(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-19
(45)【発行日】2023-10-27
(54)【発明の名称】刺繍体の製造方法
(51)【国際特許分類】
D04D 7/04 20060101AFI20231020BHJP
D05C 7/10 20060101ALI20231020BHJP
【FI】
D04D7/04
D05C7/10
(21)【出願番号】P 2019217690
(22)【出願日】2019-12-02
【審査請求日】2022-11-15
(73)【特許権者】
【識別番号】514170765
【氏名又は名称】有限会社ナカムラマーク
(74)【代理人】
【識別番号】100121773
【氏名又は名称】相原 正
(72)【発明者】
【氏名】中村 哲也
【審査官】川口 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-012746(JP,A)
【文献】実開昭55-103289(JP,U)
【文献】特開昭47-035269(JP,A)
【文献】特開平9-59865(JP,A)
【文献】特開平11-286859(JP,A)
【文献】特開平5-321073(JP,A)
【文献】特開2006-104583(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D04D 7/04
D05C 7/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性基布にホットメルトシートを重ねる重畳工程と、
前記ホットメルトシートを重畳した前記水溶性基布に所定の図柄の刺繍を施す刺繍工程と、
前記刺繍を施した前記水溶性基布を熱プレス機によりヒートプレスし、前記ホットメルトシートで前記刺繍を熱融着するヒートプレス工程と、
前記ヒートプレス工程の前又は後に前記刺繍以外の部分の前記ホットメルトシートを除去するホットメルトシート除去工程と、
前記ヒートプレス工程後に前記水溶性基布を水に浸け、前記刺繍以外の部分の前記水溶性基布を除去する水溶性基布除去工程と、
を備えることを特徴とする刺繍体の製造方法。
【請求項2】
前記重畳工程は、前記水溶性基布の下側に前記ホットメルトシートを重ねることを特徴とする請求項1記載の刺繍体の製造方法。
【請求項3】
前記ホットメルトシート除去工程は、前記ヒートプレス工程の前に行われることを特徴とする請求項1又は2記載の刺繍体の製造方法。
【請求項4】
前記水溶性基布除去工程の後に、ホットカッターで前記刺繍の形状を整えることを特徴とする請求項1乃至3何れか1項記載の刺繍体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、刺繍体の製造方法に関する。
に関する。
【背景技術】
【0002】
刺繍は、基礎となる布である基布に刺繍糸で装飾を施す技術であり、ワッペン等で多く使用されている。しかし、刺繍は、基布と刺繍糸との組合せで作成されるものであるため、基布から刺繍の部分のみを取り出すことが難しく、刺繍の部分のみをアクセサリー等として使用するのが一般的に困難である。
【0003】
これに対して、刺繍の一種として、化学処理によって基布を溶かして、刺繍糸の刺繍部分だけを取り出すケミカルレースという技術が提供されており、例えば、下記特許文献1,2に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平2-53980号公報
【文献】実開昭51-24381号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1,2に開示されたケミカルレースの刺繍は、基布が無くなっているため刺繍糸がばらばらになって刺繍が崩れ易く、特に、細い糸を使った場合には、より刺繍が崩れ易いという問題がある。
【0006】
本願発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、基布を取り除いても刺繍糸がばらばらになり難い刺繍体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための本発明に係る刺繍体の製造方法は、水溶性基布にホットメルトシートを重ねる重畳工程と、前記ホットメルトシートを重畳した前記水溶性基布に所定の図柄の刺繍を施す刺繍工程と、前記刺繍を施した前記水溶性基布を熱プレス機によりヒートプレスし、前記ホットメルトシートで前記刺繍を熱融着するヒートプレス工程と、前記ヒートプレス工程の前又は後に前記刺繍以外の部分の前記ホットメルトシートを除去するホットメルトシート除去工程と、前記ヒートプレス工程後に前記水溶性基布を水に浸け、前記刺繍以外の部分の前記水溶性基布を除去する水溶性基布除去工程と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る刺繍体の製造方法によれば、刺繍を構成する刺繍糸がホットメルト接着剤により固められるため、ばらばらに崩れにくい刺繍体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係る刺繍アクセサリーの斜視図である。
【
図2】
図2は、本発明の実施形態に係る刺繍体の製造方法を示すフローチャートである。
【
図3】
図3は、本発明の実施形態に係る刺繍作業のイメージ図である。
【
図4】
図4は、本発明の実施形態に係る刺繍作業のイメージ図である。
【
図5】
図5は、本発明の実施形態に係る刺繍体の製造方法を説明するための図である。
【
図6】
図6は、本発明の実施形態に係る刺繍体の製造方法を説明するための図である。
【
図7】
図7は、本発明の実施形態に係る刺繍体の製造方法を説明するための図である。
【
図8】
図8は、本発明の実施形態に係る刺繍体の製造方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。本実施形態に係る刺繍アクセサリー1は、刺繍体5と、刺繍体5を身に付けたりするための金属部品8とを備えている。本実施形態では、刺繍アクセサリー1は、ピアスであり、金属部品8は、丸カンとピアスピンである。
【0011】
ここで、いわゆる刺繍は、基礎となる布である基布に刺繍糸を縫うことで作られ、基布と刺繍糸とから構成されるが、本実施形態では、水溶性基布10に刺繍糸21,22を縫って刺繍20を形成後、水溶性基布10を取り除いて略刺繍20のみを残すことを特徴とする。
【0012】
特に、本実施形態では、水溶性基布10にホットメルトシート15を重畳させて刺繍することで、水溶性基布10を取り除いた後の刺繍体5をばらばらに崩れ難くしたことを特徴としている。
【0013】
続いて、刺繍アクセサリーの製造方法について説明する。
図2のフローチャートは、刺繍アクセサリーの製造方法の手順を示している。まず、S1において、基礎となる水溶性基布10とホットメルトシート15を重ねる。このとき、下側にホットメルトシート15、上側に水溶性基布10を設置する。
【0014】
ここで、水溶性基布10は、水溶性不織布シートであり、水に浸けると繊維がばらばらに分解し、水に溶ける性質を有する。また、ホットメルトシート15は、厚さ50μmのナイロン製ホットメルトのシートである。
【0015】
もちろん、水溶性基布10やホットメルトシート15の材料は適宜変更可能であり、水溶性基布10は、水に溶ける水溶性糸から形成された織物等、水溶性の布であれば、適宜他の素材を採用することができる。また、ホットメルトシート15の素材も、ウレタン、ポリエステル、EVA系等、ホットメルト接着剤として使用される他の素材を適宜用いることができる。ホットメルトシート15の素材としては、非水溶性の素材を用いることが望ましい。
【0016】
続いて、S2では、ホットメルトシート15を下側に重ねた水溶性基布10を刺繍機にセットして水溶性基布10に所望の図柄を刺繍する刺繍作業を行う。刺繍機にセットする刺繍糸21,22としては、刺繍上糸21及び刺繍下糸22の双方にポリエステル糸を用いている。刺繍糸21,22の素材は、水に溶けない不水溶性であって、熱にも強い耐熱性の素材であれば良く、ポリエステル以外の素材を適宜使用することができる。
【0017】
図3及び
図4は、刺繍作業のイメージを示す図であり、実線が刺繍上糸21を示し、一点鎖線が刺繍下糸22を示している。
図3は、表側である上方から見た斜視図であり、
図4は、裏側である下方から見た底面図である。
【0018】
よって、
図3では、上側(表側)に網掛けで示す水溶性基布10が設置され、下側(裏側)にランダムドットパターンで示すホットメルトシート15が設置されており、
図4では、下側のホットメルトシート15が表れている。
【0019】
図3及び
図4に示すように、刺繍20は、刺繍上糸21と刺繍下糸22とを縫い合わせて構成される。通常、刺繍上糸21は、刺繍針40に導かれて上方から水溶性基布10及びホットメルトシート15の双方を貫通するため、水溶性基布10の表側及び裏側の双方に露出して存在するが、刺繍下糸22は、水溶性基布10の裏側のみに存在する。
【0020】
図5は、S2の刺繍作業が完了した後の状態を示す図であり、表側から見た図である。同図では、所定の同じデザインの刺繍20が6箇所に形成されており、表側に位置する水溶性基布10が現れている。
【0021】
続いて、S3において、刺繍20が施された部分以外のホットメルトシート15を、ピンセットを使って除去する。
図6は、S3の除去工程を示す図であり、裏側から見た図である。
【0022】
ホットメルトシート15は、水溶性基布10の下側(裏側)に位置しているため、水溶性基布10の裏側からホットメルトシート15にアクセスし、ピンセット等を使って手作業でホットメルトシート15を摘まんで除去する。
【0023】
なお、S2の刺繍作業工程において、刺繍20の刺繍上糸21を案内する刺繍針40が水溶性基布10及びホットメルトシート15を貫通している。よって、ホットメルトシート15の刺繍20が形成されている部分には多数の小孔が形成されている。
【0024】
このため、水溶性基布10の裏側からホットメルトシート15にアクセスし、ピンセット等を使って刺繍20以外の部分のホットメルトシート15を摘まんで引っ張ることで、ホットメルトシート15が刺繍20の外縁に沿って形成されている上記小孔の所で容易に破れ、比較的簡単に取り除くことができる。
【0025】
S3では、刺繍20以外の部分の裏側表面に露出しているホットメルトシート15を全て取り除く。もちろん、ホットメルトシート15の刺繍20以外の部分の除去作業は、ピンセット以外の器具を使って手動で行っても良いし、機械により、自動で行うようにしても良い。
【0026】
続いて、S4では、熱プレス機を用いて、S3でホットメルトシート15を取り除いた物をヒートプレス(ホットプレス)する。具体的には、温度150℃で40秒間プレスする。一般に、ホットメルトシート15をヒートプレスすると、熱融着が行われる。本実施形態では、水溶性基布10の裏側表面に露出するホットメルトシート15は除去され、ホットメルトシート15が残っているのは、水溶性基布10の裏側面と刺繍20との間に挟まれた部分だけである。
【0027】
したがって、S4においてヒートプレスを行うと、刺繍20の中に隠れているホットメルトシート15が、加熱溶融され、さらに、ヒートプレス後に冷却硬化すると、接触する刺繍20や水溶性基布10に熱融着する。より詳細には、刺繍20において、刺繍20を構成する上糸21及び下糸22のうち、水溶性基布10の裏側に位置する上糸21及び下糸22全体にホットメルトシート15が熱融着し、硬化することで、裏側の上糸21及び下糸22を強固に固める。
【0028】
次に、S5に進み、ヒートプレス後、常温まで冷却した物を水又はお湯に浸け、水溶性である水溶性基布10の刺繍20以外の部分を除去する。例えば、水溶性基布10の浸漬による除去は、水又はお湯に浸けた状態の上記物を手作業で揉むことで行われ、ホットメルトシート15と熱溶着して刺繍20の内部に若干残った部分を除き、水溶性基布10の大部分が除去される。
図7は、S5の水溶性基布10の除去作業を示す図である。
【0029】
このように、S3及びS5により、刺繍20以外の部分の水溶性基布10及びホットメルトシート15が除去され、略刺繍20のみが残った状態となり、刺繍20を構成する上糸21及び下糸22の隙間や内部に、硬化したホットメルトシート15や水溶性基布10の欠片が若干少量残っているだけである。本実施形態では、刺繍20と刺繍20の内部等に若干残っている少量の水溶性基布10やホットメルトシート15を合わせて刺繍体5と称する。
【0030】
S6では、刺繍体5を自然乾燥させて水分を飛ばし、乾燥後、S7では、ホットカッターを使って刺繍体5の形状を整える。
図8は、S7による整形後の刺繍体5の正面図である。続いて、S8に進み、刺繍体5を身体等に取り付けるための丸カン等の金属部8を取り付けて仕上げることで、刺繍アクセサリー1が完成する。
【0031】
以上、本実施形態によれば、水溶性基布10の裏側にホットメルトシート15を重ねてから刺繍20を形成すると共に、刺繍20以外の部分のホットメルトシート15の除去、ヒートプレス、水溶性不織布シートの水溶除去を行うことで、刺繍20を構成する刺繍上糸21及び刺繍下糸22がホットメルトシート15により熱融着された刺繍体5を製造することができ、刺繍後に刺繍糸21,22の崩れにくい、頑丈な刺繍体5を提供することができる。
【0032】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明の実施の形態は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲内で種々の変形が可能である。例えば、刺繍アクセサリーを構成する各部材の形状やサイズは適宜変形可能であり、また、本発明により製造される刺繍体はアクセサリー以外の用途に使用することもできる。
【0033】
また、上記実施形態では、基布を全て水溶性とし、刺繍体の製造時に略全ての水溶性基布を除去したが、部分的に不溶性の基布を用い、一部基布を残した刺繍体としても良い。
【0034】
また、上記実施形態では、水溶性基布の下側にホットメルトシートを設置して刺繍を行ったが、水溶性基布の上側にホットメルトシートを重ねて刺繍を行っても良い。但し、基布の上側には刺繍上糸しか存在しないため、刺繍体をより頑丈にするためには、刺繍上糸及び刺繍下糸の存在する水溶性基布の下側にホットメルトシートを重ねるのが望ましい。また、水溶性基布の下側にホットメルトシートを設置して刺繍を行うことで、刺繍体の表面側にホットメルトがはみ出すことも防止できる。
【0035】
また、上記実施形態では、刺繍以外の部分のホットメルトシートの除去をヒートプレス工程の前に行っているが、ヒートプレス工程の後に行うようにしても良い。但し、ヒートプレス後に行う場合には、加熱溶融のホットメルトシートが完全に冷却硬化する前に除去するのが望ましい。
【符号の説明】
【0036】
1 刺繍アクセサリー
5 刺繍体
8 金属部品
10 水溶性基布
15 ホットメルトシート
20 刺繍
21 刺繍上糸
22 刺繍下糸
40 刺繍針