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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-19
(45)【発行日】2023-10-27
(54)【発明の名称】窒化物半導体発光素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 33/32 20100101AFI20231020BHJP
   H01L 33/14 20100101ALI20231020BHJP
   H01S 5/183 20060101ALI20231020BHJP
   H01S 5/343 20060101ALI20231020BHJP
【FI】
H01L33/32
H01L33/14
H01S5/183
H01S5/343 610
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2019157624
(22)【出願日】2019-08-30
(65)【公開番号】P2021036553
(43)【公開日】2021-03-04
【審査請求日】2022-07-01
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成31年度、文部科学省、「省エネルギー社会の実現に資する次世代半導体研究開発」委託事業、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】599002043
【氏名又は名称】学校法人 名城大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000002303
【氏名又は名称】スタンレー電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】弁理士法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹内 哲也
(72)【発明者】
【氏名】小田原 麻人
(72)【発明者】
【氏名】岩谷 素顕
(72)【発明者】
【氏名】上山 智
(72)【発明者】
【氏名】赤▲崎▼ 勇
(72)【発明者】
【氏名】清原 一樹
【審査官】村井 友和
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/070719(WO,A1)
【文献】特開2005-012000(JP,A)
【文献】国際公開第2008/078595(WO,A1)
【文献】特開2017-208400(JP,A)
【文献】特開2018-098347(JP,A)
【文献】特開2012-256635(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 33/00-33/46
H01S 5/00- 5/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の表面に窒化物半導体によって形成されたトンネル接合層を備えた窒化物半導体発光素子の製造方法であって、
トンネル接合層を形成するためにp型不純物を添加したp型層を形成するp型層形成工程と、
前記p型層形成工程を実行後、前記p型層の表面側に、トンネル接合層を形成するためにn型不純物を添加したn型層を積層して前記p型層と共に積層部を形成するn型層形成工程と、を備え、
前記n型層形成工程の後に実行され、プラズマを照射することによって前記n型層の表面から前記型層の下面にわたって部分的に高抵抗化された高抵抗化部を形成する高抵抗化部形成工程を備えることを特徴とする窒化物半導体発光素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は窒化物半導体発光素子の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は従来の窒化物半導体発光素子を開示している。この窒化物半導体発光素子は活性層の表面側に積層されたp型半導体層の表面側にトンネル接合層が積層され形成されており、電流を流したい領域(第1メサ)のみを残してトンネル接合層がエッチングで除去されている。そして、この窒化物半導体発光素子は、第1メサを埋め込むようにさらに結晶成長させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-92158号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
こうして形成した窒化物半導体発光素子は、第1メサと第1メサの周囲とで段差が形成されることになる。この段差は、赤色や赤外等の長波長領域(1~2μm)では光を閉じ込めるように機能するが、青色や紫外等の短波長領域(0.5μm以下)では光を散乱させてしまう。
【0005】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、トンネル接合を用いた電流狭窄構造を採用しつつ、短波長領域の発光波長の光を散乱させることがない窒化物半導体発光素子及び窒化物半導体発光素子の製造方法を提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1発明の窒化物半導体発光素子は、
窒化物半導体によって形成されたトンネル接合層を備えた窒化物半導体発光素子であって、
前記トンネル接合層を形成するためにp型不純物が添加されたp型層と、前記p型層の表面に積層され、前記トンネル接合層を形成するためにn型不純物が添加されたn型層とが積層された積層部を有し、
前記積層部は部分的に高抵抗化された高抵抗化部を具備していることを特徴とする。
【0007】
第2発明の窒化物半導体発光素子の製造方法は、
基板の表面に窒化物半導体によって形成されたトンネル接合層を備えた窒化物半導体発光素子の製造方法であって、
トンネル接合層を形成するためにp型不純物を添加したp型層を形成するp型層形成工程と、
前記p型層形成工程を実行後、前記p型層の表面側に、トンネル接合層を形成するためにn型不純物を添加したn型層を積層して前記p型層と共に積層部を形成するn型層形成工程と、を備え、
少なくとも前記p型層形成工程の後に実行され、前記n型層が積層された前記積層部が部分的に高抵抗化された高抵抗化部を形成する高抵抗化部形成工程を備える。
【0008】
この窒化物半導体発光素子は積層部を部分的に高抵抗化した高抵抗化部を具備することによって、積層部を部分的にエッチングして電流を狭窄する方法に比べて、少ない段差で電流を狭窄させることができる、すなわち、段差における光散乱を抑制し、光損失を最小限に抑えることができる。
【0009】
したがって、本発明の窒化物半導体発光素子及び窒化物半導体発光素子の製造方法はトンネル接合を用いた電流狭窄構造を採用しつつ、短波長領域の発光波長の光の散乱を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、実施例1~3の窒化物半導体発光素子の層の構造を示す模式図である。
図2図2は、実施例1~3及び比較例1の窒化物半導体発光素子の電流-電圧特性を示す図である。
図3図3は、実施例4の窒化物半導体発光素子の層の構造を示す模式図である。
図4】(A)は、実施例4の窒化物半導体発光素子の活性層が発光する光の強度を示し、(B)は、実施例4の窒化物半導体発光素子の活性層が発光した様子を上方から見た画像を示す。
図5図5は、実施例5の窒化物半導体発光素子の層の構造を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明における好ましい実施の形態を説明する。
【0012】
第1発明の窒化物半導体発光素子の積層部の表面側には電流を供給する電極が積層され、高抵抗化部が少なくとも電極の直下に配置されてもよい。
この構成によれば、電極が積層される部分の直下に高抵抗化部を配置することによって、電極の直下に位置する活性層に電流が流れることを抑えることができるため、電極の直下で発光することがない。つまり、電極は生じた光の進路を妨げることがない。
【0013】
第1発明の窒化物半導体発光素子の積層部は、高抵抗化されていない非高抵抗化部を有し、高抵抗化部の厚さと非高抵抗化部の厚さとが等しい、又は高抵抗化部の厚さが非高抵抗化部の厚さよりも薄くてもよい。
この構成によれば、高抵抗化部及び非高抵抗化部の厚さの差を抑え得るため、高抵抗化部及び非高抵抗化部の厚さの差によって生じる青色や紫外等の比較的短い波長の光の散乱を抑えることができる。
【0014】
第2発明の窒化物半導体発光素子の製造方法の高抵抗化部形成工程は、プラズマを照射することによって高抵抗化してもよい。
この構成によれば、高抵抗化部形成工程では、積層部においてプラズマを照射してp型不純物及びn型不純物を不活性化することによって高抵抗化部を形成する。このため積層部の厚みが薄くなり難いため、積層部の全体にわたってほぼ同様の厚みにすることができ、青色や紫外等の比較的短い波長の光が積層部によって散乱し難くすることができる。
【0015】
次に、本発明の窒化物半導体発光素子とその製造方法を具体化した実施例1~5について、図面を参照しつつ説明する。
【0016】
<実施例1~3、比較例1>
〔電流狭窄構造の概要〕
一般的に半導体発光素子の上側と下側とに金属の電極を設けて半導体発光素子を上下方向に貫通するように電流を流すと電流の大部分は電極の直下に向けて流れる。このため、半導体発光素子は電流が流れることによって生じた光の大部分が電極に遮られ、発光した光を素子の外に有効に取り出すことができない。このため、面発光レーザやマイクロLEDを実現するために、素子に電流が流れやすい領域(以下、非高抵抗化部ともいう)と、その周囲に電流の流れにくい領域(以下、高抵抗化部ともいう)とを設けて、素子の周囲から素子の内方向に電流が流れる電流狭窄構造を形成する必要がある。
【0017】
そこで、半導体発光素子にリング状をなした電極(以下、リング状の電極ともいう)を設け、この電極の内側に集まるように電流を流し、半導体発光素子内部に流れるようにすることが行われている。詳しくは、リング状の電極の内側に相対的に小さい電気抵抗を有する部分(非高抵抗化部)を形成し、リング状の電極の直下及び外側に相対的に大きい電気抵抗を有する部分(高抵抗化部)を形成する。すると、リング状の電極の内側に集まるように電流が流れ、この電流が半導体発光素子内部に設けられた活性層に向けて流れて半導体発光素子の活性層で発光する。こうして、半導体発光素子の活性層で発光した光は電極に遮られることなく素子の外に取り出すことができる。
【0018】
〔トンネル接合の概要〕
通常のpn接合はダイオード特性によりp型半導体層及びn型半導体層を挟み逆バイアス電圧を印加しても電流が流れない。これに対して、トンネル接合はp型半導体層及びn型半導体層を挟み逆バイアス電圧を印加すると電流が流れる。詳しくは、トンネル接合は通常のpn接合に比べてp型半導体層及びn型半導体層のそれぞれにp型不純物及びn型不純物が高濃度に添加されたpn接合である。これによって、トンネル接合は、通常のpn接合に比べてp型半導体層とn型半導体層との界面近傍に形成される空乏層の層厚が薄くなり、p型半導体層及びn型半導体層を挟み逆バイアス電圧を印加するとキャリア(電子及びホール(正孔))が空乏層を通り抜ける(トンネルする)ことができる。つまり、トンネル接合はn型半導体層からp型半導体層に向けて電流を流すことができる。
【0019】
〔トンネル接合を用いた電流狭窄構造の概要〕
逆バイアス電圧を印加した際のトンネル接合及び通常のpn接合のそれぞれの特性の違いを利用して、電流が集まる電流狭窄構造を実現する方法の概要を説明する。先ず、半導体発光素子の電流を流したい領域にトンネル接合を形成して、電流を流したくない領域に通常のpn接合を形成する。これにより、トンネル接合及び通常のpn接合が形成された半導体発光素子に逆バイアス電圧を印加すると、通常のpn接合が形成された領域に電流が流れず、トンネル接合が形成された領域に電流が流れる。こうして、トンネル接合及び通常のpn接合を利用して電流狭窄構造を実現することができる。トンネル接合及び通常のpn接合を利用して電流狭窄構造を実現する方法を埋め込みトンネル接合という。
【0020】
実際の形成方法について概要を説明する。先ず、n型半導体層、活性層、及びp型半導体層(これらの層はLEDや面発光レーザ等の光デバイス層構造である)を積層して結晶成長で形成する。次に、トンネル接合層を結晶成長で形成する。詳しくは、p型不純物を高濃度に添加したp型層であるp++型半導体層(p++とはMg等のp型不純物が高濃度に添加された状態を意味する。以下同じ)及びn型不純物を高濃度に添加したn型層であるn++型半導体層(n++とはSi等のn型不純物が高濃度に添加された状態を意味する。以下同じ)を積層して結晶成長で形成する。
【0021】
そして一旦、基板(ウエハともいう)を有機金属化合物気相成長(MOVPE)装置(以下、単にMOVPE装置ともいう)から取り出してプラズマエッチング装置等のプラズマの照射が可能なプラズマ照射装置に投入して、基板の表面にプラズマを照射する。詳しくは、電流を流したい領域のトンネル接合層の表面のみをSiO2等で形成されたマスク(以下、単にマスクともいう)で覆い、電流を流したくない領域のトンネル接合層にプラズマ化したArを所定の時間照射する。これにより、プラズマ化したArが照射された領域が高抵抗化して高抵抗化部になる。マスクに覆われたトンネル接合層の領域は高抵抗化することがなく非高抵抗化部になる。こうして高抵抗化部形成工程を実行する。
【0022】
そして、マスクを除去した後、再び基板を結晶成長装置に投入しn型半導体層を積層して結晶成長する。詳しくは、トンネル接合層の表面、及びプラズマ化したArを照射したトンネル接合層の表面にn型半導体層を積層して結晶成長して形成する。つまり、トンネル接合層をn型半導体層で埋め込む。そして、電流注入する電極を設ける。こうして形成された半導体発光素子の電極に逆バイアス電圧を印加すると高抵抗化部では電流が流れず、非高抵抗化部ではn側半導体層からp型半導体層へ電流が流れる。こうして、トンネル接合及び高抵抗化部を利用して電流狭窄構造を実現することができる。
【0023】
〔実施例1~3、比較例1の構成〕
プラズマ化したArを照射した場合におけるトンネル接合層の特性について検証するため、実施例1~3の窒化物半導体発光素子のサンプル(以下、実施例1~3のサンプルともいう)及び比較例1の窒化物半導体素子のサンプル(以下、比較例1のサンプルともいう)を作製した。実施例1~3のサンプルは、図1に示すように、n型GaN層10、GaInN多重量子井戸活性層11、p型半導体層であるp型GaN層12、トンネル接合層14、及びn型GaN電流拡散層16を備えている。実施例1~3のサンプルは基板の表面に窒化物半導体によって形成されたトンネル接合層14を備えた窒化物半導体発光素子である。
【0024】
〔実施例1~3、比較例1のサンプルの製造方法〕
次に、実施例1~3のサンプル、及び比較例1のサンプルの製造方法について説明する。先ず、素子構造を形成するために、C面サファイア基板S上に、低温バッファ層(図示せず)、2μmのアンドープGaN層(図示せず)、2μmのn型GaN層10(Siの添加濃度:8×1018cm-3)、発光波長410nmのGaInN多重量子井戸活性層11、20nmの厚みのp型AlGaN層(Mgの添加濃度:3×1019cm-3)(図示せず)、100nmの厚みのp型GaN層12(Mgの添加濃度:3×1019cm-3)をMOVPE装置にてエピタキシャル成長する。
【0025】
トンネル接合による正孔注入構造を有する従来の素子構造では、この後に引き続き、トンネル接合層14である10nmの厚みのp++型GaN層14A(Mgの添加濃度:3×1020cm-3)、15nmの厚みのn++型GaN層14B(Siの添加濃度:6×1020cm-3)、さらに400nmの厚みのn型GaN電流拡散層16(Siの添加濃度:8×1018cm-3)、10nmの厚みのn++型GaNコンタクト層(Siの添加濃度:1×1020cm-3)(図示せず)を成長して素子層構造形成を終了する。比較例1のサンプルはこの従来の素子構造を有するように作製した。
【0026】
これに対して、実施例1~3では、トンネル接合層14を形成するためにp型不純物を添加したp++型GaN層14Aを形成するp型層形成工程を実行した後、高抵抗化部形成工程を実行する。具体的には、p型層形成工程を実行してトンネル接合層14の一部であるp++型GaN層14Aを10nmの厚み積層したところでエピタキシャル成長を終了し、MOVPE装置からウエハを取り出す。そして、誘導結合プラズマエッチング装置等を流用したプラズマ照射装置にウエハを投入し、p++型GaN層14Aの表面Sfの全体にプラズマ化したArを2分照射する。プラズマ化したArの照射条件は、Arのガス流量を50sccm、アンテナ電力を1000Wとして、バイアス電力を100W、125W、150Wの3種類に変化させて実施例1、2、3の3種類のサンプルを作成した。バイアス電力が100Wの場合(バイアス電圧がアンテナ電力(1000W)に対して比較的低い場合)には、p++型GaN層14Aはエッチングされないことがわかった(図示せず。)。一方、125W、150Wの場合には、p++型GaN層14Aがわずかにエッチングされることがわかった。いずれにせよ、p++型GaN層14Aはウエハ全面にわたって存在しつつ、かつ高抵抗化部14Cになる。つまり、高抵抗化部形成工程は、プラズマを照射することによってトンネル接合層14の一部を高抵抗化する。
【0027】
高抵抗化部形成工程を実行した後、ウエハを再びMOVPE装置に投入し、n型層形成工程を実行する。具体的には、n型層形成工程は、p型層形成工程を実行後、p++型GaN層14Aの表面側に、トンネル接合層14を形成するためにn型不純物を添加したn++型GaN層14B(すなわち、トンネル接合層14の残りの構成)を積層してp型層と共に積層部15を形成する。積層部15はトンネル接合層14を形成するために、p++型GaN層14Aと、n++型GaN層14Bとを積層したものである。そして、400nmの厚みのn型GaN電流拡散層16、10nmの厚みのn++型GaNコンタクト層(図示せず)をエピタキシャル成長して素子層構造の形成を終了する。ここで、p++型GaN層14Aはトンネル接合層14を形成するためにp型不純物が添加されている。n++型GaN層14Bはp++型GaN層14Aの表面に積層されトンネル接合層14を形成するためにn型不純物が添加されている。トンネル接合層14はp++型GaN層14Aと、n++型GaN層14Bとが積層された積層部15である。積層部15は高抵抗化された高抵抗化部14Cを具備している。
【0028】
ウエハをMOVPE装置から取り出し、n型GaN層10の表面が露出するようにエッチングを施して、半径およそ35μmのメサ構造を形成する。この工程は、後述する下部電極E1を形成するための領域(露出したn型GaN層10の表面)を確保するためのものである。
【0029】
そして、埋め込まれた各p型層(p型AlGaN層、p型GaN層12、p++型GaN層14A)のMgの活性化を行うために、窒素雰囲気下でサーマルアニール(725℃、30分間)を行い、p型GaN層12等の各p型層のメサ側壁領域から水素を脱離させ、p型層としての電気伝導性を向上させてp型層として機能するようにさせる。そして、n型GaN層10の表面、及びn++型GaNコンタクト層の表面の各々にTi/Al/Ti/Auで形成されたリング状の下部電極E1、及びリング状の上部電極E2を蒸着させて素子構造が完成する。なお、必要に応じて、SiO2等で形成された絶縁層を用いてパッド電極を設けても良い。積層部15の表面側には電流を供給する上部電極E2が積層され、高抵抗化部14Cが少なくとも上部電極E2の直下に配置されている。こうして実施例1~3のサンプルを作製した。
【0030】
〔実施例1~3、及び比較例1のサンプルの電流・電圧特性の比較〕
これら4つのサンプル(実施例1~3、及び比較例1)の電流・電圧特性を図2に示す。高抵抗化部形成工程を実行した実施例1のサンプルは、電流が流れ始める立ち上がり電圧が6V以上となる。具体的には、実施例1のサンプルは電圧がおよそ6Vで電流が流れ始め、実施例2のサンプルはおよそ8Vで電流が流れ始め、実施例3のサンプルはおよそ10Vで電流が流れ始める。実施例1のサンプルは10Vを超えたところで10kA/cmの電流密度になる。実施例1、2、3のサンプルにおける電流・電圧特性から、バイアス電力(100W、125W、150W)が大きくなるにしたがって、電流が流れ難くなっていることがわかる。したがって、バイアス電力(100W、125W、150W)が大きくなるにしたがって、高抵抗化部14Cがより大きい抵抗値を示すようになる。これに対して、比較例1のサンプルはおよそ6Vでおよそ10kA/cmの高い密度で電流が流れている。つまり、比較例1のサンプルは6Vで10kA/cmの高い密度で電流が流れるのに対して、実施例1のサンプルはおよそ6Vでようやく電流が流れ始めるのである。
【0031】
従来、トンネル接合層を用いた電流狭窄構造では、電流注入を阻止したい領域のトンネル接合全層をエッチングして除去(すなわち、エッチングによりトンネル接合部を削り取る)していた。これに対して、プラズマ化したArを照射することによってトンネル接合層14自体を高抵抗化する手法は、大きな段差を形成する(すなわち、エッチングによりトンネル接合部を削り取る)ことなくトンネル接合層14を高抵抗化して高抵抗化部14Cを介してGaInN多重量子井戸活性層11に電流注入することを阻止することができる。特にバイアス電力が125W以下(実施例1、2)の場合、電流を流さない作用を確実に発揮する高抵抗化部14Cが得られると共に、プラズマ化したArの照射によってトンネル接合層14(p++型GaN層14A)が削り取られることがほとんどない。つまり、窒化物半導体発光素子に段差が生じることを抑え、青色や紫外等の発光波長における光散乱によるロスを抑制する観点から、高抵抗化部形成工程において、プラズマ照射装置におけるバイアス電力を125W以下にしてプラズマ化したArを照射することがより好ましい。
【0032】
<実施例4>
実施例4は、非高抵抗化部を有する領域と、それを一部高抵抗化させた領域とを組み合わせることによって、所望の領域のみに電流を注入することができる電流狭窄構造を有するLEDである。
【0033】
実施例4の窒化物半導体発光素子のサンプル(以下、実施例4のサンプルともいう)の製造方法について説明する。実施例4のサンプルは実施例1~3の窒化物半導体発光素子のサンプルと同様に、図3に示すように、MOVPE装置を用いてLED層構造(n型GaN層110(Siの添加濃度:8×1018cm-3)、GaInN層多重量子井戸活性層111、及びp型GaN層112(Mgの添加濃度:3×1019cm-3))をエピタキシャル成長させる。次に、p型層形成工程を実行して、p型GaN層112の表面にトンネル接合層114の一部であるp++型GaN層114A(Mgの添加濃度:3×1020cm-3)をエピタキシャル成長させる。
【0034】
次に、高抵抗化部形成工程を実行する。具体的には、先ず、フォトリソグラフィを用いて、電流を流したい部分にのみ100nmの厚みのSiO2によるマスク(以下、SiO2マスクともいう)を形成する(図示せず。)。ここでは、直径およそ8μmの円形状のSiO2マスクでp++型GaN層114Aの中央部を覆う。このSiO2マスクによってプラズマ化されたArがp++型GaN層114Aに照射されることを防ぐ。このため、SiO2マスクに覆われたp++型GaN層114Aは高抵抗化部になることなく非高抵抗化部114Dとなる。
【0035】
そして、ウエハをプラズマ照射装置に投入し、p++型GaN層114A及びSiO2マスクの表面にプラズマ化したArを照射する。このとき、p++型GaN層114Aは、p++型GaN層114Aの表面Sf2(以下、単に表面Sf2ともいう)にのみプラズマ化したArが照射されることになる。また、このときのプラズマ化したArの照射条件は実施例1と同様の条件(Arのガス流量:50sccm、アンテナ電力:1000W、バイアス電力:100W)である。こうして、p++型GaN層114Aは表面Sf2の直下が高抵抗化部114Cになる。こうして、トンネル接合層114の一部(p++型GaN層114Aの一部)を高抵抗化部114Cに変化させる高抵抗化部形成工程を実行する。
【0036】
そして、プラズマ化したArの照射が終了した後、プラズマ照射装置からウエハを取り出し、フッ酸によりSiO2マスクを取り除き、有機洗浄や流水洗浄等の表面洗浄を施す。そして、MOVPE装置にウエハを再び投入し、n型層形成工程を実行してn++型GaN層114B(Siの添加濃度:6×1020cm-3)をエピタキシャル成長させる。具体的には、n型層形成工程は、p型層形成工程を実行後、p++型GaN層114Aの表面側に、トンネル接合層114を形成するためにn型不純物を添加したn++型GaN層114B(すなわち、トンネル接合層114の残りの構成)を積層してp++型GaN層114Aと共に積層部115を形成する。積層部115はトンネル接合層114を形成するために、p++型GaN層114Aと、n++型GaN層114Bとを積層したものである。
【0037】
次に、400nmの厚みのn型GaN層116(Siの添加濃度:8×1018cm-3)、10nmの厚みのn++型GaNコンタクト層(Siの添加濃度:1×1020cm-3)(図示せず)をエピタキシャル成長して、電流狭窄構造を有する素子層構造の形成を終了する。トンネル接合層114はp++型GaN層114Aと、n++型GaN層114Bとが積層された積層部115である。積層部115は高抵抗化された高抵抗化部114Cと、高抵抗化されていない非高抵抗化部114Dを有している。積層部115は高抵抗化部114Cの厚さと非高抵抗化部114Dの厚さとがほぼ等しく形成されており、5nm以上の段差は存在しない。また、実施例4のサンプルの製造方法は、高抵抗化部形成工程がp型層形成工程の後に実行されることによって、n++型GaN層114Bが積層された積層部115が部分的に高抵抗化された高抵抗化部114Cを形成する。
【0038】
次に、実施例1~3と同様に、メサ構造を形成するエッチング、各p型層の活性化、下部電極E1及び上部電極E2の蒸着を行い、実施例4の窒化物半導体発光素子のサンプルが完成する。ここで、上部電極E2は、上方からの平面視において、非高抵抗化部114Dが位置する領域の外側、すなわち高抵抗化部114Cへと変化した領域の上にリング状に配置される(図示せず。)。これにより、実施例4のサンプルは電流が流れて発光する領域からの光が上部電極E2に遮られることがなく、発光した光を有効に利用することができる。
【0039】
実施例4の窒化物半導体発光素子のサンプルの下部電極E1と上部電極E2との間に上部電極E2がプラスになるように電圧を印加すると、電流が流れGaInN層多重量子井戸活性層111が発光する。実施例4の窒化物半導体発光素子のサンプルの発光した状態を上方からみた画像を図4(B)に示す。実施例4の窒化物半導体発光素子のサンプルの発光強度を示すグラフを図4(A)に示す。プラズマ化したArが照射されなかった直径およそ8μmの円形領域(すなわち、非高抵抗化部114D)に位置するGaInN層多重量子井戸活性層111のみに電流が流れて発光し、それ以外の領域(すなわち、高抵抗化部114C)の直下に位置するGaInN層多重量子井戸活性層111は発光せずGaInN層多重量子井戸活性層111への電流の注入が阻止されていることがわかった。
【0040】
このように、窒化物半導体発光素子は積層部115を部分的に高抵抗化した高抵抗化部114Cを具備することによって、積層部115を部分的にエッチングして電流を狭窄する方法に比べて、少ない段差で電流を狭窄させることができる、すなわち、段差における光散乱を抑制し、光損失を最小限に抑えることができる。
【0041】
したがって、本発明の窒化物半導体発光素子及び窒化物半導体発光素子の製造方法はトンネル接合を用いた電流狭窄構造を採用しつつ、短波長領域の発光波長の光の散乱を抑えることができる。
【0042】
窒化物半導体発光素子の積層部115の表面側には電流を供給する電極が積層され、高抵抗化部114Cが少なくとも上部電極E2の直下に配置される。
この構成によれば、上部電極E2が積層される部分の直下に高抵抗化部114Cを配置することによって、上部電極E2の直下に位置するGaInN層多重量子井戸活性層111に電流が流れることを抑えることができるため、上部電極E2の直下で発光することがない。つまり、上部電極E2は生じた光の進路を妨げることがない。
【0043】
窒化物半導体発光素子の積層部115は、高抵抗化されていない非高抵抗化部114Dを有し、高抵抗化部114Cの厚さと非高抵抗化部114Dの厚さとが等しい。
この構成よれば、高抵抗化部114C及び非高抵抗化部114Dの厚さの差を抑え得るため、高抵抗化部114C及び非高抵抗化部114Dの厚さの差によって生じる青色や紫外等の比較的短い波長の光の散乱を抑えることができる。
【0044】
窒化物半導体発光素子の製造方法の高抵抗化工程は、プラズマを照射することによって高抵抗化する。
この構成によれば、高抵抗化部形成工程では、積層部115においてプラズマを照射してp型不純物及びn型不純物を不活性化することによって高抵抗化部114Cを形成する。このため積層部115の厚みが薄くなり難いため、積層部115の全体にわたってほぼ同様の厚みにすることができ、青色や紫外等の比較的短い波長の光が積層部115によって散乱し難くすることができる。
【0045】
<実施例5>
実施例5では、非高抵抗化部(すなわち、低抵抗なトンネル接合)を有する領域と、高抵抗化部(すなわち、低抵抗なトンネル接合の一部を高抵抗化させた領域)とを組み合わせることによって、所望の領域のみに電流注入可能な電流狭窄構造面発光レーザのサンプルを作製する製造方法について図5を参照しつつ説明する。
【0046】
実施例5の面発光レーザのサンプルは波長410nmで動作するように設計及び作製した。先ず、GaN基板S2の表面にMOVPE装置を用いて、n型GaNバッファ層(Siの添加濃度:8×1018cm-3)(図示せず)を結晶成長させる。そして、n型GaNバッファ層の表面に40ペアのAlInN/GaN多層膜反射鏡R1をエピタキシャル成長させる。AlInN/GaN多層膜反射鏡R1の最大反射波長は410nmであり、99.8%以上の反射率が実現する。必要に応じてAlInN/GaN多層膜反射鏡R1にSiを添加したり、層の厚み方向に組成を傾斜させて組成傾斜層としたりすることによって、AlInN/GaN多層膜反射鏡R1に導電性を持たせてもよい。
【0047】
次に、n型GaN層210(Siの添加濃度:8×1018cm-3)、発光波長410nmのGaInN多重量子井戸活性層211をエピタキシャル成長させる。n型GaN層210の厚みは、AlInN/GaN多層膜反射鏡R1によって共振器に光が効果的に閉じ込められてその光強度分布の腹(最大値)にGaInN多重量子井戸活性層211が配置されるように調整する。実施例5におけるn型GaN層210の厚みはおよそ470nmである。GaInN多重量子井戸活性層211を形成した後、20nmの厚みのp型AlGaN層(Mgの添加濃度:3×1019cm-3)(図示せず)、及びp型GaN層212(Mgの添加濃度:3×1019cm-3)を引き続きエピタキシャル成長する。
【0048】
次に、p型層形成工程及びn型層形成工程を実行する。具体的には、トンネル接合構造として、p型層形成工程を実行してp型GaN層212の表面に10nmの厚みのp++型GaN層214A(Mgの添加濃度:3×1020cm-3)をエピタキシャル成長させ、次にn型層形成工程を実行して15nmの厚みのn++型GaN層214B(Siの添加濃度:6×1020cm-3)をエピタキシャル形成させる。こうして、低い抵抗値を有するトンネル接合層214を形成するために、p++型GaN層214Aと、n++型GaN層214Bとを積層して積層部215を形成する。ところで、トンネル接合層214は光吸収量が他の層に比べ大きいと考えられることから、共振器内の光強度分布の節(最小値:0)に配置されるようにp型GaN層212の厚さを調整する。実施例5におけるp型GaN層212の厚みはおよそ70nmである。ここまで層構造を形成した後、MOVPE装置からウエハを取り出す。
【0049】
次に、高抵抗化部形成工程を実行する。具体的には、トンネル接合層214の表面(n++型GaN層214Bの表面)において、低い抵抗値を有するトンネル接合層214をそのまま存在させて非高抵抗化部214Dとして電流を流したい領域(例えば、直径およそ8μmの領域)をSiO2マスクで覆う。そして、トンネル接合層214の表面(n++型GaN層214Bの表面)において、低い抵抗値を有するトンネル接合層214を高抵抗化させて高抵抗化部214Cに変化させて電流が流れることを阻止したい領域にはSiO2マスクで覆わず、表面を露出させる。そして、ウエハをプラズマ照射装置に投入し、n++型GaN層214B及びSiO2マスクの表面にプラズマ化したArを照射する。このとき、n++型GaN層214Bは、n++型GaN層214Bの表面Sf3(以下、単に表面Sf3ともいう)にのみプラズマ化したArが照射されることになる。また、このときのプラズマ化したArの照射条件は実施例1と同様の条件(Arのガス流量:50sccm、アンテナ電力:1000W、バイアス電力:100W)である。
【0050】
実施例4ではプラズマ化したArをp++型GaN層114Aの表面に照射していたが、実施例5ではp++型GaN層214Aに積層されたn++型GaN層214Bの表面及びSiO2マスクの表面に照射する。プラズマ化したArは、主としてp++型GaN層214Aに対して作用することによって高抵抗化する効果が得られる。ゆえに、プラズマ化したArをp++型GaN層214Aの表面に直接照射することによって、より少ないプラズマの照射量で高抵抗化部214Cを形成することができる。
【0051】
一方で、実施例5のように厚み10nm程度のp++型GaN層214Aがn++型GaN層214Bの下側に埋め込まれた状態であっても、プラズマの照射時間を適切に調整(長く)することによって確実に高抵抗化部214Cを形成することができる。つまり、実施例5のサンプルの製造方法は、高抵抗化部形成工程がp型層形成工程及びn型層形成工程の後に実行され、n++型GaN層214Bが積層された積層部215が部分的に高抵抗化された高抵抗化部214Cを形成する。こうして、トンネル接合層214は表面Sf3の直下が高抵抗化部214Cになる。こうして、トンネル接合層214の一部(p++型GaN層214Aの一部及びn++型GaN層214Bの一部)を高抵抗化部214Cに変化させる高抵抗化部形成工程を実行する。
【0052】
実施例5では、プラズマ照射装置を用いてn++型GaN層214Bの表面及びSiO2マスクの表面にプラズマ化したArを10分間照射した。その後、フッ酸を用いてSiO2マスクを除去し、トンネル接合層214の表面(n++型GaN層214Bの表面)に有機洗浄や流水洗浄等を施す。こうして、高抵抗化部形成工程(つまり、プラズマ化したArを照射する処理)は、積層部215が部分的に高抵抗化された高抵抗化部214Cを形成すると共に高抵抗化されない非高抵抗化部214Dを形成することによって電流狭窄構造を実現することができる。さらに、高抵抗化部形成工程はプラズマの照射によってトンネル接合層214が取り除かれることもほとんどないため、不必要な段差が形成されることを抑えることができ、青色や紫外等の発光波長の光が散乱することを抑制することができる。
【0053】
次に、高抵抗化部形成工程(つまり、プラズマ化したArを照射する処理)を実行したウエハをMOVPE装置に再び投入し、n型GaN電流拡散層216(Siの添加濃度:8×1018cm-3)と10nmの厚みのn++型GaNコンタクト層(Siの添加濃度:1×1020cm-3)(図示せず)をエピタキシャル成長させた。AlInN/GaN多層膜反射鏡R1以降の総層厚が動作波長の整数倍(ここでは、6λ)になるように、n型GaN電流拡散層216の厚さを調整する。実施例5におけるn型GaN電流拡散層216の厚みはおよそ350nmである。
【0054】
次に、素子として駆動するために、電極形成を行う。先ず、SiO2マスクで覆うことによってプラズマ化したArが照射されなかった領域(非高抵抗化部214D)(すなわち、電流狭窄領域)を中心になるようにおよそ直径40μmのメサ構造を形成する。具体的には、n型GaN層10の表面が露出するようにエッチングを施す。メサ構造の形成が終了した後、埋め込まれた各p型層(p型AlGaN層、p型GaN層212、p++型GaN層214A)を活性化するために、窒素雰囲気下、725℃で30分アニールした。続いて、SiO2絶縁層をn++型GaNコンタクト層の表面と露出したn型GaN層210の表面を除いて素子表面全面に堆積させた(図示せず。)。そして、n型GaN層210の表面、及びn++型GaNコンタクト層の表面の各々にTi/Al/Ti/Auで形成されたリング状の下部電極E1、及びリング状の上部電極E2を蒸着する。
【0055】
上部電極E2は、低い抵抗値を有するトンネル接合層214を高抵抗化させた領域(高抵抗化部214C)の上に配置することで、自身の直下に位置するGaInN多重量子井戸活性層211に電流が流れないようにして、自身の直下に位置するGaInN多重量子井戸活性層211を発光させないようにすることによって、GaInN多重量子井戸活性層211で発光した光を遮らないようにすることができる。そして、メサ構造の中央部の直径およそ8μmの領域(すなわち、低い抵抗値を有するトンネル接合層214が高抵抗化されずに残された領域(非高抵抗化部214D))を覆うように10ペアSiO2/Nb25多層構造によるSiO2/Nb25多層膜反射鏡R2を形成する。
【0056】
これにより、低い抵抗値を有するトンネル接合層214(非高抵抗化部214D)を介して注入された電流によりGaInN多重量子井戸活性層211で発光した光がSiO2/Nb25多層膜反射鏡R2及びAlInN/GaN多層膜反射鏡R1によって形成された共振器を上部電極E2、下部電極E1に遮られることなく周回し、光利得によるレーザ動作が可能になる。すなわち、この素子の上部電極E2及び下部電極E1間に、上部電極E2側がプラスになるように電圧を印加すると、トンネル接合層214が高抵抗化した領域(高抵抗化部214C)からGaInN多重量子井戸活性層211に電流が流れず、中央部の低い抵抗値を有するトンネル接合層214(非高抵抗化部214D)を介してGaInN多重量子井戸活性層211に電流が流れて電流が狭窄され、効率よくレーザ動作する。
【0057】
このように、窒化物半導体発光素子は積層部215を部分的に高抵抗化した高抵抗化部214Cを具備することによって、積層部215を部分的にエッチングして電流を狭窄する方法に比べて、少ない段差で電流を狭窄させることができる、すなわち、段差における光散乱を抑制し、光損失を最小限に抑えることができる。
【0058】
したがって、本発明の窒化物半導体発光素子及び窒化物半導体発光素子の製造方法はトンネル接合を用いた電流狭窄構造を採用しつつ、短波長領域の発光波長の光の散乱を抑えることができる。
【0059】
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施例1~5に限定されるものではなく、例えば次のような実施例も本発明の技術的範囲に含まれる。
(1)実施例1~5では、トンネル接合に段差を設けずに高抵抗化する手法として、プラズマ化したArを用いたが、酸素や窒素等をプラズマ化して照射してもよい。この場合、照射条件はArを用いる場合と異なるが、トンネル接合層を高抵抗化させることが可能である。また、プラズマ化したArを照射することによって、p++型GaN層の厚みやn++型GaN層の厚みが僅かに薄くなってもよい。この場合、積層部は、高抵抗化部の厚さが非高抵抗化部の厚さよりも薄くなるが、トンネル接合そのものを部分的にエッチングして除去して電流狭窄構造を形成する従来の手法を用いる場合に比べて、青色や紫外等の発光波長における光散乱によるロスを抑制する効果は大きい。
(2)実施例1~5では、GaNを用いたトンネル接合層を例示しているが、GaInNやAlGaN、AlInN等の他の窒化物を用いたトンネル接合にも適用できる。
(3)実施例1~5では、素子としてLEDや面発光レーザを例示したが、端面レーザ等の電流狭窄が必要な全ての素子にも適用することができる。
(4)実施例1~5では、p型不純物としてMgを用いているが、p型不純物である、Zn,Be、Ca、Sr、及びBa等であってもよい。
(5)実施例1~5では、n型不純物としてSiを用いているが、n型不純物である、Ge等であってもよい。
(6)実施例1~5では、活性層の表面にp型AlGaN層を積層して形成することを開示しているが、活性層の表面にp型AlGaN層を積層して形成しなくても良い。
(7)実施例4、5では、非高抵抗化部を円形に形成しているが、より大きな領域に電流を流したい場合にはSiO2マスクの直径を大きくし、より狭い領域に電流を流したい場合には小さくして非高抵抗化部を形成すればよい。また、非高抵抗化部の外形は、必要に応じて円形状だけでなく長方形等の多角形状を含む任意の形状にすることができる。
【符号の説明】
【0060】
14,114,214…トンネル接合層
14A,114A,214A…p++型GaN層(p型層)
14B,114B,214B…n++型GaN層(n型層)
14C,114C,214C…高抵抗化部
15,115,215…積層部
114D,214D…非高抵抗化部
E1…下部電極(電極)
E2…上部電極(電極)
図1
図2
図3
図4
図5