(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-19
(45)【発行日】2023-10-27
(54)【発明の名称】音響再生装置
(51)【国際特許分類】
H04R 1/02 20060101AFI20231020BHJP
H04R 1/34 20060101ALI20231020BHJP
【FI】
H04R1/02 104Z
H04R1/34 310
(21)【出願番号】P 2022536160
(86)(22)【出願日】2021-05-24
(86)【国際出願番号】 JP2021019645
(87)【国際公開番号】W WO2022014166
(87)【国際公開日】2022-01-20
【審査請求日】2022-07-20
(31)【優先権主張番号】P 2020119882
(32)【優先日】2020-07-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020144122
(32)【優先日】2020-08-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109210
【氏名又は名称】新居 広守
(74)【代理人】
【識別番号】100137235
【氏名又は名称】寺谷 英作
(74)【代理人】
【識別番号】100131417
【氏名又は名称】道坂 伸一
(72)【発明者】
【氏名】角張 勲
(72)【発明者】
【氏名】鷲尾 信彦
(72)【発明者】
【氏名】坂井 剛
【審査官】冨澤 直樹
(56)【参考文献】
【文献】特開平7-154889(JP,A)
【文献】特開2007-201976(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第111386712(CN,A)
【文献】中国実用新案第207802375(CN,U)
【文献】特開平8-140179(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 1/02
H04R 1/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筐体と、
前記筐体内に配置されるスピーカと、を備え、
前記筐体は、環状領域に配置された複数の貫通孔を有する第1壁面を備え、
前記スピーカは、前記複数の貫通孔に向けて音を放射する姿勢で
配置されて
おり、
前記筐体は、前記スピーカが配置されている第1空間と、前記第1空間と前記筐体の外側の外部空間とを連通する第2空間とを有し、
前記第2空間は、前記環状領域の内周縁に沿って配置される筒形の外壁面と、前記環状領域の外周縁に沿って配置され、前記外壁面に対向する筒形の内壁面との間に形成されている筒形の空間である
音響再生装置。
【請求項2】
前記複数の貫通孔は、互いに同一の穴径及び長さを有し、かつ、第1の円に沿って並ぶ複数の第1貫通孔を含む
請求項1に記載の音響再生装置。
【請求項3】
前記複数の貫通孔は、各々が前記複数の第1貫通孔よりも小さい穴径を有し、かつ、前記第1の円の内部に配置され、前記第1の円よりも小さい第2の円に沿って並ぶ複数の第2貫通孔を含む
請求項2に記載の音響再生装置。
【請求項4】
前記第2の円は、前記第1の円の同心円である
請求項3に記載の音響再生装置。
【請求項5】
前記外壁面が形成している筒形の中心軸と、前記内壁面が形成している筒形の中心軸とは一致する
請求項
1から4のいずれか1項に記載の音響再生装置。
【請求項6】
前記外壁面と前記内壁面との間の距離は、前記外壁面の筒形の中心軸の方向において、一定である
請求項
1から5のいずれか1項に記載の音響再生装置。
【請求項7】
前記外壁面と前記内壁面との間の距離は、前記スピーカから放射される音の波長の1/4以下である
請求項
1から
6のいずれか1項に記載の音響再生装置。
【請求項8】
前記スピーカは、音の放射方向における前記スピーカの中心軸が前記環状領域の中心を通る姿勢で配置されている
請求項1から
7のいずれか1項に記載の音響再生装置。
【請求項9】
前記筐体の、前記第1壁面とは別の第2壁面には、前記スピーカから放射された音が外部へ放射される開口部が形成されている
請求項1から
8のいずれか1項に記載の音響再生装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、指向性を有する音を放射することができる音響再生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1及び特許文献2は、ユーザの頭部近傍の音響特性が所望の方向からの到来音の音響特性と同様になるように、スピーカに入力する音響信号の音量及び位相を制御することで、実際のスピーカの位置とは異なる方向にスピーカが有るかのような聴感効果を実現する構成を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006-101461号公報
【文献】特開2015-154350号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
指向性を有する音を放射するためには多数のスピーカを配置する方式がある。しかしながら、この方式では、多数のスピーカが必要になるという課題がある。
【0005】
本開示は、より少ないスピーカで指向性を有する音を放射することができる音響再生装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示における音響再生装置は、筐体と、前記筐体内に配置されるスピーカと、を備え、前記筐体は、環状領域に配置された複数の貫通孔を有する第1壁面を備え、前記スピーカは、前記複数の貫通孔に向けて音を放射する姿勢でされている。
【発明の効果】
【0007】
本開示における音響再生装置によれば、より少ないスピーカで指向性を有する音を放射することができる音響再生装置を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1A】
図1Aは、実施の形態1の音響再生装置の構成を示す斜視図である。
【
図1B】
図1Bは、実施の形態1の音響再生装置におけるバッフルの平面図である。
【
図2】
図2は、複数の貫通孔を配置したバッフルの遮音効果を示すグラフである。
【
図3】
図3は、実施の形態2の音響再生装置の構成を示す斜視図である。
【
図4】
図4は、実施の形態3の音響再生装置の構成を示す斜視図である。
【
図5】
図5は、実施の形態3の音響再生装置の断面図である。
【
図6】
図6は、筒形の空間を通過する音波を示す模式図である。
【
図7】
図7は、実施の形態4の音響再生装置の構成を示す斜視図である。
【
図8】
図8は、実施の形態5の音響再生装置の構成を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本開示の一態様に係る音響再生装置は、筐体と、前記筐体内に配置されるスピーカと、を備え、前記筐体は、環状領域に配置された複数の貫通孔を有する第1壁面を備え、前記スピーカは、前記複数の貫通孔に向けて音を放射する姿勢でされている。
【0010】
これによれば、複数の貫通孔のサイズに応じた特定の周波数帯域の音が、複数の貫通孔の各々から放射されるため、各々の貫通孔が音源になる。このため、環状に配置された複数の貫通孔は、環状に二次元配置されたスピーカアレイと同様の効果を奏する。よって、第1壁面に垂直でありかつ環状領域の中心における中心軸上において、複数の貫通孔の各々から放射された特定の周波数帯域の音が強め合うこととなり、音響再生装置は、中心軸の方向に指向性を有する音であって、特定の周波数帯域の音を放射することができる。
【0011】
また、前記複数の貫通孔は、互いに同一の穴径及び長さを有し、かつ、第1の円に沿って並ぶ複数の第1貫通孔を含んでもよい。
【0012】
このため、複数の第1貫通孔から、第1の円の中心軸の方向に指向性を有する音であって、複数の第1貫通孔の穴径及び長さに応じた周波数帯域の音を放射することができる。
【0013】
また、前記複数の貫通孔は、各々が前記複数の第1貫通孔よりも小さい穴径を有し、かつ、前記第1の円の内部に配置され、前記第1の円よりも小さい第2の円に沿って並ぶ複数の第2貫通孔を含んでもよい。
【0014】
このため、第2の円の中心軸方向に指向性を有する音であって、複数の第1貫通孔から放射される特定の周波数帯域の音よりも高い周波数帯域を含む周波数帯域の音を、複数の第2貫通孔から放射することができる。よって、複数の第1貫通孔から放射される周波数帯域と、複数の第2貫通孔から放射される周波数帯域とを合わせた広い周波数帯域の音を、中心軸の方向に向けて放射することができる。
【0015】
また、前記第2の円は、前記第1の円の同心円であってもよい。
【0016】
このため、複数の第1貫通孔から放射される音と、複数の第2貫通孔から放射される音を同じ中心軸に向けて放射することができる。
【0017】
また、前記筐体は、前記スピーカが配置されている第1空間と、前記第1空間と前記筐体の外側の外部空間とを連通する第2空間とを有し、前記第2空間は、前記環状領域の内周縁に沿って配置される筒形の外壁面と、前記環状領域の外周縁に沿って配置され、前記外壁面に対向する筒形の内壁面との間に形成されている筒形の空間であってもよい。
【0018】
これによれば、スピーカから放射された音は、外壁面と内壁面との間の第2空間に入射し、第2空間を伝搬することで音の波面が外壁面及び内壁面に対して垂直に整いやすくなり、複数の貫通孔に対して垂直に入射しやすくなる。複数の貫通孔の穴径及び長さと、筐体の容積とによって決まる共振周波数の音は、音の波面が複数の貫通孔に垂直に入射することで、より狭い周波数帯域において大きなレベルで共振することから、特定の周波数帯域の放射音を大きな音量で筐体の外部に放射することができる。
【0019】
また、前記外壁面が形成している筒形の中心軸と、前記内壁面が形成している筒形の中心軸とは一致してもよい。
【0020】
このため、複数の貫通孔から放射される音の周波数特性を均一化することができる。
【0021】
また、前記外壁面と前記内壁面との間の距離は、前記外壁面の筒形の中心軸の方向において、一定であってもよい。
【0022】
このため、複数の貫通孔から放射される音の周波数特性を均一化することができる。
【0023】
また、前記外壁面と前記内壁面との間の距離は、前記スピーカから放射される音の波長の1/4以下であってもよい。
【0024】
また、前記スピーカは、音の放射方向における前記スピーカの中心軸が前記環状領域の中心を通る姿勢で配置されていてもよい。
【0025】
これによれば、スピーカの中心軸が環状領域の中心軸を通るように配置されるため、スピーカと複数の貫通孔の各々との間の距離を互いに等しくすることができる。これにより、複数の貫通孔から放射される複数の音の音圧及び位相を、より互いに近づけることができ、環状領域の中心軸上において、複数の貫通孔の各々から放射された特定の周波数帯域の音が強め合う効果をさらに向上させることができる。
【0026】
また、前記筐体の、前記第1壁面とは別の第2壁面には、前記スピーカから放射された音が外部へ放射される開口部が形成されていてもよい。
【0027】
これによれば、スピーカから放射された音は、複数の貫通孔で周波数選択され、第1壁面に垂直であり環状領域の中心軸の方向に指向性を有する音と、開口部から放射される音とに分離して再生することができる。このため、1台のスピーカで立体的な音響効果を実現することができる。
【0028】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0029】
(実施の形態1)
図1Aは、実施の形態1の音響再生装置100の構成を示す斜視図である。
図1Bは、実施の形態1の音響再生装置100におけるバッフル2の平面図である。
【0030】
音響再生装置100は、キャビネット1と、キャビネット1内に配置されるスピーカ3とを備える。
【0031】
キャビネット1は、概ね直方体形状の筐体である。キャビネット1は、例えば、6つの壁面を有し、内部に直方体形状の空間を有する。キャビネット1の6つの壁面は、上面であるバッフル2と、バッフル2と対向する底面1aと、バッフル2と底面1aとの間に配置され、バッフル2と底面1aとに接続される4つの側面1b~1eとを有する。6つの壁面の各々は、板状の部材である。キャビネット1の容積はVである。
【0032】
バッフル2は、キャビネット1のうち、スピーカ3が配置される壁面(本実施の形態では底面1a)と対向する壁面である。バッフル2の厚みは、後述するようにLであり、一定である。バッフル2は、円環状の環状領域4に配置された複数の貫通孔4aを有する。バッフル2は、第1壁面の一例である。複数の貫通孔4aの各々は、半径がaである円形の開口である。つまり、複数の貫通孔4aは、穴径が互いに同一である。複数の貫通孔4aの各々は、バッフル2に対して垂直に貫通している。このため、複数の貫通孔4aの各々は、バッフル2の厚みLと同じ長さを有する。つまり、複数の貫通孔4aは、互いに同一の長さを有する。
【0033】
スピーカ3は、キャビネット1が備える1つの壁面の内壁側に配置され、音をキャビネット1内に放射する。スピーカ3は、音の放射方向がバッフル2に向かう向きで底面1a上に配置される。つまり、スピーカ3は複数の貫通孔4aに向けて音を放射する姿勢で底面1aに配置されている。また、スピーカ3は、中心軸5の方向から音響再生装置100を見たときに、環状領域4の内方に含まれる位置に配置されていることが好ましい。
【0034】
なお、スピーカ3は、音の放射方向がバッフル2に向かう向きで配置されていれば底面1a上に配置されていなくてもよく、底面1aから離れた位置に配置されていてもよい。音響再生装置のキャビネットは、例えば、底面1a、側面1b~1e、及び、バッフル2の少なくとも1つに固定されている支持部材を有し、スピーカ3は、その支持部材上に、音の放射方向がバッフル2に向かう向きで配置されていてもよい。
【0035】
また、環状領域4は、バッフル2のうち、中心軸5を中心とし、半径が所定範囲内となる円環状の領域であり、複数の貫通孔4aが配置される領域である。中心軸5は、バッフル2が形成する面の中心を通り、この面に垂直となる仮想的な線である。半径が所定範囲内とは、具体的には、
図1Bに示すように半径R1以上、かつ、半径R2以下の範囲である。
【0036】
なお、複数の貫通孔4aが配置される環状領域4の形状は、環状であればよく、円環状に限らずに、多角形状であってもよい。複数の貫通孔4aは、環状領域4に配置されていればよい。また、複数の貫通孔4aは、環状領域4以外には配置されない。つまり、複数の貫通孔4aは、中心軸5を中心とする半径R1の円内に配置されず、かつ、中心軸5を中心とする半径R2の円外に配置されない。
【0037】
また、複数の貫通孔4aは、中心軸5を中心とする円上に並んで配置されていてもよい。複数の貫通孔4aは、中心軸5を中心とする複数の円上に並んで配置されていてもよい。なお、複数の貫通孔4aは、中心軸5を中心とする円に沿って並んでいればよく、当該円上からずれた位置に並んでいてもよい。
【0038】
また、複数の貫通孔4aは、開口率が環状領域4のどの領域においても一定になるように配置されていてもよい。開口率は、環状領域4の単位面積当たりにおける複数の貫通孔4aの面積の和である。また、複数の貫通孔4aは、開口率が一定で環状領域4に配置されていれば円に沿って並んでいなくてもよい。例えば、複数の貫通孔4aは、直線状の異なる2方向にアレイ状に並んで配置されていてもよい。つまり、バッフル2は、アレイ状に並ぶ複数の貫通孔4aが環状領域4のみに設けられる構成であってもよい。
【0039】
なお、本実施の形態ではキャビネット1の形状は、概ね直方体形状としたが、スピーカ3と複数の貫通孔4aとの位置関係が上記の通りであれば、どのような形状でもよく、例えば円柱形状であってもよいし、多角柱形状であってもよい。
【0040】
この構成により、スピーカ3から放射された音は、環状領域4の複数の貫通孔4aを経由してキャビネット1の外部に放射される。複数の貫通孔4aに伝搬したスピーカ3から放射された音は、各貫通孔4aの半径a及びその長さL(バッフル2の厚みに相当)と、キャビネット1の容積Vとによって決まる共振周波数fで共振する。このため、共振周波数fの音は、共振周波数f以外の周波数の音よりも大きな音量で、キャビネット1の外部に放射される。
【0041】
図2は、複数の貫通孔を配置したバッフルの遮音効果を示すグラフである。具体的には、
図2は、キャビネット1からバッフル2を取り除いた場合の音響再生装置の放射音レベルと、厚みL=10mmのバッフル2に半径a=2.5mmの貫通孔4aを等間隔で合計400個配置したバッフル2を設けた音響再生装置の放射音レベルとの差(半径a=2.5mm、長さL=10mmの小孔開口を400個配置した板の遮音レベル)を示す。この図から、1kHz以上2.5kHz未満の周波数帯域で差が小さく、200Hz以上1kHz未満の周波数帯域、及び、2.5kHz以上の周波数帯域で遮音レベルが大きいことが分かる。これはすなわち、スピーカ3から放射された音が複数の貫通孔4aで周波数選択された結果、1kHz以上2.5kHz未満の周波数帯域の音が他の周波数帯域の音より相対的に減衰されずに、キャビネット1の外部に放射されることを示す。
【0042】
なお、複数の貫通孔4aの半径を小さくするほど外部に放射される音の周波数帯域を高くすることができる。このように、複数の貫通孔4aの半径を調整することで、所望の周波数帯域の音をキャビネット1の外部に放射させることができる。
【0043】
本実施の形態に係る音響再生装置100では、複数の貫通孔4aの穴径及び長さに応じた特定の周波数帯域の音が、複数の貫通孔4aの各々から放射されるため、各々の貫通孔4aが音源になる。このため、円環状に配置された複数の貫通孔4aは、円環状に二次元配置されたスピーカアレイと同様の効果を奏する。よって、中心軸5上において複数の貫通孔4aの各々から放射された特定の周波数帯域の音が強め合うこととなり、音響再生装置100は、中心軸5の方向に指向性を有する音であって、特定の周波数帯域の音を放射することができる。
【0044】
(実施の形態2)
図3は、実施の形態2の音響再生装置の構成を示す斜視図である。
【0045】
本実施の形態の音響再生装置100Aは、実施の形態1の音響再生装置100と比較して、複数の貫通孔41aの構成が異なり、他の構成については同じである。このため、異なる構成について主に説明し、同じ構成については説明を省略する。
【0046】
図3において、バッフル2に配置される複数の貫通孔41は、第1の円上に並ぶ複数の貫通孔41aと、第1の円の内部に配置される第2の円上に並ぶ複数の貫通孔41bとを含む。複数の貫通孔41は、中心軸5に対して同心円状に等間隔に配置して構成される。複数の貫通孔41は、開口の半径が異なる複数の貫通孔41aと、複数の貫通孔41bとを備える。中心軸5を中心とし、ある半径となる円周上には、同一半径の貫通孔が配置される。例えば、中心軸5を中心とし、半径R1以上R2以下の環状領域4内のうち、外周側の第1の円上に半径r1の複数の貫通孔41aが円環状に配置され、内周側の第2の円上に半径r2の複数の貫通孔41bが円環状に配置される。
【0047】
第2の円は、第1の円よりも小さい円である。第2の円は第1の円の同心円であってもよい。つまり、第1の円及び第2の円は、中心軸5を中心とする円であってもよい。なお、第2の円は、第1の円に内包される円であれば、第1の円の同心円でなくてもよい。また、第1の円及び第2の円は、半径R1以上R2以下の環状領域4内に配置される。
【0048】
複数の貫通孔41の長さは、いずれもバッフル2の厚みであるLである。
【0049】
なお、本実施の形態では、複数の貫通孔41は、異なる半径(つまり、異なる穴径)の複数の貫通孔41a、41bを含み、かつ、同一半径の円周上に同一半径(つまり、同一穴径)の貫通孔が配置されていればよい。したがって、例えば、互いに異なる半径の円周上に、同一半径の貫通孔が配置されていてもよい。具体的には、第1の円上に並ぶ複数の貫通孔41aは、互いに同一の穴径(例えば、半径r1)を有する。なお、複数の貫通孔41aは、第1の円に沿って並んでいればよく、第1の円上からずれた位置に並んでいてもよい。また、第2の円上に並ぶ複数の貫通孔41bは、互いに同一の穴径(例えば、半径r2)を有し、この穴径は、複数の貫通孔41aの穴径よりも小さい。なお、複数の貫通孔41bは、第2の円に沿って並んでいればよく、第2の円上からずれた位置に並んでいてもよい。
【0050】
本実施の形態に係る音響再生装置100Aでは、複数の貫通孔41aと、複数の貫通孔41bとで穴径が異なるため、バッフル2により選択(放射)される周波数帯域が複数となる。よって、音響再生装置100Aは、より広い周波数帯域を有し、かつ、中心軸5の方向に指向性を有する音、を放射することができる。
【0051】
(実施の形態3)
図4は、実施の形態3の音響再生装置の構成を示す斜視図である。
図5は、実施の形態3の音響再生装置の断面図である。
【0052】
本実施の形態の音響再生装置100Bは、実施の形態1の音響再生装置100と比較して、キャビネット1Bの内部に筒形の空間S12が形成されている点が異なり、他の構成については同じである。このため、異なる構成について主に説明し、同じ構成については説明を省略する。
【0053】
キャビネット1Bは、空間S11と、空間S12とを有する。空間S11は、スピーカ3が配置される空間である。空間S11は、キャビネット1Bが有する6つの壁面(底面1a、側面1b~1e及びバッフル2)により形成される内部空間S1のうち、空間S12を除く部分である。空間S12は、空間S11よりもバッフル2側に設けられ、空間S11とキャビネット1Bの外側の外部空間とを連通する。具体的には、空間S12は、内壁6の外壁面6aと、外壁面6aに対向する外壁7の内壁面7aとの間に形成される筒形の空間である。キャビネット1Bは、底面1a、側面1b~1e、及び、バッフル2の他にさらに、内壁6及び外壁7を有する。つまり、キャビネット1Bは、実施の形態1のキャビネット1と比較して、内壁6及び外壁7を有する点が異なる。
【0054】
内壁6は、円筒形状を有する。内壁6は、その一端がバッフル2に接続されるとともに、内壁6の外壁面6aが円環状の環状領域4の内周縁に沿うようにキャビネット1B内に配置される。内壁6の他端は、キャビネット1Bの内面(底面1a)と接しておらず、内壁6の他端とキャビネット1Bの内面(底面1a)との間には、間隔(空間S11)が空けられている。
【0055】
外壁7は、内壁6の外径よりも大きい内径である円筒形状を有する。外壁7は、その一端がバッフル2に接続されるとともに、外壁7の内壁面7aが円環状の環状領域4の外周縁に沿うようにキャビネット1B内に配置される。外壁7の他端は、キャビネット1Bの内面(底面1a)と接しておらず、外壁7の他端とキャビネット1Bの内面(底面1a)との間には、間隔(空間S11)が空けられている。
【0056】
実施の形態1と同様に、複数の貫通孔4aは、バッフル2のうち、中心軸5を中心とし、半径R1以上、かつ、半径R2以下の環状領域4に配置される。したがって、内壁6の外径は、半径R1の2倍と等しい。また、外壁7の内径は、半径R2の2倍と等しい。つまり、内壁6及び外壁7は、二重筒を形成し、内壁6は二重筒の内筒であり、外壁7は二重筒の外筒である。内壁6及び外壁7の高さは互いに同じである。よって、内壁6及び外壁7の間に形成される空間S12は、バッフル2の複数の貫通孔4aが設けられている環状領域4から、キャビネット1Bの内方(底面1a)側に延びている。言い換えると、バッフル2のうち、内壁6が接続する部分、及び、外壁7が接続する部分との間の領域内に、環状領域4が配置される。
【0057】
また、内壁6及び外壁7は互いに平行となる姿勢でキャビネット1B内に配置される。つまり、中心軸5に直交する方向(径方向)における内壁6の外壁面6aと外壁7の内壁面7aとの間の距離は、中心軸5に平行な方向(軸方向)において一定である。また、内壁6及び外壁7は、中心軸5を軸とする。つまり、外壁面6aが形成している筒形の中心軸と、内壁面7aが形成している筒形の中心軸とは一致する。このため、複数の貫通孔4aから放射される音の周波数特性を均一化することができる。
【0058】
また、外壁面6aと内壁面7aとの間の距離は、スピーカ3から放射される音の波長の1/4以下であってもよい。
【0059】
本実施の形態に係る音響再生装置100Bでは、スピーカ3から放射された音は、内壁6と外壁7の間に入射し、
図6に示すように内壁6と外壁7の間を伝搬することで音の波面30が内壁6及び外壁7の各壁面6a、7aに対して垂直に整いやすくなり、複数の貫通孔4aに対して垂直に入射しやすくなる。複数の貫通孔4aの半径a及び長さLと、キャビネット1Bの容積Vとによって決まる共振周波数fの音は、音の波面30が複数の貫通孔4aに垂直に入射することで、より狭い周波数帯域において大きなレベルで共振することから、選択された周波数帯域の放射音をより大きな音量でキャビネット1B外部に放射することができる。
【0060】
なお、内壁6と外壁7とで挟まれた円筒形状の空間S12は、内壁6及び外壁7の径方向に延びる壁面で、空間S12の周方向にダクト状に区切られてもよい。これにより、より高い周波数帯域の音であっても、空間S12を通過する音の波面は、内壁6及び外壁7の各壁面6a、7aに対して垂直に整いやすくなり、複数の貫通孔4aに対して垂直に入射しやすくなることは言うまでもない。
【0061】
また、内壁6と外壁7とで挟まれた空間S12に吸音材が配置されてもよい。これにより、複数の貫通孔4aから放射する音の周波数帯域を制限できる。
【0062】
なお、内壁6及び外壁7は、円筒形状でなくてもよく、多角形状の筒形であってもよい。
【0063】
また、空間S11よりもバッフル2側に設けられる空間S12は、筒形の形状であればよく、筒形の形状は、中心軸5に平行な方向(軸方向)において一定の径を有する形状でなくてもよい。空間S12の筒形の形状は、例えば、バッフル2に近づくほど大きい径を有する形状であってもよいし、バッフル2に近づくほど小さい径を有する形状であってもよい。
【0064】
なお、内壁6の内部、及び、外壁7とキャビネット1Bの側面1b~1eとの間には、空間が設けられているがこれに限らずに、内壁6の内部の空間が物体で充填されており、外壁7とキャビネット1Bの側面1b~1eとの間の空間が物体で充填されている構成であってもよい。つまり、キャビネット1Bは、外壁面6a及び内壁面7aの間に形成された筒形の空間S12を有していれば、内壁6の内部の空間、及び、外壁7とキャビネット1Bの側面1b~1eとの間の空間の少なくとも一方が物体で充填されていてもよいし、充填されていなくてもよい。なお、充填される物体は、キャビネット1と同じ材料で構成されていてもよいし、異なる材料で構成されていてもよい。
【0065】
なお、本実施の形態のキャビネット1Bは、実施の形態1のキャビネット1と同じバッフル2を有するが、これに限らずに、実施の形態2のキャビネット1と同じバッフル2を有していてもよい。
【0066】
(実施の形態4)
図7は、実施の形態4の音響再生装置の構成を示す斜視図である。
【0067】
本実施の形態の音響再生装置100Cは、実施の形態3の音響再生装置100Bと比較して、スピーカ3の中心が中心軸5と一致するようにスピーカ3が配置される点が異なる。より具体的には、スピーカ3は、音の放射方向におけるスピーカ3の中心軸が中心軸5を通り、かつ、バッフル2に向かう姿勢で配置される。
【0068】
本実施の形態に係る音響再生装置100Cでは、スピーカ3の中心軸が中心軸5を通るように配置されるため、スピーカ3と空間S12の環状の入り口との間の距離が当該入り口の周方向におけるどの位置においても等しくなる。このため、スピーカ3から放射された音のうち、最も音圧レベルが高い直接音は、略同音圧かつ略同位相で内壁6と外壁7との間に入射し、内壁6と外壁7との間を伝搬することで音の波面が内壁6及び外壁7の各壁面6a、7aに対して垂直に整いやすくなり、複数の貫通孔4aを経てキャビネット1の外部に放射される。このように、複数の貫通孔4aから放射される複数の音は、その音圧及び位相を、より互いに近づけることができ、中心軸5上において複数の貫通孔4aから放射された特定の周波数帯域の音が強め合う効果をさらに向上させることができる。よって、音響再生装置100Cは、より精度よく中心軸5の方向に指向性を有する音を放射することができる。
【0069】
なお、他の実施の形態において、本実施の形態と同様に、スピーカ3の中心軸がバッフル2の中心軸と一致するようにスピーカ3を配置してもよい。この場合、スピーカ3の中心軸が環状領域4の中心軸5を通るように配置されるため、スピーカ3と複数の貫通孔4aの各々との間の距離を互いに等しくすることができる。これにより、複数の貫通孔4aから放射される複数の音の音圧及び位相を、より互いに近づけることができ、環状領域4の中心軸5上において、複数の貫通孔4aの各々から放射された特定の周波数帯域の音が強め合う効果をさらに向上させることができる。よって、この場合の音響再生装置は、より精度よく環状領域の中心軸の方向に指向性を有する音であって、特定の周波数帯域の音を放射することができる。
【0070】
なお、本実施の形態のキャビネット1Bは、実施の形態1のキャビネット1と同じバッフル2を有するが、これに限らずに、実施の形態2のキャビネット1と同じバッフル2を有していてもよい。
【0071】
(実施の形態5)
図8は、実施の形態5の音響再生装置の構成を示す斜視図である。
【0072】
本実施の形態の音響再生装置100Dは、実施の形態1の音響再生装置100と比較して、キャビネット1Dに開口部8が設けられている点が異なる。開口部8は、キャビネット1Dの側面1cに設けられる。側面1cは、第2壁面の一例である。なお、開口部8は、キャビネット1Dのバッフル2とは別の壁面である底面1a及び側面1b~1eのいずれかに設けられていればよく、側面1cに設けられることに限らない。
【0073】
本実施の形態に係る音響再生装置100Dでは、スピーカ3から放射された音は、円環状に配置された複数の貫通孔4aで周波数選択され、中心軸5の方向に指向性を有する音と、開口部8から放射される音とに分離して再生することができる。これにより、音響再生装置100Dは、例えば、床面に設置された状態で、川のせせらぎのような低周波数帯域の音と、小鳥のさえずりのような高周波数帯域の音とを含む自然環境音を再生すると、低周波数帯域の音を床面付近で再生しつつ、高周波数帯域の音を上方に向けて放射して天井に反射させることで、床面付近から川のせせらぎの音が聞こえ、かつ、天井付近から小鳥のさえずりの音が聞こえるように自然環境音を再生することができる。このため、1台のスピーカで立体的な音響効果を実現することができる。
【0074】
なお、実施の形態2に記載のキャビネット1、または、実施の形態3もしくは4の記載のキャビネット1Bは、本実施の形態と同様に、バッフル2とは別の壁面である底面1a及び側面1b~1eのいずれかに設けられる開口部8を備えてもよい。
【0075】
特に、実施の形態3および4の音響再生装置100B、100Cにおけるキャビネット1Bが開口部8を備える場合、内壁6および外壁7の、バッフル2と接続されている一端とは反対側の他端は、キャビネット1Bの内面及びスピーカ3から離れた位置に配置されている。つまり、内壁6の他端及び外壁7の他端と、キャビネット1Bの内面及びスピーカ3との間には、間隔が空けられている。このため、スピーカ3からキャビネット1B内の空間S11に放射された音は、内壁6と外壁7との間の空間S12に入射し、複数の貫通孔4aから外部に放射されると共に、開口部8からも外部に放射される。
【0076】
以上のように、本開示における技術の例示として、実施の形態を説明した。そのために、添付図面および詳細な説明を提供した。
【0077】
したがって、添付図面および詳細な説明に記載された構成要素の中には、課題解決のために必須な構成要素だけでなく、上記技術を例示するために、課題解決のためには必須でない構成要素も含まれ得る。そのため、それらの必須ではない構成要素が添付図面や詳細な説明に記載されていることをもって、直ちに、それらの必須ではない構成要素が必須であるとの認定をするべきではない。
【0078】
また、上述の実施の形態は、本開示における技術を例示するためのものであるから、請求の範囲またはその均等の範囲において種々の変更、置き換え、付加、省略などを行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本開示は、より少ないスピーカで指向性を有する音を放射することができる音響再生装置に適用可能である。
【符号の説明】
【0080】
1、1B、1D キャビネット
1a 底面
1b~1e 側面
2 バッフル
3 スピーカ
4 環状領域
4a、41、41a、41b 複数の貫通孔
5 中心軸
6 内壁
6a 外壁面
7 外壁
7a 内壁面
8 開口部
100、100A~100D 音響再生装置