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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-19
(45)【発行日】2023-10-27
(54)【発明の名称】樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 77/00 20060101AFI20231020BHJP
   C08L 23/12 20060101ALI20231020BHJP
   C08L 23/26 20060101ALI20231020BHJP
   C08L 25/10 20060101ALI20231020BHJP
【FI】
C08L77/00
C08L23/12
C08L23/26
C08L25/10
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020010536
(22)【出願日】2020-01-27
(65)【公開番号】P2021116348
(43)【公開日】2021-08-10
【審査請求日】2022-10-04
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】小島 弥朗
(72)【発明者】
【氏名】野末 章浩
(72)【発明者】
【氏名】福島 直弥
(72)【発明者】
【氏名】中島 啓造
【審査官】宮内 弘剛
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-506630(JP,A)
【文献】特表2018-525492(JP,A)
【文献】国際公開第2018/135648(WO,A1)
【文献】特開2017-226765(JP,A)
【文献】特表2002-532601(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K
C08L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド27~38質量%、ポリプロピレン6~20質量%、マレイン酸変性スチレン-ブタジエン系エラストマー7~17質量%、比重0.2~0.7のバルーン系フィラー20~29質量%、残部として可塑剤及び難燃剤から選ばれる少なくとも1種を含む樹脂組成物。
【請求項2】
前記ポリアミドが30~34質量%、前記ポリプロピレンが13~17質量%、前記マレイン酸変性スチレン-ブタジエン系エラストマーが7~9質量%、前記バルーン系フィラーが26~29質量%である請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記ポリアミドが31~33質量%、前記ポリプロピレンが14~16質量%、前記マレイン酸変性スチレン-ブタジエン系エラストマーが7~9質量%、前記バルーン系フィラーが27~28質量%である請求項2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記ポリアミドが31~33質量%、前記ポリプロピレンが6~8質量%、前記マレイン酸変性スチレン-ブタジエン系エラストマーが15~17質量%、前記バルーン系フィラーが27~28質量%である請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記可塑剤が1~2.2質量%、前記難燃剤が12.6~15.2質量%である請求項1~4のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記ポリアミドの質量平均分子量が1万~50万である請求項1~5のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
前記ポリプロピレンの質量平均分子量が1万~50万である請求項1~6のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
前記可塑剤がスルホンアミド類、オキシ安息香酸エステル類、及び多環芳香族化合物から選ばれる少なくとも1種類である請求項1~7のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、ポリアミド30~80質量%、変性ポリオレフィン5~60質量%、未変性ポリオレフィン、ガラスビーズ等の充填剤、難燃剤等の添加剤を含有する樹脂組成物を開示する。ポリアミドをマトリックスとし、変性ポリオレフィンをシェル、未変性ポリオレフィンをコアとするコア-シェル型粒子構造となるものである。そして、寸法安定性、耐衝撃性等を改善する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平9-157519号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1は、所望の難燃性、曲げ弾性率、及び軽量性という各機能の両立を図ることができなかった。
本開示の目的は、難燃性、曲げ弾性率、及び軽量性を兼備する樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示における樹脂組成物は、ポリアミド27~38質量%、ポリプロピレン6~20質量%、マレイン酸変性スチレン-ブタジエン系エラストマー7~17質量%、比重0.2~0.7のバルーン系フィラー20~29質量%、残部として可塑剤及び難燃剤から選ばれる少なくとも1種を含む。
【発明の効果】
【0006】
本開示における樹脂組成物によれば、難燃性、曲げ弾性率、及び軽量性を兼備できる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、実施の形態を詳細に説明する。但し、必要以上に詳細な説明を省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明、または、実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。
【0008】
なお、以下の説明は、当業者が本開示を十分に理解するために提供されているのであって、これらにより特許請求の範囲に記載の主題を限定することを意図していない。
(実施の形態1)
以下、実施の形態1を説明する。
【0009】
[1-1.構成]
本実施の形態に係る樹脂組成物は、ポリアミド27~38質量%、ポリプロピレン6~20質量%、マレイン酸変性スチレン-ブタジエン系エラストマー7~17質量%、比重0.2~0.7のバルーン系フィラー20~29質量%、残部として可塑剤及び難燃剤から選ばれる少なくとも1種を含んでいる。以下、ポリアミド、ポリプロピレン、マレイン酸変性スチレン-ブタジエン系エラストマー、バルーン系フィラー、可塑剤、及び難燃剤について順に説明する。
【0010】
[1-2.ポリアミド]
ポリアミドの種類は、特に限定されない。ポリアミドの具体例としては、例えばナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン46、ナイロン6T(T:テレフタル酸成分)、ナイロン9T、ナイロンMXD6(MXD:m-キシリレンジアミン成分)等の脂肪族ポリアミド等が挙げられる。これらの中でも成形性、機械的特性等に優れる観点からナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12が好ましい。
【0011】
これらのポリアミドは、一種類のポリアミドを単独で使用してもよいし、又は二種以上のポリアミドを適宜組み合わせて使用してもよい。
ポリアミドの質量平均分子量(Mw)は、特に限定されないが、可塑性を向上させる観点、特に可塑剤を添加した際の可塑性を向上させる観点から、好ましくは1万~50万である。質量平均分子量(Mw)は、GPC法により求めることができる。
【0012】
樹脂組成物中におけるポリアミドの質量比率は、27~38質量%であり、好ましくは30~34質量%であり、より好ましくは31~33質量%である。質量比率をかかる範囲内に規定することにより難燃性、曲げ弾性率、及び軽量性を兼備できる。
【0013】
[1-3.ポリプロピレン(PP)]
ポリプロピレンは、未変性のポリプロピレンが用いられる。ポリプロピレンの概念には、ホモポリマー、ランダムコポリマー、及びブロックコポリマーが含まれるものとする。ホモポリマーは、プロピレンの単独重合体である。ランダムコポリマー及びブロックコポリマーは、プロピレンと、ポリプロピレン以外のα-ポリオレフィンとの共重合体である。α-ポリオレフィンの具体例としては、例えばエチレン、1-ブテン等が挙げられる。ランダムコポリマー及びブロックコポリマー中におけるポリプロピレン以外のα-ポリオレフィンのモル比率は、ポリプロピレンの特性を有効に発現する観点から20モル%以下が好ましい。
【0014】
ポリプロピレンの質量平均分子量(Mw)は、特に限定されないが、好ましくは1万~50万の範囲内であり、より好ましくは4.5万~30万の範囲内である。ポリプロピレンの質量平均分子量(Mw)が1万以上であることで、成形品の剛性の低下を抑制できる。ポリプロピレンの質量平均分子量(Mw)が50万以下であることで、成形時における樹脂組成物の流動性低下を防止できる。流動性低下を防止できれば、成形時に金型に樹脂が行きわたり易くなるため、薄型又は複雑な形状の部材であっても良好に成形できる。また、樹脂の溶融混練時又は射出成形時の圧力上昇を抑えることができるため、圧力上昇に伴うバルーン系フィラーの破壊を抑制することができる。質量平均分子量(Mw)は、GPC法により求めることができる。
【0015】
樹脂組成物中におけるポリプロピレンの質量比率は、6~20質量%であり、好ましくは13~17質量%、より好ましくは14~16質量%である。質量比率をかかる範囲内に規定することにより難燃性、曲げ弾性率、及び軽量性を兼備できる。また、さらに衝撃強度を向上させる場合、好ましくは6~8質量%配合される。質量比率をかかる範囲内に規定することによりマレイン酸変性スチレン-ブタジエン系エラストマーの配合量とのバランスを図り衝撃強度を向上できる。
【0016】
[1-4.マレイン酸変性スチレン-ブタジエン系エラストマー]
マレイン酸変性スチレン-ブタジエン系エラストマーを構成するスチレンとしては、ハロゲン化スチレンを用いてもよく、ブタジエンとしては、イソプレン(2-メチル-1,3-ブタジエン)を用いてもよい。また、ブタジエン骨格は、水添によりオレフィンとして構成されてもよい。スチレン-ブタジエン系エラストマーは、マレイン酸により変性されている。それにより、ポリアミド、ポリプロピレン、バルーン系フィラーの相溶性を向上させる。
【0017】
マレイン酸変性スチレン-ブタジエン系エラストマーを構成するスチレン-ブタジエン系エラストマーの具体例としては、例えばスチレン-ブタジエン共重合体、スチレン-イソプレン共重合体、スチレン-ブタジエン-スチレン共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体、スチレン-イソプレン-ブタジエン共重合体、スチレン-ブタジエン-ブチレン-スチレン共重合体、スチレン-エチレン-プロピレン-スチレン共重合体、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレン共重合体(SEBS)、スチレン-エチレン-ブタジエン-スチレン共重合体、スチレン-エチレン-エチレン-プロピレン-スチレン共重合体、スチレン-イソプレン-スチレン共重合体、スチレン(ブタジエン/イソプレン)スチレン共重合体等が挙げられる。これらの中で、本開示における樹脂組成物の効果に優れる観点からマレイン酸変性スチレン-エチレン-ブチレン-スチレン共重合体(SEBS)が好ましい。
【0018】
これらのマレイン酸変性スチレン-ブタジエン系エラストマーは、一種類のマレイン酸変性スチレン-ブタジエン系エラストマーを単独で使用してもよいし、又は二種以上のマレイン酸変性スチレン-ブタジエン系エラストマーを適宜組み合わせて使用してもよい。
【0019】
マレイン酸変性スチレン-ブタジエン系エラストマーの市販品としては、例えばタフテックMシリーズ(旭化成社製)等が挙げられる。
樹脂組成物中におけるマレイン酸変性スチレン-ブタジエン系エラストマーの質量比率は、7~17質量%であり、好ましくは7~9質量%である。質量比率をかかる範囲内に規定することにより難燃性、曲げ弾性率、及び軽量性を兼備できる。また、さらに衝撃強度を向上させる場合、好ましくは15~17質量%配合される。質量比率をかかる範囲内に規定することによりポリプロピレンの配合量とのバランスを図り衝撃強度を向上できる。
【0020】
[1-5.バルーン系フィラー]
バルーン系フィラーは、樹脂組成物を軽比重にできる。一般的に熱可塑性樹脂としてのポリアミド樹脂、ポリプロピレン樹脂等は、比重が0.90以上ある。難燃性を向上させるために難燃剤を相当量添加すると、樹脂組成物の比重が0.1程度上昇する。樹脂組成物の見かけ上の比重を低下させるために、本開示では軽比重構造部材であるバルーン系フィラーを樹脂組成物に溶融混錬した。
【0021】
バルーン系フィラーとしては、無機系バルーンフィラー、有機質バルーンフィラーのいずれを採用してもよい。無機系バルーンフィラーの具体例としては、例えば中空ガラスビーズ等のガラスバルーン、シラスバルーン、アルミナバルーン(パーライトバルーン)、シリカ-アルミナバルーン(フライアッシュバルーン)、カーボンバルーン、ジルコニアバルーン等が挙げられる。有機質バルーンフィラーの具体例としては、例えばフェノール樹脂バルーン等の熱硬化性有機質バルーン、アクリロニトリルバルーン等の熱可塑系有機質バルーン等が挙げられる。これらの中で、製造時における成形しやすさの観点から、中空ガラスビーズが好ましい。
【0022】
これらのバルーン系フィラーは、一種類のバルーン系フィラーを単独で使用してもよいし、又は二種以上のバルーン系フィラーを適宜組み合わせて使用してもよい。
バルーン系フィラーの比重は、0.2~0.7、好ましくは0.3~0.6、より好ましくは0.4~0.5である。バルーン系フィラーの比重が0.2以上の場合、バルーン系フィラーの耐圧強度を向上できる。また、バルーン系フィラーの比重が0.7以下の場合、樹脂組成物の軽量化を図ることができる。
【0023】
バルーン系フィラーの耐圧強度は、特に限定されないが、好ましくは40~190MPa、より好ましくは110~190MPaである。かかる範囲に規定することにより、バルーン系フィラーの破壊を防止し、さらに樹脂組成物の軽量化を図ることができる。
【0024】
樹脂組成物中におけるバルーン系フィラーの質量比率は、20~29質量%であり、好ましくは26~29質量%、より好ましくは27~28質量%である。質量比率をかかる範囲内に規定することにより難燃性、曲げ弾性率、及び軽量性を兼備できる。
【0025】
[1-6.可塑剤]
ポリアミドに適用できる可塑剤であれば、特に限定されない。可塑剤として、例えば芳香族又は脂肪族スルホンアミド等のスルホンアミド類、オキシ安息香酸エステル類、多環芳香族化合物、N-アルキル脂肪族スルホンアミド類、オルト燐酸塩類、脂肪族カルボン酸のエステル類、ラクタム類、ラクトン類、環状ケトン類、オキシカルボン酸と酸化アルキレンとの付加物、炭酸アミルシクロヘキサノール及び炭酸テトラヒドロフルフリル類、塩素化芳香族炭化水素及びそのエーテル類、ポリアミドと酸化エチレンとの付加物、ウレタンとホルムアルデヒドとの縮合物、イソシアネートとポリオキシ化合物との縮合物、無定形ポリアミド類等が挙げられる。
【0026】
スルホンアミド類の具体例としては、例えばN-ブチルベンゼンスルホンアミド、N-ヘキシルベンゼンスルホンアミド、N-デシルベンゼンスルホンアミド、N-シクロヘキシルベンジルスルホンアミド等、さらにはそれらのトルエン誘導体として、p-トルエンスルホンアミド、N-エチル-p-トルエンスルホンアミド、N-エチル-o,p-トルエンスルホンアミド(o,p混合物)、N-ブチル-p-トルエンスルホンアミド、N-ヘキシル-p-トルエンスルホンアミド、N-デシル-p-トルエンスルホンアミド、N-シクロヘキシル-p-トルエンスルホンアミド等が挙げられる。
【0027】
オキシ安息香酸エステル類の具体例としては、例えばp-オキシ安息香酸エステル等が挙げられる。
多環芳香族化合物の具体例としては、例えばフルオレン誘導体等が挙げられる。
【0028】
オルト燐酸塩類の具体例として、例えばモノオクチルジフェニル燐酸塩、クレシルフェニル燐酸塩、キシレニルジフェニル燐酸塩等が挙げられる。
脂肪族カルボン酸のエステル類の具体例として、例えばアゼライン酸ジオクチル、セバシン酸ジオクチル等が挙げられる。
【0029】
これらの可塑剤の中で、ポリアミドとの相溶性に優れ、樹脂組成物の可塑化付与効果に優れる観点から、スルホンアミド類、オキシ安息香酸エステル類、多環芳香族化合物が好ましい。
【0030】
これらの可塑剤は、一種類の可塑剤を単独で使用してもよいし、又は二種以上の可塑剤を適宜組み合わせて使用してもよい。
樹脂組成物中における可塑剤の質量比率は、好ましくは1~2.2質量%であり、より好ましくは1.5~2.0質量%である。可塑剤の質量比率が1質量%以上の場合、樹脂組成物に可塑化を付与できる。また、可塑剤の質量比率が2.2質量%以下の場合、表面外観を良好に保つことができる。
【0031】
[1-7.難燃剤]
難燃剤としては、例えばハロゲン系難燃剤、リン酸エステル系難燃剤及び有機リン系難燃剤等のリン系難燃剤、金属塩系難燃剤、シリコーン系難燃剤、ポリリン酸アンモニウム系難燃剤、トリアジン系難燃剤等が挙げられる。
【0032】
ハロゲン系難燃剤の具体例としては、例えばデカブロモジフェニルエーテル、テトラブロモビスフェノールA、テトラブロモビスフェノールS、1,2-ビス(2’,3’,4’,5’,6’-ペンタブロモフェニル)エタン、1,2-ビス(2,4,6-トリブロモフェノキシ)エタン、2,4,6-トリス(2,4,6-トリブロモフェノキシ)-1,3,5-トリアジン、2,6-または2,4-ジブロモフェノール、臭素化エポキシ樹脂、臭素化ポリカーボネート、臭素化ポリスチレン、臭素化ポリアクリレート、エチレンビステトラブロモフタルイミド、ヘキサブロモシクロドデカン、ヘキサブロモベンゼン、ペンタブロモベンジルアクリレート、2,2-ビス[4’(2’’,3’’-ジブロモプロポキシ)-,3’,5’-ジブロモフェニル]-プロパン、ビス(3,5-ジブロモ-4-ジブロモプロポキシフェニル)スルホン、トリス(2,3-ジブロモプロピル)イソシアヌレート等の臭素含有化合物を含む臭素系難燃剤、塩素化パラフィン、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン、パークロロペンタシクロデカン、ドデカクロロドデカヒドロジメタノジベンゾシクロオクテン、ドデカクロロオクタヒドロジメタノジベンゾフラン等の塩素含有化合物を含む塩素系難燃剤等が挙げられる。ここで比較的低添加量で難燃効果を発揮する観点から、1,2-ビス(2’,3’,4’,5’,6’-ペンタブロモフェニル)エタン(エチレンビス(ペンタブロモフェニル))が好ましい。
【0033】
リン系難燃剤の具体例としては、例えばトリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、キシレニルジフェニルホスフェート、2-エチルヘキシルジフェニルホスフェート等の芳香族リン酸エステル、モノホスフェート化合物、ホスフェートオリゴマー化合物等のリン酸エステル系化合物、トリスジクロロプロピルホスフェート、トリスクロロエチルホスフェート、トリスクロロプロピルホスフェート等の含ハロゲンリン酸エステル化合物、縮合リン酸エステル化合物、ポリリン酸塩類、赤リン系化合物、ホスフィネート化合物、ホスホネート化合物、ホスホニトリルオリゴマー化合物、ホスホン酸アミド化合物等が挙げられる。
【0034】
金属塩系難燃剤の具体例としては、例えばアンチモン酸ナトリウム、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン等の一部の無機塩をハロゲン系難燃剤と併用し、難燃助剤として用いるもの、有機スルホン酸アルカリ(土類)金属塩、ホウ酸金属塩系難燃剤、錫酸金属塩系難燃剤等の有機金属塩系難燃剤等が挙げられる。
【0035】
これらの難燃剤は、一種類の難燃剤を単独で使用してもよいし、又は二種以上の難燃剤を適宜組み合わせて使用してもよい。
また、別途、滴下防止剤(フィブリル形成能を有するポリテトラフルオロエチレン等)等を配合し、難燃剤と併用してもよい。
【0036】
樹脂組成物中における難燃剤の質量比率は、好ましくは12.6~15.2質量%であり、より好ましくは13~15質量%である。難燃剤の質量比率が12.6質量%以上の場合、樹脂組成物に難燃性を付与できる。また、難燃剤の質量比率が15.2質量%以下の場合、樹脂組成物の軽量化を図ることができる。
【0037】
[1-8.樹脂組成物の製造方法]
樹脂組成物(ペレット)は、次のように乾式法により製造できる。すなわち、ポリアミド、ポリプロピレン、マレイン酸変性スチレン-ブタジエン系エラストマー、比重0.2~0.7のバルーン系フィラー、可塑剤及び難燃剤から選ばれる少なくとも1種を所定の配合で、2軸混練押出機等の混練押出機内に投入する。混練押出機内でポリアミド、ポリプロピレン、マレイン酸変性スチレン-ブタジエン系エラストマーが溶融する。可塑剤によって、ポリアミドの流動性が向上し、せん断応力を低減させた状態で、溶融した混合樹脂内にバルーン系フィラー及び難燃剤が分散する。さらに混練押出機内でバルーン系フィラー及び難燃剤がせん断作用を受けて溶融混合樹脂中に均一に分散される。混練押出機から押し出された溶融混練物は、例えば水冷され、ペレットとなる。ペレットの寸法は特に限定されない。
【0038】
[1-9.成形品の製造方法]
樹脂組成物(ペレット)を成形材料として、射出成形、押出成形、注型成形等の公知の成形方法を使用することにより、各種の成形品を製造できる。樹脂組成物は、ポリアミド、ポリプロピレン、マレイン酸変性スチレン-ブタジエン系エラストマー、バルーン系フィラー、残部として可塑剤及び難燃剤から選ばれる少なくとも1種を含有しているので、得られた成形品は、難燃性、曲げ弾性率、及び軽量性を兼備している。
【0039】
[1-10.効果等]
以上のように、本実施の形態の樹脂組成物において、ポリアミド27~38質量%、ポリプロピレン6~20質量%、マレイン酸変性スチレン-ブタジエン系エラストマー7~17質量%、比重0.2~0.7のバルーン系フィラー20~29質量%、残部として可塑剤及び難燃剤から選ばれる少なくとも1種を含んでいる。これにより、難燃性、曲げ弾性率、及び軽量性を兼備できる。
【0040】
また、本実施の形態において、ポリアミドが30~34質量%、ポリプロピレンが13~17質量%、マレイン酸変性スチレン-ブタジエン系エラストマーが7~9質量%、バルーン系フィラーが26~29質量%であってもよい。これにより、より優れた難燃性、曲げ弾性率、及び軽量化を図ることができる。
【0041】
また、本実施の形態において、ポリアミドが31~33質量%、ポリプロピレンが14~16質量%、マレイン酸変性スチレン-ブタジエン系エラストマーが7~9質量%、バルーン系フィラーが27~28質量%であってもよい。これにより、さらに優れた難燃性、曲げ弾性率、及び軽量化を図ることができる。
【0042】
また、本実施の形態において、ポリアミドが31~33質量%、ポリプロピレンが6~8質量%、マレイン酸変性スチレン-ブタジエン系エラストマーが15~17質量%、バルーン系フィラーが27~28質量%であってもよい。これにより、ポリプロピレンの配合量とマレイン酸変性スチレン-ブタジエン系エラストマーの配合量とのバランスを図り衝撃強度を向上できる。
【0043】
また、本実施の形態において、可塑剤が1~2.2質量%、難燃剤が12.6~15.2質量%であってもよい。これにより、樹脂組成物の表面外観を良好に保ちながら、可塑性を向上できる。また、樹脂組成物の軽量化を図りながら、難燃性を向上できる。
【0044】
また、本実施の形態において、ポリアミドの質量平均分子量が1万~50万であってもよい。これにより、可塑性を向上できる。特に可塑剤を添加した際の可塑性を向上できる。
【0045】
また、本実施の形態において、ポリプロピレンの質量平均分子量が1万~50万であってもよい。これにより、成形品の剛性の低下を抑制できる。また、成形時における樹脂組成物の流動性低下を防止できる。流動性低下を防止できれば、成形時に金型に樹脂が行きわたり易くなるため、薄型又は複雑な形状の部材であっても良好に成形できる。また、樹脂の溶融混練時又は射出成形時の圧力上昇を抑えることができるため、圧力上昇に伴うバルーン系フィラーの破壊を抑制することができる。
【0046】
また、本実施の形態において、可塑剤がスルホンアミド類、オキシ安息香酸エステル類、及び多環芳香族化合物から選ばれる少なくとも1種類であってもよい。これにより、優れた樹脂組成物の可塑化付与効果が得られる。
【0047】
[2.他の実施の形態]
以上のように、本出願において開示する技術の例示として、実施の形態1を説明した。しかしながら、本開示における技術は、これに限定されず、変更、置き換え、付加、省略などを行った実施の形態にも適用できる。また、上記実施の形態1で説明した各構成要素を組み合わせて、新たな実施の形態とすることも可能である。
【0048】
そこで、以下、他の実施の形態を例示する。
上記の実施の形態は、本開示の樹脂組成物の特性を阻害しない範囲内において、上記以外の添加剤を1種類以上含有してもよい。添加剤の具体例としては、例えば着色剤、充填剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤等が挙げられる。
【0049】
なお、上記の実施の形態は、本開示における技術を例示するためのものであるから、特許請求の範囲またはその均等の範囲において種々の変更、置き換え、付加、省略などを行うことができる。
【実施例
【0050】
以下、本開示を実施例によって具体的に説明するが、本開示は、以下の実施例に限定されない。
(実施例1)
ポリアミド、ポリプロピレン、マレイン酸変性スチレン-ブタジエン系エラストマー、バルーン系フィラー、可塑剤、及び難燃剤を、表1に示す比率(質量%)となるように秤量し、ドライブレンドした。次に、2軸混練押出機(テクノベル社製、型式:KZW15TW)にて、混練温度を240℃として溶融混練分散した後、水冷して、ペレットを製造した。
【0051】
ポリアミド:アミランCM1007(東レ社製、ナイロン6、質量平均分子量25万)
ポリプロピレン:ノバテックPP BC03B(日本ポリプロ社製、質量平均分子量15万)
マレイン酸変性スチレン-ブタジエン系エラストマー:タフテックM1913(旭化成社製、マレイン酸変性SEBS)
バルーン系フィラー:グラスバブルズiM16K(3M社製、中空ガラスフィラー、比重0.46、耐圧強度110MPa)
可塑剤:OGSOL MF-11(大阪ガスケミカル社製、ビス-フェノール-エタノール-フルオレン(BPEF))
難燃剤:Saytex8010(アルベマール日本社製、エチレンビス(ペンタブロモフェニル))
(実施例2~9)
表1に示す比率となるように秤量した以外は、実施例1と同様にして、樹脂組成物からなるペレットを製造した。
【0052】
(比較例1~3)
ポリプロピレン、可塑剤、及び難燃剤を使用せず、表1に示す比率となるように秤量した以外は、実施例1と同様にして、樹脂組成物からなるペレットを製造した。
【0053】
(比較例4,5)
可塑剤、及び難燃剤を使用せず、表1に示す比率となるように秤量した以外は、実施例1と同様にして、樹脂組成物からなるペレットを製造した。
【0054】
(比較例6,7,9,10)
表1に示す比率となるように秤量した以外は、実施例1と同様にして、樹脂組成物からなるペレットを製造した。
【0055】
(比較例8)
難燃剤を使用せず、表1に示す比率となるように秤量した以外は、実施例1と同様にして、樹脂組成物からなるペレットを製造した。
【0056】
(曲げ弾性率)
各実施例及び比較例のペレットを用いてISO178に規定の試験片を作製した。各試験片について、JIS K 7171に規定の曲げ試験を行った。曲げ弾性率の測定結果を表1に示す。
【0057】
(シャルピー衝撃試験)
シャルピー衝撃試験は、切り欠きの入った角柱状の試験片に対して高速で衝撃を与えることで試験片を破壊し、破壊するために要したエネルギーと試験片の靭性を評価するための衝撃試験である。シャルピー衝撃試験は、JIS K 7111の規定に基づいて行った。シャルピー衝撃試験によって求められる衝撃強度の測定結果を表1に示す。
【0058】
(樹脂組成物の比重)
樹脂組成物の比重は、JIS K 7112の記載の水中置換法により求めた。比重の測定結果を表1に示す。
【0059】
(難燃性試験)
アンダーライターズ(Underwriter's Laboratories Inc.)のUL-94規格の難燃性評価を行った。垂直燃焼試験(Vertical Burning Test)において、まず判定短冊状の試験片を垂直にして、上端で保持し、その下端に10秒間ガスバーナーの炎を接炎させる。次に、ガスバーナーの炎を離した後に炎が消えたなら直ちにガスバーナーの炎をさらに10秒間接炎し炎を離した。判定は、有炎燃焼時間の合計とドリップ(試験片から落下する粒子)による引火の有無により、燃焼しやすい順からUL94V-2、UL94V-1、UL94V-0とランク付けされる。本試験においては、UL94V-2の基準を満たす場合に「合格」、要件を満たさない場合を「不合格」と判断した。難燃性の測定結果を表1に示す。
【0060】
なお、試験片は長さ127mm、幅12.7mmとし、厚さは最小から最大12.7mmまでの5種類とする。厚さ増加分は、各々3.18mmを超えないこととした。
(射出圧)
ダンベル片形状を有する金型に対し、射出温度240℃で成形した場合の最大圧力を測定した。射出圧の測定結果を表1に示す。
【0061】
【表1】
各実施例の樹脂組成物により得られた成形品は、いずれも所定の難燃性を有し、曲げ弾性率が1500MPa以上、比重0.99以下のため、難燃性、曲げ弾性率、及び軽量性を兼備する樹脂組成物が得られることが確認された。また、各実施例は、いずれも射出圧が135MPa以下であり、成形時における流動性が良好であった。また、各実施例は、いずれもシャルピー衝撃試験によって求められる衝撃強度が3.0kJ/m以上であり、成形品の衝撃強度に優れていた。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本開示の樹脂組成物は、例えば掃除機、電動工具、ドライヤー、ヘアアイロン、ヘアカーラー、ケトル、ハンディタイプの調理器等の家電製品の部品等の用途に利用できる。