(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-19
(45)【発行日】2023-10-27
(54)【発明の名称】風邪症状緩和用飲食品組成物
(51)【国際特許分類】
A23L 33/10 20160101AFI20231020BHJP
【FI】
A23L33/10
(21)【出願番号】P 2018179120
(22)【出願日】2018-09-25
【審査請求日】2020-08-31
【審判番号】
【審判請求日】2022-02-07
(73)【特許権者】
【識別番号】390020189
【氏名又は名称】ユーハ味覚糖株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】399086263
【氏名又は名称】学校法人帝京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100074561
【氏名又は名称】柳野 隆生
(74)【代理人】
【識別番号】100177264
【氏名又は名称】柳野 嘉秀
(74)【代理人】
【識別番号】100124925
【氏名又は名称】森岡 則夫
(74)【代理人】
【識別番号】100141874
【氏名又は名称】関口 久由
(74)【代理人】
【識別番号】100163577
【氏名又は名称】中川 正人
(72)【発明者】
【氏名】安部 茂
(72)【発明者】
【氏名】加藤 梨那
(72)【発明者】
【氏名】小林 進
(72)【発明者】
【氏名】大橋 邦啓
(72)【発明者】
【氏名】松川 泰治
(72)【発明者】
【氏名】滝島 康之
(72)【発明者】
【氏名】山田 泰正
【合議体】
【審判長】磯貝 香苗
【審判官】植前 充司
【審判官】加藤 友也
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-56(JP,A)
【文献】特開2001-39844(JP,A)
【文献】特開2002-173425(JP,A)
【文献】Regulatory Toxicology and Pharmacology, 2014, 68, 140-146
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 33/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
低分子プロアントシアニジン、シナモン、中鎖脂肪酸または中鎖脂肪酸エステル、シトラール、およびメントールを有効成分として含有する風邪症状緩和用飲食品組成物であって、
前記低分子プロアントシアニジンがオリゴノール(登録商標)であり、
前記風邪症状がのどにおける風邪の症状であり、
前記飲食品組成物の形態が菓子であり、かつ前記菓子が
飴又はグミであ
り、
1回の投与量当たり、低分子プロアントシアニジンを0.5mg以上、シナモンを0.28mg以上、中鎖脂肪酸または中鎖脂肪酸エステルを0.008mg以上、シトラールを0.14mg以上、およびメントールを0.2mg以上含有し、低分子プロアントシアニジン、シナモン、中鎖脂肪酸または中鎖脂肪酸エステル、シトラール、およびメントールの総重量として、風邪症状緩和用飲食品組成物の重量に対して、99%以下であることを特徴とする、風邪症状緩和用飲食品組成物。
【請求項2】
シナモンが、シンナムアルデヒドを含む組成物である、請求項1に記載の風邪症状緩和用飲食品組成物。
【請求項3】
中鎖脂肪酸または中鎖脂肪酸エステルがデカン酸またはデカン酸エチルである、請求項1または2に記載の風邪症状緩和用飲食品組成物
。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摂取した場合にのどにおける風邪の症状を緩和する作用を有する飲食品組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
風邪は、コロナウイルス、ピコルナウイルス、コクサッキーウイルス、およびアデノウイルス等のウイルスを中心とする上部呼吸器系細胞への感染を契機として、その後に引き起こされる細菌、真菌等による二次的感染や、それらの感染で惹起される炎症性反応の結果で生じるとされている。風邪症状に対する対処法には、ウイルス、あるいは他の微生物感染拡大を阻止し感染の収束に導くものと、のどの痛みや不快感等の症状緩和に導くものとがあり、いずれも早期の収束が重要となる。
【0003】
これまでに風邪を治療するための数多くの方法が報告されている。例えば、特許文献1には、有効成分としてフラボノイドを単独または金属と組み合わせて投与することを含む風邪の治療方法が記載されている。特許文献2には、有効成分としてNK3アンタゴニストを使用する風邪の治療方法が記載されている。しかしながら、これらの有効成分はいずれも高価なものであり、摂取するのが簡便とはいえなかった。
一方、比較的安価で、しかも安全且つ有効な、風邪症状の緩和に関する風邪症状緩和用の成分については、特許文献3や特許文献4に記載の共役リノール酸等限られている。しかしながら、共役リノール酸は、合成された化合物であり、安全性の点からは十分とは言い難い。
【0004】
また、非特許文献1および非特許文献2にはエッセンシャルオイルに関して、非特許文献3および非特許文献4にはポリフェノールに関するウイルス感染そのものに対する感染防止あるいは感染後の体内での感染拡大に対する抑制作用が記載されているものの、ヒト試験において、その実効性が示されているものは限られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第02/09699号
【文献】国際公開第02/40023号
【文献】米国特許第5,674,901号
【文献】米国特許第5,827,885号
【非特許文献】
【0006】
【文献】Astani A et al., Phytother Res, 24(5):673-679(2010).
【文献】Pourghanbari G et al., Virusdisease, 27(2):170-8(2016).
【文献】Gangehei L et al., Phytomedicine,17(13):1047-1056(2010).
【文献】Ichinose T et al., Drug Discov Ther, 7(6):254-260(2013).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、「声枯れ」、「のどの不快感」、「のどの荒れ」等ののどにおける風邪の症状を緩和する効果を有する風邪症状緩和用飲食品組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、低分子プロアントシアニジン、シナモン、中鎖脂肪酸または中鎖脂肪酸エステル、シトラール、およびメントールの5種の成分を含有する組成物に、のどにおける風邪症状緩和効果があることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、
[1]低分子プロアントシアニジン、シナモン、中鎖脂肪酸または中鎖脂肪酸エステル、シトラール、およびメントールを有効成分として含有する風邪症状緩和用飲食品組成物であって、
前記低分子プロアントシアニジンがオリゴノール(登録商標)であり、
前記風邪症状がのどにおける風邪の症状であり、
前記飲食品組成物の形態が菓子であり、かつ前記菓子が飴又はグミであり、
1回の投与量当たり、低分子プロアントシアニジンを0.5mg以上、シナモンを0.28mg以上、中鎖脂肪酸または中鎖脂肪酸エステルを0.008mg以上、シトラールを0.14mg以上、およびメントールを0.2mg以上含有し、低分子プロアントシアニジン、シナモン、中鎖脂肪酸または中鎖脂肪酸エステル、シトラール、およびメントールの総重量として、風邪症状緩和用飲食品組成物の重量に対して、99%以下であることを特徴とする、風邪症状緩和用飲食品組成物、
[2]シナモンが、シンナムアルデヒドを含む組成物である、前記[1]に記載の風邪症状緩和用飲食品組成物、
[3]中鎖脂肪酸または中鎖脂肪酸エステルがデカン酸またはデカン酸エチルである、前記[1]または[2]に記載の風邪症状緩和用飲食品組成物
に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の風邪症状緩和用食品組成物を摂取することで、「声枯れ」、「のどの不快感」、「のどの荒れ」等ののどにおける風邪の症状を緩和する効果が奏される。
また、本発明の風邪症状緩和用食品組成物は、例えば、キャンディ等の形態とすることで、日常的かつ継続的に摂取し易く、かつこのように摂取を継続することで風邪症状を緩和するだけでなく、風邪の症状の発症回数も緩和することが期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図2】試験例1における「声枯れ」における群間比較および前後比較を示したグラフである。
【
図3】試験例1における「のどの不快感」における群間比較および前後比較を示したグラフである。
【
図4】試験例1における「のどの荒れ」における群間比較および前後比較を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明において、「風邪」とは、ウイルスの感染、細菌、真菌等による二次的感染や、それらの感染で惹起される炎症性反応が原因で生じる風邪の症状を意味する。
本発明において「風邪症状」としては、例えば、声枯れ、のどの違和感または不快感、のどの荒れ、のどの痛み、痰等ののど風邪に特有の症状が挙げられる。
また、本発明において「風邪症状緩和」とは、以下に限定されるものではないが、例えば、前記風邪症状を軽減すること、さらには前記風邪症状が生じる回数を軽減すること等を意味する。
【0013】
本発明の風邪症状緩和用飲食品組成物は、有効成分として、低分子プロアントシアニジン、シナモン、中鎖脂肪酸または中鎖脂肪酸エステル、シトラール、およびメントールの5種の成分(以下、本発明における特定成分と称することがある)を含有することを特徴とする。
【0014】
本発明に用いる低分子プロアントシアニジンは、低分子のモノマー、ダイマー、トリマーのプロアントシアニジンを主成分とするものであればよい。
本発明の風邪症状緩和用飲食品組成物は、前記低分子プロアントシアニジンを含有することで、抗酸化作用を発揮して、他の4種の特定成分と併せて使用することで、のどにおける風邪症状を緩和させることができると考えられる。
低分子プロアントシアニジンとしては、株式会社アミノアップ化学(北海道札幌市)から市販されている、果実であるライチに含まれるポリフェノールの一種である高分子プロアントシアニジンを化学的に低分子化したものであるオリゴノール(登録商標)、ピクノジェノール(登録商標、ホーファー・リサーチ・リミテッド)、フラバンジェノール(登録商標、株式会社東洋新薬)等が挙げられる。
これらの低分子プロアントシアニジンは、単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0015】
本発明に用いるシナモンは、フェニルプロパノイド骨格をもつ芳香族アルデヒドであるシンナムアルデヒドを香り成分として含有する香辛料である。
本発明の風邪症状緩和用飲食品組成物は、前記シナモンを含有することで、のどで炎症等が生じている部位において血管の修復、血管拡張を行って、他の4種の特定成分と併せて使用することで、炎症等の風邪症状を緩和させることができると考えられる。
前記シナモンとして、例えば、シナモンパウダー、桂皮油、桂皮粉末、シナモン抽出物を用いることもできるし、あるいは、化学合成または天然物から精製したシンナムアルデヒド、あるいは、シンナムアルデヒドを含む組成物(例えば、シンナムアルデヒド含有香料やシンナムアルデヒド含有オイル)を用いることもできる。
これらのシナモンは、いずれか1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0016】
本発明において用いる中鎖脂肪酸としては、炭素数5~12(好ましくは8~12)の直鎖または分岐の飽和脂肪酸を用いることができ、好ましくは同炭素数の直鎖飽和脂肪酸を用いることができる。
前記中鎖脂肪酸としては、例えば、ペンタン酸(別称:吉草酸、炭素数5)、ヘキサン酸(カプロン酸、炭素数6)、ヘプタン酸(エナント酸、炭素数7)、オクタン酸(カプリル酸、炭素数8)、ノナン酸(ペラルゴン酸、炭素数9)、デカン酸(カプリン酸、炭素数10)、ドデカン酸(ラウリン酸、炭素数11)、テトラデカン酸(ミリスチン酸、炭素数12)を挙げることができる。
【0017】
本発明において用いることのできる中鎖脂肪酸エステルとしては、前記中鎖脂肪酸と、炭素数1~4(好ましくは1~2)の低級アルコールとのエステルを用いることができる。例えば、中鎖脂肪酸がデカン酸である場合には、中鎖脂肪酸エステルとして、デカン酸メチル、デカン酸エチル、デカン酸プロピル、デカン酸ブチルを挙げることができる。また、中鎖脂肪酸がオクタン酸である場合には、中鎖脂肪酸エステルとして、オクタン酸メチル、オクタン酸エチル、オクタン酸プロピル、オクタン酸ブチルを挙げることができる。
【0018】
これらの中鎖脂肪酸または中鎖脂肪酸エステルは、いずれか1種を単独で用いることもできるし、あるいは、中鎖脂肪酸および/または中鎖脂肪酸エステルの2種以上を適宜組み合わせて使用することもできる。また、中鎖脂肪酸および/または中鎖脂肪酸エステルとして、天然物から精製した精油(例えば、デカン酸含有香料)を用いることもできるし、あるいは、化学合成したものを用いることもできる。
【0019】
本発明の風邪症状緩和用飲食品組成物は、中鎖脂肪酸または中鎖脂肪酸エステルを含有することで、抗菌作用を発揮して、風邪の症状を悪化させる可能性のある微生物からの攻撃を抑止し、他の4種の特定成分と併せて使用することで、のどにおける風邪症状風邪症状を緩和させることができると考えられる。
【0020】
本発明に用いるシトラールは、モノテルペン系のアルデヒドで、強いレモン臭をもち、レモングラス等のハーブや柑橘系の果物や山椒、ショウガ等に含まれる精油成分である。
本発明の風邪症状緩和用飲食品組成物は、エッセンシャルオイルの一種であるシトラールを含有することで、抗ウイルス作用や抗菌作用を発揮して、風邪の症状を悪化させる可能性のある微生物からの攻撃を抑止し、他の4種の特定成分と併せて使用することで、のどにおける風邪症状風邪症状を緩和させることができると考えられる。
前記シトラールとしては、天然の植物由来の精油(例えば、シトラール含有香料)を用いることもできるし、あるいは、化学合成または天然物から精製したシトラールを用いることもできる。
これらのシトラールは、いずれか1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0021】
本発明に用いるメントールは、ハッカ臭を持つ、揮発性の無色結晶であり、菓子類、口中清涼剤等に多用されるほか医薬品にも用いられる。
本発明の風邪症状緩和用飲食品組成物は、メントールを含有することで、抗炎症作用を発揮して、他の4種の特定成分と併せて使用することで、のどにおける風邪症状風邪症状を緩和させることができると考えられる。
メントールにはいくつかの異性体や誘導体があり天然物にもこれらが含まれている。本発明の実施例で用いたL-メントール以外にこれら異性体や誘導体も化学合成または天然物からの抽出(例えば、メントール含有香料)により用いることができる。
これらのメントールは、いずれか1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0022】
本発明の風邪症状緩和用飲食品組成物は、前記の低分子プロアントシアニジン、シナモン、中鎖脂肪酸または中鎖脂肪酸エステル、シトラール、およびメントールの5種の特定成分を、風邪症状緩和に必要な量で含む。本明細書において「風邪症状緩和に必要な量」とは、後述の試験例1に示す症状改善の客観的評価法であるVAS(Visual Analogue Scale)において、いずれかの指標が有意に改善することを意味する。ここで、VASとは痛みの強さを主観的に評価する質問紙であり、信頼性・再現性・妥当性に優れ、医学の現場では広く使用されている。
【0023】
本発明の風邪症状緩和用飲食品組成物は、1回の投与量(以下、投与単位と称する)当たり、低分子プロアントシアニジンを、例えば0.5mg、好ましくは1.0mg以上、含有することができる。
【0024】
本発明の風邪症状緩和用飲食品組成物は、投与単位当たり、シナモンを、例えば0.28mg以上、好ましくは0.56mg以上、より好ましくは1.12mg以上、更に好ましくは2.24mg以上、更に好ましくは5.6mg以上、含有することができる。また、本発明の風邪症状緩和用飲食品組成物は、投与単位当たり、シンナムアルデヒドを、例えば0.018mg以上、好ましくは0.036mg以上、より好ましくは0.072mg以上、更に好ましくは0.14mg以上、更に好ましくは0.36mg以上、特に好ましくは0.72mg以上、含有することができる。
【0025】
本発明の風邪症状緩和用飲食品組成物は、投与単位当たり、中鎖脂肪酸(例えば、デカン酸)または中鎖脂肪酸エステルを、例えば0.008mg以上、好ましくは0.016mg以上、より好ましくは0.032mg以上、更に好ましくは0.064mg以上、更に好ましくは0.16mg以上、含有することができる。
【0026】
本発明の風邪症状緩和用飲食品組成物は、投与単位当たり、シトラールを、例えば0.14mg、好ましくは0.28mg以上、より好ましくは0.56mg以上、更に好ましくは1.12mg以上、更に好ましくは2.8mg以上、含有することができる。
【0027】
本発明の風邪症状緩和用飲食品組成物は、投与単位当たり、メントール(例えば、L-メントール)を、例えば0.2mg以上、好ましくは0.4mg以上、より好ましくは0.8mg以上、更に好ましくは1.6mg以上、更に好ましくは4.0mg以上、含有することができる。
【0028】
また、本発明の風邪症状緩和用飲食品組成物には、必要に応じて増粘剤を含有してもよい。
前記増粘剤としては、資化性のない増粘剤である限り、特に限定されるものではなく、例えば、メチルセルロース、プロピレングリコール、アラビノキシラン、カラギナン、ペクチン、キサンタンガム等を挙げることができる。資化性のない増粘剤を添加すると、増粘剤以外の有効成分が、ウイルスや細菌、真菌と反応する時間を延ばすことができ、病原菌の成育をより効果的に阻害することができる。
【0029】
本発明の風邪症状緩和用飲食品組成物は、投与単位当たり、増粘剤(例えば、メチルセルロース)を、例えば0.09mg以上、好ましくは0.18mg以上、より好ましくは0.36mg以上、更に好ましくは0.72mg以上、更に好ましくは1.8mg以上、特に好ましくは3.6mg以上、含有することができる。
【0030】
本発明の風邪症状緩和用飲食品組成物は、前記の低分子プロアントシアニジン、シナモン、中鎖脂肪酸または中鎖脂肪酸エステル、シトラール、およびメントール、必要であれば増粘剤を、所望の食品原料および/または食品添加物原料とともに、添加・混合することで調製することができる。
各成分の混合の順番については特に限定はない。
また、混合手段としては、所望の飲食品に応じた手段を用いればよく、例えば、ミキサー等の公知の混合装置が挙げられるが、特に限定はない。
【0031】
また、低分子プロアントシアニジン、シナモン、中鎖脂肪酸または中鎖脂肪酸エステル、シトラール、およびメントールは、前記混合する前に、予め水系溶媒に分散または溶解させておいてもよい。
前記水系溶媒としては、水、エタノール、グリセリン、プロピレングリコール等が挙げられる。これらの水系溶媒は、単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。
【0032】
前記食品原料および/または食品添加物原料としては、例えば、嗜好性の付与を目的に、甘味料(砂糖類、液糖類、果糖、麦芽糖、三温糖等)、糖アルコール(エリスリトール等)、高甘味度甘味料(ステビア、アスパルテーム、スクラロース、アセスルファムカリウム)、酸味料、香料、果汁、野菜汁等を添加することができる。また、機能付与を目的に、ミネラル類(カルシウム、鉄、マンガン、マグネシウム、亜鉛等)、ビタミン類、機能性素材、プロバイオティクス乳酸菌等を添加して、本発明の風邪症状緩和用飲食品組成物とすることができる。
【0033】
中でも、本発明の風邪症状緩和用飲食品組成物は、口腔内に入れた後、飲み込むか、はき出すかを問わず、口腔内に所定時間留めておくことにより風邪症状緩和効果を発揮することができることから、例えば、飴、キャラメル、チューイングガム、トローチ、グミ等の菓子、清涼飲料、果汁飲料、野菜飲料、豆乳飲料、コーヒー飲料、茶飲料、粉末飲料、濃縮飲料、アルコール飲料、乳飲料、乳酸菌飲料等の飲料、ヨーグルト、ソース、トマト加工調味料、風味調味料、調理ミックス、たれ等のドレッシング、サプリメント等の形態であることが好ましい。
【0034】
また、風邪症状緩和用飲食品組成物の各態様における、有効成分である特定成分の含有量の上限は、例えば、風味の阻害や過度の刺激等の悪影響、共存する他成分の含有量、費用対効果等により適宜決定されるが、例えば、低分子プロアントシアニジン、シナモン、中鎖脂肪酸または中鎖脂肪酸エステル、シトラール、およびメントールなどの特定成分の総重量として、本発明の風邪症状緩和用飲食品組成物の重量に対して、サプリメント、機能性表示食品等の態様であれば99%以下、または90%以下、または80%以下であることができ、飴、ガム、トローチ、グミ等の菓子、飲料、ヨーグルト、ドレッシング等の態様であれば50%以下であることができる。
【0035】
なお、前記の各形態では、前記の各有効成分に加えて、各投与形態において使用される公知の担体、希釈剤、補助助剤(例えば、賦形剤、滑沢剤、結合剤、崩壊剤、安定化剤、等張化剤、pH調整剤、緩衝剤)等を添加することができる。
【0036】
担体や賦形剤としては、例えば、乳糖、ショ糖、塩化ナトリウム、ブドウ糖、マルトース、マンニトール、エリスリトール、キシリトール、マルチトール、イノシトール、デキストラン、ソルビトール、アルブミン、尿素、デンプン、炭酸カルシウム、カオリン、結晶セルロース、ケイ酸、メチルセルロース、グリセリン、アルギン酸ナトリウム、アラビアゴムおよびこれらの混合物等が挙げられる。
【0037】
希釈剤としては、例えば、水、エチルアルコール、マクロゴール、プロピレングリコール、エトキシ化イソステアリルアルコール、ポリオキシ化イソステアリルアルコール、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類およびこれらの混合物等が挙げられる。
【0038】
滑沢剤としては、例えば、精製タルク、ステアリン酸塩、ホウ砂、ポリエチレングリコールおよびこれらの混合物等が挙げられる。
【0039】
結合剤としては、例えば、単シロップ、ブドウ糖液、デンプン液、ゼラチン溶液、ポリビニルアルコール、ポリビニルエーテル、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロース、セラック、メチルセルロース、エチルセルロース、水、エタノール、リン酸カリウムおよびこれらの混合物等が挙げられる。
【0040】
崩壊剤としては、例えば、乾燥デンプン、アルギン酸ナトリウム、カンテン末、ラミナラン末、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド、デンプン、乳糖およびこれらの混合物等が挙げられる。
【0041】
安定化剤としては、例えば、ピロ亜硫酸ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸、チオグリコール酸、チオ乳酸およびこれらの混合物等が挙げられる。
【0042】
等張化剤としては、例えば、塩化ナトリウム、ホウ酸、ブドウ糖、グリセリンおよびこれらの混合物等が挙げられる。
【0043】
pH調整剤および緩衝剤としては、例えば、クエン酸ナトリウム、クエン酸、酢酸ナトリウム、リン酸ナトリウムおよびこれらの混合物等が挙げられる。
【0044】
例えば、本発明の風邪症状緩和用飲食品組成物を飴として製造する場合には、ハードキャンディまたはソフトキャンディを挙げることができ、特に口腔内に長く保持される水分値が5重量%以下のハードキャンディであることが好ましい。また、砂糖ベースの飴よりも、還元麦芽糖水飴、還元水飴のように低カロリーの糖質ベースの飴や、う蝕性の低い、マルチトール、パラチノース等の糖アルコールベースのノンシュガーキャンディの方が好ましい。味としても限定はなくミントキャンディの他、レモンやミルク等様々な風味付けが可能であり、目的に合わせ適宜選択すればよい。また、各有効成分の量も、任意の濃度調整が可能であり、喫食者が無理なく各有効成分の目的摂取量を摂取できる程度の濃度に調整すればよい。
【0045】
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0046】
〔実施例1〕 アロマ含有キャンディの調製(試験キャンディの調製)
以下のようにして、アロマ含有キャンディ(試験キャンディ)を調製した。すなわち、還元麦芽糖水飴(組成物重量に対して67.2%)および還元水飴(組成物重量に対して31.3%)に、表1の「アロマ含有キャンディ」の欄に示す含有量のオリゴノールとメチルセルロース、更に甘味料および乳化剤(組成物重量に対して各々0.1%)を添加することにより、粘性液状組成物を調製した。この粘性液状組成物を水分値1.5%になるように炊き上げ、更に表1の「アロマ含有キャンディ」の欄に示す含有量のシナモンパウダー、デカン酸、シトラール、L-メントールを混練することでキャンディ生地を得た。得られたキャンディ生地を球形にスタンプ成型し、表面の滑らかなハードキャンディ(個重2.7g)を得た。当該ハードキャンディにおける1粒あたりのオリゴノール、シナモンパウダー、デカン酸、シトラール、L-メントール、メチルセルロースの含有量を表2の「アロマ含有キャンディ」の欄に示す。当該ハードキャンディを、アロマ含有キャンディ(試験キャンディ)として、以下のヒト試験に供試した。
【0047】
なお、表1に示す各種添加物としては、オリゴノール(株式会社アミノアップ化学)、メチルセルロース(信越化学工業株式会社)、シナモンパウダー(エスビー食品株式会社)、デカン酸含有香料(ヴェ・マン・フィス香料株式会社)、シトラール含有香料(ヴェ・マン・フィス香料株式会社)、L-メントール(大阪香料株式会社)を使用した。今回使用したシナモンパウダー中のシンナムアルデヒド含有量は6.4%であった。
【0048】
〔比較例1〕アロマ非含有キャンディの調製(プラセボキャンディの調製)
アロマ非含有キャンディ(プラセボキャンディ)の調製は、オリゴノール、シナモンパウダー、デカン酸、シトラール、L-メントールを加えないこと以外、実施例1と同一である。すなわち、還元麦芽糖水飴(組成物重量に対して67.2%)および還元水飴(組成物重量に対して31.3%)に、表1に示す含有量のメチルセルロース、更に甘味料および乳化剤(組成物重量に対して各々0.1%)を添加することにより、粘性液状組成物を調製した。この粘性液状組成物を水分値1.5%になるように炊き上げることでキャンディ生地を得た。得られたキャンディ生地を球形にスタンプ成型し、表面の滑らかなハードキャンディ(個重2.7g)を得た(表2の「アロマ非含有キャンディ」の欄)。当該ハードキャンディを、アロマ非含有キャンディ(プラセボキャンディ)として、以下のヒト試験に供試した。
【0049】
【0050】
【0051】
〔試験例1〕アロマ含有キャンディ投与による風邪諸症状に及ぼす効果に関するヒト試験
アロマ配合キャンディの投与による風邪症状に与える影響を検討することを目的としてヒト試験を実施した。試験は、ヘルシンキ宣言 (2013年フォルタレザ修正)、人を対象とする医学系研究に関する倫理指針 (平成26年文部科学省・厚生労働省告示第3号) を遵守して実施した。具体的には、ランダム化プラセボ対照並行群間比較試験により、アロマ含有キャンディの風邪諸症状に及ぼす効果について試験した。
【0052】
(1)被験物および摂取量
被験物として、実施例1において得られた表1に示す組成を有するアロマ含有キャンディ(試験キャンディ)、および比較例1において得られたアロマ非含有キャンディ(プラセボキャンディ)を用いた。試験キャンディとプラセボキャンディとは、外観および官能が試験物と全く同じで、上記の通り、試験物にはシトラール、カプリン酸、カシア粉末、オリゴノールが含まれているが、プラセボにはこれらの成分は含まれていない。試験物摂取群は試験キャンディを1日あたり3粒摂取し、プラセボ摂取群はプラセボキャンディを1日あたり3粒摂取した。
【0053】
(2)被験者
被験者の選択基準は以下の通りである。
(a)年齢が20歳以上の成人男女であること
(b)一般的に健康であるとみなされる者であること
(c)アロマ含有キャンディを期間中、毎日摂取可能な者であること
(d)摂取期間中の症状チェックシートおよび前後2回の質問紙回答が可能な者であること
【0054】
ただし、以下の除外基準に合致した被験者は本試験から除外した。
(a)過去4週間以内に他のヒト試験(食品、医薬品、医薬部外品、医療機器等を用いたヒトを対象とする試験)に参加している者、あるいは本試験の実施予定期間中に他のヒト試験に参加する予定がある者
(b)試験責任者が試験参加に不適当と判断する者
上記の基準を満足した20~81歳の男女51名 (男子21名、女子30名) を被検者として選択した。
【0055】
(3)被験者の割付
割付については、試験に関係のない割付責任者が、ブロックランダム化を行い、試験物摂取群25名(男子11名、女子14名: 平均年齢26.68歳)、プラセボ摂取群26名(男子10名、女子16名: 平均年齢28.19歳)の2群に割り付けた。参加申し込み時に取得した年齢および性比に関して群間に大きな差がないことを確認した。
【0056】
(4)試験スケジュール
試験スケジュールとして、被験物摂取期間を連続する28日間(4週間)とした。
【0057】
(5)検査
図1のような質問(VAS;Visual Analogue Scale)紙調査を用い、以下の3項目について、被検者自身の自己回答式の調査を実施した。
(5)-1 風邪症状の強さの評価
「痛み」、「不快感」、「腫れ」、「荒れ」、「声枯れ」の5項目について100mmの線分上に縦線を入れ、回答日当日の状態について被験者自身での自己評価を実施した(
図1)。
(5)-2 風邪症状の発症回数
「咽頭痛」、「のどがヒリヒリする」、「咳が出る」、「痰が出る」の4項目について記録当日の風邪症状の有無を被験者自身で毎日記入、被験者ごとで28日間での発症回数を合計した。
(5)-3 摂取期間中の飲用日誌
自由記述欄を設定した飲用日誌を配布し、記録当日の体調、アロマ含有キャンディに対する感想等の自由な回答も得た。
【0058】
(6)統計解析
質問紙(VAS)に関して、回答日ごとに試験物摂取群およびプラセボ摂取群の平均値と標準誤差を算出し、Student’s t-testを用いて群間比較を行った。さらにPaired t-test を用いて各群の摂取前と摂取後で前後比較を行った。風邪症状の回数に関して、試験物摂取群およびプラセボ摂取群の平均値と標準誤差を算出し、Student’s t-testを用いて群間比較を行った。有意水準は5%とし、5%未満を有意差あり、10%未満を有意傾向と判断した。
【0059】
(7)結果
(7)-1 解析対象者
被検者51名 (男性21名、女性30名、20~81歳) のうち、途中脱落した3名を除いた48名を解析対象とした。摂取日数を用いて算出した飲用率は、試験物摂取群(アロマ含有キャンディ摂取群)が99.3±0.46% (n=22)、プラセボ群が99.7±0.31%(n=26)であった。解析対象者の詳細を表2に示した。二群間には解析にバイアスを与え得る有意差は特にみられなかった。
【0060】
【0061】
(7)-2 質問紙(VAS)
表3に質問紙の結果を示した。摂取前の群間比較において、プラセボ群と比較して試験物群に「のどの不快感」の項目の有意な高値傾向が見られた(p=0.091)。さらに試験物群の前後比較において、「声枯れ」の項目で有意な低下(p=0.032)が見られた。さらに「のどの不快感」の項目で有意な低下(p=0.056)が見られた。さらに「のどの荒れ」の項目でも有意な低下傾向(p=0.057)が見られた(表3および
図2)。プラセボ群においては統計学的に有意な変動はみられなかった。
【0062】
【0063】
(8)考察
アロマ含有キャンディ摂取時の風邪症状緩和効果を検討するため、成人男女51名を対象にランダム化プラセボ対照並行群間比較試験を行った。本試験では、痛みの強さを主観的に評価する質問紙Visual Analogue Scale (VAS)を用いた。VASの信頼性(再現性)・妥当性(測りたいものを本当に測っているか)は、すでに多くの研究で検証されており、医学の現場では広く使用されている。被験者を試験物群とプラセボ群の2群に分け、アロマ含有キャンディまたはプラセボを3粒/日、28日間摂取した。摂取前後に、VAS法による主観的な風邪症状の強さを比較、摂取期間を通して風邪症状の有無を調査した。
本試験の結果、摂取前と比較して摂取後にVASの「声枯れ」の項目で試験物群に有意な低下、「のどの不快感」「のどの荒れ」の項目で有意な低下傾向がみられた。これらの変動は被験者がのどの症状の緩和を主観的に感じていることが示されている。さらに摂取前、プラセボ群と比較して試験物群でみられた「のどの不快感」の有意な高値傾向が、摂取後には消滅しており、一貫性のある結果となった。
風邪症状の原因となるウイルスは呼吸により上気道経由で体内に侵入し、咽喉頭が乾燥するとのど風邪症状の発症、さらに症状が本格化しやすくなると考えられ、のどの乾燥を防ぎ粘液層を保護することは、風邪の予防や症状の緩和にとって非常に重要であると考えられる。
試験物群にみられた、のどに関する有意な変動および有意傾向は、プラセボ群ではみられていないことから、アロマ含有キャンディを28日間摂取することにより、のどに関する風邪の症状を緩和する効果が示唆された。これらはアロマ含有キャンディによる粘膜保護によるものと推定される。その他に、自由記述から抽出したインフルエンザまたはインフルエンザ様疾患の「罹患率」について、プラセボ群で8%であったのに対し、試験物群では0%であったこと、試験物群での「症状回復」14%、「家族が罹患したが本人は罹患しなかった」5%という結果から、ウイルス感染への抑制作用が報告されているエッセンシャルオイル成分を含有している本アロマ含有キャンディが、感染に対しても抑制作用を示した可能性も考えられた。
【0064】
(9)結論
VASによるアロマ含有キャンディ摂取時の風邪症状緩和効果への影響検討の結果、摂取前と比較して摂取後に「声枯れ」の項目で試験物群に有意な低下、「のどの不快感」「のどの荒れ」の項目で有意な低下傾向がみられた。
これらのことから、実施例1で得られたアロマ含有キャンディは、機能性を有した食品として日常生活の中での風邪様症状出現への抑制作用や症状自身に対する緩和作用が期待でき、なお且つ持続利用可能な素材となり得ると考えられた。
【0065】
以上の結果より、実施例1で得られたアロマ含有キャンディには風邪様症状出現への抑制作用や症状に対する緩和作用があり、低分子プロアントシアニジン、シナモン、中鎖脂肪酸または中鎖脂肪酸エステル、シトラール、およびメントールを有効成分として含有する飲食品組成物は、「風邪症状緩和用飲食品組成物」として有用であることが示された。