(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-19
(45)【発行日】2023-10-27
(54)【発明の名称】乳酸菌、該乳酸菌由来の自然免疫活性化剤、感染症予防・治療薬及び飲食品
(51)【国際特許分類】
A61K 35/744 20150101AFI20231020BHJP
A61K 35/74 20150101ALI20231020BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20231020BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20231020BHJP
A61P 31/12 20060101ALI20231020BHJP
A23L 33/135 20160101ALI20231020BHJP
C12N 1/20 20060101ALN20231020BHJP
【FI】
A61K35/744 ZNA
A61K35/74 A
A61K35/74 G
A61P37/04
A61P31/04
A61P31/12
A23L33/135
C12N1/20 E
(21)【出願番号】P 2020033239
(22)【出願日】2020-02-28
(62)【分割の表示】P 2019555711の分割
【原出願日】2019-07-09
【審査請求日】2022-06-29
(31)【優先権主張番号】P 2018135461
(32)【優先日】2018-07-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】501481492
【氏名又は名称】株式会社ゲノム創薬研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】399086263
【氏名又は名称】学校法人帝京大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002136
【氏名又は名称】弁理士法人たかはし国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】関水 和久
(72)【発明者】
【氏名】浜本 洋
【審査官】伊藤 基章
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-169197(JP,A)
【文献】特開2010-222271(JP,A)
【文献】SANDES, S. et al.,Selection of new lactic acid bacteria strains bearing probiotic features from mucosal microbiota of,Microbiol Res,2017年,Vol.200,p.1-13,ISSN 0944-5013, Abstract、Fig.5b、Discussion、Conclusions、等
【文献】CHEN, C. et al.,Enhanced shelf-life of tofu by using bacteriocinogenic Weissella hellenica D1501 as bioprotective cu,Food Control,2014年,Vol.46,p.203-9,ISSN 0956-7135, Abstract、等
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/00
A23L 33/00
A23C 11/00
C12N 1/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイセラ・ヘレニカ(Weissella hellenica)に属する乳酸菌、又は、該乳酸菌の処理物を有効成分とする自然免疫活性化剤であって、
該乳酸菌の処理物は、乳酸菌の、培養物の全体、並びに、培養上清の全体及びそのエタノール可溶性画分の全体よりなる群から選ばれる少なくとも1つの処理物であることを特徴とする自然免疫活性化剤。
【請求項2】
請求項1に記載の自然免疫活性化剤を含有し、病原菌又はウイルスに対する感染症の予防用若しくは治療用であることを特徴とする感染症予防・治療薬。
【請求項3】
上記病原菌が薬剤耐性菌である請求項2に記載の感染症予防・治療薬。
【請求項4】
上記病原菌が緑膿菌又は肺炎桿菌である請求項2又は請求項3に記載の感染症予防・治療薬。
【請求項5】
上記感染症が日和見感染症である請求項2ないし請求項4の何れかの請求項に記載の感染症予防・治療薬。
【請求項6】
請求項1に記載の自然免疫活性化剤を含有することを特徴とする自然免疫活性化用飲食品。
【請求項7】
ワイセラ・ヘレニカ(Weissella hellenica)に属する乳酸菌を用いて
飲食品を発酵させて
自然免疫活性化用発酵飲食品を得ることを特徴とする自然免疫活性化用発酵飲食品
の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳酸菌、該乳酸菌由来の自然免疫活性化剤、該乳酸菌由来の感染症予防・治療薬及び飲食品に関し、更に詳しくは、「ワイセラ・ヘレニカ(Weissella hellenica)に属する乳酸菌、該乳酸菌の死菌、該乳酸菌の産生物、又は、該乳酸菌の処理物」を有効成分とする自然免疫活性化剤;該乳酸菌由来の飲食品;新規の乳酸菌;等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
乳酸菌とは、代謝により乳酸を産生する細菌類の総称であり、古くから醗酵食品に利用され、飲食品、医薬品、プロバイオティクス等の生産に利用されており、ワイセラ・ヘレニカ(Weissella hellenica)に属する乳酸菌も種々の用途に使用されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、乳酸菌由来のプロテアーゼ耐性バクテリオシンを含むことを特徴とする家畜用抗菌剤が記載され、該乳酸菌として、ワイセラ・ヘレニカに属する乳酸菌が挙げられている。
また、特許文献2には、特定の抗菌性ペプチドを含有する食品が記載され、該抗菌性ペプチドを産生する菌として、ワイセラ・ヘレニカに属する特定の菌株が挙げられている。
【0004】
特許文献3には、いか黒造りより分離されたワイセラ・ヘレニカに属する特定の乳酸菌株の培養物が、アンジオテンシン転換酵素阻害活性能、DPPHラジカル消去能、又は、L-グルタミン酸からγ-アミノ酪酸への変換能を有することが記載されている。
特許文献4には、ワイセラ属に属する消炎性乳酸菌の破砕物が、自己免疫疾患の一種である関節炎の予防・改善作用があるとされ、ワイセラ・ヘレニカ種も列挙されている。そして、このワイセラ属に属する乳酸菌の破砕物によれば、自然免疫の活性化が抑制されたと記載されている。
【0005】
このように、ワイセラ・ヘレニカに属する乳酸菌が、一般に自然免疫活性化に資するものであることは殆ど知られておらず、況やワイセラ・ヘレニカに属する特定亜種(特定菌株)の乳酸菌の産生物、培養上清等が、特に自然免疫の活性化に優れた剤を与えるものであることは知られていなかった。
【0006】
自然免疫反応では、例えば、樹状細胞やマクロファージといった免疫細胞が、細菌やウイルスに由来する自然免疫活性化物質に応答してサイトカインを産生し、その後の免疫反応が起こることが知られている。自然免疫機構は、生物が共通に有する感染防御機構であり、一般には非特異的であるために、反応が素早く、また多くの感染源に対して有効に機能することが特徴である。
【0007】
乳酸菌は、健康によいとされているが、科学的なエビデンスが提示されていない場合が殆どである。科学的エビデンスを示すためには、治療効果が明瞭である系での立証と、分子レベルでのメカニズム解析とが必要であるが、乳酸菌について、それらが達成された例は殆どない。
【0008】
これまでに、本発明者らにより、自然免疫機構しか有さないカイコにおいて、自然免疫活性化反応を簡便に測定できる評価方法が開発されている(特許文献5、非特許文献1)。更に、該方法でヒト等の脊椎動物に対して自然免疫活性化作用を有する自然免疫活性化剤の評価(スクリーニング方法)ができることが確かめられている(特許文献5等)。すなわち、この「カイコ感染モデル」は確立されている。
また、カイコが感染症に対する抵抗性評価のモデル動物として有用であることは、本発明者らにより確かめられている(特許文献6、7等)。
【0009】
自然免疫の活性化は、病原菌又はウイルスに対する感染症の予防や治療に有効であり、更には、(多剤)耐性菌に対して極めて有効であり、また多くの種類が存在する日和見感染症に対する予防や治療に対して極めて有効である。
しかし、乳酸菌が科学的なエビデンスをもって上記効果があることを示したケースは殆どなく、優れた自然免疫活性化剤や、自然免疫を活性化することによる感染症予防治療剤の開発が望まれていた。
また、乳酸菌由来物又は自然免疫活性化剤を含有する飲食品や、上記性能に優れた乳酸菌を利用した飲食品の開発も望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2006-169197号公報
【文献】特開2010-222271号公報
【文献】特開2013-048586号公報
【文献】特開2012-158568号公報
【文献】国際公開第2008/126905号
【文献】特開2007-327964号公報
【文献】特開2012-006917号公報
【非特許文献】
【0011】
【文献】Ishii K, Hamamoto H, Kamimura M, Sekimizu K. Activation of the silkworm cytokine by bacterial and fungal cell wall components via a reactive oxygen species-triggered mechanism. J Biol Chem. 2008 Jan 25;283(4):2185-91.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の課題は、高い自然免疫活性化能を有する乳酸菌、該乳酸菌の死菌、該乳酸菌の産生物、該乳酸菌の処理物等を有効成分とする自然免疫活性化剤を提供することであり、また、該乳酸菌又は該乳酸菌に由来する自然免疫活性化剤を含有する感染症予防・治療薬や飲食品を提供することにある。
また、高い自然免疫活性化能を有する新規な乳酸菌(亜種・菌株)を提供することであり、該新規の乳酸菌に由来する有効成分を含有する感染症予防・治療薬や、該乳酸菌を用いて発酵させた(自然免疫活性化用発酵)飲食品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、上記の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、ワイセラ・ヘレニカ(Weissella hellenica)に属する乳酸菌、該乳酸菌の死菌・産生物・処理物が、他の属の乳酸菌に比べても、更には同一の属(ワイセラ属)の他の種の乳酸菌に比べても、自然免疫活性化能が高いことを見出した。
すなわち、本発明者は、カイコを実験動物とした感染モデルを用いて、複数の病原菌に対して感染症を予防又は治療できる、「乳酸菌(由来物)」、「該乳酸菌(由来物)を有効成分として含有する自然免疫活性化剤」、「該乳酸菌で発酵させた自然免疫能を有する飲食品」等を見出して本発明に至った。
【0014】
すなわち、本発明は、ワイセラ・ヘレニカ(Weissella hellenica)に属する乳酸菌、該乳酸菌の死菌、該乳酸菌の産生物、又は、該乳酸菌の処理物を有効成分とする自然免疫活性化剤であって、
上記乳酸菌の処理物は、乳酸菌の、培養物、培養上清、濃縮物、ペースト化物、乾燥物、液状化物、希釈物、破砕物、殺菌加工物、及び、培養物からの抽出物よりなる群から選ばれる少なくとも1つの処理物であることを特徴とする自然免疫活性化剤を提供するものである。
【0015】
また、本発明は、上記の自然免疫活性化剤を含有し、病原菌又はウイルスに対する感染症の予防用若しくは治療用であることを特徴とする感染症予防・治療薬を提供するものである。
【0016】
また、本発明は、上記の自然免疫活性化剤を含有することを特徴とする飲食品を提供するものである。
【0017】
また、本発明は、ワイセラ・ヘレニカ(Weissella hellenica)に属する乳酸菌を用いて発酵させて得られるものであることを特徴とする自然免疫活性化用発酵飲食品を提供するものである。
【0018】
また、本発明は、上記ワイセラ・ヘレニカ(Weissella hellenica)に属する乳酸菌が、受託番号:NITE BP-02710である乳酸菌又はその自然的若しくは人工的に変異した乳酸菌である上記の自然免疫活性化剤を提供するものである。
【0019】
また、本発明は、受託番号がNITE BP-02710であるワイセラ(Weissella)属に属する乳酸菌又はその自然的若しくは人工的に変異した乳酸菌を提供するものである。また、本発明は、上記乳酸菌の単離又は精製された乳酸菌を提供するものである。
また、本発明は、配列表の配列番号1で示される16SrDNA領域の塩基配列を有する上記の乳酸菌を提供するものである。
【0020】
また、本発明は、上記乳酸菌を含有する飲食品を提供するものであり、上記乳酸菌を用いて発酵させて得られることを特徴とする発酵飲食品を提供するものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、ヒト等に対して自然免疫活性化能を有する自然免疫活性化剤を提供することができる。該自然免疫活性化剤は、病原菌又はウイルスに対する感染症の予防用若しくは治療用である感染症予防・治療薬として有用である。
更に、本発明においては、自然免疫を活性化するので、上記病原菌が(多剤)薬剤耐性菌であるときに特に有用であり、また、自然免疫能が低下したときに(又は低下した人)が発病すると言われ、多くの種類がある(多くの菌がその原因菌となる)日和見感染症の予防若しくは治療に特に有用である。
【0022】
また、本発明において、ワイセラ・ヘレニカ(Weissella hellenica)に属する乳酸菌の自然免疫活性能や、特定のワイセラ・ヘレニカ種に属する乳酸菌亜種が特に自然免疫活性能が高いことは、本発明者らによる(個体の生死でも確認する)カイコ感染モデルで見出し検討されたので、そこには、(剤の個体内での体内動態にも依存する)治療効果の優劣も加味されていることになる。従って、本発明の自然免疫活性化剤は、菌又はウイルスに対する感染症の治療効果に優れる。
【0023】
すなわち、本発明において、「ワイセラ・ヘレニカ(Weissella hellenica)に属する乳酸菌(生菌)、該乳酸菌の死菌、該乳酸菌の産生物、又は、該乳酸菌の処理物」(以下、「 」内を単に、「ワイセラ・ヘレニカ乳酸菌由来物」と略記することがある)を、カイコに対して、それら由来物の性質に応じて、餌に混ぜる、カイコの腸管内に注射する、カイコの血液内に注射する、等の方法でカイコに投与し、その後、病原菌をそれぞれカイコに投与すると、予め該乳酸菌(由来物)を投与されたカイコは、予め該乳酸菌(由来物)を投与されなかったカイコに比べて、有意差で個体の生存率が高かった(実施例参照)。
【0024】
また、別途実験で、ワイセラ・ヘレニカ乳酸菌由来物は、病原菌の増殖を阻害することがなかった(実施例6)。すなわち、ワイセラ・ヘレニカ乳酸菌由来物には抗菌活性がないことが分かった。
しかも、ワイセラ・ヘレニカ乳酸菌由来物を、病原菌と同時にカイコに投与した場合には、該カイコの生存率に有意差が見られなかった(生存率の上昇が見られなかった)。すなわち、ワイセラ・ヘレニカ乳酸菌由来物の病原菌感染に対する抵抗性付与には、その前投与が必要であった(実施例、特に実施例6参照)。
【0025】
前記した通り、カイコ感染モデルは、ヒト等の哺乳類の感染症に関しても適用される(有用である)ことが確認されている。なお、カイコの免疫機構には、獲得免疫機構はなく、自然免疫機構しかない。そして、上記した通り、ワイセラ・ヘレニカ乳酸菌由来物には抗菌活性がなく、かつ個体生存率の上昇には前投与が必要であることから、本発明におけるワイセラ・ヘレニカ乳酸菌由来物には、「ヒト等の哺乳類」に対して自然免疫を活性化させる性質がある。
しかも、ワイセラ・ヘレニカ乳酸菌由来物の病原菌に対する抵抗性は、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)等、複数の病原菌で確かめられた(実施例7、表8参照)。このことからも、ワイセラ・ヘレニカ乳酸菌由来物は、特定の病原菌に対してのみ有効と言うのではなく、自然免疫機構自体を活性化する性質があると言える。
【0026】
上記の性質は、ワイセラ(Weissella)属ヘレニカ(hellenica)種に属する乳酸菌の異なる4種類の亜種の全てで確かめられた(実施例1の表1~3のNo.18、27、48、75)。
一方、表1~3のワイセラ(Weissella)属に属さない乳酸菌の亜種、及び、ワイセラ(Weissella)属には属するが、ヘレニカ(hellenica)種には属さない乳酸菌の亜種では、上記のことは言えず、それらの乳酸菌(由来物)には、自然免疫活性化能が極めて低い(若しくは、ない)ことが確かめられた(実施例1~4、表1~6、
図1参照)。
【0027】
すなわち、自然免疫活性化能は、ワイセラ・ヘレニカに属する乳酸菌やその由来物全般に特有の性質である。従って、本発明の自然免疫活性化剤の起源となる乳酸菌(由来物)の外延は極めて明確であり、ワイセラ・ヘレニカに属する乳酸菌(由来物)であれば、何れも本発明に含まれ、ワイセラ・ヘレニカに属さない乳酸菌(由来物)は本発明からは排除される。
【0028】
更に、効果を発揮する上記したワイセラ・ヘレニカ種に属する乳酸菌の中でも、独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)の特許微生物寄託センター(NPMD)における受託番号がNITE BP-02710であるワイセラ(Weissella)属に属する乳酸菌の亜種(以下、この乳酸菌の亜種(株)を「乳酸菌Wh0916-4-2」と略記する)又は該菌株の由来物において、前記した自然免疫活性化効果は特に顕著であった(実施例5、表7参照)。
【0029】
上記ワイセラ・ヘレニカ乳酸菌由来物の形態(態様)に応じて、本発明の自然免疫活性化剤は、ヒト等が種々の方法で摂取することができ、医療用医薬品、薬局製造販売医薬品等の薬局用医薬品;要指導医薬品;一般用医薬品;等の医薬品等に適用できる。また、経口でも効果を発揮するため、明らか食品、健康食品等の一般食品;保健機能食品;等の食品にも適用でき、また、プロバイオティクス、発酵飲食品、動物用の薬品・餌等にも適用できる。
【0030】
本発明の自然免疫活性化剤の「人等の哺乳類」による摂取方法は、特に限定はないが、経口摂取でも効果を示すことから、経口摂取が簡易で手軽なために特に好ましい。
そして、本発明の自然免疫活性化剤を含有する(醗酵)飲食品としては、醗酵(豆)乳、乳酸菌飲料、ヨーグルト、漬物等が挙げられ、該(発酵)飲食品は、自然免疫活性化能があることに加えて、風味にも優れると言う効果もある。すなわち、本発明の乳酸菌は、上記製品製造用乳酸菌スターター等としての用途に有用である。
【0031】
本発明において、ワイセラ・ヘレニカに属する乳酸菌は、乳酸菌である性質を生かして、食品を発酵させて自然免疫活性化用発酵飲食品を得ることができ、飲食品として日常生活で常用することもでき、自然免疫を常に上げておくことも可能である。
また、乳酸菌Wh0916-4-2で発酵させた飲食品は美味しく、新たな味の飲食品群を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】経時におけるカイコの生存率の推移を示し、特に本発明の乳酸菌(由来物)の経口投与による緑膿菌に対する耐性の上昇を示すグラフである(実施例1)。
【
図2】緑膿菌投与によるカイコの状態を示す写真である。(A)本発明の乳酸菌(由来物)の前投与ありのために生存していたカイコ (B)本発明の乳酸菌(由来物)の前投与がないため死亡したカイコ
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明について説明するが、本発明は、以下の具体的態様に限定されるものではなく、技術的思想の範囲内で任意に変形することができる。
【0034】
本発明の自然免疫活性化剤は、ワイセラ・ヘレニカ(Weissella hellenica)に属する乳酸菌、該乳酸菌の死菌、該乳酸菌の産生物、又は、該乳酸菌の処理物を有効成分とする。
実施例1~4に示すように、ワイセラ(Weissella)属、ヘレニカ(hellenica)種に属する乳酸菌は、評価した乳酸菌の全てで自然免疫活性化能が高く、ワイセラ属に属さない乳酸菌、及び、ワイセラ属に属していてもヘレニカ(hellenica)種に属さない乳酸菌では、評価した乳酸菌の全てで自然免疫活性化能が低かった。
【0035】
本発明の自然免疫活性化剤は、有効成分が宿主を介した機構により予防・治療効果を発揮することは前記したことから明らかである。
カイコのような無脊椎動物には抗体がなく、従って獲得免疫機構は存在しない。感染防御に働いているのは、自然免疫と呼ばれる機構である。近年の研究により、哺乳類にも自然免疫機構があり、その分子機構は無脊椎動物と共通していることが明らかとなっている。本発明は、ヒト等の哺乳類の自然免疫を活性化するものである。
【0036】
自然免疫活性化の評価は、本発明者らが既に確立している前記カイコ感染モデルを用いて行った。本発明における評価方法は、具体的には、評価試料をカイコに、食餌、腸管内注射、血液内注射等の方法で投与し、その後、病原菌等をカイコに投与したときの生存率を、評価試料を投与しないときの生存率と比較することにより行った。
評価試料と病原菌等を同時に投与したときの生存率も測定し、該評価試料の投与後に該病原菌等の投与を行ったときのみ有意に生存率が上がることを確かめて、該生存率の上昇が自然免疫の活性化に起因することを確かめた。
【0037】
本発明の自然免疫活性化剤には、ワイセラ・ヘレニカに属する、乳酸菌自体(乳酸菌の生菌)、乳酸菌の死菌、乳酸菌の産生物、又は、乳酸菌の処理物が含有され、それらの混合物が含まれていてもよい。また、それらを種々の状態で含むことができ、例えば、懸濁液、乳酸菌体、培養上清液、培地成分を含む状態等が挙げられる。
上記「乳酸菌の処理物」は、乳酸菌の、培養物、培養上清、濃縮物、ペースト化物、乾燥物、液状化物、希釈物、破砕物、殺菌加工物、及び、培養物からの抽出物よりなる群から選ばれる少なくとも1つの処理物である。なお、上記表現には、一部「物」として重複している場合も存在する。
【0038】
ここで、上記乳酸菌の生菌又は死菌としては、生菌体、湿潤菌、乾燥菌等が挙げられ、加熱殺菌処理、放射線殺菌処理、破砕処理等を施したものも挙げられる。また、上記産生物は、乳酸菌の生菌や死菌に含まれているものでも、分離されているものでもよい。また、上記乾燥物としては、噴霧乾燥物、凍結乾燥物、真空乾燥物、ドラム乾燥物等が挙げられる。
【0039】
本発明の自然免疫活性化剤中の有効成分である、乳酸菌、該乳酸菌の死菌、該乳酸菌の産生物、又は、該乳酸菌の処理物の、自然免疫活性化剤全体に対する含有量は、特に制限がなく、目的に応じて適宜選択することができるが、自然免疫活性化剤全体を100質量部としたときに、「乳酸菌、該乳酸菌の死菌、該乳酸菌の産生物、又は、該乳酸菌の処理物の合計量」として、0.001~100質量部で含有されることが好ましく、より好ましくは0.01~99質量部、特に好ましくは0.1~95質量部、更に好ましくは1~90質量部で含有される。
【0040】
また、前記有効成分は、何れか1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。2種以上を併用する場合の、前記自然免疫活性化剤中の各々の有効成分の含有比については、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができる。
【0041】
本発明の自然免疫活性化剤は、上記成分を有効成分として含有するが、それら有効成分に加えて、「他の成分」を含有することができる。
前記自然免疫活性化剤における、上記「他の成分」としては、特に制限はなく、本発明の効果を損なわない範囲内で、目的に応じて適宜選択することができ、薬学的に許容され得る担体等が挙げられる。かかる担体としては、特に制限はなく、例えば、後述する「剤型等に応じて配合して使用されるもの」と同様のものも挙げられる。
【0042】
日和見感染症の原因菌、特に緑膿菌に対する抗菌治療薬の種類は限られている。特に経口で効果を示す抗菌薬を発見することは非常に困難であるとされている。その理由の一つとして、治療効果を評価するための方法が限られている点が挙げられる。
カイコ感染モデルは、コストが安いばかりでなく、従来使われてきたマウスの系で問題となる、動物愛護の観点からの倫理的問題を回避できるという利点を有している。本発明は、マウスの系では動物愛護の観点から問題となる程の多くの乳酸菌をスクリーニングし、抗菌効果とは関係なく治療効果まで含めて評価する(具体的には生存率を測定する)ことによってなされた。
【0043】
従って、本発明の自然免疫活性化剤は、種々の病原菌やウイルスの感染症の予防や治療に効果を発揮するので、本発明は、病原菌又はウイルスに対する感染症の予防用若しくは治療用であることを特徴とする感染症予防・治療薬でもある。
【0044】
また、本発明の自然免疫活性化剤は、獲得免疫に依存するものではなく、抗菌効果に依存するものでもないので、感染症の病原菌が薬剤耐性菌である場合も有効である。従って、本発明は、上記病原菌が薬剤耐性菌である前記の感染症予防・治療薬でもある。
【0045】
また、本発明では、自然免疫を活性化することにより、あらゆる種類の菌やウイルスに効果的であるので、自然免疫機能が低下した場合に深刻となる種々の日和見感染症に特に有効である。従って、本発明は、上記感染症が日和見感染症である前記の感染症予防・治療薬でもある。
【0046】
前記した通り、ワイセラ・ヘレニカ種に属する乳酸菌は、評価した乳酸菌の全てで、他の種に属する乳酸菌より自然免疫活性化が高かった。従って、ワイセラ・ヘレニカに属する乳酸菌全般に関する前記「ワイセラ・ヘレニカ乳酸菌由来物」を有効成分として含有する飲食品は総じて自然免疫を活性化すると考えられる。
従って、本発明は、自然免疫活性化剤を含有することを特徴とする飲食品でもあり、また、ワイセラ・ヘレニカ(Weissella hellenica)に属する乳酸菌を用いて発酵させて得られるものであることを特徴とする自然免疫活性化用発酵飲食品でもある。
【0047】
実施例1~5、表1~7に示したように、124種の乳酸菌の亜種のうち、ワイセラ・ヘレニカ種に属する乳酸菌であるNo.18(株名(亜種名)0916-4-2)、No.27(株名(亜種名)0928-7-2)、No.48(株名(亜種名)1026-04-2)、及び、No.75(株名(亜種名)1109-7-1)の全てにおいて、緑膿菌に対する耐性を示し、自然免疫活性化能が高かった。
【0048】
中でも、実施例5に示したように、上記4種の乳酸菌の亜種のうちでも、No.18(株名(亜種名)0916-4-2)が最も緑膿菌に対する耐性を示し、特異的に自然免疫活性化能が高かった(表7参照)。
本発明においては、最も前記した本発明の効果が高かった、表1における上記「No.18(株名(亜種名)0916-4-2)」の菌株(乳酸菌亜種)を「乳酸菌Wh0916-4-2」と命名した。
以下、このワイセラ・ヘレニカ(Weissella hellenica)に属する乳酸菌の亜種である乳酸菌Wh0916-4-2について詳述する。
【0049】
形態:本発明の乳酸菌Wh0916-4-2は、初めて分離された。
【0050】
生理学的性質:本発明の乳酸菌Wh0916-4-2の生理学的、化学分類学的性質は以下の通りである。
(a)グラム染色結果:陽性
(b)菌体の形状:球形
(c)酸素に対する性質(好気/嫌気):嫌気的
(d)乳酸産生能:あり
【0051】
(1)カタラーゼ:-
(2)アルカリフォスファターゼ:-
(3)エステラーゼ(C4):-
(4)エステラーゼリパーゼ(C8):-
(5)リパーゼ(C14):-
(6)ロイシンアリルアミダーゼ:-
(7)バリンアリルアミダーゼ:-
(8)シスチンアリルアミダーゼ:-
(9)トリプシン:-
(10)α-キモトリプシン:-
(11)酸性フォスファターゼ:+
(12)ナフトール-AS-BI-フォスフォヒドロラーゼ:+
(13)α-ガラクトシダーゼ:-
(14)β-ガラクトシダーゼ:-
(15)β-グルクロニダーゼ:-
(16)α-グルコシダーゼ:-
(17)β-グルコシダーゼ:-
(18)N-アセチル-β-グルコサミニダーゼ:-
(19)α-マンノシダーゼ:-
(20)α-フコシダーゼ:-
【0052】
前記の乳酸菌Wh0916-4-2の生理学的・化学分類学的性質を、バージース・マニュアル・オブ・システマティックバクテリオロジー(Bergey’s Manual of Systematic Bacteriology,vol.3 1989)による分類及びその他の文献の記載内容に照らし合わせ判断した結果、本発明の乳酸菌Wh0916-4-2は、ワイセラ(Weissella)属に属する微生物であり、更にワイセラ・ヘレニカ(Weissella hellenica)種に属する微生物である。
【0053】
また、乳酸菌Wh0916-4-2の分子生物学的な系統分類の指標として用いられている16SrDNAのほぼ全長に当たる塩基配列は、配列表の配列番号1に記載の通りである。この塩基配列をNCBIのBLAST解析で相同性検索を行ったところ、相同性99%を示したので、乳酸菌Wh0916-4-2は、ワイセラ・ヘレニカ(Weissella hellenica)種に属する微生物である。
【0054】
酸及びガスの生成能による糖代謝検査の結果による同定を行った結果(後記の「培地中の炭素源」の項を参照)、乳酸菌Wh0916-4-2は、ワイセラ・ヘレニカ(Weissella hellenica)種に属する微生物であるとの上記判断と矛盾するものではなかった。
【0055】
更に、ワイセラ・ヘレニカ(Weissella hellenica)種に属する既知の株(亜種)等と比べて最も高い自然免疫活性化能を示すこと等を含め、総合的に検討した結果、乳酸菌Wh0916-4-2は、(単離された)新規な微生物株(乳酸菌の亜種)であると判断した。
【0056】
「乳酸菌Wh0916-4-2」は、千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室、独立行政法人製品評価技術基盤機構(National Institute of Technology and Evaluation;以下、「NITE」と略記する)の特許微生物寄託センター(NPMD)に国内寄託され、受託番号:NITE P-02710(受領日(寄託日):2018年5月14日)として寄託(受託)された微生物である。
「乳酸菌Wh0916-4-2」は、その後、千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室、独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)の特許微生物寄託センター(NPMD)に、原寄託申請書を提出して、国内寄託(原寄託日:2018年5月14日)から、ブタペスト条約に基づく寄託への移管申請を行い(移管日(国際寄託日):2018年10月1日)、生存が証明され、ブタペスト条約に基づく寄託(国際寄託)への移管申請が受領された結果、受託番号「NITE BP-02710」を受けているものである。
【0057】
細菌の一般的な性状として、その菌株としての性質は変異し易いため、乳酸菌Wh0916-4-2は、先に示した生理学的性状の範囲内に留まらない可能性も有している。また、かかる「変異」には、自然的な変異と人工的な変異の両方を含むことは言うまでもない。
【0058】
以下に、乳酸菌Wh0916-4-2の培養方法について記載する。乳酸菌Wh0916-4-2の培養方法は、ワイセラ属の微生物に対して行われる一般的な培養方法に準じて行えばよい。
培養は嫌気条件下で行うことが好ましい。培地中の炭素源としては、例えば、D-リボース、D-ガラクトース、D-グルコース、D-フルクトース、D-マンノース、D-マンニトール、N-アセチルグルコサミン、アミグダリン、アルブチン、エスクリン、サリシン、D-セロビオース、D-マルトース、シュクロース、D-トレハロース、ゲンチオビオース、糖蜜、水飴、油脂類等の有機炭素化合物が用いられ、窒素源としては、肉エキス、カゼイン、ペプトン、酵母エキス、乾燥酵母、胚芽、大豆粉、尿素、アミノ酸、アンモニウム塩等の有機・無機窒素化合物を用いることができる。
また、塩類は、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、リン酸塩、鉄塩、銅塩、亜鉛塩、コバルト塩等の無機塩類を必要に応じて適宜添加する。更に、ビオチン、ビタミンB1、シスチン、オレイン酸メチル、ラード油等の生育促進物質を添加することが、目的物の産生量を増加させる点で好ましい。
また、シリコン油、界面活性剤等の消泡剤を添加してもよい。調製済みの培地としては、例えば、MRS培地、GAM培地等を用いることが好ましい。
【0059】
培養条件は、先に記したようにワイセラ属の微生物に対して行われる一般的な培養条件に準じて行えばよい。液体培養法であれば静置培養が望ましい。小規模であれば蓋付きガラス瓶による静置培養法を用いてもよい。
培養温度は、25℃~37℃間に保つことが好ましく、28℃~32℃で行うことがより好ましい。培養pHは7付近で行うことが好ましい。培養期間は、用いた培地組成、培養温度等により変動するファクターであるが、乳酸菌Wh0916-4-2の場合、好ましくは12~72時間、より好ましくは24~48時間で充分な量の目的物を確保することができる。
培養して得られたコロニーをピックアップし、再度培地上でシングルコロニー形成を行うことも好ましい。
【0060】
本発明は、前記したワイセラ・ヘレニカ(Weissella hellenica)に属する乳酸菌が、特に受託番号:NITE BP-02710である乳酸菌又はその自然的若しくは人工的に変異した乳酸菌である前記の自然免疫活性化剤でもある。
また、本発明は、受託番号がNITE BP-02710であるワイセラ(Weissella)属に属する乳酸菌又はその自然的若しくは人工的に変異した乳酸菌でもある。
また、本発明は、配列表の配列番号1で示される16SrDNA領域の塩基配列を有する上記の乳酸菌でもある。受託番号がNITE BP-02710の乳酸菌は、前記した「乳酸菌Wh0916-4-2」である。
【0061】
本発明は、特に、上記乳酸菌Wh0916-4-2(受託番号:NITE BP-02710である乳酸菌)を含有する飲食品でもあり、該乳酸菌(の株)(亜種)を用いて発酵させて得られることを特徴とする発酵飲食品でもある。
【0062】
本発明の乳酸菌、該乳酸菌の死菌、該乳酸菌の産生物、又は、該乳酸菌の処理物を有効成分とする自然免疫活性化剤は、医薬品;一般飲食品;健康食品等に配合することが可能であり、それらの形態によらず、様々な医薬品、飲食品等に応用できる。
また、前記した本発明におけるワイセラ・ヘレニカに属する乳酸菌で醗酵する工程を用いて製造された飲食品は、乳酸菌の通常の効果に加え、本発明に特有の自然免疫活性化効果を発揮し易いために好ましい。
【0063】
本発明の自然免疫活性化剤や感染症予防・治療薬の剤型としては、特に制限はなく、乳酸菌、乳酸菌の死菌、乳酸菌の産生物、前記した種々の乳酸菌の処理物等の形態(態様)に応じて、適宜選択することができる。また、例えば、後述するような所望の投与方法に応じて、適宜選択することができる。
具体的には、例えば、経口固形剤(錠剤、被覆錠剤、顆粒剤、散剤、ハードカプセル剤、ソフトカプセル剤等)、経口液剤(内服液剤、シロップ剤、エリキシル剤等)、注射剤(溶剤、懸濁剤等)、ゲル剤、クリーム剤、外用散剤、スプレー剤、吸入散布剤等が挙げられる。
【0064】
前記経口固形剤としては、例えば、前記有効成分に、賦形剤、更には必要に応じて結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、矯味・矯臭剤等の添加剤を加え、常法により製造することができる。
【0065】
前記賦形剤としては、例えば、乳糖、白糖、塩化ナトリウム、ブドウ糖、デンプン、炭酸カルシウム、カオリン、微結晶セルロース、珪酸等が挙げられる。
前記結合剤としては、例えば、水、エタノール、プロパノール、単シロップ、ブドウ糖液、デンプン液、ゼラチン液、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルスターチ、メチルセルロース、エチルセルロース、シェラック、リン酸カルシウム、ポリビニルピロリドン等が挙げられる。
前記崩壊剤としては、例えば、乾燥デンプン、アルギン酸ナトリウム、カンテン末、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド、乳糖等が挙げられる。
前記滑沢剤としては、例えば、精製タルク、ステアリン酸塩、ホウ砂、ポリエチレングリコール等が挙げられる。
前記着色剤としては、例えば、酸化チタン、酸化鉄等が挙げられる。
前記矯味・矯臭剤としては、例えば、白糖、橙皮、クエン酸、酒石酸等が挙げられる。
【0066】
前記経口液剤としては、例えば、前記有効成分に、矯味・矯臭剤、緩衝剤、安定化剤等の添加剤を加え、常法により製造することができる。
【0067】
前記矯味・矯臭剤としては、例えば、白糖、橙皮、クエン酸、酒石酸等が挙げられる。前記緩衝剤としては、例えば、クエン酸ナトリウム等が挙げられる。前記安定化剤としては、例えば、トラガント、アラビアゴム、ゼラチン等が挙げられる。
【0068】
前記注射剤としては、例えば、前記有効成分に、pH調節剤、緩衝剤、安定化剤、等張化剤、局所麻酔剤等を添加し、常法により皮下用、筋肉内用、静脈内用等の注射剤を製造することができる。
前記pH調節剤及び前記緩衝剤としては、例えば、クエン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、リン酸ナトリウム等が挙げられる。
前記安定化剤としては、例えば、ピロ亜硫酸ナトリウム、EDTA、チオグリコール酸、チオ乳酸等が挙げられる。
前記等張化剤としては、例えば、塩化ナトリウム、ブドウ糖等が挙げられる。前記局所麻酔剤としては、例えば、塩酸プロカイン、塩酸リドカイン等が挙げられる。
【0069】
本発明の自然免疫活性化剤や感染症予防・治療薬は、例えば、自然免疫機構の活性化を必要とする個体、細菌等に対してあたかも獲得免疫を得ようとする個体等に好適に使用できる。
具体的には、例えば、健康維持や疲労回復を必要とする個体;癌や生活習慣病の予防や治療を必要とする個体;細菌、真菌、ウイルス等に感染した個体;等に投与することにより使用することができる。
【0070】
本発明の自然免疫活性化剤や感染症予防・治療薬の投与対象動物としては、特に制限はないが、例えば、ヒト;マウス、ラット等の実験動物;サル;ウマ;ウシ、ブタ、ヤギ、ニワトリ等の家畜;ネコ、イヌ等のペット;等が挙げられる。
【0071】
また、前記自然免疫活性化剤の投与方法としては、特に制限はなく、例えば、前記した乳酸(死)菌やその処理物の形態に応じ、また、前記した剤型等に応じ、適宜選択することができ、経口投与、腹腔内投与、血液中への注射、腸内への注入等が挙げられる。中でも、経口投与が、簡便で前記効果を発揮する点から好ましい。
【0072】
本発明の自然免疫活性化剤又は本発明の感染症予防・治療薬の投与量としては、特に制限はなく、投与対象である個体の年齢、体重、所望の効果の程度等に応じて適宜選択することができるが、例えば、成人への1日の投与量は、有効成分の量として、1mg~30gが好ましく、10mg~10gがより好ましく、100mg~3gが特に好ましい。
また、投与時期としても、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、予防的に投与されてもよいし、治療的に投与されてもよい。
【0073】
本発明の自然免疫活性化剤を含有する飲食品、醗酵飲食品、自然免疫活性化用発酵飲食品(以下、それらを「本発明の飲食品」と略記する場合がある)中の、自然免疫活性化剤の含有量は、特に制限がなく、目的や飲食品の態様(種類)に応じて、適宜選択することができるが、飲食品全体を100質量部としたときに、0.001~100質量部で含有することが好ましく、より好ましくは0.01~95質量部、特に好ましくは0.1~90質量部である。
【0074】
本発明の飲食品は、自然免疫活性化能や感染症予防・治療能を有する。
本発明の飲食品は、前記した本発明の自然免疫活性化剤に加えて、更に、「その他の成分」を含有することができる。
【0075】
上記「その他の成分」としては、特に制限はなく、本発明の効果を損なわない範囲内で目的に応じて適宜選択することができ、例えば、各種食品原料等が挙げられる。また、「その他の成分」の含有量は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
また、ワイセラ・ヘレニカ(Weissella hellenica)に属する乳酸菌を用いて発酵させて得られる自然免疫活性化用発酵飲食品の場合は、該発酵に伴って生成される種々の物質をも含むことができる。
【0076】
本発明の乳酸菌は、明らか食品、健康食品等の一般食品;保健機能食品;等の食品にも適用でき、プロバイオティクス、発酵飲食品、動物用の薬品・餌等にも適用できる。該醗酵飲食品としては、醗酵乳、醗酵豆乳、乳酸菌飲料、ヨーグルト、漬物、漬物製造用乳酸菌スターター等としての用途に特に好適である。
【0077】
前記食品の種類としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ゼリー、キャンディー、チョコレート、ビスケット、グミ等の菓子類;緑茶、紅茶、コーヒー、清涼飲料等の嗜好飲料;醗酵乳、醗酵豆乳、ヨーグルト、アイスクリーム、ラクトアイス等の(豆)乳製品;野菜飲料、果実飲料、ジャム類等の野菜・果実加工品;スープ等の液体食品;パン類、麺類等の穀物加工品;各種調味料;等が挙げられる。中でも、ヨーグルト、醗酵乳、醗酵豆乳等の(豆)乳製品が好ましい。
【0078】
また、前記食品は、上記明らか食品に加えて、健康食品や保健機能食品であってもよく、例えば、錠剤、顆粒剤、カプセル剤等の経口固形剤や、内服液剤、シロップ剤等の経口液剤であることも好ましい。
【0079】
本発明の飲食品は、自然免疫機構の活性化や感染症に対して抵抗力を付けること等を目的とした、機能性表示食品等の健康食品等として特に有用である。
本発明の乳酸菌、該死菌若しくは処理物等を飲食品の製造に使用する場合、製造方法は当業者に周知の方法によって行うことができる。当業者であれば、本発明の乳酸菌の(死)菌体又は処理物を他の成分と混合する工程、成形工程、殺菌工程、醗酵工程、焼成工程、乾燥工程、冷却工程、造粒工程、包装工程等を適宜組み合わせ、目的の飲食品を作ることが可能である。
【0080】
また、本発明の乳酸菌を各種醗酵乳の製造に使用する場合、当業者に周知の方法を用いて製造することができる。例えば、本発明の乳酸菌を醗酵乳に死菌として所要量添加する工程を用いて製造された飲食品や、乳酸菌スターターとして本発明における乳酸菌を用いて醗酵する工程を用いて製造された飲食品が挙げられる。
乳酸菌スターターとして本発明の乳酸菌を用いて醗酵を行う場合、本発明の乳酸菌の培養条件と同様の条件等で行うことができる。
【実施例】
【0081】
以下、実施例及び検討例に基づき本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例等の具体的範囲に限定されるものではない。
【0082】
実施例1
以下の表1~3に示したように、124株の乳酸菌を分離し、乳酸産生能を確認しライブラリー化した。このライブラリー(表1~3)から、カイコの緑膿菌PAO1株への感染に対して耐性を与える乳酸菌を探索した。
【0083】
【0084】
【0085】
【0086】
乳酸菌のフルグロース80μLを、カイコ人工餌1gと混ぜ、1日間カイコに給餌した。その後、緑膿菌PAO1株の一晩培養液を生理食塩水で10
-6倍に希釈し、該希釈液50μLをカイコに血中注射し、経時的なカイコの生存個体数の減少を観察した。
生存していたカイコは、例えば
図2(A)のようであり、死亡していたカイコは、例えば
図2(B)のようであった。カイコの生存率の推移の結果を
図1に示す。
【0087】
図1に示すように、試験した何れの乳酸菌も、生理食塩水によるコントロールに比べて延命効果を示した。その中で特に、表1のNo18である「乳酸菌Wh0916-4-2」(受託番号:NITE BP-02710)を経口投与したカイコだけは、緑膿菌注射後115時間においても、大多数が生存していた。すなわち、乳酸菌Wh0916-4-2の活性は他の乳酸菌に比べて顕著に高かった。
【0088】
実施例2
フルグロースにまで培養した乳酸菌のフルグロース20mLを遠心して菌を集め、抗生物質を含まないカイコ人工餌1gと混ぜ、1日間カイコに給餌した。その後、緑膿菌PAO1株の一晩培養液を生理食塩水で10-5倍に希釈し、該希釈液50μLをカイコに血中注射し、経時的なカイコの生存個体数の減少を観察した。このような方法で、実験1と実験2を行った。
【0089】
実験1の結果を以下の表4に、実験2の結果を以下の表5に示した。
1群のカイコを6匹とし、半数(3匹)が死亡するまでの時間(hrs)を「LT50」とした。評価した乳酸菌について、乳酸菌無しのコントロールのLT50との比を、表4と表5に示した。
【0090】
【0091】
【0092】
その結果、実験1と実験2で、乳酸菌無しのコントロールでのLT50はそれぞれ27時間及び31時間であった。殆どの乳酸菌のエサへの添加は延命効果を示した。
既に発明者が論文報告しているLactococcu lactis 11/19-B1株による延命効果は、実験1及び実験2の何れも、1.1倍であった。これに対して、Weissella hellenicaに属する乳酸菌Wh0916-4-2は、3.6倍以上の延命効果を示した。
【0093】
既に、発明者が論文報告しているLactococcu lactis 11/19-B1株による延命効果(Nishida, Ono, Sekimizu; Drug Discoveries & Therapeutics. 2016; 10(1):49-56.)は、実験1及び実験2の何れも小さかったが、再現性が認められた。
これに対して、Weissella hellenicaに属する乳酸菌Wh0916-4-2は、2.9倍以上の延命効果を示した。この効果は調べた乳酸菌の中で突出していた。
【0094】
実施例3
表1~3に記載した乳酸菌124株の中から、ワイセラ属ヘレニカ種に属する乳酸菌4種(表1~3のNo.18、27、48、75)について、実施例1において、試験試料を乳酸菌ではなく乳酸菌培養上清の67%エチルアルコール可溶性画分とし、緑膿菌PAO1株の一晩培養液を生理食塩水で10-6倍に希釈した以外は実施例1と同様にして、経時的なカイコの生存個体数の減少を観察し、1~3日後の生存を確認した。
【0095】
その結果、ワイセラ属ヘレニカ種に属する乳酸菌4種(表1~3のNo.18、27、48、75)を与えた場合は全て、カイコは34時間生存していた。一方、ワイセラ属ヘレニカ種に属さない乳酸菌は、総じて自然免疫活性化能がなかった若しくは極めて低かった。
ワイセラ・ヘレニカ種に属する乳酸菌は、他の属に属する乳酸菌や、ワイセラ属に属するがヘレニカ種に属さない乳酸菌に比べて、特異的に緑膿菌耐性付与活性を有しており、自然免疫活性能が高かった。
【0096】
実施例4
乳酸菌をMRS液体培地で2日間培養し、カイコの人工餌6gと混ぜ、5齢カイコ6匹に与えた。21時間後、10-5倍に生理食塩水で希釈した緑膿菌の菌液をカイコの血液内に注射し、51時間後のカイコの生存数を調べた。結果を表6に示す。
【0097】
【0098】
その結果、表1中のNo.18の「W. hellnica 0916-4-2」、すなわち「乳酸菌Wh0916-4-2(受託番号:NITE BP-02710)」を給餌したカイコは、緑膿菌注射51時間後に半数が生存したが、No.27のワイセラ・ヘレニカ種の「W. hellnica 0928-7-2」、及び、No.24、30、33、35の「ワイセラ属ではあるが他の種の菌」を給餌したカイコでは生存が認められなかった。
【0099】
乳酸菌Wh0916-4-2の治療効果は特異的であり、他のワイセラ属の菌にはその活性が見られなかった。また、ワイセラ・ヘレニカ種に属していても、乳酸菌Wh0916-4-2ではないもの(No.27「W. hellnica 0928-7-2」)は、自然免疫活性化能が、乳酸菌Wh0916-4-2よりは劣ることが示唆された。
【0100】
実施例5
5齢のカイコに1gの人工餌を与え1日後、表1~4の中の4種のワイセラ・ヘレニカ(Weissella hellenica)に属する乳酸菌(No.18、27、48、75)の培養上清を、生理食塩水で、それぞれ、10-4倍と10-3倍とに希釈し、その50μLを5齢カイコの血液内に注射した。
更にその6時間後に、生理食塩水で1000倍に希釈した緑膿菌PAO1株50μLをカイコの血液内に注射した。
その34時間後にカイコの生存数(1群3匹)を数えた。結果を表7に示す。
【0101】
【0102】
その結果、34時間後、乳酸菌Wh0916-4-2(Weissella hellenica 0916-4-2)では全てのカイコが生存していたが、他の3株の(他の亜種の)では、10-4倍希釈液を与えたカイコでは死亡個体が見られた。
4株何れのワイセラ・ヘレニカも治療効果を示したが、中でも乳酸菌Wh0916-4-2は最も顕著な効果を示した。
【0103】
実施例6
乳酸菌Wh0916-4-2の培養上清をカイコの人工餌に混ぜ、1日間経口摂取させても、生菌と同様に、カイコに緑膿菌感染に対する抵抗性が付与された。
また、乳酸菌Wh0916-4-2の培養上清には、緑膿菌の増殖を阻害する活性は認められなかった。すなわち、これは抗菌物質ではないことが分かった。
【0104】
更に、乳酸菌Wh0916-4-2の培養上清を緑膿菌と同時にカイコに投与した場合には、緑膿菌感染に対する抵抗性付与は認められなかった。すなわち、緑膿菌感染に対する抵抗性付与には、乳酸菌の培養上清(由来物)前投与が必要であることが分かった。
また、この前投与から緑膿菌の投与までの時間を2日以上にすると、乳酸菌Wh0916-4-2の培養上清の活性は失われた。従って、乳酸菌Wh0916-4-2の培養上清に含まれる活性成分はカイコの体内から消失し、その活性が失われたと考えられる
【0105】
これらの結果は、乳酸菌Wh0916-4-2の培養上清(に含まれる活性成分)の作用は、緑膿菌に対する直接の効果ではなく、宿主の免疫系を介していることを示唆している。
【0106】
実施例7
5齢カイコに、乳酸菌Wh0916-4-2の培養上清のエタノール分画を染み込ませた1gの人工餌1gを与えた。17時間後、表8に示した菌液50μLをカイコの血液内に注射した。
緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)については、一晩培養液を10-6倍に希釈して使用し、肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)については、菌の一晩培養液5mLを遠心(8000rpm、5分間)して菌を集め、5mLの生理食塩水に懸濁して使用した。
その後、カイコの生存数を継時的に観察した。結果を表8に示す。
【0107】
【0108】
緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa PAO1株)、及び、2つの肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae 8140,8705)株は、カイコを22時間以内に殺傷したが、乳酸菌Wh0916-4-2の培養物・培養上清(からの抽出物)は治療効果を示した。
緑膿菌による感染だけでなく、肺炎桿菌による感染に対しても治療効果を示した。従って、本発明にかかる剤は、自然免疫活性化剤であると言える。
【0109】
実施例8
実施例6において、菌を多剤耐性緑膿菌(MDRP)に代えて同様に評価した。
乳酸菌Wh0916-4-2の培養上清(に含まれる活性成分)は、臨床分離されたMDRPに対しても効果を示した。
ヒト臨床において、MDRPと呼ばれる多剤耐性緑膿菌が問題となっているが、本発明の自然免疫活性化剤は、多剤耐性緑膿菌(MDRP)に対しても有効であり、院内感染対策等に対しても有効であることが示唆された。
【0110】
実施例9
乳酸菌Wh0916-4-2を用いて豆乳ヨーグルトを作製した。一般にワイセラ・ヘレニカに属する乳酸菌は、植物性乳酸菌として知られている。
乳酸菌Wh0916-4-2は、牛乳中ではアミノ酸の不足のため増殖し難いが、豆乳中では増殖し酸性状態を形成した。すなわち、乳酸菌Wh0916-4-2を豆乳中で培養することで、ヨーグルトを作製できた。このヨーグルトは味が豆腐に似ており美味であった。
【0111】
ワイセラ・ヘレニカ(Weissella hellenica)に属する乳酸菌は、植物性乳酸菌であり、様々な植物において増殖することが知られている。従って、乳酸菌Wh0916-4-2を用いて発酵させた野菜は、広く一般食品や健康食品としての利用が期待できる。
【産業上の利用可能性】
【0112】
本発明の自然免疫活性化剤は、高い自然免疫活性化能を有し、それを含有する感染症予防・治療効果もある。従って、本発明における特定の乳酸菌を利用すれば、自然免疫活性化剤、感染症予防・治療薬、それらを含有する飲食品等を提供することができ、医薬品業界、健康食品業界、一般食品業界等で広く利用可能である。
【受託番号】
【0113】
NITE BP-02710
【配列表フリーテキスト】
【0114】
配列番号1は、ワイセラ(Weissella)属に属する未知の菌株の、16SrDNAのほぼ全長にあたる塩基配列である。
【配列表】