとの回折角は既知であり精度よく求められているので、基準回折環の形状は記憶手段に記憶されている3つの値の精度がよければ、精度よく計算することができる。すなわち、測定対象物の材質によらず、残留応力等の測定値を精度よく算出することができる。ただし、照射点―撮像面間距離を、回折環形成検出手段により検出された回折環の形状から算出する場合は、測定対象物の残留応力が小さく、回折環の形状の真円からずれが小さいことが必要である。
【0014】
また、本発明はX線回折測定装置としての発明のみならず、X線回折測定装置における撮像面の傾き度合及び回折環の中心点の座標といった撮像面の機構特性を検出する方法としての発明としても実施し得るものである。すなわち、上述したX線出射手段と回折環形成検出手段とを備えたX線回折測定装置を用いて、X線出射手段によりX線を出射し、回折環形成検出手段により回折環の形状を検出することを、X線の照射点から撮像面までの距離である照射点―撮像面間距離が異なる条件で2つ以上行う回折環形状検出ステップと、回折環形状検出ステップにより得られた2つ以上の回折環の形状を用いて、照射点―撮像面間距離と回折環の重心座標とをそれぞれ算出し、算出した照射点―撮像面間距離における変化の度合に対する算出した回折環の重心座標における変化の度合から、撮像面のX線出射手段により出射されるX線の光軸に対して垂直な平面に対する傾きである撮像面の傾きの度合を算出する傾き計算ステップとを行う撮像面の機構特性検出方法としての発明としてもよい。なお、回折環形成検出手段により回折環の形状を検出する測定対象物は無応力の測定対象物が望ましいが、残留応力が小さな測定対象物であれば、撮像面の傾きの度合を精度よく求めることができる。
【0015】
また、X線回折測定装置がX線の照射点から撮像面までの距離である照射点―撮像面間距離を検出する距離検出手段を備えている場合は、X線出射手段によりX線を出射し、回折環形成検出手段により回折環の形状を検出するとともに距離検出手段により照射点―撮像面間距離を検出することを、照射点―撮像面間距離が異なる条件で2つ以上行う回折環形状検出ステップと、回折環形状検出ステップにより得られた2つ以上の回折環の形状を用いて、回折環の重心座標をそれぞれ算出し、検出した照射点―撮像面間距離における変化の度合に対する算出した回折環の重心座標における変化の度合から、撮像面のX線出射手段により出射されるX線の光軸に対して垂直な平面に対する傾きである撮像面の傾きの度合を算出する傾き計算ステップとを行う撮像面の機構特性検出方法としての発明としてもよい。
【0016】
また、回折環形状検出ステップと傾き計算ステップに加え、傾き計算ステップによる計算に用いられた回折環形状検出ステップにより得られた2つ以上の回折環の重心座標と、照射点-撮像面間距離とを用いて、照射点-撮像面間距離の変化に対する回折環の重心座標の変化の方向と変化の度合から、照射点-撮像面間距離が0のときの回折環の重心座標を、撮像面がX線出射手段により出射されるX線の光軸と交差する点である回折環の中心点の座標として算出する中心点計算ステップをも行う撮像面の機構特性検出方法としての発明としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明が適用されるX線回折測定装置を含むX線回折測定システムを示す全体概略図である。
図2図1のX線回折測定装置の拡大図である。
図3】撮像面の傾きがあると、撮像される回折環の重心が中心点からずれることを、傾きを誇張して視覚的に示すとともに、傾き計算に必要な箇所の距離と角度を記号で示した図である。
図4】撮像面の傾きがあると、撮像される回折環の重心が照射点―撮像面間距離が大きくなるにつれて中心点からずれていくことを撮像面の2次元座標で視覚的に示した図である。
図5A】照射点―撮像面間距離と回折環の重心の中心点からのずれ量との関係を、グラフにより示した図である。
図5B図5Aとは回折角が異なる測定対象物において、照射点―撮像面間距離と回折環の重心の中心点からのずれ量との関係を、グラフにより示した図である。
図6A】出射X線の光軸を含む平面で見て、検出した回折環の形状を基準回折環の形状に基づいて補正する方法を視覚的に説明するための図である。
図6B図6Aとは回折角が異なる測定対象物において、出射X線の光軸を含む平面で見て、検出した回折環の形状を基準回折環の形状に基づいて補正する方法を視覚的に説明するための図である。
図7】撮像面を垂直方向から見て、検出した回折環の形状を基準回折環の形状に基づいて補正する方法を視覚的に説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明を適用するX線回折測定装置を含むX線回折測定システムの構成について図1及び図2を用いて説明する。なお、本発明はX線回折測定システムの操作の方法とX線回折測定システムのコンピュータ装置90が実行するプログラムに特徴点があり、X線回折測定システムの構成上の点には特徴点はない。また、X線回折測定システムの構成上の多くの箇所は、先行技術文献の特許文献1又は特許文献2に示されているX線回折測定システムと同じになっている。よって、特許文献1又は特許文献2に示されているX線回折測定システムと同じである箇所は、同じであることを示したうえで簡略的に説明するにとどめる。
【0019】
図1及び図2に示すように、X線回折測定システムは、X線回折測定装置1、アーム式移動装置(先端51のみ図示)、コンピュータ装置90及び高電圧電源95から構成され、測定対象物OBがある所まで持ち運ばれ、アーム式移動装置を測定対象物OBの近傍にセットして操作される。X線回折測定装置1は、アーム式移動装置を操作することで測定対象物OBに対して適切な位置と姿勢にすることができ、適切な位置と姿勢にした後、X線回折測定装置1からX線が測定対象物OBに照射される。そして、測定対象物OBのX線照射点で発生する回折X線を撮像面で受光し、撮像面に形成される回折環の形状を検出して演算処理することで測定対象物OBの残留応力等の特性値を測定する。X線回折測定システムのこの概略的な作動様式は、先行技術文献の特許文献1又は特許文献2に示されているX線回折測定システムと同じである。
【0020】
図1及び図2に示すように、X線回折測定装置1は筐体50内に、X線管10、コリメータの役割をする円筒状パイプ12、撮像面である固体撮像素子15、X線と同じ光軸で可視のLED光を出射する可視光出射機構、可視のLED光の照射点付近を撮像するカメラCa等を備えている。また、筐体50内には、X線管10、固体撮像素子15、LED光源44、モータ46及び撮像器49に接続され、それらの作動を制御したり、検出信号を入力したりするための各種回路も内蔵されており、図1において筐体50外に示された2点鎖線で囲われた各種回路は、筐体50内の2点鎖線内に納められている。そして、これらの各種回路はコンピュータ装置90に接続され、コンピュータ装置90のコントローラ91から入力する指令により作動する。コンピュータ装置90は入力装置92及び表示装置93を有し、入力装置92からの入力及びインスト-ルされているプログラムの作動により、上述した各種回路に指令を出力し、また該各種回路が出力したデータを入力してメモリに記憶する。また、図1に示すように、X線回折測定システムは高電圧電源95を備え、高電圧電源95はX線管10がX線を出射するための電圧及び電流をX線管10に出力する。
【0021】
図2に示すように、X線回折測定装置1の筐体50は、直方体形状の上面と底面にそれぞれ1つの角をなくすように斜面を形成し、底面に段差をつけたような構造をしている。具体的には、筐体50は、第1底面壁50a、第2底面壁50c、前面壁50b、後面壁50e、上面壁50f、側面壁(図示せず)、第1底面壁50aと第2底面壁50cを連結する底面傾斜壁50h、第2底面壁50cと前面壁50bが交差する角部をなくすように設けた繋ぎ壁50d及び後面壁50eと上面壁50fが交差する角部をなくすように設けた上面傾斜壁50gを有するように形成されている。そして、側面壁にはアーム式移動装置の先端51が回転可能に接続されており、切欠き部壁50cには円筒状パイプ12から出射されたX線と測定対象物OBで発生した回折X線が通過する円形孔50c1がある。この筐体50の形状は、先行技術文献の特許文献1のX線回折測定装置の筐体の形状をやや変更したものである。
【0022】
コンピュータ装置90のコントローラ91は、CPU、ROM、RAM、大容量記憶装置などを備えたマイクロコンピュータを主要部とした電子制御装置であり、例えばキーボードやマウスのような入力装置92からの指令の入力により、大容量記憶装置に記憶されたプログラムを実行してX線回折測定装置1の作動を制御するとともに、入力したデジタルデータを用いて演算処理を行う。また、コントローラ91は、入力装置92から入力した測定条件やX線回折測定システムの作動状況、及び演算の結果得られた特性値や分布図等を、例えば液晶ディスプレイのような表示装置93に表示する。コンピュータ装置90の構成及び機能は、特許文献1に示されているX線回折測定システムと同じである。
【0023】
図1及び図2に示すように、X線管10は筐体50内の上部にて図示左右方向に延設されて固定され、高電圧電源95からの高電圧の供給を受けると、その側面に形成された円状の出射口11からX線を図示下方向に出射する。出射したX線は円盤状ブロック20の中心に形成された貫通孔20aを通過し、円筒状パイプ12の内部を通過することで略平行光となって円筒状パイプ12の先端から出射する。X線管10には、X線制御回路71からの信号線が接続され、X線制御回路71は、コントローラ91から指令が入力すると、X線管10から一定強度のX線が出射するように、高電圧電源95からX線管10に供給される駆動電流及び駆動電圧を制御する。また、X線管10は、図示しない冷却装置を備えていて、X線制御回路71は、この冷却装置に供給される駆動信号も制御する。X線管10及びX線制御回路71の構成及び機能は、特許文献1に示されているX線回折測定システムと同じである。
【0024】
円盤状ブロック20は、X線管10とともには筐体50内に固定され、上述したように中心部分にX線を通過させる貫通孔20aがあるとともに、下面に円盤状のテーブル16を固定している。円盤状のテーブル16は円盤状ブロック20に固定された面の反対側の面に、撮像面である固体撮像素子15を取り付けている。固体撮像素子15はX線CCDのようにそれぞれの画素位置におけるX線強度を検出することができるものである。図1に示すように固体撮像素子15はX線強度信号取出回路75と信号線が接続されており、コントローラ91からX線強度信号取出回路75に指令が入力すると、固体撮像素子15のそれぞれの画素は受光するX線強度に相当する強度の信号を、X線強度信号取出回路75に出力する。そして、X線強度信号取出回路75は入力した信号の強度をデジタルデータにし、画素位置のデータと共に又は画素位置順にコントローラ91に出力し、コントローラ91は入力したデジタルデータをメモリに記憶する。これにより、撮像面である固体撮像素子15で受光される回折X線の強度分布データが得られ、回折X線の強度分布は回折環が形成される分布になっているので、コントローラ91は得られた強度分布データを演算処理することで回折環の形状データを得る。その演算処理は、出射X線の光軸が固体撮像素子15と交差する点である回折環の中心点(以下、中心点という)から半径方向のX線強度分布曲線を所定の回転角度ごとに作成し、X線強度分布曲線のピーク位置の中心点からの距離を半径値として検出し、回転角度と半径値のデータ群を得ることである。視覚的には、それぞれのX線強度分布曲線のピーク位置を線でつないだ円を得ることである。固体撮像素子15、X線強度信号取出回路75及びコントローラ91の構成及び機能は、特許文献2に示されているX線回折測定システムと同じである。なお、中心点を精度よく検出する方法又はそのための演算プログラムが本発明の特徴点の1つであり、この方法又は演算プログラムは後ほど詳細に説明する。
【0025】
また、テーブル16の円盤状ブロック20の貫通孔20aと合う箇所には、同程度の径の貫通孔が開けられ、該貫通孔には円筒状パイプ12が挿入されて固定されている。よって、貫通孔20aに入射したX線は、円筒状パイプ12の内部を通過して円筒状パイプ12の先端から出射する。なお、円筒状パイプ12は、テーブル16の下面に対してその中心軸が垂直になるように取り付けられており、これにより出射X線の光軸は撮像面である固体撮像素子15に対して垂直になるが、実際は、垂直からの僅かのずれが存在し、このずれが回折環の形状から残留応力を計算する際の精度に影響している。このずれ、すなわち、撮像面の傾きの角度と方向を精度よく検出する方法又は演算プログラムが本発明の特徴点の1つである。さらに、上述した中心点及び撮像面の傾きの角度と方向を用いて無応力の回折環である基準回折環の形状を計算し、得られた基準回折環を撮像面の傾きが0の場合の回折環にするための補正係数を計算し、得られた補正係数を用いて検出した回折環の形状を補正する演算プログラムも本発明の特徴点の1つである。この方法又は演算プログラムは後ほど詳細に説明する。
【0026】
図2に示すように、円盤状ブロック20はX線管10と対向する面にモータ46を取り付けており、モータ46は出力軸に回転プレート45を取り付けている。回転プレート45は、モータ46の回転により回転プレート45がストッパ47aに当たるまで回転すると、貫通孔20a及び円筒状パイプ12の中心軸と回転プレート45が交差する箇所が中心となるようにLED光源44を取り付けている。LED光源44は、図1に示すLED駆動回路73から駆動信号が入力すると可視光を出射し、その可視光は前述した出射X線の光路と同様の光路で出射して測定対象物OBに照射される。これにより、出射X線の光軸及びX線の照射点を可視光の光軸および照射点として把握することができる。また、モータ46の回転により回転プレート45がストッパ47bに当たるまで回転すると、X線管10の出射口11と貫通孔20aの間には何もなくなり、前述したように出射口11から出射されたX線は貫通孔20aに入射する。モータ46は図1に示すモータ制御回路72からの駆動信号により右周り及び左周りに回転するようになっており、モータ制御回路72は、コントローラ91からの回転方向の指令が入力すると、モータ46のエンコーダからのパルス列信号が入力しなくなるまで、入力した回転方向に回転するための駆動信号を出力する。また、LED駆動回路73は、コントローラ91からの指令が入力すると駆動信号をLED光源44に出力する。これにより、回転プレート45の回転位置及びLED光源44からの可視光照射は、コントローラ91により制御される。この出射X線の光軸と同じ光軸で可視のLED光を照射する構造及び制御の方法は、特許文献1に示されるX線回折測定システムと同じである。
【0027】
図1及び図2に示すように、筐体50の底面傾斜壁50hにはカメラCaが取り付けられている。カメラCaは結像レンズ48を取り付けた鏡筒と撮像器49とから構成され、撮像器49は結像レンズ48により画像が形成される箇所に設けられている。撮像器49は、CCD受光器又はCMOS受光器で構成され、各撮像素子ごとの受光強度に相当する強度の信号をセンサ信号取出回路70に出力する。カメラCaは、固体撮像素子15に対して基準位置にある測定対象物OBにおける可視光の照射点を中心とした領域の画像を撮像するデジタルカメラとして機能する。固体撮像素子15に対して基準位置とは、可視光の照射点から固体撮像素子15までの距離(すなわち、照射点-撮像面間距離)が、基準値となる位置である。この場合の結像レンズ48及び撮像器49による被写界深度は、可視光の照射点を中心とした前後の範囲で設定されている。センサ信号取出回路70は、撮像器49の各撮像素子ごとの信号強度データを、各撮像素子の位置(すなわち画素位置)が分かるデータと共に、又は各撮像素子の位置の順にコントローラ91に出力する。コントローラ91は入力した信号強度データを用いて、表示装置93に撮影画像を表示する。このカメラ機能は、特許文献1に示されているX線回折測定システムと同じである。
【0028】
また、コントローラ91には、センサ信号取出回路70から入力した撮影画像データから照射点-撮像面間距離を算出する機能がある。この計算は、撮影画像上の可視光照射点の位置を検出し、予め記憶されている撮影画像上の可視光照射点の位置と照射点-撮像面間距離との関係に当てはめることで行われる。図2おいては、測定対象物OBの表面が照射点-撮像面間距離が基準値になる位置にあるため、結像レンズ48の光軸と撮像器49が交差する箇所に可視光照射点が結像し、撮影画像の中心に可視光照射点が生じるが、照射点-撮像面間距離が変われば、撮像器49において可視光照射点が結像する位置が変わり、撮影画像上の可視光照射点の位置も変わる。すなわち、撮影画像上の可視光照射点の位置と照射点-撮像面間距離とには1対1の関係があり、予めこの関係を得ておけば、撮影画像上の可視光照射点の位置から照射点-撮像面間距離を検出することができる。撮影画像上の可視光照射点の位置と照射点-撮像面間距離との関係は、金属粉を糊塗した無応力の測定対象物OBで撮影画像上の可視光照射点の位置を検出した後、X線を照射して固体撮像素子15に回折環を撮像し、撮像された回折環の径を検出すれば得ることができる。回折環の径Rと照射点-撮像面間距離Lには、出射X線の光軸と回折環を形成する回折X線との成す角をθdとするとR=L・tan-1θdの関係があり、θdは(180°-回折角)であって金属の材質により既知の値であるため、照射点-撮像面間距離Lは回折環の径Rを得れば算出することができる。この照射点-撮像面間距離を算出する機能は、特許文献1に示されているX線回折測定システムと同じである。
【0029】
このように構成されたX線回折測定システムのコントローラ91には、撮像面の傾きの角度と方向及び中心点を検出するためのプログラムがインストールされており、作業者は以下の手順でX線回折測定システムを操作すれば、コントローラ91に回折環の形状データが入力し、演算処理がされて、撮像面の傾きの角度と方向及び中心点が検出される。なお、回折環の形状データを得るには中心点が必要であるため、コントローラ91のメモリには仮に定めた中心点が記憶されているが、正規の中心点が検出された後、この中心点は置き換えられる。
【0030】
まず、作業者は、無応力の測定対象物OBを用意する。これは、材質が既知の金属粉を糊塗した物体であればよい。無応力の測定対象物OBを用意するのは、撮像面の傾きが無ければ真円の回折環が得られるようにし、撮像面の傾きの角度と方向及び中心点を精度よく検出するようにするためであるが、用意するものは残留応力が小さい測定対象物OBであってもよい。次に作業者は、入力装置92から撮像面の傾き検出を入力する。これにより、コントローラ91はX線回折測定装置1内の各種回路に指令を出力し、上述したようにX線回折測定装置1から可視のLED光が照射され、カメラCaを作動され、表示装置93に撮影画像が表示されるとともに照射点-撮像面間距離が表示される。さらに、表示装置93に照射点-撮像面間距離が適切な距離になるようX線回折測定装置1の位置と姿勢を調整するよう指示が出る。作業者は、測定対象物OB、撮影画像及び照射点-撮像面間距離を見ながら、測定対象物OBの適切な位置に可視光が照射され、照射点-撮像面間距離が所定の値になるように、アーム式移動装置を操作してX線回折測定装置1の位置と姿勢を調整し、完了次第、入力装置92から完了を入力する。これにより、コントローラ91は撮影画像の可視光照射点の位置から計算される照射点-撮像面間距離をメモリに記憶し、X線照射開始の表示を表示装置93に行った後、X線回折測定装置1内の各種回路に指令を出力して、可視のLED光照射とカメラCaの作動を停止し、回転プレート45を回転させ、X線管10からX線を出射させる。
【0031】
そして、コントローラ91は所定時間が経過した後、固体撮像素子15の各画素ごとのX線強度データを入力してメモリに記憶し、X線回折測定装置1内の各種回路に指令を出力し、X線の出射とX線強度データの入力を停止させる。そして、先と同様、X線回折測定装置1から可視のLED光を照射させ、カメラCaを作動させ、表示装置93に撮影画像と照射点-撮像面間距離を表示させるとともに、次の照射点-撮像面間距離になるようX線回折測定装置1の位置と姿勢を調整するよう指示を出す。また、この間に、記憶されているX線強度データから回折環の形状データを算出し、メモリに記憶させる。この状態で、コントローラ91のメモリには、1つの照射点-撮像面間距離と回折環の形状データが記憶されている。作業者は先と同様の操作を行い、完了を入力するとコントローラ91は先と同様の作動を行い、コントローラ91のメモリには、次の照射点-撮像面間距離と回折環の形状データが記憶され、表示装置93に次の照射点-撮像面間距離になるようX線回折測定装置1の位置と姿勢を調整するよう指示が出る。これを繰り返すことで、コントローラ91のメモリには、複数の照射点-撮像面間距離と回折環の形状データが記憶されていく。そして、予め設定した数のデータが記憶されると、コントローラ91はX線の出射とX線強度データの入力を停止した後、表示装置93に撮像面の傾き計算中を表示して、メモリに記憶されているデータを用いて演算処理を行い撮像面の傾きの角度と方向及び中心点を算出して表示装置93に表示する。以下に、その演算の方法を説明する。
【0032】
まず、回折環の形状データが、回転角度、半径からなる極座標の座標群で得られているので、これをX軸、Y軸の座標値である直交座標の座標群にする。次に、回折環の重心座標を計算する。これは、極座標の座標群が等しい回転角度ごとに得られているので、直交座標におけるX座標ごとY座標ごとに座標値を加算して座標数で除算すればよい。これにより照射点-撮像面間距離ごとに回折環の重心座標が得られる。測定対象物OBは無応力であるため、撮像面の傾きが0であれば回折環は真円になり、回折環の重心座標は中心点と一致し、照射点-撮像面間距離により重心座標は変化しない。しかし、上述したように撮像面である固体撮像素子15には僅かながら傾きがあるので、回折環の重心座標は中心点からずれ、このずれは照射点―撮像面間距離が大きくなるほど大きくなる。
【0033】
図3は、撮像面である固体撮像素子15の傾きを誇張し、撮像面の傾きがある場合、回折環の重心座標が中心点からずれることを理論的に説明するための図である。撮像面15が出射X線の光軸に垂直な面15’からθsだけ傾いていると、図3の左側における回折環は出射X線の光軸からX1の位置にあるが、図の右側における回折環は中心点からX2の位置にあり、X線照射点に近い分X1はX2より小さくなる。このため、回折環の重心座標は中心点から図の右方向にずれることになる。測定対象物OBが無応力であれば、図3に示すよう、回折環の形状は円錐の側面を底面とある角度を有する面で切断したときの断面形状と見なすことができ、該断面形状は楕円であることが理論的に証明されている。よって、撮像面の傾きがある場合の回折環の形状は楕円になり、回折環の重心は楕円の中心と見なせばよく、回折環の重心はX1の位置とX2の位置の中間点になる。よって、回折環の重心の中心点からのずれDevは以下の数1で計算される。
(数1)
Dev={(X2-X1)/2}/cosθs
【0034】
また、図3より、tanθs=Y/X1,tanθd=X1/(L-Y)であるので、以下の数2が成立する。
(数2)
X1=L・tanθd/(1+tanθs・tanθd)
同様に、tanθs =Y/X2,tanθd =X2/(L+Y)であるので、以下の数3が成立する。
(数3)
X2=L・tanθd/(1-tanθs・tanθd)
なお、図3では出射X線の光軸に垂直な面15’から撮像面15の上方向のずれと下方向のずれを同じYとしているが、実際はX1とX2に差があるため、上方向のずれと下方向のずれには僅かながら差がある。しかし、X1とX2の差は微量であり傾きθsは微量であるため、この差は無視することができる。次に、数1に数2及び数3を代入して式を整理することで、以下の数4が得られる。
(数4)
Dev=L・{tanθd/(1-tanθs・tanθd)-tanθd/(1+tanθs・tanθd)}・(1/2)・cosθs
【0035】
数4において、θs,θdは定数であるので、数4はDev=定数・Lの式と見なすことができ、数4から、撮像面の傾きがある場合、回折環の重心の中心点からのずれDevは、照射点―撮像面間距離Lと比例関係にあることがわかる。また、この比例定数は、{tanθd/(1-tanθs・tanθd)-tanθd/(1+tanθs・tanθd)}・(1/2)・cosθsであり、θdは金属粉の材質により決まる値(180°-回折角)であって既知であるので、未知数は撮像面の傾きθsのみである。よって、照射点―撮像面間距離Lを横軸にとり、回折環の重心の中心点からのずれを縦軸にとったグラフに、データをプロットして最小二乗法で直線の傾きを求め、以下の数5が成立するθsを収束計算で求めることにより、撮像面の傾きθsを得ることができる。
(数5)
{tanθd/(1-tanθs・tanθd)-tanθd/(1+tanθs・tanθd)}・(1/2)・cosθs - 直線の傾き = 0
【0036】
ただし、上記の計算を行う前に得られているデータは、照射点-撮像面間距離Lごとの回折環の重心座標であるので、回折環の重心の中心点からのずれDevを回折環の重心座標から計算する必要がある。図3は撮像面の傾き方向が紙面内にあるとして示した図であり、楕円となる回折環の長軸も紙面内にあり、回折環の重心は該長軸上にあるので、照射点-撮像面間距離Lが変化したときの回折環の重心座標は、紙面の右方向に変化する。撮像面15を撮像面15の垂直方向から見た場合、図3の横方向は任意の方向になるので、重心座標の変化を撮像面15の垂直方向から見ると、図4に示すように撮像面15におけるある方向になる。この重心座標を結んだラインが楕円となる回折環の長軸であり、図3の撮像面15のラインに相当する。中心点はこのライン上のどこかにあるが、中心点は照射点-撮像面間距離Lが0に向かうとき収束する点とすることができる。よって、図4のライン上に仮の中止点O’を定めて、仮の中心点O’から重心座標までの距離を計算して、照射点―撮像面間距離Lを横軸にとり、回折環の重心の中心点O’からのずれを縦軸にとったグラフにデータをプロットすると、図5Aに示すようなグラフが得られるが、この縦軸における切片の値Dが仮の中心点O’と正規から中心点Oのまでの距離である。よって、図4に示すように、仮の中心点O’からライン上に距離Dだけ移動させた座標を算出することで正規の中心点Oの座標を算出することができる。
【0037】
また、図5Aに示すグラフの直線の傾きは、仮の中止点O’でも正規の中心点Oでも変化しないので、図5Aに示すグラフの直線の傾きを数5の直線の傾きに代入すれば、撮像面の傾きθsを算出することができる。そして、撮像面の傾きの方向は、中心点Oから見た図4に示すラインの方向であり、照射点-撮像面間距離が大きくなっていくときの回折環の重心が変化する方向である。
【0038】
測定対象物OBの材質(糊塗した金属粉の材質)を変えて、角度θdである(180°-回折角)を大きくした場合の照射点―撮像面間距離と回折環の重心の中心点O’からのずれの関係をグラフにすると、図5Bに示すように直線の傾きが図5Aより大きくなる。これは、数4における比例定数である{tanθd/(1-tanθs・tanθd)-tanθd/(1+tanθs・tanθd)}・(1/2)・cosθsは、θdが大きくなるほど大きくなるためである。しかし、測定対象物OBの回折角がどのような値であっても、照射点―撮像面間距離と回折環の重心の中心点O’からのずれの関係は1次関数の関係であり、直線の縦軸における切片の値Dは、照射点-撮像面間距離Lが0に向かうとき収束する点の仮の中心点O’からの距離Dである。よって、測定対象物OBの材質によらず、撮像面の傾き角度と方向及び中心点を同じ計算方法で求めることができる。
【0039】
次に上述した計算を、コントローラ91のメモリに記憶されている照射点-撮像面間距離Lごとの回折環の重心座標から具体的に計算する手順を以下に説明する。まず、複数の回折環の重心座標から最小二乗法を用いて直線の式を計算する。この式は、図4に示すラインを撮像面15の直交座標で表現する式である。この式をy=ax+bとするとラインに平行なベクトルは(1,a)であり、極座標にした時の回転角度θpはθp=tan-1aである。ただし、1つの直線の式において照射点-撮像面間距離が大きくなるにつれ、回折環の重心座標が移動する方向は2つの方向があるので、照射点-撮像面間距離が最大のときの重心座標のX座標値がマイナスであるときは、回転角度θpに180°を加算する。これにより、撮像面の傾きの方向を回転角度θpで得ることができる。次に得られた直線の式のX座標が0のときの座標である(0,b)を仮の中止点O’として、それぞれの重心座標から座標(0,b)までの距離を回折環の重心の中心点O’からずれとして、X軸を照射点-撮像面間距離、Y軸を該ずれとしたときの直線の式を最小二乗法で計算する。これは図5A図5Bのグラフに示される直線の式を求める計算である。この式をy=cx+dとすると、傾きcを数5の式の直線の傾きとして数5の式が成立するθsを収束計算で計算することで撮像面の傾きθsを得ることができる。また、座標(0,b)から回転角度θpの方向に距離dだけ移動した座標である(d・cosθp,b+d・sinθp)が正規の中心点Oの座標である。これにより、撮像面の傾きの方向と角度及び中心点を算出することができる。
【0040】
作業者は、X線回折測定装置1を製作した段階で上記のようにして撮像面の傾きの方向と角度及び中心点を検出して表示装置93に表示させ、算出した撮像面の傾き角度が許容値内であることを確認することで、製作した製品の品質を管理することができる。また、X線回折測定装置1を使用開始してから定期的に同じ数値を検出することで、製品の劣化の有無を判断することができる。また、検出した中心点をコントローラ91のメモリに記憶すれば、該中心点を回折環の中心として回折環の形状から残留応力等の特性値を計算できるので、測定精度を向上させることができる。
【0041】
また、コントローラ91には、検出された撮像面の傾きの方向と角度をメモリに記憶しておき、それぞれの測定対象物OBにおいて検出される回折環の形状を、記憶してある撮像面の傾きの方向と角度を用いて、撮像面の傾きがない場合の回折環の形状に補正する演算プログラムもインストールされている。これにより、撮像面の傾き角度が許容値より大きい場合であっても、残留応力等の特性値を精度よく計算することができる。以下に、コントローラ91が撮像面の傾きの方向と角度を用いて、検出された回折環の形状を撮像面の傾きがない場合の回折環の形状に補正する演算処理の方法を説明する。
【0042】
X線回折測定システムにより測定対象物OBのX線回折測定を行った直後、コントローラ91のメモリには、照射点-撮像面間距離Lと回折環の形状データである回転角度と半径値からなるデータ群が記憶されている。また、メモリには撮像面の傾きの方向である回転角度θpと傾き角度θsも記憶されている。コントローラ91が行う演算処理は、照射点-撮像面間距離Lと傾きの方向θpと傾き角度θsを用いて無応力の測定対象物における回折環である基準回折環の形状を計算する演算、この基準回折環の形状を撮像面の傾きがない場合の真円の回折環の形状にするための補正係数を回転角度ごとに計算する演算、及び得られた補正係数をメモリに記憶されている回折環の形状データの半径値に乗算する演算からなる。
【0043】
この演算を撮像面の傾きを誇張して視覚的に説明したものが図6Aである。無応力の測定対象物OBによる回折環を傾き0の撮像面15’で検出した場合、半径値がRcの真円の回折環が得られ、半径値Rcは照射点-撮像面間距離Lが得られていれば、Rc=L・tanθdで求めることができる。また、中心点が検出されていれば、真円の回折環の位置を求めることができる。これに対し、無応力の測定対象物OBによる回折環を傾きがある撮像面15で検出した場合、楕円の回折環が得られ、この楕円の回折環は撮像面の傾きの方向と角度が検出されていれば、長軸部分の方向と半径及び短軸部分の半径が計算でき、また楕円の中心(すなわち重心)も計算することができるので、楕円の回折環の位置を求めることができる。これは、図6Aにおいては、Rc,Rm1及びRm2の半径値を得ることができるということである。そして、本来であれば半径値がRcとなるものが図6Aの左側の回折環位置ではRm1,右側の回折環位置ではRm2になるということであるので、左側の回折環位置ではRc/Rm1,右側の回折環位置ではRc/Rm2を補正係数とし、測定によって得られた回折環の半径値にこの補正係数を乗算すれば、撮像面の傾きがない場合の回折環の半径値にすることができる。
【0044】
図6Bは、測定対象物OBの材質を変えて、角度θdである(180°-回折角)を大きくした場合の図6Aに相当する図である。角度θdが変化しても、Rc,Rm1及びRm2の半径値を計算で得ることができるので、左側の回折環位置ではRc/Rm1,右側の回折環位置ではRc/Rm2を補正係数とし、測定によって得られた回折環の半径値にこの補正係数を乗算すれば、撮像面の傾きがない場合の回折環の半径値にすることができる。すなわち、この補正は測定対象物OBの材質によらず行うことができる補正である。
【0045】
図6A及び図6Bは、出射X線の光軸を含み、撮像面の傾きの方向に平行な面で撮像面15を見た場合の図であり、実際は、回折環の回転角度ごとにRm1、Rm2に相当する値がある。図7は撮像面15の垂直方向から、すなわち、図6の上方から撮像面15を見た場合の、無応力の測定対象物OBによる回折環の形状を示している。傾き0の撮像面15’で検出した回折環は真円であり、いずれの回転角度θαにおいても半径値はRcである。そして、傾きのある撮像面15で検出した回折環は楕円であり、それぞれの回転角度θαごとに半径値Rm(θα)がある。図6Aにおける、Rm1、Rm2は、図7ではRm(θp+180°),Rm(θp)である。そして、それぞれの回転角度θαごとのRc/Rm(θα)を補正係数として算出し、通常の測定対象物OBにおいて得られた回折環の回転角度θαごとの半径値にこの補正係数を乗算すれば、撮像面の傾きがない場合の回折環の回転角度θαごとの半径値にすることができる。
【0046】
コントローラ91のメモリに記憶されているデータを用いて実際に行う演算は以下の通りである。まず、基準回折環の形状を方程式で表すための数値を計算する。これは、照射点-撮像面間距離Lと傾き角度θsを用いて、数2と数3の計算式によりX1とX2を算出し、(X1+X2)/2で長軸部分の半径を計算する。短軸部分の半径はL・tanθdで計算される値とすればよい。次に、数4の計算式により楕円の中心(重心)の中心点からのずれDevを計算する。これにより楕円である基準回折環の長軸aと短軸bがわかり、撮像面の傾き方向θpをX軸方向にした場合の楕円の中心座標が(Dev,0)で得られるので、楕円である基準回折環は、以下の数6で表せる。
(数6)
(x-Dev)/a+ y/b= 1
次に、基準回折環の回転角度θαごとの半径値Rm(θα)を求める計算を行う。撮像面の傾き方向θpをX軸方向にした場合の、中心点を通り、回転角度θαの方向に平行な直線の式は、以下の数7で表せる。
(数7)
y = tan(θα-θp)・x
数7のyを数6に代入すれば未知数はxのみの式になるので、このxを計算し、得られたxの内、(θα-θp)が0°~90°,270°~360°の時は正の値を採用し、(θα-θp)が90°~270°のときは負の値を採用する。得られたxを数7に代入することでyを求めることができ、得られたxとyからx+yの正の平方根を求めることで、半径値Rm(θα)を求めることができる。この計算を回転角度θαごとにすべて実施することで、回転角度θαごとの半径値Rm(θα)が得られる。そして、回転角度θαごとのRc/Rm(θα)が補正係数であり、通常の測定対象物OBにおいて得られた回折環の回転角度θαごとの半径値にこの補正係数を乗算することで、撮像面の傾きがない場合の回折環の回転角度θαごとの半径値にすることができる。
【0047】
上記説明からも理解できるように、上記実施形態においては、対象とする測定対象物OBに向けてX線を出射するX線管10、円筒状パイプ12等からなるX線出射手段と、X線出射手段により測定対象物OBに向けてX線が照射された際、測定対象物OBにて発生した回折X線を、X線出射手段により出射されるX線の光軸に対して垂直な撮像面である固体撮像素子15にて受光し、固体撮像素子15に回折X線の像である回折環を形成するとともに回折環の形状を検出する固体撮像素子15、X線強度信号取出回路75及びコントローラ91の演算プログラム等からなる回折環形成検出手段とを備えたX線回折測定システムにおいて、X線出射手段により出射されたX線の照射点から固体撮像素子15までの距離である照射点―撮像面間距離を検出するLED光源44、カメラCa、センサ信号取出回路70及びコントローラ91の演算プログラム等からなる距離検出手段と、回折環形成検出手段により検出される回折環の形状を記憶するコントローラ91のメモリと、コントローラ91のメモリに記憶した回折環の形状を用いて演算を行うコントローラ91の演算プログラムとを備え、コントローラ91の演算プログラムは、照射点―撮像面間距離が異なる条件で、回折環形成検出手段により検出された2つ以上の回折環の形状と距離検出手段により検出された2つ以上の照射点―撮像面間距離がコントローラ91のメモリに記憶されているとき、該メモリに記憶された回折環の形状から回折環の重心座標をそれぞれ算出して該メモリに記憶し、該メモリに記憶した照射点―撮像面間距離における変化の度合に対する該メモリに記憶した回折環の重心座標における変化の度合から、撮像面である固体撮像素子15のX線出射手段により出射されるX線の光軸に対して垂直な平面に対する傾きである撮像面の傾きの角度を算出する傾き計算プログラムを備えている。
【0048】
これによれば、X線回折測定装置1の製作が完了した段階で、無応力の測定対象物OB(例えば、金属粉糊塗の測定対象物OB)を照射点―撮像面間距離が異なる2つ以上の条件でX線回折測定して、コントローラ91のメモリに回折環の形状を記憶させれば、コントローラ91の演算プログラムにある傾き計算プログラムが記憶された回折環の形状を用いて撮像面である固体撮像素子15の傾きの角度を算出する。よって、算出された撮像面の傾きの角度が許容値内であるか否かを確認することで、制作されたX線回折測定装置1の品質状態を管理することができる。また、X線回折測定装置を使用開始した後、定期的に同様にして撮像面の傾きの角度を算出すれば、X線回折測定装置1の劣化の有無を確認することができる。
【0049】
また、上記実施形態においては、コントローラ91の演算プログラムは、コントローラ91のメモリに記憶した照射点―撮像面間距離の変化に対する該メモリに記憶したそれぞれの回折環の重心座標の変化の方向と変化の度合から、照射点―撮像面間距離が0のときの回折環の重心座標を、撮像面である固体撮像素子15がX線出射手段により出射されるX線の光軸と交差する点である回折環の中心点の座標として算出する中心点計算プログラムを備えている。
【0050】
これによれば、X線回折測定装置1の製作が完了した段階で、無応力の測定対象物OBを照射点―撮像面間距離が異なる2つ以上の条件でX線回折測定すれば、コントローラ91の演算プログラムにある中心点計算プログラムが回折環の中心点を算出するので、残留応力の計算に用いる回折環の周方向位置ごとの半径値を本来の回折環の中心点からの距離で得ることができ、残留応力等の測定値を精度よく算出することができる。
【0051】
また、上記実施形態においては、コントローラ91の演算プログラムは、中心点計算プログラムにより算出された回折環の中心点の座標と、中心点計算プログラムによる計算の過程で算出された回折環の重心座標の変化の方向と、傾き計算プログラムにより算出された撮像面の傾き角度とをコントローラ91のメモリに記憶し、該メモリに照射点―撮像面間距離が新たに記憶されたとき、記憶された照射点―撮像面間距離と、該メモリに記憶されている回折環の中心点の座標、回折環の重心座標の変化の方向及び撮像面の傾きの角度とを用いて無応力の測定対象物における回折環である基準回折環の形状を算出する基準回折環計算プログラムと、基準回折環計算プログラムにより得られた基準回折環を、撮像面である固体撮像素子15の傾き角度が0の場合の回折環の形状にするための補正係数を計算し、得られた補正係数を用いて回折環形成検出手段により検出された回折環の形状を補正する補正プログラムとを備えている。
【0052】
これによれば、照射点―撮像面間距離が距離検出手段により得られれば、コントローラ91のメモリに記憶されている回折環の中心点の座標、回折環の重心座標の変化の方向及び撮像面の傾きの角度を用いて、基準回折環の形状を算出することができる。そして、基準回折環の形状が撮像面の傾き角度が0の場合の回折環の形状(すなわち真円)にするための補正係数を計算し、回折環形成検出手段により検出された回折環の形状をこの補正係数を用いて補正することで、撮像面の傾きがない場合の回折環の形状を得ることができる。これにより、撮像面の傾きが許容値より大きい場合でも、残留応力等の測定値を精度よく算出することができる。
【0053】
さらに、本発明の実施にあたっては、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【0054】
上記実施形態においては、撮像面である固体撮像素子15の傾き角度と傾き方向、及び中心点の座標を計算するための演算処理を、X線回折測定システム内のコントローラ91にインストロールされているプログラムで行うとした。しかし、この演算処理をX線回折測定システム外のコンピュータ装置で実施するようにしてもよい。この場合、X線回折測定システムで得られる回折環の形状データ及び照射点―撮像面間距離のデータを、演算処理を行うコンピュータ装置に入力させる方法は、作業者が記憶媒体を介して行う方法、ネット回線によりデータを転送する方法等様々な方法が考えられる。また、この場合は、演算処理を行うコンピュータ装置は限定されず、上記実施形態の演算を実行させるのに作業者の手を介するため、本発明はX線回折測定装置1における撮像面の機構特性を検出する方法としての発明になる。
【0055】
また、上記実施形態においては、照射点―撮像面間距離を出射X線と同じ光軸で可視のLED光を照射し、可視光照射点の撮影画像をカメラCaで取得し、コントローラ91のプログラムが撮影画像から得られる照射点位置を、予め記憶されている撮影画像上の照射点位置と照射点―撮像面間距離との関係に適用させて、照射点―撮像面間距離を検出するようにした。しかし、照射点―撮像面間距離を精度よく検出できるならば、検出手段はどのようなものであってもよい。例えば、測定対象物OBが無応力であるか、残留応力が小さければ、検出される回折環の回転角度ごとの半径値を平均した半径値RをR=L・tanθdの式に当てはめて、照射点―撮像面間距離Lを算出してもよい。角度θdは(180°-回折角)であり、測定対象物OBの材質ごとに既知の値である。また、X線と同じ光軸で可視光を照射し、反射光を検出してタイムオブフライトの測定原理で照射点―撮像面間距離を検出してもよいし、2つの可視の平行光を交差するように照射して、2つの可視光照射点の間の距離を撮影画像から検出して照射点―撮像面間距離を算出してもよい。
【0056】
また、上記実施形態においては、検出された回折環の形状を補正する方法を、基準回折環の形状を、傾き0の撮像面での回折環の形状(すなわち真円の回折環)にするための補正係数を回転角度ごとに算出し、算出した補正係数を検出された回折環の回転角度ごとの半径値に乗算する方法とした。しかし、基準回折環の形状を撮像面の傾きが0の場合の回折環の形状にするための補正係数を計算し、得られた補正係数を用いて検出した回折環の形状を補正するならば、補正の方法はどのような方法であってもよい。例えば、楕円である基準回折環の長軸をX軸にし、中心点を通るX軸に垂直な軸をY軸にして、基準回折環を(x,y)座標群で算出する。次に、それぞれの座標ごとにx座標値から基準回折環の重心座標のx座標値を減算し、得られた座標値でy座標値を除算した値を補正係数とする。そして、検出された回折環を同じ座標軸での(x,y)座標群にして、補正係数に対応するy座標値と同じy座標値である座標のx座標値から基準回折環の重心座標を減算して、得られている補正係数を乗算する、という計算を行ってもよい。これは、回折環のそれぞれの点ごとに、撮像面の傾きの方向に中心点からの基準回折環の重心のずれ分を移動させたうえで、中心点を通り撮像面の傾きの方向に垂直なラインからの距離を補正する方法である。
【0057】
また、上記実施形態におけるX線回折測定装置1は、撮像面を固体撮像素子15が配置されたものとし、固体撮像素子15が出力するX線強度に相当する強度の信号を処理することで、回折環の形状を検出する装置としたが、回折環の形状を検出することができるX線回折測定装置であれば、検出の手段がどのようなものであっても、本発明は適用することができる。例えば、先行技術文献の特許文献1に示されるX線回折測定装置のように、イメージングプレート15に回折環を撮像してレーザ走査により撮像した回折環を読取る装置であっても適用できるし、微小な固体撮像素子を位置を検出しながら撮像面内で走査するX線回折測定装置であっても適用することができる。
【0058】
また、上記実施形態におけるX線回折測定システムは、アーム式移動装置を操作することで照射点-撮像面間距離を変更できるようにしたが、照射点―撮像面間距離を変更できるならば、その機構はどのようなものであっても本発明は適用することができる。例えば、先行技術文献の特許文献1に示される3軸方向に移動可能な測定対象物OB載置用のステージを操作して、照射点―撮像面間距離を変更してもよいし、作業者が測定対象物OBを載置するステージの厚さを変更することで照射点―撮像面間距離を変更してもよい。
【0059】
また、上記実施形態では、撮像面の傾きを角度で検出したが、撮像面の傾きの度合を示す値であり、傾き角度と1:1の関係がある値であれば、どのような値を検出するようにしてもよい。例えば撮像面の傾き方向における設定した半径値での、出射X線に垂直な面からの距離を撮像面の傾きの度合としてもよいし、(該距離/設定した半径値)の比を撮像面の傾きの度合としてもよい。請求項における撮像面の傾きの度合なる語句は、これらのあらゆる値を含むものとする。
【符号の説明】
【0060】
1…X線回折測定装置、10…X線管、11…出射口、12…円筒状パイプ、15…固体撮像素子(撮像面)、16…テーブル、20…円盤状ブロック、20a…貫通孔,44…LED光源、45…回転プレート、46…モータ、47a,47b…ストッパ、48…結像レンズ、49…撮像器、50…筐体、50a…第1底面壁、50c…第2底面壁、50b…前面壁、50d…繋ぎ壁、50e…後面壁、50f…上面壁、50g…上面傾斜壁、50h…底面傾斜壁、50c1…円形孔、51…アーム式移動装置先端、90…コンピュータ装置、91…コントローラ、92…入力装置、93…表示装置、95…高電圧電源、Ca…カメラ、OB…測定対象物
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6A
図6B
図7